特許第6643365号(P6643365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643365眼疾患を治療するためのタイワンプロポリス抽出物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643365
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】眼疾患を治療するためのタイワンプロポリス抽出物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20200130BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20200130BHJP
   A61P 27/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   A61K35/644
   A61P27/06
   A61P27/12
   A61P27/02
   A61K9/10
   A61K9/08
   A61K9/06
   A61K31/353
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-563381(P2017-563381)
(86)(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公表番号】特表2018-506588(P2018-506588A)
(43)【公表日】2018年3月8日
(86)【国際出願番号】CN2016074540
(87)【国際公開番号】WO2016134661
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2017年10月24日
(31)【優先権主張番号】14/632,894
(32)【優先日】2015年2月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506107726
【氏名又は名称】彦臣生技藥品股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NatureWise Biotech & Medicals Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】リャオ・チーチョウ
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−248946(JP,A)
【文献】 特開2013−023498(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/126596(WO,A1)
【文献】 特開2010−195762(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0004311(US,A1)
【文献】 invest Ophtalmol Vis Sci,2007年,Vol.48, No.10,p.4407-4420
【文献】 J Sci Food Agric,2008年,Vol.88,p.412-419
【文献】 J Agric Food Chem,2007年,Vol.55,p.7366-7376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 9/00−9/72
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイワンプロポリス(Taiwanese Propolis)抽出物(TPE)を含むことを特徴とする、眼疾患の治療を必要とする被験者においてそれを治療するための医薬組成物であって
TPEが、TPE1グラム当たりプロポリンC 100mg、プロポリンD 80mg、プロポリンF 30mg、プロポリンG 50mg以上を含み、かつTPE1グラム当たり350mg以上の合計プロポリンを含み、
医薬組成物が、酸化的ストレスおよび(または)低酸素症に誘発される損傷を受けたRPE細胞の生存率向上に有効な量;酸化的ストレスおよび(または)低酸素症に誘発される損傷を受けたRPE細胞の生存率向上に有効な量であり、かつ同時にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の生存率にほぼまたはまったく影響力を持たないか、またはHUVECの生存率低下に有効な量で投与される、組成物。
【請求項2】
前記眼疾患が、緑内障、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、視神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、ブドウ膜炎、老年性白内障で構成される群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記眼疾患がAMDであることを特徴とする、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与、非経口注射、硝子体内注射、または皮膚パッチで投与されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
眼軟膏剤、眼ゲル剤、眼クリーム剤、または点眼剤に製剤化されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記眼疾患が眼の癌ではないことを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記タイワンプロポリスがタイワングリーンプロポリス(Taiwanese green propolis)であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の高齢化が進むにつれて、視機能の低下がより顕著かつ深刻になっている。緑内障、加齢黄斑変性(AMD)、視神経症、虚血性網膜症、老年性白内障などの加齢に密接な関係がある眼疾患が数多くある。これらの眼疾患は、高齢者の視力障害、さらには失明の主要な原因となっている。
【0003】
