特許第6644533号(P6644533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6644533-運行記録装置、及び、運行管理システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644533
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】運行記録装置、及び、運行管理システム
(51)【国際特許分類】
   G07C 5/00 20060101AFI20200130BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   G07C5/00 Z
   G08G1/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-237434(P2015-237434)
(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公開番号】特開2017-102819(P2017-102819A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂野 淳
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−306407(JP,A)
【文献】 特開2011−227552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07C 5/00
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置であって、
前記車両の乗務員に関する情報と、前記車両の運行に関する情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記車両の乗務員に関する情報と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データを記録すると共に前記運行データを外部機器に提供する制御部を備え、
前記制御部は、
前記取得部が前記乗務員に関する情報を取得できない場合において前記車両が運行されたとき、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データを記録すると共に、前記車両の運行が所定の有効条件を満たせば前記仮運行データを前記外部機器に提供し、前記車両の運行が前記有効条件を満たさなければ前記仮運行データを前記外部機器に提供しない、
運行記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運行記録装置であって、
前記制御部が、
前記有効条件として、前記車両の運行時間が閾値時間以上であるか否か、及び、前記車両の移動距離が閾値距離以上であるか否か、の少なくとも一方を用いる、
運行記録装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の運行記録装置において、
前記制御部が、
前記車両の運行が前記有効条件を満たさない場合、前記仮運行データを消去する、
運行記録装置。
【請求項4】
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置と、前記運行記録に基づいて前記車両の運行管理を行う外部機器と、を備えた運行管理システムであって、
前記運行記録装置は、
前記車両の乗務員に関する情報と、前記車両の運行に関する情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記車両の乗務員に関する情報と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データを記録すると共に前記運行データを外部機器に提供する制御部を備え、
前記制御部は、
前記取得部が前記乗務員に関する情報を取得できない場合において前記車両が運行されたとき、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データを記録すると共に、前記車両の運行が所定の有効条件を満たせば前記仮運行データを前記外部機器に提供し、前記車両の運行が前記有効条件を満たさなければ前記仮運行データを前記外部機器に提供せず、
前記外部機器は、
前記制御部から提供された前記仮運行データと、前記車両の運行スケジュールに関する情報と、を照合することにより、前記仮運行データに対応する前記乗務員を特定すると共に、特定された前記乗務員に関する情報と前記仮運行データとに基づき、前記車両の運行管理を行う、
