特許第6643503号(P6643503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643503
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】融合に先立つ温度制御
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/295 20170101AFI20200130BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20200130BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20200130BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20200130BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20200130BHJP
【FI】
   B29C64/295
   B29C64/165
   B29C64/393
   B33Y10/00
   B33Y50/02
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-555282(P2018-555282)
(86)(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公表番号】特表2019-513596(P2019-513596A)
(43)【公表日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2016060698
(87)【国際公開番号】WO2017194122
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】ビラジョザナ,ザビエル
(72)【発明者】
【氏名】デ・ペナ,アレハンドロ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】プイガルド,アラメンディア,セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ラミレス,ムエラ,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,ルイス
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−043338(JP,A)
【文献】 特開2015−104837(JP,A)
【文献】 特開2015−182425(JP,A)
【文献】 特表2010−520091(JP,A)
【文献】 特表2017−509509(JP,A)
【文献】 特表2017−530881(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/108546(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料の第1の層の融合領域の温度及び非融合領域の温度を測定し、
該第1の層の該非融合領域の測定された温度に応じて造形材料の後続の層のための予熱設定を決定し、
造形材料の該後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定し、該後続の層のための該プリント命令により指示される該プリント剤の塗布が、前記第1の層の前記融合領域の前記測定された温度に応じて、融合に先立ち、予熱された造形材料の温度を所定の温度にするものであり、
造形材料の前記後続の層を形成し、
造形材料の該後続の層を前記予熱設定に従って予熱し、及び、
前記プリント命令に基づいて該後続の層上に前記プリント剤を選択的に塗布する
ことを含む方法。
【請求項2】
前記非融合領域の温度が、該非融合領域内の複数の位置で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の位置の各々について予熱設定が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予熱設定が、予熱ランプのデューティサイクルである、請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非融合領域の前記測定された温度が所定の予熱温度と比較され、及び前記後続の層のための前記予熱設定が、前記測定された温度と前記所定の予熱温度との差に基づいて決定される、請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