特許第6644330号(P6644330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644330
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】シール材付き管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   F16L15/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-120463(P2016-120463)
(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-9117(P2017-9117A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-124560(P2015-124560)
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年3月14日東洋熱工業株式会社において試験的使用,平成27年4月7日岡谷鋼機株式会社において販売
(73)【特許権者】
【識別番号】513131383
【氏名又は名称】株式会社リケンCKJV
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一善
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮輔
【審査官】 豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−102867(JP,A)
【文献】 特開2013−036585(JP,A)
【文献】 特開2007−016991(JP,A)
【文献】 特開昭60−049183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 13/00 − 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール剤を所定のねじ込み範囲に予めコートしてあるシール材付き管継手であって、
前記シール材は、端部から所定の幅までの相対的に厚い膜の厚膜部と、それよりも奥側に位置する前記所定のねじ込み範囲までの前記厚膜部よりも薄い膜の薄膜部とからなる二段コート膜構造になっていることを特徴とするシール材付き管継手。
【請求項2】
前記厚膜部は、さらに重ね塗りした高厚膜部からなる三段コート膜構造になっていることを特徴とする請求項1記載のシール材付き管継手。
【請求項3】
前記管継手は、手締め後に、工具等を用いて所定のトルクまで増し締めるものであり、
前記厚膜部の奥行き長さは前記手締め寸法に対応していることを特徴とする請求項1又は2記載のシール材付き管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ込み部に予めシール材をコートしてある管継手に関し、特にねじ込み作業及びシール性に優れた管継手に係る。
【背景技術】
【0002】
配管接続においては、シール性が要求されることから接続前にねじ込み部にシールテープを巻き付けたり、液状のシール剤を塗布することが行われている。
例えば、本出願人は先に予め所定の範囲にシール剤を塗布して乾燥させたシール材付き管継手を提案している(特許文献1)。
本発明は、上記技術をさらに発展させたものである。
【0003】
管材のねじ加工には、転造ねじ、切削ねじ等があり、切削ねじにはNC旋盤を用いたダイスによるねじ切り加工とダイヘッド式ねじ切り機械を用い、チェザーと称されるバイトによるねじ切り加工によるものがある。
現場でねじ切り加工を行い、配管施工する場合にはチェザーによりねじ切り加工したチェザーねじが用いられている。
しかし、チェザーによるねじ切り加工は、このバイトに逃げが生じたり、摩耗が速いといった問題があり、図5の(a)〜(c)に示すように「ねじやせ」、「ねじ山高さ不足」、「ねじピッチズレ」等の不具合が生じたり、時にはテーパーねじ等において図5の(d)に示すようにテーパー角が途中で折れた「屈折ねじ」なる不具合が生じる。
これらの不具合は、ねじ込み部のシール不足となり、特に普通鋼に比べ硬く、ねばく、すべりの悪いステンレス鋼管のねじ加工にて発生しやすい。
また、ステンレス配管は耐食性に優れていることから食品分野等の設備配管にも使用されるが、その際にねじ込み部からのシールカス発生を防ぐ必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−102867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はシール性(水密気密性)に優れ、シールカスの発生を抑えたシール材付き管継手の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シール剤を所定のねじ込み範囲に予めコートしてあるシール材付き管継手であって、前記シール材は、端部から所定の幅までの相対的に厚い膜の厚膜部と、それよりも奥側に位置する前記所定のねじ込み範囲までの前記厚膜部よりも薄い膜の薄膜部とからなる二段コート膜構造になっていることを特徴とする。
ここでシール材付き管継手と表現したのは、管継手のねじ部にフッ素系シール剤等の液体シール剤を予め塗布し、乾燥させたことによることから、予めねじ込み部をコーティングしてある管継手の意味でシール材付き管継手とした。
本発明においてはシール性が高ければフッ素系シール剤に限定するものではないが、フッ素シール剤は潤滑性にも優れるので、ねじ込みトルクの低減も可能であり配管作業性にも優れる。
【0007】
ここで厚膜部と薄膜部とは、2回に分けて塗布した場合及び1回塗りで塗布量を変化させて厚膜部と薄膜部とを形成した場合の両方が含まれる。
また、厚膜部と薄膜部との境界は段差状及び徐々に膜厚が変化する傾斜状の両方が含まれる。
