(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6644180
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】インフレータブル構造、インフレータブルの製作方法及び二重膜体構造
(51)【国際特許分類】
B63B 32/00 20200101AFI20200130BHJP
B63B 7/08 20200101ALI20200130BHJP
【FI】
B63B35/79 D
B63B7/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-82307(P2019-82307)
(22)【出願日】2019年4月23日
(62)【分割の表示】特願2018-220013(P2018-220013)の分割
【原出願日】2018年11月26日
【審査請求日】2019年11月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518418832
【氏名又は名称】江端 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109254
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 雅典
(72)【発明者】
【氏名】江端 重幸
【審査官】
畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第3190041(EP,A1)
【文献】
特開2011−225008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/79
B63B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重膜体の間に加圧空気を封入するインフレータブル構造であって、前記二重膜体は、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着したものであり、V字形状の横断面を有することを特徴とするインフレータブル構造。
【請求項2】
相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着してなる二重膜体の周縁部を気密加工してなるものであり、V字形状の横断面を有することを特徴とするインフレ―タブル構造。
【請求項3】
水上滑走用のインフレ―タブル構造であって、前記重ね合わせ接着の幅が滑走方向に沿って変化するように形成することにより、前記V字形状の横断面は滑走方向に沿って折り曲げ角度が変化することを特徴とする請求項1又は2記載のインフレ―タブル構造。
【請求項4】
水上滑走用のインフレ―タブル構造であって、前記切断端部の切断線が相互に角度を付けられるように重ね合わせ接着することにより、前記V字形状の横断面は滑走方向に沿って折り曲げ角度が変化することを特徴とする請求項1又は2記載のインフレータブル構造。
【請求項5】
前記重ね合わせ接着部の継目を覆う気密性膜体が貼着されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のインフレータブル構造。
【請求項6】
相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体を用いるインフレータブルの製造方法であって、
前記気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせて接着し、該接着した気密性膜体と他方の気密性膜体の周縁部を気密的に連結して用いて、V字形状の横断面を有するものとすることを特徴とするインフレータブルの製作方法。
【請求項7】
加圧空気を封入可能でV字形状の横断面を有するインフレ―タブル構造を形成するための二重膜体構造において、
相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着してなることを特徴とする二重膜体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンドアップパドルボード(Stand Up Paddleboard/以下、SUPという。)等に用いるインフレータブル(Inflatable)の構造
