特許第6643488号(P6643488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643488
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】医薬組成物および塗膜
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/04 20060101AFI20200130BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20200130BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20200130BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20200130BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/28 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20200130BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20200130BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20200130BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   A61L33/04
   A61F2/82
   A61F2/07
   A61M25/10
   A61L31/08
   A61L31/12
   A61L31/16
   A61L31/04 110
   A61L31/06
   A61L29/16
   A61L29/12
   A61L29/08
   A61L29/04 200
   A61L29/04 100
   A61L27/28
   A61L27/40
   A61L27/16
   A61L27/18
   A61L27/54
   A61K31/337
   A61K47/12
   A61K47/16
   A61K47/22
   A61K9/70
   A61P7/02
【請求項の数】53
【全頁数】59
(21)【出願番号】特願2018-532820(P2018-532820)
(86)(22)【出願日】2016年9月15日
(65)【公表番号】特表2018-528053(P2018-528053A)
(43)【公表日】2018年9月27日
(86)【国際出願番号】EP2016071748
(87)【国際公開番号】WO2017046193
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2018年4月23日
(31)【優先権主張番号】62/218,701
(32)【優先日】2015年9月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ペル アントーニ
(72)【発明者】
【氏名】カーリン レオンテイン
(72)【発明者】
【氏名】メイ リ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エル.クリーク
(72)【発明者】
【氏名】ポール ディー.ドラムヘラー
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0031715(US,A1)
【文献】 特開2002−220340(JP,A)
【文献】 特開2002−201137(JP,A)
【文献】 特開平05−025045(JP,A)
【文献】 特表2012−514510(JP,A)
【文献】 日本医薬品添加剤協会,医薬品添加物事典2007,株式会社薬事日報社,2007年 7月25日,p.107〜108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−33/18
A61F 2/07
A61F 2/82
A61K 9/70
A61K 31/00−31/80
A61K 47/00−47/69
A61P 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塗布された以下の成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層を有する、治療薬を組織に送達する医療機器であって、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、もしくはオクチル尿素またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、
医療機器。
【請求項2】
前記塗膜層は成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
成分iii)はコハク酸である、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
成分iii)はグルタル酸である、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項5】
成分iii)はカフェインである、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項6】
成分ii)はエチル尿素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項7】
前記塗膜層に含まれる成分i)の割合は、10〜95重量%、たとえば40〜90重量%、50〜90重量%、60〜90重量%、70〜90重量%、または75〜85重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項8】
前記塗膜層に含まれる成分ii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項9】
前記塗膜層に含まれる成分iii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項10】
前記塗膜層は成分i)および/または成分ii)および/または成分iii)を含む1種以上の溶液の蒸発によって形成される、請求項1〜のいずれか一項に記載の機器。
【請求項11】
前記塗膜層は
成分i)、ii)、およびiii)の溶液の蒸発によって形成される、請求項10に記載の機器。
【請求項12】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項10に記載の医療機器。
【請求項13】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項12に記載の医療機器。
【請求項14】
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、
水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項11に記載の医療機器。
【請求項15】
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項14に記載の医療機器。
【請求項16】
前記塗膜層は、粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製し、次いでこれらの粉末形態を機器に塗布し、必要に応じてその後熱処理工程を行うことによって形成される、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項17】
前記塗膜層は、成分i)、ii)、およびiii)を一緒にして粉末形態にし、次いでその粉末を機器に塗布し、必要に応じてその後に熱処理工程を行うことによって形成される、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項18】
塗布される前記機器の表面の少なくとも一部は多孔質である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項19】
前記塗膜層はナイロンからなる前記機器の表面に塗布される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項20】
前記塗膜層は1種以上のフッ素重合体でできた前記機器の表面に塗布される、請求項1〜18のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項21】
前記フッ素重合体はePTFEである、請求項20に記載の医療機器。
【請求項22】
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層と前記機器の表面の材料との間に接着層が介在する、請求項1〜21のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項23】
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層に塗布された保護膜層を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項24】
バルーンカテーテルである、請求項1〜23のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項25】
ステントである、請求項1〜23のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項26】
ステントグラフトである、請求項1〜23のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項27】
移植片である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項28】
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層は、試験方法Qによる振盪時に消失する成分i)が40%未満(たとえば、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満)であるような好適な接着性を有する、請求項1〜27のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項29】
試験方法A−IまたはA−IIを適切に用いた場合に所与の時点の組織内のパクリタキセル濃度の測定値が組織(g)あたり少なくとも1μgの薬物量(μg/g)(たとえば少なくとも2.5μg/g、少なくとも5μg/g、少なくとも10μg/g、少なくとも50μg/g、または少なくとも100μg/g)となるパクリタキセル放出性と組織移行性を有する、請求項1〜28のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項30】
成分i)は前記塗膜層に処方された場合、エチレンオキシド滅菌に対して安定である、請求項1〜29のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項31】
成分i)の少なくとも80重量%(たとえば少なくとも85%、90%、または95%)は試験方法Eによる滅菌後も保持される、請求項1〜30のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項32】
前記パクリタキセル含有塗膜層を上から塗布される固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含む、請求項1〜31のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項33】
試験方法Lによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)ヘパリン補因子(HCII)結合活性を有する、請求項32に記載の医療機器。
【請求項34】
試験方法Mによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のアンチトロンビンIII(ATIII)結合活性を有する、請求項32または33に記載の医療機器。
【請求項35】
試験方法Lによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)HCII結合活性を有する、請求項3234のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項36】
試験方法Mによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のATIII結合活性を有する、請求項3235のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項37】
ヒトの体内の血管の狭窄または再狭窄の予防または治療に用いるための請求項1〜36のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項38】
請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法であって、成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器に塗布する工程と、前記1種以上の溶液の溶媒を蒸発させる工程とを含む、方法。
【請求項39】
成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、前記溶液を前記機器に塗布する工程と、前記溶媒を蒸発させる工程とを含む、請求項38に記載の医療機器作製方法。
【請求項40】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記溶媒は、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記溶媒は水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製する工程と、次いで前記粉末形態を機器に塗布する工程と、必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法。
【請求項45】
成分i)、ii)、およびiii)を一緒にして粉末形態にする工程と、次いでその粉末を機器に塗布する工程と、必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法。
【請求項46】
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、もしくはオクチル尿素またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
【請求項47】
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記溶液を前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、もしくはオクチル尿素またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
【請求項48】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記溶媒は水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記溶媒は水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
A)粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製する工程と、
B)工程A)の前記粉末形態を前記機器に塗布する工程と、
C)必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、もしくはオクチル尿素またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
【請求項53】
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
A)成分i)、ii)、およびiii)を一緒にし粉末形態にする工程と、
B)工程A)の前記粉末を前記機器に塗布する工程と、
C)必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、もしくはオクチル尿素またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体パクリタキセル含有組成物、固体パクリタキセル含有組成物を含む塗膜を有する医療機器、およびこのような組成物および塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血管系に医療機器を導入して様々な医学的状態を治療することはますます一般的になってきている。たとえば、血管疾患の治療に用いられる医療機器としては、ステント、ステントグラフト、移植片、カテーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤ、カニューレなどが挙げられる。
【0003】
限局性血管疾患の場合、薬物の全身投与は望ましくない可能性がある。というのも、治療対象でない身体部分に薬物が望ましくない影響を及ぼす可能性があり、あるいは、患部である脈管構造の治療が全身投与では達成できない可能性のある高濃度の薬物を必要とするからである。したがって、血管組織に局所的に薬物を投与するのが望ましい場合が多い。溶出性の薬物を塗布したステント(薬物溶出性ステント(DES)ともいう)および溶出性の薬物を塗布したバルーンカテーテル(薬物溶出性バルーン(DEB)ともいう)など、薬物を局所的に送達するいくつかの機器が知られている。
【0004】
DEBおよびDESには様々な塗布方法で薬物が塗布されている。薬物溶出性機器を血管器官に挿入すると、薬物は周辺の血管組織にゆっくりと放出されて持続的な治療効果が得られる可能性がある。あるいは、薬物は塗膜から速やかに放出され、埋め込み直後にはごくわずかな薬物しか機器に残らないかも知れない。速い薬物放出特性を有する塗膜は、医療機器を永久に埋め込まない場合に特に有利である。というのも、そのような状況では治療時に血管組織に速やかに薬物を送達する必要があるからである。
【0005】
ステント以外に基づく局所送達システム(DEBなど)も血管疾患の治療に有効である。DEBを患者の標的部位に挿入し標的部位で膨張させると、DEBが血管組織に押し付けられて薬物を送達し、治療が始まる。DEBを用いる場合、塗膜に含まれる薬物が膨張前にはバルーンの表面に保持され、膨張すると速やかに放出されて血管組織に移行するという利点がある。
【0006】
血管疾患の局所治療に薬物溶出性機器を用いることの潜在的な欠点の一つは、標的部位から離れたところで薬物の意図しない放出が起こることである。この意図しない放出は、包装から取り出して体内に挿入し、治療部位まで通過させて配置する際、機器を拡張または展開する際、あるいは治療後に機器を身体から除去する際に起こる可能性がある。このような意図しない放出は、塗膜の物理的な除去、薬物の拡散、治療部位に近接する領域との機器の接触、または血流によって機器表面から薬物が洗い流されることが原因で起こる可能性がある。
【0007】
血管疾患の局所治療に一般的に用いられる薬物はパクリタキセルである。パクリタキセルは、様々な塗布方法で医療機器に塗布できる。一方法は、パクリタキセルを賦形剤と組み合わせる(粉末法を用いて乾燥形態にするか、溶媒法を用いて溶液または懸濁液にする)ことを含む。次いで、パクリタキセルと賦形剤の組み合わせを(粉末形態で、あるいは溶液または懸濁液を塗布した後に乾燥工程を行うことで)医療機器の表面に塗布する。
【0008】
パクリタキセルと賦形剤の組み合わせを作製する場合や、この組み合わせを医療機器に塗布する場合、考慮しなければならない多くの要因がある。一般に、薬物と賦形剤を組み合わせることや医療機器を薬物と賦形剤の組み合わせで塗布することは複雑な技術分野である。それらは、通常の製剤の課題(経口薬や注射薬の課題など)に加え、標的部位に到達するまで医療機器に薬物が接着されたまま維持し、その後、所望の放出および吸収動態で標的組織に薬物を送達するという課題を伴う。
【0009】
Medtronic社からIN.PACT Admiral Drug-Coated Balloonの商品名で現在販売されている市販のパクリタキセル溶出性機器は、パクリタキセルと尿素を含む塗膜を有する製剤である塗膜を有するバルーンである。
【0010】
米国特許出願第2011/0295200号(Speckら)は、介入部位での治療有効量のパクリタキセルの即時放出と生体利用性を有すると言われる水和結晶または水和溶媒和結晶の形態のパクリタキセルを被覆したカテーテルバルーンを記載している。一実施形態によると、このカテーテルバルーンは、尿素の存在下でパクリタキセルを水性溶媒に溶解し、次いでバルーン表面を溶液で全体的または部分的に湿らせた後に溶媒を蒸発させることによって塗布される。なお、バルーン表面のパクリタキセルの塗膜層に尿素が存在する場合、表面からの薬物の放出が促進された。
【0011】
血管疾患の局所治療に用いるパクリタキセル含有塗膜をさらに開発する必要がある。特に、治療に適した濃度のパクリタキセルを適切な時間尺度で標的血管組織に局所的に送達できる、医療機器用のパクリタキセル含有塗膜を開発する必要がある。この塗膜は、機器の準備、操作、および挿入の間は医療機器への接着性が良好であるとともに、標的血管組織と接触すると好適な放出特性を有していなければならない。パクリタキセルは、塗膜に処方される場合、滅菌(特にエチレンオキシド滅菌)に対して安定でなければならない。医療機器が追加の治療薬(すなわち、パクリタキセル以外)を含む塗膜を有する場合、パクリタキセル含有塗膜はその追加の治療薬と適合性を持たなければならない。
【発明の概要】
【0012】
発明者らは、様々な医療機器に塗布する新規なパクリタキセル−賦形剤固体組成物を調製した。塗布済み機器は、血管組織と接触した際に(生体外・生体内の研究で証明されているように)好適なパクリタキセル放出特性を示す一方で、好適な接着性および耐久性をも示す。塗膜に存在するパクリタキセルは、滅菌(特にエチレンオキシド滅菌)に対しても安定である。
【0013】
さらに、生物学的に活性な固定化ヘパリン(追加の治療薬の例として)を事前塗布した医療機器に本発明のパクリタキセル含有塗膜を塗布すると、外側のパクリタキセル含有塗膜の除去後もヘパリンの生物活性を治療に適したレベルで保持することがわかった。
【0014】
したがって、一側面では、本発明は治療薬を組織に送達する医療機器を提供する。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬、成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である。
