特許第6643982号(P6643982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643982画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643982
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   A61B3/10 100
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-516420(P2016-516420)
(86)(22)【出願日】2015年5月1日
(86)【国際出願番号】JP2015063054
(87)【国際公開番号】WO2015167005
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-95299(P2014-95299)
(32)【優先日】2014年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100075292
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊明
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532699(JP,A)
【文献】 特開2013−153884(JP,A)
【文献】 特開2012−100714(JP,A)
【文献】 特表2013−530741(JP,A)
【文献】 特表2004−512538(JP,A)
【文献】 特開平02−232030(JP,A)
【文献】 Kirk W. Gossage, et al.,“Texture analysis of optical coherence tomography images: feasibility for tissue classification”,Journal of Biomedical Optics,2003年 7月,Vol.8 Issue.3,P570-P575
【文献】 Mikhail Yu. Kirillin, et al.,“Speckle statistics in OCT images: Monte Carlo simulations and experimental studies”,OPTICS LETTERS,2014年 6月15日,Vol.39 No.12,P3472-P3475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼底断層画像におけるスペックルパタンを強調処理する強調処理手段と、
スペックルパタンを強調処理した前記眼底断層画像における所望の領域を関心領域として設定する関心領域設定手段と、
前記関心領域内における前記スペックルパタンの特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行う疾患判定手段とを備え
前記強調処理手段が、複数の撮像された眼底断層画像から類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を複数選択し、前記選択された複数の類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を加算平均処理することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記関心領域を前記眼底断層画像に表示された網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定することを特徴とする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記疾患判定手段によって疾患があると判定された眼底の箇所を眼底断層画像にマッピングするマッピング手段を更に備える、請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特徴量抽出手段が、前記スペックルパタンの輝度に基づいてヒストグラムを作成することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記疾患判定手段が、前記スペックルパタンの特徴量をあらかじめ取得しておいた基準特徴量と比較することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記疾患判定手段が、前記スペックルパタンの特徴量を数式化し、当該数式中のパラメータが所定のしきい値を超えるかどうかによって疾患判定を行うことを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
眼底断層画像におけるスペックルパタンを強調処理する強調処理手段と、
スペックルパタンを強調処理した前記眼底断層画像における所望の領域を関心領域として設定する関心領域設定手段と、
前記関心領域内における前記スペックルパタンの特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行う疾患判定手段とを備え、
前記疾患判定手段が、前記スペックルパタンの特徴量を数式化し、当該数式中のパラメータが所定のしきい値を超えるかどうかによって疾患判定を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
眼底断層画像におけるスペックルパタンを強調処理するステップと、
