特許第6643557号(P6643557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643557
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】熱交換マット
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/12 20060101AFI20200130BHJP
   F24F 1/0093 20190101ALI20200130BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20200130BHJP
   F28F 21/06 20060101ALI20200130BHJP
   F24D 3/16 20060101ALI20200130BHJP
   F24F 13/24 20060101ALI20200130BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20200130BHJP
   F28F 3/14 20060101ALI20200130BHJP
   F28F 9/02 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   F28F3/12 C
   F24F1/0093
   F24F5/00 101B
   F28F21/06
   F24D3/16 A
   F24D3/16 G
   F24F13/24 242
   F28F21/08 Z
   F28F3/14 A
   F28F9/02 301E
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-7242(P2016-7242)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-129289(P2017-129289A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134534
【氏名又は名称】株式会社トヨックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(72)【発明者】
【氏名】宮村 正司
(72)【発明者】
【氏名】田中 智明
【審査官】 田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−240744(JP,A)
【文献】 実公昭47−022850(JP,Y1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0251009(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/0093
F24F 5/00
F24F 13/24
F28F 3/12
F24D 3/16
F28F 3/14
F28F 9/02
F28F 21/06
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の第1の樹脂製シートと、
断面形状が頂上部が平坦な山部と底部が平坦な谷部とが交互に形成された波形状を有し、前記山部が前記第1の樹脂製シートに接合された第2の樹脂製シートとを備え、
前記第2の樹脂製シートの前記谷部と前記第1の樹脂製シートとの間に形成された空間を熱媒体が流れる熱交換流路とし、
さらに、前記熱媒体の供給側に配置される供給側メインパイプと、
前記供給側メインパイプに対向して熱媒体の戻り側に配置される戻り側メインパイプと、
前記供給側メインパイプに一端が接続され、前記戻り側メインパイプに他端が接続され、前記熱交換流路を内部に有する複数の熱交換パイプと、
前記供給側メインパイプに接続された供給側コネクタと、
前記戻り側メインパイプに接続された戻り側コネクタとを備え、
前記供給側コネクタ及び前記戻り側コネクタは、前記第1の樹脂製シートに形成された、
熱交換マット。
【請求項2】
前記第1の樹脂製シートと前記第2の樹脂製シートとの接合面は、前記供給側メインパイプ及び前記戻り側メインパイプと前記熱交換パイプが合流する付近では、前記供給側メインパイプ及び前記戻り側メインパイプのそれぞれの断面中心から前記第2の樹脂製シートの前記谷部側に寄せて設けられた、
