【文献】
Chem. Eur. J.,2011年,17,pp.7480-7491
【文献】
J. AM. CHEM. SOC.,2010年,132(3),pp.1172-1179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
3,3,3−トリフルオロプロパノールを製造する方法に関して、これまで知られている方法は、小規模で行うには有利であるが、高価な原料や取り扱いの難しい試薬を用いているものが多く、また高圧反応が実施可能な設備を必要とする。
非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に記載の方法はグリニャール試薬を用いており、工業的に実施できる安価な製造法とは言い難い。非特許文献4に記載の方法では水銀、そして非特許文献5に記載の方法ではホウ素をそれぞれ使用しており、環境面を考慮した場合、排水規制の兼ね合いから工業化には難しい製法である。
また、非特許文献6に記載の方法では原料の一つとなるヨウ化トリフルオロメチルが高価であるという問題点がある。さらに、前述した非特許文献1−6に記載の方法では、反応終了後、水溶液中から親水性の3,3,3−トリフルオロプロパノールを抽出する操作が必要であり、回収率の向上には多量の抽出溶媒が必要であった。
【0010】
一方、特許文献1または特許文献2に記載の方法は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドを出発原料としているが、この3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドは、それ自身の高い求電子性の為、該文献の目的物である3,3,3−トリフルオロプロパノールと3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドとが反応し、式[5]:
【0011】
【化1】
で表されるヘミアセタールを形成することが以前より知られている。3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドを原料に用いて水素化反応を行う際、ヘミアセタールの副生に起因した反応性の低下が問題点となっていた。
また、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド自身が自己縮合した該アルデヒドの類縁体の生成も避けられず、式[5]で表されるヘミアセタールと共に副生成物の除去も課題として挙げられる。
さらに、特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6に記載の方法は、水素化分解反応に5.0MPa(絶対圧)と、高い圧力を必要とする。また、この反応における副生成物はメタンであり、環境負荷の大きく、工業的に採用するには難があった。
本発明は、3,3,3−トリフルオロプロパノールを安価で工業的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題点を鑑み、鋭意検討を行った。その結果、式[1]:
【0013】
【化2】
[式[1]中、Rは、フェニル基または、R
1で表される置換基を有するフェニル基(ただしR
1は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはニトロ基である)を表す]
で表されるベンジルビニルエーテルを、パラジウム触媒の存在下、水素(H
2)と反応させることで、穏和に反応が進行し、3,3,3−トリフルオロプロパノールを効率的に製造できる知見を見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明者らは、本発明を完成するにあたり、高い選択率で反応が進行する条件を見出した。式[1]で表されるベンジルビニルエーテルに水素を反応させる(なお、本明細書で「水素化反応」と言うことがある。)際、反応が生じやすい部位が2ヶ所[二重結合部位(なお、本明細書で「ビニル部位」と言うことがある)、及び「酸素−メチレン結合部位」(O−CH
2R、なお、本明細書で「ベンジル部位」と言うことがある)]存在する為、遷移金属触媒の種類や反応圧力により目的物である3,3,3−トリフルオロプロパノール以外に、前述したヘミアセタール等の副生物も多く得られ、目的物を高い選択率で得る為には非常に長い反応時間を要することがあった。
そこで、本発明者らは、少なくとも2つの温度範囲で段階的に水素化反応を行う条件を採用することで、副生物を低減でき、かつ、高い選択率で目的物を得るという、好ましい知見を得た。
以上、本発明を図示すると、以下のようになる。
【0015】
【化3】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明6]に記載する、3,3,3−トリフルオロプロパノールの製造方法を提供する。
[発明1]
式[1]で表されるベンジルビニルエーテルを、パラジウム触媒の存在下、水素と反応させる工程を含む、3,3,3−トリフルオロプロパノールの製造方法。
[発明2]
3,3,3−トリフルオロプロパノールが、ベンジルビニルエーテルを、パラジウム触媒の存在下、水素と反応させることで、式[4]:
【0016】
【化4】
(式[4]中、Rは、フェニル基または、R
1で表される置換基を有するフェニル基(ただしR
1は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはニトロ基である)
で表されるベンジルエーテルを得る工程、続いて、該ベンジルエーテルをパラジウム触媒の存在下、水素と反応させる工程により製造される、発明1に記載の製造方法。
[発明3]
パラジウム触媒の存在下、少なくとも2つの温度範囲で段階的に水素と反応させる、発明1または2に記載の製造方法。
[発明4]
0℃〜40℃で反応させた後、40℃〜100℃で反応させる、少なくとも2つの温度範囲で段階的に行われる、発明1乃至3の何れかに記載の製造方法。
[発明5]
パラジウム触媒が、パラジウム金属またはパラジウム化合物を担体に担持したものである、発明1乃至4の何れかに記載の製造方法。
[発明6]
