特許第6643260号(P6643260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643260
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】低転がり抵抗性を有するタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20200130BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200130BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200130BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20200130BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20200130BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C08L15/00
   B60C1/00 A
   C08K3/36
   C08K5/54
   C08L57/00
   C08K5/00
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-571323(P2016-571323)
(86)(22)【出願日】2015年5月27日
(65)【公表番号】特表2017-518421(P2017-518421A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2015061627
(87)【国際公開番号】WO2015185395
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】1455097
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ラブルニー フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ド ゴードマリ ベノワ
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−507496(JP,A)
【文献】 特表2013−518159(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/060287(WO,A1)
【文献】 特開2009−263587(JP,A)
【文献】 特開2014−098162(JP,A)
【文献】 特表2013−544936(JP,A)
【文献】 特表2013−544935(JP,A)
【文献】 特開2012−180397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドが少なくとも下記の成分をベースとするゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・シラノール官能基を鎖末端に担持する溶液SBRを50質量%よりも多く含むエラストマーマトリックス;
・40phrと80phrの間の含有量で存在する補強用充填剤であって、40phrと70phrの間の量のシリカ及び10phr未満のカーボンブラックを含む前記補強用充填剤;
・前記シリカを前記溶液SBRにカップリングさせるためのカップリング剤;
・10〜50phrの、20℃よりも高いTgを有し、且つ400g/モルと2000g/モルの間の数平均分子量(Mn)を有する炭化水素系樹脂;
・0〜5phr未満の液体可塑剤
であって、前記ゴム組成物がグリセロールを含む場合を除く、前記タイヤ。
【請求項2】
前記溶液SBRが、−40℃よりも低いガラス転移温度を有する、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記溶液SBRが、−70℃と−40℃の間のガラス転移温度を有する、請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記エラストマーマトリックスが、75質量%よりも多い、好ましくは85質量%よりも多い溶液SBRを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項5】
前記炭化水素系樹脂が、テルペン樹脂またはC5留分/C9留分コポリマーである、請求項1〜4のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
シリカの前記含有量が、50〜70phrの範囲である、請求項1〜5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
炭化水素系樹脂の前記含有量が、20〜40phrの範囲である、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
補強用充填剤の前記含有量が、50phrと75phrの間で変動する、請求項6および7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
前記補強用充填剤が、カーボンブラックをくとも5phrの含有量で含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項10】
下記の工程を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイヤの製造方法:
・前記エラストマーマトリックス、前記補強用充填剤、前記カップリング剤および前記炭化水素系樹脂を、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混練する工程; ・混ぜ合わせた混合物を100℃よりも低い温度に冷却する工程;
・その後、第2工程において、架橋系を混入する工程:
・すべてを110℃よりも低い最高温度まで混練する工程;
