(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁性粒子の表面の少なくとも一部が前記分散剤で被覆されており、前記分散剤で被覆された磁性粒子の平均一次粒子径が5nm〜55nmである請求項1に記載のシール部材。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本開示のシール構造の実施形態について具体的に説明すると共に、かかる説明を通じてシール部材についても詳述することにする。但し、本開示においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0020】
なお、本明細書中において、数値範囲を表す「〜」の表記は、数値範囲の下限値と上限値を含む意味である。
【0021】
図1には、本実施形態に係るシール構造10が示されている。
シール構造10は、磁石(マグネット)1と、磁性部材としての回転軸である断面円形のシャフト3と、マグネット1及びシャフト3の間の、マグネット1の二つの磁極の両方の磁界のそれぞれに配置されたシール部材5,7と、を備えている。
【0022】
本実施形態では、
図2のように、マグネット1とシャフト3との間に、シャフト軸方向においてマグネットをマグネット両端側から挟むようにして、2つのポールピース11,13が配置されており、ポールピース11,13の、シャフト3の曲面(すなわち外周面)と対向するそれぞれの端面(すなわち内周面)にシール部材5,7(
図2及び
図3参照)が配置されている。
【0023】
従来より種々のシール技術が提案され、近年では、Oリングを用いたシール法やオイルシールのほか、磁性流体又は磁性粉体を用いたシール方法が利用されているが、長期使用における摩耗及びシール安定性、並びに摩耗に伴う粒状物の発生防止の観点から、例えば、高速回転する回転軸との間のシーリング、軸偏心量の大きい部材間のシーリング、粒状物の混入が問題となる用途でのシーリングなどへの適用が行えない場合がある。
そのため、本実施形態に示されるように、マグネットとシャフトとの間に、磁性流体から得られる特定の磁性粉体と、ゴム材料及び樹脂材料から選ばれる材料と、を用いた組成を有するシール部材を備えていることで、摩耗が生じ難く、安定したシール性が発揮され、摩耗に伴う粒状物の発生と粒状物の混入をより効果的に防ぐことができる。これにより、例えば、高速回転が与えられる部材間をシールする場合には摩耗が著しく減る。また、シール性が低下しやすいシール構造とされた場合でも、優れたシール性を安定的に確保することができる。例えば、軸偏心量が大きい等により間隙量が変化する部材間をシールする場合には、磁性粉体を含むシール部材は磁力線に引かれて所定位置に保持されるため、シール性に優れる。 また、従来のオイルシールは、ゴム製のリップ部に加えてスプリングを設けることでシーリング効果を得ているが、本実施形態に示されるように、磁性粉体を用いたシール部材を磁界に配することで、スプリングを設ける必要がなくなり、スプリングによる場合のシール部における圧力不均一が解消されると共に、センタリング機能(シャフトが磁性に引き寄せられて一定間隔を保つ現象)を持たせることができるので、シール性を良好に維持しながら、高速回転させることが可能になる。
【0024】
マグネット1は、周方向と直交する厚み方向の断面が矩形である円環体(リング体)に形成されている。円環体であるマグネット1は、環状の孔を有し、孔の内部をシャフト3が貫通しており、シャフト3とマグネット1とは、マグネットの内周面とシャフトの外周面とを互いに対向させて配置されている。マグネット1は、磁力を発生することで、シャフト3との間に磁束線を形成してシャフト3を磁化する。
【0025】
ポールピース11,13は、マグネット1を支持する磁性部材であり、シャフトの外周面に沿って配置されている。すなわち、ポールピース11,13は、例えば
図1〜
図3に示すように、マグネットの内径よりも内径の小さい孔を有する円環体(リング体)であり、シャフト3は円環体である2つのポールピース11,13の孔内をも貫通している。ポールピース11,13の、周方向に対して直交する厚み方向の断面は、
図2に示すように、いずれも長方形となっている。
【0026】
シャフト3は、互いにシールされる2つの部材の一方をなす断面円形の棒状の磁性部材であり、マグネット1からの磁束線により磁化されている。シャフトの材料としては、磁化し得る磁性部材として利用できる材料であれば、特に制限はなく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の金属、又はこれらの合金(例えばステンレス合金)などの強磁性材料を用いることができる。
【0027】
シャフトの形状については、断面円形の棒形状に限られず、断面多角形(例:四角形、五角形、六角形、八角形等)の棒形状、断面楕円の棒形状、円錐形状、断面多角形(例:四角形、五角形、六角形、八角形等)の角錐形状、等のいずれであってもよい。シール性の観点からは、断面の凹凸が比較的小さい棒形状が好ましく、断面が円形又は楕円形の棒形状が好適である。
【0028】
シャフト3と2つのポールピース11,13との間には、シール部材5,7が配置されている。ポールピース11,13の内周面は、
