特許第6644579号(P6644579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644579
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】バイオマスを原料とする水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/02 20060101AFI20200130BHJP
   C02F 11/10 20060101ALI20200130BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C01B3/02 ZZAB
   C02F11/10 Z
   B09B3/00 302Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-32386(P2016-32386)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-149598(P2017-149598A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207724
【氏名又は名称】大平洋機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】石原 道隆
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 博
(72)【発明者】
【氏名】和田 麻美
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−018955(JP,A)
【文献】 特開平07−117050(JP,A)
【文献】 特開2006−263570(JP,A)
【文献】 実開昭56−024941(JP,U)
【文献】 特開2010−230295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00−3/58
B02C2/00−2/10
B02C17/00−17/24
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/10
C02F11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の処理容器からなり、所定の水分を含んだセルロース系バイオマスと、水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムのいずれかと、水酸化ニッケルまたは硫酸ニッケルとの混合物である被処理物を処理して水素を製造する水素製造装置であって、
前記処理容器内には、回転駆動可能に設けられている回転軸と、該回転軸に取り付けられている複数枚の攪拌羽根と、前記処理容器の壁部から内部へ臨むようにして設けられているチョッパー羽根とが設けられ、
前記被処理物は前記攪拌羽根によって前記処理容器内で攪拌されると共に、前記チョッパー羽根によって微粉末状に粉砕されるようになっており、
前記処理容器の外周面には加熱手段が設けられ、前記処理容器を350〜450℃に加熱するようになっており、
前記処理容器には、気体の排気口が形成されていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素製造装置において、前記回転軸は、内部に管路が形成されて冷却流体が供給されるようになっていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水素製造装置は、前記処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口が設けられていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の水素製造装置において、前記処理容器はその軸が水平な横向きの円筒状を呈していると共に前記回転軸は水平に設けられ、前記攪拌羽根によって前記被処理物が攪拌されるとき前記処理容器内で底部から上方へ掻き上げられるようになっていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の水素製造装置において、前記処理容器はその軸が垂直な円筒状を呈していると共に前記回転軸は垂直に設けられていることを特徴とする水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥等の、セルロースを多く含むいわゆるセルロース系バイオマスを原料として水素を製造する水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、廃棄木材等の、セルロースを多く含むいわゆるセルロース系バイオマスから水素を製造する方法は色々あるが、次のようなガス化、水蒸気改質、水性ガスシフト反応により水素を得る方法が周知である。