【実施例】
【0039】
以下に、本実施形態のリチウム抽出方法を用いて、リン酸鉄リチウムの正極材料を有するリチウムイオン電池からリチウムを抽出した実施例及び比較例を示す。
【0040】
(実施例1)
廃棄された自動車用のリチウムイオン電池をN
2雰囲気で600[℃]の温度で焙焼した後、剪断破砕機を用いて破砕し、分級機を用いて得られた破砕物を篩分けし、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得た。表1に粉粒体の組成比率を示す。尚、表1のその他の欄は、負極材料のカーボン、正極材料に含まれる酸素等を含む微量成分である。
【0041】
【表1】
【0042】
次に、粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.10になるように、水酸化ナトリウム水溶液に粉粒体を添加した。具体的には、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.76[g]と蒸留水とを混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]を100[ml]の圧力容器に投入した。
【0043】
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で24[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された水酸化ナトリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
【0044】
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を以下に計算式に従って求めた。リチウムの抽出率は82[%]であった。
リチウム抽出率 =ろ液中に溶解しているリチウム[mg]/粉粒体中のリチウム[mg]×100
【0045】
(実施例2)
水熱処理の保持時間を48[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は89[%]であった。
【0046】
(実施例3)
水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は72[%]であった。
【0047】
(実施例4)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.29になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液2.3[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は90[%]であった。
【0048】
(実施例5)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.48になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液3.8[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は90[%]であった。
【0049】
(実施例6)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.97になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液7.6[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は88[%]であった。
【0050】
(実施例7)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.29になるように、固液比が16.7[g/l]になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液11.5[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体1.0[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は68[%]であった。
【0051】
(実施例8)
処理温度を150[℃]、処理圧力を0.47[MPa]にした以外は、実施例4と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は67[%]であった。
【0052】
(実施例9)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.08になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.64[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は77[%]であった。
【0053】
(実施例10)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.05になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.38[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は69[%]であった。
【0054】
(実施例11)
実施例1で用いた粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、水酸化カリウム5.61[g]を蒸留水994.4[g]に溶解させて調製した水酸化カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した水酸化カリウム水溶液60[ml]を投入した。
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の水酸化カリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で6[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された水酸化カリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を求めた。リチウムの抽出率は68[%]であった。
【0055】
(実施例12)
実施例1で用いた粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で1.0になるように、塩化ナトリウム水溶液に粉粒体を添加した。具体的には、塩化ナトリウム5.84[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化ナトリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した塩化ナトリウム水溶液60[ml]を100[ml]の圧力容器に投入した。
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の塩化ナトリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で6[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された塩化ナトリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を実施例1に記載の計算式に従って求めた。リチウムの抽出率は100[%]であった。
【0056】
(実施例13)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.50になるように、塩化ナトリウム5.84[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化ナトリウム水溶液3.94[g]と蒸留水を混合した塩化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は83[%]であった。
【0057】
(実施例14)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、塩化カリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、塩化カリウム7.45[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した塩化カリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は77[%]であった。
【0058】
(実施例15)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、硝酸ナトリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してナトリウム量がモル比で1.0になるように、硝酸ナトリウム8.50gを蒸留水992[g]に溶解させて調製した硝酸ナトリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した硝酸ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は71[%]であった。
【0059】
(実施例16)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、硝酸カリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、硝酸カリウム10.1[g]を蒸留水990[g]に溶解させて調製した硝酸カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した硝酸カリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は70[%]であった。
【0060】
(比較例1)
水酸化ナトリウム水溶液を添加せず蒸留水を60[ml]とし、水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は36[%]であった。
【0061】
表2に、ナトリウムのモル数のリチウムのモル数に対するモル比[−]、水熱処理を行った処理時間[時間]、水熱処理における圧力容器内部の温度(処理温度)[℃]、及び、粉粒体が添加された水酸化ナトリウム水溶液の固液比[g/l]からなるリチウム抽出条件とリチウム抽出率[%]とを示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の実施例1〜実施例16に示されるように、リチウムイオン電池を焙焼して得られた粉粒体を添加した水酸化ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属塩水溶液を水熱処理するという簡易な操作で、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出できることがわかる。これは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硝酸塩などのアルカリ金属塩を添加することで、溶出したリン酸とナトリウム、カリウムが反応し、溶解度の高いリン酸ナトリウム、リン酸カリウムを生成させて、リチウムとリン酸の反応により生成する溶解度の小さいリン酸リチウムの析出を抑制することで、溶液中にリンを溶解させた状態で維持し、抽出率を高くすることができると推測される。
【0064】
比較例1に示されるように、水酸化ナトリウム水溶液を添加しない場合、リチウム化合物の分解反応が促進されず、粉粒体からのリチウムの溶出量が低下したことがわかる。