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特許6643961多開口超音波撮像を用いた点音源送信及び音速補正
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643961
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】多開口超音波撮像を用いた点音源送信及び音速補正
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】32
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-163183(P2016-163183)
(22)【出願日】2016年8月24日
(62)【分割の表示】特願2012-554027(P2012-554027)の分割
【原出願日】2011年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-18610(P2017-18610A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年9月13日
【審判番号】不服2018-6996(P2018-6996/J1)
【審判請求日】2018年5月23日
(31)【優先権主張番号】61/305,784
(32)【優先日】2010年2月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511032992
【氏名又は名称】マウイ イマギング,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド エフ.スペクフト
(72)【発明者】
【氏名】ケンネトフ ディー.ブレウエル
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 信田 昌男
【審判官】 東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−253549(JP,A)
【文献】 特開2009−240667(JP,A)
【文献】 特開平8−154930(JP,A)
【文献】 特開2007−152127(JP,A)
【文献】 特開平3−15455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像を構成する方法であって、
ターゲット領域に向けて、第1のアレイ上の送信開口内の実質的に第1の点音源である無指向性の非集束超音波波形を少なくとも一つのトランスデューサ素子を含む該送信開口から送信する工程;
第2のアレイ上の第1の受信開口に配置された第1の受信素子及び第2の受信素子を用いて該ターゲット領域から超音波エコーを受信する工程であり、該第1のアレイが、該第2のアレイから物理的に離間されている、該工程;
該第1の受信素子、該第2の受信素子及び該送信開口の該少なくとも一つのトランスデューサ素子の、共通の基準点に対するそれぞれの音響位置を記述する位置データを取得する工程;
該位置データを使って、該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、該第1の受信素子へと伝播するための第1の時間を決定し、且つ該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第2の受信素子へと伝播するための第2の時間を決定する工程;
該第1の時間に該第1の受信素子により受信された第1のエコーと、該第2の時間に該第2の受信素子により受信された第2のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成する工程;及び
前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第1の時間及び第2の時間を決定する工程と前記さらなる画素位置の値を生成する工程とを繰り返して第1の超音波画像を形成する工程:
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記第1の時間及び前記第2の時間を決定する前記工程が、一様な音速であることを仮定する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲット領域に向けて、前記送信開口内の実質的に第2の点音源である第2の無指向性の非集束超音波波形を送信する工程;
前記第1の受信開口に配置された第1の受信素子及び第2の受信素子を用いて、該ターゲット領域から超音波エコーを受信する工程;
該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の前記第1の画素位置に進み、該第1の受信素子へと伝播するための第3の時間を決定し、且つ該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第2の受信素子へと伝播するための第4の時間を決定する工程;
該第3の時間に該第1の受信素子により受信された第3のエコーと、該第4の時間に該第2の受信素子により受信された第4のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成する工程;及び
前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第3の時間及び第4の時間を決定する工程と前記さらなる画素位置の値を生成する工程とを繰り返して第2の超音波画像を形成する工程:
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第1の超音波画像を、前記第2の超音波画像と組み合わせる工程をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記組み合わせる工程が、コヒーレント加算を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記組み合わせる工程が、非コヒーレント加算を含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
第3のアレイ上の第2の受信開口に配置された第3の受信素子及び第4の受信素子を用いて、前記ターゲット領域から超音波エコーを受信する工程であり、該第3のアレイが、前記第1のアレイ及び前記第2のアレイから物理的に離間されている、該工程;
前記波形が前記第1の点音源から該ターゲット領域中の前記第1の画素位置に進み、該第3の受信素子へと伝播するための第3の時間を決定し、且つ該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第4の受信素子へと伝播するための第4の時間を決定する工程;
該第3の時間に該第3の受信素子により受信された第3のエコーと、該第4の時間に該第4の受信素子により受信された第4のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成する工程;及び
前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第3の時間及び第4の時間を決定する工程と前記さらなる画素位置の値を生成する工程とを繰り返して第2の超音波画像を形成する工程:
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲット領域に向けて、前記送信開口内の実質的に第2の点音源である第2の無指向性の非集束超音波波形を送信する工程;
前記第1の受信開口に配置された第1の受信素子及び第2の受信素子を用いて、且つ前記第2の受信開口に配置された前記第3の受信素子及び前記第4の受信素子を用いて該ターゲット領域から超音波エコーを受信する工程;
該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の前記第1の画素位置に進み、該第1の受信素子へと伝播するための第5の時間を決定し、該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第2の受信素子へと伝播するための第6の時間を決定する工程;
該第5の時間に該第1の受信素子により受信された第5のエコーと、該第6の時間に該第2の受信素子により受信された第6のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成する工程;
前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第5の時間及び第6の時間を決定する工程と前記さらなる画素位置の値を生成する工程とを繰り返して第3の超音波画像を形成する工程;
該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第3の受信素子へと伝播するための第7の時間を決定し、該第2の波形が該第2の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第4の受信素子へと伝播するための第8の時間を決定する工程;
該第7の時間に該第3の受信素子により受信された第7のエコーと、該第8の時間に該第4の受信素子により受信された第8のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成する工程;及び
前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第7の時間及び第8の時間を決定する工程と前記さらなる画素位置の値を生成する工程とを繰り返して第4の超音波画像を形成する工程:
をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記第1、第2、第3、及び第4の超音波画像を組み合わせる工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記組み合わせる工程が、コヒーレント加算を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記組み合わせる工程が、非コヒーレント加算を含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記第1の超音波画像を前記第2の超音波画像と組み合わせる工程をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項13】
前記組み合わせる工程が、コヒーレント加算を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記組み合わせる工程が、非コヒーレント加算を含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記第1の超音波画像に対する前記第2、第3、及び第4の超音波画像の変位を決定するために、該第1の超音波画像を、該第2、第3、及び第4の超音波画像と比較する工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
前記第1の超音波画像に対する前記第2、第3、及び第4の超音波画像の前記変位を補正する工程、及び、次いで、該第1、第2、第3、及び第4の超音波画像を組み合わせる工程をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記第1の超音波画像に対する前記第2の超音波画像の変位を決定するために、該第1の超音波画像を該第2の超音波画像と比較する工程をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項18】
前記第1の超音波画像に対する前記第2の超音波画像の前記変位を補正する工程、及び、次いで、該第1の超音波画像及び該第2の超音波画像を組み合わせる工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第1の受信素子、及び前記第2の受信素子により画定される三角形の外側に配置される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第1の受信素子、及び前記第2の受信素子により画定される三角形の内側に配置される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第1の受信素子、及び前記第2の受信素子により画定される三角形の外側に配置される、請求項7記載の方法。
【請求項22】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第1の受信素子、及び前記第2の受信素子により画定される三角形の内側に配置される、請求項7記載の方法。
【請求項23】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第3の受信素子、及び前記第4の受信素子により画定される三角形の外側に配置される、請求項7記載の方法。
【請求項24】
前記第1の画素位置が、前記点音源、前記第3の受信素子、及び前記第4の受信素子により画定される三角形の内側に配置される、請求項7記載の方法。
【請求項25】
ターゲット領域に向けて、実質的に第1の点音源である無指向性の非集束超音波波形を送信するように構成された第1のアレイ上の少なくとも一つのトランデューサ素子を含む送信開口;
第1の受信素子及び第2の受信素子を有する第2のアレイ上の第1の受信開口であり、該第2のアレイが、該第1のアレイから物理的に離間されており、該第1の受信素子及び該第2の受信素子が、該ターゲット領域から超音波エコーを受信するように構成される、該第1の受信開口;
該第1の受信素子、該第2の受信素子及び該送信開口の該少なくとも一つのトランスデューサ素子の、共通の基準点に対するそれぞれの音響位置を記述する位置データを含む位置メモリ;
該送信開口及び該第1の受信開口に結合される制御システムであり、該位置メモリから該位置データを検索し、該位置データを使って、該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、該第1の受信素子へと伝播するための第1の時間を決定するように構成され、且つ該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、該第2の受信素子へと伝播するための第2の時間を決定するように構成され、さらに該第1の時間に該第1の受信素子により受信された第1のエコーと、該第2の時間に該第2の受信素子により受信された第2のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成するように構成され、前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第1の時間及び第2の時間を決定し、前記さらなる画素位置の値を生成することを繰り返して第1の超音波画像を形成するように構成される、該制御システム:
を備える、多開口超音波撮像システム。
【請求項26】
前記送信開口と前記第1の受信開口との物理的な離間の間に配置されるトランスデューサ素子は存在しない、請求項25記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項27】
前記送信開口及び前記第1の受信開口が、該送信開口からの送信の最小波長の少なくとも2倍離間されている、請求項25記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項28】
前記送信開口及び前記受信開口が、2cmから10cmの範囲の合計開口を備える、請求項25記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項29】
第3の受信素子及び第4の受信素子を有する第3のアレイ上に第2の受信開口をさらに備え、該第3のアレイが、前記第1のアレイ及び前記第2のアレイから物理的に離間されており、該第3の受信素子及び該第4の受信素子が、前記ターゲット領域から超音波エコーを受信するように構成される、請求項25記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項30】
前記制御システムが、前記送信開口と、前記第1の受信開口及び前記第2の受信開口とに結合され、該制御システムは、前記波形が前記第1の点音源から前記ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、前記第3の受信素子へと伝播するための第3の時間を決定するように構成され、且つ該波形が該第1の点音源から該ターゲット領域中の該第1の画素位置に進み、前記第4の受信素子へと伝播するための第4の時間を決定するように構成され、該制御システムはさらに、該第3の時間に該第3の受信素子により受信された第3のエコーと、該第4の時間に該第4の受信素子により受信された第4のエコーとを組み合わせて第1の画素位置の値を生成するように構成され、前記ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、前記第3の時間及び第4の時間を決定し、前記さらなる画素位置の値を生成することを繰り返して第2の超音波画像を形成するように構成される、請求項29記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項31】
前記制御システムが、音速変動に起因する前記第1の超音波画像に対する前記第2の超音波画像の変位を補正するように構成される、請求項30記載の多開口超音波撮像システム。
【請求項32】
前記送信開口、前記第1の受信開口、及び前記第2の受信開口がすべて、単一の走査面内に存在しているわけではない、請求項29記載の多開口超音波撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2010年2月18日に出願された「医療用多開口超音波撮像のための代替方法(Al
ternative Method for Medical Multi-Aperture Ultrasound Imaging)」と題する米国特
許仮出願第61/305,784号の利益を主張する。
【0002】
本出願はまた、2007年10月1日に出願された「複数開口を用いて超音波画像を生成する
ための方法及び装置(Method and Apparatus to Produce Ultrasonic Images Using Multi
ple Apertures)」と題する米国特許出願第11/865,501号、及び2006年9月14日に出願され
た「超音波を用いて冠状動脈を視覚化するための方法及び装置(Method and Apparatus to
Visualize the Coronary Arteries Using Ultrasound)」と題する米国特許出願第11/532
,013号に関係する;そのすべてが全体として引用により本明細書中に組み込まれている。
【0003】
(引用による組込み)
本明細書で述べられた特許及び特許出願を含むすべての刊行物は、個々の各刊行物が、
