【文献】
G.A.Rechnits et al.,DETERMINATION OF NITRILOTRIACETIC ACID (NTA) WITH ION-SELECTIVE MEMBRANE ELECTRODES,ANALYTICAL LETTERS,1970年,Vol.3, No.10,p.1, 509-514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンコハク酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、トリポリリン酸、ポリアクリル酸、イミノジコハク酸系化合物、イミノジ酢酸系化合物、グリシン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン、3,3’,3’’−ニトリロトリプロピオン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、N,N−ビス(カルボキシメチル)−L−グルタミン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のキレート剤の定量方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び2に記載の方法においては、滴定終点を指示薬の色の変化により検出する。しかしながら指示薬の変色の判断は目視によることから、測定誤差を生じやすいという問題があった。また、指示薬と金属イオンとの錯体形成は溶液のpHに影響されるため、用いる指示薬に応じて試料溶液のpHを厳密に調整する必要があった。さらに、試料溶液がキレート剤以外の成分を含む場合に正確な定量が困難となる場合があり、このため試料溶液を前処理して、滴定に影響を及ぼす成分を除く必要があった。例えば非特許文献2では、洗浄剤組成物に含まれるリン酸により過滴定等が生じるため、滴定に供する試料溶液からリン酸を除く操作を行っている。しかしながら、滴定に影響する成分を除く前処理が必要であると、試料溶液の調製が煩雑となる。
非特許文献3に記載の方法においても、測定に用いる試料溶液のpHを所定の値に調整する必要があり、より簡便にキレート剤を定量できるようにするための改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、キレート剤を正確かつ簡便に定量することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のキレート剤の定量方法は、金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤を定量する方法であって、上記キレート剤、並びに、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を含む試料溶液について、金属イオンを含む溶液を滴定液として電位差滴定を行う電位差滴定工程を含むことを特徴とする。
本明細書中、金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤を、単にキレート剤ともいう。
【0009】
本発明においては、キレート剤を含む試料溶液がヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を含むことにより、金属イオンを含む溶液を用いる電位差滴定において、例えばpH2〜9.5の幅広いpH域において明確な滴定終点を有する滴定曲線を得ることができる。このため測定に供する試料溶液のpHを厳密に調整せずに、試料溶液中のキレート剤を正確に定量することができる。従って本発明によれば、正確かつ簡便にキレート剤を定量することができる。
【0010】
本発明の好ましい態様においては、上記金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンコハク酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、トリポリリン酸、ポリアクリル酸、イミノジコハク酸系化合物、イミノジ酢酸系化合物、グリシン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン、3,3’,3’’−ニトリロトリプロピオン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、N,N−ビス(カルボキシメチル)−L−グルタミン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明のキレート剤の定量方法は、上記のキレート剤の定量に好適に使用される。
【0011】
本発明においては、上記金属イオンが、銅イオンであることが好ましい。
滴定液に含まれる金属イオンが銅イオンであると、電位差滴定においてより明確な滴定終点を有する滴定曲線を得ることができる。このためキレート剤をより正確に定量することができる。
【0012】
本発明においては、上記試料溶液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度が、0.01〜50重量%であることが好ましい。
試料溶液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度が上記範囲であると、金属イオンを含む溶液を滴定液とする電位差滴定において、滴定による試料溶液のpHの低下が抑制され、より明確な滴定終点を有する滴定曲線を得ることができる。このため試料溶液に含まれるキレート剤をより正確に定量することができる。
【0013】
本発明においては、上記試料溶液のpHが2〜9.5であることが好ましい。
