(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車1に適用した構成を例示している。
【0010】
ステアリング装置100は、自動車1の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール101(以下、「ハンドル101」と称する場合もある。)と、ハンドル101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ハンドル101の回転に連動して回転する。
【0011】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左側前輪151,右側前輪152それぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ハンドル101の回転操作力を左側前輪151,右側前輪152の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、左側前輪151,右側前輪152を転動させるラック軸105に対して、回転することにより左側前輪151,右側前輪152を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。
【0012】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を備えている。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ハンドル101に加えられた操舵トルクTを検出するトルクセンサ109が設けられている。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを備えている。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に、左側前輪151,右側前輪152を転動させる駆動力を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度であるモータ回転角度θmに連動した回転角度信号θsを出力するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ハンドル101の回転角度である操舵角を検出する操舵角検出部の一例としての操舵角センサ180を備えている。操舵角センサ180は、ステアリングシャフト102自体に取り付けられてステアリングシャフト102と同期回転する第1回転部材(不図示)と、この第1回転部材の回転に連動して回転する第2回転部材(不図示)と、この第2回転部材に固定された着磁部の磁界変化を検出する磁気抵抗素子(不図示)とを有する。そして、操舵角センサ180は、ハンドル101の回転角度に対応する正弦波及び余弦波の信号を出力する。
【0015】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10は、電動モータ110の制御を行う際の演算処理を行うCPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMとを備えている。
【0016】
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Td、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaが出力信号に変換された操舵角信号θas、レゾルバ120からの回転角度信号θsが入力される。なお、トーションバー112に捩れが生じていない中立状態から運転者がハンドル101を左方向に回転させることによりトーションバー112に捩れが生じた場合に操舵トルクTの値が正となるように設定されている。また、ハンドル101が回転していない操舵角0(中立位置)から運転者がハンドル101を左方向に回転させた場合に検出操舵角θaの値が正となるように設定されている。
【0017】
また、制御装置10には、自動車1に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車1の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号vが入力される。
【0018】
また、制御装置10には、ネットワーク(CAN)を介して、自動車1の前後左右に配置された4つの車輪それぞれの回転速度を検出する車輪速度センサ190からの出力信号が入力される。車輪速度センサ190は、自動車1の左側の前に配置された左側前輪151の回転速度を検出する左側前輪速度センサ191(
図6参照)と、右側の前に配置された右側前輪152の回転速度を検出する右側前輪速度センサ192(
図6参照)とを備えている。また、車輪速度センサ190は、左側の後に配置された左側後輪の回転速度を検出する左側後輪速度センサ193(
図6参照)と、右側の後に配置された右側後輪の回転速度を検出する右側後輪速度センサ194(
図6参照)とを備えている。
【0019】
以上のように構成されたステアリング装置100は、制御装置10が電動モータ110の駆動を制御し、電動モータ110の駆動力(発生トルク)がピニオンシャフト106に伝達される。これにより、電動モータ110の駆動力(発生トルク)が、ハンドル101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0020】
(制御装置)
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを備えている。
また、制御装置10は、電動モータ110のモータ回転角度θmを算出するモータ回転角度算出部71と、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θmに基づいて、モータ回転速度Vmを算出するモータ回転速度算出部72とを備えている。また、制御装置10は、ハンドル101の回転角度である操舵角Raをモータ回転角度θmに基づき算出する操舵角算出部73を備えている。
【0021】
(第1実施形態に係る目標電流算出部)
図3は、第1実施形態に係る目標電流算出部20の概略構成図である。
第1実施形態に係る目標電流算出部20は、目標電流Itを設定する上でベースとなるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23と、を備えている。また、第1実施形態に係る目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて目標電流Itを決定する目標電流決定部25を備えている。
【0022】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクT(トルク信号Td)の位相を補償する位相補償部26と、位相補償部26にて位相補償された操舵トルクTを補正するための補正トルク値Tfを設定する補正トルク値設定部80とを備えている。また、第1実施形態に係る目標電流算出部20は、位相補償部26にて位相が補償された補償操舵トルクTsと補正トルク値設定部80が設定した補正トルク値Tfとに基づいて制御用トルク値Tcを設定する制御用トルク値設定部27を備えている。
【0023】
そして、第1実施形態に係る目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23、目標電流決定部25、位相補償部26、補正トルク値設定部80及び制御用トルク値設定部27が予め定められた処理を予め設定された一定時間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行することにより電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する。
【0024】
図4は、制御用トルク値Tc及び車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、制御用トルク値設定部27が設定した制御用トルク値Tcと、車速センサ170が検出した車速Vcと、
図4に例示した制御マップとに基づいてベース電流Ibを算出する。つまり、ベース電流算出部21は、制御用トルク値Tc及び車速Vcに応じたベース電流Ibを算出する。なお、ベース電流Ibの値が正である場合に、電動モータ110がハンドル101を左方向に回転させる駆動力を発生するように設定されている。
イナーシャ補償電流算出部22は、制御用トルク値Tcと、車速Vcとに基づいて電動モータ110及びシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。
ダンパー補償電流算出部23は、制御用トルク値Tcと、車速Vcと、電動モータ110のモータ回転速度Vmとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。
【0025】
目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Is及びダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて目標電流Itを決定する。目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を目標電流Itとして決定する。
【0026】
