(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643312
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】窒化/軟窒化されたワークピースを処理する方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20200130BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20200130BHJP
C23C 8/80 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/21 A
C23C8/80
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-503494(P2017-503494)
(86)(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公表番号】特表2017-529240(P2017-529240A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】FR2015051944
(87)【国際公開番号】WO2016012697
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】1457028
(32)【優先日】2014年7月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】アッシュ・ウー・エフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・グランジャン
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・プロスト
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−55489(JP,A)
【文献】
特開昭51−141748(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0087534(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
B23K 9/00 − 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化/軟窒化ワークピースを処理する方法であって、
ワークピースの少なくとも一部の部分に、前記部分の表面層が、部分的にまたは完全に除去され、拡散領域における窒素濃度の分布が低減されるまで、少なくとも1つのレーザービームを、前記部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させて前記ワークピースの表面を照射する第1の段階を実行する段階と、
前記表面層を除去するためにレーザーによって少なくとも処理された前記部分に、前記第1の段階によって露出された下部拡散層が除去され、前記ワークピースの表面における窒素濃度が低減されるように、少なくとも1つのレーザービームを前記部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させて前記ワークピースの表面を照射する、第2の段階を実行する段階と、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の段階について、複数の照射が、0.01mmから0.05mmの範囲の通過間の線間間隔でなされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線間間隔が0.02mmであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の段階について、20kHz及び出力の50%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、300mm/sの進行速度で行われる20Wファイバーパルスレーザーが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の段階について、200kHz及び出力の100%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、1mm/sから10mm/sの範囲の進行速度で行われる20Wファイバーパルスレーザーが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の段階について単一の照射が行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
窒化/軟窒化されたワークピースを溶接する方法であって、
ワークピースの少なくとも一部の部分に、前記部分の表面層が部分的にまたは完全に除去され、拡散領域における窒素濃度の分布が低減されるまで、少なくとも1つのレーザービームを、前記部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させて前記ワークピースの表面を照射する、第1の段階を実行する段階と、
