特許第6644313号(P6644313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644313
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】ダイヤモンドの加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/302 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   H01L21/302 201A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-223559(P2015-223559)
(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-92356(P2017-92356A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 一浩
(72)【発明者】
【氏名】長井 雅嗣
【審査官】 佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04756794(US,A)
【文献】 特開平05−013382(JP,A)
【文献】 特開2006−335591(JP,A)
【文献】 特開平06−049669(JP,A)
【文献】 特公平01−039966(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドの加工部位にNi膜,Fe膜,Siの酸化膜及びAlの酸化膜のうち、いずれかの膜を形成するステップを有し、次にHOが0.01〜30%の範囲で含有する不活性ガスとの混成ガスを用いて前記膜を形成した部位を前記ダイヤモンドの所定の結晶面に沿った異方性エッチング加工するステップを有し、
前記エッチング加工する温度は500℃以上で、前記膜の溶融温度以下の雰囲気温度で行われることを特徴とするダイヤモンドの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの加工方法に関し、特にエッチング処理による加工方法に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、硬くて化学的にも安定な物質であり、加工が困難な物質の1つである。
そこで、従来から反応性エッチング(RIE)や誘導結合プラズマエッチング(ICP)等が採用されている。
これらのエッチング加工方法は、専用の装置が必要で高価となるだけでなく、エッチングによるダイヤモンド表面へのダメージが大きい問題がある。
特許文献1には、不活性ガス及びハロゲン含有ガスからなる混合ガスを使用しているが、プラズマエッチング加工である点で上記と同様の課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5714052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ダイヤモンド表面へのダメージが少なく、高速で低コストのエッチングによるダイヤモンド加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るダイヤモンドの加工方法は、ダイヤモンドの加工部位に金属又は半金属及びその合金あるいは無機化合物の膜を形成するステップと、不活性ガス及びHOの混成ガス又は真空下でHOを用いて前記膜を形成した部位をエッチング加工するステップとを有することを特徴とする。
ここで、不活性ガス及びHOの混成ガス又は真空下でHOを用いてエッチング加工する温度は500℃以上で、前記膜の溶融温度以下の雰囲気温度で行われるのが好ましい。
【0006】
従来のエッチング加工は、エッチングしない部分をマスキングする方法が一般的であるのに対して、本発明はダイヤモンドの表面は直接エッチング作用がなく、金属又は半金属及びその合金あるいは無機化合物の膜を介して、この膜形成した部分のダイヤモンドをエッチングする点に特徴がある。
高温気体状のHOは、ダイヤモンドの表面に対して直接的にはエッチング作用がない。
しかし、ダイヤモンド表面に上記の膜を形成し、HOでエッチングすると膜中にカーボンが固溶し、ダイヤモンド表面をエッチングする作用があることが、本発明者らによって見出されたものである。
このような膜としては、Ni,Co,Cu,Mn,Cr,Fe,V,Mo,Ru,W及びそれらの合金、またそれらの無機化合物が例として挙げられ、無機化合物には酸化物,水酸化物,炭化物が例として挙げられる。
また、半金属であるSiの酸化物やAlの酸化物が例として挙げられる。
【0007】
本発明にて不活性ガスは、アルゴン,ヘリウム,窒素のガスが例として挙げられ、HOの混合方法に制限はなく、例えば不活性ガスを水中に投入し、バブリングにより混合させてもよく、また気体にしたHOを混合してもよい。
本発明は、ダイヤモンドの表面に形成した膜へのカーボンの固溶促進を目的にHOを反応させる点に特徴がある。
従って、真空下においてHOガスを投入してもよい。
例えば、電気炉の中に上記膜を形成したダイヤモンドを置き、500℃〜1500℃(膜が溶融しない範囲)、好ましくは700℃〜1100℃に加熱した中にHOを混合させたガスを流入させてもよい。
Oの量は、混合ガス中に0.01%以上含有していればよく、好ましくは0.01%〜30%、さらに好ましくは0.01%〜5%の範囲である。
