特許第6643519号(P6643519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643519モータ制御装置及びその絶縁抵抗検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6643519
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びその絶縁抵抗検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20200130BHJP
【FI】
   G01R31/34 B
   G01R31/34 A
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-134575(P2019-134575)
(22)【出願日】2019年7月22日
【審査請求日】2019年8月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敬吾
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将和
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−226993(JP,A)
【文献】 特開2018−038114(JP,A)
【文献】 特開2005−110400(JP,A)
【文献】 特開2012−173279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/327−31/34、
27/00−27/32、
31/02−31/06、
31/12−31/20
H02P 29/00、
21/00、
H02K 11/00−11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部と、
前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第1スイッチ部により電力供給をオフし、前記第2スイッチの開時及び閉時において前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と、前記コンデンサの保持する電圧値及び前記第2電源部の発生する電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
接地されていない直流電源である第1電源部と、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部と、
前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第2スイッチの開時及び閉時において前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と、前記コンデンサの保持する電圧値及び前記第2電源部の発生する電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置。
【請求項3】
少なくとも1つの前記モータの前記スイッチング素子は、ブートストラップ電源を含み、
開時に前記ブートストラップ電源への電源供給をオフする第3スイッチを備え、
前記電流検出部は、前記第3スイッチの開時に電流値を検出する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
少なくとも1つの前記モータの前記スイッチング素子は、ゲート制御信号を伝送する、ゲートドライブのための高耐圧ICを含み、
開時に前記高耐圧ICへの電源供給をオフする第3スイッチを備え、
前記電流検出部は、前記第3スイッチの開時に、前記少なくとも1つの前記モータについての電流値を算出する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第2電源部は、その負側もしくは正側の一端が前記母線に接続されるとともに、その他端が接地され、
前記第2電源部の発生する電圧は、前記コンデンサの保持する電圧より小さく設定される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1スイッチにより電力供給をオフし、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第2スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第2スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの保持する電圧値及び前記第2電源部の発生する電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項7】
接地されていない直流電源である第1電源部と、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第2スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第2スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの保持する電圧値及び前記第2電源部の発生する電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項8】
さらに少なくとも1つのブートストラップ電源を備えた前記スイッチング素子を含み、開時に前記ブートストラップ電源への電源供給をオフする第3スイッチを備えたモータの絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1及び前記第2の電流値の検出を、前記第3スイッチの開時に行う、請求項6又は7に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【請求項9】
