特許第6643298号(P6643298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643298
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】固定化された生物学的成分の改良
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/10 20060101AFI20200130BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   A61L33/10 100
   A61L27/18
   A61L27/20
   A61L27/34
   A61L27/40
   A61L27/50 300
   A61L27/54
   A61L29/06
   A61L29/08 100
   A61L29/16
   A61L29/12
   A61L31/06
   A61L31/10
   A61L31/04 120
   A61L31/12
   A61L31/16
【請求項の数】9
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2017-225620(P2017-225620)
(22)【出願日】2017年11月24日
(62)【分割の表示】特願2013-557128(P2013-557128)の分割
【原出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-64953(P2018-64953A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2017年12月8日
(31)【優先権主張番号】61/451,732
(32)【優先日】2011年3月11日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】カーリン レオンテイン
(72)【発明者】
【氏名】ペル アントーニ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ニストロム
(72)【発明者】
【氏名】ポール ベゴバック
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ピエトルザック
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/029189(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/041827(WO,A1)
【文献】 特開昭58−147404(JP,A)
【文献】 特表2003−512490(JP,A)
【文献】 Analytical Chemistry,2007年,Vol.79,No.4,p1661−1667
【文献】 European Polymer Journal,2003年,Vol.39,No.9,p1741−1771
【文献】 Biomaterials,2009年,Vol.30,No.29,p5341−5351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層コーティングを含む表面を有する非血栓形成性デバイスであって、前記積層コーティングが、外側コーティング層と下層からなると共に、前記下層が、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーのコーティング二重層を一又は二以上含み、ここで最内層がカチオン性ポリマーの層であり、
前記外側コーティング層が複数のカチオン性超分岐ポリマーの分子を含むと共に、前記外側コーティング層のカチオン性超分岐ポリマーの各分子が、
(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有し、
(ii)総分子量が25,500〜200,000Daであり、
(iii)コア部分の分子量に対する総分子量の比が少なくとも100:1であり、
(iv)複数の官能性末端基を有するPAMAMデンドリマーであるとともに、官能性末端基の一又は二以上に抗凝固成分が結合してなり、こで前記抗凝固成分がヘパリン成分であり、ここで前記ヘパリン成分が前記超分岐ポリマー分子に対して一点で、前記ヘパリン成分の還元末端を介して結合してなり、
前記下層のうち一又は二以上の層が、複数のカチオン性超分岐ポリマーの分子を含むと共に、前記下層のカチオン性超分岐ポリマー分子が、
(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有し、
(ii)総分子量が25,500〜200,000Daであり、
(iii)コア部分の分子量に対する総分子量の比が少なくとも100:1であり、
(iv)任意により誘導体化されていてもよい複数の官能性末端基を有するPAMAMデンドリマーである
ことを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記ヘパリン成分が、全長パリン成分又は亜硝酸分解ヘパリン成分である、請求項1に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項3】
前記外側コーティング層及び/又は前記下層において、前記カチオン性超分岐ポリマーの一又は二以上の分子が架橋されることにより、集体を形成してなる、請求項1又は2に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項4】
アニオン性ポリマーが、アニオン性多糖類である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項5】
アニオン性ポリマーが、正味の負電荷を有するように官能化されたチオン性超分岐ポリマーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項6】
医療デバイスである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項7】
前記積層コーティングが、抗凝固成分の他に一又は二以上の有用物質を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項8】
前記一又は二以上の有用物質が、薬物分子及び潤滑剤から選択される、請求項7に記載の非血栓形成性デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の非血栓形成性デバイスを製造する方法であって、前記外側コーティング層を形成する工程が、
(i)前記カチオン性超分岐ポリマー分子の複数の官能性末端基を抗凝固成分と反応させ、前記カチオン性超分岐ポリマーの各分子に前記複数の抗凝固成分を結合させる工程、及び、
(ii)前記カチオン性超分岐ポリマー分子をデバイスの表面に結合させる工程
を、任意の順序で含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化された生物学的成分(biological entities)、このような成分を含む表面コーティングを有するデバイス、並びに、それらの製造のための方法及び中間体に関する。特に、本発明は、固定化された抗凝固物質(例えば、ヘパリン)、並びに、デバイス、例えば、固定化ヘパリンを含む表面コーティングを有する医療デバイス、分析デバイス及び分離デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスが体内に設置されるか又は体液と接触する場合、多くの異なる反応が動き始め、その一部によって、デバイス表面と接触している血液の凝固が引き起こされる。この深刻な有害作用に対抗するために、医療デバイスが患者の体内に設置される前に、又は医療デバイスが患者の体液と接触する時に、抗凝固作用を提供するために、古くから周知の抗凝固化合物であるヘパリンが、患者に全身投与されている。
【0003】
トロンビンは、ともに作用して血液と接触した表面上で血栓の形成を引き起こす数種の凝固因子のうちの1つである。アンチトロンビン(アンチトロンビンIIIとしても知られている)(「AT」又は「ATIII」)は、最も有名な凝固インヒビターである。これは、トロンビンや他の凝固因子の作用を中和し、血液凝固を限定又は制限する。ヘパリンは、アンチトロンビンが凝固因子を阻害する速度を劇的に上昇させる。
【0004】
しかしながら、高用量のヘパリンによる全身処置は、しばしば、出血が主体となる深刻な副作用を伴う。まれであるが深刻な、ヘパリン療法の別の合併症は、血栓症(静脈性と動脈性の両方)を引き起こす可能性のある、ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)と呼ばれる免疫応答の発生である。また、高用量の全身性ヘパリン療法(例えば、手術中)は、活性化凝固時間(ヘパリン療法をモニター及びコントロールするために使用される)の頻繁なモニタリングを必要とし、対応する用量調整が必要である。
【0005】
したがって、患者の全身性ヘパリン処置が不要になるか、又はこれを制限することができる解決策が求められている。これは、ヘパリンの抗凝固性を利用する医療デバイスの表面修飾により達成できると考えられた。すなわち、医療デバイスの表面にヘパリン層を結合させ、これにより医療デバイスの表面を非血栓性にするために、概ね成功を収めている数多くの技術が開発されている。長期の生物活性が必要なデバイスについては、ヘパリン層が浸出及び分解に対して抵抗性であることが望ましい。
【0006】
ヘパリンは、負電荷の硫酸基及びカルボン酸基を糖単位上に有する多糖である。ポリカチオン性表面へのヘパリンのイオン結合が試みられているが、これらの表面修飾は、ヘパリンが表面から浸出するため、経時的安定性を欠き、非血栓性機能の喪失を招く傾向があった。
その後に開発された異なる表面修飾法では、ヘパリンが表面上の基に共有結合されている。
【0007】
医療デバイスを非血栓形成性にするための最も成功している方法の1つは、デバイスの修飾表面へのヘパリンフラグメントの共有結合である。その一般的方法及び改良法は、欧州特許第0086186号、第0086187号及び第0495820号、並びに、米国特許第6,461,665号に記載されている。
【0008】
これらの特許には、末端アルデヒド基を生成させるヘパリン多糖鎖の選択的切断(その際、例えば、亜硝酸分解を使用する)を最初に行う、表面修飾基体の調製が記載されている。次いで、第1級アミノ基を有する1又は2以上の表面修飾層を医療デバイスの表面に導入し、次いで、多糖鎖上のアルデヒド基を表面修飾層上のアミノ基と反応させ、次いで、中間体であるシッフ塩基を還元して安定な第2級アミノ結合を生成させる。
【0009】
表面を修飾するための他の方法も公知である。例えば、US2005/0059068号は、マイロアッセイにおいて使用される基体に関する。活性化されたポリアミンデンドリマーが、シラン含有残基を介して基体の表面に共有結合される。デンドリマーは、第3級アミンである分岐点と、NH2、OH、COOH又はSH基である末端基とを有する。OH又はNH2官能基を含有する分子は、デンドリマーの末端残基を介してデンドリマーに結合させることができる。基体は、マイクロアッセイ用であるので、通常、スライド、ビーズ、ウェルプレート、膜などであり、OH又はNH2基を含有する残基は、核酸、タンパク質又はペプチドである。
【0010】
WO03/057270号には、高い表面親水性を有する滑らかなコーティングを有する、コンタクトレンズ等のデバイスが記載されている。グリコサミノグリカン類(例えば、ヘパリン又はコンドロイチン硫酸)及びPAMAMデンドリマーを含むコーティング材料に関する数多くの具体例が記載されている。PAMAMデンドリマーは、好適なコーティングの1つであると言われている。この文献には、PAMAMデンドリマー及びポリアクリルアミド−コ−ポリアクリル酸コポリマー(PAAm−co−PAA)の多層を有するコンタクトレンズが例示されている。このコーティングは、2つのコーティング材料の溶液中にコンタクトレンズを連続して浸すことにより形成され、その外層はPAAm−co−PAAである。
【0011】
US2003/0135195号には、コロイド性脂肪族ポリウレタンポリマー、ポリ(1−ビニルピロリドン−コ−2−ジメチルアミノエチルメタクリレート)−PVPの水性希釈液、及びデンドリマーの混合物から生成される極めて滑らかな親水性コーティングを有するカテーテル等の医療デバイスが教示されている。この文献には、デンドリマー、水、N−メチル−2−ピロリドン、及びトリエチルアミンの混合液を溶媒とする、ポリ(1−ビニルピロリドン−コ−2−ジメチルアミノエチルメタクリレート)−PVP及び活性物質(例えばヘパリン)の溶液に、脂肪族ポリウレタンポリマーを分散させたコロイド分散液中に、デバイスを浸漬することにより、コーティングをデバイスに適用できることが教示されている。この文献には、ヘパリンがデンドリマー内の空隙中に含有されてもよいことが教示されている。また、この文献には、充填されたヘパリンが、あらかじめ決められた速度で親水性ポリマーマトリックスから溶出することも教示されている。
【0012】
US2009/0274747号には、ぬれ角が≦80°である親水性表面を有するステント等のインプラントが教示されている。この表面に永続的に結合された1、2又はそれ以上の抗凝固物質が存在してもよく、抗凝固剤の具体例としては、ヘパリン、ある種のデンドリマー、特に硫酸化デンドリマーが挙げられる。表面は、抗凝固剤を結合させるために官能化されてもよく、官能化の具体例は、シラン化、及び1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)との反応である。
【0013】
US4,944,767号は、多量のヘパリンを吸収することができるポリマー物質に関する。この物質は、ポリウレタン鎖がポリアミドアミン鎖で相互接続されているブロックコポリマーである。
【0014】
本発明者の先の出願であるWO2010/029189号は、1,2,3−トリアゾール結合を介してコーティングに共有結合したヘパリン等の抗凝固分子を有するコーティングを備える医療デバイスに関する。この文献には、ポリアミンのアジド又はアルキン官能化、アルキン又はアジド官能化ヘパリンの調製(天然のヘパリンと亜硝酸分解ヘパリンの両方)、及び1,2,3−トリアゾールリンカーを介して誘導体化ポリマーに誘導体化ヘパリンを結合させる反応が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
WO2010/029189号に記載された製品は、多くの利点を有するが、本発明者は、ヘパリン又は他の結合した抗凝固分子のバイオアベイラビリティが上昇しており、エージング中のより大きな安定性を有し、ロバストなプロセスにより製造することができ、均一性を有する生成物を製造することができる、改良された物質を開発することを試みた。
【0016】
ヘパリンは、広範な種々の生物学的分子(酵素、セリンプロテアーゼインヒビター(例えばアンチトロンビン)、増殖因子、及び細胞外マトリックスタンパク質、DNA修飾酵素、及びホルモン受容体を含む)に結合する能力を有する。クロマトグラフィーで使用されると、ヘパリンは親和性リガンドであるばかりでなく、高い電荷密度を有するイオン交換物質でもある。すなわち、生物学的分子は、不溶性支持体上に固定化されたヘパリンにより、特異的かつ可逆的に吸着することができる。したがって、固定化ヘパリンは、特に分析や分離用に、多くの有用な非医療的用途を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、特に、積層コーティングを備える表面を有するデバイスであって、外側コーティング層が、複数のカチオン性超分岐ポリマー分子を含んでなり、前記カチオン性超分岐ポリマー分子が、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有すること、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上は、それに共有結合した抗凝固物質を有する、を特徴とする、前記デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、異なる種類の超分岐ポリマーの2次元模式図であり、ここで、Aは、すべてのモノマー単位中の分岐点(理論上)を有するポリマーであり、Bは、線状骨格と、それに結合した分岐ウェッジ(デンドロンと呼ばれる)とを有する分岐ポリマーであり、Cは、線状部分中に取り込まれた分岐単位を有するポリマーであり、そして、Dは、デンドリマーである。
図2図2は、3世代を有するPAMAMデンドリマーの例を2次元で示す(3次元では、この構造はほぼ球形であろう)。
図3図3は、第2世代デンドリマーの例の2次元模式図であり、ここで、コアは、そのすべてが置換されている3つの反応性官能基を有し、第1の層は、そのすべてが置換されている6つの反応性官能基を有し、第2の層は、12個の反応性官能基を有する。このようなデンドリマーは、3次元では実質的に球形を取るであろう。
図4図4は、ヘパリン成分(又は他の抗凝固物質)上の第1の官能基が、デンドリマー又は他の超分岐ポリマーの末端基である第2の官能基と、如何に反応するかを示す。
図5図5は、ヘパリン又は他の抗凝固物質による官能化の前に、いくつかのデンドリマー又は他の超分岐ポリマーが如何に互いに架橋するかを示す。
図6図6は、ヘパリン又は他の抗凝固物質により官能化されているいくつかのデンドリマー又は他の超分岐ポリマーが、如何に互いに架橋するかを示す。
図7図7は、本発明の成分の模式図であり、外側コーティング層中の抗凝固物質を有する超分岐ポリマーが、下層及び外側コーティング層中の他の超分岐ポリマーと如何に相互作用(共有結合及び/又はイオン的相互作用を含む)するかを示す。
