特許第6644554号(P6644554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644554シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いた可視光照射下での水分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644554
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いた可視光照射下での水分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20200130BHJP
   B01J 27/135 20060101ALI20200130BHJP
   B01J 27/10 20060101ALI20200130BHJP
   B01J 27/08 20060101ALI20200130BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   B01J35/02 JZAB
   B01J27/135 M
   B01J27/10 M
   B01J27/08 M
   C01B3/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-4734(P2016-4734)
(22)【出願日】2016年1月13日
(65)【公開番号】特開2017-124365(P2017-124365A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2019年1月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」プロジェクト委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜
(72)【発明者】
【氏名】陰山 洋
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
(72)【発明者】
【氏名】国奥 広伸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 大徳
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−199187(JP,A)
【文献】 特開2004−130188(JP,A)
【文献】 畠山拡才 他,Sillen-Aurivillius相の酸化ビスマスシート溶出と光触媒活性の評価,日本セラミックス協会 第21回秋季シンポジウム講演予稿集,日本,日本セラミックス協会,2008年 9月17日,1B24,DOI:10.14853/pcersj.2008F.0.29.0 全3頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 3/00 − 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)
(MX(M’1−yM’’) (1)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Nb5+であり、M’’=Ta5+であり、0≦y≦1である。)及び
下記組成式(2)
(MX(M’0.5M’’0.5) (2)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Ti4+又はZr4+であり、M’’=W6+又はMo6+である。〕
の少なくとも一種により示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒Aとして使用し、更に前記光触媒Aに加えて、前記光触媒Aとは異なる光触媒B、及び酸化還元対を使用し、可視光照射により水を分解することを特徴とする水分解方法。
【請求項2】
水中に少なくとも前記光触媒Aが分散している分散系に対して可視光を照射する、請求項1に記載の水分解方法。
【請求項3】
前記光触媒Aは、酸素生成用光触媒である、請求項1又は2に記載の水分解方法。
【請求項4】
前記酸化還元対は、三価の鉄イオン及び二価の鉄イオンである、請求項1〜3のいずれかに記載の水分解方法。
【請求項5】
前記光触媒Aは、(BiCl(NbO),(BiBr(NbO),(BiCl(TaO),(BiBr(TaO)及び(BiCl(Ti0.50.5)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜のいずれかに記載の水分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いた可視光照射下での水分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーである太陽光エネルギーと資源豊富な水とを利用して安価で且つ高性能な光エネルギー変換システムを構築することは、省エネルギー、環境保全等の観点から特に重要な課題となっている。例えば、太陽光エネルギーを用いて水を分解して水素を得る技術は、水素燃料電池の早期実用化のために是非必要な技術である。そのような技術の1つとして「光触媒を用いた水の分解による太陽光水素製造」が有望視され、そのための光触媒及び関連システムの開発が活発に進められている。
【0003】