引用により組み込まれているように具体的に且つ個々に指示された場合と同様に、その全
体が引用により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
従来の超音波撮像では、超音波エネルギーの集束させたビームが、検査すべき体組織中
に送られ、戻ったエコーが検出されて、画像を形成するようにプロットされる。従来の超
音波撮像の基本原理は、Harvey Feigenbaumの文献「心エコー検査法(Echocardiography)
」(Lippincott Williams & Wilkins、5版、Philadelphia、1993)の第1章に十分述べられ
ている。
【0005】
体組織に照射するために、超音波ビームは、通常、フェーズドアレイ、又は成形された
トランスデューサにより形成され、且つ焦点が合わされる。フェーズドアレイ超音波は、
医療用超音波検査法で画像を形成するために細い超音波ビームを操作し、且つ集束させる
ための一般に使用される方法である。フェーズドアレイプローブは、多くの小さな超音波
トランスデューサ素子を有しており、そのそれぞれが、個々にパルスを出すことができる
。超音波パルスのタイミングを変化させることにより(例えば、列に沿って順に1つずつ素
子をパルス送りさせることにより)、選択された角度に向けたビームを生ずる強めあう干
渉パターンが設定される。これはビームステアリング(steering)として知られている。こ
のように操作された超音波ビームを、次いで、検査される組織又はオブジェクトを通して
掃引させることができる。複数ビームからのデータは、次いで、組み合わされて、オブジ
ェクトを通るスライスを示す視覚的な画像が作成される。
【0006】
従来は、超音波ビームを送信するために使用された同じトランスデューサ又はアレイが
、戻ってきたエコーを検出するためにも使用されている。この設計構成は、超音波撮像を
医療目的で使用することの最も重要な制限の1つの中心部分である:すなわち、横方向分解
能が劣ることである。理論的には、横方向分解能は、超音波プローブの開口幅を増加させ
ることにより向上させることもできるが、開口寸法を増加させることにより生ずる実務的
な問題により、開口は小さく維持されてきた。この制限があるにしても超音波撮像が非常
に有用であることは疑いもないが、さらに良好な分解能を有すればより効果的なものとな
り得る。
【0007】
例えば、心臓学の実務では、単一の開口寸法に対する制限は、肋骨間の空間(肋間隙)に
より決まる。このような肋骨間の開口は、通常、約1から2センチメートルを超えないよう
に制限される。腹部又は他の用途が意図されたスキャナの場合、開口寸法に対する制限は
、物理的な制約の問題以下であり、画像処理における困難さの問題の方が多い。問題は、
プローブと関心領域との間の組織タイプに伴って超音波送信の速度が変化するため、大口
径アレイの素子を同相に保つのが困難なことである。Wells(上記で引用した)による本に
よれば、速度は、軟組織内で最大プラスマイナス10%変化する。開口が小さく維持されて
いる場合(例えば、約2cm未満)、介在する組織は、1次の近似ですべて同じであり、どんな
変動も無視される。開口寸法を、横方向分解能を向上させるために増加させたとき、フェ
ーズドアレイのさらなる素子は、位相が外れる可能性があり、実際に、画像を向上させる
のではなく、劣化させるおそれがある。
【0008】
Spechtによる米国特許出願公開第2008/0103393号は、より大きな距離で離間させること
のできる複数開口を用いた超音波撮像システムの実施態様を教示しており、それにより、
超音波画像の横方向分解能が大幅に改善されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
方法の一実施態様は、超音波画像を構成する方法を述べており、該方法は、ターゲット
領域を通して、第1のアレイ上の送信開口内の第1の点音源を近似する無指向性の非集束超
音波波形を送信する工程と、第2のアレイ上の第1の受信開口に配置された第1の受信素子
及び第2の受信素子を用いてターゲット領域から超音波エコーを受信する工程であり、第1
のアレイが、第2のアレイから物理的に離間されている、工程と、波形が、第1の点音源か
ら、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第1の受信素子へと伝播するための第1の
時間を決定し、且つ波形が、第1の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み
、第2の受信素子へと伝播するための第2の時間を決定する工程と、第1の時間に第1の受信
素子により受信されたエコーを、第2の時間に第2の受信素子により受信されたエコーと組
み合わせることにより、第1の画素の第1の超音波画像を形成する工程とを含む。
【0010】
いくつかの実施態様では、方法は、ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、決
定する工程と形成する工程とを繰り返す工程をさらに含む。一実施態様では、さらなる画
素位置は、走査変換を行うことなく格子上に位置する。
【0011】
一実施態様では、第1の時間及び第2の時間を決定する工程は、一様な音速であることを
仮定する工程を含む。
【0012】
他の実施態様では、方法は、ターゲット領域を通して、送信開口内の第2の点音源を近
似する第2の無指向性の非集束超音波波形を送信する工程と、第1の受信開口に配置された
第1の受信素子及び第2の受信素子を用いて、ターゲット領域から超音波エコーを受信する
工程と、第2の波形が、第2の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第1
の受信素子へと伝播するための第3の時間を決定し、且つ第2の波形が、第2の点音源から
、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第2の受信素子へと伝播するための第4の時
間を決定する工程と、第3の時間に第1の受信素子により受信されたエコーを、第4の時間
に第2の受信素子により受信されたエコーと組み合わせることにより、第1の画素の第2の
超音波画像を形成する工程とをさらに含む。
【0013】
いくつかの実施態様では、方法は、第1の超音波画像を、第2の超音波画像と組み合わせ
る工程をさらに含む。該組み合わせる工程は、コヒーレント加算を含むことができる。他
の実施態様では、該組み合わせる工程は、非コヒーレント加算を含むことができる。さら
に他の実施態様では、該組み合わせる工程は、コヒーレント加算と非コヒーレント加算の
組合せを含むことができる。
【0014】
いくつかの実施態様では、方法は、第3のアレイ上の第2の受信開口に配置された第3の
受信素子及び第4の受信素子を用いて、ターゲット領域から超音波エコーを受信する工程
であり、第3のアレイが、第1のアレイ及び第2のアレイから物理的に離間されている、工
程と、波形が、第1の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第3の受信
素子へと伝播するための第3の時間を決定し、且つ波形が、第1の点音源から、ターゲット
領域中の第1の画素位置に進み、第4の受信素子へと伝播するための第4の時間を決定する
工程と、第3の時間に第3の受信素子により受信されたエコーを、第4の時間に第4の受信素
子により受信されたエコーと組み合わせることにより、第1の画素の第2の超音波画像を形
成する工程とをさらに含むことができる。
【0015】
いくつかの実施態様では、方法は、ターゲット領域中のさらなる画素位置に対して、決
定する工程と形成する工程とを繰り返す工程をさらに含む。いくつかの実施態様では、さ
らなる画素位置が、走査変換行うことなく格子上に位置する。
【0016】
一実施態様では、方法は、ターゲット領域を通して、送信開口内の第2の点音源を近似
する第2の無指向性の非集束超音波波形を送信する工程と、第1の受信開口に配置された第
1の受信素子及び第2の受信素子を用いて、且つ第2の受信開口に配置された第3の受信素子
及び第4の受信素子を用いてターゲット領域から超音波エコーを受信する工程と、第2の波
形が、第2の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第1の受信素子へと
伝播するための第5の時間を決定し、第2の波形が、第2の点音源から、ターゲット領域中
の第1の画素位置に進み、第2の受信素子へと伝播するための第6の時間を決定し、第2の波
形が、第2の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第3の受信素子に伝
播するための第7の時間を決定し、第2の波形が、第2の点音源から、ターゲット領域中の
第1の画素位置に進み、第4の受信素子へと伝播するための第8の時間を決定する工程と、
第5の時間に第1の受信素子により受信されたエコーを、第6の時間に第2の受信素子により
受信されたエコーと組み合わせることにより、第1の画素の第3の超音波画像を形成し、且
つ第7の時間に第3の受信素子により受信されたエコーを、第8の時間に第4の受信素子によ
り受信されたエコーと組み合わせることにより、第1の画素の第4の超音波画像を形成する
工程とをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施態様では、方法は、第1、第2、第3,及び第4の超音波画像を組み合わせ
る工程をさらに含む。いくつかの実施態様では、該組み合わせる工程は、コヒーレント加
