(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乾式処理が、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、UV処理、及び、エキシマ処理からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の積層部材の製造方法。
前記接着剤が、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、及び、アクリル系接着剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層部材の製造方法。
前記乾式処理において、接触型熱電対、熱で変色するインク、熱で変色するシール、サーモグラフィー、又は、放射型温度計を用いて、前記第1部材の温度を測定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、自動車に対して安全性や燃費などの要求水準が高まるなか、積層部材の接着性(接着させた部材同士の接着性)に対してもさらなる向上が求められている。
このようななか、本発明者らが特許文献1を参考に、プライマーを使用せずに、乾式処理と接着剤を用いて積層部材を製造したところ、その接着性は必ずしも満足できるものではないことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す積層部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、結晶性熱可塑性樹脂を含有する部材に対して特定の条件を満たすように乾式処理を行うことで、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 結晶性熱可塑性樹脂を含有する第1部材と、接着層と、第2部材とをこの順に有する積層部材を製造する、積層部材の製造方法であって、
結晶性熱可塑性樹脂を含有する第1部材の表面に対して、下記条件A及び条件Bを満たすように乾式処理を行う、表面処理工程と、
上記第1部材の上記乾式処理を行った表面に、プライマー組成物を介さずに、接着剤を付与して、上記第1部材の上記乾式処理を行った表面に接着剤層を形成する、接着剤付与工程と、
上記接着剤層上に第2部材を貼り合わせる、貼り合わせ工程とを備える、積層部材の製造方法。
(条件A)上記第1部材の最高到達温度が、上記第1部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークのピーク温度未満である。
(条件B)上記第1部材の高温保持時間が3.0秒未満である。ここで上記第1部材の高温保持時間とは、上記第1部材が、上記第1部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークの起点温度以上の温度に連続で保持された時間である。
(2) 上記第2部材が、塗装された部材である、上記(1)に記載の積層部材の製造方法。
(3) 上記乾式処理が、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、UV処理、及び、エキシマ処理からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)又は(2)に記載の積層部材の製造方法。
(4) 上記第1部材が、上記結晶性熱可塑性樹脂であるポリオレフィン系樹脂と無機物とを含む複合素材である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層部材の製造方法。
(5) 上記接着剤が、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、及び、アクリル系接着剤からなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1〜4のいずれかに記載の積層部材の製造方法。
(6) 上記乾式処理において、接触型熱電対、熱で変色するインク、熱で変色するシール、サーモグラフィー、又は、放射型温度計を用いて、上記第1部材の温度を測定する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層部材の製造方法。
(7) 上記第2部材が、結晶性熱可塑性樹脂を含有し、
上記貼り合わせ工程の前に、さらに、上記第2部材の表面に対して、下記条件A2及び条件B2を満たすように乾式処理を行う、表面処理工程を備え、
上記貼り合わせ工程において、上記接着剤層上に、上記第2部材の上記表面処理を行った側の表面を貼り合わせる、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の積層部材の製造方法。
(条件A2)上記第2部材の最高到達温度が、上記第2部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークのピーク温度未満である。