この「光触媒を用いた水の分解による太陽光水素製造」の実用化には、その太陽光エネルギー変換効率の更なる向上が必須であり、特に太陽光中に豊富に含まれる可視光の効率的利用が鍵となっている。例えば、ある光触媒が紫外光領域(200〜400nm)の全光子を吸収し、100%の量子収率(吸収された光子のうち反応に寄与した光子の割合)で水を分解しても、太陽光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率(太陽光エネルギー変換効率)は最大でも2%程度にとどまる。しかしながら、可視光領域の600nmまで利用域を拡大すると光子数の大幅な増加により最大変換効率は16%まで向上し、仮に平均の量子収率を30%としても約5%の太陽光エネルギー変換効率が期待できる。従って、可視光を効率的に吸収して水を水素と酸素に分解できる光触媒の開発が極めて重要な課題となっている。ところが、そのようなポテンシャルを有する材料の報告例は多くなく、実際にこれらを用いて可視光照射下において水を定常的に水素と酸素に分解する実証例は未だ極めて限定的である。
【0004】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを有する光子が吸収されると伝導帯に励起電子が生じ、価電子帯に正孔が生じる(図1(a))。ここで、水の分解が進行するためには、「伝導帯下端が水の還元電位よりも負」、「価電子帯上端が水の酸化電位よりも正」且つ「半導体が光照射下において安定(安定性)」の3つの条件が必要である。
【0005】
これまで光触媒として広く用いられてきた金属酸化物系半導体は、安定性には優れるものの、酸素(O)の2p軌道が形成する価電子帯上端が水の還元電位より約3Vほど正となる。よって、バンドギャップが3.0eVよりも小さく可視光を吸収できる金属酸化物の殆どはその伝導帯下端が水の還元電位よりも正となり、水素生成能を有さない(図1(b))。
【0006】
一方、構成元素として酸素以外に窒素(N)、硫黄(S)、ハロゲン(Cl,Br,I)を含む、(酸)窒化物系、(酸)硫化物系、(酸)ハロゲン化物系半導体は、これらに含まれるN3−,S2−,Xアニオンの電気陰性度がO2−アニオンの電気陰性度よりも低く、価電子帯上端が、対応する金属酸化物の価電子帯上端よりも負となる(図1(c))。そのため、バンドギャップが3.0eVより小さく可視光を吸収できるものであってもその伝導帯下端は水の還元電位より負となり、水素生成が可能なものが多く存在する。
【0007】
しかしながら、これらの半導体を水分解用の光触媒として用いると、殆どの場合で、光吸収によって生成した正孔が、水ではなくこれらのN3−,S2−,Xアニオンを酸化してしまい、容易にその光触媒活性が失われることが知られている。そのため基本的に水の酸化(酸素生成)能力を有さず、これらの材料を用いて水を酸化するためには、(酸)窒化物系の表面を酸化コバルトや酸化イリジウムなどの助触媒微粒子で修飾する(非特許文献1,2)、シリカとチタニアの複合膜で被覆する(非特許文献3,4)等の特殊な表面処理が必須である。また、現状では可視光水分解(水素と酸素の同時生成)の実証例は(酸)窒化物のごく一部に限定されており、(酸)硫化物や(酸)ハロゲン化物を用いた実証例は皆無である。
【0008】
以上のように、金属酸化物では酸素アニオンの形成する価電子帯の位置が深すぎて可視光吸収能と水の還元能力の両立が困難である一方、他のアニオンを導入すると可視光吸収能は得られるが水の酸化能力が欠如するという問題がある。よって、単一の半導体を光触媒として用いた可視光水分解の実証は困難であると考えられている。
【0009】
近年になって、二種類の異なる光触媒をそれぞれ水素生成用と酸素生成用に使用し、両者間の電子伝達を酸化還元対(レドックス)を介して行う二段階励起型可視光水分解システム(図2)が開発され、様々な可視光応答型光触媒が適用可能となってきている。しかしながら、このシステムにおいても、酸素生成用光触媒は水の酸化に対する安定性と酸化還元対を還元するための適切な還元力との両方を有することが必要である。
【0010】
このような状況下、ごく最近になって、例えばBiMOX(M=Nb,Ta;X=Cl,Br)等の組成式で表されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物が可視光を吸収できる小さなバンドギャップを有すること、更には可視光照射下において有機物の酸化分解に対する光触媒活性を示すことが報告されている(非特許文献5)。
【0011】
有機物の酸化分解は自由エネルギー変化が負の自発的反応であり、水分解のような自由エネルギー変化が正のエネルギー蓄積型反応とは異なり非常に容易に進行する。また、半導体のバンドレベルへの必要条件が大きく異なり、特に酸化側の反応が四電子反応を伴う水の酸化とは異なり、有機物の酸化分解は主に一電子反応で進行するため、上記の安定性の問題を殆ど考慮する必要がなく、結果的に多種多様な光触媒でその進行が報告されている。但し、有機物分解に活性を示す光触媒が水の分解に活性を示す例は、その進行の困難さと安定性の必要性から極めて稀である。事実、シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物で水の分解が進行したという報告例は現在のところ皆無である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Higashi, M.; Domen, K.; Abe, R.J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 6968-6971.
【非特許文献2】Higashi, M.; Domen, K.; Abe, R. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 10238-10241.
【非特許文献3】Pan, C. S.; Takata, T.; Nakabayashi, M.; Matsumoto, T.; Shibata, N.; Ikuhara, Y.; Domen, K. Angew. Chem. Int. Edit. 2015, 54, 2955-2959.
