特許第6643808号(P6643808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643808
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】金属缶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20200130BHJP
   B65D 8/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C23C26/00 C
   B65D8/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-56743(P2015-56743)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-176103(P2016-176103A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207540
【氏名又は名称】大日製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】段田 豊
(72)【発明者】
【氏名】進藤 兼則
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−227646(JP,A)
【文献】 特開2013−023705(JP,A)
【文献】 特開2002−194554(JP,A)
【文献】 特開平01−149966(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/061005(WO,A1)
【文献】 特開平09−310185(JP,A)
【文献】 特開2007−276204(JP,A)
【文献】 特開2001−161533(JP,A)
【文献】 特開昭62−272276(JP,A)
【文献】 特開2002−226926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板又はめっき鋼板の表面に、チタンアルコキシド、チタンキレート、及びチタンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機チタン化合物のアルコール溶液をコーティングして、処理温度150〜220℃で熱処理することにより、該鋼板又はめっきの少なくとも一方の面にチタン酸化被膜を備えた表面処理鋼板を得る工程と、
鋼板加工品又はめっき鋼板加工品を、チタンアルコキシド、チタンキレート、及びチタンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機チタン化合物のアルコール溶液に浸漬して、処理温度150〜220℃で熱処理することにより、これらの加工品の表面にチタン酸化被膜を備えた表面処理鋼板加工品を得る工程と、
前記表面処理鋼板及び前記表面処理鋼板加工品を用いて金属缶を作製する工程
を有る、金属缶の製造方法。
【請求項2】
前記めっき鋼板の表面に、前記有機チタン化合物のアルコール溶液をコーティングし前記の熱処理する操作は、めっき処理後に行われる、請求項1に記載の金属缶の製造方法。
【請求項3】
前記めっき鋼板加工品を、前記有機チタン化合物のアルコール溶液に浸漬して前記の熱処理する操作は、めっき処理後に行われる、請求項1又は2に記載の金属缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板、金属容器、表面処理鋼板の製造方法、難錆性付与方法、すべり性改善方法、アブレーション防止方法、傷入り性改善方法、及び耐薬品性付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
18リッター缶をはじめとする金属容器には、ブリキ(以下、ETともいう。)、ティンフリースチール(以下、TFSともいう。)、ティンニッケルスチール(以下、TNSともいう。)等の鋼板が使用されている。
ET、TFS、TNSを用いた缶としては、無地板を製缶してなる無地缶や、鋼板の内外面に様々な塗料をコーティングして製缶してなる塗装缶が挙げられる。無地缶は、経時的な缶の錆を防止することは難しいという欠点がある。
【0003】
また、缶の天板部分には持ち運びの為の手環や持ち手が溶接により取り付けられている。さらに、取り出し口にも金属加工した口金をカシメる事により取り付けられている。
塗装缶を製造する場合、溶接を可能にするために溶接部分は塗装を抜かなければならない。このような製缶上の制約の中、溶接部分の塗装抜き部分の錆を防止することは難しく、製缶時に補修ニスを塗る事で錆びの発生を防いでいる。
【0004】
耐食性と加工性を備え、耐食性付与を目的とした前処理やアフター塗装の省略が可能な表面処理鋼板として、特許文献1に記載の表面処理鋼板が提案されている。係る表面処理鋼板は、中和された酸基を有する重合体セグメントとポリシロキサンセグメントとが化学結合してなる複合樹脂のポリシロキサンセグメントと、炭素数1〜3のアルキルトリアルコキシシランの縮合物由来のポリシロキサンセグメントとが珪素−酸素結合を介して結合している複合樹脂を使用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−194258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
更に、難錆性・すべり性・アブレーション(輸送等により鋼板表面に発生する黒点)・傷入り性・耐薬品性等の諸物性が改善された表面処理鋼板が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、難錆性、すべり性、アブレーション(輸送等により鋼板表面に発生する黒点)、傷入り性、耐薬品性等の諸物性を改善させた鋼板、及びその製造方法を提供する。
