【文献】
DEFINITION Hepatitis C virus subtype 2a strain MD2a-7, complete genome.,Database GenBank [online], ACCESSION AF238485,2007年 9月 5日,[retrieved on 2019.05.09],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF238485
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記核酸プローブは15〜25塩基長であり、上記ブロッキング用核酸の塩基長が15〜24塩基長であることを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
クエン酸ナトリウム二水和物(SSC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を更に含むことを特徴とする請求項1記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
上記ターゲット核酸を含有する溶液は、上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液であり、当該反応液と上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物と混合することを特徴とする請求項5記載のハイブリダイゼーション方法。
【背景技術】
【0002】
例えば分子生物学において、ハイブリダイゼーションとは、核酸分子同士が相補的な塩基間で水素結合する現象を意味している。言い換えると、測定対象の核酸分子の塩基配列が既知であれば、当該塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸分子を用いて測定対象の核酸分子を検出することができる。より具体的には、測定対象の核酸分子に相補的な塩基配列を有する核酸プローブを固定化した固相に、蛍光標識した測定対象となる核酸節を反応させ、その後、未反応の核酸分子を洗浄・除去し、そして、固相に結合している標識物質の活性を測定する方法である。ハイブリダイゼーション方法においてはDNAの配列を正確に認識することで、測定対象の核酸分子を検出することができる。
【0003】
このようなハイブリダイゼーションにおいて、測定対象の核酸分子を正確に検出するには、核酸プローブが核酸分子を正確に認識することが重要である。よって従来、ハイブリダイゼーションを行う際は、反応液の塩濃度や反応温度を適宜調節する方法や、核酸プローブと測定対象以外の核酸分子との非特異的なハイブリダイズを抑制するブロッキング剤を使用する方法が用いられている。ブロッキング剤としては、例えば、サケ精子DNAや酵母tRNAなどの測定対象の核酸分子や核酸プローブに対して、相補的な塩基配列を有しない核酸成分、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Nラウロイルサルコシン(N−LS)などの界面活性剤、牛血清アルブミン(BSA)、カゼインなどのタンパク質が知られている。
【0004】
しかし、測定対象でない核酸分子が多くある場合、核酸成分からなるブロッキング剤ではブロッキング効果が不十分であり、また界面活性剤やタンパク質では塩基配列を正確に認識できないためブロッキング効果は弱いといった問題があった。
【0005】
また、特許文献1には、測定対象の核酸分子における固有の配列にハイブリダイズし、且つ固相上へ捕捉される核酸配列を含む捕捉配列プローブに対して特異的にハイブリダイズするブロッカープローブを使用する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、捕捉配列プローブが測定対象の核酸分子にハイブリダイズした後、ブロッカープローブを反応液に添加することで、ハイブリダイズしていない捕捉配列プローブが測定対象の核酸分子に存在する交差反応性核酸配列にハイブリダイズすることを防ぎ、そのために検出の特異性を向上させることができる。
【0006】
さらに、特許文献2には、測定対象の核酸分子をマイクロアレイを用いて検出する際にブロッキング剤として、ロックド核酸(LNA)といった改変ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを使用することが開示されている。
【0007】
さらにまた、特許文献3には、測定対象の核酸分子における検出対象塩基よりも5’末端側にハイブリダイズする5’末端側ブロック核酸、検出対象塩基よりも3’末端側にハイブリダイズする3’末端側ブロック核酸を用いて、測定対象の核酸分子を核酸プローブで検出する方法が開示されている。特許文献3によれば、プローブ核酸と標的核酸とのハイブリダイゼーションにおける塩基配列特異性が高く、塩基配列中の一塩基のみの相違を高精度に検出する必要のあるSNPのタイピングや、特定の塩基配列を有する核酸の検出や分離の効率及び特異性を向上できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、検出対象塩基を含むターゲット核酸を核酸プローブで検出する際、前記検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸が存在すると、ターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーション効率が低下し、ターゲット核酸の検出効率が低下するといった問題があった。そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、上記非ターゲット核酸が存在する場合であっても核酸プローブに対する非特異的ハイブリダイズを抑制し、ターゲット核酸の優れた検出効率を達成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、プローブ核酸を用いてターゲット核酸を検出する際の検出効率を向上できるブロッキング用核酸を設計することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0011】
