特許第6643777号(P6643777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643777
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】ゴム補強用アラミド繊維コード
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20200130BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20200130BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20200130BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20200130BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20200130BHJP
【FI】
   D06M15/41
   D06M15/693
   D06M15/55
   D02G3/28
   D06M101:36
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-210541(P2015-210541)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-82352(P2017-82352A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正道
(72)【発明者】
【氏名】草西 義洋
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 将
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−229503(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0114683(KR,A)
【文献】 特開2002−161450(JP,A)
【文献】 特開2012−207326(JP,A)
【文献】 特表2005−517097(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0017399(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0087317(KR,A)
【文献】 特開昭59−094640(JP,A)
【文献】 米国特許第04557967(US,A)
【文献】 特開平05−311534(JP,A)
【文献】 特開2013−204165(JP,A)
【文献】 特開2009−144264(JP,A)
【文献】 特開2006−182123(JP,A)
【文献】 特開2014−189931(JP,A)
【文献】 特開2008−190092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
B29B11/16−15/14
B29C64/00−73/34
B29D1/00−99/00
B33Y10/00−99/00
C08J5/04−5/24
D04C1/00−7/00
D04G1/00−5/00
F16G1/00−17/00
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維を撚糸してコードとなした後、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)を主成分とする接着剤を付着してなるゴム補強用コードであって、前記撚糸前のアラミド繊維が、硬化性エポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド前処理糸を交絡させたマルチフィラメントからなることを特徴とするゴム補強用アラミド繊維コード。
【請求項2】
前記マルチフィラメントにおいて、JIS L 1013:2010 8.15に規定される交絡度が15Node/m〜200Node/mであることを特徴とする、請求項1に記載のゴム補強用アラミド繊維コード。
【請求項3】
前記アラミド前処理糸が、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物を浸透させたものであり、かつ水分率が7質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のゴム補強用アラミド繊維コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用アラミド繊維コードに関するものである。詳細には、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどの動力伝達用ベルトにおいて、ベルト側端から補強用アラミド繊維コードが露出した形態を有するベルトを輪切り状にカットしてベルトを成形する際に、ベルト側端に露出したアラミド繊維コードからのアラミド繊維単糸の糸ほつれが無く、エッジフレイ性に優れるゴム補強用アラミド繊維コードに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達用ベルト、ゴムホース、タイヤ等のゴム製品には、強力が大きくかつ伸びが小さい特性を有するアラミド繊維コードが、ゴムを補強するために埋設されている。ゴム補強用アラミド繊維コードとしては、アラミド繊維の原糸を複数本引き揃えて撚糸とし、これをレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(以下、RFLという。)溶液等の接着剤処理液に浸漬し、ゴムに対する接着性を付与したものが知られている。
【0003】