図8図8は、種々の非血栓形成性コーティングとの接触後に血液中に残存する血小板のパーセントを示す(実施例6を参照)。
図9図9は、本発明のヘパリン含有コーティングで被覆する前及び後の、PVCチューブのトルイジンブルー染色例を示す(実施例3.2及び実施例6.3を参照)。図9中、プレートAは前、プレートBは後である。
図10図10は、種々の非血栓形成性コーティングとの接触後に血液中に残存する血小板のパーセントを示す(実施例11を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
抗凝固物質(anti-coagulant entities)
抗凝固物質は、哺乳動物の血液と相互作用して、凝固又は血栓形成を防ぐことができる物質である。
【0020】
抗凝固物質は当業者に公知であり、その多くはオリゴ糖又は多糖である。これらの物質の一部は、グルコサミン、ガラクトサミン、及び/又はウロン酸を含有する化合物を含むグリコサミノグリカン類である。最も好適なグリコサミノグリカンの1つは「ヘパリン成分」であり、特に完全長ヘパリン(すなわち、天然(native)ヘパリン)である。
【0021】
用語「ヘパリン成分(heparin moiety)」は、ヘパリン分子、ヘパリン分子のフラグメント、又はヘパリンの誘導体もしくは類似体を意味する。ヘパリン誘導体は、ヘパリンの任意の機能変種又は構造変種でもよい。代表的変種としては、ヘパリンのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、例えば、ヘパリンナトリウム(例えば、Hepsal又はPularin)、ヘパリンカリウム(例えば、Clarin)、ヘパリンリチウム、ヘパリンカルシウム(例えば、Calciparine)、ヘパリンマグネシウム(例えば、Cutheparine)、及び低分子量ヘパリン(例えば、酸化的解重合又は脱アミノ切断により調製されるもの、例えばArdeparin sodium又はDalteparin)が挙げられる。他の例としては、ヘパラン硫酸、ヘパリノイド、ヘパリン系化合物、及び疎水性対イオンを有するヘパリンが挙げられる。他の所望の抗凝固物質としては、Xa因子のアンチトロンビン介在阻害に関与する「フォンダパリヌクス(fondaparinux)」組成物(例えば、GlaxoSmithKline社製のArixtra)と呼ばれる合成ヘパリン組成物が挙げられる。ヘパリンの追加の誘導体としては、例えば、穏和な亜硝酸分解(US4,613,665号)又は過ヨウ素酸酸化(US6,653,457号)及びヘパリン成分の生物活性が保存される当該分野で公知の他の修飾反応により修飾されたヘパリン類及びヘパリン成分が挙げられる。
【0022】
また、ヘパリン成分としては、後述のようにリンカー又はスペーサーに結合した成分が挙げられる。脱硫酸ヘパリン、又は、例えばウロン酸成分のカルボン酸基を介して官能化されたヘパリンは、他の型のヘパリンと比較して抗凝固性が一般的に低下しているため、他の型のヘパリンほど適さない。カルボン酸基のモノ官能化又は低度の官能化は、ヘパリンの生物活性が保存される限り、許容することができる。
【0023】
好ましくは、各抗凝固物質は、超分岐ポリマー分子に一点で結合しており、特に末端点結合している。この結合は、後述のように超分岐ポリマー分子上の官能性末端基を介している。抗凝固物質が末端点結合したヘパリン成分である場合、好ましくは、その還元末端(時に、還元末端のC1位と呼ばれる)を介して超分岐ポリマー分子に連結している。末端点結合、特に還元末端点結合の利点は、抗凝固物質(例えば、ヘパリン成分)中の別の部位での結合と比較して、アンチトロンビン相互作用部位の利用可能性の上昇により、抗凝固物質(例えばヘパリン成分)の生物活性が最大になっていることである。
【0024】
多数の抗凝固物質、例えばヘパリン成分が存在する場合、それらの一部又はすべてが異なる種類でもよいが、一般的にはこれらはすべて同じ種類であろう。
抗凝固物質は一般的に陰イオン性である(ヘパリン成分の場合と同様である)。
【0025】
他の抗凝固物質、例えばヒルジン、クマジン類(ワルファリン等の4−ヒドロキシクマリン群のビタミンKアンタゴニスト)、抗血小板薬(例えばクロピドグレル又はアブシキシマブ)、アルガトロバン、トロンボモジュリン、又は他の抗凝固タンパク質(例えば、プロテインC、S,又はアンチトロンビン)もまた、利用が考慮される。抗凝固物質はまた、アピラーゼ等の酵素も含む。このような物質は、荷電性(例えば陰イオン性)又は非荷電性でもよい。これらを、その生物活性が保存されるように超分岐ポリマーに結合する方法は、当業者が設計することができる。
【0026】
超分岐ポリマー
様々な種類の超分岐ポリマーの例が、タイプA〜Dとして図1に模式的に示される。図1のAは、すべてのモノマー単位中で分岐点(理論上)を有するポリマーである;Bは、線状骨格とそこに結合した分岐ウェッジ(デンドロンと呼ばれる)とを有する分岐ポリマーである;Cは、線状部分中に取り込まれた分岐単位を有するポリマーである;そして、Dはデンドリマーである。これらのポリマーは、コア部分が分子の全体サイズに対して十分に小さい場合、本発明において有用である超分岐ポリマーの例である。
【0027】
用語「超分岐ポリマー分子」は、当該分野で周知であるように、典型的には中心にあるコア部分から広がる樹状分岐構造を有する分子を意味する。本発明において、この用語にはデンドリマーも含まれる。デンドリマーは、周知であるように、その分岐度が100%(本明細書において、「完全に分岐している」、すなわち、分岐可能な官能基のうち100%が分岐している、と言う場合がある)であり、従ってコアに対して高度に対称性である超分岐ポリマー分子である。超分岐ポリマーは、3つの構築成分である(i)コア、(ii)内部、及び(iii)官能性末端基からなる。コアは分子の中心に位置し、それに分岐ウェッジ(デンドロンと呼ばれる)が結合している。デンドロンは完全に分岐していても、完全には分岐していなくてもよい。
【0028】
超分岐ポリマー分子のコアは多官能性(同じ種類の官能基を数個有するか、又は異なる種類の官能基を数個有する)であり、それが有する官能基の数は、分子中に導入できる分岐の数を支配する。典型的にはコアのすべての官能基が分岐に使用される。同様に、超分岐ポリマー分子の形状はコアの形状により決定され、実質的に4面体のコアは実質的に球形の超分岐ポリマー分子を与え、より細長いコアは卵形又は棒状の超分岐ポリマー分子を与える。
【0029】
本発明において、コア部分は、14〜1,000Da、より一般的には40〜300Da、例えば50〜130Daの分子量を有する、ポリマーの全体の大きさと比較して相対的に小さい物質である。
【0030】
デンドリマーは、分岐度が100%である完全に分岐した分子であり、従ってその構造は極めて規則的であるので、ある出発物質について、唯一の変量はデンドリマー中の層又は世代の数である。世代は、通常、コアから外に向かって番号が付けられる。例えば、下記の表2〜4を参照されたい。図2は、第3世代デンドリマーを例示し、図3は第2世代デンドリマーを例示する。高度に一貫した対称的構造のために、ある世代のデンドリマーの分子量分布は極めて狭い。このことは、非常に安定した生成物を与えるため、極めて有利である。
【0031】
他の超分岐分子もまた多数の分岐を含むが、例えば分岐度は、通常、少なくとも30%、40%又は50%、例えば、少なくとも60%、70%、80%又は90%である。デンドリマーとは異なり、このような超分岐分子の構造は、完全に規則的ではないが、一般に球形構造をとることができる。
【0032】
典型的にはコアは、ポリマーの繰り返し単位と同じではない分子の成分である。しかしながら、ある実施態様において、コアは、ポリマーの繰り返し単位(又は繰り返し単位の1つ)と同じ種類の成分である。
【0033】
超分岐ポリマー分子は、一般的には、層がコアから順に形成されるdivergent法を使用して調製されるか、又は、フラグメントが形成された後に縮合されるconvergent法により調製される。より一般的には、デンドリマーは、divergent法を使用して調製される。
【0034】
デンドリマーの合成においては、すべての分岐単位の結合反応について高度の制御が必須であり、得られる生成物は多分散性指数(PDI)1.00〜1.05を示す。デンドロンの大きさはモノマー層の数に依存し、すべての追加された層は世代(G)で示される。内部は、ABx官能性(x≧2)を有する分岐モノマーからなる。分岐単位の注意深い調製は、B’がBの活性化状態である場合、AとB’との反応を制御することを可能にする。より大きなデンドリマーは、その結果として小さい固有粘度を有する球形のナノスケールの大きさの構造を与える。
【0035】
伝統的にデンドリマーは、成長する分子種にABxモノマーが交互に付加され、次に活性化/脱保護工程を行われる繰り返し法を使用して合成される。これらのプロトコールは、末端基B’の完全な置換を確実にする効率的な反応に依存する。これを逸脱すると構造的欠陥が生じ、これがデンドリマー成長中に蓄積されて、精製法が面倒になるか又は不可能になる。
【0036】
デンドリマーの合成及び命名法についてのさらなる考察については、Aldrichimica Acta (2004) 37(2) 1-52「デンドリマー:ナノスケール合成の構成単位(Dendrimers: building blocks for nanoscale synthesis)」(当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる)の、例えば第42〜43頁を参照されたい。
【0037】
このタイプの構造欠陥を有するデンドリマーである超分岐ポリマーは、本発明で使用することができる。
デンドリマーではない超分岐ポリマーは、例えば反応性モノマー又は2以上の反応性モノマーの重合により形成することができる。例えばポリアミンである超分岐ポリマーは、例えばアジリジンを塩基で処理して重合することにより調製することができる。
【0038】
コア部分の例としては、アンモニア成分(Mw 14Da)等のアミン類、ジアミン類(例えば、エチレンジアミン(Mw 56Da)、プロピレンジアミン(Mw 70Da)又は1,4−ジアミノブタン(Mw 84Da))、及びトリアミン類(例えば、ジエチレントリアミン(NCH2CH2NHCH2CH2N)(Mw 99Da)又は1,2,3−トリアミノプロパン(89Da))が挙げられる。他のコアとしては、酸素を含有するもの(例えば、C(Me)(CH2O)3(Mw 117Da))、又はイオウを含有するもの(例えば、(NCH2CH2S−SCH2CH2N)(Mw 148Da))が挙げられる。
【0039】
カチオン性超分岐ポリマーは、約pH7で主に正電荷を有する、すなわち、pH7で非荷電基及び正電荷を有する荷電基のみを有するか、又は(あまり好ましくないが)pH7で負に帯電する基を、正に帯電する基よりも少ない数で有する。本発明のカチオン性超分岐ポリマーは、典型的には官能性末端基として第1級アミンを有する。
【0040】
本発明で使用される超分岐ポリマーは、多数の官能基を含有してもよく、例えば、これらは、ポリアミン類(完全に又は実質的に第2級及び第3級アミン基を含有し、第1級アミンを官能性末端基として含有する)、ポリアミドアミン類(アミド基と第2級及び第3級アミン基とを含有し、第1級アミンを官能性末端基として含有する)、又はアミン官能基を有するポリエーテル類(例えば、末端基が第1級アミン基に変換されているPEG等のポリエーテル)であることができる。
【0041】
超分岐ポリマー群の例は、ポリアミドアミン類(PAMAM)であり、ここでは、アンモニア又はジ−もしくはトリ−アミン(例えばエチレンジアミン)成分をコア部分として使用し、そして、アンモニア又は遊離アミン基を、例えばアクリル酸メチルと反応させ、次いでエチレンジアミンと反応させて、外表面上に多数の遊離アミン基を有する構造を形成することにより、分岐分子の世代の追加を達成することができる。以後の世代は、アクリル酸メチル及びエチレンジアミンとさらに反応させることにより達成することができる。内部層のすべての第1級アミン基がアクリル酸メチル及びエチレンジアミンと反応している構造は、デンドリマーとなるであろう。PAMAMデンドリマーは、Starburst(登録商標)(Dendritech Inc.社製)という商標名で入手することができる。Starburstデンドリマーは、Dendritech Inc.、Sigma Aldrich及びDendritic Nanotechnologies(DNT)から販売されている。
【0042】
他の超分岐ポリマーの例としては、ポリアミン類、例えば各構成単位の重合により生成される、ポリプロピレンイミン(PPI)及びポリエチレンイミン(PEI)ポリマーが挙げられる。PPIに基づく超分岐ポリマーはまた、ジアミノブタン等のコアから合成することができ、第1級アミン基とアクリロニトリルとを反応させた後、水素添加することにより構築することができる。PPIデンドリマーは、Astramol(登録商標)という商標名で入手することができ、DSM及びSigma Aldrichから販売されている。ポリエチレンイミン(PEI)ポリマーは、例えばBASF、Nippon Shokubai及びWuhan Bright Chemicalから市販されている。
【0043】
このように、超分岐ポリマーは、ポリアミドアミン、ポリプロピレンイミン、ポリエチレンイミン、並びに、ポリアミドアミン、ポリプロピレンイミン、ポリエチレンイミン、及びポリアミン超分岐ポリマーのうちの1又は2以上を含むその他のポリアミンポリマー及びコポリマーから選択することができる。
【0044】
一般的に、官能性末端基として第1級アミン基を有するカチオン性超分岐ポリマー、例えばPAMAM又はポリエチレンイミン類又はポリプロピレンイミン類は、本発明での使用に特に適している。
【0045】
エステル類、炭酸塩類、無水物類、及びポリウレタン類を含む超分岐アミノ化ポリマーは、分解しやすいためあまり適していない。しかしながら、生物安定性は、生分解性基の数及び比率に依存するので、いくつかは本発明に適する場合がある。
【0046】
いくつかの超分岐ポリマーの性質は、以下の表1に記載される。
【0047】
【表1】
【0048】
図2に例示されたPAMAMは、コア部分であるエチレンジアミンを基礎とする。構築された世代の数に従う性質は、以下の表2に記載される。
【0049】
【表2】
Aldrichimica Acta (2004) 47(2) 1-52 「デンドリマー:ナノスケール合成の構成単位(Dendrimers: building blocks for nanoscale synthesis)」を参照。
*構造,スキーム1を参照。
【0050】
【化1】
スキーム1. PAMAM−G0デンドリマーの合成。スキーム1中、aはアクリル酸メチルであり、bはエタン−1,2−ジアミンである。
【0051】
エチレンジアミンコアを基礎とするアジリジンの重合によるPEI超分岐ポリマーの合成例は、スキーム2に示される。
【0052】
【化2】
スキーム2. PEI超分岐ポリマーの合成。スキーム2中、PEI超分岐ポリマーは、エタン−1,2−ジアミンコア(Mw=56Da)を有する第4世代のものである。*は、さらにアジリジンモノマーを付加できる位置の例を示す。
【0053】
ブタン−1,4−ジアミンを基礎とするアクリロニトリルの重合によるPPIデンドリマーの合成例は、スキーム3に示される。
【0054】
【化3】
スキーム3. PPIデンドリマーの合成。スキーム3中、PPIデンドリマーは、ブタン−1,4−ジアミンコア(Mw=84Da)を有する第3世代のものである。
【0055】
本発明で有用な超分岐ポリマー分子は、典型的には約1,500〜1,000,000Da、より典型的には10,000〜300,000Da、例えば約25,000〜200,000Daの分子量を有する。本発明で有用な超分岐ポリマー分子は、好適には、実質的に球形である。それらは、レーザー光分散法により測定した場合、典型的には約2〜100nm、例えば2〜30nm、特に約5〜30nmの直径を有する。
【0056】
超分岐ポリマーがPAMAMデンドリマーである場合、典型的には約5,000〜1,000,000Da、より典型的には約12,000〜125,000Daの分子量を有し、約1〜20nm、例えば2〜10nm、特に約4〜9nmの直径を有する。
【0057】
本発明で使用される超分岐ポリマーにおいて、総分子量の、コア部分の分子量に対する比は、少なくとも80:1、例えば少なくとも100:1、例えば少なくとも200:1、例えば少なくとも500:1、例えば少なくとも1000:1である。この比は、典型的には、20,000:1未満、例えば10,000:1未満、例えば5,000:1未満である。この比は、例えば80:1〜20,000:1、例えば200:1〜5,000:1、例えば200:1〜1600:1、例えば400:1〜1600:1である。
【0058】
誤解を避けるために、本明細書の超分岐ポリマーの総分子量は、共有結合している抗凝固物質の重量又は有用物質の重量を除く。
【0059】
この比は、コアの分子量及び超分岐ポリマーの総分子量により決定される。算出される比は、コア(化学組成及び分子量)の変化及び世代の分子量(モノマーの分子量及び各世代の結合したモノマーの数)の変化に伴って、変化する。
【0060】
PAMAMデンドリマーについて、エタン−1,2−ジアミンが好ましく、世代の数は好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜7、すなわち4、5、6、又は7である。
【0061】
PAMAM超分岐ポリマーについて、エチレンジアミン由来のコアが好適であり、超分岐ポリマー中に取り込まれる反応性モノマー(アクリル酸メチル(Mw=56Da)及びエチレンジアミン(Mw=57Da))の数は、各モノマーに関し、例えば50〜9,000、例えば100〜5,000、例えば100〜2,000である。
