(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643512
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】重み付けを伴う閾値計算
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-52748(P2019-52748)
(22)【出願日】2019年3月20日
(65)【公開番号】特開2019-166834(P2019-166834A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年3月20日
(31)【優先権主張番号】10 2018 204 312.4
(32)【優先日】2018年3月21日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009232
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ネープ
(72)【発明者】
【氏名】ニクラス レモン ノリック
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヘン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス フェールナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴォルフ
【審査官】
馬渕 貴洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−223723(JP,A)
【文献】
特開2013−154540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 〜 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機(6)による、インクジェット印刷機(7)における、欠陥を有する印刷ノズルの検出および補償のための方法であって、
検出のために、印刷ノズルテストパターン(16)を印刷し、前記印刷ノズルテストパターン(16)は、特定の数の水平な行から成り、各行は、等間隔に配置された、印刷方向(y)に延在する複数の線(12)から成り、
前記インクジェット印刷機(7)の印刷ヘッドの印刷ノズルが、前記複数の線(12)のうちの1つを印刷し、
少なくとも1つの網点面積率要素(10)が、前記印刷ノズルテストパターン(16)に割り当てられて印刷され、
2つの要素(10,16)が、少なくとも1つの画像センサによって検出され、前記計算機(6)によって評価され、
前記計算機(6)によって、検出された前記網点面積率要素(10)の評価によって、印刷欠陥が求められ、欠陥を有する印刷ノズルに割り当てられ、前記印刷ノズルテストパターン(16)の評価によって、前記計算機(6)が、欠陥を有する印刷ノズルを検出し、このようにして検出された、欠陥を有する印刷ノズルが補償される形式の方法において、
前記計算機(6)が、検出された前記網点面積率要素(10)から検出された、欠陥を有する印刷ノズルと、前記印刷ノズルテストパターン(16)から検出された、欠陥を有する印刷ノズルと、を比較し、どの、検出された、欠陥を有する印刷ノズルが、前記2つの要素(10,16)のうちの1つの要素だけにおいて、欠陥を有すると検出されたのかを求め、前記2つの要素(10,16)のうちの1つの要素だけにおいて、欠陥を有すると検出された印刷ノズルの数が最小であるように、印刷ノズルが欠陥を有しているか否かを判断する閾値(22)を計算する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記印刷ノズルテストパターン(16)において検出されていない、検出された前記網点面積率要素(10)から検出された、欠陥を有する印刷ノズルは、ベータエラー(19)に相当し、
前記網点面積率要素(10)において検出されていない、検出された前記印刷ノズルテストパターン(16)から検出された、欠陥を有する印刷ノズルは、アルファエラー(21)に相当し、