そのようにして得られた組成物をカレンダー加工または押出加工する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、低転がり抵抗性を有するタイヤの分野である。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、知られている通り、低転がり抵抗性、高耐摩耗性、高乾燥グリップ性および高湿潤グリップ性のような、数多くのしばしば相反する技術的要件を満たさなければならない。
【0003】
諸性質における、特に転がり抵抗性および耐摩耗性の観点からのこの妥協点は、近年、補強用充填剤と説明されている特定の無機充填剤によって、特に、補強力の点から通常のタイヤ級カーボンブラックに匹敵し得る高分散性シリカ(HDS)によって主として補強されているという特徴を有する新規な低ヒステリシスゴム組成物の特にトレッドとして使用のおかげで、特に乗用車用を意図する省エネルギー“グリーンタイヤ”に関連して改良され得てきている。
【0004】
低転がり抵抗性を有するタイヤトレッドは、シリカと、官能基がシリカと相互作用する官能性エラストマーとの組合せ使用によって得ることができる。例えば、特許または特許出願 EP 0 778 311B1号、EP 0877047 B1号、WO 2008/141702号およびWO 2006/050486号を参照し得る。タイヤの低転がり抵抗性能をさらにもっと改良するには、補強用充填剤の、特にシリカの含有量をタイヤトレッドのゴム組成物において低減して、タイヤの転がり抵抗性能をさらに改良することは可能である。しかしながら、この解決策は、一般に、タイヤの湿潤グリップ性を低下させるという欠点を有する。
【0005】
さらにまた、タイヤのグリップ性能を、タイヤが走行する地面上でのトレッドの接触表面積を増大させることによって、特に、トレッドとして変形性材料を、この場合は変形性ゴム組成物を使用することによって改良し得ることは知られている。ゴム組成物をさらに変形性にする1つの方法は、大量の可塑剤を導入することによってゴム組成物をより一層軟質にすることである。にもかかわらず、この解決策は、可塑剤の量が比較的多量である場合、可塑剤の浸出問題に直面し得る。
【発明の概要】
【0006】
本出願人は、この問題の解決策を、特に、シリカで補強されたトレッド用のゴム組成物において、ある種のエラストマーマトリックス、特定含有量の補強用充填剤および特定の可塑化系を組合せることによって見出した。
【0007】
従って、本発明の主題は、少なくとも下記の成分をベースとするゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤトレッドである:
・シラノール官能基を鎖末端に担持する溶液SBRを50質量%よりも多く含むエラストマーマトリックス;
・40phrと80phrの間の含有量で存在する補強用充填剤であって、40phrと80phrの間の量のシリカを含む上記補強用充填剤;
・上記シリカを上記溶液SBRにカップリングさせるためのカップリング剤;
・10〜50phrの、20℃よりも高いTgを有する炭化水素系樹脂;
・0〜5phr未満の液体可塑剤。
【0008】
本発明のもう1つの主題は、本発明に従うタイヤの製造方法である。
本発明のタイヤは、特に、乗用車タイプの自動車さらにまた二輪車に装着することを意図する。
【0009】
本発明およびその利点は、以下の説明および典型的な実施態様に照らせば容易に理解し得るであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
I− 発明の詳細な説明
本説明においては、特に明確に断らない限り、示す全てのパーセント(%)は、質量%である。略記“phr”は、エラストマーマトリックスの100質量部当りの質量部を意味し、そのエラストマーマトリックスは、上記ゴム組成物中に存在する全てのエラストマーからなる。ガラス転移温度“Tg”は、全て、規格ASTM D3418 (1999年)に従うDSC (示差走査熱量測定法)によって、既知の方法で測定する。
【0011】
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでの範囲の値の範囲を示し(即ち、限界値aとbは除外する)、一方、“a〜b”なる表現はよって示される値の間隔は、いずれも、aからbまでの範囲の値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを包含する)。
【0012】
I−1. エラストマーマトリックス
上記溶液SBRは、溶液中で調製したブタジエンとスチレンのコポリマーである。その本質的な特徴は、このSBRが鎖末端にシラノール官能基を担持することである。
【0013】
このタイプのエラストマーは、特許EP 0 778 311 B1号に記載されている手順に従って、例えば、リビングエラストマー鎖の末端におけるカルバニオンのヘキサメチルシクロトリシロキサンとの反応によって、さらに、その後のプロトン供与体との反応によって調製し得る。
【0014】
上記溶液SBRは溶液SBRの混合物からなり得ることを理解されたい;上記溶液SBRは、上記アミン官能基の化学的性質によって、それらSBRのミクロ構造によってまたはそれらSBRのマクロ構造によって互いに区別する。
【0015】
本発明の実施態様のいずれか1つよれば、上記溶液SBRは、好ましくは−40℃よりも低い、より好ましくは−70℃と−40℃の間のガラス転移温度を有する。
【0016】
本発明に従うトレッドの組成物のエラストマーマトリックスが第2のエラストマーを含む場合、この第2のエラストマーは、好ましくは、ジエンエラストマーである。
【0017】
“ジエン”エラストマー(また、“ゴム”、これら2つの用語は同義であるとみなす)は、知られている通り、ジエンモノマー単位(2個の共役型または非共役型炭素・炭素二重結合を担持するモノマー)から少なくとも部分的に由来する1種以上のエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきである。
【0018】