【0062】
PEI超分岐ポリマーについて、エチレンジアミン由来のコアが好適であり、超分岐ポリマー中に取り込まれるアジリジンモノマー(Mw=42Da)の数は、例えば110〜20,000モノマー、例えば110〜10,000モノマー、例えば110〜3,000モノマーである。
【0063】
PPI超分岐ポリマーについて、ブタン−1,4−ジアミン由来のコアが好適であり、超分岐ポリマー中に取り込まれるアクリロニトリルモノマー(Mw=56Da)の数は、例えば120〜17,000モノマー、例えば120〜4,000モノマー、例えば120〜1,000モノマーである。
【0064】
本発明のデバイスにおいて、複数のカチオン性超分岐ポリマー分子は、場合によりデバイスの表面上で互いに架橋されていてもよい。架橋は、超分岐ポリマー分子がデバイスの表面に適用される前又は後、及び抗凝固物質がそこに結合される前又は後に行うことができる(図5,6を参照)。
【0065】
超分岐ポリマー分子が架橋される場合、架橋されて凝集した超分岐ポリマーを形成する分子の数は2又は3以上であり、例えば2〜500、例えば2〜10、例えば2〜5である。各分子は1又は2以上の架橋、例えば最大10の架橋により、凝集物中で他の分子に結合してもよい。
【0066】
本発明で有用な2つ又はそれ以上の超分岐ポリマー分子の凝集物は、典型的には約3,000〜2,000,000Da、より典型的には約50,000〜500,000Daの分子量を有する。本発明で有用な超分岐ポリマー凝集物は、典型的には約5〜100nm、特に約20〜100nmの直径を有する。
【0067】
抗凝固物質による超分岐ポリマー分子の誘導体化
超分岐ポリマー分子は、ヘパリン等の抗凝固物質と反応することができる多数の官能性末端基を有する(図4を参照)。この官能性末端基は、必要に応じて、同じタイプであってもよいし、数個の異なるタイプであってもよい。したがって、本発明の利点の1つは、分子が、特定の官能性の必要な数の官能性末端基を有するように、分子を設計することができることである。これは、下層の構築を妨害することなく、デバイスの表面上に所望量の抗凝固物質を選択的に固定化することを可能にする。
【0068】
超分岐分子の分岐構造は、基本的に線状のポリマー構造を使用して可能になるものより、抗凝固物質のより高い表面密度を得ることを可能にするが、これらの抗凝固物質の充分な間隔を達成することにより、従来公知のコーティングを使用して達成されるものと比較して、各物質のバイオアベイラビリティが低下しないことを保証し、実際に増加する場合がある。
【0069】
超分岐ポリマーの別の有用な特徴は、反応性官能性末端基の大部分が超分岐分子の表面上にあり、従って実質的にすべての抗凝固物質が、超分岐ポリマーの表面上で利用できることである。この作用は、デンドリマーの場合に特に顕著であり、この場合、利用できる官能基のすべては表面上にある。この特徴は、多くの反応性官能性末端基が、表面上にあるというよりもむしろ構造の内部に隠れている従来のコーティングポリマーに対して、特に利点を与える。このことは、そのような従来のコーティングポリマー中の官能基と反応する抗凝固物質が、ポリマー表面の隙間中に固定化され、生体利用性が無いことを意味する。
【0070】
誘導体化された超分岐ポリマーの構成は、抗凝固物質が取り込まれた層(例えば外側コーティング層)全体への抗凝固物質のより均一な分布を可能にし、これは原則的にエージング安定性の上昇をもたらすはずである。さらに、超分岐ポリマー上で抗凝固剤密度を選択及び調整する可能性は、デバイス上でのより強固で予測可能な抗凝固剤分布を可能にするであろう。また、表面上よりもむしろ溶液中において抗凝固物質(例えばヘパリン)による超分岐ポリマーの置換度を調整することが容易であるため、超分岐ポリマー−抗凝固物質コンジュゲートの組立は、より小さいバッチ間変動を可能にする。
【0071】
本発明のさらなる態様において、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有すること、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上は、それに共有結合した抗凝固物質を有する、を特徴とする、カチオン性超分岐ポリマー分子が提供される。
【0072】
官能性末端基に結合した抗凝固物質の数及びその電荷(例えば、抗凝固物質としてのヘパリンの場合は負電荷である)に依存して、カチオン性超分岐ポリマーは、正味の正電荷又は正味の負電荷を有することができる。
【0073】
好適には、抗凝固物質は、1つの超分岐ポリマー分子上の単一の官能性末端基に対してのみ共有結合的連結を有し、他の分子に対しては有しない。抗凝固物質の結合は、決して超分岐ポリマーのコアに対してではなく、超分岐ポリマーの官能性末端基に対してのみである。
【0074】
共有結合した抗凝固物質を有する官能性末端基の数は、1又は2以上、例えば2又は3以上、例えば2〜200、例えば10〜100であるが、特に上限は無い。結合される数は、利用できる末端基の数に依存し、それは、カチオン性超分岐ポリマー分子のサイズの関数である。共有結合した抗凝固物質を有する官能性末端基の数は、利用できる官能性末端基のうちの、例えば1〜95%、例えば5〜95%、例えば10〜80%、例えば10〜50%である。共有結合した抗凝固物質を有する官能性末端基の数は、利用できる官能性末端基のうちの、例えば5〜50%、例えば5〜40%、例えば5〜30%、例えば約25%である。抗凝固物質がアニオン性である場合(例えば、ヘパリン成分の場合)、結合され得る数はまた、生じる誘導体化超分岐ポリマーが正味の正電荷(この場合、供給結合するアニオン性抗凝固物質が多過ぎるべきではない)を有することが好ましいか、又は正味の負電荷を有することが好ましいかに依存するであろう。
【0075】
カチオン性超分岐ポリマーへの抗凝固物質の結合
典型的には、各抗凝固物質は、リンカー及び場合により1又は2以上のスペーサーを介して、カチオン性超分岐ポリマーに共有結合される。リンカーは、超分岐ポリマー上の官能性末端基と抗凝固物質上の官能基との反応により形成される。表3及びスキーム4は、超分岐ポリマーに抗凝固物質を結合するのに適したいくつかの種類のリンカーの例を、形成される共有結合性リンカーが由来する官能基及び使用される反応の種類とともに示す。例えば文献(ISBN:978-0-12-370501-3,Bioconjugate techniques,第2版,2008年)を参照されたい。但し、ラジカル結合反応が意図されてもよい。
【0076】
各リンカーについて、官能性末端基の1つは超分岐ポリマー上に有り、他の1つは抗凝固物質上にある。原則的に逆も可能であり、すなわち表3を参照すると、官能基1及び2はそれぞれ超分岐ポリマー上及び抗凝固物質上にあってもよいし、それぞれ抗凝固物質上及び超分岐ポリマー上にあってもよい。
【0077】
幾つかの場合には、抗凝固物質及び超分岐ポリマーは、2以上の官能基を含むリンカーにより結合されてよい。例えば、リンカーがチオエーテルである場合、2官能性分子(例えば、各末端にSH基を有する)が、各末端において、それぞれ、アルキン/アルケン官能化抗凝固物質及びアルキン/アルケン官能化超分岐ポリマー分子に連結されて、2つのチオエーテルを含有するリンカーを生じることができる。あるいは、ビス−アルキン/アルケン分子が、各末端において、それぞれ、チオール官能化抗凝固物質及びチオール官能化超分岐ポリマーに連結されて、2つのチオエーテルを含有するリンカーを生じることができる。表3から明らかなように、他の種類のリンカーについても同様の可能性が存在する。超分岐ポリマーはまた、抗凝固物質が2種類以上のリンカーを介して超分岐ポリマーの官能性末端基に結合できるように、2又は3以上の異なる官能基(例えば、アミン及びアルキン官能基)を有することができるが、1種類のリンカーを使用して抗凝固物質を結合することが好ましい。
【0078】
リンカー部分は、典型的には約14〜200、例えば14〜100Daの分子量を有する。
【0079】
【表3】
【0080】
表3及びスキーム4に示される化学式は、後述される。
【0081】
−CH−NH−C−結合
還元的アミノ化:還元的アミノ化(還元的アルキル化としても知られている)は、中間体イミン(シッフ塩基)を介するカルボニル基のアミンリンカーへの変換を含むアミノ化の一種である。カルボニル基は最も一般的には、ケトン又はアルデヒドを有する。
【0082】
【化4】
スキーム4.還元的アミノ化
【0083】
−C−NH−CHR−CHR−C(=O)−結合
マイケル付加:マイケル反応又はマイケル付加は、アルファ、ベータ不飽和カルボニル化合物へのカルボアニオン又は他の求核物質(例えば、第1級アミン又はチオール)の求核的付加である。それは、より大きなクラスの共役付加に属する。この方法は、C−C結合の穏和な形成のための最も有用な方法の1つである。
【0084】
−C−S−C−結合
チオ−ブロモ:チオエーテル結合は、典型的にはチオールのアルキル化により調製される。チオールは臭化化合物と反応してチオエーテル結合を生成する。このような反応は通常、チオールをより求核性のチオレートに変換する塩基の存在下で行われる。
【0085】
チオール−エン及びチオール−イン:あるいはチオエーテル結合は、チオール基を含む第1の化合物と、アルケン又はアルキン基を含む第2の化合物との反応により調製してもよい。第1及び第2の化合物は、それぞれ適宜、超分岐ポリマー分子及び抗凝固物質であることができる。
【0086】
好適には、反応は、酸化を介する2つのチオール基の好ましくない結合の影響を避ける又は無効にするために、還元剤(例えば、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、又はジチオスレイトールもしくは水素化ホウ素ナトリウム)の存在下で行われる。
【0087】
ある実施態様において、反応は、ラジカル開始剤を用いて開始される。ラジカル開始剤の例は、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)である。さらなる例は、過硫酸カリウム、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,2−ビス(2−(4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−イル)プロパン−2−イル)ジアゼン二塩酸塩、2,2’−(ジアゼン−1,2−ジイル)ビス(2−メチル−1−(ピロリジン−1−イル)プロパン−1−イミン)二塩酸塩、3、3’−((ジアゼン−1,2−ジイルビス(1−イミノ−2−メチルプロパン−2,1−ジイル)ビス(アザンジイル)ジプロパン酸四水和物、ベンゾフェノン、及びベンゾフェノンの誘導体、例えば4−(トリメチルアンモニウムメチル)ベンゾフェノンクロリドである。さらなる例は過硫酸アンモニウムである。
【0088】
別の実施態様において、反応はラジカル開始剤によって開始されない。その代わりに、より高pH(例えばpH8〜11)の条件が使用される。このタイプの反応は、チオールとの反応のために活性化アルケン又はアルキンが使用される場合に、より適している。
【0089】
チオール基を含む第1化合物とアルキン基を含む第2化合物との反応は、以下に示される:
【0090】
【化5】
【0091】
式中、Ra及びRbの1つは超分岐ポリアミンであり、Ra及びRbの他の1つは抗凝固物質である。
【0092】
アルケン含有リンカーが形成される場合、この化合物は、さらなる化学的変換、例えばチオール(表3に示すようなチオール)又はアミンによるさらなる化学的変換を受けてもよい。
【0093】
第2の化合物がアルケンで誘導体化される場合、ある実施態様においては活性化アルケンが使用される。好適な活性化アルケンの例は、マレイミド誘導体である。
【0094】
チオール基を含有する第1化合物とマレイミド基を含有する第2化合物との反応は、以下に示される:
【0095】
【化6】
【0096】
式中、Ra及びRbの1つはポリマーであり、Ra及びRbの他の1つは抗凝固物質である。この反応は、一般的に、還元剤であるトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、及びラジカル開始剤である4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の存在下、酸性条件下で行われる。
【0097】
トリアゾール結合(CuAAC結合)
アジド−アルキン:1,2,3−トリアゾール結合は、アルキンとアジド化合物との反応により調製することができる。リンカーを形成する反応は、抗凝固物質及び超分岐ポリマー分子のうちの1つのアルキン基と、抗凝固物質及び超分岐ポリマー分子のうちの他の1つのアジド基との間でもよい。この反応を行うための方法は、WO2010/029189号に記載の方法と同様である。
【0098】
アジド基とアルキン基との反応は、高温(T>60℃)で又は金属触媒(例えばCu(I)触媒等の銅)の存在下で、Huisgen環化付加(アジド及び末端アルキンを1,3−双極子環状付加して1,2,3−トリアゾールを生成)で通常使用される反応条件を使用して行うことができる。Cu(I)触媒は所望であれば、例えばアスコルビン酸ナトリウムを使用して、対応するCu(II)化合物の還元によりin situで製造してもよい。この反応はまた、所望であればフロー条件下で行ってもよい。
【0099】
CuAAC反応は、例えば約5〜80℃の温度、好ましくはほぼ室温で行うことができる。反応に使用されるpHは、約2〜12、好ましくは約4〜9、及び最も好ましくは約7であることができる。好適な溶媒としては、アジド又はアルキンに結合した物質が可溶性であるもの、例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランが挙げられ、好ましくは、水又は水と上記の1つとの混合物が挙げられる。この物質と表面との比は、この物質の表面における所望の密度が実現されるように調整してもよい。
【0100】
−C(=O)−N−結合
アミド化:アミドは、一般的にカルボン酸とアミンとの反応により生成される。カルボン酸及びカルボン酸誘導体は、多くの化学的変換を受けることができ、通常カルボニルへの攻撃によりカルボニル2重結合を破壊し、4面体中間体を生成する。チオール類、アルコール類及びアミン類は、すべて求核物質として作用する。アミド類は、生理学的条件下においてエステルより反応性が低い。
【0101】
活性化酸を使用するアミド化:活性化酸(基本的に、良好な脱離基を有するエステル、例えばNHS−活性化酸)は、正常なカルボン酸が塩を形成するような条件下でアミンと反応してアミドリンカーを生成することができる。
【0102】
−C−S−S−CH2−CH2−C(=O)−N−結合
SPDP試薬を使用する結合:N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)及びその類似体は、ジスルフィド含有結合を生成するアミン−及びチオール−反応性ヘテロ2官能性結合形成試薬のユニークな群に属する。
【0103】
還元的アミノ化、マイケル付加、チオ−ブロモ反応、NHS−活性化酸を使用するアミド化、SPDP試薬を使用する結合、CuAAC及びチオール−エン結合はすべて、良好な結合条件と高収率のリンカー生成を提供するのに適している。
【0104】
表3に示される分類は例示目的のみであり、もちろん代替又は改変官能基も使用することができる。例えば、アミン基は2級炭素上に配置することができ、脂肪族鎖は芳香族基で置換することができる。
【0105】
フリーラジカル開始反応
上記で簡単に言及したように、超分岐ポリマー分子の官能性末端基は、フリーラジカル開始反応を介して生成されるリンカーにより、抗凝固物質に結合し得る。ラジカルは、熱、光分解(例えば、ノリッシュ(Norrish)I型反応及び/又はノリッシュII型反応)、イオン化、酸化、プラズマ又は電気化学反応により生成し得る。例えば、遊離の第1級アミン基を有する超分岐ポリマー分子がベンゾフェノンで処理されると、炭素ラジカル又は酸素ラジカル等のラジカルが生成され、これはフリーラジカル開始反応(例えば、アルケン類との反応)に参加することができる。
【0106】
ある実施態様において、共有結合性リンカーは、第2級アミン結合を含む。特に、このリンカーは、−NH−基を含むことができる。
【0107】
ある実施態様において、共有結合性リンカーは、アミド結合を含む。特に、このリンカーは、−NH−C(O)−基を含むことができる。
【0108】
別の実施態様において、共有結合性リンカーは、チオエーテル結合を含む。
【0109】
別の実施態様において、共有結合性リンカーは、1,2,3−トリアゾール結合を含む。
【0110】
用語「チオエーテル結合」は、イオウと2つの炭素原子との連結を示す。この連結は時に「スルフィド」と呼ばれる。イオウは、2つの飽和炭素原子(すなわち、−C−S−C−)に結合してもよいし、飽和及び不飽和炭素原子(すなわち、−C−S−C=)に結合してもよい。
【0111】
用語「チオール」は、−S−H残基を示す。
【0112】
用語「2級アミン結合」は、NH基と2つの炭素原子との連結(すなわち、−C−NH−C−)を示す。
【0113】
用語「アミド結合」は、−C−C(O)NH−C−型の2つの炭素原子間の連結を示す。
【0114】
ある実施態様において、ヘパリン成分等の抗凝固物質と超分岐ポリマー分子の官能性末端基との間のリンカーは、非分岐リンカーである。
【0115】
リンカーは、生分解性又は非生分解性であることができるが、被覆デバイスが長期間非血栓形成性であるために、より好適には非生分解性である。
【0116】
複数のリンカーが存在する場合には、その一部又はすべてが異なる種類であることができる。
【0117】
ある実施態様において、すべてのリンカーが同じ種類である。
【0118】
スペーサー