前記計算機(6)は、前記アルファエラー(21)および前記ベータエラー(19)に係数(20)を割り当て、前記係数は、前記アルファエラー(21)および前記ベータエラー(19)の重み付けを可能にし、ひいては重み付けされたアルファエラー(21’)およびベータエラー(19’)に基づいて、前記閾値(22)から重み付けされた閾値(22’)を求める、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記重み付けされた閾値(22’)の前記計算は、関数の使用によって行われ、前記関数は、各係数(20)を伴うアルファエラー(21’)およびベータエラー(19’)を含む、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記閾値(22)および前記重み付けされた閾値(22’)は、それぞれ、印刷ノズルの印刷点の偏向、インク吐出の強さ、結果として生じる色濃淡度の均一性、インク特徴の特質または基材特徴の特質等の、インクジェット印刷プロセスの特定の特性値に関する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記関数は、前記インクジェット印刷プロセスの前記特性値に関連している、
請求項3を引用する請求項4記載の方法。
【請求項6】
ロジスティック回帰、判別分析、ベイズ分類、パーセプトロンもしくはニューラル・ネットワークの使用によって、前記重み付けされた閾値(22’)を計算するために前記関数が解かれる、
請求項3または5記載の方法。
【請求項7】
前記インクジェット印刷機(7)を調整する方法が実施され、本刷りでは、前記印刷ノズルテストパターン(16)だけが、規則的な間隔で印刷され、計算された前記重み付けされた閾値(22’)によって評価され、
検出された、欠陥を有する印刷ノズルが非アクティブ化され、適切な補償方法によって補償される、
請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記適切な補償方法は、各検出された、欠陥を有する印刷ノズルに隣接する印刷ノズルによる補償を予定する、
請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷機における、欠陥を有する印刷ノズルを検出および補償する方法に関する。
【0002】
本発明はデジタル印刷の技術領域にある。
【背景技術】
【0003】
印刷生成物の質は、最終的には常に、人間の観察者によって評価される。このような人間の観察者は、印刷生成物の最終顧客であり得る。これは例えば、通常はスーパーマーケットの、染髪剤およびそのパッケージの購入者、印刷生成物の委託者、またはこのような印刷生成物を印刷機上で製造した印刷所の印刷工/オーナーであり得る。同様にこれは、製品管理の人物、評価エンジニア、合成の品質責任者またはこの印刷生成物が作成された印刷機を製造した会社のサービスエンジニアであり得る。したがって、品質および印刷生成物の結果として生じる「販売価値」は、常に、主観的に、主観的な予想もしくは印刷生成物への要求と、その実際に存在する等価物のずれ、すなわち偏差から定義される。これは、まさにこのような予想もしくは要求に関して、大まかな偏差を想定し得る。これらはスペクトルにおいて変動する。完全である−良好である−満足できる−十分である、すなわち辛うじて販売できる−販売できない。
【0004】
特に、インクジェット技術をベースにしたデジタル印刷では、印刷の質は、各個々の印刷ノズルの噴射プロセスの性能もしくは質を介して特定される。インクジェット印刷機では、エラーを有する印刷ノズル、例えば故障している印刷ノズル、すなわち噴射しない印刷ノズル、傾いて噴射する印刷ノズル、不均一に噴射する印刷ノズル、時折、噴射が不安定になる印刷ノズルは、主観的な予想および印刷生成物に対する要求と、実際に存在する印刷生成物と、の偏差を生じさせる。このような偏差は、種々に重大な意味を持つ結果を招く。故障している印刷ノズルは例えば、相応する色において、いわゆる「空白行」を作成する。これは、欠陥を有する印刷ノズルの箇所で、基材が透けて見えることを意味している。「空白行」によってほぼ常に、印刷生成物が販売できない状態になる。しかし「空白行」は、極度に傾いて噴射するノズルによっても生成され得る。これによっても、販売できない印刷生成物が生じてしまう。それほど強く傾いて噴射しないノズルは「空白行」を生成しないこともあるが、これは、例えば面の印刷における不均一性を生じさせる。このような印刷生成物は、しばしば、カテゴリー、満足できるまたは辛うじて販売できるに属する。
【0005】
この種の欠陥を有するノズルまたは極度に傾いて噴射し、その後特定の規則に従って非アクティブ化されるノズルは、隣接する印刷ノズルがより大きいインク滴を噴射することによって補償される。このインク滴は、欠陥を有する印刷ノズルの領域における、透けて見える印刷基材を覆い、これによって「空白行」を補償する。すなわち、このような補償方法は、「空白行」を回避し、ひいては販売できない印刷製品を回避するが、例えば面の印刷において比較的大きい不均一性を生じさせ、これによって、辛うじて受け入れられ、ひいては販売できる印刷製品を生じさせる。すなわち補償方法の性能は、印刷製品が自身の質に関してどのカテゴリーに割り当てられるのかを決定する。