【0015】
別の側面では、本発明は成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む組成物を提供する。成分i)はパクリタキセルであり、成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の塗布済みステントグラフトと対照についてブタの組織のパクリタキセル取り込み率(生体外)を正規化し比較した結果を示す(実施例3)。
【0017】
図2図2は、本発明の塗布済みバルーンと対照についてブタ組織のパクリタキセル取り込み率(生体外)を正規化し比較した結果を示す(実施例8)。
【0018】
図3図3は、本発明の塗布済みバルーンと対照の市販のパクリタキセル含有バルーンについて1日後のブタ組織のパクリタキセル取り込み(生体内)を比較した結果を示す(実施例10)。
【0019】
図4図4は、本発明の塗布済みバルーンについて29日後のブタ組織のパクリタキセル取り込み(生体内)を示す(実施例11)。
【0020】
図5図5は、本発明のバルーンと対照を振盪試験(試験法Q)に供した場合の平均パクリタキセル消失(%)を示す(実施例12)。
【0021】
図6図6は、本発明の塗膜層を医療機器に塗布した場合を示す概略図である。
【0022】
図7図7は、さらに固定化ヘパリンの塗膜層が設けられている医療機器に本発明の塗膜層を塗布した場合を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、本明細書で定義する成分i)、ii)、およびiii)を含む新規なパクリタキセル含有固体組成物に関する。このような組成物は、医療機器に塗布するのに特に有用である。
(医療機器および材料)
【0024】
本発明の医療機器は、たとえば身体内での様々な医学的処置用途などの広範な用途に適している。用途の例としては、埋め込まれたステント、ステントグラフト、または血管移植片への薬物の送達あるいはこれらの埋込物の配置または「修正」のためのカテーテルバルーンとしての使用;ステント、ステントグラフト、カテーテル、永久的または一時的人工器官、あるいは他の種類の医療用埋込物としての使用;体内の標的組織の治療;ならびに任意の体腔、腔、または中空器官の経路(血管、尿路、腸管、鼻腔または副鼻腔、神経鞘、椎間領域、骨小腔、食道、子宮内腔、膵管、胆管、直腸など)や以前に介入された血管移植片、ステント、人工器官、または他の種類の医療用埋込物が埋め込まれているそれらの体内腔の治療などが挙げられる。
【0025】
本発明の医療機器のさらなる例としては、留置型監視機器、人工心臓弁(弁葉、弁輪、および/またはカフ(心臓に縫合するための布))、ペースメーカまたは除細動器電極、ガイドワイヤ、心臓リード、縫合糸、塞栓防止フィルタ、心肺バイパス回路、カニューレ、栓、薬物送達機器、組織パッチ機器、血液ポンプ、パッチ、人工骨、長期注入ライン、動脈ライン、持続くも膜下注入用の機器、栄養管、中枢神経系(CNS)シャント(たとえば、脳室胸膜シャント、脳室心房(VA)シャント、または脳室腹腔(VP)シャント)、脳室腹腔シャント、脳室心房シャント、門脈大循環シャントおよび腹水用シャント、血管の栓子、血栓などの閉塞物を濾過または除去するための機器(閉塞した身体経路の開存性を回復するための拡張用機器として、経路または腔を閉塞または充填する手段を選択的に送達するための閉塞用機器として、およびカテーテルなどの経管器具のセンタリング機構として)などが挙げられる。一実施形態では、本発明の医療機器は、ステント再狭窄の治療または以前に配置された薬物溶出性構造体が機能しなくなった組織部位の治療に使用できる。別の実施形態では、本明細書に記載の医療機器は、たとえば腎臓透析中に用いられる動静脈アクセス部位の確立、接続、または維持に使用できる。
【0026】
永久的または一時的な本発明の医療機器のさらなる例はカテーテルである。カテーテルの例としては、中心静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、血液透析カテーテル、塗布済みカテーテルなどのカテーテル(埋込型静脈カテーテルなど)、トンネル型静脈カテーテル、心臓やその周辺の静脈および動脈の血管造影、血管形成術、または超音波処置に有用な冠動脈カテーテル、肝動脈注入カテーテル、CVC(中心静脈カテーテル)、末梢静脈カテーテル、末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICライン)、先端にバルーンが取り付けられた血流指向性肺動脈カテーテル、完全静脈栄養カテーテル、長期留置カテーテル(たとえば長期留置胃腸カテーテルおよび長期留置泌尿生殖器カテーテル)、腹膜透析カテーテル、CPB(心肺バイパス)カテーテル、尿路カテーテル、マイクロカテーテル(たとえば頭蓋内の用途のため)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
一実施形態では、医療機器は拡張可能な部材である。別の実施形態では、医療機器はバルーン、ステント、ステントグラフトまたは移植片である。
【0028】
したがって、一実施形態では、医療機器は拡張可能な部材であり、本発明によれば、バルーン、拡張可能なカテーテル、ステント、ステントグラフト、自己拡張型構造体、バルーン拡張型構造体、自己拡張とバルーン拡張を組み合わせた構造体、移植片、あるいはたとえばねじり力または長手方向の力を加えることで放射状に拡張できる機械的機器であり得る。この拡張可能な部材としては、空気圧または水圧によって拡張するもの、磁力によって拡張するもの、エネルギー(たとえば、熱、電気、または超音波(圧電)エネルギー)を加えることによって拡張するものも含むことができる。拡張可能な部材は、前記機器を拡張することによって任意の内腔(たとえば、血管)に一時的に配置した後、前記機器をねじり力または長手方向の力によって押し潰すことによって除去できる。
【0029】
一実施形態では、医療機器は、分岐型ステント、バルーン拡張型ステント、または自己拡張型ステントなどのステントである。ステントは、編組、巻回ワイヤ形態、レーザ切断形態、材料を堆積したもの、3D印刷構造体、またはそれらの組み合わせとして構成されるか、内腔壁または内腔領域への支えとなる他の構造形態(長さを調整できるものを含む)をとる。ステントは、金属、合金(ステンレス鋼およびニッケル・チタン合金(NiTi)など)、重合体、セラミック、生分解性材料(生分解性ポリマー、セラミック、金属および合金など)、またはそれらの組み合わせなどの生体適合性材料で構成される。ステントは実質的に一体型であってもよく、たとえばリングなどの別個の部品を含んでいてもよい。一体型であっても複数の部品で構成されていても、ステント構造体は、支柱、蝶番、接続具、あるいはステントの全体または一部を内張りまたは被覆する材料で接合できる。一実施形態では、ステント構造体は、米国特許第2009/0182413号(Gore Enterprise Holdings, Inc.;参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように「網」状のフッ素重合体と接合される。
【0030】
一実施形態では、医療機器は、分岐型ステント、バルーン拡張型ステント、または自己拡張型ステントなどのステントである。一実施形態では、医療機器は、金属、合金、重合体、セラミック、生分解性材料、またはそれらの組み合わせで構成されたステントである。
【0031】
一実施形態では、医療機器はステントグラフトである。ステントグラフトは、少なくとも1個のステント部材を移植片要素に組み合わせたものである。移植片は典型的に、閉止した壁または開口部のある壁を有する管状部材として構成される。移植片材料としては、フッ素重合体(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))などの生体適合性材料が挙げられる。他の好適な移植片材料としては、ポリエチレンテレフタラートおよび超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの重合体が挙げられる。移植片材料は、様々な強度、密度、寸法、多孔度、および他の機能特性を有するように作製でき、膜、押出物、電界紡糸材料、塗膜、堆積物、または成形品の形態をとることができる。移植片を単独で用いてもよいし、移植片材料でステント構造体の全体または一部を内張りまたは被覆してもよい。一実施形態では、ステントグラフトは米国特許第5,876,432号(Gore Enterprise Holdings, Inc.;参照により本明細書に組み込まれる)に記載の形態をとることができる。
【0032】
一実施形態では、医療機器はステントグラフトであり、移植片は重合体、好適には生体適合性重合体で構成される。好適には、移植片は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などのフッ素重合体で構成される。一実施形態では、医療機器は移植片である。
【0033】
ステント、ステントグラフト、および移植片は重合体やプライマー層などの様々な材料で覆われてもよい。一実施形態では、ステントまたは移植片構造体はその機器に塗布された治療薬を保持または放出する能力を向上するよう改良されている。たとえば、治療薬を充填する窪みまたは止まり穴をステント支柱に形成できる。ステント、ステントグラフト、または移植片に塗布した場合、本発明の組成物は局所的に治療薬を放出することから、本発明の組成物を塗布したステント、ステントグラフト、または移植片を本明細書では薬物溶出性ステント(DES)と呼ぶ。
【0034】
一実施形態では、医療機器は医療用バルーンである。本発明に有用なバルーンは、押出、ブロー成形、および他の成形技術などの任意の従来法で形成されてよい。バルーンは、弾性であってもよいし、半弾性または非弾性であってもよく、様々な長さ、直径、サイズ、および形状のものであってもよい。したがって、バルーンを「順応性」または「適合性」、「長さ調節型」または「可動型」バルーンと呼ぶことができる。他の実施形態では、医療機器はバルーンを含んでもよく、このバルーンは、膜を巻き付けたもので構成されており、繊維で巻かれており、長さを変えることができ、分割されており、かつ/または膨張特性が制御されているか可変である。他の実施形態では、バルーンは、材料で覆われていてもよく、あるいは2つ以上の層を含むか複合材構造であってもよい。一実施形態では、バルーンの表面または構造は、バルーンに塗布された治療薬を保持または放出する能力を向上するよう改良されている。たとえば、バルーンを折り畳んで折り目の中に治療薬を保持するようにすることができる。バルーンに塗布した場合、本発明の組成物は局所的に治療薬を放出することから、本発明の組成物を塗布したバルーンを本明細書では薬物溶出性バルーン(DEB)と呼ぶ。
【0035】
本発明によれば、医療機器、特に医療機器の表面は、合成または天然の有機または無機重合体または材料で構成される。これらの例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、ポリイミド、ポリカルボナート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテル、シリコーン、ポリカルボナート、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゴム、シリコーンゴム、ポリヒドロキシ酸、ポリアリルアミン、ポリアリルアルコール、ポリアクリルアミド、およびポリアクリル酸などの材料、スチレン重合体、ポリテトラフルオロエチレンとその共重合体、延伸ポリテトラフルオロエチレンとその共重合体、それらの誘導体、ならびにそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの種類のうちいくつかは、熱硬化性樹脂としても熱可塑性重合体としても利用できる。本明細書で用いる場合、「共重合体」という用語は2種以上(たとえば2種、3種、4種、5種など)の単量体で構成される任意の重合体を指すのに用いられるものとする。ポリ(D,L−ラクチド)やポリグリコリド類、およびそれらの共重合体など、生体吸収性のものも有用である。ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカルボナート)トリブロック共重合体(PGA:TMC)などのトリブロック共重合体でできた生体吸収性の不織網状材料も有用である(米国特許第7,659,219号(Biranら)に記載のとおり)。有用なポリアミド類としては、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン9、ナイロン6/9、およびナイロン6/6が挙げられるがこれらに限定されるものではない。このような材料のいくつかの共重合体の例としては、Elf Atochem North America社(ペンシルベニア州、フィラデルフィア)からPEBAX(登録商標)の商標名で入手できるポリ(エーテル−ブロック−アミド)類が挙げられるがこれらに限定されるものではない。別の好適な共重合体はポリエーテルエステルアミドである。好適なポリエステル共重合体としては、たとえば、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート、ポリエステルエーテル類、ならびにポリエステル系エラストマー共重合体(DuPont社(デラウェア州、ウィルミントン)からHYTREL(登録商標)の名で入手できるものなど)が挙げられる。ブロック共重合体エラストマー(たとえばスチレン末端ブロックとブタジエン、イソプレン、エチレン/ブチレン、エチレン/プロペンなどで構成される中間ブロックとを有するもの)を本発明に使用してもよい。他のスチレンブロック共重合体としては、アクリロニトリル−スチレンおよびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が挙げられる。また、ブロック共重合体がポリエステルまたはポリアミドの硬質部分とポリエーテルの軟質部分で構成されている特定のブロック共重合体熱可塑性エラストマーも本明細書で用いてもよい。他の有用な材料は、ポリスチレン類、ポリ(メチル)メタクリラート類、ポリアクリロニトリル類、ポリ(酢酸ビニル)類、ポリ(ビニルアルコール)類、塩素含有重合体(ポリ(塩化ビニル)など)、ポリオキシメチレン類、ポリカルボナート類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、フェノール樹脂、アミノ−エポキシ樹脂、ポリエステル類、シリコーン類、セルロース系樹脂、およびゴム様樹脂である。これらの材料の組み合わせを、架橋して用いてもよいし架橋せずに用いてもよい。必要に応じて、重合体材料を充填剤および/または着色剤(金、バリウム、またはタンタル充填剤)と混合して重合体材料を放射線不透過性にしてもよい。必要に応じて、当技術分野で既知の方法(酸エッチングまたは塩基エッチング、加水分解、アミノ分解、プラズマ修飾、プラズマグラフト重合、コロナ放電修飾、化学蒸着、イオン注入、イオンスパッタリング、オゾン化、光修飾、電子線修飾、ガンマ線修飾など)を用いて、バルク特性を保持しながら重合体材料の表面を修飾してもよい。
一実施形態では、医療機器の表面はナイロンでできている。
【0036】
一実施形態では、医療機器、特に医療機器の表面は生体適合性であり、PEBAX(登録商標)などのポリエーテル−ブロック−アミドを含有するか、ポリエーテル−ブロック−アミドからなる。
【0037】
医療機器、特に医療機器の表面は、1種以上のフッ素化重合体でできていてもよい。フッ素化重合体としては、フッ素重合体(たとえば延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレン−プロピレン(FEP))、パーフルオロカーボン共重合体(たとえばテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル(TFE/PAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体)、TFEと酢酸エステル、アルコール、アミン、アミド、スルホン酸エステル、米国特許第8,658,707号(W. L. Gore and Associates;参照により本明細書に組み込まれる)に記載の官能基などを含む官能性単量体との共重合体、さらには、それらの組み合わせなどが挙げられる。上記のものの組み合わせ(高分子鎖間が架橋されているものおよび架橋されていないもの)、延伸ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリグリコール酸、ポリエステル類、ポリアミド類、エラストマー、ならびにそれらの混合物、配合物、および共重合体、またはそれらの誘導体も考えられる。ePTFEは、本発明の塗膜と特に適合性がある多孔質微小構造を有する。好適には、医療機器の表面はePTFEでできている。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「多孔質」という用語は開口部(たとえばePTFEの結節部分と繊維部分との間の空隙(すなわち孔))を有する材料を指す。通常、ePTFEの場合のように、多孔質材料の孔は、その材料が「湿って」いない場合には空気を含んでいる。ePTFEで構成された機器の多孔度は、米国特許第2013/0231733号(W.L. Gore & Associates, Inc.;参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような様々な方法およびパラメータを用いて評価できる。
【0039】
医療機器、特に医療機器の表面はまた、1種以上の金属でできていてもよい。金属の例としては、生体適合性金属、チタン、ステンレス鋼、高窒素ステンレス鋼、金、銀、ロジウム、亜鉛、白金、ルビジウム、銅、マグネシウム、およびそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されるものではない。好適な合金としては、コバルト合金(L−605、MP35N、Elgiloyなどのコバルト−クロム合金)、チタン合金(Nitinolなどのニッケル−チタン合金)、タンタル合金およびニオブ合金(Nb-1% Zrなど)、およびその他の合金が挙げられる。一実施形態では、医療機器はステントであり、ステンレス鋼、タンタル、チタン合金、およびコバルト合金から選択される生体適合性の金属でできている。医療機器、特に医療機器の表面はまた、セラミック基材でできていてもよく、この基材としては、酸化ケイ素類、酸化アルミニウム類、アルミナ、シリカ、ヒドロキシアパタイト類、ガラス類、酸化カルシウム類、ポリシラノール類、および酸化リンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
一実施形態では、医療機器は本発明の塗膜層を塗布した多孔質材料で被覆されている。一実施形態では、塗布されている機器表面の少なくとも一部分は多孔質である。一実施形態では、医療機器を被覆する材料はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または延伸PTFE(ePTFE)などのフッ素重合体である。結節部分が繊維部分によって互いに接続されていることを特徴とする延伸PTFEの構造は米国特許第3,953,566号および第4,187,390号(W.L.Gore & Associates;いずれも参照により本明細書に組み込まれる)で教示されている。一実施形態では、このフッ素重合体製の医療機器用皮膜は、繊維部分または繊維部分と結節部分をもつ材料構造を有するePTFEでできている。別の実施形態では、この繊維部分または繊維部分と結節部分は、拡張可能な部材の被覆材の寸法が変化すると、サイズ、寸法、または向きを変える。一実施形態では、医療機器はバルーンであり、その少なくとも一部に被覆材が配置されており、この被覆材の少なくとも一部はePTFEでできており、ePTFEバルーン被覆材の少なくとも一部に本発明の塗膜が配置されている。
【0041】
一実施形態では、医療機器は本発明の塗膜層の少なくとも一部分の周囲に配置された被覆材を含む。このような被覆材を「鞘」と記載する場合もある。一実施形態では、この被覆材は塗膜層から除去できる。一実施形態では、この被覆材は拡張可能な部材に塗布された本発明の塗膜層の上に配置されている。被覆材は、任意の固有の多孔度すなわち透過性を有する任意の生体適合性材料で構成できる。一実施形態では、多孔度すなわち透過性は材料の変形やその他の寸法変化と共に変動する。
【0042】
被覆材の寸法の変化に伴って変化する多孔度すなわち透過性を示し得る材料としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:延伸フッ素重合体(たとえば延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))または延伸ポリエチレン(これらは米国特許第6,743,388号(Sridharanら)に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる)などの小繊維構造体;繊維状の構造体(織物または組物);繊維、マイクロ繊維、またはナノ繊維の不織布マット;電界紡糸またはフラッシュ紡糸などの方法で製造された材料;フッ素重合体、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、およびトリメチレンカルボナート(TMC)など、溶融加工または溶液加工できる材料からなる重合体材料;加工中に形成された開口部(レーザ穿孔または機械穿孔による穴など)を有する膜;連続気泡発泡体;フッ素重合体、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリオレフィン類、ポリエステル類、PGA、PLA、TMCなどの材料から製造された細孔質膜;細孔質ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカルボナート)(PGA:TMC)材料(これらは米国特許第8,048,503号(Gore Enterprise Holdings, Inc.)に記載されており、参照によって本明細書に組み込まれる);あるいは上記の組み合わせ。上記材料の加工を用いて、閉じている第一の状態と、より多孔度すなわち透過性の高い第二の状態との間で多孔度すなわち透過性を調節、向上、または制御してもよい。このような加工は、第一の状態で材料構造を閉じる(ことで多孔度すなわち透過性を下げる)のに役立ってもよく、第二の状態で材料構造を開くのに役立ってもよく、あるいは両方の組み合わせであってもよい。材料構造を閉じるのに役立ち得る加工としては、艶出し加工、被覆(不連続または連続)、圧縮、高密度化、一体化、熱サイクル、または収縮などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。材料構造を開くのに役立ち得る加工としては、拡張、穿孔、スリット加工、パターンに沿った高密度化および/または被覆などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の実施形態では、前記材料は、ePTFEのように繊維部分の間または繊維部分で互いに接続された結節部分の間に孔を含む。