【非特許文献4】Xu, J. S.; Pan, C. S.; Takata, T.; Domen, K. Chem. Commun. 2015, 51, 7191-7194.
【非特許文献5】Lin, X. P.; Huang, T.; Huang, F. Q.; Wang, W. D.; Shi, J. L. J. Mater. Chem. 2007, 17, 2145-2150.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、可視光水分解用光触媒の開発には本質的な困難さがある。即ち、金属酸化物は価電子帯上端レベルが深すぎて可視光吸収能と水の還元能力の両立とが困難である一方、他のアニオンを導入すると可視光吸収能は得られるが水の酸化能力が欠如するという問題が存在し、高効率な可視光水分解方法の実証を妨げている。
【0014】
本発明は、従来技術の問題点を改善するものであり、可視光吸収能、水分解能(水の還元能力と水の酸化能力の両方)及び水の酸化に対する安定性を有する特定の材料を光触媒として用いた可視光照射下での効率的な水分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の組成式で示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いる場合に、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記のシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いた可視光照射下での水分解方法に関する。
1.下記組成式(1)
(MX(M’1−yM’’) (1)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Nb5+であり、M’’=Ta5+であり、0≦y≦1である。)及び
下記組成式(2)
(MX(M’0.5M’’0.5) (2)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Ti4+又はZr4+であり、M’’=W6+又はMo6+である。〕
の少なくとも一種により示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒Aとして使用し、更に前記光触媒Aに加えて、前記光触媒Aとは異なる光触媒B、及び酸化還元対を使用し、可視光照射により水を分解することを特徴とする水分解方法。
2.水中に少なくとも前記光触媒Aが分散している分散系に対して可視光を照射する、上記項1に記載の水分解方法。
.前記光触媒Aは、酸素生成用光触媒である、上記項1又は2に記載の水分解方法。
.前記酸化還元対は、三価の鉄イオン及び二価の鉄イオンである、上記項1〜3のいずれかに記載の水分解方法。
.前記光触媒Aは、(BiCl(NbO),(BiBr(NbO),(BiCl(TaO),(BiBr(TaO)及び(BiCl(Ti0.50.5)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1〜のいずれかに記載の水分解方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水分解方法は、可視光吸収能、水分解能(水の還元能力と水の酸化能力の両方)及び水の酸化に対する安定性を有する特定のシレン-アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として使用することにより、可視光照射下で効率的に水を分解して水素と酸素とを発生させることができる。当該シレン-アウリビリアス層状酸ハロゲン化物は、これまで光触媒として広く検討されてきたペロブスカイト型層状金属酸化物よりも広範なバリエーションを有するため、用途に応じた幅広い応用展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】各半導体光触媒(a)、(b)及び(c)のバンドレベルと水分解ポテンシャルとの関係を示す図である。
図2】酸化還元対を用いた二段階励起型可視光水分解システムの概念を示す図である。
図3】実施例1及び比較例1で合成した各半導体光触媒の光吸収特性を示す図である。
図4】実施例1及び比較例1で合成した各半導体光触媒(但し、BiMoOは除く)のバンドレベルと水分解ポテンシャルとの関係を示す図である。
図5】実施例1及び比較例1で合成した各半導体光触媒の状態密度をDFT計算によって求めた結果を示す図である。
図6】実施例2で行った二段階励起型可視光水分解における水素及び酸素の気体生成の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒として用いた可視光照射下での水分解方法(本発明の水分解方法)について詳細に説明する。
