(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643240
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】電気接点を介し閉塞検出を行なう治療薬注入デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/168 20060101AFI20200130BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
A61M5/168 520
A61M5/168 550
A61M5/168 506
A61M5/145 500
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-548381(P2016-548381)
(86)(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公表番号】特表2017-506937(P2017-506937A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】GB2015050247
(87)【国際公開番号】WO2015114369
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2018年1月23日
(31)【優先権主張番号】1401588.7
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516221096
【氏名又は名称】セルノボ エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャプレー、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】パウエル、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ギテンス、ニキ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、ニール
【審査官】
今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−507750(JP,A)
【文献】
特表2003−526479(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0160902(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0286467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬を保持するためのカートリッジと、
前記カートリッジを収納し、制御回路を備える本体と、を備え、
前記カートリッジは、
回路層としてのプリント基板(PCB)部品と、
前記治療薬をポンプ動作で送り出すためのポンプ装置を含むアクチュエータ層と、
閉塞検出層と、
バルブ装置を含むバルブ層であって、前記ポンプ装置の動作によって前記治療薬が前記バルブ層を通って輸送されるバルブ層と、がスタックとして設けられたポンプと、
前記回路層から前記アクチュエータ層および前記閉塞検出層および前記バルブ層まで延設されて、前記回路層と、前記アクチュエータ層と、前記閉塞検出層と、前記バルブ層と、を前記スタック内で相互に位置合わせする複数の導電体ピンと、を備える治療薬注入デバイスであって、
前記閉塞検出層は、各々が前記導電体ピンとそれぞれ電気的に接続され、閉塞が発生した場合に前記治療薬が前記バルブ層を経由して溜まる、前記閉塞検出層の検出領域に設けられた複数の接点を備え、
前記検出領域内に溜まった輸送中の前記治療薬によって前記閉塞検出層の前記接点同士が電気的に接続すると、前記治療薬が前記バルブ層を通って患者に輸送されるのを阻害する閉塞が検出される
ことを特徴とする治療薬注入デバイス。
【請求項2】
前記バルブ層は、前記治療薬が前記患者に到達するために通過する必要がある出口弁と、前記治療薬が前記患者まで到達するのを閉塞によって阻害される場合に唯一通過することができるブレークスルー弁と、を備え、前記治療薬は前記ブレークスルー弁を通過後に前記検出領域に溜まる
ことを特徴とする、請求項1に記載の治療薬注入デバイス。
【請求項3】
前記ブレークスルー弁は、前記出口弁の出口で前記出口弁と直列に配置される
ことを特徴とする、請求項2に記載の治療薬注入デバイス。
【請求項4】
前記治療薬を前記ブレークスルー弁から前記検出領域へ輸送する経路が設けられている
ことを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の治療薬注入デバイス。