請求項に記載の熱交換マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射空調を行うための輻射パネル及びそれに用いられる熱交換マットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天井に敷設する輻射パネルとして、金属製のパネル本体の裏面に樹脂製の熱交換パイプを配置し、熱交換パイプに所望の温度の熱媒体を流すことにより、パネル本体からの輻射によって室内の冷暖房を行うものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この輻射パネルは、複数の吸音孔が形成されたパネル本体と、パネル本体の裏面側に配置され、断面形状が山部と谷部とが交互に形成された波形状の第1の熱伝導シートと、第1の熱伝導シートの谷部の上側に配置された断面円形の複数の樹脂製の熱交換パイプを有する熱交換マットと、パネル本体と第1の熱伝導シートとの間に配置され、第1の熱伝導シートの谷部が接着された第2の熱伝導シートとを備えたものであり、第1及び第2の熱伝導シートは、面内方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高いものが用いられている。
【0004】
この構成により、第1及び第2の熱伝導シートが不燃シートの機能を有しているため、室内で火災が発生しても、炎が吸音孔からパネル本体の裏側に進入して熱交換パイプに引火することを防ぐことができる。
【0005】
また、従来、内部流路を有する樹脂製の床暖房パネルユニットが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この床暖房パネルユニットは、複数の断面半円状の凹溝を有する第1樹脂製シートと、第1樹脂製シートの凹溝が形成された面に接合された平面状の第2樹脂製シートとを備える。第1樹脂製シートの凹溝と第2樹脂製シートとで形成された空間が熱媒体が流れる断面半円状の流路となる。
【0007】
このように構成された床暖房パネルユニットは、第2樹脂製シートを上側、第1樹脂製シートを下側にして木製の床合板の上に敷設され、床暖房パネルユニットの上方に木製の床仕上げ材が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−240744号公報
【特許文献2】特開2013−49186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の輻射パネルは、輻射パネルを運転してからパネル本体の表面温度が目標温度にほぼ近い温度(準目標温度)に達するまでの準備時間が比較的長いため、例えば、オフィスの始業時間にパネル本体の表面温度を準目標温度にさせるためには、その準備時間を考慮して早めに輻射パネルの運転を開始する必要がある。また、準備時間が長ければ、その分エネルギーが必要になる。
【0010】
また、波形状の第1の熱伝導シートは、元の平坦な状態に戻ろうとするため、その動きを規制するために第1の熱伝導シートの谷部を第2の熱伝導シートに接着させている。このため、熱交換パイプの熱をパネル本体に伝えるための第1の熱伝導シートの他に、熱交換パイプの動きを規制するための第2の熱伝導シートを必要としている。
【0011】
また、従来の輻射パネルは、断面円形の熱交換パイプを用いているため、熱交換パイプとパネル本体とは線接触となるため、熱交換パイプからの熱がパネル本体に伝わり難い。
【0012】
従来の床暖房パネルユニットは、熱媒体の流路の断面形状が半円状であるので、熱の効率的な伝達は良くても十分な流量を確保できないことから、熱交換効率を向上させることは難しい。
【0013】
したがって、本発明の目的は、パネル本体の表面温度を目標温度にほぼ近い準目標温度に達するまでの時間を短縮することが可能な輻射パネル及びそれに用いられる熱交換マットを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、部品点数を減らすことができ、効率的な輻射を実現することができる輻射パネル及びそれに用いられる熱交換マットを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、熱交換効率の高い輻射パネル及びそれに用いられる熱交換マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]平面状の第1の樹脂製シートと、断面形状が頂上部が平坦な山部と底部が平坦な谷部とが交互に形成された波形状を有し、前記山部が前記第1の樹脂製シートに接合された第2の樹脂製シートとを備え、前記第2の樹脂製シートの前記谷部と前記第1の樹脂製シートとの間に形成された空間を熱媒体が流れる熱交換流路とする熱交換マットと、
前記熱交換マットの前記谷部が対向するように前記熱交換マットが裏面側に配置される金属から形成されたパネル本体と、を備えた輻射パネル。