図2のように、シャフトの外周面と対向しており、シャフト3が磁化されることで、ポールピース11の内周面とシャフト3の外周面との間、及びポールピース13の内周面とシャフト3の外周面との間には、それぞれ密封対象物をシールするためのシール部材5,7が、磁力により固定化されている。つまり、本実施形態では、
図2に示すように、マグネット1と、マグネット1を支持するポールピース11,13と、シャフト3と、シャフト3とポールピース11,13のそれぞれの間に配置されたシール部材5,7と、が配置されることで、矢印で示すような磁気回路が形成されている。シャフトが回転していない状態(静止状態)では、シール部材5,7は、
図2のようにシャフトの表面に接した状態にあり、シャフトが回転している状態(駆動状態)になると、
図3のように、シール部材5,7とシャフト3との間に密封対象物21,23が入り込み、密封対象物を介在した状態でシール効果が発現する。
すなわち、シール部材5,7とシャフト3との間の微小隙間に侵入した密封対象物は、マグネット1から生じる磁束線によってポールピース11,13及びシャフト3が磁化されることで、ポールピース11,13とシャフト3との間に保持される。そして、ポールピース11,13とシャフト3との間の隙間は、磁束線の方向に引っ張られたシール部材5,7によって、密封対象物21,23を介してシールされることになる。
【0029】
シール部材5,7は、シールに必要とされる厚み(
図2中の厚みr)の円環体(リング体)に形成されており、ポールピース11,13とシャフト3との隙間の形状に合わせて成形されたものでもよい。
シール部材の形状としては、シールしようとする隙間の形状に応じて適宜選択すればよく、例えば、リング状(例えばOリングの形状)、板状などの形状にすることができる。
シール部材の、シールされる部材間(
図2ではシャフト3とポールピース11,13との間)の距離方向における厚み(
図2中の厚みr)としては、特に制限されるものではなく、シールされる部材間の距離に合わせて必要に応じた厚みにすればよく、10μm〜50mmの範囲とすることが一般的である。
【0030】
シール部材5,7は、互いに同一の組成で形成されていてもよいし、シール性を損なわない限り、互いに異なる組成で形成されていてもよい。
【0031】
シール部材5,7とシャフト3とは、静止状態では、互いに接触してシール部材5,7とシャフト3との間に隙間は形成されない。一方、駆動状態では、シール部材5,7とシャフト3との間に微小隙間が形成され、形成された隙間に密封対象物が入り込み、密封対象物21,23を介してシールされることになる。駆動時に形成される微小隙間の距離は、特に制限されるものではなく、密封対象物の性状(例えば粒子の形状、大きさなど)により定まる。
密封対象物としては、例えば、トナー等の粉体もしくは粒体、又はオイル等の液体などが例示される。
【0032】
上記のように、ポールピースにより支持されているマグネットは、シール部材5,7を所定の位置、すなわちポールピース11,13とシャフト3との間に保持する機能を担っている。シール部材は、磁化されたシャフトとポールピースとの間において磁束線により引き付けられて固定化されているため、シャフトの偏心や表面凹凸等が存在しても良好なシール性を保つことができる。
また、シール部材には、ポールピースを介して磁束線が及ぶことにより、仮にシール部材に摩耗、欠け等が発生した場合に、発生した摩耗による粒状物及び欠けは引きつけられ、飛散しないように補足することができる。これにより、クリーンな状態が保持される。
【0033】
(変形例)
本実施形態では、周方向と直交する厚み方向の断面が長方形のポールピース(円環体)を2つ用いてマグネットを支持する構造を中心に説明したが、シール構造はこのような構造に限られない。シール構造は、マグネット(磁石)と磁性部材であるシャフトとの間の、マグネットの2つの磁極の両方の磁界のそれぞれにシール部材が配置されて、マグネットとシール部材とシャフトとの間で磁気回路が形成される構造を有していればよい。
以下に、シール構造の変形例を示す。
シール構造の変形例としては、
図4Aに示すように、マグネットを支持するポールピースを用いずに、例えばシール部材の配置幅の長さに合わせて、高さd(=環状の一方面と他方面との間の距離)の大きい筒状の円環体(例えば厚み方向の断面は長方形)であるマグネットを、シール部材5,7を介してシャフトの外周面に配置したシール構造でもよい。
【0034】
また、他の変形例として、
図4Bに示すように、マグネットと同じ高さd(=環状の一方面と他方面との間の距離)のポールピース111をマグネットとシール部材5,7との間に配置したシール構造でもよいし、
図4Cに示すように、マグネットをポールピース間に挟むのではなくポールピース上に配置し、シール部材5,7を介してシャフトの外周面に配置したシール構造でもよい。
さらに他の変形例として、
図4Dに示すように、マグネットを支持するポールピースを用いずに、高さd(=環状の一方面と他方面との間の距離)の大きい筒状の円環体(例えば厚み方向の断面は長方形)であるマグネットを、マグネットと略同じ高さのシール部材115を介してシャフトの外周面に配置したシール構造でもよい。
【0035】
ここで、シール部材について詳述する。