試料溶液のpHが2〜9.5であると、より正確にキレート剤を定量することができる。また試料溶液のpHが9.5以下であると、滴定が夾雑物等の成分の影響を受けにくくなる。このため試料溶液から滴定に影響する成分を除くための前処理を行なう必要がなく、試料溶液をより簡便に調製することができる。よって、試料溶液中のキレート剤をより正確にかつ簡便に定量することができる。また、試料溶液のpHが2以上であると、金属イオンとキレート剤との錯体の有効安定度定数が高くなり、より明確な滴定終点を有する滴定曲線を得ることができる。このため試料溶液に含まれるキレート剤をより正確に定量することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キレート剤を正確かつ簡便に定量することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のキレート剤の定量方法について説明する。
本発明のキレート剤の定量方法は、金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤を定量する方法である。
【0017】
上記金属イオンに対する錯安定度定数は、該金属イオンとキレート剤とが反応して生成する錯体の水溶液中における安定度を示す定数である。この場合の金属イオンとして、例えば、銅イオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、水銀イオン、銀イオン、マンガンイオン、ストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、鉛イオン等の金属イオンが挙げられる。これらのいずれかの金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であればよい。キレート剤は、後述する滴定液に含まれる金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であることが好ましい。
本発明におけるキレート剤としては、銅イオン又はカルシウムイオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤が好ましく、銅イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤がより好ましい。
キレート剤の金属イオンに対する錯安定度定数は、金属イオンをM
n+とし、キレート剤をL
m−とし、生成したキレート化合物をML
n−mとし、M
n++L
m−⇔ML
n−mとなるキレート生成反応の平衡定数をKとし、K=[ML
n−m]/([M
n+]×[L
m−])とするとき、logKを錯安定度定数と定義する。なお、[ ]は各化学種のモル濃度とする。錯安定度定数の測定方法は例えば、上野景平、「入門キレート化学」、南江堂、1969年、p73−85に記載されている。
【0018】
本発明の定量方法は、銅イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤を定量するための方法として特に好適である。上記キレート剤は、銅イオンに対する錯安定度定数が8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明におけるキレート剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンコハク酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、トリポリリン酸、ポリアクリル酸、イミノジコハク酸系化合物、イミノジ酢酸系化合物、グリシン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン、3,3’,3’’−ニトリロトリプロピオン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、N,N−ビス(カルボキシメチル)−L−グルタミン酸及びこれらの塩等が好ましい。
上記イミノジコハク酸系化合物として、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸、S,S−エチレンジアミンジコハク酸、イミノジコハク酸等が挙げられる。上記イミノジ酢酸系化合物として、イミノジ酢酸、N−イミノジ酢酸、N−シクロヘキシルイミノジ酢酸、N−フェニルイミノジ酢酸、ベンジルアミン−N,N−ジ酢酸、N−(2−フリルメチル)イミノジ酢酸、N−(2−テトラヒドロピラニルメチル)イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、N−(3−ヒドロキシプロピル)イミノジ酢酸、N−(2−アミノエチル)イミノジ酢酸、N−(2−カルボキシエチル)イミノジ酢酸等が挙げられる。
上記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アミン塩等が挙げられ、好ましくはナトリウム塩又はカリウム塩である。
【0020】
上記キレート剤の銅イオンに対する錯安定度定数は、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びその塩が19であり、ニトリロ三酢酸及びその塩が13であり、クエン酸及びその塩が14であり、メチルグリシン二酢酸及びその塩が14であり、ジエチレントリアミンペンタ酢酸及びその塩が21であり、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸及びその塩が19である。また、キレート剤のカルシウムイオンに対する錯安定度定数は、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びその塩が11であり、ニトリロ三酢酸及びその塩が6であり、メチルグリシン二酢酸及びその塩が7であり、ジエチレントリアミンペンタ酢酸及びその塩が11であり、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸及びその塩が8である。
【0021】