さらにゲート制御信号を伝送し、ゲートをドライブする少なくとも1つの高耐圧ICを備えた前記スイッチング素子を含み、開時に前記高耐圧ICへの電源供給をオフする第3スイッチを備えたモータの絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1及び前記第2の電流値の検出を、前記第3スイッチの開時に行う、請求項6又は7に記載のモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの絶縁抵抗検出機能を備えたモータ制御装置及びモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボモータなどのモータは、インバータで構成されるモータ制御装置により駆動され、工作機械などに用いられる。工作機械など、切削液を用いて加工を行う機械では、切削液がモータに付着し、切削液によっては、モータ内部に入り込み、モータの絶縁を劣化させるという問題がある。
【0003】
また、工作機械以外に用いられる場合であっても、長期間にわたって用いられる場合や、使用環境によっては、同様の問題が生じ得る。
【0004】
モータの絶縁劣化は徐々に進行し、最終的には地絡に至る。モータが地絡すると、漏電ブレーカをトリップさせたり、モータ制御装置を破損させたりして、システムダウンに至る。システムダウンは、工場の製造ラインに多大な影響を及ぼす。そのため、予防保全の観点から、モータの絶縁抵抗を検出できる装置が望まれている。
【0005】
このような、モータの絶縁抵抗の検出方法としては、特許文献1がある。特許文献1には、直流電力源における正側直流母線および負側直流母線に接続したものであって、交流モータに対する接続と遮断を切り替えるアームスイッチング素子を有するインバータ部を有し、直流電力をインバータ部で交流電力に変換して交流モータを駆動するモータ駆動ユニットと、正側直流母線又は負側直流母線のいずれか一方と大地との間に設けられた低電圧源と、いずれかのアームスイッチング素子を選択して接続した状態で低電圧源、交流モータ、及びインバータ部の一部を含む閉回路に流れる閉回路電流、及びアームスイッチング素子を全て遮断した状態で閉回路に流れるオフセット電流を検出する電流検出部と、電流検出部が検出した閉回路電流の値と、オフセット電流の値との間の差分値を求めるオフセット除去部と、閉回路電流の値に基づく差分値と所定の閾値との比較により交流モータの絶縁抵抗の劣化を判定する絶縁抵抗劣化判定部と、を備えたことを特徴とするモータ駆動装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、第1のスイッチを介して交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に整流する整流回路と、整流回路によって整流された直流電圧をコンデンサで平滑化する電源部と、電源部によって平滑化された直流電圧を半導体スイッチング素子のスイッチング動作により交流電圧に変換してモータを駆動するインバータ部と、モータのコイルに一端を接続し、コンデンサの一方の端子に他端を接続した抵抗器に流れる電流値を測定する電流検出部と、コンデンサの両端の電圧値を測定する電圧検出部と、コンデンサの他方の端子を接地する第2のスイッチと、モータの運転を停止し、第1のスイッチをオフし、かつ、第2のスイッチをオフした状態とオンした状態の2つの状態において測定された2組の電流値及び電圧値を用いて、モータのコイルと大地との間の抵抗であるモータの絶縁抵抗値を検出する絶縁抵抗検出部とを有することを特徴とするモータ駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4961045号公報
【特許文献2】特開2015−129704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で複数のモータの絶縁抵抗を検出する場合、アームスイッチング素子を全て遮断した状態で低電圧源、交流モータ、及びインバータ部の一部を含む閉回路に流れるオフセット電流を検出し、次にいずれかのアームスイッチング素子を選択して接続した状態で低電圧源、交流モータ、及びインバータ部の一部を含む閉回路に流れる閉回路電流を検出して、閉回路電流の値とオフセット電流の値との間の差分値を求めることにより、モータの絶縁抵抗に基づく電流を算出している。モータの絶縁抵抗が低下していなければオフセット電流は流れないが、モータの絶縁抵抗が低下している場合、低電圧源からモータの絶縁抵抗を通して半導体スイッチング素子に電圧が印加され、半導体スイッチング素子の漏れ電流が流れ、これがオフセット電流になる。特許文献1では、このオフセット電流(半導体スイッチング素子の漏れ電流)を計測して、アームスイッチング素子を選択して接続した状態での閉回路電流の計測結果との差分を取ることにより、半導体スイッチング素子の漏れ電流の影響を除去している。しかし、計測されるオフセット電流は計測軸と非計測軸全軸分となり、計測軸のオフセット電流も含まれている。一方、閉回路電流計測時に計測される電流は、計測軸のモータの絶縁抵抗に基づく電流と非計測軸全軸のオフセット電流を加算したものになる。このため、閉回路電流とオフセット電流との間の差分値を求めてオフセットを除去すると、
算出結果=計測軸のモータの絶縁抵抗に基づく電流+非計測軸全軸のオフセット電流
−(計測軸のオフセット電流+非計測軸全軸分のオフセット電流)
=計測軸のモータの絶縁抵抗に基づく電流−計測軸のオフセット電流