運行管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運行記録を行う運行記録装置、及び、その運行記録装置を用いた運行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、商業用車両など(例えば、トラック及びタクシー)の運行管理を行うための運行記録装置、及び、その運行記録装置を用いた運行管理システムが提案されている。例えば、従来の運行記録装置の一つ(以下「従来装置」という。)は、トラックが事業所等から出庫して荷物搬送を開始する際の操作(出庫操作)を乗務員が行ったときに運行データの記録を開始し、同車両が荷物搬送を終えて事業所等に入庫する際の操作(入庫操作)を乗務員が行ったときに運行データの記録を終了するようになっている。更に、従来装置は、乗務員による入庫操作がなくても、事業所等の営業時間外の所定時刻に自動的に入庫操作を行うようになっている。これにより、乗務員が入庫操作を失念した場合であっても、運行データの記録が確実に終了することになる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
上述したように運行記録装置によって記録された運行データは、一般に、外部機器(例えば、データセンター及び事業所の管理端末など)に提供される。そして、外部機器において運行データの解析等が行われると共に車両の運行管理が行われることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−331392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の運行記録装置において、車両の運行データは、一般に、その運行を行った乗務員に関する情報と関連付けて記録される。そのため、運行記録装置は、例えば、車両が事業所等から出庫する際に乗務員に乗務員ID等の入力を求めるようになっている。
【0006】
ところが、乗務員ID等の入力を乗務員が失念した等の理由により、乗務員ID等を出庫時に確認できない場合、運行データが記録されず、適切な運行管理を行えない可能性がある。そこで、例えば、乗務員ID等の入力がなされないまま乗務員が車両を走行させた場合、乗務員ID等が未特定であるとの情報を含む仮の運行データを記録することが考えられる。
【0007】
一方、車両が事業所等に入庫された後に洗車、給油、及び、駐車場所の移動などを目的として乗務員が車両を走行させる場合、運行管理の必要性が低いことから、一般に、乗務員ID等の入力は行われない。しかし、上述したように運行記録装置が仮の運行データを記録するように構成されている場合、このような走行であっても、上記同様、仮の運行データが記録されることになる。即ち、乗務員ID等が未特定である状態での出庫と、入庫後の洗車等のための走行と、が区別されないことになる。
【0008】
しかし、後者(入庫後の洗車等のための走行)の運行データは、運行管理の観点からは、前者(乗務員ID等が未特定である状態での出庫)の運行データに比べ、必要性が低い。そのため、後者の運行データを前者の運行データと区別なく外部機器に提供すると、その提供時の通信費および外部機器での解析負荷などを不必要に高める要因となり得る。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の運行管理の観点から必要性が低い運行データを外部機器に提供することを防止可能な運行記録装置、及び、その運行記録装置を用いた運行管理システム、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る運行記録装置は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1)
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置であって、
前記車両の乗務員に関する情報と、前記車両の運行に関する情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記車両の乗務員に関する情報と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データを記録すると共に前記運行データを外部機器に提供する制御部を備え、
前記制御部は、
前記取得部が前記乗務員に関する情報を取得できない場合において前記車両が運行されたとき、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データを記録すると共に、前記車両の運行が所定の有効条件を満たせば前記仮運行データを前記外部機器に提供し、前記車両の運行が前記有効条件を満たさなければ前記仮運行データを前記外部機器に提供しない、
運行記録装置であること。
(2)
上記(1)に記載の運行記録装置であって、
前記制御部が、
