(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644013
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】高圧配電用がいし
(51)【国際特許分類】
H01B 17/20 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
H01B17/20 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-48168(P2017-48168)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-152262(P2018-152262A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 光洋
(72)【発明者】
【氏名】松野 直也
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭63−43845(JP,B2)
【文献】
実公昭62−4971(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁器製のがいし本体の中央に金属軸がセメンチングされた高圧配電用がいしであって、撥水性のシリコーン樹脂皮膜が磁器製のがいし本体から始まり、セメンチング部すべてを覆い、金属軸の表面のがいし本体の外側に露出する位置まで連続して形成されていることを特徴とする高圧配電用がいし。
【請求項2】
磁器製のがいし本体が、頭部の外周に電線保持溝を備えた構造であり、シリコーン樹脂皮膜を金属軸のアーム取付部まで形成したことを特徴とする請求項1に記載の高圧配電用がいし。
【請求項3】
磁器製のがいし本体が、ピン連結用の頭部金具を備えた構造であり、シリコーン樹脂皮膜を金属軸のピン連結部の直上位置まで形成したことを特徴とする請求項1に記載の高圧配電用がいし。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば6.6kVクラスの配電に用いられる高圧配電用がいしに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧配電用がいしとしては、高圧ピンがいし、高圧耐張がいしなどの、磁器製のがいし本体の中央に金属軸がセメンチングされたがいしが広く用いられている。
【0003】
高圧ピンがいしは、金属軸をアームに固定し、がいし本体の頭部の外周に形成された電線保持溝に絶縁電線を保持させて使用される。また高圧耐張がいしは、がいし本体に頭部金具を備えたものであり、高圧電線の引き止め箇所に使用される。これらの高圧配電用がいしには、次のような問題があった。
【0004】
まず高圧ピンがいしについて説明する。高圧ピンがいしの磁器製のがいし本体の表面は親水性の釉薬で覆われている。このため塩害等で汚損が生じると、塩分の潮解性も加わり、比較的大きな漏れ電流が流れる。その結果、がいし本体の全体の温度が上がり、表面が乾燥して絶縁状態が復活する。これに対してがいし本体の頭部に取り付けられた絶縁電線はポリエチレンや架橋ポリエチレンの被覆で覆われていることが多く、これらは撥水性である。
【0005】
高圧ピンがいしにおける一般的な漏れ電流は、絶縁電線の表面を伝わり、磁器製のがいし本体の表面から金属軸に流れていく。一般的には、最初に撥水性である絶縁電線を一周するドライバンドが形成され、その部分の絶縁抵抗が上昇すると線路電圧のほぼ全てがそのドライバンドの箇所に加わる。
【0006】
絶縁電線は磁器製のがいし本体よりも小径であるから電流密度が高く、撥水性であることも加わって少ない漏れ電流でドライバンドが維持される。これに対して磁器製のがいし本体は漏れ電流が少なく、表面が濡れた状態であり、十分な絶縁ができていない状態となる。このように、線路電圧のほぼ全てが絶縁電線のドライバンドに加わることで、絶縁電線の表面で放電が生じる。放電状態が続くと、絶縁電線のドライバンド箇所でトラッキングが発生し、やがて絶縁電線の絶縁破壊が生じる。
【0007】
次に高圧耐張がいしについて説明する。高圧耐張がいしは磁器製のがいし本体に頭部金具を備えた構造であり、この頭部金具は亜鉛メッキされている。しかし高圧電線引き止め箇所に使用する高圧耐張がいしは絶縁電線の絶縁被覆を剥いだ電線を直接把持するクランプとがいし本体の金属軸を直接連結して使用されるため、漏れ電流が多く、頭部金具と連結金具との接合箇所に酸化亜鉛による絶縁皮膜が形成されるとギャップが生じ、電波障害を発生させることがあった。
【0008】
また、金属軸側に充電部の露出箇所があるため、塩分を含む雪ががいし全体を覆ったり、がいし本体の内部に入ると、地絡・短絡事故に至る塩雪害が発生していた。また、漏れ電流が多いことから、引止めグリップなど絶縁被覆を剥かずに把持するものを利用するとトラッキングが発生するため、クランプなど被覆を剥いて把持する方法に限定されていた。
【0009】
上記のような高圧配電用がいしの問題点を解決するために、特許文献1には、高圧耐張がいしの金属軸のうち、がいし本体から露出した部分とがいし本体の内側に入った部分までシリコーン樹脂コーティングを形成することが提案されている。しかしこの構造では磁器部の汚損を遅らせる効果は得られるものの、親水性の磁器がいしと撥水性のシリコーン樹脂では漏れ電流のレベルが10倍ほど異なるため、トラッキングを抑制する効果は皆無である。