【0020】
本発明の水分解方法は、下記組成式(1)
(MX(M’1−yM’’) (1)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Nb5+であり、M’’=Ta5+であり、0≦y≦1である。)及び
下記組成式(2)
(MX(M’0.5M’’0.5) (2)
〔式中、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Ti4+又はZr4+であり、M’’=W6+又はMo6+である。〕
の少なくとも一種により示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒Aとして使用し、可視光照射により水を分解することを特徴とする。
【0021】
上記特徴を有する本発明の水分解方法は、可視光吸収能、水分解能(水の還元能力と水の酸化能力の両方)及び水の酸化に対する安定性を有する特定のシレン-アウリビリアス層状酸ハロゲン化物を光触媒(光触媒A)として使用することにより、可視光照射下で効率的に水を分解して水素と酸素とを発生させることができる。
【0022】
組成式(1)で示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物は、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Nb5+であり、M’’=Ta5+であり、0≦y≦1である。
【0023】
組成式(1)の具体例としては、
(BiCl(Nb1−yTa) (1−1)
(BiBr(Nb1−yTa) (1−2)
(BiI(Nb1−yTa) (1−3)
(SbCl(Nb1−yTa) (1−4)
(SbBr(Nb1−yTa) (1−5)及び
(SbI(Nb1−yTa) (1−6)が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、(BiCl(NbO),(BiBr(NbO),(BiCl(TaO)及び(BiBr(TaO)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0025】
一般的に、2種の異なる金属イオンM’とM’’が同じ価数を有し、且つ互いのイオン半径が近い場合には、両者の比率が任意の固溶体を形成できることが多く、バンドレベルがM’とM’’の比率によって連続的に変化し、結果として光触媒特性などに影響を与えられることが知られている。一例として、Nb5+とTa5+において、Sr(Ta1−xNb(0≦x≦1)の任意の組成を有する固溶体の形成、及びNb5+とTa5+の比率に応じた光触媒特性の変化が報告されている(参考文献1:J. Photochem. Photbiol. A. 145 (2001) 129)。更に、本来Nb5+またはTa5+の5価の金属イオンが占めるべきサイトの半分を4価の金属イオン、残りの半分を6価の金属イオンが占めることにより、全体の価数のバランスが保たれ、結果として以下の組成式(2)で示されるような化合物も得られることが知られている。これらの化合物は、実施例で用いられているものに限定されず、いずれも本発明において水分解能を有する光触媒として用いることができる。
【0026】
組成式(2)で示されるシレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物は、M=Bi3+又はSb3+であり、X=Cl,Br又はIであり、M’=Ti4+又はZr4+であり、M’’=W6+又はMo6+である。
【0027】
組成式(2)の具体例としては、
(BiCl(Ti0.50.5) (2−1)
(BiCl(Ti0.5Mo0.5) (2−2)
(BiCl(Zr0.50.5) (2−3)
(BiCl(Zr0.5Mo0.5) (2−4)
(BiBr(Ti0.50.5) (2−5)
(BiBr(Ti0.5Mo0.5) (2−6)
(BiBr(Zr0.50.5) (2−7)
(BiBr(Zr0.5Mo0.5) (2−8)
(BiI(Ti0.50.5) (2−9)
(BiI(Ti0.5Mo0.5) (2−10)
(BiI(Zr0.50.5) (2−11)
(BiI(Zr0.5Mo0.5) (2−12)
(SbCl(Ti0.50.5) (2−13)
(SbCl(Ti0.5Mo0.5) (2−14)
(SbCl(Zr0.50.5) (2−15)
(SbCl(Zr0.5Mo0.5) (2−16)
(SbBr(Ti0.50.5) (2−17)
(SbBr(Ti0.5Mo0.5) (2−18)
(SbBr(Zr0.50.5) (2−19)
(SbBr(Zr0.5Mo0.5) (2−20)
(SbI(Ti0.50.5) (2−21)
(SbI(Ti0.5Mo0.5) (2−22)
(SbI(Zr0.50.5) (2−23)及び