【0043】
当業者は、第一の状態の試験と第二の状態で行った試験を比較することで、多孔度すなわち透過性の変化を明らかにする様々な方法を知っている。このような方法としては、所与の圧力差で材料構造を通過する空気または液体の流量の特性評価、異なる流体が材料構造を通過する際の圧力差を決定する特性評価(水侵入圧または泡立ち点など)、画像(たとえば、走査型電子顕微鏡または光学顕微鏡)から測定する視覚特性評価が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
一実施形態では、被覆材料はフッ素重合体(延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレン−プロピレン(FEP)など)、パーフルオロカーボン共重合体(たとえばテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル(TFE/PAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体)、またはTFEと酢酸エステル、アルコール、アミン、アミド、スルホン酸エステル、米国特許第8,658,707号(W. L. Gore and Associates;参照により本明細書に組み込まれる)に記載の官能基などを含む官能性単量体との共重合体、さらには、それらの組み合わせなどが挙げられる。別の実施形態では、フッ素重合体製被覆材は、被覆材の寸法の変化に伴って変化する材料構造を有する。一実施形態では、フッ素重合体製被覆材は、繊維部分または繊維部分と結節部分をもつ材料構造を有するePTFEでできている。別の実施形態では、この繊維部分または繊維部分と結節部分は、被覆材の寸法が変化すると、サイズ、寸法、または向きを変える。一実施形態では、医療機器はバルーンであり、その少なくとも一部に被覆材が配置されており、この被覆材の少なくとも一部はePTFEでできており、このePTFEの材料構造はバルーンが拡張すると変化する。
【0045】
別の実施形態では、医療機器はバルーンであり、その少なくとも一部に本発明の塗膜層が配置されており、この塗膜層の少なくとも一部は鞘などの被覆材で覆われており、被覆材の少なくとも一部はePTFEでできており、ePTFEの材料構造はバルーンが拡張すると変化する。一実施形態では、被覆材の多孔度すなわち透過性は、塗膜層に含まれる材料が実質的に被覆材を通過しないように十分に低い。別の実施形態では、被覆材の多孔度または透過性はバルーンが拡張すると上がり、塗膜層に含まれる材料の少なくとも一部はバルーンの表面から移行できる。一実施形態では、移行される材料は本発明のパクリタキセル−賦形剤固体組成物である。パクリタキセル−賦形剤固体組成物は、外側の被覆材を通過すると治療部位に送達される。
【0046】
一実施形態では、被覆材は本来は疎水性であり、たとえば米国特許第2013/0253426号(W.L.Gore & Associates;参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法で親水性になるよう処理される。別の実施形態では、被覆材はePTFEの膜または膜チューブを含む。
【0047】
本発明の別の実施形態では、被覆材の表面または外部構造を、質感、突起、ワイヤ、ブレード、スパイク、スコアリング要素(拡張時のスリップを防止する要素)、窪み、溝、塗膜、粒子などを用いて修飾してもよい。本発明の別の実施形態では、被覆材の表面または外部構造を針やカニューレなどを用いて修飾してもよい。これらの修飾は、治療薬を送達する(または送達した)組織を変化させる、本発明のシステムの配置を制御する、流体を直接移行させるなどの様々な目的を果たす可能性がある。このような質感は、治療薬をより深く、かつ/またはより深部の組織まで移行させやすくするのに役立つ可能性がある。このような質感は被覆材で構成されていてもよいし、追加の材料で構成されていてもよい。
【0048】
本発明の別の実施形態では、透過性微細構造の位置を変動させてもよい。たとえば、その微細構造の一部分のみの透過性が可変であるように被覆材を構成してもよい。このような構成は、たとえば本発明の拡張型医療機器の端部のうち一方または両方に流体が移行するのを望まない場合に好ましい可能性がある。これは、複数の薬物溶出性機器を特定の解剖学的構造に使用しており治療部位の重複(すなわち特定の部位に多すぎる量の薬物を送達すること)が望ましくない場合に好ましい可能性がある。
【0049】
別の実施形態では、被覆材は放射線不透過性マーカーを含むかそのようなマーカーで標識されていてもよく、あるいは全体的に放射線不透過性になるように構築されていてもよい。このような放射線不透過性標識は、本発明の拡張型医療機器を適切に追跡かつ配置するために臨床医によって用いられる。
【0050】
成分i)、ii)、およびiii)を含む本発明の固体組成物は、医療機器の表面全体に塗布でき、あるいは医療機器の表面の一部分にのみ塗布することもできる。特定の機器は、外表面および内表面を有していてもよく、その一方または両方に塗布できる。たとえば、人工血管、血管移植片、ステント、およびステントグラフトなどの(ただしこれらに限定されるものではない)管状基材は、外表面とは独立して塗布できる内表面すなわちルーメンを有する。内表面と外表面を含む機器は、外表面のみに塗布する必要がある場合がある。反対に、内表面のみが本発明の塗膜を必要とする場合もある。一実施形態では、塗膜の量または厚みは医療機器の表面で異なっていてもよい。塗膜層は機器の表面全体に連続していてもよいし不連続であってもよく、機器の一部分または別個の部分のみを覆っていてもよい。また、塗膜層を、所望の表面形状をなすように「凹凸をつける」か修飾してもよいし、あるいは上述のように質感を用いて修飾してもよい。
【0051】
一実施形態では、医療機器の表面積の最大99%、たとえば95%、90%、75%、50%、または25%に本発明の塗膜を塗布する。一実施形態では、医療機器の外表面と内表面の両方に塗布する。別の実施形態では、医療機器の外表面のみに塗布する。
(組成物および塗膜層)
【0052】
成分i)、ii)、およびiii)を含む本発明のパクリタキセル含有固体組成物は、医療機器に塗布するのに有用である。医療機器の塗膜層に使用する場合、本明細書では、したがってパクリタキセル含有固体組成物を「本発明の塗膜」または「本発明の塗膜層」という。本発明の塗膜は固体である。疑義を避けるために、本発明の塗膜に関する以下の記述は、特に述べない限りは本発明の組成物にもあてはまる(適切な場合)。
本発明の非限定的な実施形態を図6に示す。
【0053】
パクリタキセル含有固体組成物および塗膜層は、パクリタキセルである治療薬(成分i))と、尿素またはその誘導体(成分ii))と、コハク酸、グルタル酸、またはカフェイン(成分iii))とを含む。
(成分i))
【0054】
パクリタキセルは、様々な癌の治療や再狭窄の予防と治療のための製剤で市販されている。パクリタキセルは、非晶形および結晶形を含むいくつかの異なる物理的形態で存在することが知られており、結晶形は複数の異なる多形にさらに分化できる。さらに、結晶パクリタキセルは、無水物または水和物の形態で存在できる。パクリタキセルと記載した場合、パクリタキセルの同位体濃縮誘導体(たとえば、1個以上の水素原子を重水素(H)で置換したパクリタキセル、または1個以上の炭素原子が炭素13(13C)であるパクリタキセル)、および医薬的に許容されるパクリタキセルの塩も含むものとする。一般に認められている結晶パクリタキセルの融点は、加熱条件および多形形態に依存し約220℃である(Ligginsら、"Solid-state characterization of paclitaxel", J. Pharm. Sci. 1997, Vol. 86, pp. 1458-1463)。パクリタキセルの特定の形態は、固体である薬物の物性に影響を及ぼす可能性があることが知られている。特に、パクリタキセルの表面への接着性は、表面から周囲へのその溶解速度によってもその物理的形態によっても影響される可能性がある。したがって、まず固体として送達するためのパクリタキセルを処方するのが困難になる可能性があり、固体状のパクリタキセルを賦形剤と共に製剤化する効果は容易に予測できない。
【0055】
上記のように、パクリタキセルは、任意の量の配位溶媒(たとえば水和物などの溶媒和物の形態で組成物中に存在できる)を有することができる。パクリタキセルの水和物は、2個、3個、または4個の水分子を有していてもよく、あるいは、パクリタキセル二量体が形成される場合、各パクリタキセル分子に付随する非整数個の水分子を有していてもよい。一実施形態では、パクリタキセルは無水パクリタキセルである。別の実施形態では、パクリタキセルはパクリタキセル二水和物(すなわち水分子が2個)などのパクリタキセル水和物の形態である。パクリタキセル二水和物は、塗膜を溶液として医療機器に塗布する場合、アセトン/水の溶液からパクリタキセルが結晶化することによってその場形成されてもよい。代替の実施形態では、パクリタキセルの無水物形態と水和物形態の両方が存在する。
(成分ii))
【0056】
本発明の組成物および塗膜は、尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩も含む。
尿素は以下の式:
【化1】
を有し、CO(NHとも表される。
【0057】
尿素の誘導体としては、官能基「N(CO)N」を有する化合物、たとえばRN(CO)NR(Rは置換基を表す)、RHN(CO)NR、RHN(CO)NHR、HN(CO)NR、およびHN(CO)NHR、ならびにその医薬的に許容される塩が挙げられる。
一実施形態では、成分ii)は式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩である:
【化2】
(式中、R、R、R、およびRは独立してH、または1個以上(たとえば1個)の−OH基で置換されていてもよいC1〜15アルキル(それぞれ1個以上(たとえば1個)の−OH基で置換されていてもよいC1〜10アルキル、C1〜8アルキル、またはC1〜4アルキルなど)であるか、
とRは−N(R)C(=O)N(R)−部分と共に、−OH基で置換されていてもよい5員〜7員の環を形成する)。
一実施形態では、成分ii)は式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。
【化3】
(式中、R、R、R、およびRは独立してH、またはC1〜15アルキル(C1〜10アルキル、C1〜8アルキル、またはC1〜4アルキルなど)であるか、
とRは−N(R)C(=O)N(R)−部分と共に5員〜7員の環を形成する)。
たとえば、RとRは連結され(CHまたは(CHを表してもよい。
【0058】
一実施形態では、成分ii)は式(I)の化合物であり、医薬的に許容される塩の形態ではない。さらなる実施形態では、RおよびRはHである。さらなる実施形態では、RおよびRはHではない。さらなる形態では、R、R、およびRはHである。
【0059】
一実施形態では、成分ii)は、メチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、またはオクチル尿素である。一実施形態では、成分ii)は(2−ヒドロキシエチル)尿素である。好適には、成分ii)はエチル尿素である。別の実施形態では、成分ii)は尿素である。
(成分iii))
【0060】
本発明の組成物および塗膜は、コハク酸、グルタル酸、およびカフェイン、それらのうちいずれか1種の医薬的に許容される塩からなる群より選択される単一の賦形剤をさらに含む。
コハク酸は以下の構造:
【化4】
を有する。
【0061】
一実施形態では、成分iii)はコハク酸またはその医薬的に許容される塩である。好適な成分iii)はコハク酸である(すなわち医薬的に許容される塩の形態ではない)。
グルタル酸は以下の構造:
【化5】
を有する。
【0062】
一実施形態では、成分iii)はグルタル酸またはその医薬的に許容される塩である。好適な成分iii)はグルタル酸である(すなわち医薬的に許容される塩の形態ではない)。
【0063】
コハク酸およびグルタル酸の医薬的に許容される塩の例としては、第1族および第2族の金属(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムなど)と共に形成された塩、さらには無機塩(アンモニウム塩など)が挙げられる。
カフェインは以下の構造:
【化6】
を有する。
【0064】
一実施形態では、成分iii)はカフェインまたはその医薬的に許容される塩である。好適な成分iii)はカフェインである(すなわち医薬的に許容される塩の形態ではない)。
【0065】
カフェインの医薬的に許容される塩の例としては、無機酸および有機酸(HCl、HBr、酢酸、メタンスルホン酸、およびベンゼンスルホン酸など)との酸付加塩が挙げられる。
【0066】
一実施形態では、組成物および塗膜層は重合体成分を含まない。「非重合体」という用語は、複数の繰り返し単量体単位を含まない物質を意味することが当業者には明らかである。典型的には、重合体は少なくとも5個の繰り返し単量体単位(たとえば少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、または少なくとも9個の繰り返し単量体単位)からなる。重合体と記載した場合、共重合体も含むものとする。重合体物質の例としては、タンパク質類、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポロキサマー類、およびシェラックが挙げられる。
【0067】
一実施形態では、組成物および塗膜層は可塑剤を含まない。可塑剤は、本明細書では材料(通常は重合体)の可塑性または流動性を高める化合物として定義される。可塑剤は、単量体、オリゴマー、または重合体の形態であり得る。可塑剤の例としては、酢酸、ギ酸、1−ブタノール、2−ブタノール、エタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチル、酢酸プロピル、アニソール、tert−ブチルメチルエーテル、エチルエーテル、クメン、ヘプタン、ペンタン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ソルビトール、ソルビタン、クエン酸エステル類(アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチルなど)、ヒマシ油、ジアセチル化モノグリセリド類、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、トリアセチン、分画ヤシ油、およびアセチル化モノグリセリド類が挙げられる。
【0068】
パクリタキセルは、組成物および塗膜層に処方した場合、本質的に未変化で滅菌処理に耐えられなければならない。したがって、一実施形態では、成分i)は塗膜層に処方された場合、滅菌、特にエチレンオキシド滅菌に対して安定である。組成物および塗膜層に含まれるパクリタキセルは、滅菌後に劣化することなく、20%以下の分解(たとえば、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の分解)を示した場合、滅菌後に本質的に未変化であると定義されるか、滅菌に対して安定であるとみなされる。パクリタキセルは、滅菌後に化学変性している場合、分解されたとみなされる。反対に、組成物および塗膜層に含まれるパクリタキセルは、滅菌後に少なくとも80%w/wのパクリタキセル化学含有量(たとえばパクリタキセル化学含有量の少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%(w/w)あるいは実質的にすべて)を保持している場合、滅菌後も本質的に未変化であると定義されるか、滅菌に対して安定であるとみなされる。
【0069】
滅菌後に組成物および塗膜に含まれる未変化のパクリタキセルの量は、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)などの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術によって、たとえば評価方法の項に記載のUPLC法を用いて決定できる。
【0070】
適切な滅菌方法としては、エチレンオキシド、過酸化水素蒸気、プラズマ相過酸化水素、乾式加熱を利用した滅菌、オートクレーブ蒸気滅菌、二酸化塩素滅菌、ガンマ線滅菌または電子線滅菌が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、パクリタキセルは、エチレンオキシド滅菌、過酸化水素蒸気滅菌、プラズマ相過酸化水素滅菌、または電子線滅菌後も本質的に未変化である。一実施形態では、パクリタキセルは、エチレンオキシド滅菌、過酸化水素蒸気滅菌、プラズマ相過酸化水素滅菌、または電子線滅菌(あるいは実際には複数の滅菌方法)に対して安定である。エチレンオキシドを用いた滅菌は、ステント、ステントグラフト、バルーン、およびバルーンカテーテルなどの埋込型医療機器に最も一般的に利用され、実証済みで容易に利用できる滅菌方法である。したがって、一実施形態では、パクリタキセルは、エチレンオキシドを用いた滅菌後も本質的に未変化である。別の実施形態では、パクリタキセルはエチレンオキシド滅菌に対して安定である。
【0071】
エチレンオキシド、電子線、過酸化水素蒸気、プラズマ相過酸化水素を用いた滅菌に対する安定性を評価するための試験方法の項には、具体的な評価方法「試験方法E」、「試験方法F」、「試験方法G」、および「試験方法H」がそれぞれ記載されている。
【0072】
実施例13に記載のとおり、本発明の塗布済みバルーンをエチレンオキシドで滅菌し(試験方法E)、UPLCで既知のパクリタキセル分解生成物の存在について分析した。試験されたすべての塗布済みバルーンは1%未満の分解生成物を含有することが判明し、塗膜に含まれるパクリタキセルはエチレンオキシド滅菌に対して安定であることが示された。
【0073】
したがって、本発明の一側面では、滅菌された(たとえばエチレンオキシドで滅菌された)本明細書に記載の塗布済み医療機器が提供される。本発明の別の側面では、滅菌された(たとえばエチレンオキシドで滅菌された)本明細書に記載の組成物が提供される。
【0074】
一実施形態では、パクリタキセル(成分i)の少なくとも80重量%(たとえば少なくとも85%、90%、または95%)は、試験方法Eによる滅菌後も保持される。
【0075】
組成物および塗膜層は、好適には従来の界面活性剤を含まない。本明細書では、従来の界面活性剤は両親媒性で疎水性基と親水性基の両方を含む化合物と定義され、イオン性、非イオン性、両イオン性の脂肪族および芳香族界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、単量体、オリゴマー、または重合体の形態であってもよい。界面活性剤の例としては、ポリソルベート(Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60)、PEG脂肪酸エステル類、PEGω−3脂肪酸エステル類、PEGエーテル類(たとえばTriton X-100/オクトキシノール−9)およびアルコール類(チロキサポール)、グリセロール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、PEG、脂肪酸グリセリルエステル、PEGソルビタン脂肪酸エステル、PEG糖エステル類、ポロキサマー類(Synperonics(登録商標)、Pluronics(登録商標)及びKolliphor(登録商標)の名で販売されている)、パルミチン酸アスコルビル、p−イソノニルフェノキシポリグリシドール(Olin 10-G(登録商標)またはSurfactant 10-G(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一実施形態では、本発明の組成物および塗膜はシクロデキストリンを含まない。
【0076】
一実施形態では、本発明の組成物および塗膜は無機成分(たとえば、無機陽イオンと無機陰イオンの両方を有する塩)を含まない。好適には、本発明の塗膜は生体吸収性または生体安定性である。
【0077】
一実施形態では、組成物および塗膜層は成分i)、ii)、およびiii)からなる。本実施形態では、組成物および塗膜層はパクリタキセル、尿素またはその誘導体、およびコハク酸、グルタル酸、カフェインのうちの1種以外の成分を含まない。
【0078】
成分i)、ii),およびiii)の相対量は所望の特性を有する塗膜が得られるように変更できる。このような変更は、医療機器用の塗膜を調製する当業者の通常の技術の範囲に十分含まれている。一実施形態では、組成物および塗膜層に含まれる成分i)の割合は、添加された固形成分の総重量基準で10〜95重量%(40〜90重量%、50〜90重量%、60〜90重量%、70〜90重量%、または75〜85重量%など)である。一実施形態では、組成物および塗膜層に含まれる成分ii)の割合は、添加された固形成分の総重量基準で1〜95重量%(5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%または5〜15重量%など)である。一実施形態では、組成物および塗膜層に含まれる成分iii)の割合は、添加された固形成分の総重量基準で1〜95重量%(5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%など)である。
【0079】
好適には、塗膜層は成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む(すなわち成分i)、ii)およびiii)は一つの塗膜層に存在する。以下に説明するように、このような塗膜層は、成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解した溶液を医療機器の表面に塗布し蒸発させることによって好適に得られる。
【0080】
本発明の塗膜層を医療機器の表面に直接塗布する必要はない。本発明の組成物を塗布した医療機器の実施形態は、本発明の組成物の上または下に塗布された追加の塗膜も含むことができる。このような追加の塗膜は本発明の塗膜層とは別個で異なるものであるこのような追加の塗膜は、機器の表面と本発明の組成物との接着性の向上、あるいは組成物からの治療剤の溶出の制限または測定のために使用できる。これらの追加の塗膜は、単独あるいは様々な賦形剤または担体との組み合わせで他の治療薬(たとえば以下に列挙するもの)を含むことができる。一実施形態では、追加の塗膜の量または厚みは医療機器の表面で異なっていてもよい。追加の塗膜層は機器の表面全体に連続していてもよいし不連続であってもよく、機器の一部分または別個の部分のみを覆っていてもよい。また、追加の塗膜層を、所望の表面形状または質感を持つように「凹凸をつける」か修飾してもよい。
【0081】