[2]平面状の第1の樹脂製シートと、断面形状が頂上部が平坦な山部と底部が平坦な谷部とが交互に形成された波形状を有し、前記山部が前記第1の樹脂製シートに接合された第2の樹脂製シートとを備え、前記第2の樹脂製シートの前記谷部と前記第1の樹脂製シートとの間に形成された空間を熱媒体が流れる熱交換流路とする熱交換マットと、
前記熱交換マットの前記谷部が対向するように前記熱交換マットが裏面側に配置される金属から形成されたパネル本体と、
前記熱交換マットと前記パネル本体との間に配置され、前記熱交換マットの前記山部側に膨出した山部を有し、前記山部と前記パネル本体との間を共鳴空間とし、前記熱交換マットよりも熱伝導性が高い熱伝導シートとを備え、
前記パネル本体は、前記共鳴空間に臨むように複数の吸音孔が形成された輻射パネル。
【0015】
[3]平面状の第1の樹脂製シートと、
断面形状が頂上部が平坦な山部と底部が平坦な谷部とが交互に形成された波形状を有し、前記山部が前記第1の樹脂製シートに接合された第2の樹脂製シートとを備え、
前記第2の樹脂製シートの前記谷部と前記第1の樹脂製シートとの間に形成された空間を熱媒体が流れる熱交換流路とする熱交換マット。
[4]前記熱媒体の供給側に配置される供給側メインパイプと、
前記供給側メインパイプに対向して熱媒体の戻り側に配置される戻り側メインパイプと、
前記供給側メインパイプに一端が接続され、前記戻り側メインパイプに他端が接続され、前記熱交換流路を内部に有する複数の熱交換パイプと、
前記供給側メインパイプに接続された供給側コネクタと、
前記戻り側メインパイプ21に接続された戻り側コネクタとを備え、
前記供給側コネクタ及び前記戻り側コネクタは、前記第1の樹脂製シートに形成された、前記[3]に記載の熱交換マット。
[5]前記第1の樹脂製シートと前記第2の樹脂製シートとの接合面は、前記供給側メインパイプ及び前記戻り側メインパイプと前記熱交換パイプが合流する付近では、前記供給側メインパイプ及び前記戻り側メインパイプのそれぞれの断面中心から前記第2の樹脂製シートの前記谷部側に寄せて設けられた、前記[4]に記載の熱交換マット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パネル本体の表面温度を目標温度にほぼ近い準目標温度に達するまでの時間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る輻射パネルの斜視図である。
図2図2は、図1のA−A線断面図である。
図3図3は、熱交換マットの要部を示す側面図である。
図4図4は、熱交換マットの要部を示す斜視図である。
図5図5は、熱交換マットの要部を示す分解斜視図である。
図6図6は、図4のB−B線断面図である。
図7図7は、図6の工程に続く工程を示す断面図である。
図8図8は、コネクタの接続工程を示す断面図である。
図9図9は、比較例のコネクタ成形部を示す図3に対応する側面図である。
図10図10は、本実施の形態の変形例1に係る輻射パネルの要部断面図である。
図11図11(a)、(b)、(c)は、それぞれパネル表面温度の変化をシミュレーションした実施例1、比較例1、比較例2を示す斜視図である。
図12A図12Aは、暖房における表面温度のシミュレーション結果を示すグラフである。
図12B図12Bは、暖房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図13A図13Aは、冷房における表面温度のシミュレーション結果を示すグラフである。
図13B図13Bは、冷房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14A図14A(a)、(b)は、それぞれパネル表面温度の変化のシミュレーションに用いた実施例2、比較例3を示す断面図である。
図14B図14Bは、冷房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る輻射パネルの斜視図である。図2は、図1のA−A線断面図である。
【0020】
この輻射パネル1は、主として樹脂で形成された熱交換マット2と、熱交換マット2が裏面側に配置される金属で形成されたパネル本体3と、熱交換マット2とパネル本体3との間に配置され、熱交換マット2よりも熱伝導性の高い熱伝導シート4とを備える。
【0021】
(熱交換マットの構成)
熱交換マット2は、平面状の第1の樹脂製シート210と、断面形状が頂上部が平坦な山部221と底部が平坦な谷部222とが交互に形成された波形状を有し、山部221が第1の樹脂製シート210に接合された第2の樹脂製シート220とを備え、第2の樹脂製シート220の谷部222と第1の樹脂製シート210との間に形成された空間が熱媒体が流れる熱交換流路224になる。
【0022】
