特許第6644479号(P6644479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644479がん治療のための併用療法としてのエリブリンとS−1(もしくは5−FU)の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644479
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】がん治療のための併用療法としてのエリブリンとS−1(もしくは5−FU)の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/513 20060101AFI20200130BHJP
   A61K 31/357 20060101ALI20200130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   A61K31/513
   A61K31/357
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61P43/00 123
【請求項の数】26
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-104236(P2015-104236)
(22)【出願日】2015年5月22日
(65)【公開番号】特開2016-8215(P2016-8215A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2018年5月22日
(31)【優先権主張番号】62/016,241
(32)【優先日】2014年6月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】西尾 和人
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 雅人
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和子
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/087230(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/137433(WO,A1)
【文献】 北関東医学,2014年 5月 1日,Vol.64, No.2,p.223-231
【文献】 British Journal of Cancer,2014年 2月25日,Vol.110,p.1497-1505
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんが進行するリスクを持つ対象を治療する際に使用するキットであって、キットが(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩、ならびに(ii)S−1もしくは5−FUを含む、対象へと投与するためのキット
【請求項2】
前記対象がヒトの患者である、請求項1に記載のキット
【請求項3】
前記対象ががんと診断されているか、がんの治療中であるか、またはがんの治療後の回復期にある、請求項1もしくは2に記載のキット
【請求項4】
前記がんが原発腫瘍である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のキット
【請求項5】
前記がんが転移したものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のキット
【請求項6】
前記がんが固形腫瘍である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のキット
【請求項7】
前記がんが、乳がん、肺がん、卵巣がん、子宮内膜がん、胃がん、直腸がん、頭頸部がん、および膵がんからなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のキット
【請求項8】
前記がんが乳がんである、請求項7に記載のキット
【請求項9】
前記乳がんがトリプルネガティブ乳がんである、請求項8に記載のキット
【請求項10】
前記がんがEMT陽性がんである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のキット
【請求項11】
エリブリンの医薬的に許容可能な塩がエリブリンメシラートである、請求項1〜10のいずれか一項に記載のキット
【請求項12】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩が、静脈内注入によって投与される、請求項1〜11のいずれか一項に記載のキット
【請求項13】
前記静脈内注入が約1〜約20分間である、請求項12に記載のキット
【請求項14】
前記静脈内注入が約2〜約5分間である、請求項13に記載のキット
【請求項15】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩が、約0.1mg/m〜約20mg/mの範囲の量で投与される、請求項1〜14のいずれか一項に記載のキット
【請求項16】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩が、約1.1mg/m〜約1.4mg/mの範囲の量で投与される、請求項15に記載のキット
【請求項17】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩が、21日のサイクルの1日目と8日目のそれぞれにおいて1回投与される、請求項1〜16のいずれか一項に記載のキット
【請求項18】
前記S−1が経口投与される、請求項1〜17のいずれか一項に記載のキット
【請求項19】
前記S−1が約5〜80mg/mの範囲の量で投与される、請求項18に記載のキット
【請求項20】
前記S−1が約25mg/mの量で投与される請求項19に記載のキット
【請求項21】
前記S−1が、21日間、1日に2回投与される、請求項1〜20のいずれか一項に記載のキット
【請求項22】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩、ならびに前記S−1もしくは5−FUが、実質的に同時に、もしくは連続的に投与される、請求項1〜21のいずれか一項に記載のキット
【請求項23】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩が前記S−1もしくは5−FUより前に投与される、請求項22に記載のキット
【請求項24】
前記エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩、ならびにS−1もしくは5−FUが単一の抗がん剤として投与される、請求項1〜23のいずれか一項に記載のキット
【請求項25】
前記治療が、(i)がん細胞の数を減らし、(ii)腫瘍体積を減らし、(iii)腫瘍縮小率を増加させ、(iv)末梢器官へのがん細胞浸潤を減らすかもしくは遅らせ、(v)腫瘍転移を減らすかもしくは遅らせ、(vi)腫瘍増殖を減らすかもしくは妨げ、(vii)がんの発生および/もしくはがんの再発を妨げるかもしくは遅らせ、ならびに/または無病生存時間もしくは腫瘍のない生存期間を延長させ、(viii)全体の生存期間を増加させ、(ix)治療の頻度を減らし、ならびに/または(x)がんに関連した一つもしくはそれ以上の病状を緩和する、請求項1〜2のいずれか一項に記載のキット
【請求項26】
前記(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩、ならびに(ii)S−1もしくは5−FUが剤形とされている、請求項1〜25のいずれか一項に記載のキット