補正トルク値設定部80は、例えば、運転者が力を加えてハンドル101を中立位置以外の位置で保舵する際の運転者の負荷を抑制するために補正トルク値Tfを設定する。補正トルク値設定部80の詳細については後で詳述する。
制御用トルク値設定部27は、位相補償部26にて位相が補償された補償操舵トルクTsと補正トルク値設定部80が設定した補正トルク値Tfとを加算することにより得た値を制御用トルク値Tcとして決定する(Tc=Ts+Tf)。
【0027】
(制御部)
図5は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図5に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを備えている。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを備えている。
【0028】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを備えている。
【0029】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itと実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0030】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
【0031】
モータ回転角度算出部71(
図2参照)は、レゾルバ120からの回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θmを算出する。
モータ回転速度算出部72(
図2参照)は、モータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θmに基づいて電動モータ110のモータ回転速度Vmを算出する。モータ回転速度算出部72は、モータ回転速度Vmの絶対値及び電動モータ110の回転方向を含むモータ回転速度信号Vmsを出力する。
【0032】
操舵角算出部73(
図2参照)は、ハンドル101、減速機構111などが機械的に連結されているためにハンドル101の回転角度と電動モータ110のモータ回転角度θmとの間に相関関係があることに鑑み、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θmに基づいて操舵角Raを算出する。操舵角算出部73は、例えば、モータ回転角度算出部71にて定期的(例えば1ミリ秒毎)に算出されたモータ回転角度θmの前回値と今回値との差分の積算値に基づいて操舵角Raを算出する。そして、操舵角算出部73は、操舵角Raの絶対値及びハンドル101の回転方向を含む操舵角信号Rasを出力する。
【0033】
(補正トルク値設定部)
図6は、補正トルク値設定部80の概略構成図である。
補正トルク値設定部80は、車輪速度の左右差から操舵角を推定する操舵角推定部81と、操舵角推定部81が推定した推定操舵角θcと、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaとの偏差である操舵角偏差Δθを算出する操舵角偏差算出部82とを備えている。
また、補正トルク値設定部80は、操舵角偏差算出部82が算出した操舵角偏差Δθに基づいて補正トルク値Tfのベースとなるベース補正トルク値Tfbを算出するベース補正トルク値算出部83を備えている。
【0034】
また、補正トルク値設定部80は、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaに応じてベース補正トルク値Tfbを補正するための操舵角補正係数Kθを設定する操舵角補正係数設定部84を備えている。
また、補正トルク値設定部80は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに応じてベース補正トルク値Tfbを補正するためのトルク補正係数Ktを設定するトルク補正係数設定部85を備えている。
【0035】
また、補正トルク値設定部80は、車速センサ170にて検出された車速Vcに応じてベース補正トルク値Tfbを補正するための車速補正係数Kvcを設定する車速補正係数設定部86を備えている。
また、補正トルク値設定部80は、ベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbと、操舵角補正係数設定部84が設定した操舵角補正係数Kθと、トルク補正係数設定部85が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部86が設定した車速補正係数Kvcとに基づいて仮補正トルク値Tfaを算出する仮補正トルク値算出部87を備えている。
【0036】
また、補正トルク値設定部80は、ハンドル101の操舵状態に応じて仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaか0かを選択して選択値Stfとして出力する選択部88と、選択部88から出力された選択値Stfを平均化する平均化部89とを備えている。
また、補正トルク値設定部80は、平均化部89から出力された平均値Atfを、必要に応じてモータ回転速度Vmに基づいて補正するためのモータ回転速度補正係数Kvmを設定するモータ回転速度補正係数設定部90を備えている。また、補正トルク値設定部80は、平均化部89から出力された平均値Atfとモータ回転速度補正係数設定部90が設定したモータ回転速度補正係数Kvmとに基づいて補正トルク値Tfを決定する補正トルク値決定部91を備えている。
【0037】
(操舵角推定部)
操舵角推定部81は、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhを算出する車輪速度差算出部811と、車輪速度差算出部811が算出した車輪速度差ΔVhを操舵角に換算する操舵角換算部812とを備えている。また、操舵角推定部81は、車速センサ170にて検出された車速Vcに応じて操舵角換算部812が換算した換算操舵角θeを調整するための車速調整係数Kvaを設定する車速調整係数設定部813を備えている。また、操舵角推定部81は、操舵角換算部812が換算した換算操舵角θeと車速調整係数設定部813が設定した車速調整係数Kvaとを乗算することにより推定操舵角θcを算出する推定操舵角算出部814を備えている。
【0038】
車輪速度差算出部811は、右側前輪速度センサ192にて検出された右側前輪152の回転速度である右側前輪速度Vh2と右側後輪速度センサ194にて検出された右側後輪(不図示)の回転速度である右側後輪速度Vh4とを加算した値から、左側前輪速度センサ191にて検出された左側前輪151の回転速度である左側前輪速度Vh1と、左側後輪速度センサ193にて検出された左側後輪(不図示)の回転速度である左側後輪速度Vh3とを減算することにより車輪速度差ΔVhを算出する(ΔVh=Vh2+Vh4−Vh1−Vh3)。
【0039】
操舵角換算部812は、予め定められた換算係数αを、車輪速度差算出部811が算出した車輪速度差ΔVhに乗算することにより車輪速度差ΔVhを操舵角に換算する。操舵角換算部812は、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhと操舵角との間に相関関係があることに鑑み、車輪速度差ΔVhを操舵角に換算する。操舵角換算部812が換算した操舵角を換算操舵角θeとすると、換算操舵角θe=ΔVh×αである。
【0040】
車速調整係数設定部813は、操舵角換算部812が換算した換算操舵角θeに対して車速Vcに応じた調整を行うための車速調整係数Kvaを設定する。
図7は、車速調整係数Kvaと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速調整係数設定部813は、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて車速調整係数Kvaを設定する。車速調整係数設定部813は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速調整係数Kvaと車速Vcとの対応を示す
図7に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速調整係数Kvaを算出する。なお、
図7は、運転者によるハンドル101の回転角度が同じでも車速Vcが倍なら車輪速度も倍となることを考慮して作成されている。
【0041】
推定操舵角算出部814は、操舵角換算部812が換算した換算操舵角θeと車速調整係数設定部813が設定した車速調整係数Kvaとを乗算することにより推定操舵角θcを算出する(θc=θe×Kva)。
以上のように構成された操舵角推定部81は、例えば自動車1が傾斜した路面を走行しているときには車体が傾き、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhが0ではなくなることに鑑み、車輪速度差ΔVhに相当する操舵角を推定する。
【0042】
(操舵角偏差算出部)
操舵角偏差算出部82は、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaから操舵角推定部81にて推定された推定操舵角θcを減算することにより操舵角偏差Δθを算出する(Δθ=θa−θc)。
【0043】
(ベース補正トルク値算出部)
