(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の無段変速機の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、実施例1における無段変速機の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速マップにおける変速制御構成」、「2→1ダウンシフト時変速制御構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用された無段変速機が搭載されたエンジン車を示す全体構成を示し、
図2は、変速コントローラの電子制御系を示す。以下、
図1及び
図2に基づいて、実施例1の制御装置の全体システム構成を説明する。
なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転数を当該変速機構の出力回転数で除算して得られる値である。また、「最ロー変速比」は、当該変速機構の最大変速比を意味し、「最ハイ変速比」は、当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0012】
実施例1の無段変速機が搭載された車両は、走行駆動源としてエンジン1を備える。エンジン1からの出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機4(以下、単に「変速機」という)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には、駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられている。以下、各構成について説明する。
【0013】
前記変速機4は、無段変速機構20(以下、「バリエータ」という)と、バリエータ20に対して直列に設けられた有段変速機構30(以下、「副変速機構」という)と、を備えている。
ここで、「直列に設けられる」とは、同一の動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30の入力軸は、実施例1のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列やクラッチ)を介して接続されていてもよい。また、副変速機構30の出力軸にバリエータ20の入力軸が接続されていてもよい。
【0014】
前記バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、両プーリ21,22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21,22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a,23bとを備える。油圧シリンダ23a,23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21,22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0015】
前記副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)と、を備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更する架け替え変速を行うと副変速機構30の変速段が変更される。
すなわち、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33及びRevブレーキ34を解放すれば、副変速機構30の変速段は「1速」状態となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32及びRevブレーキ34を解放すれば、副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな「2速」状態となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32及びHighクラッチ33を解放すれば、副変速機構30の変速段は「後進」状態となる。以下、副変速機構30が「1速」状態のときを「低速モード」といい、副変速機構30が「2速」状態のときを「高速モード」という。
【0016】
前記変速機コントローラ12(変速制御手段)は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0017】
前記入力インターフェース123には、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、バリエータ20のプライマリ回転数Npri(変速機4の入力回転数)を検出するプライマリ回転数センサ42の出力信号、副変速機構30の出力回転数Nout(変速機4の出力回転数)を検出する変速機出力回転数センサ43の出力信号、が入力される。さらに、この入力インターフェース123には、変速機4のATF油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、エンジン1の出力トルクの信号である入力トルク信号Te、等が入力される。
【0018】
前記記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラムや、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(
図3参照)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0019】
前記油圧制御回路11は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これによりバリエータ20の変速比や副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0020】
[変速マップによる変速制御構成]
図3は、変速機コントローラの記憶装置に格納される変速マップの一例を示す。以下、
図3に基づき、変速マップによる変速制御構成を説明する。
【0021】
前記変速機4の動作点は、
図3に示す変速マップ上で車速VSPとプライマリ回転数Npriに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られるトータル変速比、つまり、バリエータ20及び副変速機構30によって達成される変速機4全体の変速比。以下、「スルー変速比」という。)を表している。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。