すなわちセルロース系バイオマスを800〜1000℃の高温で加熱して炭化させる。そうすると水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素が発生する。これに高温の水蒸気を供給するとメタン、一酸化炭素からさらに水素が得られる。すなわち水蒸気改質によりメタンと水蒸気が反応して水素と一酸化炭素が得られ、水性ガスシフト反応により一酸化炭素と水蒸気とが反応して水素と二酸化炭素が得られる。このようにしてセルロース系バイオマスから水素を得ることができる。しかしながらこの従来の方法はセルロース系バイオマスを1000℃近い高温で処理する必要があり、処理装置に高い耐熱性が要求されコストが大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−59202号公報
【特許文献2】特開2009−18955号公報
【特許文献3】特許第4413271号公報
【0004】
これに対して特許文献1には、セルロース系バイオマスから水素を得るとき、比較的低温の反応温度で処理できる水素製造方法が記載されている。特許文献1に記載の方法は、セルロース系バイオマスに対して、ニッケル、コバルト等の水素を活性化する金属触媒を混合し、この混合物を窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスと共に圧力容器に入れる。そして圧力容器を300〜374℃の反応温度に加熱する。このとき圧力容器内の圧力は反応温度における水の飽和蒸気圧以上になるようにする。この状態で所定時間経過させて水素を発生させる。特許文献1に記載の方法は、従来の方法に比して反応温度が比較的低温の300〜374℃で実施でき、反応温度が低い点では非常に優れているといえる。しかしながら、特許文献1に記載の方法は高圧下で実施する必要がある。例えば350℃においては飽和水蒸気圧は約18MPaであるので、それ以上の高圧下で処理しなければならない。そうすると高圧に耐える圧力容器が必要になるが、このような高圧に耐える圧力容器は製造にコストがかかる。また高圧に耐えるために比較的容積を小さくせざるを得ない。そうすると大量のセルロース系バイオマスを処理することができないので、水素製造に要するコストは大きいと言える。
【0005】
特許文献2には、比較的低温の反応温度で実施できると共に大気圧下でも水素を得ることができる水素製造方法が記載されている。特許文献2に記載の方法は、セルロース系バイオマスを粉末状にし、水酸化カルシウムの粉末と、水酸化ニッケルの粉末を加え、この混合物を微粉末状に粉砕する。すなわちメカノケミカル処理を行う。十分に混合・粉砕されたものを密封容器に入れ、350〜450℃の反応温度に加熱する。そうすると以下の式で示される反応により、セルロース(C10)が分解されて水素が発生する。すなわち水素が製造される。
(C10)+6Ca(OH)+0.5Ni(OH) → 11.5H+6CaCO+0.5Ni
なお、この反応は大気圧下で進行するので、密封容器に耐圧性は要求されない。すなわち特許文献2に記載の方法は、低コストでセルロース系バイオマスから水素を製造することができると言える。
【0006】
特許文献3には、水素製造方法とは関係がないが被処理物を効率よく粉砕して乾燥する乾燥装置が記載されている。この乾燥装置は、水平方向に配置されている円筒状の処理容器、この容器内に設けられている水平回転軸とこれに設けられている複数枚のフラット羽根、容器内に設けられているチョッパー羽根、マイクロ波を照射するマイクロ波発信器とから構成されている。従って、この乾燥装置においては被処理物を微粉末状に粉砕し、そして乾燥することができる。つまりメカノケミカル処理を実施することができる。このように特許文献3に記載の乾燥装置は、被処理物を微粉末状に粉砕して乾燥させることができるので、特許文献2に記載の水素製造方法にも利用できそうである。具体的には、セルロース系バイオマスをこの乾燥装置に被処理物として投入して処理する。そうするとセルロース系バイオマスは微粉末状に粉砕されると共に乾燥される。セルロース系バイオマスは微粉末状に粉砕され乾燥された状態になるので、実質的にメカノケミカル処理が施された状態であると言える。従って、この状態のセルロース系バイオマスを乾燥装置から取り出して水酸化カルシウムの粉末と水酸化ニッケルの粉末と混合すれば、そのまま所定の密封容器に入れることができる。密封容器を加熱すれば前記した反応式によって水素が得られるはずである。