(SbI(Zr0.5Mo0.5) (2−24)が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、(BiCl(Ti0.50.5)、(BiCl(Ti0.5Mo0.5)、(BiCl(Zr0.50.5)、(BiCl(Zr0.5Mo0.5)、(BiBr(Ti0.50.5)、(BiBr(Ti0.5Mo0.5)、BiBr(Zr0.50.5)及び(BiBr(Zr0.5Mo0.5)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0029】
組成式(1)及び組成式(2)で示される各シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物の合成方法は限定的ではなく、例えば、シレン型ビスマスオキシハライド(BiOCl、BiOBr等)又はシレン型アンチモンオキシハライド(SbOCl、SbOBr等)の粒子を原料とし、そこに酸化ビスマス、並びに、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン、酸化タングステン、酸化モリブデン等の粒子の少なくとも一種を、所定の組成となるように混合し、真空下で熱処理することにより合成することができる。
【0030】
熱処理の温度は限定的ではないが、600〜1000℃が好ましく、800〜900℃がより好ましい。熱処理の時間は温度に応じて調整すればよいが、5〜30時間が好ましく、15〜25時間がより好ましい。
【0031】
組成式(1)及び組成式(2)で示される各シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物の形状は限定的ではないが、本発明の水分解方法において光触媒Aとして使用する段階においては、粒子(粉末)であることが好ましい。粒子径としては、0.01〜10μmが好ましく、0.5〜1μmがより好ましい。なお、本明細書における粒子径は、SEM観察像を用いて不特定多数の粒子から無作為に数十〜数百個を選び、粒子径を計測し、その平均から算出した値である。
【0032】
組成式(1)及び組成式(2)で示される各シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物は、いずれも水分解能(酸素生成能及び水素生成能)を有しているため、それらを単独で光触媒Aとして使用し、可視光照射により水を分解することができる。
【0033】
詳細には、各シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物は、価電子帯上端が安定な酸素2p軌道で主に構成されるにも関わらず、その上端レベルがその特異な構造によって通常の金属酸化物の上端レベルよりも大きく負の値を取る結果、特異なバンド形成により可視光吸収能と水分解能(水の還元能力及び酸化能力の両方)とを有し、且つ水の酸化に対して安定性を有する。
【0034】
光触媒Aのみを用いて水分解方法を行う場合には、水中に少なくとも光触媒Aが分散している分散系に対して可視光を照射することにより水分解することができる。可視光照射に際しては、例えば、光カットオフフィルターを装着したキセノンランプを用いて可視光のみを照射することが挙げられる。その他、疑似太陽光光源、又は自然の太陽光を用いることも可能である。なお、可視光よりも波長の短い紫外光をその照射が光触媒の安定性などに悪影響を与えない限り、可視光と共に照射して水分解の反応効率を上げることが可能である。
【0035】
一定量の水に対する光触媒Aの使用量は限定的ではないが、本発明の水分解反応において光触媒Aとして使用する段階においては、水250mLに対して0.05〜0.5gが好ましく、0.1〜0.2gがより好ましい。水中に光触媒Aを分散させる際は、超音波装置などの公知の撹拌装置を利用することができる。
【0036】
また、本発明の水分解方法では、組成式(1)及び組成式(2)で示される各シレン−アウリビリアス層状酸ハロゲン化物からなる光触媒Aを酸素生成用触媒又は水素生成用触媒として使用し、光触媒Aとは異なる光触媒B、及び酸化還元対(レドックス)を併用することにより、二段励起型の可視光水分解方法を行うこともできる。
【0037】
二段励起型の可視光水分解方法を行う場合には、光触媒Aを酸素生成用触媒として用いる場合には光触媒Bは水素生成用触媒として用いればよく、光触媒Aを水素生成用触媒として用いる場合には光触媒Bは酸素生成用触媒として用いればよい。光触媒Bとしての水素生成用触媒には、例えば、ロジウム種ドープ型チタン酸ストロンチウム(SrTiO:Rh)、タンタル酸窒化物(TaON)等が挙げられる。また、光触媒Bとしての酸素生成用触媒には、例えば、酸化タングステン(WO)、バナジン酸ビスマス(BiVO)等が挙げられる。更に、酸化還元対としては、例えば、三価鉄イオン及び二価鉄イオン(Fe3+/Fe2+)、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン(IO/I)、三ヨウ化物イオン及びヨウ化物イオン(I/I)、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)4−/[Fe(CN)3−)等を用いることができる。