最も単純には、超分岐ポリマー分子の官能性末端基と抗凝固物質との共有結合は、リンカー、例えば、表3に示されるリンカーを介する。
【0119】
しかしながら、場合により、リンカーは、表面又は抗凝固成分又はこれらの両方から、スペーサーにより分離されていてもよい。
【0120】
スペーサーが使用される場合、その目的は、通常、超分岐ポリマー分子と抗凝固物質との分離を顕著に向上させること、すなわち、事実上、デバイスの表面と抗凝固物質との分離を顕著に向上させることである。例えばスペーサーの分子量は、50〜106Da、典型的には100〜106Da、例えば100〜104Daであることができる。スペーサーの長さは、例えば10〜103Åであることができる。スペーサーは直鎖であることが好ましい。ある実施態様において、スペーサーは親水性であり、例えば、スペーサーはPEG鎖を含むことができる。ある態様において、超分岐ポリマー分子の官能性末端基と抗凝固物質との共有結合的連結は、3つの部分(超分岐ポリマー分子の官能性末端基とリンカー部分との間の「スペーサーA」、リンカー部分、及びリンカー部分と抗凝固物質との間の「スペーサーB」)を有すると見なすことができる。ある実施態様において、スペーサーAの分子量は、50〜103Daである。別の実施態様において、スペーサーBの分子量は50〜103Daである。ある実施態様において、スペーサーAは1又は2以上の芳香環を含む。別の実施態様において、スペーサーAは芳香環を含まない。ある実施態様において、スペーサーBは1又は2以上の芳香環を含む。別の実施態様において、スペーサーBは芳香環を含まない。ある実施態様において、スペーサーAは親水性である。別の実施態様において、スペーサーBは親水性である。ある実施態様において、スペーサーAはPEG鎖を含む。ある実施態様において、スペーサーBはPEG鎖を含む。ある実施態様において、スペーサーA及びBは両方とも親水性であり、例えばこれらはそれぞれPEG鎖を含む。本明細書においてPEG鎖は、典型的には分子量が100〜50〜106Daのエチレンオキサイドの重合により得られるポリマー鎖を意味する。他の態様において、共有結合的連結は、2又は3以上のトリアゾール環を含んでよい。別の実施態様において、共有結合的連結は5つの部分(表面と第1のリンカー部分との間の「スペーサーA」、第1のリンカー部分、第1のリンカー部分と第2のリンカー部分との間の「スペーサーB」、第2のリンカー部分、及び第2のリンカー部分と抗凝固物質との間の「スペーサーC」)を有すると見なすことができる。ある実施態様において、スペーサーAの分子量は50〜103Daである。ある実施態様において、スペーサーBの分子量は100〜106Daである。ある実施態様においてスペーサーCの分子量は50〜103Daである。ある実施態様において、スペーサーA及び/又はスペーサーB及び/又はスペーサーCは親水性であり、例えばPEG鎖を含む。例えばスペーサーB(少なくとも)はPEG鎖を含んでよい。
【0121】
スペーサーは、存在してもよいが、典型的には必ずしも必要ではないことがある。この点に関し、超分岐ポリマーの構造が、そのサイズ及び形状により、デバイスの表面から抗凝固物質をある程度分離させることができることに留意すべきである。
【0122】
スペーサーが存在する場合、例えば、スペーサーは約10〜103Åの直鎖スペーサーである。
【0123】
PEG鎖(又は他の親水性ポリマー)を含むスペーサーを有する具体的な利点は、デバイスに潤滑性(lubricious properties)を与えることである。
【0124】
スペーサーは、生分解性でも非生分解性でもよいが、被覆されたデバイスが長期間非血栓形成性である(すなわち、被覆されたデバイスが非血栓形成性を保持する)ためには、非生分解性であることがより好適である。
【0125】
コーティング構成単位の官能化
i. 超分岐ポリマー分子又は抗凝固物質の前修飾が必要無いリンカー生成
上記表3に示されたリンカーのいくつかは、超分岐ポリマー(例えば超分岐ポリアミン)の官能性末端基と、アルデヒドを含む抗凝固物質との反応により、直接生成することができる。
【0126】
すなわち、表3に示された還元的アミノ化、マイケル付加、SPDP反応、及びアミド化反応は、第1級アミン官能性末端基の存在を必要とする。超分岐ポリアミン(例えばPAMAMデンドリマー)等の超分岐分子は、これらの結合生成反応で使用される適切な遊離の第1級アミン基を有し、従ってさらなる修飾を必要としない。
【0127】
したがって、ある実施態様において、超分岐ポリマー分子は、官能性末端基として複数の遊離の第1級アミン基を有し、例えばPAMAM、PPI又はPEI超分岐ポリマー分子である。
【0128】
亜硝酸分解ヘパリン及び天然ヘパリンは、その還元末端に反応性基、それぞれアルデヒド基及びヘミアセタール官能基を有し、従って亜硝酸分解ヘパリン又は天然ヘパリンは、上記表3及びスキーム4に示されるように、遊離の第1級アミン基を有する超分岐ポリマーとの還元的アミノ化反応によって、第2級アミン基を含むリンカーを生成することができる。
【0129】
アミン官能化表面とヘパリン誘導体との間で第2級アミン結合を生成する方法は、例えばEP−B−0086186号、EP−B−0086187号、EP−B−0495820号及びUS6,461,665号に記載されている。
【0130】
ii. 超分岐ポリマー分子及び/又は抗凝固物質の修飾が必要なリンカー生成
あるいは、抗凝固物質及び超分岐ポリマーの一方又は両方は、後に詳述されるように適切な官能基を持つために修飾されてもよい。
【0131】
例えばアルキン基及びアジド基を取り込むために、ヘパリン及びその他の抗凝固物質を誘導体化する方法は、WO2010/029189号(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0132】
したがって、上記表3に記載されたリンカーのいくつかにとって、超分岐ポリマー分子及び抗凝固物質の一方又は両方の官能化誘導体をあらかじめ調製することが必要である。
【0133】
超分岐ポリマー分子は、当該分野で公知の方法を使用して官能化してもよい。PAMAMデンドリマー又は同様の超分岐ポリマー上の第1級アミノ基は、選択された共有結合を生成するための適切な官能基(例えば、アルケン、アルキン、チオール、ハロ、又はアジド基)の結合点として使用することができる。したがって、超分岐ポリアミンは、従来法により、例えばポリアミン上のペンダント第1級アミノ基を、アルケン、アルキン、チオール、ハロ、又はアジド基を含む活性化カルボン酸(例えば、カルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド誘導体)と反応させて、アルケン、アルキン、チオール、ハロ、又はアジド基を有するように官能化することができる。
【0134】
すなわち、適切なアルケン又はアルキン基を導入するために、
R”−NH2
(式中、R”は超分岐ポリアミン残基である)
で示される、いくつかの第1級アミン基を有する超分岐ポリアミン分子を、式:
【化7】
(式中、nは1〜8の整数、例えば1〜4の整数である)
の化合物と反応させ、式:
【化8】
(式中、R”及びnは上記で定義した通りである)
のマレイミド官能化ポリアミンを生成することができる。
【0135】
あるいは、超分岐ポリアミンを、式:
【化9】
(式中、nは1〜8の整数、例えば1〜4の整数である)
の活性化アルキン含有基と反応させ、式:
【化10】
(式中、R”及びnは上記で定義した通りである)
のアルキン官能化超分岐ポリアミンを生成することができる。
【0136】
同様に、官能性末端基として遊離の第1級アミンを有する超分岐ポリマーは、チオール基で誘導体化し得る。この場合、
R”−NH2
(式中、R”は上記で定義した通りである)
で示される、いくつかの第1級アミン基を有する超分岐ポリアミン(例えば、PAMAMデンドリマー)を、チオール含有活性化カルボン酸、例えば、式:
【化11】
(式中、nは1〜8の整数、例えば1〜4の整数である)
の化合物と反応させ、式:
【化12】
(式中、R”及びnは上記で定義した通りである)
の誘導体化ポリマーを生成することができる。
【0137】
同様の方法で、ハロ基を超分岐ポリマー分子中に導入してもよい。
同じ官能化を実現するために、SPDP又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)が関与するその他のアミド化反応を使用することが考慮されてもよい。
【0138】
アルケン、アルデヒド、アルキン、チオール、アゾ、アミン、ハロゲン化物、活性化カルボン酸、マレイミドエステル、又はα、β−不飽和カルボニル基を有する抗凝固物質(例えばヘパリン)は、それ自体公知の従来法により作製することができる。例えば、アルキン/アルケン基を有する抗凝固物質(例えばヘパリン)は、式:
1−O−NH2
(式中、R1はアルキン/アルケン含有基である)
のアルコキシアミンと、抗凝固物質上のアルデヒド又はヘミアセタール基との反応により、それ自体公知の従来法(例えばWO2010/029189号の実施例3a、3b、及び3cを参照)を使用して作製することができる。この種の反応は、オキシ−イミン官能基を形成して進行し、式:
1−O−N=R'
(式中、R1は上記で定義した通りであり、R'は抗凝固物質の残基である)
の化合物を与える。
【0139】
亜硝酸分解ヘパリン及び天然ヘパリンは、その還元末端に、それぞれ反応性基であるアルデヒド基及びヘミアセタール官能基を有し、これらは、この様式で結合させることができる。
【0140】
同様に、抗凝固物質上のアルデヒド又はヘミアセタール基と、式:
HS−X−NH2
[式中、Xは炭化水素スペーサー、例えば(CH2nであり、ここでnは1〜8の整数、例えば1〜4の整数であり、1又は2以上(例えば1又は2)のメチレン基は場合によりOにより置換されてもよい;又は、Xは、1〜100(例えば、1〜50、例えば1〜10)個のエチレングリコール単位を含有するPEG鎖を含む]
の化合物と反応によって、式:
R'−CH2−NH−X−SH
(式中、Xは上記で定義した通りであり、R'−CH2−は抗凝固物質の残基である)
の生成物を生成することにより、チオール基で誘導体化された抗凝固物質を形成することができる。
【0141】
このような方法の例は、以下の実施例4.2で示される。
アジド基又はハロ基(例えば、フルオロ、クロロ、又はブロモ)の導入のために、同様の方法を使用することができる。
【0142】
上記したように、超分岐ポリマーを修飾する1つの理由は、いくつかの官能基を導入して、抗凝固物質への結合を可能にすることである。超分岐ポリマーがいくつかの既存の官能基(例えば、1級アミン基)を有する場合、これらは他の官能基(例えば、アジド又はアルキン基)に変換することができる。すべて又は(より一般的には)一部(例えば0.5〜25%)の官能基は、この目的のために変換してもよい。
【0143】
他の目的のために、新しい官能基を導入することが望ましい場合もある。例えば、一部(例えば0.5〜25%)の既存の官能性末端基(例えば第1級アミン基)は、有用な物質(例えば、後述される潤滑剤)の結合を可能にするために、他の官能基(例えば、アジド又はアルキン基)に変換してもよい。
【0144】
表面コーティング
デバイスは、1又は2以上の層から形成される積層コーティングを備える表面を有する。特に、デバイスが医療デバイスである場合、デバイスは空隙又は孔を含む1又は2以上の部分を有することができる。孔はデバイス内であってもよいし、及び/又は、デバイスの少なくとも1つの表面の一部でもよい。多孔性医療デバイスの例は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。孔はコーティング層を有してもよいし、有しなくてもよい。
【0145】
好ましくは、デバイスの表面(非血栓形成であることが望ましい)の一部又は表面全体は、コーティングにより被覆される。
【0146】
デバイスの表面は、1又は2以上のコーティング層(例えば、2又は3以上、あるいは、3又は4又は5、例えば最大20個のコーティング層)を有することができ、用語「外側コーティング層」は、医療デバイスにおいて、患者の組織と接触しているか、又は体液と接触しているコーティング層、又は分析デバイスもしくは分離デバイスにおいて、分析、分離又は取り扱うべき物質と接触することになるコーティング層を意味する。すなわち外側コーティング層は、中空のデバイス又はステント等のオープン構造のデバイスの外表面及び/又は内表面上のコーティング層であることができる。外側コーティング層でない層は、本明細書では「下層」と呼ばれる。
【0147】
本発明において、外側コーティング層は、複数のカチオン性超分岐ポリマー分子を含み、それには、官能性末端基を介して、1又は2以上の抗凝固物質が共有結合している。
【0148】
一般的に、外側コーティング層のカチオン性超分岐ポリマー分子の大部分又はすべては、その官能性末端基を介して、それに共有結合された複数の抗凝固物質を有する。
【0149】
層の最適な数は、デバイスの原料である材料の種類と、表面コーティングの使用目的とに依存するであろう。デバイス表面を完全に被覆するのに必要な層の数及び性質は、当業者により容易に決定されるであろう。表面コーティングは、所望であれば、1層ずつ作製してもよい。
【0150】
例えば、デバイスの表面にカチオン性ポリマーを吸着させ、次いで、アニオン性ポリマー(例えば、デキストラン硫酸等のアニオン性多糖、又は正味の負電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマー)の溶液を適用し、アニオン性ポリマーの少なくとも1つの吸着層を得ることにより、コーティング層を形成することができる。Multilayer Thin Films ISBN: 978-3-527-30440-0を参照されたい。したがって、表面は、カチオン性ポリマーの層とアニオン性ポリマーの層(例えば、多糖又は正味の負電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマー)とを含むことができる。より一般的には、表面コーティングは、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの1又は2以上のコーティング二重層を含むことができる。典型的には、最も内部の層(すなわち、裸のデバイス表面、例えば金属、プラスチック、又はセラミック表面に適用された層)は、カチオン性ポリマーの層である。
【0151】
後に詳述されるように、1又は2以上の抗凝固物質がその官能性末端基を介して共有結合している複数のカチオン性超分岐ポリマー分子を含む外側コーティング層には、2つの方法のうちの1つを適用し得る。最初の方法では、全体的に正電荷を有するカチオン性超分岐ポリマー分子を、デバイスの表面上のアニオン性ポリマーに適用することができる。次いで、超分岐ポリマー分子は修飾され、抗凝固物質に連結される。第2の方法では、1又は2以上の抗凝固物質がその官能性末端基を介して共有結合しているカチオン性超分岐ポリマー分子を、官能化超分岐ポリマー分子が全体的に正電荷又は負電荷を有するかどうかに基づいて、デバイスの表面上のアニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーに適用することができる。
【0152】
幾つかの場合には、カチオン性超分岐ポリマー分子は、反応性官能基を介してポリマー表面コーティングに架橋することができる。カチオン性超分岐ポリマーが、抗凝固物質と反応する前に、デバイス表面に又は下層のコーティング層に架橋される場合、充分な数のアミノ基(又は、導入された他の反応性基)が利用できるように残存しており、所望の量の抗凝固物質を外側コーティング層に連結できることを確実にすることが必要である。あるいは、カチオン性超分岐ポリマー分子は、デバイスの表面に又はコーティング層に適用される前に、抗凝固物質と反応させ、次いで架橋することができる。典型的には、抗凝固物質と表面コーティングとの間には、直接の架橋は存在しない。
【0153】
下層に関しては、様々なカチオン性ポリマーを使用することができる。カチオン性ポリマーの例は、ポリアミン(例えば、EP0086187号、Larsson and Golanderに記載されているもの)である。このようなポリマーは直鎖でもよいが、より一般的には分岐鎖ポリマー、又は場合により架橋された超分岐ポリマーである。あるいは、外側コーティング層以外の1又は2以上(例えばすべて)のカチオン性ポリマー層は、カチオン性超分岐ポリマー分子を含んでよく(例えば、生成されてよく)、これらは外側コーティング層に使用されたものと同じか又は同様である。場合により、これらは架橋されてもよい。
【0154】
コーティング法は、基本的にEP−B−0495820号に記載されるように行われ、この場合、外側コーティング層のみが抗凝固物質を含む。
【0155】
しかしながら、外層がアニオン性ポリマーである場合、アニオン性ポリマーが、後述するように、カチオン性超分岐ポリマーと結合され、それに1又は2以上の抗凝固物質(但し、これはまだ正味の正電荷を維持している)が結合されるように、あるいは、アニオン性ポリマーが、抗凝固物質上の官能基と反応することができる官能性末端基を有するカチオン性超分岐ポリマーと結合され、上記したように、共有結合性リンカー部分が生成されるように、EP−B−0495820号の方法が修飾されてもよい。
【0156】
ある実施態様において、積層コーティングのうち、外側コーティング層以外の1又は2以上の層が、カチオン性超分岐ポリマー分子を含んでなり、前記カチオン性超分岐ポリマー分子が、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)誘導体化されていてもよい(例えば、1又は2以上の抗凝固物質で誘導体化されていてもよい)官能性末端基を有することを特徴とする、デバイスが提供される。
【0157】
