(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
変圧器における流動帯電とは、変圧器内部で絶縁油が流動することにより固体絶縁物の界面において電荷の分離が発生し、巻線内部や油道周辺の絶縁物に電荷が蓄積される現象である。絶縁油入りの変圧器において、絶縁油の流れを良くするために絶縁油の流路が設けられている。これを油道と称する。電荷の蓄積した部分は、直流電位が上昇して静電気放電を発生することがあり、条件によっては絶縁破壊に至るおそれがある。
このように絶縁性液体として絶縁油を使用した電気機器では、絶縁性液体と固体絶縁物の間で流動帯電現象が発生し、電気機器の絶縁性を脅かす場合がある。
このため、従来から、実電気機器に対し流動帯電の程度を評価する方法として、非特許文献1に記載のミニ静電テスター法と非特許文献2に記載の蓄積電荷密度法が検討されている。
【0003】
ミニ静電テスター法は、現地変圧器から採集した絶縁油と紙フィルター(変圧器の固体絶縁物の模擬構造体)で帯電させ、紙フィルターを設置している金属メッシュを通して電流を測定し、評価する方法である。
しかしながら、ミニ静電テスター法を実施した場合、紙フィルターが運転中の変圧器内の絶縁物を充分に再現する訳ではないので、ミニ静電テスター法は絶縁性液体単独の流動帯電への影響を評価することはできるが、固体絶縁物に対する評価はできないと考えられる。
【0004】
一方、蓄積電荷密度法は、電気機器内部から絶縁性液体と固体絶縁物を採取する必要がある。ところが、運転中の電気機器から固体絶縁物を直接採取するのは難しいので、実際には実電気機器から固体絶縁物を採取せずに、新品の固体絶縁物に運転中の電気機器から採取した絶縁油を含浸させて代用し、蓄積電荷密度法を適用する必要がある。また、蓄積電荷密度法を実施するには、多大な工期と費用を要するため、実設備に適用することは容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の背景から、従来知られているミニ静電テスター法と蓄積電荷密度法のいずれにおいても現地使用中の変圧器や電気機器の評価は容易ではなく、従来方法とは異なる方法であって、現地使用中の変圧器の絶縁性液体と固体絶縁物を合わせて評価できる試験方法の開発が求められている。
【0007】
従って、本発明の課題は、現地使用中の変圧器などの電気機器の絶縁性液体と固体絶縁物の状態を加味した上で電気機器における流動帯電の状態を評価できる診断方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の流動帯電評価診断方法は、固体絶縁物が絶縁性液体中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断方法であって、稼働中の前記電気機器から採取した絶縁性液体とその絶縁性液体に含まれる
前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子を帯電させて流動帯電を評価することを特徴とする。
本発明において、使用中の前記電気機器から採取し
、前記固体絶縁物から剥離した前記固体絶縁物微粒子を含む絶縁性液体を液体循環流路に流し、前記液体循環流路の途中に設けた金属フィルターで前記絶縁性液体内の前記固体絶縁物微粒子を捕集し、前記金属フィルターに接続した電流計により前記金属フィルターに生じた発生電荷密度を測定することで流動帯電を評価することが好ましい。
【0009】
本発明において、使用中の前記電気機器から採取し
、前記固体絶縁物から剥離した前記固体絶縁物微粒子を含む絶縁性液体を容器に貯留し、前記容器内の絶縁性液体を前記液体循環路に連続的に供給して循環させ、前記金属フィルターに前記絶縁性液体内の前記固体絶縁物微粒子を捕集し、前記電流計により経時的に発生電荷密度を計測し、経時的に計測した発生電荷密度の値から流動帯電を評価することを特徴とする流動帯電評価診断方法であっても良い。
本発明において、
前記金属フィルターで捕集した前記固体絶縁物微粒子の本数、平均長さ、平均幅を測定し、前記捕集した前記固体絶縁物微粒子の表面積を求め、単位面積あたりに発生する電荷密度(pC/mL/mm2)を計算し、この値を基に絶縁油−固体絶縁物微粒子間の帯電し易さを評価することを特徴とすることが好ましい。
【0010】
