【実施例】
【0080】
材料及び方法
組み換え発現クローンの構築
種々のPDGF変異体をコードするDNA配列は、Shanghai Sangon Inc.により合成された。その遺伝子フラグメントを、制限部位XhoI及びEcoRIを介して発現ベクターpMEX9K中にクローン化し(特許ZL02117906.9号を参照のこと)、そしてシーケンシングにより確認した。組換えプラスミドを抽出し、SalI消化により線状化し、そして次に、エレクトロポレーションにより、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)発現株GS115コンピテント細胞を形質転換した。酵母形質転換体を、ヒスチジン欠損MDプレートによりスクリーニングし、そして陽性組換え酵母株を、PCRにより同定した。
【0081】
組み換えタンパク質の誘導発現
組み換え酵母株の単一クローンを、25mlのBMGY培地のフラスコ中に接種し(BMGY培地は、次の通りにして調製した:10gの酵母抽出物粉末及び20gのトリプトンを計量し、700mlの水に溶解し、121℃で20分間オートクレーブ処理し;室温に冷却し、100mlの1Mリン酸カリウム緩衝液、100mlの10×YNB及び100mlの10×GYを添加し、そして4℃で貯蔵した。ここで、10×YNB(13.4%酵母窒素源ベース)、10×GY(10%グリセロール)、1Mリン酸カリウム緩衝液(132mlの1MのK
2HPO
4及び868mlの1MのKH
2PO
4を測定し、リン酸又はKOHにより、pH6.0±0.1に調整し、121℃で30分間オートクレーブ処理し、そして室温で貯蔵した)、酵母抽出物(LP0021)はOXOID Inc.の製品であり、そしてペプトン(211677)は、B&D Inc.の製品である)、220〜250rpm下で28〜30℃で、OD
600=2〜6(約16〜18時間)まで培養し、そして増殖した。25mlの酵母培養物を、1LのBMGYを含むフラスコ中に接種し、そして220〜250rpm下で28〜30℃で、OD
600=2〜6まで培養し、そして増殖し続けた。酵母を、1500〜3000gで5分間、室温での遠心分離により集めた。上清液を除去し、そして酵母を、1LのBMMY培地により再懸濁し、発現誘導を開始した。誘導温度は28℃であり、そして回転速度は220rPmであった。メタノールを、最終濃度が0.5%になるまで、24時間ごとに添加し、そして誘導時間は72時間であった。誘導の完結の後、組み換えタンパク質を含む上清液を、室温で、7000rpmでの遠心分離により集めた。
【0082】
組み換えタンパク質の精製
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)の発現上清液を、遠心分離及びろ過により、適切な緩衝液中に調整し、そして疎水性相互作用クロマトグラフィー(Phenyl Sepharose 6 Fast Flow)、イオン交換クロマトグラフィー(Source 30S)及びゲルろ過クロマトグラフィー(Hiload Superdex 75 prep grade)を連続的に行い、95%以上の純度を有する目的のタンパク質を得た(
図5)。クロマトグラフィー媒体は、すべて、GE Amersham Bioscience Inc.からの製品である。
【0083】
疎水性クロマトグラフィーを、次の通りに実施した。(1)酵母発現上清液を1/2体積の調整緩衝液(60mMのPB、3Mの(NH
4)
2SO
4、pH7.2)により導電率について調節した。(2)説明書に記載されるように、カラムを平衡化緩衝液(20mMのPB、1Mの(NH
4)
2SO
4、pH7.2)により平衡化した。(3)試料をカラムに負荷し、その後、カラムを、ベースラインが平らになるまで、平衡化緩衝液により洗浄した。(4)カラムを溶出緩衝液(20mMのPB、50%エチレングリコール、pH7.2)により溶出し、目的のタンパク質を収集した。
【0084】
イオン交換クロマトグラフィーを、次の通りにして実施した。(1)フェニルHS溶出ピークを、6mS/cm以下の導電率まで、平衡化緩衝液(20mMのPB、pH7.2)により希釈した。(2)説明書における方法に従って、カラムを平衡化緩衝液により平衡化した。(3)試料をカラムに負荷し、その後、カラムを、ベースラインが平らになるまで、平衡化緩衝液により洗浄した。(4)カラムを溶出緩衝液(20mMのPB、1MのNaCl、pH7.2)により溶出し、目的のタンパク質を収集した。
【0085】