【0006】
このような偏差は測定技術によって、Lab値、例えばデルタE値の局部的な偏差を用いて、または択一的に濃淡度偏差の測定によって特定可能である。主観的な、すなわち人間による評価の主要問題は、全ての印刷生成物の100%の検査に、大きい、時間的なコストが伴うので、産業環境において実際には決して行われない、ということである。主観的な評価を有する、抜き取り検査(Stichproben)の形態の選択肢は、印刷生成物の質が極めて高い頻度で変化することがあり、抜き取り検査によって、全ての、販売できない印刷生成物を発見することはできないという問題を有している。
【0007】
上述したように、産業環境においては、印刷生成物の、人間による100%の評価はほぼ不可能であるので、各個々の印刷ノズルの質は特定の特性値を介して記述される。このような特性値、例えば、強さ、傾斜度、グレースケール値は、印刷ジョブ自体の記録、または特性値に関して適している、すなわち極めて敏感な印刷パターンの適切な画像処理によって得られる。これらは、実行中の印刷動作において、すなわちオンラインで、所定の間隔で繰り返して求められる。しかし、各新たな印刷ジョブの前にまたは特定の時間的な間隔において、このような特性値を求めるストラテジーも十分であり得る。
【0008】
欧州特許出願公開第2505364号明細書(EP2505364A2)から、欠陥を有する印刷ノズルの検出のための閾値特定が公知である。しかしこれは、偏差している印刷点を有する印刷ノズルの検出を開示しているだけである。しかしそれに対して閾値が特定される、印刷ノズルの目下の状態を評価するための特性値は、上述した特性値とは異なる。このような閾値特定が、印刷欠陥の主観的な評価、ひいてはこのような印刷欠陥の原因となる、欠陥を有する印刷ノズルの主観的な評価に関するものではなく、厳格に客観的な判断基準もしくは特性値に関するものであるということも開示されている。
【0009】
これは、従来技術における現下の、既知のアプローチと一致し、このアプローチは、印刷ノズルの分類を、印刷ノズルがアクティブ化またはオンされている、印刷ノズルがインアクティブ化またはオフされている、の形態で、閾値超過 はい/いいえによる、特性値の特質を介して、実行する。このような閾値は、経験値に基づいて決定される。ある程度の数の検出もしくは特性値の算出が結果として、閾値を下回る結果を供給すると、再度のスイッチオン、すなわち印刷ノズルのアクティブ化が行われる。一般的に使用されている値は、閾値を下回る結果を伴う、4回の検出である。
【0010】
しかし人間の観察者の主観的な評価とのこのような閾値の比較は、公知の従来技術では、実施されない、または基本的に、ごくまれに、ほぼ「経験と勘によって」のみ実施される。
【0011】
このような手法の欠点は、目下の手法が常に、同じ、経験に基づいて大まかに設定された閾値を、印刷ノズルのアクティブ化もしくは非アクティブ化のために使用するということである。したがってこのような閾値は、インクの特性が基材の特性に関連し得ることを考慮していない。さらに、このような閾値は、各インクの色が、種々のインクデザインよって作成され、これが、その特徴の種々の特質を生じさせ得ることを考慮していない。したがって、閾値は過度に寛大に設定されたり、過度に厳しく設定されたりする。したがって、過度に寛大な閾値境界によっては欠陥商品が製造されてしまい、または過度に厳しい閾値のケースでは、印刷ノズルは場合によっては性急にオフされてしまう。さらに、このような既知の手法は、極めて頻度が低く、すなわち通常は一日に一回だけ適用される。これは、変化しやすいインクジェット印刷プロセスの場合には多くの欠陥を生じさせてしまう。なぜなら、印刷ノズルの質の変化は検出されないからである。両方とも、質および/または生産性に悪影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の課題は、インクジェット印刷機における、欠陥を有する印刷ノズルの検出および補償のための効率的な方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題は、計算機による、インクジェット印刷機における、欠陥を有する印刷ノズルの検出および補償のための方法によって解決され、ここでは、検出のために、少なくとも1つの多数行の印刷ノズルテストパターンを印刷し、この印刷ノズルテストパターンは、上下に配置されている、周期的に鉛直に印刷された等間隔の線の特定の数の水平の行から成り、ここでノズルテストパターンの各行において、それぞれ周期的にのみ、水平な行の特定の数に相当する、インクジェット印刷機の印刷ヘッドの印刷ノズルが、ノズルテストパターンに寄与し、少なくとも1つの網点面積率要素(Flaechendeckungselement)が幾何学形状的に少なくとも1つの多数行の印刷ノズルテストパターンに割り当てられて印刷され、2つの要素が、少なくとも1つの画像センサによって検出され、計算機によって評価される。