(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。なお、以下の説明における上下、左右、および前後の各方向(互いに直交する方向)は
図1等に示す通りである。下方向は鉛直下向きに一致し、前後および左右方向は水平方向に含まれる。
【0016】
1.フィラメント3次元結合体製造装置
まず、本実施形態に係るフィラメント3次元結合体を製造する製造装置(フィラメント3次元結合体製造装置)の一例について説明する。
図1は、当該製造装置1の概略的な構成図である。
図2は、
図1に示す製造装置1のA−A’断面矢視図であり、
図3は、
図1に示す厚み規制部22近傍の概略的な構成図である。
【0017】
製造装置1は、複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群2を鉛直方向下方へ排出する溶融フィラメント供給装置10と、複数の溶融フィラメントどうしを3次元的に融着結合させながら冷却固化させることにより、溶融フィラメント同士が3次元的に融着結合したフィラメント3次元結合体を形成する3次元結合体形成装置20を備える。
【0018】
溶融フィラメント供給装置10は、加圧溶融部11(押出機)とダイ12を含む。加圧溶融部11は、材料投入部13(ホッパー)、スクリュー14、スクリューモーター15、スクリューヒーター16、および図示しない複数の温度センサーを含む。
【0019】
加圧溶融部11の内部には、材料投入部13から供給された熱可塑性樹脂を加熱溶融しながら搬送するためのシリンダー11aが形成されており、スクリュー14が回転可能に収容されている。シリンダー11aの下流側端部には熱可塑性樹脂をダイ12に向けて排出するためのフィラメント排出部11bが形成されている。
【0020】
ダイ12は、複数のノズル孔が形成されたノズル部17、複数のダイヒーター18a〜18f、および図示しない複数の温度センサーを含む。ダイ12の内部には、加熱溶融部11のフィラメント排出部11bから排出された溶融熱可塑性樹脂をノズル部17に導く導流路12aが形成されている。
【0021】
3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント供給装置10から供給される溶融フィラメント群2の融着結合と冷却固化を行い、フィラメント3次元結合体を形成する装置である。3次元結合体形成装置20は、溶融フィラメント群2を冷却する冷却水を貯留する冷却水槽21、溶融フィラメント群2の厚みを規制しながら3次元結合を形成させる厚み規制部22、コンベア部24、および複数の搬送ローラ25a〜25hを含む。
【0022】
厚み規制部22は、金属板で形成される2枚で一対の受け板22a、22bで構成され、それらは所定の間隙を設けて前後に対向するように配置される。一対の受け板22a、22bは、これらの間に位置する対称面(法線方向が前後方向に一致する)を基準としてほぼ対称に配置されている。受け板22a、22bは、それぞれ当該対称面へ近づくように下り傾斜となる傾斜面22a1、22b1と、これらの下端から鉛直下方へ伸びる鉛直面22a2、22b2を有する。傾斜面22a1、22b1と鉛直面22a2、22b2の各接合点(左右方向に伸びる接合線)は、冷却水槽21に貯留される冷却水の水面と略一致するように配設されている。
【0023】
傾斜面22a1、22b1の上流部には図示しない給水口が設けられており、傾斜面22a1、22b1の表面に水膜が形成されるようになっている。溶融フィラメント群の厚み方向両端部近傍の溶融フィラメントは、傾斜面22a1、22b1により受け止められた後、その傾斜をスライドするようにして鉛直面22a2、22b2の間に導かれ、冷却水槽21の冷却水によって冷却固化されて、融着結合すると同時に平滑な高密度表面層(フィラメント3次元結合体の厚み方向端部の表面層)を形成する。
【0024】
コンベア部24は、一対の搬送コンベア24a、24b(一対のスラットコンベア)で構成され、一対の受け板22a、22bの下方において、フィラメント3次元結合体の厚みに対応する隙間を空けて前後方向に対向するように配設されている。搬送コンベア24a、24bは、厚み規制部22から当該隙間に送られてきたフィラメント3次元結合体3を、下方へ搬送するように駆動する。搬送コンベア24a、24bの駆動速度(フィラメント3次元結合体の搬送速度)は、溶融フィラメントの落下速度と同等以上になると溶融フィラメントのループが形成されないため、溶融フィラメントの落下速度より遅い速度に設定される。
【0025】
