特許第6643277号(P6643277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643277エラストマー組成物および該組成物を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643277
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】エラストマー組成物および該組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20200130BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20200130BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L101/12
   C08K3/24
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-102720(P2017-102720)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-222848(P2017-222848A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2017年9月20日
(31)【優先権主張番号】10 2016 109 620.2
(32)【優先日】2016年5月25日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ−インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz−Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】タミル セルヴァン ナタラジャン
(72)【発明者】
【氏名】アミット ダス
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヴェアナー シュテッケルフーバー
(72)【発明者】
【氏名】ハイ レ ホン
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ユアク
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン ヴィースナー
(72)【発明者】
【氏名】ゲアト ハインリヒ
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−151534(JP,A)
【文献】 特開2009−057476(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0274397(US,A1)
【文献】 特開2006−064957(JP,A)
【文献】 特開2013−166815(JP,A)
【文献】 特開昭60−035074(JP,A)
【文献】 特表2008−508954(JP,A)
【文献】 特表2014−508202(JP,A)
【文献】 特開昭61−211389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー組成物であって、加硫天然ゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化NBR(XNBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドロリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ素ゴム(FKM)およびシリコーンゴム(VMQ)からなる群から選択される少なくとも1種のベースエラストマー、ポリエチレンオキシド−co−アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−アルキレンオキシドコポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸−co−アクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル、ポリカプロラクトン−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリスチレン−エチレンオキシド−ブロックコポリマー、ポリエピクロロヒドリン−co−エチレンオキシド、ポリエチレン−co−プロピレンオキシド、ポリエーテル−ポリオール、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド−トリブロックコポリマー、ポリホスファゼン−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリアセチド−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−block−ポリアミノ酸、プロピレングリコール−エチレングリコール重縮合物、ポリエチレンオキシド−co−プロピレンオキシド−co−ブチレンオキシド、熱可塑性のポリマー樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート樹脂、メラミン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアスパラギン酸樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エボナイト樹脂、シアンアクリレート樹脂およびビニルエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマー、および硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸カルシウム二水和物(Ca[SO]・2HO)、硫酸カルシウム半水和物(Ca[SO]・O)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)およびリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)からなる群から選択される少なくとも1種の無機塩を少なくとも含み、ここで、助剤が存在してよく、前記エラストマー組成物は、前記少なくとも1種のベースエラストマー、前記少なくとも1種の親水性ポリマーおよび前記少なくとも1種の無機塩を混合して混合物を製造し、その後に前記混合物を加硫してエラストマー組成物を製造し、引き続き該エラストマー組成物を完全に水と接触させ、その後に該水を該エラストマー組成物から少なくとも部分的に除去することによって製造されたものである、前記エラストマー組成物。
