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特許6644461高分子自己組織化膜による銅の酸化防止と導電性向上技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644461
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】高分子自己組織化膜による銅の酸化防止と導電性向上技術
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20200130BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20200130BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20200130BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20200130BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20200130BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20200130BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20200130BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C23C26/00 A
   B22F1/02 B
   H01B1/22 A
   H01B1/22 D
   H01B1/00 M
   B32B15/08 M
   C09J11/00
   C09J9/02
   C09J201/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-172841(P2014-172841)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-47941(P2016-47941A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年7月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物名 高分子学会予稿集63巻1号 第63回高分子学会年次大会 第2137頁 発行日 平成26年5月9日 公開者 高木珠吏、高田知季、池田卓也、足立馨及び塚原安久 2.刊行物名 高分子学会予稿集63巻1号 第63回高分子学会年次大会 第2141頁 発行日 平成26年5月9日 公開者 高田知季、池田卓也、足立馨及び塚原安久 3.刊行物名 第60回高分子研究発表会(神戸)予稿集 第60回高分子研究発表会 第199頁 発行日 平成26年7月24日 公開者 高木珠吏、高田知季、池田卓也、足立馨及び塚原安久 4.刊行物名 第60回高分子研究発表会(神戸)予稿集 第60回高分子研究発表会 第105頁 発行日 平成26年7月24日 公開者 高田知季、池田卓也、足立馨及び塚原安久
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚原 安久
(72)【発明者】
【氏名】足立 馨
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 武志
(72)【発明者】
【氏名】王 克強
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−533880(JP,A)
【文献】 特開2012−214898(JP,A)
【文献】 特開2004−315853(JP,A)
【文献】 特開平11−274602(JP,A)
【文献】 特開2001−152363(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092818(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/006349(WO,A1)
【文献】 特開2006−260951(JP,A)
【文献】 特開平09−152768(JP,A)
【文献】 特開2012−046822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅−S−高分子材料の構造を有する自己組織化単分子膜(SAM)を銅表面に形成してなり、チオール基(SH)を有する高分子材料の数平均分子量が500〜50000であり、前記高分子材料は末端に1つのSH基を有するものである、酸化耐性を有する銅材料。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜(SAM)が、銅材料にSH基を有する高分子材料を適用することで形成されてなる、請求項1に記載の銅材料。
【請求項3】
SH基を有する前記高分子材料が下記式
【化1】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
の構造を有する、請求項2に記載の銅材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の銅材料を含む導電性接着剤。
【請求項5】
銅材料が平均粒径0.1〜100μmの銅微粒子である請求項4に記載の導電性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の酸化防止と導電性向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線板、電子部品等の配線導体を形成する方法として、導電性金属粉末を導電粉体とし、これに樹脂、ガラスフリット等のバインダー及び溶剤を加えてペースト状にした導電性ペーストを塗布又は印刷して形成する方法が一般的に知られている。各種導電性金属粉末のうち、金は極めて高価であるため、高い導電性が要求される分野では銀が、それ以外の分野では銅が導電粉体として用いられている。
