(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
このナセルをタワー頂部に設置する方法として、出願人は、特許文献1において下記の工程I〜IVからなるタワー頂部へのナセルの設置方法を提案した。
「第I工程」
・タワー頂部に枠体をワイヤによって固定した後、ナセルに接続したワイヤを前記枠体の滑車に掛け回す。
「第II工程」
・前記滑車に掛け回したワイヤを、地上の滑車に導き、そのワイヤの端をウインチで巻き取って、ナセルを前記枠体まで吊り上げてその枠体に引き渡すとともに、前記ワイヤをナセルから離す工程
「第III工程」
・前記枠体を回転させてナセルをタワー頂部に導き、そのナセルをタワー頂部に設置する工程
「第IV工程」
・ナセルのタワー頂部設置後、前記枠体をタワー頂部から取り外す工程
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記提案の技術は、下記の問題点1〜3がある。
「第1問題点」
前記枠体は回転するため、その構造が複雑である上に、回転に耐える強度を有する構造とする必要があり、重量が増加すると共に、枠体の各構成部材の接続用ピンに高強度の物を使用する必要がある等から、コスト的に高いものとなる。
「第2問題点」
前記枠体を回転させる作用が必要であり、そのためのワイヤ操作が必要である。
「第3問題点」
枠体の回転によってタワー頂部にナセルを設置するため、その際、横方向の微調節が困難であり、ナセルのタワー頂部に対する位置決め設置が煩雑である。
【0005】
この発明は、以上の実状の下、第1〜第3の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、この発明は、以下の工程1〜11からなる構成のタワー頂部へのナセルの設置方法としたのである。
「第1工程」
・地上への
鉛直方向の設置が完了したタワー頂部に、
前記鉛直方向に対し水平の横方向
(以下、単に「横方向」という。)に張り出し、その張り出し部の下方が開放した四角箱枠状枠体を設置する。
「第2工程」
・前記枠体の横方向
に向かって前後に地上に固定したワイヤを係止して枠体をタワー頂部に固定する。
「第3工程」
・前記枠体の横方向
に向かって前後の滑車に前記ナセルからのワイヤを掛け回す。
「第4工程」
・そのワイヤの前記滑車からの端を地上の滑車に掛け回してクレーンの吊り上げフックに接続する。
「第5工程」
・前記クレーンによって前記フックを上昇させ、前記ワイヤを前記各滑車を介して引き込んで前記ナセルを吊り上げる。
「第6工程」
・前記ナセルの吊り上げ時、その吊り上げ途中のワイヤの移動(走行)を固定し、その固定した状態で、前記クレーンのフックをワイヤの引き込み方向後側に接続し直す。
「第7工程」
・前記接続をし直した後、前記ワイヤの移動固定を開放し、その後、クレーンによって前記フックを上昇させ、前記ワイヤを前記各滑車を介して引き込んで前記ナセルをさらに吊り上げる。
「第8工程」
・前記接続し直しする第6工程とその後にナセルをさらに吊り上げる第7工程を繰り返してナセルを前記枠体内に前記張り出し部の下方開放部を通過させて導く。
「第9工程」
・前記枠体内に導かれたナセルをその枠体内に吊り下げるとともに前記ワイヤから取り外す。
「第10工程」
・前記枠体に吊り下げられたナセルを前記タワーの頂部に移動させてそのタワー頂部に設置する。
「第11工程」
・前記枠体の固定用ワイヤを取り外すとともに枠体をタワー頂部から取り外す。
【0007】
この構成において、前記枠体は、
一辺が水平となって横方向に傾斜した平行四辺形を呈してその上側の張り出し部が下方に開放したものとすれば、合理的な軽量枠体(フレーム)とすることができる。
また、その枠体は、ナセルの吊り上げ位置からタワーも頂部に至る
横方向のレールを有し、そのレールに吊り下げ機をその長さ方向に移動可能に設けたものとすれば、その吊り下げ機により、前記第9工程のナセルを吊り下げるとともに第10工程のタワー頂部に移動させる作用を行うことができ、従来の枠体の回転作用も無くなり、ナセルの横方向及び上下方向の微調整も容易となって作業性が向上する。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、以上の第1〜第11工程によってナセルをタワー頂部に設置するので、ウインチが不要な従来にない設置方法となり、中型のクレーンによってその作用を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明に係る風力発電設備の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1A〜