前記表面層を除去するためにレーザーによって少なくとも処理された前記部分に、前記第1の段階によって露出された下部拡散層が除去され、前記ワークピースの表面における窒素濃度が低減されるように、少なくとも1つのレーザービームを前記部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させて前記ワークピースの表面を照射する、第2の段階を実行する段階と、
前記ワークピースの処理された前記部分に溶接を形成する段階と、を含む、方法。
【請求項8】
前記溶接がTIG溶接で形成されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化されたワークピースを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当業者に非常によく知られているように、窒化/軟窒化は、一般に、例えば急冷及び焼き戻しによって既に処理された金属ワークピースの表面内に窒素を拡散させることである。挿入される窒素及び鉄鋼合金の元素とともに形成される窒化物は、例えば、ほとんどの鉄鋼について750ビッカース硬度(HV)から1100HVの表面硬度などの所望の特性をもたらす表面硬化を引き起こす。
【0003】
窒化処理を行うための様々な方法が使用可能であり、例えば、そのうち気体、低圧、塩浴、イオン窒化をあげることができ、これらは排他的なものではない。イオン窒化は、プラズマによって解離された活性ガスの制御された流動によって、オーブン内で真空で行われる。
【0004】
本質的に、窒化層は、その表面において、「コンビネーション層」または「白層」を有し、その内部では、窒素が摩擦を促進する一方で、損耗及び固着に対する耐性も増加させるように非常に高い硬度を有する窒化鉄の形態で結合可能である。およそ5マイクロメートル(μm)から25μmの範囲の厚さとし得るコンビネーション層の下には、下部拡散層が現れ、これは、疲労強度をもたらし、損耗抵抗を強化する。層の組成及び厚さは、問題とする鉄鋼のグレード及び処理パラメータに依存する。
【0005】
窒化は、疲労、損耗及び固着に対する鉄鋼のワークピースの耐性を向上させるために、特に幅広く用いられている。しかし、多孔性及び気泡欠陥が表面層に現れるため、窒素が特に溶接性に対して弊害をもたらす試験結果が得られている。そのため、以前に窒化処理が行われたXC48ワークピースへのタングステン不活性ガス(TIG)溶接及びレーザービーム溶接(LBW)で行われた試験では、窒化が、用いられた方法に関わらず、溶接処理に強く影響するという試験結果が得られた。溶接ビーズは、多数現れた大きな気泡で不均一であった。
【0006】
そのため、窒化または軟窒化されたワークピースを良好な条件で溶接するために、表面層を、溶接が形成されることとなるワークピースの部分において改質することが重要であることが分かった。
【0007】
様々な解決手段、特にストッピングオフまたはレジスト解決手段が、窒化されることとなるワークピースへの溶接を形成するために提案されている。
【0008】
例えば、一般に2つの段階で行う機械的マスキングを行うことが提案されており、その段階の1つは、窒化/軟窒化処理の上流工程で行われ、マスクの配置を伴い、もう1つの段階は、その処理の下流工程で行われ、マスクの除去を伴う。そのような方法は、複雑な形状に対して実行することは困難である。マスクの損耗及びコスト、並びに上流工程の配置及び下流工程の除去処理のコストもまた顕著である。
【0009】
窒化及び軟窒化について、窒素または炭素化合物に対する効果的な障壁を構成する銅系塗装によるマスキングを行うことも、提案されている。しかし、そのような方法は、処理に必要な乾燥時間及び塗装の除去の観点で、実行することはコストを要し、比較的長時間を要する。残留応力が生じる可能性があり、変形を引き起こす可能性があることもまた観察されている。この種類の解決手段は、ガス窒化及び/またはイオン窒化についてのみ可能であり、塩浴窒化には可能でないことにも注意すべきである。
【0010】
改質されることとなるコンビネーション層の領域における旋盤及びミリング型の機械加工処理を行うことが想定される。しかし、そのような処理は、複雑な領域または複数の領域に適用することが困難である。
【0011】
コンビネーション層を単に機械的に除去することでは、拡散領域における窒素の濃度を改善することを可能にすることができず、そのため、良好な溶接品質を保証することができないことも発見されている。
【0012】
特許文献1の教示も参照可能であり、この文献は、溶接処理を行う観点で、基板から表面被覆を除去するために、高エネルギー熱源を使用するクリーニングシステムに関する。
【0013】