前記有効条件として、前記車両の運行時間が閾値時間以上であるか否か、及び、前記車両の移動距離が閾値距離以上であるか否か、の少なくとも一方を用いる、
運行記録装置であること。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載の運行記録装置において、
前記制御部が、
前記車両の運行が前記有効条件を満たさない場合、前記仮運行データを消去する、
運行記録装置であること。
【0011】
上記(1)の構成の運行記録装置によれば、乗務員に関する情報を取得できない場合において車両が運行されたとき(例えば、入庫後の洗車等のため、乗務員ID等の入力なしに車両を走行させたとき)、車両の運行が所定の条件(有効条件)を満たす場合に限り、運行データ(仮運行データ)が外部機器に提供される。そのため、有効条件として、入庫後の洗車等のための走行と、乗務員ID等が未特定である状態での出庫と、を区別可能な条件を設定すれば、管理の必要性が低い運行データが外部機器に提供されないことになる。よって、本構成の運行記録装置は、乗務員ID等が未特定である状態での走行に関する運行データを全て外部機器に提供する場合に比べ、車両の運行管理の観点から必要性が低い運行データを外部機器に提供することを防止できる。
【0012】
上記(2)の構成の運行記録装置によれば、上述した有効条件として、車両の運行時間および運行距離の少なくとも一方を用いることにより、乗務員ID等が未特定である状態での出庫と、入庫後の洗車等のための走行と、を簡易な処理によって区別できる。
【0013】
上記(3)の構成の運行記録装置によれば、有効条件を満たさない車両の運行に関する運行データ(仮運行データ)が、外部機器に提供されることなく消去される。よって、運行記録装置における記憶領域(メモリ容量など)を有効活用できる。
【0014】
更に、前述した目的を達成するために、本発明に係る運行管理システムは、下記(4)を特徴としている。
(4)
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置と、前記運行記録に基づいて前記車両の運行管理を行う外部機器と、を備えた運行管理システムであって、
前記運行記録装置は、
前記車両の乗務員に関する情報と、前記車両の運行に関する情報と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記車両の乗務員に関する情報と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データを記録すると共に前記運行データを外部機器に提供する制御部を備え、
前記制御部は、
前記取得部が前記乗務員に関する情報を取得できない場合において前記車両が運行されたとき、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データを記録すると共に、前記車両の運行が所定の有効条件を満たせば前記仮運行データを前記外部機器に提供し、前記車両の運行が前記有効条件を満たさなければ前記仮運行データを前記外部機器に提供せず、
前記外部機器は、
前記制御部から提供された前記仮運行データと、前記車両の運行スケジュールに関する情報と、を照合することにより、前記仮運行データに対応する前記乗務員を特定すると共に、特定された前記乗務員に関する情報と前記仮運行データとに基づき、前記車両の運行管理を行う、
運行管理システムであること。
【0015】
上記(4)の構成の運行管理システムによれば、上記(1)と同様、乗務員に関する情報を取得できない場合において車両が運行されたとき(例えば、入庫後の洗車等のため、乗務員IDの入力なしに車両を走行させたとき)、車両の運行が所定の条件(有効条件)を満たす場合に限り、運行データ(仮運行データ)が外部機器に提供される。そのため、有効条件として、入庫後の洗車等のための走行と、乗務員ID等が未特定である状態での出庫と、を区別可能な条件を設定すれば、管理の必要性が低い運行データが外部機器に提供されないことになる。
【0016】
更に、本構成の運行管理システムによれば、外部機器は、乗務員が未特定であるとの情報を含む運行データ(仮運行データ)が提供された場合、車両の運行スケジュールに基づいて乗務員を特定し、その運行データを車両の運行管理に用いる。そのため、仮運行データを通常の運行データと同様に解析し、運行管理を行うことができる。
【0017】
よって、本構成の運行管理システムは、乗務員ID等が未特定である状態での運行データの全てが外部機器提供される場合に比べ、車両の運行管理の観点から必要性が低い運行データが外部機器に提供されることを防止できる。更に、車両の運行管理に必要な運行データについては、外部機器において適切に運行管理が行われることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車両の運行管理の観点から必要性が低い運行データを外部機器に提供することを防止可能な運行記録装置、及び、その運行記録装置を用いた運行管理システム、を提供できる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係る運行記録装置および運行管理システムの基本構成を示す図である。
