(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643544
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】骨材充填用の漏斗及び押出棒
(51)【国際特許分類】
A61B 17/88 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
A61B17/88
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-251171(P2016-251171)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-102525(P2018-102525A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】516389226
【氏名又は名称】メディカル・ブレイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516389237
【氏名又は名称】株式会社シンクメッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121692
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 勝美
(72)【発明者】
【氏名】内田 正志
(72)【発明者】
【氏名】矢野 純二
【審査官】
後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第105105840(CN,A)
【文献】
特表2005−507686(JP,A)
【文献】
中国実用新案第202096280(CN,U)
【文献】
特開2013−177199(JP,A)
【文献】
特開2015−029894(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0068278(US,A1)
【文献】
米国特許第05409315(US,A)
【文献】
中国実用新案第201029921(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/88−17/92
B65B 39/00−39/14
B67C 11/00−11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に大径開口を有し、下方に行くに従ってその径が小さくなる漏斗部と、前記漏斗部の下端開口からさらに下方に延びた直管部とを備え、
前記直管部の軸に垂直な方向における前記直管部の断面が不連続となるように、前記直管部の外周面に、前記直管部の軸に平行な少なくとも1本の第1スリットが前記直管部の全長にわたって形成されていることを特徴とする骨材充填用の漏斗。
【請求項2】
前記直管部の軸に垂直な方向における前記漏斗部の断面が不連続となるように、前記漏斗部の外周面に、前記第1スリットと連続する第2スリットが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の骨材充填用の漏斗。
【請求項3】
前記漏斗部は、前記直管部の軸を中心として、前記直管部に向かって徐々に開口面積が小さくなる骨材注入部と、補充用の予備骨材収納部を有し、前記骨材注入部と前記予備骨材収納部との間に仕切りが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の骨材充填用の漏斗。
【請求項4】
前記直管部の軸に平行な第1スリット及び前記漏斗部の第2スリットは、前記直管部の軸に対して対称に2本形成されており、前記漏斗部及び前記直管部は、2本の第1スリット及び第2スリットによって2分割されていることを特徴とする請求項2又は請求項2に従属する請求項3に記載の骨材充填用の漏斗。
【請求項5】
2分割された前記直管部は弾性部材によって結合されていることを特徴とする請求項4に記載の骨材充填用の漏斗。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉状又は顆粒状の骨材や移植骨を患部などに充填するための骨材充填用の漏斗及び押出棒に関する。
【背景技術】
【0002】
けがや病気などの疾患により骨に欠損が生じたときの治療法として、欠損した骨を修復するためにHA(ハイドロキシアパタイト)やβ−TCP(β−リン酸三カルシウム)などの粉末状又は顆粒状の人工骨材や移植骨(患者自身の骨や他人の骨)を患部に充填することが行われている。
