(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644581
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】冷媒輸送用ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20200130BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20200130BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20200130BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
F16L11/04
B32B25/08
B32B1/08 B
B32B27/34
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-37115(P2016-37115)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-155764(P2017-155764A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藪谷 祐希
(72)【発明者】
【氏名】坂本 佳寛
【審査官】
吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−217445(JP,A)
【文献】
特開昭63−105057(JP,A)
【文献】
特開2011−235520(JP,A)
【文献】
特開2012−189129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
B32B 1/08
B32B 25/08
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の最内層と、上記最内層外周面に接して設けられたゴム層とを備えた冷媒輸送用ホースであって、上記最内層が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する脂肪族ポリアミド樹脂組成物からなり、かつ上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物における(B)および(C)成分の含有比率(B/C)が、重量比で、B/C=1/100〜100/1の範囲であることを特徴とする冷媒輸送用ホース。
(A)脂肪族ポリアミド樹脂。
(B)芳香族アミン系加水分解防止剤。
(C)リン系加水分解防止剤。
【請求項2】
上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)が、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン、スチレン化ジフェニルアミン、4,4’,4”−トリス(N,N−フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリンおよびα,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項3】
上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)が、第二級芳香族アミン系加水分解防止剤である、請求項1記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項4】
上記第二級芳香族アミン系加水分解防止剤が、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、スチレン化ジフェニルアミン、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾールおよびメルカプトベンゾイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項3記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項5】
上記リン系加水分解防止剤(C)が、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニルオキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンおよび2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチル−1−フェニルオキシ)(2−エチルヘキシルオキシ)ホスホラスからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項6】
上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物における芳香族アミン系加水分解防止剤(B)の含有割合が、脂肪族ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項7】
上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物におけるリン系加水分解防止剤(C)の含有割合が、脂肪族ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項8】
上記ゴム層が、過酸化物架橋剤を含有するゴム組成物からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の冷媒輸送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の冷媒を輸送するためのホースとして有用な、冷媒輸送用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オゾン層破壊ガスの蒸散規制強化に伴い、自動車等に使用される冷媒輸送用ホースの冷媒バリア性(耐冷媒透過性)に対する要求が厳しくなっている。そのため、冷媒輸送用ホースの最内層の形成材料には、例えば、ポリアミド樹脂のような結晶性の高い樹脂が使用されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
