(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644548
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】低毒性ソホロリピッド含有組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20200130BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20200130BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200130BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20200130BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20200130BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20200130BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20200130BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20200130BHJP
C12P 19/12 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
C09K3/00 Z
A61K8/73
A61K9/08
A61K31/7016
A61K47/46
A61P17/02
A61P27/02
A61P31/04
C12P19/12
【請求項の数】15
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-535516(P2015-535516)
(86)(22)【出願日】2014年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2014073356
(87)【国際公開番号】WO2015034007
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年8月3日
【審判番号】不服2019-11584(P2019-11584/J1)
【審判請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-183463(P2013-183463)
(32)【優先日】2013年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】荒木 道陽
(72)【発明者】
【氏名】平田 善彦
【合議体】
【審判長】
冨士 良宏
【審判官】
瀬下 浩一
【審判官】
牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特表平10−501260(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/050413(WO,A1)
【文献】
特表2009−531310(JP,A)
【文献】
特開2009−62288(JP,A)
【文献】
特開2008−247845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソホロリピッド産生酵母培養物に由来する着色成分、酸型ソホロリピッド、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記であることを特徴とする、低毒性ソホロリピッド含有組成物;
(1)酸型ソホロリピッド:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型ソホロリピッド:0より多く2質量%以下、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%。
【請求項2】
酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型ソホロリピッドの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方を充足する、請求項1記載の低毒性ソホロリピッド含有組成物:
(i)ラクトン型ソホロリピッドの割合:0より多く2質量%以下、
(ii)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合:0.01〜2.4質量%。
【請求項3】
酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型ソホロリピッドの割合が0.1〜1.5質量%である、請求項1または2に記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物。
【請求項4】
エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性ソホロリピッド含有組成物を溶解した水溶液の波長440nmにおける吸光度(OD440)が0.001〜1である、請求項1〜3のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物。
【請求項5】
エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が460〜630mgKOH/gである、請求項1〜4のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物。
【請求項6】
HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC50)が2000〜60000ppmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物。
【請求項7】
HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC50)と臨界ミセル濃度(CMC)との比(IC50/CMC)が6.7〜200であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物を有効成分とするアニオン性界面活性剤。
【請求項9】
請求項8に記載するアニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、医薬部外品、医薬品またはこれらの添加物。
【請求項10】
上記香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品が、粘膜、傷口または炎症部に適用されるものである、請求項9に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品、医薬品またはこれらの添加物。
【請求項11】
ソホロリピッド産生酵母を培養することによって得られるソホロリピッド含有培養物またはその処理物を、(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程に供することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載する低毒性ソホロリピッド含有組成物の製造方法。
【請求項12】
ソホロリピッド産生微生物を培養することによって得られるソホロリピッド含有培養物またはその処理物を、さらに(2)ソホロリピッドに結合したアセチル基を脱離する工程、及び(3)ラクトン型ソホロリピッドを除去する工程の少なくとも1方の工程に供することを特徴とする、請求項11に記載する製造方法。
【請求項13】
ソホロリピッド産生酵母を培養することによって得られるソホロリピッド含有培養物またはその処理物を(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程を有する方法に供し、ソホロリピッド含有組成物に含まれる酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記の範囲にある低毒化ソホロリピッド含有組成物を調製することを特徴とする、ソホロリピッド含有組成物の低毒化方法:
(a)酸型ソホロリピッド:94〜99.99質量%、
(b)ラクトン型ソホロリピッド:0より多く2質量%以下、
(c)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%。
【請求項14】
酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型ソホロリピッドの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方の範囲にある低毒化ソホロリピッド含有組成物を調製することを特徴とする、請求項13に記載する低毒化方法:
ラクトン型ソホロリピッドの割合:0より多く2質量%以下、
脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合:0.01〜2.4質量%。
【請求項15】
酸型ソホロリピッド、ラクトン型ソホロリピッド、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型ソホロリピッドの割合が0.1〜1.5質量%である低毒化ソホロリピッド含有組成物を調製することを特徴とする、請求項13または14に記載する低毒化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低毒性ソホロリピッド含有組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、清潔志向も強まり、洗髪・皮膚洗浄などで界面活性剤が多用されている。一方、界面活性剤の多用によって引き起こされる手荒れや皮膚炎に悩む消費者も増えている。事実、厚生労働省の患者数調査(傷病分類別)によれば、昭和62年から平成11年までアトピー性皮膚炎の患者数は22万4000人から39万9000人に増え、平成23年の時点でも36万9000人もの患者がいるとされている。このことから、日常的に界面活性剤による障害(例えば、肌のかさつき、肌荒れ、ひび割れ、湿疹、髪のパサツキ等)を感じている消費者は潜在的に多いと考えられる。
【0003】
こうしたなかで、安全性が比較的高い界面活性剤として、N-アシル-L-グルタミン酸トリエタノールアミンのようなアミノ酸系界面活性剤や、ラウリン酸ポリグリセリルのようなポリグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤が多用されるようになっている。また、安全性の問題が少ないことから、石けん(脂肪酸塩)が再び見直されている。しかしながら、石けんなどの炭素鎖長がC6〜10の中鎖脂肪酸は刺激性が高いことが知られている。また、上記のなかでアミノ酸系界面活性剤は比較的刺激性が低いことが知られているものの(低刺激性)、それでさえも十分満足できるものではない。
【0004】
ところで、生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタントは、生分解性及び安全性が高いことから、次世代型界面活性剤として産業利用が期待されている物質である。なかでも糖脂質型バイオサーファクタントの一つであるソホロリピッドは、酵母の発酵から得られる発酵産物であり、従来から安全性が高いことが知られている。例えば特許文献1には、ソホロリピッドは低刺激性であると記載されている。しかしながら、その低刺激の程度はアミノ酸系界面活性剤と同等であり、さらなる低刺激化(低毒性化)が求められる。また、ソホロリピッドの一態様であるラクトン型ソホロリピッドは毒性が比較的高いことも知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−275145号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shah V, Doncel GF, Seyoum T, Eaton KM, Zalenskaya I, Hagver R, Azim A, Gross R(2005)、Sophorolipids, Microbial Glycolipids with Anti-HumanImmunodeficiency Virus and Sperm-Immobilizing Activities. Antimicrob. Agents Chemother. 49(10), 4093-4100
【非特許文献2】Karen M.J. Saerens, Lien Saey, Wim Soetaert(2011)One-Step Production of Unacetylated Sophorolipids by an Acetyltransferase Negative Candida bombicola. Biotechnol. Bioeng. 108(12). 2923-2931
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は低毒性ソホロリピッド含有組成物を提供することを目的とする。また本発明は、低毒性ソホロリピッド含有組成物の用途を提供することを目的とする。なお、本発明において、「低毒性ソホロリピッド含有組成物」とは、低毒性ソホロリピッドを含有する低毒性の組成物を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねていたところ、酵母発酵により生成されるソホロリピッド含有組成物に含まれるラクトン型ソホロリピッドに加えて、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸、及び酸型ソホロリピッドに含まれるアセチル基が、それぞれソホロリピッド含有組成物の細胞毒性に少なからず悪影響していることを見出し、これらを除去することで、より低毒性のソホロリピッド含有組成物、特に眼や粘膜に対する刺激性が極めて低いソホロリピッド含有組成物が得られることを確認した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。なお、以下、本明細書において「ソホロリピッド」を「SL」と略称する場合がある。具体的には、本発明の「低毒性ソホロリピッド含有組成物」を「低毒性SL含有組成物」とも称する。
【0010】
(I)低毒性SL含有組成物
(I-1)SL産生酵母培養物に由来する着色成分、酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記であることを特徴とする、低毒性SL含有組成物;
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%。
【0011】
(I-2)酸型SL、ラクトン型Sl、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型SLの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方を充足する、(I-1)記載の低毒性SL含有組成物:
ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
【0012】
(I-3)酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が下記である、(I-1)に記載する低毒性SL含有組成物:
酸型SL:好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、さらに好ましくは99.31質量%以上、
ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%以下、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
【0013】
(I-4)酸型SL及びラクトン型SLの総量100質量%あたり、酸型SLの割合が98〜100質量%、好ましくは98.5〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%、さらに好ましくは99.5〜100質量%であり、ラクトン型SLの割合が0〜2質量%、好ましくは0〜1.5質量%、より好ましくは0〜1質量%、(I-1)〜(I-3)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0014】
(I-5)エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性SL含有組成物を溶解した水溶液の波長440nmにおける吸光度(色相:OD