本発明の電気機器の流動帯電評価診断装置は、固体絶縁物が絶縁性液体中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断装置であって、
稼働中の前記電気機器から採取した絶縁性液体
であって、前記固体絶縁物から剥離した前記固体絶縁物粒子を有する絶縁性液体を貯留する容器と、この容器に接続された前記絶縁性液体の循環流路と、前記容器内の絶縁性液体を前記循環流路に送り前記容器に戻して循環させる循環ポンプと、前記循環流路の途中に設けられ
て前記固体絶縁物粒子を捕集する金属フィルターと、前記金属フィルターに接続されて前記金属フィルターを介し発生電荷密度を測定する電流計を具備したことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電気機器の流動帯電評価診断装置は、固体絶縁物と通電体が絶縁性液体中に浸漬された電気機器の流動帯電評価診断装置であって、上下方向に延在された流路を構成し、使用中の前記電気機器から採取された前記固体絶縁物微粒子を含む絶縁性液体を注入する導入管と、この導入管の左右に設置された正電極および負電極と、前記導入管の下端部に接続された2股型の分岐管とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
稼働中の電気機器から絶縁性液体を採取するとその絶縁性液体には
前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物微粒子が含まれている。電気機器では通電体への通電により経時的に固体絶縁物の表面の一部が
固体絶縁物粒子となって絶縁性液体中へ放出される。この放出
される固体絶縁物粒子の量は電気機器への通電状態や使用状態により経時的に変化する。そして、絶縁性液体を収容している電気機器において流動帯電が発生する状態は、
前記固体絶縁物から剥離した固体絶縁物と絶縁性液体の劣化状態に相関がある。このため、絶縁性液体中の固体絶縁物粒子の帯電に伴う状態を把握することで、使用中の電気機器における流動帯電発生を評価することができる。
固体絶縁物から剥離した
固体絶縁物粒子を帯電させて流動帯電発生を診断する場合、固体絶縁物から剥離した固体絶縁物粒子を含む絶縁性液体を流動させている間に金属フィルターで
固体絶縁物から剥離した固体絶縁物粒子を捕集し、金属フィルターに接続した電流計により発生荷電密度を測定することで使用中の電気機器であっても流動帯電発生のし易さを評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る流動帯電評価診断を行う場合について油入変圧器の場合を例にとり、図面に基づき説明する。
図1は油入変圧器の一例構造を示すもので、この例の油入変圧器1は、タンク2の内部に複数のコイル体3がそれらの中心軸を上下に向けて収容され、タンク2の内部に絶縁油が満たされてなる。各コイル体3の中心部にケイ素鋼板などの磁性体からなる鉄心5が挿通され、各鉄心5は各々の上下端部においてケイ素鋼板などの磁性体からなる上部鉄心6に一体化されている。
各鉄心5の両端部と上部鉄心6の周囲を囲むように枠状の締め金部7が設けられ、上下の締め金部7に締め付け金具8が延出形成され、上下の締め付け金具8により各コイル体3が上下から挟まれ、各コイル体3に締め付け力が付加されている。
【0015】
本実施形態においてコイル体3は、
図1(B)に示すように外側コイル9と内側コイル10からなり、外側コイル9は巻線(通電体)11と絶縁スペーサー(固体絶縁物)12を上下に積層した積層体を上部絶縁体13と下部絶縁体15により挟み付けて構成されている。内側コイル10は巻線(通電体)16と絶縁スペーサー(固体絶縁物)17を上下に積層した積層体を上部絶縁物18と下部絶縁物19で挟み付けて構成されている。
上部絶縁物13、18と下部絶縁物15、19を上下の締め付け金具8により挟み付けることで各コイル体3には上下から締め付け力が作用され、この状態でコイル体3は絶縁油に浸漬されている。
【0016】
前記構成の変圧器1は、送電線などから送られる高電圧を電力使用者の近くで降圧する用途などに使用されるので、外側コイル9および内側コイル10に内在する巻線11(通電体)、16(通電体)には常時電流が流されている。巻線11、16に電流を流すことで電磁力が作用するので、コイル体3や鉄心5には電磁力が作用し、これらが振動する。