図2図2は、図1の運行記録装置が未出庫運行データの記録および送信を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、図1の運行管理システムにおける未出庫運行データの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る運行記録装置、及び、運行管理システムについて説明する。
【0022】
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る運行管理システム100は、商業用車両(例えば、トラック及びタクシー)に搭載されて車両の運行記録を行うデジタルタコグラフ(運行記録装置)10と、その商業用車両の運行管理を行う事務所に設けられた管理端末(外部機器)20と、を含む。
【0023】
デジタルタコグラフ10として、例えば、所謂ネットワーク型デジタルタコグラフが使用される。管理端末20としては、例えば、データサーバと接続されたパーソナルコンピュータが使用される。なお、本例において、デジタルタコグラフ10が本発明に係る「運行記録装置」に対応し、管理端末20が本発明に係る「外部機器」に対応する。以下、デジタルタコグラフ10の基本構成の一例について説明する。
【0024】
図1に示すように、デジタルタコグラフ10は、CPU(制御部)11と、電源12と、出力部13と、ボタン14と、入力I/F15と、通信I/F16と、を備える。なお、CPUは中央演算処理装置の略称であり、I/Fはインターフェイスの略称である。
【0025】
CPU(制御部)11は、種々の処理を行うためのプログラムが格納されたROM11aと、車両の運行データを含む種々のデータの記録・読み出しを行うRAM11bと、を含む。電源12は、CPU11が種々の処理を実行するために必要な電力をCPU11に供給するようになっている。出力部13は、乗務員に種々の情報を知らせるための表示画面、及び、乗務員に警報等を行うためのブザー等を含む。出力部13は、CPU11の指示に基づいて動作するようになっている。なお、本例において、CPU11が本発明に係る「制御部」に対応する対応する。
【0026】
ボタン14は、乗務員によって操作可能に配置されている。例えば、車両がタクシーの場合、ボタン14として、「実車状態」(乗客を乗せて運行する状態)又は「空車状態」(乗客を乗せずに運行する状態)を選択するためのボタン等が挙げられる。ボタン14の操作情報は、CPU11に送信されるようになっている。
【0027】
入力I/F15は、車両の運行状態を検出する各種センサからの情報、及び、乗務員IDの情報をCPU11に提供するようになっている。車両の運行状態として、例えば、車両の速度および車両のエンジン回転速度が挙げられる。乗務員IDの入力は、例えば、乗務員がIDカードの挿入口(図示省略)に自らのIDカードを挿入することにより行われる。乗務員IDの入力は、乗務員によるボタン14の操作によって行われてもよい。
【0028】
通信I/F16は、車両に搭載されたデジタルタコグラフ10と、事務所の管理端末20と、の間の無線通信を行うようになっている。RAM11bには、車両の運行状態(車両の速度および車両のエンジン回転速度などを含む。)を表す情報が、その運行時に入力されていた乗務員IDと関連付けて「運行データ」として記録されている。通信I/F16は、CPU11の指示に基づいて、RAM11bに記録されている運行データを、事務所の管理端末20に無線送信するようになっている。
【0029】
(作動)
デジタルタコグラフ10を搭載した車両の乗務員は、業務を開始するために車両を事業所等から出庫する際、「出庫操作」として乗務員IDの入力(IDカードの挿入)を行い、業務を終えるために車両を事業所等に入庫する際、「入庫操作」として乗務員IDの入力の解除(IDカードの排出)を行う。このように、通常、乗務員ID入力有りの状態にて車両の走行が行われると共に、その運行を行っている期間中の「運行データ」の記録・送信がなされる。
【0030】
一方、乗務員が、出庫の際に乗務員IDの入力を失念した状態にて、業務を行うために車両を走行させる場合が考えられる。この場合においても、適切な運行管理の観点から、その間の「運行データ」の記録・送信がなされる。具体的には、デジタルタコグラフ10は、この場合、乗務員が未特定であるとの情報が含まれた運行データ(仮運行データ)を記録するようになっている。
【0031】