記後続の層のためのプリント命令を決定することが、該後続の層のための所定のプリント命令を変更することを含む、請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記融合領域の温度が複数の位置で測定されて温度分布プロファイルが形成され、該温度分布プロファイルが予測される温度分布プロファイルと比較される、請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記後続の層のためのプリント命令を決定することが、融合に先立って前記予熱された造形材料の温度を前記所定の温度にするために前記後続の層にプリント剤を塗布するスケジュールを決定することを含む、請求項1ないし請求項7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記後続の層のためのプリント命令を決定することが、融合に先立って前記予熱された造形材料の温度を前記所定の温度にするようにプリント剤の種類又は組成を決定することを含む、請求項1ないし請求項7の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記測定された度又生成されるべきオブジェクトを表すオブジェクトモデルデータに基づいて前記融合領域及び前記非融合領域を識別することを更に含む、請求項1ないし請求項9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
造形材料の第1の層の融合領域の温度及び非融合領域の温度を測定するための温度センサと、
処理回路と
を備えた積層造形装置であって、
該処理回路が、
前記温度センサにより測定された前記第1の層の前記融合領域の温度及び前記非融合領域の温度に基づいて融合に先立って後続の層の造形材料の温度を制御する温度制御モジュールを備えており、
該温度制御モジュールが、前記第1の層の前記非融合領域の前記測定された温度に応じて前記後続の層の予熱設定を決定し、及び前記第1の層の前記融合領域の前記測定された温度に応じて融合に先立ち前記予熱された造形材料を所定の温度にするために前記後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定する、
積層造形装置。
【請求項12】
前記温度センサがサーマルイメージングカメラを含む、請求項11に記載の積層造形装置。
【請求項13】
命令を含むマシン読み取り可能媒体であって、該命令が、プロセッサにより実行された際に、
層毎の積層造形プロセスにおいて造形材料の後続の層のための予熱設定を決定し、及び、
該後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定する
ことを前記プロセッサに行わせるものであり、
前記予熱設定が、前の層の非融合領域の測定された温度に応じて決定され、及び前記プリント命令が、該前の層の融合領域の測定された温度に応じて、融合に先立ち予熱された造形材料の温度を所定の温度にするために決定される、
マシン読み取り可能媒体。
【請求項14】
前記プリント命令が、造形材料の前記後続の層上にプリント剤を塗布するスケジュールを含む、請求項13に記載のマシン読み取り可能媒体。
【請求項15】
プロセッサにより実行された際に、融合に先立ち前記層にわたって所望の温度分布を提供する最適なスケジュールを該プロセッサに取得させる命令を更に含む、請求項14に記載のマシン読み取り可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
積層造形技術は、造形材料の凝固を介して層毎に三次元オブジェクトを生成することが可能である。かかる技術の例では、造形材料は、層状の態様で供給され、凝固方法は、造形材料の複数の層を加熱して選択された領域で融解させることを含むことが可能である。他の技術では、化学凝固法又は結合材料といった他の凝固法を使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0002】
図1】プリント剤を塗布するためのプリント命令を決定する例示的な方法のフローチャートである。
図2a】例示的なサーマル/プリンティングマップの概略図である。
図2b】例示的なサーマル/プリンティングマップの概略図である。
図2c】例示的なサーマル/プリンティングマップの概略図である。
図2d】例示的なサーマル/プリンティングマップの概略図である。
図3】例示的な積層造形装置の簡略化された概略図である。
図4】マシン読み取り可能媒体に関連する例示的なプロセッサの簡略化された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0003】