【請求項2】
前記親水性ポリマーが30〜60phrで存在する、請求項記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記無機塩が30〜50phrで存在する、請求項1または2記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記助剤として、架橋剤、相溶化剤、活性化剤、促進剤、遅延剤、酸化防止剤、可塑剤および/またはオゾン劣化防止剤が存在する、請求項1からまでのいずれか1項記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記架橋剤として、硫黄、過酸化物および/またはアミンが0.5〜6phrで存在する、請求項記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記相溶化剤として、ポリグリコール、メタクリレートおよび/またはジアルキルジエーテルグルタレートが10〜30phrで存在する、請求項記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
官能基を有するか、もしくは有していない不飽和化合物、および/または官能基を有する飽和化合物の更なる架橋部位が存在する、請求項1からまでのいずれか1項記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
前記官能基が、カルボキシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基である、請求項記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
エラストマー組成物を製造する方法であって、加硫天然ゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化NBR(XNBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドロリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ素ゴム(FKM)およびシリコーンゴム(VMQ)からなる群から選択される少なくとも1種のベースエラストマー、ポリエチレンオキシド−co−アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−アルキレンオキシドコポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸−co−アクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル、ポリカプロラクトン−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリスチレン−エチレンオキシド−ブロックコポリマー、ポリエピクロロヒドリン−co−エチレンオキシド、ポリエチレン−co−プロピレンオキシド、ポリエーテル−ポリオール、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド−トリブロックコポリマー、ポリホスファゼン−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリアセチド−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−block−ポリアミノ酸、プロピレングリコール−エチレングリコール重縮合物、ポリエチレンオキシド−co−プロピレンオキシド−co−ブチレンオキシド、熱可塑性のポリマー樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート樹脂、メラミン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアスパラギン酸樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エボナイト樹脂、シアンアクリレート樹脂およびビニルエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマー、および硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸カルシウム二水和物(Ca[SO]・2HO)、硫酸カルシウム半水和物(Ca[SO]・O)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)およびリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)からなる群から選択される少なくとも1種の無機塩を混合して混合物を製造し、その後に前記混合物を加硫してエラストマー組成物を製造し、引き続き該エラストマー組成物を完全に水と接触させ、その後に該水を該エラストマー組成物から少なくとも部分的に除去する、前記方法。
【請求項10】
加硫前に助剤を加える、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記ゴム、前記親水性ポリマーおよび前記無機塩を均一に混合し、引き続き140℃〜180℃の温度で6〜20分間加硫する、請求項または10記載の方法。
【請求項12】
前記エラストマー組成物を水と2〜6時間接触させる、請求項から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記エラストマー組成物を脱イオン水または蒸留水と接触させる、請求項から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記エラストマー組成物から50〜60℃で3〜4時間かけてまたは室温で24〜48時間かけて、吸収された前記水を除去する、請求項から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