しかし、ゴム補強用アラミド繊維コードを用いた動力伝達用ベルトは、ベルトを輪切り状にカットしてベルトを成形する際に、ベルト側端に露出したアラミド繊維コードから単糸がほつれて毛羽が発生し、更に使用時の擦過により単糸先端が広がり、ベルトの品位が損なわれるだけでなく、ベルト走行時にベルト側端からコードが飛び出す問題がある。また、突出した糸ほつれは、プーリーとの接触により切断されて飛散し、近接する精密機器などの故障原因となることがあるため、突出した単糸を切断除去する作業を行う必要があり、生産性を著しく低下させる問題もある。
【0004】
前記の糸ほつれを改善する方法として、アラミド繊維原糸を複数本引き揃えて撚糸したコードに、エポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物やウレタン系化合物を主体とした接着剤を付与する方法(特許文献1参照)、あるいは、撚糸前のアラミド繊維にエポキシ基を含む処理液を付与し、撚糸したコードにRFLを含む接着剤を2回付与する方法(特許文献2参照)等が知られている。しかしながら、前記先行技術文献はいずれも、アラミド繊維の単糸を接着剤で固定することにより、糸ほつれを改善する方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−169562号公報
【特許文献2】特開平7−229068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術に鑑みてなされたものであり、RFLを主成分とする接着剤を付着してなるゴム補強用コードであって、動力伝達用ベルトに適用した際のベルト側端に露出したアラミド繊維コードからの単糸のほつれ、エッジフレイ性に優れるゴム補強用アラミド繊維コードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するため、本発明者等は鋭意検討を行った結果、交絡を有するアラミド繊維マルチフィラメントを撚糸した撚糸コードを用い、更に好ましくはアラミド繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物を浸透させたアラミド前処理糸を用いることにより、糸ほつれ性やエッジフレイ性に優れるゴム補強用アラミド繊維コードを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
1)アラミド繊維を撚糸してコードとなした後、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)を主成分とする接着剤を付着してなるゴム補強用コードであって、前記撚糸前のアラミド繊維が、硬化性エポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド前処理糸を交絡させたマルチフィラメントからなることを特徴とするゴム補強用アラミド繊維コード。
2)前記マルチフィラメントにおいて、JIS L 1013:2010 8.15に規定される交絡度が15Node/m〜200Node/mであることを特徴とする、前記1)に記載のゴム補強用アラミド繊維コード。
)前記アラミド前処理糸が、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物を浸透させたものであり、かつ水分率が7質量%以下であることを特徴とする、前記1)または2)に記載のゴム補強用アラミド繊維コード。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、交絡を有するマルチフィラメントからなるアラミド繊維撚糸コードを用いることによって、アラミド繊維単糸の糸ほつれ性が向上し、また前記アラミド繊維撚糸コードにRFLを主成分とする接着剤を付与することによってエッジフレイ性が良好なものとなるので、ベルト側端に現れるコードの切断端で毛羽が発生してベルトの外観が損なわれることもなく、ベルト走行時にベルト側端からコードが飛び出すこともない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゴム補強用アラミド繊維コードにおけるアラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等を挙げることができるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができ、これらのパラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。これらのアラミド繊維は、公知の方法で製造したものを用いることができる。なお、アラミド繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、またはアラミド繊維と称されるものであって良く、「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0012】
アラミド繊維のなかでも、硬化性エポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド前処理糸が好ましく用いられ、前記アラミド前処理糸を用いることによって、繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物がアラミド繊維の擦過による毛羽立ちを防止する作用を有し、エッジフレイ性を向上させる効果がある。また、撚糸コードとRFLを主成分とする接着剤との接着力を高める作用を有し、繊維コードがゴムから剥離しにくくさせる効果がある。更に、ゴムを加硫する際に硬化性エポキシ化合物がゴムと架橋する作用を有し、繊維コードとゴムとの接着性をさらに向上させることができる。
【0013】