本発明のある実施態様において、下層がカチオン性ポリマーを含む場合、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有すること、を特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含むことができる。この実施態様において、これらのカチオン性超分岐ポリマー分子は、外側コーティング層で使用されたもの(但し、抗凝固物質は結合していない)と同じでもよいし、異なる超分岐ポリマー分子でもよい。いずれにしても、カチオン性超分岐ポリマー分子の例は、外側コーティング層の調製に使用できるカチオン性超分岐ポリマー分子に関連して本明細書の別の場所で記載されたものを含む。
【0158】
例えば、カチオン性ポリマーを含むすべての下層は、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有することを特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含むことができる。
【0159】
アニオン性ポリマーはまた、正味の負電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマーでもよい。
【0160】
ある実施態様において、下層がアニオン性ポリマーを含む場合、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有することを特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含むことができ、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上は、それに共有結合したアニオン性抗凝固物質を有し、従って分子に正味の負電荷を付与する。
【0161】
例えば、アニオン性ポリマーを含むすべての下層は、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有することを特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含むことができ、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上は、それに共有結合したアニオン性抗凝固物質を有し、従って分子に正味の負電荷を付与する。
【0162】
ある実施態様において、デバイスの表面上のコーティングの層はすべて、(a)(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有することを特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子、あるいは(b)(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有すること、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上が、それに共有結合したアニオン性抗凝固物質を有し、従って分子に正味の負電荷を付与する、を特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含んでなる。
【0163】
この1つの利点は、コーティングの層の異なる成分の数を最小にできることである。
【0164】
第1のコーティング層(すなわち最も内部の層)を適用する前に、接着及び表面被覆率を改良するためにデバイスの表面を洗浄してもよい。適切な洗浄剤としては、エタノール又はイソプロパノール(IPA)等の溶媒、高いpHを有する溶液、例えばアルコールと水酸化物化合物(例えば、水酸化ナトリウム)の水溶液との混合液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、Piranha(アンモニウムと過酸化水素)、酸性Piranha(硫酸と過酸化水素との混合液)、及び他の酸化剤、例えば硫酸と過マンガン酸カリウムとの組合せ、又は異なる種類のペルオキシ硫酸又はペルオキシ二硫酸溶液(また、アンモニウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩としても)が挙げられる。
【0165】
このように、本発明の一態様は、表面コーティングを有するデバイスであって、表面コーティングが、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの1又は2以上のコーティング二重層を含み、コーティングの外側コーティング層が、(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること、及び(iv)官能性末端基を有すること、ここで、前記官能性末端基の1又は2以上は、それに共有結合した抗凝固物質を有する、を特徴とする、複数のカチオン性超分岐ポリマー分子を含んでなる、デバイスである。
【0166】
外側コーティング層の形成
上記で簡単に記載したように、ヘパリン成分又は他の抗凝固物質は、超分岐ポリマー分子がデバイスの表面に適用される前に又は後に、超分岐ポリマー分子に結合させることができる。外側コーティング層が適用されるデバイスの表面は、場合により1又は2以上の下層を含有してもよい。図7を参照されたい。
【0167】
したがって、本発明のさらなる態様において、上記のデバイスの製造のための方法であって、
i.各超分岐ポリマー分子が複数の抗凝固物質に共有結合するように、超分岐ポリマー分子の複数の官能性末端基に抗凝固物質を反応させること、及び
ii.超分岐ポリマー分子をデバイスの表面に結合させること
を任意の順序で含んでなる方法が提供される。
【0168】
上記したように抗凝固物質は、共有結合を介して超分岐ポリマー分子に結合され、ある場合には、超分岐ポリマー分子と抗凝固物質との間に共有結合を形成するための適切な官能基を形成するために、工程(i)の前に、超分岐ポリマー分子及び/又は抗凝固物質を修飾する追加の工程を行うことが必要になる可能性がある。
【0169】
超分岐ポリマー分子及び/又は抗凝固物質を修飾するための適切な共有結合及び方法は、上記で詳述されている。上記したように、リンカーは場合により、スペーサーにより表面及び/又は抗凝固物質から分離してもよい。すなわち、この方法は場合により、スペーサーの提供による表面及び/又は抗凝固性成分の修飾を含んでよい。
【0170】
上記方法の最初の工程が工程(i)である場合、抗凝固物質を超分岐ポリマー分子に結合させる方法は、溶液中で適切な反応条件下で、適切な溶媒、例えばTHF、DCM、DMF、DMSO、IPA、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物を含む水を用いて行うことができる。
【0171】
上記方法の第2の工程が工程(i)である(すなわち、上記方法の第1の工程が工程(ii)である)場合、デバイスの外側コーティング層は、通常、抗凝固物質の溶液と適切な反応条件下で接触させられる。抗凝固物質のための適切な溶媒は、例えばIPA、エタノール、THF、DMF、DMSO、DCM、及び特にこれらの混合物を含む水である。
【0172】
ある実施態様において、上記したように、2又は3以上の超分岐ポリマー分子が架橋により凝集していてもよい。
【0173】
すなわち、上記方法はさらに、2又は3以上の超分岐ポリマー分子を互いに架橋させる追加の工程を含んでよい。2又は3以上の超分岐ポリマー分子は、超分岐ポリマー分子が1又は2以上の抗凝固物質で官能化される前又は後に、架橋により凝集されてもよい。架橋が行われる順序は、デバイス、例えばデバイスの形状に依存するであろう。好ましくは、架橋は、官能化の後に行われる。さらに、この架橋工程は、デバイスの表面への超分岐ポリマー分子の結合の前又は後に行ってもよい。
【0174】
上記方法はまた、1又は2以上の超分岐ポリマー分子をデバイスの表面に架橋する工程を含んでよい。例えば、外側コーティング層上で1又は2以上の抗凝固物質が結合した超分岐ポリマー分子はまた、他のコーティング層の下の層のカチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーに架橋されてもよい。
【0175】
この架橋工程は、上記した工程(ii)の一部でもよく、あるいは、デバイスの表面への超分岐ポリマー分子の接着を強化し、コーティングの安定性を増強するために、架橋工程は工程(ii)の後に行われてもよい。
【0176】
誘導体化前に、2又は3以上の超分岐ポリマー分子間で又は超分岐ポリマー分子と表面間で、必要な架橋が行われる場合、適切な数の抗凝固物質の結合を可能にするように、充分な遊離官能基が超分岐分子上に残っていることを確実にする必要がある。あるいは、最初に誘導体化が行われる場合、誘導体化の程度は、必要な架橋のために、遊離官能基が残存する程度のものでなければならない。
【0177】
一般的に、工程(i)を工程(ii)の前に行うことは、超分岐ポリマー分子に結合される抗凝固物質の量を制御することが容易にあり、さらに、特に反応が上記したように溶液中で行われる場合には抗凝固物質の廃棄が最少になるため、好ましい。
【0178】
本発明の一態様では、上記方法により得られるデバイスが提供される。
本発明の別の態様は、非血栓形成性デバイスであって、
(a)デバイスを処理して、
(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、
(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、及び
(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること
を特徴とするとともに、官能性末端基を有することを特徴とするカチオン性超分岐ポリマー分子を含む外側コーティング層を備える表面コーティングを形成し;
(b)前記官能性末端基のうちの1又は2以上を、超分岐カチオン性ポリマーの反応性官能基と反応できる基を有するように官能化されている抗凝固物質の分子と反応させ、
これにより、抗凝固物質を超分岐カチオン性ポリマーに結合させることを含んでなる方法により得られる、デバイスである。
【0179】
本発明の別の態様は、非血栓形成性デバイスであって、
(a)デバイスを処理して、正電荷ポリマー表面層を形成し、
(b)前記ポリマー表面層に、
(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、
(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、及び
(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること
を特徴とするとともに、多数(例えば、利用できる官能性末端基の数に依存して、2又は10又は50又は100又は500又はそれ以上)の負電荷抗凝固物質(例えばヘパリン成分)を有することを特徴とする、正味の負電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマー分子を結合させることを含んでなる方法により得られるデバイスである。
【0180】
本発明の別の態様は、非血栓形成性デバイスであって、
(a)デバイスを処理して、負電荷ポリマー表面層を提供し、
(b)前記ポリマー表面層に、
(i)分子量14〜1,000Daのコア部分を有すること、
(ii)総分子量が1,500〜1,000,000Daであること、及び
(iii)総分子量の、コア部分の分子量に対する比が、少なくとも80:1(例えば、少なくとも100:1)であること
を特徴とするとともに、1又は2以上の負電荷抗凝固物質(例えばヘパリン成分)を有することを特徴とする、正味の正電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマー分子を結合させることを含んでなる方法により得られるデバイスである。
【0181】
例えば、このデバイスは、アニオン性ポリマー(例えばデキストラン硫酸等の多糖)、その誘導体、又は正味の負電荷を有する官能化カチオン性超分岐ポリマーを含む表面を提供するように処理される。
【0182】
架橋
本明細書に記載されるように、外側コーティング層の超分岐ポリマー分子は場合により、外側コーティング層の他の超分岐ポリマー分子に架橋されるか、又は下層の分子(例えば、超分岐ポリマー分子)に架橋されてもよい。下層のポリマー分子は、場合により架橋されてもよい。
【0183】
これらの目的に使用される適切な架橋剤は、必要な結合化学に従って選択されるであろう。原理的には、任意の二官能性、三官能性又は多官能性の架橋剤、例えば官能化PEG及びジェファーミン(Jeffamine)を使用することができる。アミンの架橋のためには、二官能性アルデヒド、例えばクロトンアルデヒド又はグルタルアルデヒドを使用することが適切であろう。ある場合にはエピクロロヒドリンが有用かもしれない。
【0184】
架橋は、外側コーティング層の超分岐ポリマー分子の官能性末端基と、外側コーティング層又は下層の分子(例えば、超分岐ポリマー分子又はカチオン性もしくはアニオン性ポリマー分子)の別の超分岐ポリマー分子の官能性末端基との間に、共有結合を形成することができる。このような架橋は、適切には、抗凝固物質を含まない。すなわち、適切には、抗凝固物質は、1つの超分岐ポリマー分子への共有結合的連結をするのであって、任意の他の分子に対してではない。適切には、1つの超分岐ポリマー分子の他の超分岐ポリマー分子への架橋は、抗凝固物質への連結に関与しない超分岐ポリマー分子上の官能性末端基の使用を含む。ある実施態様において、架橋に使用されるこの官能基は、超分岐ポリマー分子の元々の官能性末端基の再官能化により形成される。
【0185】
デバイス
デバイスは、抗凝固物質を結合させることが好ましい任意のデバイスであることができ、例えば医療デバイス、分析デバイス、又は分離デバイスであることができる。
【0186】
本発明の目的において、用語「医療デバイス」は、埋め込み型又は非埋め込み型デバイスを示すが、より一般的には、埋め込み型医療デバイスを示す。永続的又は一時的埋め込み型医療デバイスでもよい埋め込み型医療デバイスの例としては、カテーテル、ステント(分岐ステント、バルーン延伸性ステント、自己延伸性ステント、分岐ステントグラフトを含むステントグラフトを含む)、血管グラフトを含むグラフト、分岐グラフト、人工血管、血管留置モニタリングデバイス、人工心臓弁、ペースメーカー電極、ガイドワイア、心臓リード、心肺バイパス回路、カニューレ、プラグ、ドラッグデリバリーデバイス、バルーン、組織パッチデバイス、及び血液ポンプが挙げられる。非埋め込み型医療デバイスの例は、体外デバイス、例えば体外血液処理デバイス、及び輸血デバイスである。
【0187】
デバイスは、特に神経、抹消、心臓、整形、皮膚、及び婦人科への応用を有する。
【0188】
医療デバイスは、1又は多数のコーティング層を有することができ、用語「外側コーティング層」は、デバイスが患者内に埋め込まれるか又は使用される時、患者の組織と接触するか、又は体液(例えば血液)と接触するコーティング層を意味する。すなわち、外側コーティング層は、中空のデバイス又はステント等の開いた構造のデバイスの外表面及び/又は内表面上のコーティング層であることができる。
【0189】
分析デバイスは、例えばクロマトグラフィー、又は免疫アッセイ、反応化学、又は触媒反応等の分析法を行うのための固相支持体であることができる。このようなデバイスの例としては、スライド、ビーズ、ウェルプレート、膜などが挙げられる。分離デバイスは、例えばタンパク質精製、アフィニティークロマトグラフィー、又はイオン交換等の分離法を行うのための固相支持体であることができる。このようなデバイスの例としては、フィルター、カラムなどが挙げられる。医療デバイスと同様に、分析デバイス又は分離デバイスも多数のコーティング層を有することができ、用語「外側コーティング層」は、分析、分離、又は取り扱うべき物質と接触することになるコーティング層を意味する。
【0190】
幾つかの場合には、コーティングの性質を調整することが好ましく、この場合、抗凝固物質以外に1又は2以上の追加の物質が、超分岐ポリマーに結合されてもよい。例えば、超分岐ポリマーの親水性を上昇させることが望まれる場合、追加の物質は1又は2以上のPEG鎖を含むことができる。
【0191】
本明細書において、用語「PEG鎖」は、エチレンオキサイドの重合により得られるポリマー鎖、典型的には分子量が102〜106Daのものを意味する。
【0192】
デバイスのコーティングは、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの交互の層を含んでよい。カチオン性ポリマーは直鎖ポリマーでもよいが、より一般的には、分岐鎖ポリマー、超分岐ポリマー、又は複数の(カチオン性)超分岐ポリマー分子を含むポリマーであり、ここで、外側コーティング層には、その官能性末端基を介して、超分岐ポリマー分子に共有結合する1又は2以上の抗凝固物質が存在する。
【0193】
すなわち、本発明のある実施態様において、外層と同じか又は同様の超分岐ポリマー分子から、外層以外の1又は2以上のコーティングの層が形成され得る。このような副層(sub-layer)の特徴は、外層について記載されている通りである(実施例2.2及び3.3を参照)。
【0194】
デバイスは、特に金属、又は合成もしくは天然の有機もしくは無機ポリマー、又はセラミック材料を含むか、あるいは、これらから形成される。
【0195】