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
がんは、特定の型の細胞による制御されない増殖によってそれぞれが特徴付けられるような、広範囲の疾患を記載するために使用される用語である。それは、そのような細胞を含む組織において始まり、そして診断時にがんが追加の組織のいずれに対しても拡散していない場合、例えば、外科手術、放射線治療、もしくは他の型の局所治療によって治療できる可能性がある。しかしながら、がんがその元の組織から転移したという証拠があるとき、治療のための異なるアプローチが典型的に適用される。実際、転移の度合いを確実性をもって決定するのが不可能であるため、いずれかの転移の証拠を検出した場合には、通常、治療に対する全身的なアプローチが企てられる。これらのアプローチは、がん細胞のような急速に分裂する細胞の増殖を阻害するような、化学療法薬の投与を含み得る。他のアプローチは、患者におけるがん性細胞に対する免疫反応が誘発されるか、または強化されるような、免疫療法の使用を含む。
【0002】
ハリコンドリンBは、最初にカイメンHalichondria okadaiより単離され、続けてAxinella sp.、Phakellia carteri、およびLissodendoryx sp.において見出された構造的に複雑な大環状化合物である。ハリコンドリンBの完全な合成は1992年に刊行された(Aicherらによる、J.Am.Chem.Soc.114:3162〜3164、1992年)。ハリコンドリンBは、インビトロ(in vitro)において、チューブリンの重合化、微小管重合、ベータ−チューブリンの架橋結合、GTPとビンブラスチンとのチューブリンへの結合、およびチューブリン依存性のGTP加水分解を阻害することが見出された。この分子はまた、インビトロ(in vitro)とインビボ(in vivo)において、抗がんの性質を持つことが示された。抗がん活性を持つハリコンドリンB類似体は米国特許6,214,865B1に記載される。
【0003】
エリブリンはハリコンドリンBの合成類似化合物である。エリブリンはまた、ER−086526としても知られ、CAS番号253128−41−5と米国国立がん研究所の識別番号NSC−707389とが割り当てられている。エリブリンのメシル酸塩(エリブリンメシラート。ハラヴェン(HALAVEN)(登録商標)の商品名により市販され、E7389としてもまた知られている)は、アジュバントの環境もしくは転移性の環境のいずれかにおけるアントラサイクリンおよびタキサンを含む必要がある、転移性疾患治療のための少なくとも2種類の化学療法投与計画を以前は受けていたような転移性乳がんの患者に対する治療について、2010年11月にFDAによる認可を受けた。
【0004】
エリブリンメシラートの化学名は、11,15:18,21:24,28−トリエポキシ−7,9−エタノ−12,15−メタノ−9H,15H−フロ[3,2−i]フロ[2’,3’:5,6]ピラノ[4,3−b][1,4]ジオキサシクロペンタコシン−5(4H)−オン,2−[(2S)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロピル]ヘキサコサヒドロ−3−メトキシ−26−メチル−20,27−ビス(メチレン)−,(2R,3R,3aS,7R,8aS,9S,10aR,11S,12R,13aR,13bS,15S,18S,21S,24S,26R,28R,29aS)−メタンスルホナート(塩)であり、以下のように描写し得る。
【化1】
【0005】
S−1(日本国東京の大鵬薬品工業株式会社)は、1−(2−テトラヒドロフリル)−5−フルオロウラシル(テガフール、5−フルオロウラシル[5−FU]のプロドラッグ)からなる経口薬であるフルオロピリミジン誘導体であり、5−クロロ−2,4−ジヒドロキシピリミジン(ギメラシル)とオキソン酸カリウム(オテラシル)(Shirasakaら、Anticancer Drugs,1996年、7(5)548〜557ページ)との2つの5−FU活性の調整剤と混合されている。S−1は、アジアとヨーロッパの多くの国において、胃がんの治療のためとして承認され(Satohら、Expert Opin Pharmacother、2012年、13(13)1943〜1959ページ)、日本においては、いくつかの他のがんの治療のためとして承認されている(Shirakata、Jpn J Clin Oncol、2009年、39(1)2〜15ページ)。フェーズII臨床試験において、S−1単剤療法は、転移性乳がんにおける耐性を持った毒性に対し高い有効性を示した(Saekら、Breast Cancer、2004年、11(2)194〜202ページ)。さらに、日本乳がん学会の年次総会(2012年)において、S−1による12ヶ月の追加の治療が、アントラサイクリンおよびタキサンによってあらかじめ治療されていたトリプルネガティブ乳がん(Triple Negative Breast Cancer:TNBC)の患者に対して、許容され得ることが報告された。S−1の成分の構造は、以下に示される。
【化2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エリブリンメシラートとS−1との併用が改善された(例えば相加的であるものや相乗的であるような)抗がん効果を示すという観察に基づく。それゆえ、本発明は、エリブリン(例えばエリブリンメシラート)とS−1(もしくは5−フルオロウラシル;5−FU)の併用によってがんを予防する方法およびがんを治療する方法によって特徴付けられる。用語「エリブリン」が本明細書において使用されるとき、文脈が他を示さない限り、エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩を指すものとして考えられるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、がんを持つか、またはがん進展のリスクのある対象(例えばヒトの患者)を治療する方法を提供する。該方法は、対象に、(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)を投与すること、ならびに(ii)S−1もしくは5−FUを投与することを含む。
【0008】
対象はがんと診断されていてもよいし、がんの治療中であってもよいし、またがんの治療後の回復時であってもよい。がんは、任意選択で、原発腫瘍、転移、および/もしくは固形腫瘍であってよい。
【0009】
がんは、例えば乳がん(例えばトリプルネガティブ乳がん)、肺がん、卵巣がん、子宮内膜がん、胃がん、直腸がん、頭頸部がん、もしくは膵がんであってよく、任意選択でEMT−陽性がんであってもよい。
【0010】
エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)は、静脈内注入(例えば約2分間〜約5分間のような約1分間〜約20分間)によって投与されてもよく、および/もしくは約0.1mg/m〜約20mg/m(例えば1.1mg/mもしくは1.4mg/m)の範囲の量で投与されてもく、任意選択で21日のサイクルの第1日目と第8日目のそれぞれの日に一度だけであってよい。
【0011】
S−1は、経口投与されてもよく、例えば約5〜80mg/mの範囲の量(例えば約25mg/m)であってよく、任意選択で21日間に毎日2回であってよい。
【0012】
ある例において、エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)は、ならびにS−1(もしくは5−FU)は、実質的に同時に投与されるか、または連続的に投与され、他の例において、エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)は、S−1(もしくは5−FU)の投与前に投与されてもよい。
