特許第6643735号(P6643735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643735含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類の実用的な製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643735
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類の実用的な製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/31 20060101AFI20200130BHJP
   C07C 67/313 20060101ALI20200130BHJP
   C07C 69/675 20060101ALI20200130BHJP
   C07C 69/708 20060101ALI20200130BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20200130BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200130BHJP
【FI】
   C07C67/31
   C07C67/313
   C07C69/675
   C07C69/708 A
   C07C69/716 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-500559(P2017-500559)
(86)(22)【出願日】2016年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2016051771
(87)【国際公開番号】WO2016132805
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2018年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-27820(P2015-27820)
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 祥子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 たか子
(72)【発明者】
【氏名】柏葉 崇
(72)【発明者】
【氏名】岡本 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石井 章央
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/008285(WO,A1)
【文献】 特表平7−506337(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/040946(WO,A1)
【文献】 Journal of Fluorine Chemistry,2002年,Vol.115, No.1,p.67-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00−69/96
C07B 61/00
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルをNaClO・5HOまたはCa(ClO)・nHO[式中、nは0から3の整数を表す。]と反応させることにより、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造する方法。
【化22】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【化23】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【請求項2】
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルのRが水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
相間移動触媒の存在下に反応させることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応溶媒を用いずに反応させることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を脱水剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する方法。
【化24】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【請求項6】
脱水剤が五酸化二リンまたは濃硫酸であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を、一般式[4]で示される低級アルコールと反応させることにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する方法。
【化25】
[式中、Rは炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【化26】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rは炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【請求項8】
一般式[4]で示される低級アルコールのRがメチル基またはエチル基であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のRと、一般式[4]で示される低級アルコールのRが同一のアルキル基であることを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルと反応させることにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する方法。
【化27】
[式中、Rは炭素数1から4のアルキル基を表し、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
【化28】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rは炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【請求項11】
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのRがメチル基またはエチル基であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のRと、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのRが同一のアルキル基であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物から、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する前記反応を、酸触媒の存在下に行うことを特徴とする、請求項7乃至請求項12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項7乃至請求項13の何れか1項に記載の方法により、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造し、該エステル・ヘミケタールを脱アルコール剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する方法。
【化29】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【請求項15】
脱アルコール剤が五酸化二リンまたは濃硫酸であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体として重要な含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類の実用的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類は、医農薬中間体として重要な化合物である。含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類の代表的な製造方法としては、非特許文献1から4が挙げられる。非特許文献1は、ヘキサフルオロプロペン−1,2−オキシドから3,3,3−トリフルオロピルビン酸エステルを製造する方法である。非特許文献2は、3,3,3−トリフルオロ乳酸エステル誘導体の脱フッ化水素と互変異性を鍵反応とする3,3−ジフルオロピルビン酸エステルの製造方法である。非特許文献3は、2−トリフルオロアセチルフラン誘導体の還元的脱フッ素化とフラン部位の酸化分解を鍵反応とする3,3−ジフルオロピルビン酸エステルの製造方法である。非特許文献4は、含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを酸化する方法として、デス・マーチン試薬で酸化することにより対応する含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類を製造する方法である。
【0003】
一方、非特許文献5では、α位にトリフルオロメチル基を有するアルコールを、デス・マーチン試薬で酸化することにより対応するトリフルオロメチルケトンを製造する方法を開示しており、さらに、特許文献1では、α位にトリフルオロメチル基を有するアルコールを低含量(1から20質量%)の次亜ハロゲン酸類の水溶液と反応させることによりトリフルオロメチルケトンを製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平7−506337号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry(オランダ),2002年,第115巻,p.67−74
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry(米国),1996年,第61巻,p.7521−7528
【非特許文献3】Journal of Fluorine Chemistry(オランダ),2009年,第130巻,p.682−683
【非特許文献4】Journal of Organic Chemistry(米国),1995年,第60巻,p.5174−5179
【非特許文献5】Tetrahedron(英国),1991年,第47巻,p.3207−3258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、医農薬中間体として重要な含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類の実用的な製造方法を提供することである。
【0007】