また、熱交換マット2は、図1に示すように、熱媒体の供給側に配置される供給側メインパイプ20と、供給側メインパイプ20に対向して熱媒体の戻り側に配置される戻り側メインパイプ21と、供給側メインパイプ20に一端が接続され、戻り側メインパイプ21に他端が接続された複数の熱交換パイプ22と、供給側メインパイプ20に接続された供給側コネクタ23Aと、戻り側メインパイプ21に接続された戻り側コネクタ23Bとを備える。なお、図2に示すように、第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220により熱交換流路224を囲んだ部分が熱交換パイプ22を構成する。また、図2に示すように、熱交換パイプ22間の第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220の部分は、熱交換パイプ22を連結する連結部24を構成する。
【0023】
第2の樹脂製シート220は、図2に示すように、頂上部が平坦な山部221と、底部が平坦な谷部222とが熱交換マット2の幅方向(図2において左右方向)に交互に形成されている。山部221と谷部222の側方の壁は、垂直な側壁223になっている。なお、側壁223は斜めに形成されていてもよい。
【0024】
熱交換流路224の形状は、パネル本体3への熱伝達効率を考慮すると、断面矩形状とし、高さHよりも幅Wの方が大きい方が好ましい。熱交換流路224のサイズは、例えば、幅W=2〜10mm、高さ=1〜8mmである。複数の熱交換パイプ22は、一定のピッチP、例えば熱交換流路224の幅Wの2〜3倍でほぼ平行に配列されている。
【0025】
供給側コネクタ23A及び戻り側コネクタ23Bは、一部金属製部品を有して形成されており、第1の樹脂製シート210に設けられている。供給側コネクタ23Aには、図示しない熱交換ユニットから供給側配管が接続される。戻り側コネクタ23Bには、図示しない熱交換ユニットから戻り側配管が接続される。
【0026】
供給側メインパイプ20及び戻り側メインパイプ21は、複数の熱交換パイプ22に対して熱媒体の共通の流路となっているため、熱交換パイプ22の熱交換流路224の断面積よりも大きい流路の断面積を有している。供給側メインパイプ20及び戻り側メインパイプ21の流路の形状は、耐圧を考慮すると、円形が好ましい。
【0027】
熱交換マット2は、後述する図3に示すように、供給側メインパイプ20と熱交換パイプ22との合流付近では、第1の樹脂製シート210と第2の樹脂製シート220との接合面、すなわちパーティングライン2bを供給側メインパイプ20の断面中心20bからパネル本体3側に寄せている。これは戻り側メインパイプ21も同様であるので、供給側メインパイプ20を例に挙げて説明する。パーティングライン2bを上述したようにすることにより、第2の樹脂製シート220の表面、すなわち谷部222の表面222aを供給側メインパイプ20の表面20aの接線上に設けることができ、熱交換パイプ22と熱伝導シート4との接触面積が増え、熱交換パイプ22の熱をパネル本体3に伝え易くなる。
【0028】
第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220は、例えば、ブロー成形により形成される。なお、第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220をそれぞれ射出成型等により形成した後、両者をパーティングライン2bで接着してもよい。図2において、符号2aは、ブロー成形において第1の樹脂製シート210と第2の樹脂製シート220とを金型で接合する際に形成される凹部である。
【0029】
第1及び第2の樹脂製シート210、220は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0030】
(パネル本体の構成)
パネル本体3は、図1〜2に示すように、例えば短手方向の辺(短辺)と長手方向の辺(長辺)との比が1:2の長方形を有する底壁30と、底壁30の周辺に設けられた側壁31と、側壁31の開口側端部に外側に向かって形成された鍔部32と、供給側メインパイプ20及び戻り側メインパイプ21を底壁30側に押える押さえ部33とを備える。輻射パネル1を室内の天井や壁等に敷設した場合は、パネル本体3の底壁30の表面30bが赤外線(熱線)を放出又は吸収して室内を輻射空調する輻射面となる。
【0031】
パネル本体3は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鋼板等の金属から一体的に形成される。パネル本体3は、例えば0.5〜2mmの厚さを有する。
【0032】
パネル本体3の底壁30は、例えば600mm×1200mmの長方形を有する。なお、パネル本体3の底壁30は、正方形(例えば600mm×600mm)でもよい。パネル本体3は、例えば、梁部材間に整列して配置される。
