特許第6644163号(P6644163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644163
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】二重硬度合わせ鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20200130BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20200130BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20200130BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20200130BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20200130BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20200130BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C22C38/00 301A
   C22C38/54
   C21D9/00 Z
   C21D8/02 A
   B32B15/01 A
   C22C38/00 302A
   C22C38/06
   C22C38/12
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-549386(P2018-549386)
(86)(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公表番号】特表2019-505687(P2019-505687A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】CN2016109781
(87)【国際公開番号】WO2017101770
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】201510926272.9
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 小 ▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】閻 博
(72)【発明者】
【氏名】姚 連 登
(72)【発明者】
【氏名】焦 四 海
(72)【発明者】
【氏名】李 紅 斌
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0174752(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105088090(CN,A)
【文献】 特開2004−137579(JP,A)
【文献】 特開昭60−116747(JP,A)
【文献】 特表2014−522907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00− 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの表面が高硬度層であり、もう1つの表面が低硬度層であり、前記高硬度層と低硬度層の間が複合圧延によって原子結合しており、ただし、低硬度層がMn13鋼であり、前記高硬度層のブリネル硬さが600を超えており、
前記低硬度層のブリネル硬さが250未満であり、
前記低硬度層の化学元素の質量百分率は、C:1.00〜1.35%、Si:0.30〜0.90%、Mn:11.0〜19.0%、Al:0.02〜0.06%、残部はFeおよび他の不可避不純物であり、
前記高硬度層の化学元素の質量百分率は、C:0.35〜0.45%、Si:0.80〜1.60%、Mn:0.3〜1.0%、Al:0.02〜0.06%、Ni:0.3〜1.2%、Cr:0.30〜1.00%、Mo:0.20〜0.80%、Cu:0.20〜0.60%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.003%、残部はFeおよび不可避不純物であって、
−40℃での衝撃エネルギーが50J以上であることを特徴とする、二重硬度合わせ鋼板。
【請求項2】
前記高硬度層の微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトであり、
前記残留オーステナイトの相の割合は1%未満であることを特徴とする、請求項に記載の二重硬度合わせ鋼板。
【請求項3】