本実施形態におけるシール部材は、磁性粒子、分散剤、及び分散媒を含有する磁性流体から分散媒を除去して得られる磁性粉体と、ゴム材料及び樹脂材料より選ばれる少なくとも一種と、を含有している。シール部材には、必要に応じて、さらに他の成分が含まれてもよい。
【0036】
本実施形態に示されるように、磁性流体から得られる特定の磁性粉体とゴム材料及び樹脂材料から選ばれる材料とを用いた組成を有することで、密封対象物に対して安定したシール性が発揮される。更に、摩耗が良好に抑制されるので、摩耗に伴う粒状物の発生も防止される。特に磁性流体から得られた磁性粉体を用いたシール部材は、シールされる部材に及ぼす摩耗の低減効果が顕著に現れる。これにより、例えば、高速回転が与えられる部材間で使用されても摩耗が著しく少なく、軸偏心量が大きい等により間隙量が変化する部材間での使用では、磁性粉体が磁力線に引かれて保持されるためにシール性に優れる等、シール性が低下しやすい使用条件下でも、優れたシール性が発現される。
【0037】
[磁性粉体]
シール部材は、磁性粒子、分散剤、及び分散媒を含有する磁性流体から分散媒を除去して得られる磁性粉体の少なくとも一種を含有する。本開示における磁性粉体は、磁性流体中の分散媒を除去することによって得られる、超常磁性を発現する粒子の集合体である。
【0038】
超常磁性とは、強磁性体である粒子がヒステリシスを示さず残留磁化も有しないことを指し、常磁性の原子磁気モーメントと比較して、100〜100,000倍の原子磁気モーメントの値を示す。
【0039】
〜磁性流体の準備〜
磁性流体とは、磁性粒子を分散媒中に分散させたコロイド溶液であり、その分散性が非常に良いため、重力、磁場などによって沈殿あるいは分離などの固−液分離が生じることなく、それ自身磁性を持った均一な液体と見なすことができるものである。
本発明の実施形態に用いられる磁性流体は、適宜調製してもよく、市販品を用いてもよい。磁性流体としては、例えば、少なくとも一部が分散剤により被覆された磁性粒子と分散媒とを含有する磁性流体が好適である。磁性流体の市販品としては、例えば、EXPシリーズ、Pシリーズ、APGシリーズ、RENシリーズ(以上、商品名:フェローテック社製)などが挙げられる。
【0040】
磁性流体を調製する場合、調製法は、磁性粒子の巨視的粒子をコロイド的サイズまで細分する方法と、原子又はイオンを凝縮させて磁性微粒子を得る方法と、に分けられる。
前者に属する方法としては、粉砕法、スパークエロージョン法が挙げられる。後者に属する方法としては、化学共沈法(湿式法)、金属カルボニルの熱分解法、真空蒸着法などが挙げられる。本発明の実施形態においては、生産性に優れる点で、化学共沈法が適している。
化学共沈法により磁性流体を調製する方法としては、例えば、硫酸第1鉄水溶液と硫酸第2鉄水溶液より調製したマグネタイト水スラリーにオレイン酸ナトリウムを添加し、マグネタイト粒子表面にオレイン酸イオンを吸着させ、水洗、乾燥後、有機溶媒に分散させる方法が挙げられる。
【0041】
次に、本発明の実施形態における磁性流体に含まれる磁性粒子、分散剤、及び分散媒について、以下に詳述する。
【0042】
(磁性粒子)
磁性粒子は、例えば、マグネタイト、γ酸化鉄、マンガンフェライト、コバルトフェライト、もしくはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライトやバリウムフェライトなどの強磁性酸化物、または、鉄、コバルト、希土類などの強磁性金属、窒化金属などが挙げられる。この中でもマグネタイトが量産性の点から好ましい。
なお、磁性粒子は、超常磁性を発現する範囲の平均粒子径、つまり臨界粒子径以下のものであれば、特に制限はなく用いられる。例えばマグネタイトやγ酸化鉄の場合、50nm以下が好ましく、10nm〜40nmの範囲であるものが特に好ましい。
磁性粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定される平均一次粒子径である。
【0043】
磁性流体に含まれる磁性粒子の含有量は、量産性の観点から、固形分換算で、30質量%〜70質量%が好ましく、40質量%〜60質量%がより好ましい。
なお、固形分換算とは、焼成後の磁性粒子の質量の全質量に対する含有量を指す。
【0044】
(分散剤)
分散剤は、磁性粒子の分散媒への分散性を向上させるために添加される。分散剤としては、公知の界面活性剤、高分子分散剤などが適宜使用しうるが、中でも、分散性及び得られた磁性粉体の性能の観点から、界面活性剤が好ましい。
磁性流体中に前記磁性粒子と分散剤とを含むことで、分散剤の少なくとも一部が磁性粒子に付着し、磁性粒子の表面の少なくとも一部が分散剤、好ましくは、界面活性剤で被覆されることになる。こうすることで、界面活性剤の親水基が磁性粒子の表面に向けて吸着されるとともに疎水基が分散媒へ配向するため磁性粒子が安定に分散媒中に分散することになる。本開示において分散剤として用いられる界面活性剤としては、例えば、オレイン酸またはその塩、石油スルホン酸またはその塩、合成スルホン酸またはその塩、エイコシルナフタレンスルホン酸またはその塩、ポリブテンコハク酸またはその塩、エルカ酸またはその塩などのように、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基などの極性基を有する炭化水素化合物である陰イオン性界面活性剤、あるいは、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのような非イオン性界面活性剤、さらに、アルキルジアミノエチルグリシンのような分子構造中に陽イオン部分と陰イオン部分とを共に持つ両性界面活性剤が挙げられる。この中で安価であり入手のしやすさからオレイン酸ナトリウムが好ましい。