担体が活性炭、アルミナまたはシリカである、発明5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明における製造方法は、反応が良好に進行し、不純物含有量が極めて低い3,3,3−トリフルオロプロパノールを、効率的に製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は以下の実施態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜実施することができる。
【0019】
式[1]で表されるベンジルビニルエーテルにおけるRは、フェニル基または、R
1で表される置換基を有するフェニル基(ただしR
1は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはニトロ基である)を表す。
R
1におけるアルキル基、アルコキシ基としては、炭素数1〜4のものが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基が挙げられる。
R
1におけるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。
なお、R
1で表される置換基は、同一のものまたは異なるものが複数個存在していてもよい。
R
1で表される置換基を有するフェニル基の具体例としては、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2−i−プロピルフェニル基、3−i−プロピルフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、2−i−プロポキシフェニル基、3−i−プロポキシフェニル基、4−i−プロポキシフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、3−t−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、2−t−ブトキシフェニル基、3−t−ブトキシフェニル基、4−t−ブトキシフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−ヨードフェニル基、3−ヨードフェニル基、4−ヨードフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基が好ましく、4−メチルフェニル基または4−メトキシフェニル基のものが、安価であり、反応性にも優れており、特に好ましい。
【0021】
ここで、式[1]で表されるベンジルビニルエーテルとしては、公知の化合物であり、どの様な方法で製造されたものでも良く、特に制限はないが、例えば、特開2007−119447号公報に記載の方法を採用することができる。
【0022】
本発明の反応形態に特別な制限はないが、出発原料である式[1]で表されるベンジルビニルエーテルに、水素を逐次的もしくは連続的に供給させて反応させることが好ましい。
ここで言う「逐次的」とは、水素を、次々と間欠的(一定の時間を隔てることを指す)に反応系に試剤を加えることを意味する。
また、反応の速度を上げる目的、及び水素の反応効率を高める目的でオートクレーブ等の耐圧反応器を用いて反応させるのが好ましい。
【0023】
水素を反応させる際の反応圧力(ここで言う反応圧力とは、水素圧のことを言う。以下同じ)は、通常0.01〜4.00MPa(絶対圧。以下、本明細書で同じ)であるが、好ましくは0.1〜3.00MPa、更に好ましくは0.3〜2.00MPaである。水素圧が4.00MPaを超えると、経済性、安全性そして設備設計上の観点から、メリットは少ない。
【0024】
本発明で用いるパラジウム触媒は、パラジウム金属(0価)またはパラジウム化合物を担体に担持したパラジウム化合物担持触媒が好適に用いることができる。
【0025】
担体としては、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。
パラジウム化合物担持触媒におけるパラジウム化合物はパラジウムの酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の各種無機化合物が挙げられる。
パラジウム化合物担持触媒は、含浸法等の従来公知の方法により各種調製することもできるが、各種のものが市販されているので、それらを用いるのが好適である。
前述したパラジウム化合物担持触媒のうち、入手容易性や経済性、反応性及び選択性の点から、パラジウム−カーボンまたはパラジウム−アルミナが好ましい。
例えば、エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウム−カーボン粉末(50%含水品)であるAER−Type、STD−Type、KER−Type、PE−Type、そしてE−Type等の不均一系触媒を利用するのが便利である。
【0026】
パラジウム触媒の使用量は、式[1]で表されるベンジルビニルエーテル100質量部に対して、金属量として、通常0.0001〜2.5質量部であり、好ましくは0.001〜1.5質量部、更に好ましくは、0.01〜0.5質量部である。2.5質量部を超えて用いても反応性に影響することはないが、生産性及び経済性の観点から、メリットは少ない。
【0027】
本発明の水素化反応において、反応溶媒を用いることができる。反応溶媒は、原料である式[1]で表されるベンジルビニルエーテル、及び本発明の反応中間体である式[4]で表されるベンジルエーテルに対して不活性なものであればよく、特に限定はされない。例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、酸アミド類、アルコール類、エステル類、またはエーテル類等が挙げられる。
これらのうち、原料のベンジルビニルエーテルに対する相溶性も良く、また、パラジウム触媒の分散性が高い、エステル類またはエーテル類が好ましく、中でもエーテル類が特に好ましい。
