特許第6643361号(P6643361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643361選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643361
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20200130BHJP
   H01M 2/18 20060101ALI20200130BHJP
   H01M 10/28 20060101ALI20200130BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/18 Z
   H01M10/28 Z
   H01M12/08 K
   H01M2/16 P
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-559550(P2017-559550)
(86)(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公表番号】特表2018-519622(P2018-519622A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】KR2016004814
(87)【国際公開番号】WO2016195263
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0076060
(32)【優先日】2015年5月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517021385
【氏名又は名称】リクリッス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】リョウ、 ビョン フン
(72)【発明者】
【氏名】コン、 ジェ キョン
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/092107(WO,A1)
【文献】 特開平02−079363(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/091856(WO,A1)
【文献】 特表2004−513529(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0117413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
H01M 2/18
H01M 10/28
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子形態で形成される支持体と、
前記支持体の前記格子にコーティングされ、複数個の通孔が形成される多孔性イオン移動抑制層と、を含み、
前記多孔性イオン移動抑制層の前記各通孔は、亜鉛(Zn)、水酸化カリウム(KOH)および水(HO)が混合された電解質に含有されたカリウムイオンが前記多孔性イオン移動抑制層を通過せずカリウムが析出しないように、前記カリウムイオンのサイズより小さいサイズを有するように形成され
前記支持体は、ポリビニルアルコール(PVA)で形成され、前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)で形成されることを特徴とする、選択的イオン移動が可能な空気亜鉛電池用の分離膜。
【請求項2】
請求項1に記載の選択的イオン移動が可能な分離膜の製造方法であって、
前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)を電気的に荷電させて、前記支持体に紡糸する電界紡糸工程(electrospinning)により形成されることを特徴とする、選択的イオン移動が可能な分離膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の選択的イオン移動が可能な分離膜の製造方法であって、
前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも一つ以上置換されることを特徴とする、選択的イオン移動が可能な分離膜の製造方法。
【請求項4】
正極と、
負極と、
前記正極と負極との間に介在される空気亜鉛電池用の分離膜と、
前記負極、前記分離膜および前記正極の一部を含浸する電解液と、を含み、
前記分離膜は、複数個の通孔が形成された多孔性材質で形成され、
前記分離膜は、格子形態で形成される支持体と、前記支持体の前記格子にコーティングされ、複数個の通孔が形成される多孔性イオン移動抑制層と、を含み、
前記各通孔は、亜鉛(Zn)、水酸化カリウム(KOH)および水(HO)が混合された電解質に含有されたカリウムイオンが前記多孔性イオン移動抑制層を通過せずカリウムが析出しないように、前記カリウムイオンのサイズより小さいサイズを有するように形成され