【0045】
分散剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
分散剤の磁性流体中における含有量(複数種を含む場合はその総量)は、磁性粒子同士の凝集を防ぐことができる量であればよいが、固形分換算で、5質量%〜25質量%がより好ましく、10質量%〜20質量%が特に好ましい。
【0046】
分散剤は、磁性流体中で磁性粒子に吸着して、磁性粒子の表面の少なくとも一部を覆った状態となっており、本発明の実施形態における「分散剤で被覆された磁性粒子」は、磁性粒子の表面の少なくとも一部が分散剤で被覆されている状態をいう。
磁性粒子同士の凝集を防ぐ観点からは、1nm〜5nm程度の分散剤が磁性粒子の表面に吸着していることが好ましく、2nm〜3nm程度の分散剤が吸着していることがより好ましい。
【0047】
分散剤で被覆された磁性粒子の平均一次粒子径としては、5nm〜55nmの範囲が好ましい。磁性粒子が例えばマグネタイトやγ酸化鉄である場合、既述の磁性粒子の平均粒子径以上であることが好ましく、平均一次粒子径が55nm以下であることが好ましく、11nm〜45nmであることが特に好ましい範囲ということになる。
分散剤で被覆された磁性粒子の平均粒子径は、堀場製作所社製のナノ粒子解析装置nano Partica SZ−100シリーズを使用し、動的光散乱法により測定される値である。
なお、本明細書中において、磁性粒子の平均粒子径は、特に断りのない限り、分散剤で被覆された磁性粒子の平均粒子径を指す。
【0048】
分散剤の磁性流体中における含有量(複数種を含む場合はその総量)は、磁性粒子同士の凝集を防ぐ観点から、固形分換算で、5質量%〜25質量%が好ましく、10質量%〜20質量%がより好ましい。
【0049】
(分散媒)
磁性流体の分散媒としては、常温で液状であり、磁性粒子を分散しうるものであれば特に制限はなく、水、有機溶剤などから選ばれる1種以上が用いられる。
有機溶剤としては、ポリオレフィン、イソパラフィン、ヘプタン、トルエンなどの分子量5000以下の炭化水素類、ポリオールエステルなどのエステル類、シリコーンオイルなどが挙げられる。相溶性が良好であれば、複数種の有機溶剤を混合して用いてもよい。
また、水や、水と水溶性有機溶剤との混合物なども好ましく使用される。水溶性有機溶剤としては、エタノール、メタノールなどが挙げられる。分散剤として水を用いる場合、不純物の少ない純水、イオン交換水などを用いることが好ましい。
分散媒に対する各成分の濃度は、特に問わないが、後の工程における作業性などの観点から分散媒は、前記各成分を合計した固形分濃度が30質量%〜90質量%の範囲であることが好ましく、60質量%〜80質量%の範囲であることがより好ましい。
【0050】
磁性流体に含まれる固形成分中における、磁性粒子(無機成分)の合計含有量と、界面活性剤に代表される分散剤等の有機成分の合計含有量と、の割合(無機成分:有機成分)は、超常磁性を発現する範囲であれば特に問わないが、一般には磁性粒子と分散剤との質量比(磁性粒子:分散剤)として、60:40〜90:10が好ましく、70:30〜85:15の範囲であることがより好ましい。
磁性流体中の無機成分、有機成分の含有比率は、示差熱熱容量測定により確認することができ、具体的には、無機成分又は有機成分における各成分の含有量は、SII社製のEXSTAR6000TG/DTAにて測定される。
【0051】
(その他の成分)
磁性流体には、本発明の実施形態における効果を損なわない範囲において、磁性粒子、分散剤及び分散媒に加え、目的に応じて、さらに種々の他の成分を併用してもよい。
他の成分としては、例えば、水酸化カリウム、トリエチルアミンなどのpHコントロール剤が挙げられる。pHコントロール剤を含むことで、磁性粒子の大きさ(1次粒子径)をコントロールすることができる。
【0052】
〜磁性流体中の分散媒の除去〜
上記のようにして得られた磁性流体から分散媒を除去することにより、粒子表面の少なくとも一部が分散剤で被覆された磁性粒子を含む固体成分が得られる。
分散媒を除去する方法としては、特に制限はなく、例えば、磁性流体に凝集成分を添加することで、磁性流体に含まれる磁性粒子を凝集沈降させ、上澄みである分散媒を除去する方法、固体成分を、適切な開口部を有するフィルターやろ紙を用いてろ別する方法、分散媒の沸点以上の温度で加熱して分散媒を蒸発除去する方法、磁性流体に対して遠心力をかけることにより、磁性流体に含まれる分散剤が被覆された磁性粒子を分離する遠心分離による方法、マグネットにより分離する方法などが挙げられる。
なお、磁性粒子に付着しなかった残余の分散剤なども、分散媒とともに除去されることがある。
本発明の実施形態は、既述のように、磁性流体を用いることで、分散剤で被覆された磁性粒子を得るものであるが、磁性粉体は極めて微小であるために、通常の被覆方法、例えば、静電接触法やスプレー法などにより磁性流体表面に有機材料を被覆処理しても、本願発明の効果を奏し得るような被覆磁性粉体を得ることは極めて困難である。
