(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の相に対応する突極を備え各突極に励磁巻線を設けたステータと、複数の突極を備え前記ステータ内に配置されたロータとを具備するモータのロータ位置検出装置であって、
前記モータのステータに現われる磁束を直接又は間接に検出する位置に磁束検出手段を設けるとともに、ロータが所定の検出位置にあるときに相電流により前記ステータの磁束検出手段が設けられた位置に現われる磁束を閾値として保持する閾値保持部と、ロータの回転中に前記磁束検出手段が検出する磁束を閾値と比較する比較部とを備え、この比較部の比較結果に基づいて前記ロータが前記所定位置に達したことを検出するものであり、
前記磁束検出手段は、ステータ側であって励磁相を励磁した際に磁束が流れる位置に巻回した補助巻線を備え、前記閾値保持部は、ロータが所定位置にあるときに相電流の大きさに応じて前記補助巻線に現われる誘起電圧の積分値の大きさを閾値として保持し、前記比較部は、前記閾値に関連づけられた大きさの相電流を流した際に前記補助巻線に現われる誘起電圧の積分値を閾値と比較し、当該積分値が閾値に等しくなったことをもってロータ位置が所定位置に達したことを検出することを特徴とするロータ位置検出装置。
【背景技術】
【0002】
突極性のロータと励磁巻線を伴うステータを備えるモータの一つとしてスイッチトリラクタンスモータ(以下「SRモータ」と称す。)がある。SRモータは構造が簡単であり、永久磁石を必要としないため、高速運転や高温環境での運転に適している。SRモータの回転原理は次のようになる。ステータの突極とロータの突極が整列した時(突極整列状態)で磁気インピーダンスが小さくなり巻線のインダクタンスが最大になる。そのため、磁束が流れにくい突極非整列状態にある突極の巻線に励磁電流が流れると、磁束が最も流れやすい突極整列状態になるようにロータが回転する。したがって、ロータの位置情報に基づいて励磁電流を供給する相を切り替えることで、連続的な磁気吸引力を発生させ、ロータを回転させることができる。
【0003】
ロータの位置情報を得る手段として、従来、位置検出センサが用いられてきたが、こうしたセンサは上述した高速運転や高温環境下等の過酷な使用条件での使用には適さない。
【0004】
そのため、近年では、位置検出センサを用いることなくセンサレスでロータの回転位置を検出する手法が提案されている(非特許文献1、特許文献2)。
【0005】
例えば、非特許文献1のものは、
図11〜
図13に示すように、磁化特性の簡易数式表現に基づく位置推定方式であって、
図11において推定相を決定したら、推定相電流の選択とともに推定相磁束鎖交数を算出し、電流値と磁束鎖交数とから簡易数式により位置推定演算を行ってロータ位置θMを算出する。すなわち、SRモータの磁化特性は
図12のように巻線電流に対して磁束鎖交数とロータ位置が対応する関係になるため、巻線電流と磁束鎖交数がわかればロータ位置が推定できる。具体的には、
図13に基づいて位置を推定する。
【0006】
i)巻線電流と巻線印加電圧から(1)式より鎖交磁束数を算出する。
【0007】
ii)i)で算出した鎖交磁束数と巻線電流のモニタ値から(2)式より位置を指定する。係数は(3)式より導く。ここで、αはロータ極数、Vphは巻線印加電圧、iは巻線電流、nmaxは電流最大次数、Lnkはフーリエ係数、mmaxは飽和領域における電流最大次数、Lmkは飽和領域におけるフーリエ係数である。
【0008】
一方、特許文献2に示されるロータ位置検出装置は、
図14に示すように、3組の相(A相、B相、C相)を有するステータ12を備えたSRモータに用いることを前提とし、励磁相の突極11a、11b、11cがロータ14の突極13と整列するいわゆる突極整列状態において、これ以外の2組の非励磁相に相互誘導により現れる誘起電圧が等しくなることを利用し(
図15参照:LaはA相の自己インダクタンス、MabはA,B相間の相互インダクタンス、MacはA、C相間の相互インダクタンス)、誘起電圧の電圧差が所定値未満になったタイミングで励磁相を切り替えることでSRモータを駆動するものとなっている。
