特許第6644324号(P6644324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許66443243軸圧縮柱梁接合部のプレストレス導入法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6644324
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】3軸圧縮柱梁接合部のプレストレス導入法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/22 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   E04B1/22
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-167793(P2019-167793)
(22)【出願日】2019年9月13日
【審査請求日】2019年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−076745(JP,A)
【文献】 特許第3877741(JP,B2)
【文献】 特開2017−222996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20 − 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC柱とPC梁とで複数層階で形成された建物構造の柱梁接合部において、平面2方向(X、Y軸)のPC梁と、鉛直方向(Z軸)のPC柱に配置されたPC緊張材を柱梁接合部に貫通して緊張定着した緊張導入力で柱梁接合部にプレストレスを導入して3軸圧縮状態にする方法であって、前記柱梁接合部において、大規模地震時(極稀に起きる地震)にも、地震荷重による入力せん断力で生じた斜め引張力の全部、または、一部を打ち消し、斜めひび割れの発生を許容せず、各軸方向に導入されるプレストレスの割合を下記の式(1)を満たすようにすることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法。
σx:σy:σz=1:1:0.3〜0.9 (1)
なお、σx、σy、σzは、各軸(X、Y、Z軸)に導入されるプレストレスとし、次の式で算出したものである.
σx=Px/Ax Px:x軸方向の緊張導入力、Ax:x軸方向の梁端断面積
σy=Py/Ay Py:y軸方向の緊張導入力、Ay:y軸方向の梁端断面積
σz=Pz/Az Pz:z軸方向の緊張導入力、Az:z軸方向の柱端断面積
【請求項2】
請求項1において、σx、σy、σzの値は、以下に示す範囲内とすることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法。
2.0 ≦ σx ≦ 10.0 N/mm2
2.0 ≦ σy ≦ 10.0 N/mm2
0.6 ≦ σz ≦ 9.0 N/mm2
【請求項3】
請求項2において、PC柱に導入するプレストレスσzを、少なくとも5層分を一区分として同一値とすることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、大規模地震時に、前記柱梁接合部に生じた斜め引張力の一部が打ち消され、一部が残された状態において、斜め引張力による引張応力度が柱梁接合部のコンクリートの許容引張応力度以下になるようにしてあることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC構造の柱梁接合部を3軸圧縮状態とするためのプレストレスの導入法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材で3軸方向(平面x、y2方向の梁部材と、鉛直z方向の柱部材)で形成された柱梁接合部において、斜引張力によって生じる斜めせん断ひび割れが発生するため、コンクリート部材が損傷を受けてひび割れが拡大して粘りのない脆性的破壊を引き起こし、柱梁接合部の破壊が直ちに構造骨組の崩壊に繋がり、やがて構造物全体が致命的なせん断破壊に至ることが古くから多くの研究によって証明されている。
【0003】
この柱梁接合部における斜めひび割れの発生を防止するために、柱梁接合部を補強する種々の方法が以下に示す特許文献に開示されている。