算を含む。他の実施態様では、該組み合わせる工程は、非コヒーレント加算を含む。さら
なる実施態様では、該組み合わせる工程は、コヒーレント加算と非コヒーレント加算の組
合せを含む。
【0018】
いくつかの実施態様では、方法は、第1の超音波画像を第2の超音波画像と組み合わせる
工程を含む。該組み合わせる工程は、コヒーレント加算を含むことができる。他の実施態
様では、該組み合わせる工程は、非コヒーレント加算を含むことができる。さらに他の実
施態様では、該組み合わせる工程は、コヒーレント加算と非コヒーレント加算の組合せを
含むことができる。
【0019】
いくつかの実施態様では、方法は、第1の超音波画像に対して、第2、第3、及び第4の超
音波画像の変位を決定するために、第1の超音波画像を、第2、第3、及び第4の超音波画像
と比較する工程をさらに含む。
【0020】
他の実施態様では、方法は、第1の超音波画像に対する第2、第3、及び第4の超音波画像
の変位を補正し、次いで、第1、第2、第3、及び第4の超音波画像を組み合わせる工程をさ
らに含む。
【0021】
さらなる実施態様では、方法は、第1の超音波画像に対する第2、第3、及び第4の超音波
画像の変位を補正するために、第3、第4、第5、第6、第7、及び第8の時間を調整する工程
を含む。
【0022】
いくつかの実施態様では、方法は、第1の超音波画像に対する第2の超音波画像の変位を
決定するために、第1の超音波画像を第2の超音波画像と比較する工程をさらに含む。
【0023】
方法は、第1の超音波画像に対する第2の超音波画像の変位を補正し、次いで、第1の超
音波画像及び第2の超音波画像を組み合わせる工程をさらに含むことができる。
【0024】
他の実施態様では、方法は、第1の超音波画像に対する第2の超音波画像の変位を補正す
るために、第3の時間及び第4の時間を調整する工程を含む。
【0025】
いくつかの実施態様では、第1の画素は、点音源、第1の受信素子、及び第2の受信素子
により画定される平面の外側に配置される。他の実施態様では、第1の画素は、点音源、
第1の受信素子、及び第2の受信素子により画定される平面の内側に配置される。
【0026】
多開口超音波撮像システムの様々な実施態様がまた提供され、該システムは、ターゲッ
ト領域を通して、第1の点音源を近似する無指向性の非集束超音波波形を送信するように
構成された第1のアレイ上の送信開口と、第1の受信素子及び第2の受信素子を有する第2の
アレイ上の第1の受信開口であり、第2のアレイが、第1のアレイから物理的に離間されて
おり、第1の受信素子及び第2の受信素子は、ターゲット領域から超音波エコーを受信する
ように構成される、第1の受信開口と、送信開口及び第1の受信開口に結合される制御シス
テムであり、波形が、第1の点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第1
の受信素子へと伝播するための第1の時間を決定するように構成され、且つ波形が、第1の
点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第2の受信素子へと伝播するため
の第2の時間を決定するように構成され、さらに第1の時間に第1の受信素子により受信さ
れたエコーを、第2の時間に第2の受信素子により受信されたエコーと組み合わせることに
より、第1の画素の第1の超音波画像を形成するように構成される制御システムとを備える
【0027】
システムのいくつかの実施態様では、送信開口と第1の受信開口との物理的な離間の間
に配置されるトランスデューサ素子は存在しない。
【0028】
システムの一実施態様では、送信開口及び第1の受信開口は、送信開口からの送信の最
小波長の少なくとも2倍だけ離間される。他の実施態様では、送信開口及び受信開口は、2
cmから10cmの範囲の合計開口を備える。
【0029】
いくつかの実施態様では、超音波システムは、第3の受信素子及び第4の受信素子を有す
る第3のアレイ上に第2の受信開口をさらに備え、第3のアレイが、第1のアレイ及び第2の
アレイから物理的に離間されており、第3の受信素子及び第4の受信素子が、ターゲット領
域からの超音波エコーを受信するように構成される。
【0030】
多開口超音波撮像システムの他の実施態様では、制御システムを、送信開口と、第1の
受信開口及び第2の受信開口とに結合することができ、該制御システムは、波形が、第1の
点音源から、ターゲット領域中の第1の画素位置に進み、第3の受信素子へと伝播するため
の第3の時間を決定するように構成され、且つ波形が、第1の点音源から、ターゲット領域
中の第1の画素位置に進み、第4の受信素子へと伝播するための第4の時間を決定するよう
に構成され、制御システムがさらに、第3の時間に第3の受信素子により受信されたエコー
を、第4の時間に第4の受信素子により受信されたエコーと組み合わせることにより、第1
の画素の第2の超音波画像を形成するように構成される。
【0031】
いくつかの実施態様では、制御システムは、音速変動に起因する第1の超音波画像に対
する第2の超音波画像の変位を補正するように構成される。
【0032】
多開口超音波撮像システムの他の実施態様では、送信開口、第1の受信開口、及び第2の
受信開口がすべて、単一の走査面内に存在しているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】2開口システムの図である。
【0034】
図1B】送信トランスデューサ素子、及び受信トランスデューサ素子の周りに楕円を形成する等距離時間遅延点の図である。
【0035】
図1C】異なる受信トランスデューサ素子に関する等距離時間遅延に対する点の軌跡の図である。
【0036】
図2】3開口システムの図である。
【0037】
図3】表示及び座標系のための格子の図である。
【0038】
図4】3開口システムを含む脂肪層モデルの図である。
【0039】
図5】点像分布関数を推定するための構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(発明の詳細な説明)
送信及び受信機能に対して複数の別々の開口を用いることにより、超音波撮像における
横方向分解能の大幅な改善を達成することができる。本明細書のシステム及び方法は、点
音源からの送信機能と、送信開口及び1つ以上の受信開口の間の経路に沿って、おそらく
多様な組織タイプを通して進む超音波パルスの音速の変動の補償とを共に提供することが
できる。このような音速補償は、画像比較技法(例えば、相互相関)と、複数の受信した画
像フレームのコヒーレント及び/又は非コヒーレント平均とを組み合わせることにより行
うことができる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「超音波トランスデューサ」、及び「トランスデューサ」
という用語は、超音波撮像技術の当業者により理解されるその通常の意味を示すことがで
き、且つ限定することなく、電気信号を超音波信号に変換できる、且つ/又はその逆も同
様である任意の単一の構成要素を指すことができる。例えば、いくつかの実施態様では、
超音波トランスデューサは圧電装置を含むことができる。いくつかの代替の実施態様では
、超音波トランスデューサは、容量性微細加工超音波トランスデューサ(capacitive micr
omachined ultrasound transducers)(CMUT)を含むことができる。トランスデューサは、
複数の素子のアレイで構成されることが多い。トランスデューサアレイの素子は、アレイ
の最小の単独の構成要素であり得る。例えば、圧電性のトランスデューサ素子のアレイの
場合、各素子は、単一の圧電性結晶とすることができる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「送信素子」、及び「受信素子」という用語は、超音波撮
像技術の当業者により理解されるその通常の意味を示すことができる。「送信素子」とい
う用語は、限定することなく、電気信号が超音波信号に変換される送信機能を少なくとも
瞬時に実施する超音波トランスデューサ素子を指すことができる。同様に、「受信素子」
という用語は、限定することなく、素子に衝突する超音波信号が電気信号に変換される受
信機能を少なくとも瞬時に実施する超音波トランスデューサ素子を指すことができる。本
明細書では、媒体中への超音波の送信を、「超音波を照射する(insonifying)」と呼ぶこ
ともできる。超音波を反射するオブジェクト又は構造を、「反射体」又は「散乱体」と呼
ぶことができる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「開口」という用語は、限定することなく、所与の瞬間に
共通の機能を集合的に実施する1つ以上の超音波トランスデューサ素子を指す。例えば、
いくつかの実施態様では、開口という用語は、送信機能を実施する1群のトランスデュー
サ素子を指すことができる。代替の実施態様では、開口という用語は、受信機能を実施す
る複数のトランスデューサ素子を指すことができる。いくつかの実施態様では、開口を形
成する1群のトランスデューサ素子は、様々な時点で再定義され得る。図3は、複数開口の
超音波プローブで使用される複数の開口を示している。プローブの開口は、最高で3つの
明確な特徴を有する。第1に、開口は、他の開口中に位置する他のトランスデューサから
物理的に分離されていることが多い。図3では、距離「d」が、開口302を開口304から物理
的に分離している。距離「d」は、開口302のトランスデューサ素子と、開口304のトラン