前記低硬度層はさらに化学元素Mo:0.90〜1.80%を含有することを特徴とする、請求項に記載の二重硬度合わせ鋼板。
【請求項4】
前記高硬度層と低硬度層の厚さ比は(0.43〜3):1であることを特徴とする、請求項1に記載の二重硬度合わせ鋼板。
【請求項5】
以下の工程を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の二重硬度合わせ鋼板の製造方法。
(1) 高硬度層スラブと低硬度層スラブをそれぞれ調製する;
(2) スラブの積み上げ:スラブの結合面を予備処理し、且つスラブの貼り合せ面の周囲を溶接密封し、溶接密封された合わせスラブを真空引き処理する;
(3) 加熱;
(4) 複合圧延;
(5) 冷却;
(6) 熱処理:熱処理の加熱温度を1050〜1100℃にし、加熱時間を2〜3min/mm×板厚にし、加熱された合わせ板を水冷し、水温を40℃未満にし、ただし、板厚の単位はmmである。
【請求項6】
前記工程(3)において、加熱温度を1130〜1250℃にし、加熱時間を120〜180minにすることを特徴とする、請求項に記載の二重硬度合わせ鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(4)において、仕上げ圧延温度を850〜1000℃に制御することを特徴とする、請求項に記載の二重硬度合わせ鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼板及びその製造方法に関し、特に合わせ鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、鋼板の厚さと硬さレベルの向上は、装甲車の防御力の向上に有利である。しかしながら、鋼板の厚さの向上は、車両の軽量化に不利であり、車両の戦術機動性に影響を与える。それと共に、鋼板は、その硬度が所定の範囲を超えれば、銃弾や砲弾に当たると崩壊を発生し、その破片が身の安全および装置・設備の正確な作動に直接に危害を及ぼす。
【0003】
公開番号がCN202750372Uで、公開日が2013年2月20日で、名称が「新規防弾キャビネット」である中国特許文献では、防弾機能を有する一種のキャビネットが開示された。該キャビネットの外部には、616装甲鋼板とケブラー複合板を接着してなる防弾被甲が装着しており、616装甲鋼板は防弾被甲の外層となり、ケブラー複合板は防弾被甲の内層となる。外層の616装甲鋼板は厚さ8ミリの鋼板を採用し、内層のケブラー複合板は厚さ7ミリの鋼板を採用する。しかしながら、該中国特許文献は、関連する鋼板の製品特徴と総合的性能に関しない。
【0004】
従って、非常に高い硬度を有しながら、大きな衝撃運動エネルギーも吸収できる鋼板は切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の内容
本発明の目的は、2つの異なる表面で2つの異なる硬度特徴を有する二重硬度合わせ鋼板を提供することにある。該二重硬度合わせ鋼板は、その1つの表面が超高硬度を有し、該表面に対するもう1つの表面が相対的に低い硬度と高い低温靭性を有する。本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、高・低硬度と高靭性の組み合わせを実現した。また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、良好な機械的加工性能と優れた防弾性能を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するために、本発明は、1つの表面が高硬度層であり、もう1つの表面が低硬度層であり、高硬度層と低硬度層の間が複合圧延によって原子結合しており、ただし、低硬度層がMn13鋼であり、高硬度層のブリネル硬さが600を超える二重硬度合わせ鋼板を提供する。
【0007】
本技術方案において、低硬度層とは、高硬度層に比べて低い硬度を有するものを指す。また、低硬度層はMn13鋼であるため、そのブリネル硬さが通常250未満である。
【0008】
本技術方案において、Mn13鋼とは、Mn含有量が10%<Mn<20%の範囲内に制御される鋼を指し、このような鋼の微細組織は実質的に単一のオーステナイト組織である。
【0009】
さらに、前記高硬度層の化学元素の質量百分率は:
C:0.35〜0.45%;
Si:0.80〜1.60%;
Mn:0.3〜1.0%;
Al:0.02〜0.06%;
Ni:0.3〜1.2%;
Cr:0.30〜1.00%;
Mo:0.20〜0.80%;
Cu:0.20〜0.60%;
Ti:0.01〜0.05%;
B:0.001〜0.003%;
残部はFeおよび不可避不純物である。
【0010】
前記高硬度層における各化学元素の設計原理は以下のようである。