一実施形態では、本発明の塗膜層と機器の表面の材料との間に接着層を介在させる。この接着層はパクリタキセル含有塗膜層(成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層)の下に塗布された別個で異なる層であり、医療機器表面への薬物塗膜層の接着性を改善し、さらに塗膜の一体性を、特に治療される組織までの移動中、維持する。一実施形態では、接着層は、生体適合性で体組織を刺激しないことが好適な重合体を含む。このような重合体の例としては、限定するわけではないが、ポリオレフィン類、ポリイソブチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、アクリル系重合体および共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテル、ポリフッ化ビニリデンおよびポリ塩化ビニリデン、フッ素重合体(たとえば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP))、パーフルオロカーボン共重合体(たとえばテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル(TFE/PAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、TFEと酢酸エステル、アルコール、アミン、アミド、スルホン酸エステル、米国特許第8,658,707号(W. L. Gore and Associates;参照により本明細書に組み込まれ、これらの組み合わせについても同様である)に記載の官能基などを含む官能性単量体との共重合体、さらには、それらの組み合わせ)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、ナイロン12およびそのブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリオキシメチレン、ポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン−三酢酸エステル、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、キチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリエチレンオキシド共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、エラストマー重合体(シリコーン(たとえばポリシロキサン類および置換ポリシロキサン類)など)、ポリウレタン類、熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィンエラストマー、EPDMゴム、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0082】
別の実施形態では、パクリタキセル以外の治療薬を含む追加の塗膜層は本発明の塗膜層と機器表面の材料との間に介在する。前記塗膜層は、パクリタキセル含有塗膜層(成分i)、ii)、およびiii)を含む)の下にある別個の異なる層であり、パクリタキセルによって得られる利点に加えて治療上の利点を持つ(すなわち、パクリタキセルおよび有機添加剤と併用される補助療法ができる)可能性がある。たとえば、本発明の塗膜は生物学的に活性な固定化ヘパリン塗膜を既に塗布した医療機器に、既知の分析方法で測定される両方の塗膜の活性(すなわち、パクリタキセル−有機添加剤組成物の抗増殖性効果とヘパリンのアンチトロンビンIII(ATIII)結合活性)を維持しながら塗布できる。本発明のこの側面の非限定的な例を図7に示す。したがって、ヘパリン結合下塗膜を有する本発明の塗布済み医療機器は、埋め込み後の血栓形成を低減するという追加の利点を有すると考えられる。
【0083】
医療機器に固定化ヘパリンの塗膜を調製する様々な方法を実施例14に示す。医療機器のヘパリン生物活性を評価する好適な方法としては試験方法LおよびMに記載のものが挙げられる。
【0084】
実施例1には、固定化ヘパリンの層をあらかじめ塗布したステントグラフトに本発明のパクリタキセル含有組成物(成分i)、ii)、およびiii))をさらに塗布した実施形態が記載されている。実施例15に示すように、パクリタキセル含有塗膜がステントグラフトの表面から除去されると、その下に塗布されている固定化ヘパリン面は治療に適したレベルのヘパリン生物活性を保持していた。
【0085】
したがって、一実施形態では、追加の塗膜はパクリタキセル以外の治療薬を含む。あるいは、パクリタキセル以外の治療薬を含む前記追加の塗膜層は本発明の塗膜層の一部または全体を覆う。上述のように、このような塗膜層はパクリタキセル−有機添加剤塗膜層を覆う別個の異なる層である。
【0086】
一実施形態では、追加の塗膜層は、以下から選択される治療薬を含む:シロスタゾール、エベロリムス、ジクマロール、ゾタロリムス、カルベジロール、抗血栓剤(たとえば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、およびデキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン);抗炎症剤(たとえば、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミン、シロリムスおよびエベロリムス(とその類似体))、抗腫瘍性/抗増殖性/抗有糸分裂薬(たとえば、主要なタキサンドメイン結合薬(パクリタキセルとその類似体など)、エポチロン、ディスコデルモライド、ドセタキセル、パクリタキセルタンパク結合粒子(ABRAXANE(登録商標)(ABRAXANEはABRAXIS BIOSCIENCE, LLCの登録商標である)など)、適切なシクロデキストリン(またはシクロデキストリン様分子)と複合体を形成したパクリタキセル、ラパマイシンおよびその類似体、適切なシクロデキストリン(またはシクロデキストリン様分子)と複合体を形成したラパマイシン(またはラパマイシン類似体)、17β−エストラジオール、適切なシクロデキストリンと複合体を形成した17β−エストラジオール、ジクマロール、適切なシクロデキストリンと複合体を形成したジクマロール、β−ラパコンおよびその類似体、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、クラドリビン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞増殖を阻害できるモノクローナル抗体、ならびにチミジンキナーゼ阻害剤;溶菌剤;麻酔薬(リドカイン、ブピバカイン、およびロピバカインなど);抗凝集剤(たとえば、D−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、HSP20を模倣するAZX100細胞ペプチド(Capstone Therapeutics Corp.(米国))、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤及びティック抗血小板ペプチド);血管細胞増殖促進剤(たとえば、増殖因子、転写活性化因子、および翻訳プロモーター);血管細胞増殖阻害剤(たとえば、増殖因子阻害剤、増殖因子受容体アンタゴニスト、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、阻害抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子と細胞毒素bからなる非機能性分子(抗体及び細胞毒素からなる機能性分子);タンパク質キナーゼ及びチロシンキナーゼ阻害剤(たとえば、チルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);プロスタサイクリン類似体;コレステロール低下剤;アンジオポエチン;抗微生物剤(たとえば、トリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシド及びニトロフラントイン);細胞傷害剤、細胞分裂阻害剤、および細胞増殖影響因子;血管拡張剤;内因性血管作用機構を妨げる薬剤;モノクローナル抗体など白血球動員の阻害剤;サイトカイン;ホルモン、放射線不透過性物質(たとえば、ヨウ素化造影剤、金、またはバリウム);ならびにそれらの組み合わせ。好適には、追加の塗膜層はヘパリンを含む。
【0087】
したがって、一実施形態では、本発明の医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層(特にパクリタキセル含有塗膜層を上から塗布される固定化ヘパリンの塗膜層)を追加で含む。医療機器に固定化ヘパリン塗膜を調製する非限定的な方法を実施例14に記載する。
【0088】
一実施形態では、医療機器は、本発明の塗膜層の表面に重ねられた保護膜をさらに含む。この保護膜は、標的組織との接触前(たとえば、機器の組み立ておよび包装の間、治療部位への移動の間、あるいは、機器がバルーン、ステント、ステントグラフト、または移植片である場合、塗膜層を押圧して標的組織と直接接触させる前の膨張または拡張の初期の時点の間)のパクリタキセル含有層の消失をさらに最小限に抑制する可能性がある。保護膜は、圧潰荷重の間(たとえば、バルーン、ステント、ステントグラフト、または移植片などの拡張型医療機器に拡張後の形態で塗布を行ってから拡張していない形態に縮める場合に特に役立つ可能性がある。塗布済み機器の圧縮された形態は通常、使用まで一定期間保たれる。保護膜は、保管中や機器を展開する際の拡張中に本発明の塗膜層が消失するのを防ぐ可能性がある。その代わりに、あるいはそれに加えて、保護膜は移動中の機器への摩擦力を低減する潤滑性を有してもよい。好適には、保護膜は分解性または可溶性であり、体の内腔で薬物層を保護しながらゆっくりと放出される。上層に含まれる添加剤の疎水性および分子量が高いほど、上層はゆっくりと浸食される。界面活性剤がより長い脂肪鎖を有する疎水性構造の例である(たとえばTween20およびオレイン酸ポリグリセリル)。高分子量添加剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、およびポリビニルピロリドンが挙げられる。疎水性の薬物は、それ自体が上層成分として作用することができる。たとえば、パクリタキセルまたはラパマイシンは疎水性であり、これらは上層に使用できる。一方、上層の浸食が遅すぎてはいけない。すなわち、標的部位で配備したときに実際に薬物の放出を遅らせる可能性があるということである。保護膜に有用な他の添加剤としては、薬物または塗膜層と強く相互作用するものが挙げられ、たとえば、p−イソノニルフェノキシポリグリシドール、ラウリン酸PEG、Tween20、Tween40、Tween60、オレイン酸PEG、ステアリン酸PEG、ラウリン酸PEGグリセリル、オレイン酸PEGグリセリル、ステアリン酸PEGグリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、ミリスチン酸ポリグリセリル、パルミチン酸ポリグリセリル、ラウリン酸ポリグリセリル−6、オレイン酸ポリグリセリル−6、ミリスチン酸ポリグリセリル−6、パルミチン酸ポリグリセリル−6、ラウリン酸ポリグリセリル−10、オレイン酸ポリグリセリル−10、ミリスチン酸ポリグリセリル−10、パルミチン酸ポリグリセリル−10、モノラウリン酸PEGソルビタン、モノラウリン酸PEGソルビタン、モノオレイン酸PEGソルビタン、ステアリン酸PEGソルビタン、PEGオレイルエーテル、PEGラウリルエーテル、オクトキシノール、モノキシノール、チロキサポール、モノパルミチン酸スクロース、モノラウリン酸スクロース、デカノイル−N−メチルグルカミド、n−デシルβ−D−グルコピラノシド、n−デシルβ−D−マルトピラノシド、n−ドデシルβ−D−グルコピラノシド、n−ドデシルβ−D−マルトシド、ヘプタノイル−N−メチルグルカミド、n−ヘプチルβ−D−グルコピラノシド、n−ヘプチルβ−D−チオグルコシド、n−ヘキシルβ−D−グルコピラノシド、ノナノイル−N−メチルグルカミド、n−ノニルβ−D−グルコピラノシド、オクタノイル−N−メチルグルカミド、n−オクチルβ−D−グルコピラノシド、オクチルβ−D−チオグルコピラノシド;システイン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびメチオニン;無水酢酸、無水安息香酸、アスコルビン酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ジグリコール酸、無水グルタル酸、アセチアミン、ベンホチアミン、パントテン酸;セトチアミン;シクロチアミン、デクスパンテノール、ナイアシンアミド、ニコチン酸、5−リン酸ピリドキサール、アスコルビン酸ニコチンアミド、リボフラビン、リン酸リボフラビン、チアミン、葉酸、二リン酸メナジオール、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、メナドキシム、ビタミンB12、ビタミンK5、ビタミンK6、ビタミンK6、およびビタミンU;アルブミン、免疫グロブリン類、カゼイン類、ヘモグロビン類、リゾチーム類、イムノグロビン類、α−2−マクログロブリン、フィブロネクチン類、ビトロネクチン類、フィブリノーゲン類、リパーゼ類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム類、塩化ジアルキルメチルベンジルアンモニウム、およびスルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル類、L−アスコルビン酸およびその塩類、D−グルコアスコルビン酸およびその塩類、トロメタミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、グルカミン、アミンアルコール類)、グルコヘプトン酸、グルコン酸、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、ラクトビオン酸、グルコサミン、グルタミン酸、ベンジルアルコール、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸プロピル、リシン酢酸塩、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、ラクチトール、シナピン酸、バニリン酸、バニリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、ソルビトール、キシリトール、シクロデキストリン、(2−ヒドロキシプロピル)−シクロデキストリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、レチノイン酸、酢酸リシン、ゲンチジン酸、カテキン、没食子酸カテキン、チレタミン、ケタミン、プロポホール、乳酸、酢酸、任意の有機酸塩および有機アミン塩、ポリグリシドール、グリセリン、マルチグリセリン類、ガラクチトール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、テトラ(エチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、ポリ(エチレングリコール)オリゴマー、ジ(プロピレングリコール)、トリ(プロピレングリコール)、テトラ(プロピレングリコール)、およびペンタ(プロピレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)オリゴマー、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロック共重合体、PTFE、ePTFE、ならびにそれらの誘導体および組み合わせが挙げられる。
【0089】
上述のように、本発明の塗布済み医療機器は、接着層、治療薬を含む追加の層、または保護膜層などの追加の塗膜層を含んでもよい。なお、この追加の層は、成分i)、ii)、およびiii)を含む本発明の塗膜層とは異なる別個の層と考えられる。
たとえば、一実施形態では本発明の塗膜層(すなわち、成分i)、ii)、およびiii)を含む)は界面活性剤を含まないが、医療機器は、界面活性剤を含む異なる別個の塗膜層を本発明の塗膜層の下または上に有する可能性がある。同様に、一実施形態では本発明の塗膜はタンパク質を含まないが、医療機器は、タンパク質を含むさらなる塗膜層を本発明の塗膜層の下または上に有してもよい。
【0090】
上述のように、医療機器用の固体薬物塗膜を開発する際に特有の課題は、移動中に塗膜が消失/損傷しないように十分な機器への接着性を有することと、さらには薬物が塗膜から標的組織へ移行するように好適な放出特性を有することとの均衡を達成することである。すなわち、塗膜の接着性が強すぎると、塗膜は耐久性を有するが、放出される薬物の量は不十分であり、得られる効果は最適には及ばない。反対に、塗膜が機器への十分な接着性を持たなければ、塗膜は優れた放出特性を有するかもしれないが、標的組織に到達する薬物の量は不十分であり、また、標的組織以外の領域での意図しない薬物放出は患者に有害となる可能性がある。
【0091】
本発明の塗膜層は、医療機器への優れた接着性によって機器の移動中の塗膜の消失を最小限に抑えるかさらに解消することと、好適な放出特性によってパクリタキセルを効果的かつ効率的に標的組織に送達することとの均衡性に優れている。
【0092】
本発明のパクリタキセル含有組成物を実施例1に記載のステントグラフトに塗布し、機器からブタの組織にパクリタキセルを移行させる能力について生体外で分析した(実施例3に記載のとおり)。実施例4に記載のように、ステントグラフトをブタの組織から除去し、これらを分析して機器に残留しているパクリタキセル含有量を決定した。パクリタキセルと尿素の塗膜を有する対照ステントグラフトと比較すると、本発明の塗膜は血管組織へのパクリタキセルの取り込み率が高く、使用済みの機器に残留しているパクリタキセル含量も高いことがわかった。このことは、パクリタキセルの取り込みの効率がより高いことを示し、耐久性がより高いことも示す。というのも、本発明の機器ではパクリタキセルの消失率がより低かった(すなわち、血管組織に移行したか使用済み機器に残留していたパクリタキセルの割合がより高かった)からである。
【0093】
さらに、実施例12では、本発明の塗布済みバルーンの耐久性を接着試験で評価した。図5に実験結果の概要を示すが、本発明の塗膜(6a〜6c)がパクリタキセルと尿素の塗膜(6d)を有する対照バルーンと比較して全体的により優れた接着性を示したことがわかる。
【0094】
一実施形態では、本発明の塗膜は、実施例12に記載のように、試験方法Qによる振盪時に消失するパクリタキセルが40%未満(たとえば、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満)であるような好適な接着性を有する。
(治療方法)
【0095】
本発明の新規なパクリタキセル−賦形剤組成物を塗布した医療機器は医学療法に有用である。
【0096】
本発明の一側面では、ヒトまたは動物の体内組織の治療に使用するための、上記塗膜層を有する医療機器が提供される。治療される組織としては、任意の体腔、腔、または中空器官の経路(血管、尿路、腸管、鼻腔、神経鞘、椎間領域、骨小腔、食道、子宮内腔、膵管、胆管、直腸など)や以前に介入された血管移植片、ステント、人工器官、または他の種類の医療用埋込物が埋め込まれているそれらの体内腔などが挙げられる。
【0097】
本明細書に記載の塗膜層を有する医療機器は、栓子、血栓などの閉塞物を血管から除去する(閉塞した身体経路の開存性を回復するための拡張用機器として、経路または腔を閉塞または充填する手段を選択的に送達するための閉塞用機器として、およびカテーテルなどの経管器具のセンタリング機構として)のに役立つ可能性がある。
【0098】
本発明の一側面では、ヒトの体内の血管の狭窄または再狭窄の予防または治療に使用するための、上記塗膜層を有する医療機器が提供される。本発明の別の側面では、ヒトの体内の以前に配置された溶出性構造体が機能しなくなった血管の狭窄または再狭窄の予防または治療に使用するための、上記塗膜層を有する医療機器が提供される。別の実施形態では、本明細書に記載の塗膜層を有する医療機器は、たとえば腎臓透析中に用いられる動静脈アクセス部位の確立または維持に使用できる。
【0099】
一実施形態では、本明細書に記載の塗膜層を有する前記医療機器は、閉塞性末梢動脈疾患の患者の経皮経管血管形成(PTA)に使用できる。別の実施形態では、前記機器は経皮経管冠動脈形成(PTCA)に使用される医療用バルーンを含む。
【0100】
本発明の別の側面では、上記塗膜層を有する医療機器をヒトの体内の前記血管に一時的または永久に挿入することを含む、狭窄または再狭窄(たとえば冠動脈の狭窄または再狭窄)の予防または治療の方法が提供される。
【0101】
上記の成分i)、ii)、およびiii)を含むパクリタキセル−賦形剤固体組成物は医療機器の外表面に塗布するのに有用であるが、それ自体で医薬組成物としてのさらなる有用性を持っていてもよい。
【0102】
本発明の塗布済み医療機器は典型的にはある用量のパクリタキセルを含む。送達されるパクリタキセルの用量は、塗布される領域の大きさ、塗布済み機器が標的組織と接触する時間の長さ、塗膜に含まれるパクリタキセルの量などの多くの因子に依存する。好適には、医療機器は、平均0.1〜10μg/mm、たとえば0.2〜8μg/mm、0.5〜5μg/mm、または1〜4μg/mm(たとえば2μg/mm、3μg/mm、または4μg/mm)のパクリタキセルを含む塗膜を有する。見かけの塗布表面積には多孔質基材材料の多孔度は考慮されていない。基材材料が多孔質である場合、表面積に対する多孔度の影響はこれらの計算では考慮されない。たとえば、円筒管状のePTFE血管移植片(多孔質材料で製造されたもの)の、本発明のパクリタキセル−賦形剤塗膜を有する見かけの表面積(この管状移植片の内表面を含む)は、どのような円筒形状についても2πrL(rは移植片の内半径、Lは軸方向の長さ、πは数値パイである)でそのまま計算される。なお、重要なことであるが、本明細書ではePTFEの多孔性およびその表面積への影響については考慮しない。したがって、分析のために正方形に切断された非多孔質基材材料は、長さに幅を掛けた表面積を有するものとする。
【0103】
本発明の塗布済み医療機器は、典型的には合計0.01〜300mg(たとえば、0.01〜250mg、0.01〜200mg、0.01〜150mg、0.01〜100mg、0.01〜90mg、0.01〜80mg、0.01〜70mg、0.01〜60mg、0.01〜50mg、0.01〜40mg、0.01〜30mg、0.01〜20mg、0.01〜10mg、または0.01〜5mg)のパクリタキセルを含む。一実施形態では、塗布済み医療機器はバルーンであり、塗膜層は合計0.1〜50mgのパクリタキセルを含む。一実施形態では、塗布済み医療機器はステントであり、塗膜層は合計0.01〜10mgのパクリタキセルを含む。一実施形態では、塗布済み医療機器はステントグラフトであり、塗膜層は合計0.01〜10mgのパクリタキセルを含む。
【0104】