また、本発明は、最終製品として、本発明の表面処理鋼板を用いた金属容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、チタン酸化被膜により、難錆性・すべり性・アブレーション(輸送等により鋼板表面に発生する黒点)・傷入り性・耐薬品性等の諸物性の改善に成功し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する表面処理鋼板、金属容器、表面処理鋼板の製造方法、難錆性付与方法、すべり性改善方法、アブレーション防止方法、傷入り性改善方法、及び耐薬品性付与方法を提供するものである。
【0009】
[1]鋼板又はめっき鋼板と、該鋼板又はめっきの少なくとも一方の面に形成されたチタン酸化被膜を備えたことを特徴とする表面処理鋼板。
[2]前記チタン酸化被膜は、下記式(1)で表される構造を有する前記[1]に記載の表面処理鋼板。
【化1】
[式(1)中、*は結合手を示す。]
[3]前記[1]又は[2]に記載の表面処理鋼板を用いたことを特徴とする金属容器。
【0010】
[4]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
[5]前記有機チタン化合物は、チタンアルコキシド、チタンキレート、及びチタンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一種である前記[4]に記載の表面処理鋼板の製造方法。
[6]前記表面処理工程は、めっき処理後に行われる前記[4]又は[5]に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【0011】
[7]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品に難錆性を付与する方法であって、
鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とする難錆性付与方法。
[8]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品のすべり性を改善する方法であって、
鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とするすべり性改善方法。
[9]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品に生じるアブレーションの発生を防止する方法であって、
鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とするアブレーション防止方法。
[10]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の傷入り性を改善する方法であって、
鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とする傷入り性改善方法。
[11]鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品に耐薬品性を付与する方法であって、
鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有することを特徴とする耐薬品性付与方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難錆性、すべり性、アブレーション(輸送等により鋼板表面に発生する黒点)、傷入り性、耐薬品性等の諸物性を改善させた鋼板、及びその製造方法、並びに、該鋼板を用いた金属容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例1のET缶の写真である。
図2】実施例1のET缶の写真である。
図3】実施例2のET缶の写真である。
図4】比較例1のET缶の写真である。
図5】実施例1のET缶の写真である。
図6】比較例3のTFS缶の写真である。
図7】実施例4のTFS缶の写真である。
図8】比較例3のTFS缶の写真である。
図9】実施例4のTFS缶の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<表面処理鋼板の製造方法>
本発明の表面処理鋼板の製造方法は、鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に有機チタン化合物を付着させて、熱処理する表面処理工程を有する。
本発明において、めっき鋼板としては、ET、TFS、TNS等が挙げられる。鋼板加工品又はめっき鋼板加工品としては、例えば、座金、口金等が挙げられる。
【0015】
ETは、鋼/鉄−錫合金/錫めっき/クロム水和酸化物/油膜の層構成を有している。ETの鋼を除く構成部分は、防錆効果があると考えられているが、鋼板を加工する事で鋼板表面にクラック等の傷が入る場合があり、係る場合、鉄は錫よりイオン化傾向が大きいため、容易に鉄が酸化され、錆が発生する。
【0016】
TFSは、鋼/金属クロム/クロム水和酸化物/油膜の層構成を有している。TFSの鋼を除く構成部分は、防錆効果はあると考えられるが、鋼板を加工する事で鋼板表面にクラック等の傷が入り、錆が発生する。
【0017】
TNSは、鋼/ニッケル・錫メッキ/金属クロム/クロム水和酸化物/油膜の構成となっており、TNSの鋼を除く構成部分は、防錆効果はあると考えられるが、鋼板を加工する事で鋼板表面にクラック等の傷が入り、錆が発生する。
【0018】
このように、ET、TFS、TNSとも加工等によりクラック等の傷が入ると、容易に錆が発生するため、鋼板のみでは錆の発生を抑える事が難しいため、容器化するに当たり鋼板の外面塗装やPETフィルムのラミネートを行うこととなる。