反応溶媒の具体的な例は、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチルニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシキシエタン、1,4−ジオキサンまたは置換テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのうち、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシキシエタンまたは1,4−ジオキサンが好ましく、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテルまたはジブチルエーテルが特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせのどちらでも用いることができる。
【0028】
反応溶媒の使用量は、式[1]で示されるベンジルビニルエーテル100質量部に対して、通常1〜1000質量部であり、好ましくは10〜300質量部、25〜100重量部が更に好ましい。
【0029】
本反応において、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作した反応器を使用することができる。
【0030】
反応温度は、通常、−50℃〜150℃、好ましくは−20℃〜120℃、更に好ましくは0℃〜100℃の範囲である。
本発明は、この温度範囲を採用することにより水素化反応自体は進行し得るが、式[1]で表されるベンジルビニルエーテルは、前述したように、この化合物は水素化反応が生じやすい部位が2ヶ所(ビニル部位、ベンジル部位)存在するため、上記温度範囲のうち、比較的高い温度範囲で水素化反応を行うと、目的物以外にも副生物も生成し、選択率に影響を与えることがあった。
そこで、位置選択的に水素化反応を行い、反応中間体として式[4]で表されるベンジルエーテル体を経由し、目的とする3,3,3−トリフルオロプロパノールを得るには、少なくとも2種類の温度範囲を用いて段階的に反応させることが好ましい知見を得た。
本発明者らは、式[1]で表されるベンジルビニルエーテルのビニル部位とベンジル部位の水素化反応に対する反応性が異なることを見出した。すなわち、水素化反応を低温(少なくとも2種類の温度範囲のうち、低い温度範囲のことを指す)で進行させることにより、ビニル部位の水素化反応が優先的に進行し、その結果、式[4]で表されるベンジルエーテルを選択的に得、続いて、高温(少なくとも2種類の温度範囲のうち、高い温度範囲のことを指す)で水素化反応を行うことにより、ベンジル部位が優先的に反応を起こし、3,3,3−トリフルオロプロパノールを高い選択性で製造できる知見を得た。このことは、ビニル部位、ベンジル部位、それぞれの反応性を制御した位置選択的な反応を、連続的な水素化反応を採用することにより達成できたことを意味し、本発明における特に好ましい態様の一つである。
なお、水素化反応を行うにあたり、前述した温度範囲(−50℃〜150℃)であって、かつ、ビニル部位、ベンジル部位の反応性を考慮しながら2種類以上の温度範囲を設定して反応を行っても良い。反応の進行状況をガスクロマトグラフィー、NMR等の分析手段を用いて追跡しながら行えばよく、当業者が適宜調整することができる。
【0031】
次に、前述した「低温」の温度範囲について説明する。通常、本発明で採用できる温度範囲(−50℃〜150℃)のうち、式[1]で表されるベンジルビニルエーテルのビニル部位の水素化反応を選択的に行うには40℃以下が好ましく、更に好ましくは10℃以下である。
次に、前述した「高温」の温度範囲について説明する。通常、本発明で採用できる温度範囲(−50℃〜150℃)のうち、式[4]で表されるベンジルエーテルの水素化反応を行うには40℃以上が好ましく、更に好ましくは80℃以上である。
【0032】
なお、反応温度の制御を行うことで、ベンジルビニルエーテルのビニル部位を選択的に水素化し、ベンジルエーテル体を、反応中間体として単離精製を行うことが可能である(実施例7、実施例9及び実施例10)。当然、単離したベンジルエーテルは再度、水素化反応に供することで3,3,3−トリフルオロプロパノールへの誘導化も可能である(実施例8)。
【0033】
このように、式[1]で表されるベンジルビニルエーテルを水素化反応させて式[4]で表されるベンジルエーテルを単離し、その後、該エーテルを更に水素化反応させて3,3,3−トリフルオロプロパノールを製造する実施態様も本発明の範囲に含まれるものとして扱う。
なお、ベンジルエーテルを、一旦反応系外へ取り出すことなく、そのまま連続的にベンジル部位の水素化を行い、目的とする3,3,3−トリフルオロプロパノールを得る方が、操作性の煩雑さがなく、より好ましい。
ところで、水素化反応を2つの温度範囲で連続的に反応を行うことなく、初めから40℃以上の温度範囲で、ベンジルビニルエーテルの水素化反応を行うこともできるが、この場合は、反応の位置選択性はいくぶん低く、ベンジル部位の水素化が優先し(ベンジル部位が脱離する;脱ベンジル化)、更に反応が進行し、その結果、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドが生成しやすい。前述した通り、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドは、目的物である3,3,3−トリフルオロプロパノールとの付加反応により、式[5]で表すヘミアセタール体を形成することがあり、収率が低下する。さらに、ヘミアセタールは蒸留精製を行っても、目的物である3,3,3−トリフルオロプロパノールとの分離も難しい化合物である。その為、本発明は少なくとも2種類の温度範囲を用いて段階的に反応させることが好ましい。
【0034】
反応時間については、特に制限はなく、ガスクロマトグラフィー等で反応の進行状況を確認し、終点に近づいたことを確認した後、反応工程を終了することが好ましい。
反応後の処理は特に限定されないが、濾過にて触媒除去後、反応液をそのまま蒸留等の通常の手段に付して、3,3,3−トリフルオロプロパノールを得ることができる。
[実施例]
