特許第6644545号(P6644545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644545筆記具用水性インキ組成物および水性インキ製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644545
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物および水性インキ製品
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20200130BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20200130BHJP
   A01N 43/80 20060101ALI20200130BHJP
   A01N 47/12 20060101ALI20200130BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C09D11/16
   A01P1/00
   A01N43/80 102
   A01N47/12 Z
   A01P3/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-249946(P2015-249946)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-114971(P2017-114971A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100187207
【弁理士】
【氏名又は名称】末盛 崇明
(72)【発明者】
【氏名】西 川 知 明
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−218673(JP,A)
【文献】 特表2001−515016(JP,A)
【文献】 特開2002−138237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/80
A01N 47/12
A01P 1/00
A01P 3/00
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、染料と、抗菌性物質と、を含んでなる筆記具用水性インキ組成物であって、
前記水性インキ組成物が、前記抗菌性物質として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマートおよび1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを含んでなり、
前記インキ組成物の総質量に対する前記抗菌性物質の総添加量が、100〜250ppmであり、
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマートとの配合比が、質量比で5:1〜1:5であることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンおよび3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマートとの総量との配合比が、質量比で10:1〜1:10である、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記染料が、フルオレセイン骨格を有する染料である、請求項1または2に記載のインキ組成物。
【請求項4】
くし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具に充填されて用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインキ組成物をインキ保管容器に収容してなる水性インキ製品であって、
前記インキ保管容器が、前記インキ組成物を分取するための開閉口を有し、前記インキ保管容器から分取された前記インキ組成物が、くし溝を利用したインキ供給機構を有する筆記具に充填して使用されることを特徴とする、水性インキ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物および水性インキ製品に関する。さらに詳しくは、保存安定性および安全性に優れる筆記具用水性インキ組成物およびそのインキ組成物を収容してなる水性インキ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により「インキ組成物」と表す)は、一般に水を主溶剤として含んでなるため、細菌、黴、または酵母などの微生物が繁殖しやすい。微生物が繁殖するとインキ組成物の腐敗などが起こり、粘度などインキ組成物の物性に変化が生じたり、インキ組成物中に析出物や凝集物などの異物が発生したり、インキ組成物の変色を起こすなど、インキ組成物としての機能が損なわれることがあった。そこで、抗菌性物質をインキ組成物に添加し、微生物などの繁殖を抑制することが盛んに行われている(特許文献1、2および3参照)。
しかしながら、インキ組成物に同一の抗菌性物質を使用し続けた場合、抗菌性物質に耐性を持つ微生物(以下、耐性菌という)が発生して繁殖する可能性があり、保存安定性の改良に余地があった。
【0003】
耐性菌の繁殖という問題に対して、インクジェット用インク組成物や、ボールペン用インキ組成物に、2種類以上の抗菌性物質を含有させ、保存安定性を改良することが検討されている(特許文献4および5参照)。
しかしながら、特許文献4および5において開示されるインキ組成物は、耐性菌に対する抗菌性能や、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダアルビカンス、コウジカビ(黒カビ)への抗菌性能が十分ではなく、改良の余地があった。
【0004】
また、インキ瓶などの開閉口を備えるインキ保管容器にインキ組成物が収容されている場合や、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具にこのようなインキ組成物を用いた場合、上記のような問題が発生する可能性は特に高い。
例えば、インキ保管容器に収容されていた従来のインキ組成物を万年筆で利用した場合、抗菌性能が十分ではないため、インキ供給機構に、微生物の繁殖などに起因する析出物や凝集物などの異物が生じてしまい、インキ組成物を供給する流路が狭くなることがある。この結果、インキの供給量が少なくなり、筆跡がかすれるなど、筆記性が影響を受ける可能性がある。さらに、異物の量が増加したり凝集物などが大きくなると、インキを供給する流路が異物などにより塞がれ、インキを供給することができなくなり、筆記不能となる可能性がある。また、異物の発生量が少ないインキ組成物であっても、万年筆などのインキを繰返し充填して使用する筆記具に用いた場合、使用開始時は筆記性が良好であるが、充填と使用を繰り返すことにより、インキを供給する流路に異物が徐々に堆積し、筆記性への影響が大きくなっていく。さらに充填と使用を繰り返すと、該流路への異物の堆積がさらに進行し、流路が塞がれ、やはり筆記不能となる可能性がある。
【0005】
さらに、インキ組成物が保管容器に収容されており、該容器から水性インキ組成物を分取して筆記具に充填して使用する場合など、インキ組成物自体が、外気に触れる機会が多いと、微生物が混入する機会も多くなる。この結果、耐性菌を含む微生物が異常繁殖してしまう傾向が強く、抗菌性物質の添加量によっては、抗菌性能が十分に発揮されないという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−196745号公報
【特許文献2】特開2015−010124号公報
【特許文献3】特開2015−010125号公報
【特許文献4】特開2000−226545号公報