スペックルパタンを強調処理した前記眼底断層画像における所望の領域を関心領域として設定するステップと、
前記関心領域内における前記スペックルパタンの特徴量を抽出するステップと、
前記特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行うステップとを備え
前記疾患判定を行うステップが、前記スペックルパタンの特徴量を数式化し、当該数式中のパラメータが所定のしきい値を超えるかどうかによって疾患判定を行うことを含む画像処理方法。
【請求項9】
前記関心領域を前記眼底断層画像に表示された網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定することを特徴とする、請求項8に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記疾患判定を行うステップにおいて疾患があると判定された眼底の箇所を眼底断層画像にマッピングするステップを更に備える、請求項8又は9に記載の画像処理方法。
【請求項11】
前記スペックルパタンを強調処理するステップが、複数の撮像された眼底断層画像から類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を複数選択し、前記選択された複数の類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を加算平均処理することを含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項12】
前記特徴量を抽出するステップが、前記スペックルパタンの輝度に基づいてヒストグラムを作成することを含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項13】
請求項8〜12に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断層像撮影装置などで撮影した断層画像を処理して診断用画像に適した画像を生成するための画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科診断装置の一つとして、眼底の断層像を撮影するOCT(Optical Coherence Tomography)という光干渉を利用した断層像撮影装置が実用化されている。
【0003】
このOCTにより得られた眼底画像の画質を向上させるために、複数の画像を加算平均する技術がある。複数の画像を加算平均する画像処理を行うと、スペックルパタンが消失する。スペックルパタンとは、測定対象における散乱体からの散乱光の無数の重畳によって散乱光強度の高い部分と低い部分とが生じる現象に基づく画像パタンである。いわゆる干渉現象に近い物理現象であり、そのスペックルパタン自体は測定対象である眼底の構造を直接に反映するものではない。そのため、特許文献1ではスペックルパタンをノイズとみなし、断層画像を合成することによってスペックルパタンを消失させ、断層画像の高画質化を図る技術が開示されている。
【0004】
一方、超音波によるエコー信号に基づき、被検体内の超音波画像を得る超音波診断装置に関し、超音波画像に現れるスペックルパタンを積極的に活用し、その統計的性質を利用してスペックル部の画像の平滑化を行うと共に微小構造物を抽出することで病変を観察することが可能な解析アルゴリズムを具備した超音波診断装置が特許文献2に開示されている。この文献では正常な肝臓から反射されるエコー信号の輝度値の確率密度分布がレイリー分布に従うことを利用して、実測により得られた確率密度分布が理論値としてのレイリー分布に従うか否かを、分散値を比較することで判定する技術が開示されている。
【0005】
そして非特許文献1に示した文献によると、OCTのスペックルパタンがガンマ分布に従って定量化されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−183909
【特許文献2】特開2011−224410
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Texture analysis of OCT speckle for characterizing biological tissues in vivo, Optics Letters, 38(8), 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、スペックルパタン自体は測定対象である眼底の構造を直接に反映するものではないものの、眼底の状態に応じてその生じ方に変化が認められるものではあるため、スペックルパタンを単にノイズとみなすのではなく、その統計的性質を積極的に活用することによって眼底の断層画像からより詳細な眼底の状態に関する情報を得られることに発明者は着目した。
【0009】
特に、非特許文献1に記載されているように、スペックルパタンがガンマ分布に従うことを利用することによって画像毎にスペックルパタンの特徴量を定量化することが可能であるから、このスペックルパタンの特徴量を定量化したデータに基づいてより詳細な眼底の状態に関する情報を得て、眼底の疾患判定も可能となるはずである。
【0010】