【0003】
銅は安価であるが、導電性ペーストを加熱する際、空気及びバインダー中の酸素により銅粒子表面に酸化膜を形成して導電性を悪化させるという問題点がある。
【0004】
特許文献1〜2は、銀コート銅粉を開示しているが、銀コートに多額の費用がかかるため、得られた銀コート銅粉の用途は限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−282935
【特許文献2】特開2012−214898
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、銅の酸化防止と導電性向上技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の銅材料及び導電性接着剤を提供するものである。
項1. 銅−S−高分子材料の構造を有する自己組織化単分子膜(SAM)を銅表面に形成してなる、酸化耐性を有する銅材料。
項2. 前記自己組織化単分子膜(SAM)が、銅材料にSH基を有する高分子材料を適用することで形成されてなる、項1に記載の銅材料。
項3. SH基を有する前記高分子材料が下記式
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、nは2以上の整数を示す。)
の構造を有する、項2に記載の銅材料。
項4. 項1〜3のいずれかに記載の銅材料を含む導電性接着剤。
項5. 銅材料が銅微粒子である項4に記載の導電性接着剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高価な銀を使わず、安価な銅のみを使用して、酸化が抑制され、十分な導電性が保持された銅材料が提供される。本発明では、銅表面の酸化耐性を付加するための方法としてSAMを使用するが、これは銅材料をSH基を有する高分子材料の溶液に浸すだけというシンプルな工法で得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】銅表面にチオール(SH)を介して自己組織化単分子膜が得られることを模式的に示す。
図2】未処理或いは1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール又はPSt−SHで処理された銅のC1s及びS2pのXPS分析の結果を示す。
図3】0.1M NaOH中の各種SAMを有する銅のサイクリックボルタングラム。露出電極面積は1cm2
図4】(A)酸化後の各種SAMを有する銅の電荷。(B)は(A)の拡大図。
図5】未処理或いは1−ドデカンチオール又はPSt−SHで処理された銅表面の光電子スペクトル
図6】未処理或いはPSt−SH(Mn=3000)で処理された銅表面のAFM像を示す。
図7】銅表面の元素(S又はO)含有率を示す。
図8】150℃で熱処理された後の未処理或いはPSt−SH(Mn=3000)で処理された銅表面の深さ方向分析。
図9】未処理或いは1−ドデカンチオール又はPSt−SHで処理された銅の導電性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる銅材料は平板状の銅であってもよいが、銅微粒子であることが好ましい。銅微粒子の平均粒径は0.1〜100μmの範囲が好ましく、0.5〜50μmの範囲がより好ましく、0.5〜30μmの範囲であることがさらに好ましい。銅微粒子の形状については特に制限はなく、球状、楕円体状、平板状、鱗片状などの任意の形状であってもよい。また、銅材料の表面は一般的に酸化物を形成している場合が多いので、酸化物を酸或いは研磨剤(アルミナなど)などで除去した後に、自己組織化単分子膜を形成するのが望ましい。
【0013】
自己組織化単分子膜は、チオール基(SH)を有する高分子材料から構成される。高分子材料は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられ、ポリスチレン又はその共重合体が好ましく挙げられ、ポリスチレンが最も好ましい。ポリスチレンへのSH基の導入は、例えば下記の反応式に従い調製できる
【0014】
【化2】
【0015】
上記のスキームは単なる例示であり、ポリスチレン以外のポリマーについても常法に従い1つのSH基を導入することができる。
【0016】
チオール基(SH)を有する高分子材料の数平均分子量(Mn)は、500〜50000程度、好ましくは800〜30000程度、より好ましくは1500〜20000程度、さらに好ましくは2000〜10000程度、最も好ましくは2500〜5000程度である。
【0017】
銅材料とチオール基(SH)を有する高分子材料を適切な溶媒中で接触させることにより、銅と高分子材料がチオール基を介して結合して、銅−S−高分子材料の構造を有する自己組織化単分子膜を形成する。接触時間は10分〜24時間程度であり、温度は、0〜100℃、好ましくは室温程度である。銅材料とチオール基(SH)を有する高分子材料は静置してもよく、撹拌してもよい。チオール基(SH)を有する高分子材料は過剰量用いられて、銅材料表面に密に高分子材料が集積した自己組織化単分子膜が形成されるようにする。図1に模式的に示すように、本発明で銅材料表面に形成される自己組織化単分子膜は銅の表面を密に覆うので酸素分子が銅表面に接近することができなくなるため、銅表面の酸化が抑制される。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
実施例1:SH基を有するポリスチレン(PSt−SH)の合成
【0019】
【化3】
【0020】
スチレン(5ml)のシクロヘキサン溶液50mlにs−BuLi(1.52ml)を加え−40℃で1時間撹拌して化合物(1)を得た。この溶液中にチイラン(1.52mmol)を加えてさらに40℃で1時間撹拌し、塩酸酸性エタノールを加えることで目的とするSH基を有するポリスチレン(PSt−SH)を得た。PSt−SHが得られたことは1H−NMRで確認した。また、PSt−SHの数平均分子量(Mn)は3000であった。
【0021】