【0003】
このような粉末状又は顆粒状の骨材や移植骨(以下「骨材」と称する)を患部に充填するために、例えばステンレス鋼等の金属製やABSなどの樹脂製の骨材充填用具が用いられている。この骨材充填用具は、
図4に示すように、漏斗60と押出棒70で構成されている。漏斗60は、骨材Aを挿入しやすくするために、上方に大径開口61aを有し、下方に行くに従ってその径が小さくなる漏斗部61と、漏斗部61の下端開口61bからさらに下方に延びた直管部62と、直管部62からその軸に垂直な方向に突出するように設けられたハンドル63を備えている。また、押出棒70は、漏斗60の直管部62の内径よりも小さい外径を有し及び直管部62の長さよりも長いスティック部71と、スティック部71と同軸で、スティック部71の外径よりも太い外径を有するハンドル部72を備えている。
【0004】
この骨材充填用具の使用に際し、ユーザーは、一方の手で漏斗60のハンドル63を保持し、他方の手で瓶などに入った骨材Aを漏斗部61の開口61aから漏斗部61内に注入する。粉末状又は顆粒状の物質は、漏斗部61に注入した場合に、その出口である下端開口61bのところにブリッジBを形成し、それ以上落下しないことがある。そのため、漏斗部61に注入した骨材AがブリッジBを形成して落下が止まると、ユーザーは押出棒70を使ってブリッジBを崩し、骨材を直管部62に落下させる。HA製やβ−TCP製の人工骨は硬く、表面に凹凸があり、且つ、凹凸部の角が尖っているため、直管部62の内部で、さらにブリッジCを形成して詰まることがある。そのような場合にも、押出棒70のスティック部71を漏斗60の直管部62に差し込み、ブリッジCを崩して骨材を患部に充填している。
【0005】
ところが、漏斗60は、上記のようにステンレス鋼などの金属製又はABS等の樹脂製であり、その軸に垂直な方向の断面が円形であるため、変形しにくく、骨材のブリッジB又はCを崩すには、押出棒70を何回も上下動させて、骨材Aの凹凸部の角を破壊させなければならす、作業性が非常に低い。この漏斗60の直管部62で生じた骨材Aのブリッジを崩しやすくするため、特許文献1では、漏斗60の材質を樹脂とすると共に、
図5(a)に示すように、直管部62の外壁62dの形状が、巨視的には円筒状であるが、微視的には外周面62a及び内周面62bにそれぞれ直管部62の中心軸と平行な筋状となるように、直管部62の中心軸に垂直な断面を凹凸形状62cとしている。そして、直管部62の内部で骨材が詰まった場合に、
図2(b)に示すように、直管部62の外壁62dを指などで加圧し、直管部62の断面形状を変形させて、詰まった骨材Aを落下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−029894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された漏斗60では、樹脂を材料とし、さらに、直管部62の外壁62dを加圧変形させたときに、変形量が大きくなるように形成されているため、直管部62の内部に骨材が詰まった場合でも、比較的容易に詰まった骨材を落下させることができる。ところが、HA製やβ−TCP製の人工骨は硬く、表面に凹凸があり、且つ、凹凸部の角が尖っているため、この凹凸部の角によって直管部62の内周面62bが削られてしまい、樹脂片が骨材と一緒に患部に充填されてしまう虞がある。また、骨材の粒子の大きさや硬さ、樹脂の材質や厚みなどによっては、漏斗60の直管部62の外壁62dが破れてしまう虞もある。さらに、漏斗60の材料が樹脂に限定されてしまう。
【0008】
本発明は、上記従来例の問題を解決するためになされたものであり、金属や樹脂を含む様々な材料で成形可能であり、且つ、骨材が漏斗の直管部で詰まったとしても比較的容易に落下させることのできる、骨材充填用の漏斗及び押出棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る骨材充填用の漏斗は、上方に大径開口を有し、下方に行くに従ってその径が小さくなる漏斗部と、前記漏斗部の下端開口からさらに下方に延びた直管部とを備え、前記直管部の軸に垂直な方
向における前記直管部の断面が不連続となるように、前記直管部の外周面に、前記直管部の軸に平行な少なくとも1本の第1スリットが前記直管部の全長にわたって形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記直管部の軸に垂直な方向における前記漏斗部の断面が不連続となるように、前記漏斗部の外周面に、