【0009】
具体的には、
図14に示すモータ巻線の中性点から電圧信号発生手段19より高周波信号を注入し、注入相以外の2巻線に現われる電圧信号を電圧計20を用いて測定し、これらを比較器29で比較して、2相に誘起される振幅が一致した時に、ロータ14の突極13と信号を注入した相のステータ12の突極11a〜11cが整列したものと判断する。このとき、スイッチ21を用いて、注入相と検出相を切り替える。
【0010】
このように、検出したロータ位置情報を基に、適切なタイミングで励磁相を切り換えてSRモータを駆動することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1の手法だと、位置推定のために(2)式で示した2次方程式を解く必要があり、係数演算も必要となることから、全体としての演算時間による制約により、高速駆動状態に適用できないという課題がある。本文献では電流・速度制御演算を制御周期127.2[μsec]で実行しており、4000[min
−1]までの領域で手法の有効性が述べられている。ここで、高速になると、制御分解能の限界に近づき、制御不可能になる可能性がある。
【0013】
一方、特許文献2の構成は、高速駆動状態に適用可能であるが、励磁電流が増加し、ロータ、ステータの部分的な飽和が発生すると、相互インダクタンス検出波形に歪みが発生し、或いは相互インダクタンス自体が小さくなって誘起電圧が取り出せなくなる。この現象により、相互インダクタンス検出波形の一致点が不明確あるいは判定不可となり、ロータ位置検出の精度が低下する可能性がある
【0014】
本発明は、これらの課題に着目し、高速駆動状態に適用可能であって、磁気飽和に対しても有効な位置検出を行うことが可能なロータ位置検出装置及びモータ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる目的を達成するために次のような手段を講じたものである。
【0016】
すすなわち、本発明のロータ位置検出装置は、複数の相に対応する突極を備え各突極に励磁巻線を設けたステータと、複数の突極を備え前記ステータ内に配置されたロータとを具備するモータに対し、前記モータのステータに現われる磁束を直接又は間接に検出する位置に磁束検出手段を設けるとともに、ロータが所定の検出位置にあるときに相電流により前記ステータの磁束検出手段が設けられた位置に現われる磁束を閾値として保持する閾値保持部と、ロータの回転中に前記磁束検出手段が検出する磁束を閾値と比較する比較部とを備え、この比較部の比較結果に基づいて前記ロータが前記所定位置に達したことを検出する
ものであり、前記磁束検出手段は、ステータ側であって励磁相を励磁した際に磁束が流れる位置に巻回した補助巻線を備え、前記閾値保持部は、ロータが所定位置にあるときに相電流の大きさに応じて前記補助巻線に現われる誘起電圧の積分値の大きさを閾値として保持し、前記比較部は、前記閾値に関連づけられた大きさの相電流を流した際に前記補助巻線に現われる誘起電圧の積分値を閾値と比較し、当該積分値が閾値に等しくなったことをもってロータ位置が所定位置に達したことを検出することを特徴とする。
【0017】
突極性モータの各相自己インダクタンスの大きさは、ステータとロータの突極位置関係に依存しており、突極整列状態で最大となる。つまり、自己インダクタンスを観測できれば、その大きさからロータの位置を推定できる。自己インダクタンスは直接観測できないが、一定の相電流を流したときの磁束は自己インダクタンスに比例する。このため、ロータが目標位置に達したときの磁束の大きさを予測して閾値とすれば、ロータ回転中の磁束を観測することでロータが目標位置に達したか否かを推定することができる。
【0018】
このように、本発明によれば比較的簡単なハード構成により、駆動中にロータ位置検出が可能である。また、ロータ位置が設定した検出位置に達したことをハードで検知するため、複雑な演算の必要は無く、高速回転時にも適用できる。
【0019】
磁気飽和が生じても確実にロータ位置を検出可能とするためには、前記閾値保持部は、相電流による磁気飽和を考慮した閾値を有することが効果的である。
