特許第6644314号(P6644314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644314
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】リチウム抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20200130BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20200130BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20200130BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C22B26/12
   C22B1/02
   C22B3/04
   C22B7/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-40140(P2016-40140)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-191143(P2016-191143A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2019年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-68777(P2015-68777)
(32)【優先日】2015年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常世田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】笹井 亮
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055312(JP,A)
【文献】 特開2014−156648(JP,A)
【文献】 宮永洋 他,水熱処理法によるリチウムイオン二次電池からの有価・有害元素の回収プロセスの開発,第18回秋季シンポジウム 第1回アジア−オセアニアセラミック連盟国際会議 講演予稿集,社団法人 日本セラミックス協会,2005年 9月27日,p.152, 2E08
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池を焙焼してリンを含有する焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を篩分けして、所定の粒径の粉粒体を得る篩分け工程と、
所定量の粉粒体を添加したアルカリ金属塩水溶液を加熱する水熱処理工程とを備えるリチウム抽出方法であって、
前記アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩であるリチウム抽出方法
【請求項2】
請求項1記載のリチウム抽出方法であって、
前記アルカリ金属塩水溶液におけるアルカリ金属のリチウムに対するモル比が0.05〜1.0になるように調製するリチウム抽出方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリチウム抽出方法であって、
前記水熱処理工程は、150[℃]〜200[℃]の範囲の温度で、前記アルカリ金属塩水溶液を水熱処理するリチウム抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、家庭用電気製品、自動車等の産業分野でリチウムイオン電池の需要が増大している。また、リチウムイオン電池の正極材料として、リン酸鉄を使用するリチウムイオン電池が開発されている。
【0003】
リチウムは高価な有価金属であり、不良品又は使用後のリン酸鉄を含有するリチウムイオン電池からリチウムを回収するために、リチウムイオン電池を400℃以下の温度で予備焙焼して得られた粉状品を400℃以上の温度で酸化焙焼し、その後、400〜750℃の温度で還元焙焼して還元焙焼品を生成し、アルカリ土類金属の水酸化物を懸濁させた水溶液に還元焙焼品を浸漬させて還元焙焼品中のリチウムを水に溶出させ、リチウムを回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、コバルト酸リチウム(LiCoO)をアルミ箔に塗布した正極材料に対して水のみを用いた水熱処理によってリチウムを抽出する方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−229481号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Waste Management and the Environment III,92,3−12(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたリチウムを回収する方法では、リチウムイオン電池に含まれるコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を分別して回収するため、複数回の焙焼処理と、アルカリ土類金属の水酸化物を懸濁させた水溶液に還元焙焼品を浸漬させる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、浸漬後の水溶液中に還元焙焼品から溶出したリチウムの濃度が低く、リチウム濃度を高める必要性が生じる。そのため、回収方法が複雑化し、回収するための時間が長くなり、回収コストの上昇を招くおそれがある。
【0009】