そこで、本発明は、従来のように単にOCT眼底断層画像の画質を向上させることによって眼底断層画像の視認性を向上するという発想ではなく、スペックルパタンを積極的に利用することによって眼底断層画像からより詳細な眼底組織の状態に関する情報を得て、眼底の疾患判定をすることができる画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第一に、本発明は、眼底断層画像におけるスペックルパタンを強調処理する強調処理手段と、スペックルパタンを強調処理した前記眼底断層画像における所望の領域を関心領域として設定する関心領域設定手段と、前記関心領域内における前記スペックルパタンの特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、前記特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行う疾患判定手段とを備える画像処理装置を提供する(発明1)。
【0012】
上記発明(発明1)によれば、眼底断層画像におけるスペックルパタンを積極的に利用して、関心領域別に眼底の疾患判定を行うことにより、従来のOCT眼底断層画像からは把握し切れなかった詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。なお、本発明における疾患判定とは、単に眼底の疾患の有無を判定することだけでなく、その疾患の病名を判定することや、疾患の進行度合いを判定すること、疾患疑いの程度を判定すること等、眼底の疾患に関するあらゆる判定を含む概念である。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記関心領域を前記眼底断層画像に表示された網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定することが好ましい(発明2)。
【0014】
上記発明(発明2)によれば、複数の網膜層をまたがないよう一の網膜層内に関心領域を設定することにより、網膜層構造中の領域別にスペックルパタンの特徴量解析を個別に実行することができるため、評価精度が向上して、より詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。
【0015】
上記発明(発明1及び2)においては、前記疾患判定手段によって疾患があると判定された眼底の箇所を眼底断層画像にマッピングするマッピング手段を更に備えることが好ましい(発明3)。
【0016】
上記発明(発明3)によれば、眼底断層画像に疾患部位がマッピングされることにより、疾患判定の結果を容易に把握することができる。
【0017】
上記発明(発明1〜3)においては、前記強調処理手段が、複数の撮像された眼底断層画像から類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を複数選択し、前記選択された複数の類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を加算平均処理することが好ましい(発明4)。
【0018】
上記発明(発明1〜4)においては、前記特徴量抽出手段が、前記スペックルパタンの輝度に基づいてヒストグラムを作成することが好ましい(発明5)。
【0019】
上記発明(発明1〜5)においては、前記疾患判定手段が、前記スペックルパタンの特徴量をあらかじめ取得しておいた基準特徴量と比較してもよいし(発明6)、前記スペックルパタンの特徴量を数式化し、当該数式中のパラメータが所定のしきい値を超えるかどうかによって疾患判定を行ってもよい(発明7)。
【0020】
第二に、本発明は、眼底断層画像におけるスペックルパタンを強調処理するステップと、スペックルパタンを強調処理した前記眼底断層画像における所望の領域を関心領域として設定するステップと、前記関心領域内における前記スペックルパタンの特徴量を抽出するステップと、前記特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行うステップとを備える画像処理方法を提供する(発明8)。
【0021】
上記発明(発明8)によれば、眼底断層画像におけるスペックルパタンを積極的に利用して、関心領域別に眼底の疾患判定を行うことにより、従来のOCT眼底断層画像からは把握し切れなかった詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。
【0022】
上記発明(発明8)においては、前記関心領域を前記眼底断層画像に表示された網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定することが好ましい(発明9)。
【0023】
上記発明(発明9)によれば、複数の網膜層をまたがないよう一の網膜層内に関心領域を設定することにより、網膜層構造中の領域別にスペックルパタンの特徴量解析を個別に実行することができるため、評価精度が向上して、より詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。
【0024】
上記発明(発明8及び9)においては、前記疾患判定を行うステップにおいて疾患があると判定された眼底の箇所を眼底断層画像にマッピングするステップを更に備えることが好ましい(発明10)。
【0025】
上記発明(発明10)によれば、眼底断層画像に疾患部位がマッピングされることにより、疾患判定の結果を容易に把握することができる。
【0026】
上記発明(発明8〜10)においては、前記スペックルパタンを強調処理するステップが、複数の撮像された眼底断層画像から類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を複数選択し、前記選択された複数の類似するスペックルパタンを有する眼底断層画像を加算平均処理するものであることが好ましい(発明11)。