ゲルろ過クロマトグラフィーを、次の通りにして実施した。(1)カラムをPBS緩衝液(20mMのPB、0.15MのNaCl、pH7.2)により平衡化した。(2)Source 30S溶出ピークをループによりロードし、そして各ロードの体積はカラム体積の3%以下である。(3)カラムをPBS緩衝液により洗浄し、目的のタンパク質を収集した。
【0086】
組み換えタンパク質のSDS−PAGE検出
適切な濃度を有する精製タンパク質30μlを、それぞれ、10μlの4×SDS−PAGE緩衝液(20mMのDTTを含む及びそれを含まない)に添加し、100℃で5分間、変性し、そして遠心分離した。次に、30μlの上清液を、SDS−PAGE電気泳動分析のために採取した(分離ゲルは15%である)。電気泳動に続いて、ゲルをクーマシーブリリアントブルーR250により染色した。
【0087】
組換えタンパク質のウェスターンブロット(WB)検出
試料を、SDS−PAGEにおけるのと同じ手段で調製した。3μlの試料を、SDS−PAGEのために採取した。電気泳動に続いて、タンパク質を、300mAの定電流下で1時間、ニトロセルロースに移し、そして5%脱脂粉乳/TBSTにより室温で1時間ブロックした。一次抗体PDGF−B(F−3)(Santa Cruz Biotechnology, SC-365805)を、1:1000で希釈し、室温で1時間、被覆し、そしてTBSTにより数回、洗浄した。HRP標識された二次抗体(Cell Signaling Technology, #7076)を、1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、そしてTBSTにより洗浄した。基質を添加し、そしてLAS400ミニゲルイメージングシステム(GE)により映像化した。
【0088】
N末端アミノ酸配列のシーケンシング
試料調製及びSDS−PAGE工程は、上記と同じであった。電気泳動の完結に続いて、タンパク質を、300mAの定電流下で1時間、CAPSエレクトロブロッティング緩衝液によりPVDF膜に移し、そして0.1%クーマシーブリリアントブルーR250により染色し、この後すぐに、タンパク質バンドが見えるまで、50%メタノールにより十分に脱色した。決定されるタンパク質バンドを切断し、そして測定のために、Chromatography Laboratory of Biomedical Analysis Center, Military Medical Academyに送った。
【0089】
タンパク質グリコシル化の検出
50μlの試料及び陽性対照IFN−ωを、3μlの10×糖タンパク質変性緩衝液(NEB PNGアーゼF酵素を含む)及び15μlの水中に添加し、そして100℃で10分間、加熱変性した。冷却の後、3μlのNP−40、3μlのG7緩衝液(NEB PNGアーゼF酵素を含む)及び2μlのペプチドN−グリコシダーゼF(PNGase F)(New England Biotech Inc. (NEB)の製品)を添加し、そして100℃で加熱し、酵素を不活性化し、そしてSDS−PAGE電気泳動を行った。電気泳動の完結に続いて、染色を、糖タンパク質の染色キット(Themo Scientific, # 24562)を用いて実施した。最初に、ゲルを、100mlの50%メタノール中に添加し、そして30分間、固定し;ゲルを3%酢酸により数度、洗浄し、25mlの酸化溶液に移し、そして15分間、軽く振盪し;ゲルを3%酢酸により数度、洗浄し、25mlの糖タンパク質染色試薬に移し、そして15分間、軽く振盪し;その後、ゲルを25mlの還元溶液に移し、そして5分間、軽く振盪し;次に、ゲルを3%酢酸により洗浄し、そして脱イオン水によりすすいだ。
【0090】
PDGF−B生物学的活性の検出
BALB/3T3細胞(Beijing Xiehe Cell Resource Centerから購入された)を、10%FBSを含むDMEM完全培地(Life Technology)において、37℃及び5%二酸化炭素の条件下で培養した。消化及び収集の後、細胞を、1mlの完全ブイヨン当たり5.0×10
4個の細胞を含む細胞懸濁液として調製し、96ウェル細胞培養プレート中に接種し(ウェル当たり100μl)、そして続いて、37℃及び5%二酸化炭素の条件下で培養した。24時間後、培地を、維持培地(0.4%FBSを含むDMEM)、続いて、37℃及び5%二酸化炭素の条件下で培養した。24時間の培養に基づいて、培養培地を捨て、そして予備勾酸希釈PDGF−BB溶液(ウェル当たり100μl)を添加した。細胞を、タンパク質の作用下で、さらに64〜72時間、培養し、そして次の通りに、WST−1方法により細胞増殖についてアッセイした:10μlのWST−1溶液(Roche, 11644807001)を、各ウェル中に添加し、37℃及び5%二酸化炭素の条件下で3時間、培養し、そして次に、マイクロプレートリーダー(参照の波長:630nm)を用いて、450nmの波長で吸光度を測定した。実験データを、4パラメーター回帰計算法により処理した。2つのタンパク質のEC