【0033】
パネル本体3は、底壁30のほぼ全面に複数の例えば円形の吸音孔30cを例えば格子状(ピッチ5〜20mm)に形成されている。吸音孔30cの孔径は、吸音効果の点で0.5〜3mmが好ましい。また、吸音孔30cの孔径は、吸音率がやや低下するが、視覚の点で0.5〜1mmが好ましく、0.6〜0.8mmがより好ましい。吸音孔30cの孔径を0.5〜1mmとすることにより、2m離れた所からパネル本体3を見たときに吸音孔30cが孔として視認され難くなり、不安な気持ちを少なくさせるという効果が得られる。吸音孔30cの数及び直径は、例えば開口率0.8〜3%となるように定められる。なお、発明者によるJIS A 1409に定められた残響室法吸音率測定によると、吸音孔30cの孔径2.5mm、開口率16%の金属製のパネル本体3に対し、吸音孔30cの孔径0.7mm、開口率1.6%としても吸音率は、51%から41%へ若干の低下にとどまることが実証できている。
【0034】
(熱伝導シートの構成)
熱伝導シート4は、少なくとも第2の樹脂製シート220の谷部222の表面222aとパネル本体3の裏面30aとに密着し、面内方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高い。熱伝導シート4は、面内方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高く、1mm以下若しくは2mm以下の厚さ(例えば0.15〜0.4mm)を有する。
【0035】
熱伝導シート4は、熱交換マット2の第2の樹脂製シート220に連続して接触するように第2の樹脂製シート220の山部221側に膨出して頂上部が平坦な山部40と底部が平坦な谷部41が交互に形成された波形状を有している。山部40と谷部41の側方の壁は、垂直な側壁42になっている。熱伝導シート4の山部40とパネル本体3との間の空間43に臨むようにパネル本体3の吸音孔30cが位置し、当該空間43が共鳴空間となり、ヘルムホルツ共鳴による吸音が可能になる。
【0036】
熱伝導シート4の山部40、谷部41及び側壁42は、例えば素材シートの曲げ加工(プレス加工を含む。)によって形成される。
【0037】
熱伝導シート4を製造するための素材シートは、例えば、次のように作製される。すなわち、所定の割合の炭素繊維等からなる熱伝導粉末、アクリル繊維等からなる叩解パルプ、ポリエステル繊維等からなる非叩解繊維、及びポリエステル繊維等からなるバインダー繊維の組成物を水中に混合分散し、固形分濃度が所定の値となるようにスラリーを調製する。次に、凝集剤を添加した後、スラリーをシート化して抄紙シートとし、この抄紙シートをプレスして乾燥させた後、このシートを所定の条件(圧力、温度、時間)で加熱プレスを行ってバインダー繊維を溶融して素材シートを作製する。この素材シートとしては、例えば阿波製紙株式会社製のCARMIX(黒鉛シート)等を用いることができる。このように製造された熱伝導シート4は、不燃シートの機能を有する。
【0038】
(熱交換マットの製造方法)
図3図8は、熱交換マットの製造方法の一例を示す図である。図3は、熱交換マットの要部を示す側面図である。図4は、熱交換マットの要部を示す斜視図である。図5は、熱交換マットの要部を示す分解斜視図である。図6は、図4のB−B線断面図である。図7は、図6の工程に続く工程を示す断面図である。図8は、コネクタの接続工程を示す断面図である。
【0039】
第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220をブロー成形により形成し、図3図5に示すように、第1の樹脂製シート210及び第2の樹脂製シート220をパーティングライン2bにて接合する。
【0040】
すなわち、第1の樹脂製シート210の外面形状に対応した内面形状を有する第1の金型と、第2の樹脂製シート220の外面形状に対応した内面形状を有する第2の金型を用意する。次に、内面形状が対向するように第1の金型と第2の金型を離間して配置し、第1の金型と第2の金型との間に溶融状態の一対の樹脂製シートを配置し、溶融状態の一対の樹脂製シートを第1の金型側と第2の金型側から吸引することにより、溶融状態の第1の樹脂製シート210を第1の金型の内面に密着させ、溶融状態の第2の樹脂製シート220を第2の金型の内面に密着させる。次に、第1の金型と第2の金型とを型締めし、第1の樹脂製シート210と第2の樹脂製シート220とをパーティングライン2bにて溶着させる。
【0041】