となり、計測軸のオフセット電流分の誤差を生じてしまう。このように、特許文献1の手法では、モータの絶縁抵抗が低下していた場合、非計測軸の全軸のオフセット電流を正しく求めることができず、計測軸のオフセット電流も含まれてしまうため、計測軸のオフセット電流分の誤差を生じてしまい、正しくモータの絶縁抵抗に基づく電流を計測できないという問題があった。
【0009】
特許文献2も特許文献1と同様に2回の計測結果からモータの絶縁抵抗を求めている。そして、2回の計測結果からモータの絶縁抵抗を算出する中で、個々の半導体スイッチング素子の漏れ電流に相当する等価抵抗を消去することにより、半導体スイッチング素子の漏れ電流の影響を解消している。特許文献1のような計測軸の漏れ電流分の誤差がないため、特許文献1より計測精度が高い。しかし、特許文献2の手法では、平滑コンデンサの電圧をモータの絶縁抵抗に印加している。平滑コンデンサはモータを駆動する際の電源周波数による直流電圧の変動を抑制するため、比較的大きな容量の電解コンデンサが使用され、内部インピーダンスも低い。このため、例えば、モータの絶縁抵抗が非常に小さく、半導体スイッチング素子の負側素子が短絡破損しているような場合、非常に大きな電流が平滑コンデンサからモータの絶縁劣化部を通して半導体スイッチング素子に流れ、半導体スイッチング素子が2次破損したり、モータの絶縁劣化部がより劣化したりしてしまうおそれがあった。
【0010】
また、小容量のインバータの正側半導体スイッチング素子のゲートドライブ電源として、ブートストラップ電源を用いる場合がある。ブートストラップ電源は、図4に示すように、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR用に設けられたゲートドライブ電源Sに、抵抗R、ダイオードD、コンデンサCを用いて正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源を構成したものである。負側の半導体スイッチング素子TR〜TRのオン、オフにより、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR用のゲートドライブ電源Sから、抵抗R、ダイオードDを通してコンデンサCがチャージされ、正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源となる。このように、正側半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源がブートストラップ電源で構成されている場合、特許文献2の手法では、ブートストラップ電源の負側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源からブートストラップ電源の抵抗R、ダイオードD、コンデンサCを通して絶縁抵抗検出用の電流検出抵抗に電流が流れてしまい、絶縁抵抗検出精度が悪化してしまうという問題があった。
【0011】
また、ブートストラップ電源ではなく、正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲート制御信号を、高耐圧ICで伝送する場合がある。このような高耐圧ICを用いてゲート制御信号の伝送を行っている場合も、負側のゲートドライブ電源Sから高耐圧ICの電源を通して絶縁抵抗検出用の電流検出抵抗に電流が流れてしまい、絶縁抵抗検出精度が悪化してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、半導体スイッチング素子の2次破損や、モータのさらなる絶縁劣化を生じさせる恐れがなく、ブートストラップ電源や高耐圧ICを用いたモータ制御装置にも適用でき、モータの絶縁抵抗を精度良く検出できるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための本発明の一つの態様は、
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部と、
前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第1スイッチ部により電力供給をオフし、前記第2スイッチの開時及び閉時において前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置、である。
【0014】
前記課題を解決するための本発明の別の態様は、
接地されていない直流電源である第1電源部と、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部と、
前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の電流値を検出する電流検出部と、
前記第2スイッチの開時及び閉時において前記電流検出部によってそれぞれ検出された電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗算出部と、
を備えたモータ制御装置、である。
【0015】
前記課題を解決するための本発明のさらに別の態様は、
第1電源部と、前記第1電源部からの電力供給をオフすることができる第1スイッチと、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記第1スイッチにより電力供給をオフし、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第2スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第2スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法、である。
【0016】
前記課題を解決するための本発明のさらにまた別の態様は、