搬送コンベア24a、24bの移動速度が遅い程、溶融フィラメントの密度が高くなり、反発力の高い高密度のフィラメント3次元結合体が形成される。反発力はフィラメント3次元結合体が使用されるマットレスやクッション等の仕様に応じて決められるが、通常、溶融フィラメントの落下速度に対して5〜20%程度に設定される。搬送コンベア24a、24bの具体的形態については、搬送面が平滑な搬送部材であれば特に制限はなく、金属メッシュベルトやプラスチックモジュラーチェーンを用いたコンベアなどを用いてもよい。
【0026】
搬送コンベア24a、24bは、フィラメント3次元結合体の搬送方向に平行な外周面の全面に接触するように、フィラメント3次元結合体の外周形状に合わせて設けることが望ましい。但し、このようにすると搬送コンベア24a、24bの機構が複雑化することを考慮し、搬送コンベア24a、24bをフィラメント3次元結合体の両端部(マットレス側壁部に該当)には接触させずに、厚みの均一な中央部付近だけに接触させて搬送するようにしてもよい。搬送コンベア24a、24bの搬送方向下流側には、フィラメント3次元結合体を冷却水槽21の外側にまで搬送する複数の搬送ローラ25a〜25hが設けられている。
【0027】
厚み規制部22、コンベア部24および複数の搬送ローラ25a〜25hは、図示しない駆動モーターおよび駆動ギアによって駆動され、溶融フィラメント群2またはフィラメント3次元結合体3を搬送する。当該駆動の速度は所定の操作等によって調節可能であり、フィラメント3次元結合体の搬送速度(引取り速度)を調節することが可能である。フィラメント3次元結合体3は、冷却水により十分に冷却されて冷却水槽21の外側にまで搬送され、適度な長さで切断されることにより、マットレス等の製造に使用されるフィラメント3次元結合体100(
図11等を参照)が得られる。
【0028】
なお、フィラメント3次元結合体(3、100)について、長さ方向は、搬送コンベア24a、24b等によるフィラメント3次元結合体の搬送方向(厚み規制部22を通る時点での上下方向)に対応し、厚み方向は、一対の厚み規制部22それぞれが対向する方向(厚み規制部22を通る時点での前後方向)に対応し、幅方向は、長さ方向と厚み方向に直交する方向(厚み規制部22を通る時点での左右方向)に対応する。
【0029】
図4は、
図1に示すノズル部17の平面図(下側から見た図)である。ノズル部17は、複数のノズル(円形開口部)17aが形成された略直方体の金属製の厚板であり、導流路12aの最下流部にあたるダイ12の下部に設けられている。
【0030】
本実施形態における各ノズル17aは、ノズル径1mmである円形開口部とし、ノズルピッチ10mmで千鳥状に配設している。すなわち、隣合うノズル17a同士の距離は10mmであり、端側に配設されたものを除く一のノズル17aの周囲に、それぞれ当該一のノズル17aから10mm離れた6個の他のノズル17a(当該一のノズル17aを中心として60°ずつずれた位置にある)が存在するように、各ノズル17aが配設されている。このように千鳥状にノズル17aを配設することにより、後述する多層多列ハニカムループ構造が形成し易くなる。フィラメント3次元結合体の反発力や圧縮時高さ率の仕様に基づき、ノズル径やノズルピッチ、あるいはノズル形状やノズル配置を適宜調整することができる。
【0031】
本実施形態でフィラメント3次元結合体の材料として用いることのできる熱可塑性樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリスチレン樹脂や、スチレン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー等の熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。
【0032】
材料投入部13から供給された熱可塑性樹脂は、シリンダー11a内で加熱溶融された後、溶融熱可塑性樹脂としてフィラメント排出部11bからダイ12の導流路12aに供給される。この溶融した熱可塑性樹脂は、ノズル部17における複数のノズル17aから、複数の溶融フィラメントからなる溶融フィラメント群2として3次元結合体形成装置20に向けて排出される。
【0033】
2.フィラメントのループ構造
フィラメント3次元結合体を構成する樹脂のフィラメントそれぞれは、ランダムループ構造やハニカムループ構造といったループ構造を形成し、その形成には、フィラメント3次元結合体の製造条件等が関係している。以下、これらのループ構造の形成について詳細に説明する。
【0034】