すなわち、デバイスは、例えば合成もしくは天然の有機もしくは無機ポリマーもしくは材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、多糖、ポリアミド、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セルロース、シリコーンもしくはゴム(ポリイソプレン)、プラスチック材料、金属、ガラス、セラミック、及び他の公知の医療材料、又はこのような物質の組合せから形成されてよい。他の適切な基体材料は、フルオロポリマー、例えば延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレン−プロピレン(FEP)、パーフルオロカーボンコポリマー、例えばテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル(TFE/PAVE)コポリマー、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)とのコポリマー、及び上記の組合せを含み、ポリマー鎖の間には架橋があっても無くてもよい。
【0196】
適切な金属は、ニッケルチタン合金(Nitinol)、ステンレス鋼、チタン、コバルトクロム、金、及び白金を含む。Nitinolとステンレス鋼が好ましい。チタンもまた好適である。
【0197】
より一般的には、適切な金属は、金属材料及び合金、例えばコバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、コバルトクロム合金L−605、MP35N、MP20N、タンタル、ニッケル−チタン合金、ニチノール、白金−インジウム合金、金、マグネシウム、及びこれらの組合せを含む。
【0198】
滅菌例えばエチレンオキサイド(EO)滅菌後に非血栓形成性を保持するように、抗凝固物質(例えば、ヘパリン又は他のヘパリン成分)が結合したコーティング表面が好ましい。
【0199】
滅菌は、当業者に公知の方法により行うことができる。好適な滅菌法は、エチレンオキサイドガスを使用する。あるいは、放射線照射が、対象物又はコーティング又はその両方を分解しない場合は、放射線照射(例えば、電子線又はガンマ線照射)等の他の方法を使用してもよい。
【0200】
本発明の好適な実施態様は、解剖学的部位への埋め込み、例えば永続的埋め込み、又は他の設置のための、コーティングされた医療デバイスに関する。他の好適な実施態様は、カテーテル及び体外回路のような一時的使用デバイスを含む。例えば、解剖学的構造を強化するか又は空隙スペースを維持するための、空隙スペース又は管腔を定める解剖学的構造内に設置される無菌(例えば滅菌された)医療デバイスである。適切には、結合された抗凝固物質、例えばヘパリン又は他のヘパリン成分は、あまり溶出せず、デバイスとともにとどまる。例えば試験前にNaCl(0.15M)で15時間洗浄後、保持されたAT結合能力は充分な(例えば、1又は2又は4又は5又は10pml/cm2)ままであり、及び/又は、健常ドナーからの新鮮な血液を用いて血液ループ評価試験(実施例6を参照)を行うと、試験後の血液の血小板数の低下は、非コーティング対照のものより本発明のコーティング表面に曝露された血液について、実質的に小さい(例えば、コーティング表面に曝露された血液についての試験後の血小板数の低下は、20%未満、好ましくは15%未満、さらに好ましくは10%未満)。
【0201】
本発明のデバイスの非血栓形成性は、多くの方法で使用される。例えば非血栓形成性は、特に未処理表面を有するデバイスと比較して、高いアンチトロンビン結合能力を有することに関連する。
【0202】
例えば、アンチトロンビン(AT)結合能力が少なくとも1(例えば、少なくとも5)ピコモルAT/平方センチメートル(pmol/cm2)の表面を有するデバイス、例えば医療デバイスの表面が好ましい。ある実施態様において、AT結合能力は、少なくとも6pmol/cm2、少なくとも7pmol/cm2、少なくとも8pmol/cm2、少なくとも9pmol/cm2、又は少なくとも10pmol/cm2である。ある実施態様において、AT結合能力は、少なくとも100pmol/cm2表面である。AT結合能力は、当業者に公知の方法、例えば、Pasche等の文献(「種々の流れ条件下での固定化ヘパリンに対するアンチトロンビンの結合」,Artif. Organs 15:481-491 (1991))及びUS2007/0264308号に記載されている方法により測定することができる。比較のために、Sancezら.,(1997) J. Biomed. Mater. Res. 37(1) 37ー42(図1参照)から、約2.7〜4.8pmol/cm2(実験構成に依存して)又はそれ以上のAT結合値は、血漿との接触で、顕著な血栓形成性酵素活性を発生しないようである。
【0203】
あるいは又はさらに、実施例6に記載された血液ループ評価で示されるように、凝固を抑制する高い能力及び他の防御系のために、表面が非血栓形成性であることが好ましい。この試験では、試験される表面はPVCチューブに適用され、これは、新鮮な血液で試験する前に0.15M NaClで15時間洗浄される。
【0204】
非コーティング対照表面の血栓形成性は、試験後に測定される曝露された血液の血小板数の低下により示される。本明細書に記載の方法に従って調製された表面の非血栓形成性は、血液の血小板数が実質的に低い程度まで低下することにより示される(例えば、コーティング表面に曝露された血液について試験後の血小板数の低下は、20%未満、好ましくは15%未満、及びさらに好ましくは10%未満である)。
【0205】
血栓形成/非血栓形成性を評価するために、当業者は、血液ループモデルとは異なる他の同様の血液評価法を行うことができる。
【0206】
特定の表面積に結合した抗凝固物質の量は、コーティングのための超分岐分子の特定のサイズと量を選択することにより、容易に制御し調整することができる。
表面上の抗凝固物質の分布は、それ自体公知の通常の染色法により測定することができ、例えばヘパリンの分布はトルイジンブルーを使用して測定することができる。
【0207】
コーティング内の有用物質
デバイス、特に医療デバイスの積層コーティングは、抗凝固物質以外に1又は2以上の有用物質を含んでよい。有用物質の例としては、薬剤分子及び潤滑剤が挙げられる。有用物質は、下層又は外側コーティング層に導入してもよい。
【0208】
有用物質は、共有結合によりコーティングに結合され、この結合は、ポリマー表面からの有用物質の移動(すなわち、溶出)が可能となるように分解性であってもよいし、長期持続活性が必要な場合には分解性でなくてもよい。あるいは、これらは、共有結合することなく、コーティング表面上又は表面内(例えば、その層の任意の場所内)に吸着されるか又は取り込まれてよい。
【0209】
医療デバイスでは、抗凝固物質以外に、積層コーティングの超分岐ポリマー(例えば、外側コーティング層の超分岐ポリマー)に薬剤分子を結合させることが適切な場合がある。ある実施態様において、薬物分子とコーティングとの結合は、ポリマー表面からの薬剤分子の移動(すなわち溶出)を可能にする分解性の共有結合である。あるいは薬剤は、共有結合無しで、コーティング表面に吸着されるか又はその中に取り込まれてよい。薬剤はまた、コーティング構成で使用される前に、超分岐ポリマーの空隙中に取り込まれてよい。特に疎水性薬剤は、超分岐ポリマーの疎水性空隙中に取り込まれてよい。この具体的な応用は、薬剤溶出ステントである。この実施態様で使用される薬剤の例は、再狭窄を防止する薬剤、例えば抗血管形成性又は抗増殖性薬剤、例えばパクリタキセル及びシロリムスを含む。別の応用は、溶出性ヘパリン又は他の抗凝固物質の使用である。別の実施態様において、抗凝固物質以外に抗微生物薬剤が、コーティングに結合されてもよい。
【0210】
有用物質がコーティングの分子に共有結合される場合、これは、本明細書に記載のように、抗凝固物質への結合に関与していない官能性末端基を介して、有用物質をカチオン性超分岐ポリマー分子に共有結合させることにより行ってもよい。これらの官能性末端基は、元々の官能基(例えば、第1級アミン)であるか、又は、有用物質に結合する前に官能基を変化させてもよい。有用物質の結合は、抗凝固物質の結合について既に記載したものと同じ方法で行ってもよい。
【0211】
有用物質は、抗凝固物質の結合前に、本発明の超分岐ポリマーに結合してもよいが、より一般的にはこれらは、後で結合されるであろう。
【0212】
より一般的には、デバイス(例えば医療デバイス)の積層コーティングは場合により、以下から選択される少なくとも1つの有用物質を含んでよい:パクリタキセル、タキサン、又は他のパクリタキセル類似体;エストロゲン又はエストロゲン誘導体;ヘパリンもしくは他のトロンビンインヒビター、ヒルジン、ヒルログ、アピラーゼ、アルガトロバン、D−フェニルアラニル−L−ポリ−L−アルギニルクロロメチルケトン、又は他の抗血栓形成性物質、又はこれらの混合物;ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベータ、もしくは他の血栓溶解剤、又はこれらの混合物;繊維素溶解剤;血管痙攣インヒビター;カルシウムチャネルブロッカー、硝酸塩、亜酸化窒素、亜酸化窒素プロモーター、又は別の血管拡張剤;アスピリン、チクロピジン、又は他の抗血小板剤;血管内皮増殖因子(VEGF)又はその類似体;コルヒチン又は他の細胞分裂抑制薬、又は他の微小管インヒビター;サイトカラシン又は他のアクチンインヒビター;リモデリングインヒビター;デオキシリボ核酸、アンチセンスヌクレオチド、又は分子的遺伝介入のための別の物質;細胞サイクルインヒビター(例えば、網膜芽腫抑制遺伝子のタンパク質生成物)、又はこれらの類似体、GPIIb/IIIa、GPIb−IX、又は他のインヒビターもしくは表面糖タンパク質受容体;メソトレキセート、又は他の代謝拮抗物質又は増殖抑制剤;抗癌化学療法剤;デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸デキサメタゾン、もしくは他のデキサメタゾン誘導体、又は他の抗炎症ステロイド;プロスタグランジン、プロスタサイクリン、又はこれらの類似体;免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン又はラパマイシン(シロリムスとしても知られている)及び類似体);抗微生物剤(例えば、ジアミジン、ヨウ素とヨードフォア、ペルオキシゲン、フェノー類、ビスフェノール、ハロフェノール、ビグアナイド、銀化合物、トリクロサン、クロルヘキシジン、トリクロカルバン、ヘキサクロロフェン、ジブロモプロパミジン、クロロキシレノール、フェノール、及びクレゾール、又はこれらの組み合わせ)、抗生物質、エリスロマイシン又はバンコマイシン;ドーパミン、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、又は別のドーパミンアゴニスト;又は他の放射線治療剤;放射線不透過性物質として機能するヨウ素含有化合物、バリウム含有化合物、金、タンタル、白金、タングステン、又は他の重金属;ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外基質成分、細胞成分、又は他の生物学的製剤;カプトプリル、エナラプリル、又は別のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アスコルビン酸、アルファトコフェロール、スーパーオキシドジスムターゼ、デフェロキシアミン、21ーアミノステロイド(ラサロイド)、又は別のフリーラジカルスカベンジャー、鉄キレート剤や酸化防止剤;アンギオペプチン;14C−、3H−、131I−、32P、もしくは36S−放射標識型、又は上記のいずれかの他の放射性標識型;又はこれらの任意の混合物。
【0213】
デバイスの表面に取り込むことができるさらなる有用物質は、例えば、水溶性にする極性又は荷電官能基を含有する親水性ポリマー又はヒドロゲルポリマー等のポリマーを含む潤滑剤を含む。これらの物質は、溶液中の水分子に対する親和性を有する極性基を取り込み、広くヒドロゲルとして分類される。コーティングに、抗凝固物質以外に潤滑剤を付加することが適切であり得る。ある実施態様において、潤滑剤と外側コーティング層との間の結合は共有結合であってもよい。あるいは、潤滑剤は共有結合せずに、イオン的に又は物理的に、コーティング表面に吸着されるか又は取り込まれる。潤滑剤の例は、特に限定されないが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリ−N−ビニルピロリドン誘導体、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、シリコン、シリコン誘導体、多糖、多糖誘導体、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン誘導体、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン誘導体、ポリオキサゾリン、ポリオキサゾリン誘導体、ポリアミン、ポリアミン誘導体、及びこれらの組み合わせである。そのような有用物質は、例えば、外側コーティング層上の超分岐ポリマー分子に共有結合されてもよい。
【0214】
デバイスがいくつかの表面を有する時、有用物質は有益な効果を達成するのに適した表面に取り込まれ得る。例えば有用物質は、管腔側と非管腔側のいずれか又は両方の上で管状デバイスの表面に取り込まれ得る。2以上の有用物質が取り込まれる場合、異なる有用物質を、同じ表面に、又は表面の一部に、又は異なる表面に、又は表面の一部に取り込まれ得る。
【0215】
本発明のデバイスは、少なくともいくつかの実施態様において、以下の利点のうちの1又は2以上を有し得る:
− 最外層に結合される物質の量が制御できる;
− 物質(例えばヘパリン)の末端点(一点)結合と多点結合の両方が達成できるが、末端点(特に還元末端点)結合が好ましい;
− 物質と超分岐ポリマーとの間の共有結合的連結(リンカーとスペーサー)の長さが制御できる;
− 完全長ヘパリンが使用でき、従ってヘパリンの切断を避け、従ってヘパリン原料の使用が最適化される;
− 完全長ヘパリン又はスペーサーを介して結合したヘパリンの使用は、結合ヘパリンの生物活性を改良できる;
− 外側コーティング層全体の上での物質の均一な分布を得ることができる;
− その製造用材料に無関係に、デバイスの固有の性質(例えば血栓形成性を低下させる)を隠す均一なコーティングが得られる;
− 比較的平滑で潤滑性のコーティングが得られる;
− 抗凝固物質のバイオアベイラビリティが制御でき改良できる;
− 非血栓形成性コーティングはヘパリンを浸出させず、従って長い寿命が得られる;
− エージングでその性質が保持されるコーティングが得られる;
− 滅菌(例えば、EOによる)でその性質が保持されるコーティングが得られる;
− 層間のイオン性相互作用の可逆的形成の可能性のために、自己修復性コーティングが得られる;
− あらかじめ作成した成分を使用することにより、コーティング調製のための工程の数が最小にできる;
− あらかじめ作成した成分を使用することにより、強固な製造方法が得られる;
− ヘパリンと共有結合したあらかじめ調製された結合体がコーティング形成プロセスで使用されるコーティングが調製される;
− 調製されたコーティングの生体適合性が増強され得る;
− 本発明のコーティングは、全身性ヘパリンの必要性を低下させ、接触活性化の確率を低下させ得る;
− いくつかの応用(例えば、神経血管応用)で有用となり得る潤滑性と血栓抵抗性の組合せを有する医療デバイス;
− いくつかの応用(例えば、薬剤溶出ステント及び薬剤溶出液バルーン)で有用となり得る薬剤溶出性と血栓抵抗性の組合せを有する医療デバイス;
− いくつかの応用(例えば、心血管応用)で有用となり得る抗炎症性と血栓抵抗性の組合せを有する医療デバイス;
− 生物学的分子に対する改良された結合能力を有する分析デバイス又は分離デバイスが得られる;及び
− ヘパリン活性寿命が延長された分析デバイス又は分離デバイスが得られる。
【0216】
本発明は、特に限定されないが、以下の実施例により例示される。
【実施例】
【0217】
すべてのルパゾール(Lupasol)試料はBASFから購入した。ルパゾール(登録商標)WF(エチレンジアミンコア)は、光散乱法により測定すると、25kDaの平均分子量を有する。デキストラン硫酸は、pK Chemicals A/S (PKC)から購入し、PAMAMデンドリマー(エチレンジアミンコア)はSigma Aldrich及びDendritechから購入した。PAMAM−G6.0−NH2は、分子量が約60kDaのPAMAMデンドリマー(第6世代)である。PAMAM−G8.0−NH2は、分子量が約230kDaのPAMAMデンドリマー(第8世代)である。PPI G5デンドリマー(ブタン−1,4−ジアミンコア)は、Aldrichから購入した。PPI G5は、分子量が約7kDaのデンドリマー(第5世代)である。ポリアミンであるエポミン(Epomin)P-1050(エチレンジアミンコア)は、Nippon Shokubaiから購入し、70kDaの平均分子量を有する。ポリアミンG−35は、Wuhan Bright Chemicalsから購入し、70kDaの平均分子量を有する。すべてのポリアミンストック溶液は、5重量%水である。デキストラン硫酸ストック溶液は、6重量%水であった。次にこれらの溶液は、使用前に適宜希釈した。各プロセスの工程毎に、適宜水洗した。
【0218】
実施例の見出し
1.下層の調製
2.外側コーティング層中に超分岐ポリマーを含む非血栓形成性コーティングの調製
3.外側コーティング層中にあらかじめ調製したヘパリン官能化超分岐ポリマーを含む非血栓形成性コーティングの調製
4.誘導体化ヘパリン物質
5.誘導体化超分岐ポリマー
6.ヘパリン密度と血小板喪失の評価
7.中間体の調製
8.親水性かつ潤滑性コーティングの調製
9.薬剤溶出コーティングの調製
10.生体適合性試験
11.超分岐ポリマーを含むEO滅菌コーティングの血液適合性
【0219】
[実施例1]下層の調製
実施例1.1:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層の調製
EP−B−0086186号とEP−495820号中のLarmらにより記載された方法を使用して、硫酸化多糖の層で終わるPVC表面を前処理した(層対層;高分子電解質電荷相互作用)。