接地されていない直流電源である第1電源部と、前記第1電源部からの電力を母線に出力する直流供給部と、前記母線に接続されたコンデンサと、前記母線に供給された直流を交流に変換してモータを駆動制御するスイッチング素子を備えたモータ制御装置の絶縁抵抗検出方法であって、
前記母線に一端を接続し、他端を第2スイッチを介して接地した第2電源部の、前記第2スイッチを開とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第1の電流値を電流検出部により検出し、
前記第2スイッチを閉とし、前記モータの巻線と前記第2電源部が接続された前記母線との間の第2の電流値を前記電流検出部により検出し、
検出された前記第1の電流値及び前記第2の電流値と、前記コンデンサの電圧値及び前記第2電源部の電圧値とに基づいて、前記モータの絶縁抵抗値を算出する、
モータ制御装置の絶縁抵抗検出方法、である。
【0017】
本発明のその他の態様は、後述する発明を実施するための形態の実施例の説明から明らかである。
【0018】
本発明によれば、第1スイッチ部により電力供給をオフすることにより、第1電源部からの電力供給が停止される。この状態で、第2スイッチを開とした状態では、コンデンサの電圧のみによりスイッチング素子を介する漏れ電流が流れ、第1の電流値が電流検出部によって検出される。他方、同様に第1電源部からの電力供給が停止された状態で、第2スイッチを閉とした場合には、第1の電流値と、第2電源部の電圧のみによるモータの巻線を通る電流の大部分(余部は負側のスイッチング素子の微小な漏れ電流である。)とが加わった第2の電流値が電流検出部によって検出される。電流検出部によって検出された両電流値すなわち第1の電流値及び第2の電流値と、コンデンサの電圧値及び第2電源部の電圧値とに基づいて演算を行うことにより、モータの絶縁抵抗値を精度よく算出することができる。
【0019】
ここで、第1電源部が接地されていない直流電源である場合には、第1スイッチ部は設けられておらず、また、第1スイッチ部により電力供給をオフする工程がないが、その余の作用は同じである。
【0020】
また、本発明によれば、第2電源部の電圧値を用いてモータの巻線を通る電流値を測定しているので、絶縁抵抗検出のためにコンデンサの電圧値を用いようとしてモータを駆動制御するスイッチング素子のゲート駆動制御を行ってスイッチング素子を閉とする必要はなく、また、第2電源部の電流容量は、絶縁抵抗検出に必要な小さな電流容量に設定することが可能であるので、測定時に非常に大きな電流がコンデンサからモータの絶縁劣化部を通して負側のスイッチング素子に流れてスイッチング素子を2次破損させたりモータの絶縁劣化部をより劣化させたりするおそれがない。
【0021】
さらに、本発明によれば、モータを駆動制御するスイッチング素子の駆動をブートストラップ電源や高耐圧ICにより行う場合であっても、それらの電源供給を停止できるようにするだけで、適用可能であり、前記と同様に演算を行うことによりモータの絶縁抵抗値を精度よく算出することができる。
【0022】
なお、ここで、「第1スイッチ」は、遮断器を含めてあらゆるスイッチを含み、バッテリや電源の端子と接触する端子や接点であっても、電源からの電力供給をオフすることができる構造であればすべて含むものとする。また、「直流供給部」は、交流から直流に変換する電力変換器のみならず、直流から直流に電圧等を変換し又は維持する電力変換器を含むことは当然であるが、第1電源として直流電源を直結して使用する場合には、接続線、接点、端子等が「直流供給部」を構成するものとする。その他、「スイッチ」と称する場合には、前記の「スイッチ」を含み、電流を止めることができれば如何なるものでもよく、機械的なスイッチ、リレー、半導体スイッチなども含む。
【発明の効果】
【0023】
以上のとおり、本発明では、モータ制御装置において、スイッチング素子の2次破損や、モータのさらなる絶縁劣化を生じさせる恐れがなく、ブートストラップ電源や高耐圧ICを用いたモータ制御装置にも適用でき、モータの絶縁抵抗を精度良く検出できるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のモータ制御装置の第1の態様を示す回路図
図2】本発明のモータ制御装置において、ブートストラップ電源を用いた本発明の第2の態様を示す回路図
図3】本発明のモータ制御装置において、スイッチング素子を駆動する高耐圧ICを用いた本発明の第3の態様を示す回路図
図4】従来のモータ制御装置の一例を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
図1に本発明の第一の態様を示す。
【0026】
なお、以下の説明においては、電流は電流値を、電圧は電圧値を、インピーダンスはインピーダンス値を、また抵抗は抵抗値を含み得るものとし、当業者の技術常識にしたがって、解釈されるものとする。また、半導体のスイッチング素子のゲートドライブ電源については、特記しない限り通常の絶縁電源を用いているので、詳細は省略する。
【0027】
モータ制御装置Cont1は、整流回路(直流供給部)SDCと、正側の母線MLと負側の母線MLからなる母線MLと、平滑コンデンサ(コンデンサ)Cと、半導体スイッチング素子TR〜TRにより構成されるインバータと、絶縁抵抗算出部3とから構成される。
【0028】
モータ制御装置Cont1は、電力供給をオフすることができる電磁接触器(第1スイッチ)MSを介して三相交流電源(第1電源部)Sから供給される三相交流電圧を整流回路(直流供給部)SDCにより全波整流して直流電圧を母線MLに出力する。
【0029】
出力された直流電圧は、母線MLの正側の母線MLと負側の母線MLとの間に接続された平滑コンデンサ(コンデンサ)C1、により平滑化される。
【0030】