また、送電線で短絡事故や地絡事故などが起きると変圧器1の巻線11、16には定格負荷電流の10倍から数10倍に達する大きな電流が流れることがあり、規格以上の電磁力と振動が作用することもある。
これら締め付け力と振動が常時作用する9,10,11,16に巻かれた絶縁紙や絶縁紙の集合体である絶縁スペーサー12、17、絶縁物13,15,18,19や鉄心5とコイル3を隔てる絶縁物(図示略)や、コイル9とコイル10を隔てる絶縁物(図示略)から、絶縁紙を構成する繊維の一部が微粒子となって経時的に絶縁油の中に分離してくる。
一方、変圧器1の絶縁油は種々の要因から経時的に徐々に劣化が進行する。
本願発明者は、絶縁油の劣化の進行度合いと上記絶縁紙から絶縁油内に放出された繊維の微粒子の状態が変圧器1の流動帯電発生のし易さを表すと想定した。
そこで、実使用中の変圧器1から、繊維の微粒子を含む絶縁油の一部を評価診断用に採取し、以下に説明する流動帯電評価診断装置により診断することで、実使用中の変圧器1において、流動帯電発生のし易さを診断することができる。
【0017】
図2(A)は、流動帯電評価診断装置の一実施形態を示すもので、この実施形態の流動帯電評価診断装置30は、変圧器1から採取した絶縁油31を貯留する容器32と、容器32に接続された循環流路33と、循環流路33の一部に組み込まれた循環ポンプ35と、循環流路33の一部に組み込まれた静電気発生部36と、この静電気発生部36に接続された電流計37を主体として構成されている。
容器32の周面に加熱ヒーター38が巻き付けられ、この加熱ヒーター38が図示略の電源に接続されていて、加熱ヒーター38の発熱によって容器32内の絶縁油31を目的の測定温度に加温できるようになっている。
【0018】
容器32の開口部には蓋体39が着脱自在に装着され、この蓋体39を上下に貫通して容器内の絶縁油31に到達するように引出管40と戻管41が設けられている。
引出管40の途中に循環ポンプ35が組み込まれ、引出管40の外部終端側に第1の3方弁42を介し環状流路43が接続されている。環状流路43は、第1の3方弁42の1つのポートに接続された第1管路43Aと、この第1管路43Aに第2の3方弁45を介し接続された第2管路43Bと、この第2管路43Bに静電気発生部36を介し接続された第3管路43Cからなり、第3管路43Cの終端側は第1の3方弁42の他のポートに接続されている。また、第2の3方弁45の一つのポートに中継管46が接続され、中継管46の終端側に流速計47を介し戻管41の一端が接続されている。
【0019】
前記の構造において引出管40と戻管41と環状流路43と第1、第2の3方弁42、45と中継管46により循環流路33が構成されている。
循環ポンプ35により引出管40を介し絶縁油31を容器32から抜き出し、第1の3方弁42側に送り、第3管路43Cを介し静電気発生部36を通過させて第2管路43B側に絶縁油31を送り、第2の3方弁45を介し戻管41側に絶縁油31を送り、容器32に絶縁油31を戻すことができる。
【0020】
静電気発生部36は、第2管路43Bに接続された継手型の上部ホルダー50および第3管路43Cに接続された継手型の下部ホルダー51と、上部ホルダー50および下部ホルダー51との間にシールリング52を介し挟持された円盤状の金属フィルター53とからなる。上部ホルダー50の上部側には第2管路43Bに接続するための接続口50aが形成され、上部ホルダー50の内底部側には下広がり状の拡開路50bが形成されている。下部ホルダー51の下部側には第3管路43Cに接続するための接続口51aが形成され、下部ホルダー51の内上部側には上広がり状の拡開路51bが形成されている。金属フィルター53の孔径(ポアサイズ;目の粗さ)は50μm程度に設定されている。
【0021】
上部ホルダー50の拡開路50bと下部ホルダー51の拡開路51bに挟まれるように金属フィルター53が設けられているので、第3管路43Cから第2管路43B側に絶縁油31が流動する場合、絶縁油31の内部に含まれている繊維の微粒子は金属フィルター53に補足されるようになっている。