【請求項5】
前記制御回路は、治療薬が前記検出領域で検出されると、前記治療薬注入デバイスおよび/または制御デバイスにおいて警報を発生させる
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【請求項6】
前記制御回路は、治療薬が前記検出領域で検出されると、前記ポンプ装置の動作を停止する
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【請求項7】
前記閉塞検出層および前記バルブ層は、密封層によって前記回路層から封止されている
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【請求項8】
前記治療薬注入デバイスは、前記治療薬を貯蔵するための貯液槽を備え、前記バルブ層は、前記治療薬が前記ポンプ装置の動作によって送り出されるポンプ室と、入口弁と、を備え、前記ポンプ室は、前記入口弁を介して前記貯液槽から補充される
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【請求項9】
前記回路層、前記アクチュエータ層、前記閉塞検出層、および前記バルブ層は、この順に配置される
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【請求項10】
前記本体は、前記回路層を介して前記ポンプ装置に電流を印加するためのバッテリをさらに備え、前記カートリッジ部および前記本体部は、互いに対して、解除可能に係合できる
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の治療薬注入デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療薬注入デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1型糖尿病は、日々のインスリン注射で治療されている。しかし、この治療法では、一日を通して患者に起こる血糖の正常なおよび急激な変化に合わないインスリン値となることは避けられない。一方で、インスリン値および高血糖が不十分であると、即時的な症状につながるとともに長期的な合併症の一因となる。他方で、インスリンが多すぎると、血糖が少なくなりすぎて意識を失い痙攣を起こすことがある。注射に代わるものとして、インスリンポンプ療法は、健康な膵臓の正常な生理機能を模倣することを意図している。日々の複数のインスリン注射とは異なり、インスリンポンプは、個々の必要に応じて調整することができるインスリンのバックグラウンド注入を持続的に提供することができ、日常の活動と動作行為を補償する。インスリンのボーラス投与量を注入するようにこのポンプをプログラムし、飲食に起因する血液中の大きな血糖値の変化が起こらないようにすることもできる。インスリンポンプ療法は、膵臓の自然な生理機能を模倣することによって、常に正常な血糖値を維持することを目的とし、食事と関連付けられる高い値や多すぎるインスリンから来る低い値を回避することができる。
【0003】
患者は、インスリンポンプがインスリンを正常に彼または彼女の体に供給していることを知ることが重要である。したがって、患者は、閉塞によってこの供給が阻止された場合には知らされることが重要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の態様によれば、治療薬注入デバイスを提供することができ、前記デバイスは、
回路層と、
アクチュエータを担持するアクチュエータ層と、
閉塞検出層と、
前記アクチュエータの動作によって治療薬が輸送されて通過するバルブ層と、
前記回路層から各々の前記アクチュエータ層、前記閉塞検出層、および前記バルブ層を貫通して、または当該層まで延び、前記複数の層を相互に位置合わせする複数の導電体ピンと、を備え、
前記閉塞検出層は、各々が前記導電体ピンとそれぞれ電気的に接続され、閉塞が発生した場合に治療薬が溜まる検出領域に設けられた複数の接点を備え、
前記検出領域内に溜まった前記治療薬によって前記接点同士が電気的に接続すると、前記治療薬が患者に輸送されるのを阻害する閉塞が検出される。
【0005】
したがって、前記導電体ピンは、少なくともニつの機能を提供し、第一に、(組立時および使用時に)カートリッジの複数層の位置合わせを行ない、第二に、前記回路層と前記閉塞検出層との間に導電経路を設け、前記閉塞検出層に溜まった治療薬が前記回路層とともに電気回路を完成させて閉塞を検出できるようにする。追加の利点として、前記デバイス内に漏れが発生すると前記導電体ピン同士を電気的に接続するので、閉塞が検出されたかのように、警報を発生させることができる。優位点として、デバイスの複数の層を機械的に接続して位置合わせを行ない、回路層を閉塞検出層に電気的に接続する別体の複数の構造を設ける必要がない。