網膜色素上皮(RPE)は一層の細胞で、網膜視細胞と脈絡膜血管の間に位置し、視細胞の機械的および代謝的サポートにおいて重要な役割を果たす。さらに、RPEの機能障害は、増殖硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、AMDなどいくつかの眼疾患の主因である。AMDと、糖尿病性網膜症(DR)などのその他疾患は、対光反応または代謝反応から生じる酸素ラジカルの影響に恐らく関連がある。
【0004】
一方で、眼血流も緑内障、虚血性網膜症、加齢黄斑変性(AMD)を含む数々の眼疾患に密接に関連している。したがって、前述の眼疾患の予防または治療には正常な眼血流の維持が不可欠である。
【0005】
加齢黄斑変性(AMD)は米国および西欧において65歳を超える人々の失明を引き起こす一番の原因となっている。両大陸に共通する危険因子には、加齢、喫煙、高血圧、狭心症、家族歴陽性が含まれる。AMDには非滲出型と滲出型がある。非滲出型はゆっくり進行する中心性視力喪失を伴う中心網膜の萎縮が生じる。滲出型は、ブルッフ膜から網膜下腔への血管新生と、血管新生プロセスを通じた脈絡膜血管新生(CNV)の発生によって特徴付けられる。血管新生は往々にして虚血と低酸素症によって引き起こされる。黄斑は血液供給源が1つしかなく、また網膜は人体内で最も酸素吸収量が多いため、虚血がAMDの形成に強い関連性を持つことに驚きはない(Strauss O.、Physiol.Res.200;85(3):845〜881)。
【0006】
上皮は酸素圧と酸素ラジカル関連ストレスの変化に非常に脆弱であるため、虚血関連疾患中にRPEで産生される活性酸素種(ROS)がRPE細胞にとって有害である可能性がある。AMDの重要な「早期」の事象は酸化的損傷によるRPE細胞の喪失である。酸化的ストレスは、癌や糖尿病、神経変性疾患、心血管疾患など複数の加齢性慢性疾患の病因に関与していることが分かっている。
【0007】
プロポリスはミツバチが木の芽や果物、樹液流動、その他植物から集めた樹脂状混合物である。異なる場所からのプロポリスは異なる活性成分を有することがある。さまざまな活性成分を有し、抗腫瘍(Ahn et al.、Cancer Lett.2007、252:235〜243)、抗酸化(Altug et al.、Brain Res.2008 Mar 27;1201:135〜42)、抗菌(Drago et al.、J Appl Microbiol.2007、103:1914〜1921)、抗ウイルス(Shimizu et al.、Antivir Chem Chemother.2008、19:7〜13)、抗真菌(Silici et al.、J Pharmacol Sci.2005、99:39〜44)、抗炎症活性(Grunberger et al.、Experientia 1988、44:230〜232)などの幅広い生物活性を持つことが報告されている。しかしながら、出願人の知るところにおいて、プロポリスのどの活性成分についても既知の抗腫瘍活性により可能性として示唆される眼の癌を除き、眼疾患の治療に用いることができるという報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Strauss O.、Physiol.Res.200;85(3):845〜881
【非特許文献2】Ahn et al.、Cancer Lett.2007、252:235〜243
【非特許文献3】Altug et al.、Brain Res.2008 Mar 27;1201:135〜42
【非特許文献4】Drago et al.、J Appl Microbiol.2007、103:1914〜1921
【非特許文献5】Shimizu et al.、Antivir Chem Chemother.2008、19:7〜13
【非特許文献6】Silici et al.、J Pharmacol Sci.2005、99:39〜44
【非特許文献7】Grunberger et al.、Experientia 1988、44:230〜232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、必要とする被験者において眼疾患を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、意外にも、タイワンプロポリス(Taiwanese propolis)抽出物が眼疾患の治療に有効であることを見出した。
【0011】
したがって、一態様において、本発明は必要とする被験者において眼疾患を治療する方法であって、タイワンプロポリス(TP)抽出物の有効量を被験者に投与する工程を含む、眼疾患の治療方法を提供する。
【0012】
別の一態様において、本発明はタイワンプロポリス(TP)抽出物と、薬学的に許容可能な担体を含む、眼疾患治療用医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明によれば、TP抽出物(TPE)は、TPの水抽出物またはアルコール抽出物、あるいは相当または適切な溶媒系の抽出物である。
【0014】
前述の概要の説明と、以下の詳細な説明は、本発明を限定するものではなく、例示と説明のみを目的としていると理解されるべきである。
【0015】
本発明の前述の概要、および以下の詳細な説明は、添付の図面を参照しながら読むことでより理解されるであろう。本発明の例示を目的として、現時点で好ましい実施形態が図面に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1AはARPE−19細胞の増殖に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEとともに72時間培養された。図1BはHUVECの増殖に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEとともに72時間培養された。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01、TPE群対ビークル対照群。
図2図2AはARPE−19細胞中の低酸素症誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEとともに72時間培養された。図2BはHUVEC中の低酸素症誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEとともに72時間培養された。標準条件(5%COと95%空気)下においてビークル(30%HP‐β‐CD溶液)で72時間処理された対照群、低酸素条件(1% O、5% CO、94% N)においてビークルで72時間処理されたモデル群。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01対モデル群。