なお、特許文献3に記載の乾燥装置を使用する場合にセルロース系バイオマスを単体でメカノケミカル処理するようにする理由は、乾燥装置内において被処理物はマイクロ波により部分的に加熱されるので大きな温度ムラが発生するからである。従ってもしセルロース系バイオマスに水酸化カルシウムの粉末と水酸化ニッケルの粉末とを一緒に入れてメカノケミカル処理してしまうと、マイクロ波により加熱されて部分的に高温になり、高温の部分から水素が発生する可能性がある。乾燥装置内に酸素が残留している状態で水素が発生すると、爆発的に燃焼する可能性があり危険である。従って、特許文献3に記載の乾燥装置を使用する場合には、メカノケミカル処理はセルロース系バイオマス単体に対して実施して、この処理においては水素が発生しないようにするべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セルロース系バイオマスから水素を製造する方法には色々な方法があるが、反応温度が比較的低温の350〜450℃で実施でき、そして格別に高圧容器を必要としない特許文献2に記載の水素製造方法が、コストが小さく優れているといえる。しかしながら解決すべき問題も見受けられる。正確には、水素製造方法に関してではなく、水素製造装置に関して解決すべき問題が見受けられる。特許文献2に記載の水素製造方法を実施する場合、前記したようにセルロース系バイオマスと水酸化カルシウムの粉末と水酸化ニッケルの粉末とを混合し、これをメカノケミカル処理、すなわち微粉末状に粉砕する必要がある。あるいは特許文献3に記載の乾燥装置によってセルロース系バイオマスを単体で微粉末状に粉砕し、その後、水酸化カルシウムの粉末と水酸化ニッケルの粉末と共に混合する必要がある。そしてこのようにメカノケミカル処理を経た混合物を所定の密封容器に入れて所定の反応温度に加熱しなければならない。つまりメカノケミカル処理によって微粉末状に粉砕する工程と、反応温度に加熱する工程を、別々の装置で実施しなければならない。このように工程を分離しているのは、可燃性ガスである水素を安全に製造するためである。すなわち水素が発生する高温環境下において酸素が存在していると、これらが爆発的に燃焼して事故が発生する危険が大きいからである。従って、メカノケミカル処理は水素が発生しない低温環境下において実施し、これを酸素が入り込まない密封容器に入れて所定の反応温度に加熱するようにしている。なお特許文献2には明記されていないが、密封容器には窒素、アルゴンガス等の不活性ガスが充填されて、酸素がない状態で加熱していると推測される。このように、特許文献2に記載の水素製造方法は、セルロース系バイオマス等をメカノケミカル処理によって微粉末状に粉砕する工程と、反応温度に加熱する工程を別々の装置で実施しなければならないので、装置が大がかりになりコストが嵩んでしまう。特許文献2に記載の水素製造方法は、メカノケミカル処理についても、どのように処理したら効果的であるか明らかにされていない問題もある。セルロース系バイオマス、水酸化カルシウム、水酸化ニッケルは、いずれも分子単体で存在することはできず、ある程度の大きさの粒子で固まりになっているはずであるが、メカノケミカル処理によっては、十分に粒子の大きさを小さくすることはできず、反応が不十分になる可能性がある。メカノケミカル処理について好ましい実施形態が示されていないと言える。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した水素製造装置を提供することを目的とし、具体的には、特許文献2に記載の製造方法により水素を製造する製造装置であって、安全が十分に保証され、効率よく安価に水素を製造することができる水素製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、セルロース系バイオマスと、水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムのいずれかと、水酸化ニッケルまたは硫酸ニッケルとの混合物を被処理物として、メカノケミカル処理によって微粉末状に粉砕する工程と、反応温度に加熱する工程とを同時に実施することができる水素製造装置として構成する。具体的には、金属製の処理容器と、該処理容器内に設けられている回転駆動可能な回転軸と、該回転軸に取り付けられている複数枚の攪拌羽根と、処理容器の壁部から内部へ臨むようにして設けられているチョッパー羽根と、該処理容器の外周面に設けられて処理容器を350〜450℃に加熱するヒータ等の加熱手段とから構成する。回転軸には、内部に管路を形成して冷却流体を供給するようにする。このような水素製造装置にはセルロース系バイオマス等の被処理物が投入されるが、少なくともセルロース系バイオマスは所定の水分を含んだ状態で投入されるようにする。
【0010】
