特許第6643437号(P6643437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6643437
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20200130BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20200130BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20200130BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   G02B6/126
   G02B6/122 311
   G02B6/125 301
   G02B6/12 331
【請求項の数】1
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-171362(P2018-171362)
(22)【出願日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年9月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513065077
【氏名又は名称】技術研究組合光電子融合基盤技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】太縄 陽介
【審査官】 岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−024375(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/169922(WO,A1)
【文献】 特表2010−534866(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0231713(US,A1)
【文献】 DING, Yunhong et al.,Fabrication tolerant polarization splitter and rotator based on a tapered directional coupler,OPTICS EXPRESS,2012年 8月16日,Vol. 20, No. 18,pp. 20021 - 20027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された第1結合部及び第2結合部を含む第1光導波路コアと、
直列に接続された第3結合部及び第4結合部を含む第2光導波路コアと
を備え、
前記第1結合部と前記第3結合部とが互いに離間しかつ並んで配置された、第1結合領域が設定されており、
前記第1結合部及び前記第3結合部は、幅が互いに共通の寸法で、及び厚さが互いに共通の寸法で形成され、かつ幅と厚さとが異なる寸法で形成されており、
前記第1結合部及び前記第3結合部の長さは、当該第1結合部及び当該第3結合部の幅又は厚さの寸法の小さな方に、光電界の振動方向が沿った、基本モードのTE偏波又はTM偏波の一方の偏波の結合長に設定されており、
前記第1結合領域では、前記第1結合部を伝播する基本モードの一方の偏波と、前記第3結合部を伝播する基本モードの一方の偏波とが結合され、
前記第2結合部と前記第4結合部とが互いに離間しかつ並んで配置された、第2結合領域が設定されており、
前記第2結合領域では、前記第2結合部を伝播する基本モードの他方の偏波と、前記第4結合部を伝播するi次モード(iは1≦iの整数)の他方の偏波とが結合され、
前記第1結合部には、基本モードのTE偏波及びTM偏波が入力され、かつ前記第4結合部から、前記第1結合領域で結合される基本モードの一方の偏波、及び前記第2結合領域で結合されるi次モードの他方の偏波が出力される
ことを特徴とする光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力されるTE(Transverse Electric)偏波及びTM(Transverse Magnetic)偏波それぞれに対し、所望のモード次数を与えて出力する光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報伝達量の増大に伴い、光配線技術が注目されている。光配線技術では、光ファイバや光導波路を伝送媒体とした光デバイスを用いて、情報処理機器内の装置間、ボード間又はチップ間等の情報伝達を光信号で行う。その結果、高速信号処理を要する情報処理機器においてボトルネックとなっている、電気配線の帯域制限を改善することができる。
【0003】
光デバイスは、光送信器や光受信器等の光学素子を備えて構成される。これらの光学素子は、各光学素子の中心位置(受光位置あるいは発光位置)を設計位置に合せるための複雑な光軸合わせを行った上で、例えばレンズを用いて互いに空間結合することができる。
【0004】
各光学素子を結合するための手段として、レンズの代わりに光導波路素子を利用する技術がある。光導波路素子を利用する場合には、光が光導波路内に閉じ込められて伝搬するため、レンズを利用する場合と異なり、複雑な光軸合わせを必要としない。従って、光デバイスの組立工程が簡易となるため、量産に適する形態として有利である。
【0005】
ここで、光導波路素子は、例えばシリコン(Si)を導波路材料とすることができる。Siを材料とする光導波路素子(Si導波路)では、実質的に光の伝送路となる光導波路コアを、Siを材料として形成する。そして、Siよりも屈折率の低い例えば酸化シリコン(SiO)等を材料としたクラッドで、光導波路コアの周囲を覆う。このような構成により、光導波路コアとクラッドとの屈折率差が極めて大きくなるため、光導波路コア内に光を強く閉じ込めることができる。その結果、曲げ半径を例えば数μm程度まで小さくした、小型の曲線導波路を実現することができる。そのため、電子回路と同程度の大きさの光回路を作成することが可能であり、光デバイス全体の小型化に有利である。
【0006】
しかも、Si導波路を利用する場合には、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の製造過程を流用することによって、多様な機能を有する素子を同一基板上にモノシリック集積した光デバイスを、大量生産することが可能である。従って、Si導波路を利用する光デバイスは、小型化及び低コスト化に有利である(例えば、特許文献1並びに非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0007】
一方で、Si導波路では、コアとクラッドとの比屈折率差が大きいことに起因して、TE偏波とTM偏波とで導波モードの等価屈折率の差及び群屈折率の差が大きくなりやすい。そのため、Si導波路には、偏波依存性があるという欠点がある。
【0008】
従って、Si導波路で構成されたマッハツェンダ干渉計、グレーティング及びAWG(Arrayed Waveguide Grating)等の波長フィルタや光カプラでは、同一波長であっても両偏波間の波長応答特性の乖離が大きくなる。このような特性の乖離は、例えばファイバ伝送システムにおける受信側デバイス等において、チャネル間クロストークが発生する原因となる。
【0009】
このようなSi導波路における偏波依存性の問題を解消するために、波長フィルタや光カプラといった光導波路素子の前段に偏波分離素子を設けて、TE偏波とTM偏波とを分離する方法がある。しかし、この場合には、偏波分離素子の後段に、TE偏波に最適化した光導波路素子及びTM偏波に最適化した光導波路素子をそれぞれ形成する必要があるため、光デバイスの構成が煩雑となり、また、光デバイスのサイズが大きくなる。このため、偏波依存性に対する本質的な解決手段としては、波長フィルタ等の光導波路素子そのものの波長応答特性において、偏波間の特性の乖離を最小に抑えることが好ましい。
【0010】
例えばマッハツェンダ干渉計を利用する波長フィルタの場合には、構成要素となる光カプラ及びアーム導波路それぞれについて、各偏波の特性を揃えることが望まれる。具体的には、光カプラにおいては分岐特性について、また、アーム導波路においては位相特性について、各偏波で一致することが求められる。
【0011】
光カプラとして、低損失及び低反射の観点で有利であるため、方向性結合器が利用される。方向性結合器は、並走する一対の光導波路コアによって構成される。方向性結合器における設計パラメータには、各光導波路コアの幅及び厚さ、並びに各光導波路コア間の離間距離がある(例えば特許文献2参照)。
【0012】
ただし、光導波路コアの厚さは、製造に用いるSOI基板のSOI層の厚さに依存する。このため、方向性結合器の偏波依存性を解消するに当たり、任意に調整可能な設計パラメータが、各光導波路コアの幅及び各光導波路コア間の離間距離のみとなる。そして、この2つのパラメータを調整するのみでは、偏波依存性を解消する条件を達成することができない場合がある。
【0013】
このため、偏波依存性を確実に解消するためには、光導波路コアの厚さについても調整することが好ましい。しかしながら、上述したように、光導波路コアの厚さはSOI層の厚さに依存するため、利用可能なSOI基板が制限されてしまう。
【0014】
一方で、光デバイスでは、波長フィルタ以外の光導波路素子(例えばスポットサイズ変換器や変調器等)を、共通のSOI基板を用いて一括形成する場合がある。これら各光導波路素子に最適な光導波路コアの厚さを決定するために、SOI層の厚さは柔軟に選択可能であることが望ましい。従って、利用可能なSOI基板が制限されることは好ましくない。
【0015】
このような問題を解消するため、光導波路コアの厚さに対する設計の自由度が高い方向性結合器(例えば特許文献3参照)が提案されている。
【0016】