440)が0.001〜1、好ましくは0.005〜0.8、より好ましくは0.01〜0.6、特に好ましくは0.01〜0.5、さらに特に好ましくは0.4以下である、(I-1)〜(I-4)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0015】
(I-6)エタノール可溶分1g相当物のエステル価が0.01〜2mgKOH/g、好ましくは0.01〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.1〜1.5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである、(I-1)〜(I-5)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0016】
(I-7)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が460〜630mgKOH/g、好ましくは545〜630mgKOH/g、より好ましくは560〜630mgKOH/g、特に好ましくは575〜630mgKOH/g、さらに特に好ましくは575〜585mgKOH/gである、(I-1)〜(I-6)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0017】
(I-8)HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC
50)が2000ppm以上、好ましくは3000〜60000ppmであることを特徴とする、(I-1)〜(I-7)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0018】
(I-9)HeLa細胞に対する細胞致死濃度(IC
50)と臨界ミセル濃度(CMC)との比(IC
50/CMC)が6.7〜200、好ましくは10〜200、より好ましくは17〜200、特に好ましくは33〜200であることを特徴とする、(I-1)〜(I-8)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0019】
(I-10)下記(a)〜(c)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする(I-1)〜(I-9)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物:
(a)蒸発残分:1〜100%、
(b)乾燥減量:0〜99%、
(c)エタノール可溶分:1〜100%。
【0020】
(I-11)赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm
−1付近、1706〜1730cm
−1付近、2854cm
−1付近、2924cm
−1付近、および3000〜3500cm
−1付近に赤外線吸収バンドを有する、(I-1)〜(I-10)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0021】
(I-12)固体形状を有することを特徴とする、(I-1)〜(I-11)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物。
【0022】
(I-13)固体形状が粉末または顆粒である、(I-12)に記載する低毒性SL含有組成物。
【0023】
(II)低毒性SL含有組成物の用途
(II-1)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を有効成分とするアニオン性界面活性剤。
【0024】
(II-2)(I-1)〜(I-13)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、医薬部外品、医薬品;または香粧品用、飲食品用、医薬部外品用若しくは医薬品用の添加剤。
【0025】
(II-3)上記香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品が、粘膜、傷口または炎症部に適用されるものである、(II-2)に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品、医薬品;または香粧品用、飲食品用、医薬部外品用若しくは医薬品用の添加剤。
【0026】
また本発明には上記の低毒性ソホロリピッド含有組成物の製造方法、及びソホロリピッド含有組成物の低毒性化方法が含まれる。
【0027】
(III)低毒性SL含有組成物の製造方法
(III-1)SL産生酵母を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処理物を、(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程に供することを特徴とする、(I-1)〜(I-12)のいずれかに記載する低毒性SL含有組成物の製造方法。
【0028】
(III-2)SL産生微生物を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処理物を、さらに(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程、及び(3)ラクトン型SLを除去する工程の少なくとも1方の工程に供することを特徴とする(III-1)に記載する製造方法。
【0029】
(III-3)(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程が、溶剤抽出法、吸着法、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)または(III-2)に記載する製造方法。
【0030】
(III-4)溶剤抽出法がジエチルエーテルを溶剤とする抽出法であり;吸着法が吸着剤として活性炭、シリカゲル、ゼオライト、イオン交換樹脂及び酸化アルミナを用いた方法であり;クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(III-3)に記載する製造方法。
【0031】
(III-5)(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程が、加水分解処理、及び酵素処理から選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)〜(III-4)のいずれかに記載する製造方法。
【0032】
(III-6)酵素処理がアセチルエステラーゼを用いた処理である、(III-5)に記載する製造方法。
【0033】
(III-7)(3)ラクトン型SLを除去する工程が、加水分解処理、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(III-1)〜(III-6)のいずれかに記載する製造方法。
【0034】
(III-8)クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(III-7)に記載する製造方法。
【0035】
(IV)SL含有組成物の低毒化方法
(IV-1)SL産生酵母を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処理物を(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程を有する方法に供し、SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記の範囲にある低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、SL含有組成物の低毒化方法:
(a)酸型SL:94〜99.99質量%、
(b)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(c)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%。
【0036】
(IV-2)酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれるラクトン型SLの割合、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が、それぞれ下記(i)並びに(ii)のいずれか少なくとも一方の範囲にある低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)に記載する低毒化方法:
ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量):好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
【0037】
(IV-3)酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたりに含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合が下記の範囲にある低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)に記載する低毒化方法:
(a)酸型SL:好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、さらに好ましくは99.31質量%以上、
(b)ラクトン型SL:好ましくは0より多く2質量%以下、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.8〜1.5質量%、
(c)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸:好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.24質量%。
【0038】
(IV-4)酸型SL及びラクトン型SLの総量100質量%あたり、酸型SLの割合が98〜100質量%、好ましくは98.5〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%、特に好ましくは99.5〜100質量%であり、ラクトン型SLの割合が0〜2質量%、好ましくは0〜1.5質量%、より好ましくは0〜1質量%である低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-3)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0039】
(IV-5)エタノール可溶分1g相当物のエステル価が0.01〜2mgKOH/g、好ましくは0.01〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.1〜1。5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-4)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0040】
(IV-6)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が460〜630mgKOH/g、好ましくは545〜630mgKOH/g、より好ましくは560〜630mgKOH/g、特に好ましくは575〜630mgKOH/g、さらに特に好ましくは575〜585mgKOH/gである低毒化SL含有組成物を調製することを特徴とする、(IV-1)〜(IV-5)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0041】
(IV-7)SL産生微生物を培養することによって得られるSL含有培養物またはその処理物を、さらに(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程、及び(3)ラクトン型SLを除去する工程の少なくとも1方の工程に供することを特徴とする(IV-1)〜(IV-6)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0042】
(IV-8)(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程が、溶剤抽出法、吸着法、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(IV-1)〜(IV-7)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0043】
(IV-9)溶剤抽出法がジエチルエーテルを溶剤とする抽出法であり;吸着法が吸着剤として活性炭、シリカゲル、ゼオライト、イオン交換樹脂及び酸化アルミナを用いた方法であり;クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(IV-8)に記載する低毒化方法。
【0044】
(IV-10)(2)SLに結合したアセチル基を脱離する工程が、加水分解処理、及び酵素処理から選択される少なくとも一つの処理である、(IV-7)〜(IV-9)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0045】
(IV-11)酵素処理がアセチルエステラーゼを用いた処理である、(IV-10)に記載する低毒化方法。
【0046】
(IV-12)(3)ラクトン型SLを除去する工程が、加水分解処理、及びクロマトグラフィーから選択される少なくとも一つの処理である、(IV-7)〜(IV-11)のいずれかに記載する低毒化方法。
【0047】
(IV-13)クロマトグラフィーが固定相としてODS樹脂、移動相としてエタノール水溶液を用いた逆相カラムクロマトグラフィーである(IV-12)に記載する低毒化方法。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば細胞毒性の低いSL含有組成物を提供することができる。当該低毒性SL含有組成物は、界面活性作用を有するとともに、細胞毒性並びに眼や粘膜に対する刺激性が極めて少ないため、皮膚、傷口及び炎症部に適用される化粧品、医薬品、および医薬部外品等に好適に配合することができるほか、眼粘膜に適用される点眼薬、洗眼液およびコンタクトレンズ用装着液などのアイケア製品、口腔粘膜に適用される口腔用薬、並びに鼻粘膜に適用される点鼻薬などにも好適に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】参考製造例2及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2,実施例品1〜10)、Tween 20、および市販アニオン界面活性剤A〜C(A:「アミノソフトLT-12」(30%):味の素(株)製、B:「サーファクチンNa」(100%):和光純薬工業(株)製、C:「リポランLJ-441」(37%):ライオン(株)製))、SLSについて、細胞毒性試験から算出した細胞致死濃度(IC
50)と試験例2で算出したCMCをプロットしたグラフを示す。
【0050】
(I)一般的なソホロリピッド(公知SL)
ソホロリピッド(SL)は、一般的にソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシ脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとは、β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖である。ヒドロキシ脂肪酸とは、ヒドロキシル基を有する脂肪酸である。また、SLは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型(下記一般式(1))と、分子内のソホロースが結合したラクトン型(下記一般式(2))とに大別される。ある種の酵母(SL産生酵母)の発酵によって得られるSLは、通常、下記一般式(1)で示されるSLと一般式(2)で示されるSLの混合物であり、脂肪酸鎖長(R
3)が異なるもの、ソホロースの6’(R
2)及び6”位(R
1)がアセチル化あるいはプロトン化されたものなど、30種以上の構造同族体の集合体として得られる。
【0053】
前記一般式(1)又は(2)において、R
0は水素原子あるいはメチル基のいずれかである。R
1及びR
2はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基である。R