かくして請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、金属製の処理容器からなり、所定の水分を含んだセルロース系バイオマスと、水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムのいずれかと、水酸化ニッケルまたは硫酸ニッケルとの混合物である被処理物を処理して水素を製造する水素製造装置であって、前記処理容器内には、回転駆動可能に設けられている回転軸と、該回転軸に取り付けられている複数枚の攪拌羽根と、前記処理容器の壁部から内部へ臨むようにして設けられているチョッパー羽根とが設けられ、前記被処理物は前記攪拌羽根によって前記処理容器内で攪拌されると共に、前記チョッパー羽根によって微粉末状に粉砕されるようになっており、前記処理容器の外周面には加熱手段が設けられ、前記処理容器を350〜450℃に加熱するようになっており、前記処理容器には、気体の排気口が形成されていることを特徴とする水素製造装置として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水素製造装置において、前記回転軸は、内部に管路が形成されて冷却流体が供給されるようになっていることを特徴とする水素製造装置として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の水素製造装置は、前記処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口が設けられていることを特徴とする水素製造装置として構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の水素製造装置において、前記処理容器はその軸が水平な横向きの円筒状を呈していると共に前記回転軸は水平に設けられ、前記攪拌羽根によって前記被処理物が攪拌されるとき前記処理容器内で底部から上方へ掻き上げられるようになっていることを特徴とする水素製造装置として構成される。
請求項5に記載の発明は請求項1〜3のいずれかの項に記載の水素製造装置において、前記処理容器はその軸が垂直な円筒状を呈していると共に前記回転軸は垂直に設けられていることを特徴とする水素製造装置として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によると、金属製の処理容器からなり、所定の水分を含んだセルロース系バイオマスと、水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムのいずれかと、水酸化ニッケルまたは硫酸ニッケルとの混合物である被処理物を処理して水素を製造する水素製造装置として構成される。そして処理容器内には、回転駆動可能に設けられている回転軸と、該回転軸に取り付けられている複数枚の攪拌羽根と、処理容器の壁部から内部へ臨むようにして設けられているチョッパー羽根とが設けられ、被処理物は攪拌羽根によって処理容器内で攪拌されると共に、チョッパー羽根によって微粉末状に粉砕されるようになっている。さらに処理容器の外周面には加熱手段が設けられ、処理容器を350〜450℃に加熱するようになっており、処理容器には、気体の排気口が形成されている。このように構成されているので、本発明の水素製造装置はメカノケミカル処理によって微粉末状に粉砕する工程と、反応温度に加熱する工程とを安全を確保しつつ同時に実施することができることになる。安全を確保しつつ同時に実施できる理由は、被処理物のセルロース系バイオマスが所定の水分を含んでいる点と、加熱手段が処理容器の外周面に設けられている点と、排気口が設けられていることによるものである。加熱手段は被処理物を直接加熱するのではなく金属製の処理容器を加熱して間接的に被処理物が加熱されるので、マイクロ波による加熱と違って比較的温度ムラは小さい。加熱の初期には被処理物は水分を十分に含んでいるので、攪拌羽根とチョッパー羽根によってメカノケミカル処理を実施しつつ加熱するとき、被処理物に与えられる熱量の大部分は水分の気化熱として奪われる。従って初期の段階では処理容器内は100〜140℃程度にしかならない。つまり水素が発生する反応温度350〜450℃を大きく下回るので水素は発生しない。このとき処理容器内で発生した水蒸気は排気口から排出されるが、処理容器内の酸素を含んだ空気も追い出すことになる。これによって処理容器内は実質的に無酸素状態になる。被処理物の水分がほとんどなくなると、被処理物はメカノケミカル処理を受けながら、反応温度つまり350〜450℃に加熱され、前記の式によって水素が発生する。水素は無酸素状態で発生するので爆発の危険はなく、排気口から回収することができる。なお、本発明によるとメカノケミカル処理と反応温度への加熱が実質的に同時に実施されるので、水素は効率よく発生することになる。その理由は、被処理物が攪拌羽根によって処理容器内で攪拌されると共に、チョッパー羽根によって微粉末状に粉砕されるからである。チョッパー羽根による分散作用は大きく被処理物は処理容器の内部で粒子同士がぶつかり合って微細に粉砕され、拡散混合されるからである。微粉末状の被処理物の微粒子同士が高速にぶつかり合うので、さらに反応が促進される効果も得られる。