【0020】
駆動状態や突極性モータの極数の制約を受けない構成としては、磁束検出手段が、励磁相のステータティース部に巻回した補助巻線と、この補助巻線で発生する誘起電圧を積分する積分部とを備え、前記比較部は、積分した値である鎖交磁束数を閾値と比較するものが挙げられる。
【0021】
駆動状態や突極性モータの極数の制約を受けない構成とするためのロータ位置検出装置は、数の相に対応する突極を備え各突極に励磁巻線を設けたステータと、複数の突極を備え前記ステータ内に配置されたロータとを具備するモータのロータ位置検出装置であって、前記モータのステータに現われる磁束を直接又は間接に検出する位置に磁束検出手段を設けるとともに、ロータが所定の検出位置にあるときに相電流により前記ステータの磁束検出手段が設けられた位置に現われる磁束を閾値として保持する閾値保持部と、ロータの回転中に前記磁束検出手段が検出する磁束を閾値と比較する比較部とを備え、この比較部の比較結果に基づいて前記ロータが前記所定位置に達したことを検出するものであり、磁束検出手段が、励磁相と当該励磁相の両側に位置する非励磁相との間のステータヨーク部に巻回した対をなす補助巻線と、これらの補助巻線で発生する誘起電圧を減算する減算部と、減算後の値を積分する積分部とを備え、前記比較部は、積分した値である鎖交磁束数を閾値と比較することを特徴とする。
【0023】
以上のようなロータ位置検出装置を、検出したロータ位置に基づいて励磁相切替部が励磁する相を切り替えるようにモータ制御装置に適用すれば、簡易な構成で突極性モータを精度良く高速駆動制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した本発明によれば、高速駆動状態に適用可能であって、磁気飽和に対しても有効な位置検出を行うことが可能なロータ位置検出装置及びモータ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るモータ制御装置を、図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明のモータ制御装置Zが適用される突極性モータたるSRモータ10の構成を示した簡略図である。
図1に示されたSRモータ10は、円環状のステータヨーク部12aから内側に向けて突出した6個の突極(ステータティース部)11(11a、11b、11c)を有するステータ12と、ステータ12の内側に回転可能に配置され外側に向けて突出した4個の突極13を有するロータ14とからなり、ステータ12の突極11が60度毎に、ロータ14の突極13が90度毎にそれぞれ等間隔に設置された、ロータ4極・ステータ6極構成(いわゆる4−6モータ)を構成している。
【0028】
以下、この4−6モータに基づいて説明するが、極数はこれに限定されるものではない。ステータ12の互いに対向する突極11aと11a、11bと11b、11cと11cには、それぞれ励磁用主巻線15aと15a、15bと15b,15cと15cが巻回されており、励磁用主巻線15a,15aが巻回された突極の対11a,11aをA相、励磁用主巻線15b,15bが巻回された突極の対11b,11bをB相、励磁用主巻線15c,15cが巻回された突極の対11c,11cをC相とする3相のステータ12を構成している。各巻線15a〜15cには、
図7に基づいて後述する主回路28が接続され、制御回路22で選択的にA〜C相の励磁電圧を印加するためのゲート駆動信号が主回路28に向けて出力されるようになっている。
【0029】
ここで、
図2を用いてSRモータ10の回転原理を説明する。
図2(a)はステータ12とロータ14の突極11a〜11c,13a〜13b同士が対向しておらず磁束が流れにくい突極非整列状態にあるロータ14の位置を示していて、この時点ではステータ12の巻線15a、すなわちA相が励磁している。このとき、磁束が最も流れやすい突極整列状態、すなわち突極11aとロータ14の突極13aが整列するようにロータ14にトルクが生じ、ロータ14が回転する。そして、ロータ14が
図2(b)に示す突極整列状態になるまで回転したタイミングで