【0013】
さまざまな例において、エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)、およびS−1(もしくは5−FU)は、単一の抗がん剤として投与される。
【0014】
本発明の方法による治療は、(i)がん細胞の数を減らし、(ii)腫瘍体積を減らし、(iii)腫瘍縮小率を増加させ、(iv)末梢器官へのがん細胞浸潤を減らすかもしくは遅らせ、(v)腫瘍転移を減らすかもしくは遅らせ、(vi)腫瘍増殖を減らすかもしくは妨げ、(vii)がんの発生および/もしくはがんの再発を妨げるかもしくは遅らせ、ならびに/または無病生存時間もしくは腫瘍のない生存期間を延長させ、(viii)全体の生存期間を増加させ、(ix)治療の頻度を減らし、ならびに/または(x)がんに関連した一つもしくはそれ以上の病状を緩和する。
【0015】
本発明はまた、対象(例えばヒトの患者)中の腫瘍(例えば本明細書中に列挙されるがん種を参照)のサイズを減少するための方法を含む。これらの方法は、対象に、(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)を投与することならびに(ii)S−1もしくは5−FUを投与することを含む。これらの方法は、例えば、本明細書に記載される、薬剤の量および/もしくは投与計画の任意のものを使用して実施できる。
【0016】
本発明はまた、がん治療において使用するかもしくは腫瘍(例えば本明細書中に列挙されるがん種を参照)のサイズを減らすのに使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、任意選択で剤形である、(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)、ならびに(ii)S−1もしくは5−FUを含む。
【0017】
本発明の方法は、改善されたがんに対する効果を提供する。例えば、本明細書に記載される併用治療法は、例えば、当業者によって決定されるように、その効果が、個別に投与された薬剤の効果の合計よりも大きいような効果であるような相乗効果を得るのに利用できる。相加効果もまた有利である。
【0018】
本発明の他の特徴および利点もまた、以下の詳細な記載、図、および請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A図1Aは、5−FUとエリブリンとの併用による4つのTNBC細胞株への効果を示す。図1Aは、TNBC細胞株に対する、5−FUとエリブリンとの併用による72時間の曝露のあとの増殖阻害効果を示す一連のグラフである。
図1B図1Bは、5−FUとエリブリンとの併用による4つのTNBC細胞株への効果を示す。図1Bは、正規化されたアイソボログラム解析を示す一連のグラフである。対角線は相加効果の直線である。実験の測定点はこの直線より下部、直線上、もしくは直線より上部に配置される点により表され、それぞれ相乗効果、相加効果、および拮抗作用を示す。直線の下の点および直線の左側の点は、相乗効果を示す。
図2A-2E】図2A〜Eは、TGF−βへの5日間の曝露の後に、TGF−βがMDA−MB−231細胞中にEMTを誘導し、5−FUへの感受性を減らすことを示す。図2Aは、2.5ng/mlのTGF−βへの曝露の後のMDA−MB−231細胞の形態変化を示す一連の画像である。図2Bは、リアルタイムRT−PCRを用いて測定されたE−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチン、およびSnail2のmRNAの発現レベルを示すグラフである。GAPDHは、発現レベルを標準化するのに使用された。データは、3回の独立した実験の平均値±標準偏差を表す。対照に対して*P<0.05であった。図2Cは、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチンおよびSnail2のウェスタンブロット解析を示す。β−アクチンが内部標準として用いられた。図2Dは、E−カドヘリンとビメンチンの免疫蛍光染色を示す。核がDAPI処理により青色で示された。図2Eは、TGF−β曝露されたMDA−MB−231細胞とTGF−β曝露されていないMDA−MB−231細胞とにおける5−FUの細胞増殖阻害曲線を示すグラフである。
図3A-3D】図3A〜3Dは、5−FUが、5日間の曝露の後に、MDA−MB−231細胞にEMTを誘導することを示す。図3Aは、1μM、3μM、もしくは10μMの5−FUへの曝露の後のMDA−MB−231細胞における形態変化を示す一連の画像である。図3Bは、リアルタイムRT−PCRを用いて測定された、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチン、およびSnail2のmRNA発現レベルを示す一連のグラフである。GAPDHが、発現レベルを標準化するために用いられた。示されるデータは3回の独立した実験の平均±SDを表す。対照に対して*P<0.05であった。図3Cは、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチンおよびSnail2のウェスタンブロット解析を示す。β−アクチンが内部標準として用いられた。図3Dは、E−カドヘリンとビメンチンの免疫蛍光染色を示す。核がDAPI処理により青色で示された。
図4A-4D】図4A〜4Dは、エリブリンが、8日間の曝露の後に、MX−1細胞にMETを誘導することを示す。図4Aは、1nM、3nM、もしくは10nMのエリブリンへの曝露の後のMX−1細胞における形態変化を示す一連の画像である。図4Bは、リアルタイムRT−PCRを用いて測定された、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチン、およびSnail2のmRNA発現レベルを示す一連のグラフである。GAPDHが、発現レベルを標準化するために用いられた。示されるデータは3回の独立した実験の平均±SDを表す。対照に対して*P<0.05であった。図4Cは、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチンおよびSnail2のウェスタンブロット解析を示す。β−アクチンが内部標準として用いられた。図4Dは、E−カドヘリン(赤色)とビメンチン(赤色)の免疫蛍光染色を示す。核がDAPI処理により青色で示された。
図5A-5D】図5A〜5Dは、5−FUによってEMT変化が誘導されたMDA−MB−231細胞においてエリブリンがMETを誘導することを示す。図5Aは、5日間の5−FU処理と、さらに3日間のエリブリン処理の後のMDA−MB−231細胞における形態変化を示す一連の画像である。図5Bは、リアルタイムRT−PCRを用いて測定された、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチン、およびSnail2のmRNA発現レベルを示す一連のグラフである。GAPDHが、発現レベルを標準化するために用いられた。示されるデータは3回の独立した実験の平均±SDを表す。対照に対して*P<0.05であった。図5Cは、E−カドヘリン、N−カドヘリン、ビメンチンおよびSnail2のウェスタンブロット解析を示す。β−アクチンが内部標準として用いられた。図5Dは、E−カドヘリン(赤色)とビメンチン(赤色)の免疫蛍光染色を示す。核がDAPI処理により青色で示された。