第1の樹脂製シート210には、ブロー成形によって供給側コネクタ23A及び戻り側コネクタ23Bとなるコネクタ成形部230が形成される。コネクタ成形部230は、円筒状の基部231と、基部231に接続され、基部231よりも直径の小さい円筒状のインサート凹部232と、インサート凹部232に接続され、インサート凹部232よりも直径の大きい端部233と、インサート凹部232の外側にインサート成形によって配置されたインサート金具234とを備える。インサート金具234には、図6に示すとおり、後述するコネクタ金具234を接続するためのフランジ部235を形成することが望ましい。
【0042】
次に、図7に示すように、コネクタ成形部230の端部233を切断する。次に、図8に示すように、コネクタ金具25をコネクタ成形部230のインサート金具234に装着する。以上のようにして熱交換マット2が製造される。
【0043】
コネクタ金具25は、インサート凹部232に接続される管状の継手部250と、継手部250に接続され、ホースの内面が嵌合される管状のニップル251と、ホースの外面に係止する管状のスリーブ252と、継手部250の先端側を覆う円筒状の第1のケース253と、ニップル251及びスリーブ252を覆う円筒状の第2のケース254と、インサート凹部232と第1のケース253との間に配置されてインサート金具234を内側に付勢する第1のバネ部材255と、ニップル251の外周側に配置されてスリーブ252を供給側メインパイプ20と反対側に付勢する第2のバネ部材256とを備える。
【0044】
継手部250は、インサート凹部232に挿入されて嵌合する嵌合部250aと、第1のケース253とねじ結合するねじ部250bと、第2のケース254とねじ結合するねじ部250cと、ニップル251の先端側の嵌合部が挿入される凹部250dとを有する。嵌合部250aは、外周面にOリング257を備えている。
【0045】
ニップル251は、継手部250の凹部250dに挿入されて嵌合する第1の嵌合部251aと、ホースの内面が嵌合する第2の嵌合部251bとを有する。第1の嵌合部251aの外周面にOリング258を備え、第2の嵌合部251bの外周面にOリング259を備えている。
【0046】
ホースをコネクタ金具25に接続するときは、ホースをニップル251とスリーブ252との間に挿入することで、スリーブ252の内面側に設けられた突起252aがホースに食い込んでホースの抜けを防ぐ。
【0047】
図9は、比較例のコネクタ成形部を示す図3に対応する側面図である。この比較例は、コネクタ成形部230’をパーティングライン2bに跨って形成した場合を示す。図9に示すように、パーティングライン2bに跨ってコネクタ成形部230’を形成すると、パーティングライン2b上にバリが形成されてバリ取り作業が増えたり、漏洩のおそれもある。比較例に対し、本実施の形態のコネクタ成形部230は、パーティングライン2bを避けて第1の樹脂製シート210に設けられているため、バリ取り作業が不要になり、漏洩のおそれもない。
【0048】
(輻射パネルの動作)
図示しない熱交換ユニットから温度等が制御された水等の熱媒体を、供給側配管を介して供給側メインパイプ20の供給側コネクタ23Aに供給すると、熱媒体は供給側メインパイプ20から各熱交換パイプ22に分岐し、さらに各熱交換パイプ22を循環して戻り側メインパイプ21で合流し、戻り側コネクタ23Bから戻り側配管を介して熱交換ユニットに戻る。熱媒体が熱交換パイプ22を通過する間に熱伝導シート4及びパネル本体3との間で熱交換が行われる。すなわち、熱媒体の熱が熱交換パイプ22から熱伝導シート4に伝わり、さらにパネル本体3の底壁30全体に伝わり、底壁30の表面30bが輻射面となって輻射空調が行われる。
【0049】
(実施の形態の作用、効果)
本実施の形態によれば、以下の作用、効果を奏する。
(1)熱交換パイプ22の熱交換流路224を断面矩形状にし、第2の樹脂製シート220の谷部222が熱伝導シート4に面接触していることから、熱交換パイプ22からの熱を熱伝導シート4を介してパネル本体3に伝え易くなる。
(2)熱交換パイプ22を連結部24で連結しているので、連結部24を設けていない構成と比べて熱交換マット2と熱交換マット2の背面側の空気との熱交換効率が高くなる。
(3)以上の結果、パネル本体3の表面温度を目標温度にほぼ近い温度にするまでのエネルギーを減らすことができ、輻射パネル1を運転してからパネル本体3の表面温度を目標温度にほぼ近い温度するまでの時間を短縮することができる。
(4)パネル本体3に底壁30に吸音孔30cを設けことにより、熱伝導シート4の山部40とパネル本体3との間の空間43を共鳴空間とすることができ、ヘルムホルツ共鳴により大きな吸音効果が得られる。
(5)熱伝導シート4が不燃シートの機能を有しているため、室内で火災が発生しても、炎が吸音孔30cからパネル本体3の裏側に進入して熱交換マット2に引火するのを防ぐことができる。