図3図3AはRPE−19細胞中のNaIO誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEおよびNaIOとともに72時間培養された。図3BはHUVEC中のNaIO誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEおよびNaIOとともに72時間培養された。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01対モデル群。
図4図4AはRPE−19細胞中のH誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEおよびHとともに24時間培養された。図4BはHUVEC中のH誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEおよびHとともに24時間培養された。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01対モデル群。
図5図5AはARPE−19細胞中のNaN誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEおよびNaNとともに72時間培養された。図5BはHUVEC中のNaN誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEおよびNaNとともに72時間培養された。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01対モデル群。
図6図6AはAARPE−19細胞中のt−BHP誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。ARPE−19細胞がTPEおよびt−BHPとともに12時間培養された。図6BはHUVEC中のt−BHP誘発障害に対するTPEの効果を示す図である。HUVECがTPEおよびt−BHPとともに12時間培養された。データは平均±SEMで示されている。各群n=6、*P<0.05、**P<0.01対モデル群。
図7】高眼圧症ラビットにおける眼血流に対する1%のTPEの効果を示す図であって、ここで図7Aは虹彩の血流をQmで示し;図7Bは毛様体の血流をQmで示し;および図7Cは毛脈絡膜の血流をQmで示す。
図8】虚血発作後のラット網膜機能のb波回復に対するTPEの効果を示す図である。アスタリスクは対照群と治療群間におけるP<0.05(*)とP<0.01(**)での有意差を表す。
図9】レーザー誘発AMDラットモデルに対する1%のTPEの効果を表す図である。アスタリスクは2つの値間におけるP<0.05での有意差を表す。
図10】NaIO誘発ドライ型AMDラットモデルに対する1%のTPEの効果を表す図である。アスタリスクはNaIO治療とNaIO+1%TPE治療間のP<0.05での有意差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、タイワンプロポリス(TP)抽出物が眼疾患の治療に有効であるという思いがけない発見に基づいている。本発明は、TP抽出物の特異的な実践的応用、すなわち、眼疾患の治療および(または)予防における使用を対象とする。
【0018】
一態様において、本発明は必要とする被験者において眼疾患を治療する方法であって、タイワンプロポリス(TP)抽出物の有効量を被験者に投与する工程を含む、眼疾患の治療方法を提供する。一部の実施態様において、タイワンプロポリスはタイワングリーンプロポリス(Taiwanese green propolis)である。
【0019】
本明細書で使用される「プロポリス」という用語は、ミツバチによって製造される産物を指す。プロポリスはミツバチが木の芽や液流動、その他植物から集めた樹脂状混合物であり、巣の中の不要な空間のシーラントとして使用されることが知られている。本発明において、台湾のミツバチによって作られたプロポリス(タイワンプロポリス)が使用される。プロポリスは紀元前300年より民間薬として使用されてきた。近年、抗がん、抗ウイルス、抗菌を含むプロポリスの数多くの生物学的特性が報告されている。幅広い生物学的活性により、プロポリスは健康を増進し、疾病を予防するために食品や飲料に用いられている。ミツバチは多様な気温の気候帯にあるさまざまな植物からプロポリスを集め、プロポリスの成分に地域的な特徴を与えている。タイワンプロポリスはプレニルフラバノンのコア化学構造を持つ豊富なプロポリン(Propolin)を含有する。タイワンプロポリスに類似したプロポリスは、沖縄、ソロモン諸島にもある(「Pacific propolis」)。
【0020】
本発明によれば、TP抽出物(TPE)は、TPの水抽出物またはアルコール抽出物、あるいは相当または適切な溶媒系の抽出物である。
【0021】
本発明で使用されるTPEは、(i)第1溶液でTPを12〜60時間抽出し、第1抽出物を得る工程と、(ii)前記第1抽出物の可溶画分を収集する工程と、(iii)可溶画分を2〜10倍に濃縮し、粗TPE(cTPE)を得る工程と、を含む方法で作製することができる。前記第1溶液は、水またはアルコール溶液を含むがこれらに限らない。前記アルコール溶液は好ましくは50〜100%のアルコールを含み、より好ましくは80〜100%、さらに好ましくは95%のアルコールを含む。本発明の一実施形態において、前記TPEは、(i)TPを95%エタノールで約48時間抽出して第1抽出物を得る工程と、(ii)アルコールをろ過して前記第1抽出物から固形物を取り除き、可溶画分を得る工程と、(iii)前記可溶画分を減圧下で約4倍に濃縮してcTPEを得る工程と、を含む方法により作製される。工程(i)で、前記抽出の温度は好ましくは35〜60℃であり、より好ましくは40〜50℃、さらに好ましくは45℃である。工程(iii)で、前記濃縮の温度は好ましくは35〜50℃であり、より好ましくは45〜50℃である。工程(iii)で、前記可溶画分は好ましくは3〜5倍、より好ましくは約4倍に濃縮される。各cTPEは、cTPE1グラム当たり100mgのプロポリンC、80mgのプロポリンD、30mgのプロポリンF、50mgのプロポリンG以上を含有するという規格で、複数の標準成分量について分析された後混合され、1グラム当たりプロポリン350mg以上(プロポリンC、D、F、G、その他プロポリスを含む)の規格の望ましい標準成分合計量を有する基準を満たす最終TP抽出物(TPE)が取得された。