図6A-6B】図6A〜Bはインビボ(in vivo)の異種移植モデルにおける、S−1とエリブリンとの併用効果を示す。図6Aは、MDA−MB−231細胞の接種の後30日から66日まで描かれた、4群の腫瘍体積を示すグラフである。示されるデータは平均値を表す(バーはSDである)。対照に対して*P<0.05であった。S−1単剤もしくはエリブリン単剤に対して**P<0.05であった。図6Bは、マウスにおける体重減少を示すグラフである。
図6C図6Cはインビボ(in vivo)の異種移植モデルにおける、S−1とエリブリンとの併用効果を示す。図6Cは、マウス腫瘍サンプルを用いたHE染色分析とIHC分析を示す一連の画像である。腫瘍は7日間の処理の後回収され、調製された組織切片はHE染色と抗E−カドヘリン抗体および抗ビメンチン抗体を用いるIHCによって解析された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)ならびにS−1(もしくは5−FU)の投与による、がんの予防およびがんの治療において使用する方法およびキットを提供する。本発明の方法によるエリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩(例えばエリブリンメシラート)ならびにS−1(もしくは5−FU)の投与によるがんの治療は、(i)がん細胞の数を減らし、(ii)腫瘍体積を減らし、(iii)腫瘍縮小率を増加させ、(iv)末梢器官へのがん細胞浸潤を減らすかもしくは遅らせ、(v)腫瘍転移を減らすかもしくは遅らせ、(vi)腫瘍増殖を減らすかもしくは妨げ、(vii)がんの発生および/もしくはがんの再発を妨げるかもしくは遅らせ、ならびに/または無病生存時間もしくは腫瘍のない生存期間を延長させ、(viii)全体の生存期間を増加させ、(ix)治療の頻度を減らし、ならびに/または(x)がんに関連した一つもしくはそれ以上の病状を緩和することができる。
【0021】
医薬組成物、投与量および方法
エリブリンの合成方法は、例えば、米国特許第6,214,865号、米国特許第7,982,060号、米国特許第8,350,067号、および米国特許第8,093,410号に記載され、それらの各々は参照により本明細書に組み入れられる。上述のようにエリブリンメシラートは、市販され、ハラベン(HALAVEN、登録商標)として流通している。S−1(日本国東京の大鵬薬品工業株式会社)は、3つの有効成分:(i)吸収後抗がん性物質5−FUへと転換されるテガフール;(ii)生体による5−FUの分解を防ぐ、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の阻害剤であるギメラシル;ならびに(iii)通常の消化管粘膜において5−FUの活性を減少させる、オロテートホスホリボシルトランスフェラーゼ(OPRT)阻害剤であるオテラシルの組み合わせである。S−1は、アジアおよび欧州においてはTEYSUNO(商標)として流通している。
【0022】
上述のように、本発明において、エリブリンは、任意選択で塩形態として使用することができる。使用される塩については特別な制限はなく、無機酸塩であっても有機酸塩であってもよい。例えば、塩は、メシル酸塩(例えばエリブリンメシラート)、塩酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、縮合リン酸塩(スーパーリン酸塩)、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、アスコルビン酸塩、琥珀酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、パモ酸塩(パモアート)などから選択され得る。さらに、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、およびジエタノールアミンの塩を使用することも許容可能である。
【0023】
エリブリンおよびS−1(もしくは5−FU)を含む医薬組成物は、当技術分野(例えば上述の特許文献を参照できる)に公知の標準的な方法を用いて調製できる。典型的には、本発明において使用されるエリブリンおよびS−1(5−FU)は、別個の医薬組成物中に含まれるが、それらは、任意選択で単一の組成物中に含まれていてもよい。エリブリンおよび5−FUは、典型的には、静脈内投与のための液体の形態で提供されるが、一方でS−1は、典型的には、経口投与のためのカプセルの形態で提供される。
【0024】
本発明において使用される医薬組成物は、例えば、所望の度合いの純度を持つ活性成分を、生理学的に許容可能な希釈剤、担体、賦形剤もしくは安定化剤(例えば、Remingtonの「Pharmaceutical Sciences(第20版)A. Gennaro編集、2000年、ペンシルバニア州フィラデルフィア、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンスを参照)の中で混合するか、または溶解することによって調製できる。許容可能な希釈剤は、リン酸、クエン酸もしくは他の有機酸のような緩衝液、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸などの抗酸化剤、低分子(約10残基未満)ポリペプチド、アルブミン、ゼラチンもしくはイムノグロブリンのようなたんぱく質、ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリシンのようなアミノ酸、単糖類、二糖類もしくは、グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む他の炭水化物、EDTAのようなキレート剤、マンニトールもしくはソルビトールのような糖アルコール、ナトリウムのような塩形成対イオン、ならびに/もしくはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)のような界面活性剤、またはPEGを任意選択で含む、水および生理食塩水を含む。
【0025】
上述の(および他の)製剤は、薬剤の非経口投与に用いることができる。このように、薬剤は静脈内、腫瘍内、腫瘍周縁、動脈内、皮内、膀胱内、眼内、筋肉内、皮内、腹腔内、肺、皮下および経皮の経路を含む経路によって投与できる。例えば、経粘膜、経皮、吸入、膣内、直腸、および経口の投与のような他の経路もまた使用できる。
【0026】
経口投与の形態のための組成物(例えばS−1を含む組成物)の調製において、例えば、水、グリコール、オイル、アルコール、香味剤、保存剤、着色剤のような通常の医薬のための媒体の任意のものを使用できる。さらに、例えば散剤、カプセル剤、および錠剤のような経口固体製剤の場合に、スターチ、砂糖、微結晶性セルロース、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などのような担体もまた使用できる。具体例において、S−1の製剤においての使用のためのカプセル剤は、S−1ラクトース一水和物およびステアリン酸マグネシウムに加えて、ゼラチン、二酸化チタン(E171)、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクを含有するシェルより形成され得る。さらなる例として、S−1は、それぞれ20mgのテガフール、5.8mgのギメラシル、および15.8mgのオテラシル(19.6mgのオテラシル一カリウムとして)、ならびに93.6mgのラクトース一水和物を含む硬カプセル剤へと製剤できる。この例における活性成分のモル比は1:0.4:1である。
【0027】