中でも、本発明の定量方法は、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸、メチルグリシン二酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤を定量する方法として好適であり、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、メチルグリシン二酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤を定量する方法としてより好適であり、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のキレート剤を定量する方法として特に好適である。
【0022】
本発明のキレート剤の定量方法は、キレート剤、並びに、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を含む試料溶液について、金属イオンを含む溶液を滴定液として電位差滴定を行う電位差滴定工程を含む。本発明のキレート剤の定量方法は、電位差滴定工程以外の工程を含んでもよく、例えば、試料溶液を調製する試料調製工程を含んでもよい。
【0023】
上記試料溶液に含まれるキレート剤は、上述したとおりであり、1種でもよく、2種以上であってもよい。試料溶液が2種以上のキレート剤を含む場合には、2種以上のキレート剤の合計量が定量される。
【0024】
上記試料溶液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度は、0.01〜50重量%であることが好ましい。試料溶液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度が上記範囲であると、幅広いpH(例えば、pH2〜9.5)の試料溶液について、キレート剤を正確に定量することができる。試料溶液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度は、より好ましくは0.1〜10重量%であり、さらに好ましくは、0.5〜5重量%である。
【0025】
本発明で使用されるpH2〜9.5の緩衝液の種類は特に限定されない。例えば、塩酸−塩化カリウム緩衝液、塩酸−フタル酸水素カリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸二水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−塩化カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、水酸化ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液、グアニジン塩酸塩緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、酒石酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等を使用することができる。中でも、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸二水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−塩化カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液、塩酸−塩化カリウム緩衝液が好ましい。pH2〜9.5の緩衝液は、好ましくはpH4〜9.5の緩衝液である。
本発明における試料溶液は、キレート剤及びヘキサメチレンテトラミンを含むことが好ましく、キレート剤、ヘキサメチレンテトラミン及びpH2〜9.5の緩衝液を含むことがより好ましい。
pHは、JIS Z 8802に記載の方法により測定することができる。
【0026】
上記試料溶液は、本発明の効果を損なわない限り、上記キレート剤、並びに、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液以外の物質1種又は2種以上を含んでもよい。例えば洗浄剤組成物中のキレート剤を定量する場合には、該洗浄剤組成物に含まれる成分1種又は2種以上を含んでもよい。
【0027】
上記試料溶液のpHは2〜9.5であることが好ましい。試料溶液のpHが2〜9.5であると、キレート剤をより正確に定量することができる。例えば金属イオン(好ましくは銅イオン)に対する錯安定度定数が5以上のキレート剤を定量する場合、電位差滴定の滴定終点がやや不明確となる場合があるが、試料溶液のpHが2〜9.5であると、電位差滴定において明確な滴定終点を有する滴定曲線を得ることができる。また、試料溶液のpHが上記範囲であると、電位差滴定が試料溶液に含まれるキレート剤以外の成分の影響を受けにくくなる。このため、試料溶液のpHを上記範囲とすることにより、試料溶液がキレート剤以外の成分を含む場合であっても、キレート剤以外の成分の影響を除くことができ、キレート剤を正確に定量することができる。従って試料溶液からキレート剤以外の成分を除くための前処理等を行う必要がなく、操作が簡便となる。
上記試料溶液のpHは、より好ましくは4〜9.5である。
【0028】
本発明においては、例えば、銅イオンに対する錯安定度定数が5以上のキレート剤を定量する場合には、試料溶液のpHを2〜9.5とすることが好ましく、4〜9.5とすることがより好ましい。
【0029】
上記試料溶液の調製方法は特に限定されない。例えば、錯安定度定数が5以上であるキレート剤を含む水溶液等の溶液に、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加することにより、電位差滴定に供する試料溶液を調製することができる。このように、さらに、上記金属イオンに対する錯安定度定数が5以上であるキレート剤を含む溶液にヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加して試料溶液を調製する試料調製工程を含むキレート剤の定量方法は、本発明における好ましい実施態様の1つである。試料調製工程においては、キレート剤を含む溶液に、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加して混合してもよく、キレート剤を含む溶液に、ヘキサメチレンテトラミンを水又は緩衝液に溶解させた水溶液及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加してもよく、キレート剤を含む溶液に、ヘキサメチレンテトラミンを溶解させたpH2〜9.5の緩衝液を添加してもよい。pH2〜9.5の緩衝液の添加量は特に限定されないが、得られる試料溶液のpHが2〜9.5となる量を添加することが好ましく、例えば、キレート剤を含む溶液に対して、体積比で0.01〜100倍添加することが好ましく、0.1〜10倍添加することがより好ましい。