【0012】
他の発明によると、回転軸は、内部に管路が形成されて冷却流体が供給されるようになっている。水素が発生するときに、処理容器内に外部から酸素が入り込むと危険であり、処理容器は気密性の維持が重要である。処理容器の気密性を維持するときに問題になるのは回転軸のシールであるが、水素が発生する反応温度は350〜450℃であり、シールの劣化が問題になる。この発明によると冷却流体により回転軸を冷却することができるので、シールは劣化し難い。また他の発明によると、処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給口が設けられている。前記したように水素が発生する反応温度に達するときには、処理容器内には実質的に酸素が無い状態になり、水素が爆発的に燃焼する危険はほとんどないが、この発明によりさらに安全が確保される。すなわち水素が発生する反応温度に達する前に、不活性ガスを処理容器内に供給すれば、処理容器内を完全に無酸素状態にすることができるからである。そして他の発明によると処理容器はその軸が水平な横向きの円筒状を呈していると共に回転軸は水平に設けられ、攪拌羽根によって被処理物が攪拌されるとき処理容器内で底部から上方へ掻き上げられるようになっている。水平回転軸を備えたいわゆる水平型の処理容器である。この発明においては被処理物は攪拌羽根によって処理容器内で底部から上方へ掻き上げられる。掻き上げられて浮遊状態になった被処理物がチョッパー羽根によって分散作用を受けるので、分散作用は大きく粒子同士がぶつかり合って微細に粉砕され、浮遊拡散混合される。浮遊拡散混合されるので被処理物に含まれる水分は効率よく水蒸気に変化することになり、処理容器内から速やかに酸素が追い出される効果が得られる。また他の発明によると、処理容器はその軸が垂直な円筒状を呈していると共に回転軸は垂直に設けられている。いわゆる縦型の処理容器である。この発明においては被処理物は攪拌羽根によって処理容器内の底部を水平にかき混ぜられることになる。被処理物の反応は固体同士の反応であるので微細にされた被処理物の粒子同士がぶつかり合うようにしてかき混ぜられると効率よく反応が進む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る水素製造装置を示す図で、その(ア)、(イ)はそれぞれ水素製造装置の正面断面図、側面断面図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る水素製造装置を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る水素製造装置1は、図1に示されているように概略的には、金属製からなり軸芯が水平方向になるように配置される円筒状の処理容器2からなる。つまりいわゆる水平型の処理容器2からなる。この処理容器2内において、水素を発生させる材料、つまり後で詳しく説明する被処理物を処理するようになっているが、この処理は高圧が要求されないので処理容器2は格別に耐圧仕様にはなっていない。しかしながら、被処理物の処理中において外部から処理容器2内に酸素が入り込まないように所定の気密性は備えている。処理容器2には、その上部に被処理物を投入するための投入口4、4、4が設けられている。投入口4、4、4の個数はいくつ設けられていても構わないが、効率よく被処理物を投入できるように本実施の形態においては3個設けられている。処理容器2の下部には排出口5が1個設けられ、水素が発生した後の被処理物が排出されるようになっている。また処理容器2の上部には、排気口7が設けられている。この排気口7によって処理容器2内で発生する水蒸気が排出されると共に、被処理物から発生する水素を回収するようになっている。
【0015】