非限定的な例を添付図面を参照して説明する。積層造形技術は、造形材料の凝固を介して三次元オブジェクトを生成することが可能である。実例によっては、造形材料は、粉末状の粒状材料、例えば、プラスチック、セラミック、又は金属の粉末とすることが可能である。生成されるオブジェクトの特性は、造形材料の種類及び使用される凝固機構の種類によって決まる。造形材料は、例えば、造形プラットフォーム上に堆積させ、及び、例えば製造チャンバ内で層毎に処理することが可能である。
【0004】
実例によっては、エネルギーの指向性の適用を介して、例えば、レーザー又は電子ビームを使用して、選択的な凝固が達成され、その結果として、造形材料のうち該指向性のエネルギーが適用された部分が凝固することになる。他の例では、少なくとも1つのプリント剤を造形材料に選択的に塗布することが可能である。例えば、合体剤(以下「融合剤」と称す)は、生成されるべき3次元オブジェクトのスライスを表すデータ(例えば、構造設計データから生成することが可能なもの)から導出された所定のパターンで、造形材料の層の複数の部分に選択的に分配することが可能である。合体剤は、エネルギー(例えば、熱)が層に加えられた際に、造形材料が合体(融合)し凝固して前記パターンに従って3次元オブジェクトのスライスを形成するような組成を有することが可能である。他の例では、合体は、他の態様で達成することが可能である。
【0005】
融合剤に加えて、実例によっては、プリント剤は、融合作用を低減させ又は増幅させるよう作用する融合変性剤(以下「詳細剤(detailing agent)」と称す)を含むことが可能である。例えば、詳細剤は、造形材料の融合を妨げるように入射エネルギーを反射することが可能である。詳細剤は、オブジェクトの表面仕上げを制御するために使用することが可能である。実例によっては、融合剤及び/又は詳細剤は、本書では、エージェント及び/又はプリント剤と称することが可能である。
【0006】
上述のように、積層造形システムは、構造設計データに基づいてオブジェクトを生成することが可能である。これは、例えば、コンピュータ支援設計(CAD)アプリケーションを使用して、生成されるべきオブジェクトの3次元モデルを設計者が生成することを含むことが可能である。該モデルは、オブジェクトの中実(solid)部分を定義することが可能である。積層造形システムを使用して前記モデルから3次元オブジェクトを生成するために、該モデルのデータを処理して該モデルの複数の平行な平面のスライスを生成することが可能である。各スライスは、積層造形システムにより凝固され又は合体されるべき造形材料のそれぞれの層の一部を定義することが可能である。
【0007】
図1は、積層造形方法とすることが可能な例示的な方法を示したものであり、該方法は、ブロック102で、造形材料の第1の層の融合領域の温度及び非融合領域の温度を測定することを含む。造形材料の第1の層は、造形プラットフォーム上に直接配設すること、又は少なくとも1つの先に形成された層上に重ねて配設することが可能である(実例によっては、該先に形成された層は、少なくとも1つのプリント剤を塗布することにより処理され、及びエネルギー源(例えば、加熱ランプ)からエネルギーが照射されたものであることが可能である)。
【0008】
実例によっては、造形材料の第1の層の表面上の複数の温度を測定して、温度分布プロファイルを形成することが可能である。例えば、造形材料の第1の層は、複数のピクセルと見なすことが可能であり、複数のピクセルの各々は、温度測定値と関連付けることが可能である。一例では、該複数のピクセルの各々は、約1〜2cmの長さとすることが可能であり、約30cm×30cmの造形プラットフォームを約32x32ピクセルのマトリクスへと分割することが可能であるが、より大きい又はより小さいピクセルを形成することが可能である。実例によっては、第1の層の温度は、その処理に続いて測定することが可能である。該温度は、任意の種類の1つ以上の温度センサを用いて測定することが可能である。実例によっては、該温度は、熱イメージング(thermal imaging)カメラ又は赤外線(IR)カメラを使用して測定することが可能である。融合領域及び非融合領域の位置は、例えば、オブジェクトモデルデータに基づいて決定することが可能であり、又は測定された温度から識別することが可能である。
【0009】
ブロック104は、第1の層の非融合領域の測定された温度に応じて、造形材料の後続の層の予熱設定を決定することを含む。ブロック104で決定された予熱設定は、第1の層の非融合領域の測定された温度に応じて該第1の層に適用された予熱設定から変更することが可能である。造形材料は、造形プラットフォーム上に配設された一連の予熱ランプを使用して予熱することが可能である。前記予熱設定は、造形材料の予熱温度を決定する。該予熱温度は、造形材料が融合しないように該造形材料の融合温度未満に設定される。しかし、造形材料を予熱することにより、造形材料を融合させるために該造形材料の温度を予熱温度から融合温度へと上昇させるために必要な追加のエネルギーが低減される。