3は飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも一個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していても良い。該置換基は、例えば、ハロゲン原子、水酸基、低級(C
1〜6)アルキル基、ハロ低級(C
1〜6)アルキル基、ヒドロキシ低級(C
1〜6)アルキル基、ハロ低級(C
1〜6)アルコキシ基等が挙げられる。また、R
3の炭化水素鎖の炭素数は、通常11〜20、好ましくは13〜17、より好ましくは14〜16である。ここでハロゲン原子またはアルキル基やアルコキシ基に結合するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0054】
SL産生酵母の発酵により得られる培養液には、SLが、通常、前記一般式(1)で示される酸型SLと前記一般式(2)で示されるラクトン型SLとの混合物として存在している。当該培養液中に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの割合は、通常45:55〜10:90(乾燥重量比)を挙げることができる。
【0055】
SL産生酵母としては、キャンディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)を好適に挙げることができる。なお、キャンディダ属は、現在スタメレラ(Starmerella)属という名称に変更されている。当該酵母は、SL(酸型、ラクトン型)を著量生産することが知られている公知のSL産生酵母である〔Canadian Journal of Chemistry, 39,846(1961)(注:当該文献に記載されているトルロプシス属は、キャンディダ属に該当するが、上記するように、現在スタメレラ(Starmerella)属に分類されている。)、Applied and Environmental Microbiology, 47,173(1984)など]。なお、キャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラは生物資源バンクであるATCC(American Type Culture Collection)に登録されており、そこから入手することができる(Candida bombicola ATCC22214など)。また、本発明の低毒性SL含有組成物の製造には、SL(酸型、ラクトン型)を産生することが知られているキャンディダ属(スタメレラ属)に属する他のSL産生酵母を使用することもできる。かかるSL産生酵母として、例えばキャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、及びキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ペトロフィラム(Candida petrophilum)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・バチスタエ(Candida batistae)を挙げることができる。なお、これらの酵母の培養液中にSLが比較的多量に生産されることは既に報告されている(R. Hommel, Biodegradation, 1, 107(1991))。
【0056】
またキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)ZM−1502株(FERM P−21133)及びキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)NBRC10700T株は、酸型SLのみを選択的に生産するSL産生酵母であることが知られている(特開2008−247845号公報)。従って、酸型SLを選択的に製造する場合は、当該SL産生酵母を好適に使用することができる。
【0057】
これらのSL産生酵母の培養には、炭素源としてグルコース等の糖類(親水性基質)、並びに脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド等の脂肪酸エステル類、または脂肪酸を構成成分として含む植物油等の油脂類(疎水性基質)を含有する培地が用いられる。培地のその他の成分は、特に制限はなく、酵母に対して一般に用いられる培地成分から適宜選定することができる。
【0058】
(II)低毒性SL含有組成物
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物は、前述する従来公知のSL組成物とは、少なくとも細胞毒性の点で相違し、下記の特徴を備えている。
【0059】
SL産生酵母培養物に由来する着色成分、酸型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を少なくとも含有し、酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量を100質量%とした場合に、それぞれの割合が乾燥重量に換算して下記である;
(1)酸型SL:94〜99.99質量%、
(2)ラクトン型SL:0〜2質量%、
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量:0.01〜4質量%。
【0060】
以下、これらについて説明する。
(1)酸型SLを乾燥物換算で94〜99.99質量%の割合で含有する
これは低毒性SL含有組成物中の酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる酸型SLの割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる酸型SLの割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる酸型SLの割合は94〜99.99質量%であるということができる。当該酸型SLの割合として、好ましくは96.1質量%以上、より好ましくは97.9質量%以上、特に好ましくは99.31質量%以上である。
【0061】
なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、酸型SLを95〜99.86質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれるが(実施例1〜10)、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0062】
当該酸型SLの割合は、低毒性SL含有組成物のエステル価及びエーテル抽出物含量から算出することができる。後述するように、本発明において「エステル価」及び「エーテル抽出物含量」は、それぞれ低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる「ラクトン型SL」の割合及び「脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸」の割合に相当する。従って、100からこれら「エステル価」及び「エーテル抽出物含量」の総和を引いた値が、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SLの割合(質量%)に相当することになる。
【0063】
(2)ラクトン型SLを乾燥物換算で0〜2質量%の割合で含有する
これは低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合は0〜2質量%であるということができる。当該ラクトン型SLの割合は、少ないほうが毒性の低いSL含有組成物を取得するうえで好ましいが、0より多く2質量%以下の範囲で或る程度含まれているほうが表面張力低下能が良好であり、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)に優れる(試験例5参照)。
【0064】
このため、低毒性を主眼とした場合の、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(上限、下限)は、以下の通りである:
上限:好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下、さらに好ましくは0.45質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下、
下限:好ましくは0質量%。なお、SL産生酵母としてラクトン型SLを産生する酵母を使用する場合には0.01質量%を挙げることができる。
【0065】
一方、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)(以下、これらを総称して「界面活性能」という)を良好に保有しながらも、低毒性に優れる低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれるラクトン型SLの割合(上限、下限)は、以下の通りである:
上限:好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、
下限:好ましくは0質量%より多く、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上。
【0066】
なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、ラクトン型SLを0.04〜2.0質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0067】
当該ラクトン型SLの割合は、低毒性SL含有組成物のエステル価(mg KOH/g)から求めることができる。
【0068】
具体的には、本発明でいう「エステル価(mg KOH/g)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるエステルを完全けん化するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるラクトン環のエステル結合の割合を把握することができる。当該エステル価(mg KOH/g)は、SL含有組成物中に含まれるSLの総量(100質量%)に占めるラクトン型SLの割合と相関しており、当該エステル価からエタノール可溶分100質量%中に占めるラクトン型SLの割合を算出することができる。
【0069】
ここでエタノール可溶分は、実質的にはSL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量に相当するため、上記エステル価を求めることで、酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる酸型SLの算出することができる。
【0070】
当該「エステル価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.3-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物のエステル価(mg KOH/g)は通常0〜2mgKOH/gである。低毒化という点からは、好ましくは0〜1.5mgKOH/g、より好ましくは0.01〜0.9mgKOH/g、特に好ましくは0〜0.45mgKOH/gである。一方、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)を良好に保有しながら低毒化を達成する目的からは、好ましくは0より多く(例えば、0.01mgKOH/g)2mgKOH/g以下、より好ましくは0.1〜2mgKOH/g、さらに好ましくは0.1〜1.5mgKOH/g、特に好ましくは0.8〜1.5mgKOH/gである。
【0071】
なお、低毒性SL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLの総量を100質量%とした場合、これに含まれる酸型SLとラクトン型SLの割合(酸型SL:ラクトン型SL、重量比)としては、98:2〜100:0、好ましくは98.5:1.5〜100:0、より好ましくは99:1〜100:0である。なお、SL産生酵母としてラクトン型SLを産生する酵母を使用する場合、酸型SLが100質量%にならない場合もあり、この場合は酸型SLとラクトン型SLの割合(重量比)が99.99:0.01であってもよい。
【0072】
(3)脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を乾燥物換算で総量0.01〜4質量%の割合で含有する
これは低毒性SL含有組成物の酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合(乾燥物重量)である。これは、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の合計の割合に相当する。従って、低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の合計の割合は0.01〜4質量%であるということができる。
【0073】
ここで対象とする脂肪酸は、SL産生酵母の培養に使用する培地に含まれる脂肪酸であって、実施例で説明するエーテル抽出物含量の測定方法により当該エーテル抽出物として算出される脂肪酸である。具体的には、炭素数6〜24の飽和または不飽和脂肪酸である。より具体的にはカプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、およびアラキジン酸(C20)、ドコサン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)などの飽和脂肪酸;パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、およびリノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキエン酸(C22:6)などの不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0074】
またここで対象とするヒドロキシ脂肪酸としては、上記の脂肪酸において少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基で置換されてなる脂肪酸を挙げることができる。
【0075】
当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合は、上限として好ましくは2.4質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは0.24質量%以下である。また下限としては好適には0.01質量%を挙げることができる。脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の量はできるだけ少ないほうが毒性が低いSL含有組成物を取得するうえで望ましいものの、本発明においては0.01〜4質量%の範囲で或る程度含まれているほうが、酸型SLの界面活性能が維持されるという利点がある。拘束されるものではないが、その理由として、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸が被験試料中で一種のキレート効果を発揮することが挙げられる。具体的には、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のキレート作用により、被験試料中に含まれるK、Na、Ca及びMg等の金属イオンが補足される結果、当該金属イオンと酸型SLとの塩形成が抑制されて、酸型SLの界面活性剤としての効果が維持されるものと考えられる。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を総量で0.1〜4質量%の割合で含む低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0076】
なお、本発明の低毒性SL含有組成物に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の中で主流をなすものは炭素数16及び18の飽和及び不飽和脂肪酸である。具体的には低毒性SL含有組成物に含まれる主な脂肪酸は、炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の二重結合が1または2の不飽和脂肪酸である。また、低毒性SL含有組成物に含まれる主なヒドロキシ脂肪酸は、炭素数16の飽和脂肪酸及び炭素数18の二重結合が1または2の不飽和脂肪酸である(試験例1、表2参照)。このため、上記脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合は、実質的にこれら炭素数16及び18の脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)の割合であるということもできる。