(条件B2)上記第2部材の高温保持時間が3.0秒未満である。ここで上記第2部材の高温保持時間とは、上記第2部材が、上記第2部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークの起点温度以上の温度に連続で保持された時間である。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す積層部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の積層部材の製造方法について説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の積層部材の製造方法(以下、単に「本発明の方法」とも言う)は、結晶性熱可塑性樹脂を含有する第1部材と、接着層と、第2部材とをこの順に有する積層部材を製造する、積層部材の製造方法であって、下記3つの工程を備える。
(1)工程1:表面処理工程
結晶性熱可塑性樹脂を含有する第1部材の表面に対して、後述する条件A及び条件Bを満たすように乾式処理を行う工程
(2)工程2:接着剤付与工程
上記第1部材の上記乾式処理を行った表面に、プライマー組成物を介さずに、接着剤を付与して、上記第1部材の上記乾式処理を行った表面に接着剤層を形成する工程
(3)工程3:貼り合わせ工程
上記接着剤層上に第2部材を貼り合わせる工程
【0012】
本発明の方法はこのような構成をとるため、得られる積層体は優れた密着性を示すものと推測される。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
本発明では、結晶性熱可塑性樹脂を含有する部材の表面に対して後述する条件A及び条件B(以下、条件A及び条件Bをまとめて「特定条件」とも言う)を満たすように乾式処理するため、部材の最表面の結晶性が崩れることなく、部材の表面が親水化されると考えられる。そのため、親水化された部材の表面に接着剤が馴染んで表面全体に十分に密着した接着剤層が形成されるとともに、接着剤層から形成された接着層は、部材の最表面の結晶構造がアンカーとなって部材に強く固定されるものと考えられる。結果として、プライマー組成物を使用しなくても優れた接着性を示す積層部材が得られるものと考えられる。
【0013】
まず、図面を用いて、本発明の製造方法について説明する。
図1は、本発明の製造方法の一実施態様を工程順に示す模式的断面図である。
図1(a)は、表面処理工程で使用される第1部材10を表す。
まず、表面処理工程において、第1部材10の表面10aに対して特定条件を満たすように乾式処理を行う。このようにして、乾式処理後の第1部材12が得られる(
図1(b))。
次に、接着剤付与工程において、乾式処理後の第1部材12の乾式処理を行った表面12aにプライマー組成物を介さずに接着剤を付与して、表面12aに接着剤層30を形成する(
図1(c))。
さらに、貼り合わせ工程において、接着剤層30上に第2部材20を貼り合わせる。このようして、第1部材12と、接着層32(接着剤層30が硬化した層)と、第2部材20とをこの順に有する積層部材100が得られる(
図1(d))。
【0015】
[工程1:表面処理工程]
表面処理工程は、結晶性熱可塑性樹脂を含有する第1部材の表面に対して、後述する条件A及び条件Bを満たすように乾式処理を行う工程である。
【0016】
<第1部材>
表面処理工程で使用される第1部材は結晶性熱可塑性樹脂を含有する部材(好ましくは、基材)であれば特に制限されない。なお、本発明の方法により製造される積層部材が自動車のバックドアなど、自動車用外装部材として用いられる場合、第1部材は内側の部材(インナー部材)として用いられるのが好ましい。
【0017】
結晶性熱可塑性樹脂は結晶性の熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、その具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのメタクリル系樹脂;ポリスチレン、ABS、ASなどのポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)などのポリエステル系樹脂;ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6T)、ポリヘキサンメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)などのナイロン樹脂およびナイロン共重合体樹脂から選ばれるポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリオキシメチレン(POM);ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリスルホン(PSF)樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂;ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂;ポリイミド(PI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;フッ素樹脂;これらの樹脂を変性させた変性樹脂またはこれらの樹脂の混合物などが挙げられる。なかでも、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましく、ポリプロピレンがさらに好ましい。第1部材は、2種以上の結晶性熱可塑性樹脂を含有していてもよい。
【0018】
第1部材中の結晶性熱可塑性樹脂の含有量は、10〜100質量%であることが好ましく、60〜100質量%であることがより好ましい。