、インフレータブルの製作方法及び二重膜体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SUP等の高圧の加圧気体が封入されるボード状のインフレータブルを構成する基材としては、二枚の気密性膜体を相対向させて、これらの対向面を略一定長さの多数のストリング(String)で相互連結し、それを以て膜体間隔が規制される二重膜体が用いられている。具体的には対向する気密性膜体の周縁部どうしを別の帯状の気密性膜体で気密的に連結加工する等、二重膜体の周縁部を気密加工することにより、高圧気体を封入可能なインフレータブルとしている。
【0003】
斯かるインフレータブルに加圧気体を充填すると、二重膜体を構成する二枚の気密性膜体が内部圧力によって相互に離間させられる一方で、ストリングを介して相互に引っ張り合うことにより厚み略一定の平坦な板状体を規定する。特にSUP等の水上滑走用インフレータブルでは耐変形強度を高めるため、12〜15PSI程度の高圧気体が充填されるが、ストリングの作用で丸まった形状にならず、人が乗ることに適した板形状が維持される。
【0004】
ところで、単に人が乗るだけではなく、滑走性能(特に滑走速度)も考えた場合には、SUPの滑走面となる底部は単なる平坦形状ではなく、前後方向(滑走方向)と直交する横断面がV字形状となるように突出していることが好ましい。これに関して、二重膜体上の部位ごとにストリング長さを変更して膜体間隔を自在に設定できれば、V字形状の突出部を設けることは可能だが、技術・採算面から容易でない。そこで、気密性膜体がストリングで連結されて一定間隔を保っている二重膜体を用いて、V字形状を付加したインフレータブル構造を形成する手段として、下記(1)〜(3)のような技術が提案されている。
【0005】
(1)
図4(a)に示すように、ストリングSで間隔を規制されている二重膜体により平坦形状に規定されるインフレータブル100に力を加えることにより、V字形状に折り曲げて、同図(b)示すように、その谷側の折返し部分100aを密着させて、接着固定することでV字形状とする。更に、接着固定した密着部分の両側上面を跨ぐように補強布101を貼着することによりV字形状を維持する(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
(2)多数のストリングSで間隔を規制される二重膜体により平坦形状に規定されるインフレータブル200において、滑走方向に延びる中心線沿いに、
図5(a)に示すように、気密性膜体からなる上面シート200aと下面シート200bを縫合して、直線状の密着部200cを形成する。そして、同図(b)に示すように、気密性膜体からなる別の帯状シート201、202を貼着し、密着部200cを上面及び下面側から覆って、縫針穴からの気体漏れを防止する。その際、上面シート200aを中央に引き寄せておくことにより、気体が充填されたときに、同図(c)に示すように上面シートどうしが帯状シート201を介して相互に引っ張り合って、エアフロア200をV字形状に折り曲げる(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
(3)
図6に示すように、ストリングSで間隔を規制される二重膜体により平坦形状に規定される二つのインフレータブル301、302をそれらの一端面301a、302aが相互隣接するように配置して、上面側301bと302b、下面側301cと302cをそれぞれ長さの異なる二枚の気密性膜体303、304(303より304の方が長い)で気密的に接続し、一体化したインフレータブル300を形成する。なお、隣接配置する端面301a、302aを予めメッシュで形成しておく。加圧気体を充填して、インフレータブル300全体に通気すると、上面側と下面側を接続する気密性膜体303、304の長さの違いにより、V字形状の角度が付けられる(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−82004号公報
【特許文献2】特開2011−225008号公報
【特許文献3】特公平8−1106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術(1)〜(3)のインフレータブル構造によれば、多数のストリングで一定間隔を保つように規制される二重膜体を基材として、横断面V字形のインフレータブルを形成することができるが、下記のような問題がある。
【0010】
従来技術(1)は、インフレータブル100を折り曲げて、その谷側の折返し部分100aを接着固定するが、高圧気体を封入する気密性膜体は、気密性樹脂シートに布を裏打ちしたり、布を樹脂でコーティングしたりする等、厚みがあって剛性が高いため、折返し部分を完全密着させることは難しく接着不良が生じ易い。しかも高圧気体の内部圧力は折返し部分100aを広げて、接着部を剥離するように作用する。補強布101も、貼着面101a、101bにV字状の角度が付いており、互いを剥離する方向に引っ張り合って剥がれ易い。特にSUP等で人が乗って水上滑走すると、接着部に負荷が繰り返し作用して一層剥離し易くなる。その他、上面側のV字形の凹み101cは乗員が足を安定的に置けないという問題がある。