ここで計算機によって、検出された網点面積率要素の評価によって、印刷欠陥が求められ、欠陥を有する印刷ノズルに割り当てられる。さらに閾値に基づいた多数行の印刷ノズルテストパターンの評価によって、計算機が、欠陥を有する印刷ノズルを検出し、このようにして検出された、欠陥を有する印刷ノズルが補償される。この方法は、計算機が、検出された網点面積率要素からの検出された、欠陥を有する印刷ノズルと、印刷ノズルテストパターンからの検出された、欠陥を有する印刷ノズルと、を比較し、どの、検出された、欠陥を有する印刷ノズルが、2つの要素のうちの1つの要素だけにおいて、偏差の原因となっているのかを求め、このようなデータから、検出された、欠陥を有する印刷ノズルの数が最小であるように閾値を計算する、という特徴を有する。本発明の方法の核心部分は、多数行の印刷ノズルテストパターンの評価時に、印刷ノズルが欠陥を有しているか否かを判断する閾値ができるだけ正確に特定される、ということである。ここでの問題は、しばしば、自身の性能によれば、印刷ノズルテストパターンの印刷時に元来、欠陥を有しているはずである印刷ノズルが、元来製造される印刷画像において、印刷欠陥の原因でない、ということである。これによって、該当する印刷ノズルがオフされ、補償される。印刷ノズルの補償は、作成されるべき印刷画像において、しばしば、質の低下を生じさせるので、このようなフォールスポジティブエラーはできるだけ回避されるべきである。すなわち閾値は、網点面積率要素によって表される実際の印刷画像において、実際に、欠陥の原因となる印刷ノズルだけを、欠陥を有していると識別するように整合されなければならない。逆の場合も、すなわち、使用されている閾値に従って、正しく機能する、網点面積率要素における印刷欠陥の原因となる印刷ノズルも、当然ながら回避されるべきである。このような状態は多くの場合にはむしろ、不当に、欠陥を有しているとされる印刷ノズルの場合よりも問題である。このような点に基づいて、論理的に次のことが明らかである。すなわち、過度に低い閾値は、欠陥を有する印刷ノズルの頻繁な誤った検出を結果として生じさせ、過度に高い閾値は、欠陥を有する印刷ノズルの正しい検出を困難にさせるということが明らかである。当然ながら、2つの要素のうちの1つにおいて現れる印刷欠陥もしくは偏差がそれぞれ別の要素において現れない別の理由も存在する。このような係数も、最適な閾値の計算において考慮されるべきである。これによって、閾値の調整が次のように計算される。すなわち、このような一義的でない、欠陥を有する印刷ノズルの出現ができるだけ僅かになり、かつインクジェット印刷機ができるだけ良い効率で作動するように計算される。
【0014】
この方法の有利な発展形態は、属する従属請求項ならびに属する図面による説明から明らかになる。
【0015】
本発明の方法の有利な発展形態では、印刷ノズルテストパターンにおいて検出されていない、検出された網点面積率要素からの検出された、欠陥を有する印刷ノズルは、ベータエラーに相当し、網点面積率要素において検出されていない、検出された印刷ノズルテストパターンからの検出された、欠陥を有する印刷ノズルは、アルファエラーに相当し、計算機はこのようなアルファエラーおよびベータエラーに係数を割り当て、係数は、このようなアルファエラーおよびベータエラーの重み付けを可能にし、ひいてはアルファエラーおよびベータエラーに基づいて、閾値の重み付けされた計算を可能にする。上述したように、網点面積率要素または印刷ノズルテストパターンにおいてのみ偏差もしくは欠陥の原因となる印刷ノズルは、欠陥を有する印刷ノズルの最適でない補償を生じさせる。以降でアルファエラーと称される、印刷ノズルテストパターンに基づいて求められた、欠陥を有するが、網点面積率要素では欠陥の原因ではない印刷ノズルと、以降でベータエラーと称される、網点面積率要素において欠陥の原因であるが、印刷ノズルテストパターンにおいては偏差の原因ではない、検出された、欠陥を有する印刷ノズルと、による印刷の質への作用は、得られる印刷の質への様々な作用を生じさせる。網点面積率要素によって表される後の印刷画像において、可視の印刷欠陥の原因であるが、印刷ノズルテストパターンでは検出可能な偏差の原因ではない印刷ノズルは、補償されない、欠陥を有する印刷ノズルを生じさせる。これは多くの場合に、印刷ノズルが印刷ノズルテストパターンにおいて目立つ偏差に基づいて、オフされ、補償される場合よりも、使用者もしくは得られるべき印刷の質にとって格段に困難なものである。しかしこれは元来の印刷画像もしくは網点面積率要素において完全に、可視の欠陥の原因ではない。したがって、計算の構成部分である、正しい閾値の計算の範囲において、アルファエラーおよびベータエラーに係数を割り当てることが可能である。これらの係数は、アルファエラーおよびベータエラーの重み付けを可能にする。これらの係数は、当然、結果として生じる、計算された閾値に影響を与える。これに相応して、ベータエラーに対する係数が、アルファエラーに対する係数よりも格段に重く重み付けされる場合には、アルファエラーの等しく重み付けされた分布または重い重み付けの場合よりも、結果として生じる閾値が低く設定され、したがってより厳しく設定される。
