(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644496
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】耐震用支承装置
(51)【国際特許分類】
E04H 7/18 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
E04H7/18 301Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-163568(P2015-163568)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-40131(P2017-40131A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158769
【氏名又は名称】機動建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 智
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−254045(JP,A)
【文献】
特開昭59−021874(JP,A)
【文献】
特開昭58−082879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18 − 7/20
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートにより構築された環状壁体(2)を有する構造物の前記壁体(2)と床版(1)との間に、その床版(1)に対し壁体(2)を移動可能に支承する耐震用支承装置であって、
上記床版(1)と壁体(2)との間に上記環状周方向に所定の間隔を持って配設した弾性支承体(3)と、前記環状周方向に所定の間隔を持って配設されて壁体(2)と床版(1)との支承部を通過した耐震ケーブル(12)とを有し、その耐震ケーブル(12)は、その一端が前記壁体(2)に上下方向に延びた後に固定されているとともに他端が前記支承部手前からその支承部を通って前記床版(1)に向かい斜めに延びてさらに前記環状の内側に向かって延びた後に床版(1)内に固定されており、その耐震ケーブル(12)の前記斜めに延びた部分にスリーブ(13)が被覆されていることを特徴とする耐震用支承装置。
【請求項2】
上記壁体(2)の下端前面周囲を囲む廻縁(1a)と壁体(2)の間に弾性体(11)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の耐震用支承装置。
【請求項3】
上記床版(1)の内側に延びる耐震ケーブル(12)に加えて、一端が上記壁体(2)に上下方向に延びた後に固定されているとともに他端が上記支承部手前からその支承部を通って床版(1)に向かい斜めに延びてさらに上記環状の周方向に向かって延びた後に床版(1)内に固定された周方向耐震ケーブル(4)を設け、その周方向耐震ケーブル(4)の前記斜めに延びる部分にスリーブ(5)が被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震用支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリートを打設して構築される環状壁体を有する(周囲環状の)構造物、例えば、貯水タンクや建築物等の前記壁体と床版との間に、その床版に対し壁体を移動可能に支承する耐震用支承装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、貯水タンクにおける床版と壁体の耐震用支承装置として
図3、
図4に示すものがある。この支承装置は、床版1と壁体2の間の支承部に所定の間隔をもって配設した弾性支承体3と、壁体2の設置位置に所定の間隔をもって一方を床版1内に固設し他方は支承部を通って壁体2内に固設した一対以上の耐震ケーブル4とを有し、前記一対以上の耐震ケーブル4は支承付近で壁体2軸方向に互いに逆方向となるように斜めに配置され、かつ支承部の耐震ケーブル4を一定長だけ被覆するスリーブ5とにより構成される(特許文献1段落0016、
図2参照)。
【0003】
この耐震用支承装置の弾性支承体3は、地震時の水平力によりせん断変形し、その変形量に基づくせん断抵抗によって、壁体2の振動を減衰させる(特許文献1段落0019、
図3参照)。また、耐震ケーブル4は、水平力及び垂直力に対してスリーブ5部分で伸縮することでそれらの力を吸収する(特許文献1、請求項1、
図1〜
図5参照)。このように、この支承装置は、地震時に発生する大きな水平力を減衰させる弾性支承体の減衰作用と、同水平力や鉛直力を耐震ケーブル4の伸縮により吸収する作用とによって、安全で信頼性のある構造物を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2816818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の耐震用支承装置は、それなりに有効であるが、壁体2の外側又は内側への振動(変形)に対しては、弾性支承体3及び耐震ケーブル4も十分に抗していない。
【0006】
この発明は、以上の実状の下、壁体の内外側(
図4の矢印方向)への振動に対して十分に抗し得る構造とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、この発明は、上記耐震ケーブルを環状壁体の内側に向かって床版に延ばして固定するようにしたのである。