【0027】
上記発明(発明8〜11)においては、前記特徴量を抽出するステップが、前記スペックルパタンの輝度に基づいてヒストグラムを作成するものであることが好ましい(発明12)。
【0028】
上記発明(発明8〜12)においては、前記疾患判定を行うステップが、前記スペックルパタンの特徴量をあらかじめ取得しておいた基準特徴量と比較するものであってもよいし(発明13)、前記スペックルパタンの特徴量を数式化し、当該数式中のパラメータが所定のしきい値を超えるかどうかによって疾患判定を行うものであってもよい(発明14)。
【0029】
第三に、本発明は、請求項8〜14に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラムを提供する(発明15)。
【0030】
上記発明(発明15)によれば、眼底断層画像におけるスペックルパタンを積極的に利用して、関心領域別に眼底の疾患判定を行うことにより、従来のOCT眼底断層画像からは把握し切れなかった詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムによれば、スペックルパタンを積極的に利用することによって眼底断層画像からより詳細な眼底組織の状態に関する情報を得て、眼底の疾患判定をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係る画像処理システムを示す構成図である。
図2】同実施形態に係る断層像撮影ユニットの詳細な構成を示す光学図である。
図3】同実施形態に係る画像処理の流れを示したフローチャートである。
図4】同実施形態において眼底を信号光で走査する状態を示した説明図である。
図5】同実施形態において複数枚の断層画像を取得する状態を示した説明図である。
図6】同実施形態において作成された加算平均画像を示した説明図である。
図7】同実施形態における関心領域の設定例を示した説明図である。
図8】同実施形態において作成されたヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像処理システム、すなわち被検眼眼底の断層画像を取得して画像処理するシステムの全体を示す構成図である。符号1で示すものは、被検眼Eの眼底(網膜)Efを観察及び撮像する眼底撮影ユニット1であり、照明光学系4、撮影光学系5、2次元CCDやCMOSで構成された撮像装置100を備えている。
【0035】
照明光学系4は、ハロゲンランプ等の観察光源とキセノンランプ等の撮影光源を備え、これらの光源からの光は照明光学系4を介して眼底Efに導かれて眼底Efを照明する。撮影光学系5は、対物レンズ、撮影レンズ、合焦レンズなどの光学系を備え、眼底Efにより反射された撮影光を撮影光路に沿って撮像装置100に導き、眼底Efの画像を撮影する。
【0036】
走査ユニット6は、後述する眼底Efにより反射された信号光を、断層像撮影ユニット2に導く。走査ユニット6は、断層像撮影ユニット2の低コヒーレンス光源20からの光を図1のx方向(水平方向)及びy方向(垂直方向)に走査するための公知のガルバノミラー11やフォーカス光学系12などを備えた機構である。
【0037】
走査ユニット6は、コネクタ7及び接続線8を介して眼底Efの断層像を撮像する断層像撮影ユニット2と光学的に接続されている。
【0038】
断層像撮影ユニット2は、例えばフーリエドメイン方式(スペクトラルドメイン法)で動作する公知のもので、図2にその詳細な構成が図示されており、波長が700nm〜1100nmで数μm〜数十μm程度の時間的コヒーレンス長の光を発光する低コヒーレンス光源20を有する。
【0039】
低コヒーレンス光源20で発生した低コヒーレンス光LOは、光ファイバ22aにより光カプラ22に導かれ、参照光LRと信号光LSに分割される。参照光LRは、光ファイバ22b、コリメータレンズ23、ガラスブロック24、濃度フィルタ25を経て光路長を合わせるための光軸方向に移動可能な参照ミラー26に到達する。ガラスブロック24、濃度フィルタ25は、参照光LRと信号光LSの光路長(光学距離)を合わせるための遅延手段として、また参照光LRと信号光LSの分散特性を合わせるための手段として機能する。
【0040】
信号光LSは、接続線8に挿通された光ファイバ22cにより図1の走査ユニット6を経由して眼底Efに到達し、眼底を水平方向(x方向)並びに垂直方向(y方向)に走査する。眼底Efに到達した信号光LSは、眼底Efで反射し、上記の経路を逆にたどって光カプラ22に戻ってくる。
【0041】
参照ミラー26で反射した参照光LRと眼底Efで反射した信号光LSは、光カプラ22により重畳され干渉光LCとなる。干渉光LCは、光ファイバ22dによりOCT信号検出装置21に導かれる。干渉光LCは、OCT信号検出装置21内でコリメータレンズ21aによって平行な光束とされたのち、回折格子21bに入射し分光され、結像レンズ21cによりCCD21dに結像される。OCT信号検出装置21は、分光された干渉光により眼底の深度方向(z方向)の情報を示すOCT信号を発生する。
【0042】
本実施形態に係る画像処理システムには、例えば、断層像撮影ユニット2と接続されたパーソナルコンピュータ等によって構成される画像処理装置3が設けられる。画像処理装置3には、CPU、RAM、ROMなどで構成された制御部30が設けられ、制御部30は画像処理プログラムを実行することにより、全体の画像処理を制御する。