この文献は、窒化されたワークピースの処理に関するものではなく、ワークピースの構造を改善するために、コンビネーション層の少なくとも一部を改質するという課題を提起していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2013/050855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、これらの欠点を単純、安全、効果的かつ合理的な方法で解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明が解決することを提案する課題は、窒化/軟窒化されたワークピースの任意の部分について、ワークピースの構造を、溶接処理が例えば任意の周知かつ適切な手段で実施される表面層の領域において改善することによって、容易に溶接と適合できるようにすることである。
【0017】
以下の説明において、「表面層」との用語は、全体または部分的に考慮され、全体または部分的に拡散層を含みうる、少なくともコンビネーション層を意味するものとして使用される。
【0018】
この課題を解決するために、本発明は、窒化/軟窒化ワークピースを処理する方法であって、ワークピースの少なくとも一部の部分に、部分の表面層が、部分的にまたは完全に改質され、拡散領域における窒素濃度の分布が改善されるまで、少なくとも1つのレーザービームを、部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させる第1の段階を実行する段階を含む方法を提供する。
【0019】
本処理方法が、第1の段階において、表面層を改質し、拡散領域内の窒素濃度の分布を改善することを可能にすることは、これらの特徴に起因し、この第1の段階は、処理領域を溶接に適合させるのに十分である。
【0020】
有利な結果は、第1の段階について、複数回の通過が、0.01ミリメートル(mm)から0.05mmの範囲の通過間の線間間隔でなされるときに得られた。線間間隔は、好適には0.02mmである。
【0021】
有利には、表面層を改質し、拡散層内の窒素濃度の分布を改善するという課題を解決するために、約20キロヘルツ(kHz)及び出力の50%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、約300ミリメートル毎秒(mm/s)の進行速度で行われる20ワット(W)ファイバーパルスレーザーが使用される。
【0022】
この基本的な特徴から始めると、拡散層内の窒素濃度の顕著な改善を行うこともまた可能であることが分かった。この目的のために、特に、表面層を改質するためにレーザーによって処理された部分は、下部拡散層における窒素濃度が低減可能となるように、少なくとも1つのレーザービームをこの部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させる第2の段階が実行される。窒素濃度の分布を改善しつつ、拡散層内の窒素含有量を低減するという課題を解決するために、この第2の段階について、20Wファイバーパルスレーザーが、約200kHz及び出力の100%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、1mm/sから10mm/sの範囲の進行速度で行われる。
【0023】
本発明は、窒化/軟窒化ワークピースを溶接する方法であって、ワークピースの少なくとも一部の部分に、この部分の表面層が部分的にまたは完全に改質され、拡散領域における窒素濃度の分布が改善されるまで、少なくとも1つのレーザービームを、この部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させる第1の段階を実行する段階と、ワークピースの処理された部分に溶接を形成する段階と、を含む、方法を提供することは、これらの特徴の帰結である。
【0024】
他の実装例において、溶接方法は、ワークピースの少なくとも一部の部分に、この部分の表面層が部分的にまたは完全に改質され、拡散領域における窒素濃度の分布が改善されるまで、少なくとも1つのレーザービームを、この部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させる第1の段階を実行する段階と、表面層を改質するためにレーザーによって少なくとも処理された部分に、下部拡散層における窒素濃度が低減可能となるように、少なくとも1つのレーザービームをこの部分に渡って少なくとも1回の通過で移動させる第2の段階を実行する段階と、ワークピースの処理された部分に溶接を形成する段階と、を含む。
【0025】
本発明は、添付する図面の図を参照して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】窒化された上面を有し、本発明の方法の第1の段階を実行することによって処理された領域(A)並びに本発明の方法の第1及び第2の段階を実行することによって処理された領域(B)を有する、ワークピースのサンプルを示す。
【
図2】
図2、2A及び2Bは、ワークピースの窒化領域(
図2)、第1の段階を実行することによって処理された領域(A)の窒化領域(
図2A)、及び本発明の両方の段階を実行することによって処理された領域(B)の窒化領域(
図2B)における、深さに対する窒素の割合を示す曲線である。
【
図4】本方法の第1の段階を実行することによって処理された領域を有する窒化表面についてTIG溶接の外観を示す。
【
図5】窒化表面についてTIG溶接を示す内視鏡図である。
【
図6】本方法の第1の段階を実行することによって処理された領域を有する窒化表面についてTIG溶接を示す内視鏡図である。