【0010】
該一連の予熱ランプは、層内の造形材料が均質な温度になることを確実にするために、それぞれが同じ出力を出力するように一様に動作させることが可能である。予熱ランプにより出力される電力は、所望のレベルの予熱を提供するように設定されたパルス幅変調(PWM)を使用して制御することが可能である。このため、予熱設定は、予熱ランプのデューティサイクルとすることが可能である。したがって、実例によっては、造形材料の層を予熱することは、本書で説明するように少なくとも1つのエネルギー源でかかる層にエネルギーを一時的に加えることを含むことが可能である。実例によっては、予熱設定は、造形材料の温度を上昇させ又は低下させるようにPWMデューティサイクルを変更することによって予熱ランプの電力を調整するために使用することが可能である。例えば、第1の層の非融合領域の測定された温度が予想よりも高い場合には、該非融合領域の温度を低下させるためにデューティサイクルを低下させることが可能である。これにより、予熱ランプの出力が予想される出力と相関しない場合に非融合領域が不意に融合することが回避される。逆に、第1の層の非融合領域の測定された温度が予想よりも低い場合には、該非融合領域の温度を上昇させるためにデューティサイクルを増大させることが可能である。したがって、これは、後続の層における造形材料の融合を生じさせるのに必要なエネルギーを最小限にする。予想しない温度に対する非融合領域の測定された温度の差は、オブジェクトをプリントするのに要する時間中に生じる変化に起因するものとなり得る。例えば、周囲温度が変化し、又は予熱ランプの出力がその経年劣化により変化する可能性がある。予熱ランプは、測定された温度と予め設定された温度との比較に基づいて制御することが可能であり、及び、比例-積分-微分(PID)制御、機械学習アルゴリズム、比例制御などの適当な制御方法を使用して制御することが可能である。非融合領域の温度は、様々な位置で測定することが可能であり、及び複数の予熱ランプの各々の動作は、それら複数の予熱ランプの出力におけるオフセットを考慮して調整することが可能である。
【0011】
ブロック106は、造形材料の後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定することを含む。該プリント命令は、生成されるべきオブジェクトを表すオブジェクトモデルデータから導出することが可能である。かかるオブジェクトモデルデータは、例えば、コンピュータ支援設計(CAD)モデルを含むことが可能であり、及び/又は、STereoLithographic(STL)データファイルとすることが可能であり、及び、例えば、オブジェクトの「スライス」における(例えば、中実部分を識別する)材料分布を指定することが可能である。後続の層のためのプリント命令により指示されたプリント剤の塗布は、第1の層の融合領域の測定された温度に応じて融合に先立ち予熱された造形材料の温度を所定温度にするものとなる。実例によっては、造形材料に対するプリント剤の塗布は、プリント剤による対流熱伝達を介して造形材料を予熱温度未満に一時的に冷却することが可能である。融合段階の前にプリント剤が十分に塗布される場合、造形材料は予熱温度に戻ることが可能である。しかし、融合の直前にプリント剤が塗布される場合には、予熱温度に回復するのに十分な時間がない可能性がある。融合を達成するために必要なエネルギーは、造形材料の温度によって決まることが理解されよう。したがって、融合に先立ち温度の局所的な変化を提供するために、プリント剤の冷却効果を利用することが可能である。例えば、1つの層に対するプリント剤の一連の塗布は、融合に先立ち後続の層の表面上に所定の温度分布プロファイルを提供するように構成することが可能である。これは、ブロック102で、第1の層について測定された温度分布プロファイルの変動を相殺するために使用することが可能である。例えば、一連の予熱ランプが、おそらくは異常なランプに起因して、予想されるよりも熱い部分を生じさせた場合には、該部分が融合中に過熱される可能性がある。この問題は、所望のレベルの冷却を達成するために融合に先立ち適当な時点でプリント剤を塗布することにより該部分の造形材料の温度を低下させることにより相殺することが可能である。例えば、プリント剤は、回復のための十分な時間を有さないように塗布処理の最後近くで該部分に塗布することが可能である。又は、プリント剤塗布プロセスが十分に迅速である場合には、熱損失が生じるための十分な時間を与えるために塗布プロセスの開始時に該部分にプリント剤を塗布する必要がある場合がある。