【0053】
中でも、分離効率、安全性の観点から、磁性粒子を凝集沈降させる方法が好ましい。以下、この方法について詳細に説明する。
本実施形態では、まず、磁性流体に、凝集成分を添加することで、磁性流体に含まれる磁性粒子を凝集沈降させる。
凝集沈降する方法としては、例えば、磁性流体の分散媒である有機溶剤としてイソパラフィンを用いた場合、凝集成分としては、アルコール、なかでも、エタノールを含有する溶剤を添加する方法が挙げられる。凝集成分を添加して、撹拌することで、均一分散していた磁性粒子が互いに凝集して沈降する。エタノールは、原液でもよいが、80質量%以上の濃度の水溶液であれば使用しうる。
撹拌して安定に磁性粒子を沈降させるため、本工程における沈降時間は、室温(25℃)の温度条件下で、1時間〜36時間程度であることが好ましく、20時間〜28時間程度であることがより好ましい。
このとき、粒子の沈降には、凝集成分として、アルコールなどの有機溶剤を用いることが好ましく、通常、効率のよい粒子の凝集を生じさせる目的で用いられる共沈剤などは、共沈剤など自体が導電性を有するために、得られる磁性粉体や硬化物の磁気特性に影響を与える虞があることから使用しないことが好ましい。
【0054】
〜磁性粉体の製造〜
分散媒を除去する工程は、分散媒を除去し、分散媒と分離された分散剤で被覆された磁性粒子を含む固体成分を加熱して、残存する溶媒の量をさらに減少させることが好ましい。そしてその後、固体成分が凝集していた場合には、これを再粉末化して磁性粉体を得る工程である。
まず、凝集沈降物などの固形成分を更にろ別してアルコールや残余の分散媒を分離し、加熱する。
急速な高温の加熱を行うと磁性粒子が均一に乾燥されなかったり、磁性粒子間に残存するアルコールが急速に体積膨張することにより磁性粒子が飛び散ったりする虞があるため、乾燥温度は、70℃〜200℃の範囲とすることが好ましく、100℃〜150℃の範囲とすることがより好ましい。また、はじめは60℃〜80℃にて1時間程度乾燥し、その後、温度を100℃〜150℃とするなど、2段階の乾燥工程としてもよい。
【0055】
乾燥装置としては、所定の温度に昇温した対流式オーブンに投入して乾燥する方法、ロータリーキルンに投入して乾燥する方法などが好ましい。乾燥時間は、5時間〜10時間が好ましく、6時間〜9時間程度がより好ましい。加熱後、放置して冷却することで、乾燥を終了する。放冷は1〜2時間程度でよい。
溶剤が残存している場合、磁性粒子表面がべたつくので、手指接触により、ベタつきを感じない程度まで乾燥することが好ましい。
【0056】
乾燥後に、固形成分を粉末化する工程に移行し、前工程で凝集した固体成分は再粉末化される。再粉末化は、例えば、凝集した固体成分を粉砕することで行われ、粉末化されて得られた粉末が本発明の実施形態における磁性粉体となる。
粉砕を行う場合、粉砕前の乾燥状態において、シランカップリング剤を均一に乾燥後の粒子表面に散布することも好ましい。シランカップリング剤は、磁性粒子表面に吸着して後述するゴム材料や樹脂材料との密着性を向上させることができる。
本発明の実施形態に用いうるシランカップリング剤としては、磁性粒子に吸着しうる官能基を有するものであれば、公知のものを適宜使用すればよい。
【0057】
シランカップリング剤としては、例えば、信越シリコーン社製のKBM−403(商品名)などが挙げられる。
シランカップリング剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤の添加量は、乾燥した粒子100質量部に対して、0.5質量部〜1.5質量部の範囲であることが好ましい。
【0058】
粉砕は、カッターミキサー、ヘンシェルミキサーなどの、圧縮応力や剪断応力を付与しうる公知の粉砕装置で行うことが好ましい。乳鉢、臼などによるずり応力の掛かる粉砕は、得られる磁性粉体の磁気特性に影響を与えるため、好ましくない。
【0059】
上記のようにして得られた磁性粉体は、磁性粒子の表面の少なくとも一部が、磁性流体に由来する分散剤、所望により添加されるシランカップリング剤などの有機成分により被覆されている。
磁性粉体の表面に有機成分が存在することは、熱示差分析により確認できる。
【0060】
シール部材において、磁性粉体の、磁性粉体と後述するゴム材料及び樹脂材料との総量に対する含有比率としては、5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましく、10質量%〜40質量%の範囲であることがより好ましく、30質量%〜40質量%の範囲であることが特に好ましい。
磁性粉体の含有比率が5質量%以上であることで、シール性に優れたものとなる。また、磁性粉体の含有比率が50質量%以下であることで、磁性粉体を容易に混練することができるとともに耐磨耗性に優れたものとなる。
【0061】
[ゴム材料・樹脂材料]
シール部材は、ゴム材料及び樹脂材料より選ばれる少なくとも一種を含有する。ゴム材料及び樹脂材料は、成形体を得る際の成形材料として機能する。
【0062】
(ゴム材料)