18リッター缶の場合、ETは無地缶が多いが、TFS、TNSの場合、外面塗装を行うことにより、すべり性や傷入り性等の表面物性を改善しなければ製缶出来ない。外面塗装やラミネートを行う場合、溶接部分は塗装やラミネートを抜く必要があり、製缶時に溶接部分を補修ニスの吹付や部分塗装により補修している。
【0019】
容器には、持ち運びの為の手環が座金により天板に溶接され、持ち手が天板に直接溶接されている。また、注ぎ口には口金がはめ込まれており、これらの容器部品には多くの場合ETが使用されている。前述した通りこれらの部品にも錆問題が発生するため、錆び発生の少ないアルミやステンレスを使った容器部品を使用するケースもある。また製缶時において補修ニスの塗装も行われている。
【0020】
後述するように、本発明の表面処理鋼板の製造方法によれば、難錆性を有し、表面処理工程後でも溶接可能であり、すべり性や耐スクラッチ性(傷入り性)に優れた表面処理鋼板を製造できる。
【0021】
前記表面処理工程において、チタンアルコキシド、チタンキレート、及びチタンオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機チタン化合物を、鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面に付着させ、熱処理することで、有機チタン化合物に加水分解や熱分解を生じさせ、鋼板若しくはめっき鋼板又はこれらの加工品の表面にチタン酸化被膜を生成させることが好ましい。
【0022】
処理剤として使用可能な有機チタン化合物としては、チタンアルコキシド、チタンキレート、チタンオリゴマーが挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、テトラアルコキシチタンが好ましく、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等が挙げられる。
チタンキレートとしては、前記テトラアルコキシチタンにキレート剤が配位したものが好ましく、溶剤系チタンキレートと水系チタンキレートが挙げられる。
溶剤系チタンキレートとしては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテートが挙げられる。
水系チタンキレートとしては、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。
チタンオリゴマーは、構成単位中にチタン原子を含む重合度が2以上のオリゴマーであり、前記テトラアルコキシチタン、又は前記チタンキレートを加水分解により縮合させたものが好ましく、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
中でも、防錆効果が有機チタン化合物のチタン含有成分比率に比例する傾向がみられる点から、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドを加水分解により縮合させたチタンオリゴマーが好ましい。水系としては、水系チタンキレートのチタンラクテートが好ましい。
【0023】
有機チタン化合物の希釈溶媒としては、水、アルコール、エステル、ケトン、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が挙げられる。用いる有機チタン化合物により、溶解性が異なるため、適正な溶媒の選定が必要である。水系有機チタン化合物は水、溶剤系有機チタン化合物はアルコールを選定するのが作業環境面からみて好ましい。
【0024】
前記表面処理工程において形成されるチタン酸化被膜の膜厚は、20〜500nmが好ましく、20〜200nmがより好ましく、20〜50nmが特に好ましい。使用する有機チタン化合物に応じて最適な塗膜厚を決定しなければいけない。より緻密なチタン酸化被膜を形成させるためには、1回に付ける膜厚を抑え、塗布→熱処理を繰り返す重ね処理を行うことが好ましく、係る重ね処理により効果はさらに向上する。
既存鋼板の処理であれば金属板コーティング装置で塗装することが現実的であり、好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜5%の有機チタン化合物溶液をロールコーターで塗装し、オーブンで熱処理することが好ましい。
有機チタン化合物の希釈溶媒としては造膜性を考慮し選定する必要があるが、コーティングラインに見合う乾燥度合いのアルコール系溶媒が好ましい。
鋼板加工品であれば、様々な形状が考えられるため、浸漬方式が好ましい。更に、鋼板加工品は加工時にクラック等の傷が入りやすいため、浸漬法による重ね処理がより好ましい。有機チタン化合物に応じて最適な塗膜厚を得るため、1〜10%の有機チタン溶液で処理することが好ましい。浸漬処理の場合は液切りを十分に行い、一次乾燥後または液切り後直ちに熱処理することが好ましい。
希釈溶媒としては、アルコール系が好ましいが、速乾アルコールだと乾燥時に蒸発潜熱が急速に奪われ、その結果としてブラッシング現象(白化)が起こるため、遅乾アルコールのブレンドにより乾燥の調整が必要である。
【0025】
有機チタン化合物の熱処理はチタン酸化被膜を生成する上で重要な要素である。有機チタン化合物は、熱処理により加水分解や熱分解が生じ、チタン酸化被膜を生成する。
処理温度は高いほど良いが、種々検討の結果、コーティング法・浸漬法ともに、150〜220℃が好ましく、180℃〜200℃がより好ましい。
処理時間は長いほど良いが、種々検討の結果、コーティング法・浸漬法ともに、1〜15分が好ましく、2〜10分がより好ましい。
【0026】
前記表面処理工程において、有機チタン化合物からチタン酸化被膜を形成するプロセスを下記式(2)に示す。
【化2】
[式(2)中、Rはアルキル基、nは2以上の自然数、*は結合手を示す。]
【0027】
鋼板製造時の化学処理の一つとして前記表面処理を行う場合は、ET、TFS、TNS共にめっき後の化学処理の一つとして有機チタン処理を行うことが好ましく、油膜処理の後に処理を行うことがより好ましい。