アラミド前処理糸は、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物を浸透させ、水分率7質量%以下に乾燥したものが、生産効率に優れている点で好ましく用いられるが、硬化性エポキシ化合物を浸透させた未乾燥のアラミド前処理糸を用いることもできる。ここで、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維とは、繊維を紡糸して以降、繊維中の水分率が15質量%未満になった経緯の無いことを意味し、アラミド繊維の水分率(R)は、下記式によって求められる。
R={(m−m)/m}×100
R :水分率[%]
:試料の採取時の質量[g]
:試料の絶乾質量[g]
【0014】
アラミド繊維の水分率が一度でも15質量%未満になると、アラミド繊維の構造が緻密になり、硬化性エポキシ化合物を均一に繊維骨格内に浸透させることが困難になり、ゴムとの架橋効果が得られなくなる。アラミド繊維の水分率は、硬化性エポキシ化合物を繊維骨格内へ均一に浸透させるためには、25質量%以上が好ましく、100質量%以下が好ましい。水分率が高いことは硬化性エポキシ化合物を付与する上で特に問題はないが、水分量が多すぎる場合、硬化性エポキシ化合物を浸透させた後、巻き取り工程までにガイド等に接触した際にエポキシ化合物が水分と一緒に脱落してしまう可能性がある。アラミド繊維の水分率は、より好ましくは25〜70質量%、特に好ましくは25〜50質量%である。
【0015】
前記のアラミド前処理糸を得る最良の形態は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)を濃硫酸に溶解して、18〜20質量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して紡糸し、中和処理した後、好ましくは100〜160℃で5〜20秒間乾燥することにより得られる水分率15〜100質量%のアラミド繊維に硬化性エポキシ化合物を付与し、アラミド繊維骨格内に浸透させる方法である。硬化性エポキシ化合物の付与温度は特に限定されず、5〜90℃程度の温度で行うことができる。PPTA繊維は、水分率15〜100質量%の範囲であれば、結晶サイズが50オングストローム未満の状態を保っているため、繊維骨格内への硬化性エポキシ化合物の浸透性に優れている。
【0016】
硬化性エポキシ化合物の浸透量は、アラミド繊維の水分量を0%に換算した繊維質量に対して、好ましくは0.1〜2.0質量%、より好ましくは0.2〜1.0質量%である。硬化性エポキシ化合物に硬化剤を添加することもできる。硬化剤の浸透量は、好ましくは0.02〜1.0質量%、より好ましくは0.04〜0.5質量である。
【0017】
硬化性エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の多価アルコールのグリシジルエーテルから選ばれる1種以上または、2種以上の混合物が好ましく、例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。硬化剤としてはアミンが好ましく、特に三級アミンが好ましく、例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミン等が挙げられる。
【0018】
硬化性エポキシ化合物と共に、油剤成分として、相溶化剤、静電防止剤、界面活性剤、平滑性向上剤等を添加しても良い。これら油剤成分を添加することにより、糸−糸間または糸−金属間の摩擦係数を均一に下げることができ、紡糸工程のみならず、撚糸やディップ等の後加工工程における毛羽の発生やフィブリル粕の発生を抑えることができる。油剤成分は、公知の化合物を特に制限なく用いることができ、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を適宜組み合わせて使用しても良い。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、平滑性向上剤としては、フッ素系、シリコーン系、鉱物油等が挙げられる。
相溶化剤としては、下記一般式(I)で表されるグリコールエーテル系化合物等があり、具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール(n=3)グリセリルエーテル等が挙げられる。
−O−(AO)n−R ・・・・・(I)
(式(I)において、Rは炭素原子数1〜10、好ましくは炭素原子数4〜8のアルキル基またはアルケニル基であり、Rは水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素原子数1〜5のアルケニル基を示す。好ましくは、Rは水素原子である。また、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基、好ましくは炭素原子数2〜3のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す、好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは2〜8である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していても良い。)
【0019】
硬化性エポキシ化合物や硬化剤、油剤成分等をアラミド繊維に付与する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法を採用することができ、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0020】
硬化性エポキシ化合物をアラミド繊維骨格内に浸透させたアラミド前処理糸の初期弾性率は、300cN/dtex〜750cN/dtexの範囲が好ましく、さらに好ましくは300cN/dtex〜430cN/dtexの範囲である。初期弾性率が750cN/dtexを超える場合には、繊維自体の伸度が極めて低くなり、撚糸コードの構造要因の伸度だけでは、屈曲時にコードにかかる力を吸収しきれず、耐疲労性が不十分となる傾向にある。一方、初期弾性率が300cN/dtex未満については、アラミド繊維の原糸製造において、紡出後の水分制御が困難となり、水分率15質量%未満に乾燥された履歴を持たないアラミド繊維を製造することができなくなる。