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、生成ガスを直接ガスクロマトグラフィーによって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
[調製例1]
【0035】
【化5】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内にベンジルアルコール331g(3.06mol)、48%KOH水溶液456g(3.91mol)、そして18−クラウン−6−エーテル8g(0.0302mol)を量り取り、氷浴にて10℃以下まで冷却した。冷却後、オートクレーブ反応器内を減圧し、(1E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン400g(3.07mol)を挿入管より吸引させた。全ての試剤を導入後、25℃付近まで昇温し、反応を開始させた。反応開始後は急な反応圧力の上昇に注意しながら段階的にオイルバス温度を6時間かけて80℃まで昇温させ、そのまま12時間加熱攪拌した。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、原料の(1E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1.76%、ベンジルアルコール1.76%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン88.91%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン3.43%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン3.45%であった。
【0036】
反応により析出した塩化カリウムは400gのイオン交換水を用い溶解させ、50℃にて二相分離を行うことで有機相623gを得た。さらに再度、イオン交換水400gを用いて洗浄を繰り返し、それを二相分離することにより粗体600gを得た。得られた粗体は減圧蒸留(87℃〜82℃/2.0kPa)により留分を集め、530gの混合物を得た。この混合物をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ベンジルアルコール1.65%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン94.60%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン3.56%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.13%であった。この場合の反応からの収率は85.6%であった。
【実施例1】
【0037】
【化6】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、調製例1で得られた混合物400g(1.98mol)、エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)AER−Type12g(2.82mmol)、t−ブチルメチルエーテル200gを量り取り、氷浴にて10℃以下まで冷却した。冷却後、挿入管より1.00MPa(絶対圧)の水素を、発熱に注意しながら内温が30℃以内になるように2時間導入した。反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.07%、3,3,3−トリフルオロプロパノール0.08%、トルエン14.3%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン81.17%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.04%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.15%であった。
【0038】
その後、オイルバスにて内温を80℃へ昇温させ4時間の加熱攪拌を行い、反応を完結させた。その際の反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.08%、3,3,3−トリフルオロプロパノール25.72%、トルエン71.76%、メチルシクロヘキサン2.17%(トルエンの過還元により副生)であった。
【0039】
反応後、室温まで冷却し、t−ブチルメチルエーテル100gを洗浄溶媒として用いながら加圧濾過にてパラジウムカーボン粉末を除去することで、686gの反応濾液を得た。
減圧下、得られた濾液はそのままステンレス製ヘリパックNo.2を充填した15段蒸留塔にて分留(45.5℃〜38.3℃/15.0〜6.6kPa)を行い、留分を303g得た。この留分をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.01%、3,3,3−トリフルオロプロパノール23.57%、トルエン76.38%、t−ブチルメチルエーテル0.02%であった。得られた留分(混合物)に対し、ビス−1,4−トリフルオロベンゼンを内部標準に用い、
19F−NMRによる3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量値を算出したところ、157gの3,3,3−トリフルオロプロパノールが含有していることを確認した。この際の反応からの3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量収率は69.5%であった(調製例1から算出した総収率は59.5%)。
[物性データ]
(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):4.81 (2H, s), 5.06 (1H, dq, J=12.8, 6.4Hz), 7.11 (1H, dq, J=12.8, 2.0 Hz), 7.35 (5H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−59.81 (3F, d, J=6.3 Hz).