本発明の組成物の放出特性は、特定の種類の医療機器への塗布に用いるのに適しているかを決定し得る。パクリタキセルの放出が非常に速い本発明の塗膜は、バルーンが拡張されると除去されるまでの標的組織との接触時間が比較的短いDEBに使用するのに特に適している。反対に、パクリタキセルの放出が比較的遅い塗膜は、血管内に保持されるDES(あるいはステントまたはステントグラフト(SSG))に使用するのにより適している。
【0105】
一実施形態では、本発明の医療機器は、試験方法A−IまたはA−IIを適切に用いた場合に所与の時点の組織内のパクリタキセル濃度の測定値が組織(g)あたり少なくとも1μgの薬物量(μg/g)(たとえば少なくとも2.5μg/g、少なくとも5μg/g、少なくとも10μg/g、少なくとも50μg/g、または少なくとも100μg/g)となる好適なパクリタキセル放出特性と組織移行特性を有する。
【0106】
一実施形態では、本発明の医療機器は塗布済みバルーンであり、実施例8に記載のとおり、試験方法A−Iを用いた場合に1時間後の時点の組織内のパクリタキセル濃度の測定値が組織(g)あたり少なくとも20μgの薬物量(μg/g)(たとえば少なくとも50μg/g、少なくとも100μg/g、少なくとも150μg/g、または少なくとも200μg/g)となる好適なパクリタキセル放出性および組織移行性を有する。
【0107】
一実施形態では、本発明の医療機器はステントグラフトであり、実施例3に記載のとおり、試験方法A−IIを用いた場合に24時間後の時点の組織内のパクリタキセル濃度の測定値が組織(g)あたり少なくとも1μgの薬物量(μg/g)(たとえば少なくとも10μg/g、少なくとも50μg/g、または少なくとも100μg/g)となる好適なパクリタキセル放出性および組織移行性を有する。
【0108】
一実施形態では、本発明の医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層を含む。固定化ヘパリン層は、機器が組織と接触した際に抗血栓形成効果を発揮する可能性がある。固定化ヘパリン層の生物活性は試験方法LおよびMで分析できる。機器に固定化されたヘパリンの量は試験方法Nで分析できる。
【0109】
一実施形態では、医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含み、試験方法Lによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)ヘパリン補因子(HCII)結合活性を有する。
【0110】
別の実施形態では、医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含み、試験方法Mによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のアンチトロンビンIII(ATIII)結合活性を有する。
【0111】
別の実施形態では、医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含み、試験方法Lによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)HCII結合活性を有する。
【0112】
別の実施形態では、医療機器は固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含み、試験方法Mによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のATIII結合活性を有する。
(本発明の組成物および塗膜の調製方法)
【0113】
本発明による固体パクリタキセル−賦形剤粒子状組成物は、多くの方法によって調製できる。本発明の塗膜を調製する一つの方法は、成分i)、ii)、およびiii)の1種以上の溶液を蒸発させることによる。一実施形態では、成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、前記1種以上の各溶液を機器に塗布する工程と、前記1種以上の各溶液の溶媒を蒸発させる工程とを含む方法が提供される。好適には、前記方法は、成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、前記溶液を機器に塗布する工程と、前記溶媒を蒸発させる工程とを含む。使用できる溶媒としては、水、アセトン、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、EtOAc、ジオキサン、またはそれらの混合物が挙げられる。好適には、溶媒は、水、アセトンおよびそれらの混合物から選択される。
【0114】
好適には、パクリタキセルまたは成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、水、アセトン、およびそれらの混合物(たとえば約50/50〜95/5、約60/40〜90/10、約70/30〜約90/10、または約70/30〜約75/25のアセトン/水(v/v)であり、たとえば90/10、80/20、75/25、または70/30のアセトン/水(v/v)など)から選択される溶媒の溶液である。一実施形態では、成分i)、ii)、およびiii)の溶液は80/20のアセトン/水(v/v)である。
【0115】
成分i)、ii)、およびiii)の各溶液(または成分i)、ii)、およびiii)を含む1種の溶液)を蒸発させることによって本発明の塗膜を調製する様々な方法を用いることができる。溶液は機器自体を回転させながら機器の外表面にピペットで塗布することができ、たとえば一度に90〜100μlの塗膜液を機器にピペットで塗布する。あるいは、単純に機器を溶液に浸漬し、取り出して空気乾燥してもよい。浸漬と乾燥の工程は、所望の塗膜の厚みまたはパクリタキセルの添加量が達成されるのに必要な回数だけ繰り返すことができる。その他、キャスティング法、回転塗布、スプレー塗布、インクジェット印刷、静電塗布、塗装、分散体塗布、粉体塗布、またはそれらの組み合わせなどの方法を用いて塗膜を形成してもよい。
【0116】
塗膜を塗布した後、乾燥工程が必要な場合がある。たとえば空気組成、流速および流動パターン、空気の温度、局所加熱(たとえば加熱灯)などを制御/調節することによって塗膜の乾燥環境を時間関数として制御し、それによって塗膜の物性を制御してもよい。
【0117】
蒸発によって本発明の塗膜をステントグラフトに形成する好適な方法を実施例1に記載し、蒸発によって本発明の塗膜をバルーンに形成する好適な方法を実施例6に記載する。
【0118】
一実施形態では、塗膜はパクリタキセル(成分i))と、成分ii)としてエチル尿素、成分iii)としてカフェインを含み、パクリタキセル、エチル尿素、およびカフェインを含む1種の溶液から蒸発によって形成される。本実施形態では、好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるパクリタキセルの重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約10重量%〜約95重量%であり、たとえば、約40重量%〜約90重量%、約50重量%〜約90重量%、約60重量%〜約90重量%、約70重量%〜約90重量%、または約75重量%〜約85重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるエチル尿素の重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるカフェインの重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。
【0119】
本明細書で使用する場合、コハク酸、グルタル酸、およびカフェインの重量パーセント量は、遊離酸であるコハク酸とグルタル酸、および遊離塩基であるカフェインの重量に基づく。
【0120】
一実施形態では、塗膜はパクリタキセル((成分i))と、成分ii)としてエチル尿素、成分iii)としてコハク酸を含み、パクリタキセル、エチル尿素、およびコハク酸を含む1種の溶液から蒸発によって形成される。本実施形態では、好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるパクリタキセルの重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約10重量%〜約95重量%であり、たとえば、約40重量%〜約90重量%、約50重量%〜約90重量%、約60重量%〜約90重量%、約70重量%〜約90重量%、または約75重量%〜約85重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるエチル尿素の重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるコハク酸の重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。
【0121】
一実施形態では、塗膜はパクリタキセル((成分i))と、成分ii)としてエチル尿素、成分iii)としてグルタル酸を含み、パクリタキセル、エチル尿素、およびグルタル酸を含む1種の溶液から蒸発によって形成される。本実施形態では、好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるパクリタキセルの重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約10重量%〜約95重量%であり、たとえば、約40重量%〜約90重量%、約50重量%〜約90重量%、約60重量%〜約90重量%、約70重量%〜約90重量%、または約75重量%〜約85重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるエチル尿素の重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。好適には、ピペット塗布用/浸漬用液に含まれるグルタル酸の重量%は(添加された固形成分の総重量基準で)約1重量%〜約95重量%であり、たとえば、約5重量%〜約80重量%、約5重量%〜約50重量%、約5重量%〜約30重量%、約5重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%である。
【0122】
本明細書で使用する場合、パクリタキセルの重量パーセント量は、無水パクリタキセルの重量に基づく(すなわち、パクリタキセルの水和物の場合には結合水を無視する)。
【0123】
本発明の塗膜は、溶媒をほとんど必要としないか実際に溶媒を必要としない方法で医療機器に塗布できる。たとえば、粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製し、次いでこれらの粉末形態を機器に塗布し、必要に応じてその後に熱処理工程を行うことを含む、乾燥粉末法を用いてもよい。この方法の変形は、成分i)、ii)、およびiii)を一緒にして粉末形態にし、次いでその粉末を機器に塗布し、必要に応じてその後に熱処理工程を行うことを含む。
【0124】
好適には、成分i)、ii)、およびiii)の各粉末形態(または成分i)、ii)、およびiii)の組み合わせの一粉末形態)を機器に吹き付ける。必要に応じて、機器は(上述の)接着層を含んでいてもよく、吹き付けの後にたとえば機器表面に層を接着するために熱処理を行ってもよい。
【0125】
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法が提供される。
【0126】
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記溶液を前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法が提供される。
【0127】
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)は尿素またはその誘導体であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである、方法が提供される。
【0128】
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記溶液を前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)は尿素またはその誘導体であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである、方法が提供される。
【0129】
これらの方法の実施形態に関して述べた実施形態は、製造法の実施形態にも同等にあてはまる。
【0130】
典型的には、一実施形態では、本発明の塗膜は約0.1μm〜約200μm(たとえば約0.2μm〜約100μm)の平均合計厚みを有する。多孔質材料の場合、前記厚みは多孔質材料の表面より上の厚みを指す(細孔内の塗膜は追加の厚みであり、この計算では考慮されない)。塗膜厚は適切な塗膜圧分析装置、計測器、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、またはX線光電子分光(XPS)分析で測定できる(評価方法の項を参照のこと)。
【0131】
なお、上記の本発明の塗膜層または組成物を調製する方法(たとえば、乾燥粉末法および溶媒蒸発法)は、いずれも同等に上記の様々な塗膜および組成物の実施形態の調製に適している。
【0132】
なお、さらに、本明細書に記載の方法および製造法によって作製した医療機器も本発明の一部を構成するものとみなされる。
(本発明のさらなる実施形態)
【0133】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)は尿素またはその誘導体であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。
【0134】
別の側面では、成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含み、成分i)はパクリタキセルであり、成分ii)は尿素またはその誘導体であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである、組成物が提供される。
【0135】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、またはプロピル尿素であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。
【0136】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。
【0137】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はカフェインである。
【0138】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はコハク酸またはグルタル酸である。
【0139】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はコハク酸である。
【0140】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はグルタル酸である。
【0141】
一側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、外表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、ナイロンおよびフッ素重合体から選択される材料で構成され、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。
【0142】
本発明の別の側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、外表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。このパクリタキセルは、塗膜層に処方されたときにエチレンオキシド滅菌に対し安定である。
【0143】
本発明の別の側面では、治療薬を組織に送達する医療機器が提供される。この機器は、外表面に塗布された成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む塗膜層を有し、成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、成分ii)はエチル尿素であり、成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェインである。この塗膜層は、成分i)、ii)、およびiii)を含む溶液の蒸発によって形成される。
【0144】
本発明による塗膜および組成物は、以下の利益または利点のうち1つ以上を有すると期待される:
・好適なパクリタキセル放出性および組織移行性(たとえば試験方法A−Iまたは試験方法A−IIで測定);
・医療機器への優れた接着性(たとえば試験方法Qで測定);
・塗膜に処方された場合のパクリタキセルの滅菌に対する優れた安定性(たとえば試験方法E(エチレンオキシド滅菌)、試験方法F(電子線滅菌)、試験方法G(過酸化水素蒸気滅菌)または試験方法H(プラズマ過酸化水素滅菌)で測定);
・ヘパリンなどの追加の治療薬との適合性;ならびに
・医療機器の製造に従来使用されている様々な基材材料との適合性。
【0145】
本発明は、示されている群と以上に列挙した各群の実施形態とのあらゆる組み合わせを包含する。
【0146】
本明細書で参照したすべての特許および特許出願は、参照によりその全体が組み込まれる。
本明細書に示すパーセント値は、特に示さない限りは重量を基準とする。
【0147】
本明細書および後述の特許請求の範囲全体で、特に文脈上求められない限りは、「含む(comprise)」という語およびその変形(「comprises」、「comprising」など)は、示された整数、工程、整数群、または工程群を含むことを意味すると理解され、他の任意の整数、工程、整数群、または工程群を除外するものではない。
(定義および略語)
DEB:薬物溶出性バルーン
DES:薬物溶出性ステント
DSC:示差走査熱量測定
ePTFE:延伸ポリテトラフルオロエチレン
h:時間
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
ND:確認されず
N/T:未試験
PEG:ポリエチレングリコール
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
Ptx:パクリタキセル
SEM:走査型電子顕微鏡
SSG:ステントまたはステントグラフト
UPLC:超高速液体クロマトグラフィー
【実施例】
【0148】
(一般的な手順)
(化学薬品)
【0149】
無水結晶性パクリタキセルをIndenaから購入した。無水カフェイン(米国薬局方の規格に準ずるもの)98.5〜101.0%をSpectrum chemicals MFGまたはSigma-Aldrich Corporationから購入した。コハク酸(米国化学会の規格に準ずる試薬)≧99.0%をSigma-Aldrichから購入した。グルタル酸をSpectrum chemicals MFGまたはSigma-Aldrich Corporationから購入した。エチル尿素をAldrich、尿素をSigma-Aldrichから購入した。
(溶媒)
【0150】
アセトン(水分が<0.5%の「脱水」アセトン)をSigmaから購入した。水について記載されている場合は、いずれの場合も脱イオン水を用いた。
(材料)
【0151】
ヘパリン生物活性表面を有するGORE(登録商標)VIABAHN(登録商標)内部人工器官は、それぞれ直径6mm、長さ50mm、および直径7mm、長さ50mmの寸法の固定化ヘパリン塗膜付きステントグラフトである。これらをW. L. Gore and Associates Inc.から購入した。
【0152】
直径5mm、長さ40mmの寸法のナイロンバルーンカテーテルを入手した(Bavaria Medizin Technologie(ドイツ、ヴェスリング)製、型番号BMT−035、商品番号08GL−504A、5×40mm)。このバルーンの仕様は、公称空気圧が6気圧(atm)、加圧限界が14気圧、公称直径が5mm、バルーンの作業長さが40mmで、0.9mmのガイドワイヤ適合カテーテルに取り付けられている。
【0153】
6×40mmの寸法のePTFEバルーンをW. L. Gore & Associates, Inc.から入手した。ePTFEバルーンの構成方法については実施例5に示す。
【0154】
ブタ頸動脈をAnimal Technologies Inc.(テキサス州、タイラー)およびLovsta Kott AB(スウェーデン、ウプサラ)から入手した。ルアー継手(#11570)をQosina(ニューヨーク州、エッジウッド)から購入した。
(評価方法)
各方法で評価されるパラメータを括弧に示す。
(超高速液体クロマトグラフ(UPLC)分析)
(パクリタキセル濃度)
【0155】
Watersの装置(型番号ACQUITY Hクラス)でUPLC分析を行う。パクリタキセルの保持時間によってパクリタキセルを同定する。パクリタキセルの濃度は、外部標準によって決定される積分ピーク面積に正比例する。固体のパクリタキセルを含む試料を抽出溶媒に浸し、15分間超音波処理する。試料希釈剤を用いて、試料を較正範囲内の濃度までさらに希釈する。純粋なパクリタキセルを試料希釈剤に溶解して段階希釈し、0.05〜30μg/mlのパクリタキセル標準物質を調製する。試料および標準物質はすべて、調製中は遮光される。UPLCクロマトグラフィーのパラメータは以下のとおりである。フェニルカラム(1.7μm、2.1×50mm)を使用し、移動相は水:アセトニトリル、流速は0.7ml/分、実行時間は10分、注入量は3μl、浄化溶媒はアセトニトリル:水(10:90(v/v))、洗浄溶媒はイソプロピルアルコール、カラム温度は35℃、UV検出器波長は227.0±1.2nm、サンプリング速度は20点/秒とする。
(パクリタキセルの分解産物(実施例13))
【0156】
Watersの装置(型番号ACQUITY Iクラス)で関連物質(一般に分解生成物)のクロマトグラフィー分析を行う。パクリタキセルおよび関連物質の同定をそれぞれの保持時間によって確認する。各成分の濃度は、外部標準化によって決定される積分ピーク面積に正比例する。米国薬局方のPaclitaxel Related Compound A RSに記載されている関連物質についてスクリーニングした。UPLCクロマトグラフィーのパラメータは以下のとおりである。C18カラム(1.7μm、2.1×100mm)を使用し、移動相は20μM酢酸アンモニウム緩衝液:アセトニトリル、流速は0.5ml/分、実行時間は10分、注入量は3〜10μl、浄化溶媒はアセトニトリル:水(10:90(v/v))、洗浄溶媒はイソプロピルアルコール、カラム温度は35℃、UV検出器波長は227.0±1.2nm、サンプリング速度は20点/秒とする。
【0157】
(エネルギー分散型X線分光法による走査型電子顕微鏡分析(塗膜の範囲および均一性))
【0158】