塗布方法は浸漬法、ロールコーティング法、吹付法等が挙げられる。製缶後の缶外面物性の向上を目的とする場合、容器外面に当たる片側にロールコーティング法又は吹付法にて膜厚20〜200nmになるように処理を行うことが好ましい。熱処理は有機チタン処理後、鋼板の製品完成までの間に、200℃、2〜10分の加熱が特に好ましい。
【0028】
本発明の表面処理鋼板の製造方法により、表面処理された鋼板又はめっき鋼板は、その表面に極薄の強靭な被膜が生成され、以下に示す特長を有する。
(1) 本発明の表面処理鋼板の製造方法により得られた表面処理鋼板の外観は、表面処理前の鋼板又はめっき鋼板と同等であり、例えば、ETやTFSを表面処理した鋼板は無地である。
(2) 本発明の表面処理鋼板の製造方法により得られた表面処理鋼板は、溶接が可能であり、係る表面処理鋼板を缶製造に用いる場合、溶接部の表面処理を除く必要がない。
(3) 本発明の表面処理鋼板の製造方法により得られた表面処理鋼板は、従来の表面処理鋼板に比べ顕著な難錆性を有している。
(4) 本発明の表面処理鋼板の製造方法により得られた表面処理鋼板は、難錆性、アブレーションの改善、すべり性の向上、表面強度の向上(スクラッチ強度の向上)、耐薬品性向上等、表面物性が大幅に改善されている。これら諸物性の改善は、チタン酸化被膜の持つ優れた特性によるものと考えられ、難錆性についてはバリヤー防食及びチタンのイオン化傾向が鉄よりも大きい事による犠牲防食が働くためと考えられる。また、すべり性においては、低いほど好ましいが、実施例で後述するように、12°〜14°の角度のすべり性を有するものがより好ましい。
(5) 本発明の表面処理鋼板の製造方法により得られた表面処理鋼板を、缶のどの部分にも対応させることができる。例えばET、TFSにかかわらず全ての部分(胴板・天地板・口金・座金)に表面処理鋼板を用いる、又は錆の目立ちやすい天板と座金のみに表面処理鋼板を用いるなど、フレキシブルに対応する事ができる。
【0029】
[表面処理鋼板]
本発明の表面処理鋼板は、鋼板又はめっき鋼板と、該鋼板又はめっき鋼板の少なくとも一方の面に形成されたチタン酸化被膜を備えている。鋼板又はめっき鋼板の両面にチタン酸化被膜が形成されてもよいが、金属容器等への用途の観点からは、片面に形成されることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板におけるチタン酸化被膜の形成方法としては、特に限定されないが、上述した本発明の表面処理鋼板の製造方法を用いることが好ましい。
チタン酸化被膜は、下記式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【0030】
【化3】
[式(1)中、*は結合手を示す。]
【0031】
本発明の表面処理鋼板は、本発明の鋼板の表面処理方法により得られた表面処理鋼板の特長と同様の特長を有する。
【0032】
[金属容器]
本発明の金属容器は、上記本発明の表面処理鋼板を用いたものである。係る金属容器としては、特に限定されず、缶が挙げられる。缶としては、食缶、飲料缶、菓子缶、薬品缶、スプレー缶、ペール缶、18L缶等が挙げられ、18L缶が好ましい。
本発明の金属容器は、本発明の鋼板の表面処理方法により得られた表面処理鋼板の特長と同様の特長を有する。
【実施例】
【0033】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
≪実施例1≫
[ET缶の有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー[(n−CO)Ti−O−Ti(O−n−C]2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用ET胴板及び天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cmになるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分焼き付けた。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例1のET缶を作製した。
【0035】
≪実施例2≫
実施例1のET缶の溶接部(缶胴・手環部分)及び天地板巻締め部に補修ニスを塗り、実施例2のET缶を作製した。
【0036】
≪比較例1≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例1と同様の方法で比較例1のET缶を作製した。
【0037】
[錆比較試験1]
実施例1〜2のET缶、及び比較例1のET缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを〇と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表1に示す。各ET缶の各部分の写真を図1〜3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
図1〜3及び表1に示すように、比較例1のET缶には錆の発生が認められたのに対し、実施例1〜2のET缶には錆の発生が全く確認されなかった。
【0040】
[錆比較試験2]
実施例1のET缶、及び比較例1のET缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、実施例1のET缶は、比較例1のET缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0043】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例1及び比較例1のET缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表3及び図4〜5に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3及び図4〜5に示すように、比較例1のET缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例1のET缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0046】