図8は、操舵角偏差Δθとベース補正トルク値Tfbとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース補正トルク値算出部83は、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθに基づいてベース補正トルク値Tfbを算出する。つまり、ベース補正トルク値算出部83は、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθに応じたベース補正トルク値Tfbを算出する。なお、ベース補正トルク値算出部83は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵角偏差Δθとベース補正トルク値Tfbとの対応を示す
図8に例示した制御マップに、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθを代入することによりベース補正トルク値Tfbを算出する。
図8に示した制御マップにおいては、操舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が大きくなるに従ってベース補正トルク値Tfbの絶対値が大きくなるように設定されている。
【0044】
(操舵角補正係数設定部)
操舵角補正係数設定部84は、ベース補正トルク値算出部83にて算出されたベース補正トルク値Tfbに対して検出操舵角θaに応じた補正を行うための操舵角補正係数Kθを設定する。
図9は、操舵角補正係数Kθと検出操舵角θaの絶対値|θa|との対応を示す制御マップの概略図である。
操舵角補正係数設定部84は、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaに基づいて操舵角補正係数Kθを設定する。操舵角補正係数設定部84は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵角補正係数Kθと検出操舵角θaとの対応を示す
図9に例示した制御マップに、検出操舵角θaの絶対値|θa|を代入することにより操舵角補正係数Kθを算出する。
【0045】
操舵角補正係数Kθは、運転者によるハンドル101の回転角度の絶対値が予め定められた基準操舵角θ0よりも大きい場合には補正トルク値Tfが小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、検出操舵角θaの絶対値|θa|が基準操舵角θ0以下である場合には操舵角補正係数Kθは1で、検出操舵角θaの絶対値|θa|が基準操舵角θ0より大きい場合には操舵角補正係数Kθは1から0まで漸減した後、0に設定されている。これは、検出操舵角θaの絶対値|θa|が基準操舵角θ0よりも大きい場合には運転者が故意に自動車1を旋回させるべくハンドル101を回転させていると考えられるからであり、運転者の操作を阻害しないようにするためである。なお、
図9に示すように、検出操舵角θaの絶対値|θa|が基準操舵角θ0近傍である場合には検出操舵角θaの絶対値|θa|が大きくなるに従って操舵角補正係数Kθが1から徐々に小さくなるように設定され、操舵角補正係数Kθが0近傍である場合には検出操舵角θaの絶対値|θa|が大きくなるに従って徐々に操舵角補正係数Kθが0に近づくように設定されている。
【0046】
(トルク補正係数設定部の構成)
トルク補正係数設定部85は、ベース補正トルク値算出部83にて算出されたベース補正トルク値Tfbに対して操舵トルクTに応じた補正を行うためのトルク補正係数Ktを設定する。
図10は、トルク補正係数Ktと操舵トルクTの絶対値|T|との対応を示す制御マップの概略図である。
トルク補正係数設定部85は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに基づいてトルク補正係数Ktを設定する。トルク補正係数設定部85は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、トルク補正係数Ktと操舵トルクTの絶対値|T|との対応を示す
図10に例示した制御マップに、操舵トルクTの絶対値|T|を代入することによりトルク補正係数Ktを算出する。
【0047】
トルク補正係数Ktは、運転者によるハンドル101の操作負荷が予め定められた基準トルクT0よりも大きい場合には補正トルク値Tfが小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0以下である場合にはトルク補正係数Ktは1で、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0より大きい場合にはトルク補正係数Ktは1から0まで漸減した後、0に設定されている。これは、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0よりも大きい場合には運転者が故意に自動車1を旋回させるべくハンドル101を回転させていると考えられるからであり、運転者の操作を阻害しないようにするためである。なお、
図10に示すように、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0近傍である場合には操舵トルクTが大きくなるに従ってトルク補正係数Ktが1から徐々に小さくなるように設定され、トルク補正係数Ktが0近傍である場合には操舵トルクTの絶対値|T|が大きくなるに従って徐々にトルク補正係数Ktが0に近づくように設定されている。
【0048】
(車速補正係数設定部の構成)
車速補正係数設定部86は、ベース補正トルク値算出部83にて算出されたベース補正トルク値Tfbに対して車速Vcに応じた補正を行うための車速補正係数Kvcを設定する。
図11は、車速補正係数Kvcと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速補正係数設定部86は、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて車速補正係数Kvcを設定する。車速補正係数設定部86は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速補正係数Kvcと車速Vcとの対応を示す
図11に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速補正係数Kvcを算出する。
図11においては、自動車1が低速、高速の場合に、補正トルク値Tfが小さくなるように車速補正係数Kvcは設定されている。
【0049】
(仮補正トルク値算出部)
仮補正トルク値算出部87は、ベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbと、操舵角補正係数設定部84が設定した操舵角補正係数Kθと、トルク補正係数設定部85が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部86が設定した車速補正係数Kvcとを乗算することにより仮補正トルク値Tfaを算出する(Tfa=Tfb×Kθ×Kt×Kvc)。
【0050】
(選択部)
図12は、第1実施形態に係る選択部88の概略構成図である。
選択部88は、単位時間当たりの操舵トルクTの変化量であるトルク微分値Dtを算出するトルク微分値算出部881を備えている。また、選択部88は、単位時間当たりの検出操舵角θaの変化量、言い換えればハンドル101の回転速度である操舵角速度Vraを算出する操舵角速度算出部882を備えている。また、選択部88は、トルク微分値算出部881が算出したトルク微分値Dtと操舵角速度算出部882が算出した操舵角速度Vraとに基づいて、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaか0かを選択して選択値Stfとして出力する出力選択部883を備えている。
【0051】
トルク微分値算出部881は、トルクセンサ109から所定周期で取得する操舵トルクTの最新の取得値から1つ前の取得値を減算した偏差を時間微分することによりトルク微分値Dtを算出する。
操舵角速度算出部882は、操舵角センサ180から所定周期で取得する操舵角Raの最新の取得値から1つ前の取得値を減算した偏差を時間微分することにより操舵角速度Vraを算出する。
【0052】
出力選択部883は、トルク微分値算出部881が算出したトルク微分値Dtの二乗と、操舵角速度算出部882が算出した操舵角速度Vraの二乗とを加算した値の平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))を算出する。そして、出力選択部883は、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))の値が予め定められた閾値以下である場合には、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaを選択値Stfとして平均化部89に出力する。他方、出力選択部883は、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))の値が閾値より大きい場合には0を選択値Stfとして平均化部89に出力する。これは、以下の理由による。
【0053】