処理容器2には、円筒の両端の鏡板の中心に水平回転軸9が回転自在に設けられ、この水平回転軸9に4本の攪拌羽根11、11、…が設けられている。攪拌羽根11、11、…は、図1の(ア)に示されているように、水平回転軸9の異なる4箇所に設けられ、そしてこれらは図1の(イ)に示されているように、軸方向から見て90度ずつずれた状態で設けられている。4本の攪拌羽根11、11、…を、図1の(ア)において左から右に向かって第1〜4の攪拌羽根11、11、…とすると、第1の攪拌羽根11と第2の攪拌羽根11の間、および第3の攪拌羽根11と第4の攪拌羽根11の間にそれぞれチョッパー羽根13、13が設けられている。チョッパー羽根13、13は、処理容器2の内壁において、中心から見て最下部から略55度円周方向に上がった位置に設けられている。この位置は、攪拌羽根11、11、…が回転して被処理物を処理容器2内の底部から上方に掻き上げるとき、被処理物が落下する位置に相当している。従って被処理物はチョッパー羽根13、13による破砕と分散処理とを受けて効率よく微粉末状に粉砕されることになる。また、図には詳しく示されていないが攪拌羽根11、11、…が被処理物を掻き上げるとき、第1と第3の攪拌羽根11、11は図1の(ア)において右よりに、第2と第4の攪拌羽根11、11は左よりに掻き上げるようになっている。これによって被処理物はチョッパー羽根13、13の近傍に集中して落下するようになっている。
【0016】
本実施の形態においては、水平回転軸9は中空に形成されている。この中空の部分が冷却流体が流れる管路15になっており、水平回転軸9が冷却されるようになっている。水平回転軸9は、所定のシールを介して気密的に処理容器2に設けられているが、水平回転軸9を適切に冷却することによってシールを熱による劣化から保護するようになっている。
【0017】
本実施の形態に係る水素製造装置1は、処理容器2の外周面にヒータ16、16、…が設けられている点に特徴がある。ヒータ16、16、…は鏡板と円筒部とに設けられ全体として処理容器2を加熱するようになっている。具体的には処理容器2を水素が発生する反応温度である350〜450℃に加熱し、これによって被処理物を加熱するようになっている。
【0018】
本実施の形態においては、処理容器2には外部から不活性ガスを供給する不活性ガス供給口17が設けられている。不活性ガスとして、窒素、二酸化炭素、アルゴンガス等を供給できるようになっている。
【0019】
本実施の形態に係る水素製造装置1によって、水素を製造する方法を説明する。水素製造装置1で処理する被処理物は、セルロース系バイオマスと、水酸化カルシウム(Ca(OH))と水酸化リチウム(LiOH)と酸化カルシウム(CaO)のいずれかとと、水酸化ニッケル(Ni(OH))または硫酸ニッケル(NiSO)との混合物とからなる。セルロース系バイオマスは汚泥、大鋸屑、間伐等の廃棄物を利用することができ、所定の水分を含んでいることが条件になる。乾燥している場合には、若干水分が補充されることが好ましい。水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムの中では、水酸化カルシウム(Ca(OH))が最も好ましい。このように水分を所定量含んだセルロース系バイオマスと、水酸化カルシウムと水酸化リチウムと酸化カルシウムのいずれかの粉末と、水酸化ニッケルの粉末を混合して被処理物を得、投入口4、4、…から処理容器2内に投入する。投入口4、4、…を閉鎖する。
【0020】
ヒータ16、16、…により処理容器2を加熱し、水平回転軸9を回転して攪拌羽根11、11、…を回転させる。またチョッパー羽根13、13を高速で回転する。そうすると被処理物は攪拌羽根11、11、…によって処理容器2内を掻き上げられて落下し、チョッパー羽根13、13によって粉砕される。被処理物が水分を含んでいる間は、ヒータ16、16、…によって処理容器2が加熱されても被処理物の温度は100〜150℃程度で推移し、このとき水分が水蒸気になる。水蒸気は排気口7から排気されるが、処理容器内2に残っていた空気も水蒸気によって押し出されて排気される。これによって処理容器2内は水蒸気で満たされて酸素は実質的にゼロになる。処理容器2の温度が上昇したら、被処理物の水分が実質的に無くなってきたと判断できる。必要に応じて不活性ガス供給口17から窒素等の不活性ガスを供給し、処理容器2内を無酸素状態にする。水分が無い状態では、被処理物は攪拌羽根11、11、…とチョッパー羽根13、13とによって微粉末状に粉砕されて浮遊して均一に分散・混合する。すなわち浮遊拡散混合される。
【0021】
処理容器2の温度、つまり被処理物の温度が350〜450℃になったら、被処理物のセルロース(C10)が分解されて水素が発生する。次式は、水酸化ニッケル(Ni(OH))を使用したときの反応式である。
(C10)+6Ca(OH)+0.5Ni(OH) → 11.5H+6CaCO+0.5Ni
水酸化ニッケル(Ni(OH))に換えて硫酸ニッケル(NiSO)を使用すると次式のように反応する。
(C10)+6Ca(OH)+0.5NiSO+HO → 11.5H+6CaCO+0.5HSO+0.5Ni
なお、水酸化カルシウムの代わりに水酸化リチウムを使用する場合には、次式によって水素が発生する。(ただし、次式は水酸化ニッケル(Ni(OH))を使用したときの反応式)
