【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するために、本発明は、1つの表面が高硬度層であり、もう1つの表面が低硬度層であり、高硬度層と低硬度層の間が複合圧延によって原子結合しており、ただし、低硬度層がMn13鋼であり、高硬度層のブリネル硬さが600を超える二重硬度合わせ鋼板を提供する。
【0007】
本技術方案において、低硬度層とは、高硬度層に比べて低い硬度を有するものを指す。また、低硬度層はMn13鋼であるため、そのブリネル硬さが通常250未満である。
【0008】
本技術方案において、Mn13鋼とは、Mn含有量が10%<Mn<20%の範囲内に制御される鋼を指し、このような鋼の微細組織は実質的に単一のオーステナイト組織である。
【0009】
さらに、前記高硬度層の化学元素の質量百分率は:
C:0.35〜0.45%;
Si:0.80〜1.60%;
Mn:0.3〜1.0%;
Al:0.02〜0.06%;
Ni:0.3〜1.2%;
Cr:0.30〜1.00%;
Mo:0.20〜0.80%;
Cu:0.20〜0.60%;
Ti:0.01〜0.05%;
B:0.001〜0.003%;
残部はFeおよび不可避不純物である。
【0010】
前記高硬度層における各化学元素の設計原理は以下のようである。
C:Cは鋼において固溶強化の作用を奏することができ、鋼の強度に一番寄与し且つコストが一番低い強化元素である。所定の硬度レベルに達するために、鋼に高含有量のCを含有させることが望ましいが、C含有量が高すぎると、鋼の溶接性能と靭性に悪影響を与える。よって、鋼板の強靭性に合わせて総合に考慮すると、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の高硬度層におけるC含有量は0.35〜0.45%に制御すべきである。
【0011】
Si:Siは脱酸素元素である。また、Siは、フェライトに溶解して固溶強化の作用を奏することもでき、炭素、窒素、燐に次いで二番目のものであって、他の合金元素を超えるものであるので、Siは鋼の強度と硬度を顕著に向上できる。Siによる固溶強化作用を利用しようとすれば、その添加量は通常0.6%以上である。前記高硬度層において、固溶強化の作用を奏するように、Si含有量は0.8〜1.6%の範囲内に制御すべきである。
【0012】
Mn:Mnは鋼の臨界冷却速度を低下させて焼入性を大いに向上させることができ、且つ鋼に固溶強化の作用を奏する。しかし、Mn含有量が高すぎると、マルテンサイト遷移温度の低下幅が大きすぎることになり、室温残留オーステナイトの増加を招き、鋼の強度向上に不利であるし、鋳造ビレットの中心偏析部位で粗大のMnSが生成し、板厚中心部の靭性を低下させる。それらを鑑みると、前記高硬度層におけるMn含有量は0.3〜1.0%に制御すべきである。
【0013】
Al:Alも脱酸素元素である。それと同時に、Alは窒素と共に微細で難溶性のAlN粒子を形成し、鋼のミクロ組織を微細化し、且つBNの生成を抑制してBを固溶状態で存在させることで、鋼の焼入性を確保することができる。Al含有量が0.06%を超えると、鋼において粗大の酸化アルミニウム介在物が生成する。よって、高硬度層におけるAl含有量は0.02〜0.06%に制御される。
【0014】
Ni:Niは鋼においてマトリックス相フェライトおよびオーステナイトにしか溶解せず、且つ炭化物を形成せず、それによるオーステナイト安定化作用は非常に強い。Niは鋼の高靭性を確保するための主要な元素であり、Niによる強化作用およびその添加コストを考慮すると、高硬度層におけるNi含有量を0.3〜1.2%に設定する。
【0015】
Cr:Crはオーステナイト相領域を縮小する元素であって、中強炭化物形成元素でもある。Crはフェライトに溶解することもできる。Crはオーステナイトの安定性を向上させてC曲線を右に移動させることができ、それにより臨界冷却速度を低下させて鋼の焼入性を向上させる。前記高硬度層におけるCr含有量は0.3〜1.0%に制御する必要がある。
【0016】
Mo:Moは鋼において固溶体相と炭化物相の両方に存在することができるので、Moは鋼に対して固溶強化と炭化物分散強化の作用を両方とも奏し、それにより鋼の硬度と強度を顕著に向上させる作用を奏する。よって、前記高硬度層におけるMo含有量は0.20〜0.80%に制御する必要がある。
【0017】
Cu:Cuは鋼において主に固溶状態と単体相沈殿析出状態で存在し、固溶したCuは固溶強化の作用を奏することができる。フェライトにおけるCuの固溶度は温度の低下に従って急速に低減することから、低い温度で、過飽和で固溶したCuは単体として沈殿析出し、それにより析出強化の作用を奏する。前記高硬度層に0.2〜0.6%のCuを添加することで、鋼の大気腐食耐性を顕著に向上できる。
【0018】
Ti:Tiは鋼におけるC、Nと共に炭化チタン、窒化チタン若しくは炭窒化チタンを形成することができ、それにより、鋼ビレットの加熱圧延段階においてオーステナイト結晶粒を微細化する作用を奏し、ひいては鋼の強度と靭性を向上させる。しかし、高すぎるTi含有量により、鋼において粗大の窒化チタンが多く形成し、鋼の強度と靭性に悪影響を与える。本発明の技術方案によれば、前記高硬度層におけるTi含有量は0.01〜0.05%の範囲内に制御すべきである。