前記第1スリットと連続する第2スリットが形成されていてもよい。
【0011】
また、前記漏斗部は、前記直管部の軸を中心として、前記直管部に向かって徐々に開口面積が小さくなる骨材注入部と、補充用の予備骨材収納部を有し、前記骨材注入部と前記予備骨材収納部との間に仕切りが設けられていてもよい。
【0012】
または、前記直管部の軸に平行な第1スリット及び前記漏斗部の第2スリットは、前記直管部の軸に対して対称に2本形成されており、前記漏斗部及び前記直管部は、2本の第1スリット及び第2スリットによって2分割されていてもよい。
【0013】
また、2分割された前記直管部は弾性部材によって結合されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、漏斗を構成する、少なくとも、直管部の軸に垂直な方向における直管部の断面が不連続となるように、直管部の外周面に、直管部の軸に平行なスリットが形成されているので、例えば円形などの直管部の断面が連続している従来のものと比較して、機械的な強度が低くなっている。そのため、直管部の内部で骨材が詰まったとしても、詰まった骨材を上から押出棒で突くことにより、骨材がスリット部分から直管部を両側に押し広げ、直管部が変形しやすくなる。そのため、漏斗の材料がステンレス鋼などの固い材料であっても、直管部の内部で詰まった骨材を簡単に直管部の下方に落下させることができる。
【0017】
また、押出棒は、ハンドル部を兼ねたハンマー部が摺動軸に沿って上下方向に摺動可能であるので、押出棒の全体を上下動させることなく、スティック部の先端を詰まった骨材に押し当てたまま、ハンマー部を動軸に沿って上下動させるだけで、スティック部に衝撃を加えることができる。そして、スティック部が上下動しないので、スティック部の先端と接触している骨材にハンマー部による打撃力を確実に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る骨材充填用の漏斗及び押出棒の第1構成例を示す斜視図。
【
図2】骨材充填用の漏斗及び押出棒の第2構成例を示す斜視図。
【
図3】骨材充填用の漏斗及び押出棒の第3構成例を示す斜視図。
【
図4】従来の骨材充填用の漏斗及び押出棒の構成を示す斜視図。
【
図5】特許文献1に記載された従来の漏斗の直管部の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る骨材充填用の漏斗及び押出棒(骨材充填用具)の第1構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
図1に示すように、この第1構成例に係る漏斗10は、最もシンプルな構造を有しており、例えば
図4に示す従来の骨材充填用の漏斗60に追加工を施して製造することができる。具体的には、漏斗10は、上方に大径開口11aを有し、下方に行くに従ってその径が小さくなる漏斗部(骨材注入部)11と、漏斗部11の下端開口11bからさらに下方に延びた直管部12と、直管部12からその軸に垂直な方向に突出するように設けられたハンドル13を備え、直管部12の軸に垂直な方向における直管部12の断面が不連続となるように、直管部12の外周面に、直管部12の軸に平行な第1スリットS1が形成されている。また、直管部12の軸に垂直な方向における漏斗部11の断面が不連続となるように、漏斗部11の外周面に
スリットS1と連続する第2スリットS2が形成されている。
【0020】
また、本実施形態に係る骨材充填用の押出棒20は、この押出棒20と対になって使用される漏斗10の直管部12の内径よりも小さい外径及び直管部12の長さよりも長いスティック部21と、スティック部21と同軸で、スティック部21の延長上に形成された摺動軸22と、摺動軸22の外径よりも太い内径及び該内径よりも太い外径を有し、摺動軸22の軸方向に摺動可能なハンマー部23と、スティック部21と摺動軸22との接続部に設けられ、ハンマー部23の摺動範囲を規制する前側ストッパー24と、摺動軸22の前側ストッパー24とは反対側の端部に設けられ、ハンマー部23の摺動範囲を規制する後側ストッパー25を備えている。スティック部21の先端は、半球状等の凸面であってもよいし、あるいは、湾曲面などの凹面であってもよい。一例として、ハンマー部23の外径は、例えばφ20mm、長さ30mm、化合範囲は50mm程度である。
【0021】