特許文献3に係る方向性結合器では、各光導波路コアの幅及び厚さ、並びに各光導波路コア間の離間距離に加えて、各光導波路コア間のモード間結合に関与するモード次数を設計パラメータとしている。この結果、偏波無依存で使用するに当たり、光導波路コアの厚さに対する設計の自由度が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011−77133号公報
【特許文献2】特開2011−43567号公報
【特許文献3】特開2016−24375号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】IEEE Journal of selected topics in quantum electronics, vol.11, No.1, January/February 2005 p.232-240
【非特許文献2】IEEE Journal of selected topics in quantum electronics, vol.12, No.6, November/December 2006 p.1371-1379
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献3に係る方向性結合器を利用するに当たっては、設定されたモード次数のTE偏波及びTM偏波を入力する必要がある。各光導波路コア間のモード間結合に関与するモード次数が、一例として1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波に設定されている場合には、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を方向性結合器に入力する必要がある。
【0020】
このため、入力される基本モードのTE偏波を1次モードに変換して出力し、かつ入力される基本モードのTM偏波を基本モードのままで出力する光導波路素子を、方向性結合器の前段に設ける必要がある。
【0021】
このような光導波路素子において、所望のモード次数以外への変換は、損失となるだけでなく、方向性結合器における分岐特性の劣化に繋がる。さらに、方向性結合器における分岐特性の劣化は、当該方向性結合器を含んで構成される波長フィルタのアイソレーション特性の劣化にも繋がる。
【0022】
そこで、この発明の目的は、所望のモード次数以外への変換を抑えつつ、基本モードの一方の偏波をモード変換せずに出力し、かつ基本モードの他方の偏波を所望のモード次数に変換して出力する光導波路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した課題を解決するために、この発明による光導波路素子は、直列に接続された第1結合部及び第2結合部を含む第1光導波路コアと、直列に接続された第3結合部及び第4結合部を含む第2光導波路コアとを備えて構成される。この発明による光導波路素子では、第1結合部と第3結合部とが互いに離間しかつ並んで配置された、第1結合領域が設定されている。第1結合部及び第3結合部は、幅が互いに共通の寸法で、及び厚さが共通の寸法で形成され、かつ幅と厚さとが異なる寸法で形成されている。第1結合部及び第3結合部の長さは、当該第1結合部及び当該第3結合部の幅又は厚さの寸法の小さな方に、光電界の振動方向が沿った、基本モードのTE偏波又はTM偏波の一方の偏波の結合長に設定されている。第1結合領域では、第1結合部を伝播する基本モードの一方の偏波と、第3結合部を伝播する基本モードの一方の偏波とが結合される。また、この発明による光導波路素子では、第2結合部と第4結合部とが互いに離間しかつ並んで配置された、第2結合領域が設定されている。第2結合領域では、第2結合部を伝播する基本モードの他方の偏波と、第4結合部を伝播するi次モード(iは1≦iの整数)の他方の偏波とが結合される。そして、第1結合部には、基本モードのTE偏波及びTM偏波が入力され、かつ第4結合部から、第1結合領域で結合される基本モードの一方の偏波、及び第2結合領域で結合されるi次モードの他方の偏波が出力される。
【発明の効果】
【0024】
この発明の光導波路素子では、第1結合領域において、基本モードの一方の偏波のみを、基本モードのままで第1結合部から第3結合部に移行させることができる。また、第2結合領域において、基本モードの他方の偏波のみを、i次モード(iは1≦iの整数)に変換しつつ第2結合部から第4結合部に移行させることができる。これによって、入力されるそれぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波に対して、基本モードの一方の偏波をモード変換せずに出力し、かつ基本モードの他方の偏波を、所望のi次モードに変換して出力することができる。この発明の光導波路素子では、第1結合領域及び第2結合領域において不所望な結合が生じないため、基本モード以外のモード次数の一方の偏波及びi次モード以外のモード次数の他方の偏波への変換を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の光導波路素子を示す概略的平面図である。
図2】この発明の光導波路素子を示す概略的端面図である。
図3】アスペクト比と結合長との関係を示す図である。
図4】第2結合部及び第4結合部を伝播する光の伝播定数と、伝播軸座標との関係を示す図である。
図5】この発明の光導波路素子の特性を評価するための図である。
図6】この発明の光導波路素子の特性を評価するための図である。
図7】この発明の光カプラを示す概略的平面図である。
図8】この発明の第1の波長フィルタを示す概略的平面図である。
図9】この発明の第1の波長フィルタを示す概略的端面図である。
図10】この発明の第2の波長フィルタを示す概略的平面図である。
図11】この発明の第2の波長フィルタを示す概略的端面図である。
図12】グレーティングの変形例を示す概略的平面図である。
図13】グレーティングの変形例を示す概略的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0027】
(光導波路素子)
図1及び図2を参照して、この発明の光導波路素子について説明する。図1は、光導波路素子を示す概略平面図である。なお、図1では、後述する支持基板及びクラッドを省略して示してある。図2は、図1に示す構造体をI−I線で切り取った概略的端面図である。なお、図2では、ハッチングを省略してある。
【0028】
なお、以下の説明では、各構成要素について、光伝播方向に沿った方向を長さ方向とする。また、支持基板の厚さに沿った方向を厚さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に直交する方向を幅方向とする。
【0029】
光導波路素子100は、支持基板10とクラッド20と第1光導波路コア30と第2光導波路コア40とを備えて構成されている。第1光導波路コア30は、この順に直列に接続された第1入出力ポート31、入出力テーパ部32、第1結合部33、第1接続部34及び第2結合部35を含んでいる。第2光導波路コア40は、この順に直列に接続された第3結合部41、第2接続部42、第4結合部43及び第2入出力ポート44を含んでいる。また、第1結合部33と第3結合部41とが互いに離間しかつ並んで配置された第1結合領域50が設定されている。さらに、第2結合部35と第4結合部43とが互いに離間しかつ並んで配置された第2結合領域60が設定されている。
【0030】
光導波路素子100は、基本モードの一方の偏波をモード変換せずに出力し、かつ基本モードの他方の偏波を所望のモード次数に変換して出力するモードコンバータとして使用される。ここでは、一例として、光導波路素子100によって、基本モードのTM偏波についてはモード変換せず、かつ基本モードのTE偏波を1次モードに変換する構成について説明する。
【0031】
この例では、それぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を含む光が、第1光導波路コア30の第1入出力ポート31に入力され、入出力テーパ部32を経て、第1結合領域50の第1結合部33に送られる。入力された光のうち、基本モードのTM偏波は、第1結合領域50において、基本モードのままで、第1結合部33から第3結合部41に移行する。第3結合部41に移行した基本モードのTM偏波は、第2接続部42及び第4結合部43を経て、第2入出力ポート44から出力される。一方、基本モードのTE偏波は、第1結合領域50においては第3結合部41に移行せず、第1接続部34を経て、第2結合領域60の第2結合部35に送られる。基本モードのTE偏波は、第2結合領域60において、1次モードに変換されつつ、第2結合部35から第4結合部43に移行する。第4結合部43に移行した1次モードのTE偏波は、第2入出力ポート44から出力される。
【0032】
支持基板10は、例えば単結晶Siを材料とした平板状体で構成されている。
【0033】
クラッド20は、支持基板10上に設けられている。クラッド20は、支持基板10の上面を被覆し、かつ、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40を包含して形成されている。クラッド20は、例えば酸化シリコン(SiO)を材料として形成されている。
【0034】
第1光導波路コア30は、クラッド20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、第1光導波路コア30は、光の伝送路として機能し、第1光導波路コア30に入力された光が第1光導波路コア30の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0035】
第2光導波路コア40は、第1光導波路コア30と同様に、クラッド20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、第2光導波路コア40は、光の伝送路として機能し、第2光導波路コア40に入力された光が第2光導波路コア40の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0036】