【0016】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、閾値の重み付けされた計算は、数学的な関数の使用によって行われる。この関数は、各係数を伴うアルファエラーおよびベータエラーを含んでおり、このような値の総計が最小にされる。相応に割り当てられた重み付け係数を備える各アルファエラーおよびベータエラーを含んでいる数学的な関数の使用は、重み付けされた形態の閾値の計算に必須である。関数は、その補助によって、閾値が計算されるように形成されるべきである。この閾値に対しては、アルファエラーとベータエラーの総計が、重み付け係数を含めて、相応に最小になる。
【0017】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、閾値はそれぞれ、印刷ノズルの印刷点の偏向、インク吐出の強さ、結果として生じる色濃淡度の均一性、インク特徴の特質または基材特徴の特質等の、インクジェット印刷プロセスの特定の特性値に関する。これらの特性値は、検出された印刷ノズルテストパターンの評価に基づいて、計算機によって特定される。印刷ノズルテストパターンの評価時に使用されるこのような閾値は、当然、相応する特性値に関する。これは、印刷され、検出された印刷ノズルテストパターンの評価時に特定される。最も重要な特性値は、当然ながら位相、すなわち、噴射する印刷ノズルの傾斜度であり、またはこのような印刷ノズルの印刷点の偏向と、いわゆる振幅、すなわち、相応する印刷ノズルがどのような強さで印刷するか、もしくはどのくらい多くのインクを印刷ノズルが吐出することができるかと、である。別の特性値は、色濃淡度の均一性ならびにインク特徴の特質または基材特徴の特質ならびにここで全てが詳細に説明されるのではない多くの他の特性値に関する。検出された印刷ノズルテストパターンの評価時に特定されるこのような特性値が増えると、印刷ノズルが欠陥を有しているか否かをより正確に判断することができる。このような特性値に対する相応の閾値は、当然ながら、各特性値に対して計算されなければならず、次に検出された印刷ノズルテストパターンの評価時にも適用されなければならない。
【0018】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、数学的な関数は同様に、インクジェット印刷プロセスの特性値に関連している。検出された印刷ノズルテストパターンの評価時に特定されたインクジェット印刷プロセスの相応する特性値の閾値への関連性に基づいて、次のことは論理的に矛盾しない。すなわち、数学的な関数が、重み付け係数のパラメータ、およびアルファエラーおよびベータエラーの変数の他に、インクジェット印刷プロセスの特性値も関数値として有していることは論理的に矛盾しない。これは、結果として、相応する多次元の関数になる、もしくは複数の特性値の種々の閾値のことを話題にしているので、多次元の方程式系を話題にする。
【0019】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、ロジスティック回帰、判別分析、ベイズ分類、パーセプトロンもしくはニューラル・ネットワークの使用によって、閾値を計算するために数学的な関数が解かれる。どのアプローチが、多次元の数学的な関数もしくは多次元の方程式系を解くために使用されるのかは、本発明の方法にとって、優先的に重要ではない。重要なのは、これによって、相応する閾値を特性値に対して計算するために、数学的な関数もしくは方程式系が解かれることである。