漏斗10は、第1スリットS1及び第2スリットS2により、直管部12の軸に垂直な断面の形状が不連続であるため、スリットのない従来の漏斗60に比べて機械的な強度が低くなっている。そのため、直管部12の内部で骨材が詰まったとしても、詰まった骨材を上から押出棒20で突くことにより、骨材が第1スリット部分S1から直管部12を両側に押し広げ、直管部12が変形しやすくなる。そのため、漏斗10の材料がステンレス鋼などの固い材料であっても、直管部12の内部で詰まった骨材を簡単に直管部12の下方に落下させることができる。
【0022】
また、押出棒20は、ハンドル部を兼ねたハンマー部23が摺動軸22に沿って上下方向に摺動可能であるので、押出棒20の全体を上下動させることなく、スティック部21の先端を詰まった骨材に押し当てたまま、ハンマー部23を摺動軸22に沿って上下動させて前側ストッパー24に衝突させるだけで、スティック部21に衝撃を加えることができる。そして、スティック部21が上下動しないので、スティック部21の先端と接触している骨材にハンマー部23による打撃力を確実に伝達することができる。
【0023】
なお、漏斗10に関しては、直管部12に少なくとも1つの第1スリットS1が形成されていればよく、漏斗部11の第2スリットS2は形成されていなくてもよい。また、直管部12に形成される第1スリットS1の数は1本に限定されず、2本以上であってもよい。
【0024】
図2は、本実施形態に係る漏斗10の第2構成例を示す。
図2からわかるように、この第2構成例では、漏斗部11は、直管部12の軸を中心として、直管部12に向かって徐々に開口面積が小さくなる骨材注入部14と、直管部12の軸に対して第2スリットS2とは反対側に、補充用の骨材を収納しておくための予備骨材収納部15を有し、骨材注入部14と予備骨材収納部15との間に、予備骨材収納部15に収納された骨材が骨材注入部14に落下しないようにするための仕切り16が設けられている。このように、予備骨材収納部15を設けることによって、少量ずつ骨材を骨材注入部14に注入することができ、欠損が生じた患部に適量の骨材を注入することができる。なお、この第2構成例においても、漏斗部11の第2スリットS2は形成されていなくてもよい。
【0025】
図3は、本実施形態に係る漏斗10の第2構成例を示す。
図3からわかるように、この第3構成例では、漏斗10の全体が、直管部12の軸を通る1つの面において2分割されており、結果的に、分割面が直管部の軸に対して対称に配置された2本の第1スリットS1及び第2スリットS2を形成している。また、ハンドル13は、2分割された漏斗部11から外向きに突出するように形成されている。漏斗10を構成する2分割された部材を、例えばハンドル13の部分を溶接することによって結合してもよいし、あるいは、2分割された直管部12を、樹脂チューブなどの弾性部材17によって結合してもよい。
【0026】
それぞれ患部に注入される骨材の粒径に応じて、直管部12の内径が異なる複数種類の漏斗10が用意されており、また、それに応じて、スティック部21の外径が異なる複数種類の押出棒20が用意されている。骨材の大きさは、大きくても直径7mm程度であり、形状及び大きさは不揃いであるので、直管部12の内径としては、例えばφ2.5mm(外径φ4mm)、φ4.5mm(外径φ6mm)、φ6.5mm(外径8mm)などを用意すればよい。また、漏斗10の直管部12の長さは100〜200mm程度であり、直管部12の外周部に、患部への差し込み深さの目安として、例えば先端から10mm、20mm、30mm、40mm,50mm、60mm・・・の位置にマーキングを設けてもよい。
【0027】
なお、上記漏斗10の材質は、ステンレス鋼やチタン合金などの金属の他、ABS、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂であってもよい。また、押出棒20の材質も、ステンレス鋼やチタン合金などの金属の他、ハンマー部23を除いて、ABS、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂であってもよい。また、骨材には、粉末状又は顆粒状の人工骨材や移植骨(患者自身の骨や他人の骨)が含まれることは言うまでもない。さらに、上記漏斗10からハンドル13を省略してもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 漏斗
11 漏斗部
11a 大径開口
11b 下端開口
12 直管部
13 ハンドル
14 骨材注入部
15 予備骨材収納部
16 仕切り
17 弾性部材
20 押出棒
21 スティック部
22 摺動軸
23 ハンマー部
24 前側ストッパー
25 後側ストッパー