ゴム材料としては、特に制限はなく、使用目的又は求められる性状等に応じて選択すればよく、例えば、天然ゴム、合成ゴム(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、シリコーンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム(FKM)、水素化ニトリルゴム、多硫化ゴム等)などを挙げることができる。中でも、耐油性や入手容易性の点で、シリコーンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)が好ましい。
【0063】
シリコーンゴムとしては、2液反応型シリコーンゴムであってもよく、例えば、シリコーン主剤(ミラブル型シリコーン TSE221−5U、TSE260−5U、TSE261−5U;以上、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン社製、KE75S−U、KE555−U;以上、信越化学工業社製)、及び加硫剤(ミラブル型シリコーン TC8、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン社製)により加熱硬化する熱硬化型シリコーンゴムでもよい。
アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)としては、例えば、JSR社製のN230SV、N239SV等を挙げることができる。
【0064】
(樹脂材料)
樹脂材料としては、特に制限はなく、使用目的又は求められる性状等に応じて、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。中でも、シールする隙間の形状及びサイズ、又はシャフト等の磁性部材の偏心の程度等に起因するシール性の低下を考慮して、耐久性の観点から、熱硬化性樹脂が好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
また、前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0065】
ゴム材料及び樹脂材料は、いずれか一方を用いてもよいし、両方を併用してもよい。また、ゴム材料及び樹脂材料は、それぞれ、シール部材に求められる性状に応じて、1種単独で用いるほか、2種以上を併用してもよい。
ゴム材料及び樹脂材料のシール部材中における合計含量としては、シール部材の総量に対して、50質量%〜95質量%が好ましく、60質量%〜70質量%がより好ましい。ゴム材料及び樹脂材料の含有量が50質量%以上であると、成形物の耐久性の点で有利である。また、ゴム材料及び樹脂材料の含有量が95質量%以下であると、磁性特性が得られる点で有利である
【0066】
[他の成分]
シール部材は、上記に成分に加え、本発明の実施形態における効果を損なわない範囲で、必要に応じて更に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、架橋剤、磁性を有しない無機粒子、硬化促進剤、離型剤、発泡剤、充填剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加工助剤などが挙げられる。
架橋剤としては、特に限定されず、例えば、イミダゾール系架橋剤、尿素系架橋剤、高級脂肪酸金属塩、トリフェニルホスフィンなどが挙げられる。架橋剤を用いる場合、架橋剤の含有量は、樹脂材料に対して、0.05質量%〜1質量%が好ましく、0.2質量%〜0.5質量%の範囲がより好ましい。架橋剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
離型剤としては、シリカ粒子、酸化チタン粒子などの磁性を有しない無機粒子、カルナバワックス、キャンデリラワックス、エステルワックスなどのワックスなどが挙げられる。
磁性を有しない無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子等が挙げられ、表面積が170m
2/g〜300m
2/g程度のシリカ粒子が好ましい。磁性を有しない無機粒子を用いる場合、磁性を有しない無機粒子の含有量は、樹脂材料に対して、0.05質量%〜0.5質量%が好ましい。
また、ワックスを用いる場合、ワックスの含有量は、固形分換算で、樹脂材料に対して、0.05質量%〜1.0質量%が好ましく、0.2質量%〜0.5質量%がより好ましい。ワックスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
加硫剤としては、例えば、硫黄系化合物、有機過酸化物、フェノール樹脂、オキシム化合物などが挙げられる。
硫黄系化合物としては、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、モルフォリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸セレンなどが好ましく、硫黄、テトラメチルチウラムジスルフィドなどがより好ましい。また、硫黄としては、粉末硫黄、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等が挙げられる。硫黄系化合物を用いる場合、硫黄系化合物の含有量は、樹脂材料に対して、一般に0.1質量%〜10質量%が好ましい。含有量が上記範囲内であると、得られる架橋物の機械物性が優れるため好適である。