【0019】
B:Bを少量で添加するだけで、鋼の焼入性を顕著に向上させることができ、且つ鋼においてマルテンサイト組織を容易に獲得できる。しかし、多すぎるBを添加することは望ましくなく、その原因は、Bと結晶粒界の間に強い結合力が存在し、それが結晶粒界に偏在して鋼の総合的性能を影響しやすいからである。よって、前記高硬度層におけるB含有量は0.001〜0.003%の範囲内に制御する必要がある。
【0020】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の高硬度層における不可避不純物は主にPとSである。
【0021】
さらに、前記高硬度層の微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトである。
【0022】
さらに、前記残留オーステナイトの相の割合は1%未満である。
ここで、本発明の技術方案によれば、高硬度層の微細組織をマルテンサイトと少量の残留オーステナイトに制御する原因は以下のようである:残留オーステナイトは焼入後に過冷オーステナイトが変態する時に不可避的に現れる組織であり、残留オーステナイトを厳格に制御することは鋼種の性能の確保に有利である;一方、マルテンサイトにおいて、α相に溶解された炭素による固溶強化作用並びに高密度転位下部組織の存在による強化作用によって、マルテンサイトに高硬度の特徴を与える;従って、高硬度層の硬度を確保するために、微細組織を殆ど全部マルテンサイトに制御する必要がある。
【0023】
さらに、前記低硬度層の化学元素の質量百分率は:
C:1.00〜1.35%;
Si:0.30〜0.90%;
Mn:11.0〜19.0%;
Al:0.02〜0.06%;
残部はFeおよび他の不可避不純物である。
【0024】
前記低硬度層における各化学元素の設計原理は以下のようである。
C:Cはオーステナイトを安定化させる元素であり、急冷を行う時に、オーステナイト組織を室温に保持できる。炭素含有量の増加は、鋼の固溶強化作用を増強させ、それによりMn13鋼の強度と硬度を向上できる。炭素含有量が高すぎると、鋼における炭化物は固溶化処理の時にオーステナイトに溶解してしまい、炭化物とオーステナイトの比容積の大きな相違により、固溶した高マンガン鋼で空孔型欠陥が発生し、密度の低下に繋がり、高マンガン鋼の性能に影響を与える;水靭処理をすると、炭化物は結晶粒界に沿って分布し、鋼の靭性の大幅の低下を招く恐れがある。
【0025】
Si:Siは脱酸素元素として添加されると共に、固溶体を強化し、降伏強度を向上させる作用も有する。
【0026】
Mn:Mnは高マンガン鋼における主要な合金元素であり、オーステナイト相領域を拡大し、オーステナイトを安定化させ、Ms点を低下させる作用を有し、マンガンはオーステナイト組織を室温に保持できる。鋼におけるマンガンは、オーステナイトに固溶したもの以外に、もう一部は(Mn,Fe)C型炭化物に存在する。マンガンの含有量が増加すると、高マンガン鋼の強度と靭性はいずれも向上し、それは、マンガンが結晶間の結合力を高める作用を有するからである;マンガンの含有量が高すぎると、鋼の熱伝導性が向上し、ひいては貫粒組織が生成して高マンガン鋼の力学的性能に影響を与えやすくなる。安定した力学的性能を獲得するために、炭素含有量が0.9〜1.5%である場合、マンガン含有量は通常11〜19%に制御される。
【0027】
Al:Alも脱酸素元素である。それと同時に、Alは窒素と共に微細で難溶性のAlN粒子を形成し、鋼のミクロ組織を微細化し、且つBNの生成を抑制してBを固溶状態で存在させることで、鋼の焼入性を確保することができる。Al含有量が0.06%を超えると、鋼において粗大の酸化アルミニウム介在物が生成する。よって、低硬度層におけるAl含有量は0.02〜0.06%に制御される。
【0028】
さらに、前記低硬度層にMo:0.90〜1.80%を添加することもできる。
低硬度層に合金元素Moをさらに添加する原因は以下のようである:Moと鉄の結合力が強く、且つモリブデン原子はサイズが大きくて拡散しにくいので、Mo添加高マンガン鋼鋳鋼品における炭化物は、析出量が少なく、且つオーステナイト結晶粒界で網状分布していない。水靭処理をすると、モリブデンはオーステナイトに固溶し、オーステナイトの分解を遅らせ、それは高マンガン鋼の強度と靭性の両方にも有利である。
【0029】
さらに、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、−40℃での衝撃エネルギーが50J以上である。
【0030】
さらに、前記高硬度層と低硬度層の厚さ比は(0.43〜3):1である。
本発明の目的は、二重硬度合わせ鋼板の製造方法を提供することにもある。該製造方法によれば、2つの表面で異なる硬度特徴を有し、その1つの表面が超高硬度を有し、もう1つの表面が相対的に低い硬度と高い低温靭性を有する合わせ鋼板を獲得できる。該製造方法により、同一の鋼板において高・低硬度と高靭性の組み合わせを実現した。また、該製造方法により得られる二重硬度合わせ鋼板は、良好な機械的加工性能と優れた防弾性能を有する。