吸収された前記水の除去後に、前記エラストマー組成物を160℃〜220℃で熱処理に供する、請求項から14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー化学の分野に関連し、かつエラストマー組成物および該組成物を製造する方法に関する。本発明によるエラストマー組成物は、例えば、乗り物および機械において、パッキン、鳩目、ディスク、カップリングまたはダイアフラムとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
エラストマー組成物からなる材料および構成部材は、多くの適用分野において必要とされており、かつ多種多様な特性を有している。エラストマー材料中での充填剤の使用によって、該材料の物理的特性を変化させ、最適化し、かつ実際の使用に適合させることができる。
【0003】
充填剤として最も頻繁に用いられるのが、カーボンブラックまたは微細に分散したシリカ(SiO)である。エラストマー分子と充填剤粒子との間で二次結合が形成されることによって、エラストマー材料の機械的特性に影響が及ぼされる。それによって、例えば、エラストマー材料の強度、弾性係数あるいは耐摩耗性も本質的に改善され、それによって、改善された摩耗強度あるいはまた高められた引裂伝播抵抗が達成される。
【0004】
同様に知られているのが、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび他のナノ材料を充填剤として用いることであり、これらは、低い粒径に基づきエラストマー材料中に良好に分散し得る。
【0005】
米国特許第5328949号明細書(US5328949A)からは、定量的にケイ酸で強化されているゴム組成物が知られている。ここで、該ゴム組成物は、ケイ酸と特定の結合剤との組合せ物により強化されているゴムを含む。
【0006】
国際公開第2003016387号(WO2003016387A1)から知られているのは、少なくとも1種のジエンエラストマーから製造されており、かつ無機強化性充填剤および結合剤を有するジエンゴム組成物である。無機充填剤は、少なくともシリカを含み、かつ45〜400m/gのBET比表面積、40〜380m/gのCTAB比表面積および20〜300nmの平均粒度を有する。
【0007】
米国特許第7217751号(US7217751A)からは、1種以上のジエンエラストマーと、酸化アルミニウムが強化性充填剤として使用される結合剤とを基礎とし、かつ30〜400m/gの範囲のBET表面積、超音波−脱凝集後の500nm以下の平均粒度、および表面反応性のAl−OH官能基の高い割合を高い分散性とともに有するゴム組成物が知られている。
【0008】
さらに、米国特許出願公開第20110086942号明細書(US20110086942A1)から知られているのは、ゴムを現場で強化する反応性充填剤を使用したゴムである。このエラストマー組成物は、穴で使用することが目的とされており、かつベースポリマーと、該ベースポリマー中に配置されている第一の材料の目立たない部分のマトリックスを含めた強化性反応性充填剤とを含み、ここで、該強化性充填剤は、セメント粉末またはエポキシドであってよい。
【0009】
公知の解決手段における欠点は、エラストマー組成物が、依然として非常に低い引張強度および硬度を有し、かつ公知の製造方法がコスト集約的であり、かつ煩雑であるという点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5328949号明細書
【特許文献2】国際公開第2003016387号
【特許文献3】米国特許第7217751号
【特許文献4】米国特許出願公開第20110086942号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、高い引張強度および高い硬度を有するエラストマー組成物を提供すること、ならびに低コストであり、かつ容易に実現可能である製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、以下に記載される本発明によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項の対象であり、ここで、本発明は、AND連結に従った個々の従属請求項の組合せも、それらが互いに排除しあわない限り一緒に含める。
【0013】
本発明によるエラストマー組成物は、少なくとも1種のベースエラストマー、少なくとも1種の親水性ポリマーおよび少なくとも1種の無機塩を含み、ここで、助剤が存在してよい。
【0014】
本発明による組成物では、ベースエラストマーが、加硫天然ゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化NBR(XNBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドロリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ素ゴム(FKM)および/またはシリコーンゴム(VMQ)である場合に有利である。
【0015】
同様に有利なのは、親水性ポリマーが、アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−co−アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−アルキレンオキシドコポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸−co−アクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル、ポリカプロラクトン−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリスチレン−エチレンオキシド−ブロックコポリマー、ポリエピクロロヒドリン−co−エチレンオキシド、ポリエチレン−co−プロピレンオキシド、ポリエーテル−ポリオール、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド−トリブロックコポリマー、ポリホスファゼン−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリアセチド−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−block−ポリアミノ酸、プロピレングリコール−エチレングリコール重縮合物、ポリエチレンオキシド−co−プロピレンオキシド−co−ブチレンオキシドおよび/または樹脂である場合である。