C:Cは鋼において固溶強化の作用を奏することができ、鋼の強度に一番寄与し且つコストが一番低い強化元素である。所定の硬度レベルに達するために、鋼に高含有量のCを含有させることが望ましいが、C含有量が高すぎると、鋼の溶接性能と靭性に悪影響を与える。よって、鋼板の強靭性に合わせて総合に考慮すると、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の高硬度層におけるC含有量は0.35〜0.45%に制御すべきである。
【0011】
Si:Siは脱酸素元素である。また、Siは、フェライトに溶解して固溶強化の作用を奏することもでき、炭素、窒素、燐に次いで二番目のものであって、他の合金元素を超えるものであるので、Siは鋼の強度と硬度を顕著に向上できる。Siによる固溶強化作用を利用しようとすれば、その添加量は通常0.6%以上である。前記高硬度層において、固溶強化の作用を奏するように、Si含有量は0.8〜1.6%の範囲内に制御すべきである。
【0012】
Mn:Mnは鋼の臨界冷却速度を低下させて焼入性を大いに向上させることができ、且つ鋼に固溶強化の作用を奏する。しかし、Mn含有量が高すぎると、マルテンサイト遷移温度の低下幅が大きすぎることになり、室温残留オーステナイトの増加を招き、鋼の強度向上に不利であるし、鋳造ビレットの中心偏析部位で粗大のMnSが生成し、板厚中心部の靭性を低下させる。それらを鑑みると、前記高硬度層におけるMn含有量は0.3〜1.0%に制御すべきである。
【0013】
Al:Alも脱酸素元素である。それと同時に、Alは窒素と共に微細で難溶性のAlN粒子を形成し、鋼のミクロ組織を微細化し、且つBNの生成を抑制してBを固溶状態で存在させることで、鋼の焼入性を確保することができる。Al含有量が0.06%を超えると、鋼において粗大の酸化アルミニウム介在物が生成する。よって、高硬度層におけるAl含有量は0.02〜0.06%に制御される。
【0014】
Ni:Niは鋼においてマトリックス相フェライトおよびオーステナイトにしか溶解せず、且つ炭化物を形成せず、それによるオーステナイト安定化作用は非常に強い。Niは鋼の高靭性を確保するための主要な元素であり、Niによる強化作用およびその添加コストを考慮すると、高硬度層におけるNi含有量を0.3〜1.2%に設定する。
【0015】
Cr:Crはオーステナイト相領域を縮小する元素であって、中強炭化物形成元素でもある。Crはフェライトに溶解することもできる。Crはオーステナイトの安定性を向上させてC曲線を右に移動させることができ、それにより臨界冷却速度を低下させて鋼の焼入性を向上させる。前記高硬度層におけるCr含有量は0.3〜1.0%に制御する必要がある。
【0016】
Mo:Moは鋼において固溶体相と炭化物相の両方に存在することができるので、Moは鋼に対して固溶強化と炭化物分散強化の作用を両方とも奏し、それにより鋼の硬度と強度を顕著に向上させる作用を奏する。よって、前記高硬度層におけるMo含有量は0.20〜0.80%に制御する必要がある。
【0017】
Cu:Cuは鋼において主に固溶状態と単体相沈殿析出状態で存在し、固溶したCuは固溶強化の作用を奏することができる。フェライトにおけるCuの固溶度は温度の低下に従って急速に低減することから、低い温度で、過飽和で固溶したCuは単体として沈殿析出し、それにより析出強化の作用を奏する。前記高硬度層に0.2〜0.6%のCuを添加することで、鋼の大気腐食耐性を顕著に向上できる。
【0018】
Ti:Tiは鋼におけるC、Nと共に炭化チタン、窒化チタン若しくは炭窒化チタンを形成することができ、それにより、鋼ビレットの加熱圧延段階においてオーステナイト結晶粒を微細化する作用を奏し、ひいては鋼の強度と靭性を向上させる。しかし、高すぎるTi含有量により、鋼において粗大の窒化チタンが多く形成し、鋼の強度と靭性に悪影響を与える。本発明の技術方案によれば、前記高硬度層におけるTi含有量は0.01〜0.05%の範囲内に制御すべきである。
【0019】
B:Bを少量で添加するだけで、鋼の焼入性を顕著に向上させることができ、且つ鋼においてマルテンサイト組織を容易に獲得できる。しかし、多すぎるBを添加することは望ましくなく、その原因は、Bと結晶粒界の間に強い結合力が存在し、それが結晶粒界に偏在して鋼の総合的性能を影響しやすいからである。よって、前記高硬度層におけるB含有量は0.001〜0.003%の範囲内に制御する必要がある。
【0020】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の高硬度層における不可避不純物は主にPとSである。
【0021】
さらに、前記高硬度層の微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトである。