【0043】
表示部31は、例えば、LCDなどのディスプレイ装置によって構成され、画像処理装置3で生成あるいは処理された断層画像や正面画像などの画像を表示したり、被検者に関する情報などの付随情報などを表示したりする。
【0044】
入力部32は、例えば、マウス、キーボード、入力ペンなどの入力手段で、表示部31に表示された画像に対して入力操作を行う。また、操作者は入力部32により画像処理装置3などに指示を与えることができる。
【0045】
画像処理装置3には断層画像形成部41が設けられる。断層画像形成部41は、フーリエドメイン法(スペクトラルドメイン法)などの公知の解析方法を実行する専用の電子回路、または、前述のCPUが実行する画像処理プログラムにより実現され、OCT信号検出装置21が検出したOCT信号に基づいて、眼底Efの断層画像を形成する。断層画像形成部41で形成された断層画像は、例えば半導体メモリ、ハードディスク装置等により構成された記憶部42に格納される。記憶部42は、さらに上述した画像処理プログラムなども格納する。
【0046】
また、画像処理装置3には画像処理部50が設けられ、画像処理部50は強調処理手段51、関心領域設定手段52、特徴量抽出手段53、疾患判定手段54、マッピング手段55を有する。
【0047】
強調処理手段51は、断層画像形成部41で形成された断層画像におけるスペックルパタンを強調処理する。断層画像形成部41で形成された断層画像には単なるノイズとスペックルとが混在しており、ノイズとスペックルとは断層画像上で区別することが困難である。スペックルパタンを積極的に利用することによって眼底断層画像からより詳細な眼底組織の状態に関する情報を得るために、本実施形態では極力ノイズを除去することによってスペックルパタンを強調する処理を行う。
【0048】
関心領域設定手段52は、強調処理手段51によってスペックルパタンが強調処理された断層画像における所望の領域を関心領域として設定する。関心領域は、検者がより詳細な眼底の状態に関する情報を得たいと考える領域であることが一般的であるが、断層画像に表れている眼底組織内の閉じられた領域であればこれに限られるものではない。眼底組織は層構造であるため、眼底の断層画像において関心領域は断層画像に表示された眼底の網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定され、複数の網膜層をまたぐように設定はしない。
【0049】
特徴量抽出手段53は、関心領域設定手段52によって設定された関心領域内におけるスペックルパタンの特徴量を抽出する。疾患判定手段54は、特徴量抽出手段53によって抽出されたスペックルパタンの特徴量に基づいて眼底の疾患判定を行う。眼底の疾患判定としては、例えば、眼底の疾患の有無を判定すること、その疾患の病名を判定すること、疾患の進行度合いを判定すること、疾患疑いの程度を判定すること等が挙げられる。マッピング手段55は、疾患判定手段54によって疾患があると判定された眼底の箇所を眼底断層画像にマッピングする。
【0050】
次に、本実施形態での画像処理を図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。この画像処理は、制御部30が記憶部42に格納された画像処理プログラムを読み出して実行することにより行われる。
【0051】
まず、ステップS1において行われる断層像の撮像に先立ち、被検眼Eと眼底撮影ユニット1のアライメントを行い、眼底Efにピントが合わされる。この状態で、低コヒーレンス光源20をオンにして、断層像撮影ユニット2からの信号光を走査ユニット6でx,y方向に掃引し、眼底Efを走査する。この状態が図4に図示されており、網膜の黄斑部が存在する領域Rが、x軸と平行な方向に、それぞれn本の走査線y、y、・・・、yで走査される。
【0052】
眼底Efで反射された信号光LSは、断層像撮影ユニット2において参照ミラー26で反射された参照光LRと重畳される。それにより干渉光LCが発生し、OCT信号検出装置21からOCT信号が発生する。断層画像形成部41は、このOCT信号に基づいて眼底Efの断層画像を形成し(ステップS2)、形成された断層画像は記憶部42に格納される。
【0053】
図5には、網膜の黄斑部のほぼ中心を通過する走査線yで得られたxz断層画像(B−スキャン像)の異なる時間t(i=1〜N)での断層画像T(i=1〜N)が図示されている。tとti+1の時間間隔は次の走査線yi+1までに要する時間に相当する。これらの断層画像T(i=1〜N)は、断層画像形成部41で時間t(i=1〜N)毎に形成され、記憶部42に順次格納される。
【0054】
記憶部42に順次格納された断層画像にはスペックルパタンSPがその他のノイズとともに表れている。本実施形態では、断層画像の画質を向上させるためにノイズは極力除去し、スペックルパタンSPのみを強調するために複数の断層画像の加算平均処理を行う。
【0055】
本実施形態では、異なる時間での同一箇所の断層画像T(i=1〜N)が100枚形成され(すなわち、N=100)、記憶部42に格納される。次に、ステップS3において、強調処理手段51によってスペックルパタンSPの強調処理が行われる。具体的には、100枚の断層画像T(i=1〜100)からスペックルパタンSPの似ている断層画像を10枚選び、その10枚の断層画像を記憶部42から読み出し、画素ごとに加算平均を行って加算平均画像Tを作成する。選んだ10枚の断層画像はスペックルパタンSPが似ているため、スペックルパタンSPは加算平均しても消失しないが、スペックルパタンSP以外のノイズは加算平均することによって消失するため、加算平均画像Tは全体としては画質が向上し、スペックルパタンSPが認識しやすくなる。作成された加算平均画像Tは記憶部42に格納される。図6は作成された加算平均画像Tを示す説明図である。加算平均画像Tにおいて、L1〜6は網膜層構造における層境界を示している。また、便宜上四つの領域I1、I2、S1、S2に分けている。