【0011】
従来技術(2)では、帯状シート201、202を、密着部200cを跨いだ両側で接着させねばならず、しかも接着面が細長く4ヵ所もあって、貼り代や密着性の管理負担が大きく、作業不良による気体漏れが懸念される。特に高圧気体を封入する気密性膜体は剛性が高く、引き寄せた上面シート200aを完全に平坦化できないため、この上に帯状シートを接着することは相当難しい。また、帯状シート201、202はストリングが無いため、接着部が、高圧気体による内部圧力をすべて受けることになり剥離し易い。特にSUP等として用いる場合、負荷の繰り返し作用により一層剥離し易くなる。なお、帯状シート201、202は、
図5(c)に示すように畝状に膨らむため、SUP等に用いると、上面側は乗る人が足を安定的に置けず、下面側は突端が水上滑走や陸上を引き摺られることで接着が剥がれ易いという問題がある。
【0012】
上記従来技術(3)は、インフレータブル301,302を二枚の気密性膜体303、304で接続するが、接続部が細長く4か所もあって、製作上の負担が大きい。しかも接続される気密性膜体303,304は、上記従来技術(2)の帯状シートと同様にストリングが無いため、高圧気体による内部圧力で接着が容易に剥離する恐れがある。また、気密性膜体303、304は高圧空気で畝状に膨らむため、SUP等に使用する場合は、上記従来技術(2)と同様に、上面側は乗る人が安定的に足を置けず、下面側は突端が水上滑走や陸上を引き摺られることにより接着が剥がれ易いという問題がある。その他、端部301a、302aをメッシュで形成するためのコスト負担が相当大きい。
【0013】
本発明は、上記のような実情に鑑み、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体を基材として、容易且つ安価に製作可能で、接着の剥離を生じにくく、SUP等として使用する場合に、乗る人が足を置き易く、水上滑走や底面を引き摺られることによる接着剥がれの心配もない、断面V字形状を備えるインフレータブル構造
、インフレータブルの製作方法及び二重膜体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、二重膜体の間に加圧空気を封入するインフレータブル構造であって、前記二重膜体は、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に
直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着したものであり、V字形状の横断面を有することを特徴とするインフレータブル構造を提供する。
【0015】
請求項2の発明は、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に
直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着してなる二重膜体の周縁部を気密加工してなる
ものであり、V字形状の横断面を有することを特徴とするインフレ―タブル構造を提供する。
【0016】
請求項3の発明は、
水上滑走用のインフレ―タブル構造であって、前記重ね合わせ接着の幅が滑走方向に沿って変化するように形成することにより、滑走方向に沿って折り曲げ角度が変化するV字形状の横断面を有することを特徴とする請求項1又は2記載のインフレ―タブル構造を提供する。
【0017】
請求項4の発明は、
水上滑走用のインフレ―タブル構造であって、前記切断端部の切断線が相互に角度を付けられるように重ね合わせ接着することにより、前記V字形状の横断面は滑走方向に沿って折り曲げ角度が変化することを特徴とする請求項1又は2記載のインフレータブル構造を提供する。
【0018】
請求項5の発明は、前記重ね合わせ接着部の継目を覆う気密性膜体が貼着されていることを特徴とする請求項
1乃至4の何れかに記載のインフレータブル構造を提供する。
【0019】
請求項6の発明は、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体を用いるインフレータブルの製造方法であって、前記気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に
直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせて接着し、該接着した気密性膜体と他方の気密性膜体の周縁部を気密的に連結して