任意選択で、本発明の製剤は、医薬的に許容可能な保存剤を含む。ある実施態様において、保存剤の濃度は、0.1〜2.0%(典型的にv/v)の範囲である。好適な保存剤は、ベンジルアルコール、フェノール、m−クレゾール、メチルパラベンおよびプロピルパラベンのような医薬の技術分野において公知のものを含む。さらに、エリブリンおよび/もしくはS−1(もしくは5−FU)製剤は、任意選択で塩化ナトリウムのような医薬的に許容可能な塩を、例えば、生理学的な濃度で含み得る。このように、一例において、エリブリン(例えばエリブリンメシラート)は、0.9%塩化ナトリウム注射(USP)中に配合される。
【0028】
本発明の方法によって投与されるエリブリンとS−1(もしくは5−FU)との組成物の投与量は、対象となる疾患の型、送達方法の選択、患者の年齢、性別および体重、症状の重症度、ならびに他の要素に応じて著しく異なり得る。
【0029】
エリブリン(例えばエリブリンメシラート)の毎日の投与量は、例えば0.001mg/m〜約100mg/mの範囲(例えば約0.1mg/m〜50mg/mの範囲、もしくは約0.7mg/m〜約1.5mg/mの範囲、またはこれらの範囲内の任意の単一の量で(例えば1.4mg/mもしくは1.1mg/m))であってよい。エリブリンは、1日に1回、1週に1回、1月に1回、1年に1回で投与できるし、または1日に1回以上、1週に1回以上、1月に1回以上、1年に1回以上のエリブリンが投与されてもよい。例えば、一つの投与プロトコールにおいて、エリブリンは、21日間のサイクルの1日目と8日目のそれぞれにおいて1回投与できる。より詳細には、エリブリン(例えばエリブリンメシラート)の推奨される投与量は、21日間のサイクルの1日目と8日目における、2〜5分間にわたる1.4mg/mの静脈内投与である。軽度の肝障害(チャイルドピューA)の患者におけるエリブリン(例えばエリブリンメシラート)の推奨される投与量は、21日間のサイクルの1日目と8日目における、2〜5分間にわたる1.1mg/mの静脈内投与であり、一方で、中等度の肝障害(チャイルドピューB)の患者におけるエリブリン(例えばエリブリンメシラート)の推奨される投与量は、21日間のサイクルの1日目と8日目における、2〜5分間にわたる0.7mg/mの静脈内投与である。さらに、中等度の腎機能障害(30〜50ml/分のクレアチニンクリアランス)の患者におけるエリブリン(例えばエリブリンメシラート)の推奨される投与量は、21日間のサイクルの1日目と8日目における、2〜5分間にわたる1.1mg/mの静脈内投与である。エリブリン(例えばエリブリンメシラート)のこれらの投与量もしくは他のより少ない投与量は、本発明の方法による併用療法の前後関係において任意選択で使用できる。
【0030】
S−1を、当技術分野における標準的なアプローチと投与計画とに従って投与することができる。S−1は、例えば、単一の投与量で、もしくは分割された投与量で、約5〜80mg/mの範囲で1日当たり1回もしくは2回(例えば10〜50、15〜40、もしくは20〜25mg/mで1日当たり1回もしくは2回)で経口投与され得る。S−1は、1日に1回、1週に1回、1月に1回、1年に1回で投与できるし、または1日に1回以上、1週に1回以上、1月に1回以上、1年に1回以上のS−1が投与されてもよい。例えば、1回の投与プロトコールにおいて、S−1は、エリブリンによる治療(上述を参照)の最中に毎日2回投与でき、そして任意選択で、S−1投与はエリブリン治療計画を超えて継続できる。他の実施態様において、S−1は、2回目および後の投与量が、第1回および先行する投与量と比較して減少するような減少する段階的投与量で投与できる。例えば、S−1は、21日の連続した日のあいだ、1日に2回(例えば朝と夜)、5〜80mg/mの範囲(例えば、10〜50、15〜40もしくは20〜25mg/m)(テガフール含量で表される)で投与され、7日間の残りの日が続く(1回の治療サイクル)。この治療サイクルは4週ごとに繰り返し得る。
【0031】
5−FUを、当技術分野における標準的なアプローチと投与計画とに従って投与することができる。例えば、4日間連続して1日1回12mg/kgであって1日の投与量が800mg超えない範囲で静脈内に投与され得る。毒性が観察されない場合には、毒性が起こらない限り、6日目、8日目、10日目、および12日目に6mg/kgが投与され、5日目、7日目、9日目、11日目には治療が提供されない。治療のサイクルは12日目の終了時に終了する。他の例において、リスクの低い患者、もしくは、十分な栄養状態にない患者は、3日間、6mg/kg/日が投与され得る。毒性が観察されない場合には、毒性が起こらない限り3mg/kgが5日目、7日目および9日目に投与され得る。4日目、6日目、8日目には治療が提供されず、1日の投与量は400mgを超えない。
【0032】
エリブリンとS−1(もしくは5−FU)の組成物は、患者へと実質的に同時に、もしくは連続的にいずれか一方の順番で(例えばS−1(もしくは5−FU)の前にエリブリン投与またはその逆)投与され得る。一例において、エリブリンは、S−1(もしくは5−FU)の投与開始の前(例えば1〜12時間前もしくは1〜3日前)に投与される。化学療法薬を投与するのに使用される多くの計画は、例えば、薬剤(複数の薬剤を含む)の投与の後に、患者が治療による有害な副作用から回復する期間である一定の期間の後(例えば1〜4週間)、同じ治療の反復が続く。それぞれの投与においてエリブリンとS−1(もしくは5−FU)の両方を用いることが望ましく、代替的には、治療のいくつか(もしくは治療のすべて)が、エリブリンのみもしくはS−1(もしくは5−FU)のみを含むことが望ましい。
【0033】
本発明に含まれる治療計画の具体的で非限定的な例として、21日間のサイクルの1日目と8日目にエリブリン(例えば0.01〜5mg/m、例えば1.1mg/mもしくは1.4mg/m)が、1〜20分間にわたる(例えば2〜5分にわたる)静脈内注射によって患者へと投与され、一方で、S−1がこのサイクルの間において1日に2回(例えば、5〜80、10〜50、15〜40、もしくは20〜25mg/mで1日当たり1回もしくは2回)投与される。この治療のコースは、許容され得るものであり、かつ効果的であると当業者によって決定されると、繰り返され得る(例えば、1〜8、2〜6、もしくは4〜5回)。
【0034】
本発明に含まれる治療計画の他の具体的で非限定的な例として、21日間のサイクルの1日目と8日目にエリブリン(例えば0.01〜5mg/m、例えば1.1mg/mもしくは1.4mg/m)が、1〜20分間にわたる(例えば2〜5分にわたる)静脈内注射によって患者へと投与され、一方で、5−FU(12mg/kgもしくは6mg/kg)がこのサイクルの間の1〜4日目もしくは1〜3日目において1日に1回投与され、そして上に示される記載と一致して、6日目、8日目、10日目および12日目または5日目、7日目および9日目において、追加の投与量が投与される。この治療のコースは、許容され得るものであり、かつ効果的であると当業者によって決定されると、繰り返され得る(例えば、1〜8、2〜6、もしくは4〜5回)。
【0035】
上述の量および計画は、当業者によって適切に決定されるように、変化させ得る。併用によって投与される薬剤の量は、一つの特定の薬剤に対する全体の曝露を減ずる一方で、有益な効果(例えば相乗もしくは相加)を維持するために、当業者によって適切に決定されるように、例えば単剤療法において使用される量と比較して減らすことができる。また、治療サイクルの間に、当業者によって決定されるように、必要に応じて投与量の調整が実施され得る。
【0036】
エリブリンとS−1(もしくは5−FU)に加えて、本発明の方法はまた、一つもしくはそれ以上の治療薬の投与を含み得る。これらの薬の中で、免疫調節剤、化学療法剤/抗腫瘍剤、抗菌剤、抗生物質および抗炎症剤が好適である。他の例において、エリブリン(例えばエリブリンメシラート)およびS−1(もしくは5−FU)は、単一の治療薬(例えば単一の抗がん剤)として治療計画において使用できる。このように、本発明の方法は、(i)エリブリンもしくはそれらの医薬的に許容可能な塩、および(ii)S−1(もしくは5−FU)を投与することからなり得る。