50値を、それぞれ計算した。実験を3度、反復した。2つのグループ間の異なった統計学的分析を、t−検定により実施した。
【0091】
実施例1.タンパク質分解及びグリコシル化の共効果がPDGF−BB
Thr6の多様なモノマーの形成に寄与する
本発明者は、最初に、タンパク質分解が多様なPDGF−Bモノマーの形成の原因であると疑った。還元SDS−PAGE電気泳動により、PDGF−Bの異なったモノマーを分離し、そして5バンドを、クーマシーブリリアントブルー染色を介して検出した(
図3A)。5タンパク質バンドを、N末端アミノ酸配列についてのシーケンシングにかけ、そしてその結果は、第1、第2及び第3バンドにおけるN末端での最初の5個のアミノ酸残基がすべてTIAEPであり、これはPDGF−B
Thr6の正しいN末端配列に対応し、ところが第4及び第5バンドにおけるN末端での最初の5個のアミノ酸残基がTNANFであったことを示した。タンパク質配列のアラインメントは、第4及び第5タンパク質フラグメントが、Arg32−Thr33でのタンパク質分解性切断により生成された切断タンパク質であったことを決定した(
図A)。
【0092】
しかしながら、これは、PDGEモノマーの少なくとも5種の形成について理由を説明できない。バンド1、2、3と、バンド4、5との間の分子量の差異は、C末端切断のためであり得る。この問題に解答するために、本発明者は、PDGF−B C末端に対する特定のモノクローナル抗体(F−3)を用いるWBアッセイを実施した(Santa Cruz Biotechnology, SC-365805)。その結果は、5バンドのうちわずか2つのバンドを検出したことを示した。しかし興味深いことには、抗体に結合される2つのバンドは、第3及び第5タンパク質フラグメントに対応するようであった(
図3B)。第1、第2及び第4タンパク質フラグメントがC末端切断のために抗体により検出され得ない場合、それらの分子量はより小さくあるべきである。しかしながら、これは明らかに、電気泳動アッセイの結果と一致しない。これは、見出されるべき他の理由が存在することを意味する。
【0093】
PDGF−Bがグリコシル化されたかどうかを分析するために、PDGFを、ペプチドN−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)により消化し、そしてSDS−PAGE及び糖タンパク質染色を同時に実施した。PNGアーゼは、糖ペプチド/糖タンパク質における、ほとんどすべてのN−グリカン鎖に対して作用できるアミダーゼであり、糖鎖成分の最も内部のGlcNAcとアスパラギン酸との間を切断し、そしてアスパラギンをアスパラギン酸に転換し(10)、そして糖タンパク質プロテオミクス研究におけるN−糖タンパク質の同定において最も広く使用される酵素である。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)において発現される組換えIFN−ωタンパク質は、N−グリコシル化タンパク質の陽性対照として作用する。クーマシーブリリアントブルー染色結果は、切断の前後、PDGF−Bタンパク質の相対分子量に変化は存在しなかったことを示し、PDGF−Bタンパク質がN−グリコシル化を受けなかったことを示唆する(
図3C、左)。しかしながら、糖タンパク質染色結果は、PDGF−Bが実際、糖タンパク質であることを示した(
図3C、右)。これは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)により分泌されるPDGF−BがO−グルコシル化されたことを意味する。また、さらなる分析は、わずか3種のタンパク質フラグメントが糖染色において検出され、これは、それぞれ、SDS−PAGE結果におけるバンド1、2及び4に対応すべきであることを示した(
図3B)。これはまた、上記WBアッセイの結果と一致し、すなわち第1、第2及び第4タンパク質フラグメントがそのC末端でグリコシル化され、従って抗体へのPDGF−B
Thr6の結合に影響を及ぼす。
【0094】
上記実験結果を組み合わせると、本発明者は、PDGF−B
Thr6モノマーのいくつかの形が、位置27/28でアミノ酸Arg32−Thr33の間で生じる、タンパク質分解及び示差的後翻訳グリコシル化の共効果に起因すると推定した(表1)。
【0095】
【表1】