【0020】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、インクジェット印刷機を調整する方法が実施され、本刷りでは、印刷ノズルテストパターンだけが、規則的な間隔で印刷され、計算された閾値によって評価される。ここで、検出された、欠陥を有する印刷ノズルが非アクティブ化され、適切な補償方法によって補償される。重要なのは、本発明の方法が、網点面積率要素と印刷ノズルテストパターンの同時の評価によって、有利には、インクジェット印刷機の調整に使用される、ということである。これらの閾値が一度正しく求められ、調整されると、印刷機の本刷りにおいて、印刷ノズルテストパターンを印刷し、これを本発明に相応に計算された閾値に基づいて評価することで十分に、規則的な間隔で、印刷ノズルの状態がどのように変化するか、新たな、欠陥を有する印刷ノズルがさらに加わったか否か、相応にオフされ、補償されなければならないか否かを検査することができる。反対の発見、すなわち、欠陥を有しているとされた印刷ノズルが「回復し」、これによって再び印刷に使用されることも可能であり、したがって監視されるべきである。したがって、印刷ノズルテストパターンの印刷時に、有利には常に、全ての印刷ノズル、元来オフされており、欠陥を有しているとされている印刷ノズルも、関与する。このような、欠陥を有する印刷ノズルのスイッチオフおよび補償は、元来の印刷画像の印刷にのみ関する。
【0021】
本発明の方法の別の有利な発展形態では、適切な補償方法は、各検出された、欠陥を有する印刷ノズルに隣接する印刷ノズルによる補償を予定する。ここでこの補償は、印刷画像の網目スクリーン化の後の、隣接する印刷ノズルのインク吐出の増大によって、または印刷画像の網目スクリーン化の前の、グレースケール値の整合によって行われる。本発明の方法によって検出された、欠陥を有する印刷ノズルは当然、相応にオフされ、補償されなければならない。補償のために、種々の方法が可能である。基本的には、本発明の方法によって、全ての公知の補償方法が使用される。しかし、最も一般的には、自身に直接的に隣接する印刷ノズルによる、欠陥を有する印刷ノズルの補償である。このようなアプローチに対しても、種々の可能性があり、例えば本刷りの間の、欠陥を有する印刷ノズルの検出時には、該当する印刷ノズルが単にオフされ、直接的に本刷りにおいて、隣接する印刷ノズルが、増大したインク吐出を用いて駆動制御され得る。これは、欠陥を有する印刷ノズルが原因の「空白行」に流れ込む。しかし、欠陥を有する印刷ノズルが明らかである場合、印刷画像を網目スクリーン化の前に整合させ、予期されるべき空白行の領域内に位置するグレースケール値を相応に整合させ、直接的に隣接するグレースケール値が増大されることも可能である。これによって、印刷画像の網目スクリーン化の後に、元来の本刷りにおいて、相応する空白行が補償される。このようなアプローチの欠点は、当然ながら、印刷画像が新たに網目スクリーン化されなければならない、ということである。これは、網目スクリーン化後の、隣接する印刷ノズルの直接的な駆動制御による補償の最初のアプローチの場合には、不要である。
【0022】
本発明自体ならびに本発明の構造的かつ/または機能的に有利な発展形態を以降で、属する図面に基づいて、少なくとも1つの有利な実施例に基づいて、詳細に説明する。図面では、相応する要素に同じ参照番号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】欠陥を有する印刷ノズルが原因の「空白行」の概略的な例
【
図3】割り当てられている網点面積率要素を備える印刷ノズルテストパターンの例
【発明を実施するための形態】
【0024】
有利な実施形態の使用領域は、インクジェット印刷機7である。このような印刷機7の基本的な構造の例が、
図1に示されている。このような印刷機7は、印刷ヘッド5によって印刷が施される印刷機構4内へ印刷基材2を供給するためのフィーダ1から、デリバリ3までである。ここでこれは、枚葉インクジェット印刷機7であり、これは、制御計算機6によってコントロールされる。印刷機7の動作時には、上述したように、印刷機構4内の印刷ヘッド5において、個々の印刷ノズルが故障することがある。この結果、「空白行」9もしくは多色印刷の場合には、歪んだ色値が生じる。このような「空白行」9の例は、
図2において、印刷画像8に示されている。
【0025】
図5は、有利な実施形態の本発明の方法のフローを示している。はじめに、組み合わされた印刷ノズルテストパターン11が、それぞれ、種々のグレースケール値スケール14の形態の複数の網点面積率濃淡度を伴う網点面積率要素10とともに、かつ、印刷ノズルテストパターン16とともに印刷される。2つの要素16、10は
図3に例示的に再現されている。極めて良好に見て取れるように、印刷ノズルテストパターン16と網点面積率要素10とは上下に配置されている。ここで、方向xは、基材の幅を示しており、方向yは、印刷方向をマークしている。
図3の上方の部分には、印刷ノズルテストパターン16が示されている。これは、このような場合には、鉛直に印刷された等間隔の線12の4つの水平な行から成る。4つの行はこの場合には、各行において、それぞれ4つ毎に、印刷ノズルが、鉛直な線12の印刷に関与していることを意味している。これは