(1)検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するバッファー組成物であって、前記検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有する、ハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0012】
(2)上記ブロッキング用核酸は、上記核酸プローブの塩基長に対して60%以上の長さであることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0013】
(3)上記ブロッキング用核酸は、上記核酸プローブの塩基長よりも短い長さであることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0014】
(4)上記核酸プローブは15〜25塩基長であり、上記ブロッキング用核酸の塩基長が15〜24塩基長であることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0015】
(5)上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに使用されることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0016】
(6)クエン酸ナトリウム二水和物(SSC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を更に含むことを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0017】
(7)上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液と混合されることを特徴とする(1)記載のハイブリダイゼーション用バッファー組成物。
【0018】
(8)検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーション方法であって、前記検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含むブロッキング用核酸を含有するハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合し、その後、上記核酸プローブと上記ターゲット核酸とのハイブリダイズを行う、ハイブリダイゼーション方法。
【0019】
(9)上記ブロッキング用核酸は、上記核酸プローブの塩基長に対して60%以上の長さであることを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0020】
(10)上記ブロッキング用核酸は、上記核酸プローブの塩基長よりも短い長さであることを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0021】
(11)上記核酸プローブは15〜25塩基長であり、上記ブロッキング用核酸の塩基長が15〜24塩基長であることを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0022】
(12)上記核酸プローブが基板上に固定されてなるマイクロアレイに、上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物と、上記ターゲット核酸を含有する溶液とを混合した混合液を接触させることを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0023】
(13)上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、クエン酸ナトリウム二水和物(SSC)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を更に含むことを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0024】
(14)上記ターゲット核酸を含有する溶液は、上記ターゲット核酸を増幅する核酸増幅反応の後の反応液であり、当該反応液と上記ハイブリダイゼーション用バッファー組成物と混合することを特徴とする(8)記載のハイブリダイゼーション方法。