【0038】
本発明の水分解方法では、特に光触媒Aを酸素生成用触媒として使用し、水素生成用光触媒としての光触媒B、及び酸化還元対を併用することにより二段励起型の可視光水分解方法とすることが好ましい。光触媒Aと光触媒Bの両者を1つの反応容器の中で混合分散して用いる場合は、両者の光吸収特性及び光触媒活性に応じて、両者の混合比率を最適化して用いることが好ましい。また、光触媒Aと光触媒Bを多孔質ガラスなどを介して2つの反応容器に分離し、両反応容器の間を多孔質ガラスなどを介して酸化還元対のみが移動するように工夫すれば、光触媒Aが懸濁した反応容器側からは酸素が主に生成し、一方で光触媒Bが懸濁した反応容器側からは水素が主に生成し、酸素と水素が分離して生成して爆発の危険性が低減されることから、実用上好ましい。さらに、これらの光触媒材料はガラス板などの適切な基板上に固定化して用いることも可能であり、この場合は光触媒粒子の懸濁に必要な撹拌等のエネルギーが不要となるとともに、光触媒粒子の回収や交換なども容易になる利点を有する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0040】
なお、実施例及び比較例において合成した光触媒(試料)の物性評価(結晶構造解析、元素組成特定、及び形状観察)並びに、試料の光吸収特性評価、Mott-Schottkyプロット測定、量子化学(DFT)計算、光触媒活性評価の詳細は下記の通りである。
【0041】
<結晶構造解析>
各試料の結晶構造解析は、X線回折装置(Rigaku,MiniFlexII)を用いて行い、30kV、15mAで発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、10deg/minの走査速度で2θ=3〜70degの範囲を測定した。この際、角度補正を行うため、試料に10重量%の塩化カリウム(KCl)を混合し、KClの(200)面の回折ピークの位置を2θ=28.45degに合わせることにより、試料全体の回折ピークの2θ値を補正した。
【0042】
<元素組成>
各試料の元素組成は、エネルギー分散型X線分光装置(Oxford,XMAX)を用いて特定した。なお、加速電圧を20kVとして特性X線を検出した。
【0043】
<形状観察>
各試料の粉末形状は、走査電子顕微鏡(VE-9800,KEYENCE)を使用し、真鍮製の試料台に貼付したカーボンテープ上に試料粉末を散布し、観察を行った。
【0044】
<光吸収特性評価>
各試料の光吸収特性は、紫外可視分光光度計(JASCO,V-660)を用いて評価した。
【0045】
標準反射板(BaSO)を参照として積分球を用いて測定を行い、走査範囲200〜1000nm、走査速度1000nm/min、サンプリング間隔0.5nmの条件において試料粉末を光吸収特性を評価した。
【0046】
<Mott-Schottkyプロット測定>
参照電極に銀−塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極にPt電極、作用極にスキージ法により各試料粒子を塗布した透明導電性基板(FTO)を取り付けた。測定は、硫酸を用いてpHを2に調整した0.5mol/Lの硫酸ナトリウム(NaSO)水溶液中で行い、プロットのx切片よりフラットバンド電位を見積った。
【0047】
<結晶構造解析、量子化学(DFT)計算>
格子定数の精密化は市販の解析ソフト(Jana2006)を用い、R因子(解析の信頼性指標)が低くなるまで繰り返し操作を行った。DFT計算は市販のソフトウェア(CASTEP)を用いて行い、各試料の状態密度(DOS)を求めた。
【0048】
<光触媒活性評価>
各試料の水素生成能は、メタノールを電子供与体とする光触媒反応によって評価した。Pyrex製の反応容器にメタノール水溶液(20vol%,250mL)と各試料粒子 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内および反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射は市販の300Wキセノンランプ(Cermax製,照射波長領域300〜800nm)を用い、可視光のみを照射する場合にはカットオフフィルター(HOYA製,L-42)を装着して400nm以下をカットした。
【0049】