【0010】
またこの特許文献1では、絶縁樹脂コーティングの長さを短くすることによって、雷サージを受けたときには金属軸に閃絡し、絶縁樹脂コーティングにピンホールが生じないようにしてある。しかし、金属軸のうちがいし本体の内側に入った部分、及び金属軸をがいし本体にセメンチングしているセメント表面は絶縁されていないため、がいし本体の内部に雪が入り込むと絶縁破壊のおそれがあった。更にがいし本体が汚損湿潤し、表面抵抗が低下した場合、漏れ電流経路は金属軸からセメント表面を経由し、磁器表面から頭部金具となるため、一部の金属軸をシリコーン樹脂で覆う構造ではトラッキングを抑制する効果は無い。
【0011】
このほか特許文献2には、がいし本体に金属軸をセメンチングしているセメンチング部の表面に、シリコーン樹脂コーティングを形成することが提案されている。しかしがいし本体の内部に塩分が入りセメンチング部の表面に付着すると漏れ電流が増加し、短期間で効果が失われることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公昭62−4971号公報
【特許文献2】特公昭63−43845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、漏れ電流を小さくしてトラッキングや絶縁破壊を防止することができ、塩分を含む雪ががいし全体を覆ったり、がいし本体の内部に入った場合にも地絡・短絡事故に至ることがない高圧配電用がいしを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、磁器製のがいし本体の中央に金属軸がセメンチングされた高圧配電用がいしであって、撥水性のシリコーン樹脂皮膜が磁器製の
がいし本体から始まり、セメンチング部すべてを覆い、金属軸の表面
のがいし本体の外側に露出する位置まで連続して形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
なお請求項2のように、磁器製のがいし本体が頭部の外周に電線保持溝を備えた構造である高圧ピンがいしの場合、シリコーン樹脂皮膜を金属軸のアーム取付部まで形成することが好ましい。また請求項3のように、磁器製のがいし本体がピン連結用の頭部金具を備えた構造である高圧耐張がいしの場合、シリコーン樹脂皮膜を金属軸のピン連結部の直上位置まで形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高圧配電用がいしは、セメンチング部の表面及び金属軸の表面に、撥水性のシリコーン樹脂皮膜を連続して形成したものであり、シリコーン樹脂部分が最も径の細い金属軸の部分にあるため、漏れ電流はシリコーン樹脂部分で最も電流密度が高くなる。このためシリコーン樹脂部分でドライバンドが形成され、少ない漏れ電流で絶縁が維持される。また、撥水性のシリコーン樹脂皮膜が、磁器製のガイシ本体から始まり、セメンチング部すべてを覆い、金属軸の表面
のがいし本体の外側に露出する位置まで連続して形成されている構造であるので、セメンチング部の耐汚損特性を強化することにより、耐久性及び耐汚損特性をさらに向上させることができる。
【0017】
また本発明を高圧耐張がいしに適用すれば、同様に漏れ電流を抑制できるほか、シリコーン樹脂皮膜を金属軸の表面の長い部分にわたって連続して形成しているので、塩分を含む雪ががいし全体を覆ったり、がいし本体の内部に入った場合にも地絡・短絡事故に至ることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を高圧ピンがいしに適用した第1の実施形態を示す部分断面図である。
【
図2】本発明を高圧耐張がいしに適用した第2の実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明を高圧ピンがいしに適用した第1の実施形態を示す図であり、1は磁器製のがいし本体、2はがいし本体1の中央にセメンチング部3によって固定された金属軸である。
【0020】
がいし本体1は頭部の外周に電線保持溝4を備えており、絶縁被覆された絶縁電線(図示せず)をバインド線などによって保持することができる。またがいし本体1の裏面(下側面)には複数の環状リブ5が突設されており、沿面絶縁距離を確保している。がいし本体1の裏面中央には縦孔6が形成されており、金属軸2の上端が挿入され、セメントで固定されている。
【0021】
金属軸2の下部には雄ねじ7が形成されている。またその上方には、高圧ピンがいしをアームの取付孔に取り付けるための鍔8が設けられている。この鍔8をアームの上端面に載せ、下側からナット9を締めることにより固定することができる。
【0022】
セメンチング部3の表面及び金属軸2の表面には、撥水性のシリコーン樹脂皮膜10が連続して形成されている。シリコーン樹脂皮膜10の下端は、金属軸2のアーム取付部である鍔8まで達している。このようなシリコーン樹脂皮膜10は、金属軸2にシリコーンチューブを被せ、セメンチングして固定した後に、上下を反転させてセメンチング部3の上にもシリコーンを充填する方法で製造することができる。なお図示されるように、シリコーン樹脂皮膜10が磁器製のガイシ本体1から始まり、セメンチング部3のすべてを覆い、金属軸2の表面まで連続して形成されている構造とした。このような構造とすることによってセメンチング部3の耐汚損特性を強化し、耐久性及び耐汚損特性を向上させることができる。