【0025】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-200192号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法によれば、検出対象塩基を含むターゲット核酸以外の核酸分子とプローブ核酸との非特異的ハイブリダイズを抑制することができる。したがって、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物及びハイブリダイゼーション方法を適用することにより、ターゲット核酸とプローブ核酸との特異的ハイブリダイズに基づく、ターゲット核酸の検出効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、検出対象塩基を含むターゲット核酸と、当該ターゲット核酸に対して相補的な塩基配列を含む核酸プローブとのハイブリダイゼーションに使用するバッファー組成物である。特に、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物には、核酸プローブに対する非特異的ハイブリダイズを抑制する機能を有するブロッキング用核酸が含まれている。
【0029】
ここで、ターゲット核酸とは、検出対象塩基を含む核酸分子、すなわち核酸断片を意味する。ターゲット核酸は、DNAからなる核酸分子でも良いし、RNAからなる核酸分子でも良いし、DNAとRNAとを含む核酸分子(DNA−RNA複合体)でもよい。また、核酸としては、アデニン、シトシン、グアニン、チミン及びウラシル、並びに、ペプチド核酸(PNA)及びロックド核酸(LNA)等の人工核酸を含む意味である。
【0030】
検出対象塩基とは、例えば染色体の所定の位置における1又は複数の核酸残基を意味しており、特に限定されないが、一塩基多型(SNP)等の塩基配列における特定の塩基の種類を意味している。例えば、所定の一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうるとして、いずれか一方の塩基、すなわち当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とすることができる。ここで、検出対象塩基としては、遺伝子多型におけるメジャーアレル及びマイナーアレルのいずれでも良いし、リスクアレルであってもなくても良い。
【0031】
検出対象塩基を含むターゲット核酸は、検出対象塩基を含む所定の領域を核酸増幅法により増幅することで調整することができる。また、ターゲット核酸としては、生物個体、組織及び細胞採取から採取した転写産物から逆転写反応により得られるcDNAとしても良い。ターゲット核酸の塩基長としては、特に限定されないが、例えば60〜1000塩基とすることができ、60〜500塩基とすることが好ましく、60〜200塩基とすることがより好ましい。
【0032】
なお、検出対象塩基を含むターゲット核酸に対して、当該検出対象塩基に対応する非検出対象塩基を含む核酸分子(核酸断片)を非ターゲット核酸と称する。例えば、染色体における所定の位置で取りうる複数の塩基のうち、1つの塩基を検出対象塩基とした場合、検出対象塩基以外の塩基を非検出対象塩基とする。より具体的に、所定の位置における一塩基多型がA(アデニン)又はC(シトシン)を取りうる場合、当該一塩基多型におけるA(アデニン)を検出対象塩基とすると、当該一塩基多型におけるC(シトシン)が非検出対象塩基ということになる。
【0033】
非検出対象塩基を含む非ターゲット核酸は、染色体上に非検出対象塩基が存在する場合、上述のように検出対象塩基を含むターゲット核酸を取得する際に同時に取得される。例えば、ターゲット核酸をポリメラーゼ連鎖反応等の核酸増幅反応により取得する場合、一方のアレルが非検出対象塩基であれば、ターゲット核酸とともに非ターゲット核酸が増幅されることとなる。
【0034】
検出対象塩基を含むターゲット核酸を検出するには、ターゲット核酸において、少なくとも検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する核酸プローブを使用する。核酸プローブは、特に限定されないが、例えば10〜30塩基長とすることができ、15〜25塩基長とすることが好ましい。また、検出対象塩基に相補的な塩基は、核酸プローブを構成する塩基を文字列として見たときに、当該文字列の中心となる位置とすることが好ましい。なお、文字列の中心とは、偶数個の塩基からなる核酸プローブについては5’末端又は3’末端方向に1つづれている場合を含む意味である。
【0035】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物において、ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸における非検出対象塩基を含む領域に対して相補的な塩基配列を有する。よって、ブロッキング用核酸は、ターゲット核酸と核酸プローブとがハイブリダイズできる条件下において、非ターゲット核酸とハイブリダイズすることができる。ブロッキング用核酸としては、特に限定されないが、核酸プローブの塩基長に対して60%以上の長さであることが好ましい。また、ブロッキング用核酸は、核酸プローブの塩基長よりも短い長さであることが好ましい。例えば核酸プローブの長さが25塩基長とすると、ブロッキング用核酸の塩基長は15〜24塩基長であることが好ましい。
【0036】
また、ブロッキング用核酸において、非検出対象塩基に相補的な塩基は、ブロッキング用核酸を構成する塩基を文字列として見たときに、当該文字列の中心となる位置とすることが好ましい。なお、文字列の中心とは、偶数個の塩基からなるブロッキング用核酸については5’末端又は3’末端方向に1つずれている場合を含む意味である。
【0037】