【0077】
当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合は、低毒性SL含有組成物のエーテル抽出物含量(%)から求めることができる。
【0078】
具体的には、本発明でいう「エーテル抽出物含量(%)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)からエーテルを用いて抽出される物質の割合(質量%)であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を把握することができる。つまり、当該「エーテル抽出物含量(%)」はエタノール可溶分100質量%に占める脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合と相関しているため、当該「エーテル抽出物含量(%)」からエタノール可溶分100質量%に占める当該脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を算出することができる。前述するように、エタノール可溶分は、実質的にはSL含有組成物に含まれる酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量に相当するため、上記「エーテル抽出物含量(%)」を求めることで、酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%中に含まれる脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の量を算出することができる。
【0079】
当該「エーテル抽出物含量(%)」の測定方法の詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の「エーテル抽出物含量(%)」は、通常0.01〜4質量%、好ましくは0.01〜2.4質量%、より好ましくは0.01〜1.2質量%、特に好ましくは0.01〜0.24質量%である。とりわけ、0.1〜4質量%の範囲を例示することができる。
【0080】
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物には、前述する(1)〜(3)の特性に加えて、下記の(4)及び(5)の少なくとも1つの特性を備えるものが含まれる。
(4)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が460〜630mgKOH/gである。
(5)エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性SL含有組成物を溶解した水溶液の吸光度(OD
440)が0.001〜1である。
【0082】
(4)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価が460〜630mgKOH/gである
本発明でいう「水酸基価(mg KOH/g)」とは、エタノール可溶分1gに相当する試料(低毒性SL含有組成物)に含まれる化合物のOH基を完全にアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数であり、これにより当該試料(低毒性SL含有組成物)に含まれるSL中のフリーの水酸基の割合を測定することができる。水酸基価(mg KOH/g)が高ければSL中に含まれるフリーの水酸基の割合が多く(つまりアセチル化されている水酸基が少ない=アセチル基が少ない)、水酸基価(mg KOH/g)が低ければSL中に含まれるフリーの水酸基の割合が低い(つまりアセチル化されている水酸基が多い=アセチル基が多い)という関係にある。
【0083】
当該「水酸基価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.6.2-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の「水酸基価(mg KOH/g)」は、エタノール可溶分1g相当の試料について、前述するように460〜630mgKOH/gであることが望ましい。好ましくは545〜630mgKOH/g、より好ましくは560〜630mgKOH/g、特に好ましくは575〜630mgKOH/gである。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、水酸基価が575〜585mg KOH/gである低毒性SL含有組成物が含まれるが(実施例1〜10)、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0084】
(5)エタノール可溶分が10質量%になるように低毒性SL含有組成物を溶解した水溶液の吸光度(OD440)が0.001〜1である
本発明が対象とする低毒性SL含有組成物は白色以外の色に着色している。
【0085】
酸型SL、ラクトン型SL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸はいずれも無色または白色を呈することから、低毒性SL含有組成物の着色は、酸型SL、ラクトン型SL、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸以外に着色成分を含むことを意味する。なお、着色成分はSL産生酵母の培養物に由来するものであり、この限りにおいて特に制限されるものではない。可能性の一例を挙げるとメラノイジンを例示することができるが、これに拘束されることはない。
【0086】
なお、本発明の低毒性SL含有組成物の着色程度は、具体的には、低毒性SL含有組成物をアルカリ溶液(2% Na
2CO
3in 0.1N NaOH)に溶解し、エタノール可溶分の総濃度が10質量%になるように調製した水溶液の波長440nmにおける吸光度(色相:OD
440)を測定することで評価することができる。本発明の低毒性SL含有組成物を上記のように調製した場合、その水溶液の色相(OD
440)は0.001〜1の範囲にある。好ましくは0.005〜0.8、より好ましくは0.01〜0.6、特に好ましくは0.01〜0.5である。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、色相(OD
440)が0.1〜0.4である低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜7)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0087】
さらにまた本発明が対象とする低毒性SL含有組成物は、上記の特性に加えて、下記(a)〜(c)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする:
(a)蒸発残分:1〜100%、
(b)乾燥減量:0〜99%、
(c)エタノール可溶分:1〜100%。
【0088】
ここで「蒸発残分(%)」とは、試験例1で説明するように、試料を蒸発させた時の残分を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では低毒性SL含有組成物中に混在する物、特に高沸点の混在物の含量を把握することができる。当該「蒸発残分(%)」は、JIS K0067−1992の第2法に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の蒸発残分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは60〜100%、さらにより好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、より特に好ましくは90〜100%である。
【0089】
また「乾燥減量(%)」とは、試験例1で説明するように試料を乾燥した時の減量を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では低毒性SL含有組成物中の水分その他の揮発性物質(低沸点化合物)の含量を把握することができる。当該「乾燥減量(%)」は、JIS K0067−1992の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物の乾燥減量(%)は0〜99%であり、好ましくは0〜95%、より好ましくは0〜90%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは0〜30%、さらにより好ましくは0〜20%、特に好ましくは0〜20%、より特に好ましくは0〜10%である。
【0090】
また「エタノール可溶分(%)」とは、試験例1で説明するように、試料中に含まれるエタノールに溶解する物質の含量(質量%)であり、これにより試料中に混在するエタノール溶解性の極性物質、例えば界面活性剤等の含量を把握することができる。当該「エタノール可溶分(%)」は、JIS K3362−2008に従って測定することができる。その詳細は、試験例1で説明する通りである。本発明の低毒性SL含有組成物のエタノール可溶分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは85〜100%、さらにより好ましくは90〜100%、特に好ましくは95〜100%、より特に好ましくは98〜100%である。エタノール可溶分(%)は、対象の試料、本発明においては低毒性SL含有組成物を100質量%とした場合の酸型SLおよびラクトン型SL、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸の含有割合(質量%)を示す。
【0091】
本発明の低毒性SL含有組成物は、より好ましくは赤外吸収スペクトルが、少なくとも波数1024cm
−1付近、1706〜1730cm
−1付近、2854cm
−1付近、2924cm
−1付近、および3000〜3500cm
−1付近に赤外線吸収バンド(吸収ピーク)を有する。
【0092】
本発明の低毒性SL含有組成物はその形状を特に制限せず、液状であっても、乳液状であっても、また固体形状であってもよい。好ましくは固体形状であり、かかる固体形状には、錠剤形態、丸剤形態、粉末形態、顆粒形態、カプセル形態を挙げることができる。好ましくは粉末形態または顆粒形態であり、より好ましくは粉末形態である。
【0093】
本発明の低毒性SL含有組成物は、界面活性作用を有しながらも、その製造過程で生じるSL産生酵母発酵副産物のうち、細胞毒性を示す成分が選択的に除去され、それらの混入が少ないことを特徴とする。細胞毒性を示す成分としては、例えばラクトン型SL;炭素数16及び18の脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸;及びアセチル基を有するSL等を挙げることができるが、これらに制限されることはない。
【0094】
本発明の低毒性SL含有組成物の毒性は、例えばHela細胞(ヒト子宮頸部上皮癌由来細胞)を用いた細胞毒性試験から算出される細胞致死濃度(IC
50)で評価することができる。ただし、界面活性作用との両面から低毒性SL含有組成物の作用効果を評価するうえでは、低毒性SL含有組成物の「細胞致死濃度(IC
50)」を低毒性SL含有組成物の「臨界ミセル濃度(CMC)」で除算した値(IC
50/CMC)を求めることが好ましい。
【0095】
Hela細胞を用いた細胞毒性試験及びそれから細胞致死濃度(IC
50)を算出する方法、及び臨界ミセル濃度(CMC)の測定方法は、それぞれ試験例3及び2において詳述する通りである。
【0096】
本発明の低毒性SL含有組成物のHela細胞に対する細胞致死濃度(IC
50)としては、2000〜60000ppmを挙げることができる。好ましくは3000〜60000ppm、より好ましくは5000〜60000ppm、特に好ましくは10000〜60000ppmである。
【0097】
本発明の低毒性SL含有組成物の臨界ミセル濃度(CMC)としては、50〜500ppmを挙げることができる。好ましくは50〜400ppm、より好ましくは、50〜300ppm、特に好ましくは100〜300ppmである。
【0098】
これらの細胞致死濃度(IC
50)及び臨界ミセル濃度(CMC)から算出される本発明の低毒性SL含有組成物の「IC
50/CMC」は6.7〜200の範囲であり、好ましくは10〜200、より好ましくは17〜200、特に好ましくは33〜200である。なお、本発明の低毒性SL含有組成物には、「IC
50/CMC」が106.7〜200である低毒性SL含有組成物が含まれる(実施例1〜10)。但し、これらは本発明の一態様であり、これらに限定されるものではない。
【0099】
また試験例3で説明するように、本発明の低毒性SL含有組成物はその細胞致死濃度(IC
50)から眼や粘膜に対する刺激性も極めて低く、低毒性であると同時に眼や粘膜に対して低刺激性(無刺激性)でもある。
【0100】
(III)低毒性SL含有組成物の用途
上記に説明するように本発明の低毒性SL含有組成物は、界面活性作用を有しながらも、細胞毒性及び眼や粘膜に対する刺激性が極めて少なく、実用濃度では実質的に無毒性及び無刺激性といえることから、低毒性且つ低刺激性のアニオン性界面活性剤として使用される他、安全性や低刺激性(無刺激性)が求められる飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品等に好適に用いることができる。また飲食品用、医薬品用、医薬部外品用または香粧品用の添加剤として用いることもできる。
【0101】
なお、ここで飲食品には、一般の食品や飲料のほか、健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントなどの、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂取される飲食物が含まれる。またここで香粧品とは、「化粧品」と、香水、オーデコロン、及びパヒューム等の「芳香製品」を包含する概念で用いられる。なお、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法(例えば、貼付など)で使用されることが目的とされるものであり、例えばメーキャップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、基礎化粧品(化粧水、乳液など)、頭髪用化粧品(ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリームなど)、トイレタリー製品(歯磨き、洗口剤、シャンプー、リンス、石けん、洗顔料、入浴剤など)を例示することができる。
【0102】
本発明の低毒性SL含有組成物は、なかでも低刺激性(無刺激性)が求められる外用組成物に好適に用いることができる。かかる外用組成物としては、具体的には過敏性肌用の香粧品(化粧品、芳香製品)、創傷や炎症のある皮膚に適用される外用医薬品または医薬部外品、眼、鼻腔または口腔内等の粘膜に適用される医薬品または医薬部外品(例えば、点鼻薬や点眼薬、眼軟膏、洗眼液や洗鼻液、コンタクトレンズ装着液などのアイケア製品)などを例示することができる。
【0103】
本発明の低毒性SL含有組成物をアニオン性界面活性剤として使用する場合、低毒性SL含有組成物をそのままアニオン性界面活性剤として用いてもよいし、また界面活性効果を奏し、かつ低毒性/低刺激性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、他成分を配合してもよい。かかる他成分としては、溶剤としての蒸留水、イオン交換水、及びエタノール等;添加剤としての塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等;可溶化剤としてのグリセリン、プロピレングリコール、及びヘキシレングリコール等;増粘剤としてのキサンタンガム、アルギン酸、及びデキストラン等;pH調整剤としての塩酸、硫酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等;キレート剤としてリン酸化合物、ニトリロ三酢酸(NTA)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等;そのほか、色素、及び酵素などを例示することができるが、これらに制限されるものではない。他成分を配合する場合、当該アニオン性界面活性剤に含まれる本発明の低毒性SL含有組成物の量としては、界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、酸型SLの量に換算して0.005〜99.9質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%を例示することができる。