以下、説明の便宜上、乗務員ID入力有りの状態での車両の運行を「通常運行」と称呼し、乗務員ID入力有りの状態で記録される「運行データ」を「通常運行データ」と称呼する。一方、乗務員ID入力無しの状態での車両の運行を「未出庫運行」と称呼し、乗務員ID入力無しの状態で記録される「運行データ」を「未出庫運行データ」と称呼する。「未出庫運行データ」が、本発明に係る「仮運行データ」に対応する。以下、通常運行時の作動と、未出庫運行時の作動と、を分けて説明していく。
【0032】
(通常運行時のデジタルタコグラフ10の作動)
乗務員がデジタルタコグラフ10に自身のIDカードを挿入すると、通常運行データの記録が開始される。上述のように、通常運行時は、RAM11bには、車両の運行状態を表す情報が、その運行時に入力されていた乗務員IDの情報と関連付けられると共に、通常運行データとしてRAM11bに逐次(時系列的に)記録される。このような通常運行データの記録は、乗務員が自身のIDカードの排出を行ったときに終了される。
【0033】
RAM11bに記録されている通常運行データは、所定のタイミングにて、事務所の管理端末20に無線送信される。所定のタイミングとして、例えば、所定時間が経過する毎のタイミング、及び、一つの運行(出庫から入庫までの運行)が終了したタイミング(即ち、IDカードの排出が行われたタイミング)等が挙げられる。
【0034】
(通常運行時の管理端末20の作動)
管理端末20は、デジタルタコグラフ10(CPU11)から無線送信された通常運行データを受信する。管理端末20は、受信した通常運行データを記録すると共に、その通常運行データに基づいて、車両の運行管理を行う。運行管理として、例えば、車両の速度の時系列データに基づく各種管理指標(平均速度、及び、速度超過違反の有無など)の導出、並びに、車両のエンジン回転速度の時系列データに基づく各種管理指標(平均エンジン回転速度、及び、回転速度の所定閾値からの超過の有無など)の導出が挙げられる。このようにして導出された各種管理指標は、その後の乗務員の運行管理のために用いられ得る。
【0035】
以上が、通常運行時の作動についての説明である。
【0036】
(未出庫運行時のデジタルタコグラフ10の作動)
次いで、未出庫運行時の作動について説明する。未出庫運行が行われる状況として、例えば、乗務員IDの入力を失念した状態で業務を行うために出庫した場合、及び、入庫後に乗務員が洗車、給油等の目的のために乗務員IDの入力を行わない状態で車両を走行させた場合などが考えられる。前者(乗務員IDの入力を失念した状態での出庫)の場合、運行管理の観点から、未出庫運行データの記録・送信を行うことが望ましい。
【0037】
一方、後者(入庫後の洗車等ための走行)の場合、運行管理の観点からは、未出庫運行データの記録・送信を行う必要性が低い。そのため、後者(入庫後の洗車等のための走行)の場合に未出庫運行データの送信を行うと、管理端末20へのデータ送信時の通信費、及び、管理端末20での解析負荷などを不必要に高める要因となり得る。
【0038】
そこで、デジタルタコグラフ10は、乗務員IDの入力を失念した状態での出庫と、入庫後の洗車等のための走行と、を区別し、前者(乗務員IDの入力を失念した状態での出庫)の場合には未出庫走行データの送信を行うものの、後者(入庫後の洗車等のための走行)の場合には未出庫走行データの送信を行わないようになっている。
【0039】
以下、未出庫運行に関してデジタルタコグラフ10(具体的には、CPU11)が行う処理について、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。CPU11は、停車している車両が走行を始めた時点から、所定時間が経過する毎に、図2のフローチャートに示すルーチンを繰り返し実行する。なお、本ルーチンは、CPU11がROM11aに格納されている対応するプログラムを実行することによって行われる。
【0040】
具体的には、所定のタイミングにてステップ200から本ルーチンの処理を開始すると、ステップ205に進み、乗務員IDの入力が無いか否かを判定する。CPU11は、乗務員IDの入力が有る場合、「No」と判定してステップ295に進み、本ルーチンを一旦終了する。一方、CPU11は、乗務員IDの入力が無い場合、「Yes」と判定してステップ210に進む。以下、乗務員IDの入力が無いと仮定して説明を続ける。
【0041】
乗務員IDの入力が無い場合、CPU11は、ステップ210にて、車両が走行中であるか否かを判定する。具体的には、CPU11は、例えば、検出されている車両の速度がゼロよりも大きい値である場合に車両が走行中であると判定し、車両の速度がゼロである場合に車両が停止していると判定する。CPU11は、車両が走行中である場合、ステップ210にて「Yes」と判定し、ステップ215に進む。
【0042】
ステップ215にて、CPU11は、その時点での未出庫運行データをRAM11bに記録する。なお、上述したように、未出庫運行データには乗務員IDの情報が含まれない。