なお、反応前に水素生成サイトとして以下の手順で白金(Pt)微粒子を試料に担持した。蒸発皿に超純水1〜2mLと共に光触媒粒子0.5gを入れ、超音波洗浄機にて超音波照射をしながらガラス棒でよく粒子を分散させた。さらに、光触媒粒子に対してPtとして0.5wt%相当となるように塩化白金酸(HPtCl)の水溶液を加え、超音波照射でよく分散させた後に、水浴上で加熱撹拌しながら水分を蒸発させた。得られた粉末試料を水素気流(20mL/min)中において200℃で30分加熱することにより金属種のPt微粒子を光触媒粒子上に析出させた。
【0050】
各試料の酸素生成能は、三価鉄イオン(Fe3+)を電子受容体とする酸素生成反応によって評価した。Pyrex製反応容器に塩化鉄(FeCl)水溶液250mLと光触媒粒子 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内および反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射はL-42カットオフフィルターを装着したキセノンランプを用い、可視光のみを照射した。
【0051】
二段階励起機構に基づく可視光水分解は、上記の各試料を酸素生成用光触媒として用い、代表的な水素生成用光触媒であるロジウム種ドープ型チタン酸ストロンチウム(SrTiO:Rh,既報に従って調製)と三価鉄イオン/二価鉄イオン(Fe3+/Fe2+)を酸化還元対として行った。Pyrex製反応容器に塩化鉄(FeCl)水溶液250mLと両光触媒粒子を各 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内及び反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射はL-42カットオフフィルターを装着したキセノンランプを用い、可視光のみを照射した。
【0052】
両反応とも生成気体は閉鎖循環系に接続したガスクロマトグラフ(Shimadzu,GC−8A,TCD検出器,MS−5Aカラム,Arキャリア)により分析した。
【0053】
比較例1:ビスマス系酸ハロゲン化物の合成及びその物性評価等
<ビスマス系酸ハロゲン化物の合成>
下記手順によりシレン型ビスマスオキシハライド(比較試料1:BiOCl、比較試料2:BiOBr)粒子を合成した。
【0054】
酢酸ナトリウム(CHOONa,6.5mmol)を超純水に溶解した。塩化ナトリウム(NaCl)または臭化ナトリウム(NaBr)のいずれかを3.25mmolとなるように秤量し、先の酢酸ナトリウム水溶液に添加し、マグネチックスターラーを用いて撹拌、溶解した。
【0055】
上記とは別に、3.25mmolの硝酸ビスマス(Bi(NO・5HO)を2.5mLの氷酢酸に添加、撹拌した溶液を用意し、先の水溶液と混合し、室温で20時間撹拌した。溶液中に生成した微粉末を遠心分離(4500rpm,10分)によって沈降回収し、超純水で3回洗浄した後、80℃で5時間乾燥させてシレン型ビスマスオキシハライドの各粉末を得た。
【0056】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の物性評価>
得られた試料粉末のX線回折結果から、BiOCl及びBiOBrはいずれも同じ結晶構造を有していることが確認され、エネルギー分散型X線分光法による元素分析からも理論組成となっていることが確認された。これらの吸収端はそれぞれ362nm、405nmとなり、バンドギャップはそれぞれ3.40,3.02eVと見積もられた。これらの物性評価の結果は、従来の既報における結果とよく一致した。
【0057】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の光触媒活性評価>
得られたBiOClおよびBiOBrの水分解に対する能力を、水素生成及び酸素生成に対して上記の手法によってそれぞれ評価した。その結果、いずれも可視光照射下では水素生成活性を示さなかった。一方、酸素生成活性については、BiOClは全く活性を示さなかったが、BiOBrでは1時間あたり0.05μmol程度のごく微量の酸素が発生した。
【0058】
比較例2:ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の合成及びその物性評価等
<ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の合成>
下記手順によりビスマス系ペロブスカイト型酸化物(比較試料3:BiMoO)粒子を合成した。
【0059】
酸化ビスマス(Bi, 3mmol)と酸化モリブデン(MO, 3mmol)をメノウ乳鉢に入れて、乳棒を用いてよく混練した。よく混ざるよう純水を1〜2mL滴下し、再びよく混練した。この操作を複数回行った後、室温にて空気中で風乾した。その後、550℃で4時間焼成を行いビスマス系ペロブスカイト型酸化物の粉末を合成した。