【0022】
さらに、前記残留オーステナイトの相の割合は1%未満である。
ここで、本発明の技術方案によれば、高硬度層の微細組織をマルテンサイトと少量の残留オーステナイトに制御する原因は以下のようである:残留オーステナイトは焼入後に過冷オーステナイトが変態する時に不可避的に現れる組織であり、残留オーステナイトを厳格に制御することは鋼種の性能の確保に有利である;一方、マルテンサイトにおいて、α相に溶解された炭素による固溶強化作用並びに高密度転位下部組織の存在による強化作用によって、マルテンサイトに高硬度の特徴を与える;従って、高硬度層の硬度を確保するために、微細組織を殆ど全部マルテンサイトに制御する必要がある。
【0023】
さらに、前記低硬度層の化学元素の質量百分率は:
C:1.00〜1.35%;
Si:0.30〜0.90%;
Mn:11.0〜19.0%;
Al:0.02〜0.06%;
残部はFeおよび他の不可避不純物である。
【0024】
前記低硬度層における各化学元素の設計原理は以下のようである。
C:Cはオーステナイトを安定化させる元素であり、急冷を行う時に、オーステナイト組織を室温に保持できる。炭素含有量の増加は、鋼の固溶強化作用を増強させ、それによりMn13鋼の強度と硬度を向上できる。炭素含有量が高すぎると、鋼における炭化物は固溶化処理の時にオーステナイトに溶解してしまい、炭化物とオーステナイトの比容積の大きな相違により、固溶した高マンガン鋼で空孔型欠陥が発生し、密度の低下に繋がり、高マンガン鋼の性能に影響を与える;水靭処理をすると、炭化物は結晶粒界に沿って分布し、鋼の靭性の大幅の低下を招く恐れがある。
【0025】
Si:Siは脱酸素元素として添加されると共に、固溶体を強化し、降伏強度を向上させる作用も有する。
【0026】
Mn:Mnは高マンガン鋼における主要な合金元素であり、オーステナイト相領域を拡大し、オーステナイトを安定化させ、Ms点を低下させる作用を有し、マンガンはオーステナイト組織を室温に保持できる。鋼におけるマンガンは、オーステナイトに固溶したもの以外に、もう一部は(Mn,Fe)C型炭化物に存在する。マンガンの含有量が増加すると、高マンガン鋼の強度と靭性はいずれも向上し、それは、マンガンが結晶間の結合力を高める作用を有するからである;マンガンの含有量が高すぎると、鋼の熱伝導性が向上し、ひいては貫粒組織が生成して高マンガン鋼の力学的性能に影響を与えやすくなる。安定した力学的性能を獲得するために、炭素含有量が0.9〜1.5%である場合、マンガン含有量は通常11〜19%に制御される。
【0027】
Al:Alも脱酸素元素である。それと同時に、Alは窒素と共に微細で難溶性のAlN粒子を形成し、鋼のミクロ組織を微細化し、且つBNの生成を抑制してBを固溶状態で存在させることで、鋼の焼入性を確保することができる。Al含有量が0.06%を超えると、鋼において粗大の酸化アルミニウム介在物が生成する。よって、低硬度層におけるAl含有量は0.02〜0.06%に制御される。
【0028】
さらに、前記低硬度層にMo:0.90〜1.80%を添加することもできる。
低硬度層に合金元素Moをさらに添加する原因は以下のようである:Moと鉄の結合力が強く、且つモリブデン原子はサイズが大きくて拡散しにくいので、Mo添加高マンガン鋼鋳鋼品における炭化物は、析出量が少なく、且つオーステナイト結晶粒界で網状分布していない。水靭処理をすると、モリブデンはオーステナイトに固溶し、オーステナイトの分解を遅らせ、それは高マンガン鋼の強度と靭性の両方にも有利である。
【0029】
さらに、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、−40℃での衝撃エネルギーが50J以上である。
【0030】
さらに、前記高硬度層と低硬度層の厚さ比は(0.43〜3):1である。
本発明の目的は、二重硬度合わせ鋼板の製造方法を提供することにもある。該製造方法によれば、2つの表面で異なる硬度特徴を有し、その1つの表面が超高硬度を有し、もう1つの表面が相対的に低い硬度と高い低温靭性を有する合わせ鋼板を獲得できる。該製造方法により、同一の鋼板において高・低硬度と高靭性の組み合わせを実現した。また、該製造方法により得られる二重硬度合わせ鋼板は、良好な機械的加工性能と優れた防弾性能を有する。
【0031】
上記発明目的を達成するために、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、以下の工程を含む:
(1)高硬度層スラブと低硬度層スラブをそれぞれ調製する;
(2)スラブの積み上げ:スラブの結合面を予備処理し、且つスラブの貼り合せ面の周囲を溶接密封し、溶接密封された合わせスラブを真空引き処理する;