図3において極めて良好に、各鉛直な線12の符号a、eおよびiによって見て取れる。第2の行には相応に、印刷ノズルbならびにfおよびjが存在している。相応に、行3および4に続く。網点面積率要素10が、印刷ノズルテストパターン16と同じ水平の幅で直接的にその下に配置されている。網点面積率要素は、それぞれ異なるグレースケール値スケール14を備えた、印刷方向に、上下に配置された複数の条片から成る。
図3には、4つの異なるグレースケール値スケール14が示されている。これは、100%の網点面積率で始まり、その後、下方へ向かって、それぞれ、100−x、yまたはzの形態の減少する網点面積率を有している。減少する網点面積率を有する配置構成に従って、ここではx<y<zである。しかし、任意に多くの異なるグレースケール値スケール14が使用可能である。
【0026】
次のステップでは、2つの要素10、16が、欠陥を有する印刷ノズルが原因の、生じている可能性がある印刷欠陥に関して調べられる。網点面積率要素10は、ここで、「空白行」9の識別のために使用される。印刷ノズルテストパターン16はこれに対して、使用されている印刷ノズルの目下の状態の特定のために使用される。これは、特性値に基づいて、例えば印刷ノズルの傾斜噴射値に基づいて、位相とも称され、「弱さ」、すなわちインク吐出の強さは振幅とも称される。まずはここで網点面積率要素10が評価される。これは例えば、網点面積率要素10の既知のグレースケール値が印刷されて一貫して存在しているか否かが検査されることによって行われ得る。基本的にはここでは、その目下の状態が、網点面積率要素10の既知の良好な画像17、すなわち基準17と比較される。ここで、例えば
図3において、網点面積率要素10において暗示されているように、「空白行」9が存在している場合には、これは「主観的に」識別された「空白行」9として当てはまる。その後、印刷ノズルテストパターン16が、印刷ノズルの上述した特性値に関して評価される。したがって、画像処理部によって、特性値の特質:[μm]での自身の目標位置からの側方の、中央の偏差の形態の、傾斜噴射値もしくは位相および印刷ノズルの印刷された線の一貫性および短時間安定性の形態の「弱さ」もしくは振幅が検出される。次に、このような実際の測定値18が、相応に評価される。「振幅」は、値領域[0−1]において、各個々の印刷ノズルに対して求められる(0=線が存在していない、1=完全な形成/線の一貫性)。この例では
図3において、ここで、ノズルgの鉛直な線13である。これは、第3の行において、中央に位置しており、僅かに右に傾いて噴射する。すなわち、これは、偏差している位相に基づく、故障している印刷ノズルである。これは、網点面積率要素10において見て取れる「空白行」9の原因であり、ノズルhの領域内へのノズルの偏差している印刷によって、「黒色線」15を生じさせる。
【0027】
網点面積率要素10から求められた、主観的な印刷欠陥9、15ならびに印刷ノズルテストパターン16から求められた、これらの印刷欠陥9、15に割り当てられている、全ての印刷ノズルの特性値が次に、テーブルに記入される。このようなテーブルはここで、このような「空白行」9の画像を有する、例示的に主観的に求められた「空白行」9に対する位相および振幅に対する特性値の特質を示す。このようにして、主観的に求められた全ての印刷欠陥および自身の属する特性値に関する概観が得られる。
【0028】
次に、完成したテーブルに基づいて、特性値の最適な閾値22’が求められる。このために、いわゆるアルファエラー21およびベータエラー19が特定されなければならない。
図4は、これらの量の規定に関する概観を示している。例えば、網点面積率要素10の評価時に主観的に「空白行」9が発見されると、属する印刷ノズルは、相応に、使用されている閾値22にわたって偏差する、振幅および位相に関する特性値を示す。したがって、検出は成功した。主観的に発見された「空白行」9が相応する、閾値22を逸脱する特性値に直面していない場合には、問題である。これはこの場合には、いわゆるベータエラー19である。印刷欠陥が求められたが、(恐らく)責任を有するであろう印刷ノズルは偏差している特性値を有しておらず、したがって、有利には印刷ノズルテストパターン16だけを使用する、本刷りにおける後の検出方法では、発見されず、したがって補償されない。結果として、補償されていない「空白行」9が生じる。
【0029】
これとは逆に、印刷ノズルテストパターン16の評価時に、閾値22を逸脱するが、可視の「空白行」9が網点面積率要素10において割り当てられ得ない特性値が求められると、これはいわゆるアルファエラー21である。これによって、本刷りにおける後の検出方法において、該当する印刷ノズルが非アクティブ化され、補償される。例えば隣接する印刷ノズルによる印刷ノズルの補償は、印刷の質に悪影響を及ぼすので、このようなアルファエラー21は当然、不快である。したがって、このようなアルファエラー21の結果として、本来機能している印刷ノズルがオフされ、補償されてしまう。