なお、伝播する光が支持基板10へ逃げるのを防止するために、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40は、支持基板10から例えば少なくとも3μm以上離間して形成されているのが好ましい。
【0037】
第1入出力ポート31は、TE偏波及びTM偏波の双方に対してシングルモード条件を達成する厚さ及び幅で形成されている。従って、第1入出力ポート31は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播させる。
【0038】
入出力テーパ部32は、第1入出力ポート31と接続された一端から第1結合部33と接続された他端に向かって、第1入出力ポート31の幅から第1結合部33の幅まで、連続的に幅が拡大するテーパ形状で形成されている。
【0039】
第1結合部33は、直線導波路として形成されている。なお、第1結合部33の詳細な設計については後述する。
【0040】
第1接続部34は、第1結合部33と接続された一端から第2結合部35と接続された他端に向かって、第1結合部33の幅から第2結合部35の幅まで、連続的に幅が変化(ここでは縮小)するテーパ形状で形成されている。
【0041】
第2結合部35は、第1接続部34と接続された一端35aから、一端と反対側の他端35bに向かって、連続的に幅が縮小するテーパ形状で形成されている。なお、第2結合部35の詳細な設計については後述する。
【0042】
第3結合部41は、直線導波路として形成されている。なお、第3結合部41の詳細な設計については後述する。
【0043】
第2接続部42は、第3結合部41と接続された一端から第4結合部43と接続された他端に向かって、第3結合部41の幅から第4結合部43の幅まで、連続的に幅が変化(ここでは縮小)するテーパ形状で形成されている。
【0044】
第4結合部43は、第2接続部42と接続された一端43aから第2入出力ポート44と接続された他端43bに向かって、第2接続部42の幅から第2入出力ポート44の幅まで、連続的に幅が拡大するテーパ形状で形成されている。なお、第4結合部43の詳細な設計については後述する。
【0045】
第2入出力ポート44は、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0046】
第1結合領域50について説明する。
【0047】
第1結合部33及び第3結合部41は、第1結合領域50に含まれる。第1入出力ポート31と第2入出力ポート44とは、この第1結合領域50を挟んで、互いに反対の側に配置されている。第1結合領域50において、第1結合部33と第3結合部41は、方向性結合器を構成している。
【0048】
第1結合部33及び第3結合部41は、幅が互いに共通の寸法で、及び厚さが互いに共通の寸法で形成される。また、第1結合部33及び第3結合部41は、幅と厚さとが異なる寸法で形成されている。この結果、第1結合領域50において、第1結合部33及び第3結合部41の幅又は厚さの寸法の小さな方に、光電界の振動方向が沿った一方の偏波の結合長は、他方の偏波の結合長よりも短くなる。従って、第1結合部33及び第3結合部41の厚さを幅に対して小さく設定した場合には、TM偏波の結合長が、TE偏波の結合長よりも短くなる。また、第1結合部33及び第3結合部41の幅を厚さに対して小さく設定した場合には、TE偏波の結合長が、TM偏波の結合長よりも短くなる。なお、結合長とは、一方の導波路(ここでは第1結合部33)から他方の導波路(ここでは第3結合部41)に電力を完全移行させるために必要な、各導波路の並走距離である。
【0049】
このような、アスペクト比(光導波路コアにおける幅/厚さの比)に対する、各偏波の結合長の依存性を利用することによって、第1結合領域50において一方の偏波のみを第1結合部33から第3結合部41へ移行させる。
【0050】
この実施の形態では、第1結合領域50において、基本モードのTM偏波を、基本モードのままで第1結合部33から第3結合部41に移行させる。一方、基本モードのTE偏波については、第3結合部41に移行させない。従って、第1結合部33及び第3結合部41の厚さを、幅に対して小さく設計する。これによって、第1結合部33及び第3結合部41間におけるTM偏波の結合長が、TE偏波の結合長よりも短くなる。そして、第1結合部33及び第3結合部41の長さは、基本モードのTM偏波の結合長に設定される。この結果、基本モードのTM偏波のみが、第1結合部33から第3結合部41へ移行する。
【0051】
ここで、図3を参照して、アスペクト比と結合長との関係について説明する。図3は、並走する2つの光導波路コア(ここでは第1結合部33及び第3結合部41)におけるアスペクト比(幅/厚さ)に対する、基本モードのTM偏波の結合長との関係、及び基本モードのTM偏波の結合長及び基本モードのTE偏波の結合長の比(TE/TM)との関係を示す図である。図3では、横軸にアスペクト比をとって示している。また、紙面左側の縦軸に基本モードのTM偏波の結合長をμm単位でとって示している。さらに、紙面右側の縦軸に、基本モードのTM偏波の結合長に対する基本モードのTE偏波の結合長の比をとって示している。なお、図3においては、基本モードのTM偏波の結合長(Lc/TM)、並びに基本モードのTM偏波の結合長及び基本モードのTE偏波の結合長の比(LcTE/TM)をそれぞれプロットしてある。
【0052】
図3に示すように、アスペクト比が大きくなるほど、TE偏波及びTM偏波間の結合長の比が大きくなる。従って、第1結合部33及び第3結合部41におけるTM偏波の結合効率を向上させつつ、TE偏波の結合を抑制するためには、アスペクト比(幅/厚さ)を大きく設定することが好ましい。
【0053】
ただし、アスペクト比を大きく設定し、TM偏波の結合長を大きくとることで、第1結合部33及び第3結合部41を含む第1結合領域50の長さが大きくなり、またそれに伴い、第1結合領域の波長依存性が大きくなるので、動作波長域が狭くなる。このため、光導波路素子100の小型化および広帯域動作という観点を踏まえて、アスペクト比(幅/厚さ)を例えば2程度とすることが好ましい。
【0054】
次に、第2結合領域60について説明する。
【0055】
第2結合部35及び第4結合部43は、第2結合領域60に含まれる。第1入出力ポート31と第2入出力ポート44とは、この第2結合領域60を挟んで、互いに反対の側に配置されている。第2結合領域60において、第2結合部35及び第4結合部43は、方向性結合器を構成している。
【0056】
上述したように、第2結合部35は、一端35aから他端35bに向かって、連続的に幅が縮小するテーパ形状で形成されている。また、第4結合部43は、一端43aから他端43bに向かって、第2接続部42の幅から第2入出力ポート44の幅まで、連続的に幅が拡大するテーパ形状で形成されている。
【0057】
第2結合領域60では、第2結合部35の、幅が最大となる一端35aと、第4結合部43の、幅が最小となる一端43aとが同じ側に配置される。また、第2結合部35の、幅が最小となる他端35bと、第4結合部43の、幅が最大となる他端43bとが同じ側に配置される。従って、第2結合領域60では、図1に示す光の伝播方向Rに沿って、第2結合部35の幅が連続的に縮小し、かつ第4結合部43の幅が連続的に拡大する。なお、図1の構成例では、第2結合部35の一端35a及び第4結合部43の一端43aの面位置が一致し、かつ第2結合部35の他端35b及び第4結合部43の他端43bの面位置が一致するように配置されている。
【0058】
ここで、図4を参照して、第2結合部35及び第4結合部43の設計について説明する。図4は、第2結合部35を伝播する光の伝播定数及び第4結合部43を伝播する光の伝播定数と、伝播軸座標(第2結合領域60の光伝播方向Rにおける座標)Zとの関係を示す図である。図4では、縦軸に伝播定数を、また、横軸に伝播軸座標をそれぞれ任意単位でとって示している。ここでは、第2結合部35の一端35a及び第4結合部43の一端43a側の、第2結合領域60の一端60aを伝播軸座標のZaとしている。また、第2結合部35の他端35b及び第4結合部43の他端43bの、第2結合領域60の他端60bを伝播軸座標のZbとしている。なお、図4において、曲線βx0は第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波の伝播定数を示している。また、曲線βyi−1は第4結合部43を伝播するi−1次モードのTE偏波の伝播定数を示している(iは1≦iの整数)。また、曲線βyiは第4結合部43を伝播するi次モードのTE偏波の伝播定数を示している。また、曲線βyi+1は第4結合部43を伝播するi+1次モードのTE偏波の伝播定数を示している。
【0059】
第2結合部35では、第2結合領域60の一端60aから他端60bに向かって幅が狭まるに従い、光の伝播定数が小さくなる。一方、第4結合部43では、第2結合領域60の一端60aから他端60bに向かって幅が拡がるに従い、光の伝播定数が大きくなる。そして、第2結合領域60の一端60aから他端60bの間において、第2結合部35及び第4結合部43には、第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波の伝播定数と、第4結合部43を伝播するi次モードのTE偏波の伝播定数とが一致する点が含まれる。この伝播定数が一致する点に対応する幅を、第2結合部35及び第4結合部43が含むことによって、第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波と、第4結合部43を伝播するi次モードのTE偏波とが結合される。
【0060】
従って、第2結合領域60の一端60aにおいてβyi<βx0<βyi−1、及び第2結合領域60の他端60bにおいてβyi+1<βx0<βyiを満たすように、第2結合部35の一端35a及び他端35bの幅、並びに第4結合部43の一端43a及び他端43bの幅を設定する。この結果、第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波と、第4結合部43を伝播するi次モードのTE偏波とを結合することができる。