【0043】
次いで、CPUは、ステップ220に進み、フラグが「OFF」であるか否かを判定する。ここで、フラグが「OFF」であることは「入庫後の洗車等のための移動」の場合に対応し、フラグが「ON」であることは「乗務員IDの入力を失念した状態での出庫」の場合に対応する。なお、フラグの初期値は「OFF」に設定されている。以下、フラグが「OFF」であるものとして説明を続ける。
【0044】
フラグが「OFF」の場合、CPU11は、ステップ220にて「Yes」と判定し、ステップ225に進む。ステップ225にて、CPU11は、その時点での走行継続時間T(即ち、乗務員IDの入力が無い状態にて走行が継続した時間長さ)が予め定められた閾値時間Tth以上であるか否かを判定する。閾値時間Tthは、固定値であってもよく、車両の種類等に応じて異なる値であってもよい。なお、本例において、走行継続時間は、車両が走行を開始した時点から、車両が初めて停車する時点まで、の間の時間長さを表す。
【0045】
現時点は、車両が走行を開始した直後であるため、走行継続時間Tが実質的にゼロ(閾値時間Tth未満)である。そのため、CPU11は、ステップ225にて「No」と判定し、ステップ295に進んで本ルーチンを一旦終了する。その後、CPU11は、乗務員ID入力が無い状態での走行が継続する限り、ステップ205〜225の処理を繰り返し実行する。
【0046】
そして、乗務員ID入力が無い状態での走行が継続し、走行継続時間Tが閾値時間Tthに到達すると、CPU11は、ステップ225にて「Yes」と判定し、ステップ230に進む。ステップ230にて、CPU11は、フラグを「OFF」から「ON」に変更する。次いで、CPU11は、ステップ235に進み、RAM11bに記録されている未出庫走行データを管理端末20に無線送信する。
【0047】
このように、CPU11は、乗務員IDの入力が無い状態での走行の継続時間Tが閾値時間Tthに到達するまでは、未出庫運行データを記録し続けるものの、その未出庫運行データを管理端末20に送信することはない。換言すると、入庫後の洗車等のための走行がなされた(フラグ:OFF)と判定する(詳細は後述される。)。一方、乗務員IDの入力が無い状態での走行の継続時間Tが閾値時間Tthに到達すると、CPU11は、乗務員IDの入力を失念した状態での出庫がなされた(フラグ:ON)と判定する。なお、これら判定は、乗務員IDの入力を失念した状態にて出庫した場合、乗務員が業務のために車両を走行させるため、比較的長時間に亘って車両を連続して走行させ続けることが多いという事実に基づいている。
【0048】
フラグが「ON」になった時点以降、CPU11は、ステップ220にて「No」と判定し、ステップ225及びステップ230の処理を行うことなく、ステップ235の処理を行う。そのため、乗務員IDの入力が無い状態での走行が継続する限り、未出庫運行データの記録・送信(ステップ215及びステップ235の処理)が繰り返し実行されることになる。
【0049】
その後、車両が停止すると、CPU11は、ステップ210にて「No」と判定し、ステップ240に進む。CPU11は、ステップ240にて、フラグが「OFF」であるか否かを判定する。現時点ではフラグが「ON」であるため、CPU11は、ステップ240にて「No」と判定し、ステップ245に進む。CPU11は、ステップ245にて、フラグを「ON」から「OFF」に変更し(換言すると、フラグを初期値に戻し)、次に車両が走行開始される場合に備える。
【0050】
なお、ステップ235における未出庫運行データの送信は、上述したようにステップ235が実行される毎に実行されてもよく、車両の走行中には実行されず(記録のみを行い)車両が停止したときにそれまで記録してきた未出庫データの全てを一括して送信するように実行されてもよい。
【0051】
一方、乗務員IDの入力が無い状態での走行の継続時間Tが閾値時間Tthに到達する前に車両が停止した場合、CPU11は、ステップ225で一度も「Yes」と判定することなく(即ち、ステップ230の処理が実行されることなく)、ステップ210にて「No」と判定してステップ240に進むことになる。この場合、フラグが初期値(OFF)に維持されているため、CPU11は、ステップ240にて「Yes」と判定し、ステップ250に進む。CPU11は、ステップ250にて、現時点までにRAM11bに逐次記録されてきた未出庫運行データを消去する。
【0052】
このように、乗務員ID入力が無い状態での走行の継続時間Tが閾値時間Tthに到達しない場合、CPU11は、入庫後の洗車等のために車両が走行された(フラグ:OFF)と判定する。この判定は、入庫後の洗車等のための走行は、比較的短時間に行われ、長時間に亘って車両を連続して走行させ続けることが稀であるという事実に基づいている。