平滑化された母線ML、MLに供給されている直流電圧は、正側の母線MLと負側の母線MLとの間に接続された半導体スイッチング素子TR〜TRにより構成されるインバータに供給され、母線ML、MLに供給された直流を逆変換した交流によりモータ1が駆動される。
【0031】
モータ制御装置Cont2は、正側の母線MLと負側の母線MLからなる母線MLと、平滑コンデンサ(コンデンサ)Cと、半導体スイッチング素子TR〜TR12により構成されるインバータと、絶縁抵抗算出部3とから構成される。
【0032】
モータ制御装置Cont2は、モータ制御装置Cont1とともに整流回路SDCからの直流電圧が供給され、半導体スイッチング素子TR〜TR12により構成されるインバータにより母線MLに供給された直流を交流に逆変換してモータ2を駆動するように構成されている。
【0033】
この態様は、モータ1とモータ2がそれぞれ別の軸を駆動するように構成された2軸駆動に適用される構成を示している。
【0034】
モータ制御装置1の絶縁抵抗算出部3は、母線MLのうちの負側母線MLとアースEの間に設けられた直流電源(第2電源部)Sと、スイッチSW(第1スイッチ)と、負側母線MLとモータ1の巻線Lに接続された電流検出抵抗Rと、電流検出抵抗Rの電圧から電流を検出するとともに、絶縁抵抗の検出動作を制御し、また、絶縁抵抗値を演算する検出制御部(電流検出部)4とから構成されている。
【0035】
モータ制御装置2の絶縁抵抗算出部3は、母線MLのうちの負側母線MLとモータ2の巻線Lに接続された電流検出抵抗R、電流検出抵抗Rの電圧から電流を検出し、また、絶縁抵抗値を演算する検出制御部(電流検出部)4から構成されている。
【0036】
電流検出抵抗R、Rはそれぞれの軸のモータ1、2のU相、V相、W相の各相のうちの1相の巻線Lのみに接続すればよく、モータ1、2の巻線Lの抵抗は非常に小さいため、いずれの相でも検出が可能である。
【0037】
直流電源Sは、平滑コンデンサC1、の電圧より低い電圧の範囲で、できるだけ高い電圧の電源を、アースE側の電位が負側母線MLより高い状態になるようにして用いる。また、計測に必要な程度で微小な電流容量の電源を用いている。
【0038】
平滑コンデンサC1、2の電圧より直流電源Sの電圧を低く設定するのは、計測時にモータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2からインバータ部の上アーム(正側)の半導体スイッチング素子TR〜TR、TR〜TRのフリーホイールダイオードDを通して平滑コンデンサC、Cを充電する方向に電流が流れて、絶縁抵抗Rm1、Rm2の検出精度が低下するのを防ぐためである。
【0039】
通常のモータ制御時は、スイッチSWはオフのまま電磁接触器MSをオンとし、インバータにより各軸のモータ制御が行われる。絶縁抵抗検出時は、モータ制御装置Cont1、Cont2を以下のとおり作動させる。
【0040】
全軸のモータ制御動作を停止させ、半導体スイッチング素子TR〜TR12をオフにし、電磁接触器MSを遮断する。そして、インバータの直流電圧VPNと電流検出抵抗Rの電圧VR1A、電流検出抵抗Rの電圧VR2Aを計測する。
【0041】
平滑コンデンサC1、の電圧がインバータを構成する半導体スイッチング素子TR〜TR12に印加されているので、インバータの直流電圧VPNは、実質的に平滑コンデンサC1、の電圧に等しい。かかる電圧により、半導体スイッチング素子TRからTRに電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。同様に半導体スイッチング素子TRからTR10に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。
【0042】
正側の半導体スイッチング素子TRからTRへと流れる電流及びTRからTR10へと流れる電流は、半導体スイッチング素子の漏れ電流である。全ての相に同様に漏れ電流が流れるが、電流検出抵抗R、Rが接続されている一相に着目することによりモータの絶縁抵抗を求めることができる。
【0043】
TR、TRの半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗をそれぞれRtr1とし、また、TR、TR10の半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗をそれぞれRtr2とすると以下の式(1)、(2)が成り立つ。
【0044】
(VPN−VR1A)/Rtr1=VR1A/Rtr1+VR1A/R1 ・・・(1)
(VPN−VR2A)/Rtr2=VR2A/Rtr2+VR2A/R・・・(2)
【0045】
次にスイッチSWをオンにして、負側母線MLに対してアースEに直流電源Sの電圧VDCを印加し、電流検出抵抗Rの電圧VR1Bおよび電流検出抵抗Rの電圧VR2Bを計測する。
【0046】
モータ1に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧がモータの絶縁抵抗Rm1を通して半導体スイッチング素子TRに印加され、電流検出抵抗Rと半導体スイッチング素子TRに電流が流れる。
【0047】
同様にモータ2に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧がモータの絶縁抵抗Rm2を通して半導体スイッチング素子TR10に印加され、電流検出抵抗Rと半導体スイッチング素子TR10に電流が流れる。
【0048】
また、平滑コンデンサC1、の電圧、すなわちインバータの直流電圧VPNが半導体スイッチング素子TR1、TRに印加された状態のため、半導体スイッチング素子TRからTRへと電流が流れ、また、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。
【0049】
同様に、半導体スイッチング素子TRからTR10へと電流が流れ、また、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。