【0006】
前記バルブ層は、前記治療薬が患者に到達するために通過する必要がある出口弁と、前記治療薬が前記患者まで到達するのを閉塞によって阻害される場合に唯一通過することができるブレークスルー弁と、を備え、前記治療薬は前記ブレークスルー弁を通過後に前記検出領域に溜まることが好ましい。前記ブレークスルー弁は、前記出口弁の出口で前記出口弁と直列に配置されることが好ましい。前記治療薬を前記ブレークスルー弁から前記検出領域へ輸送する経路が設けられていることが好ましい。
【0007】
制御回路は、治療薬が前記検出領域で検出されると応答して、前記治療薬注入デバイスおよび/または制御デバイスにおいて警報を発生させてもよい。前記制御回路は、治療薬が前記検出領域で検出されると応答して、前記アクチュエータの動作を停止してもよい。前記制御回路は、(それ自体は、単に前記制御回路が必要とする電気的接続を提供するに過ぎない)前記回路層から分離されていることが好ましい。
【0008】
前記閉塞検出層および前記バルブ層は、密封層によって前記回路層から封止されていることが好ましい。この場合、前記密封層を貫通する点の数を最小限にして密閉領域内から前記アクチュエータまたは前記回路層への漏れの危険性を減らすことが望ましいので、前記導電体ピンに二重の機能を持たせることはさらにいっそう優位点となる。
【0009】
前記治療薬注入デバイスは、前記治療薬を貯蔵するための貯液槽を備え、前記バルブ層は、前記治療薬が前記アクチュエータの動作によって送り出されるポンプ室を備えているのが好ましい。この場合、前記ポンプ室は、入口弁を介して前記貯液槽から補充される。
【0010】
前記導電体ピンの設置は、上記の構成要素を含む任意の層状構造にとって有益であることが理解されるであろうが、前記回路層、前記アクチュエータ層、前記閉塞検出層、および前記バルブ層は、この順に配置されることが好ましい。
【0011】
前記注入デバイスは、前記回路層、前記アクチュエータ層、前記閉塞検出層、および前記バルブ層をカートリッジ部に備えることが好ましい。この場合、前記注入デバイスは、前記回路層を介して前記アクチュエータに電流を印加するためのバッテリおよび制御回路を備えた本体部を備える。前記カートリッジ部および前記本体部は、互いに対して、解除可能に係合できることが好ましい。
【0012】
本発明のさまざまな他の態様および特徴が、以下の実施形態で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
ほんの一例として、添付図面を参照しながら、本発明を説明することにする。
【
図3】
図2の薬物注入デバイスを制御するハンドセットの概略図を示している。
【
図4A】インスリンカートリッジ全体とアクチュエータアセンブリの分解図を概略的に示している。
【
図4B】インスリンカートリッジ全体とアクチュエータアセンブリの分解図を概略的に示している。
【
図5】層状構造を露出させたインスリンカートリッジの断面を概略的に説明している。
【
図6A】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図6B】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図6C】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図6D】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図6E】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図6F】インスリンカートリッジのポンプ動作を概略的に説明している。
【
図7A】インスリンカートリッジに使用される一方向弁の構造と動作を模式的に説明している。
【
図7B】インスリンカートリッジに使用される一方向弁の構造と動作を模式的に説明している。
【
図7C】インスリンカートリッジに使用される一方向弁の構造と動作を模式的に説明している。
【
図8A】導電体ピンを介してPCBと電気的および構造的に接続した閉塞検出層を概略的に説明している。
【
図8B】導電体ピンを介してPCBと電気的および構造的に接続した閉塞検出層を概略的に説明している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<システム>