【0022】
すなわち、前記変速機コントローラ12は、変速マップを参照し、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比を、「到達スルー変速比」として設定する。
この「到達スルー変速比」は、当該運転状態でスルー変速比が最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比を所望の応答特性で到達スルー変速比に追従させるための過渡的な目標値である「目標スルー変速比」を設定し、バリエータ20及び副変速機構30を制御して、実スルー変速比を目標スルー変速比に一致(追従)させる「協調変速」を実施する。
【0023】
なお、「協調変速」を実施する場合には、まず、副変速機構30の目標変速比(以下、「目標副変速比」という)を算出する。ここで、副変速機構30が変速しない場合であれば、目標副変速比は、1速で実現する変速比又は2速で実現する変速比となる。また、副変速機構30が変速する場合であれば、当該変速の進行状態に応じて副変速機構30の入力回転数及び出力回転数を演算し、その演算値から目標副変速比を算出する。
そして、目標副変速比を算出したら、この算出した目標副変速比で目標スルー変速比を除算し、この除算値をバリエータ20の目標変速比(以下、「目標バリエータ変速比」という)に設定し、バリエータ20の変速比を目標バリエータ変速比に一致(追従)させるバリエータ20の変速制御を実施する。この結果、スルー変速比が目標値に追従するように、目標副変速比に応じて目標バリエータ変速比が制御される。
【0024】
また、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみを示している。
さらに、車速VSPは、副変速機構30の出力回転数Noutと第2ギヤ列5及び終減速装置6でのギヤ比から求められる。
【0025】
そして、変速機4が低速モードのとき、この変速機4はバリエータ20の変速比を最大にして得られる低速モード最Low線と、バリエータ20の変速比を最小にして得られる低速モード最High線と、の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域及びB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのとき、変速機4はバリエータ20の変速比を最大にして得られる高速モード最Low線と、バリエータ20の変速比を最小にして得られる高速モード最High線と、の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域及びC領域内を移動する。
なお、「A領域」とは、低速モード最Low線と高速モード最Low線によって囲まれた領域である。「B領域」とは、高速モード最Low線と低速モード最High線によって囲まれた領域である。「C領域」とは、低速モード最High線と高速モード最High線によって囲まれた領域である。
【0026】
また、副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとり得る変速機4のスルー変速比の範囲である低速モードレシオ範囲と、高速モードでとり得る変速機4のスルー変速比の範囲である高速モードレシオ範囲と、が部分的に重複する。変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域(重複領域)にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0027】
さらに、前記変速マップ上には、副変速機構30のアップ変速を行うモード切替アップ変速線(副変速機構30の1→2アップ変速線)が、低速モード最High線よりLow側変速比(変速比大)となる位置に設定されている。また、変速マップ上には、副変速機構30のダウン変速を行うモード切替ダウン変速線(副変速機構30の2→1ダウン変速線)が、高速モード最Low線よりHigh側変速比(変速比小)となる位置に設定されている。
【0028】
そして、変速機4の動作点がモード切替アップ変速線、又は、モード切替ダウン変速線を横切った場合、すなわち、変速機4の目標スルー変速比がモード切替変速比を跨いで変化した場合やモード切替変速比と一致した場合には、変速機コントローラ12はモード切替変速制御を行う。このモード切替変速制御時に「協調変速」を行う場合では、変速機コントローラ12は、実スルー変速比が目標スルー変速比(目標値)に追従するように、副変速機構30の目標変速比に応じてバリエータ20の変速比を制御する。具体的には、バリエータ20の変速比を、副変速機構30の変速比で目標スルー変速比を除算した値に設定する。
【0029】
[2→1ダウンシフト時変速制御構成]
図4は、実施例1の変速機コントローラで実行される2→1ダウンシフト時変速制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、実施例1の2→1ダウンシフト時変速制御構成を表す
図4の各ステップについて説明する。
【0030】
ステップS1では、変速機4が高速モードであるか否か、つまり副変速機構30が2速であるか否かを判断する。YES(高速モード)の場合には、ダウンシフトが可能であるとしてステップS2へ進む。NO(低速モード)の場合には、ダウンシフトが不可能であるとして、本制御が適用できないためエンドへ進む。
【0031】
ステップS2では、ステップS1での高速モードとの判断に続き、モード切替要求である副変速機構30のダウンシフト要求が生じた否かを判断する。YES(要求あり)の場合には、モード切替要求(副変速機構30のダウンシフト要求)が生じたとしてステップS3へ進む。NO(要求なし)の場合には、モード切替要求(副変速機構30のダウンシフト要求)が生じていないとして、ステップS10へ進む。
ここで、モード切替要求の有無は、車速と、アクセル開度と、アクセル開速度(アクセルペダルの踏込スピード)に基づいて行う。アクセル開度が車速に応じて決まる閾値を超えると共に、アクセル開速度が予め設定された閾値を超えたらモード切替要求(副変速機構30のダウンシフト要求)が発生する。
【0032】
ステップS3では、ステップS2でのモード切替要求ありとの判断に続き、副変速機構30のダウンシフトを開始し、ステップS4へ進む。