一方で、オゾン層破壊ガスの蒸散規制強化に伴い、近年、自動車等に使用される冷媒の品質も改良されている。例えば、R−1234yf冷媒は、HFC−134a冷媒の代替冷媒として開発されたものであり、HFC−134aに比べオゾン破壊係数および地球温暖化係数が低く、地球環境に極めて優しい冷媒である。そのため、自動車等に使用される冷媒輸送用ホースも、R−1234yfに適した性能のものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2010/110419号公報
【特許文献2】特許第5682588号公報
【特許文献3】特許第4683154号公報
【特許文献4】特許第5723520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特にR−1234yf冷媒は、高温環境の下、水との接触により加水分解して酸(ギ酸等)を発生しやすく、その酸が要因となって、ホース最内層を構成するポリアミド樹脂が加水分解し劣化しやすくなるといった問題がある。
【0006】
上記特許文献1に係るホースは、ポリアミドに2価、3価の金属酸化物が配合された最内層を備えており、上記特許文献2に係るホースは、ポリアミドにフェノール系化合物とリン系化合物とが配合された最内層を備えており、上記特許文献3に係るホースは、ポリアミドにハイドロタルサイトが配合された最内層を備えており、上記特許文献4に係るホースは、ポリアミドにカルボジイミドが配合された最内層を備えている。これらのホースは、いずれも、通常のポリアミド樹脂からなる最内層を備えたホースに比べると、熱による酸化劣化の防止性能は高いものの、先に述べたような最内層の加水分解劣化を防止する性能(耐酸性)に乏しく、この点において未だ改良の余地がある。
【0007】
また、耐酸性に優れる半芳香族系のポリアミド樹脂をホース最内層材料に用いて、先に述べたような最内層の加水分解劣化を防止することも検討されるが、このようなホースは、成形加工性、柔軟性および振動吸収性能の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐冷媒透過性、柔軟性等に優れるとともに、ホース最内層の加水分解劣化の防止性能に優れる、冷媒輸送用ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の冷媒輸送用ホースは、管状の最内層と、上記最内層外周面に接して設けられたゴム層とを備えた冷媒輸送用ホースであって、上記最内層が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する脂肪族ポリアミド樹脂組成物からな
り、かつ上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物における(B)および(C)成分の含有比率(B/C)が、重量比で、B/C=1/100〜100/1の範囲であるという構成をとる。
(A)脂肪族ポリアミド樹脂。
(B)芳香族アミン系加水分解防止剤。
(C)リン系加水分解防止剤。
【0010】
すなわち、前記特許文献1〜4に係るホースの最内層は、熱による酸化劣化の防止性能は高いが、冷媒から発生する酸に起因した加水分解による劣化の防止性能が充分でないことに鑑み、その改善に向けて、本発明者らは鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、耐冷媒透過性、柔軟性等の観点から、ホース最内層を脂肪族ポリアミド樹脂層とし、さらに、ホース強度、耐屈曲性、耐水性を高めるため、その最内層外周面に接したゴム層を設けることを検討した。そして、上記最内層における脂肪族ポリアミド樹脂の系内を塩基性にすることで、冷媒から発生する酸による脂肪族ポリアミド樹脂の加水分解を抑えることを想起した。これらの考えのもと、各種実験を重ねた結果、芳香族アミン系加水分解防止剤をホース最内層材料に含有させたときに、脂肪族ポリアミド樹脂の系内が塩基性となって、酸による脂肪族ポリアミド樹脂の加水分解を効果的に抑えることができることを突き止めた。また、このような芳香族アミン系加水分解防止剤とともに、リン系加水分解防止剤もホース最内層材料に含有させたところ、冷媒から発生する酸が、脂肪族ポリアミド樹脂を加水分解させる前に、リン系加水分解防止剤を加水分解し、結果的に脂肪族ポリアミド樹脂の加水分解を効果的に抑えることができることを突き止めた。そして、これら2つの加水分解防止剤の併用により、目的とするレベルの加水分解防止性能(耐酸性)が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷媒輸送用ホースは、管状の最内層と、上記最内層外周面に接して設けられたゴム層とを備えており、上記最内層が、脂肪族ポリアミド樹脂(A)を主成分とし芳香族アミン系加水分解防止剤(B)およびリン系加水分解防止剤(C)を含有する脂肪族ポリアミド樹脂組成物からなる。そのため、耐冷媒透過性、柔軟性等に優れるとともに、ホース最内層の加水分解劣化の防止性能に優れており、結果、従来の冷媒や水はもとより、R−1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒に対しても良好に用いることができる。また、本発明の冷媒輸送用ホースは、上記最内層外周面に接して設けられたゴム層により、耐屈曲性、耐水性、ホース強度等にも優れている。
【0012】
特に、上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)が、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン、スチレン化ジフェニルアミン、4,4’,4”−トリス(N,N−フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリンおよびα,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、最内層中に均一に溶融分散させることができ、良好な加水分解防止効果を得ることができる。