【0012】
ブロック108は、造形材料の後続の層を形成することを含む。該造形材料の後続の層は、先に形成された第1の層の上に配設される。
【0013】
ブロック110は、ブロック104で決定された予熱設定に従って造形材料の後続の層を予熱することを含む。
【0014】
ブロック112は、ブロック106で決定されたプリント命令に基づいて後続の層上にプリント剤を選択的に塗布することを含む。
【0015】
プリント剤が後続の層に塗布された後、次いで、例えばエネルギー源を使用して、予熱された造形材料にエネルギーを加えて、該層の一部上で造形材料の温度を融合温度よりも高く上昇させて、融合領域及び非融合領域を形成するようにすることが可能である。これは、例えば加熱ランプを使用して、熱を造形材料の層に加えること、又は光、マイクロ波エネルギーなどを該層に照射することを含むことが可能である。かかる操作により形成された融合領域は、「部分領域」と呼ばれ、各層の部分領域は、形成されるべき3次元オブジェクトの断面に対応することが可能なものであることが理解されよう。
【0016】
実例によっては、例えば、処理されたエージェントと少なくとも部分的に融合した第1の層の上に、造形材料の後続の層を形成し、及び、例えば、該後続の層にプリント剤が塗布される前に、該後続の層の温度を測定することが可能である。
【0017】
プリント剤の塗布はまた、プリント剤の冷却効果を変化させるために、層の表面にわたって塗布されるプリント剤の量を変えるように制御することが可能である。これは、異なるエージェントを異なる比率で組み合わせることにより達成することが可能である。
【0018】
実例によっては、測定された温度は、モデル化された予想温度と比較される。これは、例えば、特定の領域又は層の測定された温度分布プロファイル(すなわちサーマルマップ)をモデル化された温度分布プロファイルと比較すること、又は空間的に整列されたその複数のピクセルを比較することを含むことが可能である。他の例では、温度条件を決定することは、1つの層上の少なくとも1つの位置又は領域の各々における温度を閾値温度と比較することを含むことが可能である。
【0019】
実例によっては、生成されるべきオブジェクトの複数の層に関連づけされ、各層毎にプリント剤の量及び/又は配置を指定する、当初の一組の命令が存在することが可能である。該プリント命令は、オブジェクト生成プロセスのサーマルモデルを使用して導出することが可能である。実際には、1つのサーマルモデルを考慮した場合であっても、造形材料の層の熱的な挙動は、例えば、使用される造形材料及び/又はプリント剤の熱特性の変化(例えば、造形材料は再利用される場合があり、その熱特性はその全寿命にわたって変化し得る)、環境条件の変化(周囲温度及び湿度を含む)、及び不完全なモデルなどの変化に起因して、該サーマルモデルから逸脱する可能性がある。したがって、当初の一組のプリント命令は、プリントされたオブジェクトの欠陥、例えば、脆さ、強度の低下、寸法精度の低下、及び/又は粗さの増大といった意図しない物理的特性、又はオブジェクト形成時の過熱/加熱不足による該オブジェクトの外観の変化を生じさせ得るものとなる。したがって、プリント剤を後続の層に塗布するための所定のプリント命令は、上述したように、第1の層の測定された温度に基づいて変更することが可能である。
【0020】
実例によっては、後続の層は、融合に次いで図1の第1の層として処理することが可能であり、この方法は、積層造形法で形成された複数の層の各々又はその少なくとも一部に関して実行することが可能である。
【0021】
図2aは、「サーマルマップ」200aとしての造形材料の層の表面にわたる温度測定の一例を示している。かかるマップは、複数の撮像(imaging)ピクセルを表すことが可能であり、その各ピクセルが温度測定値に関連づけられる。図2aでは、より高い温度はより暗い領域として示され、より低い温度はより明るい領域として示されている。
【0022】
図2aは、融合剤で処理され及び加熱ランプで加熱された造形材料の1つの層のサーマルマップ200aを示している。この例の目的のために、この層に形成されるオブジェクトは、角の丸い矩形断面202を含む。より暗い領域で示すように、造形材料の層は、該矩形の一部204上でより熱い。該層の融合後の温度は該矩形のいたる所で均一であり、及びそのより熱い部分204は予想される温度からの逸脱であることが予想される。該より熱い部分204は、予熱ランプ、エネルギー源、もしくは造形材料の不一致、又はその他の何らかの理由といった、何らかの異常の結果として生じ得るものである。周囲の融合していない造形材料の温度は、融合領域の温度よりも低い。実際には、より大きな温度変化が存在し得るが、必要以上に複雑になるのを回避すべく図示していないことに留意されたい。