注:表における完全PDGFとは、PDGF−B
Thr6、すなわちN末端で欠失された5個のアミノ酸を有するPDGF−Bのことである。
【0096】
実施例2.PDGF−M1及びPDGF−M2修飾因子の構成及びタンパク質性質の検出
さらに、本発明者は、上記推論を確認したく、そしてピチア・パストリス(Pichia pastoris)におけるPDGF−Bの発現が均一であることを予測した。最初に、本発明者は、可能性あるO−グリコシル化部位を決定したいと考えた。PDGF−B
Thr6タンパク質配列のグリコシル化部位の予測を、オンラインウェブサイトCBS(www.CBS.dtu.dk)を用いて実施した(11)。結果は、位置6、101及び109でのThrが可能性あるO−グリコシル化修飾部位であることを示した(
図4)。N−グリコシル化と比較すれば、O−グリコシル化部位についての明確なモチーフは存在せず、結果的に、その予測はまた、比較的困難である。しかしながら、位置6、101及び109での予測される可能なグリコシル化部位は、本発明者の結果と一致し、すなわちPDGF−B
Thr6のタンパク質のC末端でグリコシル化修飾(Thr101、Thr109)が存在するはずであり、なぜならば、それらは抗体への結合を妨げたからであり;Thr33の前にグリコシル化修飾が存在すべきであり、これは、消化されたPDGF−Bについてわずか1つ(バンド4)のグリコシル化修飾された変異体が存在したが、しかし消化されていない、グリコシル化されたPDGF−Bモノマーについて2つのバンド(バンド1、2)が存在した事実を説明している(
図3B;表1)。予測される結果を確認するために、本発明者は、PDGF−B
Thr6の2つの変異体PDGF−M1及びPDGF−M2を構成した。C末端での2つのグリコシル化部位を、PDGF−M1において突然変異誘導し、そしてすべての3種の可能性あるグリコシル化部位を、PDGF−M2において突然変異誘導した(変異のパターンについては、
図6Aを参照のこと)。また、プロテアーゼ切断部位Arg32−Thr33を除去するために、本発明者は、アミノ酸の進化的選択を考慮して、Arg32をProに変異させた。本発明者は、成熟PDGF−Bタンパク質がPDGF−Aと60%のアミノ酸配列相同性を有し、そして両者は構造及び機能に関して、高い類似性を有し、ところがPDGF−Aタンパク質のその対応する位置におけるアミノ酸がProであることに注目した。
【0097】
PDGF−M1のアミノ酸配列は、下記の通りである:
TIAEPAMIAECKTRTEVFEISRRLIDPTNANFLVWPPCVEVQRCSGCCNNRNVQCRPTQVQLRPVQVRKIEIVRKKPIFKKATVTLEDHLACKCEAVAAARPVA (配列番号3)。
【0098】
PDGF−M1のヌクレオチド配列は、下記の通りである:
ACCATTGCTGAGCCGGCCATGATCGCCGAGTGCAAGACGCGCACCGAGGTGTTCGAGATCTCCCGGCGCCTCATAGACCCCACCAACGCCAACTTCCTGGTGTGGCCGCCCTGTGTGGAGGTGCAGCGCTGCTCCGGCTGCTGCAACAACCGCAACGTGCAGTGCCGCCCCACCCAGGTGCAGCTGCGACCTGTCCAGGTGAGAAAGATCGAGATTGTGCGGAAGAAGCCAATCTTTAAGAAGGCCACGGTGACGCTGGAAGACCACCTGGCATGCAAGTGTGAGGCAGTGGCAGCTGCACGGCCTGTGGCC (配列番号4)。
【0099】
PDGF−M2のアミノ酸配列は、下記の通りである:
AIAEPAMIAECKTRTEVFEISRRLIDPTNANFLVWPPCVEVQRCSGCCNNRNVQCRPTQVQLRPVQVRKIEIVRKKPIFKKATVTLEDHLACKCEAVAAARPVA (配列番号5)。
【0100】
PDGF−M2のヌクレオチド配列は、下記の通りである:
GCCATTGCTGAGCCGGCCATGATCGCCGAGTGCAAGACGCGCACCGAGGTGTTCGAGATCTCCCGGCGCCTCATAGACCCCACCAACGCCAACTTCCTGGTGTGGCCGCCCTGTGTGGAGGTGCAGCGCTGCTCCGGCTGCTGCAACAACCGCAACGTGCAGTGCCGCCCCACCCAGGTGCAGCTGCGACCTGTCCAGGTGAGAAAGATCGAGATTGTGCGGAAGAAGCCAATCTTTAAGAAGGCCACGGTGACGCTGGAAGACCACCTGGCATGCAAGTGTGAGGCAGTGGCAGCTGCACGGCCTGTGGCC (配列番号6)。