【0037】
本発明の方法は、治療のため(例えば進行の遅延もしくは進行の停止を含む)または対象(例えばヒトの患者)におけるがんを予防するため、ならびに/または腫瘍のサイズを減少されるために使用できる。対象は、がんと診断されていてもよく、がんを発症する危険があってもよく、がんの治療中でもよく、または、がんからの回復後の治療中でもよい。さらに、方法を、転移および/もしくは再発を治療するためにもしくは予防するために使用できる。治療は、化学療法単独であってもよいが、腫瘍を除去するかまたは腫瘍のサイズを減ずるための外科手順、放射線治療、免疫治療、および/もしくは除去療法と組み合わせる治療もまた想定される。
【0038】
本発明の方法は、例えば、エストロゲン受容体(ER)、プロゲストロン受容体(PR)、およびHER2/neuの過剰発現もしくはそれらの遺伝子増幅の欠如によって特徴付けられるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)のような乳がんの治療に使用できる。さらに、本発明はまた、上皮間葉転換を示すマーカー(例えば、E−カドヘリン発現の減少および/もしくはN−カドヘリン、ビメンチンおよび/もしくはSnail2の発現の増加、後述を参照)によって特徴付けられるEMT陽性のTNBCの治療に使用できる。本発明の方法によって治療できる他の型の乳がんは、例えば、ER陽性、PR陽性、および/もしくはHER2/neu陽性の乳がんを含む。さらに、本発明の方法によって治療される乳がんは、例えば、転移性乳がんおよび/もしくは炎症性乳がんであってよい。本発明の方法によって治療できる他の型のがんは肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、卵巣がん、子宮内膜がん、および胃がんを含み、それらは転移性であっても局所性であってもよい。さらに、EMTによって薬物耐性であると報告されるがん、ならびにS−1の承認適応症とされるがんは、本発明の方法によって治療され得る。そのようながんの例は、胃がん、直腸がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、および膵臓がんを含む。
【0039】
本発明はまた、エリブリン(例えばエリブリンメシラート)の入った容器とS−1(もしくは5−FU)の入った容器とを含むキットを提供する。そのようなキット中のエリブリン(例えばエリブリンメシラート)およびS−1(もしくは5−FU)は、患者におけるがんを治療するのに十分な量でその必要性に応じて(例えば単一の投与に十分な量、もしくは複数の投与に必要な量)提供され得る。キットは、効果的な量の単一投与のためのエリブリン(例えばエリブリンメシラート)およびS−1(もしくは5−FU)の医薬組成物をそれぞれ含む容器を、複数個含み得る。任意選択で、医薬組成物を投与するために必要な器具および/もしくは機器もまたキット中に含み得る。さらに、キットは、がんを持つ患者をエリブリン(例えばエリブリンメシラート)およびS−1(もしくは5−FU)によって治療するための説明書もしくは投与スケジュールのような追加の構成要素を含み得る。
【0040】
本発明は、以下の例によって示されるが、それらは本発明を限定することを意図するものでは決してない。
【実施例】
【0041】
方法
細胞株
この実験は4つのTNBC細胞株(MDA−MB−231、MDA−MB−468、BT−549およびMX−1)ならびに非TNBC細胞株(MCF−7、T47D)を用いて実施された。これらの細胞は、ATCC(米国メリーランド州ロックビル)もしくはCLS(ドイツ、エッペルハイム)から入手され、10%胎児牛血清(Gibco BRL、米国ニューヨーク州グランドアイランド)を補充したRPMI−1640培地(シグマ−アルドリッチ、米国ミズーリ州セントルイス)中で維持された。細胞は、37℃において5%CO2の湿環境で、3〜4日ごとに継代して培養された。
【0042】
化合物
S−1は、テガフールとギメラシルとオテラシルカリウム(TCl、日本国東京)とを0.5%HPMC中で1:0.4:1のモル比で混合して調製された。インビトロ(in vitro)研究のための5−FUはシグマ−アルドリッチより入手され、エリブリンはエーザイ社より提供された。これらの薬剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解された。
【0043】
インビトロ増殖阻害アッセイ
細胞増殖は、標準的な3−(4,5−ジメチル−チアゾイル−2−イル)2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ、および、既報の方法(Tanakaら、Int J Cancer、2009年、124(5):1072〜1080ページ)を用いて調べられた。要約すると、細胞は、96穴プレートに播種され、化合物に曝露されるまで24時間培養された。細胞は、37℃で72時間、さまざまな濃度の5−FUおよびエリブリンと共にインキュベートされた。実験は三重検定で実施された。
【0044】
インビトロ(in vitro)での5−FUとエリブリンとの併用効果
併用効果を評価するために、正規化されたED50アイソボログラムがMTTアッセイを用いてプロットされた。アイソボログラム解析は、複数の薬剤の効果を分析するためにしばしば用いられる方法である(Steelら、Int J Radiat Oncol Biol Phys、1979年、5(1)、85〜91ページ;Kanoら、Cancer Res、1988年、48(2)、351〜356ページ)。さらに、併用指数(CI)(Chouら、Adv Enzyme Regul、1984年、22、27〜55ページ)がそれぞれの混合比に対して以下の式
【数1】

〔式中、(Da)および(Da)は、a%の薬剤の効果(この実験ではa=50)を達成するために必要な単剤の濃度であり、そして、(D)および(D)は、同じ効果を達成するために併用される5−FUおよびエリブリンの濃度である。〕を用いて計算された。正規化されたアイソボログラムにおいて、対角線は相加効果の直線である。実験の測定点はこの直線より下部、直線上、もしくは直線より上部に配置される点により表され、それぞれ相乗効果、相加効果、および拮抗作用を示す。CI計算式は薬剤の併用の相加効果を決定し、相乗効果は予想される相加効果より大きいと定義され、拮抗効果は予想される相加効果よりも小さいと定義される。1未満、1、および1より大きいCIの値は、それぞれ、相乗効果、相加効果、および拮抗作用を示す。
【0045】
リアルタイム逆転写(RT)PCR
全RNAは、GeneAmp(登録商標)RNA−PCRキット(アプライド・バイオサイエンス、米国カリフォルニア州)を用いてcDNAへと転換された。cDNAは、E−カドヘリン特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(フォワード5’−TTAAACTCCTGGCCTCAAGCAATC−3’およびリバース5’−TCCTATCTTGGGCAAAGCAACTG−3’)、N−カドヘリン特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(フォワード5’−CGAATGGATGAAAAGACCCATCC−3’およびリバース5’−GGAAGCCACTGCCTTCATCGTCAA−3’)、ビメンチン特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(フォワード5’−TGAGTACCGGAGACAGGTGCAG−3’およびリバース5’−TAGCAGCTTCAACGGCAAAGTTC−3’)、およびSnail2特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(フォワード5’−ATGCATATTCGGACCCACACATTAC−3’およびリバース5’−AGATTTGACCTGTCTGCAAATGCTC−3’)を用いるPCR解析に用いられた。PCRは、サーマルサイクラーダイス(日本国大津市、タカラバイオ)を用いて、95℃5分、ならびに95℃5秒と60℃10秒とを50サイクルという条件において実施された。プライマーはシグマ−アルドリッチもしくはタカラバイオより購入され、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(タカラバイオ)と共に使用された。GAPDHは、それぞれのサンプルを標準化して比較するための内部標準として使用された。
