【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0040】
なお、実施例及び比較例において合成した光触媒(試料)の物性評価(結晶構造解析、元素組成特定、及び形状観察)並びに、試料の光吸収特性評価、Mott-Schottkyプロット測定、量子化学(DFT)計算、光触媒活性評価の詳細は下記の通りである。
【0041】
<結晶構造解析>
各試料の結晶構造解析は、X線回折装置(Rigaku,MiniFlexII)を用いて行い、30kV、15mAで発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、10deg/minの走査速度で2θ=3〜70degの範囲を測定した。この際、角度補正を行うため、試料に10重量%の塩化カリウム(KCl)を混合し、KClの(200)面の回折ピークの位置を2θ=28.45degに合わせることにより、試料全体の回折ピークの2θ値を補正した。
【0042】
<元素組成>
各試料の元素組成は、エネルギー分散型X線分光装置(Oxford,XMAX)を用いて特定した。なお、加速電圧を20kVとして特性X線を検出した。
【0043】
<形状観察>
各試料の粉末形状は、走査電子顕微鏡(VE-9800,KEYENCE)を使用し、真鍮製の試料台に貼付したカーボンテープ上に試料粉末を散布し、観察を行った。
【0044】
<光吸収特性評価>
各試料の光吸収特性は、紫外可視分光光度計(JASCO,V-660)を用いて評価した。
【0045】
標準反射板(BaSO
4)を参照として積分球を用いて測定を行い、走査範囲200〜1000nm、走査速度1000nm/min、サンプリング間隔0.5nmの条件において試料粉末を光吸収特性を評価した。
【0046】
<Mott-Schottkyプロット測定>
参照電極に銀−塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極にPt電極、作用極にスキージ法により各試料粒子を塗布した透明導電性基板(FTO)を取り付けた。測定は、硫酸を用いてpHを2に調整した0.5mol/Lの硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)水溶液中で行い、プロットのx切片よりフラットバンド電位を見積った。
【0047】
<結晶構造解析、量子化学(DFT)計算>
格子定数の精密化は市販の解析ソフト(Jana2006)を用い、R因子(解析の信頼性指標)が低くなるまで繰り返し操作を行った。DFT計算は市販のソフトウェア(CASTEP)を用いて行い、各試料の状態密度(DOS)を求めた。
【0048】
<光触媒活性評価>
各試料の水素生成能は、メタノールを電子供与体とする光触媒反応によって評価した。Pyrex製の反応容器にメタノール水溶液(20vol%,250mL)と各試料粒子 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内および反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射は市販の300Wキセノンランプ(Cermax製,照射波長領域300〜800nm)を用い、可視光のみを照射する場合にはカットオフフィルター(HOYA製,L-42)を装着して400nm以下をカットした。
【0049】
なお、反応前に水素生成サイトとして以下の手順で白金(Pt)微粒子を試料に担持した。蒸発皿に超純水1〜2mLと共に光触媒粒子0.5gを入れ、超音波洗浄機にて超音波照射をしながらガラス棒でよく粒子を分散させた。さらに、光触媒粒子に対してPtとして0.5wt%相当となるように塩化白金酸(H
2PtCl
6)の水溶液を加え、超音波照射でよく分散させた後に、水浴上で加熱撹拌しながら水分を蒸発させた。得られた粉末試料を水素気流(20mL/min)中において200℃で30分加熱することにより金属種のPt微粒子を光触媒粒子上に析出させた。
【0050】
各試料の酸素生成能は、三価鉄イオン(Fe
3+)を電子受容体とする酸素生成反応によって評価した。Pyrex製反応容器に塩化鉄(FeCl
3)水溶液250mLと光触媒粒子 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内および反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射はL-42カットオフフィルターを装着したキセノンランプを用い、可視光のみを照射した。