図1を参照すると、薬物注入システム1が概略的に示されている。この場合の薬物注入システム1は、患者にインスリンを注入する。しかし、本発明の実施形態は、インスリン以外の薬物を注入するにも適しているかもしれないことがよく理解できるであろう。システム1は、患者の体に装着されている注入デバイス2と、注入デバイス2を制御するための(スマートフォンと同じように見える)ハンドセット3と、サーバ4と、を備える。注入デバイス2とハンドセット3は、低電力ANT無線接続などの第一無線接続5を介して交信することができる。ハンドセット3とサーバ4は、GPRSモバイルデータ接続6aおよびインターネット6bなどの第二無線接続6を介して交信することができる。サーバ4は、患者の医療情報および患者に関する他の情報を格納するための患者データベース7を備える。注入デバイス2およびハンドセット3は、両方とも充電式電池によって電力供給される。
図1には、注入デバイス2が充電のために挿入される充電クレードル8も示してある。
【0015】
<注入デバイス>
注入デバイスは、
図2に概略的に示してあるように、互いに着脱可能である二つの部材から成る。二つの部分のうちの第一部分は、スプリング22と、(例えば、米国特許出願公開第2011/0316562号に記載されている)変位センサを備えた付勢部材23と、第二部分との電気的接続を提供するための一組の接続ピン24と、を備えた本体21である。また、本体21は、電池と、制御回路と、ハンドセットと交信するためのトランシーバと、を備えるが、これらは、明確さのために
図2では別々には示さず全体として要素25で表わしている。二つの部分のうちの第二部分は、インスリンの貯液槽27と、接続ピン24を介して本体21との電気的接続を提供するための導体パッド28と、インスリンを貯液槽27から患者の体内にポンプで送り出すためのポンプ装置(例えば、英国特許第2443261号に記載されているようなワックスアクチュエータ)と、(例えば、米国特許出願公開第2010/0137784号に記載されているような)バルブ装置と、を備える使い捨てインスリンカートリッジ26である。ポンプ装置とバルブ装置とは、明確さのために
図2では別々に示さず全体として要素29で表わしている。注入デバイスの本体21は再使用可能である一方、使い捨てカートリッジ26は、貯液槽27が空になったとき、またはカートリッジの使用期限が過ぎたとき、または故障した場合にはずされ捨てられることを意図していることが理解されるであろう。次に新しいカートリッジを本体21と係合させることができる。カートリッジは使い捨てであることが好ましいが、原理的には、カートリッジは、廃棄せずに再充填しまた再利用してもよいことがよく理解されるであろう。しかし、この場合であっても、元のカートリッジが再充填されている間に新たな(満量の)カートリッジを使用することができるように、カートリッジは、本体から取り外し可能であるべきである。
【0016】
使用時には、注入デバイス2の本体21とカートリッジ26とは、物理的および電気的に接続されている。電気的接続は、接続ピン24および導体パッド28を介して行なわれる。物理的な接続は、クリップまたは任意の他の解除可能な係合機構(図示せず)によって提供される。本体21内の制御回路は、ハンドセット3から第一無線接続5を介して受信した制御信号に応答して、バッテリから接続ピン24および導体パッド28を介して電流を流しカートリッジ26内のポンプ装置を作動させることによって、貯液槽27からバルブ装置を介し注入デバイス2を出て患者の身体まで流体を送る。治療薬の注入速度は、制御回路がポンプ装置への電流の量とタイミングを制御することによって、特定の基底注入速度、または、ボーラス投与量を達成するよう制御することができる。基礎流量はハンドセットによって設定されるが、一旦設定されると、注入デバイス2は、ハンドセット3からそれ以上の通信が無くても設定された基礎流量を維持することができる。
【0017】
図2でわかるように、本体21とカートリッジ26とが係合した状態であると、貯液槽27は、付勢部材(および変位センサ)23を変位させてバネ22を圧縮しながら、本体21内に収容される。圧縮バネは、付勢部材23を介して貯液槽27の底部に付勢力を印加する。この付勢力は、単独でインスリンを貯液槽27からバルブ装置を通って患者の体内に圧送するわけではないが、ポンプ装置のポンプ動作と組み合わせると、この付勢力は、貯液槽27内のインスリンを加圧し、各ポンプ動作に先だってポンプ室を再充填する。制御された量のインスリンをポンプ室から出口バルブを通って患者の体へ導くのがポンプ動作である。貯液槽は円筒形となっており、インスリンがポンプの動作で送り出される第一端部と、第一端部とは反対に位置して(可動)底面が設けられた第二端部と、を有する。貯液槽の底面は、付勢部材23から提供される付勢力の下で、インスリンが貯液槽からポンプで送り出されるにつれて(効果的に貯液槽の大きさを減少させるために)貯液槽の内側に移動する。付勢部材23の位置は、貯液槽の現在の満量状態、すなわち、どのくらいのインスリンが貯液槽内に残っているかに依存する。付勢部材23ひいては貯液槽27の底面の位置は、変位センサによって決定される。したがって、変位センサは、貯液槽内のインスリンの残量を示す信号を生成することができる。インスリンの残量の変化を時間に対して監視することによって、インスリン注入の実際の速度を決定することができる。制御回路は、これを使用し、ポンプ装置への電流の量および/またはタイミングを適合させることによって、実際の注入速度を是正することができる。貯液槽内に残存するインスリンの量は、ハンドセット3に送信され、そこで患者に表示され、いつ患者が現在のカートリッジを新しいカートリッジと交換する必要があるかの指標として使用することができる。本体21内の制御回路は、患者がいつバッテリの再充電が必要かに関して知ることができるように、現在の電池残量の表示をハンドセットに送信してもよい。