図1Hにその風力発電設備の構築態様の概略を示し、
図2A〜
図2Eに、その構築態様において、
地上Gへの鉛直方向に設置したタワー1頂部への枠体10の設置態様を示し、
図3A〜
図3Dに、その枠体10を使用したタワー1へのナセルMの設置態様を示す。
【0011】
その風力発電設備の構築態様の概略を
図1A〜
図1Hに基づき説明すると、まず、
図1Aに示すように、風力発電設備の構築地盤(地上)に基礎Gを作る。その基礎Gに、トラックTで運ばれたタワー1の基台2を、図示鎖線から実線のように、例えば25t(=25トン)ラフテレーンクレーン (rough terrain crane)C
1で吊り上げて設置する。
その後、
図1Bから
図1Cに示すように、トラックTで運ばれたタワー1の部材3、部材4、部材5、部材6を、前記ラフテレーンクレーンC
1とそれより大型の例えば60tのラフテレーンクレーンC
2によって吊り上げ、前記基台2にそれらを積み重ねて接続する。その基台2及び各タワー部材3〜6は、例えば5〜12tであって、従来と同様に、対向する各タワー部材2〜6の端のフランジをボルト止め等することによって接続する。なお、前記ラフテレーンクレーンC
1、C
2は、中型クレーンに属し、以下、適宜に「クレーンC
1、C
2」と言う。
【0012】
つぎに、
図1Dに示すように、そのタワー1の頂部に枠体10を設置し、その枠体10の横方向
に向かって前後に地上に固定したワイヤ19を係止して枠体10をタワー1頂部に固定する。つづいて、同図から
図1Eに示すように、その枠体10を利用してクレーンC
2によって、
図1Eに示すように、タワー1にナセルMを設置する。さらに、
図1F〜
図1Gに示すように、枠体10の固定用ワイヤ19を取り外すとともに枠体10をタワー頂部から取り外した後、そのナセルMにロータ(羽根)Rを取り付ける。その後、クレーンC
2を退去させて、
図1Hに示す風力発電設備の風車部分の構築を完了する。
【0013】
図1Dで示すタワー1の頂部に設置される枠体10は、
図7A、
図7Bに示すように、タワー1の頂部に固定の基板11と、その基板11の両側対の横方向に傾斜した平行四辺形の枠材12と、その両枠材12の上下の対向点を連結した中央鉛直方向の2本の補強材13等とからなる。この構成の枠体10は、四角箱枠状を呈して2つの直角三角形の組み合わせの単純トラス骨組となったフレームである。
【0014】
この枠体10には、さらに、上記両側の両枠材12の上杆材に設けた作業足場14と、ナセルMの吊り下げ位置からタワー1の頂部に至る水平横方向(
図7Aにおいて左右方向)のレール(軌条)15と、そのレール15に移動可能に設けたチェーンブロック等からなる吊り下げ機16等が設けられている。吊り下げ機16は、手動により、レール15にその長さ方向にコロ(車輪)を介しトロリ式で移動可能となっている。
また、枠材12の上部両側前後(
図7Aにおいて、左側が前、右側が後)及び下部両側後には滑車17a、17b、17cを設ける(
図7A参照)。
【0015】
その枠体10の設置作業の詳細を
図2A〜
図2Eに基づき説明すると、まず、
図2Aに示すように、クレーンC
2によって枠体10の基板11をタワー1の頂部に吊り上げ、高所作業車Eの作業籠に載った作業者によってその基板11をタワー1の頂部にボルト止めや溶接等によって取り付ける。
この後、その基板11を基礎として、
図2B〜
図2Eに示すように、前記枠材12、補強材13、作業足場14、レール15、吊り下げ機16を、適宜に分割又は組み立てて、クレーンC
2により順々に吊り上げて、枠体10を構築する。その構築は、基板11等にいる作業者が行う。
この構築された枠体10は、タワー1の頂部から横方向(
図7Aにおいて左右方向)に張り出し(同図において右方向)、その上側の張り出し部が下方に開放したものとなる。
【0016】
この枠体10の前後両側からは地上に4本以上のワイヤ19を導いて前後に傾かないようにする(
図2E参照)。このワイヤ19はその効果が得られる適宜な時に設ければ良い。また、そのワイヤ19は1条でも2条等の複数でもよい。例えば、ワイヤ19は、
図4、
図5に示すように、枠体10の下端から地上(地盤G)に、シャックル19a、滑車19b、レバーブロック19c、ロードセル19d等を介して設ける。レバーブロック19cは、従来周知の構造のものであって、本体に対してレバーを矢印のように回動させることによってチェーンを繰り出し(巻き出し)又は巻き取る(巻き上げる)ものである(