図7に示す励磁相切替部26が励磁する相をB相に切り替えると、ステータ12の突極11bとロータ14の突極13bが整列するようにトルクが生じる。その後、ステータ12の突極11bとロータ14の突極13bが整列したタイミングで励磁相切替部26が励磁する相をC相に切り替えると、今度はステータ12の突極11cとロータ14の突極13aが整列するようにトルクが生じる。このように、ロータ14の位置に基づいて励磁相を切り替えることで、連続的な磁気吸引力によるトルクが発生し、SRモータ10が回転する。
【0030】
このような構成において、本実施形態は、励磁相において発生する磁束からロータ位置を検出すべく、励磁用主巻線11a、11b、11cとは別に、
図3で示すように、ステータヨーク部12aにロータ位置検出用の補助巻線11d(11d1、11d2)を設けている。補助巻線11d1、11d2は、巻数Nが等しく設定されている。
【0031】
SRモータ10の各相において磁束が流れる際の自己インダクタンスの大きさは、
図3のようにA相のステータ12とロータ14の突極13が対向した整列状態のときに
図4のようにA相の自己インダクタンスは最大となり、そこから非整列方向に外れるにつれて自己インダクタンスはステータ12とロータ14の突極位置関係に依存して小さくなる。
【0032】
つまり、自己インダクタンスを観測できれば、その大きさからロータ14の位置を推定することができる。しかしながら、自己インダクタンスを直接観測することは困難であるため、この実施形態ではステータヨーク部12aに設けた補助巻線11dに発生する誘起電圧を利用して磁束検出手段X(
図7参照)を構成する。
【0033】
補助巻線11dに発生する誘起電圧(V)、鎖交磁束数(Φ)、電流(I)、インダクタンス(L)の関係を説明する。
【0036】
また補助巻線に生じる誘導起電力(誘起電圧)はファラデーの法則により(2)式となる。
【0038】
誘起電圧を積分すると(3)式となる。
【0039】
∫Vdt=−Φ+C=−LI+C (Cは積分定数) …(3)
【0040】
このとき電流が一定であると、誘起電圧の積分値(以降、単に「積分値」という)はインダクタンスLに依存した値となる。
図4にロータ位置とSRモータ力行駆動時のA相電流、誘起電圧積分値、A相の自己インダクタンスの関係を示す。
【0041】
本手法は、ステータヨーク部12aを流れる磁束を利用し、かつ自己インダクタンスLがロータ13の位置に依存するという関係を利用するため、以下に示す2つの条件を満たす区間がロータ位置検出可能区間(
図4参照)となる。
【0042】
i)ロータ位置検出に用いる相に電流が流れていること。
【0043】
ii)ロータ位置検出に用いる相の自己インダクタンスが変化していること。
【0044】
この検出可能区間の中で任意に検出位置を設定する。例えば、
図3においてロータ14が1回転する間に4つの突極13がA相ステータの突極11aに順次対向するため、90°間隔で自己インダクタンスが最大となる。この自己インダクタンスを基準にして検出位置を角度θ(
図3参照)に設定した場合、設定したロータ14の検出位置θでの自己インダクタンスの大きさは決まっており、(3)式の積分値の大きさは相電流に依存するため、検出位置θでの積分値の大きさと相電流の関係を、事前に把握しておくことが可能となり、設定した検出位置θでの相電流に応じた積分値の大きさを
図5に示すように閾値とすれば、(3)式よりロータが整列位置に向かうにつれて自己インダクタンスLとともに増大する積分値(
図5における矢印参照)が閾値に等しくなったことをもって、ロータ位置が検出位置θに達したことが検知できる。
【0045】
このために、
図7に示すように閾値保持部21と比較部(比較回路)25を設けて、磁束検出手段Xとともにロータ位置検出装置Yを構成し、比較部(比較回路)25からの位置検出信号を制御回路22に入力している。
図5の位置検出信号は誘起電圧が閾値以上のところをコンパレータで拾っているが、閾値到達を検出できればどのような構成であってもかまわない。
【0046】