さらに、ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸に含まれる非検出対象塩基以外の塩基に対応する位置にミスマッチな塩基(相補的でない塩基)を含んでいても良い。ブロッキング用核酸が15塩基長である場合、ミスマッチな塩基は1〜3個とすることができ、1〜2個であることが好ましい。また、ブロッキング用核酸が24塩基長である場合、ミスマッチな塩基は1〜3個とすることができ、1〜2個であることが好ましい。
【0038】
さらにまた、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物において、ブロッキング用核酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、非ターゲット核酸の濃度及び/又はターゲット核酸の濃度に応じて、プライマー濃度に応じて適宜設定することができる。具体的にブロッキング用核酸の組成物中の濃度は、0.01〜1μMとすることができ、0.05〜0.75μMとすることが好ましく、0.125〜0.5μMとすることがより好ましい。
【0039】
以上のように、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、ブロッキング用核酸を含むため、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイズを抑制することができ、ターゲット核酸と核酸プローブとの特異的なハイブリダイズが阻害されることを防止できる。このため、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用することによって、例えばターゲット核酸が低濃度であるような場合であっても、核酸プローブを用いてターゲット核酸を高精度に検出することができる。また、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用することによって、例えば、ターゲット核酸に対して一塩基のみが相違する非ターゲット核酸が存在する場合であっても、核酸プローブを用いてターゲット核酸を高精度に検出することができる。
【0040】
本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、核酸分子同士の相補的な結合を意味するハイブリダイゼーションを含むならば、如何なる系にも使用することができる。すなわち、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、in situ ハイブリダイゼーションに使用することができる。特に、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、担体(基板、中空繊維、微粒子を含む)に核酸プローブを固定し、固定化した核酸プローブを用いてターゲット核酸を検出(定性、定量を含む)する系に使用することが好ましい。より具体的に、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物は、核酸プローブを基板に固定したDNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いてターゲット核酸を検出する際に使用することが最も好ましい。
【0041】
以下、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いてターゲット核酸を検出する際に使用する系を例示的に説明する。なお、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物の実施形態は、以下の例に限定されるものではない。
【0042】
K-ras(v-Ki-ras2 Kirsten rat sarcoma viral oncogene homolog(カーステンラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ))における12番目のコドン(コドン12)及び13番目のコドン(コドン13)に関して、野生型のGGTGGC配列を含む測定対象のターゲット核酸とする例である。よって、コドン12及びコドン13についていずれか一方が変異型である配列を含む核酸が非ターゲット核酸である。なお、コドン12についてG12C、G12A、G12D、G12R、G12S及びG12V変異が知られている。また、コドン13についてG13C、G13A、G13D、G13R、G13S及びG13V変異が知られている。
【0043】
複数の非ターゲット核酸が存在する場合、全ての非ターゲット核酸についてブロッキング用核酸を準備しても良いし、一部の非ターゲット核酸についてブロッキング用核酸を準備しても良い。
【0044】
なお、核酸プローブ及びブロッキング用核酸は、より好ましくは一本鎖DNAである。核酸プローブ及びブロッキング用核酸は、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0045】