本発明の塗布済み機器のSEM画像は、Hitachi TM3000卓上SEMを用いて評価できる。
(深さ分析を含むX線光電子分光法(XPS)(塗膜厚))
【0159】
X線光電子分光(XPSまたはESCA)は固体材料の非破壊化学分析ができる最も広く使用されている表面特性評価方法である。試料に単一エネルギーのX線を照射し、光電子を試料表面の上部1〜10nmから放出させる。電子エネルギー分析装置で光電子の結合エネルギーを決定する。約0.1〜0.2原子%の検出限界で水素とヘリウム以外のすべての元素を定性・定量分析できる。分析スポットの大きさは10μm〜1.4mmの範囲である。元素状態および化学状態のマッピングを用いて構造の表面画像を作成することもできる。角度依存測定で表面の上部10nm以内を非破壊分析するか、イオンエッチングなどの破壊分析で塗膜の深さ全体を非破壊分析することによって、深さ分析を行うことができる。
(試験方法)
(試験方法A:パクリタキセルの組織移行および取り込みの生体外試験)
【0160】
塗布済み医療機器がその表面から血管組織へパクリタキセルを移行する能力を、基本的にはLiaoの文献(D. Liao et al., Biochem Biophys Res Commun, 372(4): 668-673, 2008. “Vascular smooth cell proliferation in perfusion culture of porcine carotid arteries”)に記載されている生体外モデルで試験する。
(試験方法A−I:バルーン)
【0161】
月齢6〜9ヶ月のブタの頸動脈(長さ約6cm)から脂肪組織を取り除き、遠位端に蝋引き糸でルアー継手を取り付けた。近位端および遠位端の血管直径は、それぞれ約5mmと約2mmであった(血管は長さに沿って次第に細くなっていた)。これらを12mlのPBSで洗浄し、軸方向にわずかに伸ばして血管をまっすぐにしながら解剖用パッドに固定した。塗布済みバルーン(すべて試験方法I−Iに従って圧縮された5×40mm(直径×長さ)のもの)を血管の近位端から血管の中央まで挿入し、この位置に30秒間保持し、試験方法I−IIに従って展開し除去した。ルアー継手を近位端に蝋引き糸で取り付けた。近位および遠位の継手にチューブを接続し、血管を60ml/分、37℃で1時間PBSで洗浄した。洗浄を停止し、試験方法Dで後述する方法で血管のパクリタキセル含有量を分析した。
(試験方法A−II:ステントおよびステントグラフト)
【0162】
月齢6〜9ヶ月のブタの頸動脈(長さ約6cm)から脂肪組織を取り除き、遠位端に蝋引き糸でルアー継手を取り付けた。近位端および遠位端の血管直径は、それぞれ約5mmと約2mmであった(血管は長さに沿って次第に細くなっていた)。これらを12mlのPBSで洗浄し、軸方向にわずかに伸ばして血管をまっすぐにしながら解剖用パッドに固定した。塗布済みステントまたはステントグラフトを試験方法J−Iに従って直径方向に圧縮した。圧縮後のステントまたはステントグラフトをブタの血管の近位端から血管の中央まで挿入し、試験方法J−IIに従って拡張状態に展開した。ルアー継手を近位端および遠位端に蝋引き糸で取り付けた。近位および遠位の継手にチューブを接続し、血管を60ml/分、37℃で24時間PBSで洗浄した。ステントまたはステントグラフトを除去し、試験方法Dで後述する方法で血管のパクリタキセル含有量を分析した。
(試験方法B:操作後のパクリタキセル含有量の決定)
【0163】
これらの試験により、塗布済み機器のパクリタキセルの量を決定できる。機器のパクリタキセルの量を機器の操作の前と後で比較することによって塗膜の耐久性を評価できる。
(試験方法B−I:重量)
【0164】
塗布済み機器の操作(たとえば試験方法IまたはJによる操作)前後の重量を測定する。したがって、操作中に消失した塗膜の重量を決定できる。操作前の塗膜組成がわかっている場合、消失したパクリタキセルの重量を計算でき、消失したパクリタキセルの割合(%)と機器に残留しているパクリタキセルの割合(%)も計算できる。
(試験方法B−II:抽出)
【0165】
機器を(たとえば試験方法IまたはJに従って)操作し、操作後に機器に残留しているパクリタキセルを、機器を酸性化メタノール(メタノール5mLに酢酸0.2%v/vを溶解)に15分間浸すことによって抽出する。パクリタキセル含有メタノール溶液をUPLC分析(評価方法の項に記載)で評価し、パクリタキセル含有量を決定する。これをあらかじめわかっている操作前の機器のパクリタキセル添加量と比較することができ、消失したパクリタキセルの割合(%)と機器に残留しているパクリタキセルの割合(%)を計算してもよい。
(試験方法C:パクリタキセル溶出特性の生体外評価)
【0166】
生体外の機器からのパクリタキセルの放出速度、特に加速溶出の特性を試験する方法を用いることができる。この目的のため、塗布済み機器を一定温度の適切な緩衝液中に置く。溶出したパクリタキセルを、パクリタキセルの水溶解度を必要な濃度になるまで高めるシクロデキストリンを含む水性緩衝液に溶解する。選択した時点で試料を取り出し、UPLC法(評価方法および試験方法B−IIに記載の方法)でパクリタキセル含有量を分析し、時間に対するパクリタキセル含有量のグラフを作成することにより、溶出分析結果を作成できる。
(試験方法D:パクリタキセル移行の生体内評価―バルーン)
【0167】
成体ブタの末梢動脈を用いた生体内試験で、塗布済みバルーンをブタ模型に配備した。末梢動脈の血管造影によって適切な血管拡張に必要なバルーン空気圧を決定した。バルーンを標的部位まで通過させ、必要な空気圧まで60秒間膨張させ、収縮させて除去した。配備後、使用済み機器を、評価方法に記載の残留パクリタキセル含有量のUPLC分析に供した。
【0168】
動物を1日後または29日後に安楽死させ、治療後の動脈を採取した。各動脈から脂肪組織を取り除き、径方向の断面(100±50mg)を切り出し、動脈のパクリタキセル含有量をUPLC/タンデム質量分析法で分析した。示された断片のすべての半径方向の断面のパクリタキセル濃度を平均して治療後の動脈の平均パクリタキセル濃度を計算した。
【0169】
組織試料を均質化し、重水素化パクリタキセル2mg/mlを内部標準として含む0.2%酢酸メタノール溶液で抽出した。試料を遠心分離して微粒子をすべて除去し、上清をUPLC分析(評価方法の項)に用いた。
【0170】
各治療動脈について、近位、治療部位、遠位、および遠隔の断片の平均薬物濃度を、示された断片のすべての断面の平均薬物濃度として計算した。次に各治療群の動脈(n=3)の断片の平均値を平均することによって治療ごとの平均値を計算した。
(試験方法E:エチレンオキシドに対する安定性)
【0171】
本発明の医療機器を通気性ポリエチレンパウチ(たとえばTyvekパウチ)に入れ、50℃、相対湿度60%で少なくとも12時間前処理した後、圧力366mBarで50℃でエチレンオキシドに2時間暴露する。次にチャンバーを50℃で少なくとも10時間脱気する。エチレンオキシドによる滅菌は、Synergy Health Ireland Ltd.で実施できる。
【0172】
滅菌後、評価方法の項に記載のUPLC定量を用いて(機器抽出、すなわち抽出溶媒に機器全体を浸漬することにより)機器のパクリタキセル含有量を評価する。各機器について、滅菌後のパクリタキセル回収率は、抽出したパクリタキセル量を試験方法B−IIについて記載した機器の予備滅菌時に添加した理論上のパクリタキセル量で正規化することによって計算できる。
(試験方法F:電子線滅菌に対する安定性)
【0173】
本発明の医療機器を滅菌するさらなる方法は電子線滅菌である。機器を通気性ポリエチレンパウチ(たとえばTyvekパウチ)に入れ、Sterigenics International, Inc.(イリノイ州、ディアフィールド)などの業務用滅菌業者を利用して周囲条件で15〜40kグレイの線量で照射する。電子線滅菌後、試験方法B−IIについて記載した方法で機器のパクリタキセル含有量を評価してもよい。
(試験方法G:過酸化水素蒸気滅菌に対する安定性)
【0174】
本発明の医療機器を滅菌するさらなる方法は過酸化水素蒸気滅菌である。機器を通気性ポリエチレンパウチ(たとえばTyvekパウチ)に入れ、VHP-MD880システム(Steris Corp.(オハイオ州、メンター))などの市販の滅菌室を用いて、製造業者の推奨する手順に従って過酸化水素蒸気に曝露した。過酸化水素蒸気滅菌後、試験方法B−IIについて記載した方法で機器のパクリタキセル含有量を評価する。
(試験方法H:プラズマ過酸化水素滅菌に対する安定性)
【0175】
本発明の医療機器を滅菌するさらなる方法はプラズマ相過酸化水素滅菌である。埋め込み型医療機器を通気性ポリエチレンパウチ(たとえばTyvekパウチ)に入れ、Sterrad 100NXシステム(Advanced Sterilization Products(カリフォルニア州、アーバイン))などの市販の滅菌室を用いて、製造業者の推奨するプロトコルに従ってプラズマ相過酸化水素に曝露した。プラズマ相過酸化水素蒸気滅菌後、試験方法B−IIについて記載した方法で機器のパクリタキセル含有量を評価してもよい。
(試験方法I−I、I−II、J−I、J−II:バルーン、ステント、およびステントグラフトの操作)
【0176】
バルーン、ステントまたはステントグラフトに対する操作の影響(たとえば一般的な製造加工やその後の埋込の際)は、たとえば、操作前後のバルーン、ステント、またはステントグラフト全体の重量、あるいは操作前後のバルーン、ステント、またはステントグラフトのパクリタキセル量を(操作方法B−IまたはB−IIを用いて)比較することによって評価できる。バルーンは試験方法I−Iに従って、または試験方法I−Iに続いて試験方法I−IIに従って操作される。ステントおよびステントグラフトは、試験方法J−Iに従って、または試験方法J−Iに続いて試験方法J−IIに従って操作される。
(試験方法I−I:バルーンの圧縮と拘束)
【0177】
自己拡張型ステントおよびステントグラフトの当業者に公知の手段を用いて、バルーンを外径が3.36mmになるまで径方向に圧縮する。圧縮後、バルーンを内径3.6mmの拘束用チューブ内に圧縮状態で拘束する。
(試験方法I−II:バルーンの展開)
【0178】
水を利用してバルーンを膨張させる展開システムを用いてバルーンを6気圧の圧力まで膨張させることでバルーンを展開する。圧力を1分間保持した後、圧力を解放し、バルーンを慎重に除去する。
(試験方法J−I:ステントおよびステントグラフトの圧縮と拘束)
【0179】
自己拡張型ステントおよびステントグラフトの当業者に公知の手段を用いて、ステントまたはステントグラフトを外径が3.0mmになるまで径方向に圧縮する。圧縮後、ステントまたはステントグラフトを内径3.0mmの拘束用チューブ内に圧縮状態で拘束する。
(試験方法J−II:ステントまたはステントグラフトの配備)
【0180】
取り付けた蝋引き糸を用いて拘束用チューブから引き抜くことでステントまたはステントグラフトを配備する。
(試験方法K:血液接触評価(血小板減少))
【0181】
本発明の医療機器、特にヘパリン塗膜を含む機器を、血液接触評価を行うことで分析し、抗血栓性を評価してもよい。
【0182】
医療機器がステントグラフトである場合に使用できる手順は以下の通りである。まずステントグラフトを0.15Mの生理食塩水で15分間洗浄して確実に完全に湿らせる。湿らせたステントグラフトを、全血を含むヘパリン化PVCチューブに入れ、循環ループ内で20rpmで回転させる(代表的な手順についてはEkdahl K. N., Advances in Experimental Medicine and Biology, 2013, 735, 257-270を参照のこと)。新鮮な血液の血小板とチューブから採取した血液の血小板を細胞計数器で数え、血小板の減少を測定する。血小板の減少が大きければ、機器(特に第一の塗膜層)の抗血栓性能が低いということである。反対に、血小板の減少が最小限であれば、機器は抗血栓性である(特に第一の塗膜層が抗血栓性である)ということである。
【0183】
陰性対照は機器を含まない空のヘパリン化PVCのループである。これは保温した血液が最小限の血小板減少しか示さないはずの抗血栓性対照を表す。陽性対照は機器を含まないヘパリン化されていないPVCの空のループである。これは大きな血小板減少が観察されるはずの血栓形成性対照を表す。実験と血液の質を保証するためにこれらの対照を含める。
(試験方法L:HCII結合活性によるヘパリン生物活性の評価(定量的ヘパリン機能))
【0184】
ヘパリン塗膜を含む本発明の医療機器の場合、機器のヘパリン生物活性は、国際公開第2009/064372号(Gore Enterprise Holdings, Inc.;参照により本明細書に組み込まれる)に従って、既知の量のヘパリン補因子II(HCII)に対するヘパリンの結合能力または性能をLarsen M. L.らによる"Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H-D-Phe-Pip-Arg-pNA (S-2238)." Thromb Res 13:285-288 (1978)、およびPasche B.らによる"A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions." Artif. Organs 1991; 15:281 -491に記載されている試験法を用いて測定することによって測定できる。結果は、機器表面の見かけの平方センチメートルあたりに結合したヘパリン補因子II(HCII)のピコモル数(pmol(HCII)/cm(機器表面))で表される。見かけの機器表面積には、表面が複数の層で被覆されている場合についても多孔質材料からなる機器の多孔度も考慮されない。機器の表面が多孔質である場合、これらの計算では多孔度の表面積に対する影響を考慮しない。たとえば、ヘパリンを基材材料に固定した円筒管状のePTFE血管移植片(多孔質材料で製造されたもの)の見かけの表面積(この管状移植片の内表面を含む)は、どのような円筒形状についても2πrL(rは移植片の内半径、Lは軸方向の長さ、πは円周率である)でそのまま計算される。
(試験方法M:ATIII結合活性によるヘパリン生物活性の評価(定量的ヘパリン機能))
【0185】
ヘパリン塗膜を含む本発明の医療機器の場合、機器のヘパリン生物活性は、アンチトロンビンIII(ATIII)に対するヘパリンの結合能力または性能をPasche,らによる"A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions"(Artif. Organs 1991; 15:281 -491)およびLarsen M. L.らによる"Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H-D-Phe-Pip-Arg-pNA"(S-2238)(Thromb. Res. 1978; 13:285-288)に記載されている試験法を用いて測定することによって測定できる。洗浄した試料を溶液中で過剰量のアンチトロンビンと共に保温してヘパリン表面のすべての有効なアンチトロンビン結合部位を飽和させる。非特異的に吸着したアンチトロンビンを塩溶液で洗い流す。続いて、高濃度のヘパリン溶液と共に保温することにより、表面に結合したヘパリンに特異的に結合したアンチトロンビンを遊離させる。最後に、ヘパリン表面から遊離した抗トロンビンを、発色性トロンビン基質に基づいてトロンビン阻害試験法で測定する。結果は、機器の見かけの平方センチメートルあたりに結合したアンチトロンビンIII(ATIII)のピコモル数(pmol(ATIII)/cm(機器表面))で表される。見かけの機器表面積は、表面が複数の層で被覆されている場合についても多孔質材料からなる機器の多孔度についても考慮しない。機器の表面が多孔質である場合、これらの計算では多孔度の表面積に対する影響を考慮しない。たとえば、ヘパリンを基材材料に固定した円筒管状のePTFE血管移植片(多孔質材料で製造されたもの)の見かけの表面積(この管状移植片の内表面を含む)は、どのような円筒形状についても2πrL(rは移植片の内半径、Lは軸方向の長さ、πは円周率である)でそのまま計算される。
(試験方法N:ヘパリン密度の評価(定量的ヘパリン結合))
【0186】
表面に固定化したヘパリンの定量は、ヘパリンを完全に分解させた後に溶液中に遊離した反応生成物を比色定量することによって実行できる。分解は、酸性条件下でヘパリン表面を過剰量の亜硝酸ナトリウムと反応させることによって達成される。分解組成物(主に二糖類)は、基本的にはSmith R.L.およびGilkerson E (1979), Anal Biochem 98, 478-480(参照により全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているとおりにMBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン塩酸塩)との反応で比色測定により定量される。
(試験方法O:染色法)
【0187】
本発明の機器をトルイジンブルー染色液(200mg/L、水溶液)に2分間浸漬した後に大量の水で洗い流すことによって、トルイジンブルー染色に供することができる。正味の負電荷を有する表面(たとえば固定化ヘパリン部分)で青色または紫色が観察される。
(試験方法P:表面生体適合性)
【0188】
本発明の埋込型医療機器の表面の生体適合性は、Lappegard, K. T 2008, J. Biomed. Mater. Res. Vol 87, 129-135(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法で評価できる。パクリタキセル塗膜の除去(試験方法B−IIによる)後の本発明のステントまたはステントグラフトの炎症反応を評価するのに用いることができる手順は以下の通りである。まずステントまたはステントグラフトを0.15Mの生理食塩水で15分間洗浄する。洗浄後のステントまたはステントグラフトを、全血を含むヘパリン化PVCチューブに入れ、循環ループ内で20rpmで回転させる(代表的な手順についてはEkdahl K. N., Advances in Experimental Medicine and Biology, 2013, 735, 257-270(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと)。保温後、血液を3220×g、4℃で15分間遠心分離する。血漿を分割して−70℃で凍結した後、サイトカイン類について分析する。多重サイトカイン試験法(Bio-Plex Human Cytokine 27-Plex Panel, Bio-Rad Laboratories(カリフォルニア州、ハーキュリーズ))でLappegardら(上記文献)が記載している方法に従って血漿試料を分析する。
【0189】
陰性対照は機器を含まない空のヘパリン化PVCのループである。これは保温した血液が炎症マーカーを示さないかごくわずかな量しか示さないはずの非炎症性対照を表す。陽性対照は機器を含まないヘパリン化されていないPVCの空のループである。これは多量の炎症マーカーが観察されるはずの炎症性対照を表す。実験と血液の質を保証するためにこれらの対照を含める。
(試験方法Q:振盪試験(塗膜の接着性))
【0190】
塗膜の機器への接着性は振盪試験で評価できる。塗布済み機器を15mLのFalcon試験管に入れ、試験管の底に30秒間打ちつけて試料にストレスを加える。結合の弱い塗膜は機器の表面から試験管に落ちる。試験管内の材料のパクリタキセル含有量をUPLC分析(評価方法の項)で評価する。塗膜の接着性を、機器の理論上のパクリタキセル添加量に対する振盪後に消失したパクリタキセルの割合で測定する。
(実施例1:本発明の塗膜の調製方法―ステントグラフト)
【0191】
ヘパリン生物活性表面を有するGORE(登録商標)VIABAHN(登録商標)内部人工器官(「材料」の項に記載)は、固定化ヘパリン塗膜層が事前に塗布されているステントグラフトである。この事前塗布済みステントグラフトを以下の一般的な手順で保護した。
【0192】
パクリタキセルとエチル尿素とカフェインまたはコハク酸またはグルタル酸とを適切にアセトン/水(80/20(v/v))に溶解して本発明の塗膜製剤(それぞれ、パクリタキセル、エチル尿素、カフェイン;パクリタキセル、エチル尿素、コハク酸;パクリタキセル、エチル尿素、グルタル酸を含む)を調製した。次いで、各塗膜液を以下のように事前塗布済み拡張型ステントグラフトに塗布した。ステントグラフトの近位端(近位端から最大5mmの部分に及ぶ)に(シリンジポンプを用いて、15μL/分の分注速度に設定し、各分注工程の後に針を1mm移動させながら)200rpmで回転させながら塗膜液を分注することによって塗布した。
【0193】
各製剤の成分を表1、具体的な方法を以下の実施例1a、1b、および1cに示す。
【0194】
実施例2dに記載のように、比較例としてパクリタキセルと尿素を含む塗膜液を調製した。
【0195】
すべての機器の塗布済み領域の最終パクリタキセル添加量は約6.37μg/mm(容量とパクリタキセル濃度がわかっている溶液を分注して推定)であった。
【表1】
(実施例1a:パクリタキセル(添加量100μg)、カフェイン、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―ステントグラフト)
【0196】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびカフェイン12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、シリンジポンプで(4×1.3)μLをステントグラフトの近位端に分注することによってステントグラフトに塗布した。その後、塗布済みステントグラフトを室温で一晩乾燥させた。
(実施例1b:パクリタキセル(添加量100μg)、コハク酸、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―ステントグラフト)
【0197】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびコハク酸12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、シリンジポンプで(4×1.3)μLをステントグラフトの近位端に分注することによってステントグラフトに塗布した。その後、塗布済みステントグラフトを室温で一晩乾燥させた。
(実施例1c:パクリタキセル(添加量100μg)、グルタル酸、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―ステントグラフト)
【0198】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびグルタル酸12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、シリンジポンプで(4×1.3)μLをステントグラフトの近位端に分注することによってステントグラフトに塗布した。その後、塗布済みステントグラフトを室温で一晩乾燥させた。
