【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
実施例1:SH基を有するポリスチレン(PSt−SH)の合成
【0019】
【化3】
【0020】
スチレン(5ml)のシクロヘキサン溶液50mlにs−BuLi(1.52ml)を加え−40℃で1時間撹拌して化合物(1)を得た。この溶液中にチイラン(1.52mmol)を加えてさらに40℃で1時間撹拌し、塩酸酸性エタノールを加えることで目的とするSH基を有するポリスチレン(PSt−SH)を得た。PSt−SHが得られたことは
1H−NMRで確認した。また、PSt−SHの数平均分子量(Mn)は3000であった。
【0021】
同様にして、数平均分子量が5000のPSt−SHを得た。数平均分子量は、高速GPCシステム(東ソー社製、(HLC−8220GPCシステム))により、ポリメチルメタクリレートを標準物質として用いて測定した。
実施例2及び比較例1,2:銅材料の調製
・SAM作製方法
まず、耐水研磨紙を#1000、#2000、#4000、#8000の順に用いて銅基板表面を研磨後、トルエン・メタノールに浸漬させて超音波洗浄を各5分間行った。次に、銅基板表面に形成されている酸化銅を取り除くため、7%塩酸酸性エタノール溶液に5分間浸漬させた。その後、溶液を取り除き、蒸留エタノールで銅基板を3回洗浄した。この銅基板を1.0μmol/L オクタンチオールのエタノール溶液(比較例1)、1.0μmol/L 1−ドデカンチオールのエタノール溶液(比較例2)、または5.0 mmol/L PSt−SHのTHF溶液に窒素雰囲気下で35℃の定温対流乾燥器にて20時間浸漬させることでSAMの形成を行った(
図1)。所定時間経過後、エタノールまたはTHFで3回洗浄を行い、真空ポンプによって銅基板をよく乾燥させた。乾燥後の銅基板は窒素雰囲気下で保存した。なお、研磨以降の操作は窒素雰囲気下で行い、使用した溶液は溶存酸素を除去するため、全てN2バブリングを20分間(流量:200mL/min)行ったものを用いた。
これらの銅基板表面についてXPS測定、CV測定、水接触角測定、LSV測定によりSAM形成した銅基板の評価を行った。
【0022】
まず未処理の銅基板およびSAM形成した各銅基板についてXPS測定を行った。SAM形成した銅基板において、アルキル鎖由来のCのピーク上昇とチオール基由来のSのピーク出現を確認した(
図2)。このことからSAMが形成されていることを確認した。
CV法での電解質溶液には0.1M NaOH水溶液を用い、作用電極に各銅基板を、参照電極にAg/AgCl電極を、対電極にPt電極を用いて窒素流入下でCV法を行った。
【0023】
まずSAM形成直後の銅基板に関してCV法を行い、未修飾部分を電気的に酸化させた。この酸化に要した電荷量と未処理のものとの電荷量より(
図3)、各チオールの被覆率を算出したところ、1−ドデカンチオール
(比較例2)が約95%、1−オクタンチオール
(比較例1)が約60%、末端チオールポリスチレンが約30%となった。末端チオールポリスチレンを用いた場合、チオールのテール鎖が非常に大きいためSAM形成時に立体障害が生じ、低い被覆率にとどまったと考えられる。SAMにより表面修飾した銅基板を大気中、種々の温度で一時間加熱酸化した。その後CV法により還元に要した電荷量(
図4)を算出し、酸化耐性および耐熱性を評価した。35℃または90℃で加熱した場合、未修飾の銅は大きく酸化されたのに対して、SAMを形成した銅はいずれもほとんど酸化されていないことが分かった。この結果から、SAMによる表面修飾は銅の酸化抑制に対して非常に有効であることが明らかとなった。一方で、110℃より高い温度で加熱した場合、還元に必要な電荷量が最小となる銅基板は、末端チオールポリスチレンのSAM形成したものであることが明らかとなった。これは、末端チオールポリスチレンのSAMが低被覆率であるにも関わらず、加熱による耐熱性および酸化耐性が優れていることが明らかとなった。
【0024】
実施例3
及び比較例3
1−ドデカンチオール
(比較例3)及びPSt−SH
(実施例3)(Mn:3000、5000)を用いたSAM形成を行った銅基板についてXPS測定を行った。その結果、いずれの試料も酸化銅由来のO
1sのピーク(531eV)が消失し、チオール基由来のS
2pのピーク(163, 164eV)およびアルキル基由来のC
1sのピーク(285eV)が出現した(
図5)。また、AFM観察を行った結果、末端チオールPSt(3000)のSAM形成を行ったものについて表面にSAMに由来する凹凸が見られた(
図6)。これらの結果から銅板表面にSAMが形成されていることが強く示唆された。
また、未処理の銅基板、1−ドデカンチオールSAM形成銅基板およびPSt−SH(3000)SAM形成を行った銅基板について一時間加熱(90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃)を行い、XPS測定を行ったところ、1−ドデカンチオール処理のものは130℃の加熱でS
2pのピークが消失したことから、130℃付近でSAMは脱着したと考えられる。PSt−SH処理を行った基板では、120℃で加熱してもS
2pのピークは消失していないことから、表面のSAMは脱着していないと考えられる。また、加熱後のサンプルにおいてPSt−SHで処理したものは、1−ドデカンチオールで処理したものより酸化銅由来のO
1sのピークが小さいことが確認できた。これらのピークから算出された、基板表面におけるチオール基由来のSと酸化銅由来のOの含有率は
図7に示した。このことから、PSt−SHを用いたSAMは、1−ドデカンチオールを用いたSAMに比べて、酸化耐性及び熱耐性に優れていることがわかった。
【0025】
さらに、未処理およびPSt−SH(3000)SAM形成銅基板を150℃で一時間加熱を行ったものについて、Arスパッタリングによる深さ方向における解析を行った(加速電圧500kV DC5)。その結果、未処理銅基板において、64秒間のArスパッタリングを行っても酸化銅由来のO
1sピークは消失しなかったが、PSt−SH(3000)SAM形成を行った銅基板については17秒間スパッタリングを行ったところで酸化銅由来のO
1sのピークが消失している事が確認された。このピークから算出される基板表面における酸化銅由来のOの含有率を
図8に示した。このことから、PSt−SH
(実施例3)を用いたSAMにより深さ方向の酸化を防止できていることが明らかとなった。
実施例4
及び比較例4
未処理の銅、1−ドデカンチオール
(比較例4)及びPst−SH
(実施例4)(分子量3000)で処理した銅基板について、90−150℃で導電性を測定した結果を
図9に示す。
【0026】
図9の結果から本発明の銅材料は、加熱しても導電性は変わらず、酸化耐性、耐熱性に優れていることが明らかになった。