(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):4.69 (1H, m), 4.95 (2H, s), 6.36 (1H, d, J=6.8 Hz), 7.34 (5H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−57.81 (3F, d, J=5.6 Hz).
1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.57(2H, dq, J= 5.6Hz, 10.8Hz),4.60 (4H, dd, J=11.6Hz, 11.6Hz), 5.06 (1H, t, J=5.6Hz), 7.31 (1 0H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−63.74 (3F, t, J=11.5 Hz).
3,3,3−トリフルオロプロパノール:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.35 (2H, tq, 6.0Hz, 11.2Hz), 3.55 (1H, br), 3.85 (2H, t, J=6.0Hz).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−65.16 (3F, t, J=11.5 Hz).
【実施例2】
【0040】
実施例1と同じ条件下で、種々の溶媒を用いた実験を行い、以下の表にまとめた(なお、表中、「n.d.」は未検出であることを示す)。
【0041】
【化7】
【0042】
【表1】
[調製例2]
【0043】
【化8】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内にベンジルアルコール108g(0.99mol)、48%KOH水溶液149g(1.28mol)、そして18−クラウン‐6−エーテル3.9g(0.0148mol)を量り取り、氷浴にて20℃以下まで冷却した。冷却後、オートクレーブ反応器内を減圧し、(1Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130g(1.00mol)を挿入管より吸引させた。全ての試剤を導入後、室温にて3時間攪拌した。その後、急な反応圧力の上昇に注意しながら段階的にオイルバス温度を5時間かけて60℃まで昇温させ、そのまま10時間加熱攪拌した。その後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、原料の(1Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.20%、ベンジルアルコール3.75%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.41%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン90.73%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.61%であった。
【0044】
反応により析出した塩化カリウムは130gのイオン交換水を用い溶解させ、50℃にて二相分離を行うことで粗体190gを得た。得られた粗体はフラッシュ蒸留により91℃〜89℃/0.9kPaの留分を捕集したところ、154gの混合物を得た。この混合物をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ベンジルアルコール1.64%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.42%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン94.35%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.01%であった。この場合の反応からの収率は76.5%であった。
【実施例3】
【0045】
【化9】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に調製例2で得られた混合物100g(0.495mol)、エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)AER−Type3g(0.71mmol)、t−ブチルメチルエーテル50gを量り取り、氷浴にて10℃以下まで冷却した。冷却後、挿入管より1.00MPa(絶対圧)の水素を発熱に注意しながら、内温が20℃以内になるように2時間導入した。2時間の反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.03%、3,3,3−トリフルオロプロパノール0.97%、トルエン4.97%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン92.21%、(1Z)1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.01%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.01%であった。その後、オイルバスを用い80℃へ昇温し、4時間加熱攪拌を行うことで反応を完結させた。その際の反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.01%、3,3,3−トリフルオロプロパノール25.89%、トルエン68.57%、メチルシクロヘキサン2.68%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.96%であった。
【0046】
反応後、室温まで冷却し、t−ブチルメチルエーテル25gを洗浄溶媒として用いながら減圧濾過にてパラジウムカーボン粉末を除去することで、164gの反応濾液を得た。得られた濾液混合物に対し、ビス−1,4−トリフルオロベンゼンを内部標準に用い、
19F−NMRによる3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量値を算出したところ、54gの3,3,3−トリフルオロプロパノールが含有していることを確認した。この際の反応からの3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量収率は95.3%であった。
[調製例3]
【0047】
【化10】
調製例1と同様の方法でパラ−メチルベンジルアルコール140g(1.15mol)を用いたベンジルビニルエーテルを合成したところ、原料の(1E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.75%、パラ−メチルベンジルアルコール10.12%、(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン77.76%、(1Z)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.08%、1,1−ジ(パラ−メチルベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパン0.55%の反応液を得た。次いで、得られた反応液に対して調製例1に記載の方法と同様の後処理操作を行い、フラッシュ蒸留(105℃/0.4kPa)にて留分を200g捕集した。回収した留分をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、パラ−メチルベンジルアルコール9.87%、(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン84.56%、(1Z)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.24%、1,1−ジ(パラ−メチルベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパン0.04%であった。反応からの収率は80.5%であった。
[物性データ]
(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.35(3H,s),4.76 (2H, s), 5.04 (1H, dq, J=12.8, 6.4Hz), 7.10 (1H, dq, J=12.8, 2.0 Hz), 7.21 (4H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−59.75 (3F, d, J=6.0 Hz).