上記キレート剤を含む溶液の調製方法は特に限定されず、例えば、キレート剤を含む物質又はキレート剤を水又は緩衝液に溶解させることにより調製することができる。
本発明における試料溶液の調製方法は上記の方法に限定されず、キレート剤にヘキサメチレンテトラミンを水又は緩衝液に溶解させた水溶液及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加して試料溶液を調製することもできる。
【0030】
上記試料溶液のpHを調整する場合、pHの調整は、上記キレート剤を含む溶液にヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加する前に行ってもよく、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加した後行ってもよい。好ましくは、キレート剤を含む溶液にヘキサメチレンテトラミン及び/又はpH2〜9.5の緩衝液を添加した後、該溶液のpHを調整して試料溶液を調製する。例えば、上記キレート剤を含む溶液が、pH9.5を超える強アルカリ性又はpH2未満の強酸性を示す場合等には、該溶液のpHを2〜9.5に調整することが好ましい。
【0031】
上記試料溶液のpHを調整する方法は特に限定されず、酸又はアルカリにより試料溶液のpHを調整すればよい。酸及びアルカリは、通常使用されているものを使用すればよく、例えば酸として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
例えば、本発明の定量方法により洗浄剤組成物中のキレート剤を定量する場合を例に挙げて、試料溶液の調製方法の一例を説明すると、洗浄剤組成物を水に溶解させた洗浄剤組成物溶液を調製した後、ヘキサメチレンテトラミンを添加し、次いで該洗浄剤組成物溶液のpHを2〜9.5に調整することにより、試料溶液を調製することができる。ヘキサメチレンテトラミンの代わりに、又は、ヘキサメチレンテトラミンと共に、pH2〜9.5の緩衝液を添加してもよい。
【0033】
上記電位差滴定工程で用いられる滴定液に含まれる金属イオンとして、銅イオン、カルシウムイオン、鉄イオン(好ましくは鉄IIIイオン)、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、水銀イオン、銀イオン、マンガンイオン、ストロンチウムイオン、アルミニウムイオン、鉛イオン等が挙げられる。これらのいずれかの金属イオンを含む滴定溶液を用いることが好ましい。中でも、銅イオン又はカルシウムイオンが好ましく、滴定曲線のスロープが充分に大きいことから、銅イオンがより好ましい。
【0034】
上記滴定液の調製方法は特に限定されず、例えば、所望の金属イオンを含み、水に可溶な金属化合物を、水等に溶解させることにより調製することができる。
上記の水に可溶な金属化合物として、例えば、硫酸銅、硝酸銅、臭化銅、塩化銅、炭酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅等の銅イオンを含む化合物;硫酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウムイオンを含む化合物;硝酸鉄(III)、塩化鉄(III)等の鉄IIIイオンを含む化合物;硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛イオンを含む化合物;硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウムイオンを含む化合物;硝酸バリウム、塩化バリウム等のバリウムイオンを含む化合物;硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル等のニッケルイオンを含む化合物;硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト等のコバルトイオンを含む化合物;硫酸水銀、硝酸水銀、塩化水銀等の水銀)イオンを含む化合物;硫酸銀、硝酸銀等の銀イオンを含む化合物;硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン等のマンガンイオンを含む化合物;硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム等のストロンチウムイオンを含む化合物;硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウムイオンを含む化合物;硫酸鉛、硝酸鉛、塩化鉛等の鉛イオンを含む化合物;並びにこれらの化合物の水和物等が挙げられる。銅イオンを含む滴定液を調製する際には、硫酸銅、塩化銅等が好ましい。
【0035】
上記滴定液中の金属イオン濃度は特に限定されず、例えば、0.001〜10mol/Lとすることが好ましく、0.01〜1mol/Lとすることがより好ましい。
【0036】
上記電位差滴定には、市販されている電位差自動滴定装置を用いることができる。
電位差滴定に用いる電極は、滴定液に含まれる金属イオンを感知できる電極を使用すればよい。例えば、滴定液として銅イオンを含む溶液を用いる場合であれば、指示電極に銅電極(銅イオン選択性電極)を使用すればよい。滴定液としてカルシウムイオンを含む溶液を用いる場合であれば、指示電極にカルシウムイオン電極(カルシウムイオン選択性電極)を使用すればよい。本発明においては、電位差滴定により正確かつ簡便にキレート剤を定量することができる。
