【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者は、300(Hz)〜1300(Hz)の演奏者略正面位置近傍の鍵に対する音の左右チャンネルの位相差を低減させることによって、ヘッドホンを介しての演奏音の聴取の際の音像定位感を自然で明確なものとした。一般的な88鍵のピアノの場合、概ね音程基音の周波数が「130(Hz)」の「C3」(左から28鍵目)から基音の周波数が「1048(Hz)」の音程「C6」(左から64鍵目)が演奏者の略正面位置に位置する。ピアノの演奏音は基音の他倍音を含んでいるため、300(Hz)〜1300(Hz)に対し位相差を低減することで、これらの演奏音に対する左右チャンネルの位相差を低減させることが可能となり、演奏音の音像定位感を自然とすることが可能となる。そして、以下ではこの事を実現可能な音響装置等を提供する。
【0012】
即ち、本発明の第1の態様は、左チャンネル信号と右チャンネル信号で成る2チャンネルの演奏音に基づいて、ヘッドホン用の2チャンネル信号を出力する音響装置であって、
前記左チャンネル信号に基づいて、前記右チャンネル側へのクロストークである第1クロストークを生成出力する第1クロストーク生成部と、
前記右チャンネル信号に基づいて、前記左チャンネル側へのクロストークである第2クロストークを生成出力する第2クロストーク生成部と、
前記第1クロストークと前記右チャンネル信号とを加算する第1加算部と、
前記第2クロストークと前記左チャンネル信号とを加算する第2加算部と、
前記第1加算部による加算信号の内の所定周波数範囲の信号を抽出出力する第1信号抽出部と、
前記第2加算部による加算信号の内の前記所定周波数範囲の信号を抽出出力する第2信号抽出部と、
を備え、
前記左チャンネル信号または前記右チャンネル信号を入力した信号に対して遅延器と乗算器とローパスフィルタとを介した遅延信号を生成し、この生成した遅延信号に対して、左耳用頭部伝達関数(または右耳用頭部伝達関数)を右耳用頭部伝達関数(または左耳頭部伝達関数)で除算した伝達関数を乗じ、伝達関数が「1」となる方を主出力とし、他方をクロストーク側であるサブ出力とする初期反射処理部を更に1以上備えた音響装置とした。
【0013】
この発明によれば、第1クロストーク生成部は、左チャンネル信号に基づいて、右チャンネル側へのクロストークである第1クロストークを生成出力し、第2クロストーク生成部は、右チャンネル信号に基づいて、左チャンネル側へのクロストークである第2クロストークを生成出力する。また、第1加算部は、第1クロストークを右チャンネル信号に加え、第2加算部は、第2クロストークと左チャンネル信号とを加算する。そして、第1信号抽出部は、第1加算部による加算信号の内の所定周波数範囲の信号を抽出出力すると共に、第2信号抽出部は、第2加算部による加算信号の内の前記所定周波数範囲の信号を抽出出力する。
【0014】
つまり、第1クロストーク生成部および第2クロストーク生成部のそれぞれが生成したクロストークがそれぞれ右チャンネル信号、左チャンネル信号に加算され、第1信号抽出部および第2信号抽出部によって音質補正が行われる。この結果、ヘッドホンを介して電子ピアノの演奏音を聴取したとしても、低音鍵から高音鍵までの演奏に渡り、音像の定位感がより自然なものとなる。
【0015】
また、第1クロストーク生成部および前記第2クロストーク生成部を、ハイパスフィルタとローパスフィルタとを縦続接続した構成とし、その結果、バンドパスフィルタを実現することができる。更に、第1クロストーク生成部および第2クロストーク生成部を、ローシェルビングフィルタとハイシェルビングとを縦続接続した構成、ハイパスフィルタとハイシェルビングフィルタとを縦続接続した構成、および、ローシェルビングフィルタとローパスフィルタを縦続接続した構成の内のいずれかとすることできるため、装置構成も簡素で済むという利点もある。
【0016】
また、第1クロストーク生成部および第2クロストーク生成部のそれぞれの出力直後に乗算器を設ける構成とすれば、クロストーク信号を調整することが可能となるし、第1クロストーク生成部および第2クロストーク生成部のそれぞれの入力直前に乗算器を設けた構成として、処理全体の音量調整を行うことも可能となる。
【0017】
また、第1信号抽出部および前記第2信号抽出部のそれぞれを、「ローシェルビングフィルタおよび/またはハイシェルビングフィルタ」を含んで構成された音響装置とすることができる。つまり、「ローシェルビングフィルタとハイシェルビングフィルタとの組合せ」、「ハイシェルビングフィルタ単独」、「ローシェルビングフィルタ単独」の構成態様とすれば、構成が簡易となって好ましい。そして、第1クロストーク生成部および第2のクロストーク生成部が、300(Hz)〜1300(Hz)の信号が通過する通過周波数特性を有する構成とすれば、演奏者の略正面位置に位置する、音程C3(基音130(Hz))〜音程C6(基音1048(Hz))」の鍵の押鍵操作によっても、音像定位感が自然となる。