【実施例4】
【0048】
【化11】
調製例3で得られた混合物200g(0.926mol)を用い、5%パラジウムカーボン粉末10g(50%含水品)とt−ブチルメチルエーテル溶媒100g存在下、1.00MPa(絶対圧)の水素にて水素化分解反応を内温20℃以下にて2時間行った。その反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.03%、3,3,3−トリフルオロプロパノール1.75%、パラ−キシレン13.89%、1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン83.83%、(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.01%、1,1−ジ(パラ−メチルベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパン0.04%であった。次いで内温を80℃まで昇温し、さらに4時間過熱攪拌することで反応を完結させた。その際の反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.02%、3,3,3−トリフルオロプロパノール21.14%、パラ−キシレン77.95%、1,4−ジメチルシクロヘキサン0.51%(パラ−キシレンの過還元により副生)、1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.01%、(1E)1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.01%であった。
【0049】
反応後、室温まで冷却し、t−ブチルメチルエーテル50gを洗浄溶媒として用いながら減圧濾過にてパラジウムカーボン粉末を除去することで、347gの反応濾液を得た。得られた濾液混合物に対し、ビス−1,4−トリフルオロベンゼンを内部標準に用い、
19F−NMRによる3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量値を算出したところ、96gの3,3,3−トリフルオロプロパノールが含有していることを確認した。この際の反応からの3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量収率は91.0%であった。
[調製例4]
【0050】
【化12】
調製例1と同様の方法でパラ−メトキシベンジルアルコール276g(2.00mol)を用いたベンジルビニルエーテルを合成したところ、原料の(1E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.53%、パラ−メトキシベンジルアルコール1.13%、(1E)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン90.11%、(1Z)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.45%、1,1−ジ(パラ−メトキシベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパン0.04%の反応液を得た。次いで、得られた反応液を調製例1に記載の方法と同様の後処理操作を行い、フラッシュ蒸留(108℃/0.7kPa)にて留分を380g捕集した。回収した留分をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、パラ−メトキシベンジルアルコール1.01%、(1E)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン93.34%、(1Z)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.34%、1,1−ジ(パラ−メトキシベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパン0.01%であった。この場合の反応からの収率は81.9%であった。
[物性データ]
(1E)−1−(パラ−メトキシベンジルオキシ)−3,3,3−トリフルオロプロペン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):3.80(3H,s)4.74 (2H, s), 5.04 (1H, dq, J=12.8, 6.4Hz), 6.90(2H, m), 7.10 (1H, dq, J=13.2, 2.0 Hz), 7.20 (2H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−59.74 (3F, d, J=5.6 Hz)
【実施例5】
【0051】
【化13】
調製例4にて得られた混合物200g(0.861mol)を用い、5%パラジウムカーボン粉末10g(50%含水品)とt−ブチルメチルエーテル溶媒200g存在下、1.00MPa(絶対圧)の水素にて水素化分解反応を内温20℃以下にて2時間行った。その反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.07%、3,3,3−トリフルオロプロパノール1.16%、パラ−メトキシトルエン5.45%、1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン83.84%、(1E)1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン9.22%であった。次いで内温を80℃まで昇温し、さらに4時間過熱攪拌することで反応を完結させた。その際の反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.05%、3,3,3−トリフルオロプロパノール23.76%、パラ−メトキシトルエン53.57%、パラ−メトキシメチルシクロヘキサン12.61%(パラ−メトキシトルエンの過還元により副生)、1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.79%であった。
【0052】
反応後、室温まで冷却し、t−ブチルメチルエーテル50gを洗浄溶媒として用いながら減圧濾過にてパラジウムカーボン粉末を除去することで、429gの反応濾液を得た。常圧下、得られた濾液はそのままステンレス製ヘリパックNo.2を充填した10段蒸留塔にて分留を行い、99℃〜102℃の留分を捕集し、57g得た。この留分をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.04%、3,3,3−トリフルオロプロパノール98.11%、t−ブチルメチルエーテル1.21%、パラ−メトキシメチルシクロヘキサン0.48%であった。得られた留分の反応からの3,3,3−トリフルオロプロパノールの収率は58.1%であった。調製例4からの総収率は47.6%であった。
【実施例6】
【0053】
【化14】

圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、調製例1と同様の条件で製造して得た混合物400g(1.98mol、ベンジルアルコール1.42%、(1E)1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン94.16%、(1Z)1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.11%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.18%)エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)AER−Type12g(2.82mmol)、t−ブチルメチルエーテル400gを量り取り、オイルバスにて80℃付近まで昇温させた。昇温後、挿入管より、水素を1.00MPa(絶対圧)の圧力下、5時間導入した。導入後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド3.65%、3,3,3−トリフルオロプロパノール16.72%、1−(3,3,3−トリフルオロプロポキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパノール1.10%(式[5]ヘミアセタール)、トルエン73.43%、メチルシクロヘキサン0.32%(トルエンの過還元により副生)、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.05%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.01%であった。この場合の3,3,3−トリフルオロプロパノールの選択率は63.7%、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドの選択率は13.4%、そして1−(3,3,3−トリフルオロプロポキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパノール1.10%(式[5]ヘミアセタール)の選択率は4.2%であった。次にオイルバスの温度を120℃まで昇温し、さらに7時間の加熱攪拌を行った後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド2.76%、3,3,3−トリフルオロプロパノール20.32%、1−(3,3,3−トリフルオロプロポキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパノール0.70%、トルエン73.58%、メチルシクロヘキサン0.58%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.04%であった。この場合の3,3,3−トリフルオロプロパノールの選択率は78.6%、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒドの選択率は10.7%、そして1−(3,3,3−トリフルオロプロポキシ)−3,3,3−トリフルオロプロパノール1.10%(式[5]ヘミアセタール)の選択率は2.7%であった。
【実施例7】
【0054】
【化15】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、調製例1と同様の条件で製造して得た混合物200g(0.99mol、ベンジルアルコール1.42%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン94.16%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.11%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.18%)エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)AER−Type6g(1.41mmol)、t−ブチルメチルエーテル100gを量り取り、氷浴にて10℃以下まで冷却した。冷却後、挿入管より1.00MPa(絶対圧)の水素を発熱に注意しながら、内温が10℃以内になるように2時間導入した。導入後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.04%、3,3,3−トリフルオロプロパノール0.80%、トルエン4.50%、ベンジルアルコール0.05%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン94.09%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.11%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.25%であった。
【0055】
反応終了後、加圧濾過により触媒を除去し、得られた濾液を減圧下、フラッシュ蒸留を行うことで89.6℃/1.0kPaの留分を集め、182gの留分を得た。この留分をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、3,3,3−トリフルオロプロパノール0.02%、トルエン0.15%、ベンジルアルコール0.05%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン99.62%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.05%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.04%であった。この際、反応からのベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパンの収率は90.0%であった。
[物性データ]
1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.42 (2H, tq, J=6.8,10.8Hz), 3.67 (2H, t, J=6.8Hz), 4.52(2H, s), 7.33 (5H, m).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−65.22 (3F, t, J=11.5 Hz)
【実施例8】
【0056】
【化16】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、実施例7(スキーム12)で得られた混合物100g(0.490mol)、エヌ・イ−ケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)AER−Type3g(0.71mmol)、t−ブチルメチルエーテル50gを量り取り、オイルバスを用いて80℃まで昇温した。加熱後、挿入管より1.00MPaの水素を4時間導入した。4時間の反応後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロパノール24.59%、トルエン70.91%、メチルシクロヘキサン2.66%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.40%であった。