【0050】
これらの半導体スイッチング素子TRからTRへと流れる電流及びTRからTR10へと流れる電流は、これらの半導体スイッチング素子の漏れ電流である。しかし、これら半導体スイッチング素子の漏れ電流は、一般にモータの絶縁抵抗の低下により流れる電流と比較すると小さいので、平滑コンデンサの電圧C1、はほとんど低下しないと想定することができる。
【0051】
この時、以下の式(3)、(4)が成り立つ。
【0052】
(VPN−VR1B)/Rtr1+(VDC−VR1B)/Rm1=VR1B/Rtr1+VR1B/R・・・(3)
(VPN−VR2B)/Rtr2+(VDC−VR2B)/Rm2=VR2B/Rtr2+VR2B/R・・・(4)
【0053】
モータ1の絶縁抵抗Rm1は、前記式(1)と式(3)の連立方程式を解くことにより、以下の式で求めることができる。
【0054】
m1=R(VDC−VR1B)(VPN−2VR1A)/{(VR1B−VR1A)VPN}・・・(5)
【0055】
また、モータ2の絶縁抵抗Rm2は、前記式(2)と式(4)の連立方程式を解くことにより、以下の式で求めることができる。
【0056】
m2=R(VDC−VR2B)(VPN−2VR2A)/{(VR2B−VR2A)VPN}・・・(6)
【0057】
これらの演算は、検出制御部4、4で行われている。なお、電流検出抵抗R、Rの電圧VR1A、R2Aの検出は、それぞれ1回ずつ検出することにより絶縁抵抗値Rm1、Rm2を算出することができることはいうまでもないが、両電圧VR1A、R2Aのいずれか一方又は両方を複数回測定し、測定した電圧の各種平均値を採用しても差支えない。
【0058】
このような各種平均値を用いた場合には、ノイズ等により生じる異常値の影響を軽減できることのほか、より精度の高い絶縁抵抗値Rm1、Rm2を得ることができる。
【0059】
そして、算出した絶縁抵抗値Rm1、Rm2をユーザ装置に情報として伝達する。絶縁抵抗値Rm1、Rm2の伝達は、いかなる手段に依っても良く、有線送信でも、無線送信でも差支えない。
【0060】
絶縁抵抗値Rm1、Rm2を知得したユーザは、かかる絶縁抵抗値が低い場合に絶縁抵抗の劣化が生じていると判断し、モータを交換するなど、予め、モータが地絡してシステムダウンすることを予測し、そのような不都合の発生を防止することができる。
【0061】
絶縁抵抗が劣化しているか否かの判断は、実験や経験的に知られている値と比較することや、正常製品を用いて最初にモータ制御装置を設置した時に測定し、記録又は記憶させた初期値と比較することや、安全基準その他の設定値と比較することなど、適宜の判断手段を用いることができる。
【0062】
モータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2が非常に小さく、半導体スイッチング素子TR〜TR12の負側の半導体スイッチング素子TR〜TR6、TR10〜TR12が短絡破損しているような場合は、直流電源Sからモータ1、2の絶縁劣化部を通して負側の半導体スイッチング素子TR〜TR6、TR10〜TR12に電流が流れるが、直流電源Sの電流容量は、平滑コンデンサC1、と比較すると非常に小さくすることができるため、流れる電流を僅かなものにとどめることができる。
【0063】
したがって、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR6、TR10〜TR12の2次破損や、さらなるモータ1、2の絶縁劣化を生じさせるおそれはない。
【0064】
前記態様では、2つのモータ1、2を使用する2軸のモータ制御装置における本発明の態様について説明したが、1軸あるいは3軸以上の場合においても、同様に本発明を適用することが可能である。前記態様がそうであるように、3軸以上の場合であっても、直流電源Sは1軸にのみに設ければ足りる。
【0065】
前記態様では、第1電源部として三相交流電源Sを用いているが、第1電源部としては、三相交流電源ではなく、単相交流電源を用いても良い。また、前記態様では、直流供給部として整流回路を用いているが、PWMコンバータなどの電源に回生できる回路でも良い。その場合には、PWMコンバータを停止させて計測する。
【0066】
また、第1電源部として、交流電源の代わりにバッテリなどの直流電源を用いても良い。また、電磁接触器を用いなくとも良く、スイッチを用いても良い。また、バッテリを装着するとそのことによりバッテリからモータ制御装置に電力が供給される場合には、バッテリ装着時に電気的に接続される接点や端子自体を第1スイッチとみなし得る。
【0067】
第1電源としてバッテリなどの直流電源を用いた場合であって、直流電源自体が接地されていない場合には、原理的に第1スイッチは不要となる。その場合には、直流電源の電圧、平滑コンデンサの電圧及び半導体スイッチング素子からなるインバータに供給される直流電圧は、ほぼ同じとなる。
【0068】
さらに、前記態様では、モータ制御装置Cont1、Cont2として、半導体スイッチング素子からなる三相インバータを用いているが、単相モータを駆動する場合には単相インバータを用いても良い。なお、インバータ方式は、前記態様のものに限定されるものではなく、フルブリッジであってもハーフブリッジであっても良い。
【0069】
次に、本発明の第2の態様として、ブートストラップ電源を用いた態様を示す。
【0070】
図2に示すとおり、この態様は、インバータの正側の半導体スイッチング素子TR〜TR3、TR〜TRのゲートドライブ電源がブートストラップ電源Bで構成されている場合に適用したものである。
【0071】