なお、先に説明した変圧器1に備えられている絶縁スペーサー12、17、絶縁物13,15,18,19や鉄心5とコイル3を隔てる絶縁物や、コイル9とコイル10を隔てる絶縁物は絶縁紙からなり、絶縁紙は針葉樹のパルプからなり、その繊維は20〜50μm長さ、厚さ2μm程度であるので、前記金属フィルター53の目の粗さは、前記サイズの繊維の微粒子を捕集できる程度の大きさに設定されている。
上部ホルダー50の上方の第2管路43Bには開閉弁55が組み込まれ、下部ホルダー51の下方の第3管路43Cには開閉弁56が組み込まれている。
【0022】
下部ホルダー51の内部を貫通して金属フィルター53に接続された検出線37aが設けられ、この下部ホルダー51の外部に延出された検出線37aには電流計37が接続され、電流計37は接地線37bを介し接地されている。この電流計37は金属フィルター53に溜まる電荷を検出するために設けられている。
【0023】
容器32の内部において、引出管40の下端直下に絶縁油のtanδ測定用の電極60が設けられ、容器32の側方に蓋体39を貫通した配線61を介し電極60に接続された計測装置62が設けられている。
また、蓋体39を貫通して蓋体39の下方空間に連通する供給管63が設けられ、この供給管63にはシリカゲル等の乾燥剤収容部65を介し空気供給源が接続され、供給管63にはオキシゲントラップ66を介し窒素ガス供給源が接続されている。
【0024】
次に、
図2に示す流動帯電評価診断装置30を用いて流動帯電診断を行う場合の一例について説明する。
図1(A)に示す構成であり、使用中の変圧器1から、必要量の絶縁油を抜き出す。変圧器1のタンク2に設けられているバルブを介しタンク2の内部から診断に必要な量の絶縁油を採取することができる。
変圧器1を継続使用していると、通電体である巻線11、16に通電し、巻線11、16が発生させた電磁力により巻線11、16を含めたコイル体3あるいは鉄心5に振動が発生する。また、絶縁スペーサー12、17、絶縁物13,15,18,19や鉄心5とコイル3を隔てる絶縁物や、コイル9とコイル10を隔てる絶縁物が絶縁紙からなるので、この絶縁紙が油の流れにさらされていること、通電の影響あるいは電磁力の影響などによって振動されること、短絡や地絡などの発生により通常とは異なる影響を受けること、などが要因となって絶縁紙の繊維の一部が剥離し、微粒子として絶縁油の中に放出される。
使用中の変圧器1から絶縁油を採取すると、絶縁油の中には絶縁スペーサー12、17、絶縁物13,15,18,19や鉄心5とコイル3を隔てる絶縁物や、コイル9とコイル10を隔てる絶縁物を構成する繊維の一部が微粒子として必然的に混入している。
【0025】
使用中の変圧器1から採取した絶縁油31を気密状態の
図2に示す装置の容器32に必要量投入し、容器32の開口部を蓋体39で閉じる。また、蓋体39で容器32の開口部を閉じる場合、供給管63の下端を絶縁油31の油面位置より上方にして容器32の上部空間に窒素ガスのみを送り込み、窒素封入を行う。
次に、循環ポンプ35を作動させて容器32内から潤滑油31を吸い上げ、環状流路43に送る。環状流路43では第3流路43Cから静電気発生部36側に絶縁油が流動されるので、絶縁油31は金属フィルター53を通過した後、戻管41を介し容器32に戻される。
この動作を所定時間繰り返すと、絶縁油に含まれている微量の微粒子は金属フィルター53の下面側に順次補足されて蓄積される。
【0026】
捕捉された微粒子が油と接触し流動帯電して金属フィルター53に電荷が流れるので、この電荷を電流計37で測定することができる。上述の絶縁油の循環動作を所定時間長く行うならば、油を流し続けるので常に帯電が生じ、順次電荷密度を計測できる。測定時間は数時間〜数100時間行うことができる。
絶縁油の温度を加熱ヒーター38により例えば50℃程度に加熱保持し、絶縁油31の流速を例えば5cm/s程度に一定値として電荷密度を計測する。この計測により数pC/mLなどの割合の電荷発生量を計測することができる。
【0027】
絶縁油に接する紙繊維の表面積が大きいほど流動帯電で発生する電荷量は大きくなると考えられるため、金属フィルター53で捕捉された紙繊維の本数、平均長さ、平均幅を繊維形状測定器で測定し、表面積を求めた上、単位紙面積あたりに発生する電荷(発生電荷密度、単位[pC/mL/mm
2])を計算し、この値を基に絶縁油―紙繊維間の帯電し易さを評価することができる。
この発生電荷密度を複数の変圧器の絶縁油で計測しておき、変圧器ごとの情報として蓄積しておくと、どの程度の発生電荷密度であれば、流動帯電が起こり易くなっているのか、把握することができる。