本例において、核酸プローブは、その5'末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイの形態で用いるのが好ましい。担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。例えば、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム、銀、水銀、タングステンおよびそれらの化合物などの貴金属、およびグラファイト、カ−ボンファイバ−に代表される炭素などの導電体材料;単結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素などに代表されるシリコン材料、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)などに代表されるこれらシリコン材料の複合素材;ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラスなどの無機材料;ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、環状ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホンなどの有機材料等が挙げられる。担体の形状も特に制限されないが、好ましくは平板状である。
【0046】
なお担体として、好ましくは表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等のカーボン層と、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ホルミル基、ヒドロキシル基及び活性エステル基等の化学修飾基とを有する担体を用いる。表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体には、基板の表面にカーボン層と化学修飾基とを有するもの、およびカーボン層からなる基板の表面に化学修飾基を有するものが包含される。基板の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されず、上述の担体材料として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0047】
このように作製したDNAマイクロアレイを用いて被検者における、ターゲット核酸を検出することができる。これには、被検者由来の試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、K-rasにおけるコドン12及び13を含む領域を増幅する工程と、DNAマイクロアレイを用いて増幅された核酸を検出する工程とを含む。
【0048】
被検者は通常ヒトであり、結腸癌及び直腸癌を含む大腸癌、頭頸部癌又は非小細胞肺癌に罹患した患者を挙げることができる。これらの癌に罹患していない健常者を被検者としてもよい。さらに被検者としては、EGFR陽性の進行・再発の結腸・直腸癌に罹患した患者とすることもできる。被検者由来の試料は特に制限されない。例えば、血液関連試料(血液、血清、血漿など)、リンパ液、糞便、がん細胞、組織または臓器の破砕物および抽出物などが挙げられる。
【0049】
まず、被検者から採取した試料からDNAを抽出する。抽出手段としては、特に限定されない。例えばフェノール/クロロホルム、エタノール、水酸化ナトリウム、CTABなどを用いたDNA抽出法を用いることができる。
【0050】
次に、得られたDNAを鋳型として用いて増幅反応を行い、K-RAS遺伝子をコードする核酸、好ましくはDNAを増幅させる。増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等を適用することができる。増幅反応においては、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0051】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、K-RAS遺伝子に特異的なプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0052】
増幅反応に用いるプライマーは、K-ras のコドン12及びコドン13を含む領域を特異的に増幅できるものであれば特に制限されず、当業者であれば適宜設計できる。例えば、
プライマー1:5'- gtgtgacatgttctaatatagtcac -3'(配列番号1)及び
プライマー2:5'- gaatggtcctgcaccagtaa -3'(配列番号2)
からなるプライマーのセットが挙げられる。
【0053】
上記のようにして得られた増幅核酸には、ターゲット核酸及び非ターゲット核酸が含まれる。核酸プローブとターゲット核酸のハイブリダイゼーション反応を行い、核酸プローブにハイブリダイズした核酸の量を、例えば標識を検出することにより測定できる。標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。また、核酸プローブにハイブリダイズした増幅核酸は、例えば、既知量のDNAを含む試料を用いて検量線を作成することにより、定量することもできる。
【0054】
このとき、上述した本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用することで、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイズを抑制することができる。ハイブリダイゼーション用バッファー組成物を用いたハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、50℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。すなわち、本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物には、ハイブリダイゼーション反応に必要な塩、例えばSSCや、公知のブロッキング剤、例えばSDSが含まれていても良い。