モータ制御装置Cont1の正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源として用いられるブートストラップ電源Bは、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR用に設けられたゲートドライブ電源(第3電源部)Sに、抵抗R、ダイオードD、コンデンサCを用いて正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源を構成したものである。
【0072】
負側の半導体スイッチング素子TR〜TRのオン、オフのスイッチングにより、負側の半導体スイッチング素子用のゲートドライブ電源Sから、抵抗R、ダイオードDを通してコンデンサCがチャージされて、正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートを駆動するゲートドライブ電源Bとなる。
【0073】
また、モータ制御装置Cont2も同様に構成されており、負側の半導体スイッチング素子TR10〜TR12用に設けられたゲートドライブ電源Sに、抵抗R、ダイオードD、コンデンサCを用いて正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源を構成している。ゲートドライブ電源の作動は前記モータ制御装置Cont1の場合と同様である。
【0074】
この態様においては、モータ制御装置Cont1において、正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源として用いられるブートストラップ電源Bと、そこに電源を提供する負側の半導体スイッチング素子TR〜TR用に設けられたゲートドライブ電源Sとの間に、電源を遮断するスイッチSW1を介在させて設けている。
【0075】
同様に、モータ制御装置Cont2において、正側の半導体スイッチング素子TR〜TRのゲートドライブ電源として用いられるブートストラップ電源Bと、そこに電源を提供する負側の半導体スイッチング素子TR10〜TR12用に設けられたゲートドライブ電源Sとの間に、電源を遮断するスイッチSWを介在させて設けている。
【0076】
通常のモータ制御時は、スイッチSWはオフ、SW1、SWはオンのまま、電磁接触器MSをオンにし、半導体スイッチング素子TR〜TR12から構成されるインバータにより各軸のモータ1、2が駆動される。
【0077】
絶縁抵抗検出時は、全軸のモータ制御動作を停止させ、半導体スイッチング素子TR〜TR12をオフにし、電磁接触器MSを遮断し、スイッチSW1、SWをオフにする。そして、平滑コンデンサCの電圧に等しいインバータの直流電圧VPNと、電流検出抵抗Rの電圧VR1A及び電流検出抵抗Rの電圧VR2Aとを計測する。
【0078】
平滑コンデンサCの電圧がインバータを構成する半導体スイッチング素子TR〜TR12に印加されているため、半導体スイッチング素子TRからTR4に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。同様に半導体スイッチング素子TRからTR10に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。
【0079】
半導体スイッチング素子TRからTR4に流れ、また、半導体スイッチング素子TRからTR10に流れる電流は、それらの半導体スイッチング素子の漏れ電流である。
【0080】
スイッチSW1、SWをオフにしているため、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR及びTR10〜TR12用のゲートドライブ電源Sからブートストラップ電源Bの抵抗R、ダイオードD、コンデンサCを通して絶縁抵抗検出用の電流検出抵抗R、Rに電流が流れることはない。
【0081】
次にスイッチSWをオンにして、負側母線MLに対してアースEに直流電源Sの電圧VDCを印加し、電流検出抵抗Rの電圧VR1B及び電流検出抵抗Rの電圧VR2Bを計測する。
【0082】
モータ1に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧VDCがモータの絶縁抵抗Rm1を通して負側の半導体スイッチング素子TRに印加され、電流検出抵抗Rと負側の半導体スイッチング素子TRに電流が流れる。
【0083】
同様にモータ2に絶縁劣化がある場合は、直流電源Sの電圧VDCがモータの絶縁抵抗Rm2を通して負側の半導体スイッチング素子TR10に印加され、電流検出抵抗Rと負側の半導体スイッチング素子TR10に電流が流れる。
【0084】
また、平滑コンデンサCの電圧VPNが半導体スイッチング素子TR〜TR12に印加された状態のため、半導体スイッチング素子TRからTRへと電流が流れるとともに、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。同様に半導体スイッチング素子TRからTR10へと電流が流れるとともに、電流検出抵抗Rにも電流が流れる。
【0085】
これらの半導体スイッチング素子TRからTRへと流れる電流及びTRからTR10へと流れる電流は、それらの半導体スイッチング素子の漏れ電流である。
【0086】
しかし、半導体スイッチング素子TRからTRへの漏れ電流及びTRからTR10への漏れ電流は、モータの絶縁抵抗Rm1、Rm2の低下により流れる電流と比較すると小さいので、平滑コンデンサCの電圧はほとんど低下しない。これらの計測結果から、前記の本発明の態様1と同様に、前記式(5)、式(6)から、モータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2を求めることができる。
【0087】
なお、スイッチSW1、SWは、三相を同時にオン・オフする位置に挿入しているが、いずれかの相にスイッチSW1、SWを挿入できるようにゲートドライブ電源を構成しても良い。
【0088】