【0037】
上記電位差滴定において、滴定終点は、得られる滴定曲線の変曲点である。上記変曲点における滴定液の滴定量を読み取り、試料溶液中のキレート剤の量を算出する。
上述したように、試料溶液が2種以上のキレート剤を含む場合には、それらの合計量が算出される。
【0038】
本発明のキレート剤の定量方法は、例えば、洗浄剤組成物、化粧品組成物等に含まれるキレート剤を定量するための方法として使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
電位差滴定には、サンプルチェンジャー(型式814)を備えた電位差自動滴定装置(メトローム社製の製品名タイトランド、型番905)を使用した。
より詳細には、下記のユニットから構成された電位差自動滴定装置(メトローム社製)を使用した。
・電位差自動滴定装置(タイトランド905型)
電動ビュレット(ドジーノ800型)
ドージングユニット(807型)
ポンプユニット(772型)
オートサンプラー(USBサンプルプロセッサー814型)
サンプルラック
プロペラスターラー(802型)
【0041】
電極は、以下のものを使用した。
・銅イオン選択性電極(メトローム社製)又はカルシウムイオン選択性電極(メトローム社製)
・Ag/AgCl参照電極(メトローム社製)
・pH電極(メトローム社製)
【0042】
<実施例1>
ニトリロ三酢酸0.152g及びヘキサメチレンテトラミン1gを100mLの水に溶かし、試料溶液(pH5)を調製した。銅イオン選択性電極を用いて試料溶液中の銅イオン濃度を測定しながら、0.1mol/L硫酸銅水溶液で滴定を行った。銅イオン濃度をプロットした滴定曲線の変曲点を終点とし、終点までに加えた硫酸銅水溶液の量から、ニトリロ三酢酸を定量した結果、理論値(0.152g)に対して、測定値は0.152g(理論値の100%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図1に示す。
図1〜11中、EP1は終点の位置を示す。
図1〜14において、横軸は硫酸銅水溶液添加量V(mL)である。
【0043】
<実施例2>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにクエン酸三ナトリウム二水和物を用いたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.169g)に対して測定値は0.168g(理論値の99%)であった。なお、試料溶液のpHは、9であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図2に示す。
【0044】
<実施例3>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物を用いたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.157g)に対して測定値は0.156g(理論値に対して99%)であった。なお、試料溶液のpHは、6であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図3に示す。
【0045】
<実施例4>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物を用い、ヘキサメチレンテトラミンに加え、さらにpH2の塩酸−塩化カリウム緩衝液50mLを加えたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.157g)に対して測定値は0.155g(理論値に対して99%)であった。なお、試料溶液のpHは2であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図4に示す。
【0046】
<実施例5>
実施例1でヘキサメチレンテトラミンの添加を行わず、pH4のフタル酸塩緩衝液50mLを加えたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.154g)に対して測定値は0.152g(理論値に対して99%)であった。なお、試料溶液のpHは4であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図5に示す。
【0047】
<実施例6>
実施例1でヘキサメチレンテトラミンの添加を行わず、pH9.2のホウ酸塩緩衝液50mLを加えたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.150g)に対して測定値は0.150g(理論値に対して100%)であった。なお、試料溶液のpHは9.2であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図6に示す。
【0048】
<実施例7>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにニトリロ三酢酸三ナトリウム一水和物を用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整したほかは、同様に定量した結果、理論値(0.155g)に対して測定値は0.153g(理論値に対して99%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図7に示す。
【0049】
<実施例8>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにニトリロ三酢酸三ナトリウム一水和物を含む洗浄剤組成物(ニトリロ三酢酸三ナトリウム一水和物1重量%、メタケイ酸ナトリウム五水塩2重量%、48%水酸化ナトリウム水溶液3重量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル1重量%、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸1重量%、水92重量%)10.3gを用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整したほかは、同様に定量した結果、理論値(0.103g)に対して測定値は0.103g(理論値の100%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図8に示す。