【特許文献5】特開2003−155430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い抗菌性能を有し、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、水と、染料と、特定の抗菌性物質を含んでなる筆記具用水性インキ組成物により、前記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、水と、染料と、抗菌性物質と、を含んでなるものであって、
前記水性インキ組成物が、前記抗菌性物質として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマートおよび1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを含んでなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による水性インキ製品は、
上記インキ組成物をインキ保管容器に収容してなるものであって、
前記インキ保管容器が、インキを分取するための開閉口を有し、該インキ保管容器から分取された前記インキが、くし溝を利用したインキ供給機構を有する筆記具に充填して使用されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗菌性能が高く、保存時の析出物の発生が少ない筆記具用水性インキ組成物が提供される。また、このインキ組成物は、耐性菌だけでなく、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダアルビカンス、黒カビなど種々の菌に対して高い抗菌性能を有しており、外気に触れる機会の多い筆記具にも使用可能である。また、高い抗菌性能を極めて少ない抗菌性物質によって達成しているので、臭気が少なく、刺激性や毒性が少なく安全に使用が可能である。このため、適用範囲が広い、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<筆記具用水性インキ組成物>
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、水と、染料と、抗菌性物質と、を含んでなる。
【0013】
本発明によるインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用ペンおよび各種マーキングペン類など各種筆記具に用いることが可能である。特に、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を有する筆記具に好ましく用いることができる。
【0014】
<抗菌性物質>
本発明による水性インキ組成物は、必須の抗菌性物質として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、場合によりMITと表す。)、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマート(以下、場合によりIPBCと表す。)および1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(以下、場合によりBITと表す。)を含んでなる。
なお、本発明において、「抗菌性物質」とは、微生物を死滅させる能力または増殖を抑える能力を有する物質のことであり、抗菌剤、殺菌剤、防かび剤および防腐剤と同義である。また、抗菌性物質としては、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3オン、N−(n−ブチル)−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノールなどが挙げられる。
【0015】
本発明による水性インキ組成物において、MITの添加量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1〜200ppmであることが好ましく、1〜150ppmであることがより好ましく、1〜100ppmであることがさらに好ましい。
また、IPBCの添加量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1〜200ppmであることが好ましく、1〜120ppmであることがより好ましく、1〜70ppmであることがさらに好ましい。
さらに、BITの添加量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1〜200ppmであることが好ましく、1〜100ppmであることがより好ましく、1〜50ppmであることがさらに好ましい。
なお、「ppm」とは「part per million」の略称であり、100万分の1の濃度を表す単位である。以下、本発明においては、単位「ppm」は水性インキ組成物の総質量を基準とする。
【0016】
本発明によるインキ組成物は、本発明の効果を損なわない範囲おいて、抗菌性物質として、MIT、IPBCおよびBIT以外に任意の抗菌性物質、例えば前記した各種抗菌剤から選択される抗菌性物質をさらに含んでいても良い。
【0017】
本発明において、抗菌性物質の総添加量は、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましく、100ppm以上であることがさらに好ましい。また、抗菌性物質の総添加量は、250ppm以下であることが好ましく、230ppm以下であることがより好ましく、210ppm以下であることがさらに好ましい。本発明によるインキ組成物が、特定の抗菌性物質を、総添加量が20ppm以上含んでなることにより、外気に触れる機会が多い環境で使用された場合であっても十分な抗菌効果を発揮することができる。また、抗菌性物質の総添加量が200ppm以下であることにより、インキ組成物の皮膚刺激性が上昇してしまうのを防止することができ、安全性を確保することができる。
【0018】
水性インキ組成物中におけるMITとIPBCとの配合比は、質量比で、10:1〜1:10であることが好ましく、5:1〜1:5であることがより好ましく、2:1〜1:2であることが更に好ましい。
MITの配合比が上記範囲より小さい場合、IPBC耐性菌に対する効果が下がる傾向にあり、MITの配合比が上記範囲より大きい場合、MIT耐性菌に対する効果が下がる傾向にある。
【0019】
また、BITと、MITおよびIPBCの総量との配合比は、質量比で、10:1〜1:10であることが好ましく、7:1〜1:7であることがより好ましく、5:1〜1:5であることがさらに好ましい。MITおよびIPBCの総量の配合比が前記範囲より小さい場合、BIT耐性菌に対する効果が下がる傾向にあり、MITおよびIPBCの総量の配合比が前記範囲より大きい場合、MIT耐性菌およびIPBC耐性菌に対する効果が下がる傾向にある。
【0020】
<染料>
本発明において用いることができる染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素など各種染料が挙げられ、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。染料の添加量は、インキ組成物の総質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
【0021】
具体的には、酸性染料としては、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバイオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2などが挙げられる。
【0022】