ここで、副変速機構30のダウンシフトを行うには、まず、変速機入力トルクであるエンジン1の出力トルクを上昇させる。次に、締結状態のHighクラッチ33の締結容量を低下させて、Highクラッチ33をスリップ締結状態にする。この結果、副変速機構30の入力回転数(=バリエータ出力回転数)が徐々に上昇し、副変速機構30の変速比が上昇(ロー側に変化)していく。そして、副変速機構30の入力回転数が目標回転数まで上昇したら、回転数は維持しつつ、Lowブレーキ32の締結容量を上昇させながらHighクラッチ33を解放する。これにより、副変速機構30によって得られる駆動力が上昇していく。そして、Lowブレーキ32とHighクラッチ33の掛け替えが終了すれば、副変速機構30のダウンシフトが完了する。
なお、Highクラッチ33をスリップ締結状態にしたことで副変速機構30の入力回転数(=バリエータ出力回転数)が上昇していく期間、つまり副変速機構30の変速比を上昇変化させる期間をイナーシャフェーズという。また、Lowブレーキ32の締結容量を上昇させることで、副変速機構30によって得られる駆動力が上昇していく期間をトルクフェーズという。
【0033】
ステップS4では、ステップS3での副変速機構30のダウンシフト開始に続き、「Dレシオ」が予め設定した第1閾値以上であるか否かを判断する。YES(Dレシオ≧第1閾値)の場合には、ステップS5へ進む。NO(Dレシオ<第1閾値)の場合には、ステップS11へ進む。
ここで、「Dレシオ」とは、モード切替要求発生前の到達スルー変速比と、モード切替要求発生後の到達スルー変速比との変速比差である。また、「第1閾値」は、バリエータ20の変速比が「協調変速」実施時の値に設定されるとドライバーにヘジテーションを与えるか否か、を基準に任意に設定される値である。例えば、副変速機構30における変速比差(1速時副変速比と2速時副変速比との差)と同等の値に設定される。
【0034】
ステップS5では、ステップS4でのDレシオ≧第1閾値との判断に続き、ドライバーによる加速要求が大きいとして、目標バリエータ変速比を、2速時目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定すると共に、設定した目標バリエータ変速比に応じてバリエータ20を制御してステップS6へ進む。
ここで、「2速時目標副変速比」とは、副変速機構30が2速状態のとき(ダウンシフト前)の目標変速比である。これに対し、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標副変速比は、副変速機構30の入力回転数が上昇することで、2速時目標副変速比から時々刻々と上昇(ロー側へと変化)していく。そのため、2速時目標副変速比は、ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標副変速比よりも小さい値になる。
そのため、ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標副変速比によって目標スルー変速比を除算して求めた値よりも、2速時目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した場合の方が大きい値になる。これにより、目標バリエータ変速比は、「協調変速」を行うときに設定される目標バリエータ変速比(以下、『「協調変速」実施時の値』という)よりも大きい値に設定される。
【0035】
ステップS6では、ステップS5での目標バリエータ変速比の設定に続き、設定した目標バリエータ変速比の規制処理を実施し、ステップS7へ進む。
ここで、バリエータ変速比の規制処理とは、アクセル開度APOから求められた要求車両Gが発生した場合、又は、ステップS5にて設定した目標バリエータ変速比が所定の上限規制値αに達した場合に、目標バリエータ変速比をその時の値に維持する処理である。すなわち、目標バリエータ変速比には上限規制値αが設けられることになり、例えば要求車両Gが発生するまで上昇し続けることが規制される。
なお、「上限規制値α」とは、バリエータ20の変速比のロー側への変化を規制する限界値である。例えば、エンジン1におけるオーバーレブ回転数等に基づいて任意に設定される。
【0036】
ステップS7では、ステップS6での目標バリエータ変速比の規制処理の実施に続き、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了すると共に、ドライバーによるアクセル操作が生じたか否かを判断する。YES(イナーシャフェーズ完了&アクセル操作あり)の場合には、ステップS8へ進む。NO(イナーシャフェーズ未完了ORアクセル操作なし)の場合には、目標バリエータ変速比を協調変速する場合よりも大きい値に設定し続けるとして、ステップS5へ戻る。
ここで、アクセル操作の有無は、到達スルー目標変速比と目標スルー変速比との差である「目標変速比偏差」が、予め設定した第2閾値よりも大きいか否かによって判断する。ドライバーのアクセル操作が行われた場合には到達スルー変速比が変化し、到達スルー変速比と目標スルー変速比との間に差が生じる。つまり、目標変速比偏差≧第2閾値となった場合にドライバーによるアクセル操作が生じたと判断する。なお、「第2閾値」は、アクセル操作が実施されたか否かを基準に、任意に設定される値である。
【0037】
ステップS8では、ステップS7でのイナーシャフェーズ完了&アクセル操作ありとの判断に続き、目標スルー変速比を到達スルー変速比に一致させるまでのバリエータ20の変速プロフィールに応じた目標バリエータ変速比を生成し、生成した目標バリエータ変速比に応じてバリエータ20を制御してステップS9へ進む。
このとき、バリエータ20は、ベルトスリップの生じない範囲での最大変速速度で変速(アップシフト)することを前提とする。また、これにより、バリエータ変速比は、「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)に向かって変化していく。
【0038】
ステップS9では、ステップS8での目標バリエータ変速比の生成に続き、目標バリエータ変速比偏差が予め設定した第3閾値未満であるか否かを判断する。YES(目標バリエータ変速比偏差<第3閾値)の場合には、バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)に一致したとして、エンドへ進む。NO(目標バリエータ変速比偏差≧第3閾値)の場合には、バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)よりも大きいとして、ステップS8へ戻る。
ここで、「目標バリエータ変速比偏差」とは、ステップS8にて生成した目標バリエータ変速比と、「協調変速」実施時の目標バリエータ変速比(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)との差である。また、「第3閾値」は、バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)に一致したと判断できる値であり、任意に設定される。