RC造に関しては、例えば、特許文献1(特開2005−23603号公報)に示された補強方法は、コンクリート構造物の柱梁接合部において、双方の梁の端面から柱梁接合部内に延びる上部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め下方に延びて、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されて下部梁主筋となり、双方の梁の端面から柱梁接合部内に延びる下部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め上方に延びて、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されて上部梁主筋とすることによって引張主応力を低減させると共に、圧縮主応力を増大させるものである。
PC造に関しては、特許文献2に、プレキャストコンクリート部材をパネルゾーン(柱梁接合部)を貫通する2次ケーブルによって柱と梁を圧着接合して一体化するPC構造の2段階非線形弾性耐震設計法が開示されている。
この2段階非線形弾性耐震設計法によれば、柱梁圧着接合部において、所定の地震荷重設計値までは、フルプレストレスの接合状態とし、前記所定の地震荷重設計値を超える極大地震が襲来した場合には、パーシャル・プレストレス接合の状態とすることによって主要構造部材(柱、梁、パネルゾーン)の致命的な損傷が起こらないようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−23603号公報
【特許文献2】特許第5612231号公報
【特許文献3】特許第4041828号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、一方の梁端から主筋を柱梁接合部に斜めに延びて他方の梁端に定着することによって引張り主応力を低減させるというものである。
しかしながら、周知のように、RC構造では、鉄筋がひび割れの発生を防止することができず、ひび割れが発生してから鉄筋がひび割れの進展を抑制し、ひび割れ幅の拡大を抑止する役割を担っている。つまり、鉄筋が積極的にひび割れの発生を防止する役割を果たすことはできないが、ひび割れが発生してから初めてひび割れの拡大を抑制するものにすぎないのである。
従って、特許文献1に示されているように鉄筋を配置しても、積極的に柱梁接合部に斜めひび割れの発生を防ぐことはできず、あくまでもひび割れが発生してから、進展しないようにする消極的な方法にすぎないため、繰り返し地震荷重を受けると、斜めひび割れの発生による柱梁接合部の耐震性及び耐久性が低下することを防止できない。
また、一方の梁端の上部梁主筋と他方の梁端の下部梁主筋の数量や鉄筋径は必ずしも等しいとは限らず、鉄筋の曲げ加工や斜めに配置するにはかなり手間がかかるばかりではなく、柱梁接合部内の鉄筋が錯綜することから納まりがかなり悪い状態であり、コンクリートが均一に打設されずコンクリートの充填不良によるコンクリートのジャンカが発生しがちである。
【0006】
特許文献2には、「パネルゾーン(柱と梁の接合部)において、スパン方向の大梁と長手方向の桁梁及び柱部材ともプレストレスを与えることによって、パネルゾーンはXYZ全ての方向から3次元的にプレストレス力を受けることになる。」と記載され、更に、「パネルゾーンに3次元的に軸圧縮を付加しているのでプレストレスによる復元力特性を有しているため、地震後の残留変形は全く生じない。従来の設計法によるRC構造およびPC構造のパネルゾーンが破壊することでエネルギーを吸収することと全く違う設計思想である。」と記載されている。
この設計思想に基づいて柱梁接合部に3軸方向に予めプレストレスを導入して地震時に柱梁接合部に生じる斜め引張力を積極的に打ち消し、結果的に斜め引張力が生じることなくせん断破壊することを完全に回避でき、特許文献1に示される多くの斜め配筋を設ける必要がなくなるので柱梁接合部(パネルゾーン)内にコンクリートのジャンカ発生の問題は起きることがない。
【0007】
特許文献2には、3軸圧縮柱梁接合部(パネルゾーン)とする設計思想が示されているが、3軸方向にプレストレスを導入する具体的設計法、すなわち、3軸方向に導入するプレストレスの割合や導入するプレストレスの上限については言及されていない。