【0046】
イムノブロッティング
イムノブロット解析は、既報されるように実施された(Maegawaら、Anticancer Res2009年、29(4)、1111〜1117ページ)。細胞は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄され、1%のTriton X−100、20mMのTris−HCl(pH7.0)、5mMのEDTA、50mMの塩化ナトリウム、10mMのピロリン酸ナトリウム、50mMのフッ化ナトリウム、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム、プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Complete Mini、スイス国バーゼル、ロシュ・ダイアグノスティックス)およびホスファターゼ阻害剤カクテル(シグマ−アルドリッチ)を含むLysis A緩衝液中でインキュベートすることによって溶解された。たんぱく質はSDS−PAGEを用いて分離され、PVDFメンブレン(イモビロン、米国マサチューセッツ州ビレリカ、ミリポア)へと転写された。0.02%Tween 20および5%脱脂乳を含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)によってブロッキングされたのち、メンブレンのストリップは、抗E−カドヘリン抗体、抗N−カドヘリン抗体、抗ビメンチン抗体、もしくは抗Snail2抗体へと曝露された。それらは、HRP結合抗ウサギIgG抗体と共にインキュベートされ、たんぱく質はECLウェスタンブロッティング検出システム(英国バッキンガムシャー、GEヘルスケア)を用いて可視化された。抗体はすべてセルシグナリング(米国マサチューセッツ州ビバリー)より購入された。
【0047】
免疫蛍光染色
細胞の免疫蛍光染色は既報(Tamuraら、Cancer Sci、2010年、101(6)、1403〜1408ページ)に基づいて軽微な変更を加えて実施された。細胞は、6穴プレート中のカバースリップへと播種され、5−FU、エリブリンもしくはTGF−βへと曝露された。曝露の後、細胞はPBSで2回洗浄され、4%のパラホルムアルデヒドで20分間固定された。固定された細胞はPBSで3回洗浄され、続けて1.5%ウシ血清アルブミンとともに1時間インキュベートされた。それらは、抗E−カドヘリン抗体もしくは抗ビメンチン抗体とともに4℃で一晩インキュベートされ、そしてAlexa Fluor546抗ウサギIgG抗体(米国オレゴン州ユージーン、モレキュラープローブズ)とともに30分インキュベートされた。最終的に、細胞はDAPI(6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で処理されて核が染色され、染色された細胞は、蛍光顕微鏡(IX71、日本国東京、オリンパス)を用いて観察された。
【0048】
インビボ(in vivo)増殖阻害アッセイ
メスのBALB/c−nu/nuマウス(5週齢、クレアジャパン)が無菌状態で維持され、滅菌の食料と水とが給餌された。50%マトリゲルを含むPBS中のMDA−MB−231細胞(4×10生存細胞)がそれぞれのマウスに皮下注入された。細胞の接種の後30日後、マウスはランダムに4群(対照、S−1、エリブリンおよびS−1とエリブリン併用、それぞれn=3)に分けられ、処理が開始された。S−1は、1日目と16日目に経口投与され、2.5%DMSOを含む生理食塩水に溶解されたエリブリンは、1、5、9および13日目に静脈内投与された。S−1とエリブリンの投与量は、それぞれ8.3mg/kgと0.1mg/kgであった。腫瘍体積は式[(幅)×長さ」/2(mm)を用いて見積もられた。S−1、エリブリン、ならびにS−1とエリブリンとの併用の抗腫瘍効果を評価するために腫瘍のサイズと体重とが週に2回測定された。抗腫瘍効果は%T/C(処理対対照)〔処理群の腫瘍体積を、対照群の腫瘍体積によって割り、そして100をかける〕で表された。
【0049】
ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色および免疫組織化学(IHC)分析
ホルマリン固定された腫瘍はパラフィン包埋された。HE染色、ならびに抗E−カドヘリン抗体(1:100)および抗ビメンチン抗体(1:100)を用いるIHCにおいて4μmの切片が用いられた。この切片において用いられる方法は、既報されている(Tamuraら、Cancer Med、2013年、2(2)、144〜154ページ)。
【0050】
統計解析
SDを計算するための、ならびにスチューデントのt検定を用いるサンプル間の有意差を試験するための統計解析は、マイクロソフトエクセル(マイクロソフト)を用いて実施された。0.05未満のP値が有意差であるとみなされた。
【0051】
結果
5−FUおよびエリブリンに対するTNBC細胞株の細胞感受性
TNBC細胞株および非NNBC細胞株に対する5−FUおよびエリブリンの増殖阻害効果は、MTTアッセイを用いて調べられた。それらの細胞株に対する5−FUおよびエリブリンのIC50は、それぞれ2.3〜13.0μMおよび0.4〜4.3μMであった。TNBC細胞株と非TNBC細胞株の間の細胞感受性には、MX−1細胞以外では差異がなかった(表1)。MX−1細胞は、他の細胞株と比べて5−FUに対して高い耐性(92.4±3.7μM)を持っていた。
【0052】
【表1】
【0053】
インビトロ(In vitro)でのTNBC細胞株に対する5−FUとエリブリンとの併用効果
5−FUとエリブリンとの潜在的な併用効果を評価するため、正規化されたED50アイソボログラムがプロットされ、CI値がMTTアッセイを用いて測定された。5−FUとエリブリンとの間の相乗的相互作用がTNBC細胞株(MDA−MB−231、MDA−MB−468およびMX−1)において観察された(図1A)。さらにCI値は顕著に1未満であり、すべての調べられた濃度において、イソボログラムは明確に相乗効果を見出した(表2および図1B)。BT−549細胞株において、相加効果が観察された。このように、TNBC細胞株において、5−FUとエリブリンとの併用について、相乗効果と相加効果とを見出した。
【0054】
【表2】
【0055】
EMT変化がMDA−MB−231細胞の5−FUへの感受性を減少させる