加硫剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の加硫剤として硫黄系化合物を用いる場合、さらに加硫促進剤を併用することが好ましい。
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
加硫促進助剤としては、例えば、亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸等が挙げられる。加硫促進助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
シール部材は、例えば、シールされる隙間の形状に合わせた形状に成形された成形体として用いられてもよい。この場合、成形方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、プレス成形、射出成形、押出成形、注型成形、圧縮成形、ディッピング成形などが挙げられる。このような成形法で得られた成形物は、優れた超常磁性を有している。
【0070】
成形体は、さらに焼成処理されることが好ましい。焼成により、成形体の硬度をより高めることができる。焼成処理は、熱対流式オーブン等の加熱装置を用いて行うことができる。
また、焼成条件については、シール部材の組成又は成形体の形状等により適宜選択することができる。焼成温度としては、100℃〜300℃の範囲とすることができる。また、焼成時間は、焼成温度により異なるが、1時間〜3時間の範囲とすることができる。
【0071】
本実施形態に係るシール構造は、必要に応じて、更に他の部材を設けて形成することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施形態を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明の実施形態は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0073】
(実施例1)
1.磁性流体からの分散媒の除去
磁性流体(EXP.12038、フェローテック社製、分散剤が被覆された磁性粒子(磁性粒子:マグネタイト、平均一次粒子径:15nm、分散剤:オレイン酸ナトリウム)、分散媒:イソパラフィン)を50ml分取し、エタノール(85%水溶液)を50ml添加して、よく攪拌し、磁性粒子を凝集沈降させた。沈降時間は24時間とした。その後、エタノールをろ別し、磁性粒子の凝集沈降物を得た。
【0074】
2.磁性粉体の製造
得られた凝集沈降物を平らにならし、115℃に昇温した対流式オーブンに投入した。対流式オーブン中で8時間加熱乾燥し、その後、2時間放置冷却した。乾燥後の磁性粒子を熱示差分析したところ、無機成分82%及び有機成分18%を含むことが確認された。これにより、磁性粒子の表面の少なくとも一部に、磁性流体に由来する有機成分(界面活性剤)が存在することが確認された。
【0075】
その後、粉体凝集物を、ミキサーを使用して微粉になるまで粉砕し、磁性粉体を得た。
粉砕後の磁性粉体の平均一次粒子径は、26nmであった。尚、平均一次粒子径の測定には、Heros Partical Size Analysis windox5(Sympatec GmbH社製)を用いた。
【0076】
3.磁性粉体組成物の製造
シリコーン主剤(ミラブル型シリコーン TSE221−5U、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン製)及び加硫剤(ミラブル型シリコーン TC8、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン製)を、混練装置(2本ロール、東洋精機製作所)にて下記の条件で混練し、混練物が透明になった時点で上記の磁性粉体を下記表1に示す割合で投入し、さらに混練することにより、磁性粉体組成物(サンプル2〜4)を得た。また、比較用のサンプルとして、磁性粉体を含有しないサンプル1も作製した。
<混練条件>
・配合割合;シリコーン主剤:加硫剤=100質量部:0.5質量部
・混練温度;40℃
・回転数:定速回転(機器由来)
・混練時間;30分間
【0077】
【表1】
【0078】
4.成形体の作製
上記のようにして得られた磁性粉体組成物を用いて、以下に示すOリング及び中心孔付き板材をプレス成形した。プレス成形は、下記の加熱条件にて行った。その後、プレス成形して得られた成形体を下記の焼成条件で焼成した。
<a.成形体の種類>
・Oリング・・・サンプル毎に2つ
〔寸法:外径φ22.5mm、内径(孔径)φ12mm、高さ4mm〕
・中心孔付き板材・・・サンプル毎に1つ
〔寸法:外径φ約115mm、内径(中心孔径)φ10mm、厚み2mm〕
<b.加熱条件>
・プレス圧:30トン
・プレス温度:170℃
・プレス時間:10分間
<c.焼成条件>
・装置:熱対流式オーブン
・焼成温度:200℃
・焼成時間:2時間
【0079】
5.評価
得られた成形体について、下記の評価を行った。なお、サンプル1は、磁性粉体を含有していない。評価結果を表1〜表4に示す。
(5−1)外観
得られた成形体を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果は前記表1に示す。
<評価基準>
A:粉浮の発生がなく、外観に優れている。
B:若干の粉浮がみられるが、外観に支障をきたす程度ではない。
