(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
データ保持部に記憶されている、前記レーザビームの進行方向の位置に応じたビーム径を示すビームプロファイルデータを参照して、前記レーザビームを振動させる振幅を決定する請求項4に記載のレーザ加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法について、添付図面を参照して説明する。
図1において、レーザ加工機100は、レーザビームを生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。
【0011】
また、レーザ加工機100は、操作部40と、NC装置50と、加工プログラムデータベース60と、加工条件データベース70と、アシストガス供給装置80とを備える。NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
【0012】
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
【0013】
レーザ発振器10は、波長900nm〜1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザビームを射出する。
【0014】
レーザ加工ユニット20は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ23に固定されたコリメータユニット30と、加工ヘッド35とを有する。X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
【0015】
加工ヘッド35を板金Wの面に沿って移動させる代わりに、加工ヘッド35は位置が固定されていて、板金Wが移動するように構成されていてもよい。レーザ加工機100は、板金Wの面に対して加工ヘッド35を相対的に移動させる移動機構を備えていればよい。
【0016】
加工ヘッド35には、先端部に円形の開口36aを有し、開口36aよりレーザビームを射出するノズル36が取り付けられている。ノズル36の開口36aより射出されたレーザビームは板金Wに照射される。アシストガス供給装置80は、アシストガスとして窒素、酸素、窒素と酸素との混合気体、または空気を加工ヘッド35に供給する。板金Wの加工時に、アシストガスは開口36aより板金Wへと吹き付けられる。アシストガスは、板金Wが溶融したカーフ幅内の溶融金属を排出する。
【0017】
図2に示すように、コリメータユニット30は、プロセスファイバ12より射出された発散光のレーザビームを平行光(コリメート光)に変換するコリメーションレンズ31を備える。また、コリメータユニット30は、ガルバノスキャナユニット32と、ガルバノスキャナユニット32より射出されたレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33を備える。加工ヘッド35は、ベンドミラー33で反射したレーザビームを集束して、板金Wに照射する集束レンズ34を備える。
【0018】
ここでは図示を省略しているが、レーザビームの焦点位置を調整するために、集束レンズ34は集束レンズ駆動部340(
図7参照)によって、板金Wに近付く方向及び板金Wより離隔する方向に移動自在に構成されている。
【0019】
レーザ加工機100は、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームが開口36aの中心に位置するように芯出しされている。基準の状態では、レーザビームは、開口36aの中心より射出する。ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッド35内を進行して開口36aより射出されるレーザビームを、開口36a内で振動させるビーム振動機構として機能する。ガルバノスキャナユニット32がレーザビームをどのように振動させるかについては後述する。
【0020】
ガルバノスキャナユニット32は、コリメーションレンズ31より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー321と、スキャンミラー321を所定の角度となるように回転させる駆動部322とを有する。また、ガルバノスキャナユニット32は、スキャンミラー321より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー323と、スキャンミラー323を所定の角度となるように回転させる駆動部324とを有する。
【0021】
駆動部322及び324は、NC装置50による制御に基づき、それぞれ、スキャンミラー321及び323を所定の角度範囲で往復振動させることができる。スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方を往復振動させることによって、ガルバノスキャナユニット32は、板金Wに照射されるレーザビームを振動させる。