我々は、5−FUとエリブリンとの間の相乗相互作用の機構について分析した。いくつかの報告は、樹立された5−FU耐性細胞株がEMT変化を示すことを証明してきた(Tamuraら、Cance Med、2013年、2(2)、144〜154ページ、FoulkesらN Engl J Med、2010年、363(20)、1938〜1948ページ)。我々は、EMTを試験することに着目した。第一に、我々は、MDA−MB−231細胞におけるEMT変化が5−FUへの感受性を減少させ得るかどうかを検証した。MDA−MB−231細胞がTGF−β(2.5ng/ml)へと5日間曝露されると、EMT様の形態変化が観察される(図2A)。E−カドヘリンの減少した発現と、N−カドヘリン、ビメンチンおよびSnail2の増加した発現が、mRNA発現レベルおよびタンパク発現レベルにおいて観察された(図2Bおよび図2C)。免疫蛍光染色は、E−カドヘリンとビメンチンにおけるこれらの変化を確認した(図2D)。図2Eは、これらの条件における、MDA−MB−231細胞の5−FUへの細胞感受性を示す。TGF−βに曝露された細胞は、TGF−β曝露のない細胞(IC50値14.8±1.0μM)と比較して、5−FUに対しておおよそ3倍の耐性を持ち、このときにIC50値は44.7±5.8μMである。これらの結果は、MDA−MB−231細胞におけるEMT変化は、5−FUに対する細胞の感受性を減少させるということを示す。
【0056】
5−FUは上皮間葉転換(EMT)を誘導する
MDA−MB−231細胞が5−FU(1〜10μM)で処理されると、MDA−MB−231細胞が、EMTを起こす細胞の特徴的な性質である細胞の形状の伸長および細胞の拡散を含む、細胞の形態におけるEMT様変化を示すことを観察した(図3A)。リアルタイムRT−PCRおよびウェスタンブロッティングは、5−FUへの5日間の曝露ののち、用量依存的な様式で上皮系マーカー(E−カドヘリン)が減少する一方で、間葉系マーカー(N−カドヘリンおよびビメンチン)ならびにE−カドヘリンの転写を抑制するSnail2の発現レベルが増加することを示している(図3Bおよび3C)。E−カドヘリンの減少した発現とビメンチンの増加した発現は、免疫蛍光染色(図3D)を用いても確認された。これらの結果は、5−FUがMDA−MB−231細胞におけるEMTを直接的に誘導し、そしてEMT変化が5−FUに対する感受性を減少させ得ることを示す。
【0057】
エリブリンが間葉上皮転換(MET)を誘導する
対照的に、間葉系の特徴を示すMX−1細胞は、エリブリン(0.3〜3nM)への8日間の曝露ののち、EMTの逆のプロセスである、敷石状外観およびタイトな細胞−細胞ジャンクションを含むMET形態変化を示した(図4A)。これらの観察と合致して、E−カドヘリンの増加した発現と、N−カドヘリンおよびビメンチンの減少した発現、ならびに関連したSnail2の減少した発現が、用量依存的な様式で検出された(図4Bおよび図4C)。免疫蛍光染色はまた、E−カドヘリンの増加した発現とビメンチンの減少した発現とを確かにした(図4D)。MDA−MB−231細胞において5−FUが誘導したEMT変化をエリブリンが無効化するかどうかを調べるために、細胞が5−FUに5日間あらかじめ曝露され、エリブリンへの曝露がその後に続いた。線維芽細胞様の形態から敷石状外観への形態変化が、4日間のエリブリン(0.3〜3nM)への曝露ののち観察された(図5A)。リアルタイムRT−PCR、ウェスタンブロッティングおよび免疫蛍光染色を用いて検出されるように、E−カドヘリンの増加した発現およびN−カドヘリン、ビメンチン、ならびにSnail2の減少した発現が用量依存的な様式で観察された(図5B〜5D)。このように、5−FUが誘導したMDA−MB−231細胞の表現型もまた、エリブリンによって無効化された。これらの結果は、エリブリンによるMET誘導の作用が、5−FUへの耐性を減少させることを示唆する。
【0058】
MDA−MB−231腫瘍異種移植モデルにおけるS−1とエリブリンとの併用効果
インビボ(in vivo)でのS−1とエリブリンとの併用効果を調べるために、我々はMDA−MB−231腫瘍異種移植モデルにおけるこれらの併用の抗腫瘍活性を調べた。MDA−MB−231腫瘍を持つマウスが準備され、S−1(1〜16日間、経口、8.3mg/kg)、エリブリン(Q4D×4、静脈内投与、0.1mg/kg)、もしくはS−1とエリブリンとの併用によって、治療された。初期治療から36日における4群(すなわち、対照、S−1、エリブリンおよびS−1とエリブリンとの併用)の平均腫瘍体積(mm)は、それぞれ1900±473、1055±197、900±235および199±26であった(図6A、S−1単剤治療対S−1とエリブリンとの併用のP=0.01であり、エリブリン対S−1とエリブリンとの併用のP=0.04である)。S−1単剤もしくはエリブリン単剤は、腫瘍サイズを減少させ(それぞれT/C=55.5%、47.4%)、そしてS−1とエリブリンとの併用はMDA−MB−231異種移植の腫瘍サイズをより激しく減少させた(T/C=10.5%)。S−1もしくはエリブリンによる治療と関連する体重減少は、いずれの群においても観察されなかった(図6B)。さらに、我々は、異種移植モデルを用いて、エリブリンのMET誘導活性を調べた。初期治療の後7日における上述の4群において免疫組織化学分析が実施された。結果として、E−カドヘリンの減少した発現とビメンチンの増加した発現とがS−1の治療の後に観察された。対照的に、E―カドヘリンの増加した発現とビメンチンの減少した発現とがS−1とエリブリンとの併用治療の後に観察された(図6C)。これらの結果は、インビトロ(in vitro)の実験と一致した。
【0059】
結論
TNBCの患者に対しては、ホルモン受容体陽性かつHER2−陽性の乳がんに対して可能であるような標的療法が存在しないため、現在では全身療法のみが可能である。初期治療における化学療法に対する高い奏効率が観察されるが、TNBC患者は、しばしば急速な疾患の進行を発現し、ER−陽性乳がんと比較してより短い全生存期間という結果になる(Foulkesら、N Engl J Med2010年、363(20)、1938〜1948ページ)。TNBCに対する新規の療法および治療様式は必要である。
【0060】
S−1(5−FU)とエリブリンとの併用が、インビトロ(in vitoro)においてTNBC細胞株に対して相乗効果(3/4)もしくは相加効果(1/4)を発揮することを我々は証明した。相乗効果は、腫瘍を持つマウスモデルにおいてもまた証明された。インビボ(in vivo)実験において、我々は、それぞれの薬剤にとっての最適な投与量およびスケジュールによるS−1およびエリブリンの抗腫瘍効果を分析した。併用は許容できるものであり、マウスにおいて、体重減少および下痢を含む顕著な毒性を示さずに注目すべき腫瘍縮小という結果を生じた。我々はまた、5−FUがTNBC細胞において直接的にEMT変化を誘導し、そしてこの5−FUの作用は、獲得した耐性と関連するらしいということを観察し、そしてエリブリンが、TNBC細胞にMET変化を誘導することによって5−FU誘導のEMTを無効化することを観察した。それゆえ、併用療法は、EMT陽性のTNBCのようながんの治療に対し有利に使用できる。
【0061】
他の態様
本発明は、それらの具体的な実施態様と関連して記述されてきたが、更なる変更が可能であり、そして任意の変形を包含するものであり、そして本出願は、一般的に本発明の原理に従い、かつ本発明が関連し、そしてここに示される主要な特徴に適用し得る、当技術分野において既知の実施もしくは慣行的な実施の範囲に入る本開示からの発展を含む、本発明の変形、使用もしくは適用を意図する。
【0062】
本明細書で示されるすべての刊行物および特許刊行物は、それぞれの独立した刊行物もしくは特許刊行物が、そのすべての内容が参照により組み入れられるように具体的かつ個別的に示されるのと同程度に、本明細書に参照により組み入れられる。「a」および「the」のように、本明細書における単数形の使用は、文脈がそうでないと示さない限りは対応する複数形のものを除外しない。同様に、複数形の使用は対応する単数形を示すことを除外しない。他の実施態様は、以下の請求項の範囲内に包含される。
図1A
図1B
図2A-2E】
図3A-3D】
図4A-4D】
図5A-5D】
図6A-6B】
図6C