フィラメント3次元結合体の製造過程においては、各ノズル(本実施形態の各ノズル17aに相当)から溶融フィラメントを冷却水中に落下させて、水平方向に広がるループ(以下、「フィラメントループ」と称する)を水の浮力によって形成させる。通常、そのフィラメントループの広がり(当該ループの直径であるループ径)は、隣接するノズル間距離(ノズルピッチ)よりも大きくなる。ループ径の大きな溶融フィラメントを形成することにより、隣接するノズルから排出された溶融フィラメントのみならず、隣接していないノズル(距離の離れたノズル)から排出された溶融フィラメントとも融着結合して、一般的なフィラメント3次元結合体に見られるランダムループ構造(詳しくは後述の説明により明らかとなる)が形成される。
【0035】
図5は、溶融フィラメントの直径とループ径との関係を概念的に示す模式図であり、
図6は、溶融フィラメントの温度および粘度とループ径との関係を概念的に示す模式図である。なお
図5において、A1は溶融フィラメントの直径が0.8mmの場合に形成されるフィラメントループを、A2は溶融フィラメントの直径が1.2mmの場合に形成されるフィラメントループを、A3は溶融フィラメントの直径が2mmの場合に形成されるフィラメントループを、それぞれ概念的に示している。また
図6において、B1は溶融フィラメントの温度が比較的高い場合(粘度が比較的低い場合)に形成されるフィラメントループを、B2はB1の場合に比べて溶融フィラメントの温度が低い場合(粘度が高い場合)に形成されるフィラメントループを、B3はB2の場合に比べて溶融フィラメントの温度が低い場合(粘度が高い場合)に形成されるフィラメントループを、それぞれ概念的に示している。
【0036】
溶融フィラメントのループ径は一定ではないものの、
図5および
図6に示すように、平均的なループ径は、溶融フィラメントの冷却水中への投入時における柔軟性(溶融フィラメントの加熱温度により調整される溶融粘度)或いは溶融フィラメントの太さ(ノズルの開口部の直径で調整される溶融フィラメントの直径)のパラメータを変えることにより調整可能である。
【0037】
加熱温度を高くしてフィラメントの溶融粘度を低くすると、溶融フィラメントのループ径を小さくすることができ、溶融フィラメントの直径を大きくすると、溶融フィラメントのループ径を大きくすることができる。また逆に、フィラメントの溶融粘度を高くして当該ループ径を大きくすることや、溶融フィラメントの直径を小さくして当該ループ径を小さくすることも可能である。
【0038】
図7は、引取り速度比とループピッチとの関係を概念的に示す模式図である。「ループピッチ」は、溶融フィラメントのループが1回転する間に進む距離であり、「引取り速度比」は、冷却水への溶融フィラメントの落下速度V1に対するフィラメント3次元結合体の引取り速度V2(搬送コンベアの搬送速度)の比(=V2/V1)である。なお
図7において、C1は引取り速度比が20%の場合に形成されるフィラメントループを、C2は引取り速度比が15%の場合に形成されるフィラメントループを、C3は引取り速度比が10%の場合に形成されるフィラメントループを、C4は引取り速度比が5%の場合に形成されるフィラメントループを、それぞれ概念的に示している。
【0039】
図7に示すように、ループピッチは引取り速度比に概ね比例し、引取り速度比が小さいほどループピッチも小さくなる。ところが、引取り速度比がある一定の値より小さくなると、上記比例関係で推定されるループ径やループピッチに比べて著しく小さいループ径やループピッチが形成されると同時に、円筒形状のフィラメントループが平行に積層したハニカムループ構造が形成されることを出願人は見出した。
【0040】
ランダムループ構造とハニカムループ構造の違いについて、
図8および
図9を参照しながら説明する。
図8は、ランダムループ構造とハニカムループ構造の違いを概念的に示す上面図であり、
図9は、ランダムループ構造とハニカムループ構造の違いを概念的に示す側面図である。
図8(A)および
図9(A)はランダムループ構造を示し、
図8(B)および
図9(B)はハニカムループ構造を示している。
【0041】
ハニカムループ構造の形成メカニズムは次のとおりである。引取り速度比がある値より小さくなると、隣接する溶融フィラメントのループの広がりを抑えるような円筒状の壁(実際には空隙率が高い)が形成され、ループ径が小さくなると推定される。ループ径が小さくなると、水平方向へ広がることを規制された溶融フィラメントは限られたループ径の中でループを形成することでループピッチが短くなる。最終的には複数の溶融フィラメントのループ径がノズルピッチと略同等になるまで、ループ径は小さくなり、その結果、ループ形状の揃ったハニカムループ構造が形成されると推定される。通常、ランダムループ構造のループ径はノズルピッチより大きいが、ハニカムループ構造のループ径はノズルピッチと略同等である。ただし、ハニカムループ構造が一旦形成されたとしても、何かのきっかけにより再びループ径が大きくなり、それに伴ってループピッチが長くなりランダムループ構造に戻りやすい。