用いて、V字形状の横断面を有するものとすることを特徴とするインフレータブ
ルの製作方法を提供する。
【0020】
請求項7の発明は、加圧空気を封入可能でV字形状の横断面を有するインフレ―タブル構造を形成するための二重膜体構造において、相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体の一方を複数の気密性膜体片に
直線的に切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共に該切断端部どうしを重ね合わせ接着してなることを特徴とする二重膜体構造を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本願発明によれば、以下の優れた効果を奏する。相対向し且つ多数のストリングで一定間隔を保つように連結されている二枚の気密性膜体の一方をその全長に亘って切断して、複数の気密性膜体片に
切り離してその切断端部に連結されたストリングを切断又は除去すると共にその切断端部どうしを引き合わせ、上下に重ね合わせて接着することにより、その間に加圧空気を封入したときに、一方の気密性膜体における重ね合わせ接着部の幅寸法と、他方の気密性膜体において切断端部と相対向していた部分の幅寸法の長さの違いに応じてインフレータブルが折れ曲がり、インフレータブルの全長に亘ってV字形状の横断面を形成することができる。なお、V字形状の角度設定は、重ね合わせ接着部の幅寸法を適宜調整することにより容易に行える。
【0022】
すなわち、二重膜体の一方に切断部を設けて、切断端部を重ね合わせて接着するだけでよく、上記従来技術のように気密性膜体を折り返して密着させたり、両側から引き寄せた気密性膜体の上に別の膜体を貼着したりする面倒な作業をしなくても、断面V字形状のインフレータブルを容易且つ安価に製作できる。また、重ね合わせ接着部に加圧気体の圧力が加わっても接着面を剥離させる方向に作用するものでなく、上記従来技術に比べて接着の剥離を生じにくい。
【0023】
上記発明に係るインフレ―タブルをSUP等に用いる場合、重ね合わせ接着部は二重構造で剛性が高められていて変形しにくく、ストリングで規定されている両側の傾斜部分に連続する平坦状部分を成して、乗る人が比較的安定して足を置くことができる。なお、V字形状において突出する対向部には継目となる接着部分が無いため、水上滑走や陸上での引き摺りによる負荷が生じても接着剥がれによる気体漏れを生じにくい。
【0024】
なお、上記インフレータブル構造を組み合わせれば、SUPのような板状物に限らず、例えば底部と側壁部或いは側壁部どうしの交差部分を上記V字形状で形成したボート等も製作できる。その他、インフレータブル構造物の屋根の稜線部、屋根と側壁をつなぐ角部或いは側壁どうしをつなぐ角部等の交差部分、インフレータブル容器の底部と側壁部の交差部分を上記V字形状で形成する等、他の物品や構造物を製作しても良い。
【0025】
切断端部に連結されているストリングを切断又は除去することにより、切断端部と相対向する対向部にストリングによる引っ張りが作用しなくなり、該対向部は封入された高圧気体の内部圧力で畝状に突出する。これにより、インフレータブル構造をSUPやボート底部等に用いた際の水上滑走性能が一層向上する。なお、重ね合わせ接着部は、二重構造で剛性が高められているために高圧を加えても突出しにくく、乗る人が足を置く際の邪魔になることはない。
【0026】
重ね合わせ接着部には、ストリングの切れ端又はストリングが固定されていた跡が残されていたり、インフレータブルの内側面は膜体を強度アップするための布で裏打されていたりするため、継目から僅かな気体漏れを生じることが懸念されるが、継目の上から別の気密性膜体で覆うことで完全に密封することができる。なお、気密性膜体はストリングあるいはその接着跡や裏打された布等により厚みがあるため、重ね合わせ接着部の継目の段差は大きく、SUP等として用いる場合に乗る人の足が引っ掛かり易いが、元からストリングや裏打ち布のない薄い気密性膜体で覆うことにすれば引っ掛かりを生じにくくなり、見栄えも改善することができる。
【0027】
請求項7の発明に係る二重膜体構造を用いることにより、高圧の加圧気体を封入可能でV字形状の横断面を有するインフレータブルを容易且つ安価に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1及び
図2は、本発明のインフレータブル構造及びその製作方法について説明する図であり、より具体的には、本発明のインフレータブル構造を用いたSUP用インフレータブルを製作する場合について示している。