インキ組成物に用いられる染料と抗菌性物質の組み合わせによっては、インキ組成物中に析出物が発生してしまうことがあった。例えば、上記染料の中でも、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42などは、従来知られている抗菌性物質と組み合わせて使用した場合、インキ組成物中に析出物が発生してしまうことがあった。
特に、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92などのフルオレセイン骨格を有する染料においては、従来の抗菌性物質との組み合わせにより、インキ組成物において析出物が発生する可能性が高かった。
本発明においては、インキ組成物が、特定の抗菌性物質を含んでなることにより、このような染料を使用した場合であっても、析出物の発生を抑制することができる。
このため、筆記性、経時安定性に優れたインキ組成物を実現することができ、筆記具用水性インキ組成物としての効果を十分に得ることができるようになる。このように、本発明においては、特定の抗菌性物質を用いることで、従来の抗菌性物質との組み合わせでは、析出物を抑制しにくく、実用が困難であった染料を使用することが可能となるため、インキ組成物の材料としての染料の選択範囲が広がることとなる。
【0023】
<水>
水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
【0024】
<その他>
本発明による水性インキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防錆剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0025】
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、または3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。水溶性有機溶剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
【0026】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性のアミン化合物などの有機塩基性化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。pH調整剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
【0027】
保湿剤としては、前記水溶性有機溶剤の他に尿素、またはソルビットなどが挙げられる。保湿剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0028】
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0029】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0030】
<水性インキ製品>
本発明による水性インキ製品は、本発明のインキ組成物をインキ保管容器に収容してなり、インキ保管容器がインキを分取するための開閉口を有し、インキ保管容器から分取されたインキ組成物が、くし溝を利用したインキ供給機構を有する筆記具に充填され使用されることを特徴とする。
【0031】
本発明に用いるインキ保管容器には、通常のインキ保管用や詰め替え用インキに使用されているインキ保管容器を用いることができる。具体的には、ガラス製のインキ瓶や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなど樹脂製の容器などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
下記の配合組成および方法により、インキ組成物を得た。
(筆記具用水性インキ組成物)
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT) 0.01質量%
(100ppm相当量)
・3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマート(IPBC) 0.005質量%
(50ppm相当量)
・1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(BIT) 0.005質量%
(50ppm相当量)
・C.I.アシッドブルー90(着色剤:青色染料) 0.5質量%
・C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:青色染料) 0.5質量%
・エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
・トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
イオン交換水に水溶性有機溶剤、pH調整剤、抗菌性物質を添加し、プロペラ攪拌により混合してベース液を得た。その後、ベース液に染料を添加し、プロペラ攪拌により混合して、インキ組成物を得た。
【0034】
<比較例1〜4>
比較例1〜3は、インキ組成物に含まれる抗菌性物質の種類、配合量、配合比を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてインキ組成物を得た。なお、比較例4として生理食塩水をインキ組成物の比較対象に用いた。
【0035】
<<抗菌性能試験>>
実施例1および比較例1〜4のインキ組成物中に、アスペルギルスsp.(BIT耐性菌)を1mlあたり約1.0×10個になるように接種し、接種直後、3日間放置後、14日間放置後の各インキ組成物を試験インキとした。この各試験インキをポテトデキストロース寒天培地による塗抹平板法にて28℃で7日間培養し、その時、残存した菌数から抗菌性能を評価した。評価結果を表1に表した。
【0036】
<<安全性評価>>
実施例1および比較例1〜5のインキ組成物の安全性を以下の評価基準に従い、
評価した。評価結果を表1に表した。
A:抗菌性物質添加量が、250ppm以下である。
B:抗菌性物質添加量が、250〜400ppmである。
C:抗菌性物質添加量が、400ppm以上である。
【0037】
【表1】
【0038】
<実施例2>
実施例1のインキ組成物に含まれるC.I.アシッドブルー90(着色剤:青色染料)およびC.I.ダイレクトブルー87(着色剤:青色染料)をC.I.アシッドレッド87(着色剤:赤色染料)およびC.I.アシッドイエロー42(着色剤:黄色染料)に変更した以外は、実施例1と同様にしてインキ組成物を得た。
【0039】
<<保存効力試験>>
実施例2のインキ組成物について、日本薬局方参考情報収載の「保存効力試験法」に基づいて、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダアルビカンス、黒カビを用いて試験を実施した。評価結果を表2に表した。また、比較対象として、生理食塩水を用いて、実施例2のインキ組成物と同様に保存効力を試験した。(比較例5)
【表2】
【0040】
<実施例3、比較例6>
実施例2と同様にして実施例3のインキ組成物を調製した。また、実施例2のIPBCに変えて、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、場合により「OIT」と表す。)を添加した比較例6のインキ組成物を調製した。これらのインキ組成物を50℃で14日間放置したところ、比較例6のインキ組成物には析出物が発生したが、実施例3のインキ組成物には析出物は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、マーキングペンなど各種筆記具用の水性インキとして用いることができる。特に、保存安定性および安全性の向上が図られていることから、万年筆やつけペンなどのインキが外気に触れることが多い筆記具に好適に用いることができる。