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー、即ち、“本質的に不飽和”または“本質的に飽和”に分類し得る。一般に、“本質的に不飽和”とは、15%(モル%)よりも多いジエン由来の単位(共役ジエン)含有量を有する共役ジエンモノマーに少なくとも部分的に由来するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい;従って、ブチルゴムまたはEPDMタイプのジエンとα‐オレフィンとのコポリマーのようなジエンエラストマーは、上記の定義に属さず、特に、“本質的に飽和”のジエンエラストマー(低いまたは極めて低い、常に15%よりも低いジエン由来の単位含有量)として説明し得る。“本質的に不飽和”のジエンエラストマーのカテゴリーにおいては、“高不飽和”ジエンエラストマーは、特に、50%よりも多いジエン由来の単位(共役ジエン)含有量を有するジエンエラストマーを意味するものとする。
【0019】
本発明は、任意のタイプのジエンエラストマーに当てはまるけれども、タイヤ技術における熟練者であれば、本発明は、好ましくは、本質的に不飽和のジエンエラストマーによって実施することを理解されたい。
【0020】
これらの定義を考慮すれば、本発明に従う組成物において使用することのできるジエンエラストマーなる表現は、特に下記を意味するものとする:
(a) 共役耳炎モノマーの任意のホモポリマー、特に、4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー;
(b) 1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは8〜20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマー。
【0021】
以下は、特に共役ジエンとして適している:1,3−ブタジエン;2−メチル−1,3−ブタジエン;例えば、2,3−ジメチル−1,3-ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−3−エチル−1,3−ブタジエンまたは2−メチル−3−イソプロピル−1,3−ブタジエンのような2,3−ジ(C1〜C5アルキル)−1,3−ブタジエン;アリール−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン。以下は、例えば、ビニル芳香族化合物として適している:スチレン;オルソ−、メタ−およびパラ−メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ−(tert−ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレン。
【0022】
上記第2エラストマーは、ジエンエラストマーである場合、上記第2エラストマーがシラノール官能基を鎖末端に担持していないことで上記溶液SBRと異なっている。にもかかわらず、上記第2エラストマーは、上記溶液SBRのミクロ構造またはマクロ構造と同一であってもまたは異なっていてのよいミクロ構造またはマクロ構造を有し得る。
【0023】
上記第2エラストマーは、ジエンエラストマーであれまたはジエンエラストマーでないであれ、上記エラストマーマトリックスの0質量%と50質量%の間、好ましくは0質量%と25質量%の間、より好ましくは0質量%と10質量%の間の割合で使用する。換言すれば、上記エラストマーマトリックスは、50質量%よりも多い、好ましくは75質量%よりも多い、さらにより好ましくは90質量%よりも多い上記溶液SBRを含み、100質量%までの残りが上記第2エラストマーからなる。これらの好ましい範囲は、本発明の実施態様のいずれか1つに該当する。
【0024】
上記第2ジエンエラストマーは、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる。
【0025】
I−2. 補強用充填剤
上記ゴム組成物は、タイヤトレッドの製造において使用することのできるゴム組成物を補強するその能力について知られている任意のタイプの“補強用”充填剤を含む。補強用充填剤の含有量は、40phrよりも多くて80phr以下である。
【0026】
は、そのような補強用充填剤は、典型的には、ナノ粒子からなり、これら粒子の(質量)平均粒度は、一般に500nmよりも小さく、通常20nmと200nmの間、特にそしてより好ましくは20nmと150nmの間である。
【0027】
上記補強用充填剤は、40phrと80phrの間の量のシリカを含むという本質的な特徴を有する。
【0028】
使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m2/g未満、好ましくは30〜400m2/g、特に60m2/gと300m2/gの間であるBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降またはヒュームドシリカであり得る。高分散性沈降シリカ(“HDS”)としては、例えば、Degussa社からの“Ultrasil”7000および“Ultrasil”7005シリカ類;Rhodia 社からの“Zeosil”1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からの“Hi‐Sil”EZ150Gシリカ;Huber社からの“Zeopol”8715、8745または8755シリカ類;および、出願 WO 03/16837号に記載されているような高比表面積を有するシリカ類が挙げられる。
【0029】
当業者であれば、この項において説明したシリカと等価の充填剤として、もう1つの種類の補強用充填剤、特にカーボンブラックブロックのような有機充填剤を、この充填剤をシリカで被覆している限りにおいて使用し得ることを理解されたい。例としては、例えば、例えば特許文献WO 96/37547号およびWO 99/28380号に記載されているようなタイヤ用のカーボンブラックを挙げることができる。
【0030】
本発明の特定の実施態様によれば、シリカの含有量は、50phr〜70phrの範囲内である。本発明のこの特定の実施態様によれば、補強用充填剤の含有量は、好ましくは50phrと75phrの間、より好ましくは55phrと70phrの間の量で変動する。
【0031】
