(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヨウ素を活性炭の粉末に担持させた場合、活性炭が空中に飛散または水中に分散する可能性がある。活性炭などの素材を介さずに、繊維、布地、衣服、紙類、合成樹脂類、プラスチック類、又は建築資材などの材料に、抗菌、抗ウイルス、防カビ、防虫、防臭、又は消臭などの機能を直接に付与することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、ヨウ素酸を反応させて抗菌・消臭機能を付与する方法、及び抗菌・消臭機能が付与された材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明である抗菌・消臭機能の付与方法は、水に不溶性のヨウ素酸塩を生成可能な元素であって当該ヨウ素酸塩に生体毒性のない元素を含む材料に、ヨウ素酸化合物を反応させ、前記材料の表層に前記元素のヨウ素酸塩を生成することにより、前記ヨウ素酸塩が外部に溶出することなく抗菌及び消臭可能に前記ヨウ素酸塩を担持させる、ことを特徴とする。
【0008】
また、前記抗菌・消臭機能の付与方法において、前記元素は、カルシウム、バリウム、又は銀のいずれかである、ことを特徴とする。
【0009】
また、前記抗菌・消臭機能の付与方法において、前記材料は、ケイ酸カルシウム、石灰石、珪藻土、石膏、又はプラスチックのいずれかである、ことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明である抗菌・消臭機能が付与された材料は、前記抗菌・消臭機能の付与方法により抗菌・消臭機能が付与された、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空中に飛散または水中に分散しやすい活性炭などの素材を介さずに、繊維、布地、衣服、紙類、合成樹脂類、プラスチック類、又は建築資材などの材料に、ヨウ素酸を反応させることにより、抗菌、抗ウイルス、防カビ、防虫、防臭、又は消臭などの機能を直接に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、抗菌・消臭機能の付与方法100は、水に不溶性のヨウ素酸塩140を生成可能な元素120であってヨウ素酸塩140に生体毒性のない元素120を含む材料110に、ヨウ素酸化合物130を反応させ、材料110の表層に元素120のヨウ素酸塩140を生成することにより、ヨウ素酸塩140が外部に溶出することなく抗菌及び消臭可能にヨウ素酸塩140を担持させる。
【0015】
材料110は、繊維、布地、衣服、紙類、合成樹脂類、プラスチック類、建築資材などの無機材料又は有機材料であり、例えば、石膏ボードやケイカル(ケイ酸カルシウム)板などがある。また、ポリプロピレンなどのプラスチックと石灰石(主に炭酸カルシウム)を混合した無機フィラー分散系の複合材料や、石灰石と高密度ポリエチレンから作られた合成紙などもある。なお、活性炭などの粉末であっても、繊維など多孔質体に定着されて飛散しない状態であれば良い。
【0016】
石膏ボードは、硫酸カルシウム(CaSO
4)を主成分とし、断熱、遮音性が高い素材として壁材など建築資材に使用されている。また、ケイ酸カルシウムは、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO
2)、水などが様々な割合で結合した組成物であり、石灰石(CaCO
3)と珪藻土(二酸化ケイ素が主成分)などから得られ、耐火、断熱性に優れた素材として壁材など建築資材に使用されている。
【0017】
元素120は、ヨウ素酸化合物130と反応したときに、水に溶けにくく、さらに生体に対して毒性のないヨウ素酸塩140を生成するもので、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、銀(Ag)などがある。なお、カドミウム(Cd)や鉛(Pb)などは毒性があるため一般環境では使えない。これらの元素120のヨウ素酸塩140は、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO
3)
2)、ヨウ素酸バリウム(Ba(IO
3)
2)、ヨウ素酸銀(AgIO
3)である。
【0018】
ヨウ素酸カルシウムは、空気中で550℃程度まで熱分解など無く安定しており、それを担持した活性炭は、空気中での活性炭燃焼温度(約450℃)まで安定である。なお、ヨウ素酸バリウムやヨウ素酸銀なども同じ傾向である。また、ヨウ素酸カルシウムは、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(昭和28年法律第35号)第2条第3項の規定に基づき、農林水産大臣が指定する飼料添加物」としての飼料の栄養成分その他の有効成分に規定されたミネラル成分の一つであるため、消毒剤として散布したり、養鶏舎や家畜舎の壁材に抗菌機能を担持させたときに鶏や家畜が舐めたりしても、害を及ぼすものではない。
【0019】
ヨウ素酸化合物130は、ヨウ素酸イオンの強い殺菌力・酸化力により、細菌やウイルス等の微生物類150を不活化する。なお、ヨウ素酸イオンには、過ヨウ素酸イオンも含むものとする。ヨウ素酸イオンによる不活化は、酸化力の強い次亜ヨウ素酸と発生期酸素を発生することにより発揮される。不活化は、微生物類150を死滅させ、感染力を失わせることであり、滅菌(ウイルス)、殺菌(ウイルス)、消毒、除菌(ウイルス)又は抗菌(ウイルス)等することを含むものとする。