(3)加熱;
(4)複合圧延;
(5)冷却;
(6)熱処理:熱処理の加熱温度を1050〜1100℃にし、加熱時間を2〜3min/mm×板厚にし、加熱された合わせ板を水冷し、水温を40℃未満にし、ただし、板厚の単位はmmである。
【0032】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法の要は、異なる硬度特徴を有するスラブの原子を複合圧延により結合させることにある。該製造方法のもう1つの要は、低硬度層スラブにおいて単一で均一なオーステナイト微細組織を獲得するように、熱処理工程における加熱温度を1050〜1100℃に設定することにある。加熱された合わせ板を温度が40℃未満の水で冷却する目的は、合わせ板の低硬度層スラブを水靭処理し、単一のオーステナイト微細組織を獲得することにある。それと共に、該熱処理工程は、合わせ板の高硬度層スラブにとって、マルテンサイト微細組織を獲得するための焼入処理である。
【0033】
さらに、前記工程(3)において、加熱温度を1130〜1250℃にし、加熱時間を120〜180minにする。
【0034】
工程(3)において加熱温度を1130〜1250℃に、加熱時間を120〜180minに制御することは、合わせスラブにおける合金成分の均一性を確保し、低硬度層中で完全のオーステナイト相を獲得し、それによりスラブの降伏応力を低下させ、ひいては製品の合わせ鋼板の変形抵抗を低下させるためである。
【0035】
さらに、前記工程(4)において、仕上げ圧延温度を850〜1000℃に制御する。
工程(4)において仕上げ圧延温度を≧950℃に設定することも、圧延段階における合わせスラブの変形抵抗を低下させるためである。
【0036】
本発明の技術方案において、合金成分は簡単で制御しやすく、主に中炭素低合金元素であり、C、Si、Mn、Cr、Ni、CuおよびB等の合金元素による固溶強化作用、並びに微量合金元素TiとC、N元素で形成される微細なTi(C,N)質点によるオーステナイト結晶粒微細化作用を十分に利用し、製造過程において圧延、熱処理等のプロセスによって、異なる硬度特徴を有する二重硬度合わせ鋼板を獲得する。
【0037】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板における高硬度層の微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトであるが、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板における低硬度層の微細組織は単一のオーステナイトである。
【0038】
また、実際の生産状況に応じて高硬度層と低硬度層の厚さ比を調節してから、スラブを合わせて積み上げることで、高・低硬度という2つの異なる硬度を共に有する二重合わせ鋼板を獲得する。
【0039】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、同一の熱処理プロセスによって、合わせ鋼板における低硬度層に対する水靭処理を実現したと同時に、合わせ鋼板における高硬度層に対する焼入処理も完成した。
【0040】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は異なる表面硬度を有し、その1つの表面のブリネル硬さが>600で、もう1つの表面のブリネル硬さが<250であり、優れた防弾性能を有し、中国国内の装甲車の鋼板に対する防弾要求を満たせる。
【0041】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は優れた低温靭性を有し、その−40℃シャルピーVノッチ縦方向衝撃エネルギーは50J以上である。
【0042】
さらに、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板は、良好な機械的加工性能を有し、防弾要求を満たす車両およびその構造部品の製造・生産・獲得に有用である。
【0043】
本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は、異なる表面硬度特徴を共に有する合わせ鋼板を獲得することができ、且つ該鋼板は優れた低温靭性、優れた防弾性能および良好な機械的加工性能を有する。
【0044】
また、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板の製造方法は簡単で実行しやすく、中板・厚板の生産ラインでの安定生産に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は実施例A4の二重硬度合わせ鋼板の金属組織写真である。