スデューサ素子との間の最小の距離とすることができる。いくつかの実施態様では、開口
302と304の間の物理的な分離の距離「d」に沿って配置されるトランスデューサ素子は存
在しない。いくつかの実施態様では、距離「d」は、送信開口からの送信の最小波長の少
なくとも2倍に等しくすることができる。第2に、開口のトランスデューサ素子は、同じ直
交(rectangular)平面、又は水平面に存在する必要はない。図3では、開口304のすべての
素子は、開口302の任意の素子から異なる垂直位置「j」を有する。第3に、開口は、関心
領域に対して共通の視線を共用することはない。図3では、開口302は、点(i,j)に対して
視線「a」を有するが、開口304は、視線「b」を有している。開口は、任意の数の個々の
超音波素子を含むことができる。開口を画定する超音波素子は、必ずしもそうではないが
、しばしば、アレイ内で互いに隣接している。多開口超音波撮像システムの動作中、開口
の寸法(例えば、超音波素子の数、及び/又は寸法、及び/又は位置)は、素子を再度割り当
てることにより、動的に変えることができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「点音源送信」という用語は、単一の空間的位置から媒体
中に送信された超音波エネルギーの導入を指すことができる。これは、単一の超音波トラ
ンスデューサ素子を用いて、又は共に送信する隣接トランスデューサ素子の組合せを用い
て達成することができる。前記素子(複数可)からの単一の送信は、一様な球形の波面を近
似するが、2Dスライスを撮像する場合は、2Dスライス内に一様な円形の波面を生成する。
この点音源送信は、トランスデューサ素子アレイから特定の方向にエネルギーを集束させ
る「フェーズドアレイ送信」とはその空間的特性が異なる。フェーズドアレイ送信は、特
定の関心領域に照射する波を強調する、又は操作するために、1群のトランスデューサ素
子の位相を順次操作する。短い持続期間の点音源送信は、本明細書で、「点音源パルス」
と呼ばれる。同様に、短い持続期間のフェーズドアレイ送信は、本明細書で「フェーズド
アレイパルス」と呼ばれる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「受信開口」、「照射開口」、及び/又は「送信開口」と
いう用語は、超音波撮像の当業者により理解されるその通常の意味を示すことができ、ま
た所与の時間に、望ましい物理的な視点又は開口から望ましい送信又は受信機能を行う個
々の素子、アレイ内の1群の素子、又はさらに共通ハウジング内のアレイ全体を指すこと
ができる。いくつかの実施態様では、これらの様々な開口は、専用の機能を有する物理的
に別々の構成要素として作ることができる。代替の実施態様では、機能は、電子的に指定
され、また必要に応じて変更することができる。さらに他の実施態様では、開口の機能は
、固定素子と可変素子を共に組み合わせたものを含むことができる。
【0046】
いくつかの実施態様では、開口は、他のトランスデューサアレイから離間された超音波
トランスデューサのアレイである。このような複数開口の超音波撮像システムは、大幅に
増加させた横方向分解能を提供する。いくつかの実施態様によれば、多開口撮像法は、第
1の開口からの超音波パルスを用いてターゲットオブジェクトを照射する工程と、第1の開
口からある距離に配置された第2の開口を用いて戻ってきたエコーを検出する工程と、第1
の開口に対する第2の開口の相対的な位置を決定する工程と、ターゲットオブジェクトを
通る音速変動を補正しながら、戻ってきたエコーデータを処理して画像を組み合わせる工
程とを含む。
【0047】
いくつかの実施態様では、隣接する開口の間の距離及び向きは、剛性のあるハウジング
を使用するなどにより、互いに対して固定することができる。代替の実施態様では、互い
に対する開口の距離及び向きは、移動可能な連結装置を用いるなど、可変にすることがで
きる。さらなる代替の実施態様では、開口は、単一の大きなトランスデューサアレイ上の
素子グループとして定義することができ、そのグループは、少なくとも指定された距離だ
け離間されている。例えば、このようなシステムのいくつかの実施態様は、2010年10月13
日に出願された「複数開口の医療用超音波トランスデューサ(Multiple Aperture Medical
Ultrasound Transducers)」と題する米国特許仮出願第61/392,896号で示され、且つ述べ
られている。多開口超音波撮像システムのいくつかの実施態様では、隣接する開口間の距
離は、少なくとも1つのトランスデューサ素子の幅とすることができる。代替の実施態様
では、開口間の距離は、特定の用途及びプローブ設計の制約内で可能な限り大きくするこ
とができる。
【0048】
大きな有効開口(いくつかの下位の開口の合計開口)を有する多開口超音波撮像システム
は、ターゲット組織中の音速の変動を補償することにより実行可能なものとすることがで
きる。これは、以下で述べるように、増加した開口を、破綻させるのではなく有効にする
ことのできるいくつかの方法の1つで達成することができる。
【0049】
図1Aは、2つの開口、すなわち、開口102と開口104を含む簡単化した多開口超音波撮像
システム100の一実施態様を示す。開口102と104のそれぞれは、複数のトランスデューサ
素子を備えることができる。図1Aで示す2開口システムでは、開口102は、完全に送信機能
のために使用される送信素子T1、・・・Tnを備えることができ、また開口104は、完全に
受信機能のために使用される受信素子R1、・・・Rmを備えることができる。代替の実施態
様では、送信素子が受信素子と共に点在することができるが、或いはいくつかの素子を、
送信及び受信機能の両方で使用することができる。図1Aの多開口超音波撮像システム100
は、超音波エネルギーで、ターゲットオブジェクト、又は内部組織Tを撮像するために、
患者の皮膚表面上に配置されるように構成することができる。図1Aで示すように、開口10
2は、組織Tから距離「a」に配置され、また開口104は、組織Tから距離「b」に配置される
図1Aでさらに示されているが、MAUI電子装置を、送信開口102及び受信開口104に結合す
ることができる。いくつかの実施態様では、MAUI電子装置は、多開口超音波撮像システム
100を制御するように構成されたハードウェア及びソフトウェアを含むプロセッサ、制御
システム、又はコンピューティングシステムを備えることができる。いくつかの実施態様
では、MAUI電子装置は、開口から無指向性の非集束超音波波形を送信し、開口上でエコー
を受信し、且つ送信した波形、及び受信したエコーから画像を形成するためにシステムを
制御するように構成することができる。以下でさらに詳細に述べることになるが、MAUI電
子装置は、本明細書で述べられるどの方法も制御し、且つ達成するように構成することが
できる。
【0050】
本明細書で述べる超音波素子及びアレイはまた、多機能にすることができる。すなわち
、トランスデューサ素子又はアレイを、ある段階で送信器として指定することは、次の段
階で、受信器として直ちに再指定することを排除するものではない。さらに、本明細書で
述べる制御システムの実施態様は、ユーザ入力、又は事前設定の走査、又は分解能基準に
基づき、電子的にこのような指定を行うための機能を含む。
【0051】
多開口超音波撮像システム200の他の実施態様が図2で示されており、それは、3つの開
口202、204、及び206を形成するように構成されたトランスデューサ素子を含む。一実施
態様では、開口202における送信素子T1、・・・Tnは、送信のために使用することができ
、また開口204及び206における受信素子RR1、・・・RRmは、受信のために使用することが
できる。代替の実施態様では、すべての開口中の素子を、送信と受信で共に使用すること
ができる。図2の多開口超音波撮像システム200は、超音波エネルギーで組織Tを撮像する
ように構成することができる。図2でさらに示されているが、MAUI電子装置を、送信開口2
02及び受信開口204に結合することができる。いくつかの実施態様では、MAUI電子装置は
、多開口撮像システム200を制御するように構成されたハードウェア及びソフトウェアを
含むプロセッサ、制御システム、又はコンピューティングシステムを備えることができる
。いくつかの実施態様では、MAUI電子装置は、開口から無指向性の非集束超音波波形を送
信し、開口上でエコーを受信し、送信された波形及び受信したエコーから画像を形成する
ようにシステムを制御するように構成することができる。以下で詳細に述べるように、MA
UI電子装置は、本明細書で述べられるどの方法も制御し、且つ達成するように構成するこ
とができる。
【0052】
本明細書で述べる多開口超音波撮像システムは、任意の望ましい構成のトランスデュー
サを利用するように構成することができる。例えば、1D、1.5D、2D、CMUT、又は任意の他
のトランスデューサアレイを多開口構成で使用して、全体の分解能及び視野を向上させる
ことができる。
【0053】
(点音源送信)
いくつかの実施態様では、点音源送信を使用することにより、音響エネルギーを、可能
な限り幅広く2次元スライスへと送信することができる。例えば、いくつかの実施態様で
は、図1A及び2のそれぞれにおける送信開口102又は202などの送信開口は、アレイ中で単
一の実質的に無指向性のトランスデューサ素子から点音源パルスの形で音響エネルギーを
送信することができる。代替の実施態様では、複数のトランスデューサ素子を、3次元空
間でオブジェクトに照射するために、3次元で比較的広い点音源パルスを送信するように