本発明の1つの実施態様によれば、上記ゴム組成物は、カーボンブラックを含み得る。全てのカーボンブラック類、特に、タイヤまたはそのトレッドにおいて通常使用するブラック類(“タイヤ級”ブラック類)が、カーボンブラックとして適している。後者のうちでは、さらに詳細には、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683およびN772ブラック類のような100、200または300シリーズの補強用カーボンブラック類或いは500、600または700シリーズのブラック類(ASTM級)が挙げられる。これらのカーボンブラックは、そのままで、商業的に入手し得るままに或いは任意の他の形で、例えば、使用するある種のゴム製造用添加剤のための支持体として使用し得る。
【0032】
上記カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは10phr未満、より好ましくは5phr以下の含有量で使用する。これらの好ましい範囲は、本発明の実施態様のいずれか1つに当てはまる。上記の範囲内では、カーボンブラックの着色特性(黒色着色剤)およびUV安定特性が有益であり、さらにまた、範囲外では、上記補強用無機充填剤が寄与する典型的な性能特性に悪影響を及ぼす。
【0033】
周知のとおり、上記シリカ(その粒子表面)と上記エラストマーマトリックスのエラストマーの1種、特に上記溶液SBRとの間に満足し得る化学的および/または物理的性質の結合をもたらすことを意図するカップリング剤(または結合剤)、一般的にはシランを使用する。このカップリング剤は、少なくとも二官能性である。特に、少なくとも二官能性のオルガノシランまたはポリオルガノシロキサン類を使用する。
【0034】
特に、例えば出願 WO03/002648号(またはUS 2005/016651号)およびWO03/002649号(またはUS 2005/016650号)に記載されているような、その特定の構造に応じて“対称形”または“非対称形”と称するシランポリスルフィドを使用する。
【0035】
特に適するのは、以下の定義に限定されることなく、下記の一般式(I)に相応するシランポリスルフィドである:

(I) Z − A − Sx − A − Z

[式中、xは、2〜8 (好ましくは2〜5)の整数であり;
A符号は、同一または異なるものであって、2価の炭化水素基(好ましくはC1〜C18アルキレン基またはC6〜C12アリーレン基、特にC1〜C10アルキレン、特にC1〜C4アルキレン、特にプロピレン)であり;
Z符号は、同一または異なるものであって、下記の式の1つに相応する:
【化1】

(式中、R1基は、置換されているかまたは置換されてない、互いに同一かまたは異なるものであって、C1〜C18アルキル、C5〜C18シクロアルキルまたはC6〜C18アリール基(好ましくはC1〜C6アルキル、シクロヘキシルまたはフェニル基、特にC1〜C4アルキル基、特にメチルおよび/またはエチル)を示し;
R2基は、置換されているかまたは置換されてない、互いに同一かまたは異なるものであって、C1〜C18アルコキシルまたはC5〜C18シクロアルコキシル基(好ましくはC1〜C8アルコキシルおよびC5〜C8シクロアルコキシルから選ばれる基、さらにより好ましくはC1〜C4アルコキシルから選ばれる基、特にメトキシルおよびエトキシル)を示す)]。
【0036】
上記式(I)に相応するアルコキシシランポリスルフィド類の混合物、特に、通常の商業的に入手可能な混合物の場合、“x”の平均値は、好ましくは2と5の間の、より好ましくは4に近い分数である。しかしながら、本発明は、例えば、アルコキシシランジスルフィド(x = 2)によっても有利に実施し得る。
【0037】
さらに詳細には、シランポリスルフィドの例としては、例えば、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)またはビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドのような、ビス((C1〜C4)アルコキシル(C1〜C4)アルキルシリル(C1〜C4)アルキル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)が挙げられる。特に、これらの化合物のうちでは、式[(C2H5O)3Si(CH2)3S2]2を有するTESPTと略称されるビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、または式[(C2H5O)3Si(CH2)3S]2を有するTESPDと略称されるビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを使用する。また、好ましい例としては、上記特許出願WO 02/083782号(または、US 7 217 751号)に記載されているような、ビス(モノ(C1〜C4)アルコキシルジ(C1〜C4)アルキルシリルプロピル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)、特に、ビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドも挙げられる。
【0038】
特に、アルコキシシランポリスルフィド類以外のカップリング剤の例としては、特許出願WO 02/30939号(またはUS 6 774 255号)、WO 02/31041号(またはUS 2004/051210号)およびWO 2007/061550号に記載されているような、二官能性POS (ポリオルガノシロキサン)類またはヒドロキシシランポリスルフィド(上記式Iにおいて、R2 = OH)、或いは、例えば、特許出願WO 2006/125532号、WO 2006/125533号およびWO 2006/125534号に記載されているような、アゾジカルボニル官能基を担持するシランまたはPOS類が挙げられる。
【0039】
他のシランスルフィド類の例としては、例えば、例えば特許または特許出願 US 6 849 754号、WO 99/09036号、WO 2006/023815号およびWO 2007/098080号に記載されているような、少なくとも1個のチオール(−SH)官能基(メルカプトシランと称する)および/または少なくとも1個のマスクトチオール基を担持するシラン類が挙げられる。