【0013】
また、上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)が、第二級芳香族アミン系加水分解防止剤(特に、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、スチレン化ジフェニルアミン、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾールおよびメルカプトベンゾイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも一つ)であると、より高い加水分解防止効果を得ることができる。
【0014】
また、上記リン系加水分解防止剤(C)が、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニルオキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンおよび2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチル−1−フェニルオキシ)(2−エチルヘキシルオキシ)ホスホラスからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、最内層中に均一に溶融分散させることができ、良好な加水分解防止効果を得ることができる。
【0015】
また、上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物における、芳香族アミン系加水分解防止剤(B)やリン系加水分解防止剤(C)の含有割合、あるいは双方の含有比率(B/C)が、特定の範囲内であると、より高い加水分解防止効果を得ることができる。
【0016】
また、上記ゴム層が、過酸化物架橋剤を含有するゴム組成物からなると、最内層との層間接着性により優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の冷媒輸送用ホースの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0019】
本発明の冷媒輸送用ホースは、
図1に示すように、管状の最内層1と、上記最内層1外周面に接して設けられたゴム層2とを備えており、上記最内層1が、下記の(A)を主成分とし下記の(B)および(C)成分を含有する脂肪族ポリアミド樹脂組成物からなる。ここで、上記脂肪族ポリアミド樹脂組成物の「主成分」とは、その組成物全体の特性に大きな影響を与えるもの(脂肪族ポリアミド樹脂)のことであり、本発明においては、全体の50重量%以上を意味する。また、本発明における「加水分解防止剤」とは、高温環境の下、水や酸との接触によりポリマー(本発明では脂肪族ポリアミド樹脂)が加水分解するのを防止する作用を有するものをいう。
(A)脂肪族ポリアミド樹脂。
(B)芳香族アミン系加水分解防止剤。
(C)リン系加水分解防止剤。
【0020】
上記最内層1の形成材料として用いられる脂肪族ポリアミド樹脂(A)としては、例えば、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド1010(PA1010)等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、耐冷媒透過性により優れることから、PA6、PA66が好適に用いられる。
【0021】
また、上記最内層1の形成材料として含有される芳香族アミン系加水分解防止剤(B)としては、最内層1中に均一に溶融分散させることができ、良好な加水分解防止効果を得る観点から、好ましくは、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(融点95℃)、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン(融点225℃)、スチレン化ジフェニルアミン(融点95℃)、4,4’,4”−トリス(N,N−フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミン(融点40℃以下)、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン(融点248℃)、2−ウンデシルイミダゾール(融点137℃)、メルカプトベンゾイミダゾール(融点285℃)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(融点127℃)、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン(融点113℃)、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(融点163℃)といったものが、単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0022】
上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)のなかでも、第二級芳香族アミン系加水分解防止剤が、塩基性がより高く、より効果的に加水分解防止効果を得ることができる。特に、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、スチレン化ジフェニルアミン、N,N’−ジ−ナフチル−ρ−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]−1,3,5−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾールといった第二級芳香族アミン系加水分解防止剤であると、その融点により、最内層1中に均一に溶融分散させることができ、さらに高い加水分解防止効果を得ることができる。
【0023】