前記支持体は、ポリビニルアルコール(PVA)で形成され、前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)で形成されることを特徴とする、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池に関し、より詳細には、分離膜における多孔性イオン移動抑制層の多数の通孔を、電解質に含有された電子移動促進イオンのサイズより小さいサイズを有するように形成させて、前記電子移動促進イオンが前記多孔性イオン移動抑制層を通過しないようにする選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電池は、負極(anode)および正極(cathode)と、これらの間に分離膜(separator)を介在させて組み込むが、この際、電池の両電極の間に位置する分離膜は、正極と負極が直接接触し、内部短絡が発生することを防止する副資材であって、電池内においてイオン通路であるだけでなく、電池の安全性の向上に重要な役目をする。
【0003】
空気亜鉛電池の一般的な構造を説明する。
【0004】
空気亜鉛電池は、正極と、分離膜と、電解液と、負極とを含んで構成される。
【0005】
まず、前記正極は、炭素層と、炭素層の内部に形成される金属メッシュ形態の正極集電体と、炭素層の上部に形成されるテフロン層とを含む。
【0006】
また、炭素層の下部に分離膜が介在し、分離膜から所定の間隔を隔てて前記負極の負極集電体が形成される。
【0007】
電解液は、亜鉛(Zn)、水酸化カリウム(KOH)および水(HO)が混合されたスラリー形態で形成され、分離膜と負極集電体との間に収容される。この際、電解液が分離膜を通過して炭素層の一部を含浸し、気液界面を形成するようになる。
【0008】
上記のように構成される空気亜鉛電池は、電解液に含有された亜鉛が空気中の酸素と反応して、酸化亜鉛に変化するときに生成される電子の移動によって作動するようになる。
【0009】
上記のような従来の空気亜鉛電池は、分離膜の多数の通孔を介して電解液が炭素層の一部を含浸しているが、この際、電解液に含有された水酸化カリウムが空気中の酸素と反応して析出する。これにより、炭素層が破壊され、空気亜鉛電池の性能が低下する問題点があった。
【0010】
また、空気亜鉛電池の充電時に、酸素が正極側に移動するが、正極側に移動した酸素と水酸化カリウムが反応して析出するため、空気亜鉛電池を二次電池として使用しにくい問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述したような問題点を解決するためのものであって、本発明の目的は、分離膜における多孔性イオン移動抑制層の多数の通孔を、電解質に含有された電子移動促進イオンのサイズより小さいサイズを有するように形成させて、前記電子移動促進イオンが前記多孔性イオン移動抑制層を通過しないようにする選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明による選択的イオン移動が可能な分離膜は、格子形態で形成される支持体と、前記支持体の前記格子にコーティングされ、複数個の通孔が形成される多孔性イオン移動抑制層と、を含み、且つ、前記多孔性イオン移動抑制層の前記各通孔は、電解質に含有された電子移動促進イオンのサイズより小さいサイズを有するように形成され、前記電子移動促進イオンが前記多孔性イオン移動抑制層を通過しないことを特徴とする
【0013】
この際、前記支持体は、ポリビニルアルコール(PVA)で形成され、前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)で形成され得る。
【0014】
また、前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)を電気的に荷電させて、前記支持体に放射する電界紡糸工程(electrospinning)により形成され得る。
【0015】
また、前記多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも一つ以上置換して形成され得る。
【0016】
また、本発明による二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在される分離膜と、前記負極、前記分離膜および前記正極の一部を含浸する電解液と、を含み、前記分離膜は、複数個の通孔が形成された多孔性材質で形成され、前記各通孔は、前記電解液に含有された電子移動促進イオンのサイズより小さいサイズを有するように形成され、前記電子移動促進イオンが前記分離膜を通過しないようにすることで、前記電子移動促進イオンが前記正極側に移動しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
これにより、本発明は、次のような効果を有する。
第一に、分離膜における多孔性イオン移動抑制層の多数の通孔を、電解質に含有されたカリウムイオンのサイズより小さいサイズを有するように形成させて、前記カリウムイオンが炭素層に移動しないようにすることで、水酸化カリウムの析出を根本的に防止し、炭素層が破壊されるに伴って空気亜鉛電池の性能が低下することを防止するという効果がある。
【0018】
第二に、炭素層にカリウムが移動することを防止することによって、空気亜鉛電池の充電時に、酸素が正極側に移動しても、水酸化カリウムが析出しないようにして、空気亜鉛電池を二次電池として使用可能にするという効果がある。
【0019】
第三に、アルカライン電池の分離膜に本発明を適用する場合、充電時に、水酸化カリウムが析出することを防止することができるため、アルカライン一次電池を二次電池として活用することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に基づいて、本発明の技術的思想に符合する意味や概念として解釈すべきである。