【0039】
ステップS10では、ステップS2でのモード切替要求なしとの判断に続き、副変速機構30を2速状態に維持し、高速モードを継続してエンドへ進む。
【0040】
ステップS11では、ステップS4でのDレシオ<第1閾値との判断に続き、通常の「協調変速」を実施してもドライバーの駆動力要求を満足できるとして、目標バリエータ変速比を、副変速機構30が2速で実現する変速比から1速で実現する変速比へと時々刻々と上昇していく目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定し、設定した目標バリエータ変速比に応じてバリエータ20を制御してエンドへ進む。
すなわち、このステップS11に進んだ場合には、スルー変速比が目標値に追従するように、目標副変速比に応じて目標バリエータ変速比を制御する「協調変速」が実施される。
【0041】
次に、作用を説明する。
まず、「第1比較例の制御とその作用」及び「第2比較例の制御とその作用」について説明する。続いて、実施例1の無段変速機の制御装置における「変速制御作用」を説明する。
【0042】
[第1比較例の制御とその作用]
図5は、第1比較例の制御装置において、駆動力要求時に副変速機構をダウンシフトしたときのアクセル開度・エンジントルク・目標スルー変速比・目標バリエータ変速比・目標副変速比・車両Gの各特性を示すタイムチャートである。以下、
図5に基づいて、第1比較例の制御とその作用について説明する。
【0043】
この第1比較例では、変速比を無段階に変更可能なバリエータと、バリエータに対して直列に設けられた有段の副変速機構と、を備えている。そして、ドライバーの駆動力要求に基づいてスルー変速比をロー側に変化させる際、副変速機構は変速させずにバリエータの変速比だけをロー側に変速制御してスルー変速比を目標値に追従させる。なお、この場合でもバリエータの変速比は、目標副変速比(一定値)に応じて制御されることになるため、「協調変速」を実施することになる。
【0044】
すなわち、低速モード(副変速機構が1速)のとき、
図5に示す時刻t
1時点においてアクセル開度が変化すると、このアクセル開度の変化に基づいてエンジントルクが上昇し始めると共に、目標スルー変速比がロー側に変化する。このとき、副変速機構では1速が選択されているため、ダウンシフトを行うことができず、副変速機構の目標変速比(以下、「目標副変速比」という)は1速で実現する変速比を維持する。
【0045】
一方、バリエータの目標変速比(以下、「目標バリエータ変速比」という)は、目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定されるが、この第1比較例では、バリエータの変速のみによってスルー変速比を目標値に追従させることになる。そのため、バリエータの変速比変化量は、目標スルー変速比の変化量とほぼ同等の値になる。
【0046】
ここで、バリエータは、変速比の変化に応じて伝達する駆動力が変化するので、バリエータに変速に合わせて車両に作用する加速度(車両G)が変化(増加)する。この結果、アクセルペダルの踏み込み状態に応じた駆動力を得ることができる。
【0047】
[第2比較例の制御とその作用]
図6は、第2比較例の制御装置において、駆動力要求時に副変速機構をダウンシフトしたときのアクセル開度・エンジントルク・目標スルー変速比・目標バリエータ変速比・目標副変速比・車両Gの各特性を示すタイムチャートである。以下、
図6に基づいて、第2比較例の制御とその作用について説明する。
【0048】
この第2比較例では、変速比を無段階に変更可能なバリエータと、バリエータに対して直列に設けられた有段の副変速機構と、を備えている。そして、ドライバーの駆動力要求に基づいてスルー変速比をロー側に変化させる際、副変速機構をダウンシフトさせると共に、目標副変速比に応じてバリエータの変速比を制御してスルー変速比を目標値に追従させる「協調変速」を実施する。
【0049】
すなわち、高速モード(副変速機構が2速)のとき、
図6に示す時刻t
2時点においてアクセル開度が変化すると、このアクセル開度の変化に基づいてエンジントルクが上昇し始めると共に、目標スルー変速比がロー側に変化する。また、このときのアクセル開度やアクセル開速度に基づき副変速機構のダウンシフト要求が発生する。これにより、副変速機構ではダウンシフトが開始され、Highクラッチの締結容量が徐々に低下していくことで副変速機構の入力回転数(=バリエータ出力回転数)が上昇し、目標副変速比が上昇していくイナーシャフェーズが進行する。
【0050】
一方、目標バリエータ変速比は、目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定されるが、この第2比較例では、副変速機構のダウンシフトと、バリエータの変速によってスルー変速比を目標値に追従させることになる。そのため、バリエータの変速比変化量は、目標スルー変速比の変化量よりも少なくなる。
【0051】
ここで、目標副変速比を上昇変化させる期間(イナーシャフェーズ)では、副変速機構で得られる駆動力はダウンシフト前(2速駆動力)相当である。そのため、バリエータがダウンシフトしたことで車両Gは増加するものの、副変速機構で得られる駆動力が増加しないため、車両Gの変化はエンジントルクの増加に応じたものにはならず、車両Gの上昇変化に停滞が発生する。
【0052】
時刻t
3時点で目標副変速比が1速で実現する変速比に達し、Lowブレーキの締結容量が上昇しつつHighクラッチが解放されることで、副変速機構によって得られる駆動力が上昇するトルクフェーズへと移行する。このトルクフェーズへと移行すれば、副変速機構にて得られる駆動力が徐々に増加していき、時刻t
4時点で副変速機構のダウンシフトが完了したタイミングで、ダウンシフト後(1速駆動力)相当の駆動力を得ることができる。
【0053】
このように、ドライバーの駆動力要求に基づいて副変速機構がダウンシフトするときに「協調変速」を実施すると、副変速機構のダウンシフト初期には、アクセルペダルの踏み込み状態に応じた駆動力を得ることができない。この結果、
図6において破線Aで囲むように、車両Gの上昇変化が停滞し、ドライバーがヘジテーションを感じてしまうという問題が生じる。
【0054】
[変速制御作用]
図7は、実施例1の制御装置において、駆動力要求時に副変速機構をダウンシフトしたときのアクセル開度・エンジントルク・目標スルー変速比・実スルー変速比・到達目標スルー変速比・目標バリエータ変速比・目標副変速比・車両Gの各特性を示すタイムチャートである。以下、