また、ダイヤモンドの表面に形成する膜の厚みは、HOとの反応性を考慮し、1nm〜1mm、好ましくは100nm〜1μmの範囲がよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ダイヤモンドの加工を施したい部位に上記の膜を形成し、これを500℃〜1500℃の不活性ガスとHOとの混合ガス雰囲気中、あるいは真空下でHOガス雰囲気中に配置するだけで、上記膜を介してエッチングできる。
よって、エッチングガスは、直接ダイヤモンドをアタックしないので、エッチングダメージが殆どなく、高速で安価にエッチング加工できる。
また、詳細は後述するが結晶方位が{111}面で停止する異方性エッチングであり、加工制御しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るエッチング加工方法を試験評価するのに用いた装置の構成例を示す。
図2】(a)〜(d)は本発明に係るエッチング加工のプロセスを示した模式図である。
図3】(a)は表面(100)のダイヤモンド基板の上にNiの膜を形成した状態、(b)はエッチング加工後、(c)はNi膜を除去した状態を示す。
図4】表面(110)のダイヤモンド基板の上に角度を変えてNi膜パターンを形成した状態を示す。
図5】(a)〜(f)はエッチングパターンを模式的に示す。
図6】0°Niパターンのエッチング加工状態を示す。
図7】45°Niパターンのエッチング加工状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るダイヤモンドのエッチング加工方法を実験評価したので以下説明する。
図1に実験方法を示す。
不活性ガスとしてNガスを用いて、このNガスを容器に入れた水中に投入及びバブリングし、N+HOの混成ガスを生成させた。
エッチング処理装置として、電気炉を用いて内部を所定の高温に保持し、上記N+HOの混成ガスを電気炉中にフローさせた。
【0011】
<実験1>
図2にプロセスを模式的に示す。
表面が(100)面のダイヤモンド基板を用いて、表面を熱混酸(濃硫酸:濃硝酸=3:1)で前処理した後に、真空蒸着法を用いて膜厚約350nmのNi膜を図2(b)に示すように形成した。
その表面写真及び膜厚形状を図3(a)に示す。
次に図1に示した実験装置を用いて、電気炉内に上記Ni膜を形成したダイヤモンドを配置し、雰囲気温度を900℃に設定した。
+HOの混成ガスを電気炉中にフローさせ、1時間、エッチング処理した。
その状態を図2(c)に模式的に示し、図3(b)に表面写真を示す。
Ni膜を形成した部分のダイヤモンドがエッチングされているのが確認された。
これはHOがNi膜中にカーボンが固溶するのを促進したと推定される。
次に、熱混酸でNiを除去後に希硝酸で表面を洗浄した。
その模式図を図2(d)に示し、写真を図3(c)に示す。
エッチング形状としてはNi膜部分が深堀されたトレンチ構造になっており、側面{111}面で底面が(100)面からなる結晶面となっているのが確認された。
図3(c)に測定結果を示すように
・エッチング深さ:31.3μm
・エッチングレート:31.3μm/h
・角度θ:54.7°であった。
比較のためにNi膜を表面に形成した上記と同様のダイヤモンド基板を電気炉内に配置し、Hガスをフローさせたところ、Ni膜がない部分のダイヤモンドの表面のアタックはほとんど認められないものの、Ni膜部分のダイヤモンドのエッチングレートは0.43μm/hとわずかであった。
また同様に、N+HOの替わりにNガスのみをフローさせたところ、ダイヤモンド表面へのアタックはないものの、エッチングレートは0.96μm/hと小さかった。
なお、N+HO混成ガスの替わりにAirをフローさせると、エッチングレート15μm/h程度認められるものの、Ni膜が形成されていない部分のダイヤモンド表面もエッチングされていた。
このことから、N+NO混成ガス中のHOがNi膜を介してダイヤモンド表面をアタックしていることが明らかになった。
【0012】
<実験2>
次に結晶面が(110)面のダイヤモンド基板の表面に図4に示すように角度を変えてNiパターンを真空蒸着法により形成した。
このときのNi膜度は約500nmであった。
このダイヤモンド基板を電気炉内に配置し、実験1と同様の条件にてアニール処理(エッチング処理)した。
すると0°Niパターンは、模式図では図5(c),(d)に示し、写真では図6に示すようなエッチング加工形状を示し、45°Niパターンでは模式図、図5(e),(f)写真、図7に示すようなエッチング加工形状となった。
ここで、エッチング側面は結晶方位{111}面で停止していることが確認され、図6に示した角度θは35.2°であった。
【0013】
<実験3>
実験1における条件にて、電気炉の雰囲気温度を1000℃にした以外は同一の条件にてエッチング加工した。
すると5minで約0.3mmのダイヤモンド基板に貫通孔が形成されており、さらにエッチング速度が速くなることが確認できた。
【0014】
上記実験は、ダイヤモンドの表面にNi膜を形成した例であったが、その後の確認でFe膜、Siの酸化膜、Alの酸化膜でも同様のエッチングプロセスが確認された。
<産業上の利用可能性>
【0015】
本発明に係るダイヤモンドのエッチング加工方法は、エレクトロニクス分野における各種デバイスの製作、バルクダイヤモンドのカッテング方法等、ダイヤモンドの各種加工に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7