一般的に梁部材には作用荷重による軸力が殆どないが、柱部材には、作用荷重による軸力が常に生じており、作用荷重の種類によって軸力方向が一定ではなく変動し、常時荷重(鉛直荷重)による軸力が圧縮であるが、地震や風等偶発荷重(水平荷重)による軸力が圧縮と引張との2種類ある。特に、建物の外周周りに配置された外柱や隅柱に地震荷重によって大きな引抜力、または、圧縮力が発生することが多い。
また、柱の軸力は、階層によって値が異なり、高層や超高層建物において、最上層と最下層との軸力の差は非常に大きく、作用荷重による柱軸力の大きさや方向(圧縮または引張)がまちまちであり、一定ではない。
本発明は、柱梁接合部(パネルゾーン)に3次元的に軸圧縮を付加するという設計思想を更に発展させてPC構造物の3軸圧縮状態を適切な割合とするプレストレス導入法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
PC柱とPC梁とで複数層階で形成された建物構造の柱梁接合部において、平面2方向(X、Y軸)のPC梁と、鉛直方向(Z軸)のPC柱に配置されたPC緊張材を柱梁接合部に貫通して、緊張定着した緊張導入力で柱梁接合部にプレストレスを導入して3軸圧縮状態にする方法であって、前記柱梁接合部において、大規模地震時(極稀に起きる地震)にも、地震荷重による入力せん断力で生じた斜め引張力の全部または一部を打ち消し、斜めひび割れの発生を許容せず、各軸方向に導入されるプレストレスの割合を下記の式(1)を満たすようにしてあることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法である。
σx:σy:σz=1:1:0.3〜0.9 (1)
なお、σx、σy、σzは、各軸(X、Y、Z軸)に導入されるプレストレスとし、次の式で算出したものである。
σx=Px/Ax Px:x軸方向の緊張導入力、Ax:x軸方向の梁端断面積
σy=Py/Ay Py:y軸方向の緊張導入力、Ay:y軸方向の梁端断面積
σz=Pz/Az Pz:z軸方向の緊張導入力、Az:z軸方向の柱端断面積
更に、前記式(1)のσx、σy、σzの値は、以下に示す範囲内とすることを特徴とするプレストレス導入法である。
2.0 ≦ σx ≦ 10.0 N/mm2
2.0 ≦ σy ≦ 10.0 N/mm2
0.6 ≦ σz ≦ 9.0 N/mm2
また、前記の柱梁接合部のプレストレス導入法において、PC柱に導入するプレストレスσzを、少なくとも5層分を一区分として同一値とすることを特徴とするプレストレス導入法である。
また、大規模地震時に、前記柱梁接合部に生じた斜め引張力の一部が打ち消され、一部が残された場合には、その斜め引張力による引張応力度がコンクリートの許容引張応力度以下になるようにすることを特徴とする柱梁接合部のプレストレス導入法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)柱の軸力の変動要因を考慮して柱に導入するプレストレスを低減した関係式(1)の割合で3軸方向にプレストレスを導入することによって、柱梁接合部に作用する3軸方向の圧縮応力度の割合が概ね1:1:1となり、この割合の圧縮応力度が合成された圧縮応力が柱梁接合部の対角線上に約45度の最も理想的な方向に形成され、地震荷重で柱梁接合部に入力せん断力によって柱梁接合部の対角線上に生じた斜め引張力の全部またはその殆どを打ち消し、斜めひび割れが発生してせん断破壊に至ることを確実に防ぐことができるのである。同時に、梁に比べて柱に導入するプレストレスを低減することによって、常時荷重(鉛直荷重)時においても、柱に作用する軸力が許容応力度範囲内に制御されて圧縮応力度が過大にならないようにすることができるのである。
(2)さらに、関係式(1)の適用範囲を基本としては、σx=σy=2.0〜10.0 N/mm2とし、割合関係によってσz=0.6〜0.9 N/mm2とすることによって、PC構造物に一般的に使用されているコンクリート設計基準強度(Fc=40〜60N/mm)に対応させてあり、導入力の過小または過大にはならず、合理的かつ経済的な設計とすることができる。