【0220】
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、硫酸化多糖の層で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0221】
実施例1.2:ルパゾール(登録商標)WFを含む下層の調製
EP−B−0086186号とEP−495820号中のLarmらにより記載された方法を使用して、硫酸化多糖の層で終わるPVC表面を前処理した(層対層;高分子電解質電荷相互作用)。
【0222】
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)WF、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、硫酸化多糖の層で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0223】
実施例1.3:PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む下層の調製
金(QSX301、Q-Sense)で覆ったQuartz Crystal Microbalance(QCM)結晶を、実施例1.1に従って、メタノール中5重量%のPAMAM−G6.0−NH2(1mL/L)を使用して被覆して、PAMAM−G6.0−NH2と硫酸化多糖(6重量%水)の交互の層からなる3つの二重層コーティングを得た。ポリアミンを2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)で架橋した。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。金表面を、硫酸化多糖で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0224】
実施例1.4:ルパゾール(登録商標)SKとヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む下層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SK、5重量%水、10分間)と負電荷PAMAM−ヘパリン結合体(400mg/L、実施例5.2から、20分間)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンとPAMAM−ヘパリン結合体との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、実施例5.2からのPAMAM−ヘパリン結合体で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0225】
実施例1.5:ルパゾール(登録商標)WFとヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを使用する下層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)WF、5重量%水、10分間)と負電荷PAMAM−ヘパリン結合体(400mg/L、実施例5.2から、20分間)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンとPAMAM−ヘパリン結合体との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、実施例5.2からのPAMAM−ヘパリン結合体で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0226】
実施例1.6:G−35を含む下層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(G−35、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、硫酸化多糖の層で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0227】
実施例1.7:ルパゾール(登録商標)SKを使用する下層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SK、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、硫酸化多糖の層で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0228】
実施例1.8:エポミン(Epomin)P−1050を使用する下層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(エポミンP−1050、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、硫酸化多糖の層で終わる3つの二重層で下塗りした。
【0229】
[実施例2]外側コーティング層中に超分岐ポリマーを含む非血栓形成性コーティングの調製
実施例2.1:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
ルパゾール(登録商標)WFの溶液(5重量%)を、実施例1.1からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0230】
実施例2.2:ルパゾール(登録商標)WFを含む下層上の、ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
ルパゾール(登録商標)WFの溶液(5重量%)を、実施例1.2からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0231】
実施例2.3:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PAMAM−G6.0−NH2の溶液(5重量%)を、実施例1.1からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0232】
実施例2.4:PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む下層上の、PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PAMAM−G6.0−NH2の溶液(5重量%)を、実施例1.3からのあらかじめ作成したコーティング表面に、30分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0233】
実施例2.5:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、G−35を含む外側コーティング層の調製
G−35の溶液(5重量%)を、実施例1.1からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0234】
実施例2.6:G−35を含む下層上の、G−35を含む外側コーティング層の調製
G−35の溶液(5重量%)を、実施例1.6からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0235】
実施例2.7:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、10重量%ルパゾール(登録商標)WFと90重量%のルパゾール(登録商標)SNとを含む外側コーティング層の調製
10重量%のルパゾール(登録商標)WF(5重量%溶液)と90重量%のルパゾール(登録商標)SN(5重量%溶液)との混合液を、実施例1.1からのあらかじめ作成した表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0236】
実施例2.8:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、10重量%ルパゾール(登録商標)WFと90重量%ルパゾール(登録商標)SKとを含む外側コーティング層の調製
10重量%のルパゾール(登録商標)WF(5重量%溶液)と90重量%のルパゾール(登録商標)SK(5重量%溶液)との混合液を、実施例1.7からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0237】
実施例2.9:ルパゾール(登録商標)SKを含む下層上の、ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
ルパゾール(登録商標)WFの溶液(5重量%)を、実施例1.7からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0238】
実施例2.10:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、エポミンP−1050を含む外側コーティング層の調製
エポミンP−1050の溶液(5重量%)を、実施例1.1からのあらかじめ作成したコーティング表面に10分間吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成した非血栓形成性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、その非血栓形成性を評価した。
【0239】
実施例2.11:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
ルパゾール(登録商標)WFの溶液(5重量%水)を、基本的に実施例1.1に記載した下層に吸着させて、正電荷表面を得た。次に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(23.35mg/L)を使用して室温で60分間、ヘパリンナトリウム(325mg/L)を正電荷層に結合させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄により、ゆるく結合したヘパリンを除去した後、コーティングの非血栓形成性を評価した。
【0240】
実施例2.12:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、アピラーゼ官能化ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
ジャガイモ由来のアピラーゼ(≧200単位/mgタンパク質)は、Sigma Aldrichから購入した。アピラーゼ中のカルボキシル含量は、Aminosyraanalyscentralen, Swedenにより行われたアミノ酸分析に基づき、1モルのアピラーゼ当たり約90モルのCOOHであると算出された。アピラーゼ等の非血栓形成性剤中のカルボキシル基は、基本的に実施例2.11に記載したようにEDC、又はEDC様試薬を使用して、カルボキシル基をアミン含有超分岐ポリマーに連結するのに使用し得る。
【0241】
[実施例3]外側コーティング層中にあらかじめ調製したヘパリン官能化超分岐ポリマーを含む非血栓形成性コーティングの調製
実施例3.1:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、3つの二重層とルパゾール(登録商標)SNの1つの層とで下塗りした。実施例5.2からのヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー(150mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)SNコーティング上に1時間沈積させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄を行って、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0242】
実施例3.2:ルパゾール(登録商標)SK、ルパゾール(登録商標)WF、及びヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む下層上の、ヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SK、5重量%水)と負電荷PAMAM−ヘパリン結合体(400mg/L、実施例5.2から)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンとPAMAM−ヘパリン結合体との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、記載したように(また、実施例1.4も参照)3つの二重層で下塗りし、次にルパゾール(登録商標)WFの1つの層で下塗りした。実施例5.2からのヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー(400mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)WFコーティング上に20分間沈積させ、次に水洗して、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0243】
実施例3.3:ルパゾール(登録商標)WFとヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む下層上の、ヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)WF、5重量%水)と負電荷PAMAM−ヘパリン結合体(400mg/L、実施例5.2から)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンとPAMAM−ヘパリン結合体との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、記載したように(また、実施例1.5も参照)3つの二重層で下塗りし、次にルパゾール(登録商標)WFの1つの層で下塗りした。実施例5.2からのヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー(400mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)WFコーティング上に20分間沈積させ、次に水洗して、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0244】
実施例3.4:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、3つの二重層とルパゾール(登録商標)SNの1つの層とで下塗りした。実施例5.2からのヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー(425mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)SNコーティング上に1時間沈積させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄を行って、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0245】
実施例3.5:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ヘパリン官能化ルパゾール(登録商標)WFを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、3つの二重層とルパゾール(登録商標)SNの1つの層とで下塗りした。実施例5.3からのヘパリン官能化ルパゾール(登録商標)WF(425mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)SNコーティング上に1時間沈積させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄を行って、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0246】
実施例3.6:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ヘパリン官能化PAMAM−G8.0−NH2デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、3つの二重層とルパゾール(登録商標)SNの1つの層とで下塗りした。実施例5.6からのヘパリン官能化PAMAM−G8.0−NH2デンドリマー(425mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)SNコーティング上に1時間沈積させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄を行って、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0247】
実施例3.7:ルパゾール(登録商標)SNを含む下層上の、ヘパリン官能化PPI G5デンドリマーを含む外側コーティング層の調製
PVCチューブ(内径3mm)の管腔表面を、イソプロパノールと酸化剤とで洗浄した。正電荷ポリアミン(ルパゾール(登録商標)SN、5重量%水)と負電荷硫酸化多糖(デキストラン硫酸、6重量%水)との交互の吸着により、下塗りを作成した。2官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)を用いて、ポリアミンを架橋した。ポリアミンと硫酸化多糖との各対は、1つの二重層と呼ばれる。PVC表面を、3つの二重層とルパゾール(登録商標)SNの1つの層とで下塗りした。実施例5.7からのヘパリン官能化PPI G5デンドリマー(425mg/L)を、正電荷ルパゾール(登録商標)SNコーティング上に1時間沈積させ、次にホウ酸塩/リン酸塩洗浄を行って、ゆるく結合したヘパリン結合体を除去した後、コーティングの非血栓形成作用を評価した。