【0020】
微生物類150は、ウイルス、真菌(菌類)及び細菌類などである。ウイルスは、大きさが約50ナノメートル(nm)程度であり、(鳥)インフルエンザウイルスやノロウイルスやエボラ出血熱ウイルスや口蹄疫ウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)などがある。なお、ウイルスは定義上生物とは言えないが、微生物類200に含まれるものとする。真菌(カビ)は、大きさが約5マイクロメートル(μm)程度の菌類であり、白癬菌などがある。細菌類は、大きさが約1マイクロメートル(μm)程度であり、枯草菌や納豆菌など耐久性の高い芽胞菌や、結核菌や大腸菌やコレラ菌やサルモネラ菌などその他の一般細菌がある。
【0021】
ヨウ素は、元素状ヨウ素(I
2)や原子状ヨウ素(
*I)の状態であれば殺菌力がかなり強いが、ヨウ素イオン(I
−)の状態であると殺菌力が無くなる。また、三ヨウ化物イオン(I
3−)やヨウ素酸イオン(IO
3−)や過ヨウ素酸イオン(IO
4−)等の状態であると殺菌力は保持されるが、水溶性の場合は水に溶解して拡散することでその殺菌力は減損する。
【0022】
図2に示すように、電位が還元状態である領域200では、ヨウ素イオンの状態になるため抗菌・抗ウイルスの効果がない。図中で濃灰色の領域210においては、pH(水素イオン濃度)が中性から酸性であれば元素状ヨウ素の状態が維持され、酸化力(抗菌・抗ウイルスの効果)もあり、水にも溶けにくいため効果が長く持続する。なお、pHがアルカリ性になるとヨウ素酸イオン又はヨウ素イオンの状態になる。
【0023】
図中で薄灰色の領域220においては、電位が極端な酸化状態であり、ヨウ素酸イオン等の状態になるため酸化力(抗菌・抗ウイルスの効果)は強い。ヨウ素酸塩が水に不溶性であれば、酸性の環境でもアルカリ性の環境でも状態が維持され、効果も長持ちする。
【0024】
図1に示すように、材料110に対して、ヨウ素酸化合物130を混合、塗布、噴霧又は含浸などの処理を施すことで、ヨウ素酸塩140を担持させる。なお、ヨウ素酸化合物130としては、ヨウ素酸(HIO
3)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
3)、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO
3)
2)、ヨウ素酸バリウム(Ba(IO
3)
2)などがある。
【0025】
例えば、耐火壁材などに使用されるケイ酸カルシウム板(主成分:CaSiO
3)にヨウ素酸ナトリウム(希塩酸又は希硫酸溶液)を塗布するなど処理を施した場合の表面生成物をXRD(X線回折)法で測定すると、ケイ酸カルシウム板の表面にヨウ素酸カルシウムが生成されており、その化学的特性が発揮されることが分かる。
【0026】
カルシウム、バリウム、銀などのヨウ素酸塩140は、水に不溶性であり、材料110の外部には溶出・揮散することなく安定的に保持され、生体には非侵襲で、長期間に渡り抗菌力及び消臭力が維持される。
【実施例2】
【0027】
まず、ヨウ素酸処理したケイカル粒のBGLB(ブリリアント・グリーン乳糖ブイヨン)抗菌効果を確認した。試験菌として、大腸菌を用いた。菌液は、BGLB培地に試験菌を懸濁(10
5〜10
6CFU/mL)させたものとした。なお、CFUは、コロニー(集落)形成単位であり、生存細胞の数を表す指標である。
【0028】
試験管に入れた菌液の中に、
図3(a)に示す試料(1)〜(11)を投入し、37℃で22時間培養した。BGLB溶液に泡立ちや濁りが無ければ抗菌効果があると判断した。
図3(a)に示すように、ヨウ素酸処理した試料(1)(3)(5)については、抗菌効果があった。また、それらを活性炭(AC)に担持させた試料(2)(4)(6)も、抗菌効果があった。熱可塑性プラスチック(TPE)に混合させた試料(7)〜(10)については、混ぜ込み量に比例した抗菌性が見られた。
【0029】
次に、ヨウ素酸処理したケイカル粒の細菌阻止円(ハロー)試験を行った。ケイカル粒(2〜5mmサイズ)にヨウ素酸ナトリウム希硫酸溶液(10g−NaIO
3/100mL−dil H
2SO
4)をスプレー塗布し、ヨウ素酸塩として2.0wt%、10wt%になるようにした。それを大腸菌が接種された標準寒天培地に載置し、37℃で17時間培養して阻止円を観察した。
図3(b)に示すように、ヨウ素酸の塗布量に応じて抗菌性が確認された。
【実施例3】
【0030】
ケイカル板をヨウ素酸ナトリウム溶液(10wt%)に1〜120分間段階的に浸漬処理し、表面反応相の厚みをEDS(エネルギー分散型X線分析)によりヨウ素酸の分布を測定した。
【0031】
厚み6mmのケイカル板を2時間浸漬させると、その内部中心(〜3mmt)まで抗菌処理される。
図4(a)に示すように、表面反応相だけでなく、内部にもヨウ素酸が含浸していることが分かる。
図4(b)に示すように、表面反応相の厚みは、ヨウ素酸処理時間にほぼ比例する。内部にもヨウ素酸の存在が確認されたことで、深さ方向に対する抗菌性が裏付けられた。