(3)柱に作用する軸力が層階や平面位置によってまちまちであることに対して、導入するプレストレスを少なくとも5層分を一区分として同一値とすることによって、5層分毎に柱の軸力の差を式(1)の割合範囲内(σz=0.3〜0.9)で調整して柱の軸力が許容範囲内に制御することが可能であり、設計と施工を効率よくまとめることができると共に、施工時の緊張ミスを解消することができる。
(4)大規模地震時に、柱梁接合部に生じた斜め引張力の一部が導入されたプレストレスに打ち消され、一部が残された場合でも、その斜め引張力による引張応力度が柱梁接合部の構築に使用したコンクリートの許容引張応力度以下になるようにすることによって、構造体にとって致命的な斜めせん断ひび割れが発生することなく、耐震性能を保つことができる。
(5)本発明のプレストレス導入法によって、従来のRC構造のように鉄筋を柱梁接合部に配筋してひび割れ発生後の進展を受け身で抑制することとは全く異なり、柱梁接合部が柱の軸力が変動する要因を考慮した最も合理的なバランスで3軸圧縮状態になり、ひび割れ発生する要因となる引張力を積極的に打ち消すものであり、確実にひび割れの発生を抑止できるものになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のPC部材のみからなる柱梁接合部を有する建物の中間層一部の(1)平面図及び(2)側面図。
図2】本発明の柱梁接合部が3軸圧縮状態とされたことを説明するための(1)平面図、(2)側面図及び(3)梁断面図。
図3】柱梁接合部の緊張材の(1)配設状態斜視図、(2)柱梁接合部における3軸圧縮応力の方向の説明図。
図4】柱梁接合部における応力とひび割れ発生との関係状態説明図。
図5】柱梁接合部を現場打ちコンクリートとして構築されたセミ圧着PC構造の(1)平面図、(2)側面図及び(3)梁断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明を適用する建築物の一部を示すものであって、複数層階の建築物の中間層の柱梁接合部の(1)平面図と(2)側面図である。
PC柱1、PC梁2ともプレキャスト部材であり、PC柱1は、基礎(図示省略)から立設してあり、PC緊張材とするPC鋼棒3をPC柱1に貫通させて緊張定着してある。PC梁2は、PC柱1に設けてある顎11に載せてあり、PC緊張材であるPCケーブル31が柱梁接合部を貫通して配設されて緊張定着してある。
図示のように、柱梁接合部において、平面(X、Y)2方向、鉛直(Z)方向にPC緊張材とするPC鋼棒3とPCケーブル31が貫通配置してあり、緊張定着することによって柱梁接合部10にプレストレスが導入されている。
なお、本発明と直接関係しない構成部分、例えば、PC柱とPC梁とをPC緊張材を用いて緊張定着して一体化した後に、プレキャスト製PC梁の上端にトップコンクリートとスラブを含めて打設して合成梁になること等については、従来通りであるので詳細は省略とする。
本発明におけるPC柱及びPC梁とは、プレストレストコンクリート構造部材である。
また、プレキャスト部材とする柱と梁との接合に鉄筋使用せずPC緊張材のみで圧着接合することをフル圧着接合と称し、鉄筋とPC緊張材とを併用して接合することをセミ圧着接合と称する。
【0012】
本発明の理解を容易にするため、図2にPC緊張材の図示を省略して、代わりに矢印でプレストレスσ(σx、σy、σz)が柱梁接合部に作用し、柱梁接合部10が3軸圧縮状態になっていることを(1)平面図(x、y軸)、(2)側面図(x、z軸)に示す。
また、x軸、y軸の梁とz軸柱の部材端断面形状をそれぞれa−a断面、b−b断面、c−c断面図に示す。
本発明においては、梁部材に配置して柱梁接合部に貫通されるPC緊張材とする2次ケーブルの緊張定着作業は、トップコンクリート20を打設する前に行うため、梁端断面積Ax、Ayにはトップコンクリート20を含めないこととする。
つまり、σx、σyの算定においては、梁端断面積Ax、Ayには、トップコンクリート20の断面積を含めない。
【0013】
上記と同様な考え方で、本発明でいう柱梁接合部10(パネルゾーン)とは、トップコンクリート20を含まず、図2のハッチング部分を意味するものとする。
また、プレストレスσ(σx、σy、σz)には、PC緊張材の緊張導入力のみによるものとし、PC緊張材の図心が柱、梁部材の断面において偏心して配設されることによる影響は考慮せずに無視するものとする。
つまり、プレストレスσ(σx、σy、σz)の算定は、P/Aのみとし、P・eによる影響は考慮しない。