設けることができる。このような実施態様では、ビーム形成のすべては、受信器として動
作するトランスデューサアレイに関連付けられたソフトウェア又はファームウェアにより
達成され得る。フェーズドアレイパルスではなく、点音源パルスを用いて送信することに
よる多開口超音波撮像技法を使用することにはいくつかの利点がある。例えば、フェーズ
ドアレイパルスを用いるとき、送信パルスを、特定の深さに集束させる必要があるはずで
あり、またすべての他の深さでは幾分焦点ずれになるため、送信時に正確に焦点を合わせ
ることには問題がある。しかし、点音源送信を用いる場合、2次元スライス、又は3次元ス
ライスボリュームの全体に、単一の点音源送信パルスを用いて超音波を照射することがで
きる。
【0054】
図1A及び2のそれぞれにおける受信開口104、又は204/206などの受信開口で検出された
各エコーは、別々に記憶することができる。受信開口における素子で検出されたエコーが
、照射する開口、又は送信開口からの点音源パルスごとに別々に記憶される場合、全体の
2次元画像は、わずか1つだけの素子により受信された情報から形成することができる。画
像のさらなる複製は、超音波を照射する点音源パルスの同じ組からのデータを収集するさ
らなる受信開口により形成することができる。最終的に、複数の画像が、1つ以上の開口
から同時に作成され、組み合わされて包括的な2D又は3D画像を得ることができる。
【0055】
いくつかの点音源パルスは、通常、高品質の画像を生成するために使用されるが、各パ
ルスが特定の走査線上に集束された場合に必要な点音源パルスよりも少ないパルスでよい
。所与の時間内に送信できるパルス数は、組織中の超音波の速度により厳密に制限される
ので、これは、点音源パルスを使用することにより、毎秒当たりより多くのフレームを生
成できるという実際的な利点を生ずる。これは、運動する臓器、特に心臓を撮像する場合
、非常に重要なことである。
【0056】
いくつかの実施態様では、スペクトラム拡散波形を、1つ以上の超音波トランスデュー
サ素子から構成された送信開口に加えることができる。スペクトラム拡散波形は、チャー
プなどの一連の周波数(例えば、低周波から高周波へと進む周波数、又はその逆も同様で
ある)、ランダムな周波数のシーケンス(周波数ホップとも呼ばれる)、又は疑似ランダム
波形により生成される信号(PNシーケンス)とすることができる。これらの技法は、総称的
にパルス圧縮と呼ばれる。パルス圧縮は、深さ分解能を失うことなく、より深く貫通させ
るために長いパルスを提供する。実際に、深さ分解能は処理で大幅に改善され得る。スペ
クトラム拡散処理は、通常、遅延及び加算工程の前に、整合フィルタリングの形の、受信
した各信号のさらに多くの信号処理を含む。送信パルス形態の上記の例は、例示のために
だけ提供されている。本明細書で教示される技法は、送信パルスの形態にかかわらず適用
することができる。
【0057】
(基本的な画像レンダリング)
図1Aは、超音波送信素子T1、T2、・・・Tnを備える第1の開口102、及び超音波受信素子
R1、R2、・・・Rmを備える第2の開口104を含む多開口超音波撮像システム100の一実施態
様を示す。この多開口超音波撮像システム100は、検査されるオブジェクト又は体(人体な
ど)の表面に配置されるように構成される。いくつかの実施態様では、両方の開口は、同
じ走査面に対して感度を有することができる。他の実施態様では、一方の開口が、異なる
走査面に存在することもできる。各開口の各トランスデューサ素子の機械的且つ音響的位
置は、共通の基準点に対して、又は互いに対して正確に知られている必要がある。
【0058】
一実施態様では、超音波画像は、送信素子(例えば、開口102の送信素子T1)を用いて、
内部組織又はターゲットオブジェクトT(例えば、心臓、臓器、腫瘍、又は体の他の部分を
通る平面)など、撮像すべき領域全体に超音波を照射し、次いで、受信素子(例えば、開口
104の受信素子R1)で、撮像された平面全体からのエコーを受信することにより、生成する
ことができる。いくつかの実施態様では、受信機能は、受信プローブ中のすべての素子(
例えば、R1からRm)により行うことができる。代替の実施態様では、エコーは、受信開口
のうちの1つだけで、又は選択された数個の素子で受信される。本方法は、送信開口102上
の各素子(例えば、T2、・・・Tn)を使用し、次いで、各送信素子で撮像すべき領域全体を
照射して、各照射パルスの後に受信開口でエコーを受信することにより進行する。送信素
子は、任意の望ましい一連の順序で動作することができ、規定されたパターンに従う必要
はない。個々には、各送信素子による照射後に得られた画像は、高分解能画像を提供する
には十分ではない可能性があるが、すべての画像を組み合わせることにより、撮像すべき
領域全体の高分解能画像を提供することができる。図1Aで示す座標(i,j)で表される走査
点に関しては、特定の送信素子Txから、(i,j)における内部組織又はターゲットオブジェ
クトTの要素への総距離「a」、及びその点から、特定の受信素子までの距離「b」を計算
することは簡単なことである。これらの計算は、基本的な三角法を用いて行うことができ
る。これらの距離の和が、超音波の1つの波が移動する合計距離である。
【0059】
組織中の超音波の速度が、組織全体を通して一様であると仮定すると、送信パルスの開
始から、エコーが受信素子で受信される時間までの時間遅延を計算することが可能になる
(組織中で、一様ではない音速については以下で論ずる)。この1つの事実は、散乱体(すな
わち、ターゲットオブジェクト内の反射性の点)は、「a+b=所与の時間遅延」の媒体中の
点である。同じ方法を、撮像すべき所望の組織中の任意の点に対する遅延を計算するため
に使用することができ、点の軌跡を生成される。図1Bは、点(g,h)、(i,j)、(k,m)、(n,p)
、(q,r)、(s,t)が、すべて送信素子T1及び受信素子R1に対して同じ時間遅延を有すること
を示している。散乱位置及び振幅の図は、等しい時間遅延点の軌跡に対する点のすべての
エコー振幅を追跡することにより表示することができる。この軌跡は、送信素子と受信素
子に焦点を有する楕円180の形をとる。図1Bはまた、図1A及び2を参照して上記で述べたMA
UI電子装置を含むことのできるMAUI電子装置を示している。
【0060】
楕円180上のすべての点が、同じ時間遅延で戻るということは、単一の画像内で、楕円
に沿ったすべての点を互いに区別することができないため、表示するのに問題を生ずる。
しかし、複数の受信開口により画定される等しい時間遅延の楕円は、わずかに異なること
になるため、複数の受信点から得られる画像を組み合せることによって、点をより容易に
区別することができる。
【0061】
図1Cは、素子T1からの送信パルスの場合、単一の散乱体(n,p)からのエコーが、異なる
時間にR1、R2、及びR3などの異なる受信素子により受信されることを示している。同じ散
乱体の軌跡は、図1Cの楕円180、185、及び190で表すことができる。これらの楕円が交差
する位置(点n,p)は、散乱体の真の位置を表している。ビーム形成ハードウェア、ファー
ムウェア、又はソフトウェアは、各受信素子からのエコーを組み合わせて画像を生成し、
楕円の交差部で画像を有効に補強することができる。いくつかの実施態様では、画像に対
する望ましい信号対雑音比を得るために、示された3個よりもさらに多くの受信素子を使
用することができる。図1Cはまた、図1A及び2を参照して上記で述べたMAUI電子装置を含
むことのできるMAUI電子装置を示している。
【0062】
ターゲットオブジェクト中の散乱体のすべての位置を表示する方法、したがって、ター
ゲットオブジェクトの2次元横断面を形成する方法を、図3の多開口超音波撮像システム30
0を参照して次に述べるものとする。図3は、開口302及び304により撮像される点の格子を
示している。格子上の点は、直交座標(i,j)で与えられる。完全な画像は、「エコー」と
呼ばれる2次元アレイとなる。図3の格子では、mhは、アレイの最大の水平寸法であり、ま
たmvは、最大の垂直寸法である。図3はまた、図1A及び2を参照して上記で述べたMAUI電子
装置を含むことのできるMAUI電子装置を示している。
【0063】
一実施態様では、図3の構成において、1つの送信素子(例えば、開口302からのT1、・・
・Tnの1つの素子)からの送信パルスから、且つ1つの受信素子(例えば、開口304からのR1
、・・・Rmの1つの素子)により受信された結果のエコーから収集された情報のすべてを蓄
積するために、以下の疑似コードを使用することができる。
for(i=0;i<mh;i++){
for(j=0;j<mv;j++){
距離aを計算する
距離bを計算する
a+bに相当する時間を計算する
echo[i][j]=echo[i][j]+計算された時間遅延で記憶された受信エコー
}
}
【0064】
固定された遅延量は、主として、最初のエコーが受信されるまでの送信パルスからの時
間である。後で論ずるように、変化する脂肪層を補償するために増分を加える、又は減算
することができる。
【0065】
完全な2次元画像は、開口304(例えば、R1、・・・Rm)中のあらゆる受信素子に対してこ
のプロセスを繰り返すことにより形成することができる。いくつかの実施態様では、この
コードを並列ハードウェアで実施して実時間の画像形成を得ることも可能である。
【0066】
他の送信素子からのパルスで得られる同様の画像を組み合わせることは、画像の品質(
例えば、信号対雑音比の点で)を改善することになる。いくつかの実施態様では、画像の