図7に基づき、実施例1における変速制御作用を説明する。
【0055】
実施例1の変速機4において高速モード(副変速機構30が2速)での走行中、
図7に示す時刻t
11時点でアクセルペダルが踏込操作されると、このアクセル開度の変化に基づいてエンジントルクが上昇する。そして、
図4に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2へと進み、モード切替要求、すなわち副変速機構30のダウンシフト要求が発生したか否かが判断される。
【0056】
アクセル開度やアクセル開速度、車速等に基づいてモード切替要求が出力されれば、副変速機構30のダウンシフトが開始される。また、ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進み、Dレシオが第1閾値以上であるか否かが判断される。
図7に示す場合では、Dレシオが第1閾値よりも大きいと判断され、ステップS5へと進んで目標バリエータ変速比が、2速時目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定される。そして、バリエータ20は、この設定された目標バリエータ変速比に応じて変速制御(ロー側への変速制御)が行われる。
【0057】
ここで、「2速時目標副変速比」とは、副変速機構30が2速のとき(ダウンシフト前)の目標副変速比である。これに対し、ダウンシフトが開始した副変速機構30では、イナーシャフェーズ中に目標副変速比が2速時の変速比から時々刻々と上昇していく。そのため、2速時目標副変速比は、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標副変速比よりも小さい値になる。
そのため、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中において、目標バリエータ変速比は、「協調変速」実施時の値(
図7において破線で示す)よりもΔxだけ大きい値に設定される。つまり、この実施例1では、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中、バリエータ20の変速比は、「協調変速」実施時の値よりもロー側の値となる。
【0058】
そして、このようにバリエータ20の変速比が、「協調変速」実施時の値よりもロー側に変速されることで、車両Gの変化(増加)も「協調変速」を実施する場合(
図7において破線で示す)よりも大きくなる。この結果、車両Gの上昇変化の停滞を緩和し、ドライバーが感じるヘジテーションを抑制することができる。
【0059】
また、この実施例1のように、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比を、2速時目標副変速比(ダウンシフト前の目標副変速比)で目標スルー変速比を除算した値に設定することで、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも確実に大きい値に設定することができると共に、容易に算出することができる。
【0060】
そして、この実施例1では、ステップS5→ステップS6へと進み、バリエータ変速比の規制処理が実施される。つまり、時刻t
12時点において、目標バリエータ変速比が上限規制値αに達すると、目標バリエータは、この上限規制値αに維持される。これにより、エンジン回転数が不要に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0061】
その後、時刻t
13時点において目標副変速比が1速で実現する変速比に達したら、Lowブレーキの締結容量が上昇しつつHighクラッチが解放されるトルクフェーズが開始される。これにより、副変速機構30によって得られる駆動力が上昇し、車両Gもこの駆動力の上昇に伴って増加していく。そして、時刻t
14時点で副変速機構30のダウンシフトが完了すれば、副変速機構30で得られる駆動力の上昇が停止して車両Gも一定となる。
【0062】
なお、この実施例1では、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した後も、目標バリエータ変速比を、「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定する。つまり、副変速機構30の変速状態に拘わらず、目標バリエータ変速比を上限規制値に設定し続ける。
【0063】
これにより、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズにおいて、バリエータ20の変速比が「協調変速」実施時の値よりもロー側の値に設定される時間を長く確保することができる。このため、副変速機構30のダウンシフト初期に生じる駆動力不足をより確実に抑制することができる。
【0064】
そして、時刻t
15時点においてアクセルペダルの踏み込み力が弱まり、アクセル開度APOが小さくなると、ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進み、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値)に一致させるまでのバリエータ20の変速プロフィールを生成する。そして、目標バリエータ変速比が生成した変速プロフィールに沿うように、バリエータ20の変速制御(アップシフト)を行い、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻していく。
【0065】
ここで、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことで、バリエータ20で得られる駆動力が変化(減少)し、車両Gに変動が生じる。しかしながら、この目標バリエータ変速比を「協調変速」に合わせるタイミングを、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した後にドライバーのアクセル操作が生じたタイミングとすることで、アクセル操作に伴う目標スルー変速比が変化するタイミングに合わせて目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことができる。そのため、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことで車両Gが変動しても、アクセル操作に応じて生じる目標スルー変速比の変化に伴う車両G変動に紛れさせることができ、ドライバーへの違和感を低減することができる。
【0066】