【0023】
図2bは、図2aに示す第1の層の上に形成された造形材料の後続の層上への融合剤の塗布を示すプリンティングマップを示している。この図では、より暗い領域は、より高い濃度の融合剤を示しているが、該融合剤は、より低いピクセル/ボクセル当たりの体積で塗布され、より明るい領域は、より低い濃度の融合剤を示しているが、該融合剤は、より高いピクセル/ボクセル当たりの体積で塗布される。図示するように、図2aに示すより熱い部分204の上に、融合剤がより低い濃度でより多くの量で塗布される。融合剤の量が増加すると、予熱された造形材料及びその下方の融合層から散逸される熱が増大する。その結果として、融合剤の塗布による冷却効果は、熱い部分204上でオブジェクトの残りの部分よりも大きくなるよう構成される。したがって、融合剤の塗布は、局所的な温度変化を打ち消すよう構成される。融合剤の体積は、層の表面にわたって異なるが、濃度の変化は、層の後続の融合時に融合剤の効果が一貫していることを確実にする。融合剤は、同じ領域に詳細剤を塗布することによってもその濃度を下げることが可能である。詳細剤の添加は、融合中のエネルギーの吸収に影響しないが、更なる量の詳細剤は、プリント剤の冷却効果を高めるものとなる。したがって、融合剤の濃度は、「融合剤」対「詳細剤」の比率を変更することにより調整することが可能であり、それらエージェントは別個の塗布ステップで塗布することが可能である。特に、後続の層の特定の領域については、融合剤の第1の体積(代替的に、流量、質量、濃度等として表すことが可能)及び詳細剤の第2の体積は、測定された温度に少なくとも部分的に基づいて決定することが可能である。融合剤及び詳細剤の量は、後続の層の融合に先立ち所定の温度に関して決定することが可能である。したがって、上述した後続の層にプリント剤を選択的に塗布するブロック112は、第1の体積の融合剤を後続の層の特定の領域に選択的に塗布し、及び第2の体積の詳細剤を該特定の領域に選択的に塗布することを含むことが可能である。
【0024】
図2cは、融合剤の塗布後であって融合が開始される直前の造形材料の後続の層のサーマルマップ200cを示している。図示のように、融合剤の冷却効果は、以前に一層熱かった部分204aが周囲の造形材料の温度よりも低く冷却されて一層低温の部分204cを形成する、といったものである。
【0025】
図2dは、後続の層の融合後のサーマルマップ200dを示している。図示のように、局所的に一層低温の部分204cは、融合中にこの領域にわたる増大した熱入力を相殺して、融合した領域が均一な温度を有するようにする。
【0026】
既述のように、プリント剤の塗布は、融合に先立って局所的な温度変化を提供するために、他の方法で制御することが可能である。また、結果的に得られる温度は、融合領域にわたって均一である必要はなく、様々な温度プロファイルを選択することが可能である。
【0027】
図3は、温度センサ310及び処理回路312を含む積層造形装置300の一例である。造形プラットフォームは、(例えば、台車(trolley)の一部として提供される)取り外し可能な構成要素とすることが可能であり、及び造形材料の層を支持するために積層造形装置300を使用して提供することが可能である。また、層毎の積層造形プロセスで造形プラットフォーム上に一連の造形材料の層を形成するために、造形材料分配器302を配設することが可能である。例えば、造形材料分配器は、造形プラットフォーム314にわたって造形材料を広げるためのローラを備えることが可能である。実例によっては、造形プラットフォーム314が提供される取り外し可能な構成要素は、造形材料の供給源を備えることが可能であり、及び造形材料を上昇させて準備し、造形材料分配器が造形プラットフォーム314上に造形材料を広げることができるようにするための機構を備えることが可能である。
【0028】
温度センサ310は、サーマルカメラ、サーマルイメージングアレイ等とすることが可能であり、融合領域の温度及び造形材料の第1の層の非融合領域の温度を測定する。実例によっては、温度センサ310は、造形材料の層上の複数の位置(例えば、複数のサーマルイメージングピクセル)で温度を測定することが可能である。該複数の位置は、融合領域内の複数の位置、及び非融合領域内の複数の位置を含むことが可能である。
【0029】