このようにしてロータ位置が検出できれば、ロータ14の速度がわかり、検出位置θからA相が突極整列状態に至るまでの所要時間がわかるため、モータ制御装置Zはこれを励磁相切替部26においてタイミング制御等に利用することができる。
【0047】
ここで、励磁相の切り替えに伴って積分を開始すると前の励磁相の影響を受ける場合がある点、相電流の大きさに応じた磁気飽和によってインダクタンス値が下がる場合がある点に配慮する必要がある。
【0048】
まず、この実施形態はステータヨーク部12aに流れる磁束を利用する方式であるため、ロータ位置検出に利用する相とその他の相の励磁区間が重なるタイミングで、補助巻線11dに発生する誘起電圧をそのまま積分すると他相の影響を受けてしまう。すなわち、
図5に示したように相電流は直ぐには矩形に立ち上がらず、立ち下がらないため、励磁相の切り替えに際して、
図6に示すように、前の励磁相(例えばC相)における相電流と次の励磁相(例えばA相)における相電流がオーバーラップする。そこで、誘起電圧の積分が励磁相切替と同時に開始されると、他相励磁による磁束の影響を受ける。
【0049】
そこで、この実施形態の磁束検出手段Xは、
図3及び
図7に示すように、ロータ位置検出に利用する相(ここではA相)と両隣の相(B相、C相)との間に設けた2本の補助巻線11d1、11d2を利用し、これらの補助巻線11d1、11d2に生じる誘起電圧の減算を行う減算部(減算回路)23と、減算回路23の出力を積分する積分部(積分回路)24とを設けている。すなわち磁束検出手段Xは、補助巻線11d1、11d2と減算回路23と積分回路24とにより構成され、ロータ位置検出装置Yは、磁束検出手段Xと閾値保持部21と比較部21(比較回路25)とにより構成されている。この例は、ロータ位置検出にA相を利用する場合であるためA相−B相間とA相−C相間の2箇所を選定しているが、他相でロータ位置検出を行っても構わない。
【0050】
図3における検出用補助巻線11d1、11d2に着目すると、これら両補助巻線11d1、11d2の巻方向に対して、A相励磁による磁束の流れφAは逆方向であるが、B・C相励磁による磁束の流れφB、φCは同方向になる。したがって、これらに基づく誘起電圧を取り出して減算回路23により減算すると、A相励磁による誘起電圧は、1つの補助巻線11d1(11d2)に発生する誘起電圧の倍の大きさとなるが、B・C相励磁による誘起電圧はキャンセルされてゼロとなる。
【0051】
したがって、A相に発生する磁束のみを取り出すことができ、他相励磁による影響を受けずにロータ位置検出が可能となるため、駆動状態やSRモータ10の極数の制約を受けずにインダクタンスの間接的な計測が可能となる。この場合、減算により誘起電圧が2倍となるため、閾値も2倍に設定しておく。
【0052】
次に、磁気飽和の問題である。相電流が増加し、ロータ14、ステータ12の部分的な飽和が発生しても、自己インダクタンスは相互インダクタンスのように検出不能となることはないが、磁束が流れにくくなることにより、
図8に示すように所定位置に達したのに誘起電圧積分値は本来のA点よりも低いB点の値しか観測されず、ロータ位置を遅れ側に誤認する可能性がある。
【0053】
そこで、こうした磁気飽和を考慮した解析により、検出位置での積分値の大きさと相電流の関係を
図8に示すように把握しておき、これを反映させた積分値(つまり、所定位置においてA点の積分値ではなくB点の積分値)を閾値として
図7に示す閾値保持部21に保持させることで、相電流が大きくSRモータ10が磁気飽和した場合であっても、正確にロータ位置を検出できるロータ位置検出装置Yを実現することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態のロータ位置検出装置Yは、複数の相に対応する突極11(11a、11b、11c)を備え各突極11(11a、11b、11c)に励磁巻線15a、15b、15cを設けたステータ12と、複数の突極13を備えステータ12内に配置されたロータ14とを具備するSRモータ10に適用するにあたり、SRモータ10のステータ12に現われる磁束を間接的に検出する位置に磁束検出手段Xを設けるとともに、ロータ14が所定の検出位置にあるときに相電流によりステータ12の磁束検出手段X(補助巻線11d)が設けられた位置に現われる磁束を閾値として保持する閾値保持部21と、ロータ14の回転中に磁束検出手段Xが検出する磁束を閾値と比較する比較部(比較回路)25とを備え、この比較部25の比較結果に基づいてロータ14が所定位置に達したことを検出するようにしたものである。