【0022】
cTPEと最終TPEを本発明で使用することができる。
【0023】
本明細書で使用される「眼疾患」という用語は、緑内障、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、視神経症、糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、ブドウ膜炎、老年性白内障を含むがこれらに限らない、目に関連する疾患を指す。眼疾患は、緑内障、AMD、虚血性網膜症、視神経症、DR、DMEを含むがこれらに限らない、酸化的ストレスおよび(または)低酸素症に誘発される、目またはより具体的には網膜色素上皮(RPE)および視細胞(photo cell)の損傷に関連する疾患または異常とすることができる。眼疾患は、緑内障、虚血性網膜症、DR、AMDを含むがこれらに限らない、眼血流の減少に関連する疾患または異常とすることができる。
【0024】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、タイワンプロポリスまたは活性成分の抽出物の所望される治療効果、または特定種類の反応の誘導を提供するに足る量を指す。必要とされる有効量は、被験者の疾患の状態、身体状態、年齢、性別、人種、体重などに応じて、被験者によって異なる。しかしながら、適切な有効量は通常の実験のみを使用して当業者が判断することが可能であろう。本発明の一実施形態において、前記有効量は、酸化的ストレスおよび(または)低酸素症に誘発される損傷を受けたRPE細胞の生存率向上に有効な量である。好ましい一実施形態において、前記有効量は、酸化的ストレスおよび(または)低酸素症に誘発される損傷を受けたRPE細胞の生存率向上に有効な量であり、かつ同時にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の生存率にほぼまたはまったく影響力を持たない、またはHUVECの生存率低下に有効である。本発明の別の実施形態において、前記有効量は、眼血流の向上に有効な量である。さらに別の一実施形態において、前記有効量は、絡膜血管新生(CNV)の減少に有効な量である。別の一実施形態において、前記有効量は、少なくとも、ERGによって測定されるそのc波振幅の向上または回復によるRPE機能の向上に有効な量である。たとえば、TPEは被験者に対し1日1〜3回経口投与することができる。各経口投与について、TPEの量は10〜200mg、好ましくは10〜120mgとすることができる。TPEは被験者に対し1日1〜10回、1回1〜10滴量、好ましくは1日1〜4回、1回1〜5滴量を点眼投与することができる。たとえば、被験者はTPEを含む製剤を毎回3滴、1日3回使用することができる。眼局所投与の場合、TPE0.01〜10%、好ましくはTPE0.1〜1.0%を使用することができる。
【0025】
本発明の実施例において、TPEは、虚血発作後の網膜機能障害、レーザー誘発AMDなどさまざまな眼疾患の治療に有効であることが明らかにされた。
【0026】
したがって、TPEは、眼疾患を患う被験者に投与することができ、そのうち、前記眼疾患は、緑内障、加齢黄斑変性(AMD)、虚血性網膜症、視神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、ブドウ膜炎、老年性白内障で構成される群より選択される。本発明の一実施例において、前記眼疾患はAMDである。特定の一実施形態において、前記眼疾患はドライ型AMDである。前記眼疾患は、眼がんであってもなくてもよい。
【0027】
別の一態様において、本発明はタイワンプロポリス(TP)抽出物と、薬学的に許容可能な担体を含む、眼疾患治療用医薬組成物を提供する。
【0028】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体を用いて従来既知の方法で製造することができる。本明細書で使用される用語「薬学的に許容可能な担体」とは、任意の標準的な薬学的担体を指す。そのような担体は、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、クレモフォール、ナノ粒子、リポソーム、重合体、およびそれらの組み合わせを含むことができるが、これらに限らない。
【0029】
本発明の医薬組成物は、選択された投与方法に適した任意の形態に構成することができる。たとえば、経口投与に適した組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、粉末剤などの固形剤形、および溶剤、シロップ剤、エリキシル剤、懸濁剤などの液体剤形を含む。局所投与に役立つ剤形は、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、懸濁剤、滴剤、乳剤、パップ剤を含む。
【0030】
標準の担体に加え、本発明の経口医薬組成物は、界面活性剤、吸入剤、溶解剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、香味剤、防腐剤など経口製剤で一般的に使用される1つ以上の賦形剤を添加することができる。前記賦形剤は当業者に既知である。
【0031】
本発明によれば、前記医薬組成物は、経口投与、非経口投与、眼内注射(例:硝子体内注射)、皮膚パッチ、眼に対する局所投与など、任意の経路を通じて被験者に投与することができる。局所投与用の前記医薬組成物は、眼軟膏剤、眼ゲル剤、眼クリーム剤、点眼剤の形態に製剤化することができる。
【0032】
以下、限定ではなく例示を目的として提供される次の実施例により、本発明についてさらに説明する。
【実施例1】
【0033】
抗酸化に対するTPEの効果
この研究では、酸化的ストレスと低酸素症に誘発された網膜色素上皮(ARPE−19)細胞損傷に対するTPの効果と、この効果におけるROSの関与が調査された。
【0034】
酸化反応によって産生されるフリーラジカルが、血管細胞および神経細胞の病理学的兆候と、自己免疫性糖尿病における膵島機能障害および(または)破壊に密接な関連性があることはよく知られている(J.Lancaster、Jr.、Nitric Oxide、Principles and Actions、Academic Press、1996)。血管機能障害は眼の緑内障、AMD、虚血性網膜症を引き起こすことがあり、一方で神経障害は緑内障と視神経症を引き起こすことがある。免疫性糖尿病における膵島破壊は、糖尿病性網膜症(DR)および糖尿病性黄斑浮腫(DME)につながる可能性がある。したがって、抗酸化剤は前述の眼疾患の予防/緩和に非常に有用である。