【0061】
また、このように第2結合部35の一端35a及び他端35bの幅、並びに第4結合部43の一端43a及び他端43bの幅を設定することによって、第2結合領域60では、第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波の伝播定数と、第4結合部43を伝播するi次モード以外のTE偏波の伝播定数とが一致する点が含まれない。従って、第2結合部35を伝播する基本モードのTE偏波と、第4結合部43を伝播するi次モード以外のTE偏波との結合が抑制される。
【0062】
この実施の形態では、第2結合領域60において、基本モードのTE偏波を、1次モードに変換して、第2結合部35から第4結合部43に移行させる。そこで、伝播定数βyiにおけるiを1として、上述した条件で第2結合部35及び第4結合部43を設計する。この結果、基本モードのTE偏波が、1次モードに変換されて、第2結合部35から第4結合部43へ移行する。
【0063】
なお、図4に示す伝播定数の関係は、TM偏波についても成立する。そこで、TM偏波については基本モードのみが伝播可能な幅に、第2結合部35の幅を設定する。そして、第2結合部35の一端35aの幅W1と、第4結合部43の一端43aの幅W2とを、W1<W2とすることによって、第2結合部35及び第4結合部43間におけるTM偏波の結合を抑制できる。
【0064】
以上に説明したように、光導波路素子100では、第1結合領域50において、基本モードのTM偏波を、基本モードのままで第1結合部33から第3結合部41に移行させることができる。また、第2結合領域60において、基本モードのTE偏波を、1次モードに変換しつつ第2結合部35から第4結合部43に移行させることができる。これによって、入力されるそれぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波に対して、基本モードのTM偏波をモード変換せずに出力し、かつ基本モードのTE偏波を、所望の(ここでは1次)モードに変換して出力することができる。そして、光導波路素子100では、上述したように、第1結合領域50及び第2結合領域60において不所望な結合が生じないため、1次モード以外のモード次数のTE偏波及び基本モード以外のモード次数のTM偏波への変換を抑制することができる。
【0065】
また、光導波路素子100では、それぞれテーパ形状で形成された入出力テーパ部32、第1接続部34及び第2接続部42を設けることにより、異なる幅を持つ光導波路コア間を、低損失及び低反射で接続することができる。
【0066】
なお、ここでは、光導波路素子100が、入力されるそれぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波に対して、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を出力する構成例について説明した。しかし、光導波路素子100は、この構成例に限られない。図4を参照して説明した伝播定数βyiにおけるiを任意に設定することにより、第2結合領域60において、第2結合部35から第4結合部43に移行させる光を、任意のi次モードに変換することができる。
【0067】
また、逆に、光導波路素子100では、第1結合領域50において、基本モードのTE偏波を、基本モードのままで第1結合部33から第3結合部41に移行させ、かつ第2結合領域60において、基本モードのTM偏波を、i次モードに変換しつつ第2結合部35から第4結合部43に移行させることができる。この場合には、第1結合部33及び第3結合部41の幅を厚さに対して小さく設定することによって、TE偏波の結合長を、TM偏波の結合長よりも短くする。そして、第1結合部33及び第3結合部41の長さを、基本モードのTE偏波の結合長に設定することにより、基本モードのTE偏波のみを、第1結合部33から第3結合部41へ移行させることができる。この場合には、第1結合部33及び第3結合部41の厚さに対して幅を小さく(好ましくはアスペクト比(幅/厚さ)を例えば1/2程度に)設定する。
【0068】
また、この場合には、TM偏波の伝播定数に対して、上述した条件で、第2結合部35の一端35a及び他端35bの幅、並びに第4結合部43の一端43a及び他端43bの幅を設定する。この結果、第2結合領域60において、基本モードのTM偏波を、i次モードに変換しつつ第2結合部35から第4結合部43に移行させることができる。
【0069】
(特性評価)
発明者は、FDTD(Finite Differential Time Domain)を用いて、光導波路素子100の特性を評価するシミュレーションを行った。
【0070】
このシミュレーションでは、第1結合領域50において、基本モードのTM偏波を、基本モードのままで第1結合部33から第3結合部41に移行させ、かつ第2結合領域60において、基本モードのTE偏波を、1次モードに変換しつつ第2結合部35から第4結合部43に移行させる構成を想定した。そして、光導波路素子100について、第1入出力ポート31からそれぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を入力し、第2入出力ポート44から出力される1次モードのTE偏波、基本モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波の強度をそれぞれ取得した。
【0071】
また、このシミュレーションでは、入力するTE偏波及びTM偏波の波長が1550nmである場合を想定し、以下のような設計条件を想定した。
【0072】
すなわち、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40の材料をSiとした。また、クラッド20の材料をSiOとした。また、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40の厚さを全体的に200nmとした。
【0073】
また、第1結合部33及び第3結合部41の幅をそれぞれ480nmとすることで、第1結合部33及び第3結合部41のアスペクト比(幅/厚さ)を2.4とした。そして、第1結合部33及び第3結合部41の長さ(すなわち第1結合領域50の長さ)を、基本モードのTM偏波の結合長である18μmとした。なお、この場合、基本モードのTM偏波の結合長が18μmであるのに対して、基本モードのTE偏波の結合長が300μmであり、TM偏波の結合長とTE偏波の結合長とが大きく異なる。また、第1結合部33及び第3結合部41の離間距離を、長さ方向に沿った中心線間の距離にして980nmとした。
【0074】
また、第2結合部35の一端35aの幅を0.3μm、及び他端35bの幅を0.12μmとした。また、第4結合部43の一端43aの幅を0.5μm、及び他端43bの幅を0.6μmとした。また、第2結合部35及び第4結合部43の長さ(すなわち第2結合領域60の長さ)を100μmとした。また、第2結合部35及び第4結合部43の離間距離を、長さ方向に沿った中心線間の距離にして1.0μmとした。
【0075】
なお、このシミュレーションでは、従来の構造として、特許文献3に開示された、方向性結合器の前段に設けられた構造についても、同様に特性を評価した。従来の構造では、連続的に幅が縮小するテーパ形状の第1変換部と、連続的に幅が拡大するテーパ形状の第2変換部とが、互いに離間しかつ並んで配置される(特許文献3の図3及び図4参照)。ここでは、第1変換部からそれぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を入力し、第2変換部から出力される1次モードのTE偏波、基本モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波の強度をそれぞれ取得した。
【0076】
シミュレーションの結果を図5及び図6に示す。図5(A)は、光導波路素子100において、第2入出力ポート44から出力される基本モードのTM偏波の強度を示す図である。図5(A)における線分101は、基本モードのTM偏波の強度を示している。また、図5(B)は、従来の構造において、第2変換部から出力される基本モードのTM偏波の強度を示す図である。図5(B)における線分151は、基本モードのTM偏波の強度を示している。また、図6(A)は、光導波路素子100において、第2入出力ポート44から出力される1次モードのTE偏波及び基本モードのTE偏波の強度を示す図である。図6(A)における線分102は1次モードのTE偏波の強度を、また、線分103は基本モードのTE偏波の強度をそれぞれ示している。また、図6(B)は、従来の構造において、第2変換部から出力される1次モードのTE偏波及び基本モードのTE偏波の強度を示す図である。図6(B)における線分152は1次モードのTE偏波の強度を、また、線分153は基本モードのTE偏波の強度をそれぞれ示している。図5(A)及び(B)並びに図6(A)及び(B)では、横軸に波長をμm単位でとって示し、また、縦軸に出力光強度をdB目盛でとって示している。
【0077】
図5(A)及び(B)に示すように、光導波路素子100及び従来の構造ともに、入力された基本モードのTM偏波が、モード変換されずに出力されることが確認できる。
【0078】
また、図6(A)及び(B)に示すように、光導波路素子100及び従来の構造ともに、入力された基本モードのTE偏波が、1次モードに変換されて出力されることが確認できる。そして、図6(A)及び(B)を比較すると、光導波路素子100では、従来の構造と比べて、不所望に出力される基本モードのTE偏波が、波長1550nmにおいて7dB以上改善されていることが確認できる。
【0079】
(光カプラ)
図7を参照して、上述した光導波路素子100(図1参照)を備える光カプラについて説明する。図7は、光カプラを示す概略的平面図である。なお、図7では、支持基板及びクラッドを省略して示してある。また、上述した光導波路素子100と共通する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0080】