【0053】
CPU11が入庫後の洗車等のために車両が走行されたと判定した場合(フラグが「OFF」の場合)、ステップ235が実行されないため未出庫運行データは送信されず、ステップ250の処理によってRAM11bに逐次記録されてきた未出庫運行データが消去される。
【0054】
以上が、未出庫運行時のデジタルタコグラフ10の作動についての説明である。
【0055】
(未出庫運行時の管理端末20の作動)
次いで、未出庫運行に関して管理端末20(具体的には、管理端末20のCPU(図示せず))が行う処理について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。管理端末20のCPUは、所定時間が経過する毎に、図3のフローチャートに示すルーチンを繰り返し実行する。なお、本ルーチンは、管理端末20のCPUが、そのROM(図示省略)に格納されている対応するプログラムを実行することによって行われる。
【0056】
具体的には、管理端末20のCPUは、所定のタイミングにてステップ300から本ルーチンの処理を開始すると、ステップ305に進み、デジタルタコグラフ10から送信された未出庫運行データを受信したか否かを判定する。未出庫運行データを受信していない場合、管理端末20のCPUは、ステップ305にて「No」と判定し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。そして、管理端末20のCPUは、未出庫運行データを受信するまで、ステップ305の処理を繰り返し実行する。なお、未出庫運行データと通常運行データとの区別は、例えば、運行データに乗務員IDの情報が関連付けられているか否かによって行われ得る。
【0057】
管理端末20のCPUは、未出庫運行データを受信した場合、ステップ305にて「Yes」と判定し、ステップ310に進む。ステップ310にて、管理端末20のCPUは、受信した未出庫運行データと、管理端末20等に記録されている乗務予定表(車両の運行スケジュールが記載されているデータ)と、を照合することにより、その未出庫運行を行った乗務員を特定する。
【0058】
そして、管理端末20のCPUは、ステップ315に進み、未出庫運行データをその特定された乗務員のID情報と関連付け、通常運行データとして処理する。具体的には、その運行データに基づき、上述した通常運行時と同様に車両の運行管理が行われ、その運行管理によって導出された各種管理指標が乗務員の運行管理のために用いられる。
【0059】
以上のように、本発明の実施形態に係る運行管理システム100(車載のデジタルタコグラフ10+事務所の管理端末20)によれば、未出庫運行時、デジタルタコグラフ10は、車両の運行が所定の有効条件(図2のステップ225の条件)を満たす場合に限り、未出庫運行データ(仮運行データ)を管理端末20に無線送信する。具体的には、乗務員IDの入力を失念した状態での出庫であると判定された場合(フラグ:ON)には未出庫運行データが管理端末20に無線送信され、入庫後の洗車等のための走行であると判定された場合(フラグ:OFF)には未出庫運行データが送信されない。よって、未出庫運行に関する運行データを全て管理端末20に送信する場合と比べ、運行管理の必要性が低い運行データを管理端末20に送信することを防止できる。
【0060】
更に、有効条件として、走行継続時間Tが予め定められた閾値時間Tth以上であることを用いることにより、入庫後の洗車等のための走行と、乗務員IDの入力を失念した状態での出庫と、を区別できる。
【0061】
更に、デジタルタコグラフ10は、入庫後の洗車等のための走行であると判定した場合、CPU11のRAM11bに逐次記録されてきた未出庫運行データ(仮運行データ)を消去する。よって、CPU11のRAM11bにおける記憶領域を、運行管理に必要な通常運行データのために有効活用できる。
【0062】
更に、事務所の管理端末20は、乗務員IDの情報が含まれない未出庫運行データ(仮運行データ)を受信した場合、車両の運行スケジュールに基づいて乗務員を特定し、その仮運行データを車両の運行管理に用いる。そのため、仮運行データを通常の運行データと同様に解析し、運行管理を行うことができる。
【0063】
(他の態様)
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0064】
例えば、上記実施形態では、入庫後の洗車等のための走行と、乗務員IDの入力を失念した状態での出庫と、を区別するための有効条件として、走行継続時間Tが閾値時間Tth以上であるか否かが採用されている。しかし、有効条件として、走行継続移動距離L(即ち、乗務員IDの入力が無い状態での走行が継続している間の車両の移動距離)が予め定められた閾値距離Lth以上であるか否か、が用いられてもよい。この閾値距離Lthは、固定値であってもよく、車両の種類等に応じて異なる値であってもよい。なお、走行継続移動距離は、車両が走行を開始した時点から、車両が初めて停車する時点まで、の間の移動距離を表す。