【0018】
注入デバイスは、身体活動を追跡する活動モニタ(図示せず)も備える。身体活動は良好な制御のために必要なインスリン量に大きな影響を与え得るので、身体活動を正確に追跡することは、効果的な糖尿病管理の重要な一部分である。活動モニタは、注入デバイス内のセンサを用いて注入デバイスの動きを検出し、それを用いてユーザが身体活動に従事しているときを推測することができる。検出された活動は、その後、無線接続5を介してハンドセットに無線で知らされ、ハンドセット(およびサーバ)は、患者の活動を追跡し記録することができる。サーバへのポータルサイトを介して、患者および許可された医療専門家は、活動のそれぞれのピークを血糖と比較し、活動が患者のインスリン必要量にどのように影響を与えているかを見極めることができる。次に、これを用いて、患者に適切な投薬量を与えるようにハンドセットをプログラムすることができる。
【0019】
患者は注入デバイスそれ自体ではなくハンドセットとやりとりするという事実から、注入デバイスは、小型で個別の部材とすることができ、ボタンや制御装置への物理的接続がない状態で提供される。
【0020】
<ハンドセット>
ハンドセット3は、二つのトランシーバを備えている。第一トランシーバは、第一無線接続5を介して注入デバイスと交信するためのものであり、第二トランシーバは、第二無線接続6を介してサーバ4と交信するためのものである。ハンドセットは、制御ソフトウェアを実行するためのプロセッサも備える。制御ソフトウェアは、患者の状態を監視して中央のサーバ4に報告するとともに、制御信号を注入デバイス2に送信することによって患者へのインスリン投与の注入を制御する。ハンドセット3は、タッチスクリーンディスプレイ34も備えて、ユーザに情報を表示するとともに、ユーザがデータを入力し、基礎流量を変更し、膨大な量のボーラス投与を開始するユーザインタフェースを提供する。
【0021】
ハンドセット3は、ポンプを無線で制御するとともに、一体型の血糖計32も有している。血糖計32は、患者の血液中のブドウ糖の量を検出する。血液は、患者の指を穿刺して血液の液滴をスライドに載せ、それを血糖計32に挿入することによって、血糖計32で分析することができる。検出された血糖濃度は、ハンドセット3に表示して患者の注意を喚起することができるので、患者は、血糖情報に基づいてボーラス投与を開始するよう決定することができる。血糖検査ごとの結果は、ソフトウェアによって自動的に記録され、サーバ4を介して患者、医療専門家、および(親などの)家族にさえもすぐに参照用として利用可能になる。より一般的には、ハンドセット3は、ユーザ(および他の権限者)が食事、インスリン、血糖、および(上述したように、注入デバイス内のセンサから自動的に記録される)身体活動を追跡する助けとなるさまざまなソフトウェアアプリケーションを実行する。ハンドセット3は、データ収集を自動化することによって、糖尿病日誌の必要性を無くするか、または少なくとも軽減するとともに、包括的かつ正確な臨床情報がサーバ4を介して患者と医療専門家に常に利用可能であることを保証する。
【0022】
ハンドセット3は、注入デバイスを制御するとき、医療専門家の推奨に従ってハンドセット3に設定された所定の基礎流量でインスリンの通常の定期的な投与量を注入するよう無線信号を注入デバイス2に送信する。基礎流量は、一定の制約の範囲内で、ユーザによって調整可能である。しかし、ソフトウェアは、基礎流量が医師などの第三者によって遠隔から調整することが許されないように構成されている。ハンドセット3は、例えば、炭水化物を食べたり運動をしたりした後に、ユーザが膨大な量のボーラス投与を開始することができるようにもなっている。基礎投与の場合と同様に、ボーラス投与は、ハンドセット3から無線送信された制御信号に応答して、注入デバイス2から注入される。ユーザは、当該時間に消費された炭水化物の量を入力することができるし運動時間を入力することもでき、ハンドセットは、基礎流量に対する調整やいつボーラス投与が必要となるかを推奨することができる。上述したように、血糖計32は、投薬量に影響を与える可能性がある。こうした情報は全てサーバ4に送信される。ハンドセット3は、例えば、注入デバイス2が故障しているかどうか、または、いつインスリンカートリッジを交換する必要があるかを示す、注入デバイス2からの情報も受信する。同様に、電池残量も表示する。