【0051】
二段階励起機構に基づく可視光水分解は、上記の各試料を酸素生成用光触媒として用い、代表的な水素生成用光触媒であるロジウム種ドープ型チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3:Rh,既報に従って調製)と三価鉄イオン/二価鉄イオン(Fe
3+/Fe
2+)を酸化還元対として行った。Pyrex製反応容器に塩化鉄(FeCl
3)水溶液250mLと両光触媒粒子を各 0.1gを加え、超音波洗浄機中で約5分間超音波照射をして粒子を分散させた。反応容器を外気から遮断した閉鎖循環系に接続し、ロータリー真空ポンプを用いて閉鎖循環系内及び反応溶液中に含まれる空気を脱気した。光照射はL-42カットオフフィルターを装着したキセノンランプを用い、可視光のみを照射した。
【0052】
両反応とも生成気体は閉鎖循環系に接続したガスクロマトグラフ(Shimadzu,GC−8A,TCD検出器,MS−5Aカラム,Arキャリア)により分析した。
【0053】
比較例1:ビスマス系酸ハロゲン化物の合成及びその物性評価等
<ビスマス系酸ハロゲン化物の合成>
下記手順によりシレン型ビスマスオキシハライド(比較試料1:BiOCl、比較試料2:BiOBr)粒子を合成した。
【0054】
酢酸ナトリウム(CH
3OONa,6.5mmol)を超純水に溶解した。塩化ナトリウム(NaCl)または臭化ナトリウム(NaBr)のいずれかを3.25mmolとなるように秤量し、先の酢酸ナトリウム水溶液に添加し、マグネチックスターラーを用いて撹拌、溶解した。
【0055】
上記とは別に、3.25mmolの硝酸ビスマス(Bi(NO
3)
3・5H
2O)を2.5mLの氷酢酸に添加、撹拌した溶液を用意し、先の水溶液と混合し、室温で20時間撹拌した。溶液中に生成した微粉末を遠心分離(4500rpm,10分)によって沈降回収し、超純水で3回洗浄した後、80℃で5時間乾燥させてシレン型ビスマスオキシハライドの各粉末を得た。
【0056】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の物性評価>
得られた試料粉末のX線回折結果から、BiOCl及びBiOBrはいずれも同じ結晶構造を有していることが確認され、エネルギー分散型X線分光法による元素分析からも理論組成となっていることが確認された。これらの吸収端はそれぞれ362nm、405nmとなり、バンドギャップはそれぞれ3.40,3.02eVと見積もられた。これらの物性評価の結果は、従来の既報における結果とよく一致した。
【0057】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の光触媒活性評価>
得られたBiOClおよびBiOBrの水分解に対する能力を、水素生成及び酸素生成に対して上記の手法によってそれぞれ評価した。その結果、いずれも可視光照射下では水素生成活性を示さなかった。一方、酸素生成活性については、BiOClは全く活性を示さなかったが、BiOBrでは1時間あたり0.05μmol程度のごく微量の酸素が発生した。
【0058】
比較例2:ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の合成及びその物性評価等
<ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の合成>
下記手順によりビスマス系ペロブスカイト型酸化物(比較試料3:Bi
2MoO
6)粒子を合成した。
【0059】
酸化ビスマス(Bi
2O
3, 3mmol)と酸化モリブデン(MO
3, 3mmol)をメノウ乳鉢に入れて、乳棒を用いてよく混練した。よく混ざるよう純水を1〜2mL滴下し、再びよく混練した。この操作を複数回行った後、室温にて空気中で風乾した。その後、550℃で4時間焼成を行いビスマス系ペロブスカイト型酸化物の粉末を合成した。
【0060】
<ビスマス系酸ハロゲン化物の物性評価>
得られた試料粉末のX線回折結果から、Bi
2MoO
6帰属されるピークが確認された。エネルギー分散型X線分光法による元素分析からも理論組成となっていることが確認された。これらの吸収端は467nmとなり、バンドギャップは2.56eVと見積もられた。これらの物性評価の結果は、従来の既報における結果とよく一致した。