【0035】
材料および方法
【0036】
1、材料
TP抽出物(TPE)が実験室で作製された。タイワンプロポリスまたはタイワングリーンプロポリス(1kg)が95%エタノール(6L)で、撹拌しながら45℃に加熱して約48時間抽出された。アルコールのろ過と不純物の除去後、液体抽出物が減圧下で約4倍に濃縮され、粗タイワンプロポリス抽出物(cTPE)が約50%w/wの抽出率で取得された。各cTPEの成分はバッチ間で異なるため、各cTPEは、cTPE1グラム当たり100mgのプロポリンC、80mgのプロポリンD、30mgのプロポリンF、50mgのプロポリンG以上を含有するという規格で、複数の標準成分量について分析された後混合され、1グラム当たりプロポリン350mg以上の規格の望ましい標準成分合計量を有する基準を満たす最終TP抽出物(TPE)が取得された。
【0037】
チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(MTT、純度97.5%以上)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、過酸化水素(H、50重量%水溶液)、tert−ブチルヒドロペルオキシド(t−BHP、70重量%水溶液)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO、純度99.5%以上)、アジ化ナトリウム(NaN、純度99.5%以上)、ダルベッコ変法イーグル培地/ハムF12(DMEM/F12、1:1)がSigma―Aldrich Chemical社(米国ミズーリ州セントルイス)よりすべて購入された。ヒト網膜色素上皮(ARPE−19)細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ウシ胎児血清(FBS)、血管細胞系基礎培地、内皮細胞増殖キットがATCC(米国バージニア州マナサス)より購入された。
【0038】
ヒト網膜色素上皮(RPE)細胞は視細胞(photocell)と脈絡膜層の間にある重要/特異な細胞で、正常/良好な視機能/活動を維持するために、視細胞に栄養を提供し、かつ視細胞から代謝廃棄物を除去する。一方で、HUVECは脈絡膜血管と網膜血管を含む体全体の血管系に存在する。特に脈絡膜血管新生により視機能に悪影響を及ぼす。VEGF阻害剤での血管新生抑制は、ウェット型AMDの治療において血管新生/血管形成を減少する主要なメカニズムである。このため、細胞増殖/RPEの増殖を向上できるが、HUVECの細胞増殖に影響を与えない、またはこれを抑制する薬剤は、AMDの予防/治療に有用である。
【0039】
2、細胞培養
ARPE−19細胞が10%FBS、100単位/mlのペニシリンG、100μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩を添加したDMEM/F12培地で増殖された。HUVECが内皮細胞増殖キットを添加した血管細胞系基礎培地で増殖された。細胞は加湿インキュベーター内で37℃、5%COと95%空気下において培養された。
【0040】
3、ARPE−19細胞とHUVECの生存率
MTTアッセイを使用してARPE−19細胞とHUVECの生存率が測定された。1×10の細胞が96ウェルプレート(100μl/ウェル)に播種され、オーバーナイトで培養された。細胞なしの100μlの培地を添加して陰性対照が作製された。細胞はその後TP抽出物(TPE)(0.1、0.3、1、3、10μg/ml)および(または)酸化剤(NaIO、H、t−BHP、NaN)を加えた新鮮な培地で12、24、または72時間処理された(200μl/ウェル)。ビークル対照群がビークル(30%HP‐β‐CD、HP‐β‐CDの細胞における最終濃度は0.3%未満)で処理された。20μlのMTT(5mg/ml)がウェルに添加され、さらに4時間培養された。培養後、培地が廃棄され、100μlのDMSOを添加して生存細胞によってMTTから産生されたホルマザンを溶解させた。吸光度がマイクロプレートリーダー(Bio―Rad Laboratories、Inc.、カリフォルニア州)を使用して570nmで測定された。次の式に従って細胞生存率が計算された:細胞生存率(%)=(試験試料の吸光度−陰性対照の吸光度)/(ビークル対照の吸光度−陰性対照の吸光度)×100%。
【0041】
4、低酸素症処理
細胞はオーバーナイトで付着され、その後TPEまたはビークルに低酸素条件で72時間暴露された。NおよびCOガス源でOおよびCOコントローラ(Prooxモデル110およびPro COモデル120、Biospherix Ltd.、米国ニューヨーク州レッドフィールド)により温度と湿度が管理された環境C−チャンバーを使用して、低酸素条件(1%O、5%CO、94%N)が維持された。
【0042】
5、統計分析
すべてのデータは平均±S.E.Mで示された。スチューデントt検定を使用して統計分析が実施された。P<0.05の値が統計的有意であると見なされる。
【0043】
結果
【0044】
1、ARPE−19細胞とHUVECにおける細胞毒性
結果によると、TP抽出物(TPE)は、0.03、0.1、0.3、1、10μg/mlの濃度で、ARPE−19細胞における細胞増殖に影響しなかった。しかし、ARPE−19細胞の増殖は3μg/mlの濃度で21%有意に増加した(P<0.05、図1A)。一方、TPEはHUVECの増殖を0.3および10μg/mlの濃度でそれぞれ18%と99%有意に阻害した(図1B)。
【0045】
2、ARPE−19細胞とHUVECにおける低酸素症誘発損傷に対するTPEの効果
TPEは0.03μg/ml〜10μg/mlで低酸素条件のARPE−19細胞の生存率に影響しなかった(図2A)。TPEは0.1μg/mlの濃度で低酸素条件のHUVECの生存率を8%有意に増加した(P<0.05、図2B)。しかし、10μg/mlの濃度で、TPEはHUVECの生存率を96%有意に減少させた(P<0.01)。
【0046】
3、ARPE−19細胞とHUVECにおけるNaIO誘発障害に対するTPEの効果