(実施例1d:パクリタキセル(添加量100μg)および尿素を含む対照塗膜―ステントグラフト)
【0199】
パクリタキセル80mgと尿素20mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル16mg/mL)を、シリンジポンプで(4×1.6)μLをステントグラフトの近位端に分注することによってステントグラフトに塗布した。その後、塗布済みステントグラフトを室温で一晩乾燥させた。
(実施例2:塗布済みステントグラフトのパクリタキセル含有量の分析)
【0200】
実施例1a〜1dによる塗布済みステントグラフトに塗布されたパクリタキセルの実際の量を確認するため、塗膜中のパクリタキセルの量を試験方法B−IIで決定した。ステントグラフトのパクリタキセルの量はそれぞれ、実施例1aでは84.3±4.7μg、実施例1bでは84.8±9.3μg、実施例1cでは74.1±8.9μg、実施例1dでは71μgであった。誤差を実施例1a、1b、および1cの2つの各データ点と平均値との差として報告する。平均値の結果を表2に示す。
【表2】
【0201】
異なる実施例のステントグラフトのパクリタキセル添加量にはごくわずかな差が見られた。ステントグラフトに堆積したパクリタキセルの小さな差異は塗布方法によって生じるものであり、塗膜製剤に依存するとは考えられない。
(実施例3:塗布済みステントグラフトのブタの組織(生体外)へのパクリタキセル取り込みの分析)
【0202】
実施例1a〜1dに従って作製したステントグラフトのパクリタキセルを表面から血管組織へ移行する能力を試験方法A−IIで試験した。実施例1bに従って塗布したステントグラフトを除き、各塗膜を2回(N=2)評価した。実施例1bのステントグラフトを実施例1a、1c、1dのステントグラフトの各評価のための内部基準としても用いた(したがってN=8)。ブタの組織のパクリタキセル量はそれぞれ、実施例1aでは143.5±7.5μg/g(組織)、実施例1bでは112.7±38.8μg/g、実施例1cでは145.0±43.0μg/g、実施例1dでは57.0±1.9μg/gであった。誤差を実施例1a、1c、および1dの2つの各データ点と平均値との差として報告する。実施例1bの誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表3に示し、「塗膜1bに対して正規化した平均値[%]」のデータを図1に要約する。
【表3】
【0203】
表3の「パクリタキセル取り込み量」の欄の結果から、本発明の1a、1b、1cのステントグラフトによる血管組織へのパクリタキセル取り込み量は治療に適したレベルであったことが明白である。結果を内部基準(実施例1bに従って塗布されたステントグラフト)に対して正規化し、表3の「塗膜1bに対して正規化した平均値」の欄に示すように、塗膜1b(100%)に対して正規化した平均値として計算した。これらの結果を図1に示す。図1から、ステントグラフト1bを内部基準として用いた場合、本発明のステントグラフト1a、1b、および1cは組織への取り込み量が対照ステントグラフト1dに比べて高かったことが明白である。
(実施例4:試験方法Aの後の塗布済みステントグラフトのパクリタキセル含有量の分析)
【0204】
試験方法Aで表面から血管組織へパクリタキセルを移行する能力を事前に試験したステントグラフト(すなわち実施例3のステントグラフト)を試験B−IIで分析し、機器に残留しているパクリタキセルの量を決定した。ステントグラフトのパクリタキセルの量はそれぞれ、実施例1aでは49.5±7.0μg、実施例1bでは53.1±5.0μg、実施例1cでは50.0±4.9μg、実施例1dでは42.4±7.8μgであった。誤差を2つの各データ点と平均値との差として報告する。結果を表4に示す。
【表4】
【0205】
本発明のステントグラフト(1a、1b、および1c)のパクリタキセル含有量は、試験方法Aの後、対照ステントグラフト1dに比べて高いことがわかった。これらの結果を実施例3の表3のデータ(パクリタキセル取り込み量)と併せて考慮すると、興味深いことに本発明のステントグラフトは、パクリタキセル取り込み量がより低く使用済み機器に残留するパクリタキセル含有量もより低かった対照1dに比べて、血管組織へのパクリタキセル取り込み量がより高く、さらには使用済みの機器に残留するパクリタキセル含有量もより高かった。このことは、本発明の1a、1b、および1cの機器が組織へのパクリタキセル取り込みに関して対照1dに比べて効率的が良いことを示す。
(実施例5:本発明の塗膜と共に使用するためのePTFE被覆バルーンの構成)
【0206】
以下の典型的な特性を持つ延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料を得た。すなわち、厚みは38.1ミクロン、幅は2.7cm、質量/面積は8.73g/m、長手方向(すなわち「機械方向)の基材引張強さ(MTS)は283.5MPa、横方向のMTSは11.0MPa、長手方向の破断力は0.112kgf/mm、IPA泡立ち点は9.93kPaであった。
【0207】
1.7mm×170mmのステンレス鋼マンドレルを入手し、上記ePTFE材料の長さを160mmに切断した。このePTFE片をマンドレルの周りに長手方向に(すなわち「タバコのように」)約5回巻いた。ePTFE片の機械方向はマンドレルの長さに平行にした。
【0208】
製造を補助するため別の種類のePTFE材料を入手した。このePTFEは以下の典型的な特性を有していた。すなわち、厚みは8.9ミクロン、幅は24mm、質量/面積は2.43g/m、長手方向のMTSは661.9MPa、横方向のMTSは9.9MPa、IPA泡立ち点は4.83kPaであった。
【0209】
この第二のePTFE材料を、第一のePTFE巻きチューブの上から第一の斜め方向に45度の傾斜角度で、先に巻いたチューブの一方の端からもう一方の端まで50%重なるように螺旋状に巻いた後、反対の斜め方向に45度の傾斜角度で、下に巻かれているePTFEチューブの端から端まで巻いた。これにより約4層の上被覆を形成した。
【0210】
マンドレルとePTFE被覆を380℃で3分間熱処理し、室温まで降温させた。螺旋状のePTFE上被覆を除去し、処分した。
【0211】
内径2.16mm、肉厚0.038mmのナイロンチューブを入手した。第一のePTFE材料の巻きチューブをマンドレルに巻いたまま長さ44mmに切断し、マンドレルから除去した。先細のステンレス鋼マンドレルを用いて、ePTFEチューブの内径をナイロンチューブに合うように広げた。次いでePTFEチューブをナイロンチューブの上に同径状に配置した。
【0212】
0.89mmのガイドワイヤルーメンを有する5mm×40mmの長さのナイロンバルーンカテーテルを入手した(Bavaria Medizin Technologie、型番号BMT−035、商品番号08GL−504A)。0.89mmのステンレス鋼マンドレルをバルーンカテーテルの遠位のガイドワイヤルーメンに挿入し、カテーテルのうちバルーンに近接した領域を補強した。バルーンを2気圧に膨張させた。部分的に膨張したバルーンを、米国特許第7,049,380号および第8,048,440号(Gore Enterprise Holdings, Inc.;参照により本明細書に組み込まれる)に教示されているFluorinert FC-72(3M(ミネソタ州、セントポール))および熱可塑性フッ素エラストマー共重合体テトラフルオロエチレン/ペルフルオロメチルビニルエーテル(TFE/PMVE)を含む溶液に手で浸漬した。
【0213】
バルーンを溶液中に約1秒間保持し、取り出して静かにたたいて余分な溶液を除去した。塗布済みバルーンを15秒間乾燥させた。手で浸漬するこの塗布工程を3回繰り返し、バルーンに3つの塗膜を作製した。次いでカテーテル膨張ポートから空気を抜いてバルーンをおよそ元の収縮時の直径までしぼませた。
【0214】
上記のナイロンチューブとePTFEチューブの組立体を、再収縮した塗布済みバルーンに同径状に合わせてバルーンカテーテルの放射線不透過性マーカーバンドの中央に置いた。ナイロンチューブを手で除去し、ePTFE巻きチューブを所定の位置に保持した。バルーンを約2〜3気圧に30秒間膨張させた。これにより、ePTFE巻きチューブの内壁とナイロンバルーンのTFE/PMVE塗膜との接着結合がなされた。次いでバルーンをおよそ元の収縮時の寸法までしぼませた。
(実施例6:本発明の塗膜の調製方法―バルーン)
【0215】
ナイロン製とePTFE製の2種類のバルーンを用いた。バルーンに以下の一般的な手順で保護膜を塗布した。
【0216】
パクリタキセルとエチル尿素とカフェインまたはコハク酸またはグルタル酸とを適切にアセトン/水(80/20(v/v))に溶解して本発明の塗膜製剤(それぞれ、パクリタキセル、エチル尿素、カフェイン;パクリタキセル、エチル尿素、コハク酸;パクリタキセル、エチル尿素、グルタル酸を含む)を調製した。膨張した状態でバルーン(直径5mm)に(バルーンを手で動かし回転させながらピペットで)塗膜液を分注することによって塗布した(機器全体(40mm)を覆うように)。
【0217】
各製剤の成分を表5、具体的な方法を以下の実施例6a、6b、および6cに示す。
【0218】
比較例として、パクリタキセルと尿素を含む塗膜液を実施例6dに記載のように調製した。
ナイロンバルーンの塗布済み領域の最終パクリタキセル添加量は約4.0μg/mmであった。
ePTFEバルーンの塗布済み領域の最終パクリタキセル添加量は約3.2μg/mmであった。
【表5】
(実施例6a:パクリタキセル(添加量2.0mgまたは2.5mg)、カフェイン、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―バルーン)
【0219】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびカフェイン12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、ピペットで105μLまたは131μL(所望の添加量による)をバルーンに分注することによってバルーンに塗布した。その後、塗布済みバルーンを室温で一晩乾燥させた。
(実施例6b:パクリタキセル(添加量2.0mgまたは2.5mg)、コハク酸、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―バルーン)
【0220】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびコハク酸12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、ピペットで105μLまたは131μL(所望の添加量による)をバルーンに分注することによってステントグラフトに塗布した。その後、塗布済みバルーンを室温で一晩乾燥させた。
(実施例6c:パクリタキセル(添加量2.0mgまたは2.5mg)、グルタル酸、およびエチル尿素を含む本発明の塗膜―バルーン
【0221】
パクリタキセル95mg、エチル尿素12mg、およびグルタル酸12mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル19mg/mL)を、ピペットで105μLまたは131μL(所望の添加量による)をバルーンに分注することによってバルーンに塗布した。その後、塗布済みバルーンを室温で一晩乾燥させた。
(実施例6d:パクリタキセル(添加量2.5mg)および尿素を含む対照塗膜―バルーン)
パクリタキセル80mgおよび尿素20mgをガラス製バイアルに加えた。アセトン(4mL)と水(1mL)の混合物を添加して溶液を調製し、これを室温で撹拌しながら溶解させた。一般的な手順の項で先に述べたように、得られた塗膜液(パクリタキセル16mg/mL)を、ピペットで156μLをバルーンに分注することによってバルーンに塗布した。その後、塗布済みバルーンを室温で一晩乾燥させた。
(実施例7:塗布済みバルーンのパクリタキセル含有量の分析)
【0222】
実施例6a〜6dによる塗布済みバルーンに塗布されたパクリタキセルの実際の量を確認するため、塗膜中のパクリタキセルの量を試験方法B−IIで決定した。バルーンに見られたパクリタキセルの含有量は、ナイロンバルーンでは2.2〜2.4mg、ePTFEバルーンでは1.9〜2.2mgの範囲であった。結果を表5に示す。MedtronicがIN.PACT Admiral Drug-Coated Balloonの商標名で販売している市販のバルーンも評価した。理論上の添加量は不明であるが、測定値は2.46±0.05μgであった。誤差を2つの各データ点と平均値との差として報告する。
【表6】
【0223】
表6の結果は実施例6a〜6cの塗膜製剤が様々な材料に塗布できることを示す。
(実施例8:塗布済みバルーンのブタの組織(生体外)へのパクリタキセル取り込みの分析)
(ナイロンバルーン)
【0224】
実施例6a〜6dに従って作製したナイロンバルーンのパクリタキセルを表面から血管組織へ移行する能力を試験方法A−Iに従って生体外で試験した。実施例6bに従って塗布したバルーンを除き、各塗膜を2回(N=2)評価した。実施例6bのバルーンを実施例6a、6c、6dのステントグラフトの各評価のための内部基準としても用いた(したがってN=8)。ブタの組織に見られたパクリタキセル量はそれぞれ、実施例6aでは201±67μg/g(組織)、実施例6bでは343±140μg/g、実施例6cでは389±225μg/g、実施例6dでは282±36μg/gであった。誤差を実施例6a、6c、および6dの2つの各データ点と平均値との差として報告する。実施例6bの誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表7に示し、「塗膜6bに対して正規化した平均値[%]」のデータを図2に要約する。
【表7】
【0225】
表7の「パクリタキセル取り込み量」の欄の結果から、本発明の6a、6b、6cのナイロンバルーンによる血管組織へのパクリタキセル取り込み量は治療に適したレベルであったことが明白である。結果を内部基準(実施例6bに従って塗布されたバルーン)に対して正規化し、表7の「塗膜6bに対して正規化した平均値」の欄に示すように、塗膜6b(100%)に対して正規化した平均値として計算した。これらの結果を図2に示す。図2から、バルーン6bを内部基準として用いた場合、本発明のバルーン6a、6b、および6cは組織への取り込み量が対照ナイロンバルーン6dに比べて高かったことが明白である。
(ePTFEバルーン)
【0226】
実施例6a〜6dに従って作製したePTFEバルーンのパクリタキセルを表面から血管組織へ移行する能力を試験方法A−Iに従って生体外で試験した。各塗膜を2回(N=3)評価した。ブタの組織に見られたパクリタキセル量はそれぞれ、実施例6aでは377±110μg/g(組織)、実施例6bでは211±66μg/g、実施例6cでは242±76μg/gであった。誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表8に示す。
【表8】
【0227】
表8からわかるように、塗布済みPTFEバルーン6a〜6cの場合、パクリタキセルは埋込型機器から血管壁へ治療に適したレベルで移動できる。
(実施例9:試験方法Aの後の塗布済みバルーンのパクリタキセル含有量の分析)
【0228】
試験方法Aで表面から血管組織へパクリタキセルを移行する能力を事前に試験したナイロンバルーンおよびePTFEバルーン(すなわち実施例8のバルーン)を試験B−IIで分析し、機器に残留しているパクリタキセルの量を決定した。
【0229】
ナイロンバルーンの場合、確認されたパクリタキセルの量はそれぞれ、実施例6aでは355.7±139.7μg、実施例6bでは437.2±177.9μg、実施例6cでは558.5±24.2μg、実施例6dでは525.4±37.5μgであった。実施例6a、6c、6dについては誤差を2つの各データ点と平均値との差として報告する。実施例6bの誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表9に示す。
【0230】
ePTFEバルーンの場合、確認されたパクリタキセルの量はそれぞれ、実施例6aでは1000±91.1μg、実施例6bでは1011±55.1μg、実施例6cでは1167±79.9μgであった。誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表9に示す。
【表9】
【0231】
表9のデータから、3種類の塗布済みePTFEバルーン(6a〜6c、ePTFE)はナイロンバルーンに比べてより高いレベルのパクリタキセルを試験Aの生体外分析の後に保持していたことがわかる。
(実施例10:ブタの組織(生体内)への塗布済みバルーンのパクリタキセル取り込みの1日分析)
【0232】
実施例6a〜6cに従って作製した塗布済みePTFEバルーンを試験方法Eに従ってエチレンオキシドで滅菌し、試験方法Dでその表面から血管組織へパクリタキセルを移行する能力を生体内で試験した。1日後、血管の治療部の組織を採取し、UPLC(試験方法の項に記載)分析でパクリタキセル含有量を評価した。比較例として、Medtronic/InvatecがIN.PACT Admiral Drug-Coated Balloonの名前でパクリタキセルと尿素を含む塗膜を有する「パクリタキセル溶出性」バルーンとして販売している市販のバルーンも試験した。生体内試験によって組織で確認されたパクリタキセル量はそれぞれ、実施例6aでは195.5±127.0μg/g(組織)、実施例6bでは170.3±204.2μg/g、実施例6cでは171.7±127.6μg/gであった。IN.PACT Admiralバルーンでは、組織で確認されたパクリタキセル量は29.9±32.2μg/gであった。誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表10に示し、パクリタキセル取り込み量のデータを図3に要約する。
【0233】
生体内試験後のバルーンで確認されたパクリタキセル量はそれぞれ、実施例6aでは42.4±1.6μg、実施例6bでは44.3±3.3μg、実施例6cでは42.6±4.5μgであった。誤差は標準偏差として報告される。平均値の結果を表10に示す。
【表10】
【0234】
表10および図3から、パクリタキセルと尿素を含む塗膜を有する市販のバルーンは本発明(6a〜6c)の塗布済みバルーンに比べて1日後のパクリタキセルの取り込み量がより低かったことがわかる。
(実施例11:ブタの組織(生体内)への塗布済みバルーンのパクリタキセル取り込みの29日分析)
【0235】
実施例6a〜6cに従って作製した塗布済みePTFEバルーンを試験方法Eに従ってエチレンオキシドで滅菌し、試験方法Dでその表面から血管組織へパクリタキセルを移行する能力を生体内で試験した。29日後、血管の治療部の組織を採取し、UPLC(試験方法の項に記載)分析でパクリタキセル含有量を評価した。生体内試験によって組織で確認されたパクリタキセル量はそれぞれ、実施例6aでは3.6±1.8μg/g(組織)、実施例6bでは2.3±2.1μg/g、実施例6cでは2.9±1.7μg/gであった。誤差を2つの各データ点と平均値との差として報告する。平均値の結果を表11に示し、パクリタキセル取り込み量のデータを図4に要約する。
【表11】
【0236】
表11および図4の結果から、本発明の6a〜6cのバルーンは29日の間に治療に適したレベルのパクリタキセルを送達したことが明白である。
(実施例12:実施例6に従って作製したバルーンの塗膜の接着性試験分析)
【0237】
実施例6a〜6dに従って作製したバルーンの塗膜層の接着性を調べた。バルーンのパクリタキセル含有量を振盪試験(試験方法Qによる)の前後で比較する(試験方法B−IIに従って)ことによって接着性を試験した。ナイロンバルーンの場合、実施例6a〜6dのパクリタキセル消失量はそれぞれ、441±300μg、287±259μg、68.9±13.5μgであった。誤差を2つの各データ点と平均値との差として報告する。結果を表12および図5に要約する。ここではパクリタキセル消失の割合が低いほど接着性がよく耐久性の高い塗膜層であることを示す。
【0238】
ePTFEバルーンの場合、実施例6a、6b、6cのパクリタキセル消失量は、それぞれ107.3±9.2μg、121.2±23.7μg、631±6μg、697±92μgであった。誤差は標準偏差として報告される。結果を表12と図5に要約する。ここではパクリタキセル消失の割合が低いほど接着性がよく耐久性の高い塗膜層であることを示す。
【表12】
【0239】
これらの結果から、本発明(6a〜6c)のバルーンの塗膜は対照バルーン6dに比べて全体的により優れた接着性を示したことがわかる。ePTFEでできた本発明のバルーンはナイロンでできたバルーンに比べて優れた接着性を示した。
(実施例13:滅菌後の塗布済みバルーンのパクリタキセル分解生成物の分析)
【0240】
実施例6a、6b、6cに従って作製した塗布済みePTFEバルーンを試験方法Eに従ってエチレンオキシドで滅菌した後、評価方法に記載したように(「パクリタキセルの分解生成物」)UPLCでパクリタキセルの既知の分解生成物の存在について塗膜を分析した。結果を表13に示す。
【表13】
【0241】
いずれの塗膜も、滅菌後に有していた既知のパクリタキセル分解生成物は1%未満であり、このことは塗膜に処方されたパクリタキセルがエチレンオキシド滅菌に対して安定であることを示す。
(実施例14:医療機器に固定化ヘパリン塗膜を調製する方法)
【0242】
本発明の特定の実施形態では、医療機器はヘパリン(好適には固定化ヘパリン)の塗膜をさらに有する。ヘパリン層は、成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層を塗布する前に機器に塗布されるのが好ましい。以下に固定化ヘパリン塗膜の調製に関する非限定的な例を挙げる。
【0243】
塗布される医療機器の表面をイソプロピルアルコールおよび酸化剤で前処理(洗浄)する。次にその表面をLarmらの欧州特許第0086186号(B)および第495820号(B)に記載の方法で処理して硫酸化多糖類の層で終わる二重塗膜層を形成する。
【0244】
この二重塗膜層を、正電荷を持つポリアミン(ポリエチレンイミン(たとえば欧州特許第0495820号(B1)の例で用いられているもの))と負電荷を持つ硫酸化多糖類(硫酸デキストラン)を交互に吸着させることによって積層される。ポリエチレンイミンを水で希釈して原液を調製する(ポリエチレンイミン5gを20mLの精製水に添加した)。ポリアミンを二官能性アルデヒド(クロトンアルデヒド)と架橋する。ポリアミンと硫酸化多糖類の各対を1つの二重層と呼ぶ。機器の表面には4つの二重層が下塗りされ、最後の層はその後のヘパリン部分の固定化方法に依存する。
【0245】
欧州特許第0086186号(B)に記載の還元アミノ化によるヘパリン固定化:ヘパリンをジアゾ化により分解して末端(終点)の遊離アルデヒド基を形成し、この遊離アルデヒド基は次いでアルデヒドを介して埋込型医療機器の表面のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成する。シッフ塩基を還元によって第二級アミンリンカーに転化する。