【0019】
第1部材は、結晶性熱可塑性樹脂及び無機物を含有する複合部材であることが好ましい。無機物としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、カーボンブラック、グラファイト、カーボン繊維などが挙げられる。第1部材は、2種以上の無機物を含有していてもよい。
【0020】
第1部材の融点(後述するピーク温度)は、100〜300℃であることが好ましく、150〜200℃であることがより好ましい。
第1部材が基材(平板状)である場合、その厚みは特に制限されないが、1μm〜100mmであることが好ましい。
【0021】
<乾式処理>
乾式処理は、後述する条件A及び条件B(特定条件)を満たす乾式処理であれば特に制限されない。乾式処理は第1部材の表面の全体に行ってもよいし、第1部材の表面の一部に行ってもよい。第1部材が基材である場合、基材の一方の表面に行うのが好ましい。
乾式処理の種類は特に制限されないが、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、UV処理(紫外線照射処理)、及び、エキシマ処理からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、フレーム処理、プラズマ処理、コロナ処理、イトロ処理がより好ましく、フレーム処理、プラズマ処理がさらに好ましい。
乾式処理は、1回の乾式処理(1回のパス)(例えば、1回の掃引)からなるのでも、複数回の単位乾式処理(複数回のパス)(例えば、複数回の掃引)からなるのでも構わない。乾式処理が複数回の単位乾式処理からなる場合、間隔を空けずに次の単位乾式処理を行っても(連続処理)、単位乾式処理後に部材の放冷を行ってから次の単位乾式処理を行っても(間欠処理)構わない。
【0022】
(フレーム処理)
フレーム処理は、フレーム(炎)によって表面処理する方法である。
フレーム処理は、バーナーを用いる方法など、従来公知の方法を用いることができる。
フレーム処理のガス圧は、0.005〜10MPaであることが好ましく、0.01〜1.5MPaであることがより好ましい。
フレーム処理の速度は、100〜2000mm/秒であることが好ましく、200〜1000mm/秒であることがより好ましい。
バーナーを用いてフレーム処理を行う場合、バーナーと第1部材の表面との距離は、10〜600mmであることが好ましく、20〜400mmであることがより好ましい。
【0023】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、プラズマ放電によって表面処理する方法である。
プラズマ処理は特に制限されないが、例えば、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
プラズマ処理に用いられるプラズマガス(プロセスガス)は特に制限されないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等や、これらのガスに、酸素ガス、二酸化炭素ガスおよび水素ガスの1以上を混合した混合ガス等が例示される。
プラズマ処理の速度は、10〜1500mm/秒であることが好ましく、50〜1000mm/秒であることがより好ましい。
プラズマ放電ノズルを用いてプラズマ処理を行う場合、プラズマ放電ノズルと第1部材の表面との距離は、1〜100mmであることが好ましく、5〜50mmであることがより好ましい。
【0024】
(コロナ処理)
コロナ処理は、コロナ放電によって表面処理する方法である。
コロナ処理の速度は、10〜1000mm/秒であることが好ましく、20〜500mm/秒であることがより好ましい。
コロナ放電ノズルを用いてコロナ処理を行う場合、コロナ放電ノズルと部材の表面との距離は、1〜100mmであることが好ましく、5〜50mmであることがより好ましい。
【0025】
(イトロ処理)
イトロ処理は、フレーム(炎)を形成するため燃料ガス中にシラン化合物等を導入し、その火炎を用いて表面に処理を施すことでナノレベルの酸化シリコン膜を表面に形成し、表面と接着剤との密着性を向上させるものである。
イトロ処理のガス圧は、0.005〜10MPaであることが好ましく、0.01〜1.5MPaであることがより好ましい。
イトロ処理の速度は、100〜2000mm/秒であることが好ましく、200〜1000mm/秒であることがより好ましい。
バーナーを用いてイトロ処理を行う場合、バーナーと部材の表面との距離は、1〜600mmであることが好ましく、20〜400mmであることがより好ましい。
【0026】
(条件A及び条件B)
乾式処理は、下記条件A及び条件Bを満たすように行う。
(条件A)上述した第1部材の最高到達温度が、第1部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークのピーク温度未満である。
(条件B)上述した第1部材の高温保持時間が3.0秒未満である。ここで第1部材の高温保持時間とは、第1部材が、第1部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークの起点温度以上の温度に連続で保持された時間である。
【0027】
第1部材の最高到達温度は、起点温度以下であることが好ましい。