これにより、薄膜部でねじ込み時の潤滑性を確保しつつ、厚膜部にて気密,水密性を確保できる。
また、シール材のコート膜厚を管継手の端部側と奥側とにて差を設けることで、ねじ込み時にシールカスが発生するのを抑えつつ、厚膜部の部分で相手側配管材のねじ不具合を吸収することができる。
従って、薄膜部の奥側の境界(塗布範囲)は、相手管材に対する所定のねじ込み範囲以下にするのがよく、好ましくはねじ込み範囲の手前1〜2山までがよい。
ねじ込み範囲を越えてシール材が存在すると、それがハガれ、シールカスになる恐れがあるからである。
一方、未コート範囲が大きくなると、ねじ込み時にかじり発生の原因となる。
【0008】
本発明に係る管継手にて管材を螺合接続する場合に、相手側の管材に例えば、チェザーねじを施し、それが前述した屈折ねじのように、ねじ形状の不具合が大きい場合には前記二段コート膜構造だけでは、この不具合部のシール性(気密及び水密性)が不充分となる場合がある。
その場合には、前記厚膜部は、さらに重ね塗りした高厚膜部からなる三段コート膜構造になっているとよい。
このように膜厚を三段構造にする場合に、管継手の端部側を高厚膜にしない方が好ましい。
端部付近は気密及び水密性に大きな影響を与えないこと及び端部側を高厚膜にすると、相手側管材に管継手を手締める際にねじ込み量が不充分となる恐れがあるからである。
【0009】
一般に配管接続作用は、はじめに管材と管継手とを手で螺合する手締めを行った後にトルクレンチ等の工具を用いて、所定のトルクまで増し締めを行う。
そこで、前記厚膜部の幅(長さ)は目安として、手締め後に、工具等を用いて所定のトルクまで増し締める際の前記手締め寸法に対応させるとよい。
【0010】
本発明において管継手は、エルボ,チーズ,ソケット,ニップル,ブッシング及びプラグ等、その種類を問わない。
ねじ形状も平行ねじ、テーパーねじ等、その種類を問わない。
手締め量は手で螺合できる範囲であり、その後にトルクレンチ等の工具を用いて所定のトルクが得られるまで増し締めする。
この手締め量はNC加工ねじとチェザーねじとで異なり、口径サイズによっても異なる。
図4の表にその目安を示す。
【0011】
本発明において、コート膜の膜厚は口径サイズによっても異なるが、薄膜部:0.1〜0.4mg/mm、厚膜部:0.5〜1.4mg/mm、高厚膜部:1.5〜2.5mg/mm程度が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシール材付き管継手は、端部側とねじ込み部の奥側とで膜厚に差を設けた二段コート膜、三段コート膜にしたので、シールカスの発生を抑えつつシール性を確保することができる。
特に、管材がステンレス鋼であったり、ねじがチェザーねじ等のねじ切り加工時にねじ形状が確保しにくい管材の配管接続に効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る管継手のコート膜の構造を模式的に示し、(a)は二段コート膜、(b)は三段コート膜を示す。
図2】厚膜部の範囲と品質評価結果を示す。
図3】評価に用いた管継手の口径サイズと膜厚条件を示す。(a)は二段コート膜、(b)は三段コート膜の条件示す。
図4】口径サイズとねじ込み量の一覧表を示す。
図5】(a)はねじやせの例、(b)はねじ山高さ不足の例、(c)はピッチ不具合の例、(d)は屈折ねじの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る管継手のコート膜の構造例を以下、図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
図1(a)に二段コート膜の例、(b)に三段コート膜の例を模式的に示す。
図1はテーパーねじの例を示すが平行ねじでもよい。
図1(a)の二段コート膜は薄膜部11を標準ねじ込み長さ(範囲)よりも1山程度手前までシール剤を塗布及び乾燥させるのが好ましく、厚膜部12は手締め範囲までが好ましい。
図1(a)の模式図は説明上、二層構造として表現してあるが、薄膜部11と厚膜部12とを二回に分けて塗布してもよく、また塗布量を調整しつつ1回で塗布してもよい。
図1(b)は三段コート膜の構造例を示す薄膜部11、厚膜部12、高厚膜部13からなる。
図では三層構造として表現してあるが、1回で塗布してもよく、2回、3回に分けて塗布してもよい。
なお、塗布時のタレを防止し、高厚膜部を充分に確保するためには薄膜部と厚膜部を形成後に高厚膜部を重ね塗りするのが好ましい。
【0016】
図2に厚膜部の範囲とシール品質との関係を調査した結果を示す。
一回目の塗布でフッ素シール剤を約0.1〜0.4mg/mm塗布及び乾燥させ、次に厚膜部を「15A〜50A」については約0.4〜1.0mg/mmを重ねて塗布し、その重ね塗りした範囲とシールカスの発生の有無及びシール性として気密性を評価した。
図1で説明すると、薄膜部11の範囲Lと厚膜部12の範囲Lとを合せた範囲が標準ねじ込み長さ相当またはそれ以下となる。
シールカスはねじ込み後に内部にシール材のカスがあるか否かを評価し、気密性は0.6MPaの空気圧下、5秒間で漏れがない場合を合格とした。
図2の表から重ね塗りした塗布範囲、即ち厚膜範囲幅Lが所定より狭くなると気密性が低下し、所定よりも広くなるとシールカスが発生しやすくなることが分かる。
【0017】
そこで図4に示した手締め山数及び増し締めによるねじ込み量を参考に図3に示すように二段コート膜と三段コート膜を形成した。
なお、三段コート膜は1回目の塗布にて薄膜部と厚膜部を形成、2回目の塗布にて高厚膜部13を形成した。
また、高厚膜部13は継手端面から塗布すると施工がやりにくくなることから、端部から3〜4mmの範囲(d)に塗布せず、それよりも奥側にLの範囲を塗布した。
これらのサンプルにて気密性及びシールカス評価をしたところ、すべて合格した。
【符号の説明】
【0018】
1 管継手
11 薄膜部
12 厚膜部
13 高厚膜部
図1
図2
図3
図4
図5