また、非特許文献1に記載されたリチウムの抽出方法では、廃棄されるリチウムイオン電池には種々の正極材料が混在するため、水熱処理における水溶液中の性状が変化することによりリチウムの抽出率が低下するおそれがある。そのため、各種正極材料、負極材料、電解質等の構成材料が混在したリチウムイオン電池からリチウムを抽出できるリチウム抽出技術の確立が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、リンを含有するリチウムイオン電池であっても、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出できるリチウム抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[5]のリチウム抽出方法を提供する。
[1]リチウムイオン電池を焙焼してリンを含有する焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を篩分けして、所定の粒径の粉粒体を得る篩分け工程と、所定量の粉粒体を添加したアルカリ金属塩水溶液を加熱する水熱処理工程とを備えるリチウム抽出方法。
[2][1]記載のリチウム抽出方法であって、前記アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩であるリチウム抽出方法。
[3][1]又は[2]記載のリチウム抽出方法であって、前記アルカリ金属塩水溶液におけるアルカリ金属のリチウムに対するモル比が0.05〜1.0になるように調製するリチウム抽出方法。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載のリチウム抽出方法であって、前記水熱処理工程は、150[℃]〜200[℃]の範囲の温度で、前記アルカリ金属塩水溶液を水熱処理するリチウム抽出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウム抽出方法によれば、リチウムイオン電池を焙焼して得られた粉粒体を分散させたアルカリ金属塩水溶液中で水熱処理することにより、簡易な操作で、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者等は、上述の課題を解決するため、リンを含有するリチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出する方法について種々の検討を行った結果、リチウムイオン電池の焙焼物から得られたリンを含有する粉粒体を添加した所定のアルカリ金属塩水溶液を水熱処理することにより、リチウムの抽出率を向上させることができることを見出し、本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、リチウムイオン電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を篩分けして、所定の粒径の粉粒体を得る篩分け工程と、所定量の粉粒体を添加したアルカリ金属塩水溶液を加熱処理する水熱処理工程とを備えることを特徴とするリチウム抽出方法、を提供するものである。
【0015】
以下、本発明の実施形態として、製造工程から排出される不良品、使用済のリチウムイオン電池等の廃棄されるリチウムイオン電池からリチウムを抽出するリチウム抽出方法について説明する。
【0016】
[焙焼工程]
本実施形態のリチウム抽出方法では、まず、リチウムイオン電池を焙焼して焙焼物を得る(焙焼工程)。リチウムイオン電池中の電解液、ポリフッ化ビニリデン等の正極材料及び負極材料中のバインダー等、比較的低温度で熱分解する有機物質をガス化燃焼し、系外に除去するためである。
【0017】
リチウムイオン電池を焙焼して得られた焙焼物は、リチウムイオン電池の正極材料のLiFePO、LiMnPO等のオリビン型化合物、電解質に添加されるLiFP等に含まれているリンを含有する焙焼物である。
リチウムイオン電池の正極材料は、オリビン型化合物以外に、リンを含まないLiCoO、LiNiO等の層状岩塩型化合物、LiMn、Li[Ni0.5Mn0.5]O等のスピネル型化合物等などもあるが、焙焼し得られた粉粒体中にリンが含まれていればよい。
【0018】
焙焼温度は、400[℃]〜700[℃]の範囲の温度であることが好ましい。焙焼温度が400[℃]未満の場合、リチウムイオン電池中の電解液等に含まれる有機物質の熱分解、そして系外除去が不十分となり、焙焼工程により得られる焙焼物である焙焼灰が塊状に形成される。そのため、後工程の篩分け工程において、所望の粒径の粉粒体を得ることが困難になる場合があり、リチウムの抽出率を低下させる可能性がある。
【0019】
また、焙焼温度が700[℃]を超える場合、リチウムイオン電池中のアルミ箔及び銅箔が溶融するため、正極材料を含む焙焼物である焙焼灰が塊状に形成される。そのため、篩分け工程において、所望の粒径の粉粒体を得ることが困難になる場合があり、リチウムの抽出率を低下させる可能性がある。
【0020】
リチウムイオン電池が焙焼される焙焼炉として、電気炉、トンネル炉、ロータリーキルン等の炉が挙げられる。尚、焙焼工程で使用される炉の雰囲気として、大気雰囲気、並びに、CO、H等の還元ガス種を含む還元雰囲気、N、Ar等の不活性ガスからなる不活性雰囲気、及び真空雰囲気を含む非酸化雰囲気が挙げられる。リチウムイオン電池の筐体が樹脂製の場合、樹脂の着火による熱上昇を抑えるために、還元雰囲気又は不活性雰囲気が好ましい。
【0021】
[破砕工程]
次に、焙焼工程により得られた焙焼物を破砕して破砕物を得る(破砕工程)。リチウムイオン電池を構成する正極材料と、金属製容器と、金属製部品又は樹脂製部品と、アルミ箔、銅箔等の塊状物等とを破砕し、後工程の篩分け工程で所定の粒径の粉粒体を分級するためである。破砕工程の「破砕」の意味は、焙焼物を破砕することだけでなく、焙焼物を解体することも含む。尚、リチウムイオン電池を破砕した後に焙焼するために、焙焼工程の前工程として破砕工程を備えてもよい。
【0022】
本実施形態の破砕工程の破砕は、破砕機を含む破砕設備を用いて行われるが、せん断力、衝突、圧縮等による公知の方法を用いてもよい。
【0023】
[篩分け工程]