例えば、発生電荷密度が1〜10[pC/mL/mm
2]程度であれば、当該変圧器は流動帯電が発生し難い状態の変圧器であるとわかる。なお、従来公知のミニ静電テスター法などの計測情報を活用して推定把握できる情報として、本実施形態の流動帯電計測装置で計測される発生電荷密度として数100[pC/mL/mm
2]レベルになると、該当変圧器において流動帯電発生の危険性が高いと推定できる。
【0028】
図2に示す流動帯電評価診断装置30によれば、使用中の変圧器1から評価に必要な絶縁油を抜き出し、絶縁油に含まれている繊維の微粒子の帯電状態を電流計37で計測すればよいので、使用中の変圧器1に収容されている絶縁油の流動帯電のし易さについて変圧器1を止めることなく、変圧器1を分解することなく診断し評価することができる。
また、流動帯電評価診断装置30によれば、容器32内の絶縁油の温度を加熱ヒーター38で調節した上で計測できる。よって、絶縁油の温度に応じた流動帯電発生のし易さを診断することができる。また、絶縁油の温度を高温度に設定し、金属フィルター53の電荷を測定することで絶縁油の流動帯電発生のし易さを後述する実施例の如く加速試験することができる。
【0029】
<第2実施形態>
図5は、本発明に係る流動帯電評価診断装置の第2実施形態を示すもので、この第2実施形態の流動帯電評価診断装置70は、上下方向に延在された導入管71と、この導入管71の下端部に接続された2股型の分岐管72、73と、導入管71の下端部の側壁に左右に対向し離間して配置された正電極75および負電極76と、正電極75および負電極76に接続された電源77を主体としてなる。
【0030】
流動帯電評価診断装置70において導入管71がクランプ部材78で鉛直に支持され、クランプ部材78がムッフ部材79を介し支柱80に支持され、支柱80がスタンド81に立設されている。導入管71は鉛直向きに支持され、分岐管72、73は導入管71に対し120゜の傾斜角度に配置されている。このため、導入管71と分岐管72、73は側面視逆Y字型に配置されている。
前記導入管71は上部管71aと下部管71bの継ぎ足し構造とされ、上部管71aの上端には絶縁油投入用の開口部71cが形成されている。
前記電源77は、正電極75と負電極76に対しDC数100V程度、例えばDC500V程度の直流電圧を印加できる電源とされている。
【0031】
第2実施形態の流動帯電評価診断装置70は、絶縁油中に絶縁紙の繊維微粒子を混入し、攪拌することにより絶縁繊維および絶縁油を帯電させ、導入管71内の絶縁油に沿って沈降させ、沈降中の絶縁繊維微粒子に正電極75と負電極76から静電界を印加し、絶縁繊維の帯電状態に応じ分岐管72に移動した絶縁繊維と、分岐管73に移動した絶縁繊維の割合に応じて流動帯電診断を行う装置である。帯電の際、油が+に帯電し、絶縁繊維が−に帯電する。
このため、(分岐管72中の絶縁繊維数)/(分岐管73中の絶縁繊維数)を計測することで、流動帯電診断ができる。分岐管72は正電極75に近く、分岐管73は負電極76に近いため、絶縁繊維が−に帯電することから、絶縁繊維の帯電量の多いものは、分岐管72側に多く集まる。
前記の比率が1.0に近い数値であれば、帯電している絶縁繊維の数が少ないか帯電量が少ないと見積もることができ、絶縁油を回収した変圧器の流動帯電診断において、流動帯電が発生し難い状態であると判断できる。前記の比率が1から離れて大きな数値になるようであると、絶縁油を回収した変圧器の流動帯電診断において、流動帯電が発生し易い状態であると判断できる。
【実施例】
【0032】
<第1実施例>
孔径(ポアサイズ)50μmの金属フィルターを用意し、この金属フィルターを
図2に示す流動帯電評価診断装置の上部ホルダーと下部ホルダーの間に挟持した。
1次電圧275kV、2次電圧56kV、定格容量190MVA、2000年製の油入電力用変圧器であって、15年間使用した変圧器から10L分の油を採取し、その繊維を集め、流動帯電発生のし易さを診断した。
絶縁油1.3Lを容器に収容し、容器内の絶縁油の温度を50℃に調整し、循環流路内の流速計で5.3cm/sになるように絶縁油を循環ポンプで流動循環させ、流動帯電を測定した。なお、
図2(B)に示す幅広継手型の上部ホルダー50と下部ホルダー51は略図であって、実際の試験の際には