ここで、P:PC緊張材による有効緊張導入力
A:前述で説明した部材端断面積(Ax、Ay、Az)
e:PC緊張材の図心が部材断面重心軸に対する偏心距離
【0014】
また、本明細書において、PC柱、PC梁とは、部材全長にプレストレスが付与されたものを意味し、プレストレスの付与は、1次PC緊張材(工場にて緊張作業を行うもの)と、2次PC緊張材(現場にて緊張作業を行うもの)によるものを包含するものである。
1次PC緊張材は図示を省略しているが、工場にて緊張作業を行うものであるので、プレテンション方式またはポストテンション方式のいずれの方式でもよいが、2次PC緊張材の緊張作業は、現場において実施するのでポストテンション方式で行う。
なお、2次PC緊張材としてPCケーブルを用いる場合は、2次ケーブルともいう。
【0015】
図3の柱梁接合部10の緊張鋼材の(1)配設状態の斜視図及び柱梁接合部10の(2)3軸圧縮応力の作用状態図によって、本発明におけるプレストレスが導入された3軸圧縮柱梁接合部10のプレストレス導入状態のイメージを示す。
図3に示されるように、3軸圧縮柱梁接合部を形成して斜め引張力を適切に打ち消すためには、柱梁接合部10に3軸方向にプレストレス(σx、σy、σz)を導入するが勿論必要であるが、それだけでなく、導入されるプレストレス(σx、σy、σz)の相互関係が非常に重要であり、それらがバランスの取れた関係となることによって柱梁接合部10における拘束に基づく作用・効果が大きく左右されるのである。
【0016】
次に、図4の柱梁接合部10の応力とひび割れ発生との関係状態図に基づいて本発明の作用効果を詳しく説明する。
図4(1)に地震荷重が建物に右作用時の場合における従来のRC造パネルゾーンが地震荷重を受けた状態を示す。なお、地震荷重が建物に左作用時の場合には、図示は省略するが、応力や変形、ひび割れ等は、図4(1)に示したものとは逆となる。
従来のRC造柱梁接合部10(パネルゾーン)において、大地震時にX―Z方向に地震荷重による入力せん断力(図示省略)が構造骨組に作用し、その入力せん断力によって梁端と柱端にそれぞれ曲げモーメントMx、Mzが生じる。柱1には軸力として常時鉛直荷重が(N)が作用しているが、その大きさは階層によって変動するものであり一定していない。一方、梁には一般的に軸力がない。地震荷重による曲げモーメントに対して拘束できないため、図4(1)に示すように、柱梁接合部(パネルゾーン)の鉛直方向に上下端の柱1に相対的なずれが生じ、水平方向に左右側の梁端がそれぞれ回転変形し、その変形によって柱梁接合部10が菱形となり、図示は省略するが、柱端と梁端に作用する曲げモーメントMX、Mによって部材断面の片側に引張応力、反対側に圧縮応力が夫々発生する。これらの引張応力が柱梁接合部の対角線上及びコーナー部に合成した斜め引張力(TとT)が発生し、対角線上に斜めひび割れ(対角斜めひび割れ4とコーナー斜めひび割れ41との2種類ある)が発生し、やがて脆性的なせん断破壊になり、骨組全体が致命的な崩壊に至る危険性が極めて高い。
なお、対角斜めひび割れ4とコーナー斜めひび割れ41のいずれか発生するケースと、同時に発生するケースとがある。本発明でいう対角線上に斜めひび割れの発生とは、両方含むこととする。
【0017】
それに対して図4(2)に本発明のプレストレスが導入されて柱梁接合部10が3軸圧縮された状態を示す。なお、図示はX−Z(2軸)だけであるが、Y−Z(2軸)については図示していないが同様である。
図4(2)に示されるように、地震荷重によって柱梁接合部10(パネルゾーン)に従来と同じように斜め引張力(対角線上の引張力Tとコーナー部の引張力T)が生じようとするが、柱梁接合部10(パネルゾーン)周囲に導入されたプレストレスσ(図示ではσxとσz)によって、柱梁接合部が周囲から強く拘束され、従来のような変形はしない。しかも、本発明で提案した式(1)の割合で対角線上に合成圧縮力Cpと共にコーナー部に合成圧縮力Cが形成され、さらに、式(1)のσ(σx、σy、σz)の値が限定した適用範囲になることによって、有効かつ合理的な合成圧縮力CpとCcが形成され、引張力TとTc全部または一部を打ち消すことになり、斜めひび割れは発生しないことになる。
【0018】