実施例1のET缶に用いられた表面処理鋼板(実施例1とする。)、及び比較例1のET缶に用いられた表面処理鋼板(比較例1とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0047】
[すべり性]
実施例1の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例1の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0048】
[耐摩擦性]
実施例1の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例1の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0049】
[耐薬品性]
実施例1の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりも耐薬品性に優れていた。
【0050】
[耐溶剤性]
実施例1の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表4に示す。実施例1の表面処理鋼板は、比較例1の表面処理鋼板よりも耐溶剤性に優れていた。
【0051】
【表4】
【0052】
≪実施例3≫
[TFS缶の有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー[(n−CO)Ti−O−Ti(O−n−C]2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用TFS胴板及び天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cmになるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分間、熱処理を行った。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。
B40口金については、同処理液にB40ET口金を浸漬した。口金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例3のTFS缶を作製した。
【0053】
≪実施例4≫
実施例3のTFS缶の溶接部(缶胴・手環部分)及び天地板巻締め部に補修ニスを塗り、実施例4のET缶を作製した。
【0054】
≪比較例2≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例3と同様の方法で比較例2のTFS缶を作製した。
【0055】
≪比較例3≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例4と同様の方法で比較例3のTFS缶を作製した。
【0056】
[錆比較試験1]
実施例4のTFS缶、及び比較例3のTFS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを〇と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表5に示す。各TFS缶の各部分の写真を図6〜7に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
図6〜7及び表5に示すように、比較例3のTFS缶には錆の発生が認められたのに対し、実施例4のTFS缶には錆の発生が全く確認されなかった。
【0059】
[錆比較試験2]
実施例3のTFS缶、及び比較例2のTFS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6に示すように、実施例3のTFS缶は、比較例2のTFS缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0062】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例4及び比較例3のTFS缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表7及び図6〜7に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
表7及び図8〜9に示すように、比較例3のTFS缶の胴部にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例4のTFS缶の胴部にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0065】
実施例3のTFS缶に用いられた表面処理鋼板(実施例3とする。)、及び比較例2〜3のTFS缶に用いられた表面処理鋼板(比較例2〜3とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0066】
[すべり性]
実施例3の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例2、比較例3の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。また、実施例3の表面処理鋼板は、比較例3の表面処理鋼板と同等のすべり性を有していた。
【0067】
[耐摩擦性]