【0040】
勿論、特に上記出願WO 2006/125534号に記載されているような、上記のカップリング剤の混合物も使用し得る。
【0041】
カップリング剤の含有量は、有利には、10phr未満である;一般に、できる限り少ないカップリング剤を使用することが望ましい。カップリング剤の含有量は、好ましくは0.5phrと8phrの間、より好ましくは2phrと8phrの間の量である。この含有量は、当業者であれば、上記組成物中で使用するシリカの含有量に応じて容易に調整し得ることである。
【0042】
I−3. 炭化水素系樹脂
上記炭化水素系樹脂は、上記ゴム組成物中に10〜50phrの範囲の含有量で存在し、20℃よりも高いガラス転移温度Tgを有する。
【0043】
“樹脂”なる名称は、本出願においては、当業者にとって既知の定義によれば、オイルのような液体可塑剤とは対照的に、室温(23℃)において固体である化合物について使用される。
【0044】
炭化水素系樹脂は、当業者にとって周知のポリマーであって、本質的に炭素と水素をベースとするが他のタイプの原子も含み得、ポリマーマトリックス中で可塑剤または粘着付与剤として使用し得る。これらの樹脂は、真の希釈剤として作用するために、これらの樹脂の使用を意図するポリマー組成物と使用する含有量において本質的に混和性(即ち、相溶性)である。これらの炭化水素樹脂は、例えば、R. Mildenberg、M. ZanderおよびG. Collin (New York, VCH, 1997, ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にタイヤゴム分野の用途に当てられている(5.5. “Rubber Tires and Mechanical Goods”)。これらの炭化水素系樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、水素化芳香族或いは脂肪族/芳香族タイプであり得、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、天然または合成系であり得、石油をベースとしていても或いはしていなくてもよい(石油系ある場合、これらの樹脂は、石油樹脂の名称でも知られている)。これら炭化水素系樹脂のTgは、好ましくは0℃よりも高く、特に20℃も高い(一般的には30℃と95℃の間)。
【0045】
また、知られている通り、これらの炭化水素系樹脂は、これらの樹脂が加熱したときに軟化し、従って、成形することができる点で、熱可塑性樹脂としても説明し得る。また、これらの炭化水素系樹脂は、軟化点または温度によっても定義し得る。炭化水素系樹脂の軟化点は、一般に、そのTg値よりも約50〜60℃高い。軟化点は、規格ISO 4625 (環球法)によって測定する。マクロ構造(Mw、MnおよびPI)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する。
【0046】
注釈すれば、上記SEC分析は、例えば、溶液中の高分子を、多孔質ゲルを充填したカラムによってそれら高分子のサイズ(大きさ)に従って分離することからなる;これらの分子は、流体力学的体積に従って分離し、最大分子が最初に溶出する。分析すべきサンプルを、前以って、適切な溶媒のテトラヒドロフラン中に1g/リットルの濃度で単純に溶解する。その後、溶液を、上記装置に注入する前に、0.45μmの有孔度有するフィルターで濾過する。使用する装置は、例えば、下記の条件に従う“Waters Alliance”クロマトグラフ系である:
・溶媒:テトラヒドロフラン;
・温度:35℃;
・濃度:1g/l;
・流量:1ml/分;
・注入容量:100μl;
・ポリスチレン標準によるムーア(Moore)較正;
・直列の3本の“Waters”カラムセット(“Styragel HR4E”、“Styragel HR1”および“Styragel HR0.5”);
・操作用ソフトウェア(例えば、“Waters Millenium”)を備え得る示差屈折計(例えば、“Waters 2410”)による検出。
【0047】
ムーア較正は、低PI (1.2よりも低い)を有し、分析すべき質量範囲をカバーするモル質量有する一連の四半ポリスチレン標準によってジ資する。質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散性指数(PI = Mw/Mn)は、記録したデータ(モル質量の質量分布曲線)から推定する。
本特許出願において示すモル質量の値は、全て、そのようにしてポリスチレン標準によって生じさせた較正曲線と対比する。
【0048】
本発明の好ましい実施態様によれば、上記炭化水素系樹脂は、下記の特徴の少なくともいずれか1つ、さらに好ましくは全てを有する:
・25℃よりも高い(特に30℃と100℃の間の)、より好ましくは30℃よりも高い(特に30℃と95℃の間の)Tg;
・50℃よりも高い(特に50℃と150℃の間の)軟化点;
・400g/モルと2000g/モルの間、好ましくは500g/モルと1500g/モルの間の数平均分子量(Mn);
・3よりも低い、好ましくは2よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn、Mwは質量平均分子量である)。
【0049】
