【実施例】
【0033】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
≪実施例1≫
[ET缶の有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー[(n−C
4H
9O)
3Ti−O−Ti(O−n−C
4H
9)
3]2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用ET胴板及び天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cm
2になるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分焼き付けた。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例1のET缶を作製した。
【0035】
≪実施例2≫
実施例1のET缶の溶接部(缶胴・手環部分)及び天地板巻締め部に補修ニスを塗り、実施例2のET缶を作製した。
【0036】
≪比較例1≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例1と同様の方法で比較例1のET缶を作製した。
【0037】
[錆比較試験1]
実施例1〜2のET缶、及び比較例1のET缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを〇と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表1に示す。各ET缶の各部分の写真を
図1〜3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
図1〜3及び表1に示すように、比較例1のET缶には錆の発生が認められたのに対し、実施例1〜2のET缶には錆の発生が全く確認されなかった。
【0040】
[錆比較試験2]
実施例1のET缶、及び比較例1のET缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、実施例1のET缶は、比較例1のET缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0043】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例1及び比較例1のET缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表3及び
図4〜5に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3及び
図4〜5に示すように、比較例1のET缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例1のET缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0046】
実施例1のET缶に用いられた表面処理鋼板(実施例1とする。)、及び比較例1のET缶に用いられた表面処理鋼板(比較例1とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0047】
[すべり性]
実施例1の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例1の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0048】
[耐摩擦性]
実施例1の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm
2/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例1の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0049】
[耐薬品性]
実施例1の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりも耐薬品性に優れていた。
【0050】
[耐溶剤性]
実施例1の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりも耐溶剤性に優れていた。
【0051】
【表4】
【0052】
≪実施例3≫
[TFS缶の有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー[(n−C
4H
9O)
3Ti−O−Ti(O−n−C
4H
9)
3]2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用TFS胴板及び天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cm
2になるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分間、熱処理を行った。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。
B40口金については、同処理液にB40ET口金を浸漬した。口金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例3のTFS缶を作製した。
【0053】
≪実施例4≫
実施例3のTFS缶の溶接部(缶胴・手環部分)及び天地板巻締め部に補修ニスを塗り、実施例4のET缶を作製した。
【0054】
≪比較例2≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例3と同様の方法で比較例2のTFS缶を作製した。
【0055】
≪比較例3≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例4と同様の方法で比較例3のTFS缶を作製した。
【0056】
[錆比較試験1]
実施例4のTFS缶、及び比較例3のTFS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを〇と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表5に示す。各TFS缶の各部分の写真を
図6〜7に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
図6〜7及び表5に示すように、比較例3のTFS缶には錆の発生が認められたのに対し、実施例4のTFS缶には錆の発生が全く確認されなかった。
【0059】
[錆比較試験2]
実施例3のTFS缶、及び比較例2のTFS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6に示すように、実施例3のTFS缶は、比較例2のTFS缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0062】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例4及び比較例3のTFS缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表7及び
図6〜7に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
表7及び
図8〜9に示すように、比較例3のTFS缶の胴部にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例4のTFS缶の胴部にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0065】
実施例3のTFS缶に用いられた表面処理鋼板(実施例3とする。)、及び比較例2〜3のTFS缶に用いられた表面処理鋼板(比較例2〜3とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0066】
[すべり性]
実施例3の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例2、比較例3の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。また、実施例3の表面処理鋼板は、比較例3の表面処理鋼板と同等のすべり性を有していた。
【0067】
[耐摩擦性]
実施例3の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm
2/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例2、比較例3の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐摩擦性に優れていた。
【0068】
[耐薬品性]
実施例3、比較例2〜3の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐薬品性に優れていた。
【0069】
[耐溶剤性]
実施例3、比較例2〜3の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐溶剤性に優れていた。
【0070】
【表8】
【0071】
≪実施例5≫
[TFS/TNSの有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー(n−C
4H
9O)
3Ti−O−Ti(O−n−C
4H
9)
3 2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用TFS胴板及びTNS天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cm
2になるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分焼き付けた。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。
B40口金については、同処理液にB40ET口金を浸漬した。口金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例5のTFS/TNS缶を作製した。
【0072】
≪比較例4≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例5と同様の方法で比較例4のTFS/TNS缶を作製した。
【0073】
[錆比較試験]
実施例5のTFS/TNS缶、及び比較例4のTFS/TNS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表9に示す。
【0074】
【表9】
【0075】
表9に示すように、実施例5のTFS/TNS缶は、比較例4のTFS/TNS缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0076】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例5及び比較例4のET缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表10に示す。
【0077】
【表10】
【0078】
表10に示すように、比較例4のTFS/TNS缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例5のTFS/TNS缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0079】
実施例5のTFS/TNS缶に用いられた表面処理鋼板(TNS)(実施例5とする。)、及び比較例4のTFS/TNS缶に用いられた表面処理鋼板(TNS)(比較例4とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0080】
[すべり性]
実施例5の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例4の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0081】
[耐摩擦性]
実施例5の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm
2/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例4の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0082】
[耐薬品性]
実施例5の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表11に示す。実施例4の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0083】
[耐溶剤性]
実施例5の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0084】
【表11】
【0085】
18リッター缶をはじめとする各種金属容器は、錆の発生や諸物性(すべり性、アブレーション等の耐摩擦性等)を改善するために、鋼板内外面へのコーティングニスの塗装、あるいは鋼板外面へのPETフィルムのラミネート等が行われている。
しかし、缶胴の溶接部や天板の手環溶接部においては、コーティングニスやPETフィルムを抜く必要があり、その部分は溶接のダメージと相まって錆が発生しやすいこともあり、製缶時においてこれらの溶接部(缶胴・手環部分)や鋼板加工でダメージのある天地板巻締め部には補修ニスを塗る必要があった。
この様な錆対策を行っても、例えば手環座金は無地ETであるため座金裏側までは補修ニスが届かず、錆が発生する問題を抱えていた。
本発明によれば、(1)素材としての鋼板(2)現行の鋼板(3)鋼板加工品(座金・口金等)の全てにおいて最適な処理(コーティング法・浸漬法)が可能であり、且つそれらは溶接性を有しており、難錆性、すべり性、アブレーション、耐摩擦性、耐薬品性等の諸物性が向上する。これら諸物性の改善は、チタン酸化被膜の持つ優れた特性によるものと考えられ、難錆性についてはバリヤー防食及びチタンのイオン化傾向が鉄よりも大きい事による犠牲防食が働くためと考えられる。本発明により、従来の缶に比べ、格段に優れた性能を有する金属缶の提供が可能となった。