【0022】
ガルバノスキャナユニット32はビーム振動機構の一例であり、ビーム振動機構は一対のスキャンミラーを有するガルバノスキャナユニット32に限定されない。
【0023】
図3は、スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方が傾けられて、板金Wに照射されるレーザビームの位置が変位した状態を示している。
図3において、ベンドミラー33で折り曲げられて集束レンズ34を通過する細実線は、レーザ加工機100が基準の状態であるときのレーザビームの光軸を示している。
【0024】
なお、詳細には、ベンドミラー33の手前に位置しているガルバノスキャナユニット32の作動により、ベンドミラー33に入射するレーザビームの光軸の角度が変化し、光軸がベンドミラー33の中心から外れる。
図3では、簡略化のため、ガルバノスキャナユニット32の作動前後でベンドミラー33へのレーザビームの入射位置を同じ位置としている。
【0025】
ガルバノスキャナユニット32による作用によって、レーザビームの光軸が細実線で示す位置から太実線で示す位置へと変位したとする。ベンドミラー33で反射するレーザビームが角度θで傾斜したとすると、板金Wへのレーザビームの照射位置は距離Δsだけ変位する。集束レンズ34の焦点距離をEFL(Effective Focal Length)とすると、距離Δsは、EFL×sinθで計算される。
【0026】
ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを
図3に示す方向とは逆方向に角度θだけ傾ければ、板金Wへのレーザビームの照射位置を
図3に示す方向とは逆方向に距離Δsだけ変位させることができる。距離Δsは開口36aの半径未満の距離であり、好ましくは、開口36aの半径から所定の余裕量だけ引いた距離を最大距離とした最大距離以下の距離である。
【0027】
NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324を制御することによって、レーザビームを板金Wの面内の所定の方向に振動させることができる。レーザビームを振動させることによって、板金Wの面上に形成されるビームスポットを振動させることができる。
【0028】
以上のように構成されるレーザ加工機100は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームによって板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作する。レーザ加工機100は、レーザビームの焦点を、板金Wの上面、上面より所定の距離だけ上方、または上面より所定の距離だけ下方で板金Wの板厚内のいずれかの適宜の位置に位置させて、レーザビームを所定の振動パターンで振動させながら板金を切断する。
【0029】
図4及び
図5を用いて、NC装置50がガルバノスキャナユニット32によってレーザビームを振動させる振動パターンの例を説明する。板金Wの切断進行方向をx方向、板金Wの面内でx方向と直交する方向をy方向とする。NC装置50は、操作部40によるオペレータの指示に従って、いずれかの振動パターンを選択することができる。加工条件データベース70に記憶されている加工条件に振動パターンが設定されている場合には、NC装置50は、加工条件で設定されている振動パターンを選択する。
【0030】
図4及び
図5は、振動パターンを理解しやすいよう、加工ヘッド35をx方向に移動させない状態での振動パターンを示している。
図4は、ビームスポットBsをビームスポットBsの進行によって形成された溝Wk内でx方向に振動させる振動パターンである。
図4に示す振動パターンを平行振動パターンと称することとする。ビームスポットBsを切断進行方向と平行方向に振動させる周波数をFx、切断進行方向と直交する方向に振動させる周波数をFyとすれば、平行振動パターンはFx:Fyが1:0の振動パターンである。
【0031】
図5は、ビームスポットBsをy方向に振動させる振動パターンである。ビームスポットBsをy方向に振動させることによって、溝Wkはカーフ幅K1よりも広いカーフ幅K2となる。
図5に示す振動パターンを直交振動パターンと称することとする。直交振動パターンは、Fx:Fyが0:1の振動パターンである。
【0032】
NC装置50は、レーザビームを、x方向の振動とy方向の振動とを組み合わせた振動パターンで振動させてもよい。他の振動パターンの第1の例は、ビームスポットBsが円を描くようにレーザビームを円形に振動させる円振動パターンである。他の振動パターンの第2の例は、ビームスポットBsが数字の8を描くようにレーザビームを8の字状に振動させる8の字状振動パターンである。他の振動パターンの第3の例は、ビームスポットBsがアルファベットのCを描くようにレーザビームを振動させるC字状振動パターンである。