また、対角線上に生じた引張力Tの一部が合成圧縮力Cpに打ち消され、一部が残された場合でも、その合成圧縮力によってコンクリートの断面に生じた引張応力度(単位面積当たりの引張力)が柱梁接合部の構築に使用したコンクリートの許容引張応力度以下になるように、式(1)に従って所要のプレストレスを導入されるようにPC緊張材を配置して緊張定着してコンクリート斜めひび割れが発生しないようにする。
具体例を挙げて説明すると、柱梁接合部10の構築に使用するコンクリート設計基準強度Fc=60N/mmとすると、コンクリートの許容引張応力度ft=1/30Fc=2N/mmになり、前述のように引張力Tが一部残された場合でも、その引張力による引張応力度がコンクリートの許容引張応力度以下になるように、所要のプレストレスを導入する。コーナー部に生じる引張力Tについても同様な対応とする。
【0019】
従来のPC柱とPC梁をプレキャスト部材として構築されたPC構造では、梁部材と柱部材とをフル圧着接合して一体化するために、梁端にPC鋼材を柱に貫通して配置して緊張定着することになるが、その緊張導入力は、PC圧着接合に必要なものであれば十分であるとされている。同様に、柱部材同士をPC圧着接合して一体化するために、柱軸方向にPC鋼材を配置して必要とされるプレストレス力を導入することになっている。
そのX−Z方向または、Y−Z方向のプレストレスの相互関係は、柱梁接合部(パネルゾーン)の対角線上に合成圧縮力Cpを形成するように考慮したものではなく、つまり、各方向に導入される緊張導入力は部材同士をフル圧着接合することができればよいとしているが、緊張導入力の相互割合については全く考慮されていないため、常に柱梁接合部(パネルゾーン)の対角線上に有効な合成圧縮力Cpを形成することは確保できない。このことについては、柱梁接合部(パネルゾーン)パネルゾーンのコーナー部についても同様に考慮されていない。
【0020】
また、図5に示すように、積層工法を用いてPC構造物を構築する場合は、柱、梁をプレキャスト部材とし、柱梁接合部(パネルゾーン)10が現場打ちコンクリートであり、プレキャスト製梁部材から鉄筋を出して柱梁接合部に定着することによって、部材同士を接合することができる。また、プレキャスト製柱部材については、図示は省略するが、特許文献3の図5に示されているように、プレキャスト製柱から鉄筋を突出させて、柱梁接合部を貫通して、上のプレキャスト柱部材とモルタル充填式鉄筋継手等で接続する場合もある。つまり、柱梁部材はPC造であるが、柱梁接合部10がRC造となる。
【0021】
また、従来の積層工法では、鉄筋量を減らしてPC鋼材を配置して緊張導入力を導入する場合もあるが、その場合は、フル圧着接合でなく、セミ圧着接合となり、必要とするPC鋼材がフル圧着接合に比べて大幅に減る。従って、柱梁接合部に導入されるプレストレスが大幅に減少される。よって、積層工法の場合では、柱梁接合部10(パネルゾーン)に有効な合成圧縮力(CpとC)を形成することができない。
一方で、積層工法によるPC構造において、柱梁接合部がRC造もしくはPRC造となるため、通常のPC造柱梁接合部よりも斜めひび割れが発生しやすいものとなり、プレストレス力を導入して補強する必要性がフル圧着接合よりも一段と高まってしまう。
【0022】
そこで、本発明では、従来の柱梁接合部に3軸方向(X、Y、Z)にPC鋼材が配置されることに加え、柱に作用している軸力を考慮し、鉛直方向のプレストレスσzを低減して具体的にプレストレス導入法を明確に定め、関係式(1)によって適切にプレストレスを導入することができる。さらに、プレストレスσx、σy、σzの値の適用範囲を定めることによって、PC構造によく使用するコンクリート設計基準強度に見合うプレストレスが付与され、過小または過大になることなく、柱梁接合部(パネルゾーン)に有効な合成圧縮力(CpとC)を形成することができるようにした。
【0023】
図5に示す積層工法の構築方法について説明する。
まず、プレキャスト製PC柱1を基礎(図示省略)から立設して、PC緊張材とするPC鋼棒3を挿入して緊張定着する。次に、PC柱1に設けてある顎11にプレキャスト製PC梁2を架設し、梁端から出している下端鉄筋5同士を鉄筋継手にて接続する。ただし、鉄筋継手を使用せず重ね継手としてもよい。続いて、柱梁接合部10(パネルゾーン)内の配線、配筋を実施し、プレキャスト製PC梁2の上端までPC梁2と同等以上の圧縮強度を有する現場打ちコンクリートを打設して硬化させる。硬化後、PC梁2に配置されたPC緊張材とするPCケーブル31を緊張定着して水平2方向(X、Y)にプレストレスを導入する。その後、プレキャスト製PC梁2の上端に上端鉄筋5を配筋し、トップコンクリート20とスラブを一緒に打設する。つまり、通常、PC梁2とスラブとのコンクリート強度が異なり、PC梁2の強度が高いがスラブの強度が低いため、柱梁接合部10(パネルゾーン)の現場打ちコンクリートは2回に分けて打接することになる。