そのような炭化水素系樹脂の例としては、シクロペンタジエン(CPDと略記する)またはジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペン/フェノールのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C5留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C9留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α−メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂の混合物を挙げることができる。上記のコポリマー樹脂のうちでは、さらに詳細には、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、(D)CPD/C5留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C9留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、C5留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂またはこれらの樹脂の混合物を挙げることができる。
【0050】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、α−ピネンモノマー、β−ピネンモノマーおよびリモネンモノマーの一群を包含する。好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形で存在する:L−リモネン(左旋性鏡像体)、D−リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン、即ち、右旋性鏡像体と左旋性鏡像体のラセミ化合物。ビニル芳香族モノマーとして適切なのは、例えば、スチレン;α−メチルスチレン;オルソ−メチルスチレン、メタ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ−(tert−ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ヒドロキシスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンおよびC9留分(または、より一般的にはC8〜C10留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーである。
【0051】
さら具体的には、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/D(CPD)コポリマー樹脂、C5留分/スチレンコポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物を挙げることができる。
【0052】
上記樹脂は、全て当業者にとって周知であって、商業的に入手可能であり、例えば、ポリリモネン樹脂に関しては、DRT社から品名Dercolyteとして;C5留分/スチレン樹脂またはC5留分/C9留分樹脂に関しては、Neville Chemical Company社から品名Super Nevtacとして、Kolon社から品名Hikorezとして、またはExxon Mobil社から品名Escorezとして;Struktol社から品名40 MSまたは40 NS (芳香族および/または脂肪族樹脂の混合物)として販売されている。
【0053】
本発明の実施態様のいずれか1つよれば、上記樹脂は、好ましくは、リモネンホモポリマーまたはコポリマーのようなテルペン樹脂或いはC5留分とC9留分のコポリマーである。
【0054】
上記樹脂は、上記ゴム組成物においては10〜50phrの含有量で使用する。上記ゴム組成物におけるシリカの含有量が50〜70phrの範囲である特定の実施態様によれば、樹脂の上記含有量は、好ましくは、20phr〜40phrの範囲内である。
【0055】
I−4. 液体可塑剤
上記液体可塑剤は、好ましくは−20℃よりも低い、より好ましくは−40℃よりも低いガラス転移温度を有する。
【0056】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の増量剤オイル、或いはジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。室温(23℃)において、これらの可塑剤またはこれらのオイルは、比較的粘稠であり、特に室温において本来固体である可塑化用炭化水素系樹脂とは対照的に、液体(即ち、注釈すれば、最終的にその容器の形に適合する能力を有する物質)である。
【0057】
ナフテン系オイル、パラフィン惠オイル、DAEオイル、MES (中度抽出溶媒和物)オイル、TDAE (処理留出物芳香族抽出物)オイル、RAE (残留芳香族抽出物)オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物)オイル、SRAE (安全残留芳香族抽出物)オイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物混合物は、液体可塑剤として特に適している。
【0058】
I−5. 各種添加剤
また、本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物は、タイヤ用のトレッド、特にタイヤの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的に使用する通常の添加剤、即ち、例えば、チョークのような非補強用充填剤或いはカオリンまたはタルクのような層状充填剤;顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤、酸化防止剤のような保護剤;上述した以外の可塑剤;補強用樹脂(レゾルシノールまたはビスマレイミドのような);例えば、出願WO 02/10269号に記載されているような、メチレン受容体(例えば、フェノール・ノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドのいずれかをベースとする架橋系;加硫促進剤または加硫遅延剤;或いは、加硫活性化剤の全部または数種も含み得る。
【0059】
また、これらの組成物は、カップリング剤を使用する場合のカップリング活性化剤、無機充填剤の被覆用の薬剤、或いは、知られている通り、ゴムマトリックス中での充填剤の分散性の改善および組成物の粘度の低下のために、未硬化状態における組成物の加工能力を改善することのできるより一般的な加工助剤も含有し得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン類;ポリオール類;ポリエーテル類;アミン類;または、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサン類である。