図2における(a)〜(g)は、それぞれ
図1における(a)〜(g)のX−X断面に対応する。
図1及び
図2では、給排気用バルブ(空気充填口)、フィン、運搬用ハンドル、運搬用ウェビング、リーシュコード等の付属部品を取り付けるための金具類、その他SUPに通常装備されている付属部品の記載を省略しており、以下、それらに関する説明も記載省略する。
【0030】
本発明のインフレータブル構造及びその製作方法では、相対向する二枚の気密性膜体を多数のストリングで相互に連結し且つストリングを略一定長とすることで膜体間隔を一定に規制する二重膜体を基材として用いる。この二重膜体は、対向する気密性膜体の周縁部どうしが帯状の気密性膜体で気密的に連結される等して内部を密封したインフレータブルを構成し、加圧空気が封入されることにより、ストリング長に応じた略一定厚の板状体を規定するものとして一般的に用いられている。
【0031】
二重膜体を成す気密性膜体は、樹脂やゴム等の気密性材料で布の表面に被覆したり、樹脂又はゴム等の気密性シートに布を貼り合わせたりして、高強度で且つ殆ど伸縮しないように構成されている。なお、裏布を用いるのは、ストリングの引っ張り負荷に対する補強のためである。ストリングもナイロンやポリエステル等の素材により高強度且つ殆ど伸縮しないように構成されており、その両端が相対向する気密性膜体に接着固定されている。これにより、高圧の加圧空気を封入しても平坦形状が維持されて、耐変形強度の高いインフレータブルを構成する。なお、
図2では、作図の便宜上、ストリングSが様々な長さに描かれているが、実際は同図(g)に示すように略一定長に設定されている。
【0032】
さて、本発明のインフレ―タブル構造を用いて、加圧空気の封入時に横断面V字形状に規定されるSUP用インフレータブルを製作する場合、
図1(a)及び
図2(a)に示すように、製作するSUPの平面視形状に合わせて細長く(例えば全長約3.2m、幅約0.8m)切り出された二重膜体10を準備する。二重膜体10は、左右対称で、同形同大の二枚の気密性膜体11、12と、それらの対向面を連結して膜体間隔を規定する多数のストリングSで構成されている。なお、気密性膜体11、12は、気密性樹脂シートに補強用の布が裏打ちされている。
【0033】
まず、
図1(b)及び
図2(b)に示すように、二重膜体10の長手方向、すなわちSUPの前後(滑走)方向に延びる中心線CLに沿って、上側にある一方の気密性膜体11のみをその全長に亘って刃物等で直線的に切断する。これにより、気密性膜体11は、下側にある他方の気密性膜体12と多数のストリングSにより連結されているままで、直線の切断部C1を境に左右二枚の気密性膜体片11R、11Lに分離される。
【0034】
次に、
図1(c)及び
図2(c)に示すように、気密性膜体片11R及び11Lの各々において、切断部C1沿いに延びる所定幅Wの切断端部11a、11b(
図1(c)に斜線で示す帯状部分)に連結されているストリングSを刃物等で切断する。これにより、気密性膜体11の中央部にある帯状の切断端部11a、11b(合計幅寸法2W)と、これらに相対向する気密性膜体12の中央部にある帯状の対向部1b(幅寸法2W)のストリングSによる連結が解消される。
【0035】
ストリングSは単に切断するだけでも良いが、切断端部にストリングの切れ端が残っていると、次の接着工程において接着面が密着せず、気密性を確保し辛くなる。そのため、少なくともストリングが連結されていた面が接着面となる一方の切断端部11bに関しては、ストリングSを根元で切断し又は引き剥がす等して除去しておくことが好ましい。切断端部1a以外の部分(切断端部1b、対向部1b)についても、残った切れ端が接着面に挟まったりして接着作業を妨げることがあるため、除去するようにしても良い。
【0036】
接着工程では、
図1(d)及び
図2(d)に示すように、左右の気密性膜体片11R、11Lを相互に引き寄せて、幅寸法Wの切断端部11aと11bを上下に重ね合わせるようにして気密的に接着することにより再び一体化する。これにより、横幅方向の中央部において、帯状で幅寸法Wの重ね合わせ接着部1a(
図2(d)の斜線部)が全長に亘って延びる気密性膜体11´が形成される。これにより、気密性膜体11´が、元の気密性膜体11に対して横幅方向の中央部の幅寸法が2W(切断端部11a、11b)からW(重ね合わせ接着部1a)に詰められる一方、気密性膜体12は、横幅方向の中央部(対向部1b)の幅寸法が2Wで変わらず、中央部以外は、上側の気密性膜体11´と下側の気密性膜体12がストリングSで連結されている、という二重膜体構造が形成される。
【0037】