図2図2は実施例A4の二重硬度合わせ鋼板における高硬度層の微細組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
具体的な実施形態
以下、図面の説明および具体的な実施例に基づいて、本発明にかかる二重硬度合わせ鋼板及びその製造方法をさらに解釈・説明するが、該解釈・説明は本発明の技術方案を不当に制限するものではない。
【0047】
実施例A1〜A4
前記実施例における二重硬度合わせ鋼板は以下の工程によって製造された:
(1)高硬度層スラブと低硬度層スラブをそれぞれ調製し、且つ高硬度層スラブと低硬度層スラブにおける各化学元素を表1に示すようにそれぞれ制御した;
(2)スラブの積み上げ:
(2a)実際の必要に応じて高硬度層スラブと低硬度層スラブを分塊圧延し、分塊の厚さは製品の二重硬度合わせ鋼板の厚さおよび高硬度層と低硬度層の厚さ比によって決定された;
(2b)スラブの結合面を予備処理し、フライス盤または平削り盤で高硬度層スラブと低硬度層スラブの結合面をそれぞれ加工し、スラブ表面の酸化スケールやスラグ巻込み等の欠陥を除去し、さらにスラブの単面を清浄化した後、スラブの単面の四辺をベベル加工をした;
(2c)清浄化処理された2つのスラブの清浄化面を対向して放置し、且つスラブ−スラブの貼り合せ面の周囲を溶接密封した;
(2d)溶接されたスラブの周辺部で真空チャンネルを残し、溶接密封された合わせスラブを真空引き処理した;
(3)加熱:加熱温度を1130〜1250℃にし、加熱時間を120〜180minにした;
(4)複合圧延し、且つ仕上げ圧延温度を850〜1000℃に制御した;
(5)冷却;
(6)熱処理:熱処理の加熱温度を1050〜1100℃にし、加熱時間を2〜3min/mm×板厚にし、加熱された合わせ板をローラーコンベアまたは水槽で水冷し、水温を40℃未満にした。
【0048】
表1は、実施例A1〜A6の二重硬度合わせ鋼板の高硬度層と低硬度層における各化学元素の質量百分率配合を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表2は、実施例A1〜A6の二重硬度合わせ鋼板の製造方法の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0051】
【表2】
【0052】
前記実施例の二重硬度合わせ鋼板をサンプリングした後、各力学的性能テストを行い、テストで計測した相応の力学的性能を表3に示す。それと共に、二重硬度合わせ鋼板サンプルに射撃テストを行い、テストした結果を表4に示す。
【0053】
表3は、実施例A1〜A4の二重硬度合わせ鋼板の相応の力学的性能パラメータを示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3から分かるように、実施例A1〜A6の二重硬度合わせ鋼板の高硬度層のブリネル硬さはいずれも≧613HBで、且つ低硬度層のブリネル硬さはいずれも<250HBであったことから、該実施例の合わせ鋼板の2つの表面の硬度が異なり、該合わせ鋼板が2つの異なる硬度特徴を共に有することは判明された。また、実施例A1〜A6の二重硬度合わせ鋼板の衝撃エネルギーKV2(−40℃)はいずれも>50Jであったことから、上記実施例の合わせ鋼板が優れた低温靭性を有することは判明された。
【0056】
表4は、実施例A1〜A4の二重硬度合わせ鋼板の射撃テストの結果を示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4から分かるように、同じ型番の銃弾を用いて、実質的に同じ射撃速度で、異なる射撃距離に位置した実施例A1〜A6を射撃したが、実施例A1〜A6の二重硬度合わせ鋼板はいずれも貫通されなかったことから、実施例A1〜A6が優れた防弾性能を有し、その防弾性能がEN.1063におけるFB5レベルの基準に合致することは判明された。
【0059】
図1は実施例A4の二重硬度合わせ鋼板の金属組織を示す。それと共に、図2は実施例A4の二重硬度合わせ鋼板における高硬度層の微細組織を示す。
【0060】
図1から分かるように、該二重硬度合わせ鋼板は高硬度層と低硬度層を有し、そのうち、上層は高硬度層であり、その微細組織はマルテンサイトと少量の残留オーステナイトであり、下層は低硬度層であり、その微細組織は単一のオーステナイトであった。図2から分かるように、高硬度層の微細組織は殆ど全部マルテンサイトであり、残留オーステナイトの相の割合は1%未満であった。
【0061】
以上に挙げられたのは本発明の具体的な実施例だけであり、本発明は勿論以上の実施例に限定されず、数多くの類似の変更もあることを注意すべきである。当業者は本発明に開示された内容から直接に導く若しくは想到する変更は全て本発明の保護の範囲に含まれるべきである。
図1
図2