次に、破砕工程により得られた破砕物を篩分けして、所定の粒径の粉粒体を得る(篩分け工程)。具体的には、振動篩、回転篩等の篩を用いて、金属製部品、銅、アルミニウム、鉄、燃え残った樹脂等を含む塊状物と、正極材料等に含有されるリチウム、カーボン等を含む焙焼灰の粉粒体とを分別する。
【0024】
篩分け工程により得られる粉粒体の粒径は、1.0[mm]以下が好ましい。粉粒体の粒径が1.0[mm]を超える場合、後工程の水熱処理工程においてリチウムが溶出し難くなるからである。
【0025】
尚、粉粒体以外の篩分け工程により得られた塊状物は、比重選別、磁力選別等の公知の分別操作により、銅、アルミニウム、鉄等を回収することができる。
【0026】
[水熱処理工程]
次に、所定量の粉粒体を添加したアルカリ金属塩水溶液を圧力容器に投入し混合した後、当該アルカリ金属塩水溶液が亜臨界状態になるように加熱して、水熱処理する(水熱処理工程)。篩分け工程により得られた粉粒体(焙焼灰)からリチウムを水溶液中に溶出させるためである。尚、本実施形態における水熱処理とは、所定量の粉粒体を添加したアルカリ金属塩水溶液を密閉状態の圧力容器内で加熱することをいう。
【0027】
アルカリ金属塩水溶液は、アルカリ金属塩を水に溶解した溶液に、所定量の粉粒体を添加して調製される。尚、粉粒体、水及びアルカリ金属塩を混合する方法として、水に粉粒体とアルカリ金属塩を添加して混合する方法、所定濃度に調製されたアルカリ金属塩水溶液に粉粒体を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0028】
尚、アルカリ金属塩は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属酢酸塩等である。アルカリ金属塩の中でも、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
【0029】
アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属塩化物として、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属硝酸塩として、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が挙げられる。アルカリ金属硫酸塩として、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。アルカリ金属酢酸塩として、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属塩として、例えばナトリウム塩、カリウム塩を添加することで、溶出したリン酸とナトリウム、カリウムが反応し、溶解度の高いリン酸ナトリウム、リン酸カリウムを生成させて、リチウムとリン酸の反応により生成する溶解度の小さいリン酸リチウムの析出を抑制することで、溶液中にリンを溶解させた状態で維持し、抽出率を高くすることができる。
【0031】
水熱処理工程は、150[℃]〜200[℃]の範囲の温度で行われることが好ましい。水熱処理工程の温度が150[℃]未満の場合、水溶液中に溶解するリチウム量が低下し、リチウムの抽出率が低下する。一方、水熱処理工程の温度が200[℃]を超える場合、例えば、加熱用の熱媒体の蒸気圧が高くなり、高価な圧力容器を使用する必要性が生じ、リチウムの抽出コストの上昇の原因になる。
【0032】
水熱処理工程の処理時間は、6[時間]〜48[時間]が好ましい。処理時間が6[時間]未満の場合、粉粒体からリチウムが十分に溶出できず、水熱処理工程後のアルカリ金属塩水溶液中のリチウム濃度が低くなる。この結果、リチウムの抽出率が低下する。一方、処理時間を長くすることにより水溶液中へのリチウムの溶出量を増加させることができるが、処理時間が48[時間]を超える場合、水溶液中に溶出したリチウムの濃度が飽和濃度に到達するため、リチウムの抽出コストの観点から好ましくない。
【0033】
アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属は、添加、混合するアルカリ金属塩の量により調整することができ、粉粒体に含まれるリチウムに対して、モル比(アルカリ金属のモル数/リチウムのモル数)で、0.05〜1.0の範囲の値であることが好ましい。モル比が0.05未満である場合、リン酸鉄リチウムが生成し、リチウムの抽出率が低下する。一方、モル比が1.0を超える場合、リチウムの抽出率の増加は小さく、添加剤のコストなどを考慮すると好ましくない。
【0034】
アルカリ金属塩水溶液における粉粒体の質量に対するアルカリ金属塩水溶液の液量、すなわち、固液比(粉粒体[g]/アルカリ金属塩水溶液[l(リットル)])は、3.3[g/l]〜20[g/l]が好ましい。
【0035】
固液比が3.3[g/l]未満の場合、粉粒体の量が少なく、リチウムの含有量が少ないため、水熱処理工程後のアルカリ金属塩水溶液中のリチウム濃度が低くなる。この結果、抽出液からのリチウムを回収しようとする場合、リチウムの回収が困難となり、抽出液からリチウム化合物としての回収率が低下する。一方、固液比が20[g/l]を超える場合、アルカリ金属塩水溶液中の粉粒体からなる固体成分が多くなり、水溶液中に溶解するリチウム量が低下する。この結果、リチウムの抽出率が低下する。
【0036】
[回収工程]
水熱処理工程の加熱処理を停止した後、圧力容器内のアルカリ金属塩水溶液を冷却する。その後、冷却した水溶液に対してろ過を行い、ろ液中のリチウムを回収する(回収工程)。冷却後の水溶液をろ過すると、純度の高いリチウムをろ液側に移行させることができるので、炭酸ガスを吹き込む方法、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩を添加する方法等を公知の方法を用いた炭酸化反応により、炭酸リチウムとしてリチウムを高収率で回収することができる。
【0037】
また、本方法によれば、高価な薬剤を必要とせず、複雑な設備及び操作を必要としないので、リチウムの抽出コストの低減化及び容易に装置の大型化を図ることができる。