このようにすれば、壁体の内外側への振動に対して、その壁体の内側に向かう耐震ケーブルがスリーブ部分で伸縮することでその振動力を吸収する。
【0008】
この発明の構成としては、コンクリートにより構築された環状壁体を有する構造物の前記壁体と床版との間に、その床版に対し壁体を移動可能に支承する耐震用支承装置において、前記床版と壁体との間に前記環状周方向に所定の間隔を持って配設した弾性支承体と、前記環状周方向に所定の間隔を持って配設
されて壁体と床版との支承部
(界面)を通過した耐震ケーブルとを有し、その耐震ケーブルは、その一端が前記壁体に上下方向に延びた後に固定されているとともに他端が
前記支承部手前からその支承部を通って床版に向かい斜めに延びてさらに前記環状の内側に向かって延びた後に
床版内に固定されており
、耐震ケーブルの
前記斜めに延びる部分にスリーブが被覆されている構成を採用することができる。
【0009】
そのコンクリートを打設して構築される環状壁体を有する構造物には、従来と同様に、貯水タンクや住宅、ビル等の建築物を挙げることができる。上記弾性支承体及び耐震ケーブルの環状周方向の配設間隔は、それらの振動吸収性を考慮して実験などによって適宜に設定する。
【0010】
この構成において、上記壁体の下端周囲を囲む廻縁と壁体の間に弾性体を設けたものとすれば、その弾性体によっても壁体の内外側への振動力に抗するものとすることができる。その弾性体の環状廻縁周方向の配設間隔は、その振動吸収性を考慮して実験などによって適宜に設定する。なお、
図4に示す従来例においても、廻縁と壁体の間に縁切材を介在しているが、その縁切材はスチレンフォームからなって、この発明の弾性体のように振動に対して緩衝作用を行うものではない。
また、上記床版の内側に延びる耐震ケーブルに加えて、一端が上記壁体に上下方向に延びた後に固定されているとともに他端が
支承部手前からその支承部を通って床版に向かい斜めに延びてさらに上記環状の周方向に向かって延びた後に
床版内に固定され
た周方向耐震ケーブルを設け、その
周方向耐震ケーブル
の前記斜めに延びる部分にスリーブが被覆されている構成とすれば、その耐震ケーブルの伸縮によって、従来と同様に、地震時の水平力や鉛直力を吸収して、さらに安全で信頼性のある構造物を得ることができる。
【0011】
上記弾性支承体や弾性体としては、一般に硬質ゴムが用いられ、通常時の壁体や屋根等による荷重の大きさや、地震時の水平力等の大きさに応じて厚さや幅そして長さを適宜に設定する。
耐震ケーブルとしては、比較的強度の大きいPC鋼材が用いられ、地震時の水平力や鉛直力に応じてPC鋼材の径や配置本数が決められる。また、近年開発されている高分子緊張材等を使用すれば、耐錆効果が期待できて有効である。なお、PC鋼材は、プレストレスト・コンクリート(PC)に緊張を与える緊張材のことであり、PC鋼線(直径8mm以下の高強度鋼)、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)、PC鋼より線(PC鋼線をより合わせたもの)などが挙げられる。
【0012】
この発明に係る構造物の壁体の構築方法としては、現地において直接コンクリートを打設する方法を用いても良いが、工場等で所定の幅に壁体を製作したプレキャストパネルを、現地で組み立てて構築する方法を用いれば、品質管理の向上や工期の短縮等が図れる。この場合、耐震ケーブルは各プレキャストパネル間の間詰コンクリート部に設置されることになり、弾性支承体は各プレキャストパネル下に配置する。
【0013】
耐震ケーブルの支承部分(環状内側又は周方向に延びる部分)に設けるスリーブは、水平力や鉛直力等によるエネルギーを吸収するために、耐震ケーブルの所定の長さだけ被覆して、そのスリーブ内において耐震ケーブルが自由に伸縮可能な状態にする。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、以上のように構成して、壁体の外側又は内側への振動に対して、その壁体の内側に向かう耐震ケーブルがスリーブ部分で伸縮することでその振動力を吸収するようにしたので、壁体の内側又は外側への振動力が加わる構造物を、安全で信頼性のあるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る耐震用支承装置の設置状態の一実施形態を示し、(a)は要部概略正面図、(b)は要部切断図
【
図2】同他の実施形態を示し、(a)は概略要部正面図、(b)は要部断面図
【
図3】従来の耐震用支承装置を採用した貯水タンクの概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一実施形態を
図1に示し、この実施形態の支承装置は、
図3に示す貯水タンクPに採用したものである。その
図3において、この貯水タンクPは、基礎地盤の上に栗石を敷均し、その上にコンクリートを打設して床版1が構築され、この床版1の上に円環状の壁体2が構築される。その壁体2の構築後、壁体2の下端外周前面に沿うように廻縁1aをコンクリート打設して形成する。
【0017】
上記壁体2は、工場等で製作されたプレキャストコンクリートパネル2a(以下パネルという)を順次建て込み、その全パネル2aの建て込みが完了すると、各パネル2a間に型枠を組み、間詰コンクリート2bを打設し、その間詰コンクリート2bを介し各パネル2aを一体化して壁体2を構築する。
【0018】
このとき、床版1と間詰コンクリート2bとの間にスチレンフォーム等の縁切材9を介在し、各パネル2aと床版1との間にはラバーパッド(硬質ゴム)等からなる弾性支承体3を介在する。この弾性支承体3は緩衝作用を発揮する限りにおいて、一のパネル2aの幅全長であっても、両端等の所要間隔であっても良い。