【0104】
本発明の低毒性SL含有組成物を飲食品、医薬品、医薬部外品または香粧品の添加剤(食品添加剤、医薬品添加剤、医薬部外品添加剤)として使用する場合、低毒性SL含有組成物はそれをそのままこれらの添加剤として用いてもよいし、また所望の界面活性効果を奏し、かつ低毒性/低刺激性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、他成分を配合してもよい。かかる他成分は、飲食品、医薬品、医薬部外品または香粧品などの対象製品に応じて適宜設定することができる。他成分を配合する場合、当該添加剤に含まれる本発明の低毒性SL含有組成物の量としては、所望の界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、酸型SLの量に換算して0.005〜99.9質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%を例示することができる。
【0105】
本発明の低毒性SL含有組成物を飲食品、医薬品、医薬部外品または香粧品に添加して用いる場合、つまり本発明の低毒性SL含有組成物を用いて飲食品、医薬品、医薬部外品または香粧品を調製する場合、これら各種製品に配合する低毒性SL含有組成物の量は、各製品の目的や性状に応じて、所望の界面活性効果を発揮する範囲で適宜設定される。制限はされないものの、本発明の低毒性SL含有組成物は、飲食品、医薬品、医薬部外品または香粧品に対して添加することで、これらの飲食品などのCMCが300ppm以上になるような割合を挙げることができる。例えば、これらの飲食品等に配合される酸型SLの量に換算して0.005〜99.9質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%を例示することができる。
【0106】
(IV)低毒性SL含有組成物の製造方法
(IV-1)原料(SL含有培養物またはその処理物)
低毒性SL含有組成物の製造の原料として用いるSL含有培養物またはその処理物としては、SL産生酵母の培養物またはその処理物であってSLを含有する粗精製物を広く挙げることができる。SL産生酵母としては公知のものを用いることができ、例えば、前述するキャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラ(Candida bombicola)を好適に挙げることができる。なお、キャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラは生物資源バンクであるATCCに登録されており、そこから入手することができる(Candida bombicola ATCC22214など)。また、本発明の低毒性SL含有組成物の製造には、SL(酸型、ラクトン型)を産生することが知られているキャンディダ属に属する他のSL産生酵母を使用することもできる。かかるSL産生酵母として、例えばキャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、及びキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ペトロフィラム(Candida petrophilum)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・バチスタエ(Candida batistae)を挙げることができる。これらの酵母は、保存機関から分譲された菌株又はその継代培養によって得られた菌株であってもよい。ここで、ロドトルラ(キャンディダ)・ボゴリエンシス NRCC9862(Rhodotorula(Candida)bogoriensis NRCC9862)が生産するSLは、13−[(2’−O−β−D−glucopyranosyl−β−D−glucopyranosyl)oxy] docosanoic acid6’, 6”−diacetateであり、アルキル基の中央のヒドロキシル基とソホロースがグリコシド結合している。このSLは前記一般式(1)及び(2)とは異なるが、ソホロースとヒドロキシ脂肪酸から構成される点では同じであり、本発明が対象とするSLに含まれる。
【0107】
またキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)ZM−1502株(FERM P-21133)及びキャンディダ・フロリコーラ(Candida floricola)NBRC10700T株は、酸型SLのみを選択的に生産するSL産生酵母として、本発明において好適に使用することができる。なお、以下、当該SL産生酵母を、上記の酸型SL及びラクトン型SLの両者を産生するSL産生酵母(ラクトン型/酸型SL産生酵母)と区別するため、「酸型SL産生酵母」とも称する。
【0108】
さらに非特許文献2に記載されているアセチルトランスフェラーゼ欠失キャディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)を使用することもでき、かかるアセチルトランスフェラーゼ欠失SL産生酵母によれば、非アセチル化SLを1段で製造することができる。
【0109】
SL産生酵母の培養方法としては、例えば、高濃度の糖と疎水性の油性基質を同時に与えて培養する方法等が好ましく挙げられる。又は、これに限らず、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法を適用できる。当該公知の方法は、特開2002−045195号公報(特許文献2)等に記載されたものであってもよい。具体的には、糖としてグルコース、疎水性の油性基質として脂肪酸と植物油からなる炭素源を用いて、SL産生酵母を培養する手法を用いることができる。
【0110】
培地組成は、特に限定されないが、SLの脂肪酸部分は、培地成分として添加する疎水性基質の脂肪酸鎖長やその割合に依存することが知られており、ある程度の制御が可能である。たとえば、疎水性基質としては、オレイン酸あるいはオレイン酸を高い割合で含有する脂質が好適である。たとえば、パーム油、米ぬか油、ナタネ油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油、及び豚脂や牛脂などの動物油が挙げられる。安定的に高い収量・収率でSLを発酵生産させる場合、炭素源として親水性の糖と疎水性の油脂を混合したものが好ましい。親水性基質としては、グルコースが多用される。
【0111】
得られた培養液から、例えば遠心分離やデカンテーション等の定法の固液分離法で液成分を分離除去した後、固形分を水洗いすることにより、SL含有画分(SL含有培養物)を得ることができる。なお、ラクトン型/酸型SL産生酵母の培養によって得られるSL含有画分(SL含有培養物)は、ラクトン型SLと酸型SLとの混合物(ラクトン型/酸型SL含有組成物)であり、通常、酸型SLの含有率はSL総量中45質量%未満(固形換算)である。一方、酸型SL産生酵母の培養によって得られるSL含有画分(SL含有培養物)に含まれるSLは、そのすべてが酸型SLである。
【0112】
SL産生酵母の培養液から、ラクトン型/酸型SL含有組成物(または酸型SL含有組成物)を回収する方法は、本発明の効果を妨げない限り、公知の方法であってよく、例えば、特開2003−9896号公報(特許文献3)等に記載された方法を挙げることができる。かかる方法は、SL産生酵母の培養液またはそれから調製したSL含有画分のpHを調整することで、水に対するSLの溶解性を制御する方法である。具体的には、例えばSL産生酵母の培養液のpHをNaOH水溶液等で6〜7程度に調整してSLを可溶化し、これを遠心分離して回収した上清に、次いで硫酸水溶液等を添加してpH2〜3程度に調整することでSLを不溶化する。これを静置後、デカンテーションすることで約50%含水物としてラクトン型/酸型SL含有組成物(または酸型SL含有組成物)を調製することができる。
【0113】
(IV-2)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)
本発明の低毒性SL含有組成物は、SL含有培養物またはその処理物を少なくとも(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)に供することで調製することができる。
【0114】
脂肪酸除去方法としては、(a)溶剤抽出法、(b)吸着法、及び(c)クロマトグラフィーを例示することができる。なお、これらの脂肪酸除去方法は、一種単独で行ってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。2以上の処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされないが、好ましくは(a)→(c)または(b)→(c)などのように溶媒抽出または吸着を先に行うことが好ましい。
【0115】
(a)溶剤抽出法
溶剤抽出法は、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸がSLよりも疎水性が高いことを利用した分離方法である。一般的にSLを含有する溶液(通常、水)と相溶性のない溶剤を使用して、疎水性化合物である脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸をSL含有液から抽出除去する方法である。溶剤として使用されるものは、SL含有液と相溶性のない溶剤であればよく、特に制限されないものの、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル(エーテル)、及びヘキサンなどが挙げられる。特に酸型SLの回収率と脂肪酸およびヒドロキシ脂肪酸の除去率の高さからジエチルエーテル(エーテル)が好ましい。
【0116】
また、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の除去率を上げるために処理対象のSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域にすることで、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基がプロトン化され、より溶剤に回収され易くなる。特に制限はされないものの、酸性領域として、pH6程度以下を挙げることができる。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の有機酸等が使用される。
【0117】
前記溶剤抽出法の具体的な操作を、例えば溶剤としてジエチルエーテル(エーテル)、pH調整剤として硫酸を用いる場合を例にして説明すると、まずSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)をエタノール可溶分が20質量%となるように分液漏斗に加えてpHを3に調整し、全量を蒸留水で100mlにする。次いで、これにエーテルを1/2〜2倍容量加えて激しく混合して静置し、下層を別の分液漏斗に移す。さらに別の分液漏斗に移した水相成分にエーテルを1/2〜2倍容量加えて同様に激しく混合して静置する。こうした抽出操作を、少なくとも計2回、好ましくは3回以上行う。抽出作業後は、加温または減圧を行ってエーテルを除去することが好ましい。
【0118】
(b)吸着法
吸着法は、使用する吸着剤に対するSL並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の親和性の差を利用した分離方法である。吸着剤としては、一般的に疎水性化合物を選択的に吸着することができるものを使用することができ、例えば活性炭、シリカゲル、ゼオライト、及びイオン交換樹脂などが挙げられる。また、特開2008−64489号公報に記載されている酸化アルミナも用いることができる。疎水性の高い化合物を吸着するうえで特に好ましいのは活性炭である。なお、イオン交換樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、及び弱塩基性アニオン交換樹脂を挙げることができる。好ましくは強塩基性アニオン交換樹脂、及び弱塩基性アニオン交換樹脂である。
【0119】
また、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の吸着除去率を上げるために処理対象のSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域にすることで、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基がプロトン化され、より吸着剤に吸着され易くなる。特に制限はされないものの、酸性領域として、pH6程度以下を挙げることができる。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
【0120】
前記吸着法の具体的な操作を、例えば吸着剤として活性炭、pH調整剤として硫酸を用いる場合を例にして説明すると、まずエタノール可溶分30質量%相当のSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)に硫酸を添加してpH3に調整し、これに活性炭を全量の5〜15質量%となるように加えて混合する。活性炭による脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の吸着効率の向上、及び活性炭のろ過除去の観点から、上記混合液は加温することもできる。加温温度は特に制限されないが、40〜100℃未満、好ましくは50〜100℃未満、より好ましくは55〜100℃未満、特に好ましくは60〜100℃未満を例示することができる。
【0121】
(c)クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは、両親媒性であるSLの構造を利用した分離方法である。一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、または合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。当該逆相クロマトグラフィーによると、環境及び人体に対して安全性の高い溶離液(移動相)を使用することができる。
【0122】
クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。シリカゲル担体に疎水性オクタデシル基等が化学修飾されたODS樹脂を用いることで、SLのアルキル側鎖との疎水性相互作用を利用して、SL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)から効率的に脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を除去することができる。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。当該溶離液には、好ましくは揮発性の酸成分を0.01〜0.2容量%、好ましくは0.05〜0.1容量%程度の割合で配合しておくことが好ましく、かかる酸成分としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)を例示することができる。
【0123】
また、固定相への酸型SLの吸着量を増加させて、酸型SLの回収率を上げるために、クロマトグラフィーに供するSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域としては、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
【0124】
前記クロマトグラフィーの具体的な操作を、例えば固定相としてODS樹脂、移動相をとしてエタノール水溶液を用いる場合を例にして説明すると、固定相にSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)を供した後、約70〜80%(容量%を意味する。以下同じ)未満のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことで脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸などを含む不純物を吸着保持させた状態で酸型SL含有画分を回収することができる。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。