【0023】
<サーバ>
ハンドセット3および注入デバイス2が身体の要求に応じてインスリンを注入しながら臨床情報を監視し記録することが、上記から理解されるであろう。この情報をサーバ4に提供することによって、ほぼ即座に、それを参照する必要があるすべての人々に利用可能にすることができる。具体的には、安全なオンライン管理ポータルにモバイル接続することによって、患者、臨床医、および親が常に状態変化を知らされ反応することができる。このシステムを使用している患者のいる糖尿病診療所は、リアルタイムで診療所に送信されたすべての通院患者の現在の状態を単一画面で見ることができる。該ポータルは、診療所のインターネット経由で、または、スマートフォンを介してアクセスすることができる。患者が自分の最新の臨床情報をオンラインでアクセスすることができるようにすることに加えて、患者が自分のデータの単純な視覚的分析を参照することができ、例えば、自分の血糖の傾向とパターンを見極めたり、即座に自分のインスリン投与習慣を参照したりすることができる。この情報は、自宅から、勤務場所から、またはスマートフォンからアクセスすることができるシンプルなオンラインウェブポータルを使用してすべて見ることができる。サーバは、子供の両親にSMSメッセージを送信して彼らの子供の情報や健康状態を知らせることができる。
【0024】
該システムを用いる患者には、携帯電話による安全な糖尿病管理ポータルへの個人ログインが提供される。一旦ログインすると、患者は、自動的に収集された自分の全データを、自分がどの点で調整を行なう必要があるかを理解する助けとなるチャートやグラフの形で見ることができる。運動習慣は、円グラフで表示分けされている。患者のインスリンがどのように、いつ注入されたかが正確に示される。患者の臨床医は、同じ分析内容と情報を見ることによって、指導や助言が必要なときはいつでも患者に電話をかけるか文字通信を行なうことができる。
【0025】
診療所は、単一のオンラインダッシュボード画面から、現在の血糖値、平均血糖値、インスリン投与、皮下注射の頻度、および血液検査習慣を含む、システムを利用しているすべての患者の状態にアクセスすることができる。一見しただけで、迅速な対応が必要な障害を抱えた人がいれば容易に特定することができる。ワンクリックで患者の全データを分析し図表化して、傾向、パターン、および問題を特定することができる。このポータルを使用すれば、診療所は患者を管理する方法を全面的に再編成することができる。文字通信したり電子メールを送信したりして、最近の出来事を確認することができる。診療所を訪問した場合は、全面的に最新の正確な情報に集中することができる。
【0026】
<カートリッジの構造と閉塞検出>
図4Aを参照すると、使い捨てカートリッジ100の構造の概略分解図を示してある。カートリッジ100は、左上から、貯液槽部品105を備える。貯液槽部品105は、貯液槽102と、プランジャ104と、を備える。カートリッジ100は、ポンプスタック110も備える。このポンプスタックは、アクチュエータ部品112と、ピストン114と 、調整・密封膜116と、閉塞検出層118と、流体層120と、流体膜122と、を備える。カートリッジ100は、さらに、ハウジング部品130と、輸液セット140と、を備える。
【0027】
図4Bを参照すると、アクチュエータ部品112の構造の概略分解図を示してある。アクチュエータ部品112は、左上から、基底部152と、片側から三本の導電体ピン155が突出したPCB(回路)層154と、アクチュエータ挿入部156と、ワックスブロック158と、ダイオード部品160と、アクチュエータ本体162と、を備える。
【0028】
使用時には、貯液槽102は、患者の体に注入するインスリン(または他の治療薬)を格納し、プランジャ104は、カートリッジ100が装着される注入デバイス本体の付勢部材によって、貯液槽102を起点としてカートリッジ内部へ付勢される。貯液槽102は一般的に円筒形なので、プランジャ104は、円筒の可動基底部を形成することが理解されるであろう。円筒の他端は、ハウジング部品130の内部構造によって形成される。貯液槽102内でインスリンにプランジャ104から加えられる圧力は、貯液槽102内の治療薬を与圧する。組み立てられると、貯液槽102は、アクチュエータ部品112のベース152の開口部を貫通して収容されてハウジング部品130と係合し、その結果、プランジャ104による圧力の下で、治療薬を貯液槽102から流体膜122を通って流体層120内のポンプ室に輸送する流路ができる。インスリンは、ポンプ室から、制御されたやり方で(ピストン114の影響下で)、再びハウジング部品130内の流路を経由して輸液セット140に送り出される。ハウジング部品130は、インスリンが輸液セット140を介して出るのを阻止する閉塞があるとき閉塞検出層118にインスリンを輸送する流路も有している。