処理回路312は、温度制御モジュール316を含む。温度制御モジュール316は、温度センサ310により測定された第1の層の融合領域の温度及び非融合領域の温度に基づいて融合に先立ち後続の層の造形材料の温度を制御するように構成される。温度制御モジュール316は、第1の層の非融合領域の測定された温度に応じて後続の層のための予熱設定を決定し、及び第1の層の融合領域の測定された温度に応じて融合に先立ち予熱された造形材料を所定の温度にするために後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定する。
【0030】
温度制御モジュール316により決定されたプリント命令は、プリント剤塗布部(図示せず)を制御するために使用することが可能である。プリント剤塗布部は、プリント命令に応じて、造形プラットフォーム上の造形材料の層上にプリント剤を選択的にプリントするように制御することが可能である。例えば、プリント剤塗布部は、インクジェットプリントヘッド等のプリントヘッドを備えることが可能であり、及び、例えば造形プラットフォーム上の1回以上のパスで、液体としての1つ以上のプリント剤を塗布することが可能である。
【0031】
温度制御モジュール316により決定された予熱設定は、予熱装置(図示せず)を制御するために使用することが可能である。予熱装置は、該予熱設定に従って融合温度未満の予熱温度に造形材料の層を予熱する。例えば、予熱装置は、造形材料を予熱温度に加熱するために造形プラットフォーム314上に配設された一連の予熱ランプから構成することが可能である。該予熱装置は更に、加熱ランプとすることが可能なエネルギー源を更に備えることが可能であり、該エネルギー源は、融合領域及び非融合領域を形成するように、予熱された造形材料の温度をその層の一部で融合温度を超えて上昇させる。
【0032】
温度制御モジュール316は、造形材料が予熱温度に維持されるように予熱装置を制御することが可能である。特に、温度制御モジュール316は、造形材料の不意の融合を回避するために、造形材料の温度が予熱温度を超えないことを確実にすることが可能である。温度制御モジュール316は、融合後の融合領域の温度プロファイルを補正するために、融合に先立ち造形材料の温度をプリント剤の塗布を介して調整することが可能である。
【0033】
実例によっては、温度制御モジュール316は、融合領域及び非融合領域の測定された温度に応じて、所定の制御データ(すなわち、予熱設定及びプリント命令)を変更するよう構成することが可能である。
【0034】
温度センサ310は、例えば、生成されたオブジェクトを冷却すべきときを決定するために、装置の他の態様を制御する際に使用することも可能である。温度センサ310は更に、積層造形装置の他の部品の温度、例えば、インク溜め(spittoon)、ウェブワイプ(web wipe)、又は液滴検出器の温度を測定するために使用することが可能である。
【0035】
図4は、プロセッサ402に関連するマシン読み取り可能媒体400の一例である。マシン読み取り可能媒体400は、プロセッサ402により実行された際に、プロセッサ402に、層毎の積層造形プロセスにおいて造形材料の後続の層の予熱設定を決定させ、及び該後続の層にプリント剤を塗布するためのプリント命令を決定させる。予熱設定は、前の層の非融合領域の測定された温度に応じて決定され、及び、前の層の融合領域の測定された温度に応じて、融合に先立ち、予熱された造形材料の温度を所定の温度にするために、プリント命令が決定される。
【0036】
実例によっては、プリント命令(及び随意選択的に予熱設定)は、形成されるオブジェクトの特定の層のために導出されたプリント命令の一部を形成することが可能である。制御データ(すなわち、予熱設定及び/又はプリント命令)を決定することは、所定の制御データを変更することを含むことが可能である。該所定の制御データは、形成されるオブジェクトの予測サーマルモデルに基づいて生成することが可能である。測定された温度を予測される温度と比較し、該予測される温度からの偏差を使用して前記温度制御データを調整することが可能である。
【0037】
予熱設定は、一連の予熱ランプのための設定とすることが可能である。特に、予熱設定は、デューティサイクル設定とすることが可能である。プリント命令は、プリント剤が融合に先立って塗布される順序をスケジューリングするタイミング情報を含むことが可能である。プリント命令はまた、プリント剤自体に関する情報、例えば、体積(すなわち、液滴サイズ/流量)、濃度、種類などを含むことが可能である。プリント命令は、融合後に所望の温度を提供するために、融合に先立って領域の温度を変化させるために使用することが可能である。
【0038】
プリント命令の修正がプリント剤の塗布のスケジューリングに作用する場合、層の他の領域に与える影響も考慮する必要がある。このため、マシン読み取り可能媒体400は、層の他の領域に対する影響を最小限に抑えつつ、該層の一部にわたって所定の局所的な温度を達成する最適解を求める命令を含むことが可能である。