【0042】
また、厚み方向表面層近傍においては、フィラメントループの形状がランダムループ構造になりやすいため、ハニカムループ構造が形成され難い。ランダムループ構造では、フィラメント密度が局所的に著しく低下したり、フィラメント結合点密度が極端に低くなる領域が形成されることがある。しかし表面層のフィラメント密度とフィラメント結合点密度を高くして高密度表面層を形成することにより、このようなランダムループ構造の欠点を補うと同時に、ループ径が大きくなることによる軟らかい寝心地が得られるというランダムループ構造の利点を活かすことが可能である。
【0043】
図10は、多層多列ハニカムループ構造を概念的に示す模式図である。引取り速度比をさらに小さくする、もしくは、溶融フィラメントの加熱温度をさらに上げて溶融粘度を下げることにより、優先的にハニカムループ構造が形成されるようになる。優先的にハニカムループ構造が形成される条件においては、多層多列ハニカムループ構造が形成される。なお、溶融フィラメントの温度を高く(溶融粘度を小さく)し過ぎると、ループ径がノズルピッチ未満の小さいループが形成されるのでハニカムループ構造は形成され難くなる。
【0044】
なお本願において「多層多列ハニカムループ構造」は、ループ径がノズルピッチと略同等となる円筒形状のフィラメントループ(ハニカムループ構造)が3層3列以上に積層した構造のことを示し、フィラメント3次元結合体厚み方向に連続して並ぶループの数を層とし、フィラメント3次元結合体幅方向に連続して並ぶループの数を列とする。積層の層数は特に制限されないが、通常、フィラメント3次元結合体の厚みにより制限され20層以下となる。
【0045】
高密度表面層が形成されるフィラメント3次元結合体においては、高密度表面層が形成されるフィラメント3次元結合体の厚み方向両端部近傍(具体的には端部から2cm以内)に多層多列ハニカムループ構造が形成される必要はなく、フィラメント3次元結合体の厚み方向中央部に形成されていればよい。なお、多層多列ハニカムループ構造の形態としては、連続的に形成される(フィラメント3次元結合体の長さ方向において、端から端まで多層多列ハニカムループ構造が続く)形態や、断続的に形成される(フィラメント3次元結合体の長さ方向において、多層多列ハニカムループ構造とランダムループ構造が交互に形成される)形態等が挙げられる。
【0046】
多層多列ハニカムループ構造は、引取り速度比が小さい程、形成されやすくなる。そのため多層多列ハニカムループ構造を安定的に形成するためには、引取り速度比を一時的に遅くして、多層多列ハニカムループ構造を安定的に形成させた後、所望の反発力(フィラメント密度)が得られる引取り速度比になるまで、徐々に引取り速度比を上昇させる方法が好ましい。これにより、引取り速度比を変えずに製造を開始した場合より安定的に多層多列ハニカムループ構造が形成される。
【0047】
なお、引取り速度比の算出に必要な落下速度は、落下する溶融フィラメントに着色剤(顔料粉末が好ましい)を吹き付けてマーキングし、そのスピードを直接測定する方法が利用できるが、本実施形態においては、着色剤の粉末を塗したガラス棒を用いて、ノズルから落下する溶融フィラメントに着色剤を付着させた後、再度10秒後に溶融フィラメントに着色剤を付着させて、10秒間で排出される溶融フィラメントの長さから、1秒あたりの溶融フィラメントの落下速度を算出した。
【0048】
3.フィラメント3次元結合体
図11は、本実施形態に係るフィラメント3次元結合体100の概略的な断面図である。フィラメント3次元結合体100は、先述した製造装置1により製造可能である。また
図12は、フィラメント3次元結合体100の一実施例の断面を撮影した写真である。また
図13Aは、当該フィラメント3次元結合体におけるハニカムループ構造の部分(ハニカムループ構造層100c)を切り出して撮影した写真である。また
図13Bは、当該フィラメント3次元結合体におけるランダムループ構造の部分(ランダムループ構造層100b)を切り出して撮影した写真である。なおこれらの写真には、内容が理解容易となるように適切な画像処理を施している。
【0049】
フィラメント3次元結合体100は、厚み方向両端部に形成されるフィラメント密度が相対的に高い高密度表面層100aと、それら高密度表面層100aにそれぞれ隣接して厚み方向中央部側に形成されるランダムループ構造層100bと、それらランダムループ構造層100bに隣接して厚み方向中央部側に形成されるハニカムループ構造層100cとを有する。