【0029】
流体層120と、流体膜122と、ハウジング部品130の一部とは、バルブ装置を形成する。このバルブ装置は、ポンプ室と、インスリンが貯液槽102から流れてポンプ室を充填する入口弁と、ポンプ室がピストン114によって圧縮されるとインスリンがそれを通って流れてポンプ室の外に放出される出口弁と、閉塞が発生した場合に出口弁と患者の注入部位との間でインスリンを強制的に通過させるブレークスルー弁と、を備える。流体膜122は、流体層120内のメサ構造を覆うシリコン膜を備え、(例えば)米国特許出願公開第2010/0137784号に記載されたメカニズムによって一方向弁を形成している。調整膜116は、ピストン114と流体層120内のポンプ室との間に配置されている。調整膜116は、ポンプ室を密封するとともに、ピストン114が作動すると変位して液体をポンプ室から出口弁に向かって押し出す。
【0030】
図4Bにおいて、基底部152は、貯液槽102が貫通して収納されハウジング部品130と係合する開口部と、PCB部品154上の導体パッド(図示せず)をカートリッジ100の外に露出させる、前記開口部よりも小さいスロット開口部と、を備える。したがって、注入デバイスのデバイス本体上の接続ピンは、導体パッドにアクセスして注入デバイスのニつの部品を電気的に接続させることができる。基底部152は、デバイス本体に挿入されるとデバイス本体内のクリップと係合し注入デバイスのニつの部品を一緒に保持することが可能な突起(図示せず)も備える。PCB部品154の反対側には導電体ピン155がある。これらの導電体ピンは、PCB部品(回路層)154を起点として上記したカートリッジ100のさまざまな層を通って延びている。本実施形態における導電体ピンは、ハウジング部品130と係合するよう延びているので、カートリッジ100の全ての内部層を通過する。
【0031】
これらの導電体ピンは、事実上三つの目的を果たす。第一に、これらの導電体ピンは、組み立ての時点でカートリッジ100の層を正しく位置合わせし、カートリッジが使用されているときに位置がずれないことを保証する。第二に、これらの導電体ピンは、無い場合には調整膜116によって絶縁された、PCB部品154と閉塞検出層118との間の導電経路となる。閉塞が起きた場合、上記したように、出口弁から出るインスリンは、ブレークスルー弁を介して閉塞検出層118に流入する。具体的には、インスリンは、各接点が導電体ピン155の一つ(第三の導電体ピンは構造上の目的のためだけ)に電気的に接続される、二つの接点を備えた検出領域に転送される。検出領域にインスリンが存在すると、二つの接点間の間隔が液絡し、導電体ピンを介してPCB部品154につながる回路ができあがるので、閉塞が起きたことをPCB部品154で(または、導体パッドを介してPCB部品154に電気的に接続されたデバイス本体内の制御回路で)検出することができ、注入デバイスおよびハンドセットの一方または両方で警報を鳴らしてもよい。第三に、漏れが発生してインスリンが調整膜116とハウジング部品130との間のさまざまな層を通る指定経路から外れた場合、漏れたインスリンは広がって導電体ピンと(一つ以上の層のいずれかで直接に)電気的に接続することによって、閉塞が検出されたかのように警報を発生させることができる。
【0032】
アクチュエータ部品112は、PCB部品154に取り付けられて一塊のワックス158を収納するアクチュエータ挿入部156も備えている。ワックス158内に埋め込まれるダイオードと、該ダイオードをPCB部品154に接続する導電体素子と、を備えるダイオード部品160も備わっている。アクチュエータ挿入部156、ワックス158、およびダイオード部品160は、組み立て時にアクチュエータ本体162によって封じ込められ、アクチュエータ本体162は、導電体ピン155に収納される一方、
図4Aで示したようにピストン114を収納することができる。
【0033】
図5は、カートリッジ100を通る断面を概略的に示している。断面において、ダイオードAは、ワックスB内に埋め込まれた状態で示されている。ワックスBは、その上に配置されたアクチュエータ本体によってアクチュエータ挿入部内に封入されている。ピストンCは、ワックスBの近傍から(ピストンCは第一可撓性膜によってワックスBから分離されている)ピストンをポンプ室Dから分離する第二可撓性膜まで延びている。ポンプ室Dは、貯液槽Hから入口弁Eを介してインスリンを供給される。出口弁Fは、ポンプ室からインスリンがピストンCのポンプ動作で流出することができるように設けられている。閉塞(ブレークスルー)弁Gが設けられていて、この弁は、前記したように、輸液セットJ内など出口弁Fと患者の輸液部位との間で閉塞があるとインスリンがこの弁を通過することを可能にする。弁E、F、およびGは、