トルク微分値Dtが小さく、かつ、操舵角速度Vraが小さい場合には、ハンドル101が所定の位置で保持されている保舵状態であると考えられる。一方、トルク微分値Dtが大きい場合、あるいは、操舵角速度Vraが大きい場合には、ハンドル101が回転操作されている操舵中であると考えられる。
そして、ハンドル101が保舵状態である場合であって、運転者が力を加えてハンドル101を中立位置以外の位置で保持している保持状態である場合には、保持のための運転者の負荷を抑制するべく電動モータ110にてアシストする方が望ましい。他方、運転者がハンドル101を操舵中である場合には、保持(保舵)のためのアシストを加えることが却って運転者の操舵負荷を高める場合がある。それゆえ、運転者がハンドル101を操舵中である場合には、保持(保舵)のための運転者の負荷を抑制するためのアシストを低減する方が望ましい場合がある。
【0054】
そのため、本実施の形態に係る出力選択部883は、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))が閾値以下である場合には、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaを選択し、閾値より大きい場合には0を選択して選択値Stfとして平均化部89に出力する。
なお、出力選択部883は、トルク微分値Dtが予め定められた規定トルク微分値より大きい場合、及び操舵角速度Vraが予め定められた規定操舵角速度より大きい場合の少なくともいずれかの場合には0を選択し、トルク微分値Dtが規定トルク微分値以下でありかつ操舵角速度Vraが規定操舵角速度以下である場合に仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaを選択するようにしてもよい。
【0055】
(平均化部)
平均化部89は、選択部88が予め設定された一定時間毎に繰り返し実行することにより選択した選択値Stfの現時点から過去N個分の値を平均した平均値Atfを算出する(Atf=(Stf(1)+Stf(2)+・・・+Stf(N))/N)。平均化部89は、FIRフィルタであることを例示することができる。また、Nは5000であることを例示することができる。例えば、Nが5000で、選択部88が1ミリ秒毎に選択値Stfを選択する場合には、平均化部89は、5秒間の選択値Stfを平均した値を平均値Atfとして出力する。
【0056】
(モータ回転速度補正係数設定部)
図13は、第1の実施形態に係るモータ回転速度補正係数設定部90の概略構成図である。
モータ回転速度補正係数設定部90は、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmと、ベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbの符号とを乗算する乗算部901を備えている。また、モータ回転速度補正係数設定部90は、乗算部901にて算出された値に応じて、モータ回転速度補正係数Kvmを算出するのに用いるモータ回転速度Vmである算出用モータ回転速度Vmcを決定する算出用モータ回転速度決定部902を備えている。また、モータ回転速度補正係数設定部90は、算出用モータ回転速度決定部902が決定した算出用モータ回転速度Vmcに基づいてモータ回転速度補正係数Kvmを決定するモータ回転速度補正係数決定部903を備えている。
【0057】
乗算部901は、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmと、ベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbの符号(正か負)とを乗算することにより乗算値Mtfを算出する。例えば、ベース補正トルク値Tfbの符号が正である場合は、乗算値Mtf=Vmとなり、ベース補正トルク値Tfbの符号が負である場合は、乗算値Mtf=−Vmとなる。
【0058】
算出用モータ回転速度決定部902は、乗算部901が算出した乗算値Mtfが0より大きい場合には算出用モータ回転速度Vmcとして0を決定し、乗算値Mtfが0以下である場合には算出用モータ回転速度Vmcとして乗算部901が算出した乗算値Mtfを決定する。理由は後述する。
【0059】
図14は、算出用モータ回転速度Vmcとモータ回転速度補正係数Kvmとの対応を示す制御マップの概略図である。
モータ回転速度補正係数決定部903は、算出用モータ回転速度Vmcに基づいてモータ回転速度補正係数Kvmを決定する。モータ回転速度補正係数決定部903は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、算出用モータ回転速度Vmcとモータ回転速度補正係数Kvmとの対応を示す
図14に例示した制御マップに、算出用モータ回転速度Vmcを代入することによりモータ回転速度補正係数Kvmを算出する。
【0060】
図14に示すように、モータ回転速度補正係数Kvmは、算出用モータ回転速度Vmcが0以上である場合には1となるように設定されている。また、算出用モータ回転速度Vmcが予め定められた基準回転速度Vmc0(負の値)よりも小さい場合にはモータ回転速度補正係数Kvmが1よりも小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、算出用モータ回転速度Vmcが基準回転速度Vmc0以上である場合にはモータ回転速度補正係数Kvmは1で、算出用モータ回転速度Vmcが基準回転速度Vmc0より小さい場合にはモータ回転速度補正係数Kvmは1から0まで漸減した後、0に設定されている。なお、
図14に示すように、算出用モータ回転速度Vmcが基準回転速度Vmc0近傍である場合には算出用モータ回転速度Vmcが小さくなるに従ってモータ回転速度補正係数Kvmが1から徐々に小さくなるように設定され、モータ回転速度補正係数Kvmが0近傍である場合には算出用モータ回転速度Vmcが小さくなるに従って徐々にモータ回転速度補正係数Kvmが0に近づくように設定されている。
【0061】
以上のように構成されたモータ回転速度補正係数設定部90においては、乗算部901が算出した乗算値Mtfが0より大きい場合、言い換えれば、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmの符号とベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbの符号とが同じである場合には、算出用モータ回転速度Vmcは0となり、モータ回転速度補正係数Kvmは1となる。これは、モータ回転速度Vmの符号とベース補正トルク値Tfbの符号とが同じである場合には、ハンドル101の操舵方向がベース補正トルク値Tfbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と同じであるため平均化部89から出力された平均値Atfを補正しない意図である。
【0062】
他方、乗算部91が算出した乗算値Mtfが0より小さい場合、言い換えれば、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmの符号とベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbの符号とが異なる場合には、モータ回転速度補正係数Kvmは算出用モータ回転速度Vmcに応じた値となる。つまり、算出用モータ回転速度Vmcの絶対値が大きくなるほど、言い換えれば、ハンドル101の回転速度の絶対値が大きくなるほど、モータ回転速度補正係数Kvmが小さくなる。これは、モータ回転速度Vmの符号とベース補正トルク値Tfbの符号とが異なる場合には、ハンドル101の操舵方向は、ベース補正トルク値Tfbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と逆方向であるため、平均化部89から出力された平均値Atfが小さくなるように補正する意図である。
ただし、ハンドル101が保舵状態である場合には、平均値Atfを補正しないように、算出用モータ回転速度Vmcの絶対値が基準回転速度Vmc0の絶対値より小さい場合はモータ回転速度補正係数Kvmは1に設定されている。
なお、モータ回転速度補正係数設定部90は、モータ回転速度補正係数決定部903から出力されるモータ回転速度補正係数Kvmにおける、予め定められた遮断周波数より低い周波数の成分は減衰させずに遮断周波数より高い周波数の成分を逓減させるローパスフィルタを備えていてもよい。これにより、高周波成分のノイズが除去される。
【0063】
(補正トルク値決定部)
補正トルク値決定部91は、平均化部89が算出した平均値Atfと、モータ回転速度補正係数設定部90が設定したモータ回転速度補正係数Kvmとを乗算することにより補正トルク値Tfを算出する(Tf=Atf×Kvm)。補正トルク値決定部91が算出した補正トルク値Tfが、補正トルク値設定部80から出力される補正トルク値Tfとなる。
【0064】