【0101】
PDGF−M1及びPDGF−M2をコードするDNA配列を、発現ベクターpMEX9K中に挿入し、そしてピチア・パストリス(Pichia pastoris)株GS115中に組み込んだ。発現をメタノールにより誘導し、そしてタンパク質をクロマトグラフィーにより精製した。精製されたPDGF−Bタンパク質を、SDS−PAGE、糖タンパク質染色及びウェスターンブロット検出にかけ、構築されたタンパク質の性質を決定した。WB結果は、単一バンドのみが、2種の変異体が還元された後、検出され得、そして相対分子量が約12kDaであり、予測される1つと一致することを示した(
図6B)。SDS−PAGE結果は、PDGF−M2が単一バンドであるが、しかしPDGF−M1はまだ、主要バンドよりもマイナーなバンドで有することを示した(
図6C)。このバンドは、Thr6のグリコシル化に起因することが推定される。糖タンパク質染色結果は、2種の変異体のグリコシル化レベルが、変異の前のそれらのレベルと比較して、非常に低く、そして糖タンパク質染色によってはほとんど検出されなかったことを示した(
図6D)。上記結果は、位置32でのRのPへの変異が可能性あるKex2プロテアーゼ切断部位を除去し、そしてThr33切断されたPDGF−Bモノマー形成を妨げ、ところが3種のグリコシル化部位Thr6、101及び109の変異はまた、異なる程度でタンパク質の後翻訳グリコシル化修飾を無効にし、それにより、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)におけるPDGF−Bタンパク質の発現を均一にすることを示唆した。
【0102】
実施例3.PDGF−M2の活性を増強する細胞増殖の検出
グリコシル化部位Thr6−Ala、Thr101−Ala及びThr109−Alaの変異及びArg32−Pro KEX切断部位の変異がPDGF−BBの生物学的活性に影響を及ぼすかどうかを分析するために、本発明者は、WST−1方法を用いて、Balb/c 3T3細胞に対するPDGF−B
Thr6及びPDGF−M2の増殖活性を決定した。結果は、PDGF−B
Th6のEC50が5.434±0.6475ng/mlであり、ところがPDGF−M2のEC50が3.492±0.4078ng/mlであることを示した。t−検定は、構築の後のタンパク質活性が、構築の前よりも高い(0.0117のP値を有する)ことを示した(
図7)。
【0103】
実施例4.発現レベルに対するPDGF−M2 Arg32変異の効果
PDGF−M2の発現レベルを増強するために、本発明者は、オンラインツールJava(登録商標) Condon Adaptation Toolを用いて、タンパク質発現の間、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)のコドン選択に従って、PDGF−M2(PDGF−IM−P)のコドン最適化を実施した。最適化されるDNAコード配列は次の通りである:
【0104】
PDGF−IM−PをコードするDNA配列は、次の通りである:
5’GCTATCGCTGAACCAGCTATGATCGCTGAATGTAAGACTAGAACTGAAGTTTTCGAAATCTCTAGAAGATTGATCGACCCAACTAACGCTAACTTCTTGGTTTGGCCACCATGTGTTGAAGTTCAAAGATGTTCTGGTTGTTGTAACAACAGAAACGTTCAATGTAGACCAACTCAAGTTCAATTGAGACCAGTTCAAGTTAGAAAGATCGAAATCGTTAGAAAGAAGCCAATCTTCAAGAAGGCTACTGTTACTTTGGAAGACCACTTGGCTTGTAAGTGTGAAGCTGTTGCTGCTGCTAGACCAGTTGCT−3’ (配列番号7)。
【0105】
そのタンパク質配列は、PDGF−M2と同じである。
【0106】
コドン最適化に基づいて、Arg32を、Val(PDGF−1M−V、使用されるValコドンはGTTである)及びIle(PDGF−IM−1、使用されるIleはATCである)に変異化し、その発現レベルを、PDGF−M2のレベルを比較し、タンパク質発現に対するArg32の変異の効果を分析した。
【0107】
PDGF−IM−Vのヌクレオチド配列は、次の通りである:
GCTATCGCTGAACCAGCTATGATCGCTGAATGTAAGACTAGAACTGAAGTTTTCGAAATCTCTAGAAGATTGATCGACGTTACTAACGCTAACTTCTTGGTTTGGCCACCATGTGTTGAAGTTCAAAGATGTTCTGGTTGTTGTAACAACAGAAACGTTCAATGTAGACCAACTCAAGTTCAATTGAGACCAGTTCAAGTTAGAAAGATCGAAATCGTTAGAAAGAAGCCAATCTTCAAGAAGGCTACTGTTACTTTGGAAGACCACTTGGCTTGTAAGTGTGAAGCTGTTGCTGCTGCTAGACCAGTTGCT (配列番号8)。
【0108】
PDGF−IM−Iのヌクレオチド配列は、次の通りである:
GCTATCGCTGAACCAGCTATGATCGCTGAATGTAAGACTAGAACTGAAGTTTTCGAAATCTCTAGAAGATTGATCGACATCACTAACGCTAACTTCTTGGTTTGGCCACCATGTGTTGAAGTTCAAAGATGTTCTGGTTGTTGTAACAACAGAAACGTTCAATGTAGACCAACTCAAGTTCAATTGAGACCAGTTCAAGTTAGAAAGATCGAAATCGTTAGAAAGAAGCCAATCTTCAAGAAGGCTACTGTTACTTTGGAAGACCACTTGGCTTGTAAGTGTGAAGCTGTTGCTGCTGCTAGACCAGTTGCT (配列番号9)。
【0109】
PDGF−IM−P、PDGF−IM−V及びPDGF−IM−IをコードするDNA配列を、制限部位、すなわちターミネーターのような配列に連結し、発現ベクターpMEX9K中にクローン化し、そして発現株GS115中に組み込んだ。ヒスチジン欠損MDプレートスクリーニングに続いて、9個のクローンをランダムに選択し、そしてチューブ中においてメタノールにより誘導される発現を行った。培養上清液のSDS−PAGE電気泳動分析は、発現量のPDGF−IM−Pタンパク質が他の2つの株よりも有意に高かったことを示した(
図8A)。
【0110】
複数挿入体を有するGS115/PDGF−IM−P、GS115/PDGF−IM−V及びGS115/PDGF−IM−Pクローンのスクリーニングを、G418により実施した。2.0ng/ml及び4.0mg/mlのG418と共にプレート上で増殖されたクローンの発現を、それぞれ分析した。その結果は、PDGF−IM−Pの平均発現レベルが他の2つの株よりも高かったことを示した(
図8B)。これは、Arg32部位の変異がピチア・パストリス(Pichia pastoris)におけるPDGFの分泌及び発現レベルに影響を及ぼし、そしてこの部位のProへの変異が発現のために比較的有利であることを示唆する。
【0111】
実施例5.PDGF−B及びPDGF−M2変異体のグリコシル化のLC/MS検出
方法
組み換えPDGF−B野生型及びPDGF−M2変異体を、37℃で30分間、DTT(2.5mM)により還元し、そして緩衝液A(0.1%蟻酸を含む水溶液)により希釈し、続いて液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC/MS)分析を実施した。タンパク質を、EASY−nLC システム (Thermo Fisher Scientific)を用いて、Easy−噴霧カラム(15 cm × 75 μm ID、 3−μm C18粒子)上で分離し、300nl/分の流速で、緩衝液Bの線形勾配(メタノール中、0.1%蟻酸の溶液を含む;0−90%、20分)により溶出した。高分解能スペクトルが、60,000の解像度、m/z350−1600の条件下で、Q Exactive Mass Spectrometer (Thermo Fisher Scientific)を用いて得られ、そしてXtractソフトウェア(Thermo Scientific)を用いて、デコンボリューションした。
【0112】
結果
高解像度LC/MSによるPDGF−B野生型及びPDGF−M2変異体の分析は、野生型PDGFに関して、6個までの炭水化物残基を含む異なったイソフォームが検出され、ここで3個の炭水化物残基を含むイソフォームの含有率が最高であったことを示した。また、グリコシル化は、PDGF−M2(M2)変異体についてはほとんど検出され得なかった(
図9に示されるように)。
【0113】
本発明の特定の実施形態が詳細に記載されたが、当業者は、開示された全ての教示に従って、種々の修飾及び置換が詳細に行われ得、そしてそれらの変更はすべて本発明の範囲内にあることを理解しているであろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその同等物により与えられる。
【0114】
参考文献
【表2】
【表3】