組合せは、単一の点音源パルス画像の単なる合計(例えば、コヒーレント加算)により行う
ことができる。代替的には、組合せは、合計する前に、まず単一の点音源パルス画像の各
素子の絶対値をとることを含むことができる(例えば、非コヒーレント加算)。いくつかの
実施態様では、第1の技法(コヒーレント加算)は、横方向分解能を向上させるために最も
よく使用することができ、また第2の技法(非コヒーレント加算)は、スペックルノイズを
低減するために最もよく適用することができる。さらに、非コヒーレント技法は、送信開
口と受信開口の相対的な位置の測定に必要な精度が低い場合に使用することができる。両
方の技法の組合せを使用して、向上させた横方向分解能、及び低減させたスペックルノイ
ズの最適なバランスを提供することができる。最後に、コヒーレント加算の場合、最終的
な合計は、各成分の絶対値により置き換えるべきであり、また両方の場合において、顕著
な特徴と、より捉えにくい特徴との両方が同じディスプレイ上で表現されるように、何ら
かの形でダイナミックレンジの圧縮を使用することができる。いくつかの実施態様では、
さらなる画素位置が、走査変換を行うことなく格子上に位置する。
【0067】
いくつかの実施態様では、圧縮する方式は、表示する前に各成分の対数をとること(例
えば、20log10又は「dB」)、或いは表示する前に各成分のn乗根をとること(例えば、4乗
根)を含むことができる。他の圧縮方式を使用することもできる。
【0068】
さらに図3を参照すると、トランスデューサ素子の相対的な位置が設計精度に合うよう
に知られていて、素子のすべてが同じ走査面内にあり、且つ走査面への送信エネルギー又
は走査面で伝播する受信エネルギーに焦点が合わされている限り、任意の数の受信プロー
ブ、及び送信プローブを組み合わせて、散乱体(i,j)の画像を向上させることができる。
任意のプローブ中の任意の素子を、送信又は受信用に、或いはその両方に使用することが
できる。
【0069】
体全体を通して、様々な軟組織中の音速は、+/-10%だけ変化する可能性がある。典型的
な超音波技法を使用する場合、音速は、トランスデューサと、対象とする臓器との間の経
路で一定であると一般に仮定される。この仮定は、送信と受信の両方で1つのトランスデ
ューサアレイを使用するシステムにおける狭いトランスデューサアレイに対して有効であ
る。しかし、超音波パルスは、多くの組織を、おそらく、脂肪、筋肉、血管などの多様な
タイプの組織を通過するので、一定音速の仮定は、トランスデューサの開口が広くなるに
つれて破綻する。トランスデューサアレイの幅の下における組織の多様性は、送信機能と
受信機能の両方に影響を与える。
【0070】
散乱体は、単一の送信素子からの点音源パルスにより照射されたとき、受信器群の素子
のすべてに対してエコーを反射して返す。この受信開口中の素子により収集された画像の
コヒーレント加算は、受信器素子のそれぞれに対する散乱体(i,j)からの経路中の音速変
動が、基準として選択された1つの経路に対して、±180度の位相シフトを超えない場合、
有効であり得る。図3を参照すると、コヒーレント加算が有効であり得る受信開口の最大
寸法は、患者内の組織の変化に依存しており、事前に計算することはできない。しかし、
特定の送信周波数に対する実際的な最大値は、経験から決定することができる。
【0071】
非集束点音源パルスで照射する場合、送信素子から、散乱体(i,j)などの散乱体への経
路時間における変動は、その点の表示位置を変えるだけであるため、送信群の開口寸法は
、非常に重要なものではない。例えば、受信経路における180度の位相シフトとなる変動
は、コヒーレント加算を用いる場合には、完全な位相の消失となるが、送信経路上の同じ
変動は、半波長(通常、約0.2mm)だけの表示位置エラーとなり、歪みを生ずるが気付かれ
ないはずである。
【0072】
したがって、図1Aで示すように、単一の送信/受信サイクル中に、1つの開口が送信にだ
け使用され、他の開口が受信にだけ使用される多開口撮像システムでは、音速変動に対し
て必要となるさらなる補償は、非常にわずかなものである。開口は、従来のセクタスキャ
ナプローブの幅の何倍にもなり得る素子T1からRmへと増加しているが、散乱体(i,j)から
の信号の破壊的な干渉の問題は、送信開口の幅、又は開口の分離には依存しておらず、受
信開口(素子R1からRm)の幅にだけ依存している。音速変動が、実際的に最小の問題を示す
標準の幅は、3.5MHzシステムの場合、約16〜20mmである(周波数が高くなるとより小さく
なる)。したがって、受信開口が、標準の開口と同じ幅、又はそれよりも小さい幅を有す
る場合、音速変動に対する明示的な補償は必要ではない。
【0073】
散乱体を表すセルに隣接するセル(すなわち、ターゲットオブジェクトの領域)を撮像す
るときに受信するエネルギーは、エコーが到来すると予測される時間と、実際に到来した
時間の時間差に依存するので、横方向分解能における実質的な改善は、送信と受信の両方
に使用される従来の単一アレイ1D、1.5D、又は2D超音波プローブと同じ幅の受信開口で達
成される。送信パルスが、受信に使用されるものと同じアレイから生成される場合、時間
差は小さい。しかし、送信パルスが、受信アレイから何らかの距離にある第2のアレイか
ら生成される場合、時間差は大きくなり、したがって、正しいセルに対する信号との位相
ずれがより大きくなる。その結果、十分に同位相の信号を有することになる隣接するセル
はわずかであり、真の散乱体を誤って表現することになる。
【0074】
図4を参照すると、「S」における散乱体から受信開口404の単一の素子(例えば、受信素
子R1、・・・Rmの1つ)で受信される信号を考える。送信及び受信機能が、同じ素子で行わ
れる場合、超音波が「S」へと伝播し、返される時間は、2a/C(Cは組織中の音速)になるは
ずである。再構成アルゴリズムが、真の散乱体「S」から距離「c」で離間された隣接する
セル「S'」における可能な散乱体で受信される信号を評価する場合、予想される到来時間
は、2(sqrt(a2+c2)/C)である。「c」が小さい場合、この時間はほとんど同じであり、し
たがって、「S」からの信号は、隣接するセル中の散乱体「S'」の大きさを推定するとき
、わずかに品質が落ちるだけである。図4はまた、上記で述べたMAUI電子装置を含むこと
のできるMAUI電子装置を示している。
【0075】
次に、角度シータ(「θ」)だけ受信開口404から離れるように送信開口402を移動させる
ことを考える。比較するために便宜上、開口402から散乱体「S」への距離「b」を、開口4
04から散乱体「S」への距離「a」と等しいとする。超音波が、送信開口402から「S」に伝
播し、受信開口404へと戻る時間は、やはり(a+b)/C=2a/C(a=bを用いる)であるが、信号が
、隣接するセル「S'」に伝播する予想時間は、(d+sqrt(a2+c2))/C=(sqrt((a sinθ-c)2+(
a cosθ)2)+sqrt(a2+c2))/Cとなるはずである。予想される到来時間と実際との間の差は
、Diff=(sqrt((a sinθ-c)2+(a cosθ)2)+sqrt(a2+c2)-2a)/Cとなる。
【0076】
この式に何らかの数字を入れるために、開口402と開口404の分離は5度だけであり、距
離a=400セル、及び距離c=1セルであると仮定する。その場合、θ=0度の場合の到来時間差
に対する、θ=5度の場合の到来時間差の比は33.8である。すなわち、隣接するセルに対す
る表示振幅の減少は、θ=5度で33倍速い。到来時間における差が大きくなると、隣接する
セルからのエコー情報を一意に区別する能力を大幅に簡単化する。したがって、大きなθ
角度では、点の表示は、隣接するセルではノイズとなって視認できなくなり、実画像の高
分解能が得られることになる。複数開口の送信器及び受信器の場合、分解能を向上させる
ために必要となる大きさに角度を付けることができる。
【0077】
複数セル中の複数の反射体に対する実際の超音波システムに関するシミュレーションは
、なお効果が有意であることを示しているが、上記で述べたものほど顕著ではない。63素
子の受信開口、10度のθ、及びコサイン変調された5サイクルにわたる点音源送信開口か
らの送信パルスを含むシステムの場合、点像分布関数の横方向の広がりは、2.3倍改善さ
れた。
【0078】
(音速変動の明示的な補償)
超音波照射のための単一の点音源パルスの結果として、受信器素子に到来する信号のす
べてをコヒーレントに平均することにより、単一の画像を形成することができる。複数の
点音源パルスから得られるこれらの画像を加えることは、コヒーレント加算により、非コ
ヒーレント加算により、又はグループによるコヒーレント加算と、グループからの画像の
非コヒーレント加算の組合せにより達成することができる。コヒーレント加算(加算前の
位相情報が保持される)は、分解能を最大化するが、非コヒーレント加算(位相ではなく信
号の大きさを用いる)は、位置合せエラーの影響を最小化し、且つスペックルノイズを平
均化する。2つのモードの何らかの組合せが好ましいはずである。コヒーレント加算は、
互いに近接しており、したがって、非常に類似した組織層を通して送信されるパルスを生
成する送信素子から得られた点音源パルス画像を平均するために使用することができる。
非コヒーレント加算については、位相の消失が問題になり得る場合に使用することができ
る。音速変動に起因する送信時間変動が極端な場合、加算する前に、2D画像相関を使用し
て画像の位置合せすることができる。
【0079】