なお、この実施例1では、Dレシオが予め設定された第1閾値未満のときには、ステップS4→ステップS11へと進み、目標バリエータ変速比は、2速で実現する変速比から1速で実現する変速比へと時々刻々と上昇していく目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定される。つまり、スルー変速比が目標値に追従するように、目標副変速比に応じて目標バリエータ変速比を制御する通常の「協調変速」が実施される。これにより、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比が「協調変速」実施時よりもロー側の値に設定されるシーンは、ドライバーがアクセルペダルを短時間で大きく踏み増した場合(アクセルペダルの急踏み)等に限られる。そのため、目標バリエータ変速比が不要に大きい値に設定されることを防止し、ドライバーの違和感発生を抑制することができる。
【0067】
次に、効果を説明する。
実施例1の無段変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0068】
(1) 走行駆動源(エンジン1)と駆動輪7の間に介装され、変速比を無段階に変更可能なバリエータ20と、
前記バリエータ20が介装された駆動系に設けられ、複数の締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33)の締結及び解放によって複数の変速段を切り替え可能な有段の副変速機構30と、
変速要求時、前記バリエータ20及び前記副変速機構30によって達成される全体の変速比であるスルー変速比が目標値に追従するように、前記副変速機構30の変速比に応じて前記バリエータ20の変速比を制御する協調変速を行う変速制御手段(変速機コントローラ12)と、
を備えた無段変速機の制御装置において、
前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、ドライバーの駆動力要求に基づいて前記副変速機構30をダウンシフトする際、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の前記バリエータ20の変速比を、前記協調変速を行うときに設定される前記バリエータ20の変速比よりも大きい値に設定する構成とした。
これにより、ドライバーの駆動力要求に基づいて副変速機構30がダウンシフトする際、ダウンシフト初期の駆動力不足を抑制することができる。
【0069】
(2) 前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の前記バリエータ20の変速比を、前記ダウンシフト前の前記副変速機構30の変速比(2速時目標副変速比)で前記スルー変速比を除算した値に設定する構成とした。
これにより、(1)の効果に加え、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも確実に大きい値に設定することができると共に、容易に算出することができる。
【0070】
(3) 前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の前記バリエータ20の変速比に対して上限規制値αを設ける構成とした。
これにより、(1)又は(2)の効果に加え、エンジン回転数が不要に高くなりすぎることを抑制することができる。
【0071】
(4) 前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した後の前記バリエータ20の変速比を、前記協調変速を行うときに設定される前記バリエータ20の変速比よりも大きい値に設定する構成とした。
これにより、(1)〜(3)のいずれかの効果に加え、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズにおいて、バリエータ20の変速比が「協調変速」実施時の値よりもロー側の値に設定される時間を長く確保することができ、駆動力不足をより確実に抑制することができる。
【0072】
(5) 前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した後に前記ドライバーのアクセル操作が生じたら、前記バリエータ20の変速比を、前記協調変速を行うときに設定される値に戻す構成とした。
これにより、(4)の効果に加え、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことで生じる車両Gの変動を、アクセル操作に伴って目標スルー変速比が変化することで生じる車両G変動に紛れさせることができ、ドライバーへの違和感を低減することができる。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、副変速機構のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した時点で、バリエータの変速比を「協調変速」を行うときに設定される値に戻す例である。
【0074】
図8は、実施例2の変速機コントローラで実行される2→1ダウンシフト時変速制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、
図8に基づき、実施例2の制御装置における実施例1の2→1ダウンシフト時変速制御構成を表す
図8の各ステップについて説明する。
なお、ステップS1〜ステップS5及びステップS10,ステップS11については、実施例1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0075】
実施例2における2→1ダウンシフト時変速制御処理でのステップS7Aでは、
図8に示すように、ステップS6にて、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比の規制処理を実施したら、ステップS3にて開始した副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャ時間が、予め設定した閾値時間以上に達したか否かを判断する。YES(イナーシャ時間≧閾値時間)の場合には、ステップS8Aへ進む。NO(イナーシャ時間<閾値時間)の場合には、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定していてもよいとして、ステップS5へ戻る。
ここで、「閾値時間」は、イナーシャフェーズの完了時点で目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に一致させるために、バリエータ20のアップシフトを開始するタイミングである。バリエータ20を上限変速速度でアップシフトさせて、イナーシャフェーズの完了時点で目標バリエータ変速比が「協調変速」実施時の値に一致するように逆算して求める。