以上のように構成された第1実施形態に係る目標電流算出部20においては、補正トルク値設定部80の操舵角推定部81が車輪速度差ΔVhに相当する操舵角を推定し、操舵角偏差算出部82が操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaと推定操舵角θcとの操舵角偏差Δθを算出する。この操舵角偏差Δθが、例えば傾斜道路(ハンドル101が中立位置である場合であっても自動車1が直進せずに左右のどちらかに進むように(車体流れが生じるように)進行方向に直交する方向に傾斜した道路)を直進するために運転者が力を加えて回転させている操舵角に相当すると考えられる。つまり、傾斜道路を直進する場合、操舵角偏差Δθの分、運転者がハンドル101を回転させるために力を加えていると考えられる。かかる事項に鑑み、目標電流Itが操舵角偏差Δθの分の運転者の負荷をも減らす電流量となるように、制御用トルク値設定部27が、補償操舵トルクTsと補正トルク値設定部80が設定した補正トルク値Tfとを加算した値を、制御用トルク値Tcとして設定する。そして、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22及びダンパー補償電流算出部23が、それぞれ、この制御用トルク値Tcに基づいて、ベース電流Ib、イナーシャ補償電流Is及びダンパー補償電流Idを算出する。
【0065】
それゆえ、第1実施形態に係る目標電流算出部20を備えたステアリング装置100によれば、例えば傾斜道路を直進走行する場合など車体流れに伴う負荷が運転者に必要な状況においても、車体流れに伴う負荷を電動モータ110がアシストするので、運転者の負担を軽減することができる。つまり、例えば傾斜道路を直進走行する場合など、補正トルク値設定部80を備えていない構成ならば運転者がハンドル101に力を加えて中立位置以外の位置での保持を継続しなければならない場面においても、補正トルク値Tfを加算した制御用トルク値Tcに基づいて目標電流Itが設定されるのでハンドル101の保持に必要な力が電動モータ110によりアシストされる。
【0066】
また、旋回(左折や右折)に要する力であれば、
図4に示すようにベース電流Ibの絶対値が0より大きくなる操舵トルクTとなるので、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTのみに基づく目標電流Itにより電動モータ110にアシスト力が生じる。そして、第1実施形態に係る目標電流算出部20においては、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTのみではベース電流Ibが0となる領域のように、旋回に要する力より小さな力を加えて保持しなければならない場面であっても、補正トルク値Tfを加味した制御用トルク値Tcに基づいて目標電流Itが設定されるので運転者の負担を軽減することができる。
【0067】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80においては、操舵角補正係数Kθ、トルク補正係数Kt及び車速補正係数Kvcなどを用いてベース補正トルク値算出部83にて算出されたベース補正トルク値Tfbを補正して仮補正トルク値Tfaを決定する。これにより、運転者が故意に自動車1を旋回させるべくハンドル101を回転させている場面では運転者の操作を阻害しないようにしている。
【0068】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80は、ハンドル101の操舵状態に応じて仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaか0かを選択して出力する選択部88を備える。選択部88は、中立位置以外の位置でハンドル101を保持する保持状態である場合には、保持のための運転者の負荷を抑制するべく仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaを選択し、操舵中である場合には0を選択する。それゆえ、例えば傾斜道路を直進している状態から運転者が傾斜方向(車体が流れる方向)にハンドル101を切った場合には操舵フィーリングが悪化することが抑制される。
【0069】
図15は、ハンドル101が中立位置である場合であっても自動車1が直進せずに右に進む、直進方向の左側から右側にかけて下るように傾斜した道路(以下、「右傾斜道路」と称す。)を直進している状態から右に旋回するべくハンドル101を右に切った場合の作用を示す図である。
図15(a)は、検出操舵角θaの変化を示し、
図15(b)は、仮補正トルク値算出部87が算出する仮補正トルク値Tfaの変化を示し、
図15(c)は、選択部88が選択する選択値Stfの変化を示し、
図15(d)は、平均化部89から出力される平均値Atfの変化を示す。
図15(e)は、モータ回転速度補正係数設定部90が設定するモータ回転速度補正係数Kvmの変化を示し、
図15(f)は、補正トルク値決定部91が決定する補正トルク値Tfの変化を示す。
【0070】
自動車1が右傾斜道路を直進する場合、右方向への車体流れを抑制するべく運転者はハンドル101を左に切った位置で保持(保舵)するため、
図15(a)に示すように、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaは正の値となる。自動車1が直進する場合、左側に配置された車輪(左側前輪151、左側後輪)と右側に配置された車輪(右側前輪152、右側後輪)との車輪速度差ΔVhは0であることから、補正トルク値設定部80の操舵角推定部81が推定する推定操舵角θcは0である。ゆえに、操舵角偏差算出部82が算出する操舵角偏差Δθは正の値となり、ベース補正トルク値算出部83が算出するベース補正トルク値Tfbは正の値となる。その結果、仮補正トルク値算出部87が算出する仮補正トルク値Tfaは、
図15(b)に示すように、正の値となる。
【0071】
また、ハンドル101が保舵されている場合には、トルク微分値算出部881が算出するトルク微分値Dt及び操舵角速度算出部882が算出する操舵角速度Vraは小さな値となる。そのため、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))は閾値以下となり、出力選択部883は、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaを選択する。つまり、選択部88が選択する選択値Stfは、
図15(c)に示すように、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaである。そして、自動車1が右傾斜道路を直進している場合には、選択部88から仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaが出力され続けることから、平均化部89から出力される平均値Atfは、
図15(d)に示すように、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaと同一となる。
【0072】
右傾斜道路を直進している状態から右に旋回するべくハンドル101が右に切られると、
図15(a)に示すように、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaは正の値から負の値へと変化する。ハンドル101が右に切られて車輪が右に転動すると、右側に配置された車輪(右側前輪152、右側後輪)の回転速度よりも左側に配置された車輪(左側前輪151、左側後輪)の回転速度の方が大きいことから車輪速度差ΔVhは負の値となる。そして、ハンドル101が右に切られた後しばらくは、ハンドル101の右への操舵に対して車輪の右への転動が遅れることから、
図15(b)に示すように、操舵角偏差算出部82が算出する操舵角偏差Δθは負の値となり、ベース補正トルク値算出部83が算出するベース補正トルク値Tfbは負の値となる。それゆえ、仮補正トルク値算出部87が算出する仮補正トルク値Tfaは負の値となる。その後ハンドル101の操舵に従うように車輪が転動することから、
図15(b)に示すように、操舵角偏差算出部82が算出する操舵角偏差Δθは0となり、仮補正トルク値算出部87が算出した仮補正トルク値Tfaは0となる。
【0073】
また、ハンドル101が右に切られている場合には、トルク微分値算出部881が算出するトルク微分値Dt及び操舵角速度算出部882が算出する操舵角速度Vraは大きな値となる。そのため、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))は閾値よりも大きくなり、出力選択部883は、
図15(c)に示すように、0を選択する。平均化部89から出力される補正トルク値Tfは、過去N個分の平均値であるため、選択部88が0を選択開始した直後においては0を選択開始する前の正の値を含めた合計の平均値であることから、
図15(d)に示すように、しばらくは正の値となり、その後0となる。
【0074】
ここで、仮に補正トルク値設定部80が、選択部88、平均化部89及びモータ回転速度補正係数設定部90を備えていない場合を考える。自動車1が右傾斜道路を直進している状態から右に旋回するべくハンドル101が右に切られた場合には、ハンドル101の右への操舵に対して車輪の右への転動が遅れるために操舵角偏差算出部82が算出する操舵角偏差Δθは負の値となり、その絶対値が大きくなるときがある。それゆえ、補正トルク値設定部80が選択部88、平均化部89及びモータ回転速度補正係数設定部90を備えていない場合には、ベース補正トルク値算出部83が、絶対値が大きな負のベース補正トルク値Tfbを算出するため、補正トルク値設定部80は、絶対値が大きな負の仮補正トルク値Tfaを補正トルク値Tfとして出力する場合がある。つまり、例えば傾斜道路を直進走行する場合など車体流れに伴う負荷を抑制するために補正トルク値設定部80を設けていることに起因して、旋回するためのハンドル101の操舵のアシストに不必要な補正トルク値Tfを出力してしまう。そして、不必要な補正トルク値Tfが出力されると、旋回時のアシストに適切な目標電流Itではなくなることから不適切なアシスト力となり操舵フィーリングが悪化してしまう。