【0055】
また、増幅反応後のターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物とを予め混合して、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸との特異的なハイブリダイズを行った後、反応液をDNAマイクロアレイに接触させてターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーション反応を進行させても良い。或いは、増幅反応後のターゲット核酸及び非ターゲット核酸を含む反応液と本発明に係るハイブリダイゼーション用バッファー組成物とをDNAマイクロアレイ上にて混合して、非ターゲット核酸とブロッキング用核酸との特異的なハイブリダイズ並びにターゲット核酸と核酸プローブとの特異的なハイブリダイズを同時に進行させても良い。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
本実施例では、K-rasにおけるコドン12及びコドン13の野生型の塩基配列(GGTGGC)を非検出対象塩基とした。野生型の検体としては、RKO株ゲノムDNA(野生型検体、コドン12,13の配列:GGTGGC)を使用した。また、検出対象塩基としては、LoVo株ゲノムDNA (G13D変異型検体、コドン12,13の配列:GGTGAC)を用いた。これら細胞株から抽出したDNAを用いて、G13D変異型検体の割合を0%、0.625%、1.25%、2.5%、5%とした5種類の検体DNAを調整した。
【0058】
これら5種類の検体DNAを用いて、下記表1及び2の条件にてPCRを行った。
【表1】
【表2】
【0059】
得られたPCR産物に、ブロッキング用核酸(配列:GAGCTGGTGGCGTAGG:配列番号3)を含むハイブリダイゼーション用バッファー組成物(3XSSC/0.3%SDS/ブロッキング用核酸/0.4nM Cy5 オリゴDNA)又はブロッキング用核酸を含まないハイブリダイゼーション用バッファー組成物(3XSSC/0.3%SDS/0.4nM Cy5 オリゴDNA)を2:1の割合で混合し、ハイブリダイゼーション反応液とした。
【0060】
ハイブリダイゼーション反応液をDNAチップに滴下し、ハイブリカバーを被せ、ハイブリチャンバーにて、54℃、1時間反応させた。なお、DNAチップとしては、ジーンシリコン(R)(東洋鋼鈑社製)を使用した。
【0061】
反応終了後、1xSSC/0.1%SDSで5分間(30回上下に振とう後、静置)、1xSSCで3分間(30回上下に振とう後、静置)洗浄した。その後、カバーフィルムを被せ、バイオショットにて蛍光強度を測定した。そして、蛍光強度に基づいて、G13D検出用プローブ蛍光強度/BG(S/N比)を算出した。
【0062】
算出結果を
図1及び2に示す。
図1はブロッキング用核酸を含まないハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用したときの結果を示し、
図2はブロッキング用核酸を含むハイブリダイゼーション用バッファー組成物を使用したときの結果を示している。また、
図1及び2には、5種類の検体DNAにおけるwtプローブおよびG13DプローブのSN比平均を示す。
【0063】
図2に示すように、ブロッキング用核酸を含む場合、G13DプローブのSN比は、G13D変異型検体の割合が0%ではおよそ1.2であり、非特異的な反応はほぼ抑えられていた。なお、
図1に示すように、G13D変異型検体の割合が0%であっても、ブロッキング用核酸を含まない場合にはG13Dプローブに対する非特異的ハイブリダイズが見られている。
【0064】
また、
図2に示すように、G13D変異型検体の割合が0.625%以降では、割合依存的にSN比は高くなる傾向にあることが判る。ただし、
図1に示すように、ブロッキング用核酸を含まない場合には、G13D変異型検体の割合に拘わらず、G13DプローブのSN比のバラツキが大きくなっている。これに比較して、
図2に示すように、ブロッキング用核酸を含む場合には、G13DプローブのSN比のバラツキは小さくなることが示された。
【0065】
さらに、検出感度としては、ブロッキング用核酸を含まない場合では5%程度であったのに対して(
図1)、ブロッキング用核酸を含む場合には0.625%程度であっても検出できる可能性が示された(
図2)。
【0066】
以上の結果から、ブロッキング用核酸の存在下でターゲット核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを行うことによって、非特異的な反応を抑え、バラツキを小さくすることでシグナルが安定化し、検出感度が向上したと考えられる。
【0067】
〔実施例2〕
本実施例では、ブロッキング用核酸に含まれる、非検出対象塩基に相補的な塩基配列の位置及び、ブロッキング用核酸に含まれるミスマッチ塩基について検討した。
【0068】
本実施例では、野生型検体としてSW948株ゲノムDNA(野生型検体、コドン12,13の配列:GGTGGC)を使用した以外は、実施例1と同様にしてPCR(表1及び2)を行った。なお、本例では、SW948株ゲノムDNA及びLoVo株ゲノムDNAを混合せずに、それぞれ独立してPCRを行った。
【0069】