【0076】
ステップS8Aでは、ステップS7Aでのイナーシャ時間≧閾値時間との判断に続き、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に一致するまでのバリエータ20の変速プロフィールに応じた目標バリエータ変速比を生成し、生成した目標バリエータ変速比に応じてバリエータ20を制御してステップS9Aへ進む。
【0077】
ステップS9Aでは、ステップS8Aでの目標バリエータ変速比の生成に続き、目標バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比で目標スルー変速比を除算した値)以下に達したか否かを判断する。YES(目標バリエータ変速比≦目標スルー変速比/目標副変速比)の場合には、目標バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値に一致したとしてエンドへ進む。NO(目標バリエータ変速比>目標スルー変速比/目標副変速比)の場合には、目標バリエータ変速比が、「協調変速」実施時の値に一致しておらず、バリエータ20のアップシフトを継続するとしてステップS8Aに戻る。
【0078】
図9は、実施例2の制御装置において、駆動力要求時に副変速機構をダウンシフトしたときのアクセル開度・エンジントルク・目標スルー変速比・実スルー変速比・目標バリエータ変速比・目標副変速比・車両Gの各特性を示すタイムチャートである。以下、
図9に基づき、実施例2における変速制御作用を説明する。
【0079】
実施例1の変速機4において高速モード(副変速機構30が2速)での走行中、
図9に示す時刻t
21時点でアクセルペダルが踏込操作されると、このアクセル開度の変化に基づいてエンジントルクが上昇する。そして、モード切替要求、すなわち副変速機構30のダウンシフト要求が発生すると共に、Dレシオが第1閾値以上であれば、
図8に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む。これにより、副変速機構30のダウンシフトが開始される一方、目標バリエータ変速比は、2速時目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値に設定され、この設定された目標バリエータ変速比に応じてバリエータ20が変速制御される。
【0080】
このため、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中、バリエータ20の変速比は、「協調変速」実施時の値よりもロー側の値となる。
【0081】
その後、ステップS5→ステップS6へと進み、バリエータ変速比の規制処理が実施され、時刻t
22時点において目標バリエータ変速比が上限規制値αに達すると、目標バリエータは、この上限規制値αに維持される。
【0082】
そして、時刻t
23時点において、時刻t
21時点で開始された副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャ時間が予め設定した閾値時間に達したら、ステップS7A→ステップS8Aと進む。これにより、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値(現在の目標副変速比によって目標スルー変速比を除算した値)に一致させるまでのバリエータ20の変速プロフィールが生成される。そして、目標バリエータ変速比が生成した変速プロフィールに沿うように、バリエータ20の変速制御(アップシフト)を行い、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻していく。
なお、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことで、バリエータ20で得られる駆動力が変化し、車両Gに変動(突き上げショック)が生じる。
【0083】
そして、時刻t
24時点において、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した時点で、目標バリエータ変速比は、「協調変速」実施時の値に一致する。また、この時刻t
24時点で、実スルー変速比も目標スルー変速比に一致することとなる。
この結果、副変速機構30のダウンシフトにおけるトルクフェーズ以降でのバリエータ20のアップシフトの実施を防止し、運転者へ違和感を与えることを抑制できる。
【0084】
すなわち、副変速機構30のダウンシフトがトルクフェーズに移行すれば、ダウンシフト後の駆動力を副変速機構30にて得ることができるため、ドライバーの駆動力要求に応じた駆動力を賄うことができ、駆動力不足を解消することができる。そのため、イナーシャフェーズが完了した時点(トルクフェーズが開始する時点)で目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に一致させることで、不要な駆動力発生を防止することができる。
一方、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に一致させるためには、バリエータ20をアップシフトさせる必要がある。このバリエータ20のアップシフトが、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズの完了時点で完了していなければ、トルクフェーズ中にバリエータ20のアップシフトが行われることになる。そのため、ドライバーが駆動力を要求しているにも拘らず、バリエータ20ではアップシフトが行われて、バリエータ20にて得られる駆動力は低下する。これにより、ドライバーに違和感を与えることになる。
したがって、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了時点でバリエータ20のアップシフトを完了させることで、ドライバーへ違和感を与えることが防止できる。
【0085】
特に、この実施例2のように、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した時点、つまり、イナーシャフェーズの完了と同時に、目標バリエータ変速比が「協調変速」実施時の値に一致させる場合では、バリエータ20の変速比を、「協調変速」実施時の値よりも大きい値(ロー側の値)に設定する時間を最大限確保しつつ、トルクフェーズ以降のバリエータ20のアップシフトを防止することができる。
【0086】