【0060】
I−6. ゴム組成物の製造
本発明のタイヤのトレッドにおいて使用するゴム組成物は、適切なミキサー内で、当業者にとって周知の一般的な手順に従う2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度までの高温で熱機械的に加工または混練する第1段階(“非生産”段階)、および、その後の、典型的には110℃よりも低い、例えば40℃と100℃の間の低めの温度に低めた機械的加工の第2の段階(“生産”段階)を使用して製造し得、この仕上げ段階において、架橋または加硫系、特に本発明に従う産生物の過酸化物を混入する。
【0061】
そのような組成物の製造方法は、例えば、下記の工程を含む:
‐上記エラストマーマトリックス、上記補強用充填剤、上記カップリング剤、上記炭化水素系樹脂および必要に応じての上記液体可塑剤を、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混練する工程(例えば、1回以上の工程で) (“非生産段階);
‐混ぜ合せた混合物を100℃よりも低い温度に冷却する工程;
‐その後、(“生産”)第2工程において、架橋系を混入する工程;
‐全てを110℃よりも低い最高温度まで混練する工程。
【0062】
例えば、上記非生産段階は、1回の熱機械的段階で実施し、その間に、最初の工程において、全てのベース構成成分(上記エラストマーマトリックス、上記炭化水素系樹脂、必要に応じて上記液体可塑剤、上記補強用充填剤および上記カップリング剤)を標準の密閉ミキサーのような適切なミキサー内に導入し、その後、例えば1〜2分間混練した後の第2の工程において、架橋系を除いた他の添加剤、必要に応じてのさらなる充填剤被覆用のさらなる薬剤または必要に応じてのさらなる加工助剤を導入する。この非生産段階における総混練時間は、好ましくは、1分と15分の間である。
【0063】
そのようにして得られた混合物を冷却した後、架橋系を、この場合は、低温(例えば、40℃と100℃の間)に維持したオープンミルのような開放ミキサー内で混入する;その後、混ぜ合せた混合物を、数分間、例えば、2分と15分の間で混合する(生産段階)。
【0064】
本発明の実施態様にかかわりなく、上記架橋系自体は、好ましくは、イオウと、一次加硫促進剤、特に、スルフェンアミドタイプの促進剤とをベースとする。この加硫系に、各種既知の二次促進剤または加硫活性化剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、グアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)等を添加し、上記第1非生産段階中および/または上記生産段階中に混和する。イオウ含有量は、好ましくは、0.5phrと3.0phrの間の量であり、また、一次促進剤の含有量は、好ましくは、0.5phrと5.0phrの間の量である。
【0065】
(一次または二次)促進剤としては、イオウの存在下にジエンエラストマーの加硫促進剤として作用し得る任意の化合物、特に、チアゾールタイプの促進剤およびその誘導体、チウラムおよびジチオカルバミン酸亜鉛タイプの促進剤を使用することができる。これらの促進剤は、さらに好ましくは、2‐メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(“MBTS”と略記する)、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“CBS”と略記する)、N,N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“DCBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“TBBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンイミド(“TBSI”と略記する)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(“ZBEC”と略記する)およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる。好ましくは、スルフェンアミドタイプの一次促進剤を使用する。
【0066】
その後、そのようにして得られた最終組成物を、例えば、カレンダー加工または押出加工して、特に乗用車用のタイヤトレッドを製造するのに使用するゴム形状要素を形成することができる。
【0067】
本発明は、生状態(即ち、硬化前)および硬化状態(即ち、架橋または加硫後)双方の上述したトレッドに関する。
【0068】
また、本発明は、本発明に従うトレッドの製造方法にも関し、当該方法は、下記の工程を含むことを特徴とする:
・上記エラストマーマトリックス、上記補強用充填剤、上記カップリング剤および上記炭化水素系樹脂を、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混練する工程;
・混ぜ合わせた混合物を100℃よりも低い温度に冷却する工程;
・その後、第2工程において、架橋系を混入する工程:
・すべてを110℃よりも低い最高温度まで混練する工程;
そのようにして得られた組成物をカレンダー加工または押出加工する工程。
【0069】
また、本発明は、上記ゴム組成物が、複合体またはハイブリッドタイプのトレッドの1部、特に、異なる配合物の2枚の半径方向に重ね合せた層からなり、双方を、タイヤの寿命中にタイヤが回転するときに道路と接触するようにパターン化し且つ意図する部分(“キャップ・ベース”構造)のみを形成する場合も該当する。上記配合物のベース部分は、その場合、新品タイヤが転がり始めた時点から地面と接触することを意図するトレッドの半径方向外側層を、或いは、他方では、後の段階で地面と接触することを意図するトレッドの半径方向内側層を構成し得る。