C:粉浮が顕著にみられ、外観を損なっている。
【0080】
(5−2)荷重試験
図5に示すように、吊されたネオジム磁石に、得られたOリングを付着させて、錘の種類を変えて荷重をかけ、Oリングが重みに耐えられずに落下するまでの耐荷重力を測定した。評価結果は下記表2に示す。
<条件>
・装置:
図5参照
・ネオジム磁石 形状:外径φ15mm、内径(孔径)φ4.3mm、高さ5mm
磁力:451ミリテスラ
【0081】
【表2】
【0082】
(5−3)水漏れ試験
図6に示すように、ネオジム磁石をクランプ固定し、Oリングの高さ方向端面(平面部)をネオジム磁石の一方面に付着させた状態とし、ネオジム磁石の孔内へ水0.3gを滴下した。その後、5分間放置し、磁石とOリングとの接面からの水漏れの有無を目視により評価し、シール性を評価する指標とした。評価結果は、下記表3に示す。
なお、Oリングの高さは、O形状のオモテ面とウラ面との距離を指す。
<条件>
・装置:
図6参照
・ネオジム磁石 形状:外径φ15mm、内径(孔径)φ4.3mm、高さ5mm
磁力:451ミリテスラ
【0083】
【表3】
【0084】
(5−4)摩耗試験
上記で得られた中心孔付き板材に対し、テーバー式試験機AB−101(TABER INDUSTRIES社製)を用い、下記の条件で摩耗試験を行い、成形体の耐摩耗性を評価した。この試験は、JIS K6264−2(2005)に準拠して行った。評価結果は、下記表4に示す。
<条件>
・研磨輪:H18
・荷重:250g
・回転速度:60r.p.m
・回転数:1000回転
【0085】
【表4】
【0086】
表2〜表4に示す結果から、上記した荷重試験及び水漏れ試験において優れたシール性を示したサンプル2〜4では、磁性粉体を含むにも関わらず、磁性粉体を含まないサンプル1と同等以上の摩耗率を発揮した。したがって、本発明の実施形態に係るシール部材は、ゴム材料としてシリコーンゴムを用いた場合に、摩耗及び摩耗に伴う粒状物の発現を飛躍的に抑えながらも、優れたシール性を発揮し得るものであることが明らかである。
また、上記の結果より、磁性粉体の含有比率は、10質量%〜40質量%の範囲であるのが好ましい。
【0087】
(実施例2)
1.磁性粉体の製造
実施例1と同様の方法により、磁性流体(EXP.12038、フェローテック社製、分散剤が被覆された磁性粒子(磁性粒子:マグネタイト、平均一次粒子径:15nm、分散剤:オレイン酸ナトリウム)、分散媒:イソパラフィン)から分散媒を除去して磁性粒子の凝集沈降物を得た後、得られた凝集沈降物を用い、磁性粉体を得た。粉砕して得られた磁性粉体の平均一次粒子径は、26nmであった。
【0088】
2.磁性粉体組成物の製造
主剤としてアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR;N230SV、JSR社製)と、加硫剤(粉末硫黄)と、N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS;加硫促進剤)と、酸化亜鉛(加硫促進助剤)と、ステアリン酸(加工助剤)と、磁性粒子(上記の磁性粉体)と、を下記の表5に示す割合(質量比)にて混合し、混練装置(2本ロール、東洋精機製作所)にて下記の条件で混練することにより、3種の磁性粉体組成物(サンプルa〜b及び比較サンプル)を得た。
<混練条件>
・試験機 :池田機械工業社製の電気加熱式高温ロール
・ロールサイズ:φ6インチ×16インチ
・前ロールの回転数:25rpm
・前後ロールの回転比: 前ロール:後ロール=1:1.22
・前後ロールのロール温度:50±5℃
【0089】
【表5】
【0090】
3.成形体の作製
上記のようにして得られた磁性粉体組成物(サンプルa〜b及び比較サンプル)を用いて、以下に示すOリング及び中心孔付き板材をプレス成形した。プレス成形は、下記の加熱条件にて行った。
なお、プレス時間は、JIS K6300−2:2001に準拠した方法により加硫度が90%となる時間とした。このため、サンプルaについては、32分、サンプルbについては38分、比較サンプルでは30分とした。
<a.成形体の種類>
・Oリング〔外径φ22.5mm、内径(孔径)φ12mm、高さ4mm〕
・中心孔付き板材〔外径φ約115mm、内径(中心孔径)φ10mm、厚み2mm〕
<b.加熱条件>
・プレス圧:30トン
・プレス温度:150℃
・プレス時間:上記に記載の時間
【0091】
4.評価
得られた成形体について、実施例1と同様に、荷重試験、水漏れ試験、及び摩耗試験を行い、評価した。なお、比較サンプルは、磁性粉体を含有していない。評価結果を表6〜表8に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
【0095】
表6〜表8に示す結果から、荷重試験及び水漏れ試験において優れたシール性を示したサンプルa及びbでは、磁性粉体を含むにも関わらず、磁性粉体を含まない比較サンプルと同等以上の摩耗率を発揮した。磁性粉体の含有比率は、上記の結果より、10質量%〜40質量%の範囲であるのが好ましい。
本発明の実施形態に係るシール部材は、ゴム材料としてアクリロニトリル・ブタジエンゴムを用いた場合に、摩耗及び摩耗に伴う粒状物の発現を飛躍的に抑えながらも、優れたシール性を発揮し得るものであることが明らかである。