【0016】
樹脂は、有利には、熱可塑性のポリマー樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート樹脂、メラミン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアスパラギン酸樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エボナイト樹脂、シアンアクリレート樹脂および/またはビニルエステル樹脂であってよい。
【0017】
有利には、本エラストマー組成物では、親水性ポリマーは、30〜60phrで存在する。
【0018】
同様に有利なのは、無機塩が、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸カルシウム二水和物(Ca[SO]・2HO)、硫酸カルシウム半水和物(Ca[SO]・O)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)および/またはリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)であり、かつ30〜50phrで存在する場合である。
【0019】
有利には、助剤として、架橋剤、相溶化剤、活性化剤、促進剤、遅延剤、酸化防止剤、可塑剤および/またはオゾン劣化防止剤が存在する。
【0020】
架橋剤として、有利には、硫黄、過酸化物および/またはアミンが0.5〜6phrで存在する。
【0021】
相溶化剤として、有利には、ポリグリコール、メタクリレートおよび/またはジアルキルジエーテルグルタレートが10〜30phrで存在する。
【0022】
とりわけ有利なのは、官能基を有するもしくは有さない不飽和化合物および/または官能基を有する飽和化合物の更なる架橋部位が存在する場合である。ここで、有利には、官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基である。
【0023】
エラストマー組成物を製造するための本発明による方法により、少なくとも1種のゴム、少なくとも1種の親水性ポリマーおよび少なくとも1種の無機塩を混合し、その後に加硫し、引き続きエラストマー組成物を少なくとも部分的に水と接触させ、その後に水をエラストマー組成物から少なくとも部分的に除去する。
【0024】
有利には、本発明による方法では、ゴムとして、天然ゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化NBR(XNBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドロリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ素ゴムおよび/またはシリコーンゴムが用いられる。
【0025】
同様に有利なのは、親水性ポリマーとして、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸−co−アクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル(GEPO)および/または樹脂が用いられる。
【0026】
それ以外に、無機塩として、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸カルシウム二水和物(Ca[SO]・2HO)、硫酸カルシウム半水和物(Ca[SO]・O)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)および/またはリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)が用いられる場合に有利である。
【0027】
助剤を加硫前に加える場合も有利である。
【0028】
ゴム、親水性ポリマーおよび無機塩を均一に混合し、続けて140℃〜180℃の温度で6〜20分間加硫する場合も有利である。
【0029】
とりわけ有利なのは、エラストマー組成物を完全に水と接触させる場合である。
【0030】
同様に有利には、エラストマー組成物を、水と2〜6時間接触させ、ここで、とりわけ有利には、エラストマー組成物を、脱イオン水または蒸留水と接触させる。
【0031】
有利には、吸収された水を、エラストマー組成物から50〜60℃で3〜4時間または室温で24〜48時間かけて除去する。
【0032】
とりわけ有利なのは、吸収された水の除去後に、エラストマー組成物を、160℃〜220℃での熱処理に供する場合である。
【0033】
本発明による解決手段により初めて、高い引張強度および高い硬度を有するエラストマー組成物を提供することが可能である。そのほかに、本発明による解決手段により、エラストマー組成物の特性を所望の適用分野に適切に調節することが可能である。
【0034】
これは、少なくとも1種のベースエラストマー、少なくとも1種の親水性ポリマーおよび少なくとも1種の無機塩を含むエラストマー組成物によって達成される。
【0035】
ベースエラストマーの製造のために、本発明によれば、天然ゴムまたは合成ゴム、例えばアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル化NBR(XNBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドロリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマーゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリウレタンゴム(PU)、フッ素ゴム(FKM)もしくはシリコーンゴム(VMQ)などを用いてよい。ベースエラストマーは、ゴムの加硫後に存在する。ここで、ベースエラストマーは、単に1種のゴムからまたは2種以上のゴムのブレンド物から製造されていてよい。
【0036】
とりわけ有利なのは、極性ゴム、例えば、エピクロロヒドリン・エチレンオキシドゴム(GECO)、アクリルゴム(ACM)、カルボキシル化NBR(XNBR)および/またはポリウレタンゴム(PU)などが用いられる場合である。これらのゴムは、それらの極性に基づき、親水性ポリマーおよび無機塩とより良好な相溶性を示す。