NaIO誘発障害はドライ型AMDのモデルである。TPEはARPE−19細胞またはHUVECにおけるNaIO誘発障害に0.03μg/ml〜3μg/mlでは影響しなかった。10μg/mlの濃度で、TPEはARPE−19細胞における30および100μg/mlのNaIO3誘発障害の生存率を有意に回復させた(P<0.05、図3A)。しかし、HUVECではNaIO誘発障害を増加させた(P<0.01、図3B)。
【0047】
4、ARPE−19細胞とHUVECにおけるH22誘発障害に対するTPEの効果
誘発障害は酸化的損傷のモデルである。0.03μg/ml〜10μg/mlで、TPEはARPE−19細胞における200μMのH誘発障害を回復させた。特に10μg/mlの濃度で、TPEはARPE−19細胞における200μMのH誘発障害を60%回復させた(P<0.01、図4A)。一方で、TPEは0.03μg/ml〜3μg/mlでHUVECにおけるH誘発障害に影響しなかった。しかし、10μg/mlのTPEは、HUVECにおける200、400、600μMのH誘発障害をそれぞれ93%、86%、58%増加させた(図4B)。
【0048】
5、ARPE−19細胞とHUVECにおけるNaN誘発障害に対するTPEの効果
NaN誘発障害は酸化的損傷の別のモデルである。TPEはARPE−19細胞におけるNaN誘発障害に0.03μg/ml〜1μg/mlでは影響しなかった。3および10μg/mlの濃度で、TPEはARPE−19細胞におけるNaN誘発障害を有意に回復させた(P<0.01、図5A)。0.03、0.1、1μg/mlの濃度で、TPEはHUVECにおける0.3mMのNaN誘発障害を有意に回復させた。しかし、10μg/mlではHUVECにおける0.3mMのNaN誘発障害を84%増加させた(P<0.01、図5B)。TPEはHUVECにおける1mMのNaN誘発障害を0.03、0.3、3μg/mlで回復させたが、10μg/mlではHUVECにおける1mMのNaN誘発障害を75%増加させた(P<0.01、図5B)。
【0049】
6、ARPE−19細胞とHUVECにおけるt−BHP誘発障害に対するTPEの効果
t−BHP誘発障害は酸化的損傷のさらに別のモデルである。3および10μg/mlの濃度で、TPEはARPE−19細胞における50および100μMのt−BHP誘発障害を有意に回復させた(P<0.01、図6A)。0.03μg/ml〜10μg/mlで、TPEはARPE−19細胞における200μMのt−BHP誘発障害を回復させた(図6A)。特に10μg/mlの濃度で、TPEはARPE−19細胞における200μMのt−BHP誘発障害を105%回復させた(P<0.01、図4A)。しかし、10μg/mlのTPEはARPE−19細胞における50および100μMのt−BHP誘発障害をそれぞれ77%と73%増加させた(P<0.01、図6A)。図6BはHUVECに対するTPEの効果を示す。
【実施例2】
【0050】
眼血流(OBF)の向上
眼血流は緑内障、虚血性網膜症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性(AMD)を含む数々の眼疾患に密接に関連している。したがって、前述の眼疾患の予防または治療には正常な眼血流の維持が不可欠である。
【0051】
材料および方法
【0052】
1、材料
0.5%アルカインは市販品が購入された。20%滅菌高張性生理食塩溶液が試験室で調製された。着色ミクロスフェアがE−Z Trac(米国カリフォルニア州ロサンゼルス)より購入された。着色ミクロスフェアは、ミクロスフェアが相互に貼り付かないように、0.01%(v/v)のTween80を含有する生理食塩水で希釈された。0.4ml中200万ミクロスフェアが各時間点で注射された。
【0053】
体重2.0〜3.0kgのメスのニュージーランド白ウサギは市販品が購入された。動物の飼育と処理は機関のガイドラインに従って行われた。TP抽出物(TPE)は実施例1に従って作製された。
【0054】
2、方法
ウサギは筋肉内注射により35mg/kgのケタミンと5mg/kgのキシラジンで麻酔された。その後は初回量の半量が1時間毎に投与された。着色ミクロスフェア注入用に右頸動脈を通じて左心室にカニューレが挿入され、血液試料採取用に大腿動脈にカニューレが挿入された。左眼がプロパラカイン塩酸塩点眼液(Bausch & Lomb、Inc.、米国フロリダ州タンパ)1滴で処理された。針は左眼の前眼房に直接挿入され、40mmHg生理食塩水マノメーターに接続された。高眼圧モデルでは眼血流が正常値の約3分の1に減少した。10g/lのフラボンまたはビークル(30%HP−β−CD溶液)50μlが、高眼圧モデル確立の30分後に左眼に局所注入された。眼血流がTPEまたはビークルでの処理の0、30、60、120分後に着色ミクロスフェアによって測定された。各時間点で、200万ミクロスフェアが基準として注入され、ミクロスフェア注入のちょうど1分後に血液試料が大腿動脈から取得された。血液試料がヘパリン処理チューブに採取され、容量が記録された。ウサギは最後の採血後、100mg/kgのペントバルビタールナトリウム注射で安楽死された。左眼が摘出され、虹彩、毛様体、網膜、脈絡膜、網膜に切断された。すべての組織が秤量された。
【0055】
試料処理およびミクロスフェア計数の詳細はE−Z Trac(米国カリフォルニア州ロサンゼルス)により提供された。簡単には、溶血試薬が血液試料を入れたマイクロ遠心チューブに添加され、続いてボルテックスにかけて6000rpmで30分間遠心分離された。上清が除去され、組織/血液消化試薬IおよびIIが添加された。チューブに蓋をしてボルテックスにかけ、30分間遠心分離された。上清が除去され、計数試薬が添加された後、ボルテックスにかけて15分間遠心分離された。上清が除去され、ミクロスフェアが正確な量の計数試薬に再懸濁された。ミクロスフェアの数が顕微鏡下で血球計数器によりカウントされた。組織試料が入れられたマイクロ遠心チューブに組織/血液消化試薬Iが添加され、密封後95℃で15分間加熱された。その後チューブが30秒間ボルテックスにかけられ、再加熱後、すべての組織試料が溶解されるまで再度ボルテックスで遠心分離された。組織試料がまだ熱いうちに組織/血液消化試薬IIが添加され、続いてマイクロ遠心チューブに蓋をしてボルテックスにかけ、30分間遠心分離された。その後のプロトコルは血液試料の処理に用いたものと同じであり、ミクロスフェアがカウントされた。
【0056】
特定の時間点の各組織の血流量を次の式に従って算出した:Qm=(Cm×Qr)/Cr。Qmはμl/分/mgで表した組織の血流量、Cmは組織のミクロスフェア数、Qrはμl/分で表した血液試料の流速、Crは基準血液試料中のミクロスフェア数である。