【0065】
走行継続移動距離Lは、検出された車両の速度を時間で逐次積分して取得されてもよく、デジタルタコグラフ10がGPS機能を備えている場合にはGPS機能により得られる車両の直線移動距離として取得されてもよい。
【0066】
更に、上記実施形態では、運行記録装置としてデジタルタコグラフ10が用いられている。しかし、車両の運行データを乗務員IDの情報と関連付けて逐次記録することができる装置であれば、どのような装置が用いられてもよい。
【0067】
更に、上記実施形態では、デジタルタコグラフ10は無線通信によって管理端末20に運行データを送信している。しかし、デジタルタコグラフ10及び管理端末20は、無線通信に代えて、情報記録媒体(メモリカード等)を介して運行データを提供するように構成されてもよい。
【0068】
ここで、上述した本発明に係る運行記録装置、及び、運行管理システムの実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(4)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置(10)であって、
前記車両の乗務員に関する情報(乗務員ID)と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データ(通常運行データ)を記録すると共に前記運行データ(通常運行データ)を外部機器(20)に提供する制御部(CPU11)を備え、
前記制御部(CPU11)は、
前記乗務員に関する情報(乗務員ID)を取得できない場合において前記車両が運行されたとき(ステップ205及びステップ210で「Yes」)、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データ(未出庫運行データ)を記録する(ステップ215)と共に、前記車両の運行が所定の有効条件(ステップ225)を満たせば前記仮運行データ(未出庫運行データ)を前記外部機器(20)に提供し(ステップ235)、前記車両の運行が前記有効条件(ステップ225)を満たさなければ前記仮運行データ(未出庫運行データ)を前記外部機器(20)に提供しない、
運行記録装置(10)。
(2)
上記(1)に記載の運行記録装置において、
前記制御部(CPU11)が、
前記有効条件として、前記車両の運行時間(T)が閾値時間(Tth)以上であるか否か、及び、前記車両の移動距離(L)が閾値距離(Lth)以上であるか否か、の少なくとも一方を用いる(ステップ225)、
運行記録装置(10)。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載の運行記録装置において、
前記制御部(CPU11)が、
前記車両の運行が前記有効条件(ステップ225)を満たさない場合、前記仮運行データ(未出庫運行データ)を消去する(ステップ250)、
運行記録装置(10)。
(4)
車両に搭載されると共に前記車両の運行記録を行う運行記録装置(10)と、前記運行記録に基づいて前記車両の運行管理を行う外部機器(20)と、を備えた運行管理システム(100)であって、
前記運行記録装置(10)は、
前記車両の乗務員に関する情報(乗務員ID)と前記車両の運行に関する情報とを含む運行データ(通常運行データ)を記録すると共に前記運行データ(通常運行データ)を外部機器(20)に提供する制御部(CPU11)を備え、
前記制御部(CPU11)は、
前記乗務員に関する情報(乗務員ID)を取得できない場合において前記車両が運行されたとき(ステップ205及びステップ210で「Yes」)、前記運行データとして前記乗務員が未特定であるとの情報を含む仮運行データ(未出庫運行データ)を記録する(ステップ215)と共に、前記車両の運行が所定の有効条件(ステップ225)を満たせば前記仮運行データ(未出庫運行データ)を前記外部機器(20)に提供し(ステップ235)、前記車両の運行が前記有効条件(ステップ225)を満たさなければ前記仮運行データ(未出庫運行データ)を前記外部機器(20)に提供せず、
前記外部機器(20)は、
前記制御部(CPU11)から提供された前記仮運行データ(未出庫運行データ)と、前記車両の運行スケジュールに関する情報と、を照合することにより、前記仮運行データ(未出庫運行データ)に対応する前記乗務員を特定すると共に、特定された前記乗務員に関する情報と前記仮運行データ(未出庫運行データ)とに基づき、前記車両の運行管理を行う、
運行管理システム(100)。
【符号の説明】
【0069】
100 運行管理システム
10 デジタルタコグラフ(運行記録装置)
11 CPU(制御部)
20 管理端末(外部機器)
図1
図2
図3