【0075】
これに対して、第1実施形態に係る目標電流算出部20のトルク値設定部80は、選択部88がハンドル101の操舵中には0を選択する(
図15(c)参照)。そのため、ハンドル101の操舵に対して車輪の転動が遅れることに起因して仮補正トルク値算出部87が仮補正トルク値Tfaを算出したとしても、旋回するためのハンドル101の操舵のアシストに不必要な補正トルク値Tfが出力されてしまうことが抑制される。その結果、操舵角偏差算出部82が算出した操舵角偏差Δθに基づいて補正トルク値Tfを設定することに起因して操舵フィーリングが悪化することが抑制される。
【0076】
つまり、第1実施形態に係る目標電流算出部20を備えた制御装置10は、操舵角偏差算出部82が算出した操舵角偏差Δθが0である場合には補正トルク値Tfが0であるので、ハンドル101の操舵トルクTに基づいて(補正トルク値Tfを加算しない制御用トルク値Tc(=補償操舵トルクTs)に基づいて)電動モータ110の駆動力を制御する通常制御を行う。そして、制御装置10は、ハンドル101が中立位置以外の位置で保持されている保持状態である場合には通常制御時(制御用トルク値Tc=補償操舵トルクTsの時)の駆動力よりも大きくなるように自動車1の車輪の回転速度に基づいて推定した推定操舵角θcと検出操舵角θaとの操舵角偏差Δθに応じて駆動力を補正する。つまり、制御装置10は、補償操舵トルクTsに操舵角偏差Δθに応じた補正トルク値Tf(保持状態である場合には補正トルク値Tfは0ではない)を加算した制御用トルク値Tcに基づいて目標電流Itを設定する。他方、制御装置10は、自動車1を旋回するべくハンドル101を操舵している操舵中のときには駆動力を補正しない。つまり、操舵中のときには、操舵角偏差Δθが0ではない場合であっても選択部88がハンドル101の操舵中には0を選択する。選択部88が0を選択し続けると補正トルク値Tfが0となり、制御用トルク値Tc=補償操舵トルクTsとなるので通常制御時の駆動力と等しくなる。
【0077】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80は、選択部88から出力された値を平均化部89が平均化して平均値Atfとして出力するので(モータ回転速度補正係数Kvmを考慮しない場合)、
図15(c)に示すように、選択部88からの出力が直進時と旋回時とで急激に変化する場合であっても補正トルク値設定部80から出力される補正トルク値Tfが徐々に変化する。
つまり、保持状態である場合には操舵角偏差Δθに応じて電動モータ110の駆動力を補正しているときに(補正トルク値Tfが0ではないときに)ハンドル101が操舵され始めた場合には、選択部88が0を選択しても、平均化部89が過去N個分の値を平均した値を補正トルク値Tfとして出力するので、補正トルク値Tfが徐々に低下する(モータ回転速度補正係数Kvmを考慮しない場合)。その結果、制御装置10は、ハンドル101が保持状態から操舵中に変化した場合には、電動モータ110の駆動力の補正を徐々に低下させる。
また、平均化部89により、車輪速度センサ190からの出力信号のノイズが除去される。
【0078】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80は、モータ回転速度補正係数設定部90が平均化部89から出力された平均値Atfを補正するためのモータ回転速度補正係数Kvmを設定する。モータ回転速度補正係数Kvmは、ハンドル101が保舵されている場合には1であり、ハンドル101が操舵されている場合であってハンドル101の操舵方向がベース補正トルク値Tfbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と逆方向である場合には、ハンドル101の回転速度の絶対値が大きいほど小さくなる。それゆえ、例えば右傾斜道路を直進している状態から、現在走行している車線の右側の車線に車線変更するべくハンドル101が右に切られると、モータ回転速度補正係数Kvmは、
図15(e)に示すように、1から0まで小さくなる。
【0079】
そして、補正トルク値Tfは、
図15(d)に示す平均値Atfと、
図15(e)に示すモータ回転速度補正係数Kvmとを乗算した値であることから、
図15(f)に示すように、モータ回転速度補正係数Kvmが1よりも小さくなるように変化している分、平均値Atfよりも小さくなる。つまり、ハンドル101の操舵方向に対して逆方向となる電動モータ110の駆動力(アシスト力)を生じさせる補正トルク値Tfが平均値Atfよりも小さくなる。言い換えれば、モータ回転速度補正係数設定部90は、ハンドル101の中立位置から保持状態で保持されている位置への方向とは反対方向にハンドル101が操舵されるときには、電動モータ110の駆動力の補正をさらに低下させる。
その結果、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80が、モータ回転速度補正係数Kvmにて平均値Atfを補正した値を補正トルク値Tfとすることで、傾斜道路を直進している状態から傾斜方向への車線変更する際の運転者の操舵負荷が低減される。
【0080】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80においては、従来ABSなどに用いられるために自動車1に備え付けられている車輪速度センサ190が検出した車輪の回転速度の左右差に基づいて操舵角を推定して補正トルク値Tfを設定する。それゆえ、例えば傾斜道路を直進する場合など中立位置以外の位置でハンドル101を保持する保持状態時の負荷を軽減するために別途ヨーレートセンサを備える必要がない。したがって、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、低廉に車体流れ時の運転者の負担を軽減できる。
【0081】
なお、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80においては、ベース補正トルク値算出部83にて算出されたベース補正トルク値Tfbを、操舵角補正係数Kθ、トルク補正係数Kt及び車速補正係数Kvcを用いて補正しているが、特にかかる態様に限定されない。補正トルク値設定部80の仮補正トルク値算出部87は、ベース補正トルク値算出部83が算出したベース補正トルク値Tfbと、操舵角補正係数Kθ、トルク補正係数Kt及び車速補正係数Kvcの少なくとも一つの補正係数とを乗算することにより得た値を仮補正トルク値Tfaとして決定してもよい。
【0082】
また、第1実施形態に係る目標電流算出部20の補正トルク値設定部80は、操舵角センサ180にて検出された検出操舵角θaから操舵角推定部81にて推定された推定操舵角θcを減算することにより操舵角偏差Δθを算出しているが、特にかかる態様に限定されない。補正トルク値設定部80は、操舵角算出部73が算出した算出操舵角Raから操舵角推定部81にて推定された推定操舵角θcを減算することにより操舵角偏差Δθを算出してもよい(Δθ=Ra−θc)。
【0083】
(第2実施形態に係る目標電流算出部)
図16は、第2実施形態に係る目標電流算出部20の概略構成図である。
第2実施形態に係る目標電流算出部20は、例えば傾斜路面直進時の車体流れを抑制する負荷を軽減するための電流である車体流れ補正電流Irを算出(設定)する車体流れ補正電流算出部28を備えている点が第1実施形態に係る目標電流算出部20と主に異なる。
以下では、第1実施形態に係る目標電流算出部20と異なる点を中心に説明する。
【0084】
第2実施形態に係る目標電流算出部20は、さらに、位相補償部26と、位相補償部26にて位相が補償された補償操舵トルクTsに基づいて、基本目標電流Itfを設定する上でベースとなるベース電流Ibを算出するベース電流算出部221と、イナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部222と、ダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部223とを備えている。
【0085】
また、第2実施形態に係る目標電流算出部20は、ベース電流算出部221にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部222にて算出されたイナーシャ補償電流Is及びダンパー補償電流算出部223にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて基本目標電流Itfを決定する基本目標電流決定部225を備えている。
また、第2実施形態に係る目標電流算出部20は、基本目標電流決定部225が決定した基本目標電流Itfと、車体流れ補正電流算出部28が算出した車体流れ補正電流Irとに基づいて最終的に目標電流Itを決定する目標電流決定部29を備えている。
【0086】