【0021】
本発明のアラミド繊維コードにおけるアラミド繊維としては、交絡を有するマルチフィラメントが用いられる。例えば、タスラン加工やインターレース加工等を施したマルチフィラメントが挙げられるが、交絡処理に伴うフィラメント引張強さの低下や繊維の毛羽立ちが生じ難く、単糸と単糸が良く絡み合うためにマルチフィラメントの収束性が良好であり、糸ほつれを抑制できる観点より、エアー交絡糸が好ましい。エアー交絡処理装置としては、市販のエアー加工装置やインターレース加工装置等を用いることができる。
【0022】
マルチフィラメントの交絡度は、JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法 8.15交絡度(フックドロップ方式)に規定される交絡度が15Node/m以上が好ましく、15Node/m以上にすることで、糸ほつれ、エッジフレイ性が向上する。交絡度が高いほど糸ほつれ、エッジフレイ性が向上するため、生産性等に影響を及ぼさない範囲であれば交絡度の上限は無い。ただし、交絡度が高くなると原糸強力が低下する恐れがあるため、前記の交絡度は、15Node/m〜200Node/mの範囲が好ましく、より好ましくは20Node/m〜200Node/m、更に好ましくは30Node/m〜180Node/mの範囲である。
【0023】
ここで、交絡度は、垂直に垂らした試料の下方の位置に試料のテックス数に定数を乗じた荷重のおもりをつり下げ、次いで、試料の上部つかみから1cm下部の点に糸束を2分割するようにフックを挿入し、フックの他端に試料のテックス数をフィラメント数で除した値に定数を乗じた荷重のおもりを取り付け、約2cm/sの速度でフックを下降させ、フックが糸の絡みによって停止した点までのフックの下降距離(L)を求め、交絡度=1000/L によって算出される値である。したがって、フックの下降距離が小さいほど試料の交絡度が大きいことを意味する。
【0024】
本発明のゴム補強用アラミド繊維コードは、撚糸コードにレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)を主成分とする接着剤を付着させることにより得ることができる。撚糸コードは、2本以上のアラミド交絡糸を引き揃え、適度な撚りを掛けた片撚り構成をとっても良いし、あるいはアラミド交絡糸に適度な撚りを掛け、下撚りコードを作製した後、下撚りコードを2本以上束ねて上撚りを加えた諸撚り構成をとっても良い。RFLを主成分とする接着剤による処理は、1回でも良いが、2回以上行っても良く、アラミド交絡糸または下撚りコードに対して行っても良いし、上撚りを加えた撚糸コードに対して行っても良い。また、RFLを主成分とする接着剤を付着させた後、従来と同様の条件にて乾燥、熱処理を行うことが好ましい。
【0025】
アラミド交絡糸の撚糸コードの撚係数は、下撚り、上撚りともに1〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜6の範囲である。繊維に撚りが加わることによりコードの耐久性が向上するが、撚係数が小さすぎると繊維コードの耐疲労性が低下し、一方、撚係数が大きすぎると繊維コードの強力が低下する傾向がある。なお、撚係数(K)は下記式で求められる値である。
撚係数(K)=0.0033×T×D1/2
T:撚数(T/10cm)
D:アラミド繊維の総繊度(dtex)
【0026】
接着剤の付与方法としては、ディッピング機を用いて繊維コードにRFL処理液を浸漬付与した後、緊張条件下で乾燥、および熱処理を行う公知のディップ処理方法が利用できる。処理液の浸漬から熱処理までのディッププロセスは1回のみで完了しても良いし、2回に分けて完了しても良い。高い初期強力および疲労後強力を発揮させるためには熱履歴の少ない1回ディップ処理が好ましく、高い接着力を発揮させるためには、少なくともエポキシ化合物を含む第1の接着剤処理液でディップ処理を行った後に、少なくともRFLを含む第2の接着剤処理液でディップ処理を行う2回ディップ処理が好ましい。2回ディップ処理を行う場合の接着剤成分は、2回とも同じ成分でも良いし、異なっていても良い。
【0027】
ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックスおよび天然ゴムラテックス等が挙げられる。レゾルシン、ホルムアルデヒドは、単体で用いることもできるし、レゾルシン−ホルムアルデヒドをあらかじめ酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物等を用いることもできる。処理液には、エポキシ化合物、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物等から選ばれた1種以上の化合物が混合されていても良い。
【0028】
本発明のゴム補強用アラミド繊維コードは、糸ほつれ性、エッジフレイ性に優れているため動力伝達用ベルトに好適に用いられるが、ゴムホース、タイヤコード等のゴム製品の補強コードにも用いることができることは言うまでもない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」と略記する。なお、実施例中に記載のアラミド繊維コード及びベルトの評価方法は以下の通りである。
【0030】
(1)原糸、アラミド交絡糸及びディップコードの強力
原糸、アラミド交絡糸の引張強力はJIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1 標準時試験に基づき、フィラメントを撚り係数1.1で撚糸したものを試験サンプルとして測定した。ディップコードの強力は、JIS L 1017:2002 化学繊維タイヤコード試験法 8.5 a)標準時試験に基づき測定した。
【0031】