(6)熱交換パイプ22を連結部24で連結しているため、熱交換マット2の表面積が増えるため、熱交換パイプ22を連結部24で連結していない構成と比較して熱交換効率を高くすることができる。
(7)天井側のスラブとの間に空間を設けて天井に本実施の形態に係る輻射パネル1を敷設した場合、輻射パネル1の運転中は、室内に対する輻射だけでなく、熱交換マット2から天井側のスラブに対しても輻射が行われるので、例えば、夜間に天井側のスラブに蓄熱しておき、昼間にスラブの蓄熱を室内の空調に利用することができる。
【0050】
(変形例1)
図10は、本実施例の変形例1に係る輻射パネルの要部断面図である。本実施の形態では、熱伝導シート4の山部40全体を熱交換マット2の第2の樹脂製シート220の山部221に接触させたが、変形例1は、山部40の角は弧状に形成され、山部40の中央部分のみが第2の樹脂製シート220の山部221に接触している。このような構成でも空間43は、十分な大きさを有するため、本実施の形態と同様に、ヘルムホルツ共鳴による吸音が可能である。
【0051】
(変形例2)
本実施の形態の熱伝導シート4は、面内方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高い炭素繊維を含むものを用いたが、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属からなるものでもよい。
【0052】
(変形例3)
本実施の形態では、熱伝導シート4を用いたが、輻射パネル1が建築基準法や消防法上の不燃性の認定が不要な場合には、パネル本体3に吸音孔30cが形成されていても、熱伝導シート4を省いてもよい。
【0053】
(変形例4)
本実施の形態では、熱伝導シート4を用いたが、吸音が必要ないためにパネル本体3に吸音孔30cを形成しない場合には、熱伝導シート4を省いてもよい。この場合、平面状の第1の樹脂製シート210を、パネル本体3の裏面30aに密着させてもよい。
【0054】
(変形例5)
本実施の形態では、熱交換マット2のパネル本体3と反対側には何も設けていないが、断熱材を設けてもよい。これにより、天井裏への放熱を遮って室内側の熱交換効率を高めることができる。
【0055】
(実施例)
図11(a)、(b)、(c)は、それぞれパネル表面温度の変化のシミュレーションに用いた実施例1、比較例1、比較例2を示す斜視図である。
【0056】
実施例1は、本実施の形態に対応するものであり、熱交換マット2と、パネル本体3と、熱伝導シート4とを備える。実施例1は、次のものを用いた。熱交換マット2は、ポリプロピレン製、熱伝導率0.147W/m・Kとした。パネル本体3は、厚さ1.0mm、材質アルミニウム(5052-H32)、熱伝導率139W/m・Kとした。吸音孔30cは直径1mm、ピッチ5mmとした。熱伝導シート4は、厚さ0.25mmの炭素シートとし、熱伝導率は面方向64W/m・K、厚さ方向1.3W/m・Kとした。
【0057】
比較例1は、金属から形成されたパネル本体13と、パネル本体13の裏面に配置された平坦状の第1の熱伝導シート14Aと、頂上部が平坦な山部14aと円弧状に湾曲された谷部14bとが交互に形成された波形状の第2の熱伝導シート14Bと、第2の熱伝導シート14Bの谷部14bの上側に配置された断面円形の熱交換パイプ122を有する熱交換マットとを備える。パネル本体13は、実施例1と同じものを用いた。熱交換パイプ122は、実施例1と同様に、ポリプロピレン製、熱伝導率0.147W/m・Kとした。第1及び第2の熱伝導シート14A、14Bは、実施例1と同じ厚さ、熱伝導率とした。
【0058】
比較例2は、木製のフローリング床材15と、実施例1と同一の熱交換マット2とを備える。なお、比較例2は、熱交換マット2を第1の樹脂製シート210がフローリング床材15に接触するように配置されている。フローリング床材15は、厚さ12mm、熱伝導率0.16W/m・Kとした。
【0059】
図12Aは、暖房におけるパネル表面温度のシミュレーション結果を示すグラフである。図12Aにおける表面温度は、実施例1及び比較例1ではパネル本体の表面温度、比較例2ではフローリング床15の熱交換マット2と反対側の面の温度である。図13Aも同じ。パネルの運転開始から5分経過までは実施例1、比較例1、比較例2ともに差は見られなかった。運転開始から10分経過した時点では、実施例1は目標温度Tg=34℃には達していないが、目標温度Tgに近い温度(準目標温度)Tg’=33.5℃に達したとき、比較例1は30.5℃、比較例2は28.3℃であった。ここで、準目標温度とは、実質的に目標温度といえる温度をいい、具体的には目標温度との差が0.5〜2℃の間で定められる温度である。
【0060】