(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約70〜80%未満濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約70〜80%未満の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。
(2)分離塔塔頂からSL含有組成物(SL含有培養物の処理物)を添加する。
(3)分離塔塔頂から約70〜80%未満濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL含有画分を選択的に溶出させて回収する。
【0125】
なお、(1)及び(3)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また上記の濃度範囲内の同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度70%のエタノール水溶液で平衡化した固定相(カラム充填剤)に[(1)工程]、SL含有組成物を添加し[(2)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL含有画分を溶出させ回収する[(3)工程]方法を例示することができる。また、[(3)工程]の前に、SL含有培養物中の臭気成分、色素成分、塩類を酸型SL含有画分から除去することを目的に70%未満のエタノール水溶液を用いることができる[(3´)工程]。その場合は[(1)工程]で平衡化させるエタノール濃度[(3´)工程]で使用するエタノール濃度と一致させる。
【0126】
本発明の低毒性SL含有組成物は、SL含有培養物またはその処理物を、前述する(1)脂肪酸及び/又はヒドロキシ脂肪酸を除去する工程(脂肪酸除去工程)に加えて、(2)SLのアセチル基を脱離する工程(脱アセチル化工程)、及び(3)ラクトン型SLを除去する工程(ラクトン型SL除去処理工程)の少なくとも1方の工程に供することで調製することもできる。以下にこれらの処理工程について説明する。
【0127】
(IV-3)SLのアセチル基を脱離する工程(脱アセチル化工程)
脱アセチル化方法としては、(d)加水分解処理、及び(e)酵素処理を例示することができる。なお、これらの脱アセチル化方法は、一種単独で行ってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。2以上の処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされない。なお、脱アセチル化工程は、SL含有培養物またはその処理物が、アセチル化SLを産生するSL産生酵母によって調製されたものである場合に好適に用いられる処理工程であり、SL含有培養物またはその処理物が、非アセチル化SLを選択的に産生するSL産生酵母(アセチルトランスフェラーゼ欠失SL産生酵母)によって調製されたものである場合に適用されない。
【0128】
(d)加水分解処理
加水分解処理には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、加水分解処理には、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う場合の温度、圧力及び時間は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるSLのアセチル基を脱離するという目的及び効果が達成できるものである限り特に制限されないが、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的に脱アセチル化を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するSL含有組成物中のSLに結合しているアセチル基の数によって適宜設定できる。
【0129】
(e)酵素処理
酵素を用いてSLに結合しているアセチル基を解離する方法は、アセチルエステルからアルコールと酢酸を生成する酵素を利用した方法である。酵素として利用されるのは、一般的にアセチルエステラーゼであり、例えばAspergillus niger、Rhodococcus sp.、Meyerozyma guilliermondiiから単離されたアセチルエステラーゼが挙げられる。
【0130】
アセチルエステラーゼの反応に適している条件はpH5〜8であり、好ましくは6〜7.5である。pH調整剤として、この範囲の中に納まるのであれば、通常使用されるpH調整剤を使用することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、塩酸などが使用できる。反応温度としては、20〜40℃が好ましく、20〜35℃が特に好ましい。反応時間は通常6時間以上行われ、12時間以上が好ましく、特に好ましいのは1日以上である。
【0131】
前記酵素を用いた脱アセチル化処理は、本発明の目的効果を妨げない限り特に限定されないが、例えばSL含有組成物を10質量%となるように0.1Mリン酸水溶液(pH7.0)に投入し、アセチルエステラーゼを50Uとなるように加え、室温(25℃)で1日攪拌を行う方法を例示することができる。
【0132】
(IV-4)ラクトン型SLを除去する工程(ラクトン型SL除去工程)
ラクトン型SL除去方法としては、(f)加水分解処理、及び(g)クロマトグラフィーを例示することができる。これらのラクトン型SL除去方法は、(f)及び(g)のいずれかひとつを単独で行ってもよいし、2つを任意に組み合わせて使用することもできる。2つの処理を併用する場合、処理の順序は順不同であり特に制限はされないが、好ましくは(f)→(g)である。なお、ラクトン型SL除去処理工程は、SL含有培養物またはその処理物が、酸型SLとラクトン型SLの両方を産生するSL産生酵母(ラクトン型/酸型SL産生酵母)によって調製されたものである場合に好適に用いられる処理工程であり、SL含有培養物またはその処理物が、酸型SLを選択的に産生するSL産生酵母(酸型SL産生酵母)によって調製されたものである場合に適用されない。
【0133】
(f)加水分解処理
ここで用いられる加水分解処理は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLのラクトン環を開環して酸型SLに変換する処理である。
【0134】
当該加水分解処理には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、加水分解処理には、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う場合の温度、圧力及び時間は、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLのラクトン環を開環するという目的及び効果が達成できるものである限り特に制限されないが、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的にラクトン環の開環を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するSL含有組成物中に含まれるラクトン型SLの割合によって適宜設定できる。
【0135】
(g)クロマトグラフィー
ここで用いられるクロマトグラフィーは、SL含有培養物またはその処理物に含まれるラクトン型SLを選択的に除去する処理である。
【0136】
一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。
【0137】
クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。当該溶離液には、好ましくは揮発性の酸成分を0.01〜0.2容量%、好ましくは0.05〜0.1容量%程度の割合で配合しておくことが好ましく、かかる酸成分としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)を例示することができる。
【0138】
また、固定相への酸型SLの吸着量を増加させて、酸型SLの回収率を上げるために、クロマトグラフィーに供するSL含有液のpHを予め酸性領域に調整しておくことが好ましい。酸性領域としては、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH2〜4程度である。SL含有液(SL含有培養物またはその処理物)の酸性領域への調整は、通常pH調整剤が用いられる。pH調整剤は、上記(a)にて説明したものが同様に使用できる。
【0139】
前記クロマトグラフィーの具体的な操作を、例えば固定相としてODS樹脂、移動相をとしてエタノール水溶液を用いる場合を例にして説明すると、固定相にSL含有組成物(SL含有培養物またはその処理物)を供した後、約70〜80%(容量%を意味する。以下同じ)未満のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことでラクトン型SLを含む不純物を吸着保持させた状態で酸型SL含有画分を回収することができる。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。
(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約70〜80%未満濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約70〜80%未満の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。
(2)分離塔塔頂からSL含有組成物(SL含有培養物の処理物)を添加する。
(3)分離塔塔頂から約70〜80%未満濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL含有画分を選択的に溶出させて回収する。
【0140】
なお、(1)及び(3)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また上記の濃度範囲内の同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度70%のエタノール水溶液で平衡化した固定相(カラム充填剤)に[(1)工程]、SL含有組成物を添加し[(2)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL含有画分を溶出させ回収する[(3)工程]方法を例示することができる。また、[(3)工程]の前に、SL含有培養物中の臭気成分、色素成分、塩類を酸型SL含有画分から除去することを目的に70%未満のエタノール水溶液を用いることができる[(3´)工程]。その場合は[(1)工程]で平衡化させるエタノール濃度[(3´)工程]で使用するエタノール濃度と一致させる。
【0141】
本発明の低毒性SL含有組成物の製造方法は、SL含有培養物またはその処理物に、上記で説明する(IV-2)脂肪酸除去工程を単独で行うものであってもよいし、また(IV-2)脂肪酸除去工程に(IV-3)脱アセチル化工程および/または(IV-4)ラクトン型SL除去工程を組み合わせてなるものであってもよく、この場合、これらの工程の順序は、本発明の目的が達成できる限りにおいて特に制限されない。
【0142】
2以上の工程の組み合わせ態様としては、例えば、SL含有培養物またはその処理物が酸型SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、特許文献1参照)、(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))の後に(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))を実施してもよいし、逆に(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))の後に(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))を実施してもよい。制限はされないが、(IV-3)脱アセチル化工程後に(IV-2)脂肪酸除去工程を行うことが好ましく、具体的には(d)加水分解処理及び(e)酵素処理のいずれか少なくともひとつの処理後に、(a)溶剤抽出法、(b)吸着法及び(c)クロマトグラフィーからなる処理のうちいずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。好ましくは(d)加水分解処理と(a)溶剤抽出法及び/または(c)クロマトグラフィーとの組み合わせである。
【0143】
また、例えば、SL含有培養物またはその処理物がラクトン型/酸型SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、参考製造例1参照)、(IV-4)ラクトン型SL除去工程(例えば、(f)〜(g))後に、(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))及び(IV-3)脱アセチル化工程(例えば、(d)〜(e))の少なくともひとつの工程を順不同に組み合わせて実施してもよい。なお、(IV-4)ラクトン型SL除去工程である(f)及び(g)は、それぞれ(IV-3)脱アセチル化工程の(d)及び(IV-2)脂肪酸除去工程の(c)と重複するので、(IV-4)ラクトン型SL除去処理をすることで同時に(IV-3)脱アセチル化または(IV-2)脂肪酸除去をすることができる。好ましい組み合わせとしては、(d)(または(f))加水分解処理後に、(a)溶剤抽出法または(c)(または(g))クロマトグラフィーのいずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。
【0144】
さらにまた、例えば、SL含有培養物またはその処理物がアセチルトランスフェラーゼ欠失SL産生酵母から調製されたものである場合(例えば、非特許文献2参照)、(IV-4)ラクトン型SL除去工程(例えば、(f)〜(g))と(IV-2)脂肪酸除去工程(例えば、(a)〜(c))とを順不同に組み合わせて実施してもよい。好ましい組み合わせとしては、 (f)加水分解処理後に、(a)溶剤抽出法または(c)クロマトグラフィーのいずれか少なくともひとつの処理を実施する方法を挙げることができる。
【0145】
(V)SL含有組成物の低毒化方法
前述する製造方法によれば、SL産生酵母から調製とされるSL含有組成物を低毒化及び低刺激性化し、本発明の低毒性SL含有組成物を取得することができる。従って、上記の製造方法は、SL産生酵母の培養により製造されるSL含有組成物の低毒化方法または低刺激性化方法と言い換えることができる。
【0146】
当該低毒化方法(または低刺激性化方法)は、上記(IV)に記載する方法に従って実施することができ、当該欄には前述する(IV)欄の記載のすべてが援用される。また当該低毒化方法(または低刺激性化方法)により、(III)欄で説明した本発明の低毒性SL含有組成物を調製し取得することができる。従ってSL産生酵母から調製とされるSL含有組成物を低毒化及び低刺激性化することによって得られる低毒性SL含有組成物については(III)欄の記載のすべてが援用される。
【実施例】
【0147】
以下に本発明を実施例及び試験例に基づいてより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例及び試験例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
【0148】
参考製造例1:SLの産生(粗精製SL含有組成物−1の調製)
培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candidabombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。
【0149】
この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5〜4.8)を用いた。
【0150】