【0050】
すなわちフィラメント3次元結合体100は、高密度表面層100a、ランダムループ構造層100b、およびハニカムループ構造層100cが、厚み方向両端部から中央部へ向けて順に隣接して形成されている。なおフィラメント3次元結合体100の厚さ(厚み方向寸法)については特に限定されないが、例えば5cm〜30cmとされる。本発明は、この程度の厚手のフィラメント3次元結合体において特に有用である。また一例として、ハニカムループ構造層100cの厚さを、フィラメント3次元結合体100の厚さの1/2程度とし、その両側のランダムループ構造層100bの厚さを、それぞれフィラメント3次元結合体100の厚さの1/4程度とすることができる。
【0051】
高密度表面層100aは、既に説明したとおり、傾斜面22a1、22b1を利用して形成される。すなわち、前後方向両端部近傍のノズル17aから排出された溶融フィラメント(溶融フィラメント群2の厚み方向両端部近傍の溶融フィラメント)は、傾斜面22a1、22b1により受け止められた後、厚み方向中央寄りである鉛直面22a2、22b2の間に導かれるため、両端部の溶融フィラメントは高密度化される。この部分が冷却水槽21の冷却水によって冷却固化されることにより、高密度である高密度表面層100aが形成される。高密度表面層100aは、ランダムループ構造層100bおよびハニカムループ構造層100cよりもフィラメント密度が高く、このような層が表面に形成されることにより、フィラメント3次元結合体100の型崩れ等は極力抑えられる。
【0052】
ランダムループ構造層100bは、ランダムループ構造が主として形成される領域(層)であり、製造時における搬送方向を法線方向とする断面(フィラメント3次元結合体の厚み方向と幅方向を含む断面であり、以下「水平断面」とする)において、ノズルピッチと略同等のループ径であるフィラメントループが複数個隣接して形成されていない領域である。例えば、ランダムループ構造層100bにおいて、ランダムループ構造が占有する占有面積率、すなわち、水平断面の総面積S1に対するランダムループ構造が占有する総面積S2の比(=S2/S1)は50%以上である。
【0053】
ハニカムループ構造層100cは、多層多列ハニカムループ構造が主として形成される領域(層)であり、水平断面において、ノズルピッチと略同等のループ径であるフィラメントループが複数個隣接して形成されている領域である。
【0054】
多層多列ハニカムループ構造の判別方法としては、水平断面において、ノズルピッチと略同等のループ径であるフィラメントループが形成されているか否かで判別する方法が挙げられる。このようなループ径のフィラメントループが占有する占有面積率、すなわち、水平断面の総面積S3に対するノズルピッチと略同等のループ径であるフィラメントループが占有する総面積S4の比(=S4/S3)が大きい程、結合点密度が局所的に著しく小さくなる現象の発生を抑えることができ、ハニカムループ構造に基づく効果(結合点密度が局所的に著しく小さくなる現象が発生し難いことから、伸ばされる力が加わってもフィラメント同士の結合が切れ難くなる効果等)が得られる。
【0055】
この効果を十分に得るための上記占有面積率としては、50%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。なお、
図12に示すハニカムループ構造層においては、多層多列ハニカムループ構造の占有面積率は約80%となっており、結合点密度が著しく小さい箇所の発生は認められず、安定したフィラメント密度と結合点密度が得られている。
【0056】
以上のように、本実施形態に係るフィラメント3次元結合体100は、複数のフィラメント同士が立体的に融着結合したものであって、厚み方向中央部を含む領域にハニカムループ構造層100cが形成されている。そのため、
図15に示すような局所的荷重が加わった際にも、厚み方向中央部がランダムループ構造で形成された場合に比べ、厚み方向中央部においてフィラメントの結合が切れ難くなっている。
【0057】
更にフィラメント3次元結合体100では、ランダムループ構造層100bとハニカムループ構造層100cとが、厚み方向端部側から中央部側に向けて順に形成されている。そのため、厚み方向中央部においてフィラメントの結合が切れ難くなっているとともに、ランダムループ構造層100bによる軟らかい寝心地が得られるようになっている。なお、仮にランダムループ構造層100bが形成されないとしても、ハニカムループ構造層100cによるフィラメントの結合が切れ難くなるという効果が得られることには変わりがない。
【0058】