光カプラ200は、共通に設計された3つの光導波路素子100(第1光導波路素子100−1〜第3光導波路素子100−3)、第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230及び方向性結合器240を備えて構成される。方向性結合器240は、第1カプラ導波路部250と第2カプラ導波路部260とを含み、これらが互いに離間しかつ並んで配置されて構成されている。これら第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260は、光導波路素子100の第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40と共通の材料で形成され、かつ共通の支持基板10(図2参照)上に、共通のクラッド20(図2参照)に包含されて形成されている。
【0081】
光カプラ200は、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から、第1接続導波路部210を経て送られるTE偏波及びTM偏波のそれぞれを、方向性結合器240において2分岐する。そして、方向性結合器240においてそれぞれ2分岐したTE偏波及びTM偏波を、第2接続導波路部220を経て第2光導波路素子100−2に、及び第3接続導波路部230を経て第3光導波路素子100−3にそれぞれ送る。
【0082】
この例では、それぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を含む光が、第1光導波路素子100−1の第1光導波路コア30の第1入出力ポート31に入力される。第1光導波路素子100−1では、基本モードのTM偏波がモード変換されず、かつ基本モードのTE偏波が1次モードに変換される。
【0083】
また、第2光導波路素子100−2及び第3光導波路素子100−3のそれぞれの第2入出力ポート44には、方向性結合器240でそれぞれ2分岐された1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が入力される。第2光導波路素子100−2及び第3光導波路素子100−3では、各第2入出力ポート44から入力された1次モードのTE偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、基本モードに変換されて第1入出力ポート31から出力される。また、各第2入出力ポート44から入力された基本モードのTM偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、モード変換されずに第1入出力ポート31から出力される。
【0084】
第1接続導波路部210は、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44と、第1カプラ導波路部250との間を接続する。第1接続導波路部210は、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0085】
方向性結合器240としては、特許文献3に開示された方向性結合器を用いることができる。ここでは、方向性結合器240において、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における1次モードのTE偏波の結合長と、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における基本モードのTM偏波の結合長とが一致するように、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260の幅、及びこれらの離間距離が設定される。この結果、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波のそれぞれを、方向性結合器240の長さに応じた共通の分岐比で2分岐することができる。
【0086】
第1カプラ導波路部250は、一端250a側で第1接続導波路部210に接続されており、他端250b側で第2接続導波路部220と接続されている。また、第2カプラ導波路部260は、一端260a側をここではカットオフとしてあり、他端260b側で第3接続導波路部230と接続されている。なお、図7の構成例では、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260は、第1カプラ導波路部250の一端250a及び第2カプラ導波路部260の一端260aの面位置が一致し、かつ第1カプラ導波路部250の他端250b及び第2カプラ導波路部260の他端260bの面位置が一致するように配置されている。
【0087】
第2接続導波路部220は、第1カプラ導波路部250と、第2光導波路素子100−2の第2入出力ポート44との間を接続する。第2接続導波路部220は、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0088】
第3接続導波路部230は、第2カプラ導波路部260と、第3光導波路素子100−3の第2入出力ポート44との間を接続する。第3接続導波路部230は、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0089】
以上に説明したように、光カプラ200は、第1光導波路素子100と方向性結合器240を組み合わせることにより、TE偏波及びTM偏波のそれぞれを、方向性結合器240の長さに応じた共通の分岐比で2分岐することができる。従って、光カプラ200は、偏波無依存で使用することができる。
【0090】
なお、ここでは、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240に送られる構成例について説明した。しかし、光カプラ200は、この構成例に限られない。第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240に、i次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を送る構成、又は基本モードのTE偏波及びi次モードのTM偏波を送る構成とすることもできる。これらの場合には、方向性結合器240において、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間におけるi次モードの一方の偏波の結合長と、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における基本モードの他方の偏波の結合長とが一致するように、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260の幅、及びこれらの離間距離を設定することができる。
【0091】
(第1波長フィルタ)
図8及び図9を参照して、上述した光導波路素子100(図1参照)を備える第1の波長フィルタについて説明する。図8は、第1の波長フィルタを示す概略的平面図である。なお、図8では、支持基板及びクラッドを省略して示してある。図9は、図8に示す構造体をII−II線で切り取った概略的端面図である。なお、図9では、ハッチングを省略してある。上述した光導波路素子100及び光カプラ200と共通する構成要素には、図8及び図9において同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
第1の波長フィルタ300は、共通に設計された3つの光導波路素子100(第1光導波路素子100−1〜第3光導波路素子100−3)、第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230、n(nは2以上の整数)個の方向性結合器240及びk(kはk=n−1の整数)個の位相調整領域350を備えて構成される。図8では、第1の波長フィルタ300が、3個の方向性結合器240−1〜240−3及び2個の位相調整領域350−1及び350−2を備える構成例を示している。
【0093】
方向性結合器240−1〜240−3は、第1カプラ導波路部250と第2カプラ導波路部260とを含み、これらが互いに離間しかつ並んで配置されてそれぞれ構成されている。また、位相調整領域350−1及び350−2は、第1アーム導波路310と第2アーム導波路320とを含み、これらが互いに対向して配置されてそれぞれ構成されている。
【0094】
これら第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230、第1カプラ導波路部250、第2カプラ導波路部260、第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320は、光導波路素子100の第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40と共通の材料で形成され、かつ共通の支持基板10上に、共通のクラッド20に包含されて形成されている。
【0095】
第1の波長フィルタ300は、マッハツェンダ干渉器型の波長フィルタとして機能する。第1の波長フィルタ300では、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から、第1接続導波路部210を経て送られるTE偏波及びTM偏波を含む光が、方向性結合器240−1において2分岐される。そして、2分岐された光が、位相調整領域350−1の第1アーム導波路310と第2アーム導波路320を経て方向性結合器240−2に送られる。光は、方向性結合器240−2、位相調整領域350−2及び方向性結合器240−3を順次に経て、第2接続導波路部220及び第3接続導波路部230にそれぞれ送られる。第1の波長フィルタ300では、各位相調整領域350−1及び350−2の第1アーム導波路310を伝播する光と第2アーム導波路320を伝播する光とで位相差が生じる。そして、これら位相差が生じた光が方向性結合器240−2及び240−3で干渉する。この結果、第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320間の位相差に応じた波長の光信号が、方向性結合器240−3から取り出される。