図3に示す軸継手型の上部ホルダー50と下部ホルダー51との間に金属フィルター53を設けた構造のホルダーを用いて試験した。このホルダーの上部側の管路の途中部分にはポリ4フッ化エチレン製の管路が組み込まれ、下部側の管路の途中部分にもポリ4フッ化エチレン製のパイプが組み込まれている。
変圧器から絶縁油を採取する場合に絶縁油をなるべく酸化させたくないので、絶縁油をブリキ缶等の容器に採取する場合に採取用の管路の途中に前記継手型のホルダーを開閉弁55、56とともに組み込んで採取用の途中管路として用いる。変圧器から絶縁油の採取後、管路から開閉弁55、56の部分ごとホルダーを取り外して
図2に示す装置に付け替えて使用することができる。
図2の装置に組み込んだ時点で金属フィルター53は上下のポリ4フッ化エチレン製のパイプで電気的に浮かせた状態とされる。勿論、このホルダーを用いることなく変圧器からブリキ缶等の容器に直接絶縁油を採取しても良い。
試験結果を
図4に示す。
【0033】
図4に示すようにこの絶縁油は約4.2pC/mLの電荷発生量であった。金属フィルター上の紙繊維の本数、平均長、平均幅を繊維形状測定器で測定し、表面積を求めた上、単位紙面積あたりに発生する電荷(発生電荷密度)を計算し、これを基に絶縁油−紙繊維間の流動帯電のし易さを評価した。
絶縁紙繊維表面積は1.84[mm
2]と求められ、発生電荷密度は2.28[pC/mL/mm
2]であると求めることができた。
この発生電荷密度は充分に低い値であり、当該変圧器は流動帯電が発生し難い変圧器であると診断できた。
【0034】
<第2実施例>
第1実施例で用いた変圧器から回収した別の絶縁油を用い、この絶縁油を一部ろ過して絶縁繊維微粒子を除去した絶縁油のみを
図5に示す装置の分岐管72、73から導入管70の途中まで注入し、この後、導入管71の上部管71aに絶縁繊維微粒子入りのままの絶縁油を注入した。即ち、変圧器から取り出してからろ過していない絶縁油を一定時間振動攪拌して注入した。
正電極と負電極にDC500V電源を接続し、導入管70の下部側に各電極から静電界を印加した。
【0035】
導入管70の上部側の絶縁油には絶縁繊維微粒子が含まれているので、重力により絶縁繊維微粒子が導入管70の内部を沈降し、静電界により帯電の状態に応じて−に帯電した絶縁繊維の微粒子が分岐管72側に移動しつつ沈降し、帯電していないか帯電量の少ない絶縁繊維の微粒子が分岐管73側に移動しつつ沈降する。
分岐管72に沈降した絶縁繊維微粒子数と分岐管73側に沈降した絶縁繊維微粒子数の比率を繊維形状測定装置で計測したところ、比率は1.05であり、1.0に近く、小さい値であった。このため、先の変圧器は流動帯電が発生し難い変圧器であると診断することができる。
【0036】
<実施例3>
第1実施例で用いた変圧器から回収した他の絶縁油を用い、
図2に示す流動帯電評価診断装置を用いて加熱劣化促進試験を行った。
流動帯電評価診断装置の容器内の絶縁油に触媒として裸銅箔を絶縁油1.0Lに対し0.5cm
2混入し、容器内に窒素ガスを供給して窒素封入した上で容器内の絶縁油を95℃に加熱し、190時間加熱し、加速劣化させた。平均油温を45℃と仮定し、7℃半減則として、95℃−45℃=50Kの温度上昇は加速倍率141程度となり、190時間の加熱は、190時間×141=26790時間=約3年かかる劣化を模擬した。
【0037】
95℃加熱加速試験中の発生電荷密度およびtanδの連続測定結果を
図6に示す。絶縁油の温度を95℃に設定し、絶縁油の流速を1.5cm/sに設定して発生電荷密度およびtanδを測定している。
その結果、加熱初期は約6.3[pC/mL/mm
2]であった発生電荷密度が、190時間の加熱で約14[pC/mL/mm
2]まで増加した。
この結果から、この試験に用いた変圧器は将来的に流動帯電を発生する危険性が増加してゆくが、危険性の伸びは
図6に示す関係の如く鈍化する傾向にあると推定できる。このため、この試験に用いた絶縁油は、長期間の使用に耐える絶縁油であると推定評価することができる。
一方、
図6に示すようにtanδは時間経過に対し直線的に増大している。この測定結果は、絶縁油の酸化劣化が徐々に進行し、発生する劣化生成物がtanδを増大させていることを示唆し、tanδに関しては継続的に監視してゆく必要性があることを示している。