【
図7】窒化表面についてレーザー溶接を示す内視鏡図である。
【
図8】本方法の第1の段階を実行することによって処理された領域を有する窒化表面についてレーザー溶接を示す内視鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、全体として参照符号1で示されたワークピースの非限定的な例であり、窒化面(1a)を有する。窒化面(1a)において、領域(A)は、本発明の方法の第1の段階を実行することによって処理され、領域(B)は本処理方法の第1の段階及び第2の段階を実行することによって処理されたものである。溶接ビーズ(2)は、ワークピース(1)の長さ全体に渡って、窒化領域(1a)並びに、それぞれ領域A及び領域Bによって特徴づけられた、本発明の方法を1つまたは2つの段階で実行することによって処理された領域の両方において形成されている。
【0028】
本発明の目的は、任意の種類の溶接をこのように処理された領域において行うことができるように、表面層を改質することによって、ワークピース(1)の構造を改善することである。
【0029】
そのため、領域(A)は、第1の段階が行われ、この段階では、少なくとも1つのレーザービームが、表面層が窒化面(1a)のこの領域から完全に除去されるまで、少なくとも1回の通過で移動される。0.01mmから0.05mmの範囲で行われた通過の間の線間間隔、好適には0.02mmの線間間隔で複数回の通過を行ったときに、有利な効果が得られた。この方法は、約20kHz及び出力の50%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、約300mm/sの進行速度で、20Wファイバーパルスレーザーによって行われる。
【0030】
TIG溶接について、
図2、2A及び2Bの曲線並びに
図5及び6の金属組織解析断面を参照する。
図6は、本処理方法の第1の段階を行うことによって処理された領域(A)におけるTIG溶接を示しており、未処理の窒化表面におけるTIG溶接を示す
図5と比較される。
【0031】
レーザー溶接について、
図2、2A及び2Bの曲線並びに
図7及び8の金属組織解析断面を参照する。
図8は、本処理方法の第1の段階を行うことによって処理された領域(A)におけるレーザー溶接を示しており、未処理の窒化表面におけるレーザー溶接を示す
図7と比較される。
【0032】
ワークピース(1)の領域(B)は、前述のように、本発明の方法の第1の段階を行うことによって予め処理されている。
【0033】
次いで、この領域は、下部拡散層内のこの領域における窒素濃度の分布を改善することができるように、レーザービームを少なくとも1回の通過で移動させる第2の段階が行われる。この第2の段階について、異なる設定で同じ20Wファイバーパルスレーザーが用いられた。
【0034】
そのため、レーザーは、約200kHz及び出力の100%に設定され、5mmに焦点をぼかされ、1mm/sから10mm/sの範囲の進行速度で行われる。この第2の段階は、単一の通過で行われる。
【0035】
本方法の2つの段階の間の窒素含有量の追加的な減少を示す
図2Bの曲線を参照する。この窒素の顕著な喪失は、第1の段階の設定で達成することは困難である。
【0036】
これらの様々な試験は、窒化表面に渡って行われた溶接が、気泡(
図5)を通る表面の穴(
図3)を有する不均一に分布された外観を生じたことを示している。
【0037】
これらの金属組織解析断面は、本発明がTIG溶接について、及び、それほどにはないにせよ、レーザー溶接についても良好な実施結果をもたらすことを示す。
【0038】
第2の段階を本方法に組み込むことによって、窒素濃度の分布が改善されることも観察された。この改善は、下部拡散層における窒素含有量の減少を特徴とするものであった。
【0039】
処理が表面層を改質することによってワークピースの構造を改善することは、本発明の方法の特性に起因するものであり、窒化ワークピースの溶接を可能にする結果となる。
【0040】
このレーザー処理は、単一の処理で十分であり、非常に高い精度で、特定の領域または複雑な形状を含むすべての種類のワークピースを処理することを可能にするため、比較的安価である。
【0041】
要約すると、窒化が溶接処理と適合できないという事実を考慮すれば、本処理方法は、第1の段階において表面層を改質し、拡散領域における窒素濃度の分布を改善することを可能にする。良好な実施結果は、TIG溶接についてのみならず、レーザー溶接についても達成された。この第1の段階は、この領域を溶接と適合させるのに十分である。
【0042】
本処理方法の第2の段階において、拡散層内の窒素含有量を低下させつつ、窒素濃度の分布を改善することが可能である。驚くべきことに、また予想外に、拡散領域における窒素濃度の低下は悪い結果、すなわち溶接の品質が悪いという結果となることが分かった。拡散層におけるこの窒素含有量の低下は、特定の用途、例えば、ワークピースの脆性を低減するために重要でありうる。
【符号の説明】
【0043】
1 ワークピース
1a 窒化面
2 溶接ビーズ
A 第1の段階を実行することによって処理された領域
B 第1及び第2の段階を実行することによって処理された領域