【0096】
ここでは、一例として、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が、方向性結合器240−1に送られる構成について説明する。この例では、それぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を含む光が、第1光導波路素子100−1の第1光導波路コア30の第1入出力ポート31に入力される。第1光導波路素子100−1では、基本モードのTM偏波がモード変換されず、かつ基本モードのTE偏波が1次モードに変換される。また、第2光導波路素子100−2及び第3光導波路素子100−3のそれぞれの第2入出力ポート44には、方向性結合器240−3でそれぞれ2分岐された1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が入力される。第2光導波路素子100−2及び第3光導波路素子100−3では、各第2入出力ポート44から入力された1次モードのTE偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、基本モードに変換されて第1入出力ポート31から出力される。また、各第2入出力ポート44から入力された基本モードのTM偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、モード変換されずに第1入出力ポート31から出力される。
【0097】
第1接続導波路部210は、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44と、方向性結合器240−1の第1カプラ導波路部250との間を接続する。また、第2接続導波路部220は、第2光導波路素子100−2の第2入出力ポート44と、方向性結合器240−3の第1カプラ導波路部250との間を接続する。また、第3接続導波路部230は、第3光導波路素子100−3の第2入出力ポート44と、方向性結合器240−3の第2カプラ導波路部260との間を接続する。
【0098】
方向性結合器240−1〜240−3は、上述した光カプラ200における方向性結合器240と同様である。各方向性結合器240において、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における1次モードのTE偏波の結合長と、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における基本モードのTM偏波の結合長とが一致するように、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260の幅、及びこれらの離間距離が設定される。この結果、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波のそれぞれを、各方向性結合器240−1〜240−3の長さに応じた共通の分岐比で2分岐することができる。
【0099】
各位相調整領域350−1及び350−2の第1アーム導波路310は、隣り合う方向性結合器240の第1カプラ導波路部250間を接続する。また、各位相調整領域350−1及び350−2の第2アーム導波路320は、隣り合う方向性結合器240の第2カプラ導波路部260間を接続する。
【0100】
各位相調整領域350−1及び350−2において、第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320は、この順に直列に接続された第1引き回し部301、第1位相調整部302、第2引き回し部303、偏波変換部304、第3引き回し部305、第2位相調整部306及び第4引き回し部307をそれぞれ含んでいる。
【0101】
第1引き回し部301、第2引き回し部303、第3引き回し部305及び第4引き回し部307は、曲線導波路として形成されており、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。また、これら第1〜第4引き回し部301、303、305及び307は、第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320で共通の設計である。従って、第1〜第4引き回し部301、303、305及び307における光路長は、第1アーム導波路310と第2アーム導波路320とで互いに等しく設定されている。
【0102】
第1位相調整部302及び第2位相調整部306は、直線導波路として形成されており、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0103】
また、第1アーム導波路310の第1位相調整部302及び第2位相調整部306と、第2アーム導波路320の第1位相調整部302及び第2位相調整部306とは、互いに異なる長さで形成される。この結果、第1アーム導波路310と第2アーム導波路320とに光路長差が生じる。そして、この光路長差に応じて、第1アーム導波路310と第2アーム導波路320とを伝播する光に互いに位相差を与えることができる。
【0104】
さらに、第1アーム導波路310の第1位相調整部302及び第2位相調整部306と、第2アーム導波路320の第1位相調整部302及び第2位相調整部306とは、互いに異なる幅で形成される。第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320における、各第1位相調整部302及び各第2位相調整部306の幅の設計については、例えば特開2013−057847号公報に記載された設計条件を採用することができる。これによって、第1アーム導波路310を伝播する1次モードのTE偏波及び第2アーム導波路320を伝播する1次モードのTE偏波間の位相差と、第1アーム導波路310を伝播する基本モードのTM偏波及び第2アーム導波路320を伝播する基本モードのTM偏波間の位相差とが一致するように、第1アーム導波路310の第1位相調整部302及び第2位相調整部306と、第2アーム導波路320の第1位相調整部302及び第2位相調整部306との光路長差を最適化する。これによって、各位相調整領域350−1及び350−2において、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波に対して、共通の位相差を与えることができる。
【0105】
偏波変換部304は、図9に示すように、互いに幅の異なる、下部光導波路コア304aと、下部光導波路コア304a上に一体的に形成された上部光導波路コア304bとを含む。図9では、下部光導波路コア304aの幅が上部光導波路コア304bの幅よりも大きく設定された構成例を示している。従って、偏波変換部304では、下面の幅と上面の幅とが異なる寸法に設定される。
【0106】
この結果、偏波変換部304では、下部光導波路コア304aと上部光導波路コア304bとで屈折率が異なるため、伝播する光の厚さ方向の電磁界分布が、コア中心に対して対称でなくなる。すなわち、光の電磁界分布が、コア中心から下側又は上側に偏芯する。そして、偏波変換部304では、長さ並びに下部光導波路コア304a及び上部光導波路コア304bの幅が、1次モードのTE偏波と基本モードのTM偏波とを変換するように設計される。従って、偏波変換部304において、1次モードのTE偏波が基本モードのTM偏波に、また、基本モードのTM偏波が1次モードのTE偏波に変換される。
【0107】
また、偏波変換部304は、第1アーム導波路310の長さ方向における中心、及び第2アーム導波路320の長さ方向における中心に、それぞれ配置される。この結果、第1アーム導波路310及び第2アーム導波路320それぞれにおいて、基本モードのTM偏波及び1次モードのTE偏波が、それぞれ等しい距離伝播する。
【0108】
このように、第1位相調整部302及び第2位相調整部306並びに偏波変換部304を形成することにより、各位相調整領域350において、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波に対して、偏波無依存で共通の位相差を与えることができる。
【0109】
以上に説明したように、第1の波長フィルタ300は、光導波路素子100と方向性結合器240及び位相調整領域350を組み合わせることにより、TE偏波及びTM偏波に対して、方向性結合器240において共通の分岐比を与え、及び各位相調整領域350において共通の位相差を与えることができる。従って、第1の波長フィルタ300は、偏波無依存の波長フィルタとして使用することができる。
【0110】
なお、ここでは、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240−1に送られる構成例について説明した。しかし、第1の波長フィルタ300は、この構成例に限られない。第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240−1に、i次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を送る構成、又は基本モードのTE偏波及びi次モードのTM偏波を送る構成とすることもできる。これらの場合には、上述した各方向性結合器240及び各位相調整領域350を、i次モードの一方の偏波及び基本モードの他方の偏波に応じて最適化して設計することができる。
【0111】
(第2波長フィルタ)