【0050】
<実施例9>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物を含む洗浄剤組成物(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物5重量%、アルキルグルコシド2重量%、48%水酸化ナトリウム水溶液1重量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル3重量%、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸2重量%、水87重量%)3.0gを用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整したほかは、同様に定量した結果、理論値(0.150g)に対して測定値は0.150g(理論値の100%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図9に示す。
【0051】
<実施例10>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにN−(2−カルボキシエチル)イミノジ酢酸を含む洗浄剤組成物(N−(2−カルボキシエチル)イミノジ酢酸3重量%、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン1重量%、48%水酸化カリウム水溶液5重量%、オクタン酸ナトリウム1重量%、水90重量%)3.0gを用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整したほかは、同様に定量した結果、理論値(0.09g)に対して測定値は0.09g(理論値の100%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図10に示す。
【0052】
<実施例11>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにイミノジ酢酸を含む洗浄剤組成物(イミノジ酢酸3重量%、エタノール10重量%、塩化ベンザルコニウム2重量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル4重量%、炭酸ナトリウム4重量%、水77重量%)3.0gを用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整したほかは、同様に定量した結果、理論値(0.09g)に対して測定値は0.09g(理論値の100%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図11に示す。
【0053】
<比較例1>
実施例1でヘキサメチレンテトラミンの添加を行わなかったほかは、同様に定量した結果、終点が確認できず、定量は不可能だった。なお、試料溶液のpHは、3であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図12に示す。
【0054】
<比較例2>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにクエン酸を用いて、ヘキサメチレンテトラミンの添加を行わなかったほかは、実施例1と同様に定量した結果、終点が確認できず、定量は不可能だった。なお、試料溶液のpHは、3であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図13に示す。
【0055】
<比較例3>
実施例1でニトリロ三酢酸のかわりにニトリロ三酢酸三ナトリウム一水和物を用い、滴定前に0.1mol/L硫酸水溶液を用いて試料溶液のpHを7に調整し、ヘキサメチレンテトラミンの添加を行わなかったほかは、同様に定量した結果、終点が確認できず、定量は不可能だった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図14に示す。
【0056】
<実施例12>
エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物0.147g及びpH9.2のホウ酸塩緩衝液50mLを100mLの水に溶かし、試料溶液(pH9.2)を調製した。カルシウムイオン選択性電極を用いて試料溶液中のカルシウムイオン濃度を測定しながら、0.1mol/L塩化カルシウム水溶液で滴定を行った。カルシウムイオン濃度をプロットした滴定曲線の変曲点を終点とし、終点までに加えた塩化カルシウム水溶液の量から、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物を定量した結果、理論値(0.147g)に対して、測定値は0.148g(理論値の101%)であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図15に示す。
図15中、EP1は終点の位置を示す。
図15において、横軸は塩化カルシウム水溶液添加量V(mL)である。
【0057】
<実施例13>
実施例12でエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物のかわりにニトリロ三酢酸三ナトリウム一水和物を用いたほかは、同様に定量した結果、理論値(0.150g)に対して測定値は0.150g(理論値に対して100%)であった。なお、試料溶液のpHは9.2であった。電位差滴定により得られた滴定曲線を、
図16に示す。
図16中、EP1は終点の位置を示す。
図16において、横軸は塩化カルシウム水溶液添加量V(mL)である。