【0057】
結果
虹彩、毛様体、網膜における血流は、1%のTPEで薬物注入の120分後に有意に増加した(図7A〜7C)。
【実施例3】
【0058】
虚血発作後の網膜機能の増進
眼圧(IOP)測定単独では、緑内障診断の唯一の決定要因とすべきでなく、IOPの減少単独を新規薬物開発の唯一の評価とすべきではない(Chiou et al.、Ophthalmic Res.18:265〜269、1986)。理想的な緑内障治療薬は、IOPを低下させ、眼血流も改善できる必要がある(Hong et al.、J.Ocular Pharmacol.9:117〜124、1993)。眼のさまざまな部分における血流に関する研究は薬物の作用機序の理解につながるだけでなく、より安全な緑内障治療薬の開発にもつながる(Chiou et al.、Ophthalmic Res.18:265〜269、1986)。さらに、網膜変性は失明原因の第1位、 緑内障では第2位となっている(Lierman、Mary Ann Liebert、Inc.、New York、NY、1987)。網膜症の多くは、血管拡張剤、抗凝血剤、血液粘度低下剤を含む数々の薬剤が試されているが、治療が難しい虚血性変性により引き起こされている(O‘Connor、Medcom、Inc.、New York、NY、1974)。今日まで、これら薬剤のいずれも虚血性網膜症に福音をもたらすには至っていないようである(LaVail et al.、Alan R.Liss、Inc.、New York、NY、1985.)。したがって、虚血性網膜変性の治療に使用できる新しい薬剤の開発が重要である。虚血後の網膜機能の回復は、網膜電図写真におけるb波の振幅の回復によって判定することができる。緑内障に加え、AMD、DR、DMEも網膜機能の回復を促進するこれら薬剤の恩恵を受けることができる。
【0059】
材料および方法
【0060】
1、材料
TP抽出物(TPE)は実施例1に従って作製された。
【0061】
2、方法
網膜虚血実験についてはすでに説明がなされている(Chiou et al.、J.Ocular Pharmacol.9:179〜185、1993、およびChiou et al.、J.Ocular Pharmacol.10:493〜498、1994)。虚血発作前および後の網膜機能を評価するために網膜電図(ERG)が実施された。ERGは、角膜に接触させて配置されたAg/AgCl電極により記録された。1本のステンレス針が基準電極として二つの眼の間の皮下に挿入され、もう1本の針が接地電極として頸部に皮下挿入された。光刺激装置(photostimulator;Grass PS22 Flash)を用いて眼から5インチで光のフラッシュを発生させ、ERG電位をポリグラフで記録した。ERGシステムはLKC Technologies、Inc.(米国メリーランド州ゲイサーズバーグ)より購入された。1回(10ミリ秒)の白色光刺激を用いて、ERG a波およびb波を誘発した。b波の最大振幅をa波の谷とb波のピークから測定した。
【0062】
2時間以上暗順応させたLong−Evansラット(200〜250g)が筋肉内へのケタミン(35mg/kg)とキシラジン(5mg/kg)投与で麻酔された。その後は初回量の半量が1時間毎に投与され、適切な麻酔が維持された。ERG実験のため瞳孔が1%トロピカミド(50μl)で散瞳された。視神経および後毛様体動脈周りの結紮による中心網膜および後毛様体動脈の閉塞によって網膜虚血が発生された。眼球孔の基部に配置されたマイクロピペットチップで結紮糸を30分間きつくしぼり、網膜血管を閉塞させた。30分の網膜虚血後、結紮糸が緩められ、網膜動脈が再灌流された。その後ERGが30、60、90、120、180、240分の時点で測定された。TPEとビークルが中心網膜動脈の閉塞前に局所投与された。
【0063】
3、統計分析
すべてのデータは平均±SEMで示された。スチューデントT検定を使用して結果の有意性が分析された。すべての実験でP値<0.05が有意であるとみなされた。
【0064】
結果
中心網膜と後毛様体動脈が結紮されると、これら動脈の血流が停止し、ERGのb波は速やかにゼロになった。結紮が取り除かれると、それまで通りに血流が再開されたが、b波の振幅は元のレベルの20%しか回復されなかった。しかし、1%のTPEが注入されると、b波の振幅は元のレベルの約40%に戻り、薬剤の作用は薬剤投与後少なくとも240分持続した(図8)。
【実施例4】
【0065】
レーザー誘発AMDの抑制
加齢黄斑変性(AMD)は、西洋諸国の50歳を超える患者における視力障害の第一の原因となっている疾患である。AMDの有病率は年齢と共に増加し、75歳以上の人の3分の1が何らかの形のAMDを罹患している。高齢人口に対するAMDの大きな影響を踏まえ、過去十年間でこの状況に多くの関心が集まり、研究が行われている。
【0066】
初期のAMDは網膜色素上皮(RPE)における病変とドルーゼン形成を伴う「ドライ型」で発生し、地図状萎縮および(または)脈絡膜血管新生(CNV)を伴う「ウェット型」AMDへと進行することがある(Klein、Ophthalmology 1997;04:7〜21)。剥離したRPE下のブルッフ膜の破壊は、新しい未成熟の脈絡膜血管が網膜下腔へと成長するための入り口となり、CNVの形成につながる。CNVは網膜下腔内で液体漏出と出血を生じ、視界不良、視覚のゆがみ、突然の視力喪失を引き起こすことがある。治療しないと、これらの障害が進行して器質化された線維性瘢痕(円板状瘢痕と呼ばれる)を形成し、通常不可逆の中心性視力喪失を引き起こす。
【0067】
材料および方法