【0057】
反応後、室温まで冷却し、t−ブチルメチルエーテル25gを洗浄溶媒として使用し、減圧濾過にてパラジウムカーボン粉末を除去すると、169gの反応濾液を得た。得られた濾液混合物に対し、ビス−1,4−トリフルオロベンゼンを内部標準に用い、
19F−NMRによる3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量値を算出したところ、54gの3,3,3−トリフルオロプロパノールが含有していることを確認した。この際の反応からの3,3,3−トリフルオロプロパノールの定量収率は96.5%であった。
【実施例9】
【0058】
【化17】
調製例3と同様の条件で製造して得た混合物105g(0.486mol、(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン83.9%、(1Z)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.45%、パラ−メチルベンジルアルコール9.95% )に、水素を1.00MPa(絶対圧)の圧力下、内温10℃以下で2時間導入し、水素化反応を行った。反応後、後処理を行い、フラッシュ蒸留より得られた留分86g(93.1℃/0.7kPa)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ガスクロマトグラフィー組成は、パラ−キシレン0.04%、1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン99.47%、(1E)−1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.26%であった。この際の反応からの収率は81.1%であった(なお、本実施例は、得られた1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパンについての水素化反応は行っていないが、実施例4と同様の条件で水素と反応させることにより、3,3,3−トリフルオロプロパノールを効率的に製造できる)。
[物性データ]
1−パラ−メチルベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.33 (3H, s)2.40 (2H, tq, J=6.8, 10.8Hz), 3.65 (2H, t, J=6.8Hz), 4.47(2H, s), 7.15 (2H, d, J=8.0Hz ), 7.20Hz(2H, d, 8.4Hz).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−65.23 (3F, t, J=11.5 Hz).
【実施例10】
【0059】
【化18】
調製例4と同様の条件で製造して得た混合物75g(0.321mol、(1E)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン93.34%、(1Z)−1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.34%、パラ−メトキシベンジルアルコール1.01% )に、水素を1.00MPa(絶対圧)の圧力下、内温10℃以下で2時間導入し、水素化反応を行った。反応後、後処理を行い、フラッシュ蒸留より得られた留分68g(88.3℃/0.4kPa)をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ガスクロマトグラフィー組成は、パラ−メトキシトルエン1.33%、1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン98.38%であった。この際の反応からの収率は90.1%であった(なお、本実施例は、得られた1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパンについての水素化反応は行っていないが、実施例5と同様の条件で水素と反応させることにより、3,3,3−トリフルオロプロパノールを効率的に製造できる)。
[物性データ]
1−パラ−メトキシベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン:
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ(ppm):2.41(2H, tq, J=6.8, 10.8Hz), 3.64 (2H, t, J=6.8Hz), 3.79 (3H, s),4.45(2H, s), 6.88 (2H, dt, J=9.2,2.8Hz ), 7.24Hz(2H, dt, 8.8, 2.0Hz).
19F−NMR(400MHz,CDCl
3,CFCl
3)δ(ppm):−65.22 (3F, t, J=11.5 Hz).
[比較例1]
【0060】
【化19】
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた1000mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、調製例1と同様の条件で製造して得た混合物200g(0.99mol、 ベンジルアルコール1.42%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン94.16%、(1Z)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.11%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン0.18%)、エヌ・イ−ケムキャット社製の5%ルテニウムカーボン粉末(50%含水品)A−Type6g(1.48mmol)、t−ブチルメチルエーテル200gを量り取り、挿入管より1.00MPa(絶対圧)の水素を内温が80℃〜120℃になるように調整しながら6〜8時間導入した。
【0061】
導入後、反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、反応溶媒であるt−ブチルメチルエーテルを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、3,3,3−トリフルオロプロピオンアルデヒド0.02%、3,3,3−トリフルオロプロパノール1.36%、トルエン6.03%、メチルシクロヘキサン1.39%、ベンジルアルコール0.11%、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン71.50%、(1E)−1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン4.99%、1,1−ジベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパン0.15%であった。
このように、触媒としてルテニウムカーボンを用いて水素化反応を行っても、1−ベンジルオキシ−3,3,3−トリフルオロプロパンの生成が主であり、目的物の3,3,3−トリフルオロプロパノールは殆ど得られなかった。