【0037】
さらに、エラストマー組成物は、少なくとも1種の親水性ポリマーを含む。好ましくは、親水性ポリマーとして、アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−co−アルキレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−アルキレンオキシドコポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸−co−アクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−アリルグリシジルエーテル、ポリカプロラクトン−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリスチレン−エチレンオキシド−ブロックコポリマー、ポリエピクロロヒドリン−co−エチレンオキシド、ポリエチレン−co−プロピレンオキシド、ポリエーテル−ポリオール、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド−トリブロックコポリマー、ポリホスファゼン−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリアセチド−block−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリエチレンオキシド−block−ポリアミノ酸、プロピレングリコール−エチレングリコール重縮合物、ポリエチレンオキシド−co−プロピレンオキシド−co−ブチレンオキシドおよび/または樹脂が存在する。
【0038】
樹脂として、好ましくは、熱可塑性のポリマー樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート樹脂、メラミン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアスパラギン酸樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エボナイト樹脂、シアンアクリレート樹脂および/またはビニルエステル樹脂が存在する。
【0039】
1種、2種または3種以上の親水性ポリマーがエラストマー組成物中に存在してもよい。有利には、30〜60phrの親水性ポリマーが存在する。
【0040】
本発明による解決手段によって、エラストマー組成物は、親水性ポリマーを介して水を吸収することが可能である。吸水率W(%単位)は、式
=[(M−M)/M]・100
によって算出されることができ、ここで、Mは、吸水前のエラストマー組成物の質量であり、かつMsは、吸水後のエラストマー組成物の質量である。
【0041】
吸水率は、本発明によれば、とりわけ重要である。なぜなら、それによって、特に、エラストマー組成物中に存在する無機塩の強化性作用が影響を及ぼされるからである。無機塩は、例えば、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸カルシウム二水和物(Ca[SO]・2HO)、硫酸カルシウム半水和物(Ca[SO]・O)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)および/またはリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)である。
【0042】
無機塩は、親水性ポリマーを介して吸収された水と反応することができ、水との反応中に無機塩の水和および結晶化が達成される。無機塩の水和およびその後の結晶化のプロセスは、調節(Einstellen)という。ここで、水和のプロセスは、溶存イオンへの水分子の付加を意味する(Wikipedia、見出し語「Hydratation(水和)」)。ここで、無機塩の水和中にイオンが形成され、該イオンは引き続き、水の除去中に、つまり、エラストマー組成物の乾燥中に、結晶化において水和物を形成する。無機塩のこれらの水和物は、水処理前の無機塩の非結晶性結晶よりも高い圧縮強度を示す。無機塩の調節によって、とりわけ頑丈で硬い結晶格子が得られ、それによって、エラストマー組成物の特に良好な強化が達成される。
【0043】
調節中、無機塩は、結晶構造の形態変化を示す。例えば、無機塩の結晶は、水和および結晶化前は、小板構造で存在する。無機塩の調節後、結晶は、柱状および針状の形態で存在する。無機塩は、調節後にナノ結晶子の形態で存在し、それによって、無機塩は、ベースエラストマーおよび親水性ポリマーとのとりわけ良好な分散が達成される。
【0044】
エラストマー組成物全体の均等な強化を達成するために、無機塩および親水性ポリマーがエラストマー組成物中で均一に分散して存在することが重要である。それによって、無機塩が、親水性ポリマーを介して吸収された水と可能な限り完全に接触することも達成される。無機塩のほかに、更なる助剤および充填剤も存在してよい。
【0045】
エラストマー組成物は、助剤として、例えば、架橋剤、硫黄、過酸化物および/またはアミンを含み、ここで、架橋剤は、0.5〜6phrで存在する。
【0046】
他の助剤は、例えば、相溶化剤、活性化剤、促進剤、遅延剤、酸化防止剤、可塑剤、更なる充填剤および/またはオゾン劣化防止剤であってよい。
【0047】
相溶化剤は、なかでも、相容性が限られたものでしかない2種以上の親水性ポリマーが用いられる場合に存在する。ここで、相溶化剤は、選択されたベースエラストマーの極性の度合いと、選択された親水性ポリマーに対する選択されたベースエラストマーの比とに依存する。そのため、相溶化剤がないと、この系で相分離が生じる可能性があり、かつエラストマー組成物の特性に本質的な影響が及ぶ可能性がある。
【0048】
少なくとも1種の相溶化剤の添加により、これらの欠点が取り除かれ、ここで、相溶化剤は、極性および非極性の分子団を有してよい。好ましくは、相溶化剤は、ポリグリコール、メタクリレートおよび/またはジアルキルジエーテルグルタレートであり、かつ10〜30phrで存在する。
【0049】
促進剤および/または遅延剤によって、無機塩の調節の速度に影響を及ぼすことができる。有利には、促進剤として無機酸または強塩基もしくは弱塩基、例えばKSOまたはCa(OH)などが存在する。遅延剤として、有利には、弱有機酸およびそれらの塩、例えばクエン酸、リンゴ酸もしくはアジピン酸、または強塩基などが存在する。