第1部材の高温保持時間は、2.0秒以下であることが好ましく、1.0秒以下であることがより好ましく、0秒であることがさらに好ましい。
【0028】
乾式処理中の第1部材の温度は、例えば、貼り付け型などの接触型熱電対、熱で変色するインク、熱で変色するシール、サーモグラフィー、放射型温度計等を使用して測定することができる。
【0029】
結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークのピーク温度とは、吸熱ピーク(融解ピーク)の頂点の温度(融解ピーク温度)(融点)を指す。
また、結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークの起点温度とは、ベースラインとDSC曲線の間の横軸に垂直な方向の距離が、ベースラインとピーク温度の間の横軸に垂直な方向の距離の1%以上になる、最低の温度を指す。
なお、結晶性熱可塑性樹脂のDSC測定は、JIS K7121に準じて行うものとする。
【0030】
なお、乾式処理自体の条件(例えば、上述した速度、距離等)を調節することで、条件A及び条件Bを満たす乾式処理を行うことができる。
【0031】
[工程2:接着剤付与工程]
接着剤付与工程は、上述した第1部材の乾式処理を行った表面に、プライマー組成物を介さずに、接着剤を付与して、上述した第1部材の乾式処理を行った表面に接着剤層を形成する工程である。
【0032】
<接着剤>
接着剤は特に限定されないが、その具体例としては、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤、α−オレフィン系接着剤、エーテル系接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、水性高分子−イソシアネート系接着剤、スチレン−ブタジエンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、反応性ホットメルト系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリアミド樹脂系接着剤、ポリイミド系接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、ポリオレフィン樹脂系接着剤、ポリ酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、ポリベンズイミダソール系接着剤、ポリメタクリレート樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤などが挙げられ、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、及び、アクリル系接着剤からなる群より選択される少なくとも1種であるのが好ましく、ウレタン系接着剤であるのがより好ましい。
ウレタン系接着剤及びエポキシ系接着剤は1液型または2液型であるのが好ましい。
1液型ウレタン系接着剤としては、例えばイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型接着剤が挙げられる。
2液型ウレタン系接着剤としては、例えば、ポリオールを含む主剤と、イソシアネートを含む硬化剤とを含有する接着剤が挙げられる。
1液型エポキシ系接着剤としては、例えばケチミンやオキサゾリジン、アルジミン系化合物などの潜在性硬化剤と液状エポキシ樹脂を含む常温硬化または加熱硬化型接着剤が挙げられる。
2液型のエポキシ樹脂系接着剤としては、例えば、液状エポキシ樹脂から選ばれる主剤(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、又はノボラック型エポキシ樹脂等)と、硬化剤(例えば、鎖状脂肪族アミン、環状脂肪族アミンもしくは芳香族アミン等、イミダゾール化合物等の含窒素芳香族等のアミン系硬化剤、アミドアミン硬化剤等)とを含有する接着剤が挙げられる。
【0033】
<付与方法>
第1部材の乾式処理を行った表面に接着剤を付与する方法は特に限定されないが、例えば、ディップコーティング法、ダブルロールコータ、スリットコータ、エアナイフコータ、ワイヤーバーコータ、スライドホッパー、スプレーコーチィング、ブレードコータ、ドクターコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、エクストロージョンコータ、カーテンコータ、ディップコーター、ダイコータ、グラビアロールによる塗工法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法などが挙げられる。
【0034】
形成される接着剤層の厚みは特に制限されないが、0.1〜20mmであることが好ましい。
【0035】
[工程3:貼り合わせ工程]
貼り合わせ工程は、上述した接着剤層上に第2部材を貼り合わせる工程である。
このようにして、第1部材と接着層(接着剤層が硬化した層)と第2部材とをこの順に有する積層部材が得られる。
【0036】
<第2部材>
第2部材の材料は特に制限されず、樹脂、ガラス、金属などが挙げられる。樹脂としては、例えば、上述した結晶性熱可塑性樹脂が挙げられる。
なお、本発明の方法により製造される積層部材が自動車のバックドアなど、自動車用外装部材として用いられる場合、第2部材は外側の部材(アウター部材)として用いられるのが好ましい。