同様にして、数平均分子量が5000のPSt−SHを得た。数平均分子量は、高速GPCシステム(東ソー社製、(HLC−8220GPCシステム))により、ポリメチルメタクリレートを標準物質として用いて測定した。

実施例2及び比較例1,2:銅材料の調製
・SAM作製方法
まず、耐水研磨紙を#1000、#2000、#4000、#8000の順に用いて銅基板表面を研磨後、トルエン・メタノールに浸漬させて超音波洗浄を各5分間行った。次に、銅基板表面に形成されている酸化銅を取り除くため、7%塩酸酸性エタノール溶液に5分間浸漬させた。その後、溶液を取り除き、蒸留エタノールで銅基板を3回洗浄した。この銅基板を1.0μmol/L オクタンチオールのエタノール溶液(比較例1)、1.0μmol/L 1−ドデカンチオールのエタノール溶液(比較例2)、または5.0 mmol/L PSt−SHのTHF溶液に窒素雰囲気下で35℃の定温対流乾燥器にて20時間浸漬させることでSAMの形成を行った(図1)。所定時間経過後、エタノールまたはTHFで3回洗浄を行い、真空ポンプによって銅基板をよく乾燥させた。乾燥後の銅基板は窒素雰囲気下で保存した。なお、研磨以降の操作は窒素雰囲気下で行い、使用した溶液は溶存酸素を除去するため、全てN2バブリングを20分間(流量:200mL/min)行ったものを用いた。
これらの銅基板表面についてXPS測定、CV測定、水接触角測定、LSV測定によりSAM形成した銅基板の評価を行った。
【0022】
まず未処理の銅基板およびSAM形成した各銅基板についてXPS測定を行った。SAM形成した銅基板において、アルキル鎖由来のCのピーク上昇とチオール基由来のSのピーク出現を確認した(図2)。このことからSAMが形成されていることを確認した。
CV法での電解質溶液には0.1M NaOH水溶液を用い、作用電極に各銅基板を、参照電極にAg/AgCl電極を、対電極にPt電極を用いて窒素流入下でCV法を行った。
【0023】
まずSAM形成直後の銅基板に関してCV法を行い、未修飾部分を電気的に酸化させた。この酸化に要した電荷量と未処理のものとの電荷量より(図3)、各チオールの被覆率を算出したところ、1−ドデカンチオール(比較例2)が約95%、1−オクタンチオール(比較例1)が約60%、末端チオールポリスチレンが約30%となった。末端チオールポリスチレンを用いた場合、チオールのテール鎖が非常に大きいためSAM形成時に立体障害が生じ、低い被覆率にとどまったと考えられる。SAMにより表面修飾した銅基板を大気中、種々の温度で一時間加熱酸化した。その後CV法により還元に要した電荷量(図4)を算出し、酸化耐性および耐熱性を評価した。35℃または90℃で加熱した場合、未修飾の銅は大きく酸化されたのに対して、SAMを形成した銅はいずれもほとんど酸化されていないことが分かった。この結果から、SAMによる表面修飾は銅の酸化抑制に対して非常に有効であることが明らかとなった。一方で、110℃より高い温度で加熱した場合、還元に必要な電荷量が最小となる銅基板は、末端チオールポリスチレンのSAM形成したものであることが明らかとなった。これは、末端チオールポリスチレンのSAMが低被覆率であるにも関わらず、加熱による耐熱性および酸化耐性が優れていることが明らかとなった。
【0024】
実施例3及び比較例3
1−ドデカンチオール(比較例3)及びPSt−SH(実施例3)(Mn:3000、5000)を用いたSAM形成を行った銅基板についてXPS測定を行った。その結果、いずれの試料も酸化銅由来のO1sのピーク(531eV)が消失し、チオール基由来のS2pのピーク(163, 164eV)およびアルキル基由来のC1sのピーク(285eV)が出現した(図5)。また、AFM観察を行った結果、末端チオールPSt(3000)のSAM形成を行ったものについて表面にSAMに由来する凹凸が見られた(図6)。これらの結果から銅板表面にSAMが形成されていることが強く示唆された。
また、未処理の銅基板、1−ドデカンチオールSAM形成銅基板およびPSt−SH(3000)SAM形成を行った銅基板について一時間加熱(90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃)を行い、XPS測定を行ったところ、1−ドデカンチオール処理のものは130℃の加熱でS2pのピークが消失したことから、130℃付近でSAMは脱着したと考えられる。PSt−SH処理を行った基板では、120℃で加熱してもS2pのピークは消失していないことから、表面のSAMは脱着していないと考えられる。また、加熱後のサンプルにおいてPSt−SHで処理したものは、1−ドデカンチオールで処理したものより酸化銅由来のO1sのピークが小さいことが確認できた。これらのピークから算出された、基板表面におけるチオール基由来のSと酸化銅由来のOの含有率は図7に示した。このことから、PSt−SHを用いたSAMは、1−ドデカンチオールを用いたSAMに比べて、酸化耐性及び熱耐性に優れていることがわかった。
【0025】
さらに、未処理およびPSt−SH(3000)SAM形成銅基板を150℃で一時間加熱を行ったものについて、Arスパッタリングによる深さ方向における解析を行った(加速電圧500kV DC5)。その結果、未処理銅基板において、64秒間のArスパッタリングを行っても酸化銅由来のO1sピークは消失しなかったが、PSt−SH(3000)SAM形成を行った銅基板については17秒間スパッタリングを行ったところで酸化銅由来のO1sのピークが消失している事が確認された。このピークから算出される基板表面における酸化銅由来のOの含有率を図8に示した。このことから、PSt−SH(実施例3)を用いたSAMにより深さ方向の酸化を防止できていることが明らかとなった。
実施例4及び比較例4
未処理の銅、1−ドデカンチオール(比較例4)及びPst−SH(実施例4)(分子量3000)で処理した銅基板について、90−150℃で導電性を測定した結果を図9に示す。
【0026】
図9の結果から本発明の銅材料は、加熱しても導電性は変わらず、酸化耐性、耐熱性に優れていることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9