培養開始から6日目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2〜3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄を除去した後、工業用水または地下水を、除去した上澄の量と同量添加した。これを攪拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5〜6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄を回収した。回収した上澄を攪拌しながら、これに62.5質量%濃度の硫酸水溶液を徐々に加えてpH2.5〜3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄を可能な限り除去し、残留物を「粗精製SL含有組成物−1」(約50%含水物、参考製造例品1)として取得した。
【0151】
参考製造例2:粗精製SL含有組成物−2の調製
前記参考製造例1で分取した粗精製SL含有組成物−1に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH14に調整し、80℃で2時間処理して加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、室温に戻してから硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH7.5に調整し、発生した不溶物をろ過除去して、ろ液を「粗精製SL含有組成物−2」(参考製造例品2)として得た。
【0152】
実施例1:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。
【0153】
これを下記条件の逆相カラムクロマトグラフィーに供した。
固定相:C18カラム(コスモシル40C18―PREP、ナカライテスク、15kg)移動相:50%及び70% エタノール水溶液。
【0154】
具体的には、pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2 1.2kg(固定相充填量15kgに対し、エタノール可溶分として約3%の粗精製SL含有組成物−2)をC18カラムに添加し、まずこれに50%エタノール水溶液35Lを供することにより、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続きカラムに70%エタノール水溶液30Lを供して、70%エタノール溶液が溶出し始めてから最初の15LをSL含有画分としてC18カラムから回収した。
【0155】
得られたSL含有液をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品1)。
【0156】
実施例2:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。
【0157】
pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2 1.2kgを分液漏斗に投入し、400mlのジエチルエーテルを加えて混合し、2層に分離させてから下層を新たな分液漏斗に回収した。再度400mlのジエチルエーテルを加え、ジエチルエーテルによる抽出作業を3回行った。下層から抜き取った回収液を50℃条件下においてエーテルの臭気が感じなくなるまで放置したあと、実施例1と同様に逆相カラムクロマトグラフィーに供した。具体的にはジエチルエーテルを揮発させた上記回収液をC18カラムに添加し、まずこれに50%エタノール水溶液35Lを供し、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続き70%エタノール水溶液30Lを供して、70%エタノール溶液が溶出し始めてから最初の15LをSL含有画分としてC18カラムから回収した。
【0158】
得られたSL含有液をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品2)。
【0159】
実施例3〜7:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例2で得た粗精製SL含有組成物−2を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整した。これを、ジエチルエーテル(エーテル)を用いて下記の方法で抽出した(溶剤抽出法)。
【0160】
具体的には、pH3.0に調整した粗精製SL含有組成物−2を50mlのスクリューキャップ付きガラス遠沈管にエタノール可溶分が3gになるように加えて、これに蒸留水を添加し、全量が15mlになるように調整した。これに下記容量のエーテルを加えて激しく混合したあと、200×gで2分間遠心を行って2層に分離させ、上層のエーテル層を除去した、(抽出作業)。この抽出作業を下記の回数行った。
【0161】
実施例3:3mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品3)
実施例4:7mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品4)
実施例5:15mlエーテルを用いた抽出作業を1回実施(→実施例品5)
実施例6:15mlエーテルを用いた抽出作業を2回実施(→実施例品6)
実施例7:15mlエーテルを用いた抽出作業を3回実施(→実施例品7)。
【0162】
その後、50℃条件下で放置してエーテルを除去し、SL含有組成物を得た(実施例品3〜7)。
【0163】
実施例8〜10:低毒性SL含有組成物の製造
前記参考製造例1で分取した粗精製SL含有組成物−1に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH14に調整し、80℃で15分間(実施例8)、80℃で30分間(実施例9)、及び80℃で45分間(実施例10)加熱することで、加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、これらを室温に戻してから硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH7.5に調整し、発生した不溶物をろ過除去した。さらに、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.0に調整し、50mlのスクリューキャップ付きガラス遠沈管にエタノール可溶分が3gになるように加えて、これに蒸留水を添加し、全量が15mlになるように調整した。これにヘキサンを加えて激しく混合したあと、200×gで2分間遠心を行って2層に分離させ、上層のヘキサン層を除去した、(抽出作業)。この抽出作業を5回行った。その後、80℃条件下で放置してヘキサンを除去し、SL含有組成物を得た(実施例品8〜10)。
【0164】
試験例1 各試料の物性測定方法
上記の参考製造例1及び2、並びに実施例1〜10で調製したSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−1、粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、下記の方法に従って、エステル価(mg KOH/g)、水酸基価(mg KOH/g)、エーテル抽出物含量(%)、色相(OD
440)、蒸発残分(%)、乾燥減量(%)、エタノール可溶分(%)、及び赤外吸収スペクトル(cm
-1)を測定した。また、HPLC分析を行った。
【0165】
(1)試験の概要
【0166】
【表1】
【0167】
(2)試験方法
(A)エステル価
けん化価(エタノール可溶分1g相当の試料中の遊離酸の中和及びエステルのけん化に要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.2.1-1996])と酸価(エタノール可溶分1g相当の試料中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会法の基準油脂分析試験法[2.3.1-1996])との差として求めることができる他、直接測定する方法として、下記の方法を用いることができる。
【0168】
[直接法] 試料約3gをけん化用フラスコに正しくはかり取り、95vol%エタノール50mLを加えてフェノールフタレイン指示薬を用いてよく振り混ぜながら、0.1mol/L 水酸化カリウム標準液で滴定中和する(酸価が求められる)。次にこれに0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加え、フラスコに冷却器をつけ、時々振り混ぜながら、還流するエタノールが冷却器の上端に達しないように加熱温度を調節して穏やかに加熱する。フラスコの内容物を30分間沸騰させた後、直ちに冷却し、内容物が寒天状に固まらないうちに、冷却器をはずして、フェノールフタレイン指示薬を数滴加え、0.5mol/L塩酸標準液で滴定し、指示薬の微紅色が消え、それが30秒間続いたときに終点と定め、要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「本試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とする。なお、並行して、95vol%エタノール50mLを取り、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加えたものについて空試験を行い、空試験において要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「空試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とし、下式1から試料1gのエステル価を算出する。エタノール可溶分1g相当の試料のエステル価は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式2に従って求めることができる。
【0169】
【数1】
【0170】
(B)水酸基価
水酸基価(エタノール可溶分1g相当の試料に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数:日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.6.2-1996])から求めることができる。
【0171】
[試薬]
アセチル化試薬:12.5 gの無水酢酸を100 mlの全量フラスコに入れ、ピリジンを標線まで加え、注意しながら十分に混ぜる。このようにして調製した液は、湿気、二酸化炭素、および酸の蒸気にふれないようにし、褐色ビンに保存する。
【0172】
[試験方法]
試料1gを正確に首長丸底フラスコに投入し、適当量のアセトンを加えて105℃で加温し、水分を除去する。その後、アセチル化試薬を5 ml正しく加え、95〜100 ℃に加熱する。1時間加熱した後、フラスコを加熱浴から取って空冷させ、1 mlの蒸留水を加えて混合したあと、フラスコを再度加熱浴に入れ、10分間加熱する。再び引き上げて空冷させ、漏斗の壁に凝縮した液を5 mlの中性エタノールで洗い流しながら加える。このフラスコの内容物にフェノールフタレイン溶液を加え、0.5 N KOH/EtOHで滴定し、下式に基づいて試料1gの水酸基価を算出する。また、下記式3中、酸価は、試料1g中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、日本油化学協会法の基準油脂分析試験法(JIS K 3331)[2.3.1-1996]に従って求めることができる。エタノール可溶分1g相当の試料の水酸基価は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式4に従って求めることができる。
【0173】
【数2】
【0174】
(C)エーテル抽出物含量(%)
エーテル抽出物含量は、エタノール可溶分1g相当の試料からエーテルを用いて抽出される物質の量を質量百分率で示したものである。
【0175】
[測定方法]
試料1gを50ml容量のナス型フラスコに投入し、10%水酸化ナトリウム水溶液を10ml加えて冷却管を接続し、80℃で2時間加温を行った。10%塩酸水溶液を10ml加えて中和させ、99.5%エタノールを加えながらエバポレーターで水分を留去した。その後、99.5%エタノールを10ml加えて超音波処理を行いながら分散させ、分散液をガラス漏斗を用いてろ過し、ろ液を50ml容ナス型フラスコに移した。99.5%エタノールでさらに洗いこみを行ったあと、エタノールをエバポレーターで留去させ、 残留物を15mlスクリューキャップ付きガラス遠沈管に移し、硫酸(関東化学製)を用いてpHを3に調整し、全量を蒸留水で5mlに合わせた。5mlのエーテルを加えて激しく混合し、卓上遠心機H-108M2(コクサン製)を用いて1000 rpmで2分間遠心し、2層に分離させた。上層を重量既知の100mlビーカーに移し、新たに5mlのエーテルを加え、合計で3回エーテル抽出作業を行った。エーテル抽出液の入った100mlビーカーを50℃のインキュベーターに投入してエーテルを除去し、さらに105℃のインキュベーターで30分間置き、エーテルを完全に除去した。
【0176】
室温に戻してから重量測定を行い、試料1g中のエーテル抽出物含量は下式5をもとに算出した。エタノール可溶分1g相当の試料のエーテル抽出物含量は、当該試料のエタノール可溶分(%)から、下式6に従って求めることができる。
【0177】
【数3】
【0178】
(D)HPLC分析によるエーテル抽出物の組成分析
(C)エーテル抽出物含量で得られたエーテル抽出物を99.5%エタノールに1%溶液となるように溶解し、下表の条件でHPLC分析を行った。このHPLC分析条件により、酸型SLは8〜20分、ヒドロキシ脂肪酸は20〜45分、脂肪酸は45〜55分のリテンションタイムにそれぞれ検出される。20〜55分のリテンションタイムに検出される各ピークを、既知のヒドロキシ脂肪酸および脂肪酸(標準品)のリテンションタイムと対比することでヒドロキシ脂肪酸及び脂肪酸を同定し、且つ個々のピークの面積を20〜55分のリテンションタイムに検出されるピークの面積の総和で除することで、エタノール可溶分1gに対する脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の割合を算出した。つまり、下式10によりそれぞれ個別の含量を算出した。
【0179】
【数4】
【0180】
得られた脂肪酸の表記の方法は、炭素数をCの後に記載し、その後セミコロンを挟んで二重結合の数を表す。つまり、炭素数18で二重結合を1つ持つオレイン酸の場合はC18:1となる。また、ヒドロキシ脂肪酸を表す場合は、末尾に(OH)を追加する。つまり、炭素数18のヒドロキシオレイン酸の場合はC18:1(OH)となる。
【0181】
【表2】
【0182】
(E)色相(OD440)
色相(OD
440nm)は、エタノール可溶分が10質量%になるように、被験試料をアルカリ水溶液(2% Na
2CO
3in 0.1N NaOH)に溶解して調製した水溶液の、波長440nmにおける吸光度を測定することで求めることができる。
【0183】
(F)蒸発残分(%)
蒸発残分(%)は、試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第2法(熱板上で加熱蒸発する方法)に従って蒸発乾固し、その残分を量り、下式7から求めることができる。
【0184】
【数5】
【0185】
(G)乾燥減量(%)
乾燥減量(%)は、試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第1法(大気圧下で加熱乾燥する方法)に従って加熱乾燥し(105±2℃、2時間)、乾燥後の減量を量り、下式8から求めることができる。
【0186】
【数6】
【0187】
(H)エタノール可溶分(%)
エタノール可溶分は、試料をエタノールで溶解し、エタノールに溶ける物質の量を示したものである。
【0188】
[測定方法]
三角フラスコ及びガラスろ過器の重量を正確に測定する。これらの重量は105℃で2時間以上乾燥後、デシケーター内で放冷してから測定する。三角フラスコに試料約5gを1mg単位まで正確に量り取り、エタノールを試料の100mL添加して、ガラス管を付けて水浴上で30分間加熱し、時々振り混ぜながら溶解する。なお、粉状または粒状試料には95vol%エタノールを使用し、液状又はペースト状試料には99.5vol%のエタノールを使用する。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、三角フラスコの残量に再びエタノール50mLを加えて溶解する。温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールで三角フラスコ及びガラスろ過器をよく洗浄する。室温まで放冷し、全量フラスコ250mLにろ液および洗液を移し、エタノールを標線まで加え、この中から、全量ピペットを用いて、100mLずつ質量既知の2個のビーカー200mLに分取する。そのうちの1個を、水浴上で加熱してエタノールを除いた後、105±2℃に調節した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで放冷後、重量を正確に測定する(乾燥残量)。