また、上記最内層1の形成材料として含有されるリン系加水分解防止剤(C)としては、最内層1中に均一に溶融分散させることができ、良好な加水分解防止効果を得る観点から、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(融点183℃)、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニルオキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(融点235℃)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチル−1−フェニルオキシ)(2−エチルヘキシルオキシ)ホスホラス(融点146℃)といったものが、単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0024】
ここで、上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)およびリン系加水分解防止剤(C)は、その融点が低すぎると、脂肪族ポリアミド樹脂(A)との混練時や溶融押出成形時、さらには、製品である冷媒輸送用ホースの使用時に、揮発や分解が生じてしまう問題がある。逆に、融点が高すぎると、脂肪族ポリアミド樹脂(A)との混練時における分散性が悪く、凝集するため、所望の加水分解防止効果が得られない問題がある。そのため、使用する脂肪族ポリアミド樹脂(A)に応じて、上記のような問題が生じないような融点の加水分解防止剤を用いることが好ましい。例えば、脂肪族ポリアミド樹脂(A)としてPA6を使用する場合、上記加水分解防止剤としては、その融点が90〜240℃の範囲のものを用いることが好ましい。また、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂(A)としてPA66を使用する場合、上記加水分解防止剤としては、その融点が120〜270℃の範囲のものを用いることが好ましい。
【0025】
つぎに、上記最内層1の形成材料である脂肪族ポリアミド樹脂組成物における、芳香族アミン系加水分解防止剤(B)の含有割合は、脂肪族ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲であることが、高い加水分解防止効果を得る観点から好ましく、より好ましくは、上記芳香族アミン系加水分解防止剤(B)の含有割合は1〜5重量部の範囲である。
【0026】
また、上記最内層1の形成材料である脂肪族ポリアミド樹脂組成物における、リン系加水分解防止剤(C)の含有割合は、脂肪族ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲であることが、高い加水分解防止効果を得る観点から好ましく、より好ましくは、上記リン系加水分解防止剤(C)の含有割合は1〜5重量部の範囲である。
【0027】
そして、上記最内層1の形成材料である脂肪族ポリアミド樹脂組成物における、芳香族アミン系加水分解防止剤(B)とリン系加水分解防止剤(C)との含有比率(B/C)が、重量比で、B/C=1/100〜100/1の範囲であることが、高い加水分解防止効果を得る観点から好ましく、より好ましくは、B/C=1/10〜10/1の範囲である。
【0028】
なお、上記最内層1の形成材料には、必要に応じて、充填剤、可塑剤、老化防止剤等の添加剤を適宜に配合することができる。
【0029】
上記最内層1外周面に接して設けられたゴム層2を形成する材料としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR),臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、アクリルゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、ウレタンゴム等のゴムに、架橋剤(加硫剤)、カーボンブラック等を適宜に配合したものが用いられる。そして、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0030】
特に、上記ゴム層2が、過酸化物架橋剤を含有するゴム組成物からなることが、最内層1との層間接着性により優れるようになるため、好ましい。
【0031】
なお、上記ゴム層2は、単層であっても、二層以上であってもよい。そして、二層以上とする場合、各層を形成するゴム組成物は、同じであっても、異なっていてもよい。また、二層以上のゴム層の層間には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリビニルアルコール(ビニロン),レーヨン,金属ワイヤ等の補強糸を、スパイラル編組,ニット編組,ブレード編組等によって編組することにより形成される補強層を設けてもよい。
【0032】
ここで、前記
図1に示すような、本発明の冷媒輸送用ホースは、例えばつぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、先に述べた最内層1形成用の各材料を溶融混合し、脂肪族ポリアミド樹脂組成物を調製する。また、ゴム層2用材料も準備する。つぎに、上記最内層1形成用の脂肪族ポリアミド樹脂組成物とゴム層2用材料とをホース状に共押出成形する。この時、マンドレルを用いても差し支えない。また、先に最内層1形成用の脂肪族ポリアミド樹脂組成物をホース状に押出成形した後、ゴム層2を押出成形してもよい。そして、これを所定の条件(好ましくは、170℃×30〜60分)で加硫した後、マンドレルを抜き取る。このようにして、目的とする層構造の冷媒輸送用ホースを作製することができる。
【0033】
本発明の冷媒輸送用ホースにおいて、ホース内径は5〜40mmの範囲が好ましい。また、上記最内層1の厚みは、0.01〜1.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.05〜0.5mmである。すなわち、上記最内層1の厚みが薄すぎると、所望の耐冷媒透過性が得にくくなり、上記最内層1の厚みが厚すぎると、振動吸収性が悪化するおそれがあるからである。一方、上記ゴム層2の厚みは、耐圧性の観点から、通常1〜39mmの範囲に設定される。
【0034】