第2部材と接着層との接着性をより向上させる観点から、第2部材を貼り合わせる前に、第2部材の表面に対して塗装や上述した乾式処理を行ってもよい。
【0037】
<貼り合わせ方法>
接着剤層上に第2部材を貼り合わせる方法は特に制限されないが、例えば、圧着する方法などが挙げられる。なお、接着剤を硬化させるために、第2部材を貼り合わせた後に、加熱処理等を行ってもよい。
【0038】
第2部材が結晶性熱可塑性樹脂を含有する場合、上記貼り合わせ工程の前に、さらに、第2部材の表面に対して、下記条件A2及び条件B2を満たすように乾式処理を行う、表面処理工程を備えるのも好ましい。なお、貼り合わせ工程では、上述した接着層上に、第2部材の表面処理を行った側の表面を貼り合せる。
(条件A2)第2部材の最高到達温度が、第2部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークのピーク温度未満である。
(条件B2)第2部材の高温保持時間が3.0秒未満である。ここで第2部材の高温保持時間とは、第2部材が、第2部材に含有される結晶性熱可塑性樹脂の示差走査熱量測定により得られる吸熱ピークの起点温度以上の温度に連続で保持された時間である。
【0039】
表面処理工程の具体例及び好適な態様は、上述した工程1と同じである。
また、ピーク温度及び起点温度の定義は、それぞれ上述した工程1におけるピーク温度及び起点温度と同じである。
【0040】
[用途]
本発明の方法によって製造される積層部材は接着性に優れるため、自動車のボディ、フロントドア、リヤドア、バックドア、フロントバンパー、リアバンパー、ロッカーモールなど自動車の内外装部材に特に有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<接着剤の調製>
下記表1の各成分を、同表に示す組成(質量部)で撹拌機を用いて混合し、同表上段に示す主剤と同表下段に示す硬化剤とを調製した。
次いで、調製した主剤100gと、硬化剤10gとを混合し、接着剤1〜3を得た。
【0043】
【表1】
【0044】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・ポリマー1:下記で合成したウレタンプレポリマー
ポリオキシプロピレンジオール(平均分子量2000)700g、ポリオキシプロピレントリオール(平均分子量3000)300g、および4,4′−ジイソシアネートフェニルメタン(分子量250)499gを混合し(この時NCO/OH=2.0)、更にフタル酸ジイソノニル500gを加えて、窒素気流中、80℃で12時間撹拌を行い、反応させて、イソシアネート基を2.10%含有するウレタンプレポリマー(ポリマー1)を合成した。
・ポリマー2:カネカMSポリマーS203(カネカ社製)
・エポキシ樹脂1:アデカレジンEP−4100(アデカ社製)
・エポキシ樹脂2:アデカレジンEP−4006(アデカ社製)
・化合物1:ヘキサメチレンジイソシネートのイソシアヌレート体(Tolonate HDT、パーストープ社製)
・化合物2:ダイマロン(ヤスハラケミカル社製)
・化合物3:3官能ポリプロピレンポリオール(エクセノール1030、旭硝子社製)
・化合物4:ポリブタジエンジオール(Poly bd R−45HT、出光興産社製、水酸基価:0.8mol/kg)
・化合物5:ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)
・化合物6:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン サイラエース S−510(チッソ社製)
・化合物7:ビニルトリメトキシシランKBM 1003(信越化学工業社製)
・化合物8:ケチミン型潜在性硬化剤 エピキュア H−30(三菱化学社製)
・カーボンブラック:#200MP(新日化カーボン社製)
・炭酸カルシウム1:スーパーS(丸尾カルシウム社製)
・炭酸カルシウム2:カルファイン200(丸尾カルシウム社製)
・可塑剤1:フタル酸ジイソノニル(ジェイプラス社製)
・可塑剤2:シェルゾールTM(ジャパンケムテック社製)
・触媒1:ジモルホリノジエチルエーテル(サンアプロ社製)
・触媒2:スズ系触媒 ネオスタンU−303(日東化成社製)
【0045】
<積層部材の製造>
(表面処理工程)
ポリプロピレン複合材料(R−200G、プライムポリマー社製)からなる基材(第1部材)(ポリプロピレンの含有量:80質量%、無機物(ガラスフィラー)の含有量:20%質量%)(幅:25mm、長さ:120mm、厚み:3mm)の一方の表面に表2に記載の処理条件で乾式処理を行った。表2中、「フレーム」がフレーム処理を表し、「プラズマ」がプラズマ処理を表す。各処理の詳細は後述する。なお、比較例1では乾式処理を行わなかった。
【0046】
図2に、実施例で使用されたポリプロピレン複合材料のDSC曲線を示す。
実施例で使用されたポリプロピレン複合材料のDSC測定により得られる吸熱ピークのピーク温度は165℃であった。また、実施例で使用されたポリプロピレン複合材料のDSC測定により得られる吸熱ピークの起点温度は120℃であった。
【0047】
(接着剤付与工程)
次に、第1部材の乾式処理を行った表面に、表2に記載の接着剤を付与して、接着剤層を形成した(厚み:3mm)。
【0048】
(貼り合わせ工程)