製造装置1を用いてフィラメント3次元結合体100を製造するにあたっては、例えば、フィラメント3次元結合体の厚み方向中央部にハニカムループ構造が形成されるように製造条件等(先述した引取り速度比など)を調整して、フィラメント3次元結合体を形成すれば良い。このようにすれば、厚み方向中央部にハニカムループ構造層100cが形成され、傾斜面22a1、22b1の作用により厚み方向両端には高密度表面層100aが形成される。
【0059】
更に、厚み方向中央部にハニカムループ構造が形成されるようにしても、厚み方向表面層近傍においてはフィラメントループの形状がランダムループ構造になりやすいことから、ハニカムループ構造層100cと高密度表面層100aの間にはランダムループ構造層100bが形成される。その結果、高密度表面層100a、ランダムループ構造層100b、およびハニカムループ構造層100cが、厚み方向両端部から中央部へ向けて順に隣接して形成されたフィラメント3次元結合体100が得られることになる。
【0060】
なお、フィラメント3次元結合体100を製造する手法として、厚み方向中央部近傍にハニカムループ構造層が形成され易く、厚み方向両端部近傍にランダムループ構造層が形成され易くなるように、厚み方向の中央部近傍と両端部近傍とで製造条件の一部を積極的に変えるようにしても良い。例えばノズル部17の構成について、ノズルピッチを変えずに厚み方向の両端部近傍に対応するノズル径を相対的に大きくし、厚み方向両端部近傍のループ径が大きくなるようにしてランダム構造層が形成され易くなるようにしても良い。
【0061】
4.他の実施形態に係るノズル部
製造装置1のノズル部17において、ノズル17aのサイズやノズルピッチ等を変えることにより、フィラメント3次元結合体を構成する各フィラメントの特性を調節することが可能である。この場合のノズルの一例(
図4に示すノズル17の他の実施形態)として、
図14(平面図)に示すノズル部117を挙げて説明する。ノズル部117は、複数のノズル117a(円形開口部)が形成された略直方体の金属製の厚板であり、導流路12aの最下流部にあたるダイ12の下部に設けられている。
【0062】
ノズル部117に形成される複数のノズル117a(ノズル群)として、相対的にノズル径とノズルピッチが大きい大径ノズル群117a1と、相対的にノズル径とノズルピッチが小さい小径ノズル群117a2、117a3が設けられている。大径ノズル群117a1は厚み方向中央部近傍(主に、ハニカムループ構造層が形成される領域)に、小径ノズル群17a2、17a3は厚み方向両端部近傍(主に、ランダムループ構造層が形成される領域)に、それぞれ設けられている。大径ノズル群117aにおいては、ノズル径が1.5mmに、ノズルピッチが15mmにそれぞれ設定され、小径ノズル群17a2、17a3においては、ノズル径が1mmに、ノズルピッチが10mmにそれぞれ設定されている。
【0063】
ノズル部117aを適用した製造装置1を用いる本実施形態においても、高密度表面層100a、ランダムループ構造層100b、およびハニカムループ構造層100cが、厚み方向両端部から中央部へ向けて順に隣接して形成されたフィラメント3次元結合体100(
図11を参照)が得られることには変わりはない。そのため、これらの各層(100a〜100c)を設けたことによる各効果を享受することが可能である。
【0064】
更に本実施形態では、大径ノズル群117a1よりも小径ノズル群117a2、117a3の方がノズルピッチが小さいため、ランダムループ構造層100bのフィラメントの本数密度(単位体積あたりのフィラメントの本数)が、ハニカムループ構造層100cのフィラメントの本数密度より大きくなる。そのため、ランダムループ構造層100bの位置する高密度表面層100aの近傍において、フィラメント結合点密度が極端に低くなることを抑えることができる。
【0065】
なお、単にランダムループ構造層100bのフィラメントの本数密度を大きくする場合は、ランダムループ構造層100bのフィラメント密度が高くなり過ぎて、寝心地が硬く(反発力が過度に高く)なる虞がある。この点、本実施形態では、大径ノズル群117a1よりも小径ノズル群117a2、117a3の方がノズル径が小さいため、ランダムループ構造層100bのフィラメントの直径が、ハニカムループ構造層100cのフィラメントの直径より小さくなる。そのため、ランダムループ構造層100bの位置する高密度表面層100aの近傍においてフィラメント密度が高くなり過ぎないようにし、寝心地が硬くなるのを抑えることが可能である。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。