【0038】
また、ろ過により得られた固形分(残渣)から、固形分中に含まれる鉄等の金属を、磁力選別、酸処理及びアルカリ処理により水酸化物沈殿、金属製錬等を用いて回収することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本実施形態のリチウム抽出方法を用いて、リン酸鉄リチウムの正極材料を有するリチウムイオン電池からリチウムを抽出した実施例及び比較例を示す。
【0040】
(実施例1)
廃棄された自動車用のリチウムイオン電池をN雰囲気で600[℃]の温度で焙焼した後、剪断破砕機を用いて破砕し、分級機を用いて得られた破砕物を篩分けし、粒径1.0[mm]以下の粉粒体を得た。表1に粉粒体の組成比率を示す。尚、表1のその他の欄は、負極材料のカーボン、正極材料に含まれる酸素等を含む微量成分である。
【0041】
【表1】
【0042】
次に、粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.10になるように、水酸化ナトリウム水溶液に粉粒体を添加した。具体的には、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.76[g]と蒸留水とを混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]を100[ml]の圧力容器に投入した。
【0043】
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で24[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された水酸化ナトリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
【0044】
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を以下に計算式に従って求めた。リチウムの抽出率は82[%]であった。
リチウム抽出率 =ろ液中に溶解しているリチウム[mg]/粉粒体中のリチウム[mg]×100
【0045】
(実施例2)
水熱処理の保持時間を48[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は89[%]であった。
【0046】
(実施例3)
水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は72[%]であった。
【0047】
(実施例4)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.29になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液2.3[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は90[%]であった。
【0048】
(実施例5)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.48になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液3.8[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は90[%]であった。
【0049】
(実施例6)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.97になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液7.6[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は88[%]であった。
【0050】
(実施例7)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.29になるように、固液比が16.7[g/l]になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液11.5[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体1.0[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は68[%]であった。
【0051】
(実施例8)
処理温度を150[℃]、処理圧力を0.47[MPa]にした以外は、実施例4と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は67[%]であった。
【0052】
(実施例9)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.08になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.64[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は77[%]であった。
【0053】
(実施例10)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.05になるように、水酸化ナトリウム4[g]を蒸留水996[g]に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液0.38[g]と蒸留水を混合した水酸化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は69[%]であった。
【0054】
(実施例11)
実施例1で用いた粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、水酸化カリウム5.61[g]を蒸留水994.4[g]に溶解させて調製した水酸化カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した水酸化カリウム水溶液60[ml]を投入した。