【0033】
実際には、加工ヘッド35が切断進行方向に移動しながらレーザビームが振動するので、振動パターンは、
図4もしくは
図5に示す振動パターン、または図示していない他の振動パターンに切断進行方向(x方向)の変位を加えた振動パターンとなる。
図5に示す直交振動パターンを例にすると、ビームスポットBsはx方向に移動しながらy方向に振動するので、実際の直交振動パターンは
図6に示すような振動パターンとなる。
【0034】
次に、レーザ加工機100がレーザビームを所定の振動パターンで振動させながら板金Wを切断するとき、レーザビームの焦点を板金Wの面に直交する方向に移動させても板金Wを良好に切断するための具体的な構成を説明する。
【0035】
図7に示すように、NC装置50は、ガルバノ制御部501と、焦点位置制御部502と、データ保持部503を備える。ガルバノ制御部501には、加工ヘッド35をX方向とY方向とを組み合わせたいずれの方向に移動させるかを示す移動ベクトル情報と、振動パターン選択信号とが供給される。移動ベクトル情報に基づいて、板金Wの切断進行方向であるx方向と、それに直交するy方向とが決まる。
【0036】
ガルバノ制御部501は、振動パターン選択信号で選択された振動パターンでレーザビームを振動させるよう、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324のうちのいずれか一方または双方を制御する。ガルバノ制御部501は、ビーム振動機構を制御するビーム振動機構制御部の一例である。
【0037】
焦点位置制御部502は、加工条件で設定された焦点位置となるように集束レンズ駆動部340を制御する。集束レンズ駆動部340は、板金Wに照射されるレーザビームの焦点を板金Wの面に対する直交方向に移動させる焦点移動機構の一例である。集束レンズ34を移動させる以外の方法でレーザビームの焦点位置を調整するように構成されていてもよい。
【0038】
焦点位置制御部502が焦点を移動させるよう集束レンズ駆動部340を制御したとき、焦点位置制御部502は焦点を上方または下方のどちらの方向にどの程度移動させたかを示す焦点移動情報をガルバノ制御部501に供給する。後述するように、ガルバノ制御部501は、焦点移動情報に基づいて駆動部322及び324を制御する。
【0039】
データ保持部503には、ビームプロファイルデータが保持されている。
図8は、ビームプロファイルデータを概念的に示している。ビームプロファイルデータは、収束光のレーザビームがビームウエストで最も集束し、その後に発散するときの、レーザビームの進行方向の各位置におけるビーム径を示している。データ保持部503は、レーザビームの進行方向に例えば1mmごとの間隔のビーム径をビームプロファイルデータとして保持すればよい。
【0040】
レーザビームの焦点であるビームウエストが板金Wのちょうど上面に位置している、いわゆるジャストフォーカスの状態をFP=0.0であるとする。ビームウエストにおけるビーム径は120μmであるとする。焦点を板金Wより上方に例えば2.0mmの距離に移動させると、板金Wの上面には、FP=+2.0の位置のビーム径のビームスポットBsが照射される。このときのビーム径は例えば148μmである。同様に、焦点を板金Wより下方に例えば2.0mmの距離に移動させると、板金Wの上面には、FP=−2.0の位置のビーム径のビームスポットBsが照射される。このときのビーム径も148μmである。
【0041】
ガルバノ制御部501が駆動部322及び324を制御してビームスポットBsを
図4または
図5のように振動させる距離は、板金Wの上面にFP=0.0の位置のビーム径が照射されているジャストフォーカスの状態を前提として設定されている。
【0042】
図9に示すように、
図5に示す直交振動パターンを例とすると、レーザビームがFP=0.0のジャストフォーカスの状態において、y方向の振幅が基準振幅Qy0に設定されているとする。
図9においては、理解を容易にするため、基準振幅Qy0を
図5よりも誇張して図示している。また、FP=0.0のときのビーム径とFP=+2.0のときのビーム径とを実際の大きさの比よりも誇張して図示している。
【0043】
焦点位置制御部502がFP=+2.0とするよう集束レンズ駆動部340を制御すると、ビーム径が148μmとなる。従来技術においては、レーザビームの焦点が板金Wの面の直交方向のどの位置にあってもレーザビームを振動させる振幅は基準振幅Qy0である。従って、板金Wへのレーザビームのy方向の照射範囲は、FP=0.0のときのy方向の照射範囲y0よりも広くなってしまう。
【0044】
本実施形態においては、ガルバノ制御部501は、ビームプロファイルデータを参照し、焦点位置制御部502から供給された焦点移動情報に基づいて、y方向の照射範囲y0を維持するように、レーザビームのy方向の振幅をQy2とするよう駆動部322または324を制御する。