【0070】
本発明の上記の特徴、さらにまた、他の特徴は、非限定的な実施例によって示す下記の本発明の典型的な実施態様の説明を読取ることでより一層良好に理解し得るであろう。
【実施例】
【0071】
II. 発明の典型的な実施態様
II. 1−組成物A、B、CおよびDの調製
組成物A、B、CおよびDの配合(phrでの)は、下記の表1に示している。
組成物AおよびCのエラストマーマトリックスは、同一であって、50質量%よりも多くの溶液SBRを含む;この溶液SBRは、シラノール官能基を鎖末端に担持する。組成物BおよびDのエラストマーマトリックスは、同一であって、シラノール官能基を含まない溶液SBRを50sパよりも多く含む。
【0072】
組成物CおよびDは、エラストマーマトリックスを構成するエラストマーの性質によってのみ互いに異なる。組成物Cは、本発明に従い、一方、組成物Dは、エラストマーマトリックスの性質に基づき本発明に従っていない。
【0073】
組成物AおよびBは、エラストマーマトリックスを構成するエラストマーの性質によってのみ互いに異なり、共に、補強用充填剤の含有量、シリカの含有量、樹脂の含有量および液体可塑剤の含有量故に本発明に従っていない。
【0074】
これらの組成物は、以下の方法で製造する:上記エラストマーマトリックス、上記補強用充填剤、上記カップリング、上記炭化水素系樹脂、必要に応じての上記液体可塑剤、さらにまた、加硫系を除いた各種他の添加剤を、初期容器温度がおよそ60℃である密閉ミキサー(最終充填度:およそ70容量%)内に連続して導入する。次いで、熱機械的加工(非生産段階)を、合計5分間継続する1回の工程において、165℃の最高“落下”温度に達するまで実施する。
【0075】
そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、その後、イオウとスルフェンアミドタイプの促進剤とを23℃のミキサー(ホモフィッシャー)において混入し、全てを適切な時間(例えば、5分と12分の間の時間)混合する(生産段階)。
【0076】
その様にして得られた組成物A、B、CおよびDを加硫する;これら組成物の硬化状態の性質は、表1に示している。
【0077】
II. 2−結果
動的特性tan(δ)maxを、規格ASTM D 5992−96に従って粘度アナライザー(Metravib VA4000)において測定する。単純な交互正弦波剪断応力に10Hzの周波数で供した加硫組成物のサンプル(4mmの厚さおよび400mm2の断面を有する円筒状試験標本)の応答。
23℃でのtanデルタmaxを測定するためには、歪み振幅掃引を、23℃において、0%かた50%まで(前向きサイクル(、次いで、50%から0%まで(戻りサイクル)で実施する。戻りサイクルにおいて、観察されたtan(δ)の最大値、即ち、tan(δ)maxを測定する。23℃でのtan(δ)maxの値が低いほど、転がり抵抗性低い;この低い値は、タイヤの良好な転がり抵抗性を指標する。
複素剪断モジュラスG*を測定するには、0.7MPの固定応力下の温度掃引を実施する。
【0078】
引張試験を、1988年のフランス規格 NF T 46−002に従って実施する。公称割線モジュラスを、2回目の伸びにおいて(即ち、順応後に)測定し、試験標本の初期断面に対比して算出する(即ち、100%の伸びにおけるMPaでの見掛け応力、ASM100で示す)。
これらの引張り測定は、全て、フランス規格 NF 40−101 (1979年12月)に従い、温度(23±2℃)及び湿度測定(50±5%相対湿度)の標準条件下に実施する。
【0079】
全ての値は、所定の対照に関しての基本点100に対比して示す。100よりも高い値が対象の値よりも高い値を示す。本発明に従う組成物Cは、本発明に従わない対照としての組成物Dを有する。本発明に従わない組成物Bは、本発明に従わない対照としての組成物Aを有する。
【0080】
シラノール官能基を担持する溶液SBRを含む組成物BおよびDにおける23℃でのtan(δ)max値は、それぞれ、予期通りに、組成物AおよびCよりも低い。
【0081】
予期に反して、ASM100値は組成物Cにおけるよりも組成物Dにおいて16%低いことが観察されており、このことは、ゴム組成物Dが組成物Cよりもより軟質であり、従って、より変形性であり、組成物Dは、このタイプの組成物をタイヤトレッドとして使用するとき、タイヤが走行する地面とのより良好な接触によってタイヤのグリップ性能にとってより好ましいことを意味している;この結果は、G*値が低下することなく得られており、タイヤの道路操作性の保全を示唆している。上記ゴム組成物のヒステリシス特性と変形性間のこの妥協点の改良は、組成物Bと比較した組成物Aの場合には観察されていない。トレッドが組成物Dからなるタイヤは、転がり抵抗性とグリップ性の間で改良された妥協点を有する。
【0082】
表1
(1) SBR1:27%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2−単位を含むSBR (Tg = −48℃);
(2) 27%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2−単位を含むSBR (Tg = −48℃)であって、シラノール基をエラストマー鎖末端において担持するSBA;
(3) ASTM級 N234 (Cabot社);
(4) シリカ:Rhodia社からのZeosil 1165 MP (HDSタイプ);
(5) C5留分/C9留分樹脂:Exxon社からのECR−373;
(6) Novance社からの85質量%のオレイン酸を含むヒマワリ油、Lubrirob Tod 1880;
(7) Flexsys社からのN−(1,3−ジメチルブチル)−N'−フェニル−p−フェニレンジアミン;
(8) TESPT (Degussa社からのSi69);
(9) N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からのSantocure CBS);
(10) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からのPerkacit DPG)。