【0023】
一般の磁器がいしの表面は親水性であり、がいしが汚損されると漏れ電流が流れ、その発熱で絶縁を維持する性質を持つ。しかしこの高圧ピンがいしでは最も径の細い金属軸2の部分にシリコーン樹脂皮膜10が形成されているため、漏れ電流の密度はこの部分で最大となってドライバンドが形成される。このため少ない漏れ電流で絶縁を維持することができる。
【0024】
また、絶縁電線の径と金属軸2のシリコーン樹脂皮膜10の径とは大差がないうえ、絶縁電線においてはがいしの両側から漏れ電流が流れてくるのに対して、金属軸2の部分では漏れ電流は一か所に纏まる。このためドライバンドは金属軸2のシリコーン樹脂皮膜10の部分に形成され、絶縁電線上には形成されにくい。従って絶縁電線上のトラッキングは発生しにくくなり、電線寿命を延ばすことができる。なお、シリコーン樹脂は漏れ電流により劣化しても炭化物を表面に抽出しないので、絶縁電線に比べて劣化の進行は遅い。
【0025】
さらにこの高圧ピンがいしは、元の磁器がいしに比べて電線取付部と接地部(アーム)との沿面距離が増加するため、放電開始電圧が上昇する。これにより、避雷器などと組み合わせた場合の保護範囲を広げることができる。
【0026】
なお、表面をシリコーンで覆ったポリマーがいしは、芯材に用いるグラスファイバーの曲げ強度が金属軸2よりも小さいので曲がり易く、金属軸2と同等の強度を持たせるためには軸径を太くしなければならない。この結果、軸部分の電流密度が下がりドライバンドを維持するに要する電流が増加するから、軸部よりも絶縁電線上でドライバンドが形成されることとなり、トラッキングを防止することができない。
【0027】
また、ポリマーがいしはエロージョンによる経年劣化が発生し、取り換え時期を誤ると事故につながる可能性があったが、この高圧ピンがいしはシリコーン樹脂皮膜10が劣化した場合にも磁器製のがいし本体1が絶縁を保つので、事故発生につながることがない。
【0028】
図2は本発明を磁器耐張がいしに適用した第2の実施形態を示す図である。20は磁器製のがいし本体であり、その頭部には金属キャップ21がセメントにより固定されている。金属キャップ21には連結孔22が形成されている。またがいし本体20の外周には環状溝23が形成され、がいし本体20の裏面には環状リブ24が形成されている。
【0029】
がいし本体20の裏面中央には、金属軸25の上端がセメンチング部26によって固定されている。この金属軸25の先端部は段差のあるピン連結部27であり、高圧電線引止め用の孔28が形成されており、図示しない適宜の金具によって高圧電線が固定される。
【0030】
前記した実施形態1と同様に、セメンチング部26の表面及び金属軸25の表面には、撥水性のシリコーン樹脂皮膜29が連続して形成されている。このシリコーン樹脂皮膜29も磁器製のガイシ本体20から始まり、セメンチング部26のすべてを覆い、金属軸25の表面まで連続して形成されており、この実施形態ではシリコーン樹脂皮膜29の下端は、ピン連結部27の直上位置まで形成されている。このシリコーン樹脂皮膜29も前記と同様の方法で形成することができる。
【0031】
このように構成された高圧耐張がいしは多くの場合、横向きに使用されるものであり、塩分を含む雪ががいし全体を覆ったり、がいし本体20の裏面内部に入ることがあるが、充電部である金属軸25の表面がシリコーン樹脂皮膜29によって覆われ、シリコーン樹脂皮膜29のない箇所は絶縁性のクランプカバーで覆われているため充電部の露出部分がなくなり、地絡・短絡事故に至ることがない。
【0032】
またこの高圧耐張がいしの場合にも、高圧ピンがいしの場合と同様に漏れ電流が大幅に減少し、電波障害を防止することができる。また漏れ電流が大幅に減少することから、引止めグリップなど被覆を剥かずに把持するものを利用することが可能となる。
【0033】
なお、実験による検証を行ったところ、金属軸25の表面に形成されたシリコーン樹脂皮膜29の長さががいし本体20内に隠れるほど短い場合には、シリコーン樹脂皮膜29に付着した海水がシリコーン樹脂皮膜29に発生するドライバンドにより乾燥し、表面に結晶が形成される。海水の成分には潮解性のある塩化マグネシウムや塩化カルシウムがあるため、空中の水分により漏れ電流を増加させる。そのためシリコーン樹脂皮膜29による漏れ電流抑制効果は比較的短期間で消滅する。これに対して実施形態のようにシリコーン樹脂皮膜29の長さを長くしてがいし本体20の外側に露出させておけば、降雨により洗浄される部分ができ、漏れ電流抑制効果が長期間維持されることを確認した。
【0034】
以上に説明したように、本発明の高圧配電用がいしは、漏れ電流を小さくしてトラッキングや絶縁破壊を防止することができ、塩分を含む雪ががいしがいし全体を覆ったり、がいし本体の内部に入った場合にも地絡・短絡事故に至ることがない利点がある。
【符号の説明】
【0035】
1 磁器製のがいし本体
2 金属軸
3 セメンチング部
4 電線保持溝
5 環状リブ
6 縦孔
7 雄ねじ
8 鍔
9 ナット
10 シリコーン樹脂皮膜
20 磁器製のがいし本体
21 金属キャップ
22 連結孔
23 環状溝
24 環状リブ
25 金属軸
26 セメンチング部
27 ピン連結部
28 高圧電線引止め用の孔
29 シリコーン樹脂皮膜