【0050】
それ以外に、エラストマー組成物は、追加的に酸化防止剤および/または可塑剤を有してよい。
【0051】
酸化防止剤として、有利には、アミノ系、ヒドロキノン系またはフェノール系である化合物が存在する。好ましくは、ここで、酸化防止剤は、1〜5phrでエラストマー組成物中に存在する。
【0052】
可塑剤として、有利には、芳香族油、パラフィン油および/またはナフタレン含有油が存在する。この種の助剤は、例えば、製造プロセスを補助し、かつ有利には1〜5phrで存在する。
【0053】
それ以外に、エラストマー組成物中でポリマー鎖に更なる架橋部位が存在する場合に有利である。これらの架橋部位は、官能基を有するもしくは有さない不飽和化合物および/または官能基を有する飽和化合物であってよい。官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基であってよい。それによって、少なくとも1種のベースエラストマーと少なくとも1種の親水性ポリマーとの間での架橋がさらに改善され、かつエラストマー組成物は、水の吸収後にさらに安定化される。
【0054】
本発明による方法により初めて、高い引張強度および高い硬度を有するエラストマー組成物が、低コストで、かつ簡単な方法で製造される。
【0055】
これは、少なくとも1種のゴム、少なくとも1種の親水性ポリマーおよび少なくとも1種の無機塩を混合し、その後に加硫し、引き続きエラストマー組成物を少なくとも部分的に水と接触させ、その後に水をエラストマー組成物から少なくとも部分的に除去することにより達成される。
【0056】
本発明の範囲内では、ゴムとは、非加硫エラストマーポリマーを意味し、かつエラストマーとは、ゴムから加硫されたすべてのエラストマーポリマーを意味する。
【0057】
第一の方法工程では、少なくとも1種のゴム、少なくとも1種の親水性ポリマーおよび少なくとも1種の無機塩が混合される。ここで、混合プロセスは、親水性ポリマーと無機塩が可能な限り均一にゴム中に分散して存在するまで実施されるべきである。混合プロセス中、助剤が添加され、かつ混入され、そうして、これらも同様に均一にエラストマー組成物中に分散して存在することになる。
【0058】
混合およびその後の加硫後に、エラストマー組成物は、少なくとも部分的に水と接触させられる。水との接触は、例えば、エラストマー組成物を部分的にまたは完全に水に浸すことによって行われる。
【0059】
吸水率は、なかでも、用いられる親水性ポリマーと水との接触の時間および種類とに依存する。そのため、エラストマー組成物を部分的にのみ水と接触させることが可能である。それによって、エラストマー組成物が部分的にいくつかの空間領域でのみ水を吸収することが達成される。
【0060】
あるいは、エラストマー組成物を、完全に水と接触させることもできる。この場合、とりわけ重要なのは、親水性ポリマーが均一にエラストマー組成物中に分散して存在することである。それによって、無機塩が、吸収された水と完全に接触し得ることが達成される。
【0061】
有利には、エラストマー組成物と水との接触によって、エラストマー組成物の質量に基づき、少なくとも20%および最大125%の脱イオン水または蒸留水が親水性ポリマーによって吸収される。さらに有利には、エラストマー組成物の質量に基づき、100%の水が親水性ポリマーによって吸収される。
【0062】
接触後、水は、エラストマー組成物から除去される。これは、乾燥によって行われ、該乾燥は、可能な限り完全なものである。完全な乾燥とは、本発明の範囲内では、吸水率Wが乾燥後に<5%となることを意味する。
【0063】
乾燥の時間は、なかでも、達成される吸水率と、乾燥中に存在する周囲温度とに依存する。有利には、乾燥は、室温(22℃)で24〜48時間行ってよい。あるいは、乾燥は、50℃〜60℃で3〜4時間行うことも可能である。
【0064】
本発明による方法の更なる利点は、無機塩の調節のプロセスが可逆的であり、それと関連したエラストマー組成物の強化を減少させることができることである。これは、無機塩の調節後の強化されたエラストマー組成物を、120℃から220℃までの間の追加的な熱処理に供することによって達成される。ここで、予め調節によって行われた無機塩の形態変化が再び復元され、かつ無機塩の元の非結晶性状態に回復させられる。これにより、機械的に順応性があるエラストマー組成物を提供することが可能であり、これらの特性を、変化する適用領域に任意に何度も適合させることができる。
【実施例】
【0065】
以下では、本発明を2つの実施例に基づき詳細に説明する。
【0066】
実施例1
ゴム、親水性ポリマーおよび無機塩を、表1に従って、2本ロールミキサーにおいて、60℃で15分間混合することによりエラストマー組成物を製造した。
【0067】
【表1】
【0068】
引き続き、活性化剤、促進剤および架橋剤を混合物に加え、この混合物を引き続き加圧成形において160℃で10分間加硫し、その後に60分間かけて室温(22℃)に冷却した。引き続き、このようにして製造したサンプルを蒸留水に完全に浸し、そして2時間後に再び蒸留水から取り出す。引き続き、水処理したエラストマー組成物を、室温で48時間かけて乾燥する。
【0069】
非充填組成物ならびにCaSO充填および水処理したCaSO充填エラストマー組成物の引き続き実施した機械的分析の結果を、表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
これらの結果は、無機塩で強化されたエラストマー組成物が、水処理後に明確に改善された機械的特性、特に改善された引張強度および硬度を有していることを示している。
【0072】
XRD(X線回折)試験により、非結晶性のCaSO結晶がエラストマー組成物の水処理によって結晶性のCaSO結晶に変わることが証明された。透過型電子顕微鏡により、水処理後のナノスケールのかつ高度に形成された塩結晶が形成されていることが示された。CaSO結晶の板状の形態は、ナノロッドおよびナノニードルに変わった。
【0073】
実施例2
実施例1に従って水処理により強化されたエラストマー組成物を、200℃の温度で60分間熱処理に供し、引き続き室温(22℃)で3時間冷却する。引き続き、エラストマー組成物の動的機械分析および強度試験を実施する。試験の結果は表3に記載されており、これらの結果は、強化されたエラストマー組成物の水処理に基づき、無機塩の当初の形態に復元していることを示す。
【0074】
【表3】