本例では、PCR産物と、バッファー溶液(3XSSC/0.3%SDS/0.4nM Cy5 オリゴDNA)と、ブロッキング用核酸(濃度:0.125μM、0.25μM又は0.5μM)とを1:1:1の割合で混合し、ハイブリダイゼーション反応液とした。使用したブロッキング用核酸の塩基配列を表3に示した。また、ブロッキング用核酸を含まないコントロールとして精製水を用いた。
【表3】
【0070】
得られたハイブリダイゼーション反応液をDNAチップに滴下し、ハイブリカバーを被せ、ハイブリチャンバーにて、54℃、1時間反応させた。なお、DNAチップとしては実施例1で使用したものと同じものを使用した。
【0071】
反応終了後、1xSSC/0.1%SDSで5分間(30回上下に振とう後、静置)、1xSSCで3分間(30回上下に振とう後、静置)洗浄した。その後、カバーフィルムを被せ、バイオショットにて蛍光強度を測定した。そして、蛍光強度に基づいて、G13D検出用プローブ蛍光強度/BG(S/N比)を算出した。
【0072】
算出結果を表4及び5並びに
図3及び4に示した。表4及び
図3は、野生型ゲノムDNAを用いて調整したPCR産物について、各ブロッキング用核酸を使用した場合のwtプローブ、及びG13DプローブのSN比を示す。表5及び
図4は、変異型ゲノムDNAを用いて調整したPCR産物について、各ブロッキング用核酸を使用した場合のwtプローブ、及びG13DプローブのSN比を示す。
【表4】
【表5】
【0073】
表4及び5並びに
図3及び4に示すように、非検出対象塩基に相補的な塩基配列が略中央に有するブロッキング用核酸(KP−18)は、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを最も効果的に抑制できることが判った。ただし、非検出対象塩基に相補的な塩基配列が略中央からずれているブロッキング用核酸(KP−18R及びKP−18L)であっても、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを効果的に抑制できていることが示されている。
【0074】
また、ブロッキング用核酸は、非ターゲット核酸の塩基配列に対して1塩基のミスマッチを有していても、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを効果的に抑制できていることが判る。さらに、ブロッキング用核酸の濃度について、本実施例で検討した範囲においてはいずれも、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを効果的に抑制できているが、濃度が高い方がより効果が見られた。
【0075】
〔実施例3〕
本実施例では、ターゲット核酸を検出するための核酸プローブの長さと、ブロッキング用核酸の長さについて検討した。
【0076】
本例では、表6に示した核酸プローブを固定したDNAチップを使用した。
【表6】
【0077】
本例においては、野生型の検体として実施例2と同様にSW948株ゲノムDNAを使用し、変異型の検体としてLoVo株ゲノムDNAを使用した。これら検体のゲノムDNAを用いて、下記表7に示す反応液にてPCRを行った(反応条件は表1と同じ)。
【表7】
【0078】
本例では、PCR産物と、バッファー溶液(3XSSC/0.3%SDS/0.4nM Cy5 オリゴDNA)と、0.5μMのブロッキング用核酸とを1:1:1の割合で混合し、ハイブリダイゼーション反応液とした。使用したブロッキング用核酸の塩基配列を表8に示した。また、ブロッキング用核酸を含まないコントロールとして精製水を用いた。
【表8】
【0079】
得られたハイブリダイゼーション反応液をDNAチップに滴下し、ハイブリカバーを被せ、ハイブリチャンバーにて、54℃、1時間反応させた。反応終了後、1xSSC/0.1%SDSで5分間(30回上下に振とう後、静置)、1xSSCで3分間(30回上下に振とう後、静置)洗浄した。その後、カバーフィルムを被せ、バイオショットにて蛍光強度を測定した。そして、蛍光強度に基づいて、G13D検出用プローブ蛍光強度/BG(S/N比)を算出した。
【0080】
野生型の検体を用いたときの結果を
図5に示し、変異型の検体を用いたときの結果を
図6に示す。また、
図5に示した結果及び
図6に示した結果をそれぞれ表9及び10に纏めた。
【表9】
【表10】
【0081】
図5に示すように、ブロッキング用核酸の長さが10merでは、ブロッキング用核酸を含まない場合とほぼ同等のSN比であり、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを抑制できていなかった。また、
図5に示すように、ブロッキング用核酸の長さが15mer以上の場合には、非ターゲット核酸と核酸プローブとの非特異的なハイブリダイゼーションを抑制できていることが判った。この結果から、ブロッキング用核酸の長さとしては、核酸プローブ長さに対して60%以上であることが好ましいと考えられた(ブロッキング用核酸が15merの場合、15mer(ブロッキング用核酸)/25mer(核酸プローブ)=60%)。
【0082】
一方、
図6に示すように、ブロッキング用核酸の長さが核酸プローブと同じ長さになると、1塩基のミスマッチを有する変異型の検体ではSN比も大きく低下し、特異性がなくなることがわかった。以上の結果から、ブロッキング用核酸の長さは、核酸プローブ長さの60%以上100%未満がよいと考えられた。
【0083】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。