【0248】
[実施例4]誘導体化ヘパリン物質
実施例4.1:アルデヒド末端点官能化ヘパリンの調製
アルデヒド官能化ヘパリンは、基本的にUSP4,613,665号の実施例2に記載のように調製される。
【0249】
実施例4.2:チオール末端点官能化ヘパリンの調製
【化13】
【0250】
アルデヒド基を有する亜硝酸分解ヘパリン(基本的にUSP4,613,665号の実施例2に記載のように調製される)(5.00g,1.0mmol)、塩酸システアミン(0.57g,5.0mmol)、及び塩化ナトリウム(0.6g)を、純水に溶解した。1M NaOH(水溶液)と1M HCl(水溶液)とを用いて、pHを6.0に調整した。この溶液に3.1mlの5%(水溶液)NaCNBH3(0.16g,2.5mmol)を加え、この反応液を室温で一晩攪拌した。1M NaOH(水溶液)を用いてpHを11.0に調整し、得られた生成物を、SpectraPor透析膜(MWCO 1kD,平面時の幅45mm)を用いて純水で3日間透析した。次に反応混合物を濃縮し、凍結乾燥して2.6gの白色の飛散性粉末を得た。
【0251】
実施例4.3:アルキン末端点官能化ヘパリンの調製
アルキン官能化亜硝酸分解ヘパリンは、基本的にWO2010/029189号の実施例3aのように調製される。
【0252】
実施例4.4:アルキン末端点官能化天然ヘパリンの調製
アルキン官能化天然ヘパリンは、基本的にWO2010/029189号の実施例3bのように調製される。
【0253】
実施例4.5:アジド末端点官能化ヘパリンとアジド官能化天然ヘパリンの調製
アジド官能化亜硝酸分解ヘパリンとアジド官能化天然ヘパリンは、基本的にWO2010/029189号の実施例4のように調製される。
【0254】
[実施例5]誘導体化超分岐ポリマー
実施例5.1:アルケン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーの調製
1mLのMeOH当たり3.75mgのNHS活性化5ーヘキセン酸のストック溶液を調製した。NHS活性化アルケンの調製については、実施例7.1を参照されたい。
【0255】
5重量%PAMAM−G6.0−NH2のメタノール溶液2mLを、1mLのストック溶液(3.75mgのNHS活性化5ーヘキセン酸)と9mLのMeOH(0℃)に加えた。反応を一晩進行させた。ロータリーエバポレーターと真空オーブンを使用して溶媒を蒸発させた。高純度の得られた物質を1H NMRと13C NMRとで確認した。官能化程度2%が得られた(5〜6アルケン/デンドリマー)。
【0256】
実施例5.2:保持された比活性を有するヘパリン官能化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーの調製
【化14】
【0257】
実施例4.1からのアルデヒド末端点官能化ヘパリン(5.0g,0.56mmol)を、激しく攪拌しながら15mLの酢酸緩衝液(pH=5.0)に溶解した。5重量%PAMAM−G6.0−NH2(エチレンジアミンコア)のメタノール溶液2mL(80.6mg,1.39 mol)をヘパリン溶液に加え、次に10mLのシアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.5重量%水)を加えた。溶液をドラフトチャンバー中で室温で一晩攪拌した。溶液を透析バッグ(MWCO50,000Da)に移し、完全に透析した。次に透析バッグの内容物を丸底フラスコに移し、一晩凍結乾燥した。フラスコ中の内容物の乾燥重量は830mgであった(約60ヘパリン鎖/PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー、又はPAMAM−G6.0−NH2中の1級アミンの23%官能化)。結合体中のPAMAM結合ヘパリンの比活性は、>100IU/mgと測定された。結合前に、調製に使用されたヘパリンは、約100IU/mgの比活性を有する。
【0258】
実施例5.3:保持された比活性を有するヘパリン官能化ルパゾール(登録商標)WFの調製
ヘパリン官能化ルパゾール(登録商標)WFを、基本的に実施例5.2に記載のように調製した。
【0259】
実施例5.4:アジド官能化ルパゾール(登録商標)WFの調製
アジド官能化ルパゾール(登録商標)WFは、基本的にWO2010/029189号の実施例2a中のルパゾール(登録商標)SNについて記載されたように調製することができる。
【0260】
実施例5.5:アルキン官能化ルパゾール(登録商標)WFの調製
アルキン官能化ルパゾール(登録商標)WFは、基本的にWO2010/029189号の実施例2b中のルパゾール(登録商標)SNについて記載されたように調製することができる。
【0261】
実施例5.6:保持された比活性を有するヘパリン官能化PAMAM−G8.0−NH2デンドリマーの調製
ヘパリン官能化PAMAM−G8.0−NH2を、基本的に実施例5.2に記載のように調製した。
【0262】
実施例5.7:保持された比活性を有するヘパリン官能化PPI G5デンドリマーの調製
ヘパリン官能化PPI G5デンドリマーを、基本的に実施例5.2に記載のように調製した。
【0263】
実施例5.8:官能化超分岐ポリマーの調製
表3から選択される化学基又は官能基(官能基1及び官能基2)を有する超分岐ポリマーは、当業者により調製され得る。表3から選択される化学基又は官能基(官能基1及び官能基2)を有する非血栓形成物質(例えばヘパリン)は、当業者により調製され得る。官能化超分岐ポリマーは、当業者により、官能化非血栓形成物質(例えばヘパリン)と反応することにより、非血栓形成物質(例えばヘパリン)で誘導体化された超分岐ポリマーを与える。
【0264】
[実施例6]ヘパリン密度と血小板喪失の評価
ヘパリン密度試験(コーティング中のヘパリン含量の測定用)
表面固定化ヘパリンの定量は、基本的にSmith R.L. and Gilkerson E (1979), Anal. Biochem., 98, 478-480に記載のように行なった。
トルイジンブルー染色試験(ヘパリン分布の評価用)
ヘパリン分布は、トルイジンブルー染色溶液を使用して評価される。この溶液は、200mgのトルイジンブルーを1Lの水に溶解することにより調製された。試料を染色溶液に2分間曝露した後、多量の水で洗浄した。青/紫染色は、図9のプレートBにより例示されるように、負電荷ヘパリン分子が外側コーティング層中に均一に分布していることを示す。
【0265】
血液ループ評価試験(血小板喪失の測定用)
非血栓形成性表面の保持されたヘパリン生物活性を証明するために、被覆された試料について血液ループ評価を行なった。まず被覆チューブの管腔側を0.15MのNaClで1mL/分の流速で15時間洗浄して、すべてのゆるく結合したヘパリンを洗い流し、安定な表面が残ることを確実にした。次に、洗浄したチューブを、基本的にAnderssonら (Andersson, J.; Sanchez, J.; Edkahl, K.N.; Elgue, G.; Nilsson, B.; Larsson, R. J BIomed Mater Res A 2003, 67(2), 458-466) に従って行なったチャンドラー(Chandler)ループモデルでインキュベートした。新鮮な血液とループから集めた血液の血小板をセルカウンターで計数して、血栓を示す血小板の喪失を測定した。
【0266】
実施例6.1:非血栓形成性表面の血液曝露後のヘパリン密度と血小板喪失から見たコーティング性
【表4】
a 2つの値からの平均
b 「有り」は青/紫染色を意味し、「無し」は全く染色されないことを示す
c あらかじめ調製したヘパリン超分岐結合体の沈積
* PS=多糖
** N/A=該当せず
*** N/T=試験せず
【0267】
血液を非血栓形成性表面コーティングに曝露した後に存在する血小板の数を、血液を非血栓形成性表面コーティングに曝露する前に存在した血小板の数のパーセントとして計算し、図8に種々の試料についてグラフで示される。
【0268】
上記表と図8に見られるように、試験したヘパリン含有コーティングについて、実質的な血小板喪失(血小板喪失は血栓を示す)は見られない。被覆されていないPVCチューブと、硫酸化多糖の外層を有する表面(「凝固対照」)は、この実験で顕著な血栓を示す。
【0269】
実施例6.2:トルイジンブルーを使用する非血栓形成性表面の染色
実施例2.2のチューブをトルイジンブルー染色溶液(200mg/L水)に2分浸漬してこの溶液に付し、次に多量の水で洗浄した。チューブの管腔表面上に青/紫色が観察され、末端点官能化ヘパリンの共有結合を示していた。
【0270】
実施例6.3:トルイジンブルーを使用する非血栓形成性表面の染色
実施例3.2のチューブをトルイジンブルー染色溶液(200mg/L水)に2分浸漬してこの溶液に付し、次に多量の水で洗浄した。チューブの管腔表面上に青/紫色が観察され、PAMAM−ヘパリン結合体中の末端点官能化ヘパリンの共有結合を示していた。PVCチューブの管腔表面の染色は、図9で見ることができる。
【0271】
実施例6.4:トルイジンブルーを使用する非血栓形成性表面の染色
実施例3.3のチューブをトルイジンブルー染色溶液(200mg/L水)に2分浸漬してこの溶液に付し、次に多量の水で洗浄した。チューブの管腔表面上に青/紫色が観察され、PAMAM−ヘパリン結合体中の末端点官能化ヘパリンの共有結合を示していた。
【0272】
[実施例7]中間体の調製
実施例7.1:NHS活性化5ーヘキセン酸の合成
【化15】
【0273】
ヘキセン酸(1.00g,8.76mmol)とヒドロキシスクシンイミド(1.01g,8.76mmol)とを10mLのDCMに溶解し、0℃で攪拌した。DCM(3mL)中のDCC(1.81g,8.76mmol)の溶液を、0℃でゆっくり滴下して反応混合物に加えた。反応物を一晩攪拌し、副産物を濾過して除去した後、残りの溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、オーブン中で真空下で乾燥した。高純度の得られた物質を、1H NMRと13C NMRにより確認した。
【0274】
[実施例8]親水性かつ潤滑性コーティングの調製
実施例8.1:ルパゾール(登録商標)SKとルパゾール(登録商標)WFとを含む親水性かつ潤滑性コーティング
QCM結晶を、実施例1.7に従ってルパゾール(登録商標)SKを使用して被覆して、ルパゾール(登録商標)SKと硫酸化多糖の交互の層からなる3つの二重層を得た。次に、最外層としてカチオン性超分岐ポリマーを有するコーティングを得るために、ルパゾール(登録商標)WFの層を硫酸化多糖に吸着させた。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。これらのコーティングは、接触角(CA)測定を使用して分析された。53.0°(2つの試料の平均)の静的CAは、親水性かつ潤滑性コーティングが得られたことを示した。
【0275】
実施例8.2:ルパゾール(登録商標)SKとルパゾール(登録商標)WFとヘパリンとを含む親水性かつ潤滑性コーティング
QCM結晶を、実施例1.7に従ってルパゾール(登録商標)SKを使用して被覆して、ルパゾール(登録商標)SKと硫酸化多糖の交互の層からなる3つの二重層を得た。次に、ルパゾール(登録商標)WFの層を硫酸化多糖に吸着させ、次に還元剤(シアノ水素化ホウ素ナトリウム、2.5重量%水)を使用して、実施例4.1からの亜硝酸分解ヘパリン(325mg/L)の1時間の結合工程を行なった。各吸着工程の間に、2分間の水洗を行なった。作成された潤滑性コーティングをホウ酸塩/リン酸塩溶液で処理して、イオン結合している可能性のあるヘパリンを除去した後、接触角(CA)測定を使用して評価した。23.5°(2つの試料の平均)の静的CAは、親水性かつ潤滑性コーティングが得られたことを示した。
【0276】
[実施例9]薬剤溶出コーティングの調製
実施例9.1:ヘパリン化コーティングへのドキソルビシンの取り込み
基本的に実施例2.3のように調製されたQCM結晶をドキソルビシンの水溶液(1mg/25mL水)に入れることにより、QCM結晶上のコーティングにドキソルビシンを取り込んだ。この充填工程の後に、水を使用して薬剤充填コーティングを注意深く洗浄し、次にコーティングの蛍光評価を行なった。結晶を真空オーブン中で乾燥後、蛍光評価を行なった。強く赤い蛍光が検出され、ドキソルビシンがうまくコーティング中に取り込まれたことを示した。
【0277】
実施例9.2:ヘパリン化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマー、ルパゾール(登録商標)SK、及びルパゾール(登録商標)WFを含むコーティングへのドキソルビシンの取り込みと以後の放出
基本的に実施例3.2のように調製されたQCM結晶をドキソルビシンの水溶液(1mg/25mL水)に入れることにより、QCM結晶上のコーティングにドキソルビシンを取り込んだ。この充填工程の後に、水を使用して薬剤充填コーティングを注意深く洗浄し、次にコーティングの蛍光評価を行なった。結晶を真空オーブン中で乾燥後、蛍光評価を行なった。強く赤い蛍光が検出され、ドキソルビシンがうまくコーティング中に取り込まれたことを示した。薬剤充填コーティングを2M NaCl溶液に付し、最後の洗浄後、真空オーブン中で乾燥し、さらなる蛍光顕微鏡評価を行なった。赤い蛍光の欠如は、ドキソルビシンがコーティングから溶出したことを示す。
【0278】
実施例9.3:ヘパリン化PAMAM−G6.0−NH2デンドリマーとルパゾール(登録商標)WFを含むコーティングへのドキソルビシンの取り込みと以後の放出
基本的に実施例3.3のように調製されたQCM結晶をドキソルビシンの水溶液(1mg/25mL水)に入れることにより、QCM結晶中にコーティングにドキソルビシンを取り込み、次に、水を使用して薬剤充填コーティングを注意深く洗浄し、次にコーティングの蛍光評価を行なう。強く赤い蛍光は、ドキソルビシンがうまくコーティング中に取り込まれたことを示す。薬剤充填コーティングを2M NaCl溶液に付し、最後の洗浄後、真空オーブン中で乾燥した、さらなる蛍光顕微鏡評価を行なった。赤い蛍光の欠如は、ドキソルビシンがコーティングから溶出したことを示した。
【0279】
[実施例10]生体適合性試験
HDPE(高密度ポリエチレン)上の生体適合性表面の調製
HDPEシート(30cm2,米国薬局方標準品規格)をイソプロパノールと酸化法で洗浄した。次にシートに、硫酸化多糖で終わる3つの二重層で、実施例1のように下塗りした。下塗り層を実施例2のように超分岐ポリマーと反応させ、次に官能化ヘパリンを結合させる結合工程を行なったか、又は実施例3のように、まずポリアミン層と、次に正味の負電荷を有するヘパリン官能化超分岐ポリマーと反応させた。コーティングは、材料をコーティング溶液に浸漬することにより行なった。コーティングは、ISO10993に記載された最小基本培地(MEM)溶出試験を使用して細胞毒性試験で非毒性であることがわかった(実施例10.1を参照)。
【0280】
これらの結果は、評価された表面の非毒性生体適合性を証明する。
【0281】
【表5】
* PS=多糖
a あらかじめ調製したヘパリン超分岐結合体の沈積
【0282】
[実施例11]超分岐ポリマーを含むEO滅菌コーティングの血液適合性
EO滅菌
実施例2又は3に記載のように調製された外側コーティング層中にヘパリン官能化超分岐ポリマーを有する示差的に被覆した基体を、エチレンオキサイド(EO)への曝露による滅菌に付した。EO滅菌は、医療デバイスに使用される標準的滅菌法を使用して行なった。
【0283】
血液ループ評価試験(血小板喪失の測定用)
EO滅菌し洗浄したチューブを、基本的にAndersson et al. (Andersson, J.; Sanchez, J.; Edkahl, K.N.; Elgue, G.; Nilsson, B.; Larsson, R.J BIomed Mater Res A 2003, 67(2), 458-466) に従って行なったチャンドラー(Chandler)ループモデルでインキュベートした。実施例6を参照されたい。以下の表から明らかなように、実施例2と3に従って調製された超分岐ヘパリン結合体を使用して調製されたEO滅菌ヘパリンコーティングについて、実質的に血小板の喪失はなかった(血小板喪失は血栓を示す)。未被覆PVCチューブと凝固対照(アンチトロンビンが結合していない硫酸化多糖の外層を有する表面)は、この実験で顕著な血栓を示す。
【0284】
【表6】
*PC=多糖 **N/T=試験しなかった ***N/A=該当せず
aあらかじめ調製されたヘパリン超分岐結合体の沈積
【0285】
これらの結果は、厳しい滅菌条件への曝露にもかかわらず、本発明に従って調製された安定な表面の非血栓形成性が保持されていることを証明する。
【0286】
本明細書と以下の特許請求の範囲を通して、特に明記しない場合は、用語「含む」及びその変形である「含んでなる」は、記載された整数、工程、整数群又は工程群を含むことを示すが、他の整数、工程、整数群又は工程群を排除するものではない。
【0287】
本明細書を通して言及されたすべての特許及び特許出願は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0288】
本発明は、上記した好適な及びさらに好適な基、そして適切な及びより適切な基、及び基の実施態様のすべての組合せを包含する。
図1
図2
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図10