(C10)+12LiOH+0.5Ni(OH) → 11.5H+6LiCO+0.5Ni
発生した水素は排気口7から排出される。これを外部において回収する。
【0022】
被処理物からの水素の発生がなくなったら、攪拌羽根11、11、…とチョッパー羽根13、13とを停止し、ヒータ16、16、…を切る。排出口5を開いて被処理物を排出する。
【0023】
このように本実施の形態に係る水素製造装置1において、セルロース(C10)のみが分解されて水素が発生するように説明したが、実際には他の有機物も分解されて水素が発生する。つまり上で示した反応式以外でも反応が進行して水素が発生する。
【実施例1】
【0024】
本実施の形態に係る水素製造装置1によって、被処理物を粉砕・加熱すると、安全に水素を発生させることができることを確認するため、次の実験を行った。
実験内容:
(1)本実施の形態に係る水素製造装置1を使用した。水素製造装置1の排出口5に排気管を接続し、排気管を所定の水槽に導いて排出口5から排出される気体を水槽中で発生させるようにした。
(2)処理容器2に次のa〜cの材料からなる被処理物を水素製造装置1に投入し、投入口4を閉鎖した。
a:セルロース系バイオマス
含水率49%の脱水汚泥を使用した。投入量は30kgとした。
b:水酸化カルシウム
投入量は42kgとした。
c:水酸化ニッケル
投入量は9kgとした。
(3)ヒータ16により処理容器2を加熱し、水平回転軸9を回転して攪拌羽根11、11、…を回転させ、チョッパー羽根13、13を高速で回転させた。処理開始後、しばらくは処理容器2内の温度は100〜200℃程度であり、排出口5から排気される気体、つまり水槽中で発生する気体は大部分が水蒸気であった。処理を継続したところ、処理容器2内の温度が上昇を始めた。処理容器2内の温度が350℃に達したところで、水槽中に所定の気体採取用容器を沈めてこの容器内に水槽中で発生する気体を導くようにした。すなわち気体採取用容器による気体の採取を開始した。所定時間処理を継続して、気体採取用容器に700Lの気体が採取されたところで実験を終了した。すなわちヒータ16の加熱と攪拌羽根11、11、…とチョッパー羽根13、13の回転とを停止した。
(4)気体採取用容器に採取された気体を分析したところ、気体は水素と二酸化炭素と一酸化炭素の混合物であり、水素濃度は97%であった。
考察:
気体採取用容器において採取された気体は、酸素が検出されなかったので爆発の危険は実質的にないことが確認できた。仮に気体採取用容器に酸素が若干存在していても爆発の危険はない。水素の爆発限界濃度は、その下限が3.3ml/L、上限が66ml/Lであり、上限の濃度は約75%であるからである。そうすると97%の水素濃度は、爆発限界をはるかに超えた高濃度であるので、この点でも爆発の危険は全く無いと言える。つまり本実施の形態に係る水素製造装置1を使用すると、安全に水素が得られることが確認できた。
【0025】
本実施の形態に係る水素製造装置1は色々な変形が可能である。図2には、縦型、つまり円筒の軸が垂直の処理容器2’からなる第2の実施の形態に係る水素製造装置1’が示されている。図において前実施の形態と同様の作用を奏する部材には同じ符号を付して説明を省略する。この第2の実施の形態に係る水素製造装置1’はいわゆる縦型の処理容器2’を備え、そして攪拌羽根11、11、…を回転させる回転軸15’は垂直に設けられている。従って、被処理物は水平に攪拌されることになる。水分を含んだ被処理物を加熱して乾燥すると、前記した反応式に基づいて水素が発生するが、反応式から分かるとおり被反応物はすべて固体である。つまり固体同士が反応して水素を発生させるので粒子状の固体が密にぶつかり合うことが好ましい。第2の実施の形態においてもチョッパー羽根13によって分散作用は受けるが、被処理物は基本的に水平に攪拌されるので、粒子同士が密にぶつかり合って効率よく反応が進む。
【0026】
本実施の形態に係る水素製造装置1は他の変形も可能である。例えばヒータ16、16、…は他の加熱手段に変更することができる。具体的には加熱水蒸気が供給されるジャケットに変更することができる。350〜450℃に熱せられた加熱水蒸気をジャケットに供給すると、効率よく処理容器2を加熱できる。他の変形も可能であり、例えば攪拌羽根11、11、…の本数を変更することもできるし、チョッパー羽根13、13の本数を変更することも可能である。このようは変形は当然に第2の実施の形態に係る水素製造装置1’においても可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 水素製造装置 2 処理容器
4 投入口 5 排出口
7 排気口 9 水平回転軸
11 攪拌羽根 13 チョッパー羽根
15 管路 16 ヒータ
17 不活性ガス供給口
図1
図2