【0018】
また、前記左チャンネル信号または前記右チャンネル信号を入力した信号に対して遅延器と乗算器とローパスフィルタとを介した遅延信号を生成し、
この生成した遅延信号に対して、左耳用頭部伝達関数(または右耳用頭部伝達関数)を右耳用頭部伝達関数(または左耳頭部伝達関数)で除算した伝達関数を乗じ、伝達関数が「1」となる方を主出力とし、他方をクロストーク側であるサブ出力とする初期反射処理部を更に1以上備えた構成とすることもできる。つまり、伝達関数「1」の方を主出力、もう一方をサブ(クロストーク)出力とすることができる。この構成によれば、初期反射音を考慮した処理を実行することができ、この結果、クロストークに加えて音像定位を補強することが可能になる。
【0019】
本発明の他の態様によれば、鍵盤を備え、押鍵操作に応じて対応する左チャンネルおよび右チャンネルの2チャンネルの音信号を出力する電子鍵盤楽器において、
前記左チャンネル信号に基づいて、前記右チャンネル側へのクロストークである第1クロストークを生成出力する第1クロストーク生成部と、
前記右チャンネル信号に基づいて、前記左チャンネル側へのクロストークである第2クロストークを生成出力する第2クロストーク生成部と、
前記第1クロストークを前記右チャンネル信号に加える第1加算部と、
前記第2クロストークを前記左チャンネル信号に加える第2加算部と、
前記第1加算部による加算信号の内の所定周波数範囲の信号を抽出出力する第1信号抽出部と、
前記第2加算部による加算信号の内の前記所定周波数範囲の信号を抽出出力する第2信号抽出部と、
を備え、
前記左チャンネル信号または前記右チャンネル信号を入力した信号に対して遅延器と乗算器とローパスフィルタとを介した遅延信号を生成し、この生成した遅延信号に対して、左耳用頭部伝達関数(または右耳用頭部伝達関数)を右耳用頭部伝達関数(または左耳頭部伝達関数)で除算した伝達関数を乗じ、伝達関数が「1」となる方を主出力とし、他方をクロストーク側であるサブ出力とする初期反射処理部を更に1以上を備える電子鍵盤楽器も提供される。
【0020】
この発明よれば、第1クロストーク生成部および第2クロストーク生成部のそれぞれが生成したクロストークがそれぞれ、電子鍵盤楽器の音信号の右チャンネル信号、左チャンネル信号のそれぞれに加算され、第1信号抽出部および第2信号抽出部によって音質補正が行われる。この結果、ヘッドホンを介して電子ピアノの演奏音を聴取したとしても、低音鍵から高音鍵までの演奏に渡り、音像の定位感がより自然な電子鍵盤楽器を実現可能となる。
【0021】
上述した発明の構成要素はハードウエアでもソフトウエアでも実現可能である。ハードウエアの場合には、例えば、各機能に対応する機能部を備えた集積回路等で実現可能である。ソフトウエアの場合には、例えば、CPU、DSP等のプロセッサが、ROM等の不揮発性記録デバイスに記録されたプログラムを、RAM等の記憶デバイスの記憶領域をワークエリアとして実行する構成としても実現可能である。
【0022】
つまり、本発明の更に他の態様は、左チャンネル信号と右チャンネル信号で成る2チャンネルの演奏音に基づいて、ヘッドホン用の2チャンネル信号を出力するためのプログラムであって、
前記左チャンネル信号に基づいて、前記右チャンネル側へのクロストークである第1クロストークを生成出力する第1クロストーク生成機能と、
前記右チャンネル信号に基づいて、前記左チャンネル側へのクロストークである第2クロストークを生成出力する第2クロストーク生成機能と、
前記第1クロストークと前記右チャンネル信号とを加算する第1加算機能と、
前記第2クロストークと前記左チャンネル信号とを加算する第2加算機能と、
前記第1加算機能による加算信号の内の所定周波数範囲の信号を抽出出力する第1信号抽出機能と、
前記第2加算機能による加算信号の内の前記所定周波数範囲の信号を抽出出力する第2信号抽出機能と、
前記左チャンネル信号または前記右チャンネル信号を入力した信号に対して遅延器と乗算器とローパスフィルタとを介した遅延信号を生成し、この生成した遅延信号に対して、左耳用頭部伝達関数(または右耳用頭部伝達関数)を右耳用頭部伝達関数(または左耳頭部伝達関数)で除算した伝達関数を乗じ、伝達関数が「1」となる方を主出力とし、他方をクロストーク側であるサブ出力とする初期反射処理機能と、をコンピュータに実現するためのプログラムである。
【0023】
CPU、DSP等のプロセッサがROMに記録されたこのプログラムを実行することによって、第1クロストーク生成機能、第2クロストーク生成機能、第1加算機能、第2加算機能、第1信号抽出機能、および、第2信号抽出機能等が実現できる、その結果、上記のような装置を提供することが可能となる。