図5参照)。ロードセル19dは、枠体10の各部材12、13・・やナセルM等の吊り上げ時の反力を測定して、その各作業ステップにおいて、枠体10に過大な荷重が作用していないかを判定し、安全な作業管理を行うためのものである。
【0017】
図1Eに示すナセルMのタワー1の頂部への設置作業の詳細は、
図3A〜
図3Dに示すように、枠体10からナセルMに至るワイヤ21を、ナセルMの吊り上げ環に接続したフック付滑車22に掛け回して枠体10に導く(前記第3工程)。その導かれたワイヤ21は枠体10の各滑車17a、17b、17c(総称符号:17)に掛け回してタワー1の下方に導く(同第4工程の前段)。そのワイヤ21は、さらに、
図3A、
図6(A)に示すように、地盤Gに固定の滑車23a、23bに掛け回された後、クレーンC
2の吊り上げフック24に接続する(同第4工程の後段)。その接続(係止)は、ワイヤ21の端をフック24に掛け回し(輪を作り)、その端を締結具26で締結することによる。この締結具26は、
図6(C)の締結具26のような係止環27の無いものでも良く、また、
図6(C)に示す特殊な態様でなくても、汎用のワイヤクリップを使用することもできる。
【0018】
この状態において、クレーンC
2のフック24を上昇させ、ワイヤ21を各滑車17を介し引き込んでナセルを吊り上げる(同第5工程)。
このとき、
図3Bに示すように、ナセルMを所要高さに吊り上げると、
図6(B)に示すように、滑車23aの手前において、ワイヤ21に締結具26を締結する。その締結具26は、
図6(C)に示すように、2枚の板材26a、26bからなり、その間にワイヤ21を挟んでボルト・ナットを孔26cに通し締め付けることによってワイヤ21に強固に固定される。この締結具26は、少なくとも一方の板材26aに係止環27が設けられており、この係止環27にレバーブロック28からのワイヤ29が係止される。このため、ワイヤ21は、引き戻しが防止されてナセルMの上昇位置は維持される。係止環27にレバーブロック28のフックを掛けても良い。
【0019】
この状態において、クレーンC
2のフック24をワイヤ21から外し、
図6(A)に示す滑車23bの真上での係止作業を行う。すなわち、ナセルMの吊り上げ時、その途中で、地上の滑車23aの手前でワイヤ21の移動を固定し、その固定した状態で、クレーンC
2のフック24をワイヤの引き込み方向後側に接続し直す(同第6工程)。
以後、そのワイヤ21のレバーブロック28による移動固定を開放し、再度、クレーンC
2によってフック24を上昇させ、ナセルMを吊り上げる(同第7工程)。その接続し直しする第6工程と、その後にナセルをさらに吊り上げる第7工程を繰り返してナセルを枠体10内にその下方開放部から導く(同第8工程)。
その第6、7工程の繰り返し数は、クレーンC
2の吊り上げ能力等を考慮して適宜に設定すれば良い。この実施形態においては、ナセルM=20.0t、上昇高さ(ワイヤ21の巻き上げ高さ:41m)から、前記繰り返しを6回行い、クレーンC
2の巻き上げ長さは、41×6=246mとした。
【0020】
ナセルMが、
図3B、
図7Aに示すように、枠体10内に至ると、
図7A、
図7Bに示すように、吊り下げ機16によってそのナセルMを吊る。この吊り下げが完了すれば、ナセルMからワイヤ21を取り外す(同第9工程)。そのワイヤ21の取り外しは、支障がない限り、後であっても良い。
その後、
図7Aの実線から鎖線で示すように、吊り下げ機16をレール15に沿って横方向に手動によって移動し、ナセルMをタワー1の頂部に移動させるとともに下降させて、その頂部に取り付ける(同第10工程)。
【0021】
ナセルMのタワー頂部への設置が完了すれば、前記枠体10の構築と逆の作用によってその枠体10をタワー頂部から取り外し(同第11工程)、
図3Dに示す、タワー1にナセルMが設置された状態となる。その枠体10の取り外し時、ワイヤ19は適宜に取り外す。この後、前記のように、そのナセルMにロータRを取り付け、
図1Hに示す風力発電設備の風車部分の構築を完了する。
【0022】
上記実施形態の枠体10は、傾斜する平行四辺形として横方向に張り出し、その張り出し部の下方が開放した構成としたが、横方向に張り出し、そのナセルの吊り込み位置側の張り出し部の下方が開放していれば、平行四辺形以外、例えば長方形等の他の構造でも良いことは勿論である。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。