さらに、接着剤層上に、塗装した別の基材(材料:ポリプロピレン)(幅:25mm、長さ:120mm、厚み:3mm)(第2部材)を貼り合わせて、圧着し、23℃、相対湿度50%の環境下に3日間放置した。このようにして、第1部材と接着層(接着剤層が硬化した層)と第2部材とを備える積層部材を得た。
【0049】
<接着性の評価>
得られた積層部材の接着層にナイフで切れ込みを入れ、手で第1部材と第2部材とを剥離した。そして、剥離面を目視で確認し、剥離面のうち、凝集破壊(CF)の面積の割合、及び、界面剥離(AF)の面積の割合を調べた。結果を表2に示す(初期)。また、得られた積層部材について耐薬品試験(ウィンドウウォッシャー液に240時間浸漬)を行い、その後同様の評価を行った。結果を表2に示す(耐薬品)。
ここで、「CF数値」が凝集破壊の面積の割合(%)を示し、「AF数値」が界面剥離の面積の割合(%)を示す。例えば、「CF90AF10」は、凝集破壊の面積の割合が90%で界面剥離の面積の割合が10%であることを示す。
なお、凝集破壊の面積の割合が多いほど接着性に優れることを表す。実用上、凝集破壊の面積の割合が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0050】
【表2】
【0051】
<処理条件>
表2中、「処理条件」については以下のとおりである。
【0052】
(フレーム処理)
表2中、フレーム処理については以下のとおりである。
フレーム処理は、バーナー(ガス圧:0.4MPa)を使用し、表2に記載の条件(速度、距離、パス回数)で行った。具体的には、固定した基材に対してバーナーを動かすことで、バーナー(フレーム)を基材に対して掃引した。
ここで、速度とは、フレーム処理の速度であり、具体的には、固定した基材に対してバーナーを動かした速度[mm/秒]である。また、距離とは、バーナーと基材との距離[mm]である。また、パス回数とは、バーナー(フレーム)を掃引した回数である。例えば、パス回数が「1」と記載されているものはバーナーを基材の一端から他端まで1回掃引したものであり、パス回数が「2」と記載されているものはバーナーを基材の一端から他端まで1回掃引した後にもう1回他端から一端までバーナーを掃引したものである。パス回数が2回以上のものについて「連続」と記載されているものは間隔を空けずに次の掃引を行ったもの(連続処理)であり、「間欠」と記載されているものは掃引後に基材の放冷を行ってから次の掃引を行ったもの(間欠処理)である。
【0053】
(プラズマ処理)
表2中、プラズマ処理については以下のとおりである。
プラズマ処理は、プラズマトリート社製処理装置(ガス種:エアー、出力:23kHz)を使用し、表2に記載の条件(速度、距離、パス回数)で行った。
ここで、速度とは、プラズマ処理の速度であり、具体的には、基材に対してプラズマ放電ノズルを動かした速度[mm/秒]である。また、距離とは、プラズマ放電ノズルと基材との距離[mm]である。また、パス回数とは、プラズマ放電ノズルを掃引した回数である。例えば、パス回数が「1」と記載されているものはプラズマ放電ノズル(プラズマ放電)を基材の一端から他端まで1回掃引したものであり、パス回数が「2」と記載されているものはプラズマ放電ノズルを基材の一端から他端まで1回掃引した後にもう1回他端から一端までプラズマ放電ノズルを掃引したものである。パス回数が2回以上のものについて「連続」と記載されているものは間隔を空けずに次の掃引を行ったもの(連続処理)であり、「間欠」と記載されているものは掃引後に基材の放冷を行ってから次の掃引を行ったもの(間欠処理)である。
【0054】
(第1部材の温度、最高到達温度、及び、高温保持時間)
表2中、「第1部材の温度」は、乾式処理の各パスにおける第1部材の最高の温度[℃]を表す。また、「最高到達温度」は、乾式処理全体における第1部材の最高の温度[℃]を表す。また、「高温保持時間」は、乾式処理において第1部材が起点温度(120℃)以上の温度に連続で保持された時間[秒]を表す。
なお、フレーム処理では、貼り付け型の熱電対を用いて第1部材の温度を測定した。また、プラズマ処理では、熱によって変色するインク及びシール並びにサーモグラフィーを用いて第1部材の温度を測定した。
また、
図3に、実施例1の表面処理工程において、第1部材の温度を時間に対してプロットしたものを示す。
【0055】
(濡れ指数)
表2中、「濡れ指数」は、第1部材の乾式処理を行った表面の濡れ指数[dyn/cm]を表す。濡れ指数は、濡れ試薬(和光純薬社製)を使用して測定した。濡れ指数が高いほど、親水的であることが表す。
【0056】
表2から分かるように、特定条件を満たすように乾式処理を行った本実施例の製造方法から得られる積層部材は、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示した。
実施例1と10と11との対比から、接着剤としてイソシアヌレート又はテルペン樹脂を含有するウレタン系接着剤を使用した実施例1は、より優れた接着性を示した。
実施例1〜9(接着剤1)の対比から、高温保持時間が0.5秒未満である実施例1、2、5、8及び9は、より優れた接着性(耐薬品)を示した。そのなかでも、乾式処理が複数回の単位乾式処理(複数回のパス)からなる実施例2、5及び9は、さらに優れた接着性(耐薬品)を示した。
【0057】
一方、特定条件を満たさない乾式処理を行った比較例2〜7の製造方法から得られる積層部材は接着性が不十分であった。