本発明の冷媒輸送用ホースは、R−1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒をはじめ、エアコン・ラジエター等に用いられる二酸化炭素,フロン,代替フロン,プロパン,水等の冷媒の輸送用ホースに好適に用いられる。そして、上記冷媒輸送用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等にも好ましく用いられる。
【実施例】
【0035】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
まず、実施例および比較例に先立ち、最内層材料として、下記に示す材料を準備した。
【0037】
〔ポリアミド樹脂1〕
ポリアミド6(CM1017、東レ社製)
【0038】
〔ポリアミド樹脂2〕
ポリアミド9T(N1006D−H31、クラレ社製)
【0039】
〔アミン系加水分解防止剤1〕
第二級芳香族アミン系加水分解防止剤(4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)(ノクラックCD、大内新興化学社製)
【0040】
〔アミン系加水分解防止剤2〕
第二級脂肪族アミン系加水分解防止剤(ファーミンD86、花王社製)
【0041】
〔リン系加水分解防止剤1〕
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(アデカスタブ2112、ADEKA社製)
【0042】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
後記の表1および表2に示す各材料(最内層材料)を、後記の表1および表2に示す割合で、240℃で溶融混合し、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物を調製した。つぎに、金属製のマンドレル(外径8mm)上に、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物の溶融押出成形を行った。このようにして形成された最内層(厚み0.2mm)の外周面に、過酸化物架橋剤を含有するEPDMの押出成形を行い、熱架橋させて、ゴム層(厚み0.5mm)の形成を行った。そして、上記熱架橋後、この積層ホース体からマンドレルを抜き取り、長尺の成形品を切断することにより、目的とする冷媒輸送用ホースを作製した(
図1参照)。
【0043】
このようにして得られた、実施例および比較例の冷媒輸送用ホースに関して、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0044】
≪耐冷媒・冷凍機油性≫
オイル(ダフニーハーメチックオイル、出光興産社製)30gに150μlの水を加えた混合液中に、実施例および比較例の各ホースの最内層から採取した試験片を投入した。続いて、上記試験片が投入された混合液中に、低温(−35℃)で代替フロンガス(R−1234yf)50gを加えた後、上記試験片が投入された混合液を、150℃オーブンで72時間放置した。その後、上記混合液から取り出した試験片に対し、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験を実施し、引張伸び(%)を測定した。そして、引張伸びが30%以上のものを○、引張伸びが30%未満のものを×と評価した。
【0045】
≪耐冷媒透過性≫
実施例および比較例の各ホースを長手方向に切り開いた後、円盤状に打ち抜き、サンプルシートを作製した。そして、低温(−35℃以下)で代替フロンガス(R−1234yf)を封入したカップの開口部を、そのサンプルシートで閉鎖し、これを90℃のオーブン中に放置した。そして、カップ内の代替フロンガス減量を時間とともにプロットし、その傾きにより、サンプルシートの透過面積に対する、1日あたりの代替フロンガス透過量(R−1234yf透過係数、mg・mm/cm
2・day)を算出した。そして、1日あたりの代替フロンガス透過量が0.5mg・mm/cm
2・day以下ものを○と評価した。
【0046】
≪柔軟性≫
実施例および比較例の各ホースの最内層材料の射出成形により、厚み6.4mm、幅12.7mm、長さ127mmの曲げ評価用テストピースを作製した。そのテストピースに対し、ASTMD790に準拠して曲げ弾性率(MPa)の測定を行った。そして、曲げ弾性率が1000MPa未満のものを○、1000MPa以上のものを×と表示した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
上記表の結果から、実施例のホースは、いずれも、耐冷媒・冷凍機油性、耐冷媒透過性、柔軟性に優れていることがわかる。
【0050】
これに対し、比較例1〜3のホースは、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物において、芳香族アミン系加水分解防止剤とリン系加水分解防止剤との併用がなされていないため、耐冷媒・冷凍機油性に劣る結果となった。比較例4のホースは、耐冷媒・冷凍機油性には優れるものの、その最内層が半芳香族系のポリアミド樹脂(ポリアミド9T)からなるため、柔軟性に劣る結果となった。比較例5のホースは、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物において、脂肪族アミン系加水分解防止剤とリン系加水分解防止剤との併用がなされているため、実施例のホースほどの耐冷媒・冷凍機油性は得られない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の冷媒輸送用ホースは、R−1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒をはじめ、エアコン・ラジエター等に用いられる二酸化炭素,フロン,代替フロン,プロパン,水等の冷媒の輸送用ホースに好適に用いられる。そして、上記冷媒輸送用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等にも好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0052】
1 最内層
2 ゴム層