図4Aの構成要素120、122、および130を挟み合わせることによって形成されることがよく分かるであろう。
【0034】
図6A〜
図6Fは、
図5のカートリッジの動作を概略的に示している。
図6Aにおいて、針付き注入器を用いてカートリッジの底部にある隔壁を刺し通し、カートリッジを充填する。まず、インスリンで貯液槽Hを満たす。
図6Bを参照すると、貯液槽Hがいっぱいになると、液体は、ポンプ室Dを通って先に進む。該液体は、弁を通って輸液セットJに流れ続ける。インスリンをポンプで送り出し始めるために、
図6Cで示したように電流が流される。こうすると、ダイオードAが加熱してワックスBを溶融させ、ワックスBが膨張する。
図6Dにおいて、ワックスが膨張してピストンCをポンプ室D内に押すことによって、ポンプ室Dの容量が減り、ポンプ室Dにあるインスリンを出口弁Fに向かって変位させる(入口弁Eは一方向、つまり、ポンプ室の中にしか流体の通過を許さないので、インスリンが入口弁Eを通ってポンプ室Dを出ることはできないことがよく分かるであろう)。したがって、該液体は、一方向の出口弁Fを通り輸液セットJを介して輸液部位に押し出される。
図6Eにおいて、電流が切断されることによって、ダイオードが冷却してワックスが収縮し、その結果としてピストンCがポンプ室Dから元の位置に戻ることができる。ワックスとピストンとの間の膜、ピストンとポンプ室間との間の膜、および貯液槽から入口弁Eを通ってポンプ室に流れる流体から加えられる圧力のうちの一つ以上によって、ワックスBの膨張量が付勢力を上回るときを除き、ピストンCを元の位置に維持する付勢力がピストンCにかかる。ピストンCが元の位置に戻ると、ポンプ室Dは一方向の入口弁を介して液体を充填する。これでポンプ動作のサイクルが完了する。
【0035】
図6Fは、ポンプ動作中に閉塞が発生した場合に何が起こるかを示している。
図6Fにおいて、
図6Cの場合と同様に、電流がダイオードに流れてワックスBを加熱し、ピストンCをポンプ室Dに移動させる。ポンプ室Dからの流体は、
図6Dの場合と同様に、出口弁Fを通って押し出されるが、この場合、流体が輸液部位に到達するのを阻止する閉塞がある。これによって、流体が閉塞バルブGを通って(上述したように閉塞検出層118にある)検出領域に輸送されるよう方向を変えるのに十分な、一方向のブレークスルー(閉塞)弁Gへの圧力の上昇が引き起こされる。
【0036】
図7A〜
図7Cを参照すると、入口弁、出口弁、および閉塞弁の各々に使用される一方向弁の構造と動作が概略的に示されている。
図7Aにおいて、液体には、弁の入口で第一方向(矢印の方向)に圧力が掛かっている。
図7A内の液圧は、弁を開いて液体を通過させるには不十分である。
図7Bにおいて、圧力が増し、今や膜700を入口の口部から離れるよう曲げるのに十分となって、液体が弁室705に入れるようになる。膜700は、次に弁室705内の液体が弁を出て行くことを可能にする複数の開口部710を備えている。この機構によって、入口の圧力が十分になりしだい液体が(
図7Bに示したように、弁を通って矢印の方向に続く)第一方向に弁を通って流れるようにすることができる。カートリッジ100内に三つの弁がある場合には、必要とされる圧力は、これらの弁の各々について同じでも異なっていてもよい。今度は
図7Cを参照すると、液体には、弁に対して(矢印の方向に流れようとする)圧力が出口で掛かっている。この液体は、膜700の開口部710を通って弁室705に入ることができる一方、入口にある膜部分を通過することはできないので、液体がこの方向に弁を通過することはできない。この弁機構は、米国特許出願公開第2010/0137784号に詳細に記載されている。
【0037】
次に
図8Aおよび
図8Bを参照すると、閉塞検出層118が、二本の導電体ピン155aおよび(導電体である必要はない)一本のピン155bを介してPCB部品154に取り付けられた状態で示されている。導電体ピン155aの各々は、それを検出回路に接続するPCB部品154上の導電体トラック810に電気的に接続されている。閉塞検出層上では、導電体ピン155aの各々が、導電体トラック820に電気的に接続されている。二つの導電体トラックは、検出領域800で互いの近くで終端している。検出領域800にインスリンが存在すると、ニつの終端点の間の(空気の)間隙が液絡して、検出回路との電気的接続ができあがる。明確さのために、カートリッジの残りの層および他の構成要素は、
図8Aおよび
図8Bから省略されていることがよく分かるであろう。
【0038】
インスリン注入システムを参照しながら本発明の実施形態を説明してきたが、本発明は、その代わりに他の薬物の注入に適用されてもよいことがよく分かるであろう。