【0061】
<ビスマス系ペロブスカイト型酸化物の光触媒活性評価>
得られたBi
2MoO
6の水分解に対する能力を、水素生成及び酸素生成に対して上記の手法によってそれぞれ評価した。その結果、可視光照射下では水素生成活性を示さなかった。一方、酸素生成活性については、1時間あたり0.71μmol程度の酸素が発生した。
【0062】
実施例1:シレン-アウリビリアス層状ハロゲン化物の合成及びその物性評価等
<試料1〜4の合成>
上記比較例で合成した、BiOClまたはBiOBr(2mmol)をBi
2O
3(3mmol)、Nb
2O
5又はTa
2O
5(1mmol)とともにメノウ乳鉢でよく混合した後、石英管に入れて真空封入し、これを900℃で20時間焼成することで行った。
【0063】
<試料5の合成>
上記比較例で合成したBiOCl(2mmol)をBi
2O
3(3mmol)、TiO
2(1mmol)、およびWO
3(1mmol)とともにメノウ乳鉢でよく混合した後、石英管に入れて真空封入し、これを900℃で20時間焼成することで行った。
【0064】
<試料1〜5の物性評価等>
X線回折による結晶構造解析から、得られた粉末試料は全て単相であり、その構造は既報と良く一致した。またエネルギー分散型X線分光装置を用いた元素分析からも、ほぼ仕込み組成の試料が得られていることが確認された。
【0065】
走査電子顕微鏡を用いた粒子形状観察から、いずれの試料も数百nmから数μmの粒径を有する粒子であることが確認された。
【0066】
紫外可視分光光度計を用いた光吸収特性評価(
図3)、およびMott-Schottkyプロット測定より推定した各試料の半導体特性を
図4および表1に示す。従来のビスマス系酸ハロゲン化物(比較例1:BiOCl,BiOBr)の場合とは異なり、5種類全ての化合物が、可視光を吸収できるバンドギャップ(<3.0eV)と水を還元可能な高い伝導帯下端レベル(<0 V vs.NHE)を有していることが分かる。
【0067】
【表1】
【0068】
図5にDFT計算によって求めた、試料1〜4における状態密度(DOS)を示す。これらの試料ではいずれも、その価電子帯上端は酸素2p軌道によって占有されており、表1に示した価電子帯上端のレベルから、これらの化合物では通常の金属酸化物の場合に比べて、酸素2pが形成する価電子帯上端レベルが大きく負の値を取り、結果として可視光吸収と水の還元も可能な十分に負の伝導帯下端レベルを有することが分かった。
【0069】
実施例2:シレン-アウリビリアス層状ハロゲン化物を用いた可視光水分解
<試料1〜5の光触媒活性評価>
メタノール水溶液からの水素生成を検討した結果、いずれの場合も水素が定常的に生成し、その生成速度は表2に示すようになった。また、塩化鉄水溶液からの酸素生成を検討した結果、いずれの場合も酸素が定常的に生成し、その速度は表2に示すようになった。また、長時間の反応後においても、X線回折や表面組成分析結果においてハロゲンアニオンの減少などの変化は認められず、極めて安定に酸素生成が可能であることが明らかとなった。
【0070】
このように、今回検討した一連の化合物は、可視光吸収能、水の分解能(水の還元能力と水の酸化能力の両方)、そして安定性の全てを有することが明らかとなった。
【0071】
【表2】
【0072】
<試料1〜4を酸素生成用光触媒とする可視光水分解>
試料1〜4を酸素生成用光触媒として用い、代表的な水素生成用光触媒であるロジウム種ドープ型チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3:Rh,既報に従って調製)と三価鉄イオン/二価鉄イオン(Fe
3+/Fe
2+)を酸化還元対として行った。
【0073】
いずれの場合も可視光照射下において、定常的且つ量論的(水素:酸素=2:1)な気体生成が確認された。例えば(Bi
2O
2)
2Cl(NbO
4)を酸素生成用光触媒として用い、SrTiO
3:Rhと組み合わせた場合には、水素が約12.6μmol/hおよび酸素が約6.2μmol/hの速度で定常的に生成した(
図6参照)。また水溶液中にFe
3+/Fe
2+が存在しない場合は、ごく微量の気体(水素)しか生成しなかった。従って、二種の光触媒間において、Fe
3+/Fe
2+を介した電子移動が進行し、二段階励起型の可視光水分解が進行したといえる。