【0246】
300mlの水にヘパリン(1g)を溶解した溶液を氷浴で0℃に冷却する。撹拌しながら亜硝酸ナトリウム(10mg)を添加した後、酢酸(2ml)を滴下する。この溶液を撹拌しながら0℃で2時間以上静置する。この反応混合物を蒸留水に対して透析し凍結乾燥することによって後処理してアルデヒド官能化ヘパリンを生成する。
【0247】
ヘパリン化される機器表面には上記の4つの二重層が下塗りされ、ポリエチレンイミン(たとえば欧州特許第0495820号(B1)の例で用いられているもの)の最終層で終わる。洗浄後、塗布する面を、終端のアルデヒドを官能化したヘパリン(2〜20mg/mL)とシアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.5mg/ml)をリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した溶液と共に室温で24時間保温する。ヘパリン化された表面を水で慎重に洗浄する。
【0248】
国際公開第2011/110684号に記載のチオエーテルリンカーによる固定化:チオール官能化ヘパリンをマレイミド官能化ポリアミン表面と反応させる。
【0249】
チオール官能化ヘパリンを以下のように調製する。終端にアルデヒド基を有する亜硝酸分解ヘパリン(上記の方法で調製される)(5.00g、1.0mmol)、システアミン塩酸塩(0.57g、5.0mmol)、および塩化ナトリウム(0.6g)を精製水に溶解する。1MのNaOH(水溶液)および1MのHCl(水溶液)でpHを6.0に調整する。この溶液に3.1mlの5%NaCNBH(水溶液)(0.16g、2.5mmol)を添加し、反応物を室温で一晩撹拌する。1MのNaOH(水溶液)でpHを11.0に調整し、得られた生成物をSpectraPor透析膜(分画分子量1kD、平坦幅45mm)で精製水に対して3日間透析する。次いで反応混合物を濃縮し凍結乾燥してチオール官能化(還元末端のC1位)ヘパリン2.6gを白色の柔らかい粉末として得る。
【0250】
マレイミド官能化ポリエチレンイミン(たとえば上記の欧州特許第0495820号(B1)の例で用いられているもの)を以下のように調製する。4−マレイミド酪酸(0.50g、2.7mmol)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)(0.32g、2.7mmol)を3mLのジクロロメタンに溶解し、0℃で撹拌する。この反応混合物にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.56g、2.7mmol)を3mLのジクロロメタンに溶解した溶液を0℃でゆっくりと添加する。反応混合物を一晩撹拌し、副生成物を濾過により除去し、NHS活性化4−マレイミド酪酸を濃縮し減圧乾燥する。乾燥したNHS活性化4−マレイミド酪酸を30mLの精製水に溶解し、7.6mLのポリエチレンイミン原液と0℃で混合して室温で一晩反応させ、1%のマレイミド官能化ポリエチレンイミン溶液を得る。
【0251】
ヘパリン化される機器表面には上記の4つの二重層が下塗りされ、負電荷を持つ硫酸化多糖類の(硫酸デキストラン)の最終層で終わる。続いて、次の塗布工程では、1%のマレイミド官能化ポリエチレンイミンの溶液10mLを0.04M/0.04Mホウ酸塩/リン酸塩緩衝液(pH8.0)1000mLに溶解した溶液を用いる。室温で20分間かけてマレイミド官能化ポリエチレンイミンを硫酸塩表面に吸着させる。吸着後、水洗浄を2分間行い、過剰な重合体を洗い流す。チオール官能化ヘパリン500mgを1000mLの脱イオン水に溶解し、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩50mg、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)500mg、およびNaCl2.9gを添加した。1MのHCl(水溶液)でpHを3.7に調整する。
【0252】
チオール官能化ヘパリンの溶液とマレイミド官能化ポリエチレンイミン表面の反応を70℃で3時間行う。0.04M/0.04Mのホウ酸塩/リン酸塩緩衝液(pH8.0)を用いて共有結合していないヘパリンを10分間洗い流すことによって精製を行う。脱イオン水で2分間かけて最終水洗浄を行い、緩衝塩の残留物を洗い流す。工程全体で用いられる流量は100mL/分である。
(実施例15:固定化ヘパリン塗膜層をさらに含む本発明のステントグラフト―ヘパリン生物活性の分析)
【0253】
実施例1で述べたように、実施例1に従って作製した塗布済みステントグラフトには固定化ヘパリン層が事前塗布された状態で購入したステントグラフト機器を利用した。パクリタキセルとエチル尿素とカフェインまたはコハク酸またはグルタル酸の塗布(実施例1a、1b、および1cに記載のとおり)後、試験方法B−IIに従って機器を操作しパクリタキセル塗膜層を抽出した。得られた機器(固定化ヘパリン塗膜を含む)のヘパリン生物活性を試験方法Mに従って評価した。機器1a、1b、1cはすべて、治療に適したレベルにあたる>1pmol/cmのヘパリン生物活性を有することがわかった。
(態様)
(態様1)
表面に塗布された以下の成分i)、ii)、およびiii)を含む塗膜層を有する、治療薬を組織に送達する医療機器であって、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、
医療機器。
(態様2)
前記塗膜層は成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む、態様1に記載の医療機器。
(態様3)
成分iii)はコハク酸である、態様1または2に記載の医療機器。
(態様4)
成分iii)はグルタル酸である、態様1または2に記載の医療機器。
(態様5)
成分iii)はカフェインである、態様1または2に記載の医療機器。
(態様6)
成分ii)は以下の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩である、態様1〜5のいずれか一項に記載の医療機器:
【化1】
(式中、R、R、R、およびRは独立してH、または1個以上の−OH基で置換されていてもよいC1〜15アルキルであるか、
とRは−N(R)C(=O)N(R)−部分と共に、1個以上の−OH基で置換されていてもよい5員〜7員の環を形成する)。
(態様7)
およびRはHである、態様6に記載の医療機器。
(態様8)
およびRはHではない、態様6または7に記載の医療機器。
(態様9)
、R、およびRはHである、態様6または7に記載の医療機器。
(態様10)
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、またはオクチル尿素である、態様9に記載の医療機器。
(態様11)
成分ii)はエチル尿素である、態様10に記載の医療機器。
(態様12)
前記塗膜層に含まれる成分i)の割合は、10〜95重量%、たとえば40〜90重量%、50〜90重量%、60〜90重量%、70〜90重量%、または75〜85重量%である、態様1〜11のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様13)
前記塗膜層に含まれる成分ii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、態様1〜12のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様14)
前記塗膜層に含まれる成分iii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、態様1〜13のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様15)
前記塗膜層は成分i)および/または成分ii)および/または成分iii)を含む1種以上の溶液の蒸発によって形成される、態様1〜14のいずれか一項に記載の機器。
(態様16)
前記塗膜層は
成分i)、ii)、およびiii)の溶液の蒸発によって形成される、態様15に記載の機器。
(態様17)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様15に記載の医療機器。
(態様18)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様17に記載の医療機器。
(態様19)
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、
水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様16に記載の医療機器。
(態様20)
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様19に記載の医療機器。
(態様21)
前記塗膜層は、粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製し、次いでこれらの粉末形態を機器に塗布し、必要に応じてその後熱処理工程を行うことによって形成される、態様1〜14のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様22)
前記塗膜層は、成分i)、ii)、およびiii)を一緒にして粉末形態にし、次いでその粉末を機器に塗布し、必要に応じてその後に熱処理工程を行うことによって形成される、態様1〜14のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様23)
塗布される前記機器の表面の少なくとも一部は多孔質である、態様1〜22のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様24)
前記塗膜層はナイロンからなる前記機器の表面に塗布される、態様1〜22のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様25)
前記塗膜層は1種以上のフッ素重合体でできた前記機器の表面に塗布される、態様1〜23のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様26)
前記フッ素重合体はePTFEである、態様25に記載の医療機器。
(態様27)
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層と前記機器の表面の材料との間に接着層が介在する、態様1〜26のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様28)
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層に塗布された保護膜層を含む、態様1〜27のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様29)
バルーンカテーテルである、態様1〜28のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様30)
ステントである、態様1〜28のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様31)
ステントグラフトである、態様1〜28のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様32)
移植片である、態様1〜28のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様33)
成分i)、ii)、およびiii)を含む前記塗膜層は、試験方法Qによる振盪時に消失する成分i)が40%未満(たとえば、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満)であるような好適な接着性を有する、態様1〜32のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様34)
試験方法A−IまたはA−IIを適切に用いた場合に所与の時点の組織内のパクリタキセル濃度の測定値が組織(g)あたり少なくとも1μgの薬物量(μg/g)(たとえば少なくとも2.5μg/g、少なくとも5μg/g、少なくとも10μg/g、少なくとも50μg/g、または少なくとも100μg/g)となるパクリタキセル放出性と組織移行性を有する、態様1〜33のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様35)
成分i)は前記塗膜層に処方された場合、エチレンオキシド滅菌に対して安定である、態様1〜34のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様36)
成分i)の少なくとも80重量%(たとえば少なくとも85%、90%、または95%)は試験方法Eによる滅菌後も保持される、態様1〜35のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様37)
前記パクリタキセル含有塗膜層を上から塗布される固定化ヘパリンの塗膜層をさらに含む、態様1〜36のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様38)
試験方法Lによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)ヘパリン補因子(HCII)結合活性を有する、態様37に記載の医療機器。
(態様39)
試験方法Mによれば埋め込み前に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のアンチトロンビンIII(ATIII)結合活性を有する、態様37または38に記載の医療機器。
(態様40)
試験方法Lによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり1pmolを超える(たとえば少なくとも5pmol/cm)HCII結合活性を有する、態様37〜39のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様41)
試験方法Mによればパクリタキセルの溶出後に表面積(cm)あたり少なくとも1pmol(たとえば少なくとも5pmol/cm)のATIII結合活性を有する、態様37〜40のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様42)
態様1〜41のいずれか一項に記載の医療機器をヒトの体内の血管に一時的または永
久に挿入することを含む、狭窄または再狭窄を予防する方法。
(態様43)
ヒトの体内の血管の狭窄または再狭窄の予防または治療に用いるための態様1〜41のいずれか一項に記載の医療機器。
(態様44)
態様1〜14のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法であって、成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器に塗布する工程と、前記1種以上の溶液の溶媒を蒸発させる工程とを含む、方法。
(態様45)
成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、前記溶液を前記機器に塗布する工程と、前記溶媒を蒸発させる工程とを含む、態様44に記載の医療機器作製方法。
(態様46)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様44に記載の方法。
(態様47)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様46に記載の方法。
(態様48)
前記溶媒は、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される、態様45に記載の方法。
(態様49)
前記溶媒は水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される、態様48に記載の方法。
(態様50)
粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製する工程と、次いで前記粉末形態を機器に塗布する工程と、必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含む、態様1〜14のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法。
(態様51)
成分i)、ii)、およびiii)を一緒にして粉末形態にする工程と、次いでその粉末を機器に塗布する工程と、必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含む、態様1〜14のいずれか一項に記載の医療機器の作製方法。
(態様52)
以下の成分i)、ii)、およびiii)の混合物を含む組成物であって、
成分i)はパクリタキセルであり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、
組成物。
(態様53)
表面に塗布された塗膜の形態である、態様52に記載の組成物。
(態様54)
成分iii)はコハク酸である、態様52または53に記載の組成物。
(態様55)
成分iii)はグルタル酸である、態様52または53に記載の組成物。
(態様56)
成分iii)はカフェインである、態様52または53に記載の組成物。
(態様57)
成分ii)は以下の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩である、態様52〜56のいずれか一項に記載の組成物:
【化2】
(式中、R、R、R、およびRは独立してH、または1個以上の−OH基で置換されていてもよいC1〜15アルキルであるか、
とRは−N(R)C(=O)N(R)−部分と共に、1個以上の−OH基で置換されていてもよい5員〜7員の環を形成する)。
(態様58)
およびRはHである、態様57に記載の組成物。
(態様59)
およびRはHではない、態様57または58に記載の組成物。
(態様60)
、R、およびRはHである、態様57または58に記載の組成物。
(態様61)
成分ii)はメチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、ペンチル尿素、またはオクチル尿素である、態様60に記載の組成物。
(態様62)
成分ii)はエチル尿素である、態様61に記載の組成物。
(態様63)
前記成分i)、ii)、およびiii)の混合物に含まれる成分i)の割合は、10〜95重量%、たとえば40〜90重量%、50〜90重量%、60〜90重量%、70〜90重量%、または75〜85重量%である、態様52〜62のいずれか一項に記載の組成物。
(態様64)
前記成分i)、ii)、およびiii)の混合物に含まれる成分ii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、態様52〜63のいずれか一項に記載の組成物。
(態様65)
前記成分i)、ii)、およびiii)の混合物に含まれる成分iii)の割合は、1〜95重量%、たとえば5〜80重量%、5〜50重量%、5〜30重量%、5〜20重量%、または5〜15重量%である、態様52〜64のいずれか一項に記載の組成物。
(態様66)
前記塗膜層は成分i)、ii)、およびiii)の溶液の蒸発によって形成される、態様52〜65のいずれか一項に記載の組成物。
(態様67)
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様66に記載の組成物。
(態様68)
前記成分i)、ii)、およびiii)の溶液は、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様67に記載の組成物。
(態様69)
態様1〜68のいずれか一項に記載の滅菌済み医療機器または組成物。
(態様70)
エチレンオキシド滅菌された、態様69に記載の滅菌済み医療機器または組成物。
(態様71)
また、医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を1種以上の溶媒に溶解して1種以上の溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記1種以上の溶液のそれぞれを前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
(態様72)
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
a)成分i)、ii)、およびiii)を溶媒に溶解して溶液を調製する工程と、
b)工程a)の前記溶液を前記機器の表面に塗布する工程と、
c)前記溶媒を蒸発させる工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
(態様73)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様71に記載の方法。
(態様74)
前記1種以上の溶液は独立して、水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される溶媒の溶液である、態様73に記載の方法。
(態様75)
前記溶媒は水、アセトン、アルコール類(たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロピルアルコール)、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、EtOAc、ジオキサン、およびそれらの混合物から選択される、態様72に記載の方法。
(態様76)
前記溶媒は水、アセトン、およびそれらの混合物から選択される、態様75に記載の方法。
(態様77)
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
A)粉末形態の成分i)、ii)、およびiii)を調製する工程と、
B)工程A)の前記粉末形態を前記機器に塗布する工程と、
C)必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
(態様78)
医療機器の表面に塗膜層を調製する方法であって、
A)成分i)、ii)、およびiii)を一緒にし粉末形態にする工程と、
B)工程A)の前記粉末を前記機器に塗布する工程と、
C)必要に応じてその後熱処理工程を行う工程とを含み、
成分i)はパクリタキセルである治療薬であり、
成分ii)は尿素またはその医薬的に許容される塩、あるいは尿素誘導体またはその医薬的に許容される塩であり、
成分iii)はコハク酸、グルタル酸、またはカフェイン、あるいはそのいずれかの医薬的に許容される塩である、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7