また、この態様では、モータ制御装置Cont1、Cont2ともブートストラップ電源Bの場合を示しているが、モータ制御装置Cont2がブートストラップ電源Bで、モータ制御装置Cont1のゲート電源が通常の絶縁電源である場合なども、スイッチSWが不要になるだけで、同様に検出することが可能となる。
【0089】
続いて、本発明の第3の態様として、高耐圧IC駆動電源を用いた態様を示す。
【0090】
図3に示すとおり、この態様は、本発明をインバータの正側の半導体スイッチング素子TR〜TR及びTR〜TRのゲート制御信号を高耐圧ICで伝送する場合に適用したものである。
【0091】
通常のモータ制御時は、スイッチSWはオフ、SW1、SWはオンのまま電磁接触器MSをオンにし、スイッチング素子TR〜TR12から構成されるインバータにより各軸のモータ1、2の駆動が行われる。
【0092】
絶縁抵抗検出時は、全軸のモータ制御動作を停止させ、半導体スイッチング素子TR〜TR12をオフにし、電磁接触器MSを遮断し、スイッチSW1、SWをオフにする。そして、平滑コンデンサCの電圧に等しいインバータの直流電圧VPNと電流検出抵抗Rの電圧VR1A、電流検出抵抗Rの電圧VR2Aを計測する。
【0093】
平滑コンデンサCの電圧がインバータを構成する半導体スイッチング素子TR〜TR12に印加されているため、半導体スイッチング素子TRからTR4に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。
【0094】
同様に半導体スイッチング素子TRからTR10に電流が流れ、また、電流検出抵抗Rに電流が流れる。半導体スイッチング素子TRからTR4に流れる電流及びTRからTR10に流れる電流は、それらの半導体スイッチング素子の漏れ電流である。
【0095】
スイッチSW1、SWをオフにしているため、負側の半導体スイッチング素子TR〜TR及びTR10〜TR12用のゲートドライブ電源Sから高耐圧ICの電源を通して絶縁抵抗検出用の電流検出抵抗R、Rに電流が流れることはない。
【0096】
次にスイッチSWをオンにして、負側母線MLに対してアースEに直流電源Sの電圧VDCを印加し、電流検出抵抗Rの電圧VR1B及び電流検出抵抗Rの電圧VR2Bを計測する。
【0097】
これらの計測結果から、前記本発明の第1及び第2の態様と同様に、前記式(5)、式(6)式により、モータ1、モータ2の絶縁抵抗Rm1、Rm2を求めることができる。
【0098】
なお、スイッチSW1、SWは、三相を同時にオン・オフする位置に挿入しているが、いずれかの相にスイッチSW1、SWを挿入できるように高耐圧ICへのゲートドライブ電源を構成しても良い。
【0099】
ブートストラップ電源と高耐圧ICの両方を組み合わせて使用している場合も、前記態様2、3と同様に、スイッチSW1、SWを設けて、ブートストラップ電源と高耐圧ICの両方へのゲートドライブ電源Bからの接続経路を遮断してモータ1、2の絶縁抵抗Rm1、Rm2を検出できる。
【0100】
もちろん、ゲートドライブ電源として通常の絶縁電源を用いたものを組み合わせて使用してもよい。
【0101】
以上、本発明の態様について縷々説明したが、本発明の技術的範囲は、これまでの説明において具体的に明示したものに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項によって包含される態様はすべて含まれるものである。また、個々の用語や説明は、その技術的範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【符号の説明】
【0102】
モータ 1、2
アース E
絶縁抵抗 Rm1、Rm2
モータ制御装置1 Cont1
モータ制御装置2 Cont2
三相交流電源(第1電源部) S
電磁接触器(第1スイッチ) MS
整流回路(直流供給部) SDC
母線 ML
正側母線 ML
負側母線 ML
平滑コンデンサ(コンデンサ) C(C、C
インバータの直流電圧 VPN
半導体スイッチング素子 TR〜TR12
半導体スイッチング素子の等価漏れ抵抗 Rtr1、Rtr2
フリーホイールダイオード D
絶縁抵抗算出部 3(3、3
直流電源(第2電源部) S
直流電源の電圧 VDC
スイッチ(第2スイッチ) SW
検出制御部(電流検出部) 4(4、4
電流検出抵抗 R、R
電流検出抵抗R1の電圧 VR1A
電流検出抵抗R2の電圧 VR2A
ゲートドライブ電源(第3電源部) S
ブートストラップ電源 B
ブートストラップ電源の抵抗 R
ブートストラップ電源のダイオード D
ブートストラップ電源のコンデンサ C
スイッチ(第3スイッチ) SW、SW
高耐圧IC HVIC
【要約】      (修正有)
【課題】半導体スイッチング素子の2次破損や、モータのさらなる絶縁劣化を生じさせる恐れがなく、モータの絶縁抵抗を精度良く検出できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】直流を交流に変換してモータ1、2を駆動制御するスイッチング素子TR〜TR12を備えたモータ制御装置Cont1、Cont2であって、母線MLに一端を接続し、他端を第2スイッチSWを介して接地された第2電源部Sと、モータ1、2の巻線Lと第2電源部Sが接続された母線MLとの間の電流値を検出する電流検出部4(4、4)と、第1スイッチMSにより電力供給をオフし、第2スイッチSWの開時及び閉時において電流検出部4(4、4)によってそれぞれ検出された電流値と、コンデンサC(C、C)の電圧値及び第2電源部Sの電圧値と、に基づいて、前記モータ1、2の絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗算出部3(3、3)とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4