超音波撮像システムが、第2の開口を含む場合、受信並びに送信のために第2の開口を使
用することは、さらに良好な分解能を生成する。2つ以上の受信アレイからの画像を組み
合わせることにおいて;音速変動に対する明示的な補償を使用することが可能であり、且
つ利益がある。
【0080】
脂肪又は筋肉など、異なるタイプの組織の変化する厚さの影響を示している、図5で示
す3開口の超音波撮像システム500に対する組織層モデルを考える。脂肪層「F」が図5で示
されており、各開口502、504、及び506の下の、それぞれ、組織層f1、f2、及びf3の厚さ
は異なっており、未知である。開口506における組織層が、開口504におけるものと同じで
あろうと仮定することは合理的ではなく、したがって、受信素子のすべてからの信号を共
にコヒーレント加算することは通常可能ではない。一例では、開口504における組織層が
、開口506におけるものよりも3cmも大きい場合、これは、約3波長(3.5MHzで)の信号変位
に相当するが、これは、深い組織で表すと1.3mmの変位であるに過ぎない。このようなわ
ずかな変位の場合、少量に過ぎない画像の幾何歪みが観察されることになる。したがって
、コヒーレント加算は可能ではないが、1つの画像の他の画像に対する変位を有する非コ
ヒーレント加算が可能である。
【0081】
左右の開口(例えば、それぞれ開口506と504)からの画像フレームを位置合せするために
必要な変位量を決定するために、画像比較技法を使用することができる。一実施態様では
、画像比較技法は、相互相関とすることができる。相互相関は、高度の類似性を有するエ
リアを識別するために、画像又は画像セクションの類似性を評価することを含む。少なく
とも類似性の閾値を有するエリアは、同じであると想定され得る。したがって、高度の類
似性を有する画像内のエリアを識別することにより、1つの画像(又はそのセクション)を
、実質的な類似性を有するエリアが重複して全体的な画像品質が向上するようにシフトさ
せることができる。図5はまた、上記で述べたMAUI電子装置を含むことのできるMAUI電子
装置を示している。
【0082】
さらに、これらの画像比較技法はまた、下位画像(sub-image)解析を適用することによ
り使用することができ、その解析を使用して下位画像の変位を決定し、且つその基礎とな
る組織における音速の局所化された変動に適合させることができる。言い換えると、画像
をより小さいセグメントに分解する(例えば、半分、3分の1、4分の1になど)ことにより、
第1の画像の小部分を、第2の画像の対応する小部分と比較することができる。2つの画像
は、次いで、位置合せを確実にするためにワープ(warp)させることにより組み合わせるこ
とができる。ワープさせることは、当業者により理解される技法であり、例えば、Schroe
derに付与された米国特許第7,269,299号に記載されている。
【0083】
複数の受信トランスデューサアレイからの画像を非コヒーレント加算する同様の技法は
、任意の数の開口に適用することができる。すべてを一度にコヒーレント加算に使用する
には広すぎる単一素子アレイに対しても、同様の考えを適用することができる。単一の広
い素子アレイを有する超音波撮像システムを、コヒーレント加算用にそれぞれが十分小さ
いセクション(開口)へと分割することができ、次いで、これらのセクションから得られた
画像を(必要に応じて変位させて)非コヒーレントに組み合わせることができる。
【0084】
画像のわずかな歪みであっても、十分な計算パワーを用いて補償することができる。画
像レンダリングは、1つの受信アレイに対して、レンダリングアルゴリズムで変動する遅
延量を用いて計算することができる(すなわち、echo[i][j]=echo[i][j]+計算された時間
に記憶された受信エコー+遅延)。次いで、これらの(相互相関により、又は何らかの他の
明瞭度の尺度により)最適に一致したものを、他の受信アレイ(複数可)からの画像に非コ
ヒーレントに加算することができる。より速い技法は、画像の補正されていない対に対し
て相互相関ネットワークを計算し、且つ補正遅延を選択するように訓練されたニューラル
ネットワークへとこれを送ることを含む。
【0085】
音速の不適正さを補正できる複数開口の超音波システムは、大幅に大きな開口を可能に
するので、本明細書で述べる多開口超音波システムのいくつかの実施態様は、互いに10cm
離れて位置する開口を有することができる。分解能は、2λ/Dに比例するので、この大き
な開口は、皮膚の表面の十分下に位置する組織で高分解能を生ずることになる。例えば、
腎動脈は、皮膚の下10cmから15cmに位置することがよくあり、また腹部大動脈の近傍にあ
る4mmから6mmの寸法である。フェーズドアレイ、リニアアレイ、及び合成開口超音波シス
テムは、通常、多くの患者におけるこの生理機能を検出することができない;それは、特
に開口寸法が適切な横方向分解能を有するには十分大きくないためである。通常、フェー
ズドアレイシステムは、約2cmの開口寸法を有している。開口寸法を、多開口超音波シス
テムで2cmよりも大きくして約10cmまで増加させると、分解能を最高で5倍まで増加させる
ことができる。
【0086】
(3D撮像)
いくつかの実施態様では、3次元情報は、2次元撮像システムを移動し、いくつかの位置
又は角度で2Dスライスを取得することにより得ることができる。この情報から、また補間
技法を用いて、任意の位置又は角度の3D画像を再構成することができる。代替的には、3D
ボリュームにおけるデータのすべての2D投影を生成することもできる。第3の代替法は、
直接3Dディスプレイでその情報を使用することである。
【0087】
多開口超音波撮像システムでは、より広いプローブ装置が得られるため、3Dデータを得
るためにそれを使用する最も容易な方法は、患者の皮膚上でプローブ装置を移動させるの
ではなく、2Dスライスが、撮像すべき3Dボリュームにまで及ぶように単に揺り動かす(roc
k)ことである。いくつかの実施態様では、位置データを記録する機械的な回転体機構を使
用して、2Dスライスの収集を支援することができる。他の実施態様では、プローブの頭部
に位置する正確な位置センサ(ジャイロスコープセンサなど)を有する自由に動作する超音
波プローブを、それに代えて使用することができる。このような装置は、2Dスライスを収
集しながら、完全に自由な動きを可能にする。最後に、静脈内、及び腔内プローブを、広
い開口に適合するように製作することもできる。このようなプローブは、2Dスライスを収
集するために、同様の方法で操作することができる。
【0088】
この組合せは、多開口超音波撮像システムを用いた3D心臓撮像に対して特に望ましい。
大部分の患者は、胸骨の隣の2つの肋間隙に良好な音響的ウィンドウを有している。多開
口撮像システムはこの場合理想的であるが、それは、介在する肋骨が平坦なプローブを使
用できなくするが、少なくとも2つの広く間隔を空けた開口を有するプローブを、送信開
口及び受信開口が、離れた肋間隙と位置が合うように配置することができるからである。
複数の開口を有するプローブを配置すると、それを回転させることはできないが、それを
揺り動かして3D情報を取得することができる。多開口プローブはまた、同じ肋間隙で、た
だし胸骨を横断して使用することもできる。
【0089】
3D情報はまた、すべてが同じ走査面内にはない開口を有する多開口撮像システムを用い
て直接取得することもできる。この場合、送信開口を構成する素子は、(1つの走査面に限
定された円形波形ではなく)球形の波形を伝播させることが好ましい。受信開口を構成す
る素子はまた、(単一の走査面内の超音波エネルギーだけに感度があるのではなく)すべて
の方向から到来するエネルギーに感度があり得る。上記で提供された再構成疑似コードは
、その場合、3次元に拡張することができる。
【0090】
本発明に関係するさらなる詳細に関して、材料及び製作技法は、当業者のレベルに含ま
れるもとのとして使用することができる。一般に、又は論理的に使用されるさらなる行為
(act)の点で、本発明の方法ベースの諸態様に関しても同様のことが言える。さらに、前
述の本発明の変形形態のどの任意選択の特徴も、独立して、又は本明細書で述べた任意の
1つ以上の特徴と組み合わせて記述され、且つ特許請求され得ることも企図される。同様
に、単数の項目への参照は、複数の同様の項目が存在する可能性を含んでいる。より具体
的には、本明細書で使用される場合、また添付の特許請求の範囲で、単数形「1つの(a)」
、「1つの(an)」、「前記/該(said)」、及び「その/前記/該(the)」は、文脈で明確にそ
の他の形が規定されていない限り、複数の指示対象を含む。特許請求の範囲は、どんな任
意選択の要件も排除するように記載される可能性のあることにさらに留意されたい。した
がって、この記載は、請求項の構成要件の記載に関して、「単独で(solely)」、「だけで
(only)」、及び同様のものをこのような排他的な用語を使用するための、又は「否定的な
」限定を使用するための先行する論拠として働くことが意図されている。本明細書でその
他で規定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的且つ科学的な用語は、本発
明が属している技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発
明の広さは、本明細書により限定されるべきではなく、使用される請求項の用語の通常の
意味によってのみ限定される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5