【0030】
したがって、本発明の方法の目的は、全ての求められた特性値に対する閾値22を次のように計算することである。すなわち、アルファエラー21とベータエラー19との総計の数もしくは割合が最小になるように計算することである。これは、計算式によって実現される。この計算式は例えば以下の、簡略化された基本パターンを想定し得る。
アルファエラー21+ベータエラー19=最小
【0031】
さらに、アルファエラー21とベータエラー19とに、異なる重み付けが割り当てられているのは合理的である。多くの場合には、例えば、補償されていない「空白行」9は、本来機能している印刷ノズルのオフおよび補償より大きい問題としてクラス分けされる。このためにアルファエラー21およびベータエラー19には、計算式において、これに対して相応に、重み付け係数a,b20が設けられる。
a×アルファエラー21+b×ベータエラー19=最小
【0032】
重み付け係数20は、使用者によって任意に、自身の要求に合わせられる。使用者が、アルファエラー21とベータエラー19を、目下の印刷タスクに対してより重要に評価するほど、これは、重み付け係数20を介して、重み付けされたアルファエラー21’とベータエラー19’を用いて、使用されている検出方法および補償方法に影響を与えることができる。これは最終的な作用において、結果として生じる印刷の質にとって重要である。
【0033】
複数の特性値、例えば振幅および位相に対する閾値が計算されなければならないので、ここから多次元の方程式系が生じる。これは基本形において、
a×アルファエラー21+b×ベータエラー19=最小=f(位相、振幅、均一性、濃淡度/Lab、特質 特徴 インク、特質 特徴 基板2、・・・)
である。
【0034】
このような方程式系は、この場合には、最適な、すなわち重み付けされた閾値22’を計算するために、種々のアプローチによって解かれる。これらは、ロジスティック回帰、判別分析、ベイズ分類、パーセプトロンもしくはニューラル・ネットワークの使用を含み得る。
【0035】
最後のステップは、ここで、元来のインクジェット印刷プロセスにおける、計算された、重み付けされた閾値22’の使用を含んでいる。このような閾値22’によって、検出された「空白行」9の検出および補償は使用者によって、以降の本刷りにおいて、発生している印刷欠陥の主観的な評価に関して相応に影響される。
【0036】
すなわち本発明の方法は、重み付けされた、最適な閾値22’を求めるための手法およびストラテジーを記述しており、これは、印刷生成物の人間による評価をできるだけ良く再現する。このような閾値22’は、統計的な予測モデルに対して利用可能である。このモデルは、各ノズルに対して、印刷の質のトレランス限界の超過の確率を、過去の測定値に基づいて予測する。印刷生成物の人間による評価に最適に合わせられた閾値22’を使用することによって、生産者リスクならびに消費者リスクが、欠陥判断に対する最小のリスクまで低減される。生産者リスクは、すなわち人間の観察者に、印刷の質における欠陥が目立っていないのにもかかわらず、特性値を超過する閾値/トレランス限界22であり、消費者リスクは、すなわち人間の観察者に、印刷の質における欠陥が目立っているのにもかかわらず、特性値の閾値超過が存在していないことである。これは重み付けされて行われてもよい。例えば消費者リスクが生産者リスクよりも10倍、重要である場合には、相応に重み付けされた総リスクも相応に最小化されてよい。
【0037】
従来技術に対して、本発明の方法は、欠陥を有する印刷ノズルの正しい検出に関する明確な利点を、使用されている補償方法の範囲における印刷ノズルのアクティブ化および非アクティブ化に関して提供する。
【符号の説明】
【0038】
1 フィーダ
2 目下の印刷基板/目下の印刷枚葉紙
3 デリバリ
4 インクジェット印刷機構
5 インクジェット印刷ヘッド
6 計算機
7 インクジェット印刷機
8 目下の印刷枚葉紙上の印刷画像
9 「空白行」
10 網点面積率要素
11 組み合わされた印刷ノズルテストパターン
12 鉛直な、等間隔の線
13 「ミッシングノズル」によって偏差する、鉛直な、等間隔の線
14 種々のグレースケール値スケール
15 「黒色線」
16 鉛直な、等間隔の線を有する印刷ノズルテストパターン
17 良好な画像/基準
18 実際の測定結果
19 ベータエラー
19’ 重み付けされたベータエラー
20 重み付け係数
21 アルファエラー
21’ 重み付けされたアルファエラー
22 所定の閾値
22’ 重み付けされた閾値