【0031】
上記発明目的を達成するために、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、以下の工程を含む:
(1)高硬度層スラブと低硬度層スラブをそれぞれ調製する;
(2)スラブの積み上げ:スラブの結合面を予備処理し、且つスラブの貼り合せ面の周囲を溶接密封し、溶接密封された合わせスラブを真空引き処理する;
(3)加熱;
(4)複合圧延;
(5)冷却;
(6)熱処理:熱処理の加熱温度を1050〜1100℃にし、加熱時間を2〜3min/mm×板厚にし、加熱された合わせ板を水冷し、水温を40℃未満にし、ただし、板厚の単位はmmである。
【0032】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法の要は、異なる硬度特徴を有するスラブの原子を複合圧延により結合させることにある。該製造方法のもう1つの要は、低硬度層スラブにおいて単一で均一なオーステナイト微細組織を獲得するように、熱処理工程における加熱温度を1050〜1100℃に設定することにある。加熱された合わせ板を温度が40℃未満の水で冷却する目的は、合わせ板の低硬度層スラブを水靭処理し、単一のオーステナイト微細組織を獲得することにある。それと共に、該熱処理工程は、合わせ板の高硬度層スラブにとって、マルテンサイト微細組織を獲得するための焼入処理である。
【0033】
さらに、前記工程(3)において、加熱温度を1130〜1250℃にし、加熱時間を120〜180minにする。
【0034】
工程(3)において加熱温度を1130〜1250℃に、加熱時間を120〜180minに制御することは、合わせスラブにおける合金成分の均一性を確保し、低硬度層中で完全のオーステナイト相を獲得し、それによりスラブの降伏応力を低下させ、ひいては製品の合わせ鋼板の変形抵抗を低下させるためである。
【0035】
さらに、前記工程(4)において、仕上げ圧延温度を850〜1000℃に制御する。
工程(4)において仕上げ圧延温度を≧950℃に設定することも、圧延段階における合わせスラブの変形抵抗を低下させるためである。
【0036】
本発明の技術方案において、合金成分は簡単で制御しやすく、主に中炭素低合金元素であり、C、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびB等の合金元素による固溶強化作用、並びに微量合金元素TiとC、N元素で形成される微細なTi(C,N)質点によるオーステナイト結晶粒微細化作用を十分に利用し、製造過程において圧延、熱処理等のプロセスによって、異なる硬度特徴を有する二重硬度合わせ鋼板を獲得する。
【0037】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板における高硬度層の微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトであるが、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板における低硬度層の微細組織は単一のオーステナイトである。
【0038】
また、実際の生産状況に応じて高硬度層と低硬度層の厚さ比を調節してから、スラブを合わせて積み上げることで、高・低硬度という2つの異なる硬度を共に有する二重合わせ鋼板を獲得する。
【0039】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、同一の熱処理プロセスによって、合わせ鋼板における低硬度層に対する水靭処理を実現したと同時に、合わせ鋼板における高硬度層に対する焼入処理も完成した。
【0040】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は異なる表面硬度を有し、その1つの表面のブリネル硬さが>600で、もう1つの表面のブリネル硬さが<250であり、優れた防弾性能を有し、中国国内の装甲車の鋼板に対する防弾要求を満たせる。
【0041】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は優れた低温靭性を有し、その−40℃シャルピーVノッチ縦方向衝撃エネルギーは50J以上である。
【0042】
さらに、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、良好な機械的加工性能を有し、防弾要求を満たす車両およびその構造部品の製造・生産・獲得に有用である。
【0043】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、異なる表面硬度特徴を共に有する合わせ鋼板を獲得することができ、且つ該鋼板は優れた低温靭性、優れた防弾性能および良好な機械的加工性能を有する。
【0044】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は簡単で実行しやすく、中板・厚板の生産ラインでの安定生産に有用である。