【0021】
したがって、本明細書に記載された実施例に示された構成は、本発明の最も好適な一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全部代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例があり得ることを理解しなければならない。なお、本発明を説明するに際して、関連した公知技術などが本発明の要旨を不明にし得ると判断される場合には、それに関する詳しい説明は省略する。
【0022】
以下、本発明の好適な実施例による選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池について説明する。
【0023】
本発明による選択的イオン移動が可能な分離膜は、格子形態で形成される支持体と、支持体の前記格子にコーティングされ、複数個の通孔が形成される多孔性イオン移動抑制層とを含む。
【0024】
まず、支持体は、ポリビニルアルコール(PVA)を硬化させて製作される格子形態のシートである。ポリビニルアルコール(PVA)は、高分子化合物でポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる無色粉末であって、硬化させたとき、水に十分にぬれない特性を有する。
【0025】
本実施例では、支持体がポリビニルアルコール(PVA)で製作されると説明しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、水に十分にぬれない材料は全部可能である。
【0026】
なお、多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)を電気的に荷電させて、支持体の前記格子に紡糸することによって形成される。すなわち、多孔性イオン移動抑制層は、電界紡糸工程(electrospinning)により形成されるものである。上記のように、ポリビニルアセテート(PVAc)を電界紡糸工程(electrospinning)により支持体に紡糸し、多孔性イオン移動抑制層を形成すると、多孔性イオン移動抑制層に多数の通孔が形成されるが、前記通孔のサイズがカリウムイオンのサイズより小さいサイズで形成される。したがって、カリウムイオンが炭素層に移動しないため、水酸化カリウムが析出することを防止する。
【0027】
また、多孔性イオン移動抑制層は、ポリビニルアセテート(PVAc)にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも一つ以上置換して形成させることもできる。
ポリビニルアセテート(PVAc)のバックボーンに連結されたラジカルのメチル基水素を少なくとも一つ以上アルカリ金属またはアルカリ土類金属で置換すると、化学的構造上、カリウムイオンが多孔性イオン移動抑制層を通過しないようになる。この場合にも、ポリビニルアセテート(PVAc)を電界紡糸工程(electrospinning)により形成させることと同一の効果が得られる。
【0028】
以下では、本発明による二次電池について説明する。
本発明による二次電池は、正極と、分離膜と、電解液と、負極とを含んで構成される。
【0029】
まず、前記正極は、炭素層と、炭素層の内部に形成される金属メッシュ形態の正極集電体と、炭素層の上部に形成されるテフロン層とを含む。
【0030】
また、炭素層の下部に選択的イオン移動が可能な分離膜が介在し、選択的イオン移動が可能な分離膜から所定の間隔を隔てて前記負極の負極集電体が形成される。
【0031】
電解液は、亜鉛(Zn)、水酸化カリウム(KOH)および水(HO)が混合されたスラリー形態で形成され、分離膜と負極集電体との間に収容される。この際、電解液が選択的イオン移動が可能な分離膜を通過して炭素層の一部を含浸し、気液界面を形成する。
【0032】
本発明による二次電池は、選択的イオン移動が可能な分離膜の多孔性イオン移動抑制層によりカリウムイオンが炭素層に移動しないため、水酸化カリウムの析出を根本的に防止し、炭素層が破壊されるに伴って二次電池の性能が低下することを防止することができる。
【0033】
また、炭素層にカリウムが移動することを防止することによって、二次電池の充電時に、酸素が正極側に移動しても、水酸化カリウムが析出しないようにして、空気亜鉛電池を二次電池として使用可能にすることができる。
【0034】
なお、本発明の選択的イオン移動が可能な分離膜をアルカライン電池に適用する場合、アルカライン電池の正極側にカリウムイオンが移動することを防止し、充電時に、酸素が正極側に移動しても、水酸化カリウムが析出することを防止することができるため、アルカライン一次電池を二次電池として活用することができるという非常に優れた効果が発生する。
【0035】
以上、本発明による選択的イオン移動が可能な分離膜およびこれを含む二次電池に関する好適な実施例について説明した。
【0036】
前述した実施形態は、全ての面で例示のものであり、限定的なものでないと理解しなければならない。そして、本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導出される全ての変更または変形可能な形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。