そして、第2実施形態に係る目標電流算出部20は、ベース電流算出部221、イナーシャ補償電流算出部222、ダンパー補償電流算出部223、基本目標電流決定部225、位相補償部26、車体流れ補正電流算出部28及び目標電流決定部29が予め定められた処理を予め設定された一定時間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行することにより電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する。
【0087】
図17は、補償操舵トルクTs及び車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部221は、位相補償部26にて位相が補償された補償操舵トルクTsと、車速センサ170が検出した車速Vcと、
図17に例示した制御マップとに基づいてベース電流Ibを算出する。
イナーシャ補償電流算出部222は、補償操舵トルクTsと、車速Vcとに基づいて電動モータ110及びシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。
ダンパー補償電流算出部223は、補償操舵トルクTsと、車速Vcと、電動モータ110のモータ回転速度Vmとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。
基本目標電流決定部225は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を基本目標電流Itfとして決定する。
目標電流決定部29は、基本目標電流決定部225が決定した基本目標電流Itfと、車体流れ補正電流算出部28が算出した車体流れ補正電流Irとを加算した値を、最終的な目標電流Itに決定する。
【0088】
図18は、車体流れ補正電流算出部28の概略構成図である。
車体流れ補正電流算出部28は、上述した操舵角推定部81と、上述した操舵角偏差算出部82とを備えている。また、車体流れ補正電流算出部28は、操舵角偏差算出部82が算出した操舵角偏差Δθに基づいて車体流れ補正電流Irのベースとなるベース車体流れ補正電流Irbを算出するベース車体流れ補正電流算出部283を備えている。
【0089】
また、車体流れ補正電流算出部28は、上述した操舵角補正係数設定部84と、上述したトルク補正係数設定部85と、上述した車速補正係数設定部86とを備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbと、操舵角補正係数設定部84が設定した操舵角補正係数Kθと、トルク補正係数設定部85が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部86が設定した車速補正係数Kvcとに基づいて仮車体流れ補正電流Iraを算出する仮車体流れ補正電流算出部287を備えている。
【0090】
また、車体流れ補正電流算出部28は、ハンドル101の操舵状態に応じて仮車体流れ補正電流算出部287が算出した仮車体流れ補正電流Iraか0かを選択して出力する選択部288と、選択部288から出力された値を平均化する平均化部289とを備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、平均化部289から出力された平均値Airを、必要に応じてモータ回転速度Vmに基づいて補正するためのモータ回転速度補正係数Kvmを設定するモータ回転速度補正係数設定部290を備えている。また、車体流れ補正電流算出部28は、平均化部289から出力された平均値Airとモータ回転速度補正係数設定部290が設定したモータ回転速度補正係数Kvmとに基づいて車体流れ補正電流Irを決定する車体流れ補正電流決定部291とを備えている。
【0091】
図19は、操舵角偏差Δθとベース車体流れ補正電流Irbとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース車体流れ補正電流算出部283は、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθに基づいてベース車体流れ補正電流Irbを算出する。つまり、ベース車体流れ補正電流算出部283は、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθに応じたベース車体流れ補正電流Irbを算出する。なお、ベース車体流れ補正電流算出部283は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵角偏差Δθとベース車体流れ補正電流Irbとの対応を示す
図19に例示した制御マップに、操舵角偏差算出部82にて算出された操舵角偏差Δθを代入することによりベース車体流れ補正電流Irbを算出する。
図19に示した制御マップにおいては、操舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が大きくなるに従ってベース車体流れ補正電流Irbの絶対値が大きくなるように設定されている。
【0092】
仮車体流れ補正電流算出部287は、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbと、操舵角補正係数設定部84が設定した操舵角補正係数Kθと、トルク補正係数設定部85が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部86が設定した車速補正係数Kvcとを乗算することにより仮車体流れ補正電流Iraを算出する(Ira=Irb×Kθ×Kt×Kvc)。
【0093】
図20は、第2実施形態に係る選択部288の概略構成図である。
選択部288は、上述したトルク微分値算出部881と、上述した操舵角速度算出部882とを備えている。また、選択部288は、トルク微分値算出部881が算出したトルク微分値Dtと操舵角速度算出部882が算出した操舵角速度Vraとに基づいて、仮車体流れ補正電流算出部287が算出した仮車体流れ補正電流Iraか0かを選択して選択値Sirとして出力する出力選択部2883を備えている。
第2実施形態に係る出力選択部2883は、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))の値が閾値以下である場合には、仮車体流れ補正電流算出部287が算出した仮車体流れ補正電流Iraを選択値Sirとして平均化部289に出力する。他方、出力選択部2883は、平方根(=√((Dt)
2+(Vra)
2))の値が閾値より大きい場合には0を選択値Sirとして平均化部289に出力する。
【0094】
平均化部289は、選択部288が予め設定された一定時間毎に繰り返し実行することにより選択した選択値Sirの現時点から過去N個分の値を平均した平均値Airを算出する(Air=(Sir(1)+Sir(2)+・・・+Sir(N))/N)。平均化部289は、FIRフィルタであることを例示することができる。また、Nは5000であることを例示することができる。Nが5000で、選択部288が1ミリ秒毎に選択値Sirを選択する場合には、平均化部289は、5秒間の選択値Sirを平均した値を平均値Airとして出力する。
【0095】
図21は、第2実施形態に係るモータ回転速度補正係数設定部290の概略構成図である。
モータ回転速度補正係数設定部290は、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmと、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbの符号とを乗算する乗算部2901を備えている。また、モータ回転速度補正係数設定部290は、乗算部2901にて算出された値に応じて、モータ回転速度補正係数Kvmを算出するのに用いるモータ回転速度Vmである算出用モータ回転速度Vmcを決定する算出用モータ回転速度決定部902を備えている。また、モータ回転速度補正係数設定部290は、算出用モータ回転速度決定部902が決定した算出用モータ回転速度Vmcに基づいてモータ回転速度補正係数Kvmを決定するモータ回転速度補正係数決定部903を備えている。
【0096】
乗算部2901は、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmと、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbの符号(正か負)とを乗算することにより乗算値Mirを算出する。例えば、ベース車体流れ補正電流Irbの符号が正である場合は、乗算値Mir=Vmとなり、ベース車体流れ補正電流Irbの符号が負である場合は、乗算値Mir=−Vmとなる。
【0097】
以上のように構成されたモータ回転速度補正係数設定部290においては、乗算部2901が算出した乗算値Mirが0より大きい場合、言い換えれば、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmの符号とベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbの符号とが同じである場合には、算出用モータ回転速度Vmcは0となり、モータ回転速度補正係数Kvmは1となる。これは、モータ回転速度Vmの符号とベース車体流れ補正電流Irbの符号とが同じである場合には、ハンドル101の操舵方向がベース車体流れ補正電流Irbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と同じであるため平均化部289から出力された平均値Airを補正しない意図である。