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の水酸化カリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で6[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された水酸化カリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を求めた。リチウムの抽出率は68[%]であった。
【0055】
(実施例12)
実施例1で用いた粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で1.0になるように、塩化ナトリウム水溶液に粉粒体を添加した。具体的には、塩化ナトリウム5.84[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化ナトリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した塩化ナトリウム水溶液60[ml]を100[ml]の圧力容器に投入した。
そして、固液比が3.3[g/l]となるように粉粒体0.2[g]を圧力容器内の塩化ナトリウム水溶液60[ml]に添加して分散させた後、圧力容器を密封した。圧力容器の内部の温度(処理温度)を200[℃]、圧力(処理圧力)を1.55[MPa]で6[時間]保持した水熱処理を行った後、粉粒体が添加された塩化ナトリウム水溶液を30[℃]以下に冷却した。
冷却後、圧力容器内の水溶液に対してろ過を行った。ろ液中の成分測定を行い、粉粒体からのリチウムの抽出率[%]を実施例1に記載の計算式に従って求めた。リチウムの抽出率は100[%]であった。
【0056】
(実施例13)
粉粒体中のリチウム量に対してナトリウム量がモル比で0.50になるように、塩化ナトリウム5.84[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化ナトリウム水溶液3.94[g]と蒸留水を混合した塩化ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は83[%]であった。
【0057】
(実施例14)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、塩化カリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、塩化カリウム7.45[g]を蒸留水994.2[g]に溶解させて調製した塩化カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した塩化カリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は77[%]であった。
【0058】
(実施例15)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、硝酸ナトリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してナトリウム量がモル比で1.0になるように、硝酸ナトリウム8.50gを蒸留水992[g]に溶解させて調製した硝酸ナトリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した硝酸ナトリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は71[%]であった。
【0059】
(実施例16)
実施例12で用いた塩化ナトリウムに代えて、硝酸カリウムを用いた。具体的には、粉粒体中のリチウムに対してカリウム量がモル比で1.0になるように、硝酸カリウム10.1[g]を蒸留水990[g]に溶解させて調製した硝酸カリウム水溶液7.88[g]と蒸留水を混合した硝酸カリウム水溶液60[ml]に粉粒体0.2[g]を添加して分散させた以外は、実施例12と同様の水熱処理を行った。リチウムの抽出率は70[%]であった。
【0060】
(比較例1)
水酸化ナトリウム水溶液を添加せず蒸留水を60[ml]とし、水熱処理の保持時間を6[時間]にした以外は実施例1と同様の水熱処理を行った。リチウム抽出率は36[%]であった。
【0061】
表2に、ナトリウムのモル数のリチウムのモル数に対するモル比[−]、水熱処理を行った処理時間[時間]、水熱処理における圧力容器内部の温度(処理温度)[℃]、及び、粉粒体が添加された水酸化ナトリウム水溶液の固液比[g/l]からなるリチウム抽出条件とリチウム抽出率[%]とを示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の実施例1〜実施例16に示されるように、リチウムイオン電池を焙焼して得られた粉粒体を添加した水酸化ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属塩水溶液を水熱処理するという簡易な操作で、リチウムイオン電池中のリチウムを効率的に抽出できることがわかる。これは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩化物、アルカリ金属硝酸塩などのアルカリ金属塩を添加することで、溶出したリン酸とナトリウム、カリウムが反応し、溶解度の高いリン酸ナトリウム、リン酸カリウムを生成させて、リチウムとリン酸の反応により生成する溶解度の小さいリン酸リチウムの析出を抑制することで、溶液中にリンを溶解させた状態で維持し、抽出率を高くすることができると推測される。
【0064】
比較例1に示されるように、水酸化ナトリウム水溶液を添加しない場合、リチウム化合物の分解反応が促進されず、粉粒体からのリチウムの溶出量が低下したことがわかる。