【0189】
下式8からエタノール可溶分(%)を算出する。
【0190】
【数7】
【0191】
(I)強熱残分
強熱残分試験は、被験試料を下記の方法[第1法]で強熱した後に残留する物質の量を測定する方法である。通常、有機物中に不純物として含まれる無機物の含量を知る目的で行われるが、場合によっては、有機物中に構成成分として含まれる無機物又は揮発性無機物中に含まれる不純物の量を測定するために行なわれる。例えば、本発明において「強熱残分0.1%以下(第1法、1g)」と規定したものは、被験試料約1gを精密に量り、下記第1法の操作法によって強熱したとき、その残分が被験試料の採取量の0.10%以下であることを示す。
【0192】
[試料の採取法]白金製、石英製または磁製のるつぼを恒量になるまで強熱し、デシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、その質量を精密に量る(採取量)。これに規定量の±10%の範囲の試料を精密に測定し、次の操作を行う。
[第1法]るつぼの上で試料を硫酸少量で潤し、徐々に加熱してなるべく低温でほとんど灰化又は揮散させた後、硫酸で潤し、完全に灰化し、恒量になるまで強熱(450〜550℃)する。これをデシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、質量を精密に量る。得られた測定値(残分)とあらかじめ測定しておいた採取量から、下式9により強熱残分(%)を算出する。
【0193】
【数8】
【0194】
(J)赤外吸収スペクトル
赤外吸収スペクトルの測定には、液体試料は105±2℃で3時間加熱乾燥固化したものを使用し、固体試料はそのまま使用した。赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光分析装置Spectrum
TM100(パーキンエルマージャパン製)を使用し、ATR法で分析した。
【0195】
(3)試験結果
参考製造例及び実施例で調製したSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−1、粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について得られた試験結果を表3に示す。
【0196】
【表3】
【0197】
試験例2 界面活性剤としての性能評価
上記の参考製造例2、及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能を測定した。また比較対照として、市販のアニオン界面活性剤(A:「アミノソフトLT-12」(30%):味の素(株)製、B:「サーファクチンNa」(100%):和光純薬工業(株)製、C:「リポランLJ-441」(37%):ライオン(株)製)、Tween 20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate (20 E.O.))及びSLS(Sodium Lauryl Sulfate)についても同様に臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能を測定した。なお、市販のアニオン界面活性剤Aの成分はN−アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、Bの成分はサーファクチンNa、Cの成分はα−オレフィンスルホン酸Naである。
【0198】
(1)実験方法
臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能の測定はWilhelmy法に準拠して測定した。自動表面張力計 CBVP−Z型一式(協和界面科学株式会社製)を使用し、20℃、pH7の条件で測定を行った。なお、pH調整には、水酸化ナトリウム水溶液または塩酸水溶液を使用した。
【0199】
(2)実験結果
各被験試料の臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能の測定結果を、表4に示す。
【0200】
【表4】
【0201】
試験例3 Hela細胞を用いた細胞毒性試験
上記の参考製造例2、及び実施例1〜10で得られたSL含有組成物(粗精製SL含有組成物−2、実施例品1〜10)について、Hela細胞を用いて細胞毒性試験を行った。また比較対照として、前述する市販アニオン界面活性剤A〜C、並びにTween 20及びSLSについても同様に細胞毒性試験を行った。
【0202】
(1)実験方法
HeLa細胞(クラボウ)を96ウェルプレートに2×10
4cells/wellの濃度で播種し、10%NCS(Newborn Calf Serum:invitrogen製)、非必須アミノ酸、58μg/mlL-グルタミン酸、60μg/mlカナマイシンを含んだDulbecco’s Modified EAGLE MEDIUM培地(日水製薬製)で37℃、5%CO
2下で72時間培養した。被験試料を含んだ培地に交換し、48時間後、1mg/ml MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide)入り培地に交換した。2時間処理し、イソプロパノールで色素であるホルマザンを抽出し、波長570nmの吸光度を測定した。細胞生存率%は下式から求めた。
【0203】
【数9】
【0204】
(2)実験結果
上記のMTTアッセイから細胞生存率を算出し、得られた細胞生存率から細胞致死濃度(IC
50)を求めた。
【0205】
細胞生存率から算出した細胞致死濃度(IC
50)と試験例1で算出したCMCをプロットしたグラフを
図1に示す。表5に各被験試料について試験例1で算出したCMC(ppm)、細胞致死濃度(IC
50)及びこれら2つの数値の除算値(IC
50/CMC)を纏めた結果を示す。
【0206】
【表5】
【0207】
この結果、実施例品1〜10のIC
50は、2000ppm〜60000ppmであり、市販の界面活性剤並びにTween 20及びSLSのIC
50(10〜700ppm)と比較しても格段に大きく、毒性が顕著に低いことが判明した。またこれらの実施例品のIC
50は、その製造途中で得られる粗精製SL含有組成物−2のIC
50(1500ppm)の1.3倍以上であり、粗精製SL含有組成物−2に対して行う処理(溶剤抽出処理、疎水性カラムクロマトグラフィー)により、顕著に毒性成分が除去されることが確認された。
【0208】
なお、本試験で行った細胞毒性試験は、眼や粘膜への刺激性を評価する眼刺激性試験として汎用されているDraize試験に代わる方法(眼刺激性試験代替法)として提案されている(岡本賢二「日本における眼刺激性試験代替法の動向」、FRAGRANCE JOURNAL 2005-2, P.67-71;「代替法を用いて化粧品原料の眼刺激性を評価するにあたっての指針(厚生科学研究班の作成した案)」Altern. Animal Test. Experiment, 5(Supplement), 1988)。後者論文に記載された厚生省の案によると、被験物質とともに、無刺激性の標準物質としてTween 20、及び陽性対照物質としてSLSについても同様に細胞毒性試験を行い、IC
50がTween 20よりも大きい値の被験物質は「実質上無刺激性」であり、またIC
50がTween 20より小さく、SLSよりも大きい値の被験物質は「軽度刺激性」であると評価できることが記載されている(後者論文の注8参照)。
【0209】
上記表に示すように、実施例1〜10に示す本発明の低毒性SL含有組成物のIC
50値はいずれもTween 20のIC
50よりも格段に大きいことから「無刺激性」の物質であると判断される。また本発明の低毒性SL含有組成物のIC
50値は、市販の界面活性剤のIC
50値よりも遙かに大きいことから、従来公知の界面活性剤のなかでも特に低毒性で且つ低刺激性である。
【0210】
また本発明の低毒性SL含有組成物のIC
50値は、CMCに対する比(IC
50/CMC)が6.7〜200倍であり、CMCとかけ離れていることから、安全性(低毒性、低刺激性)を担保しながら界面活性剤としての機能を十分に発揮できることが確認された。
【0211】
試験例4 高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の細胞毒性
SL含有組成物に多く含まれている高級脂肪酸としてオレイン酸を使用し、またヒドロキシ脂肪酸として12−ヒドロキシステアリン酸を使用して、高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の細胞毒性を測定した。
【0212】
具体的には、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸をそれぞれ100,000ppmとなるように、99.5%エタノールに溶解し、GHPメンブランフィルター(0.45μm)(日本ポール製)に通した。これらを1,000ppm〜50,000ppm濃度になるように99.5%エタノールで希釈した。これらの各希釈液10μlに990μlの10%NCS培地を加えて、細胞毒性用試験液として調製した(濃度範囲が10ppm〜1,000ppmの試験液を調製)。これを試験液として、試験例3に記載する方法に従って、Hela細胞の生存率(%)を測定し、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸それぞれについて細胞致死濃度(IC
50)を算出した。
【0213】
その結果、オレイン酸及び12−ヒドロキシステアリン酸それぞれの細胞致死濃度(IC
50)は、300ppm及び160ppmであった。これらのIC
50値は、本発明の低毒性SL含有組成物(実施例品1〜10)のIC
50値(2000〜60000ppm、表4参照)の1/6〜1/375倍と小さく、これらが本発明の低毒性SL含有組成物に混入するとSL含有組成物の細胞毒性が高まることが懸念された。逆にいえば、こうした炭素数16〜18などの高級脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸を含まないか、含んでいてもその量が微量になるようにSL含有組成物を調製することで、低毒性のSL含有組成物を取得できることがわかる。
【0214】
試験例5 ラクトン型SLによる界面活性能に対する影響
下記の構成を有する高純度SL含有組成物に、ラクトン型SLを添加して、酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%とした場合のラクトン型SLの割合が0〜2質量%(エタノール可溶分1g相当物のエステル価:0〜2mgKOH/g)の範囲になるように調製した(実施例品11〜15)。
【0215】
[高純度SL含有組成物]
(1)酸型SL、ラクトン型SL、並びに脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸の総量100質量%あたり、酸型SL99.95質量%、ラクトン型0質量%、脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸(総量)0.05質量%
(2)エタノール可溶分が10質量%になるように溶解した水溶液の波長440nmにおける吸光度(OD
440):0.08
(3)エタノール可溶分1g相当物の水酸基価:596mgKOH
(4)Hela細胞に対する細胞致死濃度(IC
50):63000ppm。
【0216】
これらのSL含有組成物について、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能を測定し、界面活性剤としての性能(濡れ性、可溶化力、洗浄力、起泡性)を評価した。なお、臨界ミセル濃度(CMC)及び表面張力低下能は、試験例2と同様に、Wilhelmy法に準拠して測定した。具体的には、自動表面張力計 CBVP−Z型一式(協和界面科学株式会社製)を使用し、20℃、pH7の条件で測定を行った。
【0217】
結果を表6に示す。
【0218】
【表6】
【0219】
一般的に、アニオン界面活性剤(酸型SLはその一例)に非イオン型界面活性剤(ラクトン型SLはその一例)を添加した場合、表面張力は上がる場合もまた下がる場合もあり、通常は推測することができない。本発明のSL含有組成物は、表6に示すように、アニオン界面活性剤(酸型SL)に非イオン型界面活性剤(ラクトン型SL)を添加すると、所定量までは、表面張力が低下することが確認された。具体的には、ラクトン型SLの割合が0%から1.5%まで増加するにつれて表面張力(最低表面張力値)が低下した。しかし、1.5%で頭打ちになり、ラクトン型SLをそれ以上添加しても表面張力に変化はなかった。
【0220】
表面張力の低下は、界面活性剤に求められる利点の一つであり、本組成物では2%までの濃度でラクトン型SLを含むことにより、界面活性剤としての性能が向上することが予測され、洗浄力、濡れ性、可溶化力、起泡性の向上という効果が期待される。
【0221】
[処方例]
以下に本願発明の低毒性SL含有組成物を含む医薬品及び医薬部外品の処方を示す。
【0222】
処方例1 点眼薬 (pH6.6)
1-メントール 0.02
d-カンフル 0.001
d-ボルネオール 0.005
ユーカリ油 0.01
ミント油 0.002
塩酸ナファゾリン 0.0015
メチル硫酸ネオスチグミン 0.004
マレイン酸クロルフェニラミン 0.03
塩酸ビリドキシン 0.08
酢酸トコフェロール 0.04
L-アスパラギン酸マグネシウム・カリウム 1.4
アミノエチルスルホン酸 0.8
ホウ酸 0.5
ホウ砂 0.1
濃塩化ベンザルコニウム液50(日本薬局方) 0.015
クロロブタノール 0.2
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.3
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.00
処方例2 洗眼薬 (pH5.8)
1-メントール 0.01
イプシロンアミノカプロン酸 0.1
グリチルリチン酸二カリウム 0.1
硫酸亜鉛 0.05
マレイン酸クロルフェニラミン 0.003
L-アスパラギン酸カリウム 0.1
塩化カルシウム 0.05
ホウ酸 1.5
ホウ砂 0.015
濃塩化ベンザルコニウム液50(日本薬局方) 0.004
クロロブタノール 0.2
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.2
エタノール 0.1
塩酸/水酸化ナトリウム 0.01
精製水 残量
合 計 100.00
処方例3 コンタクトレンズ装着液(pH7.0)
1-メントール 0.015
アミノエチルスルホン酸 0.5
塩化カリウム 0.08
塩化ナトリウム 0.15
ホウ酸 0.9
ホウ砂 0.2
ソルビン酸カリウム 0.1
エデト酸ナトリウム(日本薬局方) 0.05
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.5
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合計 100.0
処方例4 コンタクトレンズ装着液(pH7.5)
1-メントール 0.01
塩化カリウム 0.05
塩化ナトリウム 1
リン酸水素ナトリウム 0.15
リン酸二水素ナトリウム 0.01
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.02
20%ポリヘキサメチレンビグアニド液 0.0005
(商品名:コスモシルCQ)
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.0
処方例5 創傷洗浄剤(pH6.5)
塩化ナトリウム 0.9
低毒性SL含有組成物(実施例1〜10) 0.05
塩酸/水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
合 計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明の製造方法及び低毒化方法によれば、簡便な方法で低エネルギーかつ安全に低毒性のSL含有組成物を調製することができる。本発明の低毒性SL含有組成物は、細胞に対して毒性が低く、また低刺激性であることから、飲食品だけでなく、外用(創傷部を含む)や粘膜にも適用される化粧品や医薬または医薬部外品に好適に適用することができる。