実施例3の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例2、比較例3の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐摩擦性に優れていた。
【0068】
[耐薬品性]
実施例3、比較例2〜3の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐薬品性に優れていた。
【0069】
[耐溶剤性]
実施例3、比較例2〜3の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表8に示す。実施例3の表面処理鋼板は、比較例2〜3の表面処理鋼板よりも耐溶剤性に優れていた。
【0070】
【表8】
【0071】
≪実施例5≫
[TFS/TNSの有機チタン処理]
チタンアルコキシド系のブチルチタネートダイマー(n−CO)Ti−O−Ti(O−n−C 2部/n−ブタノール 98部からなる処理液を作製した。18L缶用TFS胴板及びTNS天地板に、この処理液をロールコーター式のコーティングラインで塗布量(wet)が20mg/100cmになるようにコーティングし、コーティングライン上で200℃、10分焼き付けた。
手環取付用座金については、同処理液にET座金を浸漬した。浸漬した座金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。
B40口金については、同処理液にB40ET口金を浸漬した。口金を取り出した後、液切を十分に行い200℃、10分間、熱処理を行った。これらの処理材料を用いて実施例5のTFS/TNS缶を作製した。
【0072】
≪比較例4≫
有機チタン処理をしない以外は、実施例5と同様の方法で比較例4のTFS/TNS缶を作製した。
【0073】
[錆比較試験]
実施例5のTFS/TNS缶、及び比較例4のTFS/TNS缶を屋外に10日間(内、雨3日間)放置し、錆の発生を比較した。
錆が全く発生しなかったものを◎と評価し、錆の色が薄ら付着する程度に発生したものを〇と評価し、錆の色が濃く付着する程度に発生したものを△と評価し、錆が完全に生じているものを×と評価した。結果を表9に示す。
【0074】
【表9】
【0075】
表9に示すように、実施例5のTFS/TNS缶は、比較例4のTFS/TNS缶に対して防錆効果を有していることが確認された。
【0076】
[アブレーション試験]
水を充填した、実施例5及び比較例4のET缶を、振動試験機で60分間振動させた後のアブレーションの発生の有無を確認した。結果を表10に示す。
【0077】
【表10】
【0078】
表10に示すように、比較例4のTFS/TNS缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められたのに対し、実施例5のTFS/TNS缶の手環部分にはアブレーションの発生が認められなかった。
【0079】
実施例5のTFS/TNS缶に用いられた表面処理鋼板(TNS)(実施例5とする。)、及び比較例4のTFS/TNS缶に用いられた表面処理鋼板(TNS)(比較例4とする。)について、以下の物性試験を行った。
【0080】
[すべり性]
実施例5の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、所定の角度に傾けて、摩擦係数を算出した。比較例4の表面処理鋼板についても同様にして摩擦係数を算出した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0081】
[耐摩擦性]
実施例5の表面処理鋼板どうしを重ね合わせ、学振型耐摩擦試験器を用いて、所定の条件下(1kg/4cm/100往復)における、耐摩擦性を評価した。比較例4の表面処理鋼板についても同様にして耐摩擦性を評価した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板よりもすべり性に優れていた。
【0082】
[耐薬品性]
実施例5の表面処理鋼板に、5%硫酸銅溶液を滴下し、5分後の浸食度を評価した。侵食度合に応じて、××、×、△、〇、◎と評価した。結果を表11に示す。実施例4の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0083】
[耐溶剤性]
実施例5の表面処理鋼板に、アセトンラビングを100往復行い、耐溶剤性を評価した。結果を表11に示す。実施例5の表面処理鋼板は、比較例4の表面処理鋼板と同様に耐摩擦性に優れていた。
【0084】
【表11】
【0085】
18リッター缶をはじめとする各種金属容器は、錆の発生や諸物性(すべり性、アブレーション等の耐摩擦性等)を改善するために、鋼板内外面へのコーティングニスの塗装、あるいは鋼板外面へのPETフィルムのラミネート等が行われている。
しかし、缶胴の溶接部や天板の手環溶接部においては、コーティングニスやPETフィルムを抜く必要があり、その部分は溶接のダメージと相まって錆が発生しやすいこともあり、製缶時においてこれらの溶接部(缶胴・手環部分)や鋼板加工でダメージのある天地板巻締め部には補修ニスを塗る必要があった。
この様な錆対策を行っても、例えば手環座金は無地ETであるため座金裏側までは補修ニスが届かず、錆が発生する問題を抱えていた。
本発明によれば、(1)素材としての鋼板(2)現行の鋼板(3)鋼板加工品(座金・口金等)の全てにおいて最適な処理(コーティング法・浸漬法)が可能であり、且つそれらは溶接性を有しており、難錆性、すべり性、アブレーション、耐摩擦性、耐薬品性等の諸物性が向上する。これら諸物性の改善は、チタン酸化被膜の持つ優れた特性によるものと考えられ、難錆性についてはバリヤー防食及びチタンのイオン化傾向が鉄よりも大きい事による犠牲防食が働くためと考えられる。本発明により、従来の缶に比べ、格段に優れた性能を有する金属缶の提供が可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9