なお、この実施例2では、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中におけるバリエータ変速比の規制処理時に設定される「上限規制値α」を、イナーシャフェーズ完了時点で、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことができる値に設定してもよい。ここで、目標バリエータ変速比は、「協調変速」実施時の値よりも大きな値に設定するほど、つまりロー側の値に設定するほど、「協調変速」実施時の値と離間していく。これに対し、「上限規制値α」を、イナーシャフェーズ完了時点での目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すことができる値に設定することで、イナーシャフェーズ完了時点で、目標バリエータ変速比が「協調変速」実施時の値を超えることを防止することができる。
【0087】
次に、効果を説明する。
実施例2の無段変速機の制御装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0088】
(6) 前記変速制御手段(変速機コントローラ12)は、前記ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ完了時点で、前記バリエータ20の変速比を、前記協調変速を行うときに設定される値に戻す構成とした。
これにより、バリエータ20の変速比を、「協調変速」実施時の値よりも大きい値(ロー側の値)に設定する時間を最大限確保しつつ、トルクフェーズ以降のバリエータ20のアップシフトを防止して、ドライバーへ違和感を与えることが防止できる。
【0089】
以上、本発明の無段変速機の制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0090】
実施例1及び実施例2では、「Dレシオ」(モード切替要求発生前の到達スルー変速比と、モード切替要求発生後の到達スルー変速比との変速比差)が予め設定した第1閾値以上のときに限り、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定する例を示した。しかしながら、これに限らない。「協調変速」を実施するとドライバーの駆動力要求の発生から所定時間後に得られる加速度が目標加速度を満足できない場合に、本制御(ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定する)を適用すればよい。
【0091】
また、実施例2では、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した時点で目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻す例を示したが、これに限らない。例えば、イナーシャフェーズが完了するまでの間、つまりイナーシャフェーズ中に、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に一致させてもよい。
この場合であっても、副変速機構30のダウンシフトにおけるトルクフェーズ以降でのバリエータ20のアップシフトの実施を防止し、運転者へ違和感を与えることを抑制できる。
【0092】
また、実施例1では、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズが完了した後も、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定し続ける際、目標バリエータ変速比を上限規制値に設定する例を示したが、これに限らない。つまり、イナーシャフェーズの完了後の目標バリエータ変速比を、「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定すれば、イナーシャフェーズにおいて、バリエータ20の変速比が「協調変速」実施時の値よりもロー側の値に設定される時間を長く確保することができ、駆動力不足をより確実に抑制することができる。そのため、イナーシャフェーズ完了後に目標バリエータ変速比を上限規制値よりも減少させ、「協調変速」実施時の値よりも例えば300rpm分大きい(ロー側に設定された)値等としてもよい。
【0093】
また、ドライバーの要求駆動力が著しく大きい場合に限り、イナーシャフェーズ完了後にも目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定し、ドライバーの要求駆動力が中程度であれば、イナーシャフェーズ完了前又は完了時点で、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すようにしてもよい。
このように、目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値に戻すタイミングをドライバーの要求駆動力の大きさに応じて決めることで、ドライバーの要求駆動力と実際に車両に伝達される駆動力との乖離を抑制することができ、車両Gがアクセル開度等から求められる要求車両Gと異なっていても、ドライバーへの違和感を緩和することができる。
【0094】
また、実施例1及び実施例2では、バリエータ変速比の規制処理を実施したことで、副変速機構30のダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比を、上限規制値αに維持する例を示したが、これに限らない。例えば、イナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比が上限規制値αに達する前にアクセル開度APOから求められた要求車両Gが発生した場合には、目標バリエータ変速比はその時の値に維持される。
なお、「要求車両G」は、ドライバーからの駆動力要求に応じて、駆動力の要求時点(アクセル開度APOの変化時点)から所定時間後の目標車両加速度である。この「所定時間」は、アクセル開度APOの変化速度(アクセルペダルの踏込速さ)が大きいほど短く設定される。
【0095】
そして、実施例1及び実施例2では、副変速機構30として前進2段・後進1段の変速機構を適用した例を示したが、これに限らない。複数の締結要素の締結及び解放によって複数の変速段を切り替えることができる変速機構であればよいので、例えば前進3段であってもよいし、前進4段であってもよい。この場合では、2→1ダウンシフト時に限らず、3→2ダウンシフト時や4→3ダウンシフト時においても、本制御(ダウンシフトにおけるイナーシャフェーズ中の目標バリエータ変速比を「協調変速」実施時の値よりも大きい値に設定する)を適用することができる。