続いて、
図1(e)及び
図2(e)に示すように、気密性膜体11´の全長に亘って、重ね合わせ接着部1aを覆い隠すように、重ね合わせ接着部1aより幅が広い帯状の気密性膜体2を貼着する。なお、気密性膜体2は、ストリングが無いため、気密性膜体11、12のような裏打ち布材を使用しておらず、その分厚みは小さいが、PVC等からなる高強度で伸びにくい気密性樹脂シートである。気密性膜体2を貼着する第一の目的は、重ね合わせ接着部1aからその外側に現れている線状の継目tを介して漏れ出してくる気体を封止することである。気密性膜体11,12の内面(裏面)には、裏打ち布材の繊維が現れており、それらを完全に密着させて気密的に接着しても、繊維部分から僅かに気体が漏れ出してくることがあるためである。その他、気密性膜体2で継目tを覆うことにより、継目tの段差に対する引っ掛かり及び継目tを起点とする接着部の捲れが防止され、内部圧力による重ね合わせ接着部1aの膨れによる突出も抑えられる。
【0038】
最後に、
図1(f)及び
図2(f)に示すように、上側の気密性膜体11´と下側の気密性膜体12の双方に対して、それらの周縁部どうしを相互連結するように帯状の気密性膜体3を気密的に接着する。気密性膜体3は、気密性膜体2と同様のPVC等からなる高強度で伸びにくい気密性樹脂シートで、ストリング及び裏打ち布材等がなく、接着面等から気体が漏れ出すことはない。これにより、二重膜体10の周縁部が気密加工され、内部が密封されることにより加圧空気を封入可能なSUP用インフレータブル1が完成する。帯状の気密性膜体3は、加圧空気の封入時にSUPインフレータブル1の膨張を妨げないように、上下幅寸法が気密性膜体11´及び12に対する貼り代寸法にストリングSで規定されるSUPの厚み寸法を加えた寸法より長く設定されている。
【0039】
SUP用インフレータブル1に、不図示の給排気用バルブから加圧空気を封入すると、その内部圧力により、
図1(g)及び
図2(g)に示すように膨張し、二重膜体10を構成する二枚の気密性膜体11´と12が相互に離間するが、それらの中央部に位置する重ね合わせ接着部1a及び対向部1b以外の部分では、上下で同形同大の気密性膜体部分が多数のストリングSを介して相互に引っ張り合って、厚み略一定の平坦な板状体が規定される。
【0040】
一方、中央部では、重ね合わせ接着部1a(幅寸法W)と対向部1b(幅寸法2W)で幅寸法の長さが異なっていることにより、
図2(g)に示すように、幅の短い重ね合わせ接着部1a側(上側)に屈曲し、中央部からその左右両側に連続する厚み略一定の平坦な板状体を傾斜させて、SUP用インフレータブル1全体として、V字形状の横断面を形成することになる。V字形状に突出する下側の気密性膜体12をSUPの底面とすることにより、単なる平坦状のインフレータブルより優れた水上滑走性能が得られる。
【0041】
本実施形態では、重ね合わせ接着部1aと対向部1bはストリングSが除去されて、これらの間では膜体間隔を規制する作用が無いため、高圧の加圧気体が封入されると、ストリングSで間隔が規定される他の部分に比べて厚み方向に膨らみ易くなる。
【0042】
しかし、上側の重ね合わせ接着部1aは、切断端部11aと11bを上下に重ね合わせて接着した二重構造で剛性が高められており、しかも幅寸法が短くなっている(2W→W)ために変形しにくく、気密性膜体2にも覆われており、膨らみはごく僅かに抑えられる。これにより、概ね平坦状に維持されて、両側の傾斜した一定厚部分と比較的滑らかに連続するため、SUPに乗る人が比較的安定に足を置くことができる。また、気密性膜体2で覆われていることにより、継目tの段差による引っ掛かりも防止されて、その点において乗る人が足を置き易い。なお、重ね合わせ接着部1aは、内部圧力が直接、接着面を剥離させる方向に作用しないため、接着の剥離も生じにくい。
【0043】
一方、下側の対向部1bは、一枚物の気密性膜体12のみで形成されており且つ横幅も長く、加圧気体の作用により膨らみ易くなっているため、
図2(g)に示すように大きく突出して、SUPの滑走方向において畝状に延びる突出部を形成する。この突出部は、舟底のキール(KEEL)のようにSUPの水上滑走性能を一層向上させることができる。なお、対向部1bは突出部を形成するが、一枚物で継目が無いため、水上滑走や陸上での引き摺りによって接着部分の捲れ等を生じる心配はない。なお、膜体自体の損傷を防止するため、気密性膜体12の全体又は対向部1aのみ等、一部を覆う保護用膜体を貼着しても良い。
【0044】