【0098】
他方、乗算部2901が算出した乗算値Mirが0より小さい場合、言い換えれば、モータ回転速度算出部72が算出したモータ回転速度Vmの符号とベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbの符号とが異なる場合には、モータ回転速度補正係数Kvmは算出用モータ回転速度Vmcに応じた値となる。つまり、算出用モータ回転速度Vmcの絶対値が大きくなるほど、言い換えれば、ハンドル101の回転速度の絶対値が大きくなるほど、モータ回転速度補正係数Kvmが小さくなる。これは、モータ回転速度Vmの符号とベース車体流れ補正電流Irbの符号とが異なる場合には、ハンドル101の操舵方向は、ベース車体流れ補正電流Irbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と逆方向であるため、平均化部289から出力された平均値Airが小さくなるように補正する意図である。
ただし、ハンドル101が保舵状態である場合には、平均値Airを補正しないように、算出用モータ回転速度Vmcの絶対値が基準回転速度Vmc0の絶対値より小さい場合はモータ回転速度補正係数Kvmは1に設定されている。
【0099】
車体流れ補正電流決定部291は、平均化部289が算出した平均値Airと、モータ回転速度補正係数設定部290が設定したモータ回転速度補正係数Kvmとを乗算することにより車体流れ補正電流Irを算出する(Ir=Air×Kvm)。車体流れ補正電流決定部291が算出した車体流れ補正電流Irが、車体流れ補正電流算出部28から出力される車体流れ補正電流Irとなる。
【0100】
以上のように構成された第2実施形態に係る目標電流算出部20においても、目標電流Itが操舵角偏差Δθの分の運転者の負荷をも減らす電流量となるように、目標電流決定部29が、基本目標電流決定部225が決定した基本目標電流Itfと車体流れ補正電流算出部28が算出した車体流れ補正電流Irとを加算した値を最終的な目標電流Itに決定する。それゆえ、第2実施形態に係る目標電流算出部20を有するステアリング装置100によれば、例えば傾斜道路を直進走行する場合など車体流れに伴う負荷が運転者に必要な状況においても、車体流れに伴う負荷を電動モータ110がアシストするので、運転者の負担を軽減することができる。つまり、例えば傾斜道路を直進走行する場合など、車体流れ補正電流算出部28を備えていない構成ならば運転者がハンドル101に力を加えて中立位置以外の位置での保持を継続しなければならない場面においても、車体流れ補正電流Irを加算した目標電流Itが設定されるのでハンドル101の保持に必要な力が電動モータ110によりアシストされる。
【0101】
また、旋回(左折や右折)に要する力であれば、
図17に示すようにベース電流Ibの絶対値が0より大きくなる補償操舵トルクTs(操舵トルクT)となるので、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに基づく基本目標電流Itfにより電動モータ110にアシスト力が生じる。そして、第2実施形態に係る目標電流算出部20においては、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTのみではベース電流Ibが0となる領域のように、旋回に要する力より小さな力を加えて保持しなければならない場面であっても、車体流れ補正電流Irを加算した目標電流Itが設定されるので運転者の負担を軽減することができる。
【0102】
また、第2実施形態に係る車体流れ補正電流算出部28は、ハンドル101の操舵状態に応じて仮車体流れ補正電流算出部287が算出した仮車体流れ補正電流Iraか0かを選択して出力する選択部288を備える。選択部288は、中立位置以外の位置でハンドル101を保持する保持状態である場合には、保持のための運転者の負荷を抑制するべく仮車体流れ補正電流算出部287が算出した仮車体流れ補正電流Iraを選択し、操舵中である場合には0を選択する。それゆえ、例えば傾斜道路を直進している状態から運転者が傾斜方向(車体が流れる方向)にハンドル101を切った場合には運転者の負荷が低減される。
【0103】
つまり、第2実施形態に係る車体流れ補正電流算出部28は、選択部288がハンドル101の操舵中には0を選択する。そのため、ハンドル101の操舵に対して車輪の転動が遅れることに起因して仮車体流れ補正電流算出部287が仮車体流れ補正電流Iraを算出したとしても、旋回するためのハンドル101の操舵のアシストに不必要な車体流れ補正電流Irが出力されてしまうことが抑制される。それゆえ、操舵角偏差算出部82が算出した操舵角偏差Δθに基づいて車体流れ補正電流Irを設定することに起因して操舵フィーリングが悪化することが抑制される。
また、第2実施形態に係る車体流れ補正電流算出部28は、選択部288から出力された値を平均化部289が平均化して車体流れ補正電流Irとして出力するので、選択部288からの出力が直進時と旋回時とで急激に変化する場合であっても車体流れ補正電流算出部28から出力される車体流れ補正電流Irが徐々に変化する。
【0104】
また、第2実施形態に係る目標電流算出部20の車体流れ補正電流算出部28は、モータ回転速度補正係数設定部290が平均化部289から出力された平均値Airを補正するためのモータ回転速度補正係数Kvmを設定する。モータ回転速度補正係数Kvmは、ハンドル101が保舵されている場合には1であり、ハンドル101が操舵されている場合であってハンドル101の操舵方向がベース車体流れ補正電流Irbにて電動モータ110の駆動力(アシスト力)が生じる方向と逆方向である場合には、ハンドル101の回転速度の絶対値が大きいほど小さくなる。それゆえ、例えば右傾斜道路を直進している状態から、現在走行している車線の右側の車線に車線変更するべくハンドル101が右に切られると、モータ回転速度補正係数Kvmは、
図15(e)に示すように、1から0まで小さくなる。
【0105】
そして、車体流れ補正電流Irは、平均値Airとモータ回転速度補正係数Kvmとを乗算した値であることから、モータ回転速度補正係数Kvmが1よりも小さくなるように変化している分、平均値Airよりも小さくなる。つまり、ハンドル101の操舵方向に対して逆方向となる電動モータ110の駆動力(アシスト力)を生じさせる車体流れ補正電流Irが平均値Airよりも小さくなる。言い換えれば、モータ回転速度補正係数設定部290は、ハンドル101の中立位置から保持状態で保持されている位置への方向とは反対方向にハンドル101が操舵されるときには、電動モータ110の駆動力の補正をさらに低下させる。
その結果、第2実施形態に係る目標電流算出部20の車体流れ補正電流算出部28が、モータ回転速度補正係数Kvmにて平均値Airを補正した値を車体流れ補正電流Irとすることで、傾斜道路を直進している状態から傾斜方向への車線変更する際の運転者の操舵負荷が低減される。
【0106】
また、第2実施形態に係る車体流れ補正電流算出部28においては、従来ABSなどに用いられるために自動車1に備え付けられている車輪速度センサ190が検出した車輪の回転速度の左右差に基づいて操舵角を推定して車体流れ補正電流Irを設定する。それゆえ、例えば傾斜道路を直進する場合など中立位置以外の位置でハンドル101を保持する保持状態時の負荷を軽減するために別途ヨーレートセンサを備える必要がない。したがって、第2実施形態に係る目標電流算出部20を有するステアリング装置100によれば、低廉に車体流れ時の運転者の負担を軽減できる。
【0107】
なお、第2実施形態に係る目標電流算出部20においては、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbを、操舵角補正係数Kθ、トルク補正係数Kt及び車速補正係数Kvcを用いて補正しているが、特にかかる態様に限定されない。第2実施形態に係る目標電流算出部20の仮車体流れ補正電流算出部287は、ベース車体流れ補正電流算出部283が算出したベース車体流れ補正電流Irbと、操舵角補正係数Kθ、トルク補正係数Kt及び車速補正係数Kvcの少なくとも一つの補正係数とを乗算することにより得た値を仮車体流れ補正電流Iraとして決定してもよい。
【0108】
<プログラムの説明>
また以上説明した制御装置10が行なう処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置10に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、制御装置10の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0109】
よって制御装置10が行なう処理は、コンピュータに、車両のハンドル101の操舵トルクTに基づいて電動モータ110の駆動力を制御する通常制御機能と、ハンドル101が中立位置以外の位置で保持されている保持状態である場合には通常制御機能が制御する駆動力よりも大きくなるように駆動力を補正すると共に補正しているときにハンドル101が操舵され始めた場合には駆動力の補正を徐々に低下させ、中立位置から保持状態で保持されている位置への方向とは反対方向に操舵されるときには補正をさらに低下させる機能と、を実現させるプログラムとして捉えることもできる。
【0110】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。