TP抽出物(TPE)は実施例1に従って作製された。ラットが無作為に2群に分けられた。対照群にはビークル(30%HP−β−CD溶液)が注入された。実験群には5mg/mlのTPE点眼剤が注入された。すべてのラットの両目に1滴の点眼剤が1日3回、レーザー誘発障害の前1週間と後4週間注入された。ラットはすべての手順に際してケタミン(35mg/kg)とキシラジン(5mg/kg)の筋肉内注射で麻酔された。瞳孔が10mg/mlのアトロピンと25mg/mlのフェニレフリンそれぞれ1滴で散瞳された。VOLK super pupil XL生体顕微鏡検査法レンズ(Keeler Instrument、Inc.、米国ペンシルベニア州ブルームオール)を用いて眼底が視覚化された。2周波Nd:YAGレーザー(Laserex LP3532;Lumenis Inc.、米国ユタ州ソルトレークシティ)が532nm波長で使用された。レーザーパラメータはスポットサイズ100μm、曝露0.15秒、電力150〜200mWが使用された。視神経からほぼ等しい距離で眼底に5つのレーザースポットが作製された。急性の蒸気泡はブルッフ膜の破裂を示唆した。バブル形成を伴うレーザースポットのみが研究に含められた。網膜下出血を伴う病変は除外された。レーザー処置の2週間および4週間後、デジタル眼底カメラ(TRC−50EX:TOPCON、日本東京)で蛍光眼底血管造影(FA)が実施された。100mg/mlのフルオレセインナトリウム塩が舌下静脈を介して注射された(0.5ml/kg)。早期(2分未満)と後期(7分超)のフルオレセインフェーズが取得された。3滴のフルオレセインナトリウム塩注射後、100mg/mlのフルオレセインイソチオシアネート−デキストランが舌下静脈を介して注射された(1.4mg/kg)。フルオレセイン画像が20分以内に撮影された。Imagenet2000デジタル画像システム(Topcon MedicalSystems、Inc.、米国ニュージャージー州パラマス)によるCNV形成面積測定のため、最も鮮明な画質の画像が選ばれた。
【0068】
結果
ラットの眼のブルッフ膜をレーザービームで破壊したとき、蛍光眼底血管造影でフルオレセイン漏出が測定された。CNV形成面積がコンピュータで定量的に測定され、mmで表された。図9から分かるように、対照の眼では約2.5mmのCNV面積が形成され、これは1%TPEの注入により有意に抑制された。
【実施例5】
【0069】
NaIO誘発ドライ型AMDの減少
2004年の分析によると、40歳を超える米国人の中で、AMDおよび(または)地図状萎縮が当該人口の1.47%の少なくとも片目に存在し、175万人がAMDを患っていることが報告された。AMDの有病率は年齢に伴って大幅に増加し、80歳を超える白人女性の15%以上が新生血管を伴うAMDおよび地図状萎縮を罹患している。700万人以上にAMD罹患の相当なリスクがある。急速に高齢化する人口を背景に、AMD罹患者数は2020年に50%増加して295万人に達する。別の研究で、米国白人人口における現在の全失明事例のうち54%がAMDによるものであることが報告されている。この研究は、2020年までに米国における失明者数が70%も増加する可能性があると予測している。この研究はヨウ素酸ナトリウム(NaIO)誘発網膜色素上皮(RPE)変性に対するTPEの効果を観察するものである。
【0070】
材料および方法
TP抽出物(TPE)は実施例1に従って作製された。30匹の8週齢オスブラウンノルウェー(BN)ラットが無作為に、正常群10匹、NaIO群10匹、TPE+NaIO群10匹の3群に分けられた。対照群には溶媒(2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、Sigma−Aldrich)がNaIO注射なしの単独で注射された。NaIO群には溶媒と35mg/kgのNaIO注射が舌下静脈を介して注射された。一方、TPE+NaIO群には1%のTPE点眼剤+35mg/kgのNaIO注射が注射された。すべてのラットの両目に1滴が1日3回、NaIO注射の前1週間と後4週間注入された。2週間と4週間の終わりに、RPE機能がERGのc波で測定された。
【0071】
BNラットは2時間暗順応させた後、筋肉内へのケタミン35mg/kgとキシラジン5mg/kg投与で麻酔された。その後は初回量の半量が1時間毎に投与された。すべてのラットの瞳孔が1%のアトロピンと2.5%のフェニレフリンそれぞれ1滴で散瞳された。記録前に0.5%のテトラカイン1滴が表面麻酔のために与えられた。ERG測定中、すべてのラットは暖かく保たれた。Peacheyにより開発されたDC−ERG記録法に従って記録された。簡単に説明すると、Hanks平衡塩類溶液(Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド)を充填した、直径1mmのフィラメント付ガラスキャピラリー管(Sutter Instruments、米国カリフォルニア州ノバート)を使用して、コネクタ付のAg/AgClワイヤ電極に接続した。電極は角膜表面に配置された。応答は増幅され(dc−100Hz、ゲイン=1000×;DP−301、Warner Instruments、米国コネチカット州ハムデン)、10Hzまたは1000Hzでデジタル化された。データはiWORX LabScribe Data Recording Software(iWorx0CB Sciences、米国ニューハンプシャー州ドーバー)で分析された。刺激輝度を調整するため、光路内にND(ニュートラルデンシティ)フィルタ(Oriel、米国コネチカット州ストラトフォード)を配置した、ファイバーライト高強度照明装置(Dolan−Jenner Industries、米国マサチューセッツ州)を使用して、光チャネルから光刺激が誘導された。この実験で使用された刺激輝度は、3.22ログcd/mで、刺激時間は4分間であった。ラットの眼が位置している光ファイバー束の出力側に焦点を絞ったMinolta(米国ニュージャージー州ラムジー)のLS−110測光器により、輝度較正が行われた。
【0072】
結果
ラットがNaIOで処理されたとき、RPE細胞の特異的な変性が引き起こされた。その結果、NaIOがドライ型AMD動物モデルの構築に使用され、損傷を受けた細胞機能がERGのc波振幅で測定された。図10から分かるように、対照のERGのc波はNaIOにより著しく抑制された。しかし、NaIO処理ラットの1%TPEによる処理は、ERGのc波を著しく回復させることができる。NaIOは眼でRPE細胞を特異的に変性させる強力な毒素である。その結果、ERGのc波はNaIO処理済みの眼でほぼ完全に抑制された(図10)。このNaIO誘発ドライ型AMDモデルは1%TPEにより3倍回復可能であることに注意することが重要である(図10)。ドライ型AMDは失明を引き起こす恐ろしい疾病であるため、ドライ型AMDを予防/治療できる薬剤は非常に貴重である。
【0073】
本発明の広範な概念を逸脱することなく上述した実施態様に変更を加えることが可能であることは、当業者には明らかであろう。従って、本発明は開示された具体的な実施態様に限定されず、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の要旨と範囲内の変更は、本発明に含まれると理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10