【0045】
FP=0.0におけるビーム径をr0、FP=+2.0におけるビーム径をr2と一般化すると、ガルバノ制御部501は、Qy2=Qy0−(r2−r0)なる計算式によって振幅Qy2を決定すればよい。
【0046】
即ち、ビームプロファイルデータに基づき、レーザビームの焦点が基準位置に位置しているときの板金Wの面上のビームスポットBsのビーム径が第1のビーム径、焦点が基準位置以外の所定の位置に位置しているときの板金Wの面上のビームスポットBsのビーム径が第2のビーム径であるとする。FP=0.0を基準位置とするのが好適である。ガルバノ制御部501は、レーザビームの焦点が基準位置以外の所定の位置に位置しているとき、レーザビームを、基準振幅Qy0から、第2のビーム径から第1のビーム径を減算した差分値を減算した振幅で振動させるよう、ガルバノスキャナユニット32を制御すればよい。
【0047】
図9においては、
図5に示す直交振動パターンを例としたが、
図4に示す平行振動パターンまたは他の振動パターンであっても同様に、ガルバノ制御部501は、板金Wに対する焦点の相対的な位置に応じて振幅を変化させる。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、レーザビームの焦点を移動させても、各振動パターンの振幅を変化させるので、ビームスポットBsが振動方向の両端部に位置したときのレーザビームの照射範囲を一定とすることができる。レーザビームの照射範囲とは、ビームスポットBsが振動方向の両端部に位置しているときの両外側間の距離である。本実施形態によれば、予め設定した照射範囲を維持することができるので、レーザビームの焦点を移動させても板金Wを良好に切断することができる。
【0049】
特に、直交振動パターンのように板金Wを切断するときに形成される溝Wkのカーフ幅を設定している場合、レーザビームの焦点を移動させることによってカーフ幅が変化するのは好ましくない。本実施形態によれば、カーフ幅を変化させることなく板金Wを切断することができる。
【0050】
ところで、本実施形態によれば、焦点を板金Wの面の直交方向に移動させたときに板金Wを切断することができる範囲を拡大することができるという効果も奏する。
図10は、板金Wとして板厚12mmの軟鋼を、直交振動パターンを用いて、FP=0.0〜+7.0として焦点位置を1.0mmずつ異ならせて切断したときの実験結果を示している。
【0051】
図10に示すように、従来技術においては、焦点の直交方向の位置にかかわらず、振幅Qyを400μmで一定にしている。
図10において、「良好」とは切断面の品質よく板金Wを切断できた場合、「可」とは切断面の品質はさほどよくないが板金Wを切断できた場合、「不可」とは板金Wを切断できなかった場合を示している。振幅Qyを400μmで一定にした従来技術の場合、FP=0.0〜+7.0で、それぞれ、可、良好、良好、良好、可、不可、不可、不可という結果が得られた。
【0052】
本実施形態においては、FP=0.0における振幅Qyを基準振幅Qy0の400μmとして、FP=+1.0〜+7.0で、それぞれ、振幅Qyを398、388、366、343、319、293、269μmとした。FP=0.0〜+7.0で、それぞれ、可、良好、良好、良好、良好、可、可、不可という結果が得られた。このように、本実施形態によれば、板金Wを切断することができる範囲を拡大することができる。また、本実施形態によれば、板金Wを良好に切断することができる範囲を拡大することができる。
【0053】
図10においては板金Wとして軟鋼を用いて実験した結果を示しているが、レーザビームの照射範囲を維持するという趣旨から逸脱しないので、板金Wがステンレス鋼またはアルミニウム合金であっても同様の効果を得ることができる。
【0054】
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【課題】レーザビームを所定の振動パターンで振動させながら板金を切断するとき、レーザビームの焦点を板金の面に直交する方向に移動させても板金を良好に切断することができるレーザ加工機を提供する。
【解決手段】ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッドを板金Wに対して相対的に移動させながら板金Wにレーザビームを照射して板金Wを切断するときに、レーザビームを振動させる。集束レンズ駆動部340は、板金Wに照射されるレーザビームの焦点を板金Wの面に直交する直交方向に移動させる。焦点位置制御部502は、レーザビームの焦点を直交方向の所定の位置に位置させるために、集束レンズ駆動部340を制御する。ガルバノ制御部501は、焦点の直交方向の位置に応じて、レーザビームを振動させる振幅を変化させるようガルバノスキャナユニット32を制御する。