また、パネル2a及び間詰コンクリート2bの上下方向所要間隔にその全周に亘ってPC鋼より線8を内装し、そのPC鋼より線8を緊張することによってパネル2a及び間詰コンクリート2bにプレストレスを付与してPCタンク(Pre-stressed Concrete Tank)とする。
【0019】
床版1上の壁体2下端の内周面側に上記縁切材9を介在して水切り部(後打ち部)1bをコンクリート打設する。このとき、水切り部1bと床版1との界面は止水板6で止水する。
なお、床版1、間詰コンクリート2b、水切り部1b、廻縁1a内には、鉄筋7を適宜に設けて配筋する。
【0020】
以上の構成は従来と同様であり、この実施形態は、壁体2の下端周囲を囲む廻縁1aと壁体2(パネル2a)の間に上記ラバーパッド等からなる弾性板11を設けている。この弾性板11の配置は、緩衝作用を発揮する限りにおいて、
図1(a)に示すように、壁体2の全周に亘って連続的に設けたり、その全周に亘って所要間隔に設けたりすることができる。このとき、弾性板11の材質が縁切り作用を有する物である場合は、廻縁1aと壁体2の間の縁切り材を兼ねる。同縁切り作用の無い材質の場合、又は所要間隔に設けた場合の空いている(弾性板11を設けていない)部分には、上記縁切り材9を介在する。なお、床版1と水切り部1bとの界面、廻縁1aと壁体2の界面には、適宜にシリコン系などの充填工を充填する。
【0021】
上記間詰コンクリート2b内から床版1にはPC鋼より線からなる耐震ケーブル12が設けられている。この耐震ケーブル12は、その一端が間詰コンクリート2bに上下方向に延びた後に固定されているとともに他端が床版1にタンク(環状壁体2)の内側(中心)に向かって(タンクの半径方向に)延びた後に固定されており、
すなわち、耐震ケーブル12の他端は、前記支承部手前からその支承部を通って床版1に向かって斜めに延びてさらに環状の内側に向かい延びた後に固定されており、その床版1の内側に延びる
斜めの耐震ケーブル12の一定長さにポリエチレン、ウレタン、ゴム等からなる筒状スリーブ13が被覆されて、その被覆部分において耐震ケーブル12が伸縮可能となっている。耐震ケーブル12の端は、間詰コンクリート2b内及び床版1内の鉄筋7に番線により結束して固定する。
耐震ケーブル12の本数は、2本に限らず、1本、3本以上と任意である。
【0022】
なお、この実施形態の床版1及び壁体2は、各耐震ケーブル12の他端を固定した床版1を構築した後、各耐震ケーブル12の一端間にパネル2aを順次建て込み、その各パネル2a間に型枠を組み、間詰コンクリート2bを打設し、その間詰コンクリート2bを介し各パネル2aを一体化して壁体2を構築する。
【0023】
この実施形態は以上の構成であり、地震が発生すると、壁体2の半径方向(外側方向又は内側方向)等の横揺れ振動に対して、その壁体2の内側に向かう全周囲等間隔位置の耐震ケーブル12がスリーブ13部分で伸縮することでその振動力を吸収する。このため、このPCタンクPを安全で信頼性のあるものとする。
なお、壁体2の頂部は、壁体2上部に変形が生じないように、頂版と一体化させて構築しておくことが必要である。
【0024】
他の実施形態を
図2に示し、この実施形態は、上記実施形態において、従来の地震時の水平力や鉛直力を吸収する
周方向耐震ケーブル4及びスリーブ5を設けたものである。すなわち、
図2に示すように、一対の耐震ケーブル4は支承付近で壁体2の軸方向に互いに逆方向となるように斜めに配置され、かつ支承部の
斜めの耐震ケーブル4を一定長だけ被覆するスリーブ5を設け、その両耐震ケーブル4の間に上記耐震ケーブル12を設けている。その耐震ケーブル4、12の本数は、2本に限らず、1本、3本以上と任意であり、また、その配置も、図示のように、耐震ケーブル4の間に耐震ケーブル12を設けたり、両耐震ケーブル4、12を周方向に交互に設けたり等と任意である。このとき、両耐震ケーブル4,12は交差しないようにする。
【0025】
この実施形態は、地震が発生すると、壁体2の半径方向等の横揺れ振動に対して、その壁体2の内側に向かう耐震ケーブル12がスリーブ13部分で伸縮することでその振動力を吸収するとともに、水平力及び垂直力に対して耐震ケーブル4がスリーブ5部分で伸縮することでそれらの力を吸収する。このため、この支承装置は、さらに安全で信頼性のあるPCタンクを維持する。
【0026】
上記各実施形態では、壁体2のパネル2a方式を例示したが、現地において壁体2全部の型枠支保工を組み、直接コンクリートを打設して壁体2を構築する方法を用いても良い。このとき、コンクリート打設の壁体2と床版1との界面全周には弾性支承体3を介在する。
また、各実施形態において、各パネル2a下部及びにその下部前面に配設される弾性支承体3、弾性板11も、通常の自重等による圧縮力や地震時に発生する水平力の大きさに応じて、厚さや幅および長さが決められる。
さらに、この発明は、貯水タンクPに限らず、コンクリートを打設して構築される環状壁体を有する構造物、例えば、住宅、ビル等の建築物に採用することができ、その環状も円環状に限らず、四角環状、五角環状等の多角環状の構造物に採用できることは勿論である。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0027】
1 床版
1a 廻縁
1b 水切り部
2 壁体
2a 壁体をなすプレキャストコンクリートパネル
2b 同間詰コンクリート
3 弾性支承体(ラバーパッド)
4、12 耐震ケーブル
5、13 スリーブ
6 止水板
7 鉄筋(配筋)
8 PC鋼より線
9 縁切材(スチレンフォーム)
11 弾性板(ラバーパッド)
P PCタンク