【0039】
実例によっては、制御データの調整は、閾値に基づく方法、又は比例-積分-微分(PID)制御に基づく計算といった一層複雑な方法を使用して、又は統計的手法に従うことにより(例えば、機械学習に基づいて)、決定することが可能である。
【0040】
本開示における例は、方法、システム、又はマシン読み取り可能命令(例えば、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアなどの任意の組み合わせ)として提供することが可能である。かかるマシン読み取り可能命令は、コンピュータ読み取り可能プログラムコードを有するコンピュータ読み取り可能記憶媒体(ディスク記憶装置、CD-ROM、光学記憶装置などを含むが、これらには限定されない)に含まれていることが可能である。
【0041】
本開示は、本開示の実例による方法、装置、及びシステムのフローチャート及び/又はブロック図を参照して説明した。上記で説明したフローチャートは、特定の実行順序を示しているが、その実行順序は図示された順序とは異なることが可能である。1つのフローチャートに関連して説明した複数のブロックは、別のフローチャートのブロックと組み合わせることが可能である。該フローチャート及び/又はブロック図における各フロー及び/又はブロック、並びに該フローチャート及び/又はブロック図における複数のフロー及び/又はブロックの組み合わせは、マシン読み取り可能命令により実施することが可能であることを理解されたい。
【0042】
マシン読み取り可能命令は、例えば、上記で説明し図示した機能を実現するために、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、組み込みプロセッサ、又は他のプログラマブルデータ処理装置のプロセッサにより実行することが可能である。特に、プロセッサ又は処理装置が、マシン読み取り可能命令を実行することが可能である。このため、装置の機能モジュールは、メモリに格納されたマシン読み取り可能命令を実行するプロセッサ、又は論理回路に埋め込まれた命令に従って動作するプロセッサによって実施することが可能である。「プロセッサ」という用語は、CPU、処理ユニット、ASIC、論理ユニット、又はプログラマブルゲートアレイなどを含むよう広く解釈されるべきである。方法及び機能モジュールは、その全てを単一のプロセッサにより実行することが可能であり、又は複数のプロセッサに分割することが可能である。
【0043】
かかるマシン読み取り可能命令はまた、コンピュータその他のプログラム可能なデータ処理装置を特定のモードで動作するよう導くことができるコンピュータ読み取り可能記憶装置に格納することが可能である。
【0044】
また、マシン読み取り可能命令は、コンピュータその他のプログラム可能なデータ処理装置にロードして、該コンピュータその他のプログラム可能なデータ処理装置が一連の動作を実行してコンピュータにより実施される処理を生成するようにし、これにより該コンピュータその他のプログラム可能なデータ処理装置で実行された命令が、複数のフローチャートにおける1つ以上のフロー及び/又は複数のブロック図における1つ以上のブロックにより指定される機能を実現することが可能である。
【0045】
更に、本書における教示は、コンピュータソフトウェア製品という形で実施することが可能であり、該コンピュータソフトウェア製品は、記憶媒体に格納され、及びコンピュータ装置に本開示の実例に記載する方法を実施させるための複数の命令を含む。
【0046】
方法、装置、及びそれらに関連する態様を特定の例に関して説明したが、本開示の思想から逸脱することなく、様々な修正、変更、省略及び置換を行うことが可能である。したがって、方法、装置、及びそれらに関連する態様は、特許請求の範囲及びその等価物の範囲により限定されることが意図されている。上述した例は、本書に記載されているものを限定するものではなく、当業者であれば特許請求の範囲から逸脱することなく多くの代替的な実例を設計することが可能であることに留意されたい。一例に関して説明した複数の特徴は、他の例の複数の特徴と組み合わせることが可能である。
【0047】
「〜を含む」なる記載は、請求項に記載された要素以外の要素の存在を排除するものではなく、「1つの」なる記載は複数を除外するものではなく、及び単一のプロセッサ又はその他の装置が、特許請求の範囲に記載する複数の装置の機能を実施することが可能である。
【0048】
従属形式の請求項の特徴は、任意の独立形式の請求項又は従属形式の請求項の特徴と組み合わせることが可能である。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4