運転開始から目標温度Tgに達するまでの時間は、実施例1は20分、比較例1は30分以上、比較例2は30分以上であった。運転開始から準目標温度Tg’に達するまでの時間は、実施例1は10分、比較例1は30分以上であったが、比較例2は準目標温度Tg’に達しなかった。
【0061】
図12Bは、暖房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図12B(a)、(b)、(c)のハッチングを施した領域の両側の白い部分は、パネルの両側に配置した断熱材を示すものである。図12Bにおける表面温度分布は、実施例1及び比較例1ではパネル本体の表面温度分布、比較例2ではフローリング床15の熱交換マット2と反対側の面の温度分布である。図13Bも同じ。実施例1及び比較例1ともに表面温度分布のばらつきは見られなかった。比較例2は、15℃程度のばらつきが生じた。
【0062】
図13Aは、冷房における表面温度のシミュレーション結果を示すグラフである。パネルの運転開始から5分経過までは実施例1、比較例1ともに差は見られなかったが、比較例2は温度が下がる速度が最も遅かった。運転開始から10分経過した時点では、実施例1は目標温度Tg=16.5℃には達していないが、準目標温度Tg’=17.4℃に達したとき、比較例1は18.8℃、比較例2は19.5℃であった。
【0063】
運転開始から目標温度Tgに達するまでの時間は、実施例1及び比較例1は20分、比較例2は30分以上であった。運転開始から準目標温度Tg’に達するまでの時間は、実施例1は10分、比較例1は17.5分、比較例2は30分以上であった。
【0064】
図13Bは、冷房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図13B(a)、(b)、(c)のハッチングを施した領域の両側の白い部分は、パネルの両側に配置した断熱材を示すものである。実施例1及び比較例1ともに表面温度分布のばらつきは見られなかった。比較例2は、12℃程度のばらつきが生じた。
【0065】
(実施例2)
図14A(a)、(b)は、それぞれパネル表面温度の変化のシミュレーションに用いた実施例2、比較例3を示す断面図である。
【0066】
図14A(a)に示す実施例2は、実施例1に断熱材5を付加したものである。図14A(b)に示す比較例3は、実施例2から熱伝導シート4を省いたものである。
【0067】
図14Bは、冷房における表面温度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図14B(a)、(b)のハッチングを施した領域の両側の白い部分は、パネルの両側に配置した断熱材を示すものである。図14Bにおける表面温度分布は、パネル本体3の表面温度分布である。実施例2は、表面温度分布のばらつきはなかった。比較例3は、0.15℃程度のばらつきが生じた。
【0068】
[他の実施の形態]
なお、本発明の実施の形態は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形実施が可能である。例えば、スポンジやバネ等を用いた押え部材をパネル本体3の幅方向に設けられた鍔部32に引っ掛けて熱交換マット2が浮き上がるのを防止してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…輻射パネル、2…熱交換マット、2a…凹部、2b…パーティングライン、
3…パネル本体、4…熱伝導シート、5…断熱材、13…パネル本体、
14A…第1の熱伝導シート、14B…第2の熱伝導シート、14a…山部、
14b…谷部、15…フローリング床材、
20…供給側メインパイプ、20a…表面、20b…中心、21…戻り側メインパイプ、
22…熱交換パイプ、23A…供給側コネクタ、23B…戻り側コネクタ、
24…連結部、25…コネクタ金具、30…底壁、30a…裏面、30b…表面、
30c…吸音孔、31…側壁、32…鍔部、40…山部、41…谷部、42…側壁、
43…空間、122…熱交換パイプ、210…第1の樹脂製シート、
220…第2の樹脂製シート、221…山部、222…谷部、222a…表面、
223…側壁、224…熱交換流路、230…コネクタ成形部、231…基部、
232…インサート凹部、233…端部、234…インサート金具、
235…フランジ部、250…継手部、250a…嵌合部、
250b、250c…ねじ部、250d…凹部、251…ニップル、
251a…第1の嵌合部、251b…第2の嵌合部、252…スリーブ、
252a…突起、
253…第1のケース、254…第2のケース、255…第1のバネ部材、
256…第2のバネ部材、257、258、259…Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B