【0055】
したがって、比較的簡単なハード構成により、駆動中にロータ位置検出が可能である。また、ロータ位置が設定した検出位置に達したことをハードで検知するため、複雑な演算の必要は無く、高速回転時にも適用できる。
【0056】
特に、閾値保持部21は、相電流による磁気飽和を考慮した閾値を保持するので、基準となる閾値を下げていることによって、所定位置に達したことを有効に検出することができる。
【0057】
さらに、磁束検出手段Xが、励磁相と当該励磁相の両側に位置する非励磁相との間のステータヨーク部12aに巻回した対をなす補助巻線11d1、11d2と、これらの補助巻線11d1、11d2で発生する誘起電圧を減算する減算部(減算回路)23と、減算後の値を積分する積分部(積分回路)24とを備え、比較部(比較回路)25は、積分した値である鎖交磁束数を閾値と比較するようにしており、ステータヨーク部12aに発生する磁束の向きの違いから他相励磁による磁束が減算によりキャンセルされるため、駆動状態やSRモータ10の極数の制約を受けることがなくなる。したがって、
図6に示すように前の相の磁束が残っている状態で次の相の励磁を始めた場合でも、前の励磁相の残留磁束に影響されずに励磁相で発生する磁束の検出が可能になる。
【0058】
そして、以上のようなロータ位置検出装置Yを適用し、検出したロータ位置に基づいて励磁相切替部26が励磁する相を切り替えることにより、簡易な構成でSRモータ10を精度良く高速駆動制御することが可能なモータ制御装置Zを実現することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような形態が考えられる。
上記実施形態は、SRモータ力行駆動時に本発明を適用したものであるが、
図9に示すように、SRモータ回生駆動時に本発明を適用してもよい。すなわち、ロータが整列位置から外れるにつれて自己インダクタンスLとともに減少する積分値(
図9における矢印参照)が閾値に等しくなったことをもって、ロータ位置が検出位置θ´(
図3参照)に達したことが検知できる。
【0060】
また、磁束検出手段Xは
図10に示すように、励磁相の突極(ステータティース部)11aに巻回した補助巻線11eと、この補助巻線11eで発生する誘起電圧を積分する積分回路24(
図7参照)とを備え、ロータ位置検出装置Yの比較部25が、積分した値である鎖交磁束数を閾値と比較するものであってもよい。
【0061】
このようにすると、他相励磁による磁束φB、φCが流れない位置で励磁相の磁束φAのみを検出できるため、駆動状態やSRモータ10の極数の制約を受けないものとなる。したがって、
図6に示したように前の相の磁束が残っている状態で次の相の励磁を始めた場合でも、前の相の残留磁束に影響されずに励磁相で発生する磁束の検出が可能になる。しかも、減算の必要がないため、減算回路23が不要になり、補助巻線11eも1つで足りるものとなる。
【0062】
勿論、SRモータ駆動時に全相励磁タイミングが重ならず、常に単独相励磁となる条件であれば、他相の影響を受けることが無いため、
図3に示したヨーク部12aに設ける補助巻線11dは1つでよく、減算回路23も不要になる。
【0063】
さらに、補助巻線の誘起電圧を利用する他に、ホール素子を使用して磁束を検出する方法がある。
図6または
図11の補助巻線を巻いた部分に図示しないホール素子を埋め込み、磁束を検出する。位置検出方法は基本的に補助巻線を利用する場合と同様であるが、本変形例では磁束を直接検出するため、積分の必要がなく積分回路24も不要にすることができる。
【0064】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。