【実施例4】
【0032】
頑固なカビが発生している風呂場タイルにヨウ素酸ナトリウム(NaIO
3)溶液をスプレーした。処理前は、タイル面や目地にカビが存在していたが、処理後は、カビが消滅し、さらに6ヶ月経過しても防カビ効果が持続した。ヨウ素酸ナトリウムがタイル下地と反応して、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO
3)
2)が形成されることで、恒久的な防カビ効果が付与されたためである。
【実施例5】
【0033】
接触皮膚炎(かぶれ)の原因になるかパッチテスト(貼付試験)を行った。ヨウ素酸バリウム(Ba(IO
3)
2)、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO
3)
2)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
3)の粉末を直接腕に接触させ、その状態を保った。3種類の粉末を皮膚に3時間接触曝露させても、アレルギー反応などの異常は見られず、生体への侵襲性が無いことが確認された。
【実施例6】
【0034】
粒状および板状のケイ酸カルシウムの材料にヨウ素酸を反応させたもの、ヨウ素酸カルシウムとヨウ素酸バリウムの病原性鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性を試験評価した。
【0035】
実験材料として、(1)厚み6mmの壁材(ケイカル板)を粉砕し、篩分けして2〜5mmサイズのケイカル粒にヨウ素酸をスプレー処理したもの、(2)養鶏や養豚などの家畜舎の壁材の抗菌・抗ウイルス処理を目的として、ケイカル板(厚み6mm)をヨウ素酸の溶液中に浸漬させて2時間後に引き上げてから110℃で加熱乾燥させたものを表面から中心部まで(2−1)0〜1mm、(2−2)1〜2mm、(2−3)2〜3mmの厚みで削り、その削り粉を回収したもの、(3)塩化カルシウム溶液にヨウ素酸ナトリウム溶液を加えることで生成された沈殿物を分離回収して乾燥させたもの、(4)塩化バリウム溶液にヨウ素酸ナトリウム溶液を加えることで生成された沈殿物を分離回収して乾燥させたもの、を用いた。
【0036】
ウイルスとして、鳥インフルエンザウイルスA/swan/Shimane/499/83(H5N3)株を用いた。このウイルスを10日齢発育鶏卵の尿膜腔内に接種し、35℃にて2日間培養した後、尿膜腔液を採取してウイルス液とした。なお、ウイルス液は、50%発育鶏卵感染価(EID
50)を算出し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて約10
7.5EID
50/0.2mLに調製した。使用鶏卵は、SPF有精卵を孵卵させ、10日齢で試験に供した。
【0037】
実験材料(1)(4)(5)については400mg、(2−1)(2−2)(2−3)については200mgを測り採り、そこにそれぞれの重量の半量のウイルス液を混合して室温にて10分間反応させた。反応後、SCDLP(レシチン・ポリソルベート80加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト)培地を加え、10倍希釈して反応を終了させた。そして、PBSにて10倍段階希釈し、希釈段階ごとに3個の10日齢発育鶏卵尿膜腔内に0.2mLずつ接種し、35℃で2日間培養した。培養後、尿膜腔液を採取し、0.5%鶏赤血球浮遊液と反応させ、赤血球の凝集によりウイルス増殖の有無を判定した。なお、残存ウイルス力価は、Reed and Muenchの方法によりEID
50を算出した。
【0038】
図5に示すように、実験材料(4)においては、残存ウイルス力価を約500万分の1以下に減少させた。(2−1)においては、約5万分の1に減少させた。(2−2)及び(2−3)においては、約1千分の1に減少させた。(3)においては、約5千分の1(〜150分の1)に減少させたが、効果にバラつきがあった。
【0039】
実験材料(1)については、ヨウ素酸の溶液をスプレー噴霧しただけで、処理後の加熱処理などの反応促進処理を行わなかったので、含浸部位にムラが生じ、安定した抗ウイルス性を確認できなかった。(2−1)〜(2−3)については、ケイカル板の厚みに応じてヨウ素酸の処理効果に傾向が見られ、2時間の処理でその中心部まで抗菌処理が可能であった。(4)については、抗ウイルス性が非常に強かった。
【0040】
本発明によれば、空中に飛散または水中に分散しやすい活性炭などの素材を介さずに、繊維、布地、衣服、紙類、合成樹脂類、プラスチック類、又は建築資材などの材料に、ヨウ素酸を反応させることにより、抗菌、抗ウイルス、防カビ、防虫、防臭、又は消臭などの機能を直接に付与することができる。
【0041】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。
【解決手段】抗菌・消臭機能の付与方法は、水に不溶性のヨウ素酸塩を生成可能な元素であって当該ヨウ素酸塩に生体毒性のない元素を含む材料に、ヨウ素酸化合物を反応させ、前記材料の表層に前記元素のヨウ素酸塩を生成することにより、前記ヨウ素酸塩が外部に溶出することなく抗菌及び消臭可能に前記ヨウ素酸塩を担持させる、ことを特徴とする。