図10及び図11を参照して、上述した光導波路素子100(図1参照)を備える第2の波長フィルタについて説明する。図10は、第2の波長フィルタを示す概略的平面図である。なお、図10では、支持基板及びクラッドを省略して示してある。図11は、図10に示す構造体をIII−III線で切り取った概略的端面図である。なお、図11では、ハッチングを省略してある。上述した光導波路素子100及び光カプラ200と共通する構成要素には、図10及び図11において同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0112】
第2の波長フィルタ400は、共通に設計された2つの光導波路素子100(第1光導波路素子100−1及び第2光導波路素子100−2)、第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230、第4接続導波路部450、方向性結合器240、第1接続テーパ部410、第1ブラッグ反射部420、第2接続テーパ部430及び第2ブラッグ反射部440を備えて構成される。
【0113】
方向性結合器240は、第1カプラ導波路部250と第2カプラ導波路部260とを含み、これらが互いに離間しかつ並んで配置されてそれぞれ構成されている。
【0114】
これら第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230、第4接続導波路部450、第1カプラ導波路部250、第2カプラ導波路部260、第1接続テーパ部410、第1ブラッグ反射部420、第2接続テーパ部430及び第2ブラッグ反射部440は、光導波路素子100の第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40と共通の材料で形成され、かつ共通の支持基板10上に、共通のクラッド20に包含されて形成されている。
【0115】
第2の波長フィルタ400では、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から、第1接続導波路部210を経て送られるTE偏波及びTM偏波を含む光が、方向性結合器240において等しい比率で2分岐される。そして、方向性結合器240において2分岐された光が、第2接続導波路部220及び第1接続テーパ部410を経て第1ブラッグ反射部420に、並びに第3接続導波路部230及び第2接続テーパ部430を経て第2ブラッグ反射部440にそれぞれ送られる。第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440では、特定の波長のTE偏波がTM偏波に、及び特定の波長のTM偏波がTE偏波にそれぞれ変換されて反射される。第1ブラッグ反射部420で反射された光は、第1接続テーパ部410及び第2接続導波路部220を経て、再び方向性結合器240に送られる。また、第2ブラッグ反射部440で反射された光は、第2接続テーパ部430及び第3接続導波路部230を経て、再び方向性結合器240に送られる。方向性結合器240では、第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440から送られた光が合波される。合波された光は、第4接続導波路部450を経て、第2光導波路素子100−2に送られる。
【0116】
ここでは、一例として、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が、方向性結合器240に送られる構成について説明する。この例では、それぞれ基本モードのTE偏波及びTM偏波を含む光が、第1光導波路素子100−1の第1光導波路コア30の第1入出力ポート31に入力される。第1光導波路素子100−1では、基本モードのTM偏波がモード変換されず、かつ基本モードのTE偏波が1次モードに変換される。また、第2光導波路素子100−2の第2入出力ポート44には、方向性結合器240でそれぞれ合波された1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が入力される。第2光導波路素子100−2では、第2入出力ポート44から入力された1次モードのTE偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、基本モードに変換されて第1入出力ポート31から出力される。また、第2入出力ポート44から入力された基本モードのTM偏波は、第1光導波路素子100−1とは逆の経路を経ることにより、モード変換されずに第1入出力ポート31から出力される。
【0117】
第1接続導波路部210は、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44と、方向性結合器240の第1カプラ導波路部250との間を接続する。また、第2接続導波路部220は、方向性結合器240の第1カプラ導波路部250と、第1接続テーパ部410との間を接続する。また、第3接続導波路部230は、方向性結合器240の第2カプラ導波路部260と、第2接続テーパ部430との間を接続する。また、第4接続導波路部450は、第2光導波路素子100−2の第2入出力ポート44と、方向性結合器240の第2カプラ導波路部260との間を接続する。なお、第2接続導波路部220及び第3接続導波路部230は、等しい光路長で形成されている。また、これら第1接続導波路部210、第2接続導波路部220、第3接続導波路部230及び第4接続導波路部450は、少なくとも1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を伝播させる厚さ及び幅で形成されている。
【0118】
方向性結合器240は、上述した光カプラ200における方向性結合器240と同様である。方向性結合器240において、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における1次モードのTE偏波の結合長と、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260間における基本モードのTM偏波の結合長とが一致するように、第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260の幅、及びこれらの離間距離が設定される。この結果、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波のそれぞれを、方向性結合器240の長さに応じた共通の分岐比で2分岐することができる。ここでは、分岐比が3dBとなるように、方向性結合器240の長さ(第1カプラ導波路部250及び第2カプラ導波路部260の長さ)が設定される。
【0119】
第1接続テーパ部410は、第2接続導波路部220及び第1ブラッグ反射部420間を接続する。第1接続テーパ部410の幅は、光の伝播方向に沿って、第2接続導波路部220の幅から第1ブラッグ反射部420におけるリブ導波路部37の幅へ、連続的に変化するように設定されている。第1接続テーパ部410を設けることによって、第2接続導波路部220及び第1ブラッグ反射部420間を伝播する光の反射を緩和することができる。
【0120】
第1ブラッグ反射部420は、リブ導波路部37並びにスラブ導波路部38a及び38bを含んでいる。
【0121】
リブ導波路部37には、グレーティングが形成されている。グレーティングは、基部51と突出部53a及び53bとを一体的に含んで構成されている。基部51は、一定の幅で、光の伝播方向に沿って延在して形成されている。突出部53aは、基部51の一方の側面に、周期的に複数形成されている。突出部53bは、基部51の他方の側面に、突出部53aと同じ周期で複数形成されている。これら突出部53a及び53bは、基部51を挟んで対称となる位置に形成されている。
【0122】
この実施の形態では、グレーティングは、入力される特定の波長の基本モードのTM偏波を、1次モードのTE偏波に変換してブラッグ反射する。また、グレーティングは、入力される特定の波長の1次モードのTE偏波を、基本モードのTM偏波に変換してブラッグ反射する。
【0123】
波長λにおいて、基本モードのTM偏波と1次モードのTE偏波とを変換してブラッグ反射する条件は、基本モードのTM偏波の等価屈折率をNTM0、1次モードのTE偏波の等価屈折率をNTE1、及びグレーティング周期(突出部53a及び53bの形成周期)をΛとして下式(1)で表される。
【0124】
(NTM0+NTE1)Λ=λ ・・・(1)
グレーティングでは、上式(1)が成立する波長λ、すなわちブラッグ波長の基本モードのTM偏波が1次モードのTE偏波に変換されて、及び1次モードのTE偏波が基本モードのTM偏波に変換されて、ブラッグ反射される。従って、グレーティング周期は、所望の反射すべき波長λに対して上式(1)が成立するように設計される。また、基部51の幅や突出部53a及び53bの突出量等、その他の設計についても、所望の反射すべき波長λに応じて設計される。
【0125】
ここで、グレーティングの変形例として、周期Λを一定に設定し、突出部53a及び53bの突出量Dが周期毎に変化する構成とすることができる。図12を参照して、グレーティングの変形例について説明する。図12は、グレーティングの変形例を説明するための概略的平面図である。なお、図12では、ブラッグ反射部のリブ導波路部のみを示してあり、支持基板、クラッド及びスラブ導波路部を省略して示してある。
【0126】
図12に示す構成例では、突出部53a及び53bの突出量(突出部53a及び53bの幅方向の寸法)Dがそれぞれ固有の突出量を持ち、突出量Dに少なくとも2以上の値がある。ここでは、第1周期目の突出部53a及び53bの突出量D=Dに対して、周期毎に突出量Dが一定の変化量でΔDずつ増加する。従って、第n周期(nは1以上の整数)では、突出部53a及び53bの突出量DがD+ΔD(n−1)となる。
【0127】
突出部53a及び53bの突出量Dが変化することによって、上式(1)を満足するブラッグ波長λが変化し、それに伴い等価屈折率が変化する。従って、突出量Dを変化させることによって、グレーティングにおいてブラッグ反射される波長帯域(ブラッグ反射帯域)を拡大することができる。
【0128】