【0056】
続いてステップS4において、関心領域設定手段52によって加算平均画像Tに対して関心領域ROIの設定が行われる。具体的には、関心領域ROIは、図7に示すように、加算平均画像Tに表示された眼底の網膜層構造のうちの一の網膜層内に設定される。複数の網膜層をまたぐようには設定せず、また、網膜層構造中の血管Bは避けて設定する。このように関心領域ROIを設定することにより、網膜層構造中の領域別にスペックルパタンSPの特徴量解析を個別に実行することができるため、評価精度が向上して、より詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができる。
【0057】
関心領域ROIを設定すると、ステップS5において、特徴量抽出手段53によってその関心領域ROIごとにスペックルパタンSPの特徴量が抽出される。具体的には、関心領域ROIにおけるスペックルパタンSPの特徴量は次のように抽出される。まず、関心領域ROIにおいて画素ごとに信号強度を測り、信号強度に応じて256階調画像化処理を行って関心領域ROIにおける画像をデジタル化する。このデジタル化した画像データを元にして、図8に示すように、横軸に輝度、縦軸に画素数をとったヒストグラムを作成する。ここで、OCTのスペックルパタンはガンマ分布に従って定量化されるという知見を利用し、このヒストグラムに非線形回帰分析を用いて式1に示すガンマ分布関数を当てはめる。
【0058】
【数1】
【0059】
式1において、αは形状パラメータであり、βは尺度パラメータである。ガンマ分布関数の当てはめは、α、βに初期値を与え、繰り返し演算によって最適値を探索することによって行う。この二つのパラメータを以て当該関心領域ROIにおけるスペックルパタンSPの特徴量を表すことができ、特にα/βの比率によって当該関心領域ROIにおけるスペックルパタンSPの特徴量が代表される。
【0060】
関心領域ROIにおけるスペックルパタンSPの特徴量が抽出されれば、ステップS6において、疾患判定手段54によってその特徴量に基づいて当該関心領域ROIにおける疾患の有無が判定される。具体的には、疾患判定を行うために、記憶部42には前以て様々な眼底組織の状態を示す基準特徴量データを格納しておく。例えば、正常眼やある疾患を有する異常眼の眼底の断層画像に対し、あらかじめ上記ステップS3〜S5の処理を行ってスペックルパタンの特徴量を抽出しておき、眼底の状態と紐付けて当該特徴量を基準特徴量データとして記憶部42に記憶して、基準特徴量データベースを設けておく。そして、ステップS5にて抽出されたスペックルパタンSPの特徴量を基準特徴量データベースの特徴量データと照合し、特徴量の差に基づいて合致する又は近似する基準特徴量データをピックアップし、このピックアップされた基準特徴量データから当該関心領域ROIにおける疾患の有無や疾患の進行度などの眼底組織の状態を判断する。
【0061】
また、ステップS6における疾患判定は次のように行ってもよい。例えば、正常眼やある疾患を有する異常眼の眼底の断層画像を多数用意し、それら断層画像に対してあらかじめ上記ステップS3〜S5の処理を行ってスペックルパタンの特徴量を抽出し、疾患の有無とパラメータα及びβの関係、又は疾患の有無とα/βの比率の関係を集計しておく。さらに、パラメータα及びβや、α/β比率がどのような値を超えると当該関心領域ROIにおいて疾患があると認められるのか解析を行い、疾患判定に使用するしきい値を定めておく。そして、ステップS5にて抽出されたスペックルパタンの特徴量がそのしきい値を超えているかどうかによって当該関心領域ROIにおける疾患の有無や疾患の進行度などの眼底組織の状態を判断する。
【0062】
続いてステップS7において、マッピング手段55によって疾患があると判定された眼底の箇所が加算平均画像Tにマッピングされる。眼底断層画像に疾患部位がマッピングされ、例えば表示部31によって表示されれば、疾患判定の結果を容易に把握することができる。なお、疾患部位の眼底断層画像へのマッピングをカラーで行うことにより、より結果の把握は容易になる。
【0063】
上記のように画像処理を行うと、スペックルパタンを積極的に利用することによって眼底断層画像からより詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ることができるとともに、眼底の疾患判定をすることができる。
【0064】
以上、本発明に係る画像処理システムについて図面に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 眼底撮影ユニット
2 断層像撮影ユニット
3 画像処理装置
4 照明光学系
5 撮影光学系
6 走査ユニット
20 低コヒーレンス光源
21 OCT信号検出装置
30 制御部
31 表示部
32 入力部
41 断層画像形成部
42 記憶部
50 画像処理部
51 強調処理手段
52 関心領域設定手段
53 特徴量抽出手段
54 疾患判定手段
55 マッピング手段
100 撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8