【0060】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の物性評価>
得られた試料粉末のX線回折結果から、BiMoO帰属されるピークが確認された。エネルギー分散型X線分光法による元素分析からも理論組成となっていることが確認された。これらの吸収端は467nmとなり、バンドギャップは2.56eVと見積もられた。これらの物性評価の結果は、従来の既報における結果とよく一致した。
【0061】
<ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の光触媒活性評価>
得られたBiMoOの水分解に対する能力を、水素生成及び酸素生成に対して上記の手法によってそれぞれ評価した。その結果、可視光照射下では水素生成活性を示さなかった。一方、酸素生成活性については、1時間あたり0.71μmol程度の酸素が発生した。
【0062】
実施例1:シレン-アウリビリアス層状ハロゲン化物の合成及びその物性評価等
<試料1〜4の合成>
上記比較例で合成した、BiOClまたはBiOBr(2mmol)をBi(3mmol)、Nb又はTa(1mmol)とともにメノウ乳鉢でよく混合した後、石英管に入れて真空封入し、これを900℃で20時間焼成することで行った。
【0063】
<試料5の合成>
上記比較例で合成したBiOCl(2mmol)をBi(3mmol)、TiO(1mmol)、およびWO(1mmol)とともにメノウ乳鉢でよく混合した後、石英管に入れて真空封入し、これを900℃で20時間焼成することで行った。
【0064】
<試料1〜5の物性評価等>
X線回折による結晶構造解析から、得られた粉末試料は全て単相であり、その構造は既報と良く一致した。またエネルギー分散型X線分光装置を用いた元素分析からも、ほぼ仕込み組成の試料が得られていることが確認された。
【0065】
走査電子顕微鏡を用いた粒子形状観察から、いずれの試料も数百nmから数μmの粒径を有する粒子であることが確認された。
【0066】
紫外可視分光光度計を用いた光吸収特性評価(図3)、およびMott-Schottkyプロット測定より推定した各試料の半導体特性を図4および表1に示す。従来のビスマス系酸ハロゲン化物(比較例1:BiOCl,BiOBr)の場合とは異なり、5種類全ての化合物が、可視光を吸収できるバンドギャップ(<3.0eV)と水を還元可能な高い伝導帯下端レベル(<0 V vs.NHE)を有していることが分かる。
【0067】
【表1】
【0068】
図5にDFT計算によって求めた、試料1〜4における状態密度(DOS)を示す。これらの試料ではいずれも、その価電子帯上端は酸素2p軌道によって占有されており、表1に示した価電子帯上端のレベルから、これらの化合物では通常の金属酸化物の場合に比べて、酸素2pが形成する価電子帯上端レベルが大きく負の値を取り、結果として可視光吸収と水の還元も可能な十分に負の伝導帯下端レベルを有することが分かった。
【0069】
実施例2:シレン-アウリビリアス層状ハロゲン化物を用いた可視光水分解
<試料1〜5の光触媒活性評価>
メタノール水溶液からの水素生成を検討した結果、いずれの場合も水素が定常的に生成し、その生成速度は表2に示すようになった。また、塩化鉄水溶液からの酸素生成を検討した結果、いずれの場合も酸素が定常的に生成し、その速度は表2に示すようになった。また、長時間の反応後においても、X線回折や表面組成分析結果においてハロゲンアニオンの減少などの変化は認められず、極めて安定に酸素生成が可能であることが明らかとなった。
【0070】
このように、今回検討した一連の化合物は、可視光吸収能、水の分解能(水の還元能力と水の酸化能力の両方)、そして安定性の全てを有することが明らかとなった。
【0071】
【表2】
【0072】
<試料1〜4を酸素生成用光触媒とする可視光水分解>
試料1〜4を酸素生成用光触媒として用い、代表的な水素生成用光触媒であるロジウム種ドープ型チタン酸ストロンチウム(SrTiO:Rh,既報に従って調製)と三価鉄イオン/二価鉄イオン(Fe3+/Fe2+)を酸化還元対として行った。
【0073】
いずれの場合も可視光照射下において、定常的且つ量論的(水素:酸素=2:1)な気体生成が確認された。例えば(BiCl(NbO)を酸素生成用光触媒として用い、SrTiO:Rhと組み合わせた場合には、水素が約12.6μmol/hおよび酸素が約6.2μmol/hの速度で定常的に生成した(図6参照)。また水溶液中にFe3+/Fe2+が存在しない場合は、ごく微量の気体(水素)しか生成しなかった。従って、二種の光触媒間において、Fe3+/Fe2+を介した電子移動が進行し、二段階励起型の可視光水分解が進行したといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6