周期毎のブラッグ波長のシフト量Δλは、突出量Dの変化量ΔDを用いて、近似的に下式(2)で表すことができる。なお、Nは基本モードの等価屈折率を、Nは1次モードの等価屈折率を、それぞれ示す。この実施の形態では、グレーティングが、基本モードのTM偏波と1次モードのTE偏波とを変換してブラッグ反射する構成例であるため、NはTM偏波の基本モードの等価屈折率に、NはTE偏波の1次モードの等価屈折率に、それぞれ対応する。
【0129】
【数1】
【0130】
ΔDを調整し、各周期のブラッグ波長がオーバーラップするようにΔλを設定することによって、ブラッグ反射帯域を拡大することができる。例えばn周期のグレーティングを形成する場合には、突出量Dが一定である場合と比して、ブラッグ反射帯域をΔλ×n程度拡大することができる。その結果、ブラッグ反射の波長依存性を緩和することができる。
【0131】
また、グレーティングにおけるブラッグ反射帯域を拡大する、他の変形例として、突出部53a及び53bの突出量D及びデューティ比を一定として、周期Λが周期毎に変化する(すなわち光の伝播方向に沿って隣り合う突出部間53a同士及び53b同士の離間距離が、光の伝播方向に沿って一定の変化量で変化する)構成とすることもできる。この変形例を図13に示す。図13は、グレーティングの変形例を説明するための概略的平面図である。なお、図13では、ブラッグ反射部のリブ導波路部のみを示してあり、支持基板、クラッド及びスラブ導波路部を省略して示してある。
【0132】
図13に示す構成例では、第1周期目の周期Λ=Λに対して、周期毎に周期Λが一定の変化量でΔΛずつ増加する。従って、第n周期では、周期ΛがΛ+ΔΛ(n−1)となる。
【0133】
周期Λが変化することによって、上式(1)を満足するブラッグ波長λが変化し、それに伴い等価屈折率が変化する。従って、周期Λを変化させることでも、グレーティングにおいてブラッグ反射帯域を拡大することができる。周期毎のブラッグ波長のシフト量Δλは、周期Λの変化量ΔΛを用いて、近似的に下式(3)で表すことができる。
【0134】
【数2】
【0135】
ΔΛを調整し、各周期のブラッグ波長がオーバーラップするようにΔλを設定することによって、ブラッグ反射帯域を拡大することができる。突出量Dを変化させる場合と同様に、例えばn周期のグレーティングを形成する場合には、周期Λが一定である場合と比して、ブラッグ反射帯域をΔλ×n程度拡大することができる。その結果、ブラッグ反射の波長依存性を緩和することができる。
【0136】
スラブ導波路部38a及び38bは、リブ導波路部37よりも小さい厚さで、かつリブ導波路部37の光伝播方向に沿った両側面に、それぞれリブ導波路部37と一体的に形成されている。
【0137】
第2接続テーパ部430は、第3接続導波路部230及び第2ブラッグ反射部440間を接続する。第2接続テーパ部430は、第1接続テーパ部410と共通の設計で形成される。第2接続テーパ部430を設けることによって、第3接続導波路部230及び第2ブラッグ反射部440間を伝播する光の反射を緩和することができる。
【0138】
第2ブラッグ反射部440は、第1ブラッグ反射部420と共通の設計で形成される。
【0139】
以上に説明したように、第2の波長フィルタ400は、光導波路素子100と方向性結合器240、第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440を組み合わせることにより、TE偏波及びTM偏波に対して、方向性結合器240において共通の分岐比を与え、及び第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440において共通の波長で反射することができる。従って、第2の波長フィルタ400は、第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440の反射波長に応じた波長を取り出す、偏波無依存の波長フィルタとして使用することができる。
【0140】
なお、ここでは、1次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波が、第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240に送られる構成例について説明した。しかし、第2の波長フィルタ400は、この構成例に限られない。第1光導波路素子100−1の第2入出力ポート44から方向性結合器240に、i次モードのTE偏波及び基本モードのTM偏波を送る構成、又は基本モードのTE偏波及びi次モードのTM偏波を送る構成とすることもできる。これらの場合には、上述した方向性結合器240並びに第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440を、i次モードの一方の偏波及び基本モードの他方の偏波に応じて最適化して設計することができる。この場合には、基本モードのTM偏波の等価屈折率をNTM0、i次モードのTE偏波の等価屈折率をNTEi、i次モードのTM偏波の等価屈折率をNTMi、及び基本モードのTE偏波の等価屈折率をNTE0に対して、第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440におけるブラッグ反射条件として、下式(4)又は(5)が成立するように、第1ブラッグ反射部420及び第2ブラッグ反射部440を設計することができる。
【0141】
(NTM0+NTEi)Λ=λ ・・・(4)
(NTMi+NTE0)Λ=λ ・・・(5)
(製造方法)
上述した光導波路素子100、光カプラ200、第1の波長フィルタ300及び第2の波長フィルタ400は、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板を利用することによって、簡易に製造することができる。以下、一例として光導波路素子100の製造方法について説明する。
【0142】
すなわち、まず、支持基板層、SiO層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板を用意する。次に、例えばエッチング技術を用い、Si層をパターニングすることによって、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40を形成する。その結果、支持基板10としての支持基板層上にSiO層が積層され、さらにSiO層上に第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40が形成された構造体を得ることができる。次に、例えばCVD法を用いて、SiO層上に、SiOを、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40を被覆して形成する。その結果、SiOのクラッド20によって第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40が包含され、光導波路素子100を製造することができる。なお、光カプラ200、第1の波長フィルタ300及び第2の波長フィルタ400を製造する場合には、Si層をパターニングする工程において、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40とともに、方向性結合器等の追加的な構成要素を形成することができる。
【0143】
なお、光導波路素子100、光カプラ200、第1の波長フィルタ300及び第2の波長フィルタ400は、SOI基板を利用せずに製造することもできる。この場合には、例えば、支持基板10上に、クラッド20及びSi層を順次に堆積した後、研磨等によりSi層を任意の厚さとなるまで除去する。そして、Si層をパターニングすることによって、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40を形成する。Si層をパターニングする工程以降は、上述したSOI基板を利用する製造方法と同様である。この製造方法では、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア40の厚さが、SOI基板におけるSOI層としてのSi層の厚さに限定されない。このため、上述した第1結合領域50において、基本モードのTE偏波を、基本モードのままで第1結合部33から第3結合部41に移行させる構成を得る場合に、第1結合部33及び第3結合部41の厚さに対して幅を小さく設定する(すなわち幅に対して厚さを大きく設定する)際に好適である。
【符号の説明】
【0144】
10:支持基板
20:クラッド
30:第1光導波路コア
31:第1入出力ポート
32:入出力テーパ部
33:第1結合部
34:第1接続部
35:第2結合部
40:第2光導波路コア
41:第3結合部
42:第2接続部
43:第4結合部
44:第2入出力ポート
50:第1結合領域
60:第2結合領域
100:光導波路素子
200:光カプラ
300:第1の波長フィルタ
400:第2の波長フィルタ
【要約】      (修正有)
【課題】所望のモード次数以外への変換を抑えつつ、基本モードの一方の偏波をモード変換せずに出力し、かつ基本モードの他方の偏波を所望のモード次数に変換して出力する光導波路素子を提供する。
【解決手段】第1結合部33及び第2結合部35を含む第1光導波路コア30と、第3結合部41及び第4結合部43を含む第2光導波路コア40とを備える。第1結合部33及び第3結合部41は、幅及び厚さが共通の寸法で形成され、かつ幅と厚さとが異なる寸法で形成されている。第1結合部及び第3結合部の長さは、幅又は厚さの小さな方に、光電界の振動方向が沿った、基本モードの一方の偏波の結合長に設定されている。第2結合部35と第4結合部43とが互いに離間しかつ並んで配置された第2結合領域では、第2結合部を伝播する基本モードの他方の偏波と、第4結合部を伝播するi次モードの他方の偏波とが結合される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13