非特許文献1は、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エステルの製造方法としては実用性の高いものであるが、本化合物だけに特化したものであり、例えば3,3−ジフルオロピルビン酸エステルの様な類縁化合物には上手く適用できなかった。非特許文献2は、互変異性で副反応が支配的となり低収率であった。非特許文献3は、極低温条件を必要としスケールアップが困難であった。
【0008】
従来の製造方法の問題点を考慮すると、比較的入手容易な含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを酸化する手法が実用性の観点から優れているものと考えられる。しかしながら、この様なアルコールの酸化で好結果を与える酸化剤は、高価で且つ取り扱いの危険が指摘されるデス・マーチン試薬に限られ、スケールアップに不向きであった(非特許文献4)。
【0009】
特許文献1に記載の方法は、類縁原料をデス・マーチン試薬で酸化する非特許文献5に記載の方法と比べると、格段に実用的な製造方法である。しかしながら、実際に、本発明の原料である含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを特許文献1の代表的な反応条件(該文献の例6を参照)に付しても、回収した有機層に含まれる目的物は少なく、特許文献1は、本発明の目的化合物の実用的な製造方法に成り得ないことが分かった(比較例1を参照)。逆に、特許文献1でクレームされている原料や類縁原料を本発明の好適な反応条件に付しても、満足の行く結果は得られなかった(比較例2と3を参照)。
【0010】
従って、本発明の具体的な課題は、安価で且つスケールアップにおいても取り扱いの安全な酸化剤を用いて、含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを酸化して含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを得る新規な製造方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステル(以下、化合物[1]とする)を“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”と反応させることにより、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物(以下、化合物[2]とする)が製造できることを新たに見出した。
【化1】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【化2】
[式中、R1およびR2は、一般式[1]のR1およびR2と同じである。]
【0012】
本発明でも酸化剤として特許文献1で開示されている次亜塩素酸塩を用いるが、次亜塩素酸塩の含量が明確に異なり、また、対象とする原料基質も明確に異なる。
【0013】
本来の酸化生成物は、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル(以下、化合物[3]とする)と考えられるが、酸化剤に由来する水や反応で等量副生する水によって、α−ケト基が水和された化合物[2]として得られてくる。よって、本発明では、化合物[2]を化合物[3]に脱水する工程も含まれてくる。
【化3】
[式中、R1およびR2は、一般式[1]のR1およびR2と同じである。]
【0014】
一方で、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタール(以下、化合物[5]とする)は、化合物[2]から容易に変換でき(実施例5と6を参照)、更に化合物[2]から化合物[3]への直接的な変換に比べて、化合物[5]を経由する方が効率的に回収できる場合がある(後記、実施例11と12も参照)。
【化4】
[式中、R1およびR2は、一般式[1]のR1およびR2と同じであり、R3は炭素数1から4のアルキル基を表す。]
また、化合物[5]は、化合物[3]と同等の反応性を有すること(参考例4から6を参照)、更に化合物[5]は、長期保管においても化合物[3]に比べて優れていることを見出した。この様に、化合物[5]は、化合物[3]の合成等価体として有効に機能し得るものである。
【0015】
本発明は、スキーム1で示される範囲を対象とする。工程Aは、化合物[1]を“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”と反応させることにより化合物[2]を製造する酸化工程であり、工程Bは、工程Aで製造した化合物[2]を脱水剤と反応させることにより化合物[3]を製造する脱水工程である。また、工程Cは、工程Aで製造した化合物[2]を低級アルコールまたはオルトカルボン酸トリアルキルと反応させることにより化合物[5]を製造するヘミケタール化工程であり、工程Dは、工程Cで製造した化合物[5]を脱アルコール剤と反応させることにより化合物[3]を製造する脱アルコール工程である。因みに、化合物[3]は、水または低級アルコールと接触させることにより、それぞれ化合物[2]、化合物[5]に直ちに逆戻りする。また、化合物[5]も、水と接触させることにより化合物[2]に容易に逆戻りする。
【化5】
【0016】
工程Aで用いる“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”の中でも、31質量%以上のものが好ましく、NaClO・5H2OまたはCa(ClO)2・nH2O[nは0から3の整数を表す]が特に好ましく、所望の反応を収率良く行うことができる。
【0017】
本発明は、実用的な製造方法が限られていた3,3−ジフルオロピルビン酸エステル類の製造にも好適に適用できるため、化合物[1]の好ましい態様として、3,3−ジフルオロ乳酸エステルが挙げられる。
【0018】
工程Aは、相間移動触媒の存在下に反応させることにより、所望の反応を円滑に行うことができる。また、工程Aは、反応溶媒を用いずに反応させることもでき、工業的な観点から高い生産性と廃棄物の削減に寄与できる。
【0019】
工程Aで製造した化合物[2]を脱水剤と反応させることにより、化合物[3]が製造できることも見出した。
【0020】
脱水剤の中でも、五酸化二リンおよび濃硫酸が好ましく、化合物[3]を収率良く回収することができる。
【0021】
また、工程Aで製造した化合物[2]を低級アルコールと反応させることにより、化合物[5]が製造できることも見出した(以下、工程C−1とする)。
【0022】
低級アルコールの中でも、メタノールおよびエタノールが好ましく、得られる化合物[5]の沸点を低く抑えることができ、熱的に不安定なヘミケタール構造であっても蒸留精製することができる。
【0023】
工程C−1の副反応としてエステル交換{化合物[2]のエステル部位(−CO22)+低級アルコール(R3OH)→−CO23+R2OH}が起こり得るが、化合物[2]のR2と低級アルコールのR3を同一のアルキル基に揃えることで実質的に回避することができ、好ましい態様となる。
【0024】
工程C−1は、酸触媒の存在下に反応させることにより、所望の反応を短時間で行うことができる。
【0025】
さらに、工程Aで製造した化合物[2]をオルトカルボン酸トリアルキルと反応させることにより、所望の反応を再現良く行うことができる(以下、工程C−2とする)。反応系内に存在する水を消費[例えば、R4C(OR33+H2O→R4CO23+2R3OH]させることにより、化合物[2]⇔化合物[5]の平衡を化合物[5]の側に大きく傾けることができる。
【0026】
オルトカルボン酸トリアルキルの中でも、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチルおよびオルト酢酸トリエチルが好ましく、得られる化合物[5]の沸点を低く抑えることができ、熱的に不安定なヘミケタール構造であっても蒸留精製することができる。
【0027】
工程C−2の副反応としてエステル交換{化合物[2]のエステル部位(−CO22)+反応系内で生成する低級アルコール(R3OH)→−CO23+R2OH}が起こり得るが、化合物[2]のR2とオルトカルボン酸トリアルキルのR3を同一のアルキル基に揃えることで実質的に回避することができ、好ましい態様となる。
【0028】
工程C−2は、酸触媒の存在下に反応させることにより、所望の反応を短時間で行うことができる。
【0029】
工程C−2で製造した化合物[5]を脱アルコール剤と反応させることにより、化合物[3]が製造できることも見出した。
【0030】
脱アルコール剤の中でも、五酸化二リンおよび濃硫酸が好ましく、化合物[3]を収率良く回収することができる。
【0031】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]から[発明17]を提供する。
【0032】
[発明1]
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”と反応させることにより、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造する方法。
【化6】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【化7】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【0033】
[発明2]
“組成の質量百分率が31質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”と反応させることを特徴とする、発明1に記載の方法。
【0034】
[発明3]
NaClO・5H2OまたはCa(ClO)2・nH2O[式中、nは0から3の整数を表す。]と反応させることを特徴とする、発明1に記載の方法。
【0035】
[発明4]
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルのR1が水素原子であることを特徴とする、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
【0036】
[発明5]
相間移動触媒の存在下に反応させることを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
【0037】
[発明6]
反応溶媒を用いずに反応させることを特徴とする、発明1乃至5の何れかに記載の方法。
【0038】
[発明7]
発明1乃至6の何れかに記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を脱水剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する方法。
【化8】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【0039】
[発明8]
脱水剤が五酸化二リンまたは濃硫酸であることを特徴とする、発明7に記載の方法。
【0040】
[発明9]
発明1乃至6の何れかに記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を、一般式[4]で示される低級アルコールと反応させることにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する方法。
【化9】
[式中、R3は炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【化10】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表し、R3は炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【0041】
[発明10]
一般式[4]で示される低級アルコールのR3がメチル基またはエチル基であることを特徴とする、発明9に記載の方法。
【0042】
[発明11]
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR2と、一般式[4]で示される低級アルコールのR3が同一のアルキル基であることを特徴とする、発明9または10に記載の方法。
【0043】
[発明12]
発明1乃至6の何れかに記載の方法により、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造し、次に該エステル・水和物を、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルと反応させることにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する方法。
【化11】
[式中、R3は炭素数1から4のアルキル基を表し、R4は水素原子、メチル基またはエチル基を表す。]
【化12】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表し、R3は炭素数1から4のアルキル基を表す。]
【0044】
[発明13]
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3がメチル基またはエチル基であることを特徴とする、発明12に記載の方法。
【0045】
[発明14]
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR2と、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3が同一のアルキル基であることを特徴とする、発明12または13に記載の方法。
【0046】
[発明15]
酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする、発明9乃至14の何れかに記載の方法。
【0047】
[発明16]
発明9乃至15の何れかに記載の方法により、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造し、次に該エステル・ヘミケタールを脱アルコール剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する方法。
【化13】
[式中、R1は水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表し、R2はアルキル基または置換アルキル基を表す。]
【0048】
[発明17]
脱アルコール剤が五酸化二リンまたは濃硫酸であることを特徴とする、発明16に記載の方法。
【0049】
本発明において、原料と反応条件を好適に組み合わせることにより、高収率で効率よく含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の詳細について、酸化工程、脱水工程、ヘミケタール化工程および脱アルコール工程の順に以下に説明する。
【0051】
1.酸化工程
本工程は、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルを“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”と反応させることにより、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を製造する工程である。
【0052】
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルのR1は、水素原子、ハロゲン原子またはハロアルキル基を表す。該ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。該ハロアルキル基は、炭素数1から12の、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のアルキル基の、任意の炭素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、上記のハロゲン原子を有する。その中でも水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子および炭素数1から6のハロアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0053】
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルのR2は、アルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基は、炭素数1から8の、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。該置換アルキル基は、該アルキル基の、任意の炭素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、上記のハロゲン原子または炭素数1から4のアルコキシ基である。該アルコキシ基のアルキル部位は、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。その中でも炭素数1から4のアルキル基が好ましく、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
【0054】
一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルは、特開1993−279314号公報、特開2004−018503号公報、国際公開2014−078220号公報(以下、特許文献2とする)および非特許文献4等を参考にして調製することができる(参考例1を参照)。R1およびR2の置換基が若干異なる程度の狭義の新規化合物であっても、同様に調製することができる。その中でもR1およびR2の好ましい組み合わせの化合物が好ましく、R1およびR2の特に好ましい組み合わせの化合物が特に好ましい。
【0055】
次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カルシウムの化学式は、それぞれNaClO、Ca(ClO)2で表される。次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜塩素酸カルシウムは、多くの場合、水和物または水溶液の形態で用いられ、また製造上、酸化活性のない無機塩が含まれる場合もある。
【0056】
“組成の質量百分率が21質量%以上の次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウム”とは、NaClOまたはCa(ClO)2としての成分が21質量%以上含まれることを意味する。具体的には、下記の質量百分率が例示されている化合物が挙げられる。その中でも31質量%以上のものが好ましく、NaClO・5H2OおよびCa(ClO)2・nH2Oが特に好ましい。Ca(ClO)2・nH2Oのnは、0から3の整数を表す。質量百分率の例示として、NaClO・5H2Oは、“NaClOの分子量(74.4)÷NaClO・5H2Oの分子量(164.5)×100”より45質量%となる。Ca(ClO)2・H2O、Ca(ClO)2・2H2O、Ca(ClO)2・3H2OおよびCa(ClO)2・CaCl2・2H2O[CaCl(ClO)・H2O]は、同様の計算より、それぞれ89質量%、80質量%、73質量%、49質量%となる。当然、12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液とCa(ClO)2は、それぞれ12質量%、100質量%となる。次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムの含量については、酸化反応自体に実質的に影響を与えない(または酸化活性のない)添加物等を故意に加えて、酸化剤の見掛の含量を21質量%未満にして反応を行っても、本発明の請求項に含まれるものとして扱う。
【0057】
酸化剤として好適なNaClO・5H2Oは、工業品グレードを利用することができ、低含量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に比べて長期保存安定性があり、工業的な実施において有利である。
【0058】
次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムの使用量は、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステル1molに対して、NaClOまたはCa(ClO)2成分として0.7mol以上を用いれば良く、0.8から7molが好ましく、0.9から5molが特に好ましい。
【0059】
本工程は、不均一系反応となる場合が多いため、必要に応じて相間移動触媒の存在下に反応させることもできる。当然、好適な反応条件を採用することにより、相間移動触媒を必ずしも用いる必要はない。
【0060】
相間移動触媒は、特に制限はなく、第4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ポリエーテル(ポリエチレングリコール、クラウンエーテル)等である。その中でも第4級アンモニウム塩が好ましく、テトラn−ブチルアンモニウムブロミドおよびテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩が特に好ましい。
【0061】
第4級アンモニウム塩は、一般式[7]で示される。
【化14】
[式中、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立にアルキル基またはアラルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオンまたは硫酸水素イオン(HSO4-)を表す。]
該アルキル基は、炭素数1から12の、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。該アラルキル基は、炭素数1から12であり、アルキル部位は、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数9以上の場合)である。該ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンである。
【0062】
相間移動触媒の使用量は、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステル1molに対して0.7mol以下を用いれば良く、0.0001から0.5molが好ましく、0.0005から0.3molが特に好ましい。
【0063】
反応溶媒は、特に制限はなく、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系等である。その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン系、エーテル系、エステル系およびニトリル系が好ましく、芳香族炭化水素系、エステル系およびニトリル系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。本工程は、反応溶媒を用いずに反応させることもでき、ニートでの反応が好ましい態様となる場合がある。
【0064】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステル1molに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、0.02から7Lが好ましく、0.03から5Lが特に好ましい。
【0065】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、+125から−50℃が好ましく、+100から−25℃が特に好ましい。
【0066】
反応時間は、48時間以内で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0067】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を得ることができる。反応溶媒を用いずに反応させ、更に得られる目的物の沸点が十分に低い場合は、反応終了液から直接、蒸留回収する操作が簡便である(実施例4を参照)。回収した粗体は、必要に応じて分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い純度に精製することができる。
【0068】
本工程とヘミケタール化工程は、ワンポット反応としても行うことができ、本発明の好ましい態様である(実施例8を参照)。
【0069】
一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR1およびR2は、一般式[1]で示される含フッ素α−ヒドロキシカルボン酸エステルのR1およびR2に由来する。
【0070】
本発明の原料である化合物[1]には、加水分解され易いエステル基があり、所望の酸化が起こる前に加水分解されると、副反応として減炭による含フッ素カルボン酸(R1CF2CO2H)が相当量副生する(比較例4を参照)。一方で、酸化の後に目的物が加水分解されると、水溶性の高い含フッ素α−ケトカルボン酸・水和物[R1CF2C(OH)2CO2H]となり、水層に移行して有機層に回収することが困難となる。本発明では、高含量の次亜塩素酸塩を用いるため、酸化の反応性を向上できるだけでなく、反応系内に持ち込まれる水の量を最小限に抑えることができ、望まないエステル基の加水分解を防ぐことができる。また、特許文献1で多用されている12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液には、本発明の好適な酸化剤であるNaClO・5H2OやCa(ClO)2・nH2Oに比べて、不要なアルカリ分が多く含まれており、エステル基の加水分解を助長する傾向が強い(比較例1を参照)。この様に、本発明の好適な酸化剤を用いることにより、所望の化合物[2]を収率良く得ることができる。本発明では、所望の化合物[2]を高い選択率で得ることができる。例えば、カルボニル基(またはgem−ジオール基)のα位に水素原子を有する目的物(化合物[2]のR1が水素原子)であっても、副反応としてクロル化されることがなく、3,3−ジフルオロピルビン酸エステル類の高純度品の製造にも好適に適用できる(実施例3と4を参照)。
【0071】
また、本発明では、特許文献1で必須とした相間移動触媒を必ずしも用いる必要がなく、工業的な観点からコストの低減と廃棄物の削減に寄与できる(実施例1を参照)。
【0072】
さらに、本発明では、特許文献1で必須とした反応溶媒を必ずしも用いる必要がなく、工業的な観点から有利である(実施例4を参照)。
【0073】
最後に、本発明で用いる好適な酸化剤は、工業的規模で安価に入手でき、且つ工業的規模での取り扱いも安全である。類縁原料の酸化が従来、デス・マーチン試薬の様な酸化剤に限定されていたことを鑑みると(非特許文献4を参照)、本発明の実用性の高さは容易に理解することができる。
【0074】
2.脱水工程
本工程は、酸化工程で製造した、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を脱水剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する工程である。
【0075】
脱水剤は、五酸化二リン、濃硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、モレキュラーシーブ(合成ゼオライト)、シリカゲル等の無機系、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸等の有機系である。その中でも五酸化二リン、濃硫酸、塩化カルシウム、無水酢酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水フタル酸および無水トリフルオロ酢酸が好ましく、五酸化二リンおよび濃硫酸が特に好ましい。
【0076】
モレキュラーシーブおよびシリカゲル以外の脱水剤の使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.1mol以上を用いれば良く、0.2から50molが好ましく、0.3から30molが特に好ましい。
【0077】
モレキュラーシーブおよびシリカゲルの使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1gに対して0.01g以上を用いれば良く、0.02から10gが好ましく、0.03から7gが特に好ましい。
【0078】
有機系の脱水剤を用いる場合は、第3級アミンまたはピリジン類等の有機塩基の存在下に反応させることにより、所望の反応を円滑に行うことができる。当然、好適な反応条件を採用することにより、有機塩基を必ずしも用いる必要はない。
【0079】
有機塩基の中でも、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、ルチジン(全ての位置異性体を含む)およびコリジン(全ての位置異性体を含む)が好ましく、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジンおよびルチジンが特に好ましい。
【0080】
第3級アミンは、一般式[8]で示される。
【化15】
[式中、R9、R10およびR11はそれぞれ独立にアルキル基またはアラルキル基を表す。]
該アルキル基は、炭素数1から12の、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。該アラルキル基は、炭素数1から12であり、アルキル部位は、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数9以上の場合)である。
【0081】
有機塩基の使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.1mol以上を用いれば良く、0.2から50molが好ましく、0.3から30molが特に好ましい。
【0082】
反応溶媒は、特に制限はなく、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド、メチルフェニルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系等である。その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン系、エーテル系、エステル系およびニトリル系が好ましく、芳香族炭化水素系、ハロゲン系およびエーテル系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。本工程は、反応溶媒を用いずに反応させることもでき、ニートでの反応が好ましい態様となる場合がある。
【0083】
反応溶媒の使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.01L以上を用いれば良く、0.02から5Lが好ましく、0.03から3Lが特に好ましい。
【0084】
反応温度は、+200℃以下で行えば良く、+175から−50℃が好ましく、+150から−25℃が特に好ましい。
【0085】
反応時間は、24時間以内で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0086】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを得ることができる。反応溶媒を用いずに反応させ、更に得られる目的物の沸点が十分に低い場合は、反応終了液から直接、蒸留回収する操作が簡便である。また、熱的に不安定な目的物に対しては、加熱した脱水剤に原料を滴下しながら、生成した目的物を逐次、減圧下で反応系外に抜き出す操作が好適に適用できる(実施例11を参照)。回収した粗体は、必要に応じて分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い純度に精製することができる。
【0087】
一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルのR1およびR2は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR1およびR2に由来する。
【0088】
3.ヘミケタール化
本工程は、酸化工程で製造した、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を、一般式[4]で示される低級アルコールまたは、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルと反応させることにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを製造する工程である。特に、一般式[4]で示される低級アルコールと反応させる場合をヘミケタール化工程−1とし、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルと反応させる場合をヘミケタール化工程−2とする。
【0089】
(ヘミケタール化工程−1に関連)
一般式[4]で示される低級アルコールのR3は、炭素数1から4のアルキル基を表す。該アルキル基は、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。その中でも炭素数1から3のものが好ましく、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
【0090】
一般式[4]で示される低級アルコールの使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.7mol以上を用いれば良く、0.8から200molが好ましく、0.9から150molが特に好ましい。
【0091】
(ヘミケタール化工程−2に関連)
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3は、炭素数1から4のアルキル基を表す。該アルキル基は、直鎖もしくは分枝の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)である。その中でも炭素数1から3のものが好ましく、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
【0092】
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR4は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す。その中でも水素原子およびメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0093】
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルの中でも、R3およびR4の好ましい組み合わせの化合物が好ましく、R3およびR4の特に好ましい組み合わせの化合物が特に好ましく、オルトギ酸トリメチルが極めて好ましい。
【0094】
一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルの使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.3mol以上を用いれば良く、0.4から100molが好ましく、0.5から75molが特に好ましい。原料として用いる、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物に水が含まれる場合は、水分含量を加味して多目に用いれば良い。また、ヘミケタール化工程−2は、一般式[4]で示される低級アルコールの存在下に反応させることもできる。
【0095】
(ヘミケタール化工程−1とヘミケタール化工程−2に共通)
本工程は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のgem−ジオール基をヘミケタール基に変換する工程であるが、副反応として上記のエステル交換が起こり得る。当然、好適な反応条件を採用することにより、副反応を最小限に制御することができるが、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR2と、一般式[4]で示される低級アルコールまたは、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3を同一のアルキル基に揃えることで実質的に回避することができ、好ましい態様となる(例えば、R2とR3を共にメチル基またはエチル基に揃える、実施例5と6を参照)。
【0096】
また、酸化工程で製造した、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物を水分含量が高い状態で長期保管すると、一般式[9a]または[9b]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸・水和物またはヘミケタールに分解する。
【化16】
[式中、R1およびR2は、一般式[2]のR1およびR2に由来する。]
本分解物は、本工程を通して、一般式[10a]、[10b]、[10c]または[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールに変換することができる。
【化17】
[式中、R1およびR2は、一般式[2]のR1およびR2に由来し、R3は、一般式[4]で示される低級アルコールまたは、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3に由来する。]
一般式[9a]または[9b]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸・水和物またはヘミケタールは、脱水工程または脱アルコール工程の原料基質に成り得ないが、一般式[10a]、[10b]、[10c]または[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールは、脱アルコール工程の原料基質に成り得る。この様な場合に、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR2と、一般式[4]で示される低級アルコールまたは、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3を同一のアルキル基に揃えることにより、一般式[10a]、[10b]、[10c]および[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを同一の化合物に収束させることができる。よって、該化合物を経由することにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルの回収率を改善することができ(前記)、好ましい態様となる(例えば、R2とR3をメチル基に揃える、実施例7を参照)。
【0097】
酸触媒は、特に制限はなく、ホウ酸、リン酸、塩化水素、臭化水素、硝酸、硫酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸である。その中でもリン酸、塩化水素、硫酸、ベンゼンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸が好ましく、塩化水素、硫酸およびパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。当然、好適な反応条件を採用することにより、酸触媒を必ずしも用いる必要はない(実施例5を参照)。
【0098】
酸触媒の使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.7mol以下を用いれば良く、0.0001から0.5molが好ましく、0.0005から0.3molが特に好ましい。
【0099】
反応溶媒は、特に制限はなく、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系等である。その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン系、エーテル系、エステル系およびニトリル系が好ましく、芳香族炭化水素系、ハロゲン系およびニトリル系が特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。本工程は、反応溶媒を用いずに反応させることもでき、ニートでの反応が好ましい態様となる場合がある。
【0100】
反応溶媒の使用量は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物1molに対して0.01L以上を用いれば良く、0.02から5Lが好ましく、0.03から3Lが特に好ましい。
【0101】
反応温度は、+150℃以下で行えば良く、+125から−50℃が好ましく、+100から−25℃が特に好ましい。
【0102】
反応時間は、72時間以内で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0103】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを得ることができる。反応溶媒を用いずに反応させ、更に得られる目的物の沸点が十分に低い場合は、反応終了液から直接、蒸留回収する操作が簡便である(実施例5と6を参照)。回収した粗体は、必要に応じて分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い純度に精製することができる。
【0104】
一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールのR1およびR2は、一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物のR1およびR2に由来する。
【0105】
また、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールのR3は、一般式[4]で示される低級アルコールまたは、一般式[6]で示されるオルトカルボン酸トリアルキルのR3に由来する。
【0106】
上記の蒸留回収または分別蒸留において、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールの脱アルコールが部分的に起こり、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルとの混合物として回収される場合がある。この様な場合も、本発明の請求項に含まれるものとして扱う。
【0107】
4.脱アルコール工程
本工程は、ヘミケタール化工程で製造した、一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタールを脱アルコール剤と反応させることにより、一般式[3]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステルを製造する工程である。
【0108】
本工程は、「2.脱水工程」に記載した全ての項目について同様に行うことができる(実施例11を参照)。但し、“脱水剤”、“一般式[2]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・水和物”および“酸化工程で製造した”を、それぞれ“脱アルコール剤”、“一般式[5]で示される含フッ素α−ケトカルボン酸エステル・ヘミケタール”、“ヘミケタール化工程で製造した”に読み替えて行うものとする。また、好ましい態様も全ての項目について同じである。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
[実施例1]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物の製造(3,3,3−トリフルオロ乳酸エチルのNaClO・5H2Oによる酸化)
アセトニトリル58mL(1.0mL/mmol)に、3,3,3−トリフルオロ乳酸エチル10g(58mmol、1.0eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O11g(67mmol、1.2eq)を加えて20℃で30分間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であり、選択率は98%であった。反応終了液に、チオ硫酸ナトリウム五水和物0.38g(1.5mmol、0.026eq)を加えて攪拌し、残存する酸化剤をクエンチした。さらに、炭酸水素ナトリウム0.33g(3.9mmol、0.067eq)と硫酸ナトリウム10g(70mmol、1.2eq)を加えて攪拌し、固形分を濾過で取り除いた。濾液を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物が56mmol(定量収率97%)含まれていた。濾液の単蒸留(〜48℃/0.5kPa)により、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物7.6gを得た。19F−NMR純度は99%であり(40mmol)、トータル収率は69%であった。
3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;1.38(t、3H)、4.41(q、2H)、gem−ジオール基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;78.6(s、3F)。
本実施例では、目的物のエステル基が加水分解された副生成物は全く観測されず、トリフルオロ酢酸の副生量は1%未満であった。
【0111】
[実施例2]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物の製造(3,3,3−トリフルオロ乳酸エチルのCa(ClO)2・3H2Oによる酸化)
酢酸エチル6.0mL(1.0mL/mmol)に、3,3,3−トリフルオロ乳酸エチル1.0g(5.8mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩0.098g(0.29mmol、0.050eq)を加えて溶解した。さらに、Ca(ClO)2・3H2O1.2g(6.1mmol、1.1eq)を加えて室温で終夜攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は98%であり、選択率は93%であった。
3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRは、実施例1のものと一致した。
本実施例では、目的物のエステル基が加水分解された副生成物は全く観測されず、トリフルオロ酢酸の副生量は3%であった。
【0112】
[実施例3]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の製造(3,3−ジフルオロ乳酸メチルのNaClO・5H2Oによる酸化)
酢酸エチル270mL(1.0mL/mmol)に、3,3−ジフルオロ乳酸メチル38g(270mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩4.6g(14mmol、0.052eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O49g(300mmol、1.1eq)を加えて15℃で3時間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であり、選択率は95%であった。反応終了液に、10%亜硫酸ナトリウム水溶液69g(55mmol、0.20eq)を加えて攪拌し、残存する酸化剤をクエンチした。回収した有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物が200mmol(定量収率74%)含まれていた。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRは、非特許文献3のものと一致した。
本実施例では、目的物のエステル基が加水分解された副生成物は全く観測されず、ジフルオロ酢酸の副生量は2%であった。また、α位の水素原子がクロル化された副生成物も全く観測されなかった。
【0113】
[実施例4]3,3−ジフルオロピルビン酸エチル・水和物の製造(3,3−ジフルオロ乳酸エチルのNaClO・5H2Oによる酸化)
3,3−ジフルオロ乳酸エチル1.0g(6.5mmol、1.0eq)に、テトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩0.11g(0.32mmol、0.049eq)とNaClO・5H2O1.2g(7.3mmol、1.1eq)を加えて30℃で30分間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は96%であり、選択率は97%であった。反応終了液のクーゲルロール蒸留(〜130℃/0.8kPa)により、3,3−ジフルオロピルビン酸エチル・水和物0.93gを得た。19F−NMR純度は94%(5.1mmol)であり、トータル収率は78%であった。
3,3−ジフルオロピルビン酸エチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;1.34(t、3H)、4.18(br、2H)、4.35(q、2H)、5.88(t、1H)。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒:重クロロホルム)、δ ppm;26.5(d、2F)。
本実施例では、目的物のエステル基が加水分解された副生成物は全く観測されず、ジフルオロ酢酸の副生量は1%であった。また、α位の水素原子がクロル化された副生成物も全く観測されなかった。
【0114】
[実施例5]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・エチルヘミケタールの製造(3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物のエタノールによるヘミケタール化)
エタノール25g(540mmol、20eq)に、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物5.0g(27mmol、1.0eq)を加えて室温で2日間攪拌した。反応終了液の単蒸留(〜44℃/1.5kPa)により、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・エチルヘミケタール3.9gを得た。1H−NMRによる目的物とエタノールのモル比は10:1であり、19F−NMR純度は98%(19mmol)であり、トータル収率は70%であった。
3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・エチルヘミケタールの19F−NMRを以下に示す。
19F−NMR(基準物質;トリクロロフルオロメタン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;−81.9(s、3F)。
【0115】
[実施例6]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの製造(3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物のオルトギ酸トリメチルによるヘミケタール化)
オルトギ酸トリメチル2.7g(25mmol、0.96eq)に、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物4.0g(26mmol、1.0eq)と硫酸0.25g(2.5mmol、0.096eq)を加えて室温で2時間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であった。反応終了液の単蒸留(〜59℃/2.1kPa)により、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタール2.8gを得た。1H−NMRによる目的物とメタノールのモル比は55:8であり、19F−NMR純度は97%(18mmol)であり、トータル収率は69%であった。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの19F−NMRは、非特許文献3のものと一致した。
【0116】
[実施例7]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの製造(長期保管した3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物のオルトギ酸トリメチルによるヘミケタール化/スキーム2を参照)
水59mmol(カールフィッシャー法で測定)を含む3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の長期保管品(合計32mmol、1.0eq、副生成物としてジフルオロ酢酸を含む)に、オルトギ酸トリメチル9.9g(93mmol、2.9eq)と硫酸0.74g(7.5mmol、0.23eq)を加えて室温で終夜攪拌した。反応終了液を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールとジフルオロ酢酸メチルがそれぞれ26mmol、1.1mmol(合計27mmol)含まれていた。また、反応終了液に水は0.39mmol含まれていた。反応終了液の単蒸留(〜60℃/0.6kPa)により、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールと3,3−ジフルオロピルビン酸メチルそれぞれ19mmol、4.7mmolを得た。留出液に水は0.12mmol含まれていた。また、ジフルオロ酢酸メチルは単蒸留により取り除くことができた。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの19F−NMRは、実施例6のものと同等であった。また、3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRは、非特許文献3のものと一致した。
【化18】
【0117】
[実施例8]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの製造(3,3−ジフルオロ乳酸メチルのNaClO・5H2Oによる酸化→3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物のオルトギ酸トリメチルによるヘミケタール化/ワンポット反応)
アセトニトリル730mL(350mL/mol)に、3,3−ジフルオロ乳酸メチル300g(2.1mol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩37g(0.11mol、0.052eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O390g(2.4mol、1.1eq)を氷冷下で加えて室温で30分間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であり、選択率は96%であった。反応終了液の減圧濃縮により、アセトニトリルを留去した。濃縮残渣に、オルトギ酸トリメチル1600g(15mol、7.1eq)と硫酸11g(0.11mol、0.052eq)を氷冷下で加えて室温で4時間30分攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であった。反応終了液の単蒸留(〜60℃/0.6kPa)により、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールと3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの混合物270gを得た。1H−NMRによる目的物と脱アルコール体のモル比は86:14であり、19F−NMR純度は98%以上(1.6molとする)であり、トータル収率は76%であった。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの19F−NMRは、実施例6のものと同等であった。また、3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRは、実施例7のものと一致した。
【0118】
[実施例9]3−クロロ−3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の製造(3−クロロ−3,3−ジフルオロ乳酸メチルのNaClO・5H2Oによる酸化)
アセトニトリル4.7mL(1L/mol)に、3−クロロ−3,3−ジフルオロ乳酸メチル0.83g(4.7mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩0.08g(0.24mmol、0.05eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O0.94g(5.7mmol、1.2eq)を氷冷下で加えて室温で1時間間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%となった。反応終了液に、10%亜硫酸ナトリウム水溶液1.2g(0.95mmol、0.20eq)を加えて攪拌し、残存する酸化剤をクエンチした。反応液を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3−クロロ−3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物が4.5mmol(定量収率95%)含まれていた。
3−クロロ−3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;3.96(s、3H)、gem−ジオール基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;93.8(s、3F)。
【0119】
[実施例10]3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2,2−ジヒドロキシブタン酸メチルの製造(3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸メチルのNaClO・5H2Oによる酸化)
アセトニトリル1.9mL(1L/mol)に、3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸メチル0.39g(1.9mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩0.032g(0.091mmol、0.05eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O0.68g(4.2mmol、2.2eq)を氷冷下で加えて室温で30分間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%となった。反応終了液に、10%亜硫酸ナトリウム水溶液0.48g(0.38mmol、0.20eq)を加えて攪拌し、残存する酸化剤をクエンチした。反応液を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2,2−ジヒドロキシブタン酸メチルが1.3mmol(定量収率71%)含まれていた。
3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2,2−ジヒドロキシブタン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;3.87(s、3H)、gem−ジオール基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;36.8(s、2F)、82.6(s、3F)。
【0120】
[実施例11]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチルの製造(3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物の濃硫酸による脱水)
濃硫酸5.2g(53mmol、2.0eq)を97℃に加熱した。減圧(13.5〜3.3kPa)下に3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・水和物5.0g(27mmol、1.0eq)を滴下しながら留出物を抜き出すことにより、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル1.7gを得た。19F−NMR純度は100%(10mmol)であり、収率は37%であった。
3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチルの1H−NMRと19F−NMRは、特開昭63−035538号公報のものと一致した。
【0121】
[実施例12]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチルの製造(3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・エチルヘミケタールの濃硫酸による脱エタノール)
濃硫酸5.7g(58mmol、4.1eq)を97℃に加熱した。減圧(6.6〜2.2kPa)下に3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・エチルヘミケタール3.1g(14mmol、1.0eq)を滴下しながら留出物を抜き出すことにより、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル1.6gを得た。19F−NMR純度は100%(9.4mmol)であり、収率は67%であった。
3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチルの1H−NMRと19F−NMRは、実施例11のものと一致した。
【0122】
[実施例13]3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの製造(3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物のトリフルオロ酢酸無水物による脱水)
シクロペンチルメチルエーテル2.0mL(0.31mL/mmol)に、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物1.0g(6.4mmol、1.0eq)を加えて溶解した。さらに、ピリジン1.1g(14mmol、2.2eq)とトリフルオロ酢酸無水物1.5g(7.1mmol、1.1eq)を加えて10℃で1時間攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であり、選択率は76%であった。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRは、実施例7のものと一致した。
【0123】
[実施例14]3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの製造(3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物と3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタール混合物の五酸化二リンによる脱水)
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物0.5g(3.3mmol)と3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタール74.5g(438mmol)の混合物に対して、五酸化二リン31.3g(221mmol、0.5eq)を室温でゆっくりと添加した。添加時の発熱により内温は43℃まで上昇した。その後、さらに80℃で6時間撹拌し、その後単蒸留(81℃/10kPa)を行うことにより、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル54.7gを得た。19F−NMR純度は100%(396mmol)であり、収率は90%であった。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRは、実施例7のものと一致した。
【0124】
[比較例1]3,3−ジフルオロ乳酸メチルの酸化(特許文献1の例6の反応条件を採用)
塩化メチレン18mL(2.5mL/mmol)に、3,3−ジフルオロ乳酸メチル1.0g(7.1mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウムブロミド0.11g(0.34mmol、0.048eq)を加えて溶解した。さらに、12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.8g(14mmol、2.0eq)を加えて28℃で4時間激しく攪拌した(反応は2相系)。反応終了液を分液し、水層を塩化メチレンで抽出して分液した有機層と合わせた。回収した有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物が1.1mmol含まれていた。定量収率は15%であった。因みに、回収した水層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;トリフルオロメタンスルホン酸カリウム)で定量したところ、3,3−ジフルオロピルビン酸・水和物とジフルオロ酢酸がそれぞれ1.6mmol、0.6mmol含まれていた。
3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・水和物の1H−NMRと19F−NMRは、実施例3のものと一致した。また、3,3−ジフルオロピルビン酸・水和物の19F−NMRを以下に示す。
19F−NMR(基準物質;トリクロロフルオロメタン、溶媒:重水)、δ ppm;−134.9(d、2F)。
【0125】
[比較例2]1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの酸化(本発明の好適な反応条件を採用)
アセトニトリル4.4mL(1.0mL/mmol)に、1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール0.50g(4.4mmol、1.0eq)とテトラn−ブチルアンモニウム硫酸水素塩0.074g(0.22mmol、0.050eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O0.86g(5.2mmol、1.2eq)を加えて室温で終夜攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、1,1,1−トリフルオロアセトンまたは該水和物は全く観測されなかった。
【0126】
[比較例3]1,1−ジフルオロ−2−プロパノールの酸化(本発明の好適な反応条件を採用)
アセトニトリル5.2mL(1.0mL/mmol)に、1,1−ジフルオロ−2−プロパノール0.50g(5.2mmol、1.0eq)を加えて溶解した。さらに、NaClO・5H2O1.0g(6.1mmol、1.2eq)を加えて室温で終夜攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、1,1−ジフルオロアセトンまたは該水和物は全く観測されなかった。
【0127】
[比較例4]3,3,3−トリフルオロ乳酸の酸化(減炭によるトリフルオロ酢酸の副生)
3,3,3−トリフルオロ乳酸0.85g(5.9mmol、1.0eq)に、12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液5.9g(9.5mmol、1.6eq)を加えて室温で2時間激しく攪拌した。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は45%であり、トリフルオロ酢酸が27%副生していた。本来の酸化生成物と考えられる3,3,3−トリフルオロピルビン酸・水和物は全く観測されなかった。
【0128】
[参考例1]3,3−ジフルオロ乳酸メチルと3,3−ジフルオロ乳酸エチルの調製(特許文献2を参考にして3,3−ジフルオロ乳酸アミドを調製)
水190mL(1.2mL/mmol)に、3,3−ジフルオロ乳酸アミド20g(160mmol、1.0eq)と硫酸78g(800mmol、5.0eq)を加えて100℃で20時間攪拌した。反応終了液を2−メチルテトラヒドロフランで抽出し、回収した有機層を減圧濃縮することにより、3,3−ジフルオロ乳酸16g(130mmol)を得た。収率は81%であった。
メタノール3.8g(120mmol、1.5eq)に、3,3−ジフルオロ乳酸10g(79mmol、1.0eq)、オルトギ酸トリメチル13g(120mmol、1.5eq)と硫酸1.2g(12mmol、0.15eq)を加えて室温で終夜攪拌した。反応終了液の単蒸留(〜44℃/0.6kPa)により、3,3−ジフルオロ乳酸メチル9.7g(69mmol)を得た。収率は87%であった。
3,3−ジフルオロ乳酸メチルの1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;3.87(s、3H)、4.40(ddd、1H)、5.96(dt、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;31.3(ddd、1F)、32.7(ddd、1F)。
同様にエチルエステル化することにより、3,3−ジフルオロ乳酸エチルを調製することができた。
3,3−ジフルオロ乳酸エチルの1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;1.28(t、3H)、4.28(dq、2H)、4.35(ddd、1H)、5.92(dt、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;31.3(ddd、1F)、32.8(ddd、1F)。
【0129】
[参考例2]3−クロロ−3,3−ジフルオロ乳酸メチルの調製
特許文献2を参考にして参考例1と同様の手法で2−クロロ−2,2−ジフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタール4.5g(28mmol)から3−クロロ−3,3−ジフルオロ乳酸アミドを調製した。これに水32mL(1.1mL/mmol)と、硫酸13.6g(135mmol、4.8eq)を加えて還流下、80時間攪拌した。反応終了液を2−メチルテトラヒドロフランで抽出し、回収した有機層を硫酸ナトリウムで脱水、濾過後、濾液を減圧濃縮した。得られた濃縮残渣にメタノール10.3g(321mmol)と、オルトギ酸トリメチル4.9g(46.1mmol)と硫酸0.2g(2mmol)を加えて室温で22時間攪拌した。反応終了液の単蒸留(〜48℃/2.8kPa)により、3−クロロ−3,3−ジフルオロ乳酸メチル1.7g(9.7mmol)を得た。収率は35%であった。
3,3−ジフルオロ乳酸メチルの1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;3.93(s、3H)、4.56(dd、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;99.5(dd、1F)、101.(dd、1F)。
【0130】
[参考例3]3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸メチルの調製
参考例2と同様の手法により2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−メトキシ−1−プロパノール9.0g(49.8mmol)から3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸を合成した。これにメタノール23.8g(741mmol)と、オルトギ酸トリメチル10.6g(99.6mmol)と硫酸0.5g(5.1mmol)を加えて室温で終夜攪拌した。その後、オルトギ酸トリメチル5.0g(47.1mmol)を追加してオイルバスで50℃に加熱して2.5時間攪拌した。反応終了液を単蒸留(〜43℃/4.0kPa)により3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸メチル5.8g(目的物含量22.0mmol)を得た。収率44%であった。
3,3、4,4,4−ペンタフルオロ−2−ヒドロキシブタン酸メチルの1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(基準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;3.93(s、3H)、4.56(dd、1H)、ヒドロキシル基のプロトンは帰属できず。
19F−NMR(基準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;80.1(s、3F)、41.2(ddd、1F)、34.5(ddd、1F)。
【0131】
[参考例4]3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・メチルヘミケタールの反応性を調査
トルエン83mL(1.4mL/mmol)に、3,3,3−トリフルオロピルビン酸エチル・メチルヘミケタール12g(59mmol、1.0eq)とエチレンジアミン3.5g(58mmol、0.98eq)を氷冷下で加えて室温で15時間攪拌した(結晶析出)。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であった。反応終了液の減圧濃縮により、トルエンの一部を留去した。析出した結晶を濾過し、トルエンで洗浄して乾燥することにより、下記式で示されるトリフルオロヘミアミナールアミド閉環体11g(60mmol)を得た。収率は定量的であった。
【化19】
トリフルオロヘミアミナールアミド閉環体の1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(標準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重ジメチルスルホキシド)、δ ppm;2.81(m、1H)、3.04(m、2H)、3.19(m、1H)、3.36(br、1H)、7.00(br、1H)、8.12(s、1H)。
19F−NMR(標準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重ジメチルスルホキシド)、δ ppm;82.8(s、3F)。
【0132】
[参考例5]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの反応性を調査
トルエン83mL(1.4mL/mmol)に、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタール10g(59mmol、1.0eq)とエチレンジアミン3.5g(58mmol、0.98eq)を氷冷下で加えて室温で15時間攪拌した(結晶析出)。反応終了液を19F−NMRで分析したところ、変換率は100%であった。反応終了液の減圧濃縮により、トルエンの一部を留去した。析出した結晶を濾過し、トルエンで洗浄して乾燥することにより、下記式で示されるジフルオロヘミアミナールアミド閉環体9.8g(59mmol)を得た。収率は定量的であった。
【化20】
ジフルオロヘミアミナールアミド閉環体の1H−NMRと19F−NMRを以下に示す。
1H−NMR(標準物質;テトラメチルシラン、溶媒;重ジメチルスルホキシド)、δ ppm;2.81(m、1H)、3.11(m、4H)、5.94(t、1H)、6.50(s、1H)、7.96(s、1H)。
19F−NMR(標準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重ジメチルスルホキシド)、δ ppm;17.7(dd、1F)、36.1(dd、1F)。
【0133】
[参考例6]3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタールの反応性を調査
トルエン14mL(1.5mL/mmol)に、3,3−ジフルオロピルビン酸メチル・メチルヘミケタール1.6g(9.4mmol、1.0eq)とエチレンジアミン0.58g(9.7mmol、1.0eq)を氷冷下で加えて室温で15時間攪拌した(結晶析出)。さらに、パラトルエンスルホン酸一水和物0.17g(0.89mmol、0.095eq)を加えてディーン・スタークを用いて130℃で3時間共沸脱水した。反応終了液をアセトニトリルで均一溶解して19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式で示されるジフルオロイミノアミド閉環体が0.99g(6.7mmol)含まれていた。定量収率は71%であった。
【化21】
ジフルオロイミノアミド閉環体の19F−NMRを以下に示す。
19F−NMR(標準物質;ヘキサフルオロベンゼン、溶媒;重クロロホルム)、δ ppm;38.0(d、2F)。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明で対象とする含フッ素α−ケトカルボン酸エステル類は、医農薬中間体として利用できる。