トップコンクリート20の硬化後、柱梁接合部10の上にさらにプレキャスト製PC柱1を設置してPC緊張材とするPC鋼棒3をカップラーにて接続して、緊張定着して鉛直方向(Z方向)にプレストレスを導入する。PC柱1に鉄筋を出す場合には、コンクリートを打設前に予め柱梁接合部に貫通させ、コンクリート硬化後、上層階の柱部材とモルタル充填式鉄筋継手にて接続して連結する。
【0024】
以上、説明したように構築された積層工法による柱梁接合部(パネルゾーン)10において、図1に示すオールプレキャスト部材で形成された実施例の場合と同様に、梁端断面積Ax、Ayについては、トップコンクリートを梁の断面に含めないことになるため、関係式(1)を適用することができる。
また、図示は省略するが、PC柱、PC梁及び柱梁接合部が全て現場打ちコンクリートで構築される、いわゆる、場所打ちプレストレストコンクリート造によるPC構造物に対しても、本発明の柱梁接合部のプレストレス導入法は同様に適用可能である。
但し、その場合には、梁端断面積Ax、Ayは、PC緊張材を緊張定着してプレストレスを導入する際における断面積を採用する。例えば、緊張定着時に、梁の上端にスラブが未だ打設されていない場合には、梁断面積Ax、Ayはスラブを含まないものとする。梁とスラブが形成された後に緊張定着する場合は、梁断面積Ax、Ayにはスラブを含むものとする。
次に、導入するプレストレスを少なくとも5層分を一区分として同一値とすることについて説明する。
各層階の柱に作用する軸力がまちまちであり、それに合せてプレストレスを導入して合計したものを同じにすることが好ましいが、施工上の緊張管理は非常に煩雑で困難であるため、本発明では、梁に対して柱の割合を許容範囲を設けて(σz=0.3〜0.9)調整することによって、5層分を一区分として同一値とすることが可能にしたため、設計と施工を効率よくした。
具体に説明すると、例えば、10階建のPC構造建物において、1〜5階までの柱にPC鋼棒を複数本配置とし、6〜10階までの柱に軸力が減る為に、減った分に応じてPC鋼棒を追加して配置して補う。各階層の柱に作用する軸力とプレストレスと合計が、許容範囲内(σz=0.3〜0.9)に容易に納まり、設計、施工とも簡単に実施ができ、実用性のあるプレストレス導入法である。
また、柱梁接合部に生じた斜め引張力の一部が残された場合に、引張応力度がコンクリートの許容引張応力度以下とすることについて、建設コストを重視する場合には、極稀に起きる大地震が建物の供用期間中に一度しか起きないことを考え、斜めひび割れが発生しなければ構造物に損傷が生じないので、PC緊張材を減らしてコスト軽減を図ることを優先とする場合に適用される。
【符号の説明】
【0025】
1 PC柱
10 柱梁接合部(パネルゾーン)
11 顎
2 PC梁
20 トップコンクリート
3 PC鋼棒
31 PCケーブル
4 対角斜めひび割れ
41 コーナー斜めひび割れ
5 鉄筋
T 引張力
Tc 引張力
Cp 合成圧縮力
Cc コーナー合成圧縮力
【要約】
【課題】柱梁接合部において、XYZ軸3軸の圧縮状態を適切な割合とするプレストレス導入法を提供する。
【解決手段】柱梁接合部において、平面2方向(X、Y軸)のPC梁と、鉛直方向(Z軸)のPC柱に配置されたPC緊張材を柱梁接合部に貫通して、緊張定着した緊張導入力で柱梁接合部にプレストレスを導入して3軸圧縮状態にする方法であって、柱梁接合部10において、大規模地震時(極稀に起きる地震)であっても、地震荷重による入力せん断力で生じた斜め引張力Tの全部または一部を打ち消し、斜めひび割れの発生を許容しない、各軸方向に導入されるプレストレスの割合を式(1)で示した。
σx:σy:σz=1:1:0.3〜0.9 (1)
なお、σx、σy、σzは、各軸(X、Y、Z軸)に導入されるプレストレスである。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5