(2)糸ほつれ性、エッジフレイ
アラミド交絡糸の撚糸コードにRFLを主成分とする接着剤を付与したディップコードを、厚さ約2mmのNR/SBRゴムシートの上に連続して平行に並べ、該ディップコードの上に厚さ約2mmのNR/SBRゴムシートを重ね合わせ、該ゴムシートの上に前記と同様のディップコードを連続して平行に並べ、さらに前記と同様のゴムシートを重ね合わせて多層シートを得た。この多層シートを150℃で30分間50kg/cmで加熱加圧して加硫し加硫ゴムシートを得た。該加硫ゴムシートをカッターナイフを用いてゴム中に配列したディップコードの配列方向に切断し、切断された端面にコードの端部が現れるようにした。そして該端面をサンドペーパー(#150)で5回擦過し単糸のほつれ状態を観察し、以下の評価基準で評価した。
◎:ほつれ状態が全く見られず単糸が毛玉を形成しているもの。
○:ほつれ状態が少し見られるもの。
×:綿状に連続で糸ほつれが見られるもの。
【0032】
(実施例1)
東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(商品名Kevlar(R)、繊度1,670dtex、フィラメント数1,000本、強力360N)を、エアー加工装置に供給してエアー交絡させることで、交絡度75Node/m、強力357Nのアラミド交絡糸を得た。得られたアラミド交絡糸を2本引き揃えてZ方向に15t/10cmで加撚して撚糸コードを得た。得られた撚糸コードを、エポキシ化合物を主成分とする第1の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理した。さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を主成分とする第2の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理することにより強力575Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維をエアー交絡させなかった他は、実施例1と同様の条件にて強力583Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0034】
(実施例2〜5)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、脱水処理をして、0.8g/dtexの張力下、110℃で低温乾燥を行い、水分率を45%に調整した。次に、硬化性エポキシ化合物を50%以上含有する油剤を、水分率0%に換算したときの繊維質量に対し1.0%となるように付着させた。この後、乾燥処理をして水分率を5%にまで下げ、PPTA繊維に硬化性エポキシを浸透させたアラミド前処理糸(繊度1,670dtex、フィラメント数1,000本、強力362N)を得た。前記アラミド前処理糸をエアー加工装置に供給してエアー交絡させることで、交絡度、強力が異なる4種類のアラミド交絡糸を得た。得られたアラミド交絡糸を2本引き揃えてZ方向に15t/10cmで加撚して撚糸コードを得た後、撚糸コードに実施例1と同様の接着剤処理液による処理を施してアラミド繊維コードを完成した。
【0035】
(比較例2)
実施例2において、PPTA繊維に硬化性エポキシを浸透させたアラミド前処理糸をエアー交絡させなかった他は、実施例2と同様の条件にて強力601Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0036】
以上の結果を表1に示す。なお、実施例1は参考例である。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例6)
実施例1で得たアラミド交絡糸を2本引き揃えてZ方向に8t/10cmで加撚して下撚りコードを作製した後、この下撚りコードを3本引き揃えてS方向に10t/10cmで加撚して上撚り撚糸コードを作製し、該上撚り撚糸コードに実施例1と同様の接着剤処理液による処理を施して強力1783Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0039】
(比較例3)
実施例6において、PPTA繊維の硬化性エポキシ化合物を浸透させたアラミド前処理糸をエアー交絡させなかった他は、実施例6と同様の条件にて強力1686Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0040】
(実施例7)
実施例2で得たアラミド前処理糸(繊度1,670dtex、フィラメント数1,000本、強力362N)をエアー加工装置に供給してエアー交絡させることで、交絡度75Node/m、強力359Nのアラミド交絡糸を得た。得られたアラミド交絡糸を2本引き揃えてZ方向に8t/10cmで加撚して下撚りコードを作製した後、この下撚りコードを3本引き揃えてS方向に10t/10cmで加撚して上撚り撚糸コードを作製し、実施例1と同様の接着剤処理液による処理を施して強力1817Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0041】
(比較例4)
実施例7において、アラミド前処理糸をエアー交絡させなかった他は、実施例7と同様の条件にて強力1789Nのアラミド繊維コードを完成した。
【0042】
以上の結果を表2に示す。なお、実施例6は参考例である。
【0043】
【表2】
【0044】
表1および表2から、アラミド交絡糸で作製したアラミド繊維コード(ディップコード)は擦過テストで良好な結果を示すこと、硬化性エポキシ化合物を浸透させたアラミド前処理糸で作製したディップコードは強力および擦過テストでさらに良好な結果を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のゴム補強用アラミド繊維コードは、動力伝達用ベルトの補強用として好適であり、その他ゴムホース、タイヤ等のゴム製品の補強用として有用である。