上記のとおり、本発明によれば、二重膜体10の一方の膜体11について一か所を直線的に切断し、その切断端部11aと11bを重ね合わせて接着するだけで、断面V字形状のSUP用インフレータブル1を容易且つ安価に製作することができる。V字形状の角度は、重ね合わせ接着部1aと対向部1bの幅の長さの差に基づき定まるので、重ね合わせ接着する切断端部11aと11bの幅寸法Wを調整することにより、折り曲げ角度は適宜設定することができる。なお、切断端部11a、11bから部分的に気密性膜体を切り取ることにより、重ね合わせ接着部1aの幅寸法を更に小さくすることができるので,これにより下側の気密性膜体12の対向部の幅寸法との長さの差を調整して、折り曲げ角度を適宜設定することも可能である。
【0045】
(その他の実施形態)
上記実施形態は、上側の気密性膜体11を二枚に切り離すことにしたが、
図3(a)に示すように、気密性膜体11を切り離さず、全長方向の一部にのみ直線状の切込部C2を形成して、例えば
図3(b)に斜線で示すように、切込部C2の両側の切断端部11c、11dのストリングを除去し、
図3(c)に示すように、切断端部11cと11dを引き合わせて、平面視で扇形状を成すように上下に重ね合わせて接着することとしても良い。これにより、二重膜体10において重ね合わせ接着した前側部分にはV字形状の横断面が形成されて、それ以外の後側部分には平坦形状の横断面が形成されたインフレータブルを製作することができる。なお、気密性膜体11の前後方向の中央部を挟んだ両側に切込みを設け、各切込みの切断端部を重ね合わせ接着することにより、重ね合わせ接着した前後両側部分にV字形状の横断面が形成されて、中央部分には平坦形状の横断面が形成されたインフレータブルを製作することもできる。
【0046】
上記実施形態では、切断部C1を気密性膜体11の中心線CLに沿って1か所のみ設けることとしたが、必ずしも中心線CLに沿って設ける必要は無く、切断部を複数箇所に設けることにより、V字形状の横断面を複数組み合わせてなる横断面、例えば横断面コ字形状や横断面W字形状を形成するようにしても良い。また、上記実施形態では、切断端部1a及び1bをそれらの切断線が平行となるように重ね合わせて接着したが、上記切断線が相互に角度を付けられるように斜めに重ね合わせ接着し、全長方向に沿って幅が変化する重ね合わせ接着部を形成しても良い。これにより、全長方向に沿ってインフレータブルの折り曲げ角度を変化させることができる。さらに、上記実施形態では、重ね合わせ接着部1aとなる切断端部11a,11bのストリングSをすべて切断又は除去することとしたが、ストリングSが連結されていた面を接着面とする切断端部11bについてのみ切断又は除去することとしても良い。なお、上記実施形態では、気密性膜体2、3について、裏打ち布を有しない樹脂シートとしたが、布を使用するものを採用しても良く、例えば接着される面に樹脂シートを貼付けたり、樹脂被覆することにより、接着部の気密性を確保するようにしても良い。
【0047】
上記実施形態では、SUP用インフレータブル1について説明したが、本発明に係るインフレ―タブル構造及びその製作方法あるいは上記インフレ―タブル構造を構成するための二重膜体構造を用いることにより、SUPに限らず、様々な水上滑走用のインフレータブルを形成することができる。例えばインフレータブルボートの船底を形成するフロアマットに本発明を適用しても良い。また、水上滑走用のインフレータブルに限らず、農業用ハウス、倉庫、テント等のインフレータブル構造物に本発明を適用して、その屋根の稜線部、屋根と側壁をつなぐ角部、あるいは側壁どうしをつなぐ角部等の交差部分を本発明のV字形状の横断面で形成してもよい。更に物入れ、バケツ、プール等のインフレータブル容器体に本発明を適用して、底部と側壁部の交差部分等を本発明のV字形状の横断面で形成しても良い。その他、本発明はその要旨を変更しない範囲で種々の変更を成し得るものである。
【符号の説明】
【0048】
1 SUP用インフレータブル
1a 重ね合わせ接着部
1b 対向部
10 二重膜体
11 気密性膜体
11´ 気密性膜体
11a 切断端部
11b 切断端部
12 気密性膜体
2 気密性膜体(樹脂シート)
3 気密性膜体(樹脂シート)
【要約】
【課題】 相対向し且つ多数のストリングで間隔を規制するように連結された二枚の気密性膜体を基材として、容易且つ安価に製作可能で、接着の剥離を生じにくく、SUP等として使用する場合に、乗る人が足を置き易く、水上滑走や底面を引き摺られることによる接着剥がれの心配もない、断面V字形状を備えるインフレータブル及びその製造方法並びにその製造に適した二重膜体を提供する。
【解決手段】 インフレータブルの基材とする二重膜